【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(ロボット・新技術イノベーションプログラム)「異分野融合型次世代デバイス製造技術開発プロジェクト」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記レーザー光の照射強度が、前記基板の加工において、エッチングを行うと周期的な凹部および凸部が形成される加工上限閾値未満であり、かつ前記基板を改質してエッチング耐性を低下させる加工下限閾値以上である、ことを特徴とする請求項1に記載の微細孔の製造方法。
前記レーザー光の照射強度が、前記基板の加工において、エッチングを行うと周期的な凹部および凸部が形成される加工上限閾値以上である、ことを特徴とする請求項1に記載の微細孔の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、好適な実施形態に基づき、図面を参照して本発明を説明する。
【0021】
<第一実施形態>
本発明の第一実施形態における微細孔の製造工程は、
図1A〜Cに示すように、ピコオーダー秒以下のパルス時間幅を有するレーザー光Lを、単一の部材で形成される基板11において、微細孔14となる領域に照射することによって、前記領域に第一構造改質部12を形成するα工程(
図1A)と、第一構造改質部12の一部において、第一構造改質部12が消滅または変性した第二構造改質部13を形成するβ工程(
図1B)と、基板11から第一構造改質部12をエッチングによって除去するγ工程(
図1C)と、を少なくとも有する。上記α、β、γ工程の詳細について、以下に説明する。
【0022】
[α工程]
レーザー光Lとしては、パルス時間幅がピコ秒オーダー以下のパルス幅を有するレーザー光を用いることが好ましい。例えばチタンサファイアレーザー、前記パルス幅を有するファイバーレーザーなどを用いることが出来る。ただし、基板11を透過する波長を使用することが必要である。より具体的には、基板11に対する透過率が60%以上のレーザー光であることが好ましい。
【0023】
レーザー光Lとしては、加工用レーザーとして使用される一般的な波長領域(0.1〜10um)の光を適用することが出来る。その中でも、被加工部材である基板11を透過する必要がある。基板11を透過する波長のレーザー光を適用することによって、基板11に第一構造改質部12を形成することが出来る。
【0024】
基板11を構成する部材としては、例えば非結晶性材料であるガラスや、結晶性材料であるシリコン、サファイアなどが挙げられる。これらの部材は、微細孔14を形成する際の加工性に優れるので好ましい。なかでも、非結晶性材料の部材は、結晶方位による加工異方性の影響を受けにくいので好ましい。更には、顕微鏡等によって光学的に観察する場合、ガラス、サファイアを用いると、可視光線(波長0.36μm〜0.83μm)が透過するため、より好ましい。
【0025】
また、基板11を構成する部材は、加工用レーザー光として使用される一般的な波長領域(0.1μm〜10μm)の、少なくとも一部領域の光が透過することが好ましい。このようなレーザー光が透過することによって、後述するように、レーザー照射された基板11の内部に第一構造改質部12を形成することが出来る。
【0026】
また、前記部材は、可視光領域(波長約0.36μm〜約0.83μm)の光が透過することが、より好ましい。可視光領域の光が透過することによって、捕捉した細胞、微生物、微粒子等を、単一の部材で形成される基板11を介して、肉眼で容易に観察することが出来る。なお、本発明における「透過(透明)」とは、基板11に光を入射して、基板11から透過光が得られる全ての状態をいう。
【0027】
以下では、基板11がガラス基板である場合を例として説明するが、基板11がその他の部材、例えばシリコンもしくはサファイアなどの結晶性材料で形成される場合であっても、同様な効果が得られる。
【0028】
ガラス基板としては、例えば合成石英ガラス、珪酸塩を主成分とするガラス、ホウ珪酸ガラスで形成されるガラス基板等を用いることが出来る。合成石英ガラス基板は、加工性が良いため好適である。また、ガラス基板の厚さは特に制限されない。
【0029】
レーザー光Lの照射方法としては、
図1Aに示す方法が挙げられる。すなわち、レーザー光Lを基板11の内部に集光し、焦点を結ぶようにレーザー光Lを照射して、該焦点を矢印方向に走査することにより、ガラスが構造的に改質された第一構造改質部12が形成される。基板11内部において、前記焦点を走査することにより、長手方向に所望の長さ及び形状を有する第一構造改質部12を形成することが出来る。
【0030】
レーザー光Lを照射する際、照射強度を基板11の加工上限閾値未満に設定すると共に、レーザー光Lの偏波方向(電場方向)を走査方向に対して垂直となるようにすることが好ましい。このレーザー照射方法を、以下ではレーザー照射方法Sと呼ぶ。
【0031】
レーザー照射方法Sを、
図2で説明する。レーザー光Lの伝播方向は矢印Zであり、前記レーザー光Lの偏波方向(電場方向)は矢印Yである。レーザー照射方法Sでは、レーザー光Lの照射領域を、レーザー光Lの伝播方向Zと、レーザー光Lの偏波方向Yに対して垂直な方向と、で構成される平面11a内とする。これと共に、レーザー照射強度を基板11の加工上限閾値未満とする。
【0032】
このレーザー照射方法Sによって、基板11内にナノオーダーの口径を有する第一構造改質部12を形成することが出来る。例えば、短径が20nm程度、長径が0.2μm〜5μm程度の略楕円形状の断面を有する第一構造改質部12が得られる。この略楕円形状は、レーザーの伝播方向Zに沿った方向が長軸で、レーザーの電場方向に沿った方向が短軸となる。レーザー照射条件によっては、前記断面は矩形に近い形状となることもある。
【0033】
レーザー照射強度を、基板11を改質してエッチング耐性を低下させうるレーザー照射強度の下限値(加工下限閾値)以上、かつ基板11の加工上限閾値未満とすれば、レーザー照射によって一つの酸素欠乏部(エッチング耐性の低い層)が形成される(
図3A)。この酸素欠乏部のエッチングを行うと、一つの微細孔14を形成することが出来る。
【0034】
前述のレーザー照射方法Sによれば、微細孔14の形状を楕円または略楕円とすることが出来る。また、その短径をエッチングによってナノオーダーサイズで制御することが可能となる。楕円または略楕円形状では、長径をナノオーダーサイズよりも大きくすることも出来る。これにより、微細孔14に流入する流体の圧力損失を小さく出来る。例えば、微細孔14の開口部に細胞、微生物、あるいは微粒子等を吸引して吸着させる場合には、微細孔14を生体液等で満たす必要があり、その際に微細孔14に液を流入させ易い。また、微細孔14を冷却用の流路として利用する場合にも、冷媒液もしくはガス状流体を流入させ易い。また、微細孔14の内部に金属粒子を充填し配線とする場合においても、金属粒子を微細孔14の内部に流入させ易い。
【0035】
エッチング耐性が低い層(合成石英ガラス等のガラスにおいては酸素欠乏部)がレーザー照射によって一層だけ形成されるときにおいて(以下、第一構造改質部12と呼ぶ)、前記酸素欠乏部は極めてエッチングの選択性が高い層となる。このことは、本発明者らの鋭意検討によって見出された。
【0036】
一方、レーザー照射強度を基板11の加工上限閾値以上とした場合、得られる第一構造改質部12は周期構造を伴って形成されることがある。すなわち、ピコ秒オーダー以下のパルスレーザーを加工上限閾値以上で集光照射させることで、集光部において電子プラズマ波と入射光との干渉が起こり、レーザーの偏波に対して垂直であり、偏波方向に沿って周期性を有する周期構造が自己形成的に形成されることがある。
【0037】
形成された周期構造はエッチング耐性の低い層となる。例えば合成石英ガラスの場合、酸素が欠乏した層と酸素が増えた層が周期的に配列され(
図3B)、酸素欠乏部のエッチング耐性が低くなっており、エッチングを行うと周期的な凹部および凸部が形成されうる。このような周期的な凹部および凸部は、後述する本発明の微細孔14の形成においては不要である。
【0038】
したがって、前記加工上限閾値は、前記周期構造が形成されうるレーザーパルスパワーの下限値(前記周期構造が形成されないレーザーパルスパワーの範囲における上限値)と定義される。
【0039】
また、前記「基板11を改質してエッチング耐性を低下させうるレーザー照射強度の下限値(加工下限閾値)」とは、エッチング処理により、基板11に微細孔14を設けることが出来る限界値を意味する。この下限値よりも低いと、レーザー照射によってエッチング耐性の低い層が形成出来ないため、微細孔14が設けられない。
すなわち、「加工上限閾値」とは、基材内に照射したレーザー光の焦点(集光域)において、基材とレーザー光との相互作用によって生じる電子プラズマ波と入射するレーザー光との干渉が起こり、前記干渉によって基材に縞状の改質部が自己形成的に形成されうるレーザー照射強度の下限値である。
また、「加工下限閾値」とは、基材内に照射したレーザー光の焦点(集光域)において、基材を改質した改質部を形成し、後工程であるエッチング処理によって選択的又は優先的にエッチングされうる程度に、前記改質部のエッチング耐性を低下させうるレーザー照射強度の下限値である。この加工下限閾値よりも低いレーザー照射強度でレーザー照射した領域は、後工程であるエッチング処理において選択的又は優先的にエッチングされ難い。このため、エッチング後に微細孔となる改質部を形成するためには、下限閾値以上で上限閾値以下のレーザー照射強度に設定することが好ましい。
加工上限閾値及び加工下限閾値は、レーザー光の波長、レーザー照射対象である基材の材料(材質)及びレーザー照射条件によって概ね決定される。しかし、レーザー光の偏波方向と走査方向との相対的な向きが異なると、加工上限閾値及び加工下限閾値も多少異なる場合がある。例えば、偏波方向に対して走査方向が垂直の場合と、偏波方向に対して走査方向が平行の場合とでは、加工上限閾値及び加工下限閾値が異なる場合がある。したがって、使用するレーザー光の波長及び使用する基材において、レーザー光の偏波方向と走査方向との相対関係を変化させた場合の、それぞれの加工上限閾値及び加工下限閾値を、予め調べておくことが好ましい。
【0040】
前記偏波としては直線偏波に関して詳細に説明したが、多少の楕円偏波成分を持つレーザーパルスであっても同様な構造(改質部)が形成されることが容易に想像出来る。
【0041】
レーザー光Lの焦点を走査する方法は特に限定されないが、一度の連続走査によって形成出来る第一構造改質部12はレーザー光Lの伝播方向Zと、レーザー光Lの偏波方向Yに対して垂直な方向とで構成される平面11a内に限定される。この平面11a内であれば任意に構造を形成することが出来る。
【0042】
図2では、レーザー光Lの伝播方向Zは、基板11の上面に対して垂直である場合を示したが、必ずしも垂直である必要はない。前記上面に対して所望の入射角で、レーザーLを照射してもよい。
【0043】
一般に、構造改質された部分のレーザーの透過率は、構造改質されていない部分のレーザーの透過率とは異なるため、改質された部分を透過させたレーザー光の焦点位置を制御することは困難である。したがって、レーザー照射する側の面(
図2における基板上面)から見て、奥に位置する領域について先に構造改質部を形成することが望ましい。
【0044】
また、基板11内において、レーザーの偏波方向(矢印Y方向)を適宜変更すれば、三次元方向に任意形状を有する改質部を形成できる。
【0045】
また、
図2で示すように、レンズ8を用いてレーザー光Lを集光し、前述したように照射することによって、第一構造改質部12を形成してもよい。レンズとしては、例えば屈折式の対物レンズもしくは屈折式のレンズを使用することが出来るが、他にも例えばフレネル、反射式、油浸、水浸式のレンズを使用することも出来る。また、例えばシリンドリカルレンズを用いれば、一度に基板11の広範囲にレーザー照射することが可能となる。さらに、例えばコニカルレンズを用いれば、基板11の垂直方向の広範囲に対し、一度にレーザー光Lを照射することが出来る。ただし、シリンドリカルレンズを用いた場合には、レーザー光Lの偏波方向は、レンズが曲率を持つ方向に対して水平方向である必要がある。
【0046】
レーザー照射条件Sの具体例としては、以下の各種条件が挙げられる。例えば、チタンサファイアレーザー(レーザー媒質としてサファイアにチタンをドープした結晶を使用したレーザー)を用いる場合において、照射するレーザー光は、例えば波長800nm、繰返周波数200kHzを使用し、レーザー走査速度1mm/秒としてレーザー光Lを集光照射する。これらの波長、繰返周波数、走査速度の値は一例であり、本発明においてはこれらに限定されず、任意に変えることが可能である。
【0047】
集光に用いるレンズ8としては、例えばN.A.<0.7未満の対物レンズを用いることが好ましい。より微小な微細孔14を形成させるためには、レーザー光の照射強度が、加工上限閾値以下のパワーであることが好ましい。基板11がガラスである場合、加工上限閾値のパワーは80nJ/pulse程度となる。N.A.≧0.7であっても加工が可能であるが、スポットサイズがより小さくなり、レーザーフルエンスが大きくなる。したがって、N.A.≧0.7の場合は、より小さなパルス強度でのレーザー照射が求められる。
【0048】
[β工程]
つぎに、α工程において形成された第一構造改質部12に対して熱処理を行い、第一構造改質部12の一部において、第一構造改質部12を消滅または変性させた状態の第二構造改質部13を形成する(
図1B)。
図1Bでは、第二構造改質部13が、長手方向に一様に形成された例を示しているが、第二構造改質部13の形状に対する制限はなく、少なくとも凹部14の内壁面付近に形成されていればよい。
【0049】
ここでの第一構造改質部12を消滅させた状態とは、第一構造改質部12の、レーザー照射による構造改質履歴を消滅させた状態を意味する。また第一構造改質部12を変性させた状態とは、エッチング耐性が第一構造改質部よりも強まった状態を意味する。変性した第一構造改質部(第二構造改質部)は、レーザー照射されていない部分と同程度のエッチング耐性を有する。従って、第二構造改質部13は、レーザー照射されていない部分と同様に、後述するγ工程(エッチング処理)において除去されない、或いはほとんど除去されない。
【0050】
第二構造改質部13を形成する工程について、以下に説明する。第二構造改質部13は、少なくとも微細孔14を構成する微細孔の開口部に対し、電気炉、赤外線ランプ、レーザー加熱装置等を用いて熱処理することで形成される。
【0051】
本実施形態では熱処理の時間を短く設定し、熱処理の温度を、第一構造改質部12の内部応力が数時間で消失する歪点以上に設定する。基板がガラスで構成される場合には、この歪点は約1014.5[poise]の粘度に相当する温度である。ここで[poise]は、CGS単位系における粘度の単位である。1[poise]は、流体内の1[cm]につき1[cm/s]の速度勾配があるとき、その速度勾配の方向に垂直な面において速度方向の単位面積当たりに1[dyn]の力が生じる粘度と定義される。この定義を数式で表すと、以下のようになる
1[poise]≡1[dyn・s/cm
2]。
また、熱処理の温度を、第一構造改質部12の全部が消滅または変性する閉点以下の温度とする。閉点は、第一構造改質部12及びその近傍がアモルファス構造である場合には、第一構造改質部12の粘性率が1011.7[poise]以上となる温度に相当する。
基板が結晶構造を有する場合には、基板11を構成する部材の融点以下の温度とする。基板11を構成する部材として、例えば石英ガラスを用いる場合には、閉点は1000〜1400℃程度である。
【0052】
[γ工程]
つぎに、単一の基板11から、α工程において形成した第一構造改質部12を、エッチングにより除去する(
図1C)。ここで行うエッチングは、ドライエッチング、ウェットエッチングのどちらであってもよいが、ウェットエッチングである方が好ましい。ウェットエッチングを行う場合には、例えば1%以下のフッ酸を用いるのが最も好ましいが、その他の酸もしくは塩基性を有するエッチング液でもよい。第一構造改質部12は、エッチング耐性が低くなっているため、選択的または優先的にエッチングすることが出来る。
【0053】
上述のエッチングは、基板11の第一構造改質部12が、レーザー照射されずに構造改質していない部分及び第二構造改質部13に比べて速くエッチングされる現象を利用する処理であり、結果として第一構造改質部12の形状に応じた微細孔14を形成することが出来る。エッチング液については特に限定されず、例えばフッ酸(HF)が主成分である溶液、もしくはフッ酸に硝酸等を適量添加したフッ硝酸系の混酸等を用いることが出来る。また、基板11を構成する部材に応じて、他の薬液を用いることも出来る。
【0054】
エッチングの結果、ナノオーダーの口径を有する微細孔14を、基板11内の所定位置に、凹部14と基板の外部とを連通するように、形成することが出来る。
【0055】
微細孔14のサイズとしては、例えば、短径が20nm〜200nm程度、長径が0.2μm〜5μm程度の略楕円形状の断面を有する貫通孔とすることが出来る。エッチング処理の具合によっては、前記断面の形状は矩形に近い形状になることもある。
【0056】
ウェットエッチングの処理時間を調整することによって、第一構造改質部12のサイズと微細孔14のサイズとの差を増減させることが可能である。ウェットエッチング処理時間を短くすることにより、前記短径を数nm〜数十nmにすることも理論的には可能である。これとは逆に、ウェットエッチングの処理時間を長くすることにより、前記短径を1μm〜2μm程度に、前記長径を5μm〜10μm程度とすることも出来る。
【0057】
図1Cに示す微細孔を有する基体(以下、基体10Bと呼ぶ)の構成は、上記製造方法により製造される微細孔を有する基体の構成の一例である。以下に、本発明に係る微細孔を有する基体の、他の構成例を挙げる。
【0058】
本発明に係る微細孔を有する基体としては、
図4に示す基体20Bも挙げられる。基体20Bでは、微細孔24は口径が異なる2つの部分24a、24bで構成されている。すなわち、微細孔24の口径は、長手方向において一様でなくてもよい。ただし、基体20Bは単一の基板21において形成され、部分24aと24bとの間に、継ぎ目または貼り合わせ面はない。基体20Bの他の構成については、基体10Bと同様である。
【0059】
本発明に係る微細孔を有する基体としては、
図5に示す基体30Bも挙げられる。基体30Bは、2つの微細孔を備えている。微細孔を有する基体は、この例に限らず、3つ以上の微細孔を備えていてもよい。基体30Bの他の構成については、基体10Bと同様である。
【0060】
本発明に係る微細孔を有する基体としては、
図6に示す基体40Bも挙げられる。基体40Bでは、微細孔の一端の断面と他端の断面とが異なる方向を向いている。すなわち、微細孔44は直線に沿って延びる形状でなくてもよい。ただし、基体40Bは単一の基板41によって構成され、部分44aと44bとの間に、継ぎ目または貼り合わせ面はない。基体40Bの他の構成については、基体10Bと同様である。
【0061】
本発明に係る微細孔を有する基体としては、
図7に示す基体50Bも挙げられる。基体50Bでは、微細孔の一端が分岐している。微細孔は、この例に限らず、両端で分岐していてもよい。ただし、基体50Bは単一の基板51において形成され、部分57aと57bとの間に、継ぎ目または貼り合わせ面はない。基体50Bの他の構成については、基体10Bと同様である。
【0062】
上記α、β、γ工程処理後の、微細孔が形成される領域の断面構造について、
図8A〜Fを用いて説明する。
【0063】
図8A〜Cは、α工程おけるレーザー照射強度が基板11を改質してエッチング耐性を低下させうるレーザー照射強度の下限値である加工下限閾値以上、かつ基板11の加工上限閾値未満としたときの微細孔形成領域を示している。
【0064】
図8Aは、
図1AのA1−A1断面で切断した断面図であり、上述した条件によりα工程処理した微細孔が形成される領域の断面構造を示す図である。α工程処理後の微細孔が形成される領域の断面は、基板11のレーザー光Lが照射された領域のエッチング耐性が低くなり、前記領域に第一構造改質部12aが形成された構造を有している。前記第一構造改質部12aは、長径がDaである略楕円形状を有している。
【0065】
図8Bは、
図1BのA2−A2断面で切断した断面図であり、β工程処理後における微細孔が形成される領域の断面構造を示す図である。β工程処理後の微細孔が形成される領域の断面は、第一構造改質部12a(
図8A)で構成された微細孔が形成される領域の一部(ここでは外周部)が、熱処理によって消滅または変性し、第二構造改質部13bが形成された構造を有している。前記微細孔が形成される領域の残部を構成する第一構造改質部12bは、長径がDbである略楕円形状を有している。
【0066】
図8Cは、
図1CのA3−A3断面で切断した断面図であり、γ工程処理後における微細孔が形成される領域の断面構造を示す図である。γ工程処理後の微細孔が形成される領域の断面は、エッチング処理により、第一構造改質部12b(
図8B)が選択的に除去され、第一構造改質部が選択的に除去された領域において、微細孔が形成された構造を有している。なお、
図4〜7のA3−A3断面で切断した断面も、
図8Cと同様の構造を有している。
図8Cに相当する微細孔の電子顕微鏡写真を、
図9に示す。
図9は、基板の内部に形成された複数の微細孔の開口部である。α工程を複数回繰り返して、複数の第一構造改質部を形成し、次いで、β工程、γ工程を複数の構造改質部に対して一括で行うことにより、基板内部に複数の微細孔を形成することができた。
【0067】
なお、
図8Cに示した、エッチング処理後における断面図では、微細孔14cの上端と下端の両方に、同程度の大きさで第二構造改質部13cが形成されているが、本発明はこれに限られない。すなわち、微細孔14cの上端または下端のどちらかに偏って第二構造改質部13cが形成されていても良い。または、微細孔14cの上端のみ、または下端のみに第二構造改質部が形成されていてもよい。
【0068】
図8D〜Fは、α工程おけるレーザー照射強度を基板11の加工上限閾値以上としたときの微細孔形成領域を示している。
【0069】
図8Dは、
図1AのA1−A1断面で切断した断面図であり、上述した条件によりα工程処理した微細孔の形成される領域の断面構造を示す図である。α工程処理後の微細孔の形成される領域の断面は、基板11のレーザー光Lが照射された領域のエッチング耐性が低くなり、前記領域において第一構造改質部12dが周期的に形成された構造を有している。第一改質部12dは、
図8Aの第一構造改質部12aと異なり、複数並んで形成されている。第一構造改質部12dは、長径Ddの略楕円形状をなしている。
【0070】
図8Eは、
図1BのA2−A2断面で切断した断面図であり、β工程処理後における微細孔の形成される領域の断面構造を示す図である。複数の微細孔の形成される領域の各々の断面は、第一構造改質部12d(
図8D)の一部(ここでは外周部)において、第一構造改質部12dが消滅または変性してなる第二構造改質部13eが形成された構造を有している。前記第一構造改質部12dの残部を構成する第一構造改質部12eは、長径がDeである略楕円形状を有している。
【0071】
図8Fは、
図1CのA3−A3断面で切断した断面図であり、γ工程処理後における微細孔が形成される領域の断面構造を示す図である。複数の微細孔が形成される領域の各々の断面は、エッチング処理により、第一構造改質部12e(
図8E)が除去され、第一構造改質部が除去された領域において、微細孔が形成された構造となっている。なお、
図4〜7のA3−A3断面で切断した断面も、
図8Fと同様の構造を有している。
【0072】
なお、
図8Fに示した、エッチング処理後における断面図では、微細孔14fの上端と下端の両方に、同程度の大きさで第二構造改質部13fが形成されているが、本発明はこれに限られない。すなわち、微細孔14fの上端または下端のどちらかに偏って第二構造改質部13fが形成されていても良い。または、微細孔14fの上端のみ、または下端のみに第二構造改質部が形成されていてもよい。
【0073】
微細孔の製造工程として、β工程を導入することによる効果について、
図10を用いて説明する。
【0074】
図10は、第一構造改質部12の、楕円形状の断面における長径の、熱処理温度特性を示すグラフである。横軸が熱処理の温度を示し、縦軸が長径の熱処理前後比Db/Da、De/Dd(
図8A、B、D、E参照)を示している。このグラフは実験結果に基づく。グラフの実線が、本実施形態の熱処理において、目的温度に到達してからの保持時間を5分に設定した場合の長径の熱処理温度特性を示している。ここでは基板11としてガラスを用いており、昇温レートをおよそ50℃/分としている。
【0075】
長径は歪点以下の温度では一定であり、歪点以上の温度で減少する。従って、歪点以上の温度で熱処理を行う本実施形態においては、短い時間(例えば5分程度)の熱処理により、第一構造改質部12の一部を消滅または変性させることが可能である。
【0076】
すなわち、上記温度条件により熱処理を行う場合、β工程処理に要する時間を短縮することが出来る。そのため本実施形態は、微細孔形成工程を複数有するプロセスを扱う場合、高密度に微細孔を有する基体を大量に製造する場合等において、好適である。
【0077】
従来の方法により形成される微細孔は、第一構造改質部全体をエッチング除去し、除去した領域に形成される。これに対し、上述した方法により製造される本発明の微細孔は、第一構造改質部の一部を消滅、または第二構造改質部に変性させ、残りの部分を選択的にエッチング除去し、除去した領域に形成される。
【0078】
従って、上述した本発明の微細孔の製造方法によれば、第一構造改質部に対して熱処理を行わない従来の方法による場合よりも、レーザー光による構造改質後にエッチング除去される領域を減らし、基板内部に形成される微細孔の開口部(開口面積)を小さくすることが出来る。すなわち、上述した本発明の微細孔の製造方法によれば、微細孔の開口部を、レーザー光照射およびエッチングによる加工限界よりも、さらに小さく加工することを可能とした微細孔の製造方法、および前記製造方法により製造された微細孔を有する基体を提供することが出来る。
【0079】
<第二実施形態>
第二実施形態における微細孔の製造工程は、第一実施形態と同様の、α、β、γ工程を少なくとも有し、β工程において行う熱処理の条件が、第一実施形態と異なる。すなわち、第二実施形態では、熱処理の時間を長く設定し、熱処理の温度を、第一構造改質部12の内部応力が数時間で消失する歪点未満の温度とする。
【0080】
本実施形態によれば、微細孔の楕円形状をなす断面の長径の温度特性が、第一実施形態と異なる。
図10に示すグラフの点線が、本実施形態の熱処理において、目的温度に到達してからの保持時間を30分に設定した場合の長径の温度特性を示している。
【0081】
長径は、温度に対して単調に減少する。すなわち、長い時間(例えば30分)で熱処理を行う本実施形態においては、処理温度を歪点未満の温度において、第一構造改質部12の一部が消滅または変性する。ここでは基板11としてガラスを用いており、昇温レートをおよそ20℃/分としている。
【0082】
長径は、ほぼ温度の1乗に比例して減少するため、何れの温度領域においても、長径が一義的に決まる。すなわち、本実施形態のγ工程は、長径を高精度に制御できる。
【0083】
また本実施形態によれば、長径は低温においても減少する。従って、熱処理を低温で行うことにより、安定性を高めたプロセスを実現することが可能である。
【0084】
従来の方法により形成される微細孔は、第一構造改質部全体をエッチング除去し、除去した領域に形成される。これに対し、上述した方法により製造される本発明の微細孔は、第一構造改質部の一部を消滅、または第二構造改質部に変性させ、残りの部分のみをエッチング除去し、除去した領域に形成される。
【0085】
従って、上述した本発明の微細孔の製造方法によれば、第一構造改質部に対して熱処理を行わない従来の方法による場合よりも、レーザー光による構造改質後にエッチング除去される領域を減らし、基板内部に形成される微細孔の開口部(開口面積)を小さくすることが出来る。すなわち、上述した本発明の微細孔の製造方法によれば、微細孔の開口部を、レーザー光照射およびエッチングによる加工限界よりも、さらに小さく加工することを可能とした微細孔の製造方法、および前記製造方法により製造された微細孔を有する基体を提供することが出来る。