特許第5915901号(P5915901)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ミツウマの特許一覧 ▶ 国立大学法人北海道大学の特許一覧

特許5915901導電性を有する立体繊維構造体およびその製造方法
<>
  • 特許5915901-導電性を有する立体繊維構造体およびその製造方法 図000008
  • 特許5915901-導電性を有する立体繊維構造体およびその製造方法 図000009
  • 特許5915901-導電性を有する立体繊維構造体およびその製造方法 図000010
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5915901
(24)【登録日】2016年4月15日
(45)【発行日】2016年5月11日
(54)【発明の名称】導電性を有する立体繊維構造体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   D06M 11/74 20060101AFI20160422BHJP
   D04B 21/14 20060101ALI20160422BHJP
   D04B 1/00 20060101ALI20160422BHJP
   D06M 15/693 20060101ALI20160422BHJP
   D06M 15/227 20060101ALI20160422BHJP
   D06M 15/263 20060101ALI20160422BHJP
   D06M 15/327 20060101ALI20160422BHJP
   D06M 13/148 20060101ALI20160422BHJP
【FI】
   D06M11/74
   D04B21/14 Z
   D04B1/00 B
   D06M15/693
   D06M15/227
   D06M15/263
   D06M15/327
   D06M13/148
【請求項の数】4
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2012-99798(P2012-99798)
(22)【出願日】2012年4月25日
(65)【公開番号】特開2013-227694(P2013-227694A)
(43)【公開日】2013年11月7日
【審査請求日】2014年8月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000137672
【氏名又は名称】株式会社ミツウマ
(73)【特許権者】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】100110766
【弁理士】
【氏名又は名称】佐川 慎悟
(74)【代理人】
【識別番号】100133260
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 基子
(74)【代理人】
【識別番号】100145126
【弁理士】
【氏名又は名称】金丸 清隆
(74)【代理人】
【識別番号】100164220
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 史織
(74)【代理人】
【識別番号】100169340
【弁理士】
【氏名又は名称】川野 陽輔
(72)【発明者】
【氏名】梅本 博之
(72)【発明者】
【氏名】藤原 直哉
(72)【発明者】
【氏名】古月 文志
(72)【発明者】
【氏名】平澤 暁史
【審査官】 長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−059561(JP,A)
【文献】 特開平07−216690(JP,A)
【文献】 特開昭59−100764(JP,A)
【文献】 特開平04−041753(JP,A)
【文献】 特開2009−256858(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04B1/00−1/28
21/00−21/20
D06M10/00−16/00
19/00−23/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表地、裏地ならびに表地および裏地を連結する連結糸から構成される立体繊維構造体であって、前記立体繊維構造体を構成する繊維にカーボンナノチューブが分散したゴムが被覆してなる導電性を有する立体繊維構造体。
【請求項2】
ゴムがニトリルゴム、クロロプレンゴムおよび天然ゴムからなる群から選択されるゴムである、請求項に記載の立体繊維構造体。
【請求項3】
表地、裏地ならびに表地および裏地を連結する連結糸から構成される立体繊維構造体が立体編物である、請求項1または請求項2に記載の立体繊維構造体。
【請求項4】
表地、裏地ならびに表地および裏地を連結する連結糸から構成される立体繊維構造体であり、導電性を有する立体繊維構造体を製造する方法であって、下記(b)の工程を有する前記方法
b)表地、裏地ならびに表地および裏地を連結する連結糸から構成される立体繊維構造体とカーボンナノチューブ分散液ならびにニトリルゴムラテックス、クロロプレンゴムラテックスおよび天然ゴムラテックスからなる群から選択されるゴムラテックスを混合してなる被覆剤とを接触させて、前記立体繊維構造体を構成する繊維にカーボンナノチューブが分散したゴムを被覆させる工程。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性を有する立体繊維構造体およびその製造方法に関し、より詳細には、表地、裏地ならびに表地および裏地を連結する連結糸から構成される立体繊維構造体であって、その立体繊維構造体を構成する繊維にカーボンナノチューブが分散して付着してなる導電性を有する立体繊維構造体、表地、裏地ならびに表地および裏地を連結する連結糸から構成される立体繊維構造体であって、その立体繊維構造体を構成する繊維にカーボンナノチューブが分散したゴムが被覆してなる導電性を有する立体繊維構造体、およびそれらを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
立体編物や立体織物などの立体繊維構造体は、クッション性や通気性を有し、軽量であることなどから、敷き布団やマット、座席シート、靴の中敷き、土木建築分野における排水材や緑化資材など、多様な用途に使用されている。また、クッション性や通気性のほかに新たな機能を付与した立体繊維構造体が開発されており、特許文献1には、表裏の織編物地組織部とそれらを連結糸で連結する連結組織部からなる立体構造を有する繊維構造体に、静電気が帯電しにくい高分子化合物、並びに稀有元素を含む鉱物、および少なくともトルマリン若しくは遠赤外線セラミックのいずれか一方を含む樹脂組成物を塗布加工した立体繊維構造体が、特許文献2には、パイル糸と表裏地組織とを備え、かつカーボンニュートラルを重要視して二酸化炭素発生量を低減した立体繊維構造体が、それぞれ開示されている。
【0003】
一方、カーボンナノチューブは、炭素原子が網目状に結合して形成される、直径数nm、長さ数十μmの微小な円筒(チューブ)である。カーボンナノチューブは優れた機械的特性や導電性、帯電防止性、電磁波遮蔽性、熱安定性などを有することから、様々な用途や製品への利用が試みられており、特許文献3には、合成繊維の表面を被覆し、かつカーボンナノチューブを含む導電層を有する導電性繊維を用いて形成された導電性繊維構造体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−161186号公報
【特許文献2】特開2008−240197号公報
【特許文献3】特開2010−59561号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1および特許文献2に記載の立体繊維構造体は、いずれも、立体繊維構造体を構成する繊維にカーボンナノチューブが分散して付着してなる、あるいはカーボンナノチューブが分散したゴムが被覆してなる導電性を有する立体繊維構造体ではない。また、特許文献3に記載の導電性繊維構造体は、ポリエステル加工糸や市販のポリエステル織布(平織)にカーボンナノチューブを付着してなる導電性繊維構造体であり、表地、裏地ならびに表地および裏地を連結する連結糸から構成される立体繊維構造体にカーボンナノチューブを分散して付着してなる、あるいはカーボンナノチューブが分散したゴムが被覆してなる導電性を有する立体繊維構造体とは、解決すべき課題が異なるうえ、下記に示されるようにその効果も異なっている。
【0006】
本発明は、これらの課題を解決するためになされたものであって、導電性を有する立体繊維構造体を提供することを目的とし、より詳細には、表地、裏地ならびに表地および裏地を連結する連結糸から構成される立体繊維構造体であって、その立体繊維構造体を構成する繊維にカーボンナノチューブが分散して付着してなる導電性を有する立体繊維構造体、表地、裏地ならびに表地および裏地を連結する連結糸から構成される立体繊維構造体であって、その立体繊維構造体を構成する繊維にカーボンナノチューブが分散したゴムが被覆してなる導電性を有する立体繊維構造体、およびそれらを製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意研究の結果、表地、裏地ならびに表地および裏地を連結する連結糸から構成される立体繊維構造体の繊維にカーボンナノチューブを分散して付着させることにより、または表地、裏地ならびに表地および裏地を連結する連結糸から構成される立体繊維構造体の繊維にカーボンナノチューブが分散したゴムを被覆させることにより、導電性を有する立体繊維構造体が得られることを見出し、下記の各発明を完成した。
【0008】
(1)表地、裏地ならびに表地および裏地を連結する連結糸から構成される立体繊維構造体であって、前記立体繊維構造体を構成する繊維にカーボンナノチューブが分散して付着してなる導電性を有する立体繊維構造体。
【0009】
(2)表地、裏地ならびに表地および裏地を連結する連結糸から構成される立体繊維構造体であって、前記立体繊維構造体を構成する繊維にカーボンナノチューブが分散したゴムが被覆してなる導電性を有する立体繊維構造体。
【0010】
(3)ゴムがニトリルゴム、クロロプレンゴムおよび天然ゴムからなる群から選択されるゴムである、(2)に記載の立体繊維構造体。
【0011】
(4)ニトリルゴムが水素添加ニトリルゴムである、(3)に記載の立体繊維構造体。
【0012】
(5)表地、裏地ならびに表地および裏地を連結する連結糸から構成される立体繊維構造体が立体編物である、(1)から(4)のいずれかに記載の立体繊維構造体。
【0013】
(6)表地、裏地ならびに表地および裏地を連結する連結糸から構成される立体繊維構造体であり、導電性を有する立体繊維構造体を製造する方法であって、下記(a)または(b)の工程を有する前記方法;(a)表地、裏地ならびに表地および裏地を連結する連結糸から構成される立体繊維構造体とカーボンナノチューブ分散液とを接触させて、前記立体繊維構造体を構成する繊維にカーボンナノチューブを分散して付着させる工程、(b)表地、裏地ならびに表地および裏地を連結する連結糸から構成される立体繊維構造体とカーボンナノチューブ分散液およびゴムラテックスを混合してなる被覆剤とを接触させて、前記立体繊維構造体を構成する繊維にカーボンナノチューブが分散したゴムを被覆させる工程。
【0014】
(7)カーボンナノチューブ分散液が、多級アルコール、ポリエチレンポリビニルアルコール、アルキルアミン、ポリアクリル酸、デオキシリボ核酸(DNA)およびこれらの塩からなる群から選択される安定剤、カーボンナノチューブ、界面活性剤ならびに水系溶媒を含んでなるカーボンナノチューブ分散液である、(6)に記載の方法。
【0015】
(8)ゴムラテックスがニトリルゴムラテックス、クロロプレンゴムラテックスおよび天然ゴムラテックスからなる群から選択されるゴムラテックスである、(6)または(7)に記載の方法。
【0016】
(9)ニトリルゴムラテックスが水素添加ニトリルゴムラテックスである、(8)に記載の方法。
【0017】
(10)表地、裏地ならびに表地および裏地を連結する連結糸から構成される立体繊維構造体が立体編物である、(6)から(9)のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る導電性を有する立体繊維構造体やその製造方法によれば、水に浸漬したり、表面を固い物で摩擦したりしても高い導電性を維持することができる、耐水性および摩擦耐性を有する立体繊維構造体を得ることができる。また、本発明に係る導電性を有する立体繊維構造体やその製造方法によれば、水中でもみ洗いをしても高い導電性を維持することができる、水中における摩擦耐性を有する立体繊維構造体を得ることができる。また、本発明に係る導電性を有する立体繊維構造体やその製造方法によれば、特にカーボンナノチューブが分散したゴムが被覆してなる場合、当該立体繊維構造体を構成する繊維からカーボンナノチューブが脱落し難く、仮に脱落したとしても飛散し難い、安全な立体繊維構造体を得ることができる。また、本発明に係る導電性を有する立体繊維構造体やその製造方法によれば、デスモジュール処理やリーチング処理、浸漬乾燥操作の回数にかかわらず、高い導電性を有する立体繊維構造体を得ることができることから、作業上の手間やコストを抑えて、簡便に、あるいは用途などに応じて任意の高い導電性能を備えた立体繊維構造体を製造することができる。そのような用途としては、例えば、静電気を防止することができる靴中敷や衣料裏地、帯電防止トレー、定期的に通電して不要な海藻や微生物などを除去し、選択的に特定の海藻を養殖することができる海藻着床ベルトや漁礁の他、立体繊維構造ゆえの排水性を利用した、積雪に被覆して通電して用いることができる融雪ヒーター、ジオグリッドなどの建築資材、ネットなどの農業資材を挙げることができる。さらに、カーボンナノチューブ分散液およびゴムラテックスはいずれもエマルジョンであるため、混合に際して相性が良く、有機溶剤を用いずとも良好に混合されることから、本発明に係る導電性を有する立体繊維構造体やその製造方法によれば、火災などの危険性を抑制しつつ繊維に被覆することができ、あるいは環境に対する負荷が小さいカーボンナノチューブ分散液やゴムラテックスが混合してなる被覆剤を用いることができるため、環境上の負担を抑えつつ、安全かつ容易に、導電性を有する立体繊維構造体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】サンプル19番を光学顕微鏡により観察した結果を示す図である。
図2】サンプル19番を走査型電子顕微鏡により観察した結果を示す図である。図中、CNTの先端部分が観察された主な箇所を矢印で示す。
図3】サンプル1および4番における、リーチング前後の電気抵抗値、リーチングに用いた水道水の色調、およびリーチング後の表面の色調を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る導電性を有する立体繊維構造体およびその製造方法について詳細に説明する。本発明に係る導電性を有する立体繊維構造体は、表地、裏地ならびに表地および裏地を連結する連結糸から構成されている。
【0021】
本発明において「導電性を有する」とは、表面電気抵抗値が10MΩ(10メガオーム;10Ω)以下であることをいう。後述する実施例の表3〜5および図3に示すように、本発明に係る導電性を有する立体繊維構造体は、10MΩよりも極めて小さい電気抵抗値を示しており、高い導電性を有することが確認されている。
【0022】
本発明における「表地」や「裏地」は、繊維を板状に加工した構造であればよく、具体的には、例えば、平編み(天竺編み)やゴム編み(リブ編み)、パール編み(ガーター編み)、両面編み、鹿の子編み、テレコ、なわ編み、ジャカードなどの緯編み地、チュール布やラッセル(ラッシェル)、トリコット、パワーネットなどの経編み地、平織や綾織、朱子織りなどの織り地、不織布、フェルト、レースなどを挙げることができる。また、本発明における「連結糸」は、繊維からなる糸が表地および裏地を連結する構造であればよく、具体的には、例えば、表地と裏地とを垂直に連結する構造のほか、筋交い構造やクロス構造、トラス構造、これらがランダムに混じった構造などを挙げることができる。
【0023】
ここで、本発明における「繊維」としては、例えば、天然繊維、合成繊維、半合成繊維、再生繊維、無機繊維などを挙げることができる。具体的には、天然繊維としては、木綿、麻、絹、ウール、羊毛、麻などを、合成繊維としては、ポリエステル、ポリアミド、セルロース、ビニロン、ナイロン、アクリル、塩化ビニル、ウレタン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレン、アラミド、ポリアクリロニトリルなどを、半合成繊維としては、アセテート、プロミックスなどを、再生繊維としては、レーヨン、キュプラなどを、無機繊維としては、フッ素繊維、ガラス繊維、ステンレス繊維などを、それぞれ挙げることができる。また、繊維からなる糸としては、例えば、紡績糸、モノフィラメント糸、マルチフィラメント糸、混紡糸、混繊糸などを挙げることができる。なお、本発明において、立体繊維構造体を構成する繊維は、表地、裏地および連結糸の各部分が同種のものであってもよく、各部分ごとに異なる種のものであってもよい。
【0024】
本発明における「表地、裏地ならびに表地および裏地を連結する連結糸から構成される立体繊維構造体」の厚み、表地、裏地および連結糸の各部分の厚み、編み目や織り目、連結糸の密度などは、本発明に係る導電性を有する立体繊維構造体に必要な強度や柔軟性などの性質、コストパフォーマンスなどに応じて、適宜設定することができる。
【0025】
本発明における「表地、裏地ならびに表地および裏地を連結する連結糸から構成される立体繊維構造体」として、例えば、立体織物や立体編物などを挙げることができるが、平織の繊維構造体は含まれない。なお、立体編物は、表地、裏地ならびに表地および裏地を連結する連結糸から構成される立体繊維構造体のうち、表地および裏地が編み地であるものをいい、定法に従い、ダブルラッセル機やダブルニット丸編み機などを用いて製造することができる。
【0026】
本発明に係る導電性を有する立体繊維構造体の一つの態様は、上述の表地、裏地ならびに表地および裏地を連結する連結糸から構成される立体繊維構造体を構成する繊維に、カーボンナノチューブが分散して付着してなる立体繊維構造体である。
【0027】
カーボンナノチューブは、炭素原子の六員環が網の目状に配列して形成されたシート状グラファイト(グラフェンシート)が円筒状に巻かれた構造を基本構造とし、1枚のグラフェンシートからなる単層カーボンナノチューブ(SWCNT)の他、円筒状に巻かれたグラフェンシートが軸直角方向に複数積層した多層カーボンナノチューブ(MWCNT)、SWCNTの端部が円錐状に閉じた形状のカーボンナノコーン、内部にフラーレンを内包するカーボンナノチューブなどがある。また、グラフェンシートにおける炭素原子の六員環配列には、アームチェア型構造、ジグザグ型構造、カイラル(らせん)型構造などがある。さらに、炭素原子の六員環配列に五員環または七員環が組み合わさって形成されたグラフェンシートからなるカーボンナノチューブも存在しうる。本発明における「カーボンナノチューブ」の構造は特に限定されず、これらの構造を有するカーボンナノチューブのうちのいずれであってもよいが、本明細書の実施例においては、多層カーボンナノチューブ(MWCNT)が好適に用いられている。
【0028】
なお、カーボンナノチューブの直径や平均長は、溶媒の組成や本発明に係る導電性を有する立体繊維構造体に必要な導電性能、カーボンナノチューブを付着させる繊維の種類などに応じて適宜設定することができるが、例えば、0.5nm〜1μm、0.5〜500nm、0.6〜300nm、0.8〜100nm、1〜80nmなどと設定することができ、単層カーボンナノチューブの場合には、0.5〜10nm、0.7〜8nm、1〜5nm程度、多層カーボンナノチューブの場合には、5〜300nm、10〜100nm、20〜80nm程度などと設定することができる。また、カーボンナノチューブの平均長としては、例えば、1〜1000μm、5〜500μm、10〜300μm、20〜100μm程度などと設定することができる。
【0029】
本発明において、「繊維にカーボンナノチューブが分散して付着してなる」とは、複数のカーボンナノチューブが主として1本ずつバラバラになった状態で繊維に付着していることをいうが、ところどころ、複数本のカーボンナノチューブが束になった状態で繊維に付着している場合も含まれる。また、本発明に係る立体繊維構造体を構成する繊維の全体にカーボンナノチューブが付着している場合のほか、本発明に係る立体繊維構造体が導電性を有する限りにおいて、立体繊維構造体を構成する繊維の一部分に付着している場合も含まれる。
【0030】
立体繊維構造体を構成する繊維にカーボンナノチューブを分散して付着させる方法は、定法に従い行うことができるが、例えば、カーボンナノチューブ分散液を用いて行うことができる。カーボンナノチューブ分散液では、その液中において、カーボンナノチューブが主として1本ずつバラバラになった状態で存在していることから、表地、裏地ならびに表地および裏地を連結する連結糸から構成される立体繊維構造体とカーボンナノチューブ分散液とを接触させることにより、当該立体繊維構造体を構成する繊維にカーボンナノチューブを分散して付着させることができる。立体繊維構造体とカーボンナノチューブ分散液との接触は、定法に従って行うことができ、例えば、カーボンナノチューブ分散液を立体繊維構造体に噴霧または塗布することや、カーボンナノチューブ分散液に立体繊維構造体を浸漬することにより行うことができる。さらに、カーボンナノチューブ分散液に繊維を浸漬し、またはカーボンナノチューブ分散液を繊維に噴霧もしくは塗布した後、定法に従い、これら繊維を用いて表地、裏地ならびに表地および裏地を連結する連結糸から構成される立体繊維構造体を製造することにより、当該立体繊維構造体を構成する繊維にカーボンナノチューブを分散して付着させることができる。
【0031】
本発明における「カーボンナノチューブ分散液」は、その液中においてカーボンナノチューブが主として1本ずつバラバラになった状態で存在しているものであればよい。カーボンナノチューブ分散液は、例えば、親水性および疎水性を有する一または二以上の界面活性剤からなる単一組成ミセルまたは混合ミセル水溶液に、用途に応じた適量のカーボンナノチューブを添加し、分散処理することにより調製することができる他、例えば、国際公開パンフレット第2005/110594号明細書、特開2007−330848号公報、特開2010−13312号公報、特開2010−59561号公報、特開2010−192218号公報、国際公開パンフレット第2011/074125号明細書などに記載のものを挙げることができる。これらのうちで好ましくは、安定剤、カーボンナノチューブ、界面活性剤ならびに水系溶媒を含んでなるカーボンナノチューブ分散液である。なお、国際公開パンフレット第2005/110594号明細書、特開2007−330848号公報、特開2010−13312号公報、特開2010−59561号公報、特開2010−192218号公報、国際公開パンフレット第2011/074125号明細書に係る明細書の記載は、本願明細書に包含される。
【0032】
ここで、本発明における「安定剤」は、水素結合を形成する物質であればよいが、多級アルコール、ポリエチレンポリビニルアルコール、アルキルアミン、ポリアクリル酸、デオキシリボ核酸(DNA)およびこれらの塩からなる群から選択されることが好ましい。多級アルコールとしては、例えば、2−プロパノール、2−ブタノールなどの第二級アルコールや2−メチル−2−プロパノールなどの第三級アルコールを挙げることができる。また、本発明における「水系溶媒」は、極性溶媒を主体とした溶媒をいい、例えば、水、メタノール、エタノール、酢酸、ギ酸、1−ブタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、クエン酸水溶液、重曹水溶液や、これらのうち2種以上を混合したものなどを挙げることができる。
【0033】
また、界面活性剤は、一般に、疎水部位と親水部位とを併せ持つ物質であり、親水部位の電荷の種類によりアニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、両性イオン系界面活性剤、非イオン系界面活性剤に大別されるが、本発明における「界面活性剤」はこれらのうちのいずれでもよい。また、本発明における界面活性剤の疎水部位としては、例えば、鎖状や環状の脂肪族や芳香族、あるいはピラノースやフラノースなどの環状構造を挙げることができる。本発明における界面活性剤は、具体的には、例えば、アニオン系界面活性剤として、コール酸塩、ドデシルベンゼンスルホン酸塩、ドデシルフェニルエーテルスルホン酸塩、ステアリン酸塩、胆汁酸塩などを、カチオン系分散剤として、トリメチルセチルベンゼンアンモニウム塩、塩化ジステアリルジメチルアンモニウム塩、塩化ベンザルコニウム、デカリニウムカチオンなどを、両性イオン系界面活性剤として、3−[(3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−1−プロパンスルホネート、3−[(3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−2−ヒドロキシプロパンスルホネート(、n−ドデシル−N,N’−ジメチル−3−アンモニオ−1−プロパンスルホネート、n−ヘキサデシル−N,N’−ジメチル−3−アンモニオ−1−プロパンスルホネート、n−オクチルホスホコリン、n−ドデシルホスホコリン、n−テトラデシルホスホコリン、n−ヘキサデシルホスホコリン、ジメチルアルキルベタイン、パーフルオロアルキルベタイン、レシチンなどを、非イオン系界面活性剤として、ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー、ポリオキシエチレンアルキルアミン、アルキルポリグルコシド、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステルなどを、それぞれ挙げることができる。
【0034】
本発明における「カーボンナノチューブ分散液」は、定法に従って調製することができるが、例えば、界面活性剤およびカーボンナノチューブを水系溶媒に加えて高温高圧下(例えば、110℃、1.2気圧など)で一定時間濡れ処理をした後、室温まで冷却し、続いて、ビーズミルやロールミルを用いて分散処理し、安定剤を加えてさらに一定時間分散処理することにより調製することができる。また、「カーボンナノチューブ分散液」の組成や濃度、カーボンナノチューブの含有割合などは、必要な導電性能などに応じて適宜設定することができる。
【0035】
次に、本発明に係る導電性を有する立体繊維構造体の異なるもう一つの態様は、上述の表地、裏地ならびに表地および裏地を連結する連結糸から構成される立体繊維構造体の繊維に、カーボンナノチューブが分散したゴムが被覆してなる立体繊維構造体である。
【0036】
本発明において、「カーボンナノチューブが分散したゴム」とは、複数のカーボンナノチューブが主として1本ずつバラバラになった状態でその表面あるいは中に存在しているゴムをいうが、ところどころ、複数のカーボンナノチューブが束になった状態で存在している場合も含まれる。また、本発明において、「繊維にカーボンナノチューブが分散したゴムが被覆してなる」という場合、本発明に係る立体繊維構造体を構成する繊維の全体にカーボンナノチューブが分散したゴムが被覆している場合のほか、本発明に係る立体繊維構造体が導電性を有する限りにおいて、本発明に係る立体繊維構造体を構成する繊維の一部分にカーボンナノチューブが分散したゴムが被覆している場合も含まれる。
【0037】
立体繊維構造体を構成する繊維にカーボンナノチューブが分散したゴムを被覆させる方法は、定法に従い行うことができるが、例えば、立体繊維構造体とカーボンナノチューブ分散液およびゴムラテックスを混合してなる被覆剤とを接触させることにより行うことができる。立体繊維構造体と被覆剤との接触は、上述した立体繊維構造体とカーボンナノチューブ分散液とを接触させる方法と同様の方法により行うことができる。立体繊維構造体とカーボンナノチューブ分散液およびゴムラテックスを混合してなる被覆剤とを接触させた後に、必要に応じて、乾燥、リーチング、塩素化、水洗などを行うことにより、立体繊維構造体を構成する繊維にカーボンナノチューブが分散したゴムを被覆させることができる。さらに、カーボンナノチューブ分散液およびゴムラテックスを混合してなる被覆剤に繊維を浸漬し、またはカーボンナノチューブ分散液およびゴムラテックスを混合してなる被覆剤を繊維に噴霧もしくは塗布した後、定法に従い、これら繊維を用いて表地、裏地ならびに表地および裏地を連結する連結糸から構成される立体繊維構造体を製造することにより、当該立体繊維構造体を構成する繊維にカーボンナノチューブが分散したゴムを被覆させることができる。なお、「カーボンナノチューブ分散液およびゴムラテックスを混合してなる被覆剤」において、カーボンナノチューブ分散液とゴムラテックスとの配合割合やカーボンナノチューブの含有割合、重合体、固形分あるいは乾燥ゴム分の含有割合などは、ゴムラテックスの種類、カーボンナノチューブ分散液の組成、必要な導電性能などに応じて、適宜設定することができる。
【0038】
本発明における「ゴム」は特に限定されず、例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエン・メタクリレートゴム(MRB)、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、カルボキシル化スチレン・ブタジエンゴム(変成SB)、ブタジエンゴム(BR)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)、ニトリルゴム(NBR)、エチレン・プロピレンゴム(EPM、EPDM)、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)、エピクロロヒドリンゴム(CO、ECO)、アクリルゴム(ACM)、多硫化ゴム(T)、シリコーンゴム(VMQ)、フロロシリコーンゴム(FVMQ)、フッ素ゴム(FKM、FEPM)、ウレタンゴム(AU、EU)、塩素化ポリエチレン(CPE)などを挙げることができるが、ニトリルゴム(NBR)、天然ゴム(NR)またはクロロプレンゴム(CR)であることが好ましい。
【0039】
なお、上述した各種のゴムには、水素添加をしたものや、主となるモノマー単位以外のモノマーを構成単位として有するものが含まれる。例えば、ニトリルゴムには、水素添加をしていないニトリルゴムや、アクリロニトリル・ブタジエン二元共重合体からなるニトリルゴムのほか、水素添加をしたニトリルゴム(水素添加ニトリルゴム;HNBR)やアクリロニトリル・ブタジエン・メタクリル酸三元共重合体からなるニトリルゴムが含まれる。なお、本発明におけるニトリルゴムは、水素添加ニトリルゴム(HNBR)が好ましい。
【0040】
本発明における「ゴムラテックス」もまた、特に限定されないが、具体的には、上述したゴムのラテックスを挙げることができ、ニトリルゴム(NBR)ラテックス、天然ゴム(NR)ラテックスまたはクロロプレンゴム(CR)ラテックスであることが好ましく、ニトリルゴム(NBR)ラテックスとしては、水素添加ニトリルゴム(HNBR)ラテックスルであることが好ましい。
【0041】
次に、本発明は、導電性を有する立体繊維構造体の製造方法を提供する。本発明に係る導電性を有する立体繊維構造体の製造方法は、表地、裏地ならびに表地および裏地を連結する連結糸から構成される立体繊維構造体であり、導電性を有する立体繊維構造体を製造する方法であって、
(a)表地、裏地ならびに表地および裏地を連結する連結糸から構成される立体繊維構造体とカーボンナノチューブ分散液とを接触させて、前記立体繊維構造体を構成する繊維にカーボンナノチューブを分散して付着させる工程、
(b)表地、裏地ならびに表地および裏地を連結する連結糸から構成される立体繊維構造体とカーボンナノチューブ分散液およびゴムラテックスを混合してなる被覆剤とを接触させて、前記立体繊維構造体を構成する繊維にカーボンナノチューブが分散したゴムを被覆させる工程、
以上(a)または(b)の工程を有する。なお、本発明に係る導電性を有する立体繊維構造体の製造方法において、上述した本発明に係る導電性を有する立体繊維構造体の構成と同等または相当する構成については、再度の説明を省略する。
【0042】
本発明に係る導電性を有する立体繊維構造体の製造方法には、本発明に係る導電性を有する立体繊維構造体の製造方法の特徴を損なわない限り、他の工程を有してもよく、例えば、デスモジュール処理工程、リーチング工程、水洗工程、浸漬工程、攪拌工程、乾燥工程、冷却工程、耐水加工工程、塩素化工程などを有してもよい。
【0043】
以下、本発明に係る導電性を有する立体繊維構造体およびその製造方法について、実施例に基づいて説明する。なお、本発明の技術的範囲は、これらの実施例によって示される特徴に限定されない。
【実施例】
【0044】
<実施例1>CNT付着剤および被覆剤の調製と評価
(1)CNT付着剤および被覆剤の調製
まず、カーボンナノチューブ(CNT)分散液を調製した。具体的には、平均長約10μmの多層CNTs(nanocyl社)40gと、アニオン系界面活性剤であるコール酸ナトリウム5gとを1Lの超純水に混合した後、110℃、1.2気圧の条件下で2時間濡れ処理をした。その後室温まで冷却した後、ビーズミル(直径0.65mmジルコニアビーズ;Dyno−mill社)を用いて1時間分散処理をした。続いて、安定剤としてポリエチレンポリビニルアルコール3gを加え、さらに1時間分散処理をすることにより、CNT含有量が2%(w/w)であるアニオン系CNT分散液(以下「アニオン系2%」という)を調製した。
【0045】
また、平均長約10ミクロンの多層CNTs(Bayer社)100gと、両性イオン系界面活性剤である3−[(3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−1−プロパンスルホネート10gとを1Lの超純水に混合した後、110℃、1.2気圧の条件下で2時間濡れ処理をした。その後室温まで冷却した後、ビーズミル(直径0.65mmジルコニアビーズ;Dyno−mill社)を用いて1時間分散処理をした。続いて、安定剤としてDNAナトリウム塩5gを加え、さらに1時間分散処理をすることにより、CNT含有量が10%(w/w)である「両性イオン系CNT分散液(以下「両性イオン系10%」という)を調製した。また、両性イオン系10%を超純水を用いて2倍に希釈することにより、CNT含有量が5%(w/w)である「両性イオン系CNT分散液(以下「両性イオン系5%」という)を調製した。
【0046】
続いて、ゴムラテックスを3種類用意した。ゴムラテックスとCNT分散液とを、表1に示す配合で混合することにより被覆剤を調製して、被覆剤1番〜31番とした。混合は、ポリ容器にCNT分散液とゴムラテックスとを計り入れた後、攪拌羽を取り付けたボール盤を用いて、120rpmで30秒間攪拌することにより行った。また、「アニオン系2%」をCNT付着剤とし、ゴムラテックスを対照剤1〜3番とした。なお、表1中、「総量中の総固形分量」は、CNT分散液に含まれるCNTの重量とゴムラテックスに含まれる重合体、固形分または乾燥ゴム分の重量とをあわせた重量である。下記に3種類のゴムラテックスを示す。
【0047】
水素添加ニトリルゴムラテックス(水素化アクリロニトリル・ブダジエン・メタクリル酸三元共重合体ラテックス「Zetpolラテックス ZLX−B」;日本ゼオン社;重合体の含有量 約40%(w/w);以下「HNBRラテックス」という。)
クロロプレンゴムラテックス(クロロプレン・2,3−ジクロロ−1,3−ブタジエン共重合体ラテックス「ショウプレン400」;昭和電工社;固形分の含有量 約50%(w/w);以下「CRラテックス」という。)
天然ゴムラテックス(ALMAR INTERNATIONAL(PVT)LTD.;乾燥ゴム分の含有量 約60%(w/w);以下「NRラテックス」という。)
【0048】
【表1】
【0049】
その結果、被覆剤1〜31番のすべてについて、均一に混合することができた。これらの結果から、「アニオン系2%」、「両性イオン系5%」および「両性イオン系10%」のいずれについても、ゴムラテックスと良好に混合して被覆剤を調製することができることが明らかになった。
【0050】
(2)被覆剤の評価
[2−1]ゴムシートの作成
水平に保った台の上にガラス板を置き、その上に、攪拌終了から24時間静置した本実施例1(1)の被覆剤1〜15番、18〜31番およびに対照剤1〜3番を、それぞれ約1mmの厚さとなるよう流し込んだ。これを室温(10℃〜23℃)にて5日間静置して乾燥させた後、ガラス板から剥がして段ボールの上に載せた。これを、室温にてさらに7日間静置して乾燥させることにより、ゴムシートを作成した。その後、製品品質への悪影響を最小限にするため、当該被覆剤および対照剤中に残存している界面活性剤、凝固剤あるいは水溶性ゴム薬品などを除去する目的とするリーチングを行った。具体的には、水道水に約12時間浸漬することにより行った。
【0051】
[2−2]電気抵抗値の測定
本実施例1(2)[2−1]のゴムシートについて、日本工業規格(JIS)C61340−4−3に準拠し、50V、100V、250Vおよび500Vにおける電気抵抗値を測定した。ただし、被覆剤4〜8番を用いて作成したゴムシートについては、250Vにおける電気抵抗値のみを測定した。測定条件は、室温24℃、湿度58%、3.13kgの鉛粒負荷、陽極は厚さ0.03mm、縦90mmおよび横90mmのアルミ箔、陰極は厚さ1mm、縦300mmおよび横400mmのステンレス304製板とした。なお、被覆剤15番、23番、30番および31番を用いて作成したゴムシートについてはリーチング後に、被覆剤1〜14番、18〜22番、24〜29番および対照剤1〜3番を用いて作成したゴムシートについてはリーチング前に、それぞれ測定を行った。
【0052】
[2−3]切断時引張強さ(T)、切断時伸び(E)、所定伸び引張応力および硬さ(HS)の測定
本実施例1(2)[2−1]のゴムシートについて、JIS K6251に準拠して、ダンベル状試験片を作成し、切断時引張強さ(T)、切断時伸び(E)および所定伸び引張応力を測定した。所定伸び引張応力は、300%の伸びを与えた時の引張応力(300%モジュラス;M300)について測定した。また、JIS K6253に準拠して、タイプAデュロメータのデュロメータ硬さ試験を行い、硬さ(HS)を測定した。なお、被覆剤3番を用いて作成したゴムシートについてはリーチング後に、被覆剤1番、2番、4〜15番、18〜31番および対照剤1番、2番を用いて作成したゴムシートについてはリーチング前に、それぞれ測定を行った。対照剤3番を用いて作成したゴムシートについては、シートの成型状態が不良であったため、測定を行わなかった。また、被覆剤29番を用いて作成したゴムシートについては、HSの測定は行わなかった。
【0053】
本実施例1(2)[2−2]および[2−3]の結果を表2に示す。なお、以下の実施例における表(表2〜6)では、測定値が測定機器の測定限界以上であった場合を「OL」で、測定を行わなかった場合を斜線で、それぞれ示す。
【0054】
【表2】
【0055】
表2に示すように、ゴムシートの電気抵抗値は、対照剤1〜3番を用いた場合はいずれも検出限界以上(OL)であったのに対して、総固形分中のCNTの割合が比較的低い被覆剤である被覆剤4〜8番を用いた場合は29MΩ〜168MΩであり、総固形分中のCNTの割合が比較的高い被覆剤である被覆剤1〜3番、9〜15番および18〜31番を用いた場合は、1.355MΩより小さい値であった。また、リーチング前に測定した場合(被覆剤1〜14番、18〜22番および24〜29番を用いたゴムシート)も十分に小さい値であったが、リーチング後に測定した場合(被覆剤15番、23番、30番および31番を用いたゴムシート)は、0.001MΩ〜0.003MΩと極めて小さい値であった。これらの結果から、ゴムラテックスのみを用いて作成したゴムシートが導電性を有さないのに対して、CNT分散液およびゴムラテックスを混合してなる被覆剤を用いて作成したゴムシートは、リーチング処理の有無にかかわらず高い導電性を有すること、ならびにリーチング処理を行うことで、より高い導電性を有する傾向であることが示された。
【0056】
また、ゴムシートのT、E、M300およびHSを、対照剤1および2番を用いた場合と被覆剤1〜15番および18〜31番を用いた場合とで比較すると、概ね同程度または被覆剤1〜15番および18〜31番を用いた場合の方が高い傾向であった。これらの結果から、CNT分散液およびゴムラテックスを混合してなる被覆剤を用いて作成したゴムシートは、ゴムラテックスのみを用いて作成したゴムシートと比較して、概ね同程度もしくは高値のT、E、M300およびHSを有することが示された。
【0057】
[2−4]熱老化後のT、EおよびHSの測定
本実施例1(2)[2−1]のゴムシートのうち、被覆剤11番、15番、22番および31番を用いて作成したゴムシートについて、JIS K6257に準拠し、ギヤー式熱老化試験機を用いて100℃、96時間の条件下で熱老化させた。熱老化の前後に、本実施例1(2)[2−3]に記載の方法によりゴムシートのT、EおよびHSを測定した。続いて、下記式1および2により、T、EおよびHSの熱老化変化率を算出した。すなわち、熱老化変化率は、熱老化によるT、EおよびHSの変化の大きさを示す値であり、正(プラス)の値であれば、熱老化によりT、EおよびHSが増大したことを、負(マイナス)の値であれば、熱老化によりT、EおよびHSが低下したことを、それぞれ意味する。熱老化変化率の算出結果を表3に示す。
【0058】
式1;TおよびEの熱老化変化率(%)=100×(熱老化後の測定値−熱老化前の測定値)/熱老化前の測定値
式2;HSの熱老化変化率(ポイント)=熱老化後の測定値−熱老化前の測定値
【0059】
【表3】
【0060】
表3に示すように、被覆剤11番を用いた場合と被覆剤22番を用いた場合との、ゴムシートの熱老化変化率を比較すると、被覆剤11番ではTが増大し、Eが低下して、HSがほとんど変化しなかったのに対し、被覆剤22番ではTおよびEが低下し、HSがほとんど変化しなかった。すなわち、被覆剤にHNBRラテックスを用いた場合は、CRラテックスを用いた場合と比較して、熱老化によるTの低下を抑制することができることが明らかになった。なお、熱老化によるEの低下は、HNBRラテックスを用いた場合の方がCRラテックスを用いた場合よりもわずかに大きいものの、実用上許容できる範囲であることが明らかになった。また、ゴムシートの熱老化変化率を、被覆剤15番を用いた場合と被覆剤31番を用いた場合とで比較すると、被覆剤15番ではTおよびHSがほとんど変化せず、Eがやや低下したのに対し、被覆剤31番ではT、EおよびHSがいずれも低下し、特にTおよびEは顕著に低下した。すなわち、被覆剤にHNBRラテックスを用いた場合は、NRラテックスを用いた場合と比較して、熱老化によるT、EおよびHSの変化が小さいことが明らかになった。
【0061】
これらの結果から、CNT分散液およびゴムラテックスを混合してなる被覆剤にHNBRラテックスを用いた場合は、熱老化に対して安定性が高い、CNTが分散したゴムが得られることが明らかになった。
【0062】
<実施例2>導電性を有する立体繊維構造体の製造と評価
(1)導電性を有する繊維構造体の製造
繊維構造体として、下記のa〜dを用意した。aおよびbは、表地、裏地ならびに表地および裏地を連結する連結糸から構成される立体繊維構造体であり、cおよびdは、表地、裏地ならびに表地および裏地を連結する連結糸から構成されず、1層の布地からなる繊維構造体(以下、「平面的繊維構造体」という。)である。
【0063】
a:立体編物「フュージョンAKE64010」(旭化成社)
b:立体編物「フュージョンAKE64150」(旭化成社)
c:ポリエステル製メッシュ「E7532」(東洋染工社)
d:ナイロン210d平織(新東京旭社)
【0064】
室温18℃、湿度46%の環境下で、実施例1(1)のCNT付着剤、被覆剤1番、2番、12番、14番、15番、17番、18番、23番、29番、31番および対照剤1〜3番に、a〜dを2分間浸漬した。続いて、タレ切りした後、室温20〜26℃、湿度40〜50%の環境下に24時間置くことにより、1次乾燥を行った。その後、ギアーオーブンを用いて100℃の環境下に1時間置くことにより2次乾燥を行った。以上の、被覆剤または対照剤への繊維構造体の浸漬、1次乾燥および2次乾燥の一連の操作(以下、「浸漬乾燥操作」という。)は1回、2回または3回行った。以上の方法において、浸漬乾燥操作にCNT付着剤を用いることにより、繊維にCNTが分散して付着してなる繊維構造体を製造し、これらをサンプル1〜3番とした。また、浸漬乾燥操作に被覆剤被覆剤1番、2番、12番、14番、15番、17番、18番、23番、29番、31番を用いることにより、繊維にCNTが分散したゴムが被覆してなる繊維構造体を製造し、これらをサンプル4〜45番とした。また、対照剤1〜3番を用いることにより、繊維にゴムが被覆してなる繊維構造体を製造し、これらを対照サンプル1〜6番とした。なお、繊維構造体と被覆剤との接着を高めることを目的として、サンプル11番、13番、15番、17番、34番、36番、38番および40番については、上述した実施例1(1)の2分間の浸漬処理の前に、デスモジュールREとトルエンとを重量比3:7で混合した混合液にa〜dを浸漬した後、タレ切りして80℃で1時間乾燥させることにより、デスモジュール処理を行っている。サンプル1〜45番および対照サンプル1〜6番における、繊維構造体とCNT付着剤、被覆剤または対照剤との組み合わせ、デスモジュール処理の有無および浸漬乾燥操作の回数を表4に示す。なお、タレ切り、1次乾燥および2次乾燥では、立体繊維構造体(立体編物)を用いた場合の方が、平面的繊維構造体(平織またはメッシュ)を用いた場合よりも短時間で各操作を完了することができた。
【0065】
【表4】
【0066】
(2)評価
[2−1]電気抵抗値の測定
本実施例2(1)のサンプル1〜45番および対照サンプル1〜6番について、実施例1(2)[2−2]に記載の方法により電気抵抗値を測定した。ただし、鉛粒の重量は3.13kgに代えて1.6kg、アルミ箔の厚さは0.03mmに代えて0.06mmとした。その結果を表4右欄に示す。表4右欄に示すように、電気抵抗値は、繊維にゴムが被覆してなる繊維構造体(対照サンプル1〜6番)では検出限界以上(OL)であったのに対して、繊維にCNTが分散して付着してなる繊維構造体(サンプル1〜3番)および繊維にCNTが分散したゴムが被覆してなる繊維構造体(サンプル4〜45番)では、いずれも0.220MΩ以下であった。これらの結果から、繊維にゴムが被覆してなる繊維構造体が導電性を有さないのに対して、繊維にCNTが分散して付着してなる繊維構造体および繊維にCNTが分散したゴムが被覆してなる繊維構造体は、高い導電性を有することが示された。
【0067】
また、電気抵抗値を、デスモジュール処理を行ったもの(サンプル11番、13番、15番、17番、34番、36番、38番および40番)と、行っていないもの(サンプル10番、12番、14番、16番、33番、35番、37番および39番)とでそれぞれ比較すると、いずれも小さい値であったが、デスモジュール処理を行ったものの方が小さい値である傾向であった。この傾向は、HNBRラテックスを用いた被覆剤12番を用いた場合(サンプル10〜17番)の方が、CRラテックスを用いた被覆剤である被覆剤23番を用いた場合(サンプル33〜40番)よりも顕著に認められた。これらの結果から、繊維にCNTが分散したゴムが被覆してなる繊維構造体は、その製造過程におけるデスモジュール処理の有無にかかわらず、高い導電性を有すること、およびデスモジュール処理を行うことで、より高い導電性を有する傾向であることが示された。
【0068】
また、電気抵抗値を、浸漬乾燥操作が2回のもの(サンプル4および6番)と3回のもの(サンプル5番および7番)、ならびに1回のもの(サンプル18番、20番および22番)と2回のもの(サンプル19番、21番および23番)とでそれぞれ比較すると、いずれも小さい値であったが、浸漬乾燥操作の回数が多いものの方がより小さい傾向であった。これらの結果から、繊維にCNTが分散したゴムが被覆してなる繊維構造体は、その製造過程における浸漬乾燥操作の回数にかかわらず、高い導電性を有すること、および浸漬乾燥操作の回数を多くすることで、より高い導電性を有する傾向であることが示された。
【0069】
[2−2]顕微鏡による観察
光学顕微鏡を用いて本実施例2(1)のサンプル8番を、走査型電子顕微鏡を用いて本実施例2(1)のサンプル24番を、それぞれ定法に従い観察した。それぞれの観察結果を図1および図2に示す。図1に示すように、サンプル8番の立体繊維構造体を構成する繊維には、ゴムが一様に被覆していることが確認された。また、図2に示すように、サンプル24番の立体繊維構造体を構成する繊維に被覆しているゴムの表面上に、多数のCNTの先端部分が観察された。CNTは相互に凝集することなく、1本ずつ分散した状態で、比較的均一に分布していた。これらの結果から、本実施例2(1)に記載の方法において、浸漬乾燥操作にCNT分散液およびゴムラテックスを混合してなる被覆剤を用いて製造した、導電性を有する立体繊維構造体を構成する繊維には、CNTが分散したゴムが被覆していることが確認された。
【0070】
[2−3]摩擦耐性の検討
〈2−3−1〉染色摩擦堅ろう度試験
本実施例2(1)のサンプル1〜7番、31番、32番、41番、42番および対照サンプル1〜6番について、JIS K6404−16に準拠し、下記の条件下で染色摩擦堅ろう度の乾燥試験および湿潤試験を行って、相手材の汚染度を測定した。その結果を表5の右端の欄に示す。
【0071】
染色摩擦堅ろう度試験の条件
試験機:学振形摩擦試験機
荷重:500g(金属製摩擦子の自重+錘300g)
相手材:白綿布(3−1号)
往復早さ:毎分30回
試験回数:100往復
室温:23℃
判定:下記の判定基準(JIS K 5101準拠)により相手材の汚染度を等級で表した。
等級 判定基準
5 着色しない
4 わずかに着色する
3 着色する
2 かなり着色する
1 著しく着色する
【0072】
【表5】
【0073】
表5に示すように、汚染度は、乾燥試験および湿潤試験のいずれの場合も同様の傾向であり、概ね、繊維にCNTが分散して付着してなる繊維構造体(サンプル1〜3番)<繊維にCNTが分散したゴムが被覆してなる繊維構造体(サンプル4〜7番、31番、32番、41番および42番)<繊維にゴムが被覆してなる繊維構造体(対照サンプル1〜6番)の順に大きかった。ここで、繊維にゴムが被覆してなる繊維構造体(対照サンプル1〜6番)の汚染度等級が大きいのは、対照剤がCNTを含有せず無色であるためであり、剥落する度合いが小さいためではないと考えられた。すなわち、CNTを含有して黒色であるCNT付着剤または被覆剤を用いたサンプル1〜7番、31番、32番、41番および42番と、CNTを含有せず無色である対照剤を用いた対照サンプル1〜6番とは、剥落する度合いを比較することにより汚染度を比較することはできないといえる。
【0074】
一方、繊維にCNTが分散して付着してなる繊維構造体(サンプル1〜3番)の汚染度を繊維構造体の種類間で比較すると、立体編物(サンプル1番)、メッシュ(サンプル2番)および平織(サンプル3番)はいずれも同等の値であった。また、繊維にCNTが分散したゴムが被覆してなる繊維構造体(サンプル4〜7番、31番、32番、41番および42番)および繊維にゴムが被覆してなる繊維構造体(対照サンプル1〜6番)の汚染度を、それぞれ繊維構造体の種類間で比較した場合も同様の傾向であり、立体編物(サンプル4番、5番、31番および41番)および平織(サンプル6番、7番、32番および42番)は同等の値であった。すなわち、繊維に付着したCNT、繊維に被覆したCNTが分散したゴム、または繊維に被覆したゴムが、摩擦されることによって剥落する度合いは、繊維構造体の種類にかかわらず、同程度であることが明らかになった。
【0075】
〈2−3−2〉JIS C61340−4−3に準拠した電気抵抗値の測定
本実施例2(2)[2−3]〈2−3−1〉のサンプル1〜7、31番、32番、41番、42番および対照サンプル1〜6番について、染色摩擦堅ろう度の乾燥試験および湿潤試験における摩擦の前後に、電気抵抗値の測定を行った。電気抵抗値の測定は、本実施例2(2)[2−1]に記載の方法により、50Vおよび500Vについて測定した。続いて、摩擦後の電気抵抗値を摩擦前の電気抵抗値で除して百分率で表すことにより、摩擦変化率を算出した(すなわち、次式「摩擦変化率(%)=100×摩擦後の電気抵抗値/摩擦前の電気抵抗値」により算出される)。摩擦変化率は、摩擦による電気抵抗値の変化の大きさを示す値であり、100%より大きい値であれば摩擦により導電性が低下したことを、100%より小さい値であれば摩擦により導電性が増大したことを、それぞれ意味する。電気抵抗値の測定結果および摩擦変化率を表5に示す。
【0076】
表5に示すように、繊維にCNTが分散して付着してなる繊維構造体(サンプル1〜3番)の摩擦変化率を、繊維構造体の種類間で比較すると、立体編物(サンプル1番)およびメッシュ(サンプル2番)の方が、平織(サンプル3番)よりも顕著に小さい値であった。また、繊維にCNTが分散したゴムが被覆してなる繊維構造体(サンプル4〜7、31番、32番、41番および42番)の摩擦変化率を、繊維構造体の種類間で比較した場合も同様の結果であり、立体編物(サンプル4番、5番、31番および41番)の方が、平織(サンプル6番、7番、32番および42番)よりも顕著に小さい値であった。一方、繊維にゴムが被覆してなる繊維構造体(対照サンプル1〜6番)では、摩擦の前後で電気抵抗値はいずれも検出限界以上(OL)であり、摩擦変化率を算出することができなかった。
【0077】
〈2−3−3〉JIS K7914に準拠した電気抵抗値の測定
本実施例2(2)[2−3]〈2−3−1〉のサンプル1〜3番、5番、7番、31番、32番、41番および42番ならびに対照サンプル1〜6番について、摩擦堅ろう度の乾燥試験における摩擦の前後に、電気抵抗値の測定を行った。また、本実施例2(1)のサンプル8番および9番について、本実施例2(2)[2−3]〈2−3−1〉に記載の方法により染色摩擦堅ろう度の乾燥試験を行い、同様に、摩擦の前後に電気抵抗値の測定を行った。電気抵抗値の測定は、JIS K7914に準拠し、低抵抗率計ロレスターEP(三菱化学アナリテック社)およびESP幅広プローブを用いて測定した。測定結果に基づいて、本実施例2(2)[2−3]〈2−3−2〉に記載の方法により摩擦変化率を算出した。その結果を表6に示す。
【0078】
【表6】
【0079】
表6に示すように、繊維にCNTが分散して付着してなる繊維構造体(サンプル1〜3番)の摩擦変化率を繊維構造体の種類間で比較すると、立体編物(サンプル1番)の方が、メッシュ(サンプル2番)よりも小さい値であり、平織(サンプル3番)よりも顕著に小さい値であった。また、繊維にCNTが分散したゴムが被覆してなる繊維構造体(サンプル5番、7〜9番、31番、32番、41番および42番)の摩擦変化率を繊維構造体の種類間で比較した場合も同様の結果であり、立体編物(サンプル5番、8番、31番および41番)の方が、平織(サンプル7番、9番、32番および42番)よりも顕著に小さい値であった。一方、繊維にゴムが被覆してなる繊維構造体(対照サンプル1〜6番)では、摩擦の前後で電気抵抗値はいずれも検出限界以上(OL)であり、摩擦変化率を算出することができなかった。
【0080】
以上の、本実施例2(2)[2−3]〈2−3−1〉〜〈2−3−3〉の結果から、繊維にCNTが分散して付着してなる平織、メッシュおよび立体編物は、摩擦により被覆剤が剥落する度合いは同程度であるにもかかわらず、平織やメッシュでは、摩擦後に電気抵抗値が上昇してしまうのに対して、立体編物では、電気抵抗値が上昇しないまたは上昇する度合いが小さいことが明らかになった。また、繊維にCNTが分散したゴムが被覆してなる平織および立体編物においても、摩擦により被覆剤が剥落する度合いは同程度であるにもかかわらず、平織では、摩擦後に電気抵抗値が顕著に上昇してしまうのに対して、立体編物では、電気抵抗値の上昇する程度が小さいことが明らかになった。すなわち、繊維にCNTが分散して付着してなる立体繊維構造体および繊維にCNTが分散したゴムが被覆してなる立体繊維構造体は、白綿布で覆った金属製摩擦子という固い物によって摩擦されても、高い導電性を維持することができることが示された。これは、立体繊維構造体では、摩擦により、表地および裏地の繊維に付着したCNTや被覆したCNTが分散したゴムが剥落しても、連結糸の繊維に付着したCNTや被覆したCNTが分散したゴムが維持されて、当該連結糸の部分で導電性が確保されるためと考えられた。
【0081】
[2−4]耐水性および水中における摩擦耐性の検討
本実施例2(1)のサンプル1番、4番および28〜30番について、11℃の水道水に12時間浸漬することにより1回目のリーチングを行った後、本実施例2(2)[2−1]に記載の方法により電気抵抗値を測定した。続いて、10℃の水道水の流水にサンプル1番および4番を12時間さらすことにより2回目のリーチングを行い、その後、もみ洗いした後に、本実施例2(2)[2−1]に記載の方法により再度電気抵抗値を測定した。また、サンプル1番および4番について、1回目のリーチングに用いた水道水の色調、1回目のリーチング後の表面の色調、ならびに2回目のリーチングおよびもみ洗い後の表面の色調を観察した。それらの結果を図3に示す。
【0082】
図3に示すように、1回目のリーチング後については、電気抵抗値は、サンプル1番、4番および28〜30番のいずれにおいても、リーチング前よりもやや小さくなった。一方、リーチングに用いた水道水は、サンプル1番では黒く着色していたのに対して、サンプル4番ではほとんど着色していなかった。また、表面の色調は、サンプル1番はリーチング前よりも顕著に色落ちして白っぽくなったのに対して、サンプル4番では、顕著な色落ちは見られず、リーチング前と同様の色調であった。なお、リーチング前のサンプル4番の色調は、リーチング前のサンプル1番の色調と同様であった(図示しない)。
【0083】
これらの結果から、繊維にCNTが分散して付着してなる立体繊維構造体および繊維にCNTが分散したゴムが被覆してなる立体繊維構造体は、その製造過程において、リーチング処理の有無にかかわらず高い導電性を有すること、およびリーチング処理を行うことで、より高い導電性を有することが示された。また、サンプル28〜30番の結果から、リーチング処理を行うことで、立体繊維構造体の形状に影響を受けることなく、より高い導電性を有することが示された。
【0084】
また、繊維にCNTが分散して付着してなる立体繊維構造体は、水に浸漬することにより多少のCNTが脱離するにも関わらず、高い導電性を維持すること、すなわち、耐水性を有することが明らかになった。一方、繊維にCNTが分散したゴムが被覆してなる立体繊維構造体は、水に浸漬してもCNTが分散したゴムが脱離せず、高い導電性を維持すること、すなわち、顕著に高い耐水性を有することが示された。
【0085】
次に、図3に示すように、2回目のリーチングおよびもみ洗い後については、電気抵抗値は、サンプル1番ではリーチング前よりも高くなったのに対して、サンプル4番では同程度または小さくなった。また、表面の色調は、サンプル1番はリーチング前よりも顕著に色落ちして白っぽくなったのに対して、サンプル4番では、顕著な色落ちは見られず、リーチング前と同様の色調であった。
【0086】
これらの結果から、繊維にCNTが分散して付着してなる立体繊維構造体は、流水にさらした後にもみ洗いをすることによりCNTが脱離して、導電性も低下してしまうのに対して、繊維にCNTが分散したゴムが被覆してなる立体繊維構造体は、流水にさらした後にもみ洗いをしてもCNTが分散したゴムが脱離せず、高い導電性を維持することが明らかになった。すなわち、繊維にCNTが分散したゴムが被覆してなる立体繊維構造体は、顕著に高い耐水性と水中における摩擦耐性とを有することが示された。
図1
図2
図3