(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
芳香族ジハロゲノスルホン化合物、芳香族ジヒドロキシ化合物、塩基及び有機極性溶媒を配合し、前記芳香族ジハロゲノスルホン化合物及び芳香族ジヒドロキシ化合物を重縮合反応させることにより、芳香族ポリスルホンを製造する方法であって、
前記芳香族ジハロゲノスルホン化合物及び芳香族ジヒドロキシ化合物の配合量を、下記(a)の要件を満たすようにし、
生成する前記芳香族ポリスルホンの還元粘度を0.55〜0.64dL/gとすることを特徴とする芳香族ポリスルホンの製造方法。
(a)[芳香族ジハロゲノスルホン化合物(モル)/芳香族ジヒドロキシ化合物(モル)]のモル比が1.022〜1.026である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に係る芳香族ポリスルホンの製造方法は、芳香族ジハロゲノスルホン化合物、芳香族ジヒドロキシ化合物、塩基及び有機極性溶媒を配合し、前記芳香族ジハロゲノスルホン化合物及び芳香族ジヒドロキシ化合物を重縮合反応させることにより、芳香族ポリスルホンを製造する方法であって、前記芳香族ジハロゲノスルホン化合物及び芳香族ジヒドロキシ化合物の配合量を、下記(a)の要件を満たすようにし、生成する前記芳香族ポリスルホンの還元粘度を0.55〜0.64dL/gとすることを特徴とする。
(a)[芳香族ジハロゲノスルホン化合物(モル)/芳香族ジヒドロキシ化合物(モル)]のモル比が1.022〜1.027である。
【0012】
本発明において、前記芳香族ポリスルホンは、典型的には、2価の芳香族基(芳香族化合物から、その芳香環に結合した水素原子を2個除いてなる残基)と、スルホニル基(−SO
2−)と、酸素原子とを含む繰返し単位を有する樹脂である。
芳香族ポリスルホンは、耐熱性や耐薬品性の点から、下記一般式(1)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(1)」ということがある。)を有することが好ましく、さらに、下記一般式(2)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(2)」ということがある。)や、下記一般式(3)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(3)」ということがある。)等の他の繰返し単位を1種以上有していてもよい。
【0013】
(1)−Ph
1−SO
2−Ph
2−O−
(式中、Ph
1及びPh
2はそれぞれ独立にフェニレン基であり、前記フェニレン基の1個以上の水素原子は、それぞれ独立にアルキル基、アリール基又はハロゲン原子で置換されていてもよい。)
【0014】
(2)−Ph
3−R−Ph
4−O−
(式中、Ph
3及びPh
4はそれぞれ独立にフェニレン基であり、前記フェニレン基の1個以上の水素原子は、それぞれ独立にアルキル基、アリール基又はハロゲン原子で置換されていてもよい。Rはアルキリデン基、酸素原子又は硫黄原子である。)
【0015】
(3)−(Ph
5)
n−O−
(式中、Ph
5はフェニレン基であり、前記フェニレン基の1個以上の水素原子は、それぞれ独立にアルキル基、アリール基又はハロゲン原子で置換されていてもよい。nは1〜3の整数であり、nが2以上である場合、複数存在するPh
5は、互いに同一でも異なっていてもよい。)
【0016】
Ph
1〜Ph
5のいずれかで表されるフェニレン基は、p−フェニレン基であってもよいし、m−フェニレン基であってもよいし、o−フェニレン基であってもよいが、p−フェニレン基であることが好ましい。
前記フェニレン基の水素原子を置換していてもよいアルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基、n−ノニル基及びn−デシル基が挙げられ、その炭素数は、1〜10であることが好ましい。
前記フェニレン基の水素原子を置換していてもよいアリール基の例としては、フェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、1−ナフチル基及び2−ナフチル基が挙げられ、その炭素数は、6〜20であることが好ましい。
前記フェニレン基の水素原子を置換していてもよいハロゲン原子の例としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられる。
前記フェニレン基の水素原子がこれらの基で置換されている場合、その数は、前記フェニレン基毎に、それぞれ独立に好ましくは2個以下、より好ましくは1個である。
【0017】
Rである前記アルキリデン基の例としては、メチレン基、エチリデン基、イソプロピリデン基及び1−ブチリデン基が挙げられ、その炭素数は、好ましくは1〜5である。
【0018】
芳香族ポリスルホンは、これを構成する全繰返し単位の合計量に対して、繰返し単位(1)を50モル%以上有することが好ましく、80モル%以上有することがより好ましく、繰返し単位として実質的に繰返し単位(1)のみを有することがさらに好ましい。なお、芳香族ポリスルホンは、繰返し単位(1)〜(3)を、それぞれ独立に、2種以上有してもよい。
【0019】
前記芳香族ジハロゲノスルホン化合物及び芳香族ジヒドロキシ化合物は、芳香族ポリスルホンを構成する繰返し単位に対応するものである。そして、芳香族ジハロゲノスルホン化合物は、一分子中に芳香環と、スルホニル基(−SO
2−)と、2個のハロゲノ基とを有する化合物であればよい。また、芳香族ジヒドロキシ化合物は、一分子中に芳香環と、2個のヒドロキシル基とを有する化合物であればよい。
【0020】
例えば、繰返し単位(1)を有する芳香族ポリスルホンは、芳香族ジハロゲノスルホン化合物として、下記一般式(4)で表される化合物(以下、「化合物(4)」ということがある。)を用い、芳香族ジヒドロキシ化合物として下記一般式(5)で表される化合物(以下、「化合物(5)」ということがある。)を用いることにより、製造することができる。
また、繰返し単位(1)と繰返し単位(2)とを有する芳香族ポリスルホンは、芳香族ジハロゲノスルホン化合物として化合物(4)を用い、芳香族ジヒドロキシ化合物として下記一般式(6)で表される化合物(以下、「化合物(6)」ということがある。)を用いることにより、製造することができる。
また、繰返し単位(1)と繰返し単位(3)とを有する芳香族ポリスルホンは、芳香族ジハロゲノスルホン化合物として化合物(4)を用い、芳香族ジヒドロキシ化合物として下記一般式(7)で表される化合物(以下、「化合物(7)」ということがある。)を用いることにより、製造することができる。
【0021】
(4)X
1−Ph
1−SO
2−Ph
2−X
2
(式中、X
1及びX
2は、それぞれ独立にハロゲン原子である。Ph
1及びPh
2は、前記と同義である。)
【0022】
(5)HO−Ph
1−SO
2−Ph
2−OH
(式中、Ph
1及びPh
2は、前記と同義である。)
【0023】
(6)HO−Ph
3−R−Ph
4−OH
(式中、Ph
3、Ph
4及びRは、前記と同義である。)
【0024】
(7)HO−(Ph
5)
n−OH
(式中、Ph
5及びnは、前記と同義である。)
【0025】
化合物(4)において、X
1及びX
2は、それぞれ独立にハロゲン原子であり、前記フェニレン基の水素原子を置換していてもよいハロゲン原子と同じものが挙げられる。
【0026】
化合物(4)の例としては、ビス(4−クロロフェニル)スルホン及び4−クロロフェニル−3’,4’−ジクロロフェニルスルホンが挙げられる。
化合物(5)の例としては、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)スルホン及びビス(4−ヒドロキシ−3−フェニルフェニル)スルホンが挙げられる。
化合物(6)の例としては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)スルフィド及びビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテルが挙げられる。
化合物(7)の例としては、ヒドロキノン、レゾルシン、カテコール、フェニルヒドロキノン、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、2,2’−ジヒドロキシビフェニル、3,5,3’,5’−テトラメチル−4,4’−ジヒドロキシビフェニル、2,2’−ジフェニル−4,4’−ジヒドロキシビフェニル及び4,4’−ジヒドロキシ−p−クオターフェニルが挙げられる。
【0027】
化合物(4)以外の芳香族ジハロゲノスルホン化合物の例としては、4,4’−ビス(4−クロロフェニルスルホニル)ビフェニルが挙げられる。
【0028】
本発明においては、芳香族ジハロゲノスルホン化合物及び芳香族ジヒドロキシ化合物の全部又は一部に代えて、4−ヒドロキシ−4’−(4−クロロフェニルスルホニル)ビフェニル等の、分子中にハロゲノ基及びヒドロキシル基を有する化合物を用いることもできる。
【0029】
本発明においては、目的とする芳香族ポリスルホンの種類に応じて、芳香族ジハロゲノスルホン化合物及び芳香族ジヒドロキシ化合物は、いずれも、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0030】
前記塩基は、芳香族ジヒドロキシ化合物のヒドロキシル基を活性化できるものであればよく、なかでもアルカリ金属塩であることが好ましく、炭酸のアルカリ金属塩であることがより好ましい。
炭酸のアルカリ金属塩は、正塩である炭酸アルカリであってもよいし、酸性塩である重炭酸アルカリ(炭酸水素アルカリ)であってもよいし、正塩及び酸性塩の混合物であってもよい。炭酸アルカリとしては、炭酸ナトリウムや炭酸カリウムが好ましく、重炭酸アルカリとしては、重炭酸ナトリウムや重炭酸カリウムが好ましい。
本発明において、塩基は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0031】
前記有機極性溶媒は、非プロトン性溶媒であることが好ましく、その例としては、ジメチルスルホキシド等のスルホキシド;N−メチル−2−ピロリドン等のアミド;スルホラン(1,1−ジオキソチラン)、ジメチルスルホン、ジエチルスルホン、ジイソプロピルスルホン、ジフェニルスルホン等のスルホン;1,3-ジメチル−2−イミダゾリジノン、1,3−ジエチル−2−イミダゾリジノン等の、窒素原子に結合している水素原子が置換されていてもよい尿素骨格を有する化合物が挙げられる。
本発明において、有機極性溶媒は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0032】
本発明においては、芳香族ジハロゲノスルホン化合物、芳香族ジヒドロキシ化合物、塩基及び有機極性溶媒を配合し、前記芳香族ジハロゲノスルホン化合物及び芳香族ジヒドロキシ化合物を重縮合反応させる。
重縮合反応させるときの、芳香族ジハロゲノスルホン化合物及び芳香族ジヒドロキシ化合物の配合量は、下記(a)の要件を満たすようにする。
(a)[芳香族ジハロゲノスルホン化合物(モル)/芳香族ジヒドロキシ化合物(モル)]のモル比が1.022〜1.027である。
前記モル比が1.022以上であることにより、芳香族ポリスルホンの分子量の制御が容易となり、分子量分布が広くなり過ぎることがない。また、前記モル比が1.027以下であることにより、芳香族ポリスルホンの不溶物の含有量が少なくなる。
【0033】
前記重縮合反応は、芳香族ジハロゲノスルホン化合物と芳香族ジヒドロキシ化合物との脱ハロゲン化水素重縮合であり、仮に副反応が生じなければ、両者のモル比が1:1に近いほど、すなわち配合時の芳香族ジハロゲノスルホン化合物のモル数が、芳香族ジヒドロキシ化合物のモル数に近いほど、得られる芳香族ポリスルホンは、重合度が高くなり、その結果、還元粘度が高くなる傾向にある。しかし、実際には、塩基としてアルカリ金属塩を用いた場合に副生する水酸化アルカリ等により、ハロゲノ基のヒドロキシル基への置換反応や解重合等の副反応が生じ、この副反応により、得られる芳香族ポリスルホンの重合度が低下するので、この副反応の度合いも考慮して、所定の還元粘度を有する芳香族ポリスルホンが得られるように、芳香族ジハロゲノスルホン化合物の配合量を調整する必要がある。加えて、本発明においては、芳香族ポリスルホンの分子量を容易に制御できるように、かつ芳香族ポリスルホンの不溶物の含有量が少なくなるように、前記モル比を調整する必要がある。
【0034】
本発明において、塩基を2種以上併用する場合、これら塩基の組み合わせは特に限定されず、目的に応じて適宜設定することができる。例えば、1価の塩基のみを2種以上併用してもよいし、2価の塩基など、多価で同じ価数の塩基のみを2種以上併用してもよく、1価の塩基及び2価の塩基など、価数が異なる塩基を併用してもよい。
【0035】
本発明においては、重縮合反応させるとき、価数がn(nは1以上の整数である)の塩基を1種以上配合し、芳香族ジヒドロキシ化合物1モルに対する塩基のモル数を、塩基の種類ごとにn/2倍した値の合計値が、好ましくは0.95〜1.15、より好ましくは1.00〜1.10となるように調整するとよい。nは、例えば、塩基が炭酸カリウムの場合には2であり、塩基が炭酸水素カリウムの場合には1である。前記合計値の条件は、例えば、配合する塩基が1種のみの場合、「塩基の配合量(モル)が、芳香族ジヒドロキシ化合物1モルに対して、好ましくは(0.95〜1.15)×2/nモル、より好ましくは(1.00〜1.10)×2/nモルである。」ことを意味する。
【0036】
前記重縮合反応において、仮に副反応が生じなければ、塩基の配合量が多いほど、目的とする重縮合反応が速やかに進行するので、得られる芳香族ポリスルホンは、重合度が高くなり、その結果、還元粘度が高くなる傾向にある。しかし、実際には、塩基の配合量が多いほど、上記と同様の副反応が生じ易くなり、この副反応により、得られる芳香族ポリスルホンの重合度が低下するので、この副反応の度合いも考慮して、所定の還元粘度を有する芳香族ポリスルホンが得られるように、塩基の配合量を調整することが好ましい。
【0037】
典型的な芳香族ポリスルホンの製造方法(以下、「製造方法1」ということがある。)では、第1段階として、芳香族ジハロゲノスルホン化合物と、芳香族ジヒドロキシ化合物とを、有機極性溶媒に溶解させ、第2段階として、第1段階で得られた溶液に塩基を加えて、芳香族ジハロゲノスルホン化合物と芳香族ジヒドロキシ化合物とを重縮合反応させ、第3段階として、第2段階で得られた反応混合物から、未反応の塩基、副生成物(塩基としてアルカリ金属塩を用いた場合には、ハロゲン化アルカリ)、及び有機極性溶媒を除去して、芳香族ポリスルホンを得る。
【0038】
第1段階の溶解温度は、好ましくは40〜180℃である。また、第2段階の重縮合の反応温度は、好ましくは180〜400℃である。仮に副反応が生じなければ、反応温度が高いほど、目的とする重縮合反応が速やかに進行するので、得られる芳香族ポリスルホンは、重合度が高くなり、その結果、還元粘度が高くなる傾向にある。しかし、実際には、反応温度が高いほど、上記と同様の副反応が生じ易くなり、この副反応により、得られる芳香族ポリスルホンの重合度が低下するので、この副反応の度合いも考慮して、所定の還元粘度を有する芳香族ポリスルホンが得られるように、反応温度を調整することが好ましい。ただし、本発明においては、重縮合の反応温度が低いほど、得られる芳香族ポリスルホンの不溶物の含有量が少なくなり、芳香族ポリスルホンのろ過性がよくなるため、この点も考慮して反応温度を調整することが好ましい。
【0039】
第2段階の重縮合反応は、副生する水を除去しながら徐々に昇温させ、有機極性溶媒の還流温度に達した後、好ましくは1〜50時間、より好ましくは10〜30時間、さらに保温することにより行うとよい。仮に副反応が生じなければ、重縮合の反応時間が長いほど、目的とする重縮合反応が進行するので、得られる芳香族ポリスルホンは、重合度が高くなり、その結果、還元粘度が高くなる傾向にある。しかし、実際には、反応時間が長いほど、上記と同様の副反応も進行し、この副反応により、得られる芳香族ポリスルホンの重合度が低下するので、この副反応の度合いも考慮して、所定の還元粘度を有する芳香族ポリスルホンが得られるように、反応時間を調整することが好ましい。
【0040】
第3段階では、まず、第2段階で得られた反応混合物から、未反応の塩基及び前記副生成物を、ろ過や遠心分離等で除去することにより、芳香族ポリスルホンが有機極性溶媒に溶解してなる溶液を得る。次いで、この溶液から、有機極性溶媒を除去することにより、芳香族ポリスルホンが得られる。有機極性溶媒の除去は、例えば、前記溶液から直接有機極性溶媒を留去することにより行ってもよいし、前記溶液を芳香族ポリスルホンの貧溶媒と混合して、芳香族ポリスルホンを析出させ、ろ過や遠心分離等で芳香族ポリスルホンを分離することにより行ってもよい。
【0041】
芳香族ポリスルホンの貧溶媒の例としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ヘキサン、ヘプタン及び水が挙げられ、除去し易いことからメタノールが好ましい。
【0042】
また、比較的高融点の有機極性溶媒を用いた場合には、第2段階で得られた反応混合物を冷却固化させた後、これを粉砕し、得られた粉体から、水を用いて、未反応の塩基及び前記副生成物を抽出除去すると共に、芳香族ポリスルホンの溶解性が低く、かつ有機極性溶媒の溶解性が高い抽出溶媒を用いて、有機極性溶媒を抽出除去することで、芳香族ポリスルホンを得てもよい。
【0043】
反応混合物を冷却固化及び粉砕して得られた前記粉体は、抽出効率及び抽出時の作業性の点から、体積平均粒径が好ましくは200〜2000μm、より好ましくは250〜1500μm、さらに好ましくは300〜1000μmである。体積平均粒径が大き過ぎると抽出効率が悪く、小さ過ぎると抽出時に固結したり、抽出後のろ過時や乾燥時に目詰まりを起こしたりすることがある。体積平均粒径は、例えば、レーザー回折法による測定で求められる。
【0044】
有機極性溶媒を抽出除去するための前記抽出溶媒としては、例えば、有機極性溶媒がジフェニルスルホンである場合には、アセトン及びメタノールの混合溶媒が挙げられる。ここで、アセトン及びメタノールの混合比は、通常、抽出効率と芳香族ポリスルホンの粉体の固着性とから決定できる。
【0045】
別の典型的な芳香族ポリスルホンの製造方法(以下、「製造方法2」ということがある。)では、第1段階として、芳香族ジヒドロキシ化合物と塩基とを、有機極性溶媒中で反応させ、副生する水を除去し、第2段階として、第1段階で得られた反応混合物に、芳香族ジハロゲノスルホン化合物を加えて、重縮合反応を行い、第3段階として、製造方法1の場合と同様に、第2段階で得られた反応混合物から、未反応の塩基、副生成物(塩基としてアルカリ金属塩を用いた場合には、ハロゲン化アルカリ)、及び有機極性溶媒を除去して、芳香族ポリスルホンを得る。
【0046】
製造方法2においては、第1段階で、副生する水を除去し易くするために、水と共沸する有機溶媒を加えて、共沸脱水を行ってもよい。水と共沸する有機溶媒の例としては、ベンゼン、クロロベンゼン、トルエン、メチルイソブチルケトン、ヘキサン及びシクロヘキサンが挙げられる。共沸脱水の温度は、好ましくは70〜200℃である。
【0047】
製造方法2において、第2段階の重縮合の反応温度は、好ましくは40〜180℃であり、製造方法1の場合と同様に、副反応の度合いも考慮して、所定の還元粘度を有する芳香族ポリスルホンが得られるように、重縮合の反応温度及び反応時間を調整することが好ましい。
【0048】
本発明においては、生成する芳香族ポリスルホンの還元粘度が0.55〜0.64dL/gとなるように、重縮合反応を行う。重縮合反応の条件は、上記のように調整すればよい。そして、芳香族ポリスルホンの還元粘度は、0.58〜0.62dL/gであることが好ましい。還元粘度が0.55dL/g以上の芳香族ポリスルホンを用いることで、靱性が高い成形体が得られる。また、還元粘度が0.64dL/g以下であることで、芳香族ポリスルホンの加工性が良好となる。
【0049】
本発明により得られた芳香族ポリスルホンは、不溶物の含有量が少なく、このことはフィルターによるろ過を短時間で行えることで確認できる。このような不溶物の含有量が少ない芳香族ポリスルホンを用いて得られた成形体は、強度及び靱性が高く、各種用途に適するものであり、特に多孔質膜をはじめとする各種膜として用いるのに好適である。
また、本発明によれば、芳香族ポリスルホンの分子量の制御が容易なので、所望の物性を有する成形体を容易に製造できる。
【実施例】
【0050】
以下、具体的実施例により、本発明についてさらに詳しく説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例に何ら限定されるものではない。なお、芳香族ポリスルホンの還元粘度の測定、ろ過性の評価、及び分子量制御の評価は、それぞれ以下の方法で行った。
【0051】
(芳香族ポリスルホンの還元粘度の測定)
芳香族ポリスルホン約1gをN,N−ジメチルホルムアミドに溶解させて、その容量を1dLとし、この溶液の粘度(η)を、オストワルド型粘度管を用いて、25℃で測定した。また、溶媒であるN,N−ジメチルホルムアミドの粘度(η
0)を、オストワルド型粘度管を用いて、25℃で測定した。前記溶液の粘度(η)と前記溶媒の粘度(η
0)から、比粘性率((η−η
0)/η
0)を求め、この比粘性率を、前記溶液の濃度(約1g/dL)で割ることにより、芳香族ポリスルホンの還元粘度(dL/g)を求めた。
【0052】
(芳香族ポリスルホンの不溶物含有量の評価)
3Lセパラブルフラスコに芳香族ポリスルホン80g、N−メチル−2−ピロリドン920gを加え、70℃で2時間加熱して完全に溶解させ、黄色透明の溶液を得た。次に、減圧条件下(温度:25℃、減圧度:4kPa)で、ミリポア社製のフィルター(材質:ポリテトラフルオロエチレン、孔径:1μm)を備えたろ過器を用いて、得られた溶液150mLをろ過し、全量ろ過が完了するまでの時間を測定した。この時間測定を2回行い、得られた測定時間の平均値をろ過時間(秒)とした。ろ過時間が短いほど、芳香族ポリスルホンはろ過性に優れ、不溶物の含有量が少ないと判断される。
【0053】
(芳香族ポリスルホンの分子量制御の評価)
後述する重縮合反応において、最高温度での保持時間が2時間経過した段階で、上記の方法により芳香族ポリスルホンの還元粘度(dL/g)を測定し、その値が0.64dL/g以下の場合は、分子量の制御が容易と判断して「○」とし、0.64dL/gを超えた場合は、分子量の制御が困難と判断して「×」とした。
【0054】
<芳香族ポリスルホンの製造>
[実施例1]
撹拌機、窒素導入管、温度計、及び先端に受器を付したコンデンサーを備えた、容量が500mLの重合槽に、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン100.11g、ビス(4−クロロフェニル)スルホン117.40g、及び重合溶媒としてジフェニルスルホン192.95gを仕込み、系内に窒素ガスを流通させながら180℃まで昇温させた。得られた溶液に、炭酸カリウム56.67gを添加した後、290℃まで徐々に昇温させ、290℃でさらに2.5時間反応させた。このとき、290℃に到達後、2時間経過した段階で、芳香族ポリスルホンの還元粘度を測定した。次いで、得られた反応液を室温まで冷却して固化させ、細かく粉砕した後、温水による洗浄及びアセトンとメタノールの混合溶媒による洗浄を数回行い、さらに150℃で加熱乾燥を行い、芳香族ポリスルホンの白色粉末を得た。芳香族ポリスルホンの還元粘度の測定結果、不溶物含有量の評価結果(ろ過時間)、及び分子量制御の評価結果を表1に示す。
【0055】
[実施例2]
撹拌機、窒素導入管、温度計、及び先端に受器を付したコンデンサーを備えた、容量が500mLの重合槽に、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン100.11g、ビス(4−クロロフェニル)スルホン117.62g、及び重合溶媒としてジフェニルスルホン193.26gを仕込み、系内に窒素ガスを流通させながら180℃まで昇温させた。得られた溶液に、炭酸カリウム56.67gを添加した後、290℃まで徐々に昇温させ、290℃でさらに4時間反応させた。このとき、290℃に到達後、2時間経過した段階で、芳香族ポリスルホンの還元粘度を測定した。次いで、得られた反応液を室温まで冷却して固化させ、細かく粉砕した後、温水による洗浄及びアセトンとメタノールの混合溶媒による洗浄を数回行い、さらに150℃で加熱乾燥を行い、芳香族ポリスルホンの白色粉末を得た。芳香族ポリスルホンの還元粘度の測定結果、不溶物含有量の評価結果(ろ過時間)、及び分子量制御の評価結果を表1に示す。
【0056】
[実施例3]
撹拌機、窒素導入管、温度計、及び先端に受器を付したコンデンサーを備えた、容量が500mLの重合槽に、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン100.11g、ビス(4−クロロフェニル)スルホン117.74g、及び重合溶媒としてジフェニルスルホン193.42gを仕込み、系内に窒素ガスを流通させながら180℃まで昇温させた。得られた溶液に、炭酸カリウム56.67gを添加した後、290℃まで徐々に昇温させ、290℃でさらに4時間反応させた。このとき、290℃に到達後、2時間経過した段階で、芳香族ポリスルホンの還元粘度を測定した。次いで、得られた反応液を室温まで冷却して固化させ、細かく粉砕した後、温水による洗浄及びアセトンとメタノールの混合溶媒による洗浄を数回行い、さらに150℃で加熱乾燥を行い、芳香族ポリスルホンの白色粉末を得た。芳香族ポリスルホンの還元粘度の測定結果、不溶物含有量の評価結果(ろ過時間)、及び分子量制御の評価結果を表1に示す。
【0057】
[実施例4]
撹拌機、窒素導入管、温度計、及び先端に受器を付したコンデンサーを備えた、容量が500mLの重合槽に、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン100.11g、ビス(4−クロロフェニル)スルホン117.85g、及び重合溶媒としてジフェニルスルホン193.57gを仕込み、系内に窒素ガスを流通させながら180℃まで昇温させた。得られた溶液に、炭酸カリウム56.67gを添加した後、290℃まで徐々に昇温させ、290℃でさらに4時間反応させた。このとき、290℃に到達後、2時間経過した段階で、芳香族ポリスルホンの還元粘度を測定した。次いで、得られた反応液を室温まで冷却して固化させ、細かく粉砕した後、温水による洗浄及びアセトンとメタノールの混合溶媒による洗浄を数回行い、さらに150℃で加熱乾燥を行い、芳香族ポリスルホンの白色粉末を得た。芳香族ポリスルホンの還元粘度の測定結果、不溶物含有量の評価結果(ろ過時間)、及び分子量制御の評価結果を表1に示す。
【0058】
[比較例1]
撹拌機、窒素導入管、温度計、及び先端に受器を付したコンデンサーを備えた、容量が500mLの重合槽に、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン100.11g、ビス(4−クロロフェニル)スルホン117.17g、及び重合溶媒としてジフェニルスルホン193.47gを仕込み、系内に窒素ガスを流通させながら180℃まで昇温させた。得られた溶液に、炭酸カリウム56.67gを添加した後、290℃まで徐々に昇温させ、290℃でさらに2時間反応させた。このとき、290℃に到達後、2時間経過した段階で、芳香族ポリスルホンの還元粘度を測定した。次いで、得られた反応液を室温まで冷却して固化させ、細かく粉砕した後、温水による洗浄及びアセトンとメタノールの混合溶媒による洗浄を数回行い、さらに150℃で加熱乾燥を行い、芳香族ポリスルホンの白色粉末を得た。芳香族ポリスルホンの還元粘度の測定結果、不溶物含有量の評価結果(ろ過時間)、及び分子量制御の評価結果を表1に示す。
【0059】
[比較例2]
撹拌機、窒素導入管、温度計、及び先端に受器を付したコンデンサーを備えた、容量が500mLの重合槽に、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン100.11g、ビス(4−クロロフェニル)スルホン118.08g、及び重合溶媒としてジフェニルスルホン193.88gを仕込み、系内に窒素ガスを流通させながら180℃まで昇温させた。得られた溶液に、炭酸カリウム56.67gを添加した後、290℃まで徐々に昇温させ、290℃でさらに7時間反応させた。このとき、290℃に到達後、2時間経過した段階で、芳香族ポリスルホンの還元粘度を測定した。次いで、得られた反応液を室温まで冷却して固化させ、細かく粉砕した後、温水による洗浄及びアセトンとメタノールの混合溶媒による洗浄を数回行い、さらに150℃で加熱乾燥を行い、芳香族ポリスルホンの白色粉末を得た。芳香族ポリスルホンの還元粘度の測定結果、不溶物含有量の評価結果(ろ過時間)、及び分子量制御の評価結果を表1に示す。
【0060】
[比較例3]
撹拌機、窒素導入管、温度計、及び先端に受器を付したコンデンサーを備えた、容量が500mLの重合槽に、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン100.11g、ビス(4−クロロフェニル)スルホン118.31g、及び重合溶媒としてジフェニルスルホン194.19gを仕込み、系内に窒素ガスを流通させながら180℃まで昇温させた。得られた溶液に、炭酸カリウム56.67gを添加した後、290℃まで徐々に昇温させ、290℃でさらに10時間反応させた。このとき、290℃に到達後、2時間経過した段階で、芳香族ポリスルホンの還元粘度を測定した。次いで、得られた反応液を室温まで冷却して固化させ、細かく粉砕した後、温水による洗浄及びアセトンとメタノールの混合溶媒による洗浄を数回行い、さらに150℃で加熱乾燥を行い、芳香族ポリスルホンの白色粉末を得た。芳香族ポリスルホンの還元粘度の測定結果、不溶物含有量の評価結果(ろ過時間)、及び分子量制御の評価結果を表1に示す。
【0061】
【表1】
【0062】
上記結果から明らかなように、実施例1〜4の芳香族ポリスルホンは、[芳香族ジハロゲノスルホン化合物(モル)/芳香族ジヒドロキシ化合物(モル)]のモル比が1.022〜1.026で、(a)の要件を満たし、還元粘度が0.59〜0.61dL/gであり、ろ過時間が短くて不溶物の含有量が少なく、分子量の制御が容易であった。
これに対して、比較例1の芳香族ポリスルホンは、前記モル比が1.022を下回っており、還元粘度が大きく、分子量の制御が困難であった。また、比較例2の芳香族ポリスルホンは、前記モル比が1.026を上回っており、ろ過時間が長くて不溶物の含有量が多かった。そして、比較例3の芳香族ポリスルホンは、前記モル比が比較例2よりもさらに大きく、不溶物の含有量が比較例2よりもさらに多かった。