特許第5915894号(P5915894)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5915894
(24)【登録日】2016年4月15日
(45)【発行日】2016年5月11日
(54)【発明の名称】メタクリル酸製造用触媒の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 27/199 20060101AFI20160422BHJP
   C07C 51/235 20060101ALI20160422BHJP
   C07C 57/055 20060101ALI20160422BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20160422BHJP
【FI】
   B01J27/199 Z
   C07C51/235
   C07C57/055 B
   !C07B61/00 300
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-59891(P2012-59891)
(22)【出願日】2012年3月16日
(65)【公開番号】特開2013-192988(P2013-192988A)
(43)【公開日】2013年9月30日
【審査請求日】2015年3月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱レイヨン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】加藤 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】田川 雄一
(72)【発明者】
【氏名】藤田 勉
(72)【発明者】
【氏名】近藤 正英
【審査官】 西山 義之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−192989(JP,A)
【文献】 特開2010−029847(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/013749(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00−38/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を製造する際に用いられる、少なくともリン元素、モリブデン元素、X元素(ケイ素、チタン、ゲルマニウム、ヒ素、アンチモンおよびセリウムからなる群より選ばれた少なくとも1種類の元素)およびアルカリ金属元素を触媒構成元素として含み、かつ、以下の工程(i)〜(v)を有するメタクリル酸製造用触媒の製造方法。
(i)前記触媒構成元素を含む水性スラリーまたは水溶液を調製する工程、
(ii)工程(i)で調製された全ての触媒構成元素を含む水性スラリーまたは水溶液を50℃以上105℃以下にする工程、
(iii)工程(ii)で50℃以上105℃以下にした水性スラリーまたは水溶液を20℃以上40℃以下まで毎分1.5℃以上の速度で冷却する工程、
(iv)工程(iii)で冷却された水性スラリーまたは水溶液を乾燥し、乾燥物を得る工程、
(v)前記乾燥物を熱処理する工程
【請求項2】
工程(i)が以下の工程(i−1)〜(i−3)を含む請求項1記載のメタクリル酸製造用触媒の製造方法。
(i−1)水中に少なくともモリブデン原料およびX元素の原料を添加して、ヘテロポリ酸を含む水性スラリーまたは水溶液を調製する工程、
(i−2)前記水性スラリーまたは水溶液にアルカリ金属化合物を添加して、前記ヘテロポリ酸の少なくとも一部のアルカリ金属塩であるヘテロポリ酸塩を析出させる工程、
(i−3)前記ヘテロポリ酸塩が析出している水性スラリーにリン原料を添加する工程
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を製造するためのメタクリル酸製造用触媒(以下、単に「触媒」とも記す)およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を製造するメタクリル酸製造用触媒としては、モリブデンおよびリンを含むヘテロポリ酸系触媒が知られている。このようなヘテロポリ酸系触媒としては、カウンターカチオンがプロトンであるプロトン型ヘテロポリ酸、およびそのプロトンの一部をセシウム、ルビジウム、カリウムなどのアルカリ金属で置換し、ヘテロポリ酸塩にしたものが知られている(以下、プロトン型へテロポリ酸を単に「ヘテロポリ酸」とも言い、プロトン型ヘテロポリ酸および/またはヘテロポリ酸塩を「ヘテロポリ酸(塩)」とも言う。)。なお、プロトン型ヘテロポリ酸は水溶性であるが、プロトンがセシウム、ルビジウム、カリウムなどのアルカリ金属で置換されたヘテロポリ酸塩は、これらカチオンのイオン半径が大きい為、一般に難溶性である。
【0003】
ヘテロポリ酸(塩)の構造としては、以下のような記載がある。
(a)ヘテロポリ酸(塩)は中心に異種元素(以下中心元素という)があり、酸素を共有して縮合酸基が縮合して形成される単核または複核の錯イオンを有している。縮合形態は数種類知られており、リン、ヒ素、ケイ素、ゲルマニウム、チタン等が中心元素となり得る(非特許文献1)。
【0004】
また、ヘテロポリ酸系触媒を用い、メタクロレインからメタクリル酸を製造する時の収率を向上させる触媒として例えば以下の触媒が開示されている。
(b)(i)水中に少なくともモリブデン原料およびX元素の原料を添加して、ヘテロポリ酸を含む水性スラリーまたは水溶液を調製する工程と、
(ii)前記水性スラリーまたは水溶液に、アルカリ金属化合物を添加して、前記ヘテロポリ酸の少なくとも一部のアルカリ金属塩であるヘテロポリ酸塩を析出させる工程と、
(iii)前記ヘテロポリ酸塩が析出している水溶性スラリーに、リン原料を添加する工程を有するメタクリル酸製造用触媒と製造方法(特許文献1)
一般に、このような触媒調製過程を経た後にスラリーを乾燥し、必要に応じて成形、焼成することで、触媒として供される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2010/013749号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】大竹正之、小野田武、触媒、vol.18,No.6(1976)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の技術で得られる触媒については、焼成後の触媒についてその密度が小さいという問題があった。触媒の密度が小さいと、使用する反応器によっては反応器に充填できる触媒量が少なく、所定のメタクリル酸の収率が得られない場合がある。また、十分な触媒量を反応器に充填できるケースにおいても、従来の触媒では、メタクリル酸の収率について必ずしも十分でなく、工業触媒としては更なる改良が望まれているのが現状である。
【0008】
触媒の密度については、乾燥方法や成形方法によってもある程度制御することが可能であるが、乾燥方法や成形方法を変更することで触媒の密度を高くしようとすると、触媒の特性が変化してしまい収率が低下してしまう問題がある。
【0009】
そこで、本発明は、触媒の調製方法を工夫することで、乾燥方法や成形方法に関わらず触媒の密度を向上させ、かつ、収率向上との両立を実現することを目的とした。そのため、以下では、一定の乾燥方法を用いた場合に得られる乾燥粉の嵩密度が高くなることを触媒の密度の向上の指標として採用することとした。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を製造する際に用いられる、少なくともリン元素、モリブデン元素、X元素(ケイ素、チタン、ゲルマニウム、ヒ素、アンチモンおよびセリウムからなる群より選ばれた少なくとも1種類の元素)およびアルカリ金属元素を触媒構成元素として含み、かつ、以下の工程(i)〜(v)を有するメタクリル酸製造用触媒の製造方法及び該製造方法により製造される触媒である。
(i)前記触媒構成元素を含む水性スラリーまたは水溶液を調製する工程、
(ii)工程(i)で調製された全ての触媒構成元素を含む水性スラリーまたは水溶液を50℃以上105℃以下にする工程、
(iii)工程(ii)で50℃以上105℃以下にした水性スラリーまたは水溶液を20℃以上40℃以下まで毎分1.5℃以上の速度で冷却する工程、
(iv)工程(iii)で冷却された水性スラリーまたは水溶液を乾燥し、乾燥物を得る工程、
(v)前記乾燥物を熱処理する工程
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、メタクリル酸製造用触媒の製造方法において、全ての触媒構成元素を含む水性スラリーまたは水溶液を乾燥して得られる乾燥粉の嵩密度を高くし、かつ、メタクリル酸製造収率を高くすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<メタクリル酸製造用触媒>
本発明のメタクリル酸製造用触媒は、少なくともリン元素、モリブデン元素、X元素(ケイ素、チタン、ゲルマニウム、ヒ素、アンチモンおよびセリウムからなる群より選ばれた少なくとも1種類の元素)およびアルカリ金属元素を含む触媒であり、下記式(1)で表される組成を有することが好ましい。
MoCu (1)
(式中、Mo、P、V、CuおよびOはそれぞれモリブデン、リン、バナジウム、銅および酸素を示す元素記号である。Xはケイ素、チタン、ゲルマニウム、ヒ素、アンチモンおよびセリウムからなる群より選ばれた少なくとも1種類の元素を示し、Yはビスマス、ジルコニウム、銀、鉄、亜鉛、クロム、マグネシウム、コバルト、マンガン、バリウム、セリウムおよびランタンからなる群より選ばれた少なくとも1種類の元素を示し、Zはカリウム、ルビジウム、セシウムからなる群より選ばれた少なくとも1種類の元素を示す。a、b、c、d、e、f、gおよびhは各元素の原子比率を表し、a=12の時、b=0.5〜3、c=0.01〜3、d=0.01〜2、e=0.1〜3、f=0〜3、g=0.01〜3であり、hは前記各元素の原子価を満足するのに必要な酸素の原子比率である。)
<メタクリル酸製造用触媒の製造方法>
本発明の触媒は、以下の工程を有する製造方法により製造される。
【0013】
メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を製造する際に用いられる、少なくともリン元素、モリブデン元素、X元素(ケイ素、チタン、ゲルマニウム、ヒ素、アンチモンおよびセリウムからなる群より選ばれた少なくとも1種類の元素)およびアルカリ金属元素を触媒構成元素として含み、かつ、以下の工程(i)〜(v)を有するメタクリル酸製造用触媒の製造方法。
(i)前記触媒構成元素を含む水性スラリーまたは水溶液を調製する工程、
(ii)工程(i)で調製された全ての触媒構成元素を含む水性スラリーまたは水溶液を50℃以上105℃以下にする工程、
(iii)工程(ii)で50℃以上105℃以下にした水性スラリーまたは水溶液を20℃以上40℃以下まで毎分1.5℃以上の速度で冷却する工程、
(iv)工程(iii)で冷却された水性スラリーまたは水溶液を乾燥し、乾燥物を得る工程、
(v)前記乾燥物を熱処理する工程
このような工程(i)〜(v)を経て製造されたメタクリル酸製造用触媒は、水性スラリーまたは水溶液中の溶解ヘテロポリ酸が、高い冷却速度域で冷却されることにより急激な沈殿形成が行われ、より小さく凝集した粒子を形成するために乾燥物の嵩密度が大きく、かつ、メタクリル酸製造収率が高く製造できるものと推察している。
【0014】
以下、本発明に係わる方法における各工程の詳細を示す。
〔工程(i)〕
工程(i)の水性スラリーまたは水溶液の調製方法としては、特に限定はなく、例えば、沈殿法、酸化物混合法等の公知の方法が挙げられるが、少なくともリン元素、モリブデン元素、X元素(ケイ素、チタン、ゲルマニウム、ヒ素、アンチモンおよびセリウムからなる群より選ばれた少なくとも1種類の元素)およびアルカリ金属元素を溶媒中で混合し、水性スラリーまたは水溶液を調製する。
【0015】
前記元素以外にバナジウム、銅およびY元素(ビスマス、ジルコニウム、銀、鉄、亜鉛、クロム、マグネシウム、コバルト、マンガン、バリウム、セリウムおよびランタンからなる群より選ばれた少なくとも1種類の元素)含むことが好ましい。アルカリ金属元素としてはカリウム、ルビジウム、セシウムからなる群より選ばれた少なくとも1種類の元素が好ましい。
【0016】
水性スラリーまたは水溶液の調製に用いられる触媒構成元素の原料化合物は特に限定されず、触媒の各構成元素の酸化物、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩、水酸化物、酢酸塩等の有機酸塩、アンモニウム塩、ハロゲン化物、オキソ酸、オキソ酸塩、アルカリ金属塩等を単独で、または二種以上を組み合わせて使用することができる。モリブデンの原料化合物としては、例えば、三酸化モリブデン等の酸化モリブデン類、パラモリブデン酸アンモニウム、ジモリブデン酸アンモニウム等のモリブデン酸アンモニウム類等が挙げられる。ビスマスの原料化合物としては、硝酸ビスマス、酸化ビスマス、酢酸ビスマス、水酸化ビスマス等が挙げられる。リンの原料化合物としては、例えば、リン酸、五酸化リン、リン酸アンモニウム等が挙げられる。バナジウムの原料化合物としては、例えば、メタバナジン酸アンモニウム、五酸化バナジウム、蓚酸バナジル等が挙げられる。触媒成分の原料化合物は、触媒成分を構成する各元素に対して1種のみを用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0017】
前記溶媒としては、例えば、水、エチルアルコール、アセトン等が挙げられるが、水を用いることが好ましい。
【0018】
また、(i)工程で調製する水性スラリーまたは水溶液は、以下の工程(i-1)〜(i-3)を含む方法により調製される水性スラリーまたは水溶液でもよい。
(i-1)水中に少なくともモリブデン原料およびX元素の原料を添加して、ヘテロポリ酸を含む水性スラリーまたは水溶液を調製する工程、
(i-2)前記水性スラリーまたは水溶液に、アルカリ金属化合物を添加して、前記ヘテロポリ酸の少なくとも一部のアルカリ金属塩であるヘテロポリ酸塩を析出させる工程、
(i-3)前記ヘテロポリ酸塩が析出している水性スラリーにリン原料を添加する工程
以下、工程(i-1)〜(i-3)の詳細を示す。
【0019】
工程(i-1)
この工程では、水中に少なくともモリブデン原料およびX元素の原料を添加して、ヘテロポリ酸を含む水性スラリーまたは水溶液を調製する。リン原料は、この工程には添加しないことが好ましいが、原料中のX元素のモル数より少ないモル数のリン元素を供給するのであれば添加してもよい。なお、モリブデン原料、リン原料、X元素の原料およびアルカリ金属化合物以外の原料(式(1)で表される組成を有する触媒を製造する場合においては、バナジウム原料、銅原料およびY元素の原料)等は、調製工程、析出工程およびリン添加工程のいずれの段階で添加しても構わない。添加する原料の配合量は目的とする触媒の組成に応じて適宣決定すればよい。
【0020】
水性スラリーまたは水溶液の調製は、水に各元素の原料を加え、加熱しながら攪拌する方法が簡便であり好ましい。水に、各元素の原料の、水溶液、水性スラリーまたは水性ゾルを添加することもできる。調製工程で使用する水の量は、(調製工程で使用する原料の合計質量):(調製工程で使用する水の質量)=1:0.5〜1:15となるのが好ましく、1:1〜1:4となる量がより好ましく、1:1〜1:2となる量がさらに好ましい。なお、各元素の原料の水溶液、水性スラリーまたは水性ゾルを用いた場合、そのうち原料のみを「調製工程で使用する原料」に算入し、溶媒としての水は「調製工程で使用する水に算入する。また、各元素の原料が水和物の場合における結晶水は、「調製工程で使用する原料」に算入する。調製工程で使用する水の量をこの範囲にすることでメタクリル酸の選択率が向上する。調製工程で使用する水の量の役割は明らかではないが、水性スラリーの濃度が向上することで、次の析出工程で形成されるヘテロポリ酸塩の物理構造が逐次酸化反応を抑制する最適な構造となりメタクリル酸の選択率が向上するものと推察している。水性スラリーまたは水溶液の加熱温度は、80℃以上130℃以下が好ましく、90℃以上130℃以下がより好ましい。
【0021】
調製される水性スラリーまたは水溶液のpHが高い場合には、硝酸根等を多く含むように各原料を選択することが好ましい。調製される水性スラリーまたは水溶液のpHは0.5以上4以下が好ましく、2以下がより好ましい。
【0022】
工程(i-2)
この工程では、工程(i-1)で得られた水性スラリーまたは水溶液にアルカリ金属化合物を添加して、ヘテロポリ酸の少なくとも一部がアルカリ金属塩になったヘテロポリ酸塩を析出させる。アルカリ金属化合物を添加する前に、水性スラリーまたは水溶液を冷却することが好ましい。冷却温度は20℃以上80℃以下が好ましく、40℃以上70℃以下がより好ましい。
【0023】
析出させるヘテロポリ酸塩は、ケギン型構造でも、ドーソン型等のケギン以外の構造でも構わないが、ケギン型構造を有することが好ましい。析出させるヘテロポリ酸塩がケギン型であると、よりメタクリル酸の選択率が向上する。ケギン型構造のヘテロポリ酸塩を析出させるためには、例えばモリブデン原料として三酸化モリブデンを使用して、析出工程におけるpHを3以下に調整する方法が挙げられる。析出させたヘテロポリ酸塩の構造は、ヘテロポリ酸塩をろ過等により分離し、乾燥させたものを赤外吸収分析で測定することにより確認することができる。
【0024】
アルカリ金属化合物は、溶媒に溶解または懸濁させたアルカリ金属化合物の溶液またはスラリーの状態で添加することが好ましい。溶媒としては、水、エチルアルコール、アセトン等が挙げられるが、水性スラリーまたは水溶液と同じ水を用いることが好ましい。
【0025】
アルカリ金属化合物の溶液またはスラリーの添加速度は、アルカリ金属化合物の溶液またはスラリーを0.1質量部以上80質量部以下の割合で添加することが好ましく、1質量部以上20質量部以下の割合で添加することがより好ましい。
【0026】
攪拌装置としては、回転翼攪拌機、振り子式の直線運動型攪拌機、容器ごと振とうする振とう機、超音波等を用いた振動式攪拌機等の公知の攪拌装置が挙げられる。回転式攪拌装置における攪拌翼または回転刃の回転速度は、液の飛散等の不都合が起きない程度に、容器、攪拌翼、邪魔板等の形状、液量等を勘案して適宜調整すればよい。攪拌は連続的または継続的のいずれの方法で行ってもよいが、連続的に行う方が好ましい。
【0027】
調製される水性スラリーまたは水溶液のpHを調整するために、硝酸もしくは硝酸化合物、アンモニア水もしくはアンモニア化合物を添加してもよい。硝酸化合物としては、硝酸アンモニウムが挙げられる。アンモニア化合物としては、炭酸水素アンモニウム、炭酸アンモニウム、硝酸アンモニウムが挙げられる。調製される水性スラリーまたは水溶液のpHは4以下が好ましく、2以下がより好ましい。
【0028】
工程(i-3)
この工程では、ヘテロポリ酸塩が析出している水性スラリーに、リン原料を添加する。リン原料としては、正リン酸、五酸化リン、リン酸アンモニウム等が挙げられる。リン原料の添加量は目的とする触媒の組成に応じて適宜決定すればよい。ただし、前述のようにバナジウム原料としてバナドモリブデン酸を用いる場合、リンバナドモリブデン酸中にリンが同時に含まれるため、リンバナドモリブデン酸の添加量に応じてリン原料の添加量を調整する必要がある。
【0029】
リン原料はそのまま添加してもよく、溶媒に溶解または懸濁させたリン原料の溶液またはスラリーの状態で添加してもよい。溶媒を用いる場合における溶媒としては、水、エチルアルコール、アセトン等が挙げられるが、水性スラリーまたは水溶液と同じ水を用いることが好ましい。リン原料の溶液またはスラリーの濃度は、5質量%以上85質量%以下が好ましく、15質量%以上35質量%以下がより好ましい。
〔工程(ii)〕
この工程では、工程(i)で調製された全ての触媒構成元素を含む水性スラリーまたは水溶液を加熱する。加熱する温度は、50℃以上105℃以下が好ましく、90℃以上105℃以下がより好ましい。加熱する際、どのような手法を用いて加熱を行っても良く、所定の温度まで加熱した後、10分以上120分以下の時間、所定の温度で保持する。その際、放置しても良いが攪拌することが好ましい。攪拌の方法としては、工程(i-2)で示したものと同様の方法で行う。ここで、全ての触媒構成元素を含む水性スラリーまたは水溶液とは、X元素の原料、リン原料、モリブデン原料、アルカリ金属原料、前記以外の他の元素の原料を添加する場合には他の元素の原料を全て添加した水性スラリーまたは水溶液を示す。
〔工程(iii)〕
工程(ii)で所定の温度に達した水性スラリーまたは水溶液を毎分1.5℃以上の速度で水性スラリーまたは水溶液が20℃以上40℃以下になるまで冷却する。また、冷却完了温度は、20℃以上30℃以下であることが好ましいが、20℃以上25℃以下にすることがより好ましい。この冷却速度は、1.5℃以上であれば効果を発揮することができるが、冷却速度の増加に伴う効果は毎分5.0℃付近で限界になるため、毎分1.5℃以上5.0℃以下の冷却速度が望ましい。この時の冷却方法としては、どのような方法でも良いが、例えば、ジャケット付きの容器を用い、ジャケットに20℃以下の水等を流す方法でもよい。冷却速度を大きくするため、冷水ではなく、より低温で使用できる冷媒を用いてもよい。特に、製造スケールが大きくなると高い冷却速度で実施することが困難となる。本発明は、そのようなスケールにおいても指定した冷却速度で操作を行う必要があり、その為、ジャケットによる冷却に加えて、反応槽内にコイル状の管を通し、そこにも冷媒を流すなど、熱交換性能の高い装置を取り付けることも必要であれば行う。
【0030】
この時の温度の測定方法としては、工程(i-2)で示したような一般的な攪拌を連続的に行い、水性スラリー内の状態を出来る限り一様にした上で、水性スラリーの入った容器の底から液面までの間の中間に当たる距離において、容器の中心に近い所で測定した値で判断する。
【0031】
このように冷却速度を規定の範囲で制御しながら製造することで、水性スラリー中の溶液内に存在する溶解物質が、急激な冷却によって一気に再結晶化することにより微細な粒子を形成し、水性スラリーを乾燥した際に乾燥粉がより密度の高い密な状態で得られる。
〔工程(iv)〕
工程(iv)では、工程(iii)で冷却して得られた水性スラリーまたは水溶液を乾燥して、乾燥物を得る。乾燥方法としては、例えば、ドラム乾燥法、気流乾燥法、蒸発乾固法、噴霧乾燥法等の公知の方法が挙げられる。乾燥は通常、120〜500℃、好ましくは140〜350℃で、水性スラリーまたは水溶液が乾固するまで行う。この際に使用する乾燥機の機種や乾燥温度等の条件は特に限定されず、所望する乾燥物の形状や大きさにより適宣選択することができる。
【0032】
また、前記乾燥工程後、後述する工程(v)の前に、必要に応じて、前記乾燥物を成形する成形工程を実施してもよい。その際、具体的な成形方法には特に制限はなく、公知の乾式及び湿式の成形方法が適用でき、例えば、打錠成形、プレス成形、押出成形、造粒成形等が挙げられる。成形品の形状についても特に限定されず、例えば、円柱状、リング状、球状等の形状が挙げられる。また、成形時には、乾燥物に担体等を添加せず、乾燥物のみを成形することが好ましいが、必要に応じて、例えばグラファイトやタルクなどの公知の添加剤を加えてもよい。
〔工程(v)〕
得られた乾燥物または乾燥物を成形した場合の成形品は熱処理される。熱処理条件としては、特に限定はなく、公知の熱処理条件を適用できる。熱処理は通常、空気等の酸素含有ガス流通下および/または不活性ガス流通下、200〜500℃、好ましくは300〜450℃で、0.5時間以上、好ましくは1〜40時間行う。
【0033】
以上の方法により製造される本発明に係るメタクリル酸製造用触媒は高嵩密度であり、高い収率でメタクリル酸を製造することができる。
<メタクリル酸の製造方法>
本発明に係るメタクリル酸製造用触媒の存在下、メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を製造することができる。
【0034】
具体的には、メタクロレインおよび分子状酸素を含む原料ガスと、本発明に係る触媒とを接触させることでメタクリル酸を製造する。この反応は通常固定床で行う。触媒層は1層でもよく、2層以上であってもよい。メタクリル酸製造用触媒は、担体に担持されていてもよく、その他の添加剤が混合されたものであってもよい。
【0035】
原料ガス中のメタクロレインの濃度は特に限定されないが、1〜20容量%が好ましく、3〜10容量%がより好ましい。メタクロレインは、低級飽和アルデヒド等の本反応に実質的な影響を与えない不純物を少量含んでいてもよい。
【0036】
原料ガス中の分子状酸素の濃度は、メタクロレイン1モルに対して0.4〜4モルが好ましく、0.5〜3モルがより好ましい。なお、分子状酸素源としては、経済性の観点から空気が好ましい。必要であれば、空気に純酸素を加えて分子状酸素を富化した気体等を用いてもよい。
【0037】
原料ガスは、メタクロレインおよび分子状酸素源を、窒素、炭酸ガス等の不活性ガスで希釈したものであってもよい。さらに、原料ガスに水蒸気を加えてもよい。水蒸気の存在下で反応を行うことにより、メタクリル酸をより高い収率で得ることができる。原料ガス中の水蒸気の濃度は、0.1〜50容量%が好ましく、1〜40容量%がより好ましい。
【0038】
原料ガスとメタクリル酸製造用触媒との接触時間は、1.5〜15秒が好ましく、2〜5秒がより好ましい。
【0039】
反応圧力は、大気圧(0.1MPa−G)〜数気圧(例えば1MPa−G)が好ましい。反応温度は200〜450℃が好ましく、250〜400℃がより好ましい。
【実施例】
【0040】
以下、実施例および比較例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。実施例および比較例中の「部」は質量部を意味する。
【0041】
触媒の嵩密度は、工程(iv)で得られた乾燥物を50mlのメスシリンダーに量り取り、体積50ml中の質量から下記式により算出した。
【0042】
触媒の嵩密度(g/ml)=50mlメスシリンダーに充填された乾燥物質量(g)/50(ml)
触媒組成は、触媒をアンモニア水に溶解した成分をICP発光分析法で分析することによって算出した。
【0043】
原料ガスおよび生成物の分析は、ガスクロマトグラフィーを用いて行った。ガスクロマトグラフィーの結果から、メタクリル酸収率を下記式にて求めた。
【0044】
メタクリル酸収率(%)=(B/A)×100
式中、Aは供給したメタクロレインのモル数、Bは生成したメタクリル酸のモル数である。
[実施例1]
純水400部に、三酸化モリブデン100部、メタバナジン酸アンモニウム2.7部、60質量%ヒ酸水溶液8.2部および硝酸銅(II)3水和物1.4部を溶解し、これを攪拌しながら95℃に昇温し、液温を95℃に保ちつつ3時間攪拌した。50℃まで冷却後、回転翼攪拌機を用いて攪拌しながら、純水20部に溶解した重炭酸セシウム11.2部を添加し、攪拌を15分続けた後に、純水20部に溶解した硝酸アンモニウム11.6部を滴下して、15分攪拌した。ヘテロポリ酸のセシウム塩を析出させた。なお、析出したヘテロポリ酸のセシウム塩を、NICOLET6700FT−IR(製品名、Thermo electron社製)を用いた赤外吸収分析により測定した結果、ケギン型構造を有することが確認された。この水性スラリーに85質量%リン酸水溶液6.7部を滴下し、さらに15分攪拌した。このようにして得られた水性スラリーを100℃に加熱し、30分攪拌した。その後、20℃まで毎分1.73℃の速度で冷却した。
【0045】
得られた水性スラリーは噴霧乾燥を実施し、乾燥物を得た。噴霧乾燥条件は、供給する熱風温度を300℃、装置出口の排ガス温度が110℃となる条件でおこない、アトマイザーの回転数は18000rpmであった。該乾燥物を賦形することで触媒を製造した。該触媒の酸素以外の元素組成は、Mo121.10.45As0.55Cu0.11Cs1.1であった。
【0046】
この触媒に関して、乾燥物の嵩密度を測定した。また、この触媒を反応管に充填し、メタクロレイン5容量%、酸素10容量%、水蒸気30容量%、窒素55容量%の原料ガスを反応温度285℃、接触時間3.6秒で通じた。生成物を捕集し、ガスクロマトグラフィーで分析して、メタクリル酸収率を算出した。
それらの結果を表1に示す。
[実施例2、3]、[比較例1、2]
乾燥前の水性スラリーの冷却速度を表1に示す速度へ変更した以外は、実施例1と同様にして触媒を製造した。
[実施例4]
純水400部に、三酸化モリブデン100部、メタバナジン酸アンモニウム2.7部、三酸化アンチモン3.38部および硝酸銅(II)3水和物1.4部を溶解した。それ以降は、実施例1と同様にして触媒を製造し、冷却速度については表1に示す速度で行い、メタクリル酸の製造を行った。
【0047】
また、水性スラリーを噴霧乾燥し、得られた乾燥物の嵩密度を測定した。該触媒の酸素以外の元素組成は、Mo121.10.45Sb0.4Cu0.11Cs1.1であった。結果を表1に示す。
[比較例3]
乾燥前の水性スラリーの冷却速度を表1に示す速度へ変更した以外は、実施例4と同様にして触媒を製造した。
【0048】
以上の結果から、乾燥前の水性スラリーにおいて、20℃以上40℃以下の温度まで毎分1.5℃以上の速度で冷却することで、触媒の乾燥物において、実施例1、2、3、4では、いずれも嵩密度が増加し、メタクリル酸収率を向上させることができた。一方、本発明の方法を実施しなかった触媒については、嵩密度が低く、触媒のメタクリル酸収率についても低い結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明のメタクリル酸製造用触媒は、製造された触媒乾燥物において嵩密度が高く、メタクリル酸収率も高い。このことは、工業的に触媒を製造、使用する場合に有用である。
【0050】
【表1】