(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳しく説明するが、本発明は当該形態に制限されるものではなく、その要旨の範囲内において、自由に種々変形して実施可能である。
【0013】
本発明の積層多孔質フィルムは、ポリオレフィンを含む多孔質層(以下、「A層」と称する場合がある。)と、耐熱性材料を含む多孔質層(以下、「B層」と称する場合がある。)とが積層された多孔質フィルムである。なお、A層は、電池が激しく発熱した時に、溶融して無孔化することにより、積層多孔質フィルムにシャットダウンの機能を付与する。また、B層は、シャットダウンが生じる高温における耐熱性を有しているので、B層を有する積層多孔質フィルムは高温でも形状安定性に優れる。
上記したA層とB層は、順に積層されていれば3層以上でもよい。例えば、A層の両面にB層が形成されていてもよい。
【0014】
また、A層の両面にB層を形成する場合、B層は各々が相異なる耐熱性材料を含んでいてもよい。
【0015】
(ポリオレフィンを含む多孔質層(A層))
本発明の積層多孔質フィルムにおけるA層について説明する。A層はポリオレフィンを含む多孔質層である。ポリオレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセンなどを重合した高分子量の単独重合体または共重合体が挙げられる。これらのポリオレフィンは、単独あるいは二種以上を混合して用いることができる。
上記ポリオレフィンの中でも、エチレンを主体とする高分子量ポリエチレンが好ましい。
【0016】
A層におけるポリオレフィン成分の割合は、通常A層全体の50体積%を超え、好ましくは70体積%以上であり、より好ましくは90体積%以上であり、さらに好ましくは95体積%以上である。
【0017】
A層には、A層の機能を損なわない範囲で、ポリオレフィン以外の成分を含んでいてもよい。
【0018】
A層は、非水電解液二次電池用セパレータとして非水電解液二次電池に使用した場合に、電解液への溶解を防止する点から、重量平均分子量が1×10
5〜15×10
6の高分子量成分が含まれていることが好ましく、A層に含まれるポリオレフィンの重量平均分子量が前記所定の範囲であることが好ましい。
【0019】
A層の厚みは、通常4〜50μmであり、好ましくは5〜30μmである。厚みが5μm未満であると、積層多孔質フィルムの強度が不十分となる恐れがあり、50μmを超えると、積層多孔質フィルムの厚みが厚くなり、電池の容量(すなわち、体積エネルギー密度)が小さくなる恐れがある。
【0020】
A層の空隙率は、通常20〜80体積%であり、好ましくは30〜70体積%である。
空隙率が20体積%未満では電解液の保持量が少なくなる恐れがあり、80体積%を超えるとシャットダウンが生じる高温における無孔化が不十分となる、すなわち電池が激しく発熱したときに電流が遮断できなくなる恐れがある。
【0021】
A層の孔径は、積層多孔質フィルムを非水電解液二次電池のセパレータとした際に、優れたイオン透過性を有し、かつ正極や負極への粒子の入り込みを防止する点から、3μm以下が好ましく、1μm以下がさらに好ましい。
【0022】
A層は、その内部に連結した細孔を有す構造であり、一方の面から他方の面に気体や液体が透過可能である。その透過率は、通常、透気度で表される。A層の透気度は、通常30〜1000sec/100ccであり、好ましくは50〜800sec/100ccである。
【0023】
A層の目付は、通常4〜15g/m
2であり、好ましくは5〜12g/m
2である。目付けが4g/m
2未満であると、積層多孔質フィルムの強度が不十分となる恐れがあり、15g/m
2を超えると、積層多孔質フィルムの厚みが厚くなり、電池の容量が小さくなる恐れがある。
【0024】
A層の製造は特に限定されるものではなく、例えば特開平7−29563号公報に記載されたように、熱可塑性樹脂に可塑剤を加えてフィルム成形した後、該可塑剤を適当な溶媒で除去する方法や、特開平7−304110号公報に記載されたように、公知の方法により製造した熱可塑性樹脂からなるフィルムを用い、該フィルムの構造的に弱い非晶部分を選択的に延伸して微細孔を形成する方法が挙げられる。例えば、A層が、重量平均分子量が100万を超える高分子量ポリエチレンと重量平均分子量が1万以下の低分子量ポリオレフィンとを含むポリオレフィン樹脂から形成される場合には、製造コストの点から、以下の各工程を含む方法により製造することが好ましい。
(a)高分子量ポリエチレン100重量部と、低分子量ポリオレフィン5〜200重量部と、炭酸カルシウム等の無機充填剤100〜400重量部とを混練してポリオレフィン樹脂組成物を得る。
(b)前記ポリオレフィン樹脂組成物を用いてシートを成形する。
(c)工程(b)で得られたシート中から無機充填剤を除去する。
(d)工程(c)で得られたシートを延伸してA層を得る。
を含む方法である。
【0025】
(耐熱性材料を含む多孔質層(B層))
次に、本発明の積層多孔質フィルムにおけるB層について説明する。B層は耐熱性材料を含む多孔質層である。B層は、耐熱性材料を含む多孔質層であることで、一方の面から他方の面に気体や液体が透過可能であり、さらに、積層多孔質フィルムに高温における形状安定性を付与することが可能である。
本明細書において、耐熱性材料とは、A層が溶融する温度(例えば、A層がポリエチレンからなる場合は、約130℃)において、溶融または熱分解しない材料と定義される。
【0026】
B層における耐熱性材料成分の割合は、通常B層の固形分全体の50体積%を超え、好ましくは70体積%以上であり、より好ましくは90体積%以上であり、さらに好ましくは95体積%以上である。耐熱性材料としては、例えば、耐熱樹脂や、バインダーとフィラーとからなる耐熱性組成物が挙げられる。
【0027】
耐熱樹脂としては、例えば、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルエーテルケトン、芳香族ポリエステル、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミドが挙げられる。これらの耐熱樹脂は、単独あるいは二種以上を混合して用いることができる。
上記耐熱樹脂の中でも、耐熱性をより高める点で、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルイミドが好ましく、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミドがより好ましい。さらにより好ましくは、芳香族ポリアミド(例えば、パラ配向芳香族ポリアミド、メタ配向芳香族ポリアミド)、芳香族ポリイミド、芳香族ポリアミドイミド等の含窒素芳香族重合体である。含窒素芳香族重合体として、とりわけ好ましくは芳香族ポリアミドであり、中でも、製造が容易である点から、特に好ましくは、パラ配向芳香族ポリアミド(以下、「パラアラミド」と称する場合がある。)である。
【0028】
パラアラミドは、パラ配向芳香族ジアミンとパラ配向芳香族ジカルボン酸ハライドの縮合重合により得られるものであり、アミド結合が芳香族環のパラ位またはそれに準じた配向位(例えば、4,4’−ビフェニレン、1,5−ナフタレン、2,6−ナフタレン等のような反対方向に同軸または平行に延びる配向位)で結合される繰り返し単位から実質的になるものである。パラアラミドとしては、例えば、ポリ(パラフェニレンテレフタルアミド)、ポリ(パラベンズアミド)、ポリ(4,4’−ベンズアニリドテレフタルアミド)、ポリ(パラフェニレン−4,4’−ビフェニレンジカルボン酸アミド)、ポリ(パラフェニレン−2,6−ナフタレンジカルボン酸アミド)、ポリ(2−クロロ−パラフェニレンテレフタルアミド)、パラフェニレンテレフタルアミド/2,6−ジクロロパラフェニレンテレフタルアミド共重合体等のパラ配向型またはパラ配向型に準じた構造を有するパラアラミドが挙げられる。
【0029】
芳香族ポリイミドとしては、芳香族の二酸無水物とジアミンの縮重合で製造される全芳香族ポリイミドが好ましい。二酸無水物としては、例えば、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、3,3’、4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’−ビス(3,4―ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物が挙げられる。ジアミンとしては、例えば、オキシジアニリン、パラフェニレンジアミン、ベンゾフェノンジアミン、3,3’−メチレンジアニリン、3,3’−ジアミノベンソフェノン、3,3’−ジアミノジフェニルスルフォン、1,5’−ナフタレンジアミンが挙げられる。
【0030】
芳香族ポリアミドイミドとしては、芳香族ジカルボン酸および芳香族ジイソシアネートを用いてこれらの縮合重合から得られるもの、芳香族二酸無水物および芳香族ジイソシアネートを用いてこれらの縮合重合から得られるものが挙げられる。芳香族ジカルボン酸としては、例えば、イソフタル酸、テレフタル酸が挙げられる。また芳香族二酸無水物としては、例えば、無水トリメリット酸が挙げられる。芳香族ジイソシアネートとしては、例えば、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、オルソトリランジイソシアネート、m−キシレンジイソシアネートが挙げられる。
【0031】
耐熱性材料が耐熱樹脂であるとき、B層は、B層の機能を損なわない範囲で、フィラーを含んでいてもよい。フィラーとしては、耐熱性組成物におけるフィラーとして後述するものと同じものが挙げられ、後述するフィラーの中でも、高温における形状安定性をより高める点で、無機酸化物のフィラーが好ましく、中でもα−アルミナがより好ましい。
【0032】
バインダーとフィラーとからなる耐熱性組成物において、バインダーは、フィラー同士、およびA層とフィラーとを結着させる性能を持ち、電池の電解液に対して不溶であり、電池の使用範囲で電気化学的に安定である重合体が好ましい。また、バインダーは、水溶性の重合体であってもよいし、非水溶性の重合体であってもよい。バインダーとしては、例えば、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリフッ化ビニリデンやポリテトラフルオロエチレンなどの含フッ素樹脂、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体やエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体などの含フッ素ゴム、スチレン−ブタジエン共重合体およびその水素化物、メタクリル酸エステル共重合体、アクリロニトリル−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−アクリル酸エステル共重合体、エチレンプロピレンラバー、ポリ酢酸ビニルなどのゴム類、ポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルイミド、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルアミド、ポリエステルなどの融点やガラス転移温度が180℃以上の樹脂、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、セルロースエーテル、アルギン酸ナトリウム、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、ポリメタクリル酸等の重合体が挙げられる。これらのバインダーは、単独あるいは二種以上を混合して用いることができる。
上記重合体の中でも、水溶性の重合体は、プロセスや環境負荷の点で好ましく、水溶性の重合体の中でも、カルボキシアルキルセルロース、アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、澱粉、ポリビニルアルコール、アルギン酸ナトリウムが好ましく、セルロースエーテルがより好ましい。
【0033】
セルロースエーテルとしては、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、カルボキシエチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、シアンエチルセルロース、オキシエチルセルロース等が挙げられる。
中でも、化学的、熱的な安定性に優れたCMC、HECが好ましく、CMCがより好ましい。
【0034】
フィラーとしては、有機または無機のフィラーを用いることができる。有機のフィラーとしては、例えば、スチレン、ビニルケトン、アクリロニトリル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、グリシジルメタクリレート、グリシジルアクリレート、アクリル酸メチル等の単独あるいは2種類以上の共重合体;ポリテトラフルオロエチレン、4フッ化エチレン−6フッ化プロピレン共重合体、4フッ化エチレン−エチレン共重合体、ポリビニリデンフルオライド等のフッ素系樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメタクリレート等からなる微粒子が挙げられる。また、無機のフィラーとしては、炭酸カルシウム、タルク、クレー、カオリン、シリカ、ハイドロタルサイト、珪藻土、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化チタン、アルミナ、マイカ、ゼオライト、ガラス等からなる微粒子が挙げられる。
また、上記フィラーの水和物のような、上記フィラーに類似の物質を用いてもよい。これらのフィラーは、単独あるいは二種以上を混合して用いることができる。
上記フィラーの中でも、化学安定性、高温における形状安定性をより高める点で、無機酸化物のフィラーが好ましく、中でもα−アルミナがより好ましい。
なお、フィラーは、B層のイオン透過性を確保するのに十分な程度の孔を形成することのできるものであることが好ましい。
【0035】
フィラーの重量割合は、バインダーとフィラーの合計100重量%あたり、通常20〜99重量%であり、好ましくは60〜99重量%である。フィラーの重量割合が、上記特定の範囲であることで、イオン透過性と、粉落ちのしにくさとのバランスに優れる積層多孔質フィルムが得られる。粉落ちとは、積層多孔質フィルムからフィラーが剥がれる現象である。
【0036】
B層には、B層の機能を損なわない範囲で、耐熱性材料以外の成分を含んでいてもよい。そのような成分として、例えば、分散剤、可塑剤、pH調製剤が挙げられる。
【0037】
B層の厚みは、通常1〜25μm以下であり、好ましくは5〜20μm以下の範囲である。厚みが1μm未満であると、事故等により該電池の発熱が生じたときにA層の熱収縮に抗しきれずセパレータが収縮する恐れがあり、25μmを超えると、積層多孔質フィルムの厚みが厚くなり、電池の容量が小さくなる恐れがある。
なお、B層がA層の両面に形成される場合、B層の厚みは、両面の合計厚みとする。
【0038】
B層をA層の片面に形成させる方法としては、A層とB層とを別々に製造してそれぞれを積層する方法、A層の片面に、耐熱性材料を含有する塗工液を塗工してB層を形成する方法等が挙げられるが、より簡便であることから後者の方法が好ましい。
【0039】
A層の片面に、耐熱性材料を含有する塗工液を塗工してB層を形成する方法として、耐熱性材料として耐熱樹脂を用いる場合には、例えば、以下の各工程を含む方法(以下、「方法1」と称する場合がある。)が挙げられる。
(a)耐熱樹脂が極性有機溶媒に溶解した極性有機溶媒溶液、または耐熱樹脂が溶解した極性有機溶媒溶液にフィラーが分散したスラリーを調製する。
(b)該極性有機溶媒溶液、または該スラリーをA層の片面に塗工し、塗工膜を形成する。
(c)加湿、溶媒除去あるいは耐熱樹脂を溶解しない溶媒への浸漬等の手段で、前記塗工膜から耐熱樹脂を析出させ、必要に応じて乾燥する。
【0040】
極性有機溶媒溶液において、耐熱樹脂が芳香族ポリアミド(アラミド)である場合には、極性有機溶媒としては、極性アミド系溶媒または極性尿素系溶媒を用いることができ、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、テトラメチルウレアが挙げられる。
【0041】
耐熱樹脂としてパラアラミドを用いる場合、パラアラミドの溶媒への溶解性を改善する目的で、パラアラミド重合時にアルカリ金属またはアルカリ土類金属の塩化物を添加することが好ましい。具体例としては、塩化リチウムまたは塩化カルシウムが挙げられるが、これらに限定されるものではない。上記塩化物の重合系への添加量は、縮重合で生成するアミド基1.0モル当たり0.5〜6.0モルの範囲が好ましく、1.0〜4.0モルの範囲がさらに好ましい。塩化物が0.5モル未満では、生成するパラアラミドの溶解性が不十分となる場合があり、6.0モルを越えると実質的に塩化物の溶媒への溶解度を越えるので好ましくない場合がある。一般には、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の塩化物が2重量%未満では、パラアラミドの溶解性が不十分となる場合があり、10重量%を越えてはアルカリ金属またはアルカリ土類金属の塩化物が極性アミド系溶媒または極性尿素系溶媒等の極性有機溶媒に溶解しない場合がある。
【0042】
耐熱樹脂が芳香族ポリイミドである場合には、芳香族ポリイミドを溶解させる極性有機溶媒としては、アラミドを溶解させる溶媒として例示したもののほか、ジメチルスルホキサイド、クレゾール、およびo−クロロフェノール等が好適に使用できる。
【0043】
A層の片面に、耐熱性材料を含有する塗工液を塗工してB層を形成する方法として、耐熱性材料として耐熱性組成物を用いる場合には、例えば、以下の各工程を含む方法(以下、「方法2」と称する場合がある。)が挙げられる。
(a)バインダー、フィラーおよび媒体を含むスラリーを調製する。
(b)該スラリーをA層の片面に塗工し、塗工膜を形成する。
(c)媒体を除去する。
【0044】
媒体(溶媒又は分散媒)としては、耐熱性材料の成分が均一かつ安定に溶解又は分散させることができる媒体あればよい。具体的には、水、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどのアルコール類、アセトン、トルエン、キシレン、ヘキサン、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミドなどを単独、または相溶する範囲で複数混合することが挙げられる。中でも、プロセスや環境負荷の点から、媒体の80重量%以上が水であることが好ましく、水のみがより好ましい。
【0045】
媒体として水を含む場合、スラリーをA層上に塗布する前に、あらかじめA層に親水化処理を行うことが好ましい。A層を親水化処理することにより、より塗布性が向上し、より均質なB層を得ることができる。この親水化処理は、特に媒体中の水の濃度が高いときに有効である。
A層の親水化処理は、いかなる方法でもよく、具体的には酸やアルカリ等による薬剤処理、コロナ処理、プラズマ処理等が挙げられる。
ここで、コロナ処理は、比較的短時間でA層を親水化できることに加え、コロナ放電によるポリオレフィンの改質が、A層の表面近傍のみに限られ、A層内部の性質を変化させることなく、高い塗工性を確保できるという利点がある。
【0046】
A層上に塗布したスラリーからの媒体の除去は、乾燥による方法が一般的である。該媒体に溶解し、しかも用いた樹脂を溶かさない溶媒を準備し、塗布後で乾燥前の膜を該溶媒中に浸漬して該媒体を該溶媒に置換して樹脂を析出させ、媒体を除去し、溶媒を乾燥により除去することもできる。なお、スラリー液をA層の上に塗布した場合、媒体または溶媒の乾燥温度は、A層の透気度を変化させない温度が好ましい。
【0047】
また、スラリー液には、本発明の目的を損なわない範囲で、例えば、界面活性剤、pH調整剤、分散剤、可塑剤を添加することができる。
【0048】
方法1および方法2において、極性有機溶媒溶液またはスラリーをA層に塗布する方法は、均一にウェットコーティングできる方法であれば特に制限はなく、従来公知の方法を採用することができる。例えば、キャピラリーコート法、スピンコート法、スリットダイコート法、スプレーコート法、ロールコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、バーコーター法、グラビアコーター法、ダイコーター法などを採用することができる。形成されるB層の厚さは、極性有機溶媒溶液またはスラリーの塗布量、極性有機溶媒溶液またはスラリー中のバインダーの濃度、スラリーにおいてはフィラーのバインダーに対する比を調節することによって制御することができる。なお、支持体としては、樹脂製のフィルム、金属製のベルト、ドラム等を用いることができる。
【0049】
方法1および方法2において、極性有機溶媒溶液またはスラリーを得る方法としては、均質な極性有機溶媒溶液またはスラリーを得ることができる方法であれば、特に限定されない。特にスラリーの場合は、機械攪拌法、超音波分散法、高圧分散法、メディア分散法などの方法が好ましく、より均一に分散させることが容易であるという点で、高圧分散法がより好ましい。その際の混合順序も、沈殿物が発生するなど特段の問題がない限り、特に限定されない。
【0050】
(積層多孔質フィルム)
本発明の積層多孔質フィルムは、ポリオレフィンを含む多孔質層の少なくとも片面に、耐熱性材料を含む多孔質層が積層された積層多孔質フィルムであって、下記式(I)を満足する積層多孔質フィルムである。好ましくは下記式(I−2)を満足する積層多孔質フィルムである。
0.1136×α+0.0819×β+3.8034≧4.40 (I)
4.90≧0.1136×α+0.0819×β+3.8034≧4.40 (I−2)
α:積層多孔質フィルムの膜抵抗(Ω・cm
2)
β:耐熱性材料を含む多孔質層1m
2あたりに含まれる耐熱性材料の体積(cc/m
2)
【0051】
上記式(I)を満足する積層多孔質フィルムを、非水電解液二次電池用セパレータとして含む非水電解液二次電池は、釘刺し試験での50%破壊電圧が4.40V以上であり、電池容量が大きい場合でも内部短絡に対する安全性に優れるものとなる。この理由として、以下が考えられる。
本発明者らは、後述するとおり、積層多孔質フィルムを含むリチウムイオン二次電池において、非水電解液二次電池の内部短絡に対する安全性について検討した結果、釘刺し試験での50%破壊電圧が、積層多孔質フィルムの膜抵抗(Ω・cm
2)およびB層に含まれる耐熱性材料の体積目付(すなわち、耐熱性材料を含む多孔質層1m
2あたりに含まれる耐熱性材料の体積(cc/m
2))と、それぞれ相関性があることを見出している。
【0052】
まず、50%破壊電圧と積層多孔質フィルムの膜抵抗との相関性は、下記式(II)で示される。積層多孔質フィルムの膜抵抗が大きいほど、内部短絡した際に電流が流れにくくなる。
50%破壊電圧=0.1136×α+3.941 (II)
α:積層多孔質フィルムの膜抵抗(Ω・cm
2)
【0053】
次いで、50%破壊電圧と耐熱性材料を含む多孔質層1m
2あたりに含まれる耐熱性材料の体積との相関性は、下記式(III)で示される。耐熱性材料の体積が大きいほど、内部短絡した際に電流が流れにくくなる。
50%破壊電圧=0.0819×β+3.899 (III)
β:耐熱性材料を含む多孔質層1m
2あたりに含まれる耐熱性材料の体積(cc/m
2)
【0054】
さらには、上記式(II)および(III)より、50%破壊電圧は下記式(IV)として表すことができる。
50%破壊電圧=0.1136×α+0.0819×β+γ (IV)
α:積層多孔質フィルムの膜抵抗(Ω・cm
2)
β:耐熱性材料を含む多孔質層1m
2あたりに含まれる耐熱性材料の体積(cc/m
2)
γ:定数
上記式(IV)中の定数γは、後述する50%破壊電圧の実測値、ならびにαおよびβの各実測値より、3.8034と算出される。この定数γの算出結果より、上記式(IV)から下記式(V)が導出される。
50%破壊電圧=0.1136×α+0.0819×β+3.8034 (V)
α:積層多孔質フィルムの膜抵抗(Ω・cm
2)
β:耐熱性材料を含む多孔質層1m
2あたりに含まれる耐熱性材料の体積(cc/m
2)
【0055】
そして、本発明の積層多孔質フィルムは、上記式(V)の右辺から算出される値が4.40以上、つまりは上記式(I)を満足するものであることで、当該フィルムを、非水電解液二次電池用セパレータとして含む非水電解液二次電池の50%破壊電圧は4.40V以上となり、当該非水電解液二次電池は、電池電圧が4.40V以上と大きく、電池容量が大きい場合でも、内部短絡が生じた際の異常発熱が抑制される、つまりは内部短絡に対する安全性に優れるものとなる。
【0056】
積層多孔質フィルムの膜抵抗は、電池特性(イオン透過性、負荷特性)の点から、通常0.25〜5.00Ω・cm
2であり、2Ω・cmを超えないことが好ましい。る。膜抵抗が0.25Ω・cm
2未満であると、イオン透過性には優れるものの、微小短絡が発生する危険性が高まる恐れがあり、2.00Ω・cm
2を超えると、良好なイオン透過性が得られず、電池特性が低下する恐れがあり、5.00Ω・cm
2を超えるとより顕著に電池特性が低下する恐れがある。膜抵抗を大きくするには、例えば、A層およびB層の、あるいは、A層またはB層のいずれか一方の、厚みを厚くしたり、空隙率を低くすればよく、膜抵抗を小さくするには、A層およびB層の、あるいは、A層またはB層のいずれか一方の、厚みを薄くしたり、空隙率を高くすればよい。
【0057】
積層多孔質フィルムのB層に含まれる耐熱性材料の体積目付(すなわち、耐熱性材料を含む多孔質層1m
2あたりに含まれる耐熱性材料の体積)は、加熱時の安定性および電池特性の点から、通常0.5〜20cc/m
2であり、好ましくは1cc/m
2以上であり、より好ましくは5cc/m
2以上である。また、好ましくは15cc/m
2以下であり、より好ましくは10cc/m
2以下である。また、好ましくは1〜10cc/m
2である。体積目付が0.5cc/m
2未満であると、積層多孔質フィルムが加熱されたときに破膜しやすくなる恐れがあり、20cc/m
2を超えると、積層多孔質フィルムの厚みが厚くなり、電池の容量が小さくなる恐れがある。5cc/m
2以上であると積層多孔質フィルムが加熱されたときに破膜しやすくなる恐れが十分に低くなり、15cc/m
2以下であると積層多孔質フィルムの厚みが十分に薄く、電池の容量が小さくなる恐れがある低くなる。体積目付を大きくするには、例えば、B層形成用スラリーの固形分濃度を高くしたり、塗工時の吐出量を高くすればよく、体積目付を小さくするには、例えば、B層形成用スラリーの固形分濃度を低くしたり、塗工時の吐出量を低くすればよい。
なお、B層がA層の両面に形成される場合、体積目付は、両面の合計値とする。
【0058】
積層多孔質フィルム全体(A層+B層)の厚みは、通常5〜75μmであり、好ましくは10〜50μmである。積層多孔質フィルム全体の厚みが5μm未満であると、積層多孔質フィルムが破膜しやすくなる恐れがあり、50μmを超えると、積層多孔質フィルムの厚みが厚くなり、電池の容量(体積エネルギー密度)が小さくなる恐れがあり、75μmを超えると、より顕著に電池の容量が小さくなる恐れがある。
【0059】
積層多孔質フィルムの透気度は、通常50〜2000sec/100cc、好ましくは70〜1000sec/100ccである。透気度が2000sec/100ccを超えると、電池特性(イオン透過性、負荷特性)を損なう恐れがある。
【0060】
本発明の積層多孔質フィルムには、本発明の目的を損なわない範囲で、A層とB層以外の、例えば、接着層、保護層等の多孔質層が含まれていてもよい。
【0061】
(非水電解液二次電池)
次に、本発明の非水電解液二次電池について説明する。本発明の非水電解液二次電池は、本発明の積層多孔質フィルムを、セパレータとして含む。非水電解液二次電池は、正極と、負極と、該正極と該負極の対向面間に挟まれたセパレータと、非水電解液とを備える。以下に、本発明の非水電解液二次電池について、当該電池がリチウム電池に代表される非水電解液二次電池である場合を例として、各構成要素について説明するが、これらに限定されるものではない。
【0062】
非水電解液としては、例えば、リチウム塩を有機溶媒に溶解させた非水電解液を用いることができる。リチウム塩としては、LiClO
4、LiPF
6、LiAsF
6、LiSbF
6、LiBF
4、LiCF
3SO
3、LiN(SO
2CF
3)
2、LiC(SO
2CF
3)
3、Li
2B
10Cl
10、低級脂肪族カルボン酸リチウム塩、LiAlCl
4などのうち1種または2種以上の混合物が挙げられる。リチウム塩として、これらの中でもフッ素を含むLiPF
6、LiAsF
6、LiSbF
6、LiBF
4、LiCF
3SO
3、LiN(CF
3SO
2)
2、およびLiC(CF
3SO
2)
3からなる群から選ばれる少なくとも1種を含むものを用いることが好ましい。
【0063】
非水電解液としては、例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、4−トリフルオロメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、1,2−ジ(メトキシカルボニルオキシ)エタンなどのカーボネート類;1,2−ジメトキシエタン、1,3−ジメトキシプロパン、ペンタフルオロプロピルメチルエーテル、2,2,3,3−テトラフルオロプロピルジフルオロメチルエーテル、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフランなどのエーテル類;ギ酸メチル、酢酸メチル、Y−ブチロラクトンなどのエステル類;アセトニトリル、ブチロニトリルなどのニトリル類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどのアミド類;3−メチル−2−オキサゾリドンなどのカーバメート類;スルホラン、ジメチルスルホキシド、1,3−プロパンサルトンなどの含硫黄化合物または前記の物質にフッ素基を導入したものを用いることができるが、通常はこれらのうちの2種以上を混合して用いる。
【0064】
これらの中でもカーボネート類を含むものが好ましく、環状カーボネートと非環状カーボネート、または環状カーボネートとエーテル類の混合物がさらに好ましい。環状カーボネートと非環状カーボネートの混合物としては、作動温度範囲が広く、かつ負極の活物質として天然黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛材料を用いた場合でも難分解性であるという点で、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネートおよびエチルメチルカーボネートを含む混合物が好ましい。
【0065】
正極は、通常、正極活物質、導電剤およびバインダーを含む合剤を集電体上に担持したものを用いる。具体的には、該正極活物質として、リチウムイオンをドープ・脱ドープ可能な材料を含み、導電剤として炭素質材料を含み、バインダーとして熱可塑性樹脂などを含むものを用いることができる。該リチウムイオンをドープ・脱ドープ可能な材料としては、V、Mn、Fe、Co、Niなどの遷移金属を少なくとも1種含むリチウム複合酸化物が挙げられる。中でも好ましくは、平均放電電位が高いという点で、ニッケル酸リチウム、コバルト酸リチウムなどのα−NaFeO
2型構造を有するリチウム複合酸化物、リチウムマンガンスピネルなどのスピネル型構造を有するリチウム複合酸化物が挙げられる。
【0066】
リチウム複合酸化物は、種々の金属元素を含んでもよく、特にTi、V、Cr、Mn、Fe、Co、Cu、Ag、Mg、Al、Ga、InおよびSnからなる群から選ばれた少なくとも1種の金属元素のモル数とニッケル酸リチウム中のNiのモル数との和に対して、前記の少なくとも1種の金属元素が0.1〜20モル%であるように該金属元素を含む複合ニッケル酸リチウムを用いると、高容量での使用におけるサイクル性が向上するので好ましい。
【0067】
バインダーとしては、例えば、ポリビニリデンフロライド、ビニリデンフロライドの共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフロロプロピレンの共重合体、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテルの共重合体、エチレン−テトラフルオロエチレンの共重合体、ビニリデンフロライド−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレンの共重合体、熱可塑性ポリイミド、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの熱可塑性樹脂が挙げられる。
【0068】
導電剤としては、天然黒鉛、人造黒鉛、コークス類、カーボンブラックなどの炭素質材料が挙げられる。導電材として、それぞれ単独で用いてもよいし、例えば人造黒鉛とカーボンブラックとを混合して用いてもよい。
【0069】
負極としては、例えば、リチウムイオンをドープ・脱ドーブ可能な材料、リチウム金属またはリチウム合金などを用いることができる。リチウムイオンをドープ・脱ドープ可能な材料としては、天然黒鉛、人造黒鉛、コークス類、カーボンブラック、熱分解炭素類、炭素繊維、有機高分子化合物焼成体などの炭素質材料、正極よりも低い電位でリチウムイオンのドープ・脱ドープを行う酸化物、硫化物等のカルコゲン化合物が挙げられる。炭素質材料として、電位平坦性が高く、また平均放電電位が低いため正極と組み合わせた場合大きなエネルギー密度が得られるという点で、天然黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛材料を主成分とする炭素質材料が好ましい。
【0070】
負極集電体としては、Cu、Ni、ステンレスなどを用いることができるが、特にリチウム二次電池においてはリチウムと合金を作り難く、かつ薄膜に加工しやすいという点でCuが好ましい。該負極集電体に負極活物質を含む合剤を担持させる方法としては、加圧成型する方法、または溶媒などを用いてペースト化し集電体上に塗布乾燥後プレスするなどして圧着する方法が挙げられる。
【0071】
なお、本発明の電池の形状は、特に限定されるものではなく、ペーパー型、コイン型、円筒型、角形などのいずれであってもよい。
【0072】
本発明の積層多孔質フィルムは、電池、特に非水電解液二次電池のセパレータとして好適である。本発明の積層多孔質フィルムを含む非水電解液二次電池は、電池容量が増大した場合であっても、釘刺しによって内部短絡が生じた際の異常発熱が抑制され、内部短絡に対する安全性に優れる非水電解液二次電池である。
さらに本発明の非水電解液二次電池は、過充電特性、耐衝撃特性などの安全性や、負荷特性などの電池特性にも優れると期待される。
【実施例】
【0073】
以下に本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0074】
なお、積層多孔質フィルムの物性等は以下の方法で測定した。
(1)厚み(単位:μm):
積層多孔質フィルムの厚み(全体厚み)は、株式会社ミツトヨ製の高精度デジタル測長機で測定した。積層多孔質フィルムを一辺の長さ8cmの正方形に切り、その範囲で5点測定を行い、それらの平均値より厚みを求めた。
なお、A層の厚み(A層厚み)は、上記と同様の方法で測定して求めた。B層の厚み(B層厚み)は、積層多孔質フィルムの厚みからA層厚みを差し引いて求めた。
(2)耐熱性材料の体積目付(β、単位:cc/m
2):
積層多孔質フィルムから、一辺の長さ0.08mの正方形のサンプルを切り出し、切り出したサンプルの重量W(g)を測定した。同様に、ポリオレフィン多孔質フィルム(A層)から、一辺の長さ0.08mの正方形のサンプルを切り出し、切り出したサンプルの重量Wa(g)を測定した。そして、WからWaを差し引いてB層の重量Wb(g)(=W−Wa)を算出した。次いで、算出したB層の重量Wb(g)を、耐熱性材料の真比重D(g/cc)と、切り出した積層多孔質フィルムの面積S(m
2)(=0.08×0.08)とで除して、耐熱性材料の体積目付(耐熱性材料を含む多孔質層1m
2あたりに含まれる耐熱性材料の体積(=Wb/(D×S))を算出した。
(3)透気度(単位:sec/100cc)
JIS P8117 に準拠して、旭精工(株)王研式デジタル透気度試験機で測定した。
(4)積層多孔質フィルムの膜抵抗(α、単位:Ω・cm
2)
積層多孔質フィルムから、測定用サンプルとして、直径17mmの円形状の測定用サンプル6枚と、直径15mmの円形状の測定用サンプル24枚と切り出した。また、2032型コインセルの部材(上蓋、下蓋、ガスケット、スペーサー(直径15.5mm、厚み0.5mmの円形状のスペーサー)×2枚、ウェーブワッシャー)(宝泉社から購入)を用意した。
まず、アルゴンガスを充填し、露点温度を−80℃以下としたグローブボックス内にて、下蓋の上に、下蓋側から順に、スペーサー、測定用サンプル、スペーサーを載置した。
スペーサー間に配置する測定用サンプルの枚数は、2枚、5枚、8枚とし、測定用サンプルを前記各枚数配置したセルを2個ずつ作製した。また、各セルにおいて、複枚数の測定サンプルのうち、1枚は直径17mmの円形状の測定用サンプルとし、残りは直径15mmの円形状の測定用サンプルとした。そして、直径17mmの円形状の測定用サンプルを固定するようにガスケットを置き、スペーサーの上にウェーブワッシャーを設置した。次いで、ウェーブワッシャーを設置したセルに、LiPF
6にエチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)およびエチルメチルカーボネート(EMC)の混合溶媒(EC/DMC/EMC=30/35/35[体積比])を配合した濃度1Mの電解液(キシダ化学株式会社製)を注液した。注液後、セルを約−80kPaの圧力で10分間静置し、測定用サンプルに電解液を含浸させた。その後、セルに上蓋をかぶせ、コインセルカシメ器で密閉してサンプルセルを得た。
得られたサンプルセルを25℃の恒温槽中に入れ、24時間放置した後、交流インピーダンス測定装置を用いて振幅5mV、周波数1MHz〜10kHzの範囲にて該セルの抵抗を測定した。測定されたセルの抵抗成分の値(虚軸の値が0の時の実軸の値)を、セルに配置した積層多孔質フィルムの枚数に対してプロットし、このプロットを線形近似して傾きを求めた。この傾きにスペーサーの面積(1.88cm
2(=(1.55cm/2)
2×π)を乗じて得られる値を、積層多孔質フィルムの膜抵抗の値(Ω・cm
2)とした。
(5)釘刺し試験(50%破壊電圧 単位:V)
円筒型のリチウムイオン二次電池10個について、それぞれ所定の試験電圧まで充電した後、電池の中心部に対し、2.77mmφの釘を1mm/secの速度で貫通させて釘刺し試験を実施し、当該電圧における安全性の良否判定を行った。この良否判定において、異常発熱があった場合を×、異常発熱が抑制された場合を○として判定した。リチウムイオン二次電池10個の釘刺し試験は、以下の手順で行った。
(a)リチウムイオン二次電池1個について、ある試験電圧で釘刺し試験を実施した。
(b)別のリチウム二次電池1個について、(a)の釘刺し試験での判定が○であった場合は、(a)の釘刺し試験での試験電圧より0.05V高い試験電圧で、同判定が×であった場合は、(a)の釘刺し試験での試験電圧より0.05V低い試験電圧で釘刺し試験を実施した。
(c)さらに別のリチウム二次電池1個について、(b)での釘刺し試験での判定が○であった場は、(b)の釘刺し試験での試験電圧より0.05V高い試験電圧で、同判定が×であった場合は、(b)の釘刺し試験での試験電圧より0.05V低い試験電圧で釘刺し試験を実施した。
(d)残りのリチウムイオン二次電池7個について、順次、(c)と同様にして試験電圧を設定し、釘刺し試験を実施した。なお、釘刺し試験は、円筒型のリチウムイオン二次電池10個について夫々行った。また、(a)の釘刺し試験での試験電圧(初回の試験電圧)は、3.8〜4.4V間の任意の電圧を選定した。
この試験結果を使用して、「JIS K 7211 硬質プラスチックの落錘衝撃試験方法通則」に記載されている方法を模して、50%破壊電圧を算出した。算出された50%破壊電圧は、釘刺しによって内部短絡が生じた際に異常発熱が抑制される非水電解液二次電池の電池電圧を意味し、釘刺しによって内部短絡が生じた際の非水電解液二次電池の電池電圧が、この50%破壊電圧以下であるとき、異常発熱が抑制される。50%破壊電圧は、下記の式で表される。
V
50=VI+d[Σ(i・ni)/N±1/2]
V
50:50%破壊電圧
VI:電圧水準(i)が0のときの試験電圧(試験電圧において、○と×が共存する電圧であり、かつ、×の数が多い電圧)
d:試験電圧を上下させる場合の電圧間隔(V)
i:VIのときを0とし、一つずつ増減する電圧水準(i=・・・−3,−2,−1,0,1,2,3・・・)(例えば、d=0.05Vのとき、VIから0.05V上げた場合はi=1、0.05V下げた場合はi=−1となる。)
ni:各電圧水準での釘刺し試験において○となった(または×となった)電池の数
N:当該電池の全ての釘刺し試験において○となった(または×となった)電池の総数)(N=Σni)
(○となった電池の数(総数)、あるいは×となった電池の数(総数)のいずれを使用するかは、当該電池の全釘刺し試験で数の多かった方の結果を使用する。なお同数の場合は、どちらを使用してもよい。)
±1/2:niおよびNとして、○となった電池の数(総数)を使用した場合は+1/2、×となった電池の数(総数)を使用した場合は−1/2
【0075】
(比較例1)
<B層形成用スラリーの作製>
純水:イソプロピルアルコールの重量比が90:10である媒体に固形分濃度が28重量%となるようにカルボキシメチルセルロース(CMC)(1110(ダイセルファインケム株式会社製)、真比重:1.6g/cm
3)とアルミナ粉末(AKP3000(住友化学株式会社製)、真比重:4.0g/cm
3)を3:100の重量比で添加、混合して、高圧分散により、B層形成用スラリーを調製した。
<A層の製造>
高分子量ポリエチレン粉末(GUR4032(ティコナ株式会社製))を70重量%、重量平均分子量1000のポリエチレンワックス(FNP−0115(日本精鑞株式会社製))30重量%、この高分子量ポリエチレンとポリエチレンワックスの合計100重量部に対して、酸化防止剤(Irg1010(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製))0.4重量部、酸化防止剤(P168(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製))0.1重量部、ステアリン酸ナトリウム1.3重量部を加え、さらに全体積に対して38体積%となるように平均粒径0.1μmの炭酸カルシウム(丸尾カルシウム株式会社製)を加え、これらを粉末のままヘンシェルミキサーで混合した後、二軸混練機で溶融混練してポリオレフィン樹脂組成物とした。該ポリオレフィン樹脂組成物を表面温度が150℃の一対のロールにて圧延しシートを作製した。同様の方法で圧延時のドロー比を変えたシートを作製し、これらの2枚のシートを130℃で熱圧着させ積層シートとした。このシートを塩酸水溶液(塩酸4mol/L、非イオン系界面活性剤0.5重量%)に浸漬させることで炭酸カルシウムを除去し、続いて105℃で任意の倍率で延伸して、所定厚みのポリオレフィン多孔質フィルム(A層)を得た。
<積層多孔質フィルムの製造>
グラビア塗工機を用いて、コロナ処理を行ったA層の片面に直接B層形成用スラリーを塗布し、乾燥した。これによりA層の片面にB層が積層されてなる所定厚みの積層多孔質フィルムを得た。得られた積層多孔質フィルムについて、上記の方法で測定した物性を表1に示す。また、得られた積層多孔質フィルムについて、「0.1136×α+0.0819×β+3.8034」の値を算出した結果を表1に示す。
【0076】
(比較例2、3、5、6、9)
A層厚み、B層厚み、および全体厚みを表1に示すとおりとした以外は、比較例1と同様の操作をして、A層の片面にB層が積層されてなる積層多孔質フィルムを得た。得られた積層多孔質フィルムについて、上記の方法で測定した物性を表1に示す。また、得られた積層多孔質フィルムについて、「0.1136×α+0.0819×β+3.8034」の値を算出した結果を表1に示す。
【0077】
(比較例4)
グラビア塗工機を用いて、コロナ処理を行ったA層の両面に直接B層形成用スラリーを塗布し、乾燥した以外は、比較例1と同様の操作をして、A層の両面にB層が積層されてなる所定厚みの積層多孔質フィルムを得た。得られた積層多孔質フィルムについて、上記の方法で測定した物性を表1に示す。また、得られた積層多孔質フィルムについて、「0.1136×α+0.0819×β+3.8034」の値を算出した結果を表1に示す。
【0078】
(比較例7、8)
A層厚み、B層厚み、および全体厚みを表1に示すとおりとした以外は、比較例4と同様の操作をして、A層の両面にB層が積層されてなる積層多孔質フィルムを得た。得られた積層多孔質フィルムについて、上記の方法で測定した物性を表1に示す。また、得られた積層多孔質フィルムについて、「0.1136×α+0.0819×β+3.8034」の値を算出した結果を表1に示す。
【0079】
(実施例1)
A層を市販のポリオレフィン多孔質フィルムとし、A層厚み、B層厚み、および全体厚みを表1に示す通りとした以外は、比較例4と同様の操作をして、A層の両面にB層が積層されてなる積層多孔質フィルムを得た。得られた積層多孔質フィルムについて、上記の方法で測定した物性を表1に示す。また、得られた積層多孔質フィルムについて、「0.1136×α+0.0819×β+3.8034」の値を算出した結果を表1に示す。
【0080】
(比較例10)
<パラアラミドの合成>
撹拌翼、温度計、窒素流入管および粉体添加口を有する、3リットルのセパラブルフラスコを使用して、パラアラミド(ポリ(パラフェニレンテレフタルアミド)の製造を行った。十分乾燥した前記フラスコに,N−メチル−2−ピロリドン(NMP)2200gを仕込み、次に、200℃で2時間真空乾燥した塩化カルシウム粉末151.07gを添加した。これを100℃に昇温して塩化カルシウムをNMPに完全に溶解した。この塩化カルシウム溶解液を室温に戻して、パラフェニレンジアミン68.23gを添加し完全に溶解させた。この溶液を20℃±2℃に保ったまま、テレフタル酸ジクロライド124.97gを10分割して約5分おきに添加した。その後も撹拌しながら、溶液を20℃±2℃に保ったまま1時間熟成して、パラアラミド濃度が6重量%のパラアラミド溶液を得た。
【0081】
<B層形成用スラリーの作製>
得られたパラアラミド溶液100gにNMP243gを添加し、60分間攪拌して、パラアラミド濃度が1.75重量%であるパラアラミド溶液を得た。他方、アルミナ粉末(アルミナC(日本アエロジル株式会社製)、真比重:3.2g/cm
3)6gと、アルミナ粉末(アドバンスドアルミナAA−03(住友化学株式会社製)、真比重:4.0g/cm
3)6gとを混合して、アルミナ粉末混合物12gを得た。そして、パラアラミド濃度が1.75重量%であるパラアラミド溶液に、アルミナ粉末混合物12gを混合し、240分間攪拌して、アルミナ粉末含有パラアラミド溶液を得、さらに、このアルミナ粉末含有パラアラミド溶液を1000メッシュの金網で濾過した。その後、濾液に酸化カルシウム0.73gを添加し、240分攪拌して中和を行い、減圧下で脱泡して、B層形成用スラリーを得た。
【0082】
<A層の製造>
比較例1と同様の操作をして、所定厚みのポリオレフィン多孔質フィルム(A層)を得た。
【0083】
<積層多孔質フィルムの製造>
A層のロール(幅300mm、長さ300m)を巻き出し機に取り付け、A層を引き出しながら、A層の片面に前記B層形成用スラリーを塗布し、連続的に積層多孔質フィルムを得た。
詳しくは、まず、引き出したA層の下面にNMPをマイクログラビアコーターで塗布し、上面に前記B層形成用スラリーをバーコーターで所定厚みに塗布した。次に、塗工後のA層を恒温恒湿槽内(温度50℃、相対湿度70%)を通し、塗工膜からパラアラミドを析出させた。続いて、このフィルムを、水洗装置(イオン交換水が10リットル/分で注入され、内部に満たされたイオン交換水が、前記注入速度と同一速度でイオン交換水が排出される槽内にガイドロールをセットした構造の装置)に通して、A層からNMPおよび塩化カルシウムを除去した。
その後、洗浄されたA層にヤンキードライヤーで熱風を送りつつ、熱ロール(直径1m、表面温度70℃、メタアラミド布のキャンバスで覆われている)を通して水分を乾燥除去した。これによりA層の片面にB層が積層されてなる所定厚みの積層多孔質フィルムを得た。得られた積層多孔質フィルムについて、上記の方法で測定した物性を表1に示す。
また、得られた積層多孔質フィルムについて、「0.1136×α+0.0819×β+3.8034」の値を算出した結果を表1に示す。
【0084】
(比較例11)
まず、比較例10と同様の操作をして、A層の片面にB層が積層されてなる積層多孔質フィルムを得た。次いで、得られた積層多孔質フィルムのA層の面に、比較例1と同様の操作をしてB層を形成して、A層の両面にB層が積層され、一方のB層がパラアラミドを含む層であり、もう一方のB層がCMCを含む層である積層多孔質フィルムを得た。得られたA層の両面にB層が積層された積層多孔質フィルムについて、上記の方法で測定した物性を表1に示す。また、得られた積層多孔質フィルムについて、「0.1136×α+0.0819×β+3.8034」の値を算出した結果を表1に示す。
【0085】
(参考例1)
比較例4におけるB層(耐熱層:両面、バインダーCMC)の厚みを増すことにより全体厚みを50μmとしたときの膜抵抗(α)を見積もり、「0.1136×α+0.0819×β+3.8034」の値を算出した。
B層(耐熱層)の膜厚をT
B、体積目付をβとすると耐熱層の膜厚当たりの体積目付Fは、次式で表される。
F=β/T
B
同様の積層構成を有する比較例4、7、及び8の、T
B及びβから算出したFは以下のとおりとなる。
比較例4:F=0.470cc/m
2/μm
比較例7:F=0.479cc/m
2/μm
比較例8:F=0.473cc/m
2/μm
上記3点の平均値Fave.は0.474cc/m
2/μmとなった。
【0086】
2つの実験結果の膜抵抗差をΔα、B層の体積目付差をΔβとすると、B層の体積目付当たり膜抵抗値Uは、次式で表される。
U=Δα/Δβ
同様の積層構成を有する比較例4、7、及び8の、α及びβの差から算出したUは以下のとおりとなる。
比較例4と比較例7との差:U=0.081Ω・cm
2・m
2/cc
比較例4と比較例8との差:U=0.101Ω・cm
2・m
2/cc
比較例7と比較例8との差:U=0.072Ω・cm
2・m
2/cc
上記3点の平均値Uave.は0.085Ω・cm
2・m
2/ccとなった。
【0087】
比較例4の全体膜厚は26.3μmであるから、全体厚み50μmのセパレータを得るには23.7μmのB層の追加が必要である。23.7μmのB層を追加した場合の体積目付の増加分は、上記の結果から23.7μm×Fave.=23.7μm×0.474cc/m
2/μm=11.23cc/m
2と算出される。
比較例4で得られたセパレータにさらに耐熱層を積層して50μmとしたときの膜抵抗は、上記結果からUave.×11.23cc/m
2+1.02Ω・cm
2=0.085Ω・cm
2・m
2/cc×11.23cc/m
2+1.02Ω・cm
2=1.97Ω・cm
2と算出される。
したがって、膜抵抗(α)が1.97Ω・cm
2であり、体積目付(β)が4.28cc/m
2+11.23cc/m
2=15.51cc/m
2である積層多孔質フィルムの「0.1136×α+0.0819×β+3.8034」の値は5.30と算出される。結果を表1に示す。
【0088】
(参考例2)
実施例1におけるB層(耐熱層:両面、バインダーCMC)の厚みを増すことにより膜抵抗(α)を2Ω・cm
2としたときの「0.1136×α+0.0819×β+3.8034」の値を算出した。
【0089】
実施例1における膜抵抗(α)は1.60Ω・cm
2であるため、膜抵抗(α)が2Ω・cm
2であるセパレータを得るには0.4Ω・cm
2分の膜抵抗の上昇が必要である。0.4Ω・cm
2分の膜抵抗上昇は、上記Uave.を用いることによって、0.4Ω・cm
2/Uave.=4.71cc/m
2のB層体積目付により得られると算出される。
4.71cc/m
2の体積目付を追加したときの膜厚増加分は、上記Fave.を用いることによって、4.71cc/m
2/Fave=9.9μmと算出される。つまり、全体厚みは30.2μm+9.9μm=40.1μmと算出される。
膜抵抗(α)が2.00Ω・cm
2であり、体積目付(β)が6.35cc/m
2+4.71cc/m
2=11.06cc/m
2である積層多孔質フィルムの「0.1136×α+0.0819×β+3.8034」の値は4.94となる。と算出される。結果を表1に示す。
【0090】
【表1】
【0091】
(釘刺し試験)
<正極の作製>
正極活物質、導電剤、バインダー1、バインダー2、水を用いて、正極活物質(セルシードC−10N(日本化学工業株式会社製)、LiCoO
2、真比重4.8g/cm
3):導電剤(アセチレンブラック(電気化学工業株式会社製)、真比重2.2g/cm
3):バインダー1(PTFE31−JR(三井・デュポンフロロケミカル株式会社株式会社製)、真比重2.2g/cm
3):バインダー2(セロゲン4H(第一工業製薬株式会社製)、真比重1.4g/cm
3)の混合割合が、92:2.7:4.55:0.75(重量比)の組成となるようにそれぞれ秤量した。混練機に、一定量の水を入れ、バインダー2を溶解した後、正極活物質、導電剤、バインダー1を加えて混練し、粘度が2700±1000cpになるように、再度水を加えて調整して、正極合剤を得た。該正極合剤を正極集電体シートである厚さ20μmで空隙のないアルミニウム箔の両面の所定部分に塗布、乾燥後、ロールプレスにより、塗布膜の厚みが140μm(見かけ密度3.5g/cm
3)となるまで圧延し、幅を54mmとした正極を得た。
【0092】
<負極の作製>
負極活物質1、負極活物質2、バインダー、水を用いて、負極活物質1(BF15SP(株式会社中越黒鉛工業所製)、真比重2.2g/cm
3):負極活物質2(CG−R−A(日本黒鉛商事株式会社製)、真比重2.2g/cm
3):バインダー(セロゲン4H(第一工業製薬株式会社製)、真比重:1.4g/cm
3)の混合割合が、58.8:39.2:2(重量比)の組成となるようにそれぞれ秤量した。混練機に、一定量の水を入れ、バインダーを溶解した後、負極活物質1および負極活物質2を加えて混練し、粘度が2100±500cpになるように、再度水を加えて調整して、負極合剤を得た。該負極合剤を負極集電体シートである厚さ12μmで空隙のない銅箔の両面の所定部分に塗布、乾燥後、ロールプレスにより、塗布膜の厚みが140μm(見かけ密度1.45g/cm
3)となるまで圧延し、幅を56mmとした負極を得た。
【0093】
<リチウムイオン二次電池の製造>
前記比較例1〜11における積層多孔質フィルム(幅60mm、長さ700mm)をセパレータとして用い、さらに、正極タブ(アルミ)を溶接した前記正極(幅54mm、長さ560mm)、負極タブ(ニッケル)を溶接した前記負極(幅56mm、長さ600mm)を用いて、正極、積層多孔質フィルム、負極の順に積層して巻回した。得られた電極群を18650円筒電池用の電池缶に入れて、卓上旋盤でネッキングを行い、負極タブの缶底溶接と正極タブの蓋溶接をした後、真空乾燥を行った。その後、アルゴンガス雰囲気のグローブボックス内でカーボネート系溶剤に、LiPF
6塩を1.3mol/L含有する非水電解質(キシダ化学株式会社製、比重:1.21g/cm
3)5g(正極、負極および積層多孔質フィルムにおける空隙の合計体積の1.1倍に相当)を電池缶内に注液して、カシメ器で密閉して、リチウムイオン二次電池(18650円筒電池)を得た。得られた円筒型のリチウムイオン二次電池について、上記の方法で釘刺し試験を行い、50%破壊電圧を算出した結果を表2に示す。
【0094】
(サイクル試験)
<非水電解液二次電池の作製>
(正極の作製)
正極活物質であるLiNi1/3Mn1/3Co1/3O
2 90重量部に、アセチレンブラック6重量部、およびポリフッ化ビニリデン(株式会社クレハ製)4重量部を加えて混合して得た混合物を、N−メチル−2−ピロリドンに分散させてスラリーを作製した。得られたスラリーを、正極集電体であるアルミニウム箔の一部に均一に塗布して乾燥させた後、プレス機により厚さ80μmに圧延した。次いで、正極活物質層が形成された部分の大きさが40mm×35mmであり、かつその外周に幅13mmで正極活物質層が形成されていない部分が残るように、圧延したアルミニウム箔を切り取って正極とした。正極活物質層の密度は2.50g/cm
3であった。
【0095】
(負極の作製)
負極活物質である黒鉛粉末98重量部に、増粘剤および結着剤であるカルボキシメチルセルロースの水溶液100重量部(カルボキシメチルセルロースの濃度;1重量%)、およびスチレン・ブタジエンゴムの水性エマルジョン1重量部を加えて混合して、スラリーを作製した。得られたスラリーを、負極集電体である厚さ20μmの圧延銅箔の一部に塗布して乾燥させた後、プレス機により厚さ80μmに圧延した。次いで、負極活物質層が形成された部分の大きさが50mm×40mmであり、かつその外周に幅13mmで負極活物質層が形成されていない部分が残るように、圧延した圧延銅箔を切り取って負極とした。負極活物質層の密度は1.40g/cm
3であった。
【0096】
(非水電解液二次電池の作製)
ラミネートパウチ内で、積層多孔質フィルムのB層と正極の正極活物質層とが接するようにして、かつ、積層多孔質フィルムのA層(両面の場合はB層)と負極の負極活物質層とが接するようにして、上記正極、積層多孔質フィルム、および負極をこの順で積層(配置)することにより、非水電解液二次電池用部材を得た。このとき、正極の正極活物質層における主面の全部が、負極の負極活物質層における主面の範囲に含まれる(主面に重なる)ように、正極および負極を配置した。
【0097】
続いて、上記非水電解液二次電池用部材を、アルミニウム層とヒートシール層とが積層されてなる袋に入れ、さらにこの袋に非水電解液を0.25mL入れた。上記非水電解液は、エチレンカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネートを3:5:2(体積比)で混合してなる混合溶媒に、LiPF
6を1mol/Lとなるように溶解して調製した。そして、袋内を減圧しつつ、当該袋をヒートシールすることにより、非水電解液二次電池を作製した。
【0098】
<サイクル試験>
充放電サイクルを経ていない新たな非水電解液二次電池に対して、25℃で電圧範囲;4.1〜2.7V、電流値;0.2C(1時間率の放電容量による定格容量を1時間で放電する電流値を1Cとする、以下も同様)の定電流充放電を1サイクルとして、4サイクルの初期充放電を行った。
【0099】
続いて、25℃で電圧範囲;4.2〜2.7V、電流値;1.0Cの定電流充放電を1サイクルとして、100サイクルの充放電を行った。
上記100サイクルの充放電における1サイクル目の充放電(すなわち、4サイクルの初期充放電を行い、続いて行った1サイクル目の充放電)での放電容量(すなわち、充電状態から放電したときに取り出せる電気量)を基準として、下記式に基づき、基準とする放電容量(1サイクル目放電容量)に対する上記100サイクルの充放電における100サイクル目の充放電での放電容量(100サイクル目放電容量)の割合を、容量維持率(%)として算出した。
容量維持率=(100サイクル目放電容量/1サイクル目放電容量)×100
算出した容量維持率が、50%以上であった場合を○、50%未満であった場合を×として判定した。
上記のサイクル試験は、比較例2、比較例11および実施例1で得られた積層多孔質フィルムをそれぞれ用いて作製した各非水電解液二次電池について行った。結果を表2に示す。
【0100】
【表2】
【0101】
電池の体積エネルギー密度の観点から、セパレータ膜厚は50μmを超えないことが好ましい。また、電池特性の観点から、セパレータの膜抵抗は、2Ω・cm
2を超えないことが好ましい。以上の結果から、「0.1136×α+0.0819×β+3.8034」の値が4.40〜4.90となる領域において、内部短絡に対する安全性(釘刺安全性)、電池特性、電池の体積エネルギー密度の全てを満足するセパレータが得られることがわかる。
【0102】
<産業上の利用可能性>
本発明によれば、電池容量の大きい非水電解液二次電池において、内部短絡に対する安全性に優れるものとすることのできる、非水電解液二次電池用セパレータとして好適な積層多孔質フィルム、およびこの積層多孔質フィルムを含む非水電解液二次電池を得ることができる。