(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
気相接触反応の反応器に、その反応に用いられる成分を含んだ流体及び原料水を含有する液体原料を含むガスと、酸素含有ガスと、が混合された原料ガスを供給する方法であって、
前記流体及び前記原料水がそれぞれ供給され、内部に前記液体原料を貯留可能な缶体を利用し、貯留された液体原料を加熱により蒸発させることで蒸気を発生させ、その蒸気を前記ガスとして利用する蒸発工程と、
前記原料ガスのうち、前記酸素含有ガス中に含まれる水分量を測定する水分量測定工程と、
測定した前記水分量を予め設定された水分基準量と比較し、その比較結果に基づいて前記缶体に供給される前記原料水の供給量を調整し、前記液体原料中の前記原料水の割合を変化させ、前記原料ガス中に含まれる全体水分量を一定値に維持させる調整工程と、を備えている原料ガスの供給方法。
【背景技術】
【0002】
石油化学分野においては、有機化合物と酸素とを気相接触(酸化)反応により反応させることで、有用な化合物の生産を行っている。一般的に気相接触反応は、被酸化原料である有機化合物及び酸素を含む原料ガスを気相接触反応器に対して供給することによって行われている。
【0003】
上記した気相接触反応を行わせる反応器としては、触媒層の保持方法等によって種々の形式に分けられるが、触媒層が形成された反応管を具備する管型反応器が一般的であり広く知られている。
例えば特許文献1には、メタクロレインを気相接触酸化させてメタクリル酸を製造する際に用いる固定床多管型反応器が開示されている。より詳しくは、モリブドバナドリン酸複合酸化物を触媒として使用し、反応管単位体積あたりの触媒活性成分量が原料ガス入口部から出口部に向かって減少するように上記触媒が充填された固定床多管型反応器が開示されている。
【0004】
また、上記した気相接触反応を行う際の原料ガスとしては、例えば特許文献2には、気相接触反応の原料である有機化合物を含有する有機ガスと、酸素含有ガスと、反応に不活性な不活性ガスと、を安全に混合するガス混合器を使用して製造された、気相接触反応用の原料ガスが開示されている。
また、特許文献3には、気相接触反応に使用される成分を2種以上含む液体原料の一部を蒸発させる蒸発器を使用し、流量と組成とを安定させた状態で製造された原料ガスが開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで一般的に、気相接触反応の原料ガスに用いられる酸素含有ガスとしては、空気を使用することが経済的に有利とされているが、必要に応じて純酸素で富化した酸素富化空気等を用いる場合もある。しかしながら、これらの空気には少なからず水分が含まれており、大規模な工業スケールを考慮すると酸素含有ガス中の水分量は決して無視できる量ではない。
【0007】
仮に、酸素含有ガス中の水分量を無視して原料ガスを反応器に供給した場合には、該反応器に対して過剰量の水分が供給されることとなる。この場合、過剰に供給されてしまった水分は最終的に廃水として処理され、廃水処理に費やされるユーティリティコストの増加を招いてしまう。そのうえ、過剰供給されている原料水自体のコストも必要以上に発生してしまう。
【0008】
そのため、原料ガスを反応器に供給する場合には、原料ガスを構成する酸素含有ガス中の水分量に注目し、反応器に過剰な水分が供給されないように配慮する必要がある。ところが、酸素含有ガス中の水分量は、季節に応じて変動するのは当然のこと、1日の間においても変動し易い。そのため、導入する大気の量が一定であっても、原料ガス中の水分量に変化が生じてしまう。従って、反応器内に供給する原料ガス全体の水分量が目的値から逸脱しないような原料ガスの供給方法が求められている。
この点、上記した各特許文献に記載の発明では、酸素含有ガス中の水分量の変化に対応する等といったことができず、この点についての改善の余地が残されていた。
【0009】
本発明は、このような事情に考慮してなされたもので、その目的は、水分量を目的値に近づけた状態で原料ガスを気相接触反応の反応器に供給することができる原料ガスの供給方法、及び該供給方法を用いたメタクロレイン又はメタクリル酸の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、前記課題を解決するために以下の手段を提供する。
(1)本発明に係る原料ガスの供給方法は、気相接触反応の反応器に、その反応に用いられる成分を含んだ流体及び原料水を含有する液体原料を含むガスと、酸素含有ガスと、が混合された原料ガスを供給する方法であって、前記原料ガスのうち、前記酸素含有ガス中に含まれる水分量を測定する水分量測定工程と、測定した前記水分量を予め設定された水分基準量と比較し、その比較結果に基づいて前記原料水の量を調整して前記液体原料中の前記原料水の割合を変化させ、前記原料ガス中に含まれる全体水分量を一定値に維持させる調整工程と、を備えていることを特徴とする。
【0011】
本発明に係る原料ガスの供給方法によれば、酸素含有ガス中に含まれる水分量が例えば季節や時間帯等に応じて変化したとしても、その変化に対応して原料水の量を調整し、液体原料のうち原料水が占める割合を変化させることができるので、原料ガス中の全体水分量を常時一定の量(目的値)に維持した状態で該原料ガスを反応器に供給することが可能である。
従って、安定した気相接触反応の実施に繋げることができるうえ、従来とは異なり、反応器内に過剰に水分が供給されてしまうといった不都合が生じ難い。そのため、廃水処理に費やす手間及びコストを抑制し易いうえ、原料水の使用を抑えて該原料水に関連するユーティリティコストの増加を抑制することができる。
【0012】
(2)上記本発明に係る原料ガスの供給方法であって、前記液体原料を蒸発させ、その蒸気を前記ガスとして利用する蒸発工程を備え、該蒸発工程が、前記流体及び前記原料水がそれぞれ供給され、内部に前記液体原料を貯留可能な缶体を利用し、貯留された液体原料を加熱により蒸発させることで前記蒸気を発生させ、前記調整工程の際、前記缶体に供給される前記原料水の供給量を調整することで、前記全体水分量を前記一定値に維持させることが好ましい。
【0013】
この場合には、缶体に供給される原料水の供給量を調整することで、液体原料のうち原料水が占める割合を正確に変化させ易く、それにより原料ガス中の全体水分量をより正確に一定の量に維持し易い。従って、廃水処理に費やす手間及びコストや原料水に関連するユーティリティコストの増加を効果的に抑制することができると共に、調整工程をより簡便に行うことができる。
【0014】
(3)本発明に係るメタクロレイン又はメタクリル酸の製造方法は、上記本発明に係る原料ガスの供給方法により前記原料ガスを前記反応器に供給して前記気相接触反応を行わせ、該反応によりメタクロレイン又はメタクリル酸を合成することを特徴とする。
【0015】
本発明に係る製造方法によれば、上記した原料ガスの供給方法を利用して反応器に原料ガスを供給するので、安定した気相接触反応を行わせて高品質なメタクロレイン又はメタクリル酸を得やすい。また、廃水処理に費やす手間及びコストや、原料水に関連するユーティリティコストの増加を抑制しながらメタクロレイン又はメタクリル酸を製造することができるので、メタクロレイン又はメタクリル酸の製造コストの低減化を図り易い。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、水分量を目的値に近づけた状態で原料ガスを気相接触反応の反応器に供給することができる。従って、安定した気相接触反応の実施に繋げることができると共に、廃水処理に費やす手間及びコストを抑制し易いうえ、原料水に関連するユーティリティコストの増加を抑制することができる。また、メタクロレイン又はメタクリル酸の製造コストの低減化を図り易い。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る実施形態について説明する。
なお、本実施形態では、気相接触反応に用いられる成分を含んだ流体を蒸発器に供給してその一部を蒸発させ、その蒸気を利用した原料ガスを反応器に供給する製造システムを例に挙げて説明する。また、メタクロレインと酸素とによる気相接触反応によりメタクリル酸を合成する場合を例に挙げて説明する。
【0019】
(製造システムの構成)
図1に示すように、本実施形態の製造システム1は、上記した蒸発を行わせて蒸気であるメタクロレイン含有ガスG1を発生させる蒸発器2と、メタクロレイン含有ガスG1を含む原料ガスGを利用して気相接触反応を行わせる上記反応器3と、を備えている。
【0020】
蒸発器2は、気相接触反応に用いられる成分を含んだ流体W1、即ちメタクロレインを含んだ流体W1を供給する第1供給管10、及び原料水W2を供給する第2供給管11がそれぞれ胴部に接続され、内部にこれら流体W1及び原料水W2が混合された液体原料Wが貯留可能とされた缶体12と、その液体原料Wの一部が蒸発するのに必要な熱量を供給する加熱機構13と、を備えている。
【0021】
缶体12の頂壁部には図示しない蒸気取出口が形成され、底壁部には図示しない液体取出口が形成されている。蒸気取出口には、蒸発によって発生した上記メタクロレイン含有ガス(液体原料Wを含むガス)G1を反応器3に供給する蒸気導出管15の一端部が接続されている。
【0022】
加熱機構13は、多管式の熱交換器20と、一端部が缶体12の上記液体取出口に接続された液体排出管21と、一端部が液体排出管21の他端部に接続されると共に、他端部が熱交換器20の入口部に接続された配管22と、一端部が熱交換機の出口部に接続されると共に、他端部が缶体12の胴部に接続された配管23と、熱交換器20に図示しない熱媒体を供給する熱媒体供給管24と、熱交換器20から熱媒体を排出する熱媒体排出管25と、を備えている。
【0023】
配管22上にはポンプ26が設置されており、缶体12内に貯留されている液体原料Wを、缶体12から液体排出管21、配管22、熱交換器20及び配管23の順に経由させて再度缶体12の内部に強制循環させることが可能とされている。
なお、循環にサーモサイホン方式を採用する場合には、ポンプ26は具備しなくても構わない。但し、液体原料Wへ供給する熱量の安定性の観点から、サーモサイホン方式よりも強制循環方式を採用する方が好ましい。
【0024】
熱媒体供給管24及び熱媒体排出管25は、それぞれ熱交換器20に接続されており、熱交換器20において、液体原料Wに熱媒体を介して蒸発に必要な熱量を供給することが可能とされている。なお、熱媒体供給管24には、熱媒体供給量を調節する調節弁が設置されていても良い。
【0025】
上述したように蒸気導出管15の一端部は缶体12の頂壁部に蒸気取出口を介して接続されているが、その他端部は反応器3の図示しない原料ガス供給口に接続されている。これにより、この蒸気導出管15を通じて、缶体12の内部で発生したメタクロレイン含有ガスG1を反応器3内に供給することが可能とされている。
【0026】
ところで、上記蒸気導出管15の途中には、酸素含有ガス供給管30及び不活性ガス供給管31がそれぞれ接続されている。図示の例では、不活性ガス供給管31が酸素含有ガス供給管30よりも上流側に配置されているが、その逆でも構わない。酸素含有ガス供給管30は、酸素含有ガスとして空気Aを供給している。不活性ガス供給管31は、気相接触反応に不活性な不活性ガスG2を供給している。
従って、本実施形態ではメタクロレイン含有ガスG1と、酸素含有ガスである空気Aと、不活性ガスG2と、が混合された混合ガスを原料ガスGとして利用し、この原料ガスGを反応器3内に供給して気相接触反応を行わせている。
【0027】
また、酸素含有ガス供給管30には、供給される空気A中に含まれる水分量を測定する水分量測定器32が設置されている。この水分量測定器32は、例えばマイクロ波式、静電容量式や中性子式等の公知の方式を採用することが可能である。
【0028】
反応器3は、図示しない触媒層を具備している。本実施形態の触媒層は、メタクリル酸製造用触媒により形成された触媒層とされている。そのため、メタクロレイン及び分子状酸素を含む上記原料ガスGをこの触媒層に流通させながら気相接触反応を行わせることで、メタクリル酸を合成することが可能とされている。
なお、反応器3としては、公知とされている種々のタイプのものが採用可能であり、気相接触反応を固定床又は流動床のいずれで行っても構わないが、固定床で行うことが好ましい。
【0029】
(原料ガスの供給方法、メタクリル酸の製造方法)
次に、上記のように構成された製造システム1を利用して、反応器3に原料ガスGを供給して気相接触反応を行わせ、該反応によりメタクリル酸を合成することで、該メタクリル酸を製造する方法について説明する。
【0030】
はじめに、反応器3に原料ガスGを供給するまでの供給方法について説明する。
まず、液体原料Wを蒸発させて、メタクロレイン含有ガスG1を発生させる蒸発工程を行う。
具体的には第1供給管10及び第2供給管11を通じて、缶体12の内部にそれぞれメタクロレインを含んだ流体W1及び原料水W2を供給し、これらが混合した液体原料Wを貯留する。次いで、ポンプ26を作動させて、液体原料Wを缶体12から液体排出管21、配管22、熱交換器20及び配管23に順に経由しながら缶体12に再び戻すように循環させる。またこの循環と同時に、熱媒体を使用した熱交換器20によって液体原料Wを加熱して蒸発させる。これにより、缶体12の内部で蒸気、即ちメタクロレイン含有ガスG1を発生させることができる。
【0031】
上記した蒸発工程によって発生したメタクロレイン含有ガスG1は、蒸気導出管15を通じて反応器3側に導出される。また、この蒸発工程と同時又は前段階で、酸素含有ガス供給管30及び不活性ガス供給管31を通じて、酸素含有ガスである空気A及び不活性ガスG2を蒸気導出管15にそれぞれ供給する。これにより、メタクロレイン含有ガスG1と空気Aと不活性ガスG2とを混合させた混合ガスを原料ガスGとして反応器3に供給することができる。
【0032】
ところで、本実施形態では水分量測定器32を利用して、酸素含有ガス供給管30を通じて供給されている空気A中に含まれる水分量を測定する水分量測定工程を行う。また、測定した水分量を予め設定された水分基準量と比較し、その比較結果に基づいて缶体12に供給される原料水W2の供給量を調整して、液体原料Wのうち原料水W2が占める割合を変化させる調整工程を行う。これらの工程により、反応器3に供給される原料ガスG中に含まれる全体水分量を一定値に維持することができる。
【0033】
従って、本実施形態の原料ガスGの供給方法によれば、空気A中に含まれる水分量が例えば季節や時間帯等に応じて変化したとしても、その変化に対応して原料水W2の量を調整し、液体原料Wのうち原料水W2が占める割合を変化させることができるので、原料ガスG中の全体水分量を常時一定の量(目的値)に維持した状態で原料ガスGを反応器3に供給することが可能である。
【0034】
そして、反応器3に原料ガスGが供給されると、該原料ガスGと触媒層との間で気相接触反応が行われる。これにより、メタクロレインと分子状酸素とを原料としてメタクリル酸を合成することができ、メタクリル酸を製造することができる。
【0035】
特に、上記したように原料ガスG中の全体水分量を目的値に維持した状態で原料ガスGを反応器3に供給できるので、安定した気相接触反応を行うことができ高品質なメタクリル酸を得やすい。また、従来とは異なり、反応器3内に過剰に水分が供給されてしまうといった不都合が生じ難い。そのため、廃水処理に費やす手間及びコストを抑制し易いうえ、原料水W2の使用を抑えて該原料水W2に関連するユーティリティコストの増加を抑制することができる。また、メタクリル酸の製造コストの低減化を図り易い。
【0036】
しかも、本実施形態では、缶体12に供給される原料水W2の供給量を調整することで、液体原料Wのうち原料水W2が占める割合を正確に変化させ易く、それにより原料ガスG中の全体水分量をより正確に一定の量に維持し易い。従って、上述した各作用効果を効果的に奏効させることができる。
【0037】
なお、上記実施形態において、メタクリル酸を製造するにあたって本実施形態の原料ガスGの供給方法以外の点については、公知のメタクリル酸の製造方法を適用することが可能である。
例えば、メタクリル酸製造用触媒により触媒層を形成したが、メタクリル酸製造用触媒と他の添加成分とを混合して形成した層であっても良い。他の添加成分としては、例えば不活性担体が挙げられる。この不活性担体としては、例えばシリカ、アルミナ、シリカ−アルミナやシリコンカーバイト等が挙げられる。
また、触媒層は、1層であっても良いし2層以上の複数層であっても良い。
【0038】
また、メタクリル酸製造用触媒としては、組成が下記式(1)で表される複合酸化物となるものが好ましい。
(1)…Mo
aP
bCu
cV
dX
eY
fO
g
【0039】
なお、上記式中のMo、P、Cu、V及びOは、それぞれモリブデン、リン、銅、バナジウム及び酸素である。
上記式中のXは、鉄、コバルト、ニッケル、亜鉛、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、チタン、クロム、タングステン、マンガン、銀、ホウ素、ケイ素、スズ、鉛、ヒ素、アンチモン、ビスマス、ニオブ、タンタル、ジルコニウム、インジウム、イオウ、セレン、テルル、ランタン及びセリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素である。
上記式中のYは、カリウム、ルビジウム、セシウム及びタリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素である。
上記式中のa〜gは、各元素の原子比率を表し、a=12のとき、b=0.5〜3、c=0.01〜3、d=0.01〜2、e=0〜3、f=0.01〜3であり、gは各元素の原子価を満足するのに必要な酸素の原子比率である。
なお、触媒の前駆体には、水溶性セルロース等の有機物が含まれていても良い。
【0040】
また、気相接触反応の反応圧力としては、常圧(0MPa−G(ゲージ圧))から数気圧(例えば0.3MPa)の範囲内が好ましい。反応温度としては、230℃〜450℃が好ましく、250℃〜400℃がより好ましい。原料ガスGの流量については、特に限定されないが、通常、メタクリル酸製造用触媒との接触時間が1.5秒〜15秒となる流量が好ましく、該接触時間が2〜5秒となる流量がより好ましい。
【0041】
また、上記実施形態では、メタクロレイン含有ガスG1、空気A及び不活性ガスG2を混合した混合ガスを原料ガスGとして用い、メタクロレイン及び分子状酸素を窒素や炭酸ガス等の不活性ガスG2で希釈した場合を例に挙げたが、不活性ガスG2は必須なものではない。但し、気相接触反応で大きな発熱を伴う場合には、反応器3内での温度上昇を抑制し、温度を反応条件として適した範囲内に抑制するため、酸化反応に不活性な不活性ガスG2を用いて原料ガスGを希釈することが好ましい。
また、分子状酸素源としては、上記実施形態のように空気Aを用いることが経済的に有利であるが、必要に応じて純酸素で富化した空気A等を用いても構わない。
また、原料ガスG中のメタクロレインの濃度は、広い範囲で変更することができ、1〜20容量%が好ましく、3〜10容量%がより好ましい。原料ガスG中の酸素量は、メタクロレインに対して0.3〜4倍モルが好ましく、0.4〜2.5倍モルが特に好ましい。
【0042】
また、上記実施形態では、多管式の熱交換器20を具備した加熱機構13を例に挙げて説明したが、この場合に限定されるものではなく、他方式の加熱機構13であっても構わない。
例えば、原料液体を缶体12の内部及び外部のうちの少なくともいずれか一方で加熱して蒸発させる加熱機構を採用しても構わない。このような内部加熱型又は外部加熱型の加熱機構としては、従来の蒸発缶方式に用いられているものと同様のものを利用できる。外部加熱型としては多管式の熱交換器が挙げられ、内部加熱型としては外套、トレース配管等が挙げられる。これらの中でも、処理できる液体原料Wの量が多いことから多管式の熱交換器が好ましい。
【0043】
また、別の熱交換器としては、例えば缶体12内に直接熱媒体を吹き込む熱媒体吹込管が挙げられる。この熱媒体吹込管を設けることにより、熱媒体として気相接触方式に用いられる成分又はその蒸気を用いる場合に、該熱媒体を直接缶体12内の液体原料Wに吹き込むことが可能である。
【0044】
上記したように加熱機構としては、多管式の熱交換器20を具備したものや、内部加熱型、外部加熱型のものや、熱媒体吹込管を利用したもの等を採用でき、しかもこれらいずれか1種を単独で用いても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0045】
また、上記実施形態では、酸素含有ガス供給管30及び不活性ガス供給管31をそれぞれ蒸気導出管15に接続する場合を例に挙げて説明したが、この場合に限定されるものではなく、設置箇所について特に制限がなされるものではない。例えば、酸素含有ガス供給管30及び不活性ガス供給管31を、反応器3の原料ガス導入口に対してそれぞれ直接接続する形で設置しても構わない。
【0046】
また、上記実施形態において、液体原料Wの一部を蒸発させる際に、液体原料Wの性状に応じて必要な助剤類(重合防止剤や消泡剤等)を使用しても構わない。この場合には、缶体12の適切な位置に助剤類用の供給配管を設置すれば良い。
なお、缶体12に接続する供給管の数は自由に設置して構わない。例えば、上記実施形態では第1供給管10及び第2供給管11の2つを接続したが、3つ以上接続しても良い。具体的には、気相接触反応に用いられる成分を含んだ流体W1を供給する供給管を2つ接続し、原料水W2を供給する供給管を1つ接続しても構わない。
また、缶体12内の液体原料Wのうち、蒸発させない成分を排出させる排出管を缶体12にさらに接続しても構わない。
【0047】
また、上記実施形態において、蒸気導出管15の外周部に温度調整用の外套及びトレース配管のうちの少なくともいずれか一方を設けても構わない。こうすることで、管内の凝縮を防止することができる。管内で凝縮が起きてしまうと、反応器3へ供給する原料ガスGの組成が目的値から逸脱し易いうえ、有機ガス(メタクロレイン含有ガスG1等)の濃度が部分的に爆発範囲に入る恐れが高まり易くなってしまう。そこで、上記したように蒸気導出管15の外周部に温度調整用の外套及びトレース配管のうちの少なくともいずれか一方を設け、加熱ないし保温を行うことで凝縮を防止すると良い。
【0048】
なお、本発明の技術範囲は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0049】
例えば、上記実施形態では、蒸発器2により液体原料Wを蒸発させることで蒸気を発生させ、その蒸気をメタクロレイン含有ガスG1として利用する場合を例に挙げて説明したが、蒸発器2を用いる場合に限定されるものではない。少なくともメタクロレイン含有ガスと、酸素含有ガスとを混合した混合ガスを原料ガスとして反応器に供給できれば構わない。
【0050】
また、上記実施形態では、メタクロレインと分子状酸素とを原料としてメタクリル酸を合成した場合を例に挙げて説明したが、この場合に限定されるものではない。例えば、イソブチレン及びターシャリーブチルアルコールのうち少なくともいずれか一方と分子状酸素とを反応させて、メタクロレインを合成するメタクロレイン合成反応を行っても構わない。この場合の反応条件としては、反応器仕様、反応率、反応時間、触媒の性能等に応じて適宜決定することが好ましい。
【0051】
(実施例)
次に、上記実施形態の製造システム1を利用して、実際にメタクロレインと酸素とによる気相接触反応によりメタクリル酸を合成するプロセスを行った実施例について説明する。なお、本実施例においては、反応器3に供給する原料ガスGとして、表1に示す組成のものを目的値としている。
【0053】
まず、第1供給管10を通じて缶体12の内部にメタクロレインを含んだ流体W1を供給すると共に、第2供給管11を通じて缶体12の内部に原料水W2を供給して、缶体12の内部に液体原料Wを導入して貯留させた。次いで、ポンプ26を作動させつつ、熱媒体として0.3MPaの水蒸気を使用した熱交換器20によって、液体原料Wを加熱、蒸発させ、発生した蒸気をメタクロレイン含有ガスG1として蒸気導出管15を通じて導出した。この際、酸素含有ガス供給管30を通じて空気Aを供給すると共に、不活性ガス供給管31を通じて不活性ガスG2を供給し、これらとメタクロレイン含有ガスG1とを混合させた混合ガスを原料ガスGとして反応器3に供給した。
【0054】
このとき、反応器3に供給される原料ガスGの組成及び流量が表1で示した目的値となるように、表2に示した組成及び流量で、メタクロレイン含有ガスG1、空気A及び不活性ガスG2の供給を行った。なお、表2に示した空気Aの組成は、空気中の水分を考慮していない値である。
【0056】
ここで、水分量測定器32によって、酸素含有ガス供給管30から供給している空気A中に含まれる水分量を測定したところ、空気A中から0.33t/h(体積換算で0.41kNm
3/h)の水分が供給されており、表1に示した目的値の原料ガスGの水流量4.2t/hに対して、7.9質量%の水分が過剰に供給されていることが確認された。
そこで、原料ガスGの組成が表1に示す目的値となるように、原料水W2の供給量を調整し、新たに表3に示した組成及び流量で、メタクロレイン含有ガスG1、空気A及び不活性ガスG2の供給を行った。
【0058】
これにより、実際に0.33t/hの廃水量増加を抑制することができた。特に、反応工程で生じた廃水は、高温で燃焼分解されて処理がなされるため、0.33t/h分の水分の蒸発潜熱744MJ/hのエネルギーを少なくとも実際に削減することができた。それに加え、0.33t/h分の過剰な原料水W2の使用を抑制することもできた。
【0059】
(比較例)
これに対して、空気A中から0.33t/hの水分が供給されていることが分かった後も、メタクロレイン含有ガスG1、空気A及び不活性ガスG2の組成と流量を変化させずに、引き続き表2に示す原料ガスGを反応器3に供給し続けた形態を確認した。つまり、目的の原料ガスGの水分量よりも0.33t/hの水分が過剰となった状態で反応器3に供給し続けた。
その結果、廃水量が0.33t/h増加し、廃水処理に必要なエネルギーが少なくとも0.33t/h分の水分の蒸発潜熱744MJ/hだけ増加したことが確認された。それに加え、0.33t/hだけ原料水W2を過剰に使用することになった。