(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
内部に冷媒又は温媒が循環する機構を有すると共に外周面にロールツーロールで搬送される長尺の帯状物を巻き付ける搬送経路を備えたキャンロールと、前記キャンロールの外周面に対向して設けられ、前記外周面に巻き付けられている帯状物に熱負荷の掛かる表面処理を施す表面処理手段とを備えた表面処理装置であって、前記キャンロールが請求項1又は2に記載の金属ロールであることを特徴とする表面処理装置。
回転軸を有する金属製のインナードラムと、該インナードラムの外径よりも小さな内径を有し、該インナードラムとは異種金属のアウターリングとを用意し、焼き嵌めにより該インナードラムの外周面に該アウターリングの内面を内接させて結合する工程と、該アウターリングが肉厚3〜5mmになるまでその外周面を切削及び/又は研磨する工程と、該アウターリングの外周面側からレーザ又は電子ビームを照射して該アウターリングと該インナードラムとを互いに溶接する工程とからなることを特徴とする金属ロールの製造方法。
【背景技術】
【0002】
液晶パネル、ノートパソコン、デジタルカメラ、携帯電話等には、耐熱性樹脂フィルム上に配線パターンが形成されたフレキシブル配線基板が用いられている。このフレキシブル配線基板は、耐熱性樹脂フィルムの片面若しくは両面に金属膜を成膜した金属膜付耐熱性樹脂フィルムにパターニング処理を施すことによって作製されるが、近年は配線パターンがますます繊細化、高密度化する傾向にあり、これに伴って金属膜付耐熱性樹脂フィルムにはシワ等のない平滑なものが求められている。
【0003】
この種の金属膜付耐熱性樹脂フィルムの製造方法として、従来から、金属箔を接着剤により耐熱性樹脂フィルムに貼り付けて製造する方法(3層基板の製造方法)、金属箔に耐熱性樹脂溶液をコーティングした後、乾燥させて製造する方法(キャスティング法)、耐熱性樹脂フィルムに真空成膜法単独で、又は真空成膜法と湿式めっき法との併用で金属膜を成膜して製造する方法(メタライジング法)等が知られている。また、メタライジング法に用いる真空成膜法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、イオンビームスパッタリング法等がある。
【0004】
メタライジング法について、特許文献1には、ポリイミド絶縁層上にクロム層をスパッタリングした後、銅をスパッタリングして導体層を形成する方法が記載されている。また、特許文献2には、銅ニッケル合金をターゲットとするスパッタリングによる第一の金属薄膜と、銅をターゲットとするスパッタリングによる第二の金属薄膜とがこの順でポリイミドフィルム上に成膜されたフレキシブル回路基板用材料が開示されている。これらスパッタリング法による成膜は、一般に密着力に優れる反面、真空蒸着法に比べて基材としての耐熱性樹脂フィルムに与える熱負荷が大きいといわれている。そして、成膜の際に耐熱性樹脂フィルムに大きな熱負荷が掛かると、フィルムにシワが発生し易くなることも知られている。
【0005】
そこで、上記ポリイミドフィルムなどの耐熱性樹脂フィルムに対して真空成膜法により成膜を行って金属膜付耐熱性樹脂フィルムを作製する工程では、キャンロールを備えたスパッタリングウェブコータが一般的に使用されている。この装置は、内部に冷媒を循環させたキャンロールにロールツーロールで搬送される長尺の耐熱性樹脂フィルムを巻き付けながらスパッタリングを行うものであり、成膜の際の耐熱性樹脂フィルムの熱を裏面側から除去することができるので、シワの発生を効果的に防ぐことができる。
【0006】
例えば特許文献3には、スパッタリングウェブコータの一例である巻出巻取式(ロールツーロール方式)の真空スパッタリング装置が開示されている。この巻出巻取式の真空スパッタリング装置には、キャンロールの役割を担うクーリングロールが具備されている。更に、クーリングロールの少なくともフィルム送入れ側若しくは送出し側にサブロールが設けられており、これにより耐熱性樹脂フィルムをクーリングロールに密着する制御が行われている。
【0007】
ところで、前述したようにスパッタリングウェブコータが有するキャンロールは、真空中でロールツーロールで搬送される長尺樹脂フィルムを外周面に巻き付けて、内部に設けられた冷却循環機構を機能させて熱伝導により該長尺樹脂フィルムの冷却を行うものである。そのため、キャンロールの材質としては熱伝導率が高くて軽量であり、機械加工性にも優れたアルミニウムが適している。
【0008】
また、キャンロールの外周面は、そこの巻き付けられるフィルムが容易に傷つかないようにするためや表面の硬度を上げるため、一般的に鏡面クロムめっき処理等の表面処理を施す場合が多い。しかし、アルミニウムの表面にクロムめっき処理を施した場合は、繰り返して作用する熱負荷によりクロムめっきが剥離してしまうことがあった。そのため、キャンロールを熱伝導に優れたアルミニウムで構成することはできなかった。
【0009】
これに関し、電解金属箔を製造する電着ドラムの技術分野では、インナードラムとアウターリングを異なる金属で構成する技術が用いられている。例えば、特許文献4には、インナードラムに溝を彫り込みアウターリングとの単位面積当たりの接触圧力を高める方法が記載されており、特許文献5には、インナードラムとアウターリングの間に凸凹を有する金属板を挟む方法が記載されている。また、特許文献6には、インナードラムとアウターリングの間に溝加工された軟質金属板を挟む方法が記載されている。
【発明を実施するための形態】
【0019】
先ず、本発明の金属ロールの第1の実施形態として、内部に冷媒の循環機構を備えたキャンロールを例に挙げて説明する。このキャンロールは、回転軸を有する例えばアルミニウム製のインナードラムと、該インナードラムの外周面に内接する例えばステンレス製のアウターリングとからなる。そして、これらインナードラムの外周面とこれに内接するアウターリングの内面とが互いに溶接されている。かかる構成により、熱伝導率が高くて軽量であり且つ機械加工性にもすぐれた金属からなるインナードラムと、クロムめっきを極めて強靱に密着させることが可能な金属からなるアウターリングとで構成される金属ロールを提供することができる。
【0020】
インナードラムとアウターリングは、溶接の前に焼き嵌めにより互いに結合されるのが好ましい。溶接前に焼き嵌めすることにより、異種金属を用いることで互いに膨張率が異なる場合であっても、金属ロールに繰り返しの熱負荷が掛かったときの両者の緩みの問題がより起こりにくくなる。インナードラムとアウターリングとからなる金属ロールの外周面は、研削や研磨を行ってもよい。インナードラムとアウターリングとが溶接されているので、研削や研磨の際にインナードラムとアウターリングとの間が緩むことはない。
【0021】
このような構成の金属ロールは、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムのような樹脂フィルムや、ポリイミドフィルムのような耐熱性樹脂フィルムなどの長尺の帯状物に熱負荷の掛かる表面処理を施す表面処理装置に、キャンロールとして好適に使用することができる。この表面処理装置について、
図1を参照しながら、長尺の帯状物が長尺の耐熱性樹脂フィルムであり、熱負荷の掛かる表面処理がスパッタリング成膜である場合を例に挙げて説明する。
【0022】
この
図1に示す表面処理装置は、スパッタリングウェブコータとも称される成膜装置50であり、ロールツーロール方式で搬送される長尺の耐熱性樹脂フィルム(以降、長尺樹脂フィルムと称する)Fの表面に連続的に効率よく成膜させる場合に好適に用いられる。この成膜装置50により、長尺樹脂フィルムFの表面にスパッタリング処理による金属膜が成膜されたシワのない内金属膜付長尺耐熱性樹脂フィルムを作製することができる。
【0023】
具体的に説明すると、成膜装置50を構成する主要な装置は真空チャンバー51内に収められており、スパッタリング成膜に際してこの真空チャンバー51内は先ず到達圧力10
−4Pa程度まで減圧され、その後、スパッタリングガスの導入により0.1〜10Pa程度の圧力調整が行われる。スパッタリングガスにはアルゴンなど公知のガスが使用され、目的に応じて更に酸素などのガスが添加される。
【0024】
真空チャンバー51の形状や材質については、上記の減圧雰囲気に耐え得るものであれば特に限定はなく、種々のものを使用することができる。真空チャンバー51内を上記した減圧雰囲気にしてその減圧状態を維持するため、成膜装置50には図示しないドライポンプ、ターボ分子ポンプ、クライオコイル等の種々の装置が具備されている。
【0025】
かかる減圧雰囲気の真空チャンバー51内で巻出ロール52から巻き出された長尺樹脂フィルムFは、所定の搬送経路を経てキャンロール56に導かれ、その外周面上で成膜処理が施された後、巻取ロール64で巻き取られる。巻出ロール52からキャンロール56までの搬送経路には、長尺樹脂フィルムFを案内するフリーロール53と、長尺樹脂フィルムFの張力の測定を行う張力センサロール54が配置されている。
【0026】
更に、張力センサロール54から送り出されてキャンロール56に向かう長尺樹脂フィルムFは、キャンロール56の近傍に設けられたモータ駆動のフィードロール55によってキャンロール56の周速度に対する調整が行われ、これによりモータ等の回転駆動手段で回転するキャンロール56の外周面に長尺樹脂フィルム51を密着させることができる。
【0027】
キャンロール56から巻取ロール64までの搬送経路にも、上記した巻出ロール52からキャンロール56までの搬送経路と同様に、キャンロール56の周速度に対する調整を行うモータ駆動のフィードロール61、長尺樹脂フィルムFの張力測定を行う張力センサロール62、及び長尺樹脂フィルムFを案内するフリーロール63がこの順に配置されている。
【0028】
上記巻出ロール52及び巻取ロール64では、パウダークラッチ等によるトルク制御によって、長尺樹脂フィルムFの張力バランスが保たれている。また、キャンロール56の回転と、これに連動して回転するモータ駆動のフィードロール55、61により、巻出ロール52から長尺樹脂フィルムFが巻き出されて巻取ロール64に巻き取られるようになっている。
【0029】
キャンロール56の外周面に対向する位置には、成膜手段としてのマグネトロンスパッタリングカソード57、58、59、60が、長尺樹脂フィルムFが巻き付けられるキャンロール56の外周面上の搬送経路に沿って設けられている。これによりキャンロール56の外周面に巻き付けられている長尺樹脂フィルムFの表面に金属膜をスパッタリング成膜することができる。その際、キャンロール56の内部には温調された冷媒が循環しているため、スパッタリングによる長尺樹脂フィルムFの熱を除去することができる。なお、長尺樹脂フィルムFがキャンロール56の外筒部に巻き付けられる角度範囲のことを、長尺樹脂フィルムFの抱き角と称することがある。
【0030】
これにより、例えば耐熱性樹脂フィルムの表面にNi合金等からなる膜とCu膜とが積層された金属膜付長尺耐熱性樹脂フィルムが得られる。なお、金属膜付耐熱性樹脂フィルムに用いる耐熱性樹脂フィルムとしては、例えば、ポリイミド系フィルム、ポリアミド系フィルム、ポリエステル系フィルム、ポリテトラフルオロエチレン系フィルム、ポリフェニレンサルファイド系フィルム、ポリエチレンナフタレート系フィルム、液晶ポリマー系フィルム等を挙げることができる。これらの耐熱性樹脂フィルムは、金属膜付フレキシブル基板としての柔軟性、実用上必要な強度、配線材料として好適な電気絶縁性を有する点から好ましい。
【0031】
Ni合金等からなる膜はシード層と呼ばれ、インコネル等のNi−Cr合金、又はコンスタンタンやモネル等の各種公知の合金を用いることができるが、その組成は金属膜付耐熱性樹脂フィルムの電気絶縁性や耐マイグレーション性等の所望の特性に応じて適宜選択される。金属膜付長尺耐熱性樹脂フィルムの金属膜を更に厚くしたい場合は、湿式めっき法を用いて金属膜を形成してもよい。また、電気めっき処理のみで金属膜を形成する場合と、一次めっきとして無電解めっき処理を行い、二次めっきとして電解めっき処理等の湿式めっき法を組み合わせて行う場合もある。湿式めっき法は、一般的な湿式めっき処理の諸条件を採用すればよい。
【0032】
上記方法で得られた金属膜付耐熱性樹脂フィルムは、例えばサブトラクティブ法によりフレキシブル配線基板に加工することができる。ここで、サブトラクティブ法とは、レジストで覆われていない金属膜(例えば、上記Cu膜)をエッチングにより除去してフレキシブル配線基板を製造する方法である。
【0033】
金属膜のスパッタリング成膜の場合には、
図1に示すように板状のターゲットを使用することができるが、板状ターゲットを用いた場合、ターゲット上にノジュール(異物の成長)が発生することがある。これが問題になる場合は、ノジュールの発生がなく、ターゲットの使用効率も高い円筒形のロータリーターゲットを使用することが好ましい。
【0034】
また、
図1の長尺樹脂フィルムFの成膜装置50は、熱負荷の掛かる処理としてスパッタリング処理を想定したものであるため、マグネトロンスパッタリングカソード57、58、59、60が図示されているが、熱負荷の掛かる処理が蒸着処理などの他のものである場合は、板状ターゲットに代えてCVD(化学蒸着)や真空蒸着などの他の真空成膜手段が設けられる。
【0035】
上記具体例では、金属膜付耐熱性樹脂フィルムとして、長尺耐熱性樹脂フィルムにNi-Cr合金やCu等の金属膜が積層された構造体を例示したが、上記金属膜以外に目的に応じて酸化物膜、窒化物膜、炭化物膜等を成膜することも可能である。この場合の酸化物膜、窒化物膜、炭化物膜等の成膜にも、本発明に係る金属ロールやそれを用いた表面処理装置を用いることができる。
【0036】
次に、上記したキャンロールの製造方法について説明する。成膜装置に使用される一般的なキャンロールは、ステンレス製の円筒状部材の両端部にステンレス製の側面板を溶接してドラム形状のロールとし、その中心軸部分に回転軸を設けて作製される。また、前述したように互いに異種金属のインナードラムとアウターリングとで構成される電着ロールなどでは、例えば
図2に示す方法で作製している。
【0037】
すなわち、先ず円筒加工したインナードラム1を用意し、その両端部に側面部2や回転軸3を取り付けた後(工程A)、インナードラム1の外径よりもわずかに小さな内径を有する肉厚のアウターリング4を用意し、このアウターリング4を加熱して膨張させた状態でその内側にインナードラム1を嵌め込むいわゆる焼き嵌めを行い(工程B)、アウターリング4の外周面を研削加工して薄肉のアウターリング4aにする(工程C)ことにより作製している。
【0038】
これに対して本発明の金属ロールの一具体例である上記したキャンロールは、
図3に示す方法で作製することができる。具体的には、円筒加工により作製した例えばアルミニウム製のインナードラム11を用意し、その両端部に側面部12や回転軸13を取り付ける(工程A1)。次に、インナードラム11の外径よりもわずかに小さな内径を有する例えばステンレス製の肉厚のアウターリング14を用意し、これを加熱してインナードラム11に焼き嵌める(工程B1)。この焼き嵌め工程では、アウターリング14を誘導加熱など公知の加熱方法で加熱することによりその内径が膨張するので、その間にアウターリング14の内側にインナードラム11を嵌め込むことにより、冷却後はインナードラム11の外周面とアウターリング14の内周面との間を強固に結合することができる。
【0039】
両者を焼き嵌めした後、インナードラム11とアウターリング14が温度差等により緩むことがないように、アウターリング14の外周面側からレーザ溶接もしくは電子ビーム溶接を行う(工程C1)。その後、アウターリング14の外周面を薄く円筒研削して薄肉のアウターリング14aにする(工程D1)。この薄肉のアウターリング14aの外周面にハードクロムめっき処理を行ってめっきされたアウターリング14bとした後(工程E1)、更にこのめっきされたアウターリング14bの外周面を研磨加工して研磨されたアウターリング14cとする(工程F1)。これによりキャンロールが完成する。
【0040】
なお、
図4(a)〜(c)には、それぞれ上記工程A〜Cが部分斜視図で示されており、インナードラム11の内側に冷媒循環用パイプ16が設けられた様子が示されている。この冷媒循環用パイプ16とインナードラム11の内周面とで画定される空間に冷媒循環路17が形成される。また、
図4(c)には中心軸方向に延在する複数の溶接ビード15が周方向に略等間隔に形成されている様子が示されている。
【0041】
上記方法では溶接後にアウターリング14の外周面を研削・研磨するので、溶接等によりキャンロールの外周面に平滑性の問題が生じても修正できる。レーザ溶接もしくは電子ビーム溶接は、アウターリング14の外周面側(金属ロールの表面側)から行うのが好ましい。レーザ溶接もしくは電子ビーム溶接を用いるのは、これら溶接ならば出力の密度が高く、アウターリング14からインナードラム11に熱が効率よく伝達して両者を良好に溶接することができるからである。
【0042】
また、レーザ溶接や電子ビーム溶接では各溶接箇所のビード幅を狭くできるので、後述するようにインナードラムの外周面に冷却配管等の溝加工が施されていても、その部分を避けて溶接することが可能である。すなわちレーザ溶接や電子ビーム溶接であればインナードラムの外周面の構造の自由度を損なうことがほとんどない。特に、電子ビーム溶接は、細いビームが溶接部深くまで進入するのでより好ましい。なお、溶接にはアーク溶接等も知られているが、レーザ溶接や電子ビーム溶接に比べると出力密度が低く、本発明に係る金属ロール(キャンロール)の製造には適さない。
【0043】
アウターリング用の部材は、上記したように、研削・研磨されることを見込んだ厚みにすることが望ましい。また、アウターリングは焼嵌め、溶接、及び研削・研磨の工程を経るので、これらも考慮する必要がある。具体的には、焼嵌めの観点から、アウターリングはある程度の厚みを有している必要がある。例えば、インナードラムの外径が400mm〜1000mm程度の場合は、アウターリングの肉厚は8mm〜15mm程度が望ましい。一方、溶接の観点からすれば、アウターリングの外周面から照射したレーザや電子ビームの熱がインナードラムに届き、これによりアウターリングとインナードラムとが溶接されることになるので、その必要性から、溶接時はアウターリングの厚みが薄いほうが望ましく、例えば肉厚3mm〜5mm程度が望ましい。なお、インナードラムの厚みは、インナードラム表面に溝加工等の加工を行っても、形状が保たれる厚みであれば特に限定されるものではないが、アウターリングより厚い方が好ましい。
【0044】
アウターリングが厚すぎると、溶接の熱が周囲に拡散し、十分な溶接の効果が得られない。しかし、焼き嵌めしたアウターリングを溶接前に研磨をしすぎると、アウターリングがインナードラムから緩むことがある。そこで、焼き嵌めや溶接などを考慮すると、インナードラムにアウターリング焼嵌めた後、アウターリングが緩まない程度で且つ溶接できる程度にアウターリングに研磨を行い、レーザ溶接または電子ビーム溶接後に、さらに研磨を行えばよい。
【0045】
本発明の第1の実施形態に係る金属ロール(キャンロール)は、インナードラムとアウターリングが焼嵌められ、さらにレーザ溶接もしくは電子ビーム溶接により一体化されているので、金属ロール表面を薄く削って締め付け応力が低減した場合や、高温熱処理による金属ロールへの熱負荷があっても、インナードラムとアウターリングが緩んでしまうことがない。さらには、成膜の熱負荷等で、インナードラムが冷却されたままアウターリングだけが高温になったり、部分的に高温になったりしても、インナードラムとアウターリングとの間が緩むことはない。
【0046】
アウターリングの線膨張係数はインナードラムよりも小さいのが好ましい。例えば、インナードラムをアルミニウム製にすることでその線膨張係数は約23×10
−6/Kとなり、アウターリングをステンレス製にすることでその線膨張係数は約15×10
−6/Kとなる。このようにアウターリングの線膨張係数をインナードラムよりも小さくすることで、キャンロール(金属ロール)が線膨張する際にインナードラムとアウターリングとの当接部分が剥離することがなくなる。
【0047】
逆に、アウターリングの線膨張係数がインナードラムよりも大きければ、キャンロールに熱がかかれば、アウターリングがインナードラムに比べてより膨張するので、両者には剥離する方向に力が働く。従って、アウターリングとインナードラムの材質は、線膨張係数も考慮して選択するのが好ましい。なお、アウターリングの線膨張係数がインナードラムよりも小さい場合は、キャンロール(金属ロール)が線膨張する際にインナードラムの変形がアウターリングにより制約されるので、厳密にはインナードラムはその内側にも膨張することになる。
【0048】
ところで、インナードラムとアウターリングとは焼き嵌めだけでも緩むことはないように思われる。しかし、研磨によりアウターリングが薄くなりすぎてインナードラムへの締め付け応力が低減した場合や高温で熱処理を行うような場合、あるいは昇温と降温とを繰り返す場合など、条件によってはインナードラムとアウターリングとの間が緩んでしまうことがある。
【0049】
また、線膨張係数は、昇温の際は膨張の度合いを示すが、降温の際は収縮の度合いを示すので、前述したようにアウターリングの線膨張係数をインナードラムよりも小さくした場合は降温時に剥離する方向に力がかかることになる。その結果、昇温と降温を繰り返すと、いずれはアウターリングとインナードラムとの収縮度合いの違いから両者の間が緩んだり、金属ロール(キャンロール)の外周面がゆがんで初期の周方向に略真円であった曲面形状が変形したりする。
【0050】
そのため、特許文献4〜6では、アウターリングとインナードラムが緩まない技術が開示されている。例えば特許文献4には、インナードラムに溝を彫り込みアウターリングとの単位面積当たりの接触圧力を高める方法が開示されている。しかし、この特許文献4の技術では、インナードラムの溝形状を限定する必要あり、インナードラムの設計の自由度が低下する。すなわち、インナードラムの外周面に後述するような冷媒循環用の溝を設ける必要が生じても、その寸法を自由に設計することができなくなる。一方、特許文献5及び6の技術は、インナードラムとアウターリングの間に金属板を挟むものであるが、このような金属板が介在するとインナードラム、金属板、及びアウターリングの線膨張係数の違いからこれらの3つの部材間で緩むことが懸念される。
【0051】
これに対して、上記した本発明の第1の実施形態に係る金属ロールでは、アウターリングがインナードラムに焼嵌められていることに加えて、両者の間が溶接されているのでこれらアウターリングとインナードラムの間が緩むことはない。また、アウターリングの厚みを適宜薄くできるので、成膜中の長尺樹脂フィルムを効率よく冷却することもでき、キャンロールの外周面とそこに巻き付けられる長尺樹脂フィルムとの熱コンダクタンスを向上させ、前処理や成膜等の熱負荷の掛かる処理の際にフィルム温度を効率よく低下させることができる。
【0052】
従って、上記した本発明の第1の実施形態の一例であるキャンロールを長尺の帯状物をロールツーロールで搬送する装置に搭載し、キャンロールの外周面に熱負荷が掛かる表面処理手段を対向させて該外周面に巻き付けられた帯状物の表面に処理を行うことにより、帯状物に熱負荷の掛かる表面処理を施しても帯状物のシワの発生をなくすことができる。このような表面処理装置は、金属膜付耐熱性樹脂フィルム、光学フィルム等の製造装置に用いることがきるので、各種フィルム状製品の品質向上や歩留まり向上に寄与することができる。
【0053】
特に、前述した成膜装置50のようなスパッタリングウェブコータでは、キャンロール56の外周面を担うアウターリングが、回転駆動手段から駆動力が伝達される回転軸を有するインナードラムから緩むと、巻出ロール52から巻きだされて巻取ロール62に巻き取られる長尺樹脂フィルムFの搬送制御を乱し、長尺樹脂フィルムFの表面にシワやすり傷などの不具合を発生させる。このような不具合は、長尺樹脂フィルムFの搬送経路の途中に配された駆動力を備えたキャンロール56では制御できないからである。なお、特許文献4〜6は電解金属箔の製造に用いる電着ドラムに関する技術であり、電着ドラムは電解金属箔の始点にあるため、電着ドラムの表面が緩んでいても、帯状の電解金属箔の搬送には大きな不具合を発生させることはない。
【0054】
このように、長尺の帯状物の搬送経路の途中に配される駆動力を備えたキャンロールに使用する金属ロールでは、各種フィルム状製品の品質の観点から回転軸と外周面との間で緩みがあってはならず、回転軸を備えたインナードラムと外周面を備えたアウターリングとは互いに強固に結合されている必要がある。本発明の第1の実施形態に係る金属ロールは、インナードラムとアウターリングが焼嵌められた後、溶接されているのでこの目的を満足している。
【0055】
次に、本発明の金属ロールの第2の実施形態について説明する。この本発明の第2の実施形態の金属ロールは、第1の実施形態の金属ロールと同様に互いに溶接された異種金属のインナードラムとアウターリングとで構成されていることに加えて、インナードラムの外周面に回転軸方向に延在する複数の溝が、周方向に略均等な間隔をあけて全周に亘って形成されていることを特徴としている。
【0056】
このインナードラムの溝には冷媒を循環させてもよいし、伝熱係数を高めるべくキャンロールの外周面とそこに巻き付けられる長尺樹脂フィルムとの間の間隙に導入するガスを流通させてもよい。冷媒を循環させる場合は、前述した冷媒循環用パイプをインナードラムの内側に設ける場合に比べてよりキャンロールの外周面に近い部分に冷媒を流すことができるので、より冷却効率の高いキャンロール(以降、このキャンロールを表面冷却キャンロールとも称する)を作製することが可能となる。
【0057】
導入ガスを流通させる場合は、アウターリングにおいて各溝に対向する領域に、アウターリングの外周面側から当該溝に向かって貫通する複数の孔を穿孔することが必要になる。更に、インナードラムの内側に前述した第1の実施形態のキャンロールと同様の冷媒循環用パイプ等を設けることも必要となる。
【0058】
次に、
図5を参照しながら本発明の第2の実施形態の金属ロールの一例としての表面冷却キャンロールの製造方法について説明する。先ず、円筒加工により例えばアルミニウム製のインナードラム21を作製し、その両端部に側面部22や回転軸23を取り付け、更に溝切り加工によりインナードラム21の外周面に中心軸方向に延在する複数の溝28を周方向に略均等な間隔をあけて全周に亘って形成する(工程A2)。なお、これら複数の溝28に導入ガスを流通させるのであれば、インナードラム21の内側に冷媒循環用パイプ(図示せず)を設けることになる。
【0059】
次に、インナードラム21の外径よりもわずかに小さな内径を有する例えばステンレス製の厚肉のアウターリング24を用意し、これを加熱してインナードラム21に焼き嵌める(工程B2)。これらインナードラム21とアウターリング24が温度差により緩むことがないようにレーザ溶接もしくは電子ビーム溶接を行う(工程C2)。以降は前述した第1の実施形態と同様に、アウターリング24の外周面を薄く円筒研削・研磨して薄肉のアウターリング24aとし(工程D2)、ハードクロムめっき処理を行なってめっきされたアウターリング24bとし(工程E2)、研磨加工して研磨されたアウターリング24cとする(工程F2)。これにより表面冷却キャンロールが完成する。なお、インナードラム21の溝28には、ここに流す冷媒や導入ガスを分配して供給するための例えばロータリージョイント等の装置(図示せず)が取り付けられる。
【0060】
上記工程A2〜C2について、
図6(a)〜(d)の部分斜視図をも用いてより詳しく説明すると、
図6(a)に示すような円筒研削加工されたインナードラム21に対して、その外周面側に
図6(b)に示すような複数の溝28を形成する。これら溝28の寸法は、冷媒を循環させる場合は冷媒の種類や流量等、導入ガスを流通させる場合は導入ガスのガス圧や流量等の仕様に応じて適宜設計する。次に、
図6(c)に示すように、厚肉のアウターリング24を用意し、これを加熱してインナードラム21の外周側に焼き嵌める。
【0061】
次に、
図6(d)に示すように、アウターリング24とインナードラム21とをレーザ溶接もしくは電子ビーム溶接により接合する。その際、隣接する溝28の間の突条部分29で溶接が行われるように、アウターリング24の外周面からこの突条部分29に向けてレーザもしくは電子ビームを照射すると共に、インナードラム21の中心軸方向に沿って該レーザもしくは電子ビームを走査させる。
【0062】
これにより、
図6(d)に示すように、隣接する溝28の間の突条部分29に中心軸方向に沿って溶接ビード25を形成することができる。このようにインナードラム21の溝28の間の突条部分29においてアウターリング24の内周面と溶接するには、レーザ溶接もしくは電子ビーム溶接のように溶接幅を絞ることができ、且つ出力密度が高い溶接が好ましい。
【0063】
以上、本発明の金属ロールの実施形態を、ロールツーロールで搬送される長尺樹脂フィルムにスパッタリング成膜処理を施すスパッタリングウエブコータが有するキャンロールを例に挙げて説明したが、本発明はかかる実施形態や具体例に限定されるものではなく、本発明の特許請求の範囲及びその均等物に及ぶものである。
【実施例】
【0064】
[実施例1]
アルミニウム製のインナードラムと、ステンレス製のアウターリングとからなる金属ロールを
図3に示す製造方法に従って作製し、これを
図1に示すような成膜装置50(スパッタリングウェブコータ)のキャンロール56として使用し、長尺樹脂フィルムFにスパッタリング成膜を施して、金属膜付長尺耐熱性樹脂フィルムを作製した。
【0065】
具体的に説明すると、インナードラム11として仕上がり外径798mm、厚さ15mmのアルミニウム製のパイプを用意し、アウターリング14として仕上がり内径797mm、厚さ10mmのステンレス製のパイプを用意した。これらパイプ同士を良好に焼き嵌めできるように、インナードラム用パイプの外周面とアウターリング用パイプの内周面とを切削・研磨し、アウターリング用パイプを加熱して膨張させ、インナードラム用パイプに焼き嵌めた。次に、インナードラム用パイプの内側に冷媒循環路を形成し、更にアウターリング用パイプの外周面を4mm厚(外径802mm)まで切削・研磨した。
【0066】
波長1.06μm、出力10kWのYAGレーザをアウターリング用パイプの外周面側から照射し、周方向に角度2°毎にインナードラム用パイプとアウターリング用パイプとを溶接した。その際、各溶接ビードが中心軸方向に延在するようにした。その後、キャンロールとしての外径が800mmになるまで切削・円筒研磨した。その後、アウターリング用パイプの外周面に硬質クロムめっきを施し、直径800mm、幅750mmのキャンロールを完成させた。
【0067】
このキャンロールを成膜装置50に搭載し、長尺樹脂フィルムFの表面にシード層であるNi−Cr膜と、該シード層上のCu膜とを積層するため、マグネトロンスパッタターゲット57にはNi−Crターゲットを使用し、マグネトロンスパッタターゲット58〜60にはCuターゲットを使用した。また、アルゴンガスを300sccm導入し、各カソードへの印加電力は5kWとした。更に、巻出ロール52と巻取ロール64の張力は80Nとし、キャンロールの冷媒には水を用いて20℃に温度制御した。
【0068】
そして、巻出ロール52にセットした長尺樹脂フィルムFの先端部を引き出し、ロールツーロールの搬送経路を画定するキャンロール56などの各種ロールを経由させて巻取ロール64に取り付けた。なお、長尺樹脂フィルムFには、幅500mm、長さ800m、厚さ25μmの東レ・デュポン株式会社製の耐熱性ポリイミドフィルム「カプトン(登録商標)」を使用した。
【0069】
また、真空チャンバー51を複数台のドライポンプにより5Paまで排気した後、更に複数台のターボ分子ポンプとクライオコイルを用いて3×10
−3Paまで排気した。この状態で、長尺樹脂フィルムFを搬送速度4m/分で搬送しながら、各マグネトロンスパッタカソードにアルゴンガスを導入して電力を印加し、長尺樹脂フィルムFの表面にシード層としての膜厚10nmのNi−Cr膜と、その上の膜厚100nmのCu膜とが成膜された金属膜付長尺耐熱性樹脂フィルムを作製した。
【0070】
すべての長尺樹脂フィルムFに成膜処理を行った後、成膜装置50を止めて目視にてキャンロール56を調べたところ、外周面の硬質クロムめっきは剥がれることなく、当初搭載したときのままの良好な状態を保っていた。また、作製した金属膜付長尺耐熱性樹脂フィルムにはシワ等の不具合は見られなかった。
【0071】
[実施例2]
実施例1と同様のインナードラムとアウターリングとを使用したが、
図5に示す製造方法に従ってインナードラムの外周面に複数の溝を備えた表面冷却キャンロールを作製し、これを実施例1と同様に成膜装置50に搭載して金属膜付長尺耐熱性樹脂フィルムを作製した。
【0072】
具体的には、良好な焼き嵌めができるようにインナードラム用パイプの外周面とアウターリング用パイプの内周面とを切削・研磨した後、インナードラム用パイプの外周面に、周方向に角度2°毎に中心軸方向に延在する180本の幅5mm深さ5mmの冷媒導入路用の溝28を溝切りカッターにより形成した。その後、アウターリング用パイプを加熱して膨張させ、インナードラム用パイプに焼き嵌めた。そして、アウターリング用パイプの表面を4mm厚(外径802mm)まで切削・研磨した。
【0073】
波長1.06μm、出力10kWのYAGレーザを、隣接する冷媒導入路用の溝28の間の突状部分29に向けてアウターリング用パイプの外周面側から照射し、更に回転軸方向に走査させて、インナードラム用パイプとアウターリング用パイプとを接合した。以降は実施例1と同様にして外径が800mmになるまで切削・円筒研磨し、外周面に硬質クロムめっきを施して表面冷却キャンロールを完成させた。この表面冷却キャンロールを実施例1と同様に成膜装置50に搭載し、実施例1と同様の条件で金属膜付長尺耐熱性樹脂フィルムを作製した。
【0074】
すべての長尺樹脂フィルムFに成膜処理を行った後、成膜装置50を止めて目視にてキャンロールを調べたところ、外周面の硬質クロムめっきは剥がれることなく、当初搭載したときのままの良好な状態を保っていた。また、作製した金属膜付長尺耐熱性樹脂フィルムにはシワ等の不具合は見られなかった。
【0075】
[比較例1]
実施例1と同様のインナードラムとアウターリングとを使用したが、
図2に示す製造方法に従ってキャンロールを作製した。すなわち、焼き嵌めは行ったが、溶接は行わなかった。以降は実施例1と同様にして外径が800mmになるまで切削・円筒研磨し、外周面に硬質クロムめっきを施してキャンロールを完成させた。この比較例1では、切削・円筒研磨工程の際に、薄くしたアウターリングが緩んでしまうトラブルが発生した。このキャンロールを実施例1と同様に成膜装置50に搭載して実施例1と同様の条件で金属膜付長尺耐熱性樹脂フィルムを作製した。
【0076】
その結果、この比較例1のキャンロールは、硬質クロムめっきの剥がれは特に生じなかったが、前述したようにアウターリングの切削・研磨工程中に緩みが発生したため、キャンロールの外周面の平滑度が悪く、さらにアウターリングとインナードラムとの接触圧が周方向で均一ではないと考えられることも起因して、成膜中に長尺樹脂フィルムFにシワが発生した。
【0077】
[比較例2]
インナードラムとアウターリングに両方ともアルミニウム製にした以外は比較例1と同様にしてキャンロールを作製した。このキャンロールを実施例1と同様に成膜装置50に搭載して実施例1と同様の条件で金属膜付長尺耐熱性樹脂フィルムを作製した。
【0078】
その結果、この比較例2のキャンロールは、硬質クロムめっきの剥がれが生じた。更に、アウターリングの切削・研磨工程中に緩みが発生したため、キャンロールの外周面の平滑度が悪く、アウターリングとインナードラムとの接触圧が周方向で均一ではないと考えられることも起因して、成膜中に長尺樹脂フィルムFにシワが発生した。