【実施例】
【0024】
以下に、実施例及び試験例により本発明をさらに具体的に説明する。
以下の実施例及び試験例で記述する試薬、溶媒は和光純薬工業(株)より入手し、そのまま使用した。純水はElix UV3 Milli−Q純水製造装置(日本ミリポア(株)製)により精製した。また以下に各種測定及び分析に用いた装置及び条件を示す。
(1)
1H−NMRスペクトル
・装置:AVANCE500(500MHz) ブルカー・バイオスピン(株)製
(2)
13C−NMRスペクトル
・装置:ECP−500(500MHz) 日本電子(株)製
(3)質量分析
・装置:LTQ Orbitrap(ESI FTMS) サーモフィッシャーサイエンティフィック(株)製
(4)元素分析
・装置:JM10 (株)ジェイ・サイエンス・ラボ製
(5)示差走査熱量測定
・装置:EXSTAR6000 DSC セイコーインスツル(株)製
・サンプル測定にはSUS製の密封型試料容器を使用
(6)走査型電子顕微鏡写真
・装置:JSM−7400 日本電子(株)製
・加速電圧:1.0kV (導電性の物質によるサンプル処理せず)
(7)透過型電子顕微鏡写真
・装置:H−8000 (株)日立ハイテク製
・操作電圧:200kV (サンプル未処理)
(8)単結晶X線回折
・装置:SMART APEXII ULTRA ブルーカー・エイエックスエス(株)・測定条件:CuKα線を使用、−100℃にて測定
・シンクロトロン粉末X線回折:0.3mm径のサンプル管にサンプルを入れ、大型デバイ−シェラーカメラを使用し、SPring8のBL19B2ビームライン(波長1.00Å)により測定した(リートヴェルト法により精密化を行った)。
なお、ソフトウェア、“Mercury” (Cambridge Crystall
ographic Data Center製)及びDiamond 3.2(Demonstration version,Crystal Impact GbR,bonn,Germany製)により、X線回折データの可視化を行った。
【0025】
[実施例1:化合物Aの製造]
窒素雰囲気下、氷浴中、攪拌中のスクアリン酸4.00gとベンゼン2.07gを5mlのジクロロメタンに加えて溶液とし、これに、塩化アルミニウム5.31gを徐々に加え、35℃で2時間加熱攪拌した。水を加えて反応を終了させた後、混合液を飽和食塩水で洗浄した。有機層を硫酸マグネシウムで脱水した後、溶媒を留去した。残渣に酢酸/水(1/1)を加え、70℃で1時間攪拌した。溶媒を留去後、残渣を熱水に溶解し、不溶物を離別し、水を留去した(この操作を3回繰り返した)。この水溶液から水を留去することで、化合物Aを2.82g(薄黄色結晶、収率60.6%)得た。
・
1H−NMR(500MHz,DMSO−d
6,TMS,δ,ppm):7.99−7.98(m,2H),7.49−7.38(m,3H).
・
13H−NMR(125MHz,DMSO−d
6,δ,ppm)205.37,196.
76,173.65,130.74,130.69,129.47,129.47,125.72.
・ESI MS:calcd for C10HO3(MW=174.03):m/z=
173.02[M
+−H].
・元素分析 計算値C10H6O3:C 68.97%、H 3.47%、
実測値 :C 69.08%、H 3.33%
【0026】
[実施例2:化合物Bの製造]
窒素雰囲気下、化合物A 1.00gと20mol dm
-3 NaOH水溶液 0.2
86mlを含む5ml水溶液を室温で10分攪拌した。水を留去後、残渣をメタノール3mlで洗浄することで、化合物Bを775mg(薄黄色結晶、収率68.6%)得た。
・
1H−NMR(500MHz,DMSO−d
6,TMS,δ,ppm):8.01−8.02(m,2H),7.42−7.28(m,3H).
化合物Aのナトリウム塩である化合物Bでは、
1H−NMRスペクトルにおいて水のピ
ークが3.36ppmであり、化合物Aの水のピーク(5.30ppm)と比較して高磁場シフトした。これは、酸性基の水和水がナトリウム塩となったことでなくなったためであると考えられ、確かにナトリウム塩が生成していることが考えられる結果となった。
【0027】
[試験例1:化合物Aのゲル化試験]
2ccサンプル管に化合物Aと、化合物Aの添加量が20wt%となるように純水もしくは後述する各種水溶液を入れ、蓋をして、60℃の水浴につけて化合物Aの水溶液を作製した(60℃で溶解しない場合は、95℃にして溶解させた)。その後、この水溶液を
室温(およそ20℃)で放冷し、ゲル化を確認した。なお、放冷後、溶液の流動性が失われて、サンプル管を倒置しても溶液が流れ落ちない状態を「ゲル化」と判断した。
得られた結果を表1に示す。また、放冷後の各サンプルの写真を
図1[(a)純水、(b)HCl 1mol/dm
3水溶液、(c)NaOH 1mol/dm
3水溶液、(d)NaCl 1mol/dm
3水溶液]及び
図2[(a)シュウ酸緩衝液、(b)フタル酸
緩衝液、(c)リン酸緩衝液、(d)炭酸緩衝液]に示す。
【表1】
【0028】
表1並びに
図1及び
図2に示すように、化合物Aは酸性水溶液、アルカリ性水溶液、各種濃度の塩水溶液、及び各種緩衝液に対するヒドロゲル形成能を有するという結果が得られた。
すなわち、化合物Aは温和な温度条件で且つ広いpH領域でヒドロゲル形成能を有するとともに、温和な温度条件で且つ幅広い塩濃度にてゲル形成能を有するという結果が得られた。
なお、化合物Bは純水に対して30wt%の濃度にてヒドロゲル形成能を有するという結果が得られた。
【0029】
[試験例2:化合物Aのゲル形成能の濃度依存性(1)]
次に化合物Aのゲル化挙動を検討するため、純水中での化合物Aの濃度を15wt%〜50wt%の範囲で種々変化させ、試験例1と同様の手順にて化合物のA溶液(60℃にて溶解)を作成し、その後室温で放冷し、ゲル化を確認した。放冷後の各サンプル菅の写真を
図3に示す。
図3に示すように、化合物Aの配合量が20wt%未満(
図3(a)、15wt%)の場合、放冷後に化合物Aが再結晶化してゲルを得ることはできなかったが、配合量が20〜40wt%(
図3(b)20wt%及び(c)30wt%)ではヒドロゲルの形成が確認された。一方、化合物Aの配合量が50wt%(
図3(d))では板状結晶化して固化することが確認された。すなわち、化合物Aはヒドロゲル形成能の濃度依存性を有するものであることが確認された。
【0030】
[試験例3:化合物Aのゲル形成能の濃度依存性(2)]
さらに化合物Aのゲル形成能(最低ゲル化濃度)の塩濃度依存性及び酸依存性を検討するため、水溶液中のNaCl濃度を変化させたとき及びHCl水溶液のときの化合物Aの最低ゲル化濃度を、試験例1と同様の手順にて確認した。得られた結果を試験例2の結果と合わせて表2に示す。また放冷後の各サンプル菅の写真を
図4に示す。
【表2】
【0031】
表2及び
図4に示すように、NaCl 1mol/dm
3水溶液では化合物Aの配合量
が5wt%で、10
-1mol/dm
3水溶液では同10wt%で、10
-2mol/dm
3水溶液及び10
-3mol/dm
3水溶液では同15wt%で、ゲル形成が確認された。
一方、HCl 1mol/dm
3水溶液では、化合物Aの配合量がわずか2wt%にお
いてもゲル形成が確認された。
すなわち、水溶液の塩濃度および酸濃度を変化させることで、化合物Aの最低ゲル化濃度を調節できることが確認された。
【0032】
[試験例4:化合物Aを用いて得られるヒドロゲルの熱挙動]
前述の試験例と同様に、純水中での化合物Aの濃度を25wt%〜50wt%の範囲で種々変化させ、同様の手順にて化合物のA溶液(60℃にて溶解)を作成し、その後室温で放冷してヒドロゲルを形成した。
次に得られた各ヒドロゲルについて、ゾル−ゲル転移温度ならびにゲル−ゾル転移温度を示差走査熱量計により測定した。得られた結果を表3に示す。
【表3】
【0033】
表3に示すように、化合物Aをゲル化剤として用いたヒドロゲルが、60℃以下でゾル−ゲル転移することが確認された。また化合物Aが高濃度であるほど、ゲル−ゾル転移温度が上昇し、よりゲル化が促進されることが確認された。
【0034】
[試験例5:化合物Aを用いて形成されるヒドロゲルの微細構造観察]
前述の試験例と同様の手順にて、化合物Aの濃度を30wt%又は50wt%としてヒドロゲルを形成させ、これらを室温にて真空乾燥させることにより得た乾燥ゲルの状態を走査型電子顕微鏡(SEM)及び透過型電子顕微鏡(TEM)にて観察した。
得られた結果を
図5に示す。ここで
図5(a)〜(e)は、(a):30wt%、SEM像、(b)30wt%、SEM像、(c)30wt%、TEM像、(d)50wt%、SEM像、(e)50wt%、SEM像をそれぞれ示す。
図5に示すように、化合物Aの濃度が30wt%のヒドロゲル(
図5(a)〜(c))では、ミリメートル長で数マイクロメートル径のファイバーが、従来の高分子化合物を用いたヒドロゲルの場合と同様にネットワークを形成していることが確認され、これによりゲル化の実現につながったことが示唆された。また、化合物Aの濃度が50wt%のヒドロゲル(
図5(d)及び(e))では板状結晶の生成が確認され、これにより固化することが分かった。
すなわち、化合物Aの配合濃度の違いによって生じた、加熱溶解・放冷後の試料(溶液)の外観の違いは、結晶の形態の違いによることが確認された。
【0035】
[試験例6:化合物AのX線回折測定]
さらに詳細を検討するためにX線回折測定を行った。化合物Aの単結晶(一水和物、アセトニトリルより再結晶)と化合物Aの濃度を30wt%として形成した純水ヒドロゲルについて、X線回折測定を行った。得られた結果を
図6に示す。
図6(a)は化合物Aの一水和物の結晶構造を示し、
図6(b)は化合物A30wt%の純水ヒドロゲル中の化合物Aが形成する構造(後述するファイバー構造)を示す。
また化合物Aの無水物の単結晶(水より再結晶したサンプルを減圧加熱乾燥した(40℃))についてもX線回折測定を行った(SMART APEXII ULTRAを使用)。得られた結果を
図7に示す。
図7(a)は化合物Aの単結晶(無水物)の結晶構造を示し、
図7(b)は該単結晶をc軸から見た図を示し、ここで黄色の矢印は水素結合が存在する部分を示している。
なお粉末X線回折による詳細な測定結果を
図8(各図中、最も上側のパターンは実測値(○)および計算値(実線)を示し、その下側のパターンは実測値と計算値との差を示し、横軸上に示すラインはパターンのピークの位置を示すものである。(1)化合物Aの単結晶(無水物)のパターン、(2)化合物A30wt%の純水ヒドロゲルのサンプルパターン)に示す。
以下、詳細な結晶構造データを表4乃至表6に示す。
【0036】
【表4】
【表5】
【表6】
【0037】
図6に示すように、化合物Aの単結晶と化合物Aの30wt%純水ヒドロゲルは同様の格子定数を有していることが確認され、すなわち、化合物Aの30wt%純水ヒドロゲルは化合物Aの単結晶と同様の単結晶構造を有していると推察される結果となった。
また化合物Aの30wt%純水ヒドロゲル中において、化合物Aがチューブ状に集合し、これがファイバー様を形成していることが明らかとなった(
図6(b))。また化合物Aの集合により形成されるチューブは、外径25Å、内径11Åであり、化合物Aの酸性基がチューブの内側を向いていることから、チューブ内部が親水性であることが示唆された。なお
図6(b)中に示した円はチューブの模式図であり、外径は円の同一直径上に位置する二つの化合物Aのフェニル基の4位にある炭素原子間の距離、内径は円の同一直径上に位置する二つの化合物Aの最近接酸素原子間の距離としてそれぞれ算出した。
【0038】
また
図7に示すように、化合物A(無水物)において、酸素原子間の距離が、ファンデルワールス半径の合計よりも小さな2.7Åであることが確認された。すなわち、化合物Aが純水中においてファイバーを形成するにあたり、その推進力として水素結合の寄与があることが示唆された。
【0039】
これらの結果より、化合物Aをゲル化剤として用いて得られるヒドロゲルは、そのゲル中において、化合物Aが、ミリメートルオーダーの長さと数マイクロメートルオーダーの径を有し、その内部が親水性であるチューブ状の形態を形成していることが想定され、このチューブ内に、親水性の化合物や色素を保持できる可能性が高いことから、種々の用途への応用展開が期待される結果となった。