(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記新生骨誘導層における、前記親水性ポリマーと前記リン酸カルシウムとの含有量の比が、質量比で40:60〜10:90である、請求項1に記載の骨・組織再生誘導用メンブレン。
【背景技術】
【0002】
事故又は骨を浸食する疾患等によって、骨の一部を欠損すると、骨欠損した者は骨欠損前とは異なる生活スタイルを強いられる。骨欠損した者が、骨欠損前とほぼ同様の生活を送ることができるようにする技術は、有益である。老化又は疾患によって失う可能性が高い歯については、失った歯の代替として部分床義歯又はインプラントなどが施されている。しかし、部分床義歯では固い食べ物が食べられなくなることに加え、毎日必ず外して洗浄する必要がある等手間がかかるという問題がある。一方、インプラントでは、新たな歯牙を樹立させるため、部分床義歯等に比べ食生活の変更を迫られることはほぼ無い。
【0003】
インプラントは、抜歯後の歯槽骨に空いた穴に、歯牙に見立てられるフィクスチャーと呼ばれる螺子状の物体を埋め込み、定着させた後、定着したフィクスチャーの上部に補綴を装着する方法である。フィクスチャーを定着させる際には、フィクスチャーと歯槽骨との間隙がしっかりと再生骨で埋まることが求められる。フィクスチャーと歯槽骨との間隙に骨相当の成分を再生させる方法として、これまでに骨誘導再生法(Guided Bone Regeneration(GBR)法)が確立されている。
【0004】
GBR法では、歯槽骨にフィクスチャーが定着することが必要である。フィクスチャーが歯槽骨に定着しなければ、フィクスチャーの上部に補綴を装着しても、フィクスチャーがぐらついて、噛み合わせが悪くなり、また、食物を食べ辛いなどの問題が生じる。そのため、フィクスチャーと歯槽骨の定着はインプラント施術の中でも最も重要な工程のひとつである。この工程では、歯槽骨に穴を空けた後、メンブレンを用いて歯槽骨に再生骨を生成させる必要がある。また、再生骨生成の期間は、インプラントは完成していない状態であり、患者は日常の食生活などに負担がある状態であるため、より早く再生骨が生成できることが求められている。通常、再生骨生成には3〜9ヶ月要している。
【0005】
GBR法に用いられるメンブレンには、吸収性のメンブレンと非吸収性のメンブレンとがある。非吸収性のメンブレンについては、非特許文献1にPET/コラーゲン/水酸アパタイトメンブレンが開示されている。また、吸収性のメンブレンとしては、コラーゲンで作製されたメンブレン、人皮より作製されたメンブレン等がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
非特許文献1に開示された非吸収性のメンブレンは、PETの表面にコラーゲンを水溶性カルボジイミド(WSC)を用いてアミド結合(ペプチド結合)させた後、その表面にウレアーゼを固定化し、尿素、カルシウム源、リン源によって水酸アパタイトを析出させて、作製されている。非特許文献1のメンブレンは、作製手法が非常に煩雑である。さらに、同手法で作製したメンブレンは、厚膜化が困難であり、厚膜とするとPETから膜が剥がれ落ちてしまうという欠点がある。
【0008】
一方、吸収性のメンブレンは、再生骨生成部位と肉芽組織とを完全に分離できないために、肉芽組織が再生骨生成部位に侵入し、再生骨生成を妨げる。さらに吸収性のメンブレンでは、骨とメンブレン、肉芽組織が癒着を起こし、フィクスチャーを埋め込むのが困難となる。また、吸収性のメンブレンでは、診察の際、口腔外から再生骨ができているかを確認することが難しい。また、吸収性のメンブレンは、非常に高価であり、安いものでも2000円/cm
2、高いもので15000円/cm
2以上であり、金銭的な面でも患者に負担となる。
【0009】
これらのメンブレンは、作製するのに時間を要する、施術する際の取り扱いが難しい、再生骨の生成に時間がかかるなどの問題を抱えている。特に、再生骨の生成に時間がかかると、再生骨生成部位に細菌が繁殖し、骨再生ができなかったり、口臭が発生するなどで、患者に再手術を強いる場合がある。そのため、患者に余計な時間的及び金銭的な負担をかけてしまうといった問題が生じる。
【0010】
本発明は、上記のような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、取り扱い性に優れ、かつ再生骨生成に要する時間を短縮できる骨・組織再生誘導用メンブレンを提供すること、及び該メンブレンの製造方法提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、有機基材と、該有機基材の片面又は両面に設けられた、親水性ポリマー及びリン酸カルシウムを含有する新生骨誘導層と、を備える、骨・組織再生誘導用メンブレンを提供する。
【0012】
本発明の骨・組織再生誘導用メンブレンは、上記構成を有するため、取り扱い性に優れる。また、骨組織の再生を誘導する能力が高く、再生骨生成に要する時間を大幅に短縮することができる。本明細書において使用される「再生骨」との用語は、骨が失われた場所に再び再生される骨を指すが、骨の無い場所に新たに骨ができるという意味で、「新生骨」との用語と置き換えることもできる。
【0013】
上記骨・組織再生誘導用メンブレンは、新生骨誘導層の厚みが10〜200μmであることが好ましい。新生骨誘導層の層みがこの範囲にあると、再生骨生成に要する時間をより一層短縮することが可能となることに加え、メンブレンを骨組織の再生を行う部位(対象部位)に設置する際に、有機基材からの新生骨誘導層の剥離をより一層抑制することが可能となり、取り扱い性により優れるものとなる。
【0014】
上記骨・組織再生誘導用メンブレンは、新生骨誘導層における、親水性ポリマーとリン酸カルシウムとの含有量の比が、質量比で40:60〜10:90であることが好ましい。含有量の比がこの範囲にあると、再生骨誘導層の有機基材への密着性がより優れたものとなり、より一層取り扱い性に優れたものになることに加え、再生骨生成に要する時間をより一層短縮することが可能となる。
【0015】
上記骨・組織再生誘導用メンブレンは、インプラントを含む歯科治療用に好適に用いることができる。
【0016】
本発明はまた、親水性ポリマー及びリン酸カルシウムを含有する混合物を有機基材に塗布する工程を備える、骨・組織再生誘導用メンブレンの製造方法を提供する。本発明の製造方法によれば、上記骨・組織再生誘導用メンブレンの製造が可能となる。また、簡易な操作で、骨・組織再生誘導用メンブレンを製造することが可能となり、製造コストを低減することができる。
【0017】
上記製造方法は、有機基材の表面を粗面化処理する工程を更に備えていてもよい。これにより、有機基材と新生骨誘導層との結合がより強固なものとなる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の骨・組織再生誘導用メンブレンは、取り扱い性に優れ、かつ再生骨生成が短期間で容易に行われるためにインプラント樹立の時間を短縮することができる。また、本発明の製造方法によれば、上記骨・組織再生誘導用メンブレンの製造が可能となる。本発明の製造方法は、有機基材の表面に親水性ポリマーとリン酸カルシウムを塗布する手法によっているため、簡易であり、かつ低コスト化が可能である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本実施形態に係るメンブレンは、有機基材と、有機基材の片面又は両面に設けられた新生骨誘導層とを備える。新生骨誘導層は、親水性ポリマー及びリン酸カルシウムを含有する。本実施形態に係るメンブレンは、例えば、インプラント治療において、GBR法で骨再生を行うときに用いることができる。
【0021】
図1は、一実施形態に係る骨・組織再生誘導用メンブレンを示す模式断面図である。
図1に示す骨・組織再生誘導用メンブレン100は、有機基材1と、有機基材1の片面に設けられた新生骨誘導層2とを備える。
【0022】
図2は、他の実施形態に係る骨・組織再生誘導用メンブレンを示す模式断面図である。
図2に示す骨・組織再生誘導用メンブレン110は、有機基材1と、有機基材1の両面に設けられた2つの新生骨誘導層2とを備える。
【0023】
〔有機基材〕
本実施形態に係る有機基材としては、生体非吸収性であって、有機材料から構成される基材であれば、特に制限なく用いることができる。すなわち、本実施形態に係るメンブレンは非吸収性のメンブレンである。基材の形状については特に制限されるものではないが、メンブレンとしての取り扱い易さの観点から、シート状、又はフィルム状であることが好ましい。
【0024】
有機基材としては、ポリエチレン(PE)、ポリスチレン(PS)及びポリエチレンテレフタレート(PET)が好ましく、PETがより好ましい。PE、PS及びPETは、25kGy〜50kGyでのγ線照射による滅菌を行う際に着色及び材料劣化が少なく、安定な材質であり、最適な材料でもある。PE、PS及びPET以外にも、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリカーボネート(PC)、ポリアミド(ナイロン・PA)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、エポキシ樹脂、及びウレタン樹脂もγ線照射による劣化が少ないため、これらを使用してもよい。これらの中でも、例えばGBRメンブレン用として、体内に含まれても大きな問題を起こさないような有機基材が適する。また、これらの中でも、安価で入手しやすいものが、治療費が安価になるという点で望ましい。PETは比較的入手しやすく、生体不活性で周辺組織との癒着が少ないうえ、多孔質素材ではないため細菌が進入しにくく、細菌が固定化しにくいという利点がある。そのため、PE、PS及びPETの中でもPETを用いるのがより好ましい。これらの有機基材は、それぞれ単独で使用してもよい。また、これらの有機基材が二重又は三重に重ねられた基材を使用してもよい。
【0025】
〔親水性ポリマー〕
本実施形態に係る親水性ポリマーは、一般に販売されている親水性のポリマーであればよい。親水性ポリマーとしては、具体的には、例えば、多糖類、コラーゲン等のタンパク質、ゼラチン等の変性タンパク質、コラーゲンペプチド等のペプチド、及び核酸が挙げられる。これらの中でも、ゼラチン、コラーゲン又はコラーゲンペプチドが好ましい。さらに低エンドトキシン性のものを用いるのがより好ましく、低エンドトキシンゼラチンであればさらに好ましい。親水性ポリマーは一種を単独で使用してもよく、二種以上を併用してもよい。
【0026】
コラーゲンは、骨の有機成分でもあり、生体親和性に優れている。一方、ゼラチンは、コラーゲンに比べて安価で入手しやすい。ゼラチンは医薬品用途では薬のカプセルに使用されるなどの実績がある。
【0027】
ゼラチンは、骨の有機物成分であるコラーゲンが変性したものである。すなわち、ゼラチンは、コラーゲンの三本鎖へリックス構造が熱及び酸又はアルカリなどによって壊れ、ランダムコイルとなったタンパク質である。ゼラチンはコラーゲンと同じ一次構造を有する。よって、ゼラチンは、医療用材料として生体に応用した場合に、コラーゲンと同様に組織との親和性が高く生体内分解性に優れる、という特性を持つ。ゼラチンには、通常、原料由来及び製造中の混入によりエンドトキシンが相当量含まれている。エンドトキシンはグラム陰性菌の外膜構成成分であり、経口的には問題がないが、血中に入ると様々な生理活性を示す。特に、マクロファージはエンドトキシンにより強く刺激され、炎症性サイトカイン及び一酸化窒素などを生産し、発熱などの原因となる。そのため、低エンドトキシンゼラチンを用いるのが望ましい。低エンドトキシンゼラチンとしては、一般に販売されているものであれば使用可能であるが、最小発熱量5EU以下であることが望ましい。
【0028】
また、親水性ポリマーは、リン酸残基を含むポリマーであってもよい。
【0029】
〔リン酸カルシウム〕
リン酸カルシウムは、種々の形態を持つリン酸カルシウムを使用することができる。リン酸カルシウムとしては、例えば、単純なリン酸カルシウム(Ca
3(PO
4)
2;TCP)のほか、リン酸一水素カルシウム(CaHPO
4)、リン酸二水素カルシウム(Ca(H
2PO
4)
2)、非晶質リン酸カルシウム(Ca
3(PO
4)
2・nH
2O;ACP)、リン酸八カルシウム(Ca
8H
2(PO
4)
6・5H
2O;OCP)であってもよい。また、これら以外でもカルシウム元素とリン酸基を有する化合物であってもよい。
【0030】
リン酸カルシウムは、水分が存在すると徐々に変化して、最終的にはアパタイト構造を有する結晶となる。当該アパタイトとしては、歯に近い性質を持つことから、式(1)で表されるアパタイトであると好ましい。
Ca
(10−m)M
m(PO
4)
6X
2・・・(1)
[式(1)中、Mは一種以上の2価の陽イオンを示し、mは0〜5の整数を示し、Xは一価の陰イオンを示す。]
【0031】
さらに、上記アパタイトとしては、式(1)において、m=0、X=OHで示される、水酸アパタイト(ハイドロキシアパタイト)(Ca
10(PO
4)
6(OH)
2;HAP)がより好ましい。
【0032】
式(1)において、Mはストロンチウムイオン、バリウムイオン、マグネシウムイオン等であってもよく、また、2つの水素原子であってもよい(2H)。リン酸カルシウムとしては、ハイドロキシアパタイトと、式(1)におけるXがフッ素イオンで構成されるアパタイト、又はMがマグネシウムイオンで構成されるアパタイトとの混合物に変化するものであってもよい。式(1)における、Xとしてフッ素イオン、Mとしてマグネシウムイオンを含むことによって、実際の歯に近づけることも可能である。
【0033】
また、リン酸カルシウムとしては、骨と同等の性質を持つ材料であればよく、人工の無機化合物以外では、脱灰凍結乾燥他家骨等を使用することも可能である。
【0034】
さらに、リン酸カルシウムとして、一種類のみを単独で使用してもよく、異なる組成のリン酸カルシウムを混合して使用してもよい。
【0035】
本実施形態に係るリン酸カルシウムの平均粒径は50〜200nmであることが好ましい。中でも、平均粒径が80〜150nmであることがより好ましく、100〜130nmであることが更に好ましい。リン酸カルシウムの平均粒径が50〜200nmである場合、リン酸カルシウムと親水性ポリマーとの分散性が良く、塗布がし易い。
なお、平均粒径は、レーザー回折・散乱法によって求めた粒度分布における積算値50%での粒径(メディアン径D50)を意味する。
【0036】
〔メンブレン〕
本実施形態に係るメンブレンは、親水性ポリマーとリン酸カルシウムとを含有する新生骨誘導層の厚みが10〜200μmであることが好ましい。新生骨誘導層の厚みが10〜200μmであると、再生骨生成がより迅速に行われる。この層みが10μm未満の場合、再生骨生成に要する時間が長くなる傾向にあり、この厚みが100μmより厚い場合、メンブレンを口腔内に設置する際に親水性ポリマーとリン酸カルシウムが剥がれ落ちて、口腔内に散らばってしまい、取り扱い性が困難となる傾向にある。さらに、新生骨誘導層の厚みが20〜80μmであることがより好ましく、30〜60μmであることが更に好ましい。この厚みが20〜80μmであると、再生骨生成により有効である。また、この厚みが30〜60μmであると、取り扱う際に剥がれはほぼ無く、再生骨生成の期間も最短となる。
【0037】
本実施形態に係るメンブレンは、新生骨誘導層における親水性ポリマーとリン酸カルシウムとの含有量の比が、質量比で40:60〜10:90であることが好ましい。より好ましくは30:70〜15:85、さらに好ましくは20:80である。親水性ポリマーとリン酸カルシウムの含有量の比に応じて、新生骨誘導層の有機基材への密着性が変化する傾向にある。密着性が良いほど取り扱い性に優れたメンブレンとなる。親水性ポリマーとリン酸カルシウムの含有量の比が、質量比で20:80である場合、密着性も良く、かつ再生骨生成期間が短いメンブレンが得られる。
【0038】
本実施形態に係るメンブレンは、骨・組織再生誘導用として好適に用いることができる。特に、歯科治療用途に用いることが好ましく、例えば、インプラント施術におけるGBR法で骨再生のために好適に用いられる。また、一般外科治療における、骨再生治療に用いることもできる。更に、本実施形態に係るメンブレンの生体親和性を利用し、局所的で微細な骨折を修復するために絆創膏のように用いることもできる。また、人工骨に用いられるチタン合金の表面に添付し、生体親和性を付与する部材としての用途にも適用できる。
【0039】
〔メンブレンの製造方法〕
本実施形態に係る骨・組織再生誘導用メンブレンの製造方法は、親水性ポリマー及びリン酸カルシウムを含有する混合物を有機基材に塗布する工程を少なくとも備える。ここで、親水性ポリマー、リン酸カルシウム及び有機基材としては、上述のものを使用することができる。
【0040】
本実施形態に係る骨・組織再生誘導用メンブレンの製造方法は、親水性ポリマーと、リン酸カルシウムとを混合して、親水性ポリマー及びリン酸カルシウムを含有する混合物を得る工程を更に備えていてもよい。混合する方法は特に限定されるものではないが、例えば、親水性ポリマーとリン酸カルシウムを、これらの含有量の比が所定の比となるよう秤量した後、純水又はイオン交換水を加えて、乳鉢、撹拌棒、メカニカルスターラ、マグネチックスターラ、又はホモジナイザー等で混合することにより行うことができる。親水性ポリマー及びリン酸カルシウム以外の成分を用いる場合は、純水等を加える前に当該成分を秤量すればよい。
【0041】
上述した有機基材は、そのままでも上部にリン酸カルシウム(例えば、アパタイトを含むリン酸カルシウム)と親水性ポリマー(例えば、ゼラチン)の混合物を塗布することは可能だが、有機基材(例えば、フィルム状の有機基材)の塗布面をあらかじめサンドブラスト処理若しくはコロナ処理、又は多孔質の有機基材でコートすることによって、表面を粗面化処理することが好ましい。すなわち、本実施形態に係る骨・組織再生誘導用メンブレンの製造方法は、有機基材の塗布面を粗面化処理する工程を更に備えていてもよい。
【0042】
粗面化処理の方法としては、サンドブラスト処理及びコロナ処理以外にも、強アルカリの溶液によって、有機基材の塗布面を処理する方法もある。また、サンドブラスト処理又はコロナ処理を行った後に、強アルカリの溶液により有機基材の塗布面を処理してもよい。また、有機基材と塗布物との密着性を良くするために、粗面化処理として、有機基材(例えば、フィルム状の有機基材)上に生体親和性を有する物質を塗布することも有効である。その場合、例えばヒアルロン酸ナトリウムなどを有機基材上に塗布することがある。有機基材としては、粗面化処理を有機基材の片面のみに施したものを使用するのが好ましいが、まず、有機基材2枚を貼り合わせた後、その両面を粗面化処理し、その後に2枚に分割して、片面のみ粗面化処理を施された有機基材を得てもよい。
【0043】
また、有機基材に親水性ポリマーとリン酸カルシウムとの混合物を塗布する場合に、片面コーターを用いて塗布してもよいが、有機基材2枚を粗面化処理していない面同士で貼り合わせ、ダイコーターを用いて塗布しても構わない。二重に重ねる場合には、粗面化処理をしていない面と面の間に親水性ポリマーとリン酸カルシウムが入らないように有機基材が袋状になるように熱圧着して用いてもよい。
【実施例】
【0044】
次に、本実施形態の好適な実施例について説明する。しかし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0045】
[実施例1]
(有機基材の粗面化処理)
PETフィルム(東洋紡績株式会社製:E5100、100μm)を10cm×10cmの大きさに切断し、3モル/Lの水酸化ナトリウム水溶液に70℃の温度で3時間浸漬させた。浸漬後、水酸化ナトリウム水溶液からフィルムを取り出して純水で洗浄し、粗面化処理を施したPETフィルムを得た。
【0046】
(リン酸カルシウムと親水性ポリマーの混合物の作製)
リン酸カルシウムとして、ハイドロキシアパタイト(和光純薬工業株式会社)を、親水性ポリマーとして、コラーゲンペプチド(和光純薬工業株式会社)を使用し、リン酸カルシウム:親水性ポリマーを質量比で60:40となるように混合し、固形分比が72%となるように純水を加え、乳鉢で混合し、リン酸カルシウムと親水性ポリマーとの混合物を得た。
【0047】
(リン酸カルシウムと親水性ポリマーの混合物のPETへの塗布)
粗面化処理を施したPETフィルムの一方の面上に、リン酸カルシウムと親水性ポリマーの混合物を、アプリケーターを用いてギャップ100μmで塗布した(塗布後の膜厚は60μm)。塗布後、60℃で1時間乾燥させ、メンブレンを得た。
【0048】
(密着性評価)
作製したメンブレンは、密着性試験を行って、PETフィルムと塗布物との密着性を評価した。密着性試験は、以下のように行った。メンブレンの塗布面を上にし、1mmの間隔で碁盤目状に11本の線をカッターで引いた。碁盤目状の切り込みを入れた部分を端にし、6cmの長さのセロハンテープ(住友スリーエム株式会社製、BK−18)を貼り付けた。消しゴムでセロハンテープの上を十分に擦った後、1分後に剥がして塗布物のPETフィルムからの剥離の有無を判断することによって評価した。密着性の評価基準は、A:全く剥がれない、B:わずかに剥がれる、C:大部分剥がれる、とした。
【0049】
(新生骨誘導試験)
豚の口腔にて、歯を抜歯した直後に、作製したメンブレンを歯槽骨を覆うように被せ、経過を観察した。2ヵ月後、2.5ヶ月後、3ヶ月後、4ヵ月後、6ヵ月後に経過を観察し、新生骨生成期間を求めた。
【0050】
[実施例2]
上記混合物全量に対する、コラーゲンペプチドの比率を30質量%、ハイドロキシアパタイトの比率を70質量%にした以外は実施例1と同様にメンブレンを作製し、密着性試験及び新生骨誘導試験を行った。
【0051】
[実施例3]
上記混合物全量に対する、コラーゲンペプチドの比率を20質量%、ハイドロキシアパタイトの比率を80質量%にした以外は実施例1と同様にメンブレンを作製し、密着性試験及び新生骨誘導試験を行った。
【0052】
[実施例4]
上記混合物全量に対する、コラーゲンペプチドの比率を15質量%、ハイドロキシアパタイトの比率を85質量%にした以外は実施例1と同様にメンブレンを作製し、密着性試験及び新生骨誘導試験を行った。
【0053】
[実施例5]
上記混合物全量に対する、コラーゲンペプチドの比率を10質量%、ハイドロキシアパタイトの比率を90質量%にした以外は実施例1と同様にメンブレンを作製し、密着性試験及び新生骨誘導試験を行った。
【0054】
[実施例6]
コラーゲンペプチドの代わりに、ゼラチンを使用し、上記混合物全量に対する、ゼラチンの比率を40質量%、ハイドロキシアパタイトの比率を60質量%にした以外は実施例1と同様にメンブレンを作製し、密着性試験及び新生骨誘導試験を行った。
【0055】
[実施例7]
上記混合物全量に対する、ゼラチンの比率を30質量%、ハイドロキシアパタイトの比率を70質量%にした以外は実施例6と同様にメンブレンを作製し、密着性試験及び新生骨誘導試験を行った。
【0056】
[実施例8]
上記混合物全量に対する、ゼラチンの比率を20質量%、ハイドロキシアパタイトの比率を80質量%にした以外は実施例6と同様にメンブレンを作製し、密着性試験及び新生骨誘導試験を行った。
【0057】
[実施例9]
上記混合物全量に対する、ゼラチンの比率を15質量%、ハイドロキシアパタイトの比率を85質量%にした以外は実施例6と同様にメンブレンを作製し、密着性試験及び新生骨誘導試験を行った。
【0058】
[実施例10]
上記混合物全量に対する、ゼラチンの比率を10質量%、ハイドロキシアパタイトの比率を90質量%にし、塗布後の膜厚を80μmとした以外は実施例6と同様にメンブレンを作製し、密着性試験及び新生骨誘導試験を行った。
【0059】
[実施例11]
上記混合物全量に対する、ゼラチンの比率を20質量%、ハイドロキシアパタイトの比率を80質量%にし、塗布後の膜厚を120μmとした以外は実施例6と同様にメンブレンを作製し、密着性試験及び新生骨誘導試験を行った。
【0060】
[実施例12]
上記混合物全量に対する、ゼラチンの比率を20質量%、ハイドロキシアパタイトの比率を80質量%にし、塗布後の膜厚を10μmとした以外は実施例6と同様にメンブレンを作製し、密着性試験及び新生骨誘導試験を行った。
【0061】
[
参考例13]
上記混合物全量に対する、ゼラチンの比率を20質量%、ハイドロキシアパタイトの比率を80質量%にし、塗布後の膜厚を6μmとした以外は実施例6と同様にメンブレンを作製し、密着性試験及び新生骨誘導試験を行った。
【0062】
表1に試験結果をまとめた。本発明に係るメンブレンは、新生骨形成期間を大幅に短縮可能である。また、コラーゲンペプチド又はゼラチンとハイドロキシアパタイトとを、質量比が20:80となるよう混合し、塗布したものについて(例えば、実施例3、実施例8等参照)、密着性も良好かつ新生骨生成期間が短く、メンブレンとして有効であることが分かる。
【0063】
【表1】