特許第5918451号(P5918451)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ポリプラスチックス株式会社の特許一覧

<>
  • 特許5918451-複合成形品及びその製造方法 図000006
  • 特許5918451-複合成形品及びその製造方法 図000007
  • 特許5918451-複合成形品及びその製造方法 図000008
  • 特許5918451-複合成形品及びその製造方法 図000009
  • 特許5918451-複合成形品及びその製造方法 図000010
  • 特許5918451-複合成形品及びその製造方法 図000011
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5918451
(24)【登録日】2016年4月15日
(45)【発行日】2016年5月18日
(54)【発明の名称】複合成形品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 7/00 20060101AFI20160428BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20160428BHJP
   B32B 27/20 20060101ALI20160428BHJP
   B23K 26/364 20140101ALI20160428BHJP
【FI】
   C08J7/00 302
   B32B27/00 C
   B32B27/20 Z
   B23K26/364
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-544257(P2015-544257)
(86)(22)【出願日】2015年3月19日
(86)【国際出願番号】JP2015058203
(87)【国際公開番号】WO2015146767
(87)【国際公開日】20151001
【審査請求日】2015年9月8日
(31)【優先権主張番号】特願2014-62270(P2014-62270)
(32)【優先日】2014年3月25日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390006323
【氏名又は名称】ポリプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】望月 章弘
【審査官】 岸 進
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−052252(JP,A)
【文献】 特開2011−079289(JP,A)
【文献】 特開2002−011795(JP,A)
【文献】 特開2014−018995(JP,A)
【文献】 特開平03−203291(JP,A)
【文献】 特開平09−314669(JP,A)
【文献】 特開2000−351189(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C63/00−65/82
B29C71/04
C08J 7/00− 7/02
C08J 7/12− 7/18
B23K26/00−26/70
B32B 1/00−43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維状無機充填剤を含有する樹脂成形品にレーザを照射して樹脂及び繊維状無機充填剤の一部除去を行い、少なくとも溝内部の表面側において繊維状無機充填剤の端部が溝の側面より対向して突出して露出された溝を形成する溝形成工程と、
前記溝を有する面を接触面として他の材料と一体化して複合成形品を製造する複合成形工程とを含む、複合成形品の製造方法。
【請求項2】
前記レーザの照射を、成形品の表面に対して垂直以外の方向から行う、請求項に記載の複合成形品の製造方法。
【請求項3】
前記樹脂の一部除去は、前記溝の深さが200μm以上になるまで行われる、請求項1又は2に記載の複合成形品の製造方法。
【請求項4】
前記溝形成工程は、前記繊維状無機充填剤の一部除去により、前記繊維状無機充填剤の端部を溝の両側面より同軸線上に対向して突出して露出させる工程である、請求項1から3のいずれかに記載の複合成形品の製造方法。
【請求項5】
前記複合成形工程は、前記溝を有する面を接触面として他の材料と射出成形により一体化して複合射出成形品を製造する工程である、請求項1から4のいずれかに記載の複合成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合成形品、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車、電気製品、産業機器等をはじめとした分野では、二酸化炭素の排出量削減、製造コストの削減等の要請に応えるため、金属成形品の一部を樹脂成形品に置き換える動きが広がっている。これに伴い、樹脂成形品と金属成形品とを一体化した複合成形品が広く普及している。これに限らず、同種又は異種の材料からなる成形品を一体化した複合成形品も広く普及している。
【0003】
一の成形品と他の成形品とを一体化した複合成形品の製造方法として、例えば、次のようなものが提案されている。特許文献1には、一方の樹脂にガラスファイバー等の充填剤を混入して成形し、他方の樹脂を接着する面に薬品、プラズマ、炎等の処理を施して厚さ0.数μm〜数10μmの樹脂を除去した後、前記他方の樹脂を接着する面に前記他方の樹脂を接して充填、成形し、接着させることが提案されている。また、特許文献2には、一方の樹脂成形品の表面に電磁放射線を照射することで該表面にナノ構造を形成し、その後、該表面に他方の樹脂成形品を接して充填、成形し、一体化させることが提案されている。
【0004】
また、特許文献3には、凹凸形状を有し、表見に硬質繊維が突出する基材と表皮材とをプレス接合することが提案されている。特許文献4には、表面に金属繊維が露出する成型部材どうしを接合部で接合することが提案されている。特許文献5には、高出力連続発振固体レーザを用いて、FRP部材及びFRM(繊維強化金属)等の複合材料及び複合材料合板同志または複合材料と金属の異種材料継手の突合せ継手、重ね継手、へり継手、すみ肉継手の接合部に熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、及び熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂の混合したものに、強化繊維、強化ガラス、ウイスカーを含む強化材を数%〜80%重量%添加した溶加材を充填しつつ、複合材料及び複合材料合板とをレーザ溶接することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平01−126339号公報
【特許文献2】特表2011−529404号公報
【特許文献3】特開2000−351189号公報
【特許文献4】特開平3−203291号公報
【特許文献5】特開2010−247206号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、一の成形品と他の成形品とを接合したときの強度に関し、さらなる改良の余地がある。例えば、特許文献3に記載の手法では、複合成形品は、凹凸を有する成形品表面に繊維が突出し存在する基材に対し、表皮材を圧縮成形することになるため、繊維を表皮材に突き刺すことだけでなく、表皮材を繊維から引き抜くことも容易となる。表示材が外れることを防ぐためには、基材と表皮材との間を接着剤で接合することを要する。
【0007】
また、特許文献4の課題は、両成型部材の表面の相互の導通をはかることであり、相互の成形部材に無機充填剤が架かっていれば足りる。特許文献4において、高いアンカー効果を得ることについては開示も示唆もない。
【0008】
また、特許文献5においても、従来のCOレーザやファイバレーザで炭素繊維強化プラスチックを切断すると、切断部において炭素繊維のむき出しが見られることを開示するにとどまり、この炭素繊維が部材の接合強度に寄与することを開示するものではない。
【0009】
本発明は、以上のような課題を解決するためになされたものであり、その目的は、他の成形品と接合したときの強度をよりいっそう高めることの可能な樹脂成形品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記のような課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、繊維状無機充填剤を含有する樹脂成形品の樹脂を一部除去するとともに、繊維状無機充填剤の一部除去を行い、これにより形成される溝の少なくとも表面側において繊維状無機充填剤の端部が溝の側面から突出して露出された溝を形成することで、溝をより深く形成したり、溝に他の成形品を構成する部材の侵入を容易に出来、溝付き樹脂成形品と他の成形品とを接合した際に、溝で露出する繊維状無機充填剤が溝付き樹脂成形品及び他の成形品の接合部における破壊を抑えるアンカーの役割を果たし、結果として複合成形体の強度を著しく高められることを見出した。具体的に、本発明は以下のものを提供する。
【0011】
(1)本発明は、繊維状無機充填剤の端部が溝内部の少なくとも表面側において溝の側面より対向する側面方向に突出して露出された溝を有する溝付き樹脂成形品の前記溝を有する面上に他の材料が一体化された複合成形品である。
【0012】
(2)また、本発明は、前記繊維状無機充填剤の端部の露出及び前記溝の形成は、レーザの照射によってなされる、(1)に記載の複合成形品である。
【0013】
(3)また、本発明は、前記溝の深さが200μm以上である、(1)又は(2)のいずれかに記載の複合成形品である。
【0014】
(4)また、本発明は、前記繊維状無機充填剤の端部は、前記溝内部の少なくとも表面側において溝の両側面より突出して露出されている、(1)から(3)のいずれかに記載の複合成形品である。
【0015】
(5)また、本発明は、前記繊維状無機充填剤の端部は、前記溝の両側面より同軸線上に対向して突出して露出されている、(4)に記載の複合成形品である。
【0016】
(6)また、本発明は、前記他の材料からなる成形品は、前記溝の内部において、前記繊維状無機充填剤を囲んで配されている、(1)から(5)のいずれかに記載の複合成形品である。
【0017】
(7)また、本発明は、射出成形により一体化されている、(1)から(6)のいずれかに記載の複合成形品である。
【0018】
(8)また、本発明は、繊維状無機充填剤を含有する樹脂成形品に樹脂の一部除去を行い、少なくとも溝内部の表面側において繊維状無機充填剤の端部が溝の側面より対向する側面方向に突出して露出された溝を形成する溝形成工程と、前記溝を有する面を接触面として他の材料と一体化して複合成形品を製造する複合成形工程とを含む、複合成形品の製造方法である。
【0019】
(9)また、本発明は、前記樹脂の一部除去がレーザの照射により行われる、(8)に記載の複合成形品の製造方法である。
【0020】
(10)また、本発明は、前記レーザの照射を、成形品の表面に対して垂直以外の方向から行う、(9)に記載の複合成形品の製造方法である。
【0021】
(11)また、本発明は、前記樹脂の一部除去が、前記溝の深さが200μm以上になるまで行われる、(8)から(10)のいずれかに記載の複合成形品の製造方法である。
【0022】
(12)また、本発明は、前記溝形成工程が、前記樹脂成形品に樹脂の一部除去を行い、少なくとも溝内部の表面側において繊維状無機充填剤の端部が溝の両側面より対向する側面方向に突出して露出された溝を形成する工程である、(8)から(11)のいずれかに記載の複合成形品の製造方法である。
【0023】
(13)また、本発明は、前記溝形成工程が、前記繊維状無機充填剤の一部除去を併せて行う工程である、(8)から(12)のいずれかに記載の複合成形品の製造方法である。
【0024】
(14)また、本発明は、前記溝形成工程が、前記繊維状無機充填剤の一部除去により、前記繊維状無機充填剤の端部を溝の両側面より対向して突出して露出させる工程である、(8)から(13)のいずれかに記載の複合成形品の製造方法である。
【0025】
(15)また、本発明は、前記複合成形工程が、前記溝を有する面を接触面として他の材料と射出成形により一体化して複合射出成形品を製造する工程である、(8)から(14)のいずれかに記載の複合成形品の製造方法である。
【発明の効果】
【0026】
本発明によると、溝付き樹脂成形品を他の成形品と接合した際に、溝で露出する繊維状無機充填剤が溝付き樹脂成形品及び他の成形品の破壊を抑えるアンカーの役割を果たし、結果として複合成形体の強度を著しく高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の複合成形品1の構成要素である溝付き樹脂成形品10の概略拡大断面の模式図である。
図2】本発明の複合成形品1の概略拡大断面の模式図である。
図3】多重成形によって複合成形品1を得るときの概略説明図である。
図4】実施例1(レーザの照射角度の比較)における照射角度を説明するための図である。
図5】実施例1(レーザの照射角度の比較)に係る溝付き樹脂成形品のSEM写真である。
図6】実施例2(樹脂材料の比較)に係る溝付き樹脂成形品のSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。なお、説明が重複する箇所については、適宜説明を省略する場合があるが、発明の要旨を限定するものではない。
【0029】
<溝付き樹脂成形品10>
図1は、本発明の複合成形品1(図2)の構成要素である溝付き樹脂成形品10の概略拡大断面模式図である。溝付き樹脂成形品10は、繊維状無機充填剤11を含有する。また、溝付き樹脂成形品10は、繊維状無機充填剤11の端部が少なくとも表面側において側面より対向する側面方向に突出し露出された溝12を有する。表面側とは溝の深さ方向において成形品表面に近い側のことを意味する。
【0030】
[樹脂]
樹脂の種類は、レーザの照射により除去され、結果として溝12を形成できるものであれば特に限定されず、レーザの吸収を調整し、レーザの照射により樹脂を除去するだけでなく、レーザの照射により繊維状無機充填剤11の一部を除去し、繊維状無機充填剤11の端部を少なくとも溝付き樹脂成形品10に形成される溝の表面側において好適に露出できるものであれば構わない。
【0031】
レーザの吸収率を調整する手法として、樹脂にレーザを吸収する配合剤の種類や添加量を調整することが挙げられる。このような配合剤としては、顔料や染料といったものが用いられ、カーボンブラックが効果的である。
【0032】
樹脂は、熱可塑性であってもよいし、熱硬化性であってもよい。樹脂の好適な材質として、例えば、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、液晶ポリマー(LCP)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリアセタール(POM)等が挙げられる。
【0033】
[繊維状無機充填剤11]
繊維状無機充填剤11は、樹脂成形品の樹脂の一部を除去することにより溝12を形成する際に、少なくとも一部の繊維状無機充填剤11が一部除去され、繊維状無機充填剤11の端部が少なくとも溝付き樹脂成形品10に形成される溝の表面側において溝の側面より突出し露出されるものであれば、特に限定されない。
【0034】
繊維状無機充填剤11として、ガラス繊維、炭素繊維、ウィスカー繊維、等を挙げることができ、単独もしくは混合して用いることが出来る。繊維状であれば、繊維状無機充填剤11が複合成形品(図2の1)から脱落することを防止し、繊維状無機充填剤11が溝付き樹脂成形品10及び他の成形品(図2の20)の分離を抑えるアンカーの役割を果たす。中でもガラス繊維が本願発明においては好適に用いられる。また、繊維状以外のガラスフレーク、マイカ、タルク、ガラスビーズなどの無機充填剤やその他の添加剤や改質剤などが、本発明の効果の発現を妨げない程度に配合されていても構わない。
【0035】
上述したとおり、繊維状無機充填剤11は、繊維状無機充填剤11の端部が溝の表面側において溝の側面より対向する側面方向に突出し露出されるものであれば、特に限定されないが、溝内部の少なくとも表面側において溝の両側面より突出して露出されることが好ましく、溝の両側面より同軸線上に対向して突出して露出されることがより好ましい。溝付き樹脂成形品10と他の成形品(図2の20)とが一体化された複合成形品1において、接合強度を測定すると、複合成形品1は、単なる剥離ではなく、溝に他の成形品20の一部が残った状態で他の成形品20が破損する母材破壊によって破壊される。このことから、溝の両側面より対向する側面方向に突出して露出されることで、溝付き樹脂成形品10と他の成形品(図2の20)とが一体化された複合成形品1において、溝付き樹脂成形品10と他の成形品20とを引きはがす力が加わる際、繊維状無機充填剤11が他の成形品20と効果的に係合し、溝から他の成形品20が引き出されることを防止できるといえる。
【0036】
溝12で露出する無機充填剤11が溝付き樹脂成形品10及び他の成形品20の破壊を抑えるアンカーの役割を果たすにあたり、溝12の深部においては、樹脂の一部が除去されることにより形成される凹凸の山13どうしを繊維状無機充填剤11が好適に架けていることが好ましい。
【0037】
繊維状無機充填剤11の含有量は特に限定されるものでないが、樹脂100重量部に対して5重量部以上80重量部以下であることが好ましい。5重量部未満であると、繊維状無機充填剤11が溝12で露出したとしても、この繊維状無機充填剤11が溝付き樹脂成形品10及び他の成形品20の破壊を抑えるアンカーの役割を十分に果たせない可能性がある。80重量部を超えると、繊維状無機充填剤11と溝12がに配された他の成形品との係止効果が十分に発揮できない場合がある点で好ましくない。
【0038】
[繊維状無機充填剤11を含有する樹脂材料の好適な市販品]
繊維状無機充填剤11を含有する樹脂材料の市販品として、ガラス繊維入りPPS(製品名:ジュラファイドPPS 1140A1,ポリプラスチックス社製)、ガラス繊維入りPPS(製品名:ジュラファイドPPS 1140A7,ポリプラスチックス社製)、ガラス繊維・無機フィラー入りPPS(製品名:ジュラファイドPPS 6165A7,ポリプラスチックス社製)、ガラス繊維入りLCP(製品名:ベクトラLCP E130i、ポリプラスチックス社製)等を挙げることができる。
【0039】
[溝12]
樹脂成形品10の表面には溝12が形成されている。溝12では、繊維状無機充填剤11が露出されている。そして、樹脂の一部除去により溝12を形成するとともに溝の少なくとも表面側において側面から露出し溝に照射されるレーザを一部遮蔽する繊維状無機充填剤の一部を除去することにより、溝12の側面12aから繊維状無機充填剤11の端部を溝側面より突出した状態で露出させることができる。繊維状無機充填剤11の少なくとも一部を除去することで、溝12に露出する繊維状無機充填剤によるレーザの遮蔽効果が減ることで、溝の深くまでレーザが効果的に照射出来るため、溝をより深くすることができ、これにより、他の樹脂成形品と複合成形したときのアンカー効果を高めることができる。また、他の成形品と一体化して複合成形品を得る際、少なくとも表面側において露出する繊維状充填剤の端部を突出する状態で一部を除去しとりわけ溝の中央部の繊維状無機充填剤を除去することで、流動状態にある他の成形品の溝への入り込みを容易にし、溝が深くとも高いアンカー効果を得ることが出来る。
【0040】
ところで、本発明は、溝付き樹脂成形品10の溝12を有する面を接触面として他の成形品(図2の20)と一体化して複合成形品(図2の1)を製造するところ、この複合成形品1において繊維状無機充填剤11は露出されていない。本明細書では、複合成形品1において繊維状無機充填剤11が露出していない場合であっても、複合成形品1から他の成形品20を取り除いた態様において溝12から繊維状無機充填剤11が露出していれば、「複数の溝12において繊維状無機充填剤11が露出されている」ものとする。
【0041】
他の樹脂成形品と複合成形したときに溝の側面から無機充填剤の端部が突出して露出することで十分なアンカー効果がより効果的に得られる点で、溝12の長手方向は、繊維状無機充填剤11の長手方向とは異なることが好ましい。
【0042】
樹脂成形品10の表面に形成される溝12は、複数の溝12を設けることにより、アンカーの効果がより高まる。溝12を複数形成する際、これら複数の溝12は、各々の溝が個別に形成されたものであってもよいし、一筆書きの要領で複数の凹凸からなる溝が一度に形成されたものであってもよい。
【0043】
複数の溝12は両端が繋がった溝12を等高線のように並べて設けても良いし、交差しない縞状に形成されても、溝12が交差する格子状に形成されてもよい。溝12を格子状に形成する場合は、溝12の長手方向が繊維状無機充填剤の長手方向とは異なる斜格子状に形成することが好ましい。また、溝12を格子状に形成する場合、溝12の形状はひし形状であっても良い。
【0044】
溝12の長さは特に限定されるものでなく、溝12が短い場合、開口部の形状は四角形であってもよいし、丸形や楕円形であってもよい。アンカー効果を得るためには、溝12は長い方が好ましい。
【0045】
また、溝12の深さDについても特に限定されるものではないが、より高いアンカー効果を得られる点で、溝12の深さは深い方が好ましく、溝に露出する繊維状無機充填剤の一部を除去することで、溝に照射されるレーザの遮蔽が少なくなり、より深い溝を容易に作成することが出来る。本発明によれば、溝の深さは、200μm以上であっても形成することが出来る。深さDが浅いと、溝12で他の成形品20と接合して複合成形品1を形成する際に、溝12に露出する繊維状無機充填剤11と他の成形品20との間に十分なアンカー効果を生じないことから、溝付き樹脂成形品10と他の成形品20とを強固に密接できないことがある。
【0046】
<溝付き樹脂成形品10の製造方法>
溝付き樹脂成形品10は、繊維状無機充填剤11を含有する樹脂成形品にレーザの照射を行なうことで、樹脂を部分的に除去し、少なくとも表面側において繊維状無機充填剤11の端部が側面より突出して露出された溝12が形成されることによって得られる。
【0047】
レーザの照射は、照射対象材料の種類やレーザ装置の出力等をもとに設定される。
【0048】
また、レーザの照射条件は、樹脂を部分的に除去する態様であれば特に限定されるものでないが、成形品の表面に対して垂直以外の方向から行うことにより、樹脂を部分的に除去するとともに繊維状無機充填剤の一部を除去することが好ましい。樹脂の一部及び繊維状無機充填剤の一部の両方を除去することで、繊維状無機充填剤11の端部が溝の表面側において溝の両側面より対向する側面方向に突出して露出させること、より具体的には、溝の両側面より同軸線上に対向して突出して露出させることができる。
【0049】
<複合成形品1>
図2は本発明の複合成形品1の概略拡大断面の模式図である。複合成形品1において、溝付き樹脂成形品10の溝12を有する面上に他の成形品20が隣接されている。溝12の内部における他の成形品20の態様は特に限定されるものでないが、高いアンカー効果を得るため、他の成形品20は、溝12の内部において、繊維状無機充填剤11を囲むように配置されることが好ましい。
【0050】
[他の成形品20]
他の成形品20は、未硬化状態の場合に、繊維状無機充填剤11が露出された溝12に入ることが可能なものであれば特に限定されるものでなく、熱可塑性樹脂、硬化性樹脂(熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂、放射線硬化性樹脂等)、ゴム、接着剤、金属等のいずれであってもよい。
【0051】
<複合成形品1の製造方法>
複合成形品1は、多重成形に限らず、超音波溶着、レーザ溶着、高周波誘導加熱溶着等、樹脂成形品の加熱溶融によっても得られる。
【0052】
従来、樹脂成形品どうしを加熱溶着する際、1次成形品の第一溶着予定面と、2次成形品の第二溶着予定面との両方を加熱溶融したとしても、溶着する組合せは極めて限定的である。しかしながら、本明細書に記載の発明では、第二溶着予定面を加熱溶融すれば足り、溶着する材料の組合せである必要もない。本明細書に記載の発明によると、予め溝12を形成した第一溶着予定面に対して他の樹脂成形品20を加熱圧接すれば足りるので、樹脂成形品の材料の組合せを選ばず、寸法精度と接合強度との両方に優れた複合成形品1を得ることができる。
【0053】
[多重成形]
図3は、多重成形によって複合成形品1を得るときの概略説明図である。まず、図3の(1)に示すように、1次樹脂を1次成形し、溝付き樹脂成形品予備体10’を作製する。続いて、図3の(2)に示すように、予備体10’の表面の少なくとも一部に対し、樹脂の部分的除去を行い、溝12を形成する。これによって、溝付き樹脂成形品10が作製される。
【0054】
続いて、図3の(3)に示すように、溝付き樹脂成形品10を金型(図示せず)に入れ、この金型の内部に、溝12を有する面を接触面として、2次樹脂(他の成形品20を構成する材料の未硬化物)を封入し、この材料を硬化する。上記工程を経ることで、多重成形による硬化性樹脂との複合成形品1が得られる。また、同様に、2次樹脂を加熱溶融した熱可塑性樹脂とすることにより、多重成形による熱可塑性樹脂との複合成形品1が得られる。金型の種類は特に限定されるものでないが、溝付き樹脂成形品10について、レーザの照射によって形成された溝を有する面を接触面として射出成形用金型にインサートし、他の成形品20に係る材料を射出成形にて一体化し、複合成形品を得ることが好ましい。射出成形は、溝付き樹脂成形品10を入れた金型内に未硬化状態の他の成形品20を高い圧力をかけて注入することで、繊維状無機充填剤11が露出された溝12に効果的に入り込ませ、一体化した複合成形品を容易に得ることができる。
【0055】
下記の実施例では、溝付き成形品10が溝11を有し、他の成形品20が溝を有しないものとして説明されているが、これに限るものでなく、例えば、他の成形品20も溝を有し、型の一側面に溝付き成形品10を入れ、他の側面に他の成形品20を入れた後、溝付き成形品10と他の成形品20との間に接着剤組成物を入れ、この接着剤組成物が溝付き成形品10の溝11と他の成形品20の溝とに入り込むようにしてもよい。このようにすることで、接着剤組成物の種類にかかわらず、接着剤組成物が溝付き成形品10と他の成形品20との間の層間接着に好適とはいえない場合であっても、溝付き成形品10と他の成形品20とを強固に接合できる。
【実施例】
【0056】
以下、本発明を予備試験例及び実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0057】
(ジュラファイドにおける射出成形の条件)
予備乾燥:140℃、3時間
シリンダ温度:320℃
金型温度:140℃
射出速度:20mm/sec
保圧:50MPa(500kg/cm

(ジュラコンにおける射出成形の条件)
予備乾燥:80℃、3時間
シリンダ温度:190℃
金型温度:80℃
射出速度:16mm/sec
保圧:80MPa(800kg/cm
【0058】
<実施例1> ガラス繊維の一部除去(照射角度の比較)
溝の表面において繊維状無機充填剤を一部除去する溝の形成は、次の方法により行うことができる。
【表1】
【0059】
[溝付き樹脂成形品の製造]
ガラス繊維入りPPS(製品名:ジュラファイドPPS 1140A1,ポリプラスチックス社製)を上記(射出成形の条件)で示した条件で射出成形した射出成形品に、スポット径50μmのレーザを10回づつ25μmずらして3回繰り返し、照射巾が100μmとなるように計30回照射した。レーザを照射する際、一方は、図4の(1)に示すように、射出成形品の表面に対して垂直に照射し、他方は、図4の(2)に示すように、射出成形品を水平方向から30度傾け、射出成形品の表面に対して60度の方向に照射した。レーザの発振波長は1.064μm、最大定格出力は13W(平均)とし、出力は90%、周波数は40kHz、走査速度は1000mm/sとした。これにより、実施例ならびに参考例に係る溝付き樹脂成形品を得た。
【0060】
[評価]
溝を有する面を電子顕微鏡(SEM)で拡大観察した。倍率は100倍、300倍の2種類とした。結果を図5及び表2に示す。
【0061】
【表2】
【0062】
実施例1に係る溝付き樹脂成形品は、レーザの照射により樹脂を一部除去する際、繊維状無機充填剤の一部を除去したものである。その結果、少なくとも表面側において繊維状無機充填剤の端部が溝の側面より突出して露出されていることが確認された。また、予備試験に比べて溝の深さをより深くすることができ、その結果、高いアンカー効果を得られることが確認された。
【0063】
特に、レーザの照射を、成形品の表面に対して垂直以外の方向から行うことで、繊維状無機充填剤の一部除去が容易に行え、結果として、より深い溝を得ることが容易となることが確認された(実施例1、図5)。
【0064】
<実施例2> ガラス繊維の一部除去(樹脂材料の比較)
続いて、好適な樹脂材料を検証した。
【表3】
【0065】
表3において、樹脂成形品における樹脂の材質は次のとおりである。
ガラス繊維入りPPS 1140 A1 CB0.2%:ジュラファイドPPS 1140A1,カーボンブラック0.2%,ポリプラスチックス社製)
ガラス繊維入りPPS 1140 A1 CB0.01%:ジュラファイドPPS 1140A1カーボンブラック0.01%,ポリプラスチックス社製)
POM:ジュラコンPOM M450−44,ポリプラスチックス社製
【0066】
[溝付き樹脂成形品の製造]
表3に示した樹脂材料を上記(射出成形の条件)で示した条件で射出成形した射出成形品に、実施例1と同じ照射回数が10回になるように、射出成形品の表面に対して垂直方向から斜格子状に照射した。レーザの発振波長は1.064μm、最大定格出力は13W(平均)とし、出力は90%、周波数は40kHz、走査速度は1000mm/sとした。これにより、溝幅が100μmで格子状の、実施例及び参考例に係る溝付き樹脂成形品を得た。
【0067】
[複合成形品の製造]
実施例、参考例及び比較例に係る溝付き樹脂成形品のそれぞれについて、レーザの照射によって形成された溝を有する面を接触面として射出成形用金型にインサートし、表1に示す他の成形品に係る材料を上記の条件で射出成形し、複合成形品を得た。
【0068】
[評価]
〔溝付き樹脂成形品の拡大観察〕
溝付き樹脂成形品について、溝を有する面を電子顕微鏡(SEM)で拡大観察した。倍率は100倍、300倍の3種類とした。
【0069】
〔溝の深さ〕
溝付き樹脂成形品について、断面観察にて溝の深さを測定した。
【0070】
〔強度〕
接合強度を確かめるため、複合成形品について破壊荷重を測定した。破壊荷重の測定は次のようにして行った。測定機器としてテンシロンUTA−50kN(オリエンテック社製)を使用し、クロスヘッド速度が1mm/分の条件で複合成形体(120mm長さ、12mm幅、6mm厚み)を引張り剥がすことで行った。結果を図6及び表4に示す。比較例については、弱い力で破壊し、強度を測定できなかった。
【0071】
【表4】
【0072】
実施例2及び3に係る溝付き樹脂成形品は、レーザの照射により樹脂を一部除去する際、繊維状無機充填剤の一部を除去したものである。その結果、少なくとも表面側において繊維状無機充填剤の端部が溝の側面より突出して露出されていることが確認された。また、繊維状無機充填剤を一部除去しなかった場合比べて溝の深さを容易に深くすることができ、その結果、高いアンカー効果を得られることが確認された。
【0073】
接合強度を測定する際、複合成形品1は、単なる剥離ではなく、溝に他の成形品の一部が残った状態で他の成形品が破損する母材破壊によって破壊された。これは、繊維状無機充填剤の端部が溝の表面側において溝の両側面より対向する側面方向に突出して露出されているためと考えられる。そして、このことから、溝付き樹脂成形品と他の成形品とが一体化された複合成形品において、溝付き樹脂成形品と他の成形品とを引きはがす力が加わる際、繊維状無機充填剤が他の成形品と効果的に係合し、溝から他の成形品20が引き出されることを防止できるものと予想される。
【0074】
特に、溝付き樹脂成形品を構成する樹脂を、レーザ吸収をカーボンブラックの量を調整した樹脂にすることで、繊維状無機充填剤が効果的に一部除去できることが確認された(実施例2−2、図6)。その結果、溝の深さを容易に深くすることができ、また、溝の内部に容易に深く他の樹脂が満たされ、その結果、よりいっそう高いアンカー効果を得られることが確認された。
【符号の説明】
【0075】
1 複合成形品
10 溝付き樹脂成形品
11 繊維状無機充填剤
12 溝
12a 溝の側面
13 山
20 他の成形品
図1
図2
図3
図4
図5
図6