(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記冷却手段は、前記冷媒容器に垂下支持された冷却部を有し、前記冷却部は前記下部領域の液体冷媒を冷却することを特徴とする請求項1から5の何れか一項に記載の冷却容器。
前記冷却手段は前記冷媒容器の側面部に装備され、当該側面部を貫通して配置された冷却部を有し、前記冷却部が液体冷媒の液面下で冷却を行うことを特徴とする請求項1から5の何れか一項に記載の冷却容器。
【背景技術】
【0002】
SMES(Superconducting Magnetic Energy Storage:超電導磁気エネルギー貯蔵装置)、超電導変圧器、超電導限流器、NMR(Nuclear Magnetic Resonance:核磁気共鳴)、半導体引上げ装置等の用途に用いる強磁場発生用のマグネット分野では、イットリウム系やビスマス系に代表される高温超電導材料が使用され始めてきている。これらの超電導材料を超電導化するには液体窒素の沸点温度付近まで冷却しなければならない。
【0003】
通常、超電導材料は線状に加工されており、それをコイル化し、冷却するためクライオスタットと呼ばれる真空断熱化された冷却容器に超電導コイルとして収納される。
冷却容器内部は、一般に液体窒素及び窒素ガスが充満しており、容器内部の圧力と温度は
図2に示す液体窒素の温度に対する窒素飽和蒸気圧の線図と等しい関係となる。具体的には大気圧(
図2の0kPa)では液体窒素温度は約77Kである。ここで、
図2における曲線の上側(斜線部)は窒素が液体状態であり、曲線の下側は窒素が気体状態であることを示す。
冷却容器内の超電導コイルなどに電流を流すと、超電導コイルに通電するために超電導コイルに接続されたリード線は、通電の際にその電気抵抗に応じてジュール熱を発生し、そのリード線に接触している液体窒素は直ぐにガス化してしまう。窒素は、液体の状態では非常に電気絶縁性が高いが、ガス化してしまうと電気絶縁性が急激に低下する。
このため、冷却容器内の超電導コイルの周囲で液体窒素がガス化したために発生する気泡を抑制するために、冷却容器内の気体層の圧力を高め、液体窒素のガス化が生じる温度を高めることで、液体窒素のガス化を抑制する研究がなされてきた。冷却容器内の圧力をただ単に高めるだけでは、容器内の液体窒素を
図2に示す曲線の上側(斜線部)の状態、即ち、過冷却状態(サブクール状態)に一時的に遷移させることはできるが、時間の経過とともに温度と圧力は
図2に示す飽和蒸気圧曲線と一致してしまい、長時間過冷却状態を安定して維持することは困難であった。
【0004】
液体窒素の過冷却状態を長時間維持する従来の技術として、特許文献1では、冷却容器内に液体窒素を貯留し、その液面下に断熱部材を配して上下の断熱を図り、その気体層に予め冷却した窒素ガスを供給することで内部圧力を高めている。
【0005】
また、特許文献2では、冷却容器内に液体窒素を貯留し、その液面に断熱部材を配して上下の断熱を図り、その気体層に窒素よりも沸点の低いヘリウムガスを供給することで内部圧力を高めている。
【0006】
また、特許文献3では、冷却容器内に液体窒素を貯留し、液体層下部に冷凍機の熱交換器を配して液体層の下部を冷却すると共に、液体層上部に液体窒素をガス化させるためのヒーターを配し、発生する冷媒ガスで内部圧力を高めている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献1に記載の冷却容器は、冷却容器内の気体層に冷却した窒素ガスを供給するので、供給された窒素ガスが液体窒素表面に接触した時点で液化してしまい、冷却容器内では液体窒素の増加が生じて排出の必要性が生じると共に、窒素ガスの供給を常時実施する必要があるという問題があった。
また、特許文献2では、窒素よりも沸点の低いヘリウムガスを供給するので液化の問題は生じないが、液体窒素にヘリウムが溶け込むことで、当該液体窒素の電気絶縁性が低下するという問題があった。
さらに、特許文献3は、冷却容器内の液体層上部では温度が上昇し、下部では低温を維持することが想定されているが、実際には、液体窒素では激しく対流が生じ、液体層全体が均一な温度となってしまい、過冷却状態とすることができないという問題が生じていた。過冷却状態を実現するには、冷媒の液面付近は窒素の飽和蒸気圧状態を形成し、冷媒の下部では液面付近より温度を下げ、深さ方向に温度勾配を設けることが重要である。
【0009】
本発明は、内部圧力を適度に高めつつ良好に冷却を行う冷却容器の提供を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、内側に冷却対象物及び液体冷媒を収容すると共に真空断熱され、かつ、気密性を有する冷媒容器と、前記冷媒容器内の液体冷媒を上部領域と下部領域とに区分する断熱材からなる区分断熱材と、前記上部領域の液体冷媒を加熱する加熱手段と、前記下部領域の液体冷媒を冷却する冷却手段とを備え
、前記区分断熱材と前記冷媒容器の内壁面との間に、前記上部領域と前記下部領域の間で液体冷媒が流通する隙間を設けたことを特徴とする。
そして、前記区分断熱材と前記冷媒容器の内壁面との間に、前記上部領域と前記下部領域の間で液体冷媒が流通する隙間を設けても良い。
【0011】
また、本発明は、内側に冷却対象物及び液体冷媒を収容すると共に真空断熱され、かつ、気密性を有する冷媒容器と、前記冷媒容器内の液体冷媒を上部領域と下部領域とに区分する断熱材からなる区分断熱材と、前記上部領域の液体冷媒を加熱する加熱手段と、前記下部領域の液体冷媒を冷却する冷却手段とを備え、前記区分断熱材は、真空断熱構造を有することを特徴とする。
そして、前記区分断熱材と前記冷媒容器の内壁面との間に、前記上部領域と前記下部領域の間で液体冷媒が流通する隙間を設けても良い。
【0013】
また、本発明は、上記構成に加えて、
前記冷媒容器内の圧力を検出する圧力センサと、
前記圧力センサの検出圧力に基づいて、前記冷却容器内の圧力が目的値になるように前記加熱手段を制御する制御部とを備える構成としても良い。
【0014】
また、本発明は、上記構成に加えて、前記冷却手段が前記冷媒容器に垂下支持された冷却部を有し、前記冷却部は前記下部領域の液体冷媒を冷却する構成としても良い。
【0015】
また、本発明は、上記構成に加えて、前記冷却手段は前記冷却部を囲繞する囲繞断熱材を備え、当該囲繞断熱材が筒状であって、前記区分断熱材を貫通する貫通穴に連通されている構成としても良い。
【0016】
また、本発明は、上記構成に加えて、前記冷却手段は前記冷媒容器の側面部に装備され、当該側面部を貫通して配置された冷却部を有し、前記冷却部が液体冷媒の液面下で冷却を行う構成としても良い。
【0017】
また、本発明は、上記構成に加えて、前記冷却手段は、前記冷却容器内の液体冷媒の下部領域に配置された熱交換器を備え、当該熱交換器内に冷媒を循環させて前記下部領域の液体冷媒を冷却する構成としても良い。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、区分断熱材より上の上部領域で液体冷媒の加熱を行うことで、生じた冷媒ガスが内側領域内全体を所定の圧力以上の状態に維持することができる。そして、その一方で、下部領域で液体冷媒の冷却を行うと共に、区分断熱材により液体冷媒の対流による上部領域から下部領域への熱侵入が抑えられるので、下部領域内では液体冷媒から冷媒ガスの気泡の発生が抑えられ、高い絶縁性を維持しつつ、効率良く冷却対象物の冷却を行うことが可能となる。
また、従来技術のように、冷却した窒素ガスを冷媒容器内に供給する構成とは異なり、液体窒素の増加による排出の必要性が生じない。また、冷媒が窒素の場合には、窒素よりも沸点の低いヘリウムガスの供給も行う必要がないので、冷媒容器内の絶縁性の低下も回避することが可能である。
【0019】
また、圧力センサと加熱手段により、検出圧力が目的値になるように制御する構成の場合には、冷媒容器内をより正確に一定圧力に維持することができ、より効果的に、高い絶縁性を維持しつつ効率良く冷却対象物の冷却を行うことが可能となる。
【0020】
また、区分断熱材と冷媒容器の内壁面との間に液体冷媒が流通する隙間を設けたため、当該隙間により上部領域と下部領域とを等しい圧力に維持することが可能となると共に、これら領域間での液体冷媒の対流を抑制し、各領域間の断熱を図りつつも下部領域内を適正圧力として冷媒ガスの発生を抑制することが可能である。
【0021】
また、区分断熱材を発泡樹脂や強化プラスチック、例えば、FRP(Fiber Reinforced Plastics)から形成し、或いは区分断熱材に真空断熱構造を設ける構成とした場合には、効果的に上部領域と下部領域との断熱を図ることが可能となる。
【0022】
また、冷却手段を冷媒容器の上部に装備し、下方に垂下支持された冷却部が下部領域の液体冷媒を冷却する構成とした場合には、保守点検時の冷却手段へのアクセスが容易となり、メンテナンス作業などの際の作業性の向上を図ることが可能となる。
また、冷却手段の冷却部に囲繞断熱材を設ける構成とした場合には、当該冷却部と対流する冷媒ガスとの接触を低減することができ、効率良く液体冷媒の冷却を行うことが可能となる。
【0023】
また、冷却手段が冷媒容器の側面部を貫通して液体冷媒の液面下で冷却を行うので、冷却手段と冷媒ガスとの接触を排除することができ、冷媒ガスの影響を受けることなく効率的に液体冷媒の冷却を行うことが可能となる。
【0024】
また、冷却手段が下部領域に配置された熱交換器を通じて液体冷媒の冷却を行う構成とした場合には、熱交換器と冷媒ガスとの接触を排除することができ、冷媒ガスの影響を受けることなく効率的に液体冷媒の冷却を行うことが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
[第一の実施形態]
以下、本発明の第一の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
この第一の実施形態では、超電導機器としての超電導コイル90を収容して冷却を図る冷却容器としてのクライオスタット10について説明するものとする。
図1はクライオスタット10の垂直平面に沿った断面図である。
【0027】
このクライオスタット10は、真空断熱された内側容器21と外側容器22とを有し、液体冷媒である液体窒素60と冷却対象物としての超電導コイル90とを収容する冷媒容器20と、冷媒容器20の上部開口を閉塞可能な蓋体30と、内側容器21内の液体窒素60を上部領域62と下部領域63とに区分する断熱材からなる区分断熱材70と、上部領域62の液体窒素60を加熱する加熱手段としてのヒーター80と、下部領域63の液体窒素60を冷却する冷却手段としての冷凍機40と、冷凍機40の冷却部(後述)の周囲及び上方からの対流する冷媒ガスを遮断する囲繞断熱材としての隔壁部50と備えている。
【0028】
[冷媒容器]
冷媒容器20は、内側容器21と外側容器22とからなり、これら相互間が真空断熱された二重壁面構造の有底容器である。
内側容器21は、上下方向に沿った円筒状であって、下端部が閉塞されて底部をなし、上端部が開放されている。
外側容器22は、内側容器21と同様に上下方向に沿った円筒状であって、下端部が閉塞されて底部をなし、上端部が開放されている。そして、この外側容器22は、内側容器21より一回り大きく形成され、内側容器21を内側に格納している。さらに、内側容器21の外周面及び底部下面と外側容器22の内周面及び底部上面とが相互に隙間空間を形成するように、内側容器21と外側容器22の上端部同士が接合されて一体化されている。また、内側容器21と外側容器22の互いの隙間空間は真空引きが行われ、真空断熱されている。
また、内側容器21と外側容器22との隙間空間には、円筒部及び底部の全域に渡って、アルミニウムを蒸着させたポリエステルフィルムが積層されてなるスーパーインシュレーション材23が介在し、外部からの輻射熱の遮断を図っている。
【0029】
[蓋体]
内側容器21と外側容器22の接合部(冷媒容器20の上端面)は水平に平滑化されており、このリング状の平滑面(上端面)の上に円板状の蓋体30が載置装備されている。
この蓋体30は、区分断熱材70、ヒーター80、冷凍機40又は超電導コイル90の保守点検を行う場合に、冷媒容器20内へのアクセスができるように、冷媒容器20からの着脱が可能な状態で取り付けられている。例えば、蓋体30と冷媒容器20の相互間の凹凸形状による嵌合構造或いはボルト止め等周知の方法で蓋体30が冷媒容器20に対して固定される。
また、蓋体30と冷媒容器20の上端面(内側容器21と外側容器22の接合部)との間には図示しないシール部材が設けられ、蓋体30が装備された状態で冷媒容器20の内側容器21内部の気密性を維持することが可能となっている。また、この蓋体30には、冷媒容器20の内部圧力を検出する圧力センサ31と、冷媒容器20の内部圧力が一定値を超えると内部の窒素ガスを排出するリリーフ弁32とが設けられている。
なお、この蓋体30は、冷凍機40を載置し、超電導コイル90と区分断熱材70を垂下支持するので、これらを支持することが可能な強度を有する材料から形成されていることが好ましい。具体的には、FRPやステンレス鋼等を蓋体30の材料として用いることができる。
【0030】
[超電導コイル]
また、前述した内側容器21の内部には超電導機器としての超電導コイル90が収容される。そして、蓋体30には、超電導コイル90に接続される二つの電流リード91,91が上下に貫通した状態で固定装備されている。各電流リード91,91は、一端が図示しない超電導コイル90の電源装置に接続され、他端が冷媒容器20内の超電導コイル90から引き出されたケーブルにそれぞれが接続されている。そして、各電流リード91,91は、その表面にエポキシ等により絶縁被膜が形成されており、当該被膜を介して蓋体30に密着装備されていることから、蓋体30を冷媒容器20から取り外すことにより、電流リード91,91を通じて超電導コイル90を冷媒容器20内から取り出すことができ、超電導コイル90に対するメンテナンスを容易に行うことが可能である。
【0031】
[冷凍機]
冷凍機40は、蓄冷式のいわゆるGM冷凍機であり、蓄冷材を内部に保有するディスプレーサ容器を上下に往復させるシリンダ部41と、ディスプレーサ容器に上下の移動動作を付与するモータを駆動源とするクランク機構が格納された駆動部42と、シリンダ部41において最も低温となる低温伝達部43に設けられた熱交換部材としての熱交換器44とを備えている。
また、上記冷凍機40には、図示しないコンプレッサ等が接続され、その内部に対して冷媒ガスの吸排気が行われるようになっている。
【0032】
上記冷凍機40は、蓋体30の上面に駆動部42が取り付けられ、シリンダ部41は蓋体30を貫通して冷媒容器20の内側に垂下されている。
シリンダ部41ではその内部で冷媒ガスが下方に移動する過程で断熱圧縮と吸熱が行われ、その下端部が最も低温状態となる。
そして、この最も低温となるシリンダ部41の下端部に、例えば銅のような熱伝導率の高い材料からなる低温伝達部43が形成されている。
熱交換器44は、低温伝達部43と同等又はそれ以上の熱伝導率の高い素材で形成されている。また、熱交換器44の上部は低温伝達部43の底面に密着し、下部は下方に延びる複数のフィンが形成されている。これらのフィンは、冷媒容器20内に規定量の液体窒素60が収容された時の液面61より下側まで延びており、液体窒素に直接的に接触して冷却を行っている。
【0033】
[隔壁部]
隔壁部50は、冷媒容器20内において、冷凍機40のシリンダ部41に固定支持され、冷却部である低温伝達部43及び熱交換器44の上側とその周囲とを囲繞して、下方を除く全方向からの冷媒ガスを遮断している。
この隔壁部50は、シリンダ部41が貫通した状態で当該シリンダ部41に固定された天板部51と円筒状の側壁部52とからなり、側壁部52の上端部を塞ぐように天板部51と側壁部52が一体的に接合されている。また、この隔壁部50は、低温伝達部43及び熱交換器44よりも熱伝導率の低い、例えば、ステンレス材、FRP、低温耐性のある樹脂等から形成されている。
【0034】
隔壁部50の天板部51は、外径が低温伝達部43より幾分大きく且つ当該低温伝達部43の上面に接触しないよう隙間を形成するか、接触したとしても最小の接触面積となるようにシリンダ部41に固定されている。即ち、隔壁部から低温伝達部への侵入熱を防止するという観点から、低温伝達部43とは接触しないように天板部51との間に隙間を形成する方が好ましい。
側壁部52は、冷凍機40の冷却部である低温伝達部43及び熱交換器44を囲繞する円筒状であって、その上端部が天板部51の下面と一体的に接合されており、下端部が開放されている。そして、その内径が低温伝達部43及び熱交換器44の外径よりも幾分大きく、これらに接触しないように内包した状態となっている。
また、側壁部52は、その下端部が後述する区分断熱材70を貫通し、熱交換器44のフィンの下端部とほぼ同じ高さまで下方に延出されており、当該下端部の外周面は区分断熱材70と密着している。これにより、隔壁部50は、冷凍機40の冷却部を囲繞し、周囲の窒素ガスの対流に冷凍機40の冷却部が曝されないので、冷凍機40により区分断熱材70で仕切られた下部領域63の液体窒素60の冷却を効率良く行うことができるようになっている。
【0035】
[区分断熱材]
区分断熱材70は、円形板状の発泡樹脂である発泡ウレタンボードから構成されている。なお、区分断熱材70の材質は、上記に限らず、適度な断熱性と強度を有する素材であればよい。具体的には、発泡ウレタンボードの他に発泡ポリエチレン、発泡スチロール、FRP等でもよい。
この区分断熱材70は、その上面が冷媒容器20内の規定量の液体窒素の液面61よりも下側となるような状態を維持して、蓋体30により図示しない複数の支柱を介して垂下支持されている。また、この区分断熱材70は、液体窒素よりも比重が小さい場合は液体窒素から浮力を受けこととなるため、区分断熱材70を支持する複数の支柱は、その浮力に抗して区分断熱材70の一定の高さを維持することが可能な剛性を備えていることが好ましい。
また、この区分断熱材70について、断熱性能、強度を増したい場合には区分断熱材70の厚みを厚くすればよい。厚みが厚くなることで、断熱材は熱抵抗を大きくすることができ断熱性能が向上し、かつ、剛性も向上することとなる。
また、区分断熱材70は、前述した冷凍機40の直下位置において、上下に貫通する開口部が形成されており、当該開口部には隔壁部50の下端部が挿入されて隔壁部50と接合されている。
【0036】
さらに、この区分断熱材70の外径は、冷媒容器20の内側容器21の内径よりも若干小さく設定されており、区分断熱材70の外周と内側容器21との間には隙間が形成されている。
区分断熱材70は、冷媒容器20内の液体窒素60を上部領域62と下部領域63とに区分し、これらの領域62,63の間での断熱を図ることを目的とするものである。冷媒容器20の内部は、後述するヒーター80による内部圧力の制御により液体窒素からの窒素ガスの発生を防止する機能を損なわないようにする必要があるため、上部領域62と下部領域63との圧力が均一となるように液体窒素の移動を妨げないことが要求される。
つまり、区分断熱材70の外周と内側容器21との隙間は、上部領域62と下部領域63との圧力を等しくするための液体窒素の移動を妨げず、且つ、上部領域62との間での液体窒素の対流による流通を抑制して断熱効果を維持することが要求される。したがって、上部領域62と下部領域63との圧力差が生じない範囲で区分断熱材70の外周と内側容器21との隙間は小さくすることが望ましい。この例では、区分断熱材70の外周と内側容器21との上記隙間を5mmとしている。
【0037】
また、区分断熱材70は、真空断熱構造を有していてもよい。具体的には、区分断熱材70の上下面、側面を金属板で構成(溶接構造)し、内部空間を真空引きしたものを用いればよい。
【0038】
[ヒーター]
内側容器21の内部であって区分断熱材70のすぐ上側には、上部領域62内の液体窒素60を加熱するためのヒーター80が設けられている。そして、蓋体30には、ヒーター80に接続される二つの電流リード81,81が上下に貫通した状態で固定装備されている。各電流リード81,81は、一端がヒーター80への通電制御を行う制御部としてのコントローラー82に接続され、他端がヒーター80から引き出されたケーブルにそれぞれが接続されている。そして、各電流リード81,81は、その表面にエポキシ等により絶縁被膜が形成されており、当該被膜を介して蓋体30に密着装備されている。
【0039】
コントローラー82は、前述した圧力センサ31とも接続されており、密閉状態とされた冷媒容器20内の検出圧力が入力される。そして、コントローラー82は、予め定められた目標圧力(例えば、-80kPaを超える値、但し大気圧を0とする)を維持するようにヒーター80に対してフィードバック制御を実行する。即ち、検出圧力が目標圧力よりも低い場合には、ヒーター80の出力を高め、窒素ガスを発生させて内部圧力を上昇させる。検出圧力が目標圧力よりも高い場合には、ヒーター80の出力を低くし、窒素ガスの発生を抑えることで内部圧力を低下させる。
【0040】
[発明の実施形態の作用効果]
上記構成からなるクライオスタット10では、超電導コイル90、区分断熱材70、ヒーター80と共に規定量の液体窒素60が内側容器21内に収容され、冷凍機40は一定の出力で下部領域63における液体窒素60の冷却を行う。
冷凍機40を一定の出力で駆動し、液体窒素60を冷却した場合、下部領域63の液体窒素60の温度が徐々に低下する。その後、時間が経過すると、上部領域62の液体窒素60の温度も低下するため、圧力センサ31はその低下した温度に相当する圧力を検出する。例えば、
図2において下部領域63の液体窒素60の温度が65Kまで低下した場合、冷媒容器20の内部圧力は約−80kPaを表示することになる。この状態は過冷却状態ではないため、過冷却状態を形成するために冷媒容器20の内部圧力を−80kPa超に上昇させる必要がある。ここで、圧力センサ31により冷媒容器20の内部圧力を監視し、例えば、冷媒容器20の内部圧力の目標値を−80kPa超とする場合、冷媒容器20の内部圧力が−80kPa以下となったときには、ヒーター80により上部領域62の液体窒素60を加熱し、液体窒素60の気化による圧力上昇を図り、冷媒容器20の内部圧力を常に−80kPaを超えた状態となるようにフィードバック制御を行う。
この時、上部領域62の液体窒素60はヒーター80の加熱による温度上昇を生じるが、発泡樹脂である発泡ウレタンボードから形成された区分断熱材70により液体窒素60の対流が抑制され断熱効果が得られるので、超電導コイル90を冷却する下部領域63の液体窒素60の温度上昇が抑えられる。そして、液体窒素60は温度上昇が抑制されつつも飽和蒸気圧超となる状態が維持されるので、下部領域63では液体窒素60がサブクール状態となり、窒素ガスによる気泡の発生が抑えられ、高い絶縁性を維持しつつ、効率良く液体窒素60の冷却を行うことが可能である。
【0041】
また、クライオスタット10では、圧力センサ31の検出圧力に基づいて目標圧力となるようにヒーター80を制御するコントローラー82を備えるので、冷媒容器20内をより正確に飽和蒸気圧超に維持することができ、より効果的に、高い絶縁性を維持しつつ効率良く冷却対象物の冷却を行うことが可能となる。
【0042】
また、区分断熱材70と内側容器21の内壁面との間に液体窒素が流通する隙間を設けているので、より簡易な構成により内側容器21内全体の圧力の均一化を図ることが可能である。
【0043】
また、クライオスタット10では、冷凍機40を冷媒容器20の上部の蓋体30に装備し、下方に垂下支持された冷却部により内側容器21内の下部領域63の液体窒素60を冷却する構造であり、冷凍機40のメンテナンスは冷凍機を上に引き上げるだけで隔壁部50ごと一体的に取り外しが可能となり、メンテナンス作業などの際の作業性の向上を図ることが可能となる。
また、冷凍機40の冷却部には、周囲を囲繞する隔壁部50を設けているので、上方から垂下支持された構造の場合であっても、当該冷却部と対流する窒素ガスとの接触を低減することができ、効率良く液体窒素の冷却を行うことが可能となる。
【0044】
[効果試験]
図3は上記クライオスタット10による冷却効果を試験的に測定した温度、圧力の測定結果を示す線図である。
即ち、この効果試験では、冷凍機40を一定出力として液体窒素の冷却を開始し、その後の経過時間による内側容器21内における液面付近液温(上部領域62の液体窒素の温度)、区分断熱材下液温(下部領域63の最上層の液体窒素の温度)、最深部液温(下部領域63の最下層の液体窒素の温度)、冷却部液温(冷凍機40の冷却部周辺の液体窒素の温度)、クライオスタット10の外の外気温、ヒーター出力、冷媒容器20の内部圧力、液体窒素の液面高さの変化を測定した。
【0045】
この試験では、一例として−5kPaを目標圧力としている。
その結果、測定開始からおよそ4時間経過後に冷媒容器20内が目標圧力である-5kPaとなり、その時点でヒーター80の作動が開始されると、冷媒容器内の圧力が-5kPaで維持され、また、液体窒素の上部領域62はヒーター80の作動開始からは77Kが維持されていることが確認された。
また、下部領域63の液体窒素は冷却部周辺が最も低温となっているが、下部領域63の液体窒素は下部領域63の全体で冷却部周辺に近い値で冷却が進み、区分断熱材70による断熱効果が確認された。
また、液体窒素の液面高さは、若干の低下が観察されたが、これは液体窒素の熱収縮が原因であり、絶えず外部からの窒素ガス又は液体窒素の補充が必要となるほどの減少はなく、冷媒の消費を抑えて冷却することが可能であることが確認された。
【0046】
[第二の実施形態]
図4は冷凍機40の配置を替えたクライオスタット10Aの垂直平面に沿った断面図である。なお、このクライオスタット10Aの各構成について、前述したクライオスタット10と同一の構成については同じ符号を付して重複する説明は省略する。また、
図4ではコントローラー82の図示は省略している。
【0047】
このクライオスタット10Aでは、冷凍機40のシリンダ部41が水平方向を向くように横に傾けた状態で、少なくとも区分断熱材70Aよりも低位置となるように冷媒容器20Aの側面に配置している。また、蓋体30A及び区分断熱材70Aには冷凍機40を装備するための貫通穴は形成されていない。
冷媒容器20Aには、水平方向に沿った円筒状の冷凍機40の取付部24Aが冷媒容器20Aの内部まで貫通した状態で形成されている。この取付部24Aは、冷媒容器20Aのように、内部を真空とする二重管構造としており、その周囲からの断熱が施されている。
そして、冷凍機40は、取付部24Aにシリンダ部41及び低温伝達部43が挿入され、熱交換器44のみが内側容器21の内部に収容された下部領域63内の液体窒素60に接触する構造となっている。
【0048】
冷凍機40は、上記のように冷媒容器20Aに側面に装備することも可能である。この場合、第一の実施形態のように蓋体30に冷凍機40を装備する場合に比べて、冷媒容器20Aから取り外してメンテナンスを行う場合の作業性は劣るが、熱交換部44が冷媒容器20A内の窒素ガスに接触することなく、第一の実施形態のような隔壁部50を不要として液体窒素を直接的に冷却することが可能となる。
【0049】
[第三の実施形態]
図5は冷凍機40とは構成が異なる冷凍機40Bを備えるクライオスタット10Bの垂直平面に沿った断面図である。なお、このクライオスタット10Bの各構成について、前述したクライオスタット10と同一の構成については同じ符号を付して重複する説明は省略する。また、
図5ではコントローラー82の図示は省略している。
【0050】
このクライオスタット10Bの冷凍機40Bは液体冷媒(例えば液体窒素)循環型の冷凍機であり、循環させる液体冷媒を冷却する本体部41Bと、液体冷媒を循環させる循環路42B、43Bと、冷媒容器20の下部領域63内に配設された熱交換器44Bとから主に構成されている。
【0051】
本体部41Bは、液体冷媒を貯留して冷却可能な構成であればいずれの構成でも良いが、例えば、前述したクライオスタット10のように、内部に液体冷媒を収容する真空断熱構造を備えた冷媒容器と、内部の液体冷媒を冷却するための冷凍機及び隔壁部(冷凍機40及び隔壁部50と同一構造)とを備える構成となっていればよい。また、内部の液体冷媒を循環するための送液ポンプを備えていてもよい。
循環路42B、43Bは、中空部が真空化された二重管構造により断熱が図られた管路であり、冷媒容器20を貫通してその内側の熱交換器44Bに接続されている。
熱交換器44Bは、銅等の熱伝達性の良好な金属の配管から構成され、内部に液体冷媒が循環させられる。この熱交換器44Bは、冷媒容器20内の液体窒素との接触面積を増やして冷却効率を高めるために、表面積が大きい蛇腹状、波付き形状或いは螺旋状に形成されていることが好ましい。
また、この熱交換器44Bは少なくとも区分断熱材70Bよりも低位置となるように冷媒容器20の内部に配置されている。
また、蓋体30B及び区分断熱材70Bには冷凍機を装備するための貫通穴は形成されていない。
【0052】
冷凍機40Bは、冷却容器10Bの外部に設置されているため、冷凍機40Bのメンテナンスの際に、冷媒容器10B(蓋体30B)から外す必要も無く、第一の実施形態と比べてメンテナンス性は容易となる。また、熱交換器44Bが冷媒容器20内の窒素ガスに接触することなく、第一の実施形態の隔壁部50を不要として液体窒素を直接的に効率よく冷却することが可能となる。
【0053】
[その他]
なお、区分断熱材70は発泡樹脂やFRPから形成しているがその構造や材料はこれに限定されるものではない。
例えば、
図6に示す区分断熱材70Cのように、その内部を中空且つ真空化することで断熱化を図っても良い。
具体的には、区分断熱材70C外部形状及び寸法を区分断熱材70と同一とし、区分断熱材70Cの上面となる上面板と下面となる下面板と外周面となる円筒体とを金属で形成すると共に、これらを溶接などにより接合することで中空構造の区分断熱材70Cを形成する。また、上記溶接の過程で、中空内部の真空引きを行い、内部の真空化を図っている。また、電流リード91,91及び隔壁部50を挿通させる開口部は円筒状の部材を組み込むことで形成可能である。
このように、区分断熱材70Cは、断熱性を有する材料を使用しなくとも、上記真空断熱構造を施すことにより、断熱性を有する材料から形成した区分断熱材70と同一の効果を得ることが可能である。
なお、この区分断熱材70Cの中空内部にもスーパーインシュレーション材を収容して断熱効率を高めても良い。
また、本実施形態では、冷媒として窒素を用いたが、窒素に限らず、他の冷媒(例えば、水素)などにも適用することができる。