(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/00−37/02,37/05,37/09−37/18,37/21,37/24,37/244,37/252−37/295,33/00−33/04
【背景技術】
【0002】
物体の微小な領域を観察するために、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)などが用いられる。一般的に、これらの装置では試料を配置するための第2の筐体を真空排気し、試料雰囲気を真空状態にして試料を撮像する。一方、生物化学試料や液体試料など真空によってダメージを受ける、あるいは状態が変わる試料を電子顕微鏡で観察したいというニーズは大きく、近年、観察対象試料を大気圧下で観察可能なSEM装置や試料保持装置などが開発されている。
【0003】
これらの装置は、原理的には電子光学系と試料の間に電子線が透過可能な薄膜あるいは微小な貫通孔を設けて真空状態と大気状態を仕切るもので、いずれも試料と電子光学系との間に薄膜を設ける点で共通する。
【0004】
例えば、特許文献1(特開2009−245944号公報)には、電子線を通過させるアパーチャを上面側に設けたシャーレ状の円筒容器内に観察試料を格納し、この円筒容器をSEM第2の筐体内に設け、更に当該円筒容器に第2の筐体の外部からホースを接続することにより容器内部を擬似的に大気雰囲気に維持できる環境セルの発明が開示されている。ここで「擬似的」とは、第2の筐体内部を真空排気するとアパーチャから気体が流出するため、厳密には大気圧の環境下で観察を行っているわけではないという意味である。
【0005】
特許文献2(特開2007−294365号公報)には、電子光学鏡筒の電子源側を下向きに、また対物レンズ側を上向きに配置し、電子光学鏡筒末端の電子線の出射孔上にOリングを介して電子線が透過できる薄膜を設けた大気圧SEMが開示されている。当該文献に記載された発明では、観察対象試料を薄膜上に直接載置し、試料の下面から一次電子線を照射して、反射電子あるいは二次電子を検出してSEM観察を行う。試料の保持は薄膜の周囲に設置された環状部材により行う。特許文献2に開示された発明により、特に液体試料の観察に好適な大気圧SEMが実現される。
【0006】
また、大気圧SEMの発明ではないが、特許文献3(特開2007−188821号公報)には、小型の電子光学鏡筒をシュラウド内に保持し、当該シュラウド下面に真空シール材を設けてシュラウド全体を観察対象物に密着させることにより、第2の筐体を用いずにSEM観察が可能な小型SEMの発明が開示されている。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下の説明は、電子線を用いたSEMを例にあげて説明を行うが、イオンビームを照射して二次電子や反射電子を検出するSIM(Scanning Ion Microscope)あるいは軽元素のイオンビームを使用したイオン顕微鏡など、他の荷電粒子線装置に適用可能であることは言うまでもない。また、以下に説明する各実施例は、本発明の範囲を逸脱しない範囲で適宜組み合わせることも可能である。
【実施例1】
【0014】
本実施例の荷電粒子装置の全体構成図を
図1に示す。
図1に示される装置は、荷電粒子線を試料6上に走査して、得られる二次電子あるいは反射電子を検出して画像化する走査型顕微鏡であり、大まかには、電子光学鏡筒2,当該電子光学鏡筒2を支持する第1の筐体7,観察対象試料が格納される第2の筐体8,第1の筐体7の下面に設けられた一次電子線が透過する薄膜10により構成される。電子光学鏡筒2は第1の筐体7内部に突き出すように設置されており、電子光学鏡筒2の端部には上記二次電子あるいは反射電子を検出する検出器3が配置されている。
図1に示す構成例では、検出器3は第1の筐体7の内部に設けられているが、電子光学鏡筒2内あるいは第2の筐体8の内部に配置してもよい。
【0015】
薄膜10に替えて、一次電子線が透過するための貫通孔を第1の筐体7の底面に設けてもよい。図中の一点鎖線は、一次電子線光軸を示しており、電子光学鏡筒2と第1の筐体7および薄膜10は、一次電子線光軸と同軸に組み立てられている。
【0016】
装置の制御系として、装置使用者が使用するパソコン35,パソコン35と接続され通信を行う上位制御部36,上位制御部36から送信される命令に従って真空排気系や電子光学系などの制御を行う下位制御部37を備える。パソコン35は、装置の操作画面(GUI)が表示されるモニタと、キーボードやマウスなどの操作画面への入力手段を備える。上位制御部36,下位制御部37およびパソコン35は、各々通信線43,44により接続される。下制御位部37は真空排気ポンプ4,ガス制御バルブ101,電子源0や光学レンズ1などを制御するための制御信号を送受信する部位であり、さらには検出器3の出力信号をディジタル画像信号に変換して上位制御部36へ送信する。上位制御部36と下位制御部37ではアナログ回路やディジタル回路などが混在していてもよく、また上位制御部36と下位制御部37が一つに統一されていてもよい。なお、
図1に示す制御系の構成は一例に過ぎず、制御ユニットやバルブ,真空排気ポンプあるいは通信用の配線などの変形例は、本実施例で意図する機能を満たす限り本実施例のSEMないし荷電粒子線装置の範疇に属する。
【0017】
電子光学鏡筒2は内部に電子光学系を格納しており、電子光学系は、一次電子線を放出する電子源0,電子線の軌道を制御する各種光学レンズ1や電子線の軌道を偏向する各種偏向器などを含んで構成される。装置がSIMあるいはイオン顕微鏡である場合、電子光学鏡筒2と電子光学系も荷電粒子光学鏡筒,荷電粒子光学系となり、電子源はイオン源となる。各種光学レンズおよび各種偏向器は、静電レンズあるいは静電偏向器で構成される。イオンビームの場合、磁場型のレンズ・偏向器を使用すると質量分離が起きるためである。
【0018】
電子光学鏡筒2および第1の筐体7内部(厳密には、第1の筐体7と電子光学鏡筒2の表面により構成される閉空間)は、少なくとも装置の動作中は真空排気ポンプ4により真空排気され、圧力が大気圧よりも低い状態に維持される。このため、第1の筐体7の電子光学鏡筒2に対する接合部には真空封止部材17が備えられる。一方、第2の筐体8は、内部を大気開放する開口部81(あるいは開口面)を備えており、試料の観察中は、内部が常時大気開放状態に置かれる。
【0019】
なお以降の説明では、第2の筐体8および第1の筐体7の内部の空間を、それぞれ第1の空間12,第2の空間11と称する場合もある。第2の空間11は薄膜10を通過する前の一次電子線の通過経路を含み、第1の空間12は薄膜10を通過した後の一次電子線の通過経路を含む。
【0020】
図1中、真空排気ポンプ4は1つで電子光学鏡筒2と第1の筐体7内部を真空排気しているが、2つ以上の真空ポンプを設けて電子光学鏡筒2と第1の筐体7を独立に排気してもよい。また、配管16は電子光学鏡筒2と第1の筐体の両者に接続されているが、別々の配管で接続してもよい。
【0021】
第1の筐体には、リークバルブ15が備えられ、装置停止時に第1の筐体7内部を大気開放するが、第1の筐体7での設置箇所は特に問わない。また、リークバルブ15は、二つ以上あってもよく、更には必ずしも設けなくともよい。
【0022】
薄膜10に替えて貫通孔を設ける場合、貫通孔の面積は1mm
2以下であることが望ましい。ターボ分子ポンプやロータリーポンプといった現実的に利用できる真空ポンプで差動排気を実現するためには、貫通孔の面積は1mm
2以下程度にする必要があるためである。第2の筐体8と第1の筐体は差動排気されることになるため、電子光学鏡筒2内部と第1の筐体を排気する真空ポンプを独立して設けた方がよい。
【0023】
また、貫通孔ではなく薄膜を設ける場合は、薄膜の厚みは20μm以下である必要がある。実用上SEMで利用される、加速電圧が数十kV程度の電子銃を使用する場合、電子線が透過する厚さは20μm程度であるためである。
【0024】
試料6は、試料台501上に設置され、第2の筐体8内に格納される。試料台501は各種の厚さのものが揃っており、観察試料の厚みに応じて適切な試料台を選択して第2の筐体8内に格納する。この作業は人手により行うことが必要であるが、これにより、薄膜10と観察試料表面間の距離を適切な大きさに調整できる。
【0025】
また、第2の筐体8が開口部81を備えていることにより、
図1に図示されるように筐体からはみ出るような大型の試料であっても筐体内に載置することができる。また、第2の筐体8内は常時大気開放されているため、SEM観察中であっても開口部81から筐体内部に手を挿入することが可能であり、試料台501を動かすことにより、SEM観察中に試料6の観察位置を変更することが可能である。
【0026】
従来の大気圧SEMの場合、観察中に試料の観察位置を変更することは極めて困難である。例えば、特許文献1に記載される環境セルの場合、観察対象試料は電子線通過アパーチャを備えたセル内に保持されているため、セルを動かせば、内部の試料だけでなく、電子線が透過するアパーチャも動いてしまう。従って、環境セル方式の場合、試料の特定の位置しか観察することができない。また、特許文献2に記載される大気圧SEMの場合、試料は薄膜と接触して配置されるため、観察中に試料を動かすと薄膜が破損して、電子光学系の真空が破れる危険性がある。従って、観察中に試料の観察位置を変更することは困難である。
【0027】
以上、本実施例により、通常のSEMの真空第2の筐体に入りきれない程度に大きな試料であっても観察可能な大気圧SEMが実現可能となる。また、荷電粒子線の透過位置は変更せずに、試料の観察位置を変えることが可能なSEMないし荷電粒子線装置が実現できる。
【実施例2】
【0028】
大気圧SEMの場合、薄膜と試料間の空間は大気雰囲気あるいは何らかのガス雰囲気に維持されるため電子線が散乱される。従って、良好な画像を撮像するためには、試料と薄膜間の距離はなるべく短い方が望ましいが、一方で、薄膜と試料間の距離が近すぎれば、薄膜の破損の危険性が生じる。
【0029】
従来技術で説明した特許文献1に記載の環境セルの場合、セルのアパーチャとセル内に保持する試料表面との距離を観察中に制御することはできず、必然的にセルに保持する試料のサイズを小さく調整することが必要である。また、特許文献2に記載の大気圧SEMは、試料と薄膜とを接触して配置することが前提であり、観察毎に薄膜を交換する必要がある。
【0030】
また実施例1では、試料と薄膜との距離を第2筐体内に配置される試料台501の厚みにより調整したが、より精密な調整ができたほうが観察上は都合がよいことは言うまでもない。
【0031】
そこで本実施例では、Zステージと距離計測手段を用いて、試料と薄膜間の距離を精密に調整することが可能な大気圧SEMの構成について説明する。
【0032】
図2に、本実施例の荷電粒子装置の全体構成図を示す。
図2に示す装置構成は
図1に示す装置構成と共通する部分が多いため、共通部分についての説明は省略し、相違点についてのみ説明する。
【0033】
図2に示すSEMは、
図1と同様、電子光学鏡筒2,当該電子光学鏡筒2を支持する第1の筐体7,観察対象試料が格納される第2の筐体8および
図1と同様の各種の制御系により構成されるが、本実施例のSEMの場合、薄膜10は薄膜支持部材47を介して第1の筐体7の下面に取り付けられている。薄膜支持部材47と薄膜10間の接合は、真空封止ができる限りどのような手段を用いてもよい。例えば、Oリングなどの真空封止部材を使ってもよいし、接着剤等の有機材料あるいはテープなどを使ってもよい。また、実施例1と同様、薄膜10に替えて貫通孔の開いた適当な板部材を使用してもよい。
【0034】
第1の筐体7の下面には環状の開口部が設けられており、薄膜支持部材47は、第1の筐体7の外側から上記開口部を覆うように取り付けられる。第1の筐体7および電子光学鏡筒2は真空排気ポンプ4で真空排気されるが、第1の筐体7の真空シールは上記開口部の外縁に設けられたOリングにより維持される。従って、薄膜支持部材47は第1の筐体7に対して脱着可能である。薄膜10は非常に薄いために非常にハンドリングが困難である。そこで、薄膜支持部材47に薄膜10の接着を装置外部にて行った後、薄膜10を具備した薄膜支持部材47を第一の筐体7に取り付けることで、交換が非常に容易となる。つまり、万一薄膜10が破損した場合には、薄膜支持部材47ごと交換するように構成される。
【0035】
本実施例のSEMは、第2の筐体8内に観察対象試料を保持し、位置駆動をするための試料ステージを備える。試料ステージは、試料6が載置される試料台5とZ駆動機構502,XY駆動機構503とを含んで構成される。試料6は、開口部81から第2の筐体8内に搬入される。また、第2の筐体8には、位置測定器14が備えられており、試料表面の高さおよび面内方向の位置検出が可能である。位置測定器14としては、例えば光学的な距離計が使用でき、光の種類としては、可視光,赤外光,レーザなどが使用できる。位置測定器14の測定結果は、下位制御部37,上位制御部36を経由してパソコン35に伝送され、モニタに表示される。装置使用者は、モニタに表示される測定結果を見ながらZ駆動機構502を操作し、試料表面が薄膜10に接触しない程度までに試料6を薄膜10に近づける。
図2に示すSEMでは、Z駆動機構502をマニュアル操作により移動させる構成を示しているが、Z駆動機構502にモータあるいはアクチュエータを取り付け、モニタ上のGUIでZ駆動機構502の移動量を操作できるように装置を構成することも可能である。
【0036】
上記の構成により、実施例1よりも薄膜10と試料6間の距離をより精密に制御可能なSEM、すなわち試料6を薄膜10により近づけることが可能なSEMが実現できる。従って、本実施例により、実施例1よりも高分解能のSEM画像を取得可能なSEMが実現できる。
【0037】
本実施例のSEMは、大気よりも質量の軽いガスを試料の一次電子線照射位置近傍に放出可能なガスノズル100を備える。ガスノズル100は、配管を介して上記軽元素ガスが充填されたガスボンベ103に接続される。配管の途中には、ガス制御バルブ101,ジャンクション102などが設けられる。通常、ガスボンベ103はSEMの構成要素ではなく装置使用者が事後的に接続するが、SEMの装置内に組み込まれた状態で販売される場合もありうる。
【0038】
薄膜10または貫通孔を通過した一次電子線は第2の筐体8内に侵入するが、第2の筐体8内は大気圧または低真空状態に維持されている。よって、侵入した一次電子線は窒素や酸素といった気体分子で散乱され、平均自由工程が第1の筐体7におけるそれよりも短くなる。平均自由工程が薄膜10と試料6の表面との距離よりも短ければ、電子線が試料まで届かなくなり、SEM観察が行えないことになる。
【0039】
一方、電子線の平均自由工程は、散乱原因である気体分子の質量が大きいほど短くなる。従って、大気を構成する主要元素である窒素や酸素よりも質量の軽い気体分子で第2の筐体8内の一次電子線の通過経路を満たせば、大気雰囲気よりも平均自由工程を長くすることができる。従って、本実施例のSEMはガスノズル100を備えており、水素ガス,ヘリウムガス,メタンガス,水蒸気などの軽元素ガスを試料の一次電子線照射位置近傍に放出する。これにより、第2の筐体8内に侵入した一次電子線が試料に届く確率が高くなり、従って試料から放出される反射電子あるいは二次電子の量を増大させ、かつ反射電子あるいは二次電子が第2の筐体8内で散乱される確率を低くすることができる。この結果、反射電子あるいは二次電子が検出器3に届く確率が高くなり、取得できるSEM画像の画質が向上する。
【0040】
本実施例のSEMは、検出器3に加えて、EDX検出器18を第1の筐体7内に備えており、観察試料の材料分析ができる。EDX検出器の他、蛍光線の検出器を備えてもよい。また、一次電子線が試料6に照射されると、試料に吸収電流が流れる。試料6から試料台に流れこむ電流を計測すれば、吸収電流(または吸収電子)を使った画像を取得することも可能である。このためには下位制御部37内に電流計を設け、また試料台5が電流検出機能を持つように試料台5の試料載置面を導電性材料で構成する。
【0041】
次に、本実施例のSEMにおける装置の操作画面に関し、
図3および
図4を用いて説明する。
【0042】
図3に示した操作画面では、例えば、操作用ウィンドウ50と、画像表示部51と、電子線の放出を開始し画像表示を開始させる画像観察開始ボタン52と、電子線の放出を停止し画像表示を停止させる画像観察停止ボタン53と、偏向レンズや対物レンズなどの光学レンズを調整してオートフォーカスを実行させる焦点調整ボタン54と、画像の明るさを調整する明るさ調整ボタン55やコントラストを調整するコントラスト調整ボタン56と、荷電粒子光学鏡筒2や第1の筐体7の内部の真空排気を開始させる真空排気ボタン57および第1の筐体7の内部を大気リークさせるための大気リークボタン58がある。真空排気ボタン57を画面上でクリックすると真空排気が開始され、再度クリックすると真空排気が停止される。大気リークボタン58の操作も同様である。上記のボタン操作により実行される処理は、装置本体についた機械的なボタンやつまみを操作して実行することもできる。
【0043】
操作用ウィンドウ50には、ガス制御バルブ101を開けてガスノズルからガスを放出させるガス放出開始ボタン112と、ガス制御バルブ101を閉じてガス放出を停止させるガス放出停止ボタン113とがある。
【0044】
本実施例の場合、ガス放出開始ボタン112を押した後、ガス放出停止ボタン113を押し忘れ、ガス制御バルブ101が開けっ放しになりガスボンベ103が空になる可能性がある。
図3に示すガス放出条件設定ボタン114を押すと、
図4に示すガス放出条件設定ウィンドウ118が開き、ガス放出を実行要否あるいはガス放出の継続時間といったガス放出条件を設定することが可能となる。ウィンドウ内に表示されるガス放出時間設定ボックス内にガス放出を継続したい時間を入力すると、ガス放出開始ボタン112のクリック後、入力した時間だけガス放出が継続し、時間経過後に自動停止する。なお、ガス放出の継続時間は
図4に示すような別ウィンドウで設定するのではなく、上位制御部36あるいは下位制御部37内に固定値として格納しておき、ガス放出開始ボタン112のクリック後、一定時間経過すると強制的にガス放出を停止するよう装置を構成してもよい。
【0045】
また、SEM画像の観察時に必ずガス放出を行いたい場合がある。その場合、
図4に示すガス放出実行チェックボックス119にチェックマークを入れておけば、画像観察開始ボタン52をクリックすると、クリックに連動して自動的にガス制御バルブ101が開き、画像観察停止ボタン53をクリックすることにより自動的にガス制御バルブ101が閉まる。この際にガス放出時間設定ボックス117内に数値を設定しておけば、設定時間経過後にガス制御バルブ101が閉まる。上の制御は下位制御部37により実行される。なお、上記の画像観察開始とガス放出開始の連動機能使用時であっても
図3に示されるガス放出開始ボタン112およびガス放出停止ボタン113は有効であり、ガス放出停止ボタン113をクリックすれば連動機能により開始されたガス放出を停止させることができる。
【実施例3】
【0046】
本実施例は、観察対象試料と薄膜が一定値以上に近づかないように薄膜−試料間の距離を制限する制限部材を一次電子線を透過ないし通過させる薄膜の試料対向面に備えるSEMの構成例について説明する。
【0047】
図5には本実施例のSEMの構成図を模式図で示した。簡単のため、制御系は省略して図示しているが、実際には、
図1,
図2と同様、電子光学系や真空排気系を制御するための制御手段を備えている。
【0048】
さて、薄膜−試料間の距離は、一次電子線の通過経路の雰囲気によらず、できるだけ短いことが望ましいが、一方で、薄膜と試料とが接近すれば薄膜が破損する確率が大きくなる。特に電子線を透過するタイプの薄膜を使用する場合、この問題は深刻である。
【0049】
これを解決するためには、
図5に示すように薄膜と試料の接触を防止する制限部材105を薄膜10の試料対向面側に設けるとよい。制限部材105としては、試料と薄膜間の距離を制限できるものなら何を使用してもよいが、簡便には、薄膜10の試料対向面側に接着剤やテープを貼り付けて制限部材105として使用することもできる。ただし、薄膜10を通過した一次電子線の平均自由工程を考えれば、制限部材105は厚みが正確にわかっている薄膜材料で作製することが好ましい。また、
図5では制限部材105は薄膜10に取り付けられているが、薄膜支持部材47や試料台5に取り付けてもよく、あるいは試料6の上に載せてもよい。更に、制限部材105を着脱可能としてもよい。
【0050】
薄膜と試料との距離を小さくすると分解能が高くなる。そのために、非常に薄い制限部材105を取り付けておくことが望ましい。但し、試料によっては、高分解能が必要でない場合は、ある程度の厚みのある制限部材105に付け替えておくことも必要である。ある程度の厚みのある制限部材の方が、薄膜破損の可能性を小さくすることが可能である。このため、制限部材105を着脱可能な構成にする効果がある。
【0051】
このように制限部材105を設けることで、誤操作により試料を薄膜に近づけすぎた場合の薄膜の破損を防止することができる。
【実施例4】
【0052】
本実施例では、SEMの薄膜−試料間距離を変更する機構を備えたSEMの構成例について説明する。実施例2および3で説明したSEMは試料をZステージで移動することにより薄膜−試料間距離を調整したが、本実施例では電子光学鏡筒2と第2の鏡体を含むSEMの上部構造を可動式にすることにより薄膜−試料間距離を調整する。
【0053】
図6に本実施例のSEMの全体構造を示す。
図5と同様、各種の制御系は省略して図示している。本実施例のSEMでは、電子光学鏡筒2の上部に駆動機構200が備えられており、駆動機構200が電子光学鏡筒2および第1の筐体7全体を上下方向に動かすことにより、薄膜10と試料台21上に載置された試料6との相対距離を調整する。衝突防止のため、薄膜10の試料対向面側には制限部材105が設けられており、更に第1の筐体7の底面から突き出したフランジ部19には位置測定器14が設けられている。薄膜10は薄膜支持部材47に取り付けられており、第1の筐体7に対して脱着可能に構成されている。
【0054】
図6の構造では、真空ポンプ4や配管16も電子光学鏡筒2および第1の筐体7と連動して可動するが、配管16と電子光学鏡筒2および第1の筐体7との間に真空シール性を有する摺動部材を設けて、駆動機構200の動作時に真空ポンプ4や配管16が動かないように構成することもできる。
【0055】
本実施例のSEMにおいては、電子光学鏡筒2および第1の筐体7は支柱20により支えられるため、電子光学鏡筒2および第1の筐体7を含む装置全体を支える機能部材としての第2の筐体が不要である。従って、本実施例の構造のSEMは、特に大型の試料を切断せずにそのまま観察する場合などに適している。あるいは、ベルトコンベアのように非常に大きな試料台を有する場合に適している。
図7には、薄膜−試料間距離を変更する機構を備えたSEMの更に別の変形例を示す。
図7に示すSEMは、薄膜支持部材47に第1の筐体7に対する摺動性を持たせて、駆動機構201により薄膜支持部材47を可動にする。薄膜支持部材47と第1の筐体7との真空シールは真空封止機構124により実現されるが、真空封止機構124は摺動性を持つ必要がある。
【0056】
図7に示すSEMは、Z駆動機構502と駆動機構201の両方で薄膜−試料間距離を調整できる。例えば、試料のZ駆動を粗く行いたい場合はZ駆動機構502を使う、細かく行いたい場合は駆動機構201を使う、などの使い分けができる。
【0057】
また、SEMの対物レンズから試料までの距離つまり焦点距離を短くしたい場合はZ駆動機構502により試料を薄膜10に近づけ、焦点距離を長くしたい場合は駆動機構201を使って薄膜10を試料に近づける、などとすることができる。
【0058】
また、試料6がベルトコンベアにのっているような構成の場合、ベルトコンベアにZ駆動機構502を搭載することが難しい場合もある。その際は、
図7のように薄膜側を駆動させる駆動機構201が非常に有用である。
【0059】
また、試料6が非常に大きく、
図7に示す装置が非常に小さい装置の場合、試料6自体を動かすことは非常に困難となる場合がある、その場合は、試料6の位置は固定しておき、薄膜側を駆動させて薄膜10を試料に近づけるのが望ましい。
【実施例5】
【0060】
図8には、軽元素ガスを観察位置に供給するガスノズルの配置の変形例を示す。以上説明してきた各実施例では、ガスノズル100は第1の筐体7の底面に配置され、第2の筐体8の開口部81あるいは第1の筐体7の底面の側方から導入されているが、本実施例では、第1の筐体7内に配管を導入し、薄膜支持部材47にノズルを挿入することで、薄膜支持部材47側から軽元素ガスを試料表面に供給する。薄膜10自体にガスノズルを挿入することも可能であるが、薄膜支持部材47の脱着時に薄膜10を破損する可能性が高いので、ガスノズルは薄膜支持部材47に挿入した方がよい。
【0061】
本実施例の場合、薄膜10と試料6の間に余計な構造物がないため、各実施例のSEMと比較して薄膜−試料間距離をより短くしてSEM観察を行うことができる。衝突防止のため制限部材を設けてもよいことはいうまでもない。