(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
GaAs等の化合物半導体のショットキー障壁は、金属の仕事関数によらず略一定値をとる。これは、表面ピンニングによるものであると言われている。
【0003】
表面ピンニングのある化合物半導体においてオーミック接合を得ることは非常に難しく、空乏層幅を狭くして電子をトンネルさせやすくしたり、ショットキー障壁の高さを下げて熱的に分布する電子がショットキー障壁を越えやすくなるようにしたりする必要がある。
【0004】
具体的には、化合物半導体の表面付近の不純物濃度(キャリア濃度)を高くすると、空乏層幅が狭くなるだけでなく、ショットキー障壁も低くなるので、金属と化合物半導体との間でオーミック接合が得られやすくなる。
【0005】
表面ピンニングが約0.8Vである場合にオーミック接合を得ようとすると、化合物半導体中の不純物濃度を1.0×10
19cm
-3以上にする必要があると言われており、この不純物濃度を得られる層の一つにInGaAs層が挙げられる。
【0006】
そのため、HEMT(High Electoron Mobility Transistor)、HBT(Heterojunction Bipolar Transistor)、又はBiFET(Bipolar Field Effect Transistor)等の最上層には、不純物濃度を1.0×10
19cm
-3以上(例えば、2.0×10
19cm
-3以上)としたIn
0.5Ga
0.5As層からなるコンタクト層を形成するのが一般的である。
【0007】
また、コンタクト層の不純物(ドーパント)には、SeやTeが用いられるが、これら原料を効率良くドーピングするためには、コンタクト層の成長温度を500℃以下にする必要があり、そのときのコンタクト層の表面粗さ(Haze値)は100ppm以上500ppm以下程度である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
コンタクト抵抗を下げるために、Te又はSeを不純物として含有するn型In
xGa
(1-x)As層(0≦x≦1)からなるコンタクト層を採用した場合、製造装置炉内にTe又はSeがメモリー効果により残留し、次にIII−V族化合物半導体エピタキシャルウェハを製造するに際し、単結晶基板上から1μm程度積層したバッファ層中にTe又はSeが混入する問題がある。
【0010】
TeやSeは電子を供給する不純物であるため、バッファ層中にTe又はSeが混入すると、本来電流が流れてはいけないバッファ層に電流が流れることになり、オン抵抗が増大したり、オフ状態での電流リーク等が発生したり、又はHBT構造のコレクタ層の容量が増大したりする問題がある。
【0011】
そこで、Siを不純物として含有するコンタクト層を採用し、その不純物濃度を高くすることが考えられるが、一般的なSiの供給原料であるSi
2H
6ガスを用いて、コンタクト層の不純物濃度が2.0×10
19cm
-3以上となるようにドーピングを行うためには、コンタクト層の成長温度を500℃より高くする必要がある。コンタクト層の成長温度を500℃より高くすることで、Si
2H
6ガスが分解しやすくなり、コンタクト層の不純物濃度を向上させることができるからである。
【0012】
しかし、コンタクト層の成長温度を500℃より高くすると、コンタクト層の表面粗さ(Haze値)が3000ppm以上と非常に粗くなってしまう。成長温度を500℃より高くすると、GaAs層からなる下層とInGaAs層からなるコンタクト層とが格子整合しないため、ステップバンチング現象が発生しやすく、コンタクト層の表面の凹凸が大きくなり、表面粗さが増大するからである。
【0013】
そこで、本発明の目的は、Siを不純物として含有するコンタクト層を採用した場合でも、その不純物濃度を高くすることができ、且つ、SeやTeを不純物として含有するコンタクト層を採用した場合(つまり、コンタクト層の成長温度を500℃以下とした場合)と同等の表面粗さとすることができるIII−V族化合物半導体エピタキシャルウェハ及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この目的を達成するために創案された本発明は、単結晶基板と、前記単結晶基板上に形成された半導体デバイス構造と、を備えたIII−V族化合物半導体エピタキシャルウェハにおいて、前記半導体デバイス構造は、構造中に少なくともエミッタ層を含むと共に最上層にn型In
xGa
(1-x)As層(0≦x≦1)からなるコンタクト層を有し、前記コンタクト層は、不純物としてSiを8.0×10
18cm
-3以上2.0×10
19cm
-3以下含有し、表面粗さ(Haze値)が200ppm以上2000ppm以下であり、前記半導体デバイス構造を燐酸系エッチング液でエッチングし前記エミッタ層を露出させた際の前記エミッタ層の表面粗さ(二乗平均平方根粗さ)が0.1nm以上0.5nm以下であるIII−V族化合物半導体エピタキシャルウェハである。
【0015】
前記コンタクト層は、表面粗さ(Haze値)が1000ppm以下であると良い。
【0017】
前記半導体デバイス構造は、前記単結晶基板上に積層されたHEMT構造及びHBT構造からなるBiFET構造であると良い。
【0018】
前記コンタクト層は、前記半導体デバイス構造上に形成されると共にIn組成が0からxまで徐々に増加するグレーデッド層と、前記グレーデッド層上に形成されると共にIn組成が一定である均一層と、からなると良い。
【0019】
前記グレーデッド層のカーボンバック濃度が1.0×10
16cm
-3以上1.0×10
18cm
-3以下であると良い。
【0020】
前記コンタクト層は、前記半導体デバイス構造上に形成されると共にIn組成が0からxまで徐々に増加するグレーデッド層のみからなっても良い。
【0021】
前記コンタクト層は、前記半導体デバイス構造上に形成されると共にIn組成が一定である均一層のみからなっても良い。
【0022】
電極面積を1.0×10
4μm
2、電極間距離を5μm、電圧値を20Vとしたとき、バッファリーク電流値が1.0×10
-10A以上1.0×10
-6A以下であると良い。
【0023】
また、本発明は、単結晶基板上に半導体デバイス構造を形成するIII−V族化合物半導体エピタキシャルウェハの製造方法において、前記半導体デバイス構造は、構造中に少なくともエミッタ層を含むと共に最上層にn型In
xGa
(1-x)As層(0≦x≦1)からなるコンタクト層を有することとし、前記コンタクト層を形成する際に、成長温度を500℃以下とし、Siの供給原料としてトリエチルシラン又はテトラエチルシランを用いて不純物としてのSiを8.0×10
18cm
-3以上2.0×10
19cm
-3以下ドーピングし、前記コンタクト層の表面粗さ(Haze値)を200ppm以上2000ppm以下とし、且つ、前記半導体デバイス構造を燐酸系エッチング液でエッチングし前記エミッタ層を露出させた際の前記エミッタ層の表面粗さ(二乗平均平方根粗さ)を0.1nm以上0.5nm以下とするIII−V族化合物半導体エピタキシャルウェハの製造方法である。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、コンタクト層に含有する不純物としてSiを採用した場合でも、その不純物濃度を高くすることができ、且つ、コンタクト層に含有する不純物としてSeやTeを採用した場合(つまり、コンタクト層の成長温度を500℃以下とした場合)と同等の表面粗さとすることができるIII−V族化合物半導体エピタキシャルウェハ及びその製造方法を提供することができる。
【0025】
更に、本発明のIII−V族化合物半導体エピタキシャルウェハを用いた半導体デバイスは、オフ状態でのバッファリーク電流を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の好適な実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0028】
図1に示すように、本実施の形態に係るIII−V族化合物半導体エピタキシャルウェハ10は、単結晶基板11と、単結晶基板11上に形成されると共に後述するエミッタ層155を有する半導体デバイス構造12と、半導体デバイス構造12上の最上層に形成されると共にn型In
xGa
(1-x)As層(0≦x≦1)からなるコンタクト層13と、を備え、コンタクト層13は、不純物としてSiを8.0×10
18cm
-3以上2.0×10
19cm
-3以下含有し、表面粗さ(Haze値)が200ppm以上2000ppm以下であり、半導体デバイス構造12を燐酸系エッチング液でエッチングしてエミッタ層155を露出させた際のエミッタ層155の表面粗さ(二乗平均平方根粗さ;RMS)が0.1nm以上0.5nm以下であることを特徴とする。
【0029】
半導体デバイス構造12は、例えば、単結晶基板11上に積層されたHEMT構造14及びHBT構造15からなるBiFET構造である。
【0030】
コンタクト層13は、表面粗さ(Haze値)が1000ppm以下であることがより好ましく、Siの供給原料としてトリエチルシラン又はテトラエチルシラン等の有機金属材料を用いて形成される。
【0031】
不純物としてSeやTeを含有するコンタクト層を用いた場合には、メモリー効果が発生しやすく、その影響によりエミッタ層の表面が1nm以上(二乗平均平方根粗さ)に荒れてしまう。このようなIII−V族化合物半導体エピタキシャルウェハを半導体デバイスに用いた場合、バッファリーク電流が大きくなってしまう。
【0032】
これに対し、不純物としてSiを含有するコンタクト層13を用いた場合には、メモリー効果の影響を小さくすることができ、エミッタ層の表面粗さ(二乗平均平方根粗さ)が0.1nm以上0.5nm以下と小さくなる。
【0033】
なお、エミッタ層の表面粗さは、電極を形成する際などに、エミッタ層上のコンタクト層などの一部をエッチング除去し、エミッタ層表面をAFM観察することで測定できる。
【0034】
図2を見ると、不純物としてTeを含有するコンタクト層を燐酸系エッチング液でエッチングし露出したエミッタ層の表面は、
図2(a)に示すように2〜3nmの凹凸があり、表面粗さ(二乗平均平方根粗さ)は0.84nmとなっている。不純物としてSeを含有するコンタクト層を燐酸系エッチング液でエッチングし露出したエミッタ層の表面は、
図2(b)に示すように3〜8nmの突起のようなものがあり、表面粗さ(二乗平均平方根粗さ)は1.5nmと荒れていることが分かる。一方、不純物としてSiを含有するコンタクト層13を燐酸系エッチング液でエッチングし露出したエミッタ層の表面粗さ(二乗平均平方根粗さ)は0.29nmであり、
図2(c)からも分かるように、表面が非常に平坦で、0.5nm以下の表面粗さ(二乗平均平方根粗さ)を実現することが可能であった。
【0035】
以下、具体的な構成の一例を説明する。
【0036】
図3(a)に示すように、HEMT構造14は、半絶縁性GaAs基板からなる単結晶基板11上に形成されると共にアンドープGaAs層からなるバッファ層141と、バッファ層141上に形成されると共にn型AlGaAs層からなる電子供給層142と、電子供給層142上に形成されると共にアンドープAlGaAs層からなるスペーサ層143と、スペーサ層143上に形成されると共にアンドープInGaAs層からなるチャネル層144と、チャネル層144上に形成されると共にアンドープAlGaAs層からなるスペーサ層145と、スペーサ層145上に形成されると共にn型AlGaAs層からなる電子供給層146と、電子供給層146上に形成されると共にアンドープGaAs層からなるショットキー層147と、からなる。
【0037】
また、HBT構造15は、HEMT構造14上に形成されると共にn型InGaP層からなるストッパ層151を挟み、ストッパ層151上に形成されると共にn型GaAs層からなるサブコレクタ層152と、サブコレクタ層152上に形成されると共にn型GaAs層からなるコレクタ層153と、コレクタ層153上に形成されると共にp型GaAs層からなるベース層154と、ベース層154上に形成されると共にn型InGaP層からなるエミッタ層155と、エミッタ層155上に形成されると共にn型GaAs層からなるバラスト層156と、からなる。
【0038】
これらHEMT構造14とHBT構造15とでBiFET構造である半導体デバイス構造12が構成される。
【0039】
コンタクト層13は、半導体デバイス構造12上に形成されると共にIn組成が0からxまで徐々に増加するグレーデッド層131と、グレーデッド層131上に形成されると共にIn組成が一定である均一層132と、からなる。
【0040】
このとき、グレーデッド層131のカーボンバック濃度が1.0×10
16cm
-3以上1.0×10
18cm
-3以下であることが好ましい。コンタクト層13の材料となる有機金属材料は、成長温度が低くなるにつれてp型の不純物であるカーボンが自然に混入され、n型の不純物のドーピング量を多くする必要が生じる。これを回避すべく、カーボンバック濃度を1.0×10
16cm
-3以上1.0×10
18cm
-3以下と低い値に規定した。
【0041】
また、コンタクト層13は、半導体デバイス構造12上に形成されると共にIn組成が0からxまで徐々に増加するグレーデッド層131のみからなっても良いし、半導体デバイス構造12上に形成されると共にIn組成が一定である均一層132のみからなっても良い。
【0042】
なお、III−V族化合物半導体エピタキシャルウェハ10は、電極面積を1.0×10
4μm
2、電極間距離を5μm、電圧値を20Vとしたとき、バッファリーク電流値(バッファ層141におけるリーク電流値)が1.0×10
-10A以上1.0×10
-6A以下であることが好ましい。
【0043】
更に、
図3(b)に示すように、III−V族化合物半導体エピタキシャルウェハ10を用いて半導体デバイス20を作製する際には、例えば、適宜エッチング等を行ってサブコレクタ層152及びベース層154の表面を露出させ、サブコレクタ層152上にコレクタ電極161、ベース層154上にベース電極162、最表面の均一層132上にエミッタ電極163をそれぞれ形成すると良い。
【0044】
また、コンタクト層13の表面を観察すると共に、電極形成時にコンタクト層等の一部をエッチング除去し、エミッタ層155の表面を露出させて観察し、III−V族化合物半導体エピタキシャルウェハ10の信頼性を確認すると良い。
【0045】
これまで説明してきたIII−V族化合物半導体エピタキシャルウェハを製造するためには、単結晶基板11上にエミッタ層155を有する半導体デバイス構造12を形成し、半導体デバイス構造12上の最上層にn型In
xGa
(1-x)As層(0≦x≦1)からなるコンタクト層13を形成するのであるが、コンタクト層13を形成する際に、成長温度を500℃以下とし、Siの供給原料としてトリエチルシラン又はテトラエチルシランを用いて不純物としてのSiを8.0×10
18cm
-3以上2.0×10
19cm
-3以下ドーピングし、コンタクト層13の表面粗さ(Haze値)を200ppm以上2000ppm以下とし、且つ、コンタクト層13等を燐酸系エッチング液でエッチングした際のエミッタ層155の表面粗さ(二乗平均平方根粗さ)を0.1nm以上0.5nm以下とすることでIII−V族化合物半導体エピタキシャルウェハ10が得られる。
【0046】
ここで各数値限定の根拠について述べる。
【0047】
1.不純物濃度の根拠
SeやTeをドーピングしてコンタクト層の不純物濃度を2.0×10
19cm
-3以上にした場合には、SeやTeのメモリー効果の影響により、次にIII−V族化合物半導体エピタキシャルウェハを製造するに際し、半導体デバイス構造の下層にSeやTeが混入し、作製されたIII−V族化合物半導体エピタキシャルウェハのバッファリーク電流値が1.0×10
-3Aと高い値になる。
【0048】
また、SeやTeをドーピングして不純物濃度を2.0×10
19cm
-3以上としたコンタクト層を用いない場合には、III−V族化合物半導体エピタキシャルウェハのバッファリーク電流値が1.0×10
-6A以下となるが、コンタクト抵抗を下げることができない。
【0049】
これに対し、供給原料としてSi
2H
6ガスを用いてSiをドーピングしたコンタクト層を用いる場合には、不純物によるメモリー効果の影響が少ないため、III−V族化合物半導体エピタキシャルウェハのバッファリーク電流値を1.0×10
-6A以下に抑制できるが、不純物濃度を2.0×10
19cm
-3以上とするためには、コンタクト層の成長温度を500℃より高くする必要がある。
【0050】
ところが、Siのドーピング量を増やすためにコンタクト層の成長温度を500℃より高くすると、コンタクト層の表面が荒れてしまうという問題があるため、ドーピング量を増やして不純物濃度を2.0×10
19cm
-3以上とすることは難しい。そのため、コンタクト層13の不純物濃度の上限値を2.0×10
19cm
-3とした。
【0051】
一方、下限値については、表面ピンニングの影響により、コンタクト層の不純物濃度を1.0×10
19cm
-3以上とする必要があると言われているが、実際に8.0×10
18cm
-3としても1.0×10
19cm
-3とした場合と比べてHBT構造の静特性に大きな違いは見られなかったこと、HEMT構造ではコンタクト層(前述した構造のショットキー層147に相当する層)にGaAs層を用いていることが多く、その不純物濃度は5.0×10
18cm
-3程度なので、8.0×10
18cm
-3としても問題はないと考えられることから、8.0×10
18cm
-3とした。
【0052】
なお、表面ピンニングの影響が懸念されるので、コンタクト層13の不純物濃度としては1.0×10
19cm
-3前後を狙うことが最も望ましい。なお、不純物濃度は、SIMS(Secondary Ion Mass Spectrometry)により測定した。
【0053】
実際に不純物としてTe、Se、又はSiを含有するコンタクト層を備えたIII−V族化合物半導体エピタキシャルウェハを製造し、そのメモリー効果の影響を調べたところ、
図4に示す結果となった。
【0054】
図4を見ると、不純物としてTeを4.0×10
19cm
-3含有するコンタクト層のバッファリーク電流値を示すラインA、不純物としてSeを2.0×10
19cm
-3含有するコンタクト層のバッファリーク電流値を示すラインB、不純物としてTeを4.0×10
19cm
-3含有するコンタクト層のバッファリーク電流値を示すラインC、及び不純物としてSiを2.0×10
19cm
-3含有するコンタクト層のバッファリーク電流値を示すラインDが示される。
【0055】
ラインA又はDは、前回のIII−V族化合物半導体エピタキシャルウェハの製造の際にTe又はSiを用い、その後に連続的にIII−V族化合物半導体エピタキシャルウェハを成長させた場合の結果である。
【0056】
また、ラインB,Cは、前回のIII−V族化合物半導体エピタキシャルウェハの製造の際にTeやSeを用いることなく、その後にIII−V族化合物半導体エピタキシャルウェハを成長させた場合の結果である。
【0057】
これらの結果から分かるように、コンタクト層の不純物としてSiを用いることで、TeやSeを用いた場合に比べて、同一の製造装置による連続成長を行った場合でもバッファリーク電流値が大幅に低減されている。
【0058】
2.表面粗さ(Haze値)の根拠
SeやTeをドーピングしたコンタクト層の表面粗さ(Haze値)は200ppm以上1000ppm以下であり、Siをドーピングしたコンタクト層においてもこれと同等の表面粗さ(Haze値)を得るため、下限値を200ppmとした。
【0059】
一方、上限値に関しては、従来、SiをドーピングしたInGaAs層からなるコンタクト層の表面粗さ(Haze値)が4000ppm程度であり、本発明ではSiの供給原料としてトリエチルシラン又はテトラエチルシラン等の有機金属材料を用いることにより、2000ppm以下にまで改善することができたため、2000ppm以下、好ましくは1000ppm以下とした。
【0060】
3.表面粗さ(二乗平均平方根粗さ)の根拠
従来、SeやTeをドーピングした際、コンタクト層を燐酸系エッチング液でエッチングしたときのエミッタ層の表面粗さ(二乗平均平方根粗さ)は1nm以上3nm以下程度であったが、不純物をSiとすることにより、0.1nm以上1.0nm以下の範囲で制御できるようになった。
【0061】
この範囲の中で好適な範囲として、コンタクト層13の燐酸系エッチング液でエッチングした際のエミッタ層の表面粗さ(二乗平均平方根粗さ)を0.1nm以上0.5nm以下と規定した。
【0062】
このような構成のIII−V族化合物半導体エピタキシャルウェハ10によれば、不純物としてSiを含有するコンタクト層13を採用しているため、SeやTeをドーピングしたコンタクト層を採用した場合と比べて不純物のメモリー効果の影響が少なく、燐酸系エッチング液でエッチングした際のエミッタ層の表面粗さ(二乗平均平方根粗さ)を0.1nm以上0.5nm以下と平坦にすることができると共に、III−V族化合物半導体エピタキシャルウェハを用いた半導体デバイスはバッファリーク電流値を1.0×10
-10A以上1.0×10
-6A以下に抑制できる。
【0063】
また、III−V族化合物半導体エピタキシャルウェハ10によれば、Siの供給原料として、従来のSi
2H
6ガスに代えて、トリエチルシラン又はテトラエチルシラン等の有機金属材料を用いているため、コンタクト層13の成長温度を500℃以下としても、その不純物濃度を8.0×10
18cm
-3以上2.0×10
19cm
-3以下とすることができ、その結果、Si
2H
6ガスを用いてSiを高不純物濃度でドーピングした従来のコンタクト層に比べて、エッチング前のコンタクト層の表面粗さ(Haze値)を200ppm以上2000ppm以下、好ましくは1000ppm以下と小さくすることができる。
【0064】
これらにより、低抵抗なバッファ層141と高抵抗なコンタクト層13とを有するIII−V族化合物半導体エピタキシャルウェハ10を実現できる。
【0065】
よって、本発明によれば、コンタクト層に含有する不純物としてSiを採用した場合でも、その不純物濃度を高くすることができ、且つ、コンタクト層に含有する不純物としてSeやTeを採用した場合(つまり、コンタクト層の成長温度を500℃以下とした場合)と同等の表面粗さとすることができるIII−V族化合物半導体エピタキシャルウェハ及びその製造方法を提供することができる。
【0066】
なお、本実施の形態においては、半導体デバイス構造12は、単結晶基板11上に積層されたHEMT構造14及びHBT構造15からなるBiFET構造であるとしたが、HEMT構造単独、又はHBT構造単独のいずれかであっても良い。この場合にも同様に、最上層に本発明を適用する。
【0067】
また、コンタクト層13の不純物としてSiのみを用いたが、TeやSeをSiと同時にドーピングしても構わない。TeやSeの含有濃度が1.0×10
19cm
-3以下であれば、本発明と同様の特性を得られる。
【実施例】
【0068】
次に、本発明の実施例を説明する。
【0069】
【表1】
【0070】
表1に示すように、コンタクト層の構成と膜厚を実施例毎に種々に変更し、不純物濃度と表面粗さ(Haze値)とがどのようになるか調査した。
【0071】
(実施例1)
半絶縁性GaAs基板からなる単結晶基板上にHEMT構造及びHBT構造を積層し、そのHBT構造上の最上層に本発明を適用したコンタクト層を形成した。
【0072】
コンタクト層の構成は、Siの供給原料としてはテトラエチルシランを用い、n型In
xGa
(1-x)As層(x=0→0.5)からなるグレーデッド層を50nm積層し、n型In
xGa
(1-x)As層(x=0.5)からなる均一層を50nm積層したものとし、500℃以下の成長温度でコンタクト層を形成した。
【0073】
その結果、コンタクト層の不純物濃度は1.4×10
19cm
-3であり、表面粗さ(Haze値)は1000ppmであった。
【0074】
(実施例2)
実施例1よりも成長温度を30℃下げ、それ以外の条件は実施例1と同じにしてコンタクト層を形成した。
【0075】
その結果、コンタクト層の不純物濃度は1.1×10
19cm
-3であり、表面粗さ(Haze値)は500ppmであった。
【0076】
(実施例3)
実施例2と同じ条件でコンタクト層の厚さを変えた。即ち、コンタクト層として、n型In
xGa
(1-x)As層(x=0→0.5)からなるグレーデッド層を30nm積層し、n型In
xGa
(1-x)As層(x=0.5)からなる均一層を40nm積層した。
【0077】
その結果、コンタクト層の不純物濃度は1.2×10
19cm
-3であり、表面粗さ(Haze値)は300ppmであった。
【0078】
(実施例4)
コンタクト層の構成は、n型In
xGa
(1-x)As層(x=0→0.8)からなるグレーデッド層を90nm積層したものとした。
【0079】
その結果、コンタクト層の不純物濃度は1.3×10
19cm
-3であり、表面粗さ(Haze値)は700ppmであった。
【0080】
(実施例5)
コンタクト層の構成は、n型In
xGa
(1-x)As層(x=0→0.8)からなるグレーデッド層を60nm積層したものとした。
【0081】
その結果、コンタクト層の不純物濃度は1.3×10
19cm
-3であり、表面粗さ(Haze値)は300ppmであった。
【0082】
以上の通り、全ての実施例でコンタクト層の表面粗さ(Haze値)を200ppm以上2000ppm以下とすることができた。