特許第5920278号(P5920278)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5920278差動信号伝送用ケーブル及び多対差動信号伝送用ケーブル
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5920278
(24)【登録日】2016年4月22日
(45)【発行日】2016年5月18日
(54)【発明の名称】差動信号伝送用ケーブル及び多対差動信号伝送用ケーブル
(51)【国際特許分類】
   H01B 11/00 20060101AFI20160428BHJP
   H01B 7/02 20060101ALI20160428BHJP
   H01B 7/08 20060101ALI20160428BHJP
   H01B 11/02 20060101ALI20160428BHJP
【FI】
   H01B11/00 G
   H01B7/02 G
   H01B7/08
   H01B11/02
【請求項の数】5
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-84834(P2013-84834)
(22)【出願日】2013年4月15日
(65)【公開番号】特開2014-207178(P2014-207178A)
(43)【公開日】2014年10月30日
【審査請求日】2015年6月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100068021
【弁理士】
【氏名又は名称】絹谷 信雄
(72)【発明者】
【氏名】杉山 剛博
(72)【発明者】
【氏名】石松 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】中山 明成
【審査官】 北嶋 賢二
(56)【参考文献】
【文献】 特表2012−507832(JP,A)
【文献】 特開2004−192816(JP,A)
【文献】 特開2008−021585(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 11/00
H01B 7/02
H01B 7/08
H01B 11/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体の外周に絶縁層を設けた2本の芯線を平行配置し、該2本の芯線を一括して覆うように外部導体を設けた差動信号伝送用ケーブルであって、
前記絶縁層は、前記導体の外周に、非発泡の樹脂からなる内層スキン層と、発泡樹脂からなる発泡層と、非発泡の樹脂からなる外層スキン層とを順次設けて構成され、
前記外層スキン層の比誘電率が、前記内層スキン層の比誘電率より大きい
ことを特徴とする差動信号伝送用ケーブル。
【請求項2】
前記外層スキン層の比誘電率が、3以上である
請求項1記載の差動信号伝送用ケーブル。
【請求項3】
前記外層スキン層の厚さが、前記内層スキン層の厚さより大きい
請求項1または2記載の差動信号伝送用ケーブル。
【請求項4】
前記外部導体は、前記2本の芯線の外周に、導体テープを縦添え巻きして形成される
請求項1〜3いずれかに記載の差動信号伝送用ケーブル。
【請求項5】
請求項1〜4いずれかに記載の差動信号伝送用ケーブルを複数備え、該複数の差動信号伝送用ケーブルの周囲に保護用のジャケットを設けた
ことを特徴とする多対差動信号伝送用ケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、差動信号伝送用ケーブル及び多対差動信号伝送用ケーブルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、図2に示すような差動信号伝送用ケーブル21が知られている。
【0003】
図2に示す従来の差動信号伝送用ケーブル21は、1本の導体22の外周に絶縁層23を設けた2本の芯線24を平行配置し、2本の芯線24を一括して覆うように外部導体25を設けて構成されている。
【0004】
絶縁層23として発泡樹脂からなるものを用いる場合、導体22と接する絶縁層23の内側の部分、および外部導体25と接する絶縁層23の外側の部分に、スキン層と呼ばれる非発泡の層を設けることが一般に行われている。以下、内側のスキン層を内層スキン層26、外側のスキン層を外層スキン層28、内層スキン層26と外層スキン層28間に設けられる発泡樹脂からなる絶縁層23を発泡層27と呼称する。
【0005】
内層スキン層26は、発泡層27と導体22間に空気が溜まることによる絶縁層23の導体22への密着性の低下を抑制するためのものであり、外層スキン層28は、発泡層27に水分が入ることを抑制するためのものである。内層スキン層26、発泡層27、外層スキン層28としては、発泡の有無が異なるのみで同じ材料を用いることが一般的であり、このような三層の絶縁層23を形成することは、三層押出し等と呼ばれ従来より一般的に実施されている。
【0006】
外部導体25は、テープ状の樹脂の一方の面に金属層を形成した導体テープを巻き付けて形成される。導体テープの巻き方としては、スパイラル状に巻き付ける横巻きや縦添え巻きが知られている。
【0007】
導体テープを横巻きにして外部導体25を形成した場合、ケーブル長手方向に沿って樹脂層と金属層が周期的に配列された状態となり、特定の周波数で伝送特性が悪化することが知られている。これを抑制するため、高速伝送に用いる差動信号伝送用ケーブル21においては、導体テープを縦添えにした外部導体25を用いることが望まれる。
【0008】
なお、この出願の発明に関連する先行技術文献情報としては、特許文献1がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002−358841号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、差動信号伝送用ケーブル21では、一対の導体22で差動信号を伝送する差動モードと、一対の導体22で同相信号を伝送する同相モードの2つの伝送モードが存在している。
【0011】
差動モードの信号伝送では、導体22付近に電界が集中するため、差動モードの伝播速度は主に導体22間に存在する絶縁層23の比誘電率で決まる。
【0012】
他方、同相モードの信号伝送では、導体22と外部導体25との間に電界が集中するため、同相モードの伝播速度は導体22と外部導体25の間に存在する絶縁層23の比誘電率で決まる。
【0013】
差動信号伝送用ケーブル21では、2本の芯線24と外部導体25との間に隙間(空気層29という)が生じる。この空気層29は外部導体25の近傍に多く存在するため、差動モードに比べて同相モードがその影響を受けやすい。そのため、同相モードの伝播速度が差動モードの伝播速度よりも速くなり、差動モードと同相モードでは伝播速度が異なってしまう。つまり、従来の差動信号伝送用ケーブル21では、差動・同相モード間でスキューが発生してしまう。
【0014】
高速伝送では主に差動信号が用いられているため、理想的には、差動・同相モード間のスキューは伝送特性に影響を及ぼさない。しかし、製造上のばらつきなどでケーブル構造の対称性が崩れた場合など、差動モードから同相モード、同相モードから差動モードといった相互の結合(差動−同相間結合(SCD21、SDC21))が発生した場合には、差動・同相モード間のスキューにより伝送特性(差動信号のスキュー特性)が悪化してしまうという問題が生じる。
【0015】
導体テープを横巻きにして外部導体25を形成した場合には、同相成分が減衰するために大きな問題は生じないことが多いが、導体テープを縦添えにして外部導体25を形成した高速伝送用の差動信号伝送用ケーブル21においては、同相成分が減衰することなく伝送されるため、差動・同相モード間のスキューの影響を受けやすく、差動−同相間結合による伝送特性の悪化が顕著に生じてしまう。
【0016】
差動−同相間結合を完全に無くすことは困難であるため、差動−同相間結合が発生した場合であっても伝送特性の悪化を抑制できる差動信号伝送用ケーブルが望まれる。
【0017】
本発明は上記事情に鑑み為されたものであり、差動−同相間結合が発生した場合であっても伝送特性の悪化を抑制できる差動信号伝送用ケーブル及び多対差動信号伝送用ケーブルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は上記目的を達成するために創案されたものであり、導体の外周に絶縁層を設けた2本の芯線を平行配置し、該2本の芯線を一括して覆うように外部導体を設けた差動信号伝送用ケーブルであって、前記絶縁層は、前記導体の外周に、非発泡の樹脂からなる内層スキン層と、発泡樹脂からなる発泡層と、非発泡の樹脂からなる外層スキン層とを順次設けて構成され、前記外層スキン層の比誘電率が、前記内層スキン層の比誘電率より大きい差動信号伝送用ケーブルである。
【0019】
前記外層スキン層の比誘電率が、3以上であるとよい。
【0020】
前記外層スキン層の厚さが、前記内層スキン層の厚さより大きいとよい。
【0021】
前記外部導体は、前記2本の芯線の外周に、導体テープを縦添え巻きして形成されてもよい。
【0022】
また、本発明は、本発明の差動信号伝送用ケーブルを複数備え、該複数の差動信号伝送用ケーブルの周囲に保護用のジャケットを設けた多対差動信号伝送用ケーブルである。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、差動−同相間結合が発生した場合であっても伝送特性の悪化を抑制できる差動信号伝送用ケーブル及び多対差動信号伝送用ケーブルを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の一実施の形態に係る差動信号伝送用ケーブルの横断面図である。
図2】従来の差動信号伝送用ケーブルの横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0026】
図1は、本実施の形態に係る差動信号伝送用ケーブルの横断面図である。
【0027】
図1に示すように、差動信号伝送用ケーブル1は、導体2の外周に絶縁層3を設けた2本の芯線4を平行配置し、2本の芯線4を一括して覆うように外部導体5を設けて構成されている。
【0028】
絶縁層3は、導体2の外周に、非発泡の樹脂からなる内層スキン層6と、発泡樹脂からなる発泡層7と、非発泡の樹脂からなる外層スキン層8とを順次設けて構成されている。
【0029】
2本の芯線4と外部導体5との間には、外部導体5の接地用のドレイン線9が設けられている。なお、ドレイン線9は必須ではなく、省略可能である。
【0030】
外部導体5は、テープ状の樹脂の一方の面に銅やアルミニウムなどからなる金属層を形成した導体テープを用い、この導体テープを2本の芯線4の外周に縦添え巻きして形成されている。
【0031】
本実施の形態では、導体2の外径を0.511mm、芯線4の外径を1.5mm、内層スキン6の厚さを0.05mmとし、特性インピーダンスは100Ωに設定することとした。2本の芯線4と外部導体5とドレイン線9の間には、隙間(空気層10という)が形成されている。
【0032】
内層スキン層6と発泡層7としては、従来通り、同じ樹脂からなるものを用いた。ここでは、内層スキン層6として比誘電率2.1の非発泡のPE(ポリエチレン)、発泡層7として比誘電率1.6の発泡PEを用いた。
【0033】
さて、本実施の形態に係る差動信号伝送用ケーブル1では、外層スキン層8の比誘電率を、内層スキン層6の比誘電率より大きくしている。発泡層7の比誘電率は内層スキン層6の比誘電率より小さいので、差動信号伝送用ケーブル1では、発泡層7、内層スキン層6、外層スキン層8の順に比誘電率が大きくなっている。
【0034】
導体2間に電界が集中する差動モードと比較して、導体2と外部導体5間に電界が集中する同相モードの方が、外層スキン層8の誘電率の影響を受けやすい。そこで、本実施の形態では、外層スキン層8の比誘電率を高くすることで、比誘電率の低い空気層10による影響を抑えて、差動モードと同相モード間で伝播速度に差が生じること、つまりスキューの発生を抑制している。
【0035】
ところで、同相モードの伝播速度には、外層スキン層8の比誘電率と厚さaの両者が影響を及ぼす。つまり、外層スキン層8の比誘電率を高くすると、外層スキン層8の厚さaを小さくしてもスキューを抑制可能となり、外層スキン層8の厚さaを大きくすると、外層スキン層8の比誘電率が低くてもスキューを抑制可能になる。
【0036】
ただし、外層スキン層8の比誘電率は、3以上とすることが望ましい。これは、外層スキン層8の比誘電率を3未満とすると、内層スキン層6と発泡層7としてPE等の一般的な樹脂を用いる場合において、外層スキン層8を厚く形成しても差動モードと同相モード間で伝播速度のバランスをとることが困難となるためである。
【0037】
また、外層スキン層8の厚さaは、内層スキン層6の厚さbより大きくすることが望ましい。従来のケーブルでは、内層および外層のスキン層の厚さは0.1mm以下とするのが通常であるが、外層スキン層8の厚さaをこれと同程度とすると、比誘電率の非常に高い材料を用いる必要が生じ、現実的でないためである。よって、内層スキン層6の厚さbを一般的な厚さである0.1mm以下とする場合、外層スキン層8の厚さaは、内層スキン層6の厚さbより大きくすることが望ましい。
【0038】
本実施の形態では、外層スキン層8として、比誘電率3.2に調整したEVA(エチレン酢酸ビニル樹脂)を用い、外層スキン層8の厚さaを0.2mmとした。このときの外層スキン層8の厚さaは、絶縁層3全体の厚さの約40%であり、芯線4の半径の約27%である。
【0039】
なお、外層スキン層8として用いる樹脂としては、EVAに限らず、内層スキン層6や発泡層7に用いた樹脂(PE)と密着性がよく、押出成型が可能で、かつ比誘電率が3以上となるものであればよく、例えば、ナイロン等のポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂などを用いることもできる。また、外層スキン層8として、内層スキン層6や発泡層7に用いた樹脂と同じ樹脂(ここではPE)を用い、これにシリカ等の無機物を添加して比誘電率を調整することも可能である。
【0040】
本発明の差動信号伝送用ケーブル1を複数本備え、その周囲に保護用のジャケットを設けると、本発明の多対差動信号伝送用ケーブルが得られる。なお、多対差動信号伝送用ケーブルに含まれる全ての差動信号伝送用ケーブルに本発明の差動信号伝送用ケーブル1を用いなければならないというわけではなく、多対差動信号伝送用ケーブルに含まれる差動信号伝送用ケーブルの少なくとも1つに差動信号伝送用ケーブル1を用いていれば本発明に含まれる。
【0041】
以上説明したように、本実施の形態に係る差動信号伝送用ケーブル1では、外層スキン層8の比誘電率を、内層スキン層6の比誘電率より大きくしている。
【0042】
外層スキン層8の比誘電率を大きくすることにより、同相モードにおける実効誘電率を増加させること、すなわち、空気層10の低い誘電率を外層スキン層8の高い誘電率で相殺することが可能となり、差動モードと同相モードの実効誘電率を等しくする(あるいは近づける)ことが可能になる。その結果、差動モードと同相モードの伝播速度を等しくして(あるいは近づけて)、差動・同相モード間のスキューを抑制し、製造上のばらつきなどで差動−同相間結合が発生した場合であっても波形の乱れ等の伝送特性の悪化を抑制することが可能になる。
【0043】
なお、従来の差動信号伝送用ケーブルでは、誘電損を減少させるために絶縁層3の比誘電率をできるだけ小さくするのが通常である。本実施の形態では、逆に外層スキン層8の比誘電率を大きくし、かつ外層スキン層8を従来よりも厚く形成することにより、差動・同相モード間のスキューを抑制している。
【0044】
本発明は、同相成分が減衰することなく伝送される縦添えタイプの外部導体5を用いた場合に、特に顕著な効果を奏する。
【0045】
本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加え得ることは勿論である。
【0046】
例えば、上記実施の形態では外部導体5として縦添えタイプのものを用いたが、これに限らず、横巻きタイプのものを用いてもよい。
【符号の説明】
【0047】
1 差動信号伝送用ケーブル
2 導体
3 絶縁層
4 芯線
5 外部導体
6 内層スキン層
7 発泡層
8 外層スキン層
9 ドレイン線
10 空気層
図1
図2