【実施例】
【0054】
熱可塑性フィルム110の材料として、厚さ50μm、幅250mmのロール状液晶ポリマーフィルム(クラレ(株)製のVecster(登録商標)CT−Z)を用いて、様々な製造条件で金属張積層体100の試料を複数作製した。
【0055】
圧延段階においては、由利ロール社製上下2本式の電気加熱式エンボス機を用いて圧延処理した。圧延ロール130としては、上段にSUS製ロール(算術平均粗さR
a<0.1μm)、下段にアラミド製ロールをセットして、搬送速度3m/分で通過させた。圧延段階におけるロール接圧力およびロール温度を、様々に変えて試料番号1から17までの試料を作製した。また、異なる複数の条件で処理した熱可塑性樹脂フィルム111により、試料番号18から36までの比較例の試料を作製した。各試料の処理条件を
図8に示す。
【0056】
次に、粗面化段階として、各試料から切り出した240mm×300mmの熱可塑性樹脂フィルム111を、10規定の水酸化カリウム溶液(液温80℃)に処理時間10分間浸してエッチングした。続いて、粗面化処理した熱可塑性樹脂フィルム111に無電解めっき金属層121を形成することにより、各試料に下地金属層122を形成した。
【0057】
無電解めっき金属層121は、次の手順で形成した。まず、コンディショナー処理(処理液1:温度約55℃で1分間)により熱可塑性樹脂フィルム111の表面を洗浄した後、プレディップ処理(処理液2:温度約20℃で30秒間)をした。
【0058】
次に、奥野製薬工業(株)製のキャタリストC−10(パラジウム/スズコロイド触媒液、温度30℃で1分間)により熱可塑性樹脂フィルム111の表面に触媒を付与した後、アクセラレーター(処理液3:温度約20℃で1分間)を用いて触媒を活性化した。
【0059】
更に、酸化剤(処理液4:温度約50℃で1分間)に浸漬して、パラジウム/スズコロイド触媒液による処理時に残ったスズを酸化して銅皮膜を析出しやすくした。なお、ここまでの段階毎に、熱可塑性樹脂フィルム111を水洗および乾燥した。
【0060】
次に、下記のめっき浴を用いて、厚さ0.1μmの銅による無電解めっき金属層121を形成した。無電解めっき金属層121は熱可塑性樹脂フィルム111の両面に形成した。
【0061】
めっき浴は、希硫酸および水酸化ナトリウム水溶液によりpHを8.5に調整し、温度は75℃に保った。下記組成のめっき浴を用いて、銅を主成分とする無電解めっき金属層121を形成した。
<無電解銅めっき浴>
硫酸銅・5水和物(銅成分として) 19グラム/リットル
HEEDTA(キレート剤) 50グラム/リットル
ホスフィン酸ナトリウム(還元剤) 30グラム/リットル
塩化ナトリウム 20グラム/リットル
リン酸水素二ナトリウム 15グラム/リットル
【0062】
なお、無電解めっき金属層121として形成された下地金属層122には、還元剤である次亜リン酸の分解により微量のリンが共析する。ここで作製した試料では、無電解めっき金属層121が0.13質量%の燐を含んでいた。
【0063】
次に、熱可塑性樹脂フィルム111の両面に無電解めっき金属層121を積層した中間積層体を、窒素雰囲気中で240℃に10分間加熱して熱処理した。その後、硫酸銅浴を用いて、金属張層120全体の厚さが20μmになるように電解めっき金属層123を形成して、上部金属層124とした。めっき浴には、荏原ユージライト(株)製のキューブライト(登録商標)TH−RIIIを添加した。
【0064】
なお、試料番号27、36の試料は、圧延段階を省いた熱可塑性樹脂フィルム111から240mm×300mmの切片を切り出して、厚さ
18μmの銅箔(古河電工製GTS−WS箔、)に熱圧着して作製した。また、試料番号36の試料は、圧延段階を省いた熱可塑性樹脂フィルム111から240mm×300mmの切片を切り出して、厚さ18μmの銅箔(古河電工製GTS−STD箔、)に熱圧着して作製した。圧着の条件は、共に297℃、4MPaとした。
【0065】
上記のようにして得られた試料番号1〜36の試料のそれぞれについて、金属張層120における、熱可塑性フィルム110に対して密着する密着面の算術平均粗さR
aと、同密着面における線長比をそれぞれ測定した。
図9に、測定結果を示す。
【0066】
金属張層120における密着面の算術平均粗さR
aは、次のような手順で測定した。まず、作製した試料における一方の面の金属張層120をマスキングした状態で、他方の面から、金属張層120および熱可塑性フィルム110を、エッチングにより順次除去し、マスキングした側の金属張層120の熱可塑性フィルム110に対する密着面を露出させた。
【0067】
金属張層120は、塩化第二鉄によりエッチングした。熱可塑性フィルム110は、水酸化カリウム溶液でエッチングした。現れた金属張層120の密着面の算術平均粗さR
aは、KEYENCE社製VK−8510型を用いて測定した。
【0068】
図10は、金属張積層体100における線長比の概念を示す模式図である。
図1と共通の要素には同じ参照番号を付して重複する説明を省く。
【0069】
図中に矢印で示す面方向Pと直交する金属張層120の断面において、面方向Pと平行な方向の直線距離D
pに対して、当該直線距離D
pに含まれる金属張層120表面の起伏に沿った線長D
cの比を線長比とする。当該断面における金属張層120表面が、より多くの、あるいは、より大きな凹凸を有する形状をなす場合に線長比は大きくなる。
【0070】
上記のような線長比は、クロスセクションポリッシャにより処理した各試料の断面を、走査型電子顕微鏡(SEM)により5000倍に拡大した観察画像から算出した。金属張層120の密着面の線長D
cは、SEMによる観察画像をプログラムWinroofで処理して算出した。
【0071】
図11は、
図9に示した各試料を伝送線路に加工して、高周波信号の伝送損失を測定した結果を示す表である。また、各測定結果に対する評価結果も併せて記載した。
【0072】
伝送特性は、各試料を材料として加工してマイクロストリップラインによる伝送路を形成した上で、ネットワークアナライザにより伝送損失を測定した。作製したマイクロストリップラインは、幅100μm、長さ40mmとし、特性インピーダンスは50Ωとした。
【0073】
ネットワークアナライザは、カスケードマイクロテック社製プローブステーションとアジレントテクノロジー社製ベクトルネットワークアナライザを用い、10GHz、20GHzおよび40GHzの各帯域の高周波信号の伝送損失を測定した。測定結果の評価は、10GHzの信号については、1.05dB以下で◎、1.225dB以下で○、それ以上で×とした。また、20GHzの信号については、1.86dB以下で◎、2.17dB以下で○、それ以上で×とした。
【0074】
更に、40GHzの信号については、3.0dB以下で◎、3.5dB以下で○、それ以上で×とした。なお、一部の試料(試料番号18〜25)では、高周波信号を伝送する信号線路を形成できなかった。このため、これら試料の評価も×とした。
【0075】
図12〜
図17は、
図11に示した測定結果を、信号周波数毎にプロットしたグラフである。これらの図において、円形のプロット点は、該当試料が実施例であることを示す。矩形のプロット点は、該当試料が比較例であることを示す。また、各プロット点の近傍に記載した数字は試料番号を表す。
【0076】
図12、
図13および
図14は、伝送損失の大きさを、断面における金属張層120および熱可塑性フィルム110の密着面の線長比との関係において示すグラフである。図示のように、線長比が1.35以下の場合に伝送損失が顕著に低減される。
【0077】
図15、
図16および
図17は、伝送損失の大きさを、金属張層120および熱可塑性フィルム110の密着面の算術平均粗さR
aとの関係において示すグラフである。図示のように、算術平均粗さR
aの値の如何にかかわらず、伝送損失が低い試料(試料番号1〜17)は、算術平均粗さR
aが0.065μm以上、0.265μm以下の範囲に分布している。
【0078】
このように、密着面の線長比に着目することにより、高周波信号の伝送損失が低い金属張積層体100が得られることが判る。また、密着面の線長比が1.35倍以下の場合には、密着面の算術平均粗さR
aが0.065μm以上、0.265μm以下の範囲において、伝送損失の低い信号伝送路を形成し得る金属張積層体100が得られることが判る。
【0079】
次に、各試料における密着強度および寸法変化率を測定して、金属張積層体100としての性能を評価した。
図18に、測定結果を示す。
【0080】
密着強度は、熱可塑性フィルム110のS面およびM面の両方について、JIS C5016記載の機械的性能試験(90度方向引き剥がし方法)に基づいて金属層の引き剥がし強さ(ピール強度)を測定した。測定結果が0.7kN/m以上の試料を◎、0.6kN/m以上の試料を○と判定し、それ未満の試料を×と判定した。
【0081】
寸法変化率は、IPC−TM−650、2.2.4に記載の寸法安定性の測定方法に準拠した方法で、金属張積層体100の平面方向の寸法変化率を求めた。各試料から270mm×290mmの切片を切り出し、四隅にけがき線を入れた。続いて、4つの評価点A、B、C、Dを形成して、初期値として、AB間、BC間、CD間、DA間の各評価点距離を測定した。
【0082】
次に、評価点エリアを除く部分の金属をすべて、塩化銅を用いたエッチングにより除去した。その後、半田加熱温度を想定して240℃で1分間加熱した。加熱中はフィルムに高温槽の熱風の影響が作用しないように、試料を金属製の箱に入れて、試料の無負荷状態を維持した。
【0083】
上記加熱後に、AB間、BC間、CD間、DA間の評価点距離を再度測定し、初期値からの変化量をもとめた。各試料について、金属張積層体100の長手方向および幅方向について測定した変化量の平均を寸法変化率(膨張率)として評価した。評価は、寸法変化率が0.1以下を◎、0.2以下を○、0.25以下を△、0.25よりも大きいものを×とした。
【0084】
図19および
図20は、
図18に示した密着強度の測定結果をプロットしたグラフである。これらの図において、円形のプロット点は、該当試料が実施例であることを示す。矩形のプロット点は、該当試料が比較例であることを示す。また、各プロット点の近傍に記載した数字は試料番号を表す。
【0085】
図19は、
図18に示した測定結果のうち、熱可塑性フィルム110および金属張層120の密着強度を、金属張積層体100の断面における熱可塑性フィルム110および金属張層120の密着面の線長比との関係において示すグラフである。図示のように、線長比が1.05倍未満の範囲においては、密着強度が0.6kN/mよりも低くなることが判る。
【0086】
なお、密着強度が0.6kN/mよりも低い試料(試料番号18〜25)では、密着強度が低いためにマイクロストリップラインに加工することができなかった。このため、伝送特性を測定することはできず、評価を△とした。既に説明した通り、これらの試料については伝送特性に関する評価を×としている。
【0087】
図19は、
図18に示した測定結果のうち、熱可塑性フィルム110および金属張層120の密着強度を、熱可塑性フィルム110の算術平均粗さR
aとの関係において示すグラフである。図示のように、算術平均粗さR
aが大きい方が高い密着強度が得られる傾向はあるものの、密着強度の低い試料は全体に分布している。ただし、密着強度が高い試料(試料番号1〜17)は、算術平均粗さR
aが0.065μm以上、0.265μm以下の範囲に分布している。
【0088】
このように、金属張積層体100においては、密着面の線長比に着目することにより、熱可塑性フィルム110および金属張層120の密着強度が高い金属張積層体100が得られることが判る。即ち、密着面の線長比を1.05倍以上とした場合に、密着強度が0.6kN/m以上ある金属張積層体100が得られることが判る。また、密着面の線長比が1.05倍以上の場合は、密着面の算術平均粗さR
aが0.065μm以上、0.265μm以下の範囲において、密着強度が高い金属張積層体100が得られることが判る。
【0089】
図21および
図22は、
図18に示した寸法変化率の測定結果をプロットしたグラフである。これらの図において、円形のプロット点は、該当試料が実施例であることを示す。矩形のプロット点は、該当試料が比較例であることを示す。また、各プロット点の近傍に記載した数字は試料番号を表す。
【0090】
図21は、
図18に示した測定結果のうち、寸法変化率を、金属張積層体100の断面における熱可塑性フィルム110および金属張層120の密着面の線長比との関係において示すグラフである。図示のように、試料の寸法変化率は線長比全体に分布しているが、実施例に係る試料(試料番号1〜17)の寸法変化率が低い傾向があり、線長比が1.05倍以上、1.35倍以下の範囲に分布している。
【0091】
図22は、
図18に示した測定結果のうち、寸法変化率を熱可塑性フィルム110の算術平均粗さR
aとの関係において示すグラフである。図示のように、算術平均粗さR
aが大きいほど寸法変化率が大きくなる傾向はあるものの、実施例に係る試料(試料番号1〜17)は、算術平均粗さR
aが0.065μm以上、0.265μm以下の範囲に分布している。
【0092】
図23は、各試料の算術平均粗さR
aと、断面における密着面の線長比との関係を示すグラフである。図示のように、伝送線路とした場合の伝送損失が小さく、且つ、熱可塑性フィルム110および金属張層120の密着強度が高い金属張積層体100は、金属張積層体100の断面における熱可塑性フィルム110および金属張層120の密着面の線長比が1.05以上、且つ、1.35以下の範囲に分布していることがわかる。また、そのような試料の密着面の算術平均粗さR
aは、0.065μm以上、且つ、0.265μm以下の範囲に分布していることが判る。
【0093】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0094】
特許請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。特許請求の範囲、明細書、および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。