特許第5920353号(P5920353)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5920353窒化ホウ素物粒子、エポキシ樹脂組成物、半硬化樹脂組成物、硬化樹脂組成物、樹脂シート、発熱性電子部品及び窒化ホウ素粒子の製造方法
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  • 特許5920353-窒化ホウ素物粒子、エポキシ樹脂組成物、半硬化樹脂組成物、硬化樹脂組成物、樹脂シート、発熱性電子部品及び窒化ホウ素粒子の製造方法 図000010
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5920353
(24)【登録日】2016年4月22日
(45)【発行日】2016年5月18日
(54)【発明の名称】窒化ホウ素物粒子、エポキシ樹脂組成物、半硬化樹脂組成物、硬化樹脂組成物、樹脂シート、発熱性電子部品及び窒化ホウ素粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 21/064 20060101AFI20160428BHJP
   C08K 3/28 20060101ALI20160428BHJP
   C08K 3/38 20060101ALI20160428BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20160428BHJP
【FI】
   C01B21/064 M
   C08K3/28
   C08K3/38
   C08L63/00 C
【請求項の数】12
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2013-535964(P2013-535964)
(86)(22)【出願日】2012年4月27日
(86)【国際出願番号】JP2012061485
(87)【国際公開番号】WO2013046784
(87)【国際公開日】20130404
【審査請求日】2015年3月10日
(31)【優先権主張番号】特願2011-211078(P2011-211078)
(32)【優先日】2011年9月27日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】日立化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹澤 由高
(72)【発明者】
【氏名】宋 士輝
(72)【発明者】
【氏名】田中 慎吾
(72)【発明者】
【氏名】北條 房郎
【審査官】 田澤 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−012771(JP,A)
【文献】 特開平06−115912(JP,A)
【文献】 特開平05−330806(JP,A)
【文献】 特開2007−182369(JP,A)
【文献】 特開平03−115109(JP,A)
【文献】 特開平09−012307(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 21/00−21/50
C08K 3/00−13/08
C08L 1/00−101/16
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面エネルギーの極性項が1mN/m以上であり、表面の酸素原子濃度が5at%以下であ窒化ホウ素粒子。
【請求項2】
25℃、湿度50%において測定したときに、25℃の水に対する接触角が90°以下であり、且つ25℃のn−ヘキサデカンに対する接触角が20°以下であり、表面の酸素原子濃度が5at%以下であ窒化ホウ素粒子。
【請求項3】
25℃、湿度50%において測定したときに、25℃の水に対する接触角が90°以下であり、且つ25℃のn−ヘキサデカンに対する接触角が20°以下である請求項1に記載の窒化ホウ素粒子。
【請求項4】
面の酸素原子濃度が1.5at%以上である請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の窒化ホウ素粒子。
【請求項5】
体積平均粒子径が0.01μm〜1mmである請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の窒化ホウ素粒子。
【請求項6】
請求項1〜請求項のいずれか一項に記載の前記窒化ホウ素粒子と、エポキシ樹脂と、硬化剤と、を含有するエポキシ樹脂組成物。
【請求項7】
請求項に記載のエポキシ樹脂組成物の半硬化体である半硬化樹脂組成物。
【請求項8】
請求項に記載のエポキシ樹脂組成物の硬化体である硬化樹脂組成物。
【請求項9】
請求項に記載のエポキシ樹脂組成物のシート状成形体である樹脂シート。
【請求項10】
請求項に記載の硬化樹脂組成物を有する発熱性電子部品。
【請求項11】
表面エネルギーの極性項が1mN/m未満の窒化ホウ素粒子を準備する工程と、
前記窒化ホウ素粒子に、波長150nm〜400nmの紫外線を含む光を100mJ/cm以上照射する工程と、
を有する請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の窒化ホウ素粒子の製造方法。
【請求項12】
さらに、60℃〜400℃で1分以上熱処理する工程を有する請求項11に記載の窒化ホウ素粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化ホウ素粒子、エポキシ樹脂組成物、半硬化樹脂組成物、硬化樹脂組成物、樹脂シート、発熱性電子部品及び無機窒化物粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型化によるエネルギー密度の増加に伴い、単位体積当たりの発熱量が増加傾向にあり、電子機器を構成する絶縁材料には高い放熱性が求められている。また、絶縁材料には、絶縁耐圧の高さや成型の容易さから広くエポキシ樹脂が用いられている。一般にエポキシ樹脂の高熱伝導化には、熱伝導率が高く、絶縁性のフィラーを添加する方法が用いられている。熱伝導率が高く、絶縁性のフィラーとしては、窒化ホウ素粒子や窒化アルミニウム粒子などの無機窒化物粒子がある。しかし、無機窒化物はエポキシ樹脂への濡れ性が悪い。そのため、エポキシ樹脂中で均一に分散せずに、絶縁材料内部に空隙が発生し、熱伝導率が下がる可能性がある。
【0003】
エポキシ樹脂中に無機窒化物粒子を均一に分散させるために、脂肪族炭化水素で無機窒化物粒子を表面処理する方法が知られている(例えば、特開2004−115369号公報参照)。しかしながら、脂肪族炭化水素で無機窒化物粒子を表面処理する方法は、表面の化学反応性が高い特定の無機窒化物粒子にしか適用できない。また、無機窒化物粒子を脂肪族炭化水素で被膜をしてしまうと、被膜層の熱伝導率が低いため、放熱性が下がってしまう場合がある。
またエポキシ樹脂中に無機窒化物粒子を均一に分散させるその他の方法として、無機窒化物粒子とともに分散剤を用いる方法が知られている(例えば、特開2008−266406号公報参照)。しかしながら、分散剤の熱伝導率は低いため、放熱性が下がってしまう場合がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、エポキシ樹脂に添加した際に、分散性に優れる無機窒化物粒子、無機窒化物粒子の製造方法、この無機窒化物粒子を用いたエポキシ樹脂組成物、半硬化樹脂組成物、硬化樹脂組成物、樹脂シート、発熱性電子部品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は以下の通りである。
<1> 表面エネルギーの極性項が1mN/m以上である無機窒化物粒子。
【0006】
<2> 25℃、湿度50%において測定したときに、25℃の水に対する接触角が90°以下であり、且つ25℃のn−ヘキサデカンに対する接触角が20°以下である無機窒化物粒子。
【0007】
<3> 25℃、湿度50%において測定したときに、25℃の水に対する接触角が90°以下であり、且つ25℃のn−ヘキサデカンに対する接触角が20°以下である前記<1>に記載の無機窒化物粒子。
【0008】
<4> 窒化ホウ素粒子である前記<1>〜<3>のいずれか一項に記載の無機窒化物粒子。
【0009】
<5> 前記窒化ホウ素粒子の表面の酸素原子濃度が1.5at%以上である前記<4>に記載の無機窒化物粒子。
【0010】
<6> 窒化アルミニウム粒子である前記<1>〜<3>のいずれか一項に記載の無機窒化物粒子。
【0011】
<7> 体積平均粒子径が0.01μm〜1mmである前記<1>〜<6>のいずれか一項に記載の無機窒化物粒子。
【0012】
<8> 波長150nm〜400nmの紫外線を含む光を100mJ/cm以上照射してなる前記<1>〜<7>のいずれか一項に記載の無機窒化物粒子。
【0013】
<9> さらに60℃〜400℃で1分以上熱処理してなる前記<8>に無機窒化物粒子。
【0014】
<10> 前記<1>〜<9>のいずれか一項に記載の前記無機窒化物粒子と、エポキシ樹脂と、硬化剤と、を含有するエポキシ樹脂組成物。
【0015】
<11> 前記<10>に記載のエポキシ樹脂組成物の半硬化体である半硬化樹脂組成物。
【0016】
<12> 前記<10>に記載のエポキシ樹脂組成物の硬化体である硬化樹脂組成物。
【0017】
<13> 前記<10>に記載のエポキシ樹脂組成物のシート状成形体である樹脂シート。
【0018】
<14> 前記<12>に記載の硬化樹脂組成物を有する発熱性電子部品。
【0019】
<15> 表面エネルギーの極性項が1mN/m未満の無機窒化物粒子を準備する工程と、
前記無機窒化物粒子に、波長150nm〜400nmの紫外線を含む光を100mJ/cm以上照射する工程と、
を有する前記<1>に記載の無機窒化物粒子の製造方法。
【0020】
<16> さらに、60℃〜400℃で1分以上熱処理する工程を有する前記<15>に記載の無機窒化物粒子の製造方法。
【0021】
<17> 表面の酸素原子濃度が1.5at%以上である窒化ホウ素粒子。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、エポキシ樹脂に添加した際に、分散性に優れる無機窒化物粒子、無機窒化物粒子の製造方法、この無機窒化物粒子を用いたエポキシ樹脂組成物、半硬化樹脂組成物、硬化樹脂組成物、樹脂シート、発熱性電子部品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明に係る接触角を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
また本明細書において「〜」を用いて示された数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値および最大値として含む範囲を示す。
さらに本明細書において組成物中の各成分の量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
【0025】
<無機窒化物粒子>
本発明の無機窒化物粒子は、表面エネルギーの極性項が1mN/m以上である。また、本発明の無機窒化物粒子は、25℃、湿度50%において測定したときに、25℃の水に対する接触角が90°以下であり、且つ25℃のn−ヘキサデカンに対する接触角が20°以下である。
本発明の無機窒化物粒子をエポキシ樹脂に添加した場合、エポキシ樹脂に無機窒化物粒子とともに熱伝導率の低い分散剤を加える場合に比べて、熱伝導率を低下させることなく、分散性を向上することができる。
【0026】
一般的に無機窒化物粒子の表面エネルギーは小さいため、無機窒化物粒子はエポキシ樹脂に対する分散性に優れない傾向にある。そこで本発明者らは、無機窒化物粒子のエポキシ樹脂に対する分散性を向上させるために、表面エネルギーを高くすることを試みた。その鋭意検討の過程で、無機窒化物粒子の表面エネルギーの極性項を高くし、具体的には表面エネルギーの極性項を1mN/m以上すると、エポキシ樹脂に対する無機窒化物粒子の分散性が向上することを導き出した。これは、以下のように考えることができる。
【0027】
元来無機窒化物粒子は非極性液体に対する親和性が高く疎水性を示すが、極性液体に対する親和性は低く親水性に乏しい。ここで、エポキシ樹脂のエポキシ基は親水性基であることから、分散性を高めるためには、無機窒化物粒子を適度に親水性化する必要があるものと考えられる。他方、エポキシ樹脂の骨格は疎水性であることから、無機窒化物粒子は親水性と疎水性のバランスを図る必要があるものと考えられる。このような親水性と疎水性のバランスを図る観点で、表面エネルギーの極性項を1mN/m以上とすることが効果的であるものと推測される。
【0028】
またエポキシ樹脂の極性基に対する分散性の観点から、無機窒化物粒子の表面エネルギーの極性項は、10mN/m以上であることが好ましい。エポキシ樹脂中での分散性をさらに向上させる観点から、無機窒化物粒子の表面エネルギーの極性項は、1mN/m〜50mN/mであることが好ましく、10mN/m〜50mN/mであることがより好ましい。
【0029】
無機窒化物粒子の表面エネルギーの極性項の求め方は以下の通りである。
本発明における、無機窒化物粒子の表面エネルギー(γ)は、下記式1のように、表面エネルギーの分散項(γ)と表面エネルギーの極性項(γ)の和で表される。
【0030】
【数1】


(式1)
【0031】
無機窒化物の表面エネルギーの極性項(γ)は、液体の表面エネルギー(γ)のうち分散項(γ)及び極性項(γ)の両方の値が既知である2種類以上の液体と無機窒化物のそれぞれの接触角により、下記式2及び下記式3により求めることができる。
【0032】
【数2】


(式2)
【0033】
【数3】


(式3)
ここで、θは無機窒化物と液体の接触角である。
【0034】
本発明における表面エネルギーの極性項は、例えば、表面エネルギーが既知である液体として、水とn−ヘキサデカンを用いた場合、次のように算出される。水の表面エネルギーの分散項(γL)を29.3mN/m、表面エネルギーの極性項(γ)を43.5mN/mとし、前記式3に代入すると、
【0035】
【数4】


(式4)
【0036】
となる。ここで、cosθ(水)は水と無機窒化物との接触角である。また、n−ヘキサデカンの分散項(γL)を27.6mN/m、表面エネルギーの極性項(γL)を0mN/mとし、前記式3に代入すると、
【0037】
【数5】


(式5)
【0038】
となる。よってn−ヘキサデカンと無機窒化物の接触角を測定し、前記式5に代入することにより、表面エネルギーの分散項(γ)が求まり、更に水と無機窒化物の接触角を測定し、前記式4に代入することにより、表面エネルギーの極性項(γ)が求められる。
【0039】
前記無機窒化物粒子の表面エネルギーの極性項を求めるのに用いる2種類以上の液体としては、分散項(γ)及び極性項(γ)の両方の値が既知のものであればいずれであってもよいが、測定誤差を少なくする観点から、少なくとも極性液体と非極性液体の2種を用いることが好ましい。
【0040】
前記極性液体としては、水、ジヨードメタン、テトラブロムエタン、テトラクロロエタン、グリセリン、ホルムアミド、チオジグリコールなどが挙げられ、表面エネルギーの極性項の値の高さの観点から水を用いることがより好ましい。また、前記非極性液体としては、n−ヘキサデカン、n−テトラデカン、n−ドデカン、n−ウンデカン、n−デカン、n−ノナン、n−オクタンなどが挙げられ、表面エネルギーの分散項の値の高さの観点からn−ヘキサデカンを用いることがより好ましい。
【0041】
前記無機窒化物粒子の極性液体と非極性液体に対する濡れ性を高めて(両親媒性)、表面エネルギーの極性項を1mN/m以上とし、前記無機窒化物粒子のエポキシ樹脂中の分散性を高める観点から、前記無機窒化物粒子は、25℃、湿度50%で測定したときに、25℃の水との接触角が90°以下であり、かつ25℃のn−ヘキサデカンとの接触角が90°以下であることが好ましい。さらにエポキシ樹脂中での分散性を高める観点から、前記無機窒化物粒子は、25℃、湿度50%で測定したときに、25℃の水との接触角が90°以下であり、かつ、25℃のn−ヘキサデカンとの接触角が20°以下であることがより好ましく、25℃の水との接触角が70°以下であって、かつ、25℃のn−ヘキサデカンとの接触角が20°以下であることがより好ましい。さらにエポキシ樹脂中での分散性を高める観点から、前記無機窒化物粒子は、25℃、湿度50%で測定したときに、25℃の水との接触角が45°以下であり、かつ、25℃のn−ヘキサデカンの接触角が10°以下であることが特に好ましい。
【0042】
尚、ここでいう接触角とは、図1に示すように、液滴10と無機窒化物粒子の圧粉体12との界面の端点における液滴の接線と、圧粉体12表面との成す角θである。圧粉体12は、20mmφの型に無機窒化物粒子を充填し、これを平均表面粗さ(Ra)が0.1μmで19mmφの押圧物により600kgf/cm(5880N/cm)の圧力でプレスして得る。具体的には、接触角は、後述する実施例に記載されている方法で測定することができる。
また,前述の装置がない場合,10mmφ以上の径を有する金型に無機窒化物粒子を充填し,これを平均表面粗さ(Ra)が0.5μm以下で、金型の径より小さい押圧物により,500kgf/cm以上の圧力でプレスすることで得ることができる。
【0043】
本発明に用いることのできる無機窒化物粒子としては、例えば、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化珪素、窒化チタン、窒化ジルコニウム、窒化タンタル、窒化ニオブ等が挙げられる。これらは一種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。熱伝導の観点から、放熱材に含まれるフィラーへの応用としては、窒化ホウ素、窒化アルミニウムおよび窒化珪素から選択される少なくとも一種が好ましく用いられ、窒化ホウ素および窒化アルミニウムから選択される少なくとも一種がより好ましい。
【0044】
また、前記無機窒化物は、直接窒化法、還元窒化法、気相反応法等のいずれの製造法により形成されていてもよい。
【0045】
また、前記無機窒化物粒子は、無機窒化物の単結晶粒子、無機窒化物の単結晶の凝集粒子、無機窒化物の結晶が多数焼結した粒子、無機窒化物の結晶が多数焼結した粒子の凝集粒子等のいずれであってもよい。
【0046】
無機窒化物粒子の形状は、球状、扁平状、板状、鱗片状等のいずれであってもよい。粒子の高充填の観点から、球状または扁平状の形状の粒子が好ましく用いられる。
【0047】
本発明の無機窒化物粒子の体積平均粒子径は、放熱材のフィラーとして使用する観点からは0.01μm〜1mmであることが好ましく、粒子を高充填するためには、0.1μm〜100μmであることがより好ましい。
【0048】
本発明にかかる窒化ホウ素粒子の表面の酸素原子濃度は、1.5at%以上であることが好ましい。窒化ホウ素粒子の表面の酸素原子濃度を上記範囲とすることにより、表面を両親媒性とすることができる。より親水性を高める観点から、2.0at%以上であることがより好ましい。両親媒性の観点から更に好ましくは、2.0at%〜10at%であり、更に好ましくは2at%〜5at%である。
【0049】
なお、酸素原子濃度は、後述する実施例に記載されている方法で規定される。
また、本発明における表面とは極表面から深さ5nm以下の領域のこととする。特に、本発明において表面とは、前述のXPSの測定条件で検出される深さ限界以内の範囲とする。
【0050】
<無機窒化物粒子の製造方法>
本発明の無機窒化物粒子は、表面エネルギーの極性項が1mN/m以上であれば、または25℃、湿度50%において測定したときに、25℃の水に対する接触角が90°以下であり、且つ25℃のn−ヘキサデカンに対する接触角が20°以下であれば、その製造方法は特に制限されない。本発明の無機窒化物粒子は、極性液体にも非極性液体にも親和性を有する両親媒性の無機窒化物粒子となっている。両親媒性の無機窒化物粒子では、表面が疎水部位と親水部位の両方が分布していることから、疎水性である無機窒化物粒子の表面を部分的に親水性化することにより粒子表面を両親媒性とすることが望ましい。
【0051】
一般に、無機窒化物粒子の表面エネルギーの極性項は1mN/m未満である。そこで、無機窒化物粒子の表面エネルギーの極性項を向上させる方法としては、例えば、無機窒化物粒子に紫外線を照射する方法、オゾン処理する方法、Oプラズマ処理する方法、大気圧プラズマ処理する方法、クロム酸処理する方法などが挙げられる。中でも、紫外線照射する方法により、効率よく無機窒化物表面に親水性部分を形成することができ、極性液体に対する親和性を向上させることができる。さらに、部分的に親水性部分を形成することにより、極性液体に対する親和性と非極性液体に対する親和性を両立することができる。これらの方法により、25℃、湿度50%において測定したときに、25℃の水に対する接触角が90°以下であり、且つ25℃のn−ヘキサデカンに対する接触角が20°以下とすることができる。
【0052】
上述の通り無機窒化物粒子に紫外線を照射することで、疎水性の表面の一部が親水性化して、効果的に表面エネルギーの極性項を1mN/m以上とすることができる。この理由は明らかではないが、以下のように考えられる。
【0053】
無機窒化物粒子に紫外線を照射すると、無機窒化物表面に水酸基が生成し、無機窒化物の表面が極性化し、極性液体分子との相互作用により親和性が高くなるために、表面エネルギーの極性項が1mN/m以上となるものと考えられる。
【0054】
なお、無機窒化物に紫外線を照射した場合には両親媒化されるのに対して、SiO、Al等の無機酸化物では、紫外線を照射しても両親媒化されにくい。これは、無機金属酸化物に紫外線を照射した場合には、無機金属酸化物の表面の水酸基量が上昇し親水性化して極性液体との接触角が非常に小さくなるが、非極性液体との接触角は増大してしまうことに起因するものと考えられる。このように、紫外線照射による両親媒化の効果は、無機金属酸化物では得られないものと考えられる。一方、無機窒化物に紫外線を照射した場合には、無機窒化物粒子表面の一部が親水性化し、残りの部分は疎水性を維持するため、両親媒化されると考えられる。
【0055】
無機窒化物粒子に紫外線を照射する方法としては、例えば、次のような方法が挙げられる。無機窒化物粒子に紫外線を照射する際には、各種化学製品の製造技術で利用されている紫外線照射処理技術、および紫外線照射装置を利用することができる。紫外線照射装置としては、例えば、高圧水銀灯、低圧水銀灯、重水素ランプ、メタルハライドランプ、キセノンランプ、ハロゲンランプ等が挙げられる。
【0056】
紫外線照射処理条件としては、波長150nm〜400nmの紫外領域を含む光を含んでいることが好ましく、その他の波長を含んでいてもよい。無機窒化物粒子の表面の有機不純物の分解の観点から、波長150nm〜400nmの光を含んでいることがより好ましく、無機窒化物粒子の表面の活性化の観点から、波長150nm〜300nmの光を含んでいることが特に好ましい。
【0057】
紫外線照射条件として、照射強度は、0.5mW/cm以上であることが好ましい。この照射強度であれば、目的とする効果が十分に発揮される。また100mW/cm以下であることが好ましい。この照射強度であれば、紫外線照射による無機窒化物粒子の損傷を抑えることができる。照射強度の好適な範囲は0.5mW/cm〜100mW/cmであり、より好適には、1mW/cm〜20mW/cmである。
【0058】
目的とする効果を十分に発揮させるために、照射時間は10秒以上であることが好ましい。また、紫外線照射による無機窒化物粒子の損傷を抑える観点から30分以下とすることが好ましい。照射時間の好適な範囲は10秒〜30分間である。
【0059】
照射紫外線量は、照射強度(mW/cm)×照射時間(秒)で規定され、少なすぎると目的とする効果が十分に発揮しないため、好ましくは、100mJ/cm以上であることが好ましく、極性液体、及び非極性液体との親和性向上の観点から1000mJ/cm以上であることがより好ましく、5000mJ/cm以上であることが更に好ましく、10000mJ/cm以上であることが更に好ましい。また、紫外線照射による無機窒化物粒子の損傷を抑える観点から50000mJ/cm以下であることが好ましい。照射紫外線量の好適な範囲は100mJ/cm〜50000mJ/cm以下であり、より好適には1000mJ/cm〜50000mJ/cm以下であり、更に好適には5000mJ/cm〜50000mJ/cm以下であり、更に好適には10000mJ/cm〜50000mJ/cm以下である。
なお、紫外線照射強度は、後述する実施例に記載されている方法で規定される。
【0060】
上記紫外線照射処理は、例えば、以下のように行われることが好ましい。無機窒化物粒子に波長150nm〜400nmの紫外線を含む光を100mJ/cm以上照射する。これにより、表面エネルギーの極性項が1mN/m以上である無機窒化物粒子を得ることができる。
【0061】
無機窒化物粒子に紫外線を照射する際には、無機窒化物粒子全体に対して紫外線を均一に照射することが好ましい。均一に照射する方法としては、無機窒化物粒子を攪拌しながら紫外線を均一に照射する方法などが挙げられる。紫外線照射の際の無機窒化物粒子の攪拌には、例えば、攪拌棒、スパチュラ、薬さじ等で攪拌する方法や無機窒化物粒子を入れた容器を振動させて攪拌する方法などの攪拌装置を用いない方法と、紫外線照射時に、例えば、振動型混合機、リボン型混合機、パドル型混合機等の攪拌装置を用いる方法のいずれも適用することができる。均一な混合の観点から、攪拌装置を用いることが好ましく、具体的にはパドル型混合機などの攪拌装置が好適である。
【0062】
また、無機窒化物への紫外線照射効果の向上の観点から、無機窒化物粒子を60℃〜400℃で熱処理することが好ましく、水分を除去する観点から100℃〜400℃がより好ましい。さらに、無機窒化物粒子の表面の有機付着物の除去の観点から、200℃〜400℃が特に好ましい。上記のように無機窒化物粒子の表面の水分や有機付着物などの余分な付着物を除去することによって、紫外線照射による無機窒化物粒子への効果の向上を期待することができる。
【0063】
熱処理の時間は、無機窒化物への紫外線照射効果の向上の観点から1分以上であることが好ましく、水分除去の観点から5分以上120分以下であることがより好ましく、有機付着物の除去の観点から10分以上120分以下であることが特に好ましい。
【0064】
無機窒化物粒子の熱処理は、一般的な方法で行うことができる。熱処理は、ホットプレート、恒温槽、電気炉、焼成炉等の各種化学製品の製造技術で利用されている一般的な加熱装置を利用することができる。
【0065】
上記熱処理は紫外線照射と同時に行っても、順次に行ってもよい。順次行う際には、無機窒化物粒子の表面エネルギーの極性項を向上させる観点から、熱処理後に紫外線を照射することが好ましい。例えば、以下のように行われることが好ましい。無機窒化物粒子を60℃〜400℃で1分以上熱処理し、その後、前記無機窒化物粒子に波長150nm〜400nmの紫外線を含む光を100mJ/cm以上照射する。これにより、表面エネルギーの極性項が十分に高い無機窒化物粒子を得ることができる。
【0066】
なお、紫外線照射処理では、処理装置内部の温度が上昇することがある。例えば、常温で処理を開始したときに、最高温度が60℃近くになることがある。但し、無機窒化物粒子の混合物を、単に60℃まで加熱したとしても、濡れ性向上の効果は現れない。従って紫外線照射の効果は温度上昇によるものではないものと考えられる。
【0067】
本発明の、表面エネルギーの極性項が1mN/mである無機窒化物粒子は、疎水性液体の濡れ性が高いまま、親水性液体の濡れ性が向上したことから、エポキシ樹脂との親和性が向上し、結果、エポキシ樹脂中での分散性に優れる。
【0068】
また、本発明の、表面エネルギーの極性項が1mN/mである無機窒化物粒子を用いることにより、エポキシ樹脂との親和性が向上し、無機窒化物粒子を樹脂に含有させた際の樹脂組成物の粘度を低くすることができる。
【0069】
また、本発明の、表面エネルギーの極性項が1mN/mである無機窒化物粒子は、各種の電気および電子機器の発熱性電子部品(例えば、ICチップやプリント配線基板)の放熱材料に好適に用いることができる。
【0070】
<エポキシ樹脂組成物>
本発明のエポキシ樹脂組成物は、前記無機窒化物粒子とエポキシ樹脂と硬化剤とを含有する。
【0071】
前記エポキシ樹脂(以下「エポキシ樹脂モノマー」ともいう)としては通常用いられる一般的なエポキシ樹脂を特に制限なく用いることができる。一般的なエポキシ樹脂の具体例としては、ビスフェノールA型、F型、S型、およびAD型等のグリシジルエーテル、水素添加したビスフェノールA型のグリシジルエーテル、フェノールノボラック型のグリシジルエーテル,クレゾールノボラック型のグリシジルエーテル、ビスフェノールA型のノボラック型のグリシジルエーテル、ナフタレン型のグリシジルエーテル、ビフェノール型のグリシジルエーテル、ジヒドロキシペンタジエン型のグリシジルエーテルなどが挙げられる。
【0072】
本発明におけるエポキシ樹脂モノマーとしては、分子骨格として、1分子内に2官能以上のエポキシ基を含むことが好ましく、樹脂硬化物を構成した場合に、耐熱性や接着性に加えて高い熱伝導率を有するものであることが好ましい。中でも、熱伝導率が高い樹脂という観点から、メソゲン骨格を有するエポキシ樹脂モノマーが好ましい。
【0073】
ここでいうメソゲン骨格は、エポキシ樹脂モノマーが硬化剤とともに樹脂硬化物を形成した場合に、樹脂硬化物中にメソゲン骨格に由来する高次構造を形成することができるものであれば、特に制限はない。
尚、ここでいう高次構造とは、樹脂組成物の硬化後に分子が配向配列している状態を意味し、例えば、樹脂硬化物中に結晶構造や液晶構造が存在することである。このような結晶構造や液晶構造は、例えば、直交ニコル下での偏光顕微鏡による観察やX線散乱により、その存在を直接確認することができる。また貯蔵弾性率の温度に対する変化が小さくなることでも、間接的に存在を確認できる。
【0074】
前記メソゲン骨格として具体的には、ビフェニル基、ターフェニル基、ターフェニル類縁体、アントラセン基、および、これらがアゾメチン基やエステル基で接続された基などが挙げられる。
【0075】
本発明においては、エポキシ樹脂モノマーとしてメソゲン骨格を有するエポキシ樹脂モノマーを用い、硬化剤とともに樹脂硬化物を構成することで、高い熱伝導率を達成することができる。これは例えば、以下のように考えることができる。すなわち、分子中にメソゲン骨格を有するエポキシ樹脂モノマーが、硬化剤とともに樹脂硬化物を形成することで、樹脂硬化物中にメソゲン基に由来する規則性の高い高次構造を形成することができる。このため、絶縁樹脂における熱伝導の媒体であるフォノンの散乱を抑制することができ、これにより高い熱伝導率を達成することができると考えられる。
【0076】
上述の通り、メソゲン骨格を有するエポキシ樹脂では規則性の高い高次構造を形成することから、一般的にはフィラーの分散性が低下する傾向にある。しかしながら、表面エネルギーの極性項が1mN/mである本発明の無機窒化物粒子をフィラーとして用いれば、エポキシ樹脂中で優れた分散性を示す。その結果、フィラーを分散させるための分散剤を用いることなく、分散させることができ、高い熱伝導率を維持することができる。
【0077】
前記メソゲン骨格を有するエポキシ樹脂モノマーとして、具体的には例えば、4,4’−ビフェノールグリシジルエーテル、1−{(3−メチル−4−オキシラニルメトキシ)フェニル}−4−(4−オキシラニルメトキシフェニル)−1−シクロヘキセン、4−(オキシラニルメトキシ)安息香酸−1,8−オクタンジイルビス(オキシ−1,4−フェニレン)エステル、2,6−ビス[4−[4−[2−(オキシラニルメトキシ)エトキシ]フェニル]フェノキシ]ピリジン等を挙げることができる。
【0078】
前記エポキシ樹脂組成物中におけるエポキシ樹脂の含有率としては特に制限はないが、熱伝導率と接着性の観点から、エポキシ樹脂組成物を構成する全固形分中、3質量%〜30質量%であることが好ましく、熱伝導率の観点から、5質量%〜25質量%であることがより好ましい。
【0079】
前記硬化剤としては、例えば、アミン系硬化剤、酸無水物系硬化剤、フェノール系硬化剤、ポリメルカプタン系硬化剤、ポリアミノアミド系硬化剤、イソシアネート系硬化剤、ブロックイソシアネート系硬化剤等が挙げられる。
【0080】
前記硬化剤の配合量は、配合する硬化剤の種類や前記エポキシ樹脂の物性を考慮して適宜設定されてよい。具体的に硬化剤の配合量は、好ましくはエポキシ基1モルに対して硬化剤の化学当量が0.005当量〜5当量、さらに好ましくは0.01当量〜3当量、最も好ましくは0.5当量〜1.5当量である。この配合量がエポキシ基1モルに対して0.005当量以上であると、エポキシ樹脂の硬化速度に優れる。また5当量以下の場合、硬化反応を適切に抑えることができる。
なお、ここでの化学当量は、例えば硬化剤としてアミン系硬化剤を使用した際は、エポキシ基1モルに対するアミンの活性水素のモル数を表わす。
【0081】
本発明のエポキシ樹脂組成物における本発明の無機窒化物粒子の含有率としては特に制限はないが、粘度調整の観点から、エポキシ樹脂組成物を構成する全固形分中、10体積%〜80体積%であることが好ましく、熱伝導率の観点から、30体積%〜80体積%であることがより好ましい。
【0082】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂、又は硬化剤が固体の場合は溶解させるため、また、液体の場合は粘度を低減するために、溶媒を含有してもよい。
前記溶媒としては、例えば、アセトン、イソブチルアルコール、イソプロピルアルコール、イソペンチルアルコール、エチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、キシレン、クレゾール、クロルベンゼン、酢酸イソブチル、酢酸イソプロピル、酢酸イソペンチル、酢酸エチル、酢酸メチル、シクロヘキサノール、シクロヘキサノン、1,4−ジオキサン、ジクロルメタン、スチレン、テトラクロルエチレン、テトラヒドフラン、トルエン、ノルマルヘキサン、1−ブタノール、2−ブタノール、メタノール、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、メチルシクロヘキサノール、メチルシクロヘキサノン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2−ジクロルエタン、塩化メチレン等の一般的に各種化学製品の製造技術で利用されている有機溶剤を使用することができる。
【0083】
なお、本発明のエポキシ樹脂組成物を硬化して硬化物とした場合には、硬化物中に含まれる無機窒化物粒子の水に対する接触角およびn−ヘキサデカンに対する接触角、並びに窒化ホウ素粒子の表面の酸素原子濃度は、以下のようにして測定することができる。
【0084】
前記硬化物は、その表面をエッチングして、中に含まれる無機窒化物粒子を露出させる。この状態で、上述の方法により水に対する接触角およびn−ヘキサデカンに対する接触角を測定する。
なお、接触角測定の対象物である、エッチング後の硬化物から測定される接触角は、表面粗さに影響を受ける可能性がある。しかしながら、測定対象物の表面粗さと接触角との関係式を予め算出しておくことにより、一定条件で測定した接触角に換算することができる。
【0085】
また、上記硬化物の表面に金属箔が付されている場合には、金属箔側からエッチングして金属箔および硬化物の表面を除去して無機窒化物粒子を露出すれば、上記方法と同様にして、硬化物中に含まれる無機窒化物粒子の水に対する接触角およびn−ヘキサデカンに対する接触角を測定することができる。
【0086】
また、前記硬化物を600℃、0.5時間、大気雰囲気下で加熱してエポキシ樹脂などを焼き飛ばして窒化ホウ素粒子を取り出し、得られた窒化ホウ素粒子について上述の方法で表面の酸素原子濃度を測定することができる。
【0087】
<樹脂シート>
本発明の樹脂シートは、前記エポキシ樹脂組成物のシート状成形体である。樹脂シートは、例えば、前記エポキシ樹脂組成物を離型フィルム上に塗布・乾燥して形成する。
【0088】
具体的には例えば、PETフィルム等の離型フィルム上に、メチルエチルケトンやシクロヘキサンノン等の溶剤を添加したワニス状のエポキシ樹脂組成物を、塗布後、乾燥することで樹脂シートを得ることができる。
塗布は、公知の方法により実施することができる。塗布方法として、具体的には、コンマコート、ダイコート、リップコート、グラビアコート等の方法が挙げられる。所定の厚みに樹脂シートを形成するための塗布方法としては、ギャップ間に被塗工物を通過させるコンマコート法、ノズルから流量を調整したワニス状のエポキシ樹脂組成物を塗布するダイコート法等を適用することができる。例えば、乾燥前の樹脂シートの厚みが50μm〜500μmである場合、コンマコート法を用いることが好ましい。
【0089】
前記樹脂シートの厚みは、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、50μm以上200μm以下とすることができ、熱伝導率、電気絶縁性及びシート可とう性の観点から、60μm以上150μm以下であることが好ましい。
【0090】
<半硬化樹脂組成物>
本発明の半硬化樹脂組成物は、前記エポキシ樹脂組成物の半硬化体であり、いわゆるBステージシートを含む。Bステージシートは、例えば、前記樹脂シートをBステージ状態まで加熱処理する工程とを含む製造方法で製造できる。
前記エポキシ樹脂組成物を加熱処理して形成されることで、熱伝導率及び電気絶縁性に優れ、Bステージシートとしての可とう性及び可使時間に優れる。
本発明の半硬化樹脂組成物とは、樹脂シートの粘度として、常温(25℃)においては10Pa・s〜10Pa・sであるのに対して、100℃で10Pa・s〜10Pa・sに粘度が低下するものをいう。また、後述する硬化後の硬化樹脂層は加温によっても溶融することは無い。尚、上記粘度は、動的粘弾性測定(周波数1ヘルツ、荷重40g、昇温速度3℃/分)によって測定されうる。
【0091】
塗工後の前記樹脂シートは硬化反応がほとんど進行していないため、可とう性を有するものの、シートとしての柔軟性に乏しく、支持体である前記PETフィルムを除去した状態ではシート自立性に乏しく、取り扱いが困難である。そこで、本発明においては後述する加熱処理によりエポキシ樹脂組成物を半硬化してBステージ化することが好ましい。
本発明において、得られた樹脂シートを加熱処理する条件は、エポキシ樹脂組成物をBステージ状態にまで半硬化することができれば特に制限されず、エポキシ樹脂組成物の構成に応じて適宜選択することができる。本発明において加熱処理には、塗工の際に生じた樹脂層中の空隙(ボイド)をなくす目的から、熱真空プレス、及び、熱ロールラミネート等から選択される加熱処理方法が好ましい。これにより平坦なBステージシートを効率よく製造することができる。
具体的には例えば、加熱温度80℃〜130℃で、1秒間〜30秒間、真空下(例えば、1MPa)で加熱プレス処理することでエポキシ樹脂組成物をBステージ状態に半硬化することができる。
【0092】
前記Bステージシートの厚みは、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、50μm以上200μm以下とすることができ、熱伝導率、電気絶縁性及びシート可とう性の観点から、60μm以上150μm以下であることが好ましい。また、2層以上の樹脂シートを積層しながら熱プレスすることにより作製することもできる。
【0093】
<硬化樹脂組成物>
本発明の硬化樹脂組成物は、前記エポキシ樹脂組成物の硬化体であり、例えば、加熱加圧処理し、熱硬化させて形成される。前記エポキシ樹脂組成物の硬化体であるため、熱伝導性に優れる。
エポキシ樹脂組成物を硬化するための加熱加圧処理の条件は、エポキシ樹脂組成物を硬化することができれば特に制限されず、エポキシ樹脂組成物の構成に応じて適宜選択することができる。例えば、温度120〜180℃、圧力0.5〜20MPaで、10〜300分間とすることができる。
【0094】
<発熱性電子部品>
本発明の発熱性電子部品は、前記エポキシ樹脂組成物を有する。本発明のエポキシ樹脂組成物は、各種の電気および電子機器の発熱性電子部品(例えば、ICチップやプリント配線基板)の放熱材料に好適に用いることができる。放熱材料として、具体的には、エポキシ樹脂組成物から構成される樹脂シート、エポキシ樹脂組成物を用いたプリプレグ、前記樹脂シートやプリプレグを用いた積層板またはプリント配線板などが挙げられる。
【0095】
なお、日本出願2011−211078の開示はその全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、および技術規格は、個々の文献、特許出願、および技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。
【実施例】
【0096】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。尚、特に断りのない限り、「部」及び「%」は質量基準である。
【0097】
(実施例1)
体積平均粒子径40μmφの窒化ホウ素粉末(水島合金鉄(株)商品名:HP−40)に卓上型光表面処理装置(セン特殊光源(株)装置名:Photo Surface Processor PL21-200)を用いて、200Wの低圧水銀灯により、攪拌しながら10分間紫外線照射した。なお、窒化ホウ素粉末の体積平均粒子径は、マイクロトラック粒度分析計(日機装社製:Microtrac FRA)を用いて、粒度分布の体積累積50%粒径(D50%)を体積平均粒子径とした。
【0098】
上記照射強度は、紫外線積算光量計(USHIO UIT-150)により測定し、平均照射強度を求めた。より具体的には、表面処理装置に紫外線積算光量計を入れて照射強度を測定し、光量計に表示された値を10秒毎に記録した。その後に記録した値の総和を紫外線照射時間で除して平均照射強度を求めた。
【0099】
紫外線照射処理をした粉末をハンドプレス用アダプターメス型20mmφに入れ、ハンドプレス用アダプターオス型19mmφを用いて600kgf/cm(5880N/cm)の圧力でプレスし圧粉体を得た。ハンドプレス用アダプターオス型を外し、ハンドプレス用アダプターメス型に入った状態で、圧粉体と水、及び圧粉体とn−ヘキサデカンの接触角を接触角測定装置(協和界面科学(株)装置名:FACE CONTACT ANGLE METER CA-D)にて25℃、湿度50%で測定した。
【0100】
測定した接触角の値より、前記式1〜3を用いて表面エネルギーの極性項を求めた。より具体的には、水の表面エネルギーの分散項(γ)を29.3mN/m、表面エネルギーの極性項(γ)を43.5mN/mとし、前記式3に代入すると、
【0101】
【数6】


(式4)
【0102】
となる。ここで、cosθ(水)は水と無機窒化物との接触角である。また、ヘキサデカンの分散項(γ)を27.6mN/m、表面エネルギーの極性項(γ)を0mN/mとし、前記式3に代入すると、
【0103】
【数7】


(式5)
【0104】
となる。よってヘキサデカンと無機窒化物の接触角を測定し、前記式5に代入することにより、表面エネルギーの分散項(γ)を求め、更に水と無機窒化物の接触角を測定し、前記式4に代入することにより、表面エネルギーの極性項(γ)を求めた。
【0105】
紫外線照射をした粉末の表面の酸素原子濃度は、X線光電子分光装置(島津/KRATOS社製:AXIS-HS)により、走査速度20eV/min(0.1eVステップ)で測定した。詳細な測定条件としては、X線源として、モノクロAl(管電圧;15kV、管電流;15mA)を使い、レンズ条件は、HYBRID(分析面積;600×1000μm)とし、分解能は、Pass Energy 40とした。
【0106】
紫外線照射した粉末にエポキシ樹脂(三菱化学(旧ジャパンエポキシレジン)製:jER828)、硬化剤(日本化薬製:アミン系硬化剤、カヤハードAA)を加え、エポキシ樹脂組成物を調製した(エポキシ樹脂と硬化剤は、エポキシ樹脂のエポキシ基に対する硬化剤のアミンの活性水素のモル比が、1対1となるように調整した。また硬化後の樹脂における窒化ホウ素含有量が30体積%となるようにエポキシ樹脂組成物を調整した)。調製したエポキシ樹脂組成物の粘度を室温で回転粘度計(ハーケ製:レオストレスRS600)により計測した。
【0107】
(実施例2)
実施例1において、紫外線照射時間を20分としたこと以外は同様に粉末に処理をした。実施例1と同様にプレスし、水と圧粉体、n−ヘキサデカンと圧粉体の接触角及び表面エネルギーの極性項を求めた。処理した窒化ホウ素粉末を用いて、実施例1と同様にエポキシ樹脂組成物の粘度を求めた。
【0108】
(実施例3)
実施例1において、紫外線照射時間を30分としたこと以外は同様に粉末に処理をした。実施例1と同様にプレスし、水と圧粉体、n−ヘキサデカンと圧粉体の接触角及び表面エネルギーの極性項を求めた。処理した窒化ホウ素粉末を用いて、実施例1と同様にエポキシ樹脂組成物の粘度を求めた。
【0109】
(実施例4)
実施例3において、紫外線照射処理の前処理として、150℃の恒温槽で10分間熱処理をしたこと以外は同様に粉末に処理をした。実施例1と同様にプレスし、水と圧粉体、n−ヘキサデカンと圧粉体の接触角及び表面エネルギーの極性項を求めた。処理した窒化ホウ素粉末を用いて、実施例1と同様にエポキシ樹脂組成物の粘度を求めた。
【0110】
(実施例5)
実施例4において、熱処理の温度を250℃としたこと以外は同様に粉末に処理をした。実施例1と同様にプレスし、水と圧粉体、n−ヘキサデカンと圧粉体の接触角及び表面エネルギーの極性項を求めた。処理した窒化ホウ素粉末を用いて、実施例1と同様にエポキシ樹脂組成物の粘度を求めた。
【0111】
(実施例6)
実施例5において、熱処理の時間を30分としたこと以外は同様に粉末に処理をした。実施例1と同様にプレスし、水と圧粉体、n−ヘキサデカンと圧粉体の接触角及び表面エネルギーの極性項を求めた。処理した窒化ホウ素粉末を用いて、実施例1と同様にエポキシ樹脂組成物の粘度を求めた。
【0112】
(実施例7)
実施例1で用いた窒化ホウ素粉末に代えて、体積平均粒子径30μmφの窒化アルミニウム焼結粒子(古河電子工業(株)商品名:ALNフィラー FAN−f30−TY)を用いたこと以外は同様に粉末に処理をした。実施例1と同様にプレスし、水と圧粉体、n−ヘキサデカンと圧粉体の接触角及び表面エネルギーの極性項を求めた。処理した窒化ホウ素粉末を用いて、実施例1と同様にエポキシ樹脂組成物の粘度を求めた。
【0113】
(実施例8)
実施例7において、紫外線照射時間を20分としたこと以外は同様に粉末に処理をした。実施例1と同様にプレスし、水と圧粉体、n−ヘキサデカンと圧粉体の接触角及び表面エネルギーの極性項を求めた。処理した窒化ホウ素粉末を用いて、実施例1と同様にエポキシ樹脂組成物の粘度を求めた。
【0114】
(実施例9)
実施例7において、紫外線照射時間を30分としたこと以外は同様に粉末に処理をした。実施例1と同様にプレスし、水と圧粉体、n−ヘキサデカンと圧粉体の接触角及び表面エネルギーの極性項を求めた。処理した窒化ホウ素粉末を用いて、実施例1と同様にエポキシ樹脂組成物の粘度を求めた。
【0115】
(実施例10)
実施例4で用いた窒化ホウ素粉末に代えて、体積平均粒子径30μmφの窒化アルミニウム焼結粒子(古河電子工業(株)商品名:ALNフィラー FAN−f30−TY)を用いたこと以外は同様に粉末に処理をした。実施例1と同様にプレスし、水と圧粉体、n−ヘキサデカンと圧粉体の接触角及び表面エネルギーの極性項を求めた。処理した窒化ホウ素粉末を用いて、実施例1と同様にエポキシ樹脂組成物の粘度を求めた。
【0116】
(実施例11)
実施例10において、熱処理の温度を250℃としたこと以外は同様に粉末に処理をした。実施例1と同様にプレスし、水と圧粉体、n−ヘキサデカンと圧粉体の接触角及び表面エネルギーの極性項を求めた。処理した窒化ホウ素粉末を用いて、実施例1と同様にエポキシ樹脂組成物の粘度を求めた。
【0117】
(実施例12)
実施例11において、熱処理の時間を30分としたこと以外は同様に粉末に処理をした。実施例1と同様にプレスし、水と圧粉体、n−ヘキサデカンと圧粉体の接触角及び表面エネルギーの極性項を求めた。処理した窒化ホウ素粉末を用いて、実施例1と同様にエポキシ樹脂組成物の粘度を求めた。
【0118】
(実施例13)
実施例1において、紫外線照射の時間を15秒としたこと以外は同様に粉末に処理をした。実施例1と同様にプレスし、水と圧粉体、n−ヘキサデカンと圧粉体の接触角及び表面エネルギーの極性項を求めた。処理した窒化ホウ素粉末を用いて、実施例1と同様にエポキシ樹脂組成物の粘度を求めた。
【0119】
(比較例1)
窒化ホウ素粉末を処理せずに、実施例1と同様にプレスし、水と圧粉体、n−ヘキサデカンと圧粉体の接触角及び表面エネルギーの極性項を求めた。処理をしていない窒化ホウ素粒子を用いて実施例1と同様にエポキシ樹脂組成物の粘度を求めた。
【0120】
(比較例2)
実施例1において、紫外線照射時間を6秒としたこと以外は同様に粉末を処理した。処理した窒化ホウ素粉末を、実施例1と同様にプレスし、水と圧粉体、n−ヘキサデカンと圧粉体の接触角及び表面エネルギーの極性項を求めた。処理した窒化ホウ素粉末を用いて、実施例1と同様にエポキシ樹脂組成物の粘度を求めた。
【0121】
(比較例3)
窒化ホウ素粉末に150℃の恒温槽で10分間熱処理をした。処理した窒化ホウ素粉末を、実施例1と同様にプレスし、水と圧粉体、n−ヘキサデカンと圧粉体の接触角及び表面エネルギーの極性項を求めた。処理した窒化ホウ素粉末を用いて、実施例1と同様にエポキシ樹脂組成物の粘度を求めた。
【0122】
(比較例4)
比較例1で用いた窒化ホウ素粉末に代えて、体積平均粒子径30μmφの窒化アルミニウム焼結粒子(古河電子工業(株)商品名:ALNフィラー FAN−f30−TY)を用いたこと以外は同様に粉末に、水と圧粉体、n−ヘキサデカンと圧粉体の接触角、表面エネルギーの極性項、及びエポキシ樹脂組成物の粘度を求めた。
【0123】
(比較例5)
比較例2で用いた窒化ホウ素粉末に代えて、体積平均粒子径30μmφの窒化アルミニウム焼結粒子(古河電子工業(株)商品名:ALNフィラー FAN−f30−TY)を用いたこと以外は同様に粉末に、水と圧粉体、n−ヘキサデカンと圧粉体の接触角、表面エネルギーの極性項、及びエポキシ樹脂組成物の粘度を求めた。
【0124】
(比較例6)
比較例3で用いた窒化ホウ素粉末に代えて、体積平均粒子径30μmφの窒化アルミニウム焼結粒子(古河電子工業(株)商品名:ALNフィラー FAN−f30−TY)を用いたこと以外は同様に粉末に、水と圧粉体、n−ヘキサデカンと圧粉体の接触角、表面エネルギーの極性項、及びエポキシ樹脂組成物の粘度を求めた。
【0125】
【表1】

【0126】
実施例1〜3、及び13と比較例1を比べると、いずれの実施例も比較例1より水の接触角が小さく、表面エネルギーの極性項は大きい。また、エポキシ樹脂組成物の粘度は小さい。よって、十分な紫外線照射により、接触角の低減、及びエポキシ樹脂組成物の粘度の低減に効果がある。なお、エポキシ樹脂組成物の粘度が充分に低減されていることから、エポキシ樹脂中での窒化ホウ素粉末の分散性が向上していることが分かる。
【0127】
実施例1〜3と比較例2を比べると、いずれの実施例も比較例2より水の接触角が小さく、表面エネルギーの極性項は大きい。また、エポキシ樹脂組成物の粘度は小さい。よって、紫外線照射時間が短すぎると、表面エネルギーの極性項が1mN/m未満であり、接触角の低減、及びエポキシ樹脂組成物粘度の低減にはあまり効果が無い。
【0128】
実施例4〜6と比較例3を比べると、いずれの実施例も比較例3より水の接触角が小さく、表面エネルギーの極性項は大きい。また、エポキシ樹脂組成物の粘度は小さい。よって、熱処理だけでは表面エネルギーの極性項が1mN/m未満であり、接触角の低減、及びエポキシ樹脂組成物の粘度の低減には不十分である。
【0129】
実施例7〜9と比較例4を比べると、いずれの実施例も比較例4より水の接触角が小さく、表面エネルギーの極性項は大きい。また、エポキシ樹脂組成物の粘度は小さい。よって、十分な紫外線照射により、接触角の低減、及びエポキシ樹脂組成物の粘度の低減に効果がある。なお、エポキシ樹脂組成物の粘度が充分に低減されていることから、エポキシ樹脂中での窒化アルミニウム焼結粒子の分散性が向上していることが分かる。
【0130】
実施例7〜9と比較例5を比べると、いずれの実施例も比較例5より水の接触角が小さく、表面エネルギーの極性項は大きい。また、エポキシ樹脂組成物の粘度は小さい。よって、紫外線照射時間が短すぎると、表面エネルギーの極性項が1mN/m未満であり、接触角の低減、及びエポキシ樹脂組成物の粘度の低減にはあまり効果が無い。
【0131】
実施例10〜12と比較例6を比べると、いずれの実施例も比較例6より水の接触角が小さく、表面エネルギーの極性項は大きい。また、エポキシ樹脂組成物の粘度は小さい。よって、熱処理だけでは表面エネルギーの極性項が1mN/m未満であり、接触角の低減、及びエポキシ樹脂組成物の粘度の低減には不十分である。
【符号の説明】
【0132】
10 液滴
12 無機窒化物粒子の圧粉体
図1