特許第5920516号(P5920516)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 旭硝子株式会社の特許一覧

<>
  • 特許5920516-ガラス板 図000005
  • 特許5920516-ガラス板 図000006
  • 特許5920516-ガラス板 図000007
  • 特許5920516-ガラス板 図000008
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5920516
(24)【登録日】2016年4月22日
(45)【発行日】2016年5月18日
(54)【発明の名称】ガラス板
(51)【国際特許分類】
   C03C 3/087 20060101AFI20160428BHJP
   C03C 23/00 20060101ALI20160428BHJP
【FI】
   C03C3/087
   C03C23/00 Z
【請求項の数】4
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2015-97297(P2015-97297)
(22)【出願日】2015年5月12日
(65)【公開番号】特開2016-683(P2016-683A)
(43)【公開日】2016年1月7日
【審査請求日】2015年9月15日
(31)【優先権主張番号】特願2014-104848(P2014-104848)
(32)【優先日】2014年5月21日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】旭硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】黒岩 裕
(72)【発明者】
【氏名】安間 伸一
(72)【発明者】
【氏名】大須賀 卓生
(72)【発明者】
【氏名】安部 朋美
(72)【発明者】
【氏名】中島 哲也
(72)【発明者】
【氏名】岡東 健
(72)【発明者】
【氏名】川本 泰
【審査官】 増山 淳子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/111749(WO,A1)
【文献】 特開2013−063880(JP,A)
【文献】 特開2011−037683(JP,A)
【文献】 特開2012−250902(JP,A)
【文献】 特開2014−084236(JP,A)
【文献】 特開2011−121838(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 1/00 − 14/00
C03C 17/00 − 17/44
C03C 23/00
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面からの深さ5000nm以上において、下記酸化物基準の質量百分率表示で、SiOを45〜70%、Alを8〜20%、MgOを0〜10%、CaOを1.5〜12%、SrOを5〜20%、BaOを0〜6%、NaOを2〜10%、KOを0〜15%、ZrOを0〜8%、MgO+CaO+SrO+BaOを10〜30%、CaO+SrO+BaOを7〜25%、NaO+KOを4〜20%、SrO+BaOを16%以下含有し、Al−NaO−KO−MgOが−4以上5以下、(BaO+CaO+SrO)/(NaO/2+KO/2+BaO+CaO+SrO)が0.75以上0.85以下、かつ、
前記表面からの深さ30nmでのNa量(原子%)が、同深さ5000nmでのNa量(原子%)の1.2倍以上2.0倍以下、前記表面からの深さ30nmでのK量(原子%)が、同深さ5000nmでのK量(原子%)の1.1倍以上4.0倍以下、であることを特徴とするガラス板。
【請求項2】
ガラス板表面のCe付着量が0.1〜10ng/cmであることを特徴とする請求項1記載のガラス板。
【請求項3】
CIGS成膜面の脆さ指標値が6500〜7500m−1/2であることを特徴とする請求項1または2記載のガラス板。
【請求項4】
前記表面からの深さ100nmまでの平均のCa+Sr+Ba量(原子%)と、同深さ5000nmでのCa+Sr+Ba量(原子%)との差が、0.1以上10以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のガラス板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、ガラス板に関する。特にCu−In−Ga−Se太陽電池に代表される化合物太陽電池に好適に用いることの出来るガラス板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
カルコパイライト結晶構造を持つ11−13族、11−16族化合物半導体や立方晶系あるいは六方晶系の12−16族化合物半導体は、可視から近赤外の波長範囲の光に対して大きな吸収係数を有している。そのために、高効率薄膜太陽電池の材料として期待されている。代表的な例としてCu(In,Ga)Se(以下、「CIGS」または「Cu−In−Ga−Se」とも記述する。)やCdTeがあげられる。
【0003】
また、p型光吸収層として、一般にCZTSと呼ばれるカルコゲナイド系の化合物半導体を用いた薄膜太陽電池も同様に注目されている。このタイプの太陽電池は、材料が比較的安価で、また太陽光に適したバンドギャップエネルギーを有するので、高効率の太陽電池を安価に製造できるとの期待がある。CZTSは、Cu、Zn、Sn、SまたはSeを含む、I−(II−IV)−VI族化合物半導体であり、代表的なものとして、CuZnSnS、CuZnSnSe、CuZnSn(S,Se)等がある。
【0004】
CIGS薄膜太陽電池では、安価であることと熱膨張係数がCIGS化合物半導体のそれに近いこととから、ソーダライムガラスが基板として用いられ、太陽電池が得られている。
【0005】
また、効率の良い太陽電池を得るため、高温の熱処理温度に耐えうるガラス材料の提案もされており、ガラス中のNaをCIGS層に拡散させることで太陽電池の発電効率を向上させるという方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2011/158841号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
化合物太陽電池に使用されるガラス基板において高い発電効率、高いガラス転移点温度、所定の平均熱膨張係数、板ガラス生産時の溶解性、成形性、失透防止の特性、取扱容易性等をバランスよく有することは困難であった。
【0008】
そのため、太陽電池の更なる高効率化に伴い、化合物太陽電池用ガラス基板は高い発電効率、高いガラス転移点温度、所定の平均熱膨張係数、板ガラス生産時の溶解性、成形性、失透防止等の特性をバランスよく有することが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様に係るガラス板は、表面からの深さ5000nm以上において、下記酸化物基準の質量百分率表示で、SiOを45〜70%、Alを8〜20%、MgOを0〜10%、CaOを1.5〜12%、SrOを5〜20%、BaOを0〜6%、NaOを2〜10%、KOを0〜15%、ZrOを0〜8%、MgO+CaO+SrO+BaOを10〜30%、CaO+SrO+BaOを7〜25%、NaO+KOを4〜20%、含有し、Al−NaO−KO−MgOが−4以上5以下、かつ、前記表面からの深さ30nmでのNa量(原子%)が、同深さ5000nmでのNa量(原子%)の1.06倍以上2.0倍以下、前記表面からの深さ30nmでのK量(原子%)が、同深さ5000nmでのK量(原子%)の1.1倍以上4.0倍以下、であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
化合物太陽電池に使用した場合、高い発電効率、高いガラス転移点温度、所定の平均熱膨張係数、板ガラス生産時の溶解性、成形性、失透防止等の特性をバランスよく有するガラス板を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明のCIGS(CZTS)太陽電池用ガラス板を用いた太陽電池の実施形態の一例を模式的に表す断面図。
図2図2は、実施例において評価用ガラス板上に作製した太陽電池セル(a)とその断面図(b)。
図3図3は、実施例において評価用ガラス板上に作製した複数の太陽電池セルの平面図。
図4図4は、本発明のCdTe太陽電池の実施形態の一例を模式的に表す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明のガラス板の実施形態について説明する。
【0013】
本発明の一態様に係るガラス板は、下記酸化物基準の質量百分率表示で、SiOを45〜70%、Alを8〜20%、MgOを0〜10%、CaOを1.5〜12%、SrOを5〜20%、BaOを0〜6%、NaOを2〜10%、KOを0〜15%、ZrOを0〜8%、MgO+CaO+SrO+BaOを10〜30%、CaO+SrO+BaOを7〜25%、NaO+KOを4〜20%、Al−NaO−KO−MgOが−4以上5以下、である。
【0014】
本発明の一態様に係るガラス板のガラス転移点温度(Tg)は580℃以上であり、ソーダライムガラスのガラス転移点温度より高い。本発明の一態様に係るガラス板のガラス転移点温度(Tg)は、高温における化合物太陽電池の光電変換層の形成を担保するため600℃以上であるのが好ましく、610℃以上であるのがより好ましく、620℃以上であるのがさらに好ましく、630℃以上であるのが特に好ましい。ガラス転移点温度の上限値は750℃である。ガラス転移点温度が750℃以下であれば、溶融時の粘性を適度に低く抑えられるため製造しやすいことから好ましい。より好ましくは700℃以下、さらに好ましくは680℃以下である。
【0015】
本発明の一態様に係るガラス板の50〜350℃における平均熱膨張係数は70×10−7〜100×10−7/℃である。70×10−7/℃未満または100×10−7/℃超では化合物太陽電池層等との熱膨張差が大きくなりすぎ、剥がれ等の欠点が生じやすくなる。さらに、太陽電池を組立てる際(具体的には化合物太陽電池の光電変換層を有するガラス板とカバーガラスとを加熱して貼りあわせる際)ガラス板が変形し易くなる恐れがある。好ましくは95×10−7/℃以下、より好ましくは90×10−7/℃以下である。
【0016】
また、好ましくは73×10−7/℃以上、より好ましくは75×10−7/℃以上、さらに好ましくは80×10−7/℃以上である。
【0017】
本発明の一態様に係るガラス板の作製にはフロート生産性およびコストの面で優れるため、フロート法が好ましく用いられる。フロート法においては、徐冷工程においてロール搬送する際、ロールによるキズを防止するために、温度の高いガラス板にSOガスや亜硫酸ガスを大気中で吹き付けて、ガラスの成分と反応させてガラス表面に硫酸塩析出させて保護する方法が用いられている。硫酸塩としては代表的なものとして、Na塩、K塩、Ca塩、Sr塩、Ba塩が挙げられ、通常、これらの塩の複合物として析出がおこる。
【0018】
従来の化合物太陽電池用に用いられるガラス板は、キズ防止効果を得るためにできるだけ多くの硫酸塩を析出させていた。硫酸塩が多いことは特に問題視されてこなかった。しかしながら一方で、硫酸塩析出とともにガラス表層のアルカリ元素、特にNaが減少し、CIGSの作製過程で、CIGS中にNaが拡散しにくくなり、その結果十分な発電効率が得られなくなることがわかっていた。
【0019】
従って、ガラス板を化合物太陽電池用に好適に用いるためには、化合物太陽電池の光電変換層への成分の拡散を考慮に入れて組成を調整する必要がある。
【0020】
本発明の一態様に係るガラス板において、各原料成分を上記組成に限定する理由は以下のとおりである。
【0021】
SiO:ガラスの骨格を形成する成分で、45質量%(以下単に%と記載する)未満ではガラスの耐熱性及び化学的耐久性が低下し、平均熱膨張係数が増大するおそれがある。好ましくは48%以上であり、より好ましくは50%以上であり、さらに好ましくは52%以上、特に好ましくは53%以上である。
【0022】
しかし、70%超ではガラスの高温粘度が上昇し、溶解性が悪化する問題が生じるおそれがある。好ましくは66%以下であり、より好ましくは64%以下であり、さらに好ましくは62%以下、特に好ましくは60%以下である。
【0023】
Al:ガラス転移点温度を上げ、耐候性(ソラリゼーション)、耐熱性及び化学的耐久性を向上し、ヤング率を上げる。その含有量が8%未満だとガラス転移点温度が低下するおそれがある。また平均熱膨張係数が増大するおそれがある。好ましくは10%以上であり、より好ましくは11%以上であり、さらに好ましくは12%以上、特に好ましくは13%以上である。
【0024】
しかし、20%超では、ガラスの高温粘度が上昇し、溶解性が悪くなるおそれがある。また、失透温度が上昇し、成形性が悪くなるおそれがある。また発電効率が低下、すなわち後述するNa拡散量が低下するおそれがある。好ましくは18%以下であり、より好ましくは16%以下であり、さらに好ましくは15%以下、特に好ましくは14%以下である。
【0025】
:Bは、溶解性を向上させる等のために2%まで含有してもよい。含有量が2%を超えるとガラス転移点温度が下がる、または平均熱膨張係数が小さくなり、CIGS層を形成するプロセスにとって好ましくない。より好ましくは含有量が1%以下である。含有量が0.5%以下であると特に好ましく、さらに好ましくは実質的に含有しない。
【0026】
なお、「実質的に含有しない」とは、原料等から混入する不可避的不純物以外には含有しないこと、すなわち、意図的に含有させないことを意味する。
【0027】
MgO:ガラスの溶解時の粘性を下げ、溶解を促進する効果があるので含有させてもよい。好ましくは0.05%以上であり、より好ましくは0.1%以上であり、さらに好ましくは0.15%以上、特に好ましくは0.2%以上である。
【0028】
しかし、10%超では平均熱膨張係数が増大するおそれがある。また失透温度が上昇するおそれがある。さらに、発電効率が低下するおそれがある。好ましくは6%以下であり、より好ましくは4%以下であり、さらに好ましくは3%以下、特に好ましくは2.5%以下である。
【0029】
CaO:ガラスの溶解時の粘性を下げ、溶解を促進する効果があるので1%以上含有できる。好ましくは2%以上であり、より好ましくは3%以上であり、さらに好ましくは4%以上、特に好ましくは5%以上である。しかし、12%超ではガラスの平均熱膨張係数が増大するおそれがある。また発電効率が低下、すなわち後述するNa拡散量が低下するおそれがある。好ましくは11%以下であり、より好ましくは10%以下であり、さらに好ましくは9%以下、特に好ましくは8.5%以下である。
【0030】
SrO:ガラスの溶解時の粘性を下げ、溶解を促進する効果があるので、さらに、CIGS層へのNa拡散を促進する効果があるので5%以上含有させる。好ましくは5.5%以上、より好ましくは6%以上、さらに好ましくは6.5%以上、特に好ましくは7%以上である。しかし、20%超含有すると発電効率が低下、すなわち後述するNa拡散量が低下し、またガラス板の平均熱膨張係数が増大するおそれがある。18%以下が好ましく、16%以下がより好ましく、14%以下であることがさらに好ましく、12%以下であることが特に好ましい。
【0031】
BaO:ガラスの溶解時の粘性を下げ、溶解を促進する効果があるので含有できる。0.5%以上が好ましく、1.0%以上であることがより好ましく、さらに好ましくは1.5%以上であり、特に好ましくは1.8%以上である。しかし、6%超含有するとガラス板の平均熱膨張係数が大きくなるおそれがある。また比重も大きくなり、ガラスが脆くなるおそれがある。5%以下が好ましく、4%以下であることがより好ましく、さらに好ましくは3%以下であり、特に好ましくは2%以下である。
【0032】
ZrO:ガラスの溶解時の粘性を下げ、溶解を促進し、Tgを上げる効果があるので含有させてもよい。好ましくは0.5%以上で含有させる。より好ましくは1%以上であり、さらに好ましくは1.5%以上であり、特に好ましくは2%以上である。しかし、8%超含有すると発電効率が低下、すなわち後述するNa拡散量が低下し、失透温度が上昇し、またガラス板の平均熱膨張係数が増大するおそれがある。7%以下が好ましく、6%以下であることがより好ましく、5.5%以下であることがさらに好ましく、5%以下であることが特に好ましい。
【0033】
MgO、CaO、SrO及びBaO:MgO、CaO、SrO及びBaOは、ガラスの溶解時の粘性を下げ、溶解を促進させる点から合量(以下、ROともいう)で10〜30%含有する。12%以上が好ましく、13%以上がより好ましく、14%以上がさらに好ましく、15%以上が特に好ましい。しかし、合量で30%超では平均熱膨張係数が大きくなり、失透温度が上昇するおそれがある。28%以下が好ましく、26%以下がより好ましく、24%以下がさらに好ましく、22%以下が特に好ましい。
【0034】
CaO、SrO及びBaO:CaO、SrO及びBaOは、化合物太陽電池の光電変換層へのNa拡散を促進する点から、7%以上含有する。CaO、SrO及びBaOの合量が7%より小さいと、CIGS層へ拡散するNa量が十分で無く、発電効率が低下するおそれがある。好ましくは10%以上含有し、より好ましくは12%以上、さらに好ましくは14%以上、特に好ましくは16%以上含有する。また、25%超では、平均熱膨張係数が大きくなり、失透温度が上昇するおそれがある。22%以下が好ましく、20%以下がより好ましく、19%以下がさらに好ましく、18%以下が特に好ましい。
【0035】
SrO及びBaO:SrO及びBaOは、SO処理の際に、硫酸塩膜(SrSO、BaSO)を生成するが、これらは他の硫酸塩膜(MgSO、CaSO、NaSO、KSO)と比較し水に溶けにくいため、硫酸塩膜を洗浄する際に硫酸塩膜が除去されにくい。したがって、SrO及びBaOの合量は20%以下が好ましく、16%以下がより好ましく、12%以下がさらに好ましく、10%以下であることが特に好ましい。
【0036】
NaO:NaOは太陽電池の発電効率向上に寄与するための成分であり、必須成分である。また、ガラス溶解温度での粘性を下げ、溶解しやすくする効果があるので2〜10%含有させる。Naはガラス上に構成された化合物太陽電池の光電変換層中に拡散し、発電効率を高めるが、含有量が2%未満ではガラス板上の化合物太陽電池の光電変換層へのNa拡散量が不十分となり、発電効率も不十分となるおそれがある。含有量が3%以上であると好ましく、含有量が3.5%以上であるとより好ましく、4%以上であるとさらに好ましく、含有量が4.5%以上であると特に好ましい。
【0037】
NaO含有量が10%を超えるとガラス転移点温度が低下し、平均熱膨張係数が大きくなり、または化学的耐久性が劣化する。または、過剰なNa拡散によりMo膜を劣化させて発電効率の低下につながるおそれがある。含有量が9%以下であると好ましく、含有量が8%以下であるとより好ましく、7%以下であるとさらに好ましく、6%以下であると特に好ましい。
【0038】
O:NaOと同様の効果があるため、0〜15%含有させる。しかし、15%超では発電効率が低下、すなわちNaの拡散が阻害され、後述するNa拡散量が低下し、また、ガラス転移点温度が低下し、平均熱膨張係数が大きくなるおそれがある。2%以上であるのが好ましく、3.5%以上であるのがより好ましく、4.5%以上であるのがさらに好ましく、5%以上であるのが特に好ましい。12%以下が好ましく、9%以下であることがより好ましく、7%以下であることが更に好ましく、6%以下であることが特に好ましい。
【0039】
NaO及びKO:ガラス溶解温度での粘性を十分に下げるために、また化合物太陽電池の発電効率向上のために、NaO及びKOの合量(以下、ROともいう)の含有量は、4〜20%とする。好ましくは6%以上であり、より好ましくは8%以上、さらに好ましくは9%以上、特に好ましくは10%以上である。
【0040】
しかし、20%超ではTgが下がりすぎ、平均熱膨張係数が上がりすぎるおそれがある。好ましくは18%以下であり、より好ましくは16%以下、さらに好ましくは14%以下、特に好ましくは12%以下である。
【0041】
NaO、KO、CaO、SrO及びBaO:SO処理した際に、表層にNa、Kが集まりやすく、かつ洗浄しやすい硫酸塩を析出させるために、(BaO+CaO+SrO)/(NaO/2+KO/2+BaO+CaO+SrO)は0.5以上0.9以下とする。上記値が0.5より小さいと、表層のNa、Kが凝集しにくくなり好ましくない。好ましくは0.6以上、より好ましくは0.65、さらに好ましくは0.70以上、特に好ましくは0.75以上である。また、0.9より大きいと析出した硫酸塩を洗浄により除去しにくくなるため好ましくない。好ましくは0.85以下、より好ましくは0.80以下である。
【0042】
本発明の一態様に係るガラス板は本発明の目的を損なわない範囲でその他の成分を、典型的には合計で5%以下含有してもよい。たとえば、耐候性、溶解性、失透性、紫外線遮蔽等の改善を目的に、B、ZnO、LiO、WO、Nb、V、Bi、MoO、P等を含有してもよい。
【0043】
また、ガラスの溶解性、清澄性を改善するため、ガラス中にSO、F、Cl、SnO2を合量で2%以下含有するように、これらの原料を母組成原料に添加してもよい。
【0044】
また、ガラスの化学的耐久性向上のため、ガラス中にZrO、Y、La、TiO、SnOを合量で5%以下含有させてもよい。これらのうちY2O、La及びTiOは、ガラスのヤング率向上にも寄与する。
【0045】
但し、TiOを含有させると失透温度が上昇するため、含有しないことが好ましい。また、化合物太陽電池の場合など、ガラスの透過率が高いことが要求される場合には、ガラスが着色して透過率が低下するおそれがあるため含有しないことが好ましい。ただし、本発明のガラス板は、通常のソーダライムガラスに比べて、ガラス板製造時に溶融ガラス表面に泡層が生成しやすい。泡層が生成すると、溶融ガラスの温度が上がらず、清澄しづらくなり、生産性が悪化する傾向がある。溶融ガラス表面に生成した泡層を薄化または消失させるために、消泡剤としてチタン化合物が溶融ガラス表面に生成した泡層に供給されることがある。チタン化合物は、溶融ガラス中に取り込まれ、TiOとして存在する。このチタン化合物は、無機チタン化合物(四塩化チタン、酸化チタン等)であってもよく、有機チタン化合物であってもよい。有機チタン化合物としては、チタン酸エステルまたはその誘導体、チタンキレートまたはその誘導体、チタンアシレートまたはその誘導体、シュウ酸チタネート等が挙げられる。上記の理由により、TiOは、不純物として0.2%以下ガラス板中に含有することが許容される。
【0046】
また、ガラスの色調を調整するため、ガラス中にFe等の着色剤を含有してもよい。このような着色剤の含有量は、合量で1%以下が好ましい。但し、CdTe太陽電池の場合など、透過率を確保し発電効率を高くすることが必要な場合には、上記母組成(SiO、Al、B、MgO、CaO、SrO、BaO、ZrO、NaO、KO)100質量部に対して(すなわち外掛けで)、鉄酸化物が、Fe換算で0.06質量部以下の含有量で含まれることが好ましい。より好ましくは0.055質量部以下、さらに好ましくは0.05質量部以下、特に好ましくは0.045質量部以下である。しかしながら、透過率が不問の場合(例えばCIGS太陽電池の基板として用いられる場合など)、鉄の含有量の少ない原料の使用、および溶解時の加熱しやすさの観点から、鉄酸化物は上記母組成100質量部に対して、Fe換算で0.5質量部以下が好ましく、0.3質量部以下がより好ましく、0.2質量部以下がさらに好ましい。
【0047】
また、鉄酸化物の含有量が0.01質量部以上であると、鉄酸化物成分の混入が不可避である工業原料を使用できるため、工業的な生産が容易となり好ましい。また、鉄酸化物の含有量が0.01質量部以上であると、溶解時に輻射の吸収が著しく大きくなるために、溶融ガラスの温度が上がりやすくなり製造に支障をきたすことがない。より好ましくは0.02質量部以上、さらに好ましくは0.05質量部以上である。
なお、本発明において鉄酸化物としては、弁柄、酸化鉄粉等が挙げられる。
【0048】
また、本発明の一態様に係るガラス板は、環境負荷を考慮すると、As、Sbを実質的に含有しないことが好ましい。また、安定してフロート成形することを考慮すると、ZnOを実質的に含有しないことが好ましい。
【0049】
本発明の一態様に係るガラス板の表面からの深さ30nmでのNa量(原子%)は、同深さ5000nmでのNa量(原子%)の1.06倍以上2.0倍以下である。1.06倍より小さいと化合物太陽電池層へNaが拡散しにくくなり、発電効率が低下するおそれがある。好ましくは1.1倍以上、より好ましくは1.2倍以上、さらに好ましくは1.3倍以上、特に好ましくは1.4倍以上である。2.0倍より大きいとNa拡散が多くなりすぎて、Mo膜の劣化させるおそれがある。好ましくは1.9倍以下、より好ましくは1.8倍以下、さらに好ましくは1.7倍以下である。
【0050】
ガラス板表層のNaの量(原子%)及び/またはNaO含有量比は、ガラス板の全域において均一であることが好ましい。本実施形態において、ガラス板表層とは、ガラス板表面から深さ30nmまでの領域のことを指す。ガラス板表層のNaの量、及び/またはNaO含有量比が均一でないと、発電効率が低い部分が生じてしまうことになり、その部分に影響されて、太陽電池の発電効率が低下してしまうおそれがあるためである。
【0051】
ガラス板表面からの深さ30nmでのK量(原子%)は、同深さ5000nmでのK量(原子%)の1.1倍以上4.0倍以下である。1.1倍より小さいと化合物太陽電池の光電変換層へKが拡散しにくくなり、発電効率が低下するおそれがある。好ましくは1.15倍以上、より好ましくは1.2倍以上、さらに好ましくは1.25倍以上、特に好ましくは1.3倍以上である。4.0倍より大きいとK拡散が多くなりすぎて、Mo膜の劣化させる、もしくは化合物太陽電池の光電変換層中のGaの組成分布が所望の状態から変化して効率低下を引き起こすおそれがある。好ましくは3.5倍以下、より好ましくは3.2倍以下、さらに好ましくは3.0倍以下、特に好ましくは2.8倍以下である。
【0052】
ガラス板表層のKの量(原子%)及び/またはKO含有量比は、ガラス板の全域において均一であることが好ましい。ガラス板表層のKの量、及び/またはKO含有量比が均一でないと、発電効率が低い部分が生じ、その部分に影響されて、太陽電池の発電効率が低下するおそれがあるためである。
【0053】
本発明の一態様に係るガラス板は、ガラス板表面からの深さ100nmまでの平均のCa+Sr+Ba量(原子%)と、深さ5000nmでのCa+Sr+Ba量(原子%)との差(合量の差と呼ぶ)が、0.1以上10以下であることが好ましい。合量の差が上記範囲であると、NaおよびKが表層に集まりやすくなり、化合物太陽電池の光電変換層へNaおよびKが拡散しやすくなる。
【0054】
なお、ガラス板表面からの深さ100nmまでの平均のCa+Sr+Ba量(原子%)と、深さ5000nmでのCa+Sr+Ba量(原子%)との差(原子%)は、SOとの反応によりガラス板表面に析出するBaSO、CaSO、SrSOの量を反映するものである。合量の差が、0.1より小さいと、ガラス板の非成膜面に十分な硫酸塩の量が得られずキズ防止効果が不十分になる。また、後述のNaがガラス板表層に集まる効果が不十分でNa拡散量を確保することができず発電効率低下につながるおそれがある。好ましくは0.2以上、より好ましくは0.3以上、さらに好ましくは0.4以上、特に好ましくは0.5以上である。合量の差が10より大きいと、成膜面側の硫酸塩の除去が難しくなる。好ましくは9以下、より好ましくは8.5以下、さらに好ましくは8以下、特に好ましくは7以下である。
【0055】
Baの、ガラス板表面からの深さ100nmまでの平均の量(原子%)と、深さ5000nmでのBa量(原子%)との差(原子%)が0.01より小さいと、ガラス板の非成膜面に十分な硫酸塩の量が得られずキズ防止効果が不十分になる。また、後述のNaがガラス表層に集まる効果が不十分でNa拡散量を確保することができず発電効率低下につながるおそれがある。好ましくは0.05以上、より好ましくは0.1以上、さらに好ましくは0.15以上、特に好ましくは0.2以上である。1.1より大きいと、成膜面側の硫酸塩の除去が難しくなる。好ましくは0.9以下、より好ましくは0.7以下、さらに好ましくは0.5以下、特に好ましくは0.4以下である。
【0056】
Srの、ガラス板表面からの深さ100nmまでの平均の量(原子%)と、深さ5000nmでのBa量(原子%)との差(原子%)が0.1より小さいと、ガラス板の非成膜面に十分な硫酸塩の量が得られずキズ防止効果が不十分になる。また、後述のNaがガラス表層に集まる効果が不十分でNa拡散量を確保することができず発電効率低下につながるおそれがある。好ましくは0.3以上、より好ましくは0.5以上、さらに好ましくは0.7以上、特に好ましくは0.8以上である。6.0より大きいと、成膜面側の硫酸塩の除去が難しくなる。好ましくは5.5以下、より好ましくは5.0以下、さらに好ましくは4.5以下、特に好ましくは4.0以下である。
【0057】
Caの、ガラス板表面からの深さ100nmまでの平均の量(原子%)と、深さ5000nmでのBa量(原子%)との差(原子%)が−2より小さいと、ガラス板の非成膜面に十分な硫酸塩の量が得られずキズ防止効果が不十分になる。また、後述のNaがガラス表層に集まる効果が不十分でNa拡散量を確保することができず発電効率低下につながるおそれがある。好ましくは−1.5以上、より好ましくは−1.2以上、さらに好ましくは−0.9以上、特に好ましくは−0.8以上である。2.5より大きいと、成膜面側の硫酸塩の除去が難しくなる。好ましくは2.0以下、より好ましくは1.8以下、さらに好ましくは1.6以下、特に好ましくは1.5以下である。
【0058】
本実施形態におけるガラス板は、特にセレン化法により作製されるCu−In−Ga−Se太陽電池用ガラス板に好適である。セレン化法により作製されるCu−In−Ga−Seとは、太陽電池の光電変換層であるCIGS層の少なくとも一部がセレン化法により成膜されたものをいう。
【0059】
以下、本発明の一態様に係るガラス板の製造工程におけるSO処理について説明する。SO処理は徐冷工程で行うことが好ましい。
【0060】
従来のガラス板製造方法において、徐冷工程でのガラス板搬送中の表面キズを防ぐために、SOガスを吹き付けて硫酸塩による保護膜を形成することが知られている。しかし、従来のSOガスの吹き付け条件は、表面キズの防止、ディスプレイ基板用銀電極を設ける際の黄色発色防止、硫酸塩膜の洗浄の容易性、設備の腐食防止等を考慮して、低いSO濃度で徐冷工程全域にわたり処理する傾向にあったため、その結果表層のNaとKも脱離しすぎてしまい、本願の表層のNa、K濃度になっていなかった。
【0061】
しかし、本願のSO処理条件では、ガラス組成を本願指定の組成範囲にて、ガラス板表面からの深さ30nmでのNa、K量と、深さ100nmまでの平均のCa、Sr、Ba量が所定範囲となるように、ガラス表面温度500〜750℃、SO濃度0.0001〜5(体積)%、処理時間1〜10分の条件でSO処理を行うことが好ましい。
【0062】
SO処理は、ガラス表面温度が高いほど、SOガス濃度が高いほど、SO処理時間が長いほど、また、徐冷炉の密閉性が高いほど、Ba、CaおよびSrの脱離がおきやすく、またNaおよびKの硫酸塩の析出も多くなる。そのため、所定の条件となるように基板温度、SO濃度および処理時間を決める必要がある。なお、徐冷炉内でSO処理しなくても、徐冷後のガラスを再加熱してSO処理してもよい。また、ガラス表面温度が低い場合は、Ca、SrおよびBaの脱離が起きにくくなるため、所望の表面状態にできないおそれがある。
【0063】
SO処理により硫酸塩はガラス表面に対し面積0.01〜5ミクロン程度の大きさの粒子に成長する。それらを水洗により除去する場合、硫酸塩に難溶性の成分が多いと完全に除去することが難しく、1ミクロン以下の残渣分が残存するおそれがある。この残渣が存在すると、後の工程でガラス板表面上に成膜するSiO膜やMo膜に異常が生じ発電効率を低下させるおそれがある。また、硫酸塩が過剰に残留していると、セレン化工程や硫化工程で、セレン化水素や硫化水素から分解した水素により還元され、分解する。そしてその硫酸塩の成分がCIGSやCZTS中へ拡散すると、不純物欠陥を形成し、電池効率の低下を招くおそれもある。また、過剰に存在する硫酸塩が分解することにより、Moや光電変換層とガラス板との密着性が悪くなり、剥離の原因となる。さらに、分解により生じたアルカリ土類は水との反応性が高く、後工程のケミカルバスデポジション工程において、溶けだしてさらに剥離を引き起こし易くしてしまう。剥離が生じると、太陽電池のリークの原因となったり、発電面積が減ったりしてしまうため、電池効率の低下を招くおそれがある。
【0064】
硫酸塩の除去の方法は特には限定されないが、水による洗浄や洗浄剤による洗浄や酸化セリウムを含有したスラリーを散布しながらブラシ等でこする洗浄等が挙げられる。酸化セリウム含有のスラリーで洗浄した場合は、その後に塩酸や硫酸等の酸性洗浄剤等を用いて洗浄することが好ましい。酸化セリウムの残留は、ガラス板表面のCe量を測定することで確認できる。
【0065】
洗浄後のガラス板表面には、硫酸塩の残差や上記酸化セリウムの残差等の付着物によるガラス板表面の凹凸等がないことが好ましい。凹凸があると、上記電極膜やその下地層等の成膜の際に、膜表面の凹凸や膜厚偏差や膜のピンホール等が生じ、発電効率が低下するおそれがあるため、凹凸は高低差で20nm以下に抑えることが好適である。
【0066】
一方で、発明者らは、若干のCeの残差があると発電効率にプラスの影響があることを発明者らは見出した。その原因については定かではないが、若干の残差により前記膜質が変化するためと思われる。表面に残存するCe量は、残差による凹凸抑止の観点から、10ng/cm以下とすることが好ましい。10ng/cmより大きいと、SiO膜やMo膜の上に設けるMo膜やCIGS膜、CZTS膜の剥離が生じたり、発電効率が低下し易くなったりする。好ましくは8ng/cm以下、より好ましくは6ng/cm以下、さらに好ましくは5ng/cm以下、特に好ましくは4ng/cm以下である。一方で効率向上の観点から、0.1ng/cm以上とすることが好ましい。好ましくは0.3ng/cm以上、より好ましくは0.5ng/cm以上、さらに好ましくは0.7ng/cm以上、特に好ましくは0.9ng/cm以上である。
【0067】
また、発明者らは、ガラス板表面の脆さ指標値が6500〜7500m−1/2の範囲であると、前記表層NaおよびKの増大効果が得られやすいことを見出した。原因については定かではないが、これは、ガラス表面の分子的結合の強さがガラス内でのNaやK、Ba、Sr、Caの移動やSOとの反応によりガラス内から脱理する前記元素と深く関係があるものと思われる。脆さ指標値が6500より小さいと、表層のNaやKの増大が起こらずに高い発電効率が得られない。好ましくは6550以上、より好ましくは6600以上、さらに好ましくは6650以上である。また、7500m−1/2より大きいと、太陽電池の製造工程でガラス板が割れやすくなる。7300m−1/2以下であることがより好ましく、さらに好ましくは7100m−1/2以下、特に好ましくは7000m−1/2以下、一層好ましくは6950m−1/2以下である。
【0068】
本実施形態において、ガラス板の脆さ指標値は、下式(1)により定義される「B」として得られるものである(J.Sehgal, et al.,J.Mat.Sci.Lett.,14,167(1995))。
c/a=0.0056B2/31/6 式(1)
ここで、Pはビッカース圧子の押し込み荷重であり、a、cはそれぞれ、ビッカース圧痕の対角長および四隅から発生するクラックの長さ(圧子を含む対称な2つのクラックの全長)である。各種ガラスの表面に打ち込んだビッカース圧痕の寸法と式(1)を用いて、脆さ指標値Bを算出することとする。
【0069】
本発明の一態様に係るガラス板の厚さは3mm以下とするのが好ましく、より好ましくは2mm以下、さらに好ましくは1.5mm以下である。またガラス板上に化合物太陽電池の光電変換層を形成する方法は、光電変換層であるCIGS層の少なくとも一部がセレン化法で形成されることが好ましい。本実施形態のガラス板を用いることで、光電変換層を形成する際の加熱温度を500〜650℃とすることができる。
【0070】
本発明の実施形態のガラス板をガラス板に用いるとともにカバーガラスに併用すると、平均熱膨張係数が同等であるため太陽電池組立時の熱変形等が発生せず好ましい。
【0071】
次に、本発明の一態様に係る太陽電池について説明する。本発明の一態様に係る太陽電池は、本発明の一態様に係るガラス板を用いた太陽電池である。
【0072】
本発明の一態様に係る太陽電池は、本発明の一態様に係るガラス板と、カバーガラスと、上記ガラス板と上記カバーガラスとの間に配置される光電変換層を有し、光電変換層の少なくとも一部がCIGSまたはCZTSまたはCdTeの光電変換層である。
【0073】
以下図面を使用して本発明の一態様に係る太陽電池を詳細に説明する。なお本発明は図面の形態に限定されない。
【0074】
<本実施形態のCIGS太陽電池またはCZTS太陽電池>
図1は本発明の一態様に係る太陽電池の実施形態の一例を模式的に表す断面図である。
【0075】
図1において、本発明の一態様に係る太陽電池(CIGS太陽電池またはCZTS太陽電池)1は、ガラス板5、カバーガラス19、及びガラス板5とカバーガラス19との間にCIGS層またはCZTS層9を有する。ガラス板5は、上記で説明した本発明の一態様に係るガラス板からなる。太陽電池1は、ガラス板5上にプラス電極7であるMo膜の裏面電極層を有し、その上にCIGS層またはCZTS層9である光電変換層を有する。CIGS層の組成はCu(In1−XGa)Seが例示できる。xはInとGaの組成比を示すもので0<x<1である。CZTS層の組成としてはCuZnSnS、CuZnSnSeが例示できる。
【0076】
CIGS層またはCZTS層9上には、バッファ層11としてのCdS(硫化カドミウム)またはZnS(亜鉛硫化物)層を介して、ZnOまたはITOの透明導電膜13を有し、さらにその上にマイナス電極15であるAl電極(アルミニウム電極)等の取出し電極を有する。これらの層の間の必要な場所には反射防止膜を設けてもよい。図1においては、透明導電膜13とマイナス電極15との間に反射防止膜17が設けられている。
【0077】
またマイナス電極15上にカバーガラス19を設けてもよく、必要な場合はマイナス電極とカバーガラスとの間は、樹脂封止したり接着用の透明樹脂で接着したりされる。カバーガラスは、本発明の一態様に係るガラス板を用いてもよい。
【0078】
本実施形態において、光電変換層の端部または太陽電池の端部は封止されていてもよい。封止するための材料としては、例えば本発明の一態様に係るガラス板と同じ材料、そのほかのガラス、樹脂等が挙げられる。
【0079】
なお添付の図面に示す太陽電池の各層の厚さは図面の寸法に限定されない。
【0080】
<本実施形態のCdTe太陽電池>
次に、本発明の一態様に係るCdTe太陽電池について説明する。本発明の一態様に係る太陽電池は、ガラス板と、裏板ガラスと、上記ガラス板と上記裏板ガラスとの間に配置されるCdTeの光電変換層(CdTe層)とを有し、上記ガラス板と上記裏板ガラスのうち少なくとも上記ガラス板が本発明の一態様に係るガラス板である。または、上記太陽電池の構成において、裏板ガラスの代わりに、耐水性、耐酸素透過性をもつバックフィルムを用いた太陽電池でもよい。
【0081】
図4は、本発明の一態様に係るCdTe太陽電池を模式的に表す断面図である。図4において、本発明の太陽電池(CdTe太陽電池)21は、厚さ1〜3mmのガラス板22、厚さ1〜3mmの裏板ガラス27、およびガラス板22と裏板ガラス27との間に厚さ3〜15μmのCdTe層25を有する。CdTe層または透明導電膜を形成する際の加熱温度は500℃以上であり、好ましくは550℃以上、より好ましくは580℃以上、さらに好ましくは600℃以上、特に好ましくは620℃以上である。ガラス板22は上記で説明した本発明の太陽電池用ガラス板からなるのが好ましい。
CdTe太陽電池21は、ガラス板22上に厚さ100〜1000nmの透明導電膜23を有する。CdTe層または透明導電膜を形成する際の加熱温度は500℃以上であり、好ましくは550℃以上、より好ましくは580℃以上、さらに好ましくは600℃以上、特に好ましくは620℃以上である。
【0082】
透明導電膜23としては、例えばSnをドープしたInやFをドープしたIn等が挙げられる。透明導電膜23上には、厚さ50〜300nmのバッファ層24(例えば、CdS層)を有し、そのバッファ層24の上にCdTe層25を有する。さらにCdTe層25上には100〜1000nmの裏面電極26(例えばCuをドープしたカーボン電極やMo電極等)を有し、裏面電極26上に裏板ガラス27を有する。裏面電極26と裏板ガラス27の間は、樹脂封止するか、接着用の樹脂で接着されることが好ましい。裏板ガラス27は本発明の一態様に係るガラス板を用いてもよい。
【0083】
本実施形態において、CdTe層の端部または太陽電池の端部は封止されていてもよい。封止するための材料としては、例えば本発明の一態様に係る化合物太陽電池用ガラス板と同じ材料、その他のガラス材料、樹脂等が挙げられる。なお、添付の図面に示す太陽電池の各層の厚さは図面の寸法に限定されない。
【実施例】
【0084】
以下に本発明の実施例及び製造例を挙げるが本発明はこれら実施例及び製造例に限定されない。
【0085】
表1に本実施例で使用した4種類(ガラスA〜D)のガラスの組成を示す。
【0086】
【表1】
【0087】
表1で表示したガラスA〜Dの組成になるように各成分の原料を調合し、該ガラス100質量部に対し、硫酸塩をSO換算で0.1質量部原料に添加し、白金坩堝を用いて1600℃の温度で3時間加熱し溶解した。溶解にあたっては、白金スターラーを挿入し1時間攪拌し、ガラスの均質化を行った。次いで溶融ガラスを流し出し、板状に成形後冷却した。その後、30×30×1.1mmに研削加工し、30×30の両面を鏡面加工し、洗浄し、例1〜16のガラス板を得た。
【0088】
ガラス中のSO残存量は100〜1000ppmであった。
【0089】
その後、例1〜5、例10〜16のガラス板について、上記フロート成形炉からの引出し及び徐冷炉での徐冷を模擬して、電気炉内で、下記に示すSO処理条件のいずれかでSO処理後、電気炉から取出して室温まで冷却した。
【0090】
(SO処理条件1)
温度:600℃
SO濃度:1.3体積%
処理時間:5分
(SO処理条件2)
温度:640℃
SO濃度:0.1体積%
処理時間:5分
(SO処理条件3)
温度:670℃
SO濃度:0.02体積%
処理時間:5分
(SO処理条件4)
温度:640℃
SO濃度:1.3体積%
処理時間:5分
【0091】
SO処理後のガラス板は、酸化セリウムを含有したスラリーをスポンジに含ませて手で基板をこすり、硫酸塩を除去した。除去後、中性洗剤を含ませたスポンジを使用して手で基板をこすった後、流水で1分間洗い流した。その後、室温の水中に浸漬し5分間超音波洗浄した。実施例15の基板のみは酸化セリウムでの洗浄を省き、実施例16の基板のみは中性洗剤での洗浄を省いた。
【0092】
こうして得られたガラス板の平均熱膨張係数α(単位:×10−7/℃)、ガラス転移点温度(Tg)(単位:℃)を測定し、表1に示した。また、ガラス板表面と内部のBa、SrおよびCa量、Na量、K量、洗浄後の表面のCe残存量、脆さ指標値、発電効率を測定し、下記表2及び表3に示した。以下に各物性の測定方法及び評価方法を示す。
【0093】
Tg:TgはTMAを用いて測定した値であり、JIS R3103−3(2001年度)により求めた。
【0094】
50〜350℃の平均熱膨張係数α:示差熱膨張計(TMA)を用いて測定し、JIS R3102(1995年度)より求めた。
【0095】
ガラス板表層と内部とのBa、SrおよびCa量、Na量、K量:
ガラス板表面からの深さ100nmまで、および深さ5000nmでのCa、Sr、Baの量、および深さ30nm、5000nmでのNa量、K量(原子%)をX線光電子分光装置(アルバック・ファイ社製、ESCA5500)により測定した。ガラス板表面から100nmまでの研削は、C60イオンビームによりスパッタエッチングし、ガラス板表面から5000nmまでの研削は、4000nmまで酸化セリウムの水スラリーで研削した後、C60イオンビームによりスパッタエッチングした。
Na量、K量(原子%)については、深さ5000nmでの量に対する深さ30nmでの量の比を求め、それぞれNa量比、K量比とした。また、Ba、SrおよびCa量の合量(原子%)について、深さ5000nmでの合量と深さ100nmでの合量との差を求めた。
【0096】
洗浄後の表面のCe残存量:洗浄後のガラス表面のCe残存量を、全反射蛍光X線測定装置により測定し、単位面積あたりのCe残存量(ng/cm)を測定した。
CIGS成膜面の脆さ指標値:前述の各種ガラス板の表面に打ち込んだビッカース圧痕の寸法と上記式(1)を用いて、脆さ指標値を算出する。ビッカース圧子の押し込み荷重は1kgf/cmとした。
【0097】
発電効率:上記で得られた例1〜16の太陽電池用ガラス板を用いて、後述する手順で作製したCIGS太陽電池サンプルを、下記の手順にて測定した。
得られたガラス板を太陽電池のガラス板に用い、以下に示すように評価用太陽電池を作製し、これを用いて発電効率について評価を行った。結果を表1に示す。
評価用太陽電池の作製について、図2、3及びその符号を用いて以下に説明する。なお、評価用太陽電池の層構成は、図1の太陽電池のカバーガラス19及び反射防止膜17を有さない以外は、図1に示す太陽電池の層構成とほぼ同様である。
得られたガラス板を大きさ3cm×3cm、厚さ1.1mmに加工しガラス板を得た。ガラス板5aの上に、スパッタ装置にて、プラス電極7aとしてMo膜を成膜した。成膜は室温にて実施し、厚み250nmのMo膜を得た。
プラス電極7a(モリブデン膜)上にスパッタ装置にて、CuGa合金ターゲットでCuGa合金層を成膜し、続いてInターゲットを使用してIn層を成膜することで、In−CuGaのプリカーサ膜を成膜した。成膜は室温にて実施した。蛍光X線によって測定したプリカーサ膜の組成が、Cu/(Ga+In)比(原子比)が0.88、Ga/(Ga+In)比(原子比)が0.34となるように各層の厚みを調整し、厚み450nmのプリカーサ膜を得た。
【0098】
プリカーサ膜を、RTA(Rapid Thermal Annealing)装置を用いてアルゴン及びセレン化水素混合雰囲気(セレン化水素はアルゴンに対し5体積%、以下、「セレン化水素雰囲気」という)及び硫化化水素混合雰囲気(硫化水素はアルゴンに対し5体積%、以下、「硫化水素雰囲気」という)にて加熱処理した。まず、第1段階としてセレン化水素雰囲気において500℃で10分保持を行い、CuとInとGaとを、Seと反応させた。その後、硫化水素雰囲気に置換した後、第2段階としてさらに580℃で30分保持してCIGS結晶を成長させることでCIGS層9aを得た。得られたCIGS層9aの厚みは約1.3μmであった。
【0099】
CIGS層9a上に、CBD(Chemical Bath Deposition)法にて、バッファ層11aとしてCdS層を成膜した。具体的には、まず、ビーカー内で、濃度0.01Mの硫酸カドミウム、濃度1.0Mのチオウレア、濃度15Mのアンモニア及び純水を混合させた。次に、CIGS層を上記混合液に浸し、ビーカーごと予め水温を70℃にしておいた恒温バス槽に入れ、CdS層を50〜80nm成膜した。
【0100】
さらにCdS層上にスパッタ装置にて、透明導電膜13aを以下の方法で成膜した。まず、ZnOターゲットを使用してZnO層を成膜し、次に、AZOターゲット(Alを1.5wt%含有するZnOターゲット)を使用してAZO層を成膜した。各層の成膜は室温にて実施し、厚み480nmの2層構成の透明導電膜13aを得た。
透明導電膜13aのAZO層上にEB蒸着法により、U字型のマイナス電極15aとして膜厚1μmのアルミ膜を成膜した(U字の電極長(縦8mm、横4mm)、電極幅0.5mm)。
【0101】
最後に、メカニカルスクライブによって透明導電膜13a側からCIGS層9aまでを削り、図2に示すようなセル化を行った。図2(a)は1つの太陽電池セルを上面から見た図であり、図2(b)は図2(a)中のA−A´の断面図である。一つのセルは幅0.6cm、長さ1cmで、マイナス電極15aを除いた面積が0.51cmであり、図3に示すように、合計8個のセルが1枚のガラス板5a上に得られた。
【0102】
ソーラーシミュレータ(山下電装株式会社製、YSS−T80A)に、評価用CIGS太陽電池(上記8個のセルを作製した評価用ガラス板5a)を設置し、あらかじめInGa溶剤を塗布したプラス電極7aにプラス端子を(不図示)、マイナス電極15aのU字の下端にマイナス端子16aをそれぞれ電圧発生器に接続した。ソーラーシミュレータ内の温度は25℃一定に温度調節機にて制御した。疑似太陽光を照射し、10秒後に、電圧を−1Vから+1Vまで0.015V間隔で変化させ、8個のセルのそれぞれの電流値を測定した。
【0103】
この照射時の電流と電圧特性から発電効率を式(1)により算出した。8個のセルのうち最も効率の良いセルの値を、各ガラス板の発電効率の値として表2及び表3に示した。試験に用いた光源の照度は0.1W/cmであった。発電効率[%]=Voc[V]×Jsc[A/cm]×FF[無次元]×100/試験に用いる光源の照度[W/cm]・・・式(1)
【0104】
発電効率は、開放電圧(Voc)と短絡電流密度(Jsc)と曲線因子(FF)の掛け算で求められる。
なお、開放電圧(Voc)は端子を開放した時の出力であり、短絡電流(Isc)は短絡した時の電流である。短絡電流密度(Jsc)はマイナス電極を除いたセルの面積でIscを割ったものである。
【0105】
また最大の出力を与える点が最大出力点と呼ばれ、その点の電圧が最大電圧値(Vmax)、電流が最大電流値(Imax)と呼ばれる。最大電圧値(Vmax)と最大電流値(Imax)の掛け算の値を、開放電圧(Voc)と短絡電流(Isc)の掛け算の値で割った値が、曲線因子(FF)として求められる。上記の値を使用し、発電効率を求めた。
【0106】
【表2】
【0107】
【表3】
【0108】
表1〜3より明らかなように、実施例(例1〜6)のガラス板は、ガラス組成が本願の範囲内であり、ガラス板表面からの深さ30nmでのNa量(原子%)が、同深さ5000nmでのNa量(原子%)の1.06倍以上2.0倍以下、ガラス板表面からの深さ30nmでのK量(原子%)が、同深さ5000nmでのK量(原子%)の1.1倍以上4.0倍以下であった。且つガラス転移点温度Tgが高く、膨張も所定の値であった。また、例1〜5のガラス板は表面に残存するCeが0.1〜10ng/cm以下であり、かつ脆さ指標値が6500〜7500m−1/2で発電効率も高かった。したがって高い発電効率と高いガラス転移点温度とを両立させることできる。
【0109】
一方で、表1〜3から明らかなように、比較例(例7〜10)のガラス板は、ガラス板表面からの深さ30nmでのNa量(原子%)が、同深さ5000nmでのNa量(原子%)の1.06倍より小さく、ガラス板表面からの深さ30nmでのK量(原子%)が、同深さ5000nmでのK量(原子%)の1.1倍より小さいため、CIGS層へのNa拡散が十分でなく高い発電効率が得られにくい。
【0110】
また、表3より明らかなように、比較例(例11〜15)はガラス板とSO処理条件が適切でないために、ガラス板表面からの深さ30nmでのNa量(原子%)が、同深さ5000nmでのNa量(原子%)の1.06倍より小さく、ガラス板表面からの深さ30nmでのK量(原子%)が、同深さ5000nmでのK量(原子%)の1.1倍より小さいため、CIGS層へのNa拡散が十分でなく高い発電効率が得られにくい。
【0111】
さらに、表3より明らかなように、比較例(16)のガラス板は、表面に残存するCeが10ng/cm以下より大きいため、高い発電効率が得られにくい。
【符号の説明】
【0112】
1 太陽電池
5、22 ガラス板
7 プラス電極
9 CIGS層またはCZTS層
11、24 バッファ層
13、23 透明導電膜
15 マイナス電極
17 反射防止膜
19 カバーガラス
21 CdTe太陽電池
25 CdTe層
26 裏面電極
27 裏板ガラス
図1
図2
図3
図4