【実施例】
【0044】
<実施例1>CNT付着剤および被覆剤の調製と評価
(1)CNT付着剤および被覆剤の調製
まず、カーボンナノチューブ(CNT)分散液を調製した。具体的には、平均長約10μmの多層CNTs(nanocyl社)40gと、アニオン系界面活性剤であるコール酸ナトリウム5gとを1Lの超純水に混合した後、110℃、1.2気圧の条件下で2時間濡れ処理をした。その後室温まで冷却した後、ビーズミル(直径0.65mmジルコニアビーズ;Dyno−mill社)を用いて1時間分散処理をした。続いて、安定剤としてポリエチレンポリビニルアルコール3gを加え、さらに1時間分散処理をすることにより、CNT含有量が2%(w/w)であるアニオン系CNT分散液(以下「アニオン系2%」という)を調製した。
【0045】
また、平均長約10ミクロンの多層CNTs(Bayer社)100gと、両性イオン系界面活性剤である3−[(3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−1−プロパンスルホネート10gとを1Lの超純水に混合した後、110℃、1.2気圧の条件下で2時間濡れ処理をした。その後室温まで冷却した後、ビーズミル(直径0.65mmジルコニアビーズ;Dyno−mill社)を用いて1時間分散処理をした。続いて、安定剤としてDNAナトリウム塩5gを加え、さらに1時間分散処理をすることにより、CNT含有量が10%(w/w)である「両性イオン系CNT分散液(以下「両性イオン系10%」という)を調製した。また、両性イオン系10%を超純水を用いて2倍に希釈することにより、CNT含有量が5%(w/w)である「両性イオン系CNT分散液(以下「両性イオン系5%」という)を調製した。
【0046】
続いて、ゴムラテックスを3種類用意した。ゴムラテックスとCNT分散液とを、表1に示す配合で混合することにより被覆剤を調製して、被覆剤1番〜31番とした。混合は、ポリ容器にCNT分散液とゴムラテックスとを計り入れた後、攪拌羽を取り付けたボール盤を用いて、120rpmで30秒間攪拌することにより行った。また、「アニオン系2%」をCNT付着剤とし、ゴムラテックスを対照剤1〜3番とした。なお、表1中、「総量中の総固形分量」は、CNT分散液に含まれるCNTの重量とゴムラテックスに含まれる重合体、固形分または乾燥ゴム分の重量とをあわせた重量である。下記に3種類のゴムラテックスを示す。
【0047】
水素添加ニトリルゴムラテックス(水素化アクリロニトリル・ブダジエン・メタクリル酸三元共重合体ラテックス「Zetpolラテックス ZLX−B」;日本ゼオン社;重合体の含有量 約40%(w/w);以下「HNBRラテックス」という。)
クロロプレンゴムラテックス(クロロプレン・2,3−ジクロロ−1,3−ブタジエン共重合体ラテックス「ショウプレン400」;昭和電工社;固形分の含有量 約50%(w/w);以下「CRラテックス」という。)
天然ゴムラテックス(ALMAR INTERNATIONAL(PVT)LTD.;乾燥ゴム分の含有量 約60%(w/w);以下「NRラテックス」という。)
【0048】
【表1】
【0049】
その結果、被覆剤1〜31番のすべてについて、均一に混合することができた。これらの結果から、「アニオン系2%」、「両性イオン系5%」および「両性イオン系10%」のいずれについても、ゴムラテックスと良好に混合して被覆剤を調製することができることが明らかになった。
【0050】
(2)被覆剤の評価
[2−1]ゴムシートの作成
水平に保った台の上にガラス板を置き、その上に、攪拌終了から24時間静置した本実施例1(1)の被覆剤1〜15番、18〜31番およびに対照剤1〜3番を、それぞれ約1mmの厚さとなるよう流し込んだ。これを室温(10℃〜23℃)にて5日間静置して乾燥させた後、ガラス板から剥がして段ボールの上に載せた。これを、室温にてさらに7日間静置して乾燥させることにより、ゴムシートを作成した。その後、製品品質への悪影響を最小限にするため、当該被覆剤および対照剤中に残存している界面活性剤、凝固剤あるいは水溶性ゴム薬品などを除去する目的とするリーチングを行った。具体的には、水道水に約12時間浸漬することにより行った。
【0051】
[2−2]電気抵抗値の測定
本実施例1(2)[2−1]のゴムシートについて、日本工業規格(JIS)C61340−4−3に準拠し、50V、100V、250Vおよび500Vにおける電気抵抗値を測定した。ただし、被覆剤4〜8番を用いて作成したゴムシートについては、250Vにおける電気抵抗値のみを測定した。測定条件は、室温24℃、湿度58%、3.13kgの鉛粒負荷、陽極は厚さ0.03mm、縦90mmおよび横90mmのアルミ箔、陰極は厚さ1mm、縦300mmおよび横400mmのステンレス304製板とした。なお、被覆剤15番、23番、30番および31番を用いて作成したゴムシートについてはリーチング後に、被覆剤1〜14番、18〜22番、24〜29番および対照剤1〜3番を用いて作成したゴムシートについてはリーチング前に、それぞれ測定を行った。
【0052】
[2−3]切断時引張強さ(T
B)、切断時伸び(E
B)、所定伸び引張応力および硬さ(HS)の測定
本実施例1(2)[2−1]のゴムシートについて、JIS K6251に準拠して、ダンベル状試験片を作成し、切断時引張強さ(T
B)、切断時伸び(E
B)および所定伸び引張応力を測定した。所定伸び引張応力は、300%の伸びを与えた時の引張応力(300%モジュラス;M
300)について測定した。また、JIS K6253に準拠して、タイプAデュロメータのデュロメータ硬さ試験を行い、硬さ(HS)を測定した。なお、被覆剤3番を用いて作成したゴムシートについてはリーチング後に、被覆剤1番、2番、4〜15番、18〜31番および対照剤1番、2番を用いて作成したゴムシートについてはリーチング前に、それぞれ測定を行った。対照剤3番を用いて作成したゴムシートについては、シートの成型状態が不良であったため、測定を行わなかった。また、被覆剤29番を用いて作成したゴムシートについては、HSの測定は行わなかった。
【0053】
本実施例1(2)[2−2]および[2−3]の結果を表2に示す。なお、以下の実施例における表(表2〜6)では、測定値が測定機器の測定限界以上であった場合を「OL」で、測定を行わなかった場合を斜線で、それぞれ示す。
【0054】
【表2】
【0055】
表2に示すように、ゴムシートの電気抵抗値は、対照剤1〜3番を用いた場合はいずれも検出限界以上(OL)であったのに対して、総固形分中のCNTの割合が比較的低い被覆剤である被覆剤4〜8番を用いた場合は29MΩ〜168MΩであり、総固形分中のCNTの割合が比較的高い被覆剤である被覆剤1〜3番、9〜15番および18〜31番を用いた場合は、1.355MΩより小さい値であった。また、リーチング前に測定した場合(被覆剤1〜14番、18〜22番および24〜29番を用いたゴムシート)も十分に小さい値であったが、リーチング後に測定した場合(被覆剤15番、23番、30番および31番を用いたゴムシート)は、0.001MΩ〜0.003MΩと極めて小さい値であった。これらの結果から、ゴムラテックスのみを用いて作成したゴムシートが導電性を有さないのに対して、CNT分散液およびゴムラテックスを混合してなる被覆剤を用いて作成したゴムシートは、リーチング処理の有無にかかわらず高い導電性を有すること、ならびにリーチング処理を行うことで、より高い導電性を有する傾向であることが示された。
【0056】
また、ゴムシートのT
B、E
B、M
300およびHSを、対照剤1および2番を用いた場合と被覆剤1〜15番および18〜31番を用いた場合とで比較すると、概ね同程度または被覆剤1〜15番および18〜31番を用いた場合の方が高い傾向であった。これらの結果から、CNT分散液およびゴムラテックスを混合してなる被覆剤を用いて作成したゴムシートは、ゴムラテックスのみを用いて作成したゴムシートと比較して、概ね同程度もしくは高値のT
B、E
B、M
300およびHSを有することが示された。
【0057】
[2−4]熱老化後のT
B、E
BおよびHSの測定
本実施例1(2)[2−1]のゴムシートのうち、被覆剤11番、15番、22番および31番を用いて作成したゴムシートについて、JIS K6257に準拠し、ギヤー式熱老化試験機を用いて100℃、96時間の条件下で熱老化させた。熱老化の前後に、本実施例1(2)[2−3]に記載の方法によりゴムシートのT
B、E
BおよびHSを測定した。続いて、下記式1および2により、T
B、E
BおよびHSの熱老化変化率を算出した。すなわち、熱老化変化率は、熱老化によるT
B、E
BおよびHSの変化の大きさを示す値であり、正(プラス)の値であれば、熱老化によりT
B、E
BおよびHSが増大したことを、負(マイナス)の値であれば、熱老化によりT
B、E
BおよびHSが低下したことを、それぞれ意味する。熱老化変化率の算出結果を表3に示す。
【0058】
式1;T
BおよびE
Bの熱老化変化率(%)=100×(熱老化後の測定値−熱老化前の測定値)/熱老化前の測定値
式2;HSの熱老化変化率(ポイント)=熱老化後の測定値−熱老化前の測定値
【0059】
【表3】
【0060】
表3に示すように、被覆剤11番を用いた場合と被覆剤22番を用いた場合との、ゴムシートの熱老化変化率を比較すると、被覆剤11番ではT
Bが増大し、E
Bが低下して、HSがほとんど変化しなかったのに対し、被覆剤22番ではT
BおよびE
Bが低下し、HSがほとんど変化しなかった。すなわち、被覆剤にHNBRラテックスを用いた場合は、CRラテックスを用いた場合と比較して、熱老化によるT
Bの低下を抑制することができることが明らかになった。なお、熱老化によるE
Bの低下は、HNBRラテックスを用いた場合の方がCRラテックスを用いた場合よりもわずかに大きいものの、実用上許容できる範囲であることが明らかになった。また、ゴムシートの熱老化変化率を、被覆剤15番を用いた場合と被覆剤31番を用いた場合とで比較すると、被覆剤15番ではT
BおよびHSがほとんど変化せず、E
Bがやや低下したのに対し、被覆剤31番ではT
B、E
BおよびHSがいずれも低下し、特にT
BおよびE
Bは顕著に低下した。すなわち、被覆剤にHNBRラテックスを用いた場合は、NRラテックスを用いた場合と比較して、熱老化によるT
B、E
BおよびHSの変化が小さいことが明らかになった。
【0061】
これらの結果から、CNT分散液およびゴムラテックスを混合してなる被覆剤にHNBRラテックスを用いた場合は、熱老化に対して安定性が高い、CNTが分散したゴムが得られることが明らかになった。
【0062】
<実施例2>導電性を有する立体繊維構造体の製造と評価
(1)導電性を有する繊維構造体の製造
繊維構造体として、下記のa〜dを用意した。aおよびbは、表地、裏地ならびに表地および裏地を連結する連結糸から構成される立体繊維構造体であり、cおよびdは、表地、裏地ならびに表地および裏地を連結する連結糸から構成されず、1層の布地からなる繊維構造体(以下、「平面的繊維構造体」という。)である。
【0063】
a:立体編物「フュージョンAKE64010」(旭化成社)
b:立体編物「フュージョンAKE64150」(旭化成社)
c:ポリエステル製メッシュ「E7532」(東洋染工社)
d:ナイロン210d平織(新東京旭社)
【0064】
室温18℃、湿度46%の環境下で、実施例1(1)のCNT付着剤、被覆剤1番、2番、12番、14番、15番、17番、18番、23番、29番、31番および対照剤1〜3番に、a〜dを2分間浸漬した。続いて、タレ切りした後、室温20〜26℃、湿度40〜50%の環境下に24時間置くことにより、1次乾燥を行った。その後、ギアーオーブンを用いて100℃の環境下に1時間置くことにより2次乾燥を行った。以上の、被覆剤または対照剤への繊維構造体の浸漬、1次乾燥および2次乾燥の一連の操作(以下、「浸漬乾燥操作」という。)は1回、2回または3回行った。以上の方法において、浸漬乾燥操作にCNT付着剤を用いることにより、繊維にCNTが分散して付着してなる繊維構造体を製造し、これらをサンプル1〜3番とした。また、浸漬乾燥操作に被覆剤被覆剤1番、2番、12番、14番、15番、17番、18番、23番、29番、31番を用いることにより、繊維にCNTが分散したゴムが被覆してなる繊維構造体を製造し、これらをサンプル4〜45番とした。また、対照剤1〜3番を用いることにより、繊維にゴムが被覆してなる繊維構造体を製造し、これらを対照サンプル1〜6番とした。なお、繊維構造体と被覆剤との接着を高めることを目的として、サンプル11番、13番、15番、17番、34番、36番、38番および40番については、上述した実施例1(1)の2分間の浸漬処理の前に、デスモジュールREとトルエンとを重量比3:7で混合した混合液にa〜dを浸漬した後、タレ切りして80℃で1時間乾燥させることにより、デスモジュール処理を行っている。サンプル1〜45番および対照サンプル1〜6番における、繊維構造体とCNT付着剤、被覆剤または対照剤との組み合わせ、デスモジュール処理の有無および浸漬乾燥操作の回数を表4に示す。なお、タレ切り、1次乾燥および2次乾燥では、立体繊維構造体(立体編物)を用いた場合の方が、平面的繊維構造体(平織またはメッシュ)を用いた場合よりも短時間で各操作を完了することができた。
【0065】
【表4】
【0066】
(2)評価
[2−1]電気抵抗値の測定
本実施例2(1)のサンプル1〜45番および対照サンプル1〜6番について、実施例1(2)[2−2]に記載の方法により電気抵抗値を測定した。ただし、鉛粒の重量は3.13kgに代えて1.6kg、アルミ箔の厚さは0.03mmに代えて0.06mmとした。その結果を表4右欄に示す。表4右欄に示すように、電気抵抗値は、繊維にゴムが被覆してなる繊維構造体(対照サンプル1〜6番)では検出限界以上(OL)であったのに対して、繊維にCNTが分散して付着してなる繊維構造体(サンプル1〜3番)および繊維にCNTが分散したゴムが被覆してなる繊維構造体(サンプル4〜45番)では、いずれも0.220MΩ以下であった。これらの結果から、繊維にゴムが被覆してなる繊維構造体が導電性を有さないのに対して、繊維にCNTが分散して付着してなる繊維構造体および繊維にCNTが分散したゴムが被覆してなる繊維構造体は、高い導電性を有することが示された。
【0067】
また、電気抵抗値を、デスモジュール処理を行ったもの(サンプル11番、13番、15番、17番、34番、36番、38番および40番)と、行っていないもの(サンプル10番、12番、14番、16番、33番、35番、37番および39番)とでそれぞれ比較すると、いずれも小さい値であったが、デスモジュール処理を行ったものの方が小さい値である傾向であった。この傾向は、HNBRラテックスを用いた被覆剤12番を用いた場合(サンプル10〜17番)の方が、CRラテックスを用いた被覆剤である被覆剤23番を用いた場合(サンプル33〜40番)よりも顕著に認められた。これらの結果から、繊維にCNTが分散したゴムが被覆してなる繊維構造体は、その製造過程におけるデスモジュール処理の有無にかかわらず、高い導電性を有すること、およびデスモジュール処理を行うことで、より高い導電性を有する傾向であることが示された。
【0068】
また、電気抵抗値を、浸漬乾燥操作が2回のもの(サンプル4および6番)と3回のもの(サンプル5番および7番)、ならびに1回のもの(サンプル18番、20番および22番)と2回のもの(サンプル19番、21番および23番)とでそれぞれ比較すると、いずれも小さい値であったが、浸漬乾燥操作の回数が多いものの方がより小さい傾向であった。これらの結果から、繊維にCNTが分散したゴムが被覆してなる繊維構造体は、その製造過程における浸漬乾燥操作の回数にかかわらず、高い導電性を有すること、および浸漬乾燥操作の回数を多くすることで、より高い導電性を有する傾向であることが示された。
【0069】
[2−2]顕微鏡による観察
光学顕微鏡を用いて本実施例2(1)のサンプル8番を、走査型電子顕微鏡を用いて本実施例2(1)のサンプル24番を、それぞれ定法に従い観察した。それぞれの観察結果を
図1および
図2に示す。
図1に示すように、サンプル8番の立体繊維構造体を構成する繊維には、ゴムが一様に被覆していることが確認された。また、
図2に示すように、サンプル24番の立体繊維構造体を構成する繊維に被覆しているゴムの表面上に、多数のCNTの先端部分が観察された。CNTは相互に凝集することなく、1本ずつ分散した状態で、比較的均一に分布していた。これらの結果から、本実施例2(1)に記載の方法において、浸漬乾燥操作にCNT分散液およびゴムラテックスを混合してなる被覆剤を用いて製造した、導電性を有する立体繊維構造体を構成する繊維には、CNTが分散したゴムが被覆していることが確認された。
【0070】
[2−3]摩擦耐性の検討
〈2−3−1〉染色摩擦堅ろう度試験
本実施例2(1)のサンプル1〜7番、31番、32番、41番、42番および対照サンプル1〜6番について、JIS K6404−16に準拠し、下記の条件下で染色摩擦堅ろう度の乾燥試験および湿潤試験を行って、相手材の汚染度を測定した。その結果を表5の右端の欄に示す。
【0071】
染色摩擦堅ろう度試験の条件
試験機:学振形摩擦試験機
荷重:500g(金属製摩擦子の自重+錘300g)
相手材:白綿布(3−1号)
往復早さ:毎分30回
試験回数:100往復
室温:23℃
判定:下記の判定基準(JIS K 5101準拠)により相手材の汚染度を等級で表した。
等級 判定基準
5 着色しない
4 わずかに着色する
3 着色する
2 かなり着色する
1 著しく着色する
【0072】
【表5】
【0073】
表5に示すように、汚染度は、乾燥試験および湿潤試験のいずれの場合も同様の傾向であり、概ね、繊維にCNTが分散して付着してなる繊維構造体(サンプル1〜3番)<繊維にCNTが分散したゴムが被覆してなる繊維構造体(サンプル4〜7番、31番、32番、41番および42番)<繊維にゴムが被覆してなる繊維構造体(対照サンプル1〜6番)の順に大きかった。ここで、繊維にゴムが被覆してなる繊維構造体(対照サンプル1〜6番)の汚染度等級が大きいのは、対照剤がCNTを含有せず無色であるためであり、剥落する度合いが小さいためではないと考えられた。すなわち、CNTを含有して黒色であるCNT付着剤または被覆剤を用いたサンプル1〜7番、31番、32番、41番および42番と、CNTを含有せず無色である対照剤を用いた対照サンプル1〜6番とは、剥落する度合いを比較することにより汚染度を比較することはできないといえる。
【0074】
一方、繊維にCNTが分散して付着してなる繊維構造体(サンプル1〜3番)の汚染度を繊維構造体の種類間で比較すると、立体編物(サンプル1番)、メッシュ(サンプル2番)および平織(サンプル3番)はいずれも同等の値であった。また、繊維にCNTが分散したゴムが被覆してなる繊維構造体(サンプル4〜7番、31番、32番、41番および42番)および繊維にゴムが被覆してなる繊維構造体(対照サンプル1〜6番)の汚染度を、それぞれ繊維構造体の種類間で比較した場合も同様の傾向であり、立体編物(サンプル4番、5番、31番および41番)および平織(サンプル6番、7番、32番および42番)は同等の値であった。すなわち、繊維に付着したCNT、繊維に被覆したCNTが分散したゴム、または繊維に被覆したゴムが、摩擦されることによって剥落する度合いは、繊維構造体の種類にかかわらず、同程度であることが明らかになった。
【0075】
〈2−3−2〉JIS C61340−4−3に準拠した電気抵抗値の測定
本実施例2(2)[2−3]〈2−3−1〉のサンプル1〜7、31番、32番、41番、42番および対照サンプル1〜6番について、染色摩擦堅ろう度の乾燥試験および湿潤試験における摩擦の前後に、電気抵抗値の測定を行った。電気抵抗値の測定は、本実施例2(2)[2−1]に記載の方法により、50Vおよび500Vについて測定した。続いて、摩擦後の電気抵抗値を摩擦前の電気抵抗値で除して百分率で表すことにより、摩擦変化率を算出した(すなわち、次式「摩擦変化率(%)=100×摩擦後の電気抵抗値/摩擦前の電気抵抗値」により算出される)。摩擦変化率は、摩擦による電気抵抗値の変化の大きさを示す値であり、100%より大きい値であれば摩擦により導電性が低下したことを、100%より小さい値であれば摩擦により導電性が増大したことを、それぞれ意味する。電気抵抗値の測定結果および摩擦変化率を表5に示す。
【0076】
表5に示すように、繊維にCNTが分散して付着してなる繊維構造体(サンプル1〜3番)の摩擦変化率を、繊維構造体の種類間で比較すると、立体編物(サンプル1番)およびメッシュ(サンプル2番)の方が、平織(サンプル3番)よりも顕著に小さい値であった。また、繊維にCNTが分散したゴムが被覆してなる繊維構造体(サンプル4〜7、31番、32番、41番および42番)の摩擦変化率を、繊維構造体の種類間で比較した場合も同様の結果であり、立体編物(サンプル4番、5番、31番および41番)の方が、平織(サンプル6番、7番、32番および42番)よりも顕著に小さい値であった。一方、繊維にゴムが被覆してなる繊維構造体(対照サンプル1〜6番)では、摩擦の前後で電気抵抗値はいずれも検出限界以上(OL)であり、摩擦変化率を算出することができなかった。
【0077】
〈2−3−3〉JIS K7914に準拠した電気抵抗値の測定
本実施例2(2)[2−3]〈2−3−1〉のサンプル1〜3番、5番、7番、31番、32番、41番および42番ならびに対照サンプル1〜6番について、摩擦堅ろう度の乾燥試験における摩擦の前後に、電気抵抗値の測定を行った。また、本実施例2(1)のサンプル8番および9番について、本実施例2(2)[2−3]〈2−3−1〉に記載の方法により染色摩擦堅ろう度の乾燥試験を行い、同様に、摩擦の前後に電気抵抗値の測定を行った。電気抵抗値の測定は、JIS K7914に準拠し、低抵抗率計ロレスターEP(三菱化学アナリテック社)およびESP幅広プローブを用いて測定した。測定結果に基づいて、本実施例2(2)[2−3]〈2−3−2〉に記載の方法により摩擦変化率を算出した。その結果を表6に示す。
【0078】
【表6】
【0079】
表6に示すように、繊維にCNTが分散して付着してなる繊維構造体(サンプル1〜3番)の摩擦変化率を繊維構造体の種類間で比較すると、立体編物(サンプル1番)の方が、メッシュ(サンプル2番)よりも小さい値であり、平織(サンプル3番)よりも顕著に小さい値であった。また、繊維にCNTが分散したゴムが被覆してなる繊維構造体(サンプル5番、7〜9番、31番、32番、41番および42番)の摩擦変化率を繊維構造体の種類間で比較した場合も同様の結果であり、立体編物(サンプル5番、8番、31番および41番)の方が、平織(サンプル7番、9番、32番および42番)よりも顕著に小さい値であった。一方、繊維にゴムが被覆してなる繊維構造体(対照サンプル1〜6番)では、摩擦の前後で電気抵抗値はいずれも検出限界以上(OL)であり、摩擦変化率を算出することができなかった。
【0080】
以上の、本実施例2(2)[2−3]〈2−3−1〉〜〈2−3−3〉の結果から、繊維にCNTが分散して付着してなる平織、メッシュおよび立体編物は、摩擦により被覆剤が剥落する度合いは同程度であるにもかかわらず、平織やメッシュでは、摩擦後に電気抵抗値が上昇してしまうのに対して、立体編物では、電気抵抗値が上昇しないまたは上昇する度合いが小さいことが明らかになった。また、繊維にCNTが分散したゴムが被覆してなる平織および立体編物においても、摩擦により被覆剤が剥落する度合いは同程度であるにもかかわらず、平織では、摩擦後に電気抵抗値が顕著に上昇してしまうのに対して、立体編物では、電気抵抗値の上昇する程度が小さいことが明らかになった。すなわち、繊維にCNTが分散して付着してなる立体繊維構造体および繊維にCNTが分散したゴムが被覆してなる立体繊維構造体は、白綿布で覆った金属製摩擦子という固い物によって摩擦されても、高い導電性を維持することができることが示された。これは、立体繊維構造体では、摩擦により、表地および裏地の繊維に付着したCNTや被覆したCNTが分散したゴムが剥落しても、連結糸の繊維に付着したCNTや被覆したCNTが分散したゴムが維持されて、当該連結糸の部分で導電性が確保されるためと考えられた。
【0081】
[2−4]耐水性および水中における摩擦耐性の検討
本実施例2(1)のサンプル1番、4番および28〜30番について、11℃の水道水に12時間浸漬することにより1回目のリーチングを行った後、本実施例2(2)[2−1]に記載の方法により電気抵抗値を測定した。続いて、10℃の水道水の流水にサンプル1番および4番を12時間さらすことにより2回目のリーチングを行い、その後、もみ洗いした後に、本実施例2(2)[2−1]に記載の方法により再度電気抵抗値を測定した。また、サンプル1番および4番について、1回目のリーチングに用いた水道水の色調、1回目のリーチング後の表面の色調、ならびに2回目のリーチングおよびもみ洗い後の表面の色調を観察した。それらの結果を
図3に示す。
【0082】
図3に示すように、1回目のリーチング後については、電気抵抗値は、サンプル1番、4番および28〜30番のいずれにおいても、リーチング前よりもやや小さくなった。一方、リーチングに用いた水道水は、サンプル1番では黒く着色していたのに対して、サンプル4番ではほとんど着色していなかった。また、表面の色調は、サンプル1番はリーチング前よりも顕著に色落ちして白っぽくなったのに対して、サンプル4番では、顕著な色落ちは見られず、リーチング前と同様の色調であった。なお、リーチング前のサンプル4番の色調は、リーチング前のサンプル1番の色調と同様であった(図示しない)。
【0083】
これらの結果から、繊維にCNTが分散して付着してなる立体繊維構造体および繊維にCNTが分散したゴムが被覆してなる立体繊維構造体は、その製造過程において、リーチング処理の有無にかかわらず高い導電性を有すること、およびリーチング処理を行うことで、より高い導電性を有することが示された。また、サンプル28〜30番の結果から、リーチング処理を行うことで、立体繊維構造体の形状に影響を受けることなく、より高い導電性を有することが示された。
【0084】
また、繊維にCNTが分散して付着してなる立体繊維構造体は、水に浸漬することにより多少のCNTが脱離するにも関わらず、高い導電性を維持すること、すなわち、耐水性を有することが明らかになった。一方、繊維にCNTが分散したゴムが被覆してなる立体繊維構造体は、水に浸漬してもCNTが分散したゴムが脱離せず、高い導電性を維持すること、すなわち、顕著に高い耐水性を有することが示された。
【0085】
次に、
図3に示すように、2回目のリーチングおよびもみ洗い後については、電気抵抗値は、サンプル1番ではリーチング前よりも高くなったのに対して、サンプル4番では同程度または小さくなった。また、表面の色調は、サンプル1番はリーチング前よりも顕著に色落ちして白っぽくなったのに対して、サンプル4番では、顕著な色落ちは見られず、リーチング前と同様の色調であった。
【0086】
これらの結果から、繊維にCNTが分散して付着してなる立体繊維構造体は、流水にさらした後にもみ洗いをすることによりCNTが脱離して、導電性も低下してしまうのに対して、繊維にCNTが分散したゴムが被覆してなる立体繊維構造体は、流水にさらした後にもみ洗いをしてもCNTが分散したゴムが脱離せず、高い導電性を維持することが明らかになった。すなわち、繊維にCNTが分散したゴムが被覆してなる立体繊維構造体は、顕著に高い耐水性と水中における摩擦耐性とを有することが示された。