特許第5917247号(P5917247)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5917247
(24)【登録日】2016年4月15日
(45)【発行日】2016年5月11日
(54)【発明の名称】PAU型ゼオライトの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 39/46 20060101AFI20160422BHJP
【FI】
   C01B39/46
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-89030(P2012-89030)
(22)【出願日】2012年4月10日
(65)【公開番号】特開2013-216544(P2013-216544A)
(43)【公開日】2013年10月24日
【審査請求日】2015年3月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】513279881
【氏名又は名称】ユニゼオ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】特許業務法人翔和国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100076532
【弁理士】
【氏名又は名称】羽鳥 修
(74)【代理人】
【識別番号】100101292
【弁理士】
【氏名又は名称】松嶋 善之
(74)【代理人】
【識別番号】100107205
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 秀一
(74)【代理人】
【識別番号】100112818
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 昭久
(74)【代理人】
【識別番号】100155206
【弁理士】
【氏名又は名称】成瀬 源一
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】特許業務法人翔和国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100076532
【弁理士】
【氏名又は名称】羽鳥 修
(74)【代理人】
【識別番号】100101292
【弁理士】
【氏名又は名称】松嶋 善之
(72)【発明者】
【氏名】板橋 慶治
(72)【発明者】
【氏名】大久保 達也
(72)【発明者】
【氏名】伊與木 健太
【審査官】 塩谷 領大
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭62−070224(JP,A)
【文献】 特開平03−126613(JP,A)
【文献】 特開2011−126768(JP,A)
【文献】 Bin Xie etc.,Organotemplate-Free and Fast Route for Synthesizing Beta Zeolite,CHEMISTRY OF MATERIALS,2008年 7月22日,Vol.20, No.14,4533-4535
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/00−39/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)以下に示すモル比で表される組成であって、且つ有機構造規定剤を含まない反応混合物となるように、シリカ源、アルミナ源、アルカリ源、及び水を混合し、
SiO2/Al23=8〜24
2O/SiO2=0.3〜0.7
2O/SiO2=5〜50
(2)SiO2/Al23比が4〜15であり、かつ平均粒子径が100nm以上である、有機化合物を含まないPAU型ゼオライトを種結晶として用い、これを、前記反応混合物中のシリカ成分に対して0.1〜20重量%の割合で該反応混合物に添加し、
(3)前記種結晶が添加された前記反応混合物を80〜200℃で密閉加熱する、ことを特徴とするPAU型ゼオライトの製造方法。
【請求項2】
(1)以下に示すモル比で表される組成の反応混合物となるように、シリカ源、アルミナ源、アルカリ源、及び水を混合し、
SiO2/Al23=8〜20
2O/SiO2=0.35〜0.65
2O/SiO2=10〜30
(2)SiO2/Al23比が4〜15であり、かつ平均粒子径が100nm以上である、有機化合物を含まないPAU型ゼオライトを種結晶として用い、これを、前記反応混合物中のシリカ成分に対して0.1〜20重量%の割合で該反応混合物に添加し、
(3)前記種結晶が添加された前記反応混合物を100〜150℃で密閉加熱する請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
反応混合物を加熱する前に、20〜100℃の温度下に熟成する請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
密閉加熱する工程で反応混合物を撹拌する請求項1ないし3のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機化合物を含まないPAU型ゼオライトを種結晶として添加することにより、有機化合物を用いない反応混合物からPAU型ゼオライトを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
合成ゼオライトは結晶性アルミノシリケートであり、その結晶構造に起因するオングストロームサイズの均一な細孔を有している。この特徴を生かして、合成ゼオライトは、特定の大きさを有する分子のみを吸着する分子ふるい吸着剤や親和力の強い分子を吸着する吸着分離剤、又は触媒基剤として工業的に利用されている。PAUとは、ポーリンジャイト型ゼオライトに与えられた骨格構造種を表す名称であり、同一構造を有するゼオライトにはECR−18がある。PAU型ゼオライトは、例えば石油化学工業におけるオレフィン合成用触媒として使用されている(特許文献1参照)。
【0003】
従来、PAU型ゼオライトは、テトラエチルアンモニウムイオン等の有機構造規定剤(以下「OSDA」と略称する。)として用いる方法によってのみ製造されてきた(非特許文献1ないし3参照)。そのため、PAU型ゼオライトを得るためにはOSDAの使用は必須であると考えられてきた。また、合成されたPAU型ゼオライトはOSDAを含んでいるため、その使用前に焼成してOSDAを除去して用いることも不可避と考えられてきた。
【0004】
PAU型ゼオライトの合成法は例えば、上述した非特許文献1ないし3に記載されている。一般的な方法はナトリウムイオン及びカリウムイオンの共存下に、テトラエチルアンモニウムイオンをOSDAとして用いる方法である。しかしながら、前記のOSDAは高価である上に、PAU型ゼオライト結晶化終了後は母液中のPAUはほとんどが分解してしまうことがある。また、生成するゼオライトの結晶中にはこれらのOSDAが取り込まれるため、吸着剤や触媒として使用する際にゼオライトを焼成してOSDAを除去する必要がある。その際の排ガスは環境汚染の原因となり、また、OSDAの分解生成物を含む合成母液の無害化処理のためにも多くの薬剤を必要とする。このように、OSDAを用いるPAU型ゼオライトの合成方法は高価であるばかりでなく、環境負荷の大きい製造方法であることから、OSDAを用いない製造方法及びその方法によって得られる本質的に有機物を含まないPAU型ゼオライトの実現が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−182792号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Microporous and Mesoporous Materials, 28(1999), 233〜239
【非特許文献2】Microporous and Mesoporous Materials, 83(2005), 319〜325
【非特許文献3】Glass Physics and Chemistry, 37(2011), 72〜77
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、本質的に有機物を含まないPAU型ゼオライトの製造方法、すなわち前述した従来技術が有する欠点を解消して環境負荷を可能な限り低減でき、OSDAを用いず、かつ安価にPAU型ゼオライトを製造し得る方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、(1)以下に示すモル比で表される組成であって、且つ有機構造規定剤を含まない反応混合物となるように、シリカ源、アルミナ源、アルカリ源、及び水を混合し、
SiO2/Al23=8〜24
2O/SiO2=0.3〜0.7
2O/SiO2=5〜50
(2)SiO2/Al23比が4〜15であり、かつ平均粒子径が100nm以上である、有機化合物を含まないPAU型ゼオライトを種結晶として用い、これを、前記反応混合物中のシリカ成分に対して0.1〜20重量%の割合で該反応混合物に添加し、
(3)前記種結晶が添加された前記反応混合物を80〜200℃で密閉加熱する、ことを特徴とするPAU型ゼオライトの製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、有機物を含まないPAU型ゼオライトを種結晶として添加することによって、OSDAを使用しない反応混合物からPAU型ゼオライトが製造されるので、得られるPAU型ゼオライトは本質的に有機物を含まないものとなる。したがって、このPAU型ゼオライトは、その使用前に焼成処理が不要であるのみならず、脱水処理をしても有機物の発生がないので排ガス処理が不要であり、環境負荷が小さく、かつ安価にPAU型ゼオライトを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、実施例1で用いたPAU型ゼオライトの種結晶についてのXRD回折図である。
図2図2は、実施例1で得られたPAU型ゼオライトの種結晶についてのXRD回折図である。
図3図3は、実施例2で得られたPAU型ゼオライトの種結晶についてのXRD回折図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明をその好ましい実施形態に基づいて説明する。本発明に従い合成されたPAU型ゼオライトは、熱処理をしない状態で本質的に有機物を含まない。ここでいう有機物とは、OSDAとしてゼオライトの合成に用いられる第四級アンモニウム化合物等を主として包含する。アルミノシリケート骨格の四配位アルミニウムの負電荷と電荷補償して骨格外に存在するイオンは、カリウムイオンであり、細孔内に存在するそれ以外のものは水又は少量の吸着ガスのみである。すなわち、本発明に従い合成されたPAU型ゼオライトは、以下に記載するOSDAを用いない製造方法によって得られるので、本質的にOSDAを初めとする有機物を含んでいない。本発明に従い合成されたPAU型ゼオライトにおけるアルミノシリケート骨格のSiO2/Al23比は、好ましくは3〜7の範囲である。また、本発明に従い合成されたPAU型ゼオライトのX線回折図は、これまで報告されている合成PAU型ゼオライトのX線回折図と本質的に同等である。このことから、本発明に従い合成されたPAU型ゼオライトの構造的特徴は、OSDAを用いて合成される従来のPAU型ゼオライトと同じであると判断される。
【0012】
本発明の製造方法の特徴の一つは、有機化合物からなるOSDAを全く添加することなく、反応混合物を調製することである。すなわち、カリウムイオンを含む水性アルミノシリケートゲルを反応混合物として用いる。水性アルミノシリケートゲルの反応混合物にカリウムイオンを存在させることが必須条件である。カリウムイオン以外のアルカリ金属イオン、例えばナトリウムイオンやリチウムイオンの存在は、本発明の製造方法においては必須ではない。この点で、本発明の製造方法は、ナトリウム及びカリウムの共存を必須とする従来法と相違している。ただし本発明の製造方法において、ナトリウムイオンやリチウムイオンを用いることは排除されない。
【0013】
本発明の製造方法の別の特徴は、種結晶を使用することである。種結晶としては、従来法、すなわちOSDAを用いた方法で製造されたPAU型ゼオライトを焼成し、有機物を除去したものを使用する。従来法に従うPAU型ゼオライトの合成方法は、例えば上述した非特許文献1ないし3に記載されており、当業者によく知られている。従来法に従うPAU型ゼオライトの合成方法において、使用するOSDAの種類は限定されない。一般に、OSDAとしてテトラエチルアンモニウムイオンを用いると、PAU型ゼオライトを首尾よく製造することができる。
【0014】
種結晶の合成においては、アルミナ源及びシリカ源にOSDAを添加するのと同時にアルカリ金属イオンを添加することが好ましい。アルカリ金属イオンとしては、ナトリウム及びカリウムイオンを併用することが好ましい。このようにしてPAU型ゼオライトが合成されたら、これを種結晶として使用する前に、例えば空気中で500℃以上の温度で焼成し、結晶中に取り込まれているOSDAを除去する。OSDAを除去しない種結晶を使用して本発明の方法を実施すると、反応終了後の排液中に有機物が混入することとなる。また生成するPAU型ゼオライトにOSDAが含まれる可能性もあり、本発明の趣旨に反する。
【0015】
本発明の製造方法においては、本発明に従い得られたPAU型ゼオライトを種結晶として用いることもできる。本発明で得られるPAU型ゼオライトは本質的に有機化合物を含んでいないので、これを種結晶として使用する場合には、前もって焼成処理する必要がないという利点がある。
【0016】
従来法に従い得られたPAU型ゼオライトを用いる場合及び本発明に従い得られたPAU型ゼオライトを用いる場合のいずれであっても、種結晶のSiO2/Al23比は4〜15の範囲、好ましくは6〜10の範囲である。種結晶のSiO2/Al23比が4より小さい場合は、PAU型ゼオライトの結晶化速度が非常に遅くなるため効率的でない。一方、SiO2/Al23比が15よりも大きい場合は、PAU型ゼオライトの合成が困難である。
【0017】
種結晶の添加量は、前記の反応混合物中のシリカ成分に対して0.1〜20重量%の範囲、好ましくは1〜10重量%の範囲である。添加量がこの範囲内であることを条件として種結晶の添加量は少ない方が好ましく、反応速度や不純物の抑制効果などを考慮して添加量が決定される。
【0018】
種結晶の平均粒子径は100nm以上とし、好ましくは100〜2000nm、更に好ましくは200〜1100nmとする。合成によって得られるゼオライトの結晶の大きさは、一般的に均一ではなく、ある程度の粒子径分布を持っている、その中で最大頻度を有する結晶粒子径を求めることは困難ではない。平均粒子径とは、走査型電子顕微鏡による観察における最大頻度の結晶の粒子直径を指す。100nm未満の粒子を合成するためには特別な工夫が必要な場合が多く、高価なものとなってしまう。したがって、本発明では平均粒子径が100nm以上のPAU型ゼオライトを種結晶として用いる。種結晶の平均粒子径の大きさによって、結晶化速度や生成結晶の大きさに影響が生じる場合があるものの、種結晶の平均粒子径の違いが、PAU型ゼオライトの合成に本質的な支障をきたすことはない。
【0019】
種結晶を添加する反応混合物は、以下に示すモル比で表される組成となるように、シリカ源、アルミナ源、アルカリ源、及び水を混合して得られる。反応混合物の組成がこの範囲外であると、後述する比較例の結果から明らかなように、目的とするPAU型ゼオライトを得ることができず、代わりに他のゼオライト、例えばMER型ゼオライトなどが生成してしまう。
・SiO2/Al23=8〜24
・K2O/SiO2=0.3〜0.7
・H2O/SiO2=5〜50
【0020】
更に好ましい反応混合物の組成の範囲は以下のとおりである。
・SiO2/Al23=8〜20
・K2O/SiO2=0.35〜0.65
・H2O/SiO2=10〜30
【0021】
前記のモル比を有する反応混合物を得るために用いられるシリカ源としては、シリカそのもの及び水中でケイ酸イオンの生成が可能なケイ素含有化合物が挙げられる。具体的には、湿式法シリカ、乾式法シリカ、コロイダルシリカ、ケイ酸ナトリウム、アルミノシリケートゲルなどが挙げられる。これらのシリカ源は単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのシリカ源のうち、シリカ(二酸化ケイ素)を用いることが、不要な副生物を伴わずに目的とするゼオライトを得ることができる点で好ましい。
【0022】
アルミナ源としては、例えば水溶性アルミニウム含有化合物や粉末状アルミニウムを用いることができる。水溶性アルミニウム含有化合物としては、アルミン酸カリウム、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウムなどが挙げられる。また、水酸化アルミニウムも好適なアルミナ源の一つである。これらのアルミナ源は単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのアルミナ源のうち、粉末状アルミニウム、アルミン酸カリウム、水酸化アルミニウムを用いることが、不要な副生物(例えば硫酸塩や硝酸塩等)を伴わずに目的とするゼオライトを得ることができる点で好ましい。
【0023】
アルカリ源としては、例えば水酸化カリウムを用いることができる。なお、シリカ源としてケイ酸カリウムを用いた場合やアルミナ源としてアルミン酸カリウムを用いた場合、そこに含まれるアルカリ金属成分であるカリウムは同時にKOHとみなされ、アルカリ成分でもある。したがって、前記のK2Oは反応混合物中のすべてのアルカリ成分の和として計算される。なお、先に述べたとおり、アルカリ源として用いられるアルカリ金属としては、カリウムを用いることが必須であり、カリウムイオン以外のアルカリ金属イオン、例えばナトリウムイオンやリチウムイオンは、本発明の製造方法においては必須ではない。
【0024】
反応混合物を調製するときの各原料の添加順序は、均一な反応混合物が得られ易い方法を採用すればよい。例えば、室温下、アルミナ源とアルカリ源とを水に添加して溶解させ、次いでシリカ源を添加して撹拌混合することにより、均一な反応混合物を得ることができる。種結晶は、シリカ源を添加する前に加えるか、又はシリカ源と混合した後に加える。その後、種結晶が均一に分散するように撹拌混合する。反応混合物を調製するときの温度にも特に制限はなく、一般的には室温(20〜30℃)で行えばよい。
【0025】
種結晶を含む反応混合物は、密閉容器中に入れて加熱して反応させ、自生圧力下にPAU型ゼオライトを結晶化する。この反応混合物にOSDAは含まれていない。種結晶は、上述した文献1ないし3に記載の方法で得られたものを、焼成等の操作に付して、OSDA等の有機物を含まない状態で用いる。
【0026】
種結晶を含む反応混合物を用いてPAU型ゼオライトを結晶化するときには、熟成をした後に加熱すると、結晶化が進行し易いので好ましい。熟成とは、反応温度よりも低い温度で一定時間その温度に保持する操作をいう。熟成においては、一般的には、撹拌することなしに静置する。熟成を行うことで、不純物の副生を防止すること、不純物の副生なしに撹拌下での加熱を可能にすること、反応速度を上げることなどの効果が奏されることが知られているが、作用機構は必ずしも明らかではない。熟成の温度と時間は、前記の効果が最大限に発揮されるように設定される。本製造方法では、好ましくは20〜100℃、更に好ましくは20〜80℃、一層好ましくは20〜60℃で、好ましくは2時間から1日の範囲で熟成が行われる。
【0027】
反応混合物温度の均一化を図るため撹拌をする場合は、熟成を行った後に密閉加熱する工程で撹拌すれば、不純物の副生を防止することができる。撹拌は、撹拌羽根による混合や、容器の回転によって行うことができる。撹拌強度や回転数は、温度の均一性や不純物の副生具合に応じて調整すればよい。常時撹拌ではなく、間歇撹拌でもよい。このように熟成と撹拌を組み合わせることによって、工業的量産化が可能となる。
【0028】
静置状態下に結晶化を行う場合及び撹拌状態下に結晶化を行う場合のいずれでも、加熱温度は80〜200℃の範囲であり、好ましくは100〜150℃、更に好ましくは120〜150℃の範囲である。この加熱は自生圧力下でのものである。80℃未満の温度では結晶化速度が極端に遅くなるのでPAU型ゼオライトの生成効率が悪くなる。一方、200℃超の温度では、高耐圧強度のオートクレーブが必要となるため経済性に欠けるばかりでなく、不純物の発生速度が速くなる。加熱時間は本製造方法において臨界的ではなく、結晶性の十分に高いPAU型ゼオライトが生成するまで加熱すればよい。一般に5〜150時間程度の加熱によって、満足すべき結晶性のPAU型ゼオライトが得られる。
【0029】
前記の加熱によってPAU型ゼオライトの結晶が得られる。加熱終了後は、生成した結晶粉末をろ過によって母液と分離した後、水又は温水で洗浄して乾燥する。乾燥したままの状態で実質的に有機物を含んでいないので焼成の必要はなく、脱水を行えば吸着剤などとして使用可能である。また、固体酸触媒として使用する際は、例えば結晶内のK+イオンをNH4+イオンに交換した後、焼成することによってH+型として使用することができる。
【0030】
本製造方法で得られたPAU型ゼオライトは、例えば石油化学工業におけるオレフィン合成用触媒等の各種触媒や、種々の工業分野における吸着分離剤として好適に用いることができる。
【実施例】
【0031】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。特に断らない限り、「%」は「重量%」を意味する。なお、以下の実施例、比較例及び参考例で用いた分析機器は以下のとおりである。
【0032】
粉末X線回折装置:マック サイエンス社製、粉末X線回折装置 MO3XHF22、Cukα線使用、電圧40kV、電流30mA、スキャンステップ0.02°、スキャン速度2°/min
組成分析装置:(株)バリアン製、ICP−AES LIBERTY SeriesII
走査型電子顕微鏡:(株)日立ハイテクノロジーズ社製、電界放出型走査電子顕微鏡 S−4800
【0033】
〔実施例1〕
(1)種結晶の合成
テトラエチルアンモニウムヒドロキシド(TEAOH)をOSDAとして用いた。また、水酸化アルミニウム及び硫酸アルミニウムをアルミナ源として用い、コロイダルシリカ(LUDOX、HS−40)をシリカ源として用いた。更にアルカリ源として水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムを用いた。これらを水に溶解して反応混合物を得た。得られた反応混合物の組成は、水酸化カリウムが1M、水酸化ナトリウムが1.2M、TEAOHが2.6M、アルミナが1M、シリカが9M、水が135Mであった。この反応混合物を室温下に24時間熟成した後、ポリ四フッ化エチレンの内張を有するステンレス製のオートクレーブ内に入れ、撹拌状態下に120℃で408時間にわたり加熱した。この加熱によってPAU型ゼオライト(以下「ECR−18」ともいう。)を合成した。このECR−18を電気炉内に入れ、空気を流通しながら550℃で10時間焼成してTEAOHを除去した。このようにして有機物を含まないECR−18を製造した。このECR−18を走査型電子顕微鏡により観察した結果、平均粒子径は1.06μmであった。組成分析の結果、SiO2/Al23比は7.5であった。焼成後のECR−18のX線回折図を図1に示す。有機物を含まない焼成後のECR−18を種結晶として使用した。
【0034】
(2)PAU型ゼオライトの合成
純水2.477gに、粉末状アルミニウム0.081gと50%水酸化カリウム水溶液2.020gを溶解して水溶液を得た。コロイダルシリカ(LUDOX、HS−40)2.252gと、0.090gの種結晶とを混合したものを、前記の水溶液に少しずつ添加して撹拌混合した。混合後のゲルの組成は、表1に示すとおりであった。また種結晶の添加量は、ゲル中のシリカ成分に対して10%であった。ゲルと種結晶の混合物を23ccのステンレス製密閉容器に入れて、熟成及び撹拌することなしに135℃で3日間、自生圧力下で静置加熱した。密閉容器を冷却後、生成物をろ過、温水洗浄して白色粉末を得た。この生成物のX線回折測定の結果、この生成物は図2に示すとおり、不純物を含まないPAU型ゼオライトであることが確認された。このPAU型ゼオライトにおけるSiO2/Al23比を表1に示す。
【0035】
〔実施例2ないし7〕
表1に示す条件を採用した以外は実施例1と同様にしてPAU型ゼオライトを得た。ただし、実施例3ないし6については、PAU型ゼオライトに加えて副生成物として少量のLTL型ゼオライトやMER型ゼオライトが観察された。PAU型ゼオライトのみが生成した実施例2についてSiO2/Al23比を測定した。その結果を表1に示す。また、実施例2で得られたPAU型ゼオライトのX線回折図を図3に示す。
【0036】
〔比較例1〕
本比較例は、種結晶を用いないでゼオライトを合成した例である。純水2.477gに、粉末状アルミニウム0.081gと50%水酸化カリウム2.020gを溶解して水溶液を得た。コロイダルシリカ(LUDOX、HS−40)2.252gを、前記の水溶液に少しずつ添加して撹拌混合した。混合後のゲルの組成は、表2に示すとおりであった。このゲルを23ccのステンレス製密閉容器に入れて、熟成及び撹拌することなしに135℃で72h、自生圧力下で静置加熱した。密閉容器を冷却後、生成物をろ過、温水洗浄して白色粉末を得た。この生成物のX線回折測定の結果、この生成物はLTL型ゼオライトであることが確認されたが、PAU型ゼオライトの生成は確認されなかった。
【0037】
〔比較例2及び3〕
本比較例も、比較例1と同様に種結晶を用いないでゼオライトを合成した例である。具体的には、表2に示す条件を採用する以外は比較例2と同様にして反応を行った。得られた生成物のX線回折測定の結果、この生成物はLTL型ゼオライトであることが確認されたが、PAU型ゼオライトの生成は確認されなかった。
【0038】
〔比較例4及び5〕
本比較例は、実施例1と同様の種結晶を用いたが、反応混合物(ゲル)の組成が実施例1と相違する例である。具体的には、表2に示す組成の反応混合物を採用する以外は実施例1と同様にして反応を行った。得られた生成物のX線回折測定の結果、この生成物はMER型ゼオライトであることが確認されたが、PAU型ゼオライトの生成は確認されなかった。
【0039】
【表1】
【0040】
【表2】
【0041】
表1と表2との対比から明らかなとおり、特定のPAU型ゼオライトを種結晶として用い、これを特定の組成を有する反応混合物に添加して結晶化を行うことで、PAU型ゼオライトが得られることが判る。これに対して、種結晶を用いない場合(比較例1ないし3)や、種結晶を用いても、反応混合物におけるSiO2/Al23比が低い場合(比較例4及び5)には、PAU型ゼオライトが生成せず、その代わりに他のゼオライトが生成してしまうことが判る。
図1
図2
図3