(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
電子機器における配線層や電極等の形成には、樹脂型ペーストや焼成型ペーストのような、銀粉や銅粉等の金属フィラーを使用したペーストが多く用いられている。銀粉や銅粉等からなる金属フィラーペーストは、電子機器の各種基材上に塗布又は印刷され、加熱硬化や加熱焼成の処理を受けて、配線層や電極等となる導電膜を形成する。
【0003】
例えば、樹脂型導電性ペーストは、金属フィラーと、樹脂、硬化剤、溶剤等からなり、導電体回路パターン又は端子の上に印刷され、100℃〜200℃で加熱硬化させて導電膜として配線や電極を形成する。樹脂型導電性ペーストは、熱によって熱硬化型樹脂が硬化収縮するため、金属フィラーが圧着されて接触することで金属フィラーが重なり、電気的に接続した電流パスが形成される。この樹脂型導電性ペーストは、硬化温度が200℃以下で処理されることから、プリント配線板等の熱に弱い材料を使用している基板に用いられている。
【0004】
また、焼成型導電性ペーストは、金属フィラーと、ガラス、溶剤等からなり、導電体回路パターン又は端子の上に印刷し、600℃〜800℃に加熱焼成させて導電膜として配線や電極を形成する。焼成型導電性ペーストは、高い温度によって処理することで、金属フィラーが焼結して導通性が確保されるものである。この焼成型導電性ペーストは、焼成温度が高いため、樹脂材料を使用するようなプリント配線基板には使用できないものの、高温処理で金属フィラーが焼結することから低抵抗を実現することが可能となる。そのため、焼成型導電性ペーストは、積層セラミックコンデンサの外部電極等に用いられる。
【0005】
さて、これらの樹脂型導電性ペーストや焼成型導電性ペーストに使用される金属フィラーとしては、従来から銀の粉末が多く用いられてきた。しかしながら、近年では、貴金属価格が高騰し、低コスト化のために、銀粉より安価な銅粉の使用が好まれてきた。
【0006】
ここで、金属フィラーとして用いられる銅等の粉末としては、上述したように、粒子同士が接続して導電するために、粒状や樹枝状、平板状等の形状が用いられてきた。特に、粒子を縦・横・厚さの3方向のサイズから評価した場合、厚さが薄い平板状の形状は、厚さが減少することによる配線材の薄型化に貢献するとともに、一定の厚さがある立方体や球状の粒子よりも粒同士が接触する面積を大きく確保でき、それだけ低抵抗、すなわち高導電率が達成できるという利点がある。このため、平板状の形状の銅粉は、特に導電性を維持したい導電塗料や導電性ペーストの用途に適している。なお、導電性ペーストを薄く塗布して用いる場合には、銅粉に含まれる不純物の影響も考慮することが好ましくなる。
【0007】
このような平板状の銅粉を作製するために、例えば特許文献1では、導電性ペーストの金属フィラーに適したフレーク状銅粉を得る方法が開示されている。具体的には、平均粒径0.5μm〜10μmの球状銅粉を原料とし、ボールミルや振動ミルを用いて、ミル内に装填したメディアの機械的エネルギーにより機械的に平板状に加工するものである。
【0008】
また、例えば特許文献2では、導電性ペースト用銅粉末、詳しくはスルーホール用及び外部電極用銅ペーストとして高性能が得られる円盤状銅粉末及びその製造方法に関する技術が開示されている。具体的には、粒状アトマイズ銅粉末を媒体攪拌ミルに投入し、粉砕媒体として1/8インチ〜1/4インチ径のスチールボールを使用して、銅粉末に対して脂肪酸を重量で0.5%〜1%添加し、空気中あるいは不活性雰囲気中で粉砕することによって平板状に加工するものである。
【0009】
さらに、例えば特許文献3では、電解銅粉の樹枝を必要以上に発達させることなく、従来の電解銅粉よりも成形性が向上した、高い強度に成形できる電解銅粉を得る方法が開示されている。具体的には、電解銅粉自体の強度を増して高い強度に成形できる電解銅粉を析出させるために、電解銅粉を構成する結晶子のサイズを微細化させることを目的として、電解液である硫酸銅水溶液中にタングステン酸塩、モリブデン酸塩、及び硫黄含有有機化合物から選択される1種又は2種以上を添加して、電解銅粉を析出させるものである。
【0010】
これらの特許文献に開示された方法は、いずれも得られた粒状の銅粉をボール等の媒体を使用して機械的に変形(加工)させることによって平板状としている。したがって、加工してできた平板状の銅粉の大きさは、例えば特許文献1の技術では平均粒径が1μm〜30μmであり、特許文献3での技術は平均粒径が7μm〜12μmとなる。
【0011】
一方、デンドライト状と呼ばれる樹枝状に析出した電解銅粉が知られており、形状が樹枝状になっていることから、表面積が大きく、成形性や焼結性に優れており、粉末冶金用途として含油軸受けや機械部品等の原料として使用されている。特に、含油軸受け等では小型化が進み、それに伴って多孔質化や薄肉化、並びに複雑な形状が要求されるようになっている。それらの要求を満足するために、例えば特許文献4では、複雑3次元形状で寸法精度の高い金属粉末射出成形用銅粉末とそれを用いた射出成形品の製造方法が開示されている。具体的には、樹枝状の形状をより発達させることで、圧縮成形時に隣接する電解銅粉の樹枝が互いに絡み合って強固に連結するようになるため、高い強度に成形できることが示されている。さらに、導電性ペーストや電磁波シールド用の金属フィラーとして利用する場合には、樹枝状の形状であることから、球状のものと比べて接点を多くできることを利用できるとしている。
【0012】
しかしながら、上述のような樹枝状の銅粉を導電性ペーストや電磁波シールド用樹脂等の金属フィラーとして利用する場合、樹脂中の金属フィラーが樹枝状に発達した形状であると、樹枝状の銅粉同士が絡み合って凝集が発生してしまい、樹脂中に均一に分散しないという問題や、凝集によりペーストの粘度が上昇して印刷による配線形成に問題が生じる。このような問題は、例えば特許文献3でも指摘されている。
【0013】
このように、樹枝状の銅粉を導電性ペースト等の金属フィラーとして用いるのは容易でなく、ペーストの導電性の改善がなかなか進まない原因ともなっていた。なお、導電性を確保するためには、樹枝状の方が粒状よりも接点を確保しやすく、導電性ペーストや電磁波シールドとして高い導電性を確保することができる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明に係る銅粉の具体的な実施形態(以下、「本実施の形態」という)について、図面を参照しながら詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更が可能である。なお、本明細書にて、「X〜Y」(X、Yは任意の数値)との表記は、「X以上Y以下」の意味である。
【0028】
≪1.樹枝状銅粉≫
本実施の形態に銅粉は、直線的に成長した主幹とその主幹から分かれた複数の枝とを有する樹枝状の形状をなし、主幹及び枝は、特定の断面平均厚さを有する平板状の銅粒子から構成されている。
【0029】
図1は、本実施の形態に係る銅粉を構成する銅粒子の具体的な形状を示した模式図である。
図1の模式図に示すように、銅粒子1は、2次元又は3次元の形態である樹枝状の形状を有している。より具体的に、銅粒子1は、直線的に成長した主幹2と、その主幹2から分かれた複数の枝3とを有する樹枝状の形状を有しており、その断面平均厚さが1.0μmを超えて5.0μm以下の平板状である。なお、銅粒子1における枝3は、主幹2から分岐した枝3aと、その枝3aからさらに分岐した枝3bの両方を意味する。
【0030】
本実施の形態に係る銅粉は、このような平板状の銅粒子1が集合して構成された、主幹と複数の枝とを有する樹枝状形状の銅粉(以下、「樹枝状銅粉」ともいう)であり(
図2の銅粉のSEM像参照)、1層又は複数の重なった積層構造で構成された平板状であって(
図4又は
図5の銅粉のSEM像参照)、この銅粒子1から構成される樹枝状銅粉の平均粒子径(D50)が1.0μm〜100μmである。
【0031】
なお、詳しくは後述するが、本実施の形態に係る樹枝状銅粉は、例えば、銅イオンを含む硫酸酸性の電解液に陽極と陰極を浸漬し、直流電流を流して電気分解することにより陰極上に析出させて得ることができる。
【0032】
図2〜
図5は、本実施の形態に係る樹枝状銅粉について走査電子顕微鏡(SEM)により観察したときの観察像の一例を示す写真図である。なお、
図2は樹枝状銅粉を倍率1,000倍で観察したものであり、
図3は樹枝状銅粉を倍率5,000倍で観察したものであり、
図4及び
図5は樹枝状銅粉を倍率10,000倍で観察したものである。
【0033】
図2の観察像に示されるように、この樹枝状銅粉は、主幹とその主幹から分岐した枝とを有する、2次元又は3次元の樹枝状の析出状態を呈している。また、
図3の観察像に示されるように、樹枝状銅粉を構成する主幹及び枝が、平板状であって樹枝状の形状を有する銅粒子1(
図1の模式図参照)が集合して構成されている。また、
図4及び
図5の観察像に示されるように、この樹枝状銅粉は、成長した銅粒子1により、
図4では平板な複数の層の積層構造に構成されており、また
図5では平板な単一な層となっている。これらのSEM観察像からも分かるように、本実施の形態に係る樹枝状銅粉は、平板状であって1層又は複数の重なった積層構造で構成されており、全体として、主幹とその主幹から分岐した枝とを有する樹枝状の形状をなしている。
【0034】
ここで、本実施の形態に係る樹枝状銅粉を構成し、主幹2及び枝3を有する平板状の銅粒子1は、その断面平均厚さが1.0μmを超えて5.0μm以下である。このように、断面平均厚さが5.0μm以下の平板状の銅粒子1により樹枝状銅粉の主幹及び枝が構成されることで、その銅粒子1同士、またそれにより構成される樹枝状銅粉同士の接触面積を大きく確保することができる。そして、その接触面積が大きくなることで、低抵抗、すなわち高導電率を実現することができる。このことにより、より導電性に優れ、またその導電性を良好に維持することができ、導電性塗料や導電性ペーストの用途に好適に用いることができる。また、樹枝状銅粉が平板状の銅粒子1により構成されていることで、配線材等の薄型化にも貢献することができる。
【0035】
なお、平板状の銅粒子1の断面平均厚さの下限としては、特に限定されないが、後述する銅イオンを含む硫酸酸性の電解液から電気分解することにより陰極上に析出させる方法では、1.0μmを超えた断面平均厚さを有する平板状の銅粒子1が集合した樹枝状銅粉を得ることができる。
【0036】
また、本実施の形態に係る樹枝状銅粉においては、その平均粒子径(D50)が1.0μm〜100μmである。平均粒子径は、後述する電解条件を変更することで制御可能である。また、必要に応じて、ジェットミル、サンプルミル、サイクロンミル、ビーズミル等の機械的な粉砕を付加することによって、所望とする大きさにさらに調整することが可能である。なお、平均粒子径(D50)は、例えば、レーザー回折散乱式粒度分布測定法により測定することができる。
【0037】
ここで、例えば特許文献1でも指摘されているように、樹枝状銅粉の問題点としては、導電性ペーストや電磁波シールド用の樹脂等の金属フィラーとして利用する場合に、樹脂中の金属フィラーが樹枝状に発達した形状であると、樹枝状の銅粉同士が絡み合って凝集が発生し、樹脂中に均一に分散しないことが挙げられる。また、その凝集により、ペーストの粘度が上昇して印刷による配線形成に問題が生じる。このことは、樹枝状銅粉が針状の形状で放射状に成長するために、その樹枝状銅粉同士が絡まりあって大きな塊に凝集することよる。
【0038】
この点において、本実施の形態に係る樹枝状銅粉では、断面平均厚さが1.0μmを超えて5.0μm以下の平板状の銅粒子から構成されていることにより、銅粉同士の絡まりによる凝集を防止することができる。つまり、平板状の銅粒子を成長させてなることで、銅粉同士が面で接触するようになり、銅粉同士の絡み合いによる凝集を防止し、樹脂中に均一に分散させることができる。また、このように平板状に成長させることで銅粉同士を面で接触させることにより、広い面積による接触で接点抵抗を低く抑えることもできる。
【0039】
また、特許文献1や特許文献2に記載されているように機械的な方法で例えば球状銅粉を平板状にする場合には、機械的加工時に銅の酸化を防止する必要があるために、脂肪酸を添加し、空気中あるいは不活性雰囲気中で粉砕することによって平板状に加工している。しかしながら、完全に酸化を防止することができないことや、加工時に添加している脂肪酸がペースト化するときに分散性に影響を及ぼす場合があるために加工終了後除去が必要であるが、機械加工時の圧力で銅表面に強固に固着することがあり、脂肪酸を完全に除去できないという問題が発生する。そして、導電性ペーストや電磁波シールド用の樹脂等の金属フィラーとして利用する場合に、金属フィラー表面に電気の導電性を阻害する酸化被膜や脂肪酸が存在すると、電気的な抵抗が大きくなり金属フィラーの特性を十分に発揮することができなくなる。
【0040】
この点、本実施の形態に係る樹枝状銅粉においては、機械的な加工を行うことなく直接樹枝状銅粉の形状に成長させて作製するため、これまで問題となっていた酸化被膜や脂肪酸の残留による問題は発生せず、表面状態の良好な状態の銅粉となり、電気導電性としては極めて良好な状態とすることができる。なお、銅粉の製造方法については後述する。
【0041】
また、本実施の形態に係る樹枝状銅粉は、特に限定されないが、上述した平板状の銅粒子1の断面平均厚さを当該樹枝状銅粉の平均粒子径(D50)で除した比(断面平均厚さ/平均粒子径)が0.01を超えて5.0以下の範囲であることが好ましい。
【0042】
「断面平均厚さ/平均粒子径」で表される比(アスペクト比)は、例えば導電性の銅ペーストとして加工するときの凝集度合いや分散性、また銅ペーストの塗布時における外観形状の保持性等の指標となる。このアスペクト比が0.01以下であると、凝集が生じやすくなってペースト化に際して樹脂中に均一に分散させることが困難となる。一方で、アスペクト比が5.0を超えると、球状の銅粒子からなる銅粉に近似するようになり、平板な形状の効果を十分に発揮できなくなる。
【0043】
また、樹枝状銅粉の嵩密度としては、特に限定されないが、0.5g/cm
3〜5.0g/cm
3の範囲であることが好ましい。嵩密度が0.5g/cm
3未満であると、銅粉同士の接点を十分に確保することができない可能性がある。一方で、嵩密度が5.0g/cm
3を超えると、樹枝状銅粉の平均粒子径も大きくなってしまい、すると表面積が小さくなって成形性や焼結性が悪化することがある。
【0044】
また、樹枝状銅粉は、特に限定されないが、そのBET比表面積の値が0.2m
2/g〜3.0m
2/gであることが好ましい。BET比表面積値が0.2m
2/g未満であると、樹枝状銅粉を構成する銅粒子1が、上述したような所望の平板状の形状とはならないことがあり、高い導電性が得られないことがある。一方で、BET比表面積値が3.0m
2/gを超えると、凝集が生じやすくなってペースト化に際して樹脂中に均一に分散させることが困難となる。なお、BET比表面積は、JIS Z8830:2013に準拠して測定することができる。
【0045】
また、樹枝状銅粉は、特に限定されないが、その結晶子径が800Å(オングストローム)〜3000Åの範囲に属することが好ましい。結晶子径が800Å未満であると、その主幹や枝を構成する銅粒子1が平板状ではなく球状に近い形状となる傾向があり、接触面積を十分に大きく確保することが困難となり、導電性が低下する可能性がある。一方で、結晶子径が3000Åを超えると、成形性や焼結性が悪化することがある。
【0046】
なお、ここでの結晶子径とは、X線回折測定装置により得られる回折パターンから下記数式で示されるScherrerの計算式に基づいて求められるものであり、X線回折による(111)面のミラー指数における結晶子径である。
D=0.9λ/βcosθ
(なお、D:結晶子径(Å)、β:結晶子の大きさによる回折ピークの拡がり(rad)、λ:X線の波長[CuKα](Å)、θ:回折角(°)である。)
【0047】
なお、電子顕微鏡で観察したときに、得られた銅粉のうちに、上述したような形状の樹枝状銅粉が所定の割合で占められていれば、それ以外の形状の銅粉が混じっていても、その樹枝状銅粉のみからなる銅粉と同様の効果を得ることができる。具体的には、電子顕微鏡(例えば500倍〜20,000倍)で観察したときに、上述した形状の樹枝状銅粉が全銅粉のうちの80個数%以上、好ましくは90個数%以上の割合を占めていれば、その他の形状の銅粉が含まれていてもよい。
【0048】
≪2.樹枝状銅粉の製造方法≫
本実施の形態に係る樹枝状銅粉は、例えば、銅イオンを含有する硫酸酸性溶液を電解液として用いて所定の電解法により製造することができる。
【0049】
電解に際しては、例えば、金属銅を陽極(アノード)とし、ステンレス板やチタン板等を陰極(カソード)とし設置した電解槽中に、上述した銅イオンを含有する硫酸酸性の電解液を収容し、その電解液に所定の電流密度で直流電流を通電することによって電解処理を施す。これにより、通電に伴って陰極上に樹枝状銅粉を析出(電析)させることができる。特に、本実施の形態においては、電解により得られた粒状等の銅粉をボール等の媒体を用いて機械的に変形加工等することなく、その電解のみによって、平板状の微細な銅粒子が集合して樹枝状を形成した樹枝状銅粉を陰極表面に析出させることができる。
【0050】
より具体的に、電解液としては、例えば、水溶性銅塩と、硫酸と、アミン化合物等の添加剤と、塩化物イオンとを含有するものを用いることができる。
【0051】
水溶性銅塩は、銅イオンを供給する銅イオン源であり、例えば硫酸銅五水和物等の硫酸銅、塩化銅、硝酸銅等が挙げられるが特に限定されない。また、電解液中での銅イオン濃度としては、1g/L〜20g/L程度、好ましくは2g/L〜10g/L程度とすることができる。
【0052】
硫酸は、硫酸酸性の電解液とするためのものである。電解液中の硫酸の濃度としては、遊離硫酸濃度として20g/L〜300g/L程度、好ましくは50g/L〜200g/L程度とすることができる。この硫酸濃度は、電解液の電導度に影響するため、カソード上に得られる銅粉の均一性に影響する。
【0053】
添加剤としては、例えばアミン化合物を用いることができる。このアミン化合物が、後述する塩化物イオンと共に、析出する銅粉の形状制御に寄与し、陰極表面に析出させる銅粉を、樹枝状形状を有し且つ所定の断面平均厚さの平板状である銅粒子から構成される、主幹と複数の枝とを有する樹枝状銅粉とすることができる。
【0054】
アミン化合物としては、例えばサフラニンO(3,7−ジアミノ−2,8−ジメチル−5−フェニル−5−フェナジニウム・クロリド、C
20H
19N
4Cl、CAS番号:477−73−64)等を用いることができる。なお、アミン化合物としては、1種単独で添加してもよく、2種類以上を併用して添加してもよい。また、アミン化合物類の添加量としては、電解液中における濃度が50mg/Lを超えて500mg/L以下の範囲となる量とすることが好ましく、100mg/L〜400mg/Lの範囲となる量とすることがより好ましい。
【0055】
塩化物イオンとしては、塩酸、塩化ナトリウム等の塩化物イオンを供給する化合物(塩化物イオン源)を電解液中に添加することによって含有させることができる。塩化物イオンは、上述したアミン化合物等の添加剤と共に、析出する銅粉の形状制御に寄与する。電解液中の塩化物イオン濃度としては、特に限定されないが、1mg/L〜1000mg/L程度、好ましくは10mg/L〜500mg/L程度とすることができる。
【0056】
本実施の形態に係る樹枝状銅粉の製造方法においては、例えば、上述したような組成の電解液を用いて電解することによって陰極上に銅粉を析出生成させて製造する。電解方法としては、公知の方法を用いることができる。例えば、電流密度としては、硫酸酸性の電解液を用いて電解するにあたっては5A/dm
2〜30A/dm
2の範囲とすることが好ましく、電解液を攪拌しながら通電させる。また、電解液の液温(浴温)としては、例えば20℃〜60℃程度とすることができる。
【0057】
≪3.導電性ペースト、導電塗料等の用途≫
本実施の形態に係る樹枝状銅粉は、上述したように、主幹と複数の枝とを有する樹枝状の銅粉であり、この樹枝状銅粉は、
図1の模式図に示したような、主幹2及びその主幹2から分岐した複数の枝3とを有する樹枝状の銅粒子1であって、且つ、断面平均厚さが1.0μmを超えて5.0μm以下である平板状の銅粒子1が集合して構成されている。そして、当該樹枝状銅粉の平均粒子径(D50)は、1.0μm〜100μmである。このような樹枝状銅粉では、樹枝状の形状であることにより、表面積が大きくなり、成形性や焼結性に優れたものとなる。また、この樹枝状銅粉は、樹枝状であって且つ所定の断面平均厚さを有する平板状の銅粒子1から構成されていることにより、接点の数を多く確保することができ、優れた導電性を発揮する。
【0058】
また、このような所定の構造を有する樹枝状銅粉によれば、銅ペースト等とした場合であっても、凝集を抑制することができ、樹脂中に均一に分散させることが可能となり、またペーストの粘度上昇等による印刷性不良等の発生を抑制することができる。したがって、樹枝状銅粉は、導電性ペーストや導電塗料等の用途に好適に用いることができる。
【0059】
本実施の形態においては、金属フィラー中に、上述した樹枝状銅粉が20質量%以上、好ましくは30質量%以上、より好ましくは50質量%以上の量の割合となるよう構成する。金属フィラー中の樹枝状銅粉の割合を20質量%以上とすれば、例えばその金属フィラーを銅ペーストに用いた場合、樹脂中に均一に分散させることができ、またペーストの粘度が過度に上昇して印刷性不良が生じることを防ぐことができる。また、平板状の微細な銅粒子1の集合体からなる樹枝状銅粉であることにより、導電性ペーストとして優れた導電性を発揮させることができる。なお、金属フィラーとしては、上述したように樹枝状銅粉が20質量%以上の量の割合となるように含んでいればよく、その他は例えば1μm〜20μm程度の球状銅粉等を混ぜ合わせてもよい。
【0060】
例えば導電性ペースト(銅ペースト)としては、本実施の形態に係る樹枝状銅粉を金属フィラーとして含み、バインダ樹脂、溶剤、さらに必要に応じて酸化防止剤やカップリング剤等の添加剤と混練することによって作製することができる。
【0061】
具体的に、バインダ樹脂としては、特に限定されないが、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等を用いることができる。また、溶剤としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、グリセリン、ターピネオール等の有機溶剤を用いることができる。また、その有機溶剤の添加量としては、特に限定されないが、スクリーン印刷やディスペンサー等の導電膜形成方法に適した粘度となるように、樹枝状銅粉の粒度を考慮して添加量を調整することができる。
【0062】
さらに、粘度調整のために他の樹脂成分を添加することもできる。例えば、エチルセルロースに代表されるセルロース系樹脂等が挙げられ、ターピネオール等の有機溶剤に溶解した有機ビヒクルとして添加される。なお、その樹脂成分の添加量としては、焼結性を阻害しない程度に抑える必要があり、好ましくは全体の5質量%以下とする。
【0063】
また、添加剤としては、焼成後の導電性を改善するために酸化防止剤等を添加することができる。酸化防止剤としては、特に限定されないが、例えばヒドロキシカルボン酸等を挙げることができる。より具体的には、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、乳酸等のヒドロキシカルボン酸が好ましく、銅への吸着力が高いクエン酸又はリンゴ酸が特に好ましい。酸化防止剤の添加量としては、酸化防止効果やペーストの粘度等を考慮して、例えば1〜15質量%程度とすることができる。
【0064】
次に、電磁波シールド用材料として、本実施の形態に係る金属フィラーを利用する場合においても、特に限定された条件での使用に限られず、一般的な方法、例えば金属フィラーを樹脂と混合して使用することができる。
【0065】
例えば、電磁波シールド用導電性シートの電磁波シールド層を形成するために使用される樹脂としては、特に限定されるものではなく、従来使用されている、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、オレフィン樹脂、塩素化オレフィン樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、アルキッド樹脂、フェノール樹脂などの各種重合体及び共重合体からなる熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、放射線硬化型樹脂等を適宜使用することができる。
【0066】
電磁波シールド材を製造する方法としては、例えば、上述したような金属フィラーと樹脂とを、溶媒に分散又は溶解して塗料とし、その塗料を基材上に塗布又は印刷することによって電磁波シールド層を形成し、表面が固化する程度に乾燥することで製造することができる。また、本実施の形態に係る金属フィラーを導電性シートの導電性接着剤層に利用することもできる。
【0067】
また、本実施の形態に係る金属フィラーを利用して電磁波シールド用導電性塗料とする場合においても、特に限定された条件での使用に限られず、一般的な方法、例えば金属フィラーを樹脂及び溶剤と混合し、さらに必要に応じて酸化防止剤、増粘剤、沈降防止剤等と混合して混練することで導電性塗料として利用することができる。
【0068】
このときに使用するバインダ樹脂及び溶剤についても、特に限定されるものではなく、従来使用されている、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、フッ素樹脂、シリコン樹脂やフェノール樹脂等を用いることができる。また、溶剤についても、従来使用されている、イソプロパノール等のアルコール類、トルエン等の芳香族炭化水素類、酢酸メチル等のエステル類、メチルエチルケトン等のケトン類等を用いることができる。また、添加剤としての酸化防止剤についても、従来使用されている、脂肪酸アミド、高級脂肪酸アミン、フェニレンジアミン誘導体、チタネート系カップリング剤等を用いることができる。
【実施例】
【0069】
以下、本発明の実施例を比較例と共に示してさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0070】
<評価方法>
下記実施例及び比較例にて得られた銅粉について、以下の方法により、形状の観察、平均粒子径の測定、結晶子径の測定を行った。
【0071】
(形状の観察)
走査型電子顕微鏡(日本電子株式会社製,JSM−7100F型)により、所定の倍率の視野で任意に20視野を観察し、その視野内に含まれる銅粉を観察した。
【0072】
(平均粒子径の測定)
得られた銅粉の平均粒子径(D50)は、レーザー回折・散乱法粒度分布測定器(日機装株式会社製,HRA9320 X−100)を用いて測定した。
【0073】
(結晶子径の測定)
X線回折測定装置(PAN analytical社製,X‘Pert PRO)により得られた回折パターンから、一般にScherrerの式として知られる公知の方法を用いて算出した。
【0074】
(アスペクト比の測定)
得られた銅粉をエポキシ樹脂に埋め込んで測定試料を作製し、その試料に対して切断・研磨を行い、走査型電子顕微鏡で観察することによって銅粉の断面を観察した。具体的には、先ず、銅粉を20個観察して、その銅粉の平均厚さ(断面平均厚さ)を求めた。次に、その断面平均厚さの値とレーザー回折・散乱法粒度分布測定器で求めた平均粒子径(D50)との比から、アスペクト比(平均平均厚さ/D50)を求めた。
【0075】
(BET比表面積)
BET比表面積は、比表面積・細孔分布測定装置(カンタクローム社製,QUADRASORB SI)を用いて測定した。
【0076】
(比抵抗値測定)
被膜の比抵抗値は、低抵抗率計(三菱化学株式会社製,Loresta−GP MCP−T600)を用いて四端子法によりシート抵抗値を測定し、表面粗さ形状測定器(東京精密株式会社製,SURFCOM130A)により被膜の膜厚を測定して、シート抵抗値を膜厚で除することによって求めた。
【0077】
(電磁波シールド特性)
電磁波シールド特性の評価は、各実施例及び比較例にて得られた試料について、周波数1GHzの電磁波を用いて、その減衰率を測定して評価した。具体的には、樹枝状銅粉を使用していない比較例4の場合のレベルを『△』として、その比較例4のレベルよりも悪い場合を『×』とし、その比較例4のレベルよりも良好な場合を『○』とし、さらに優れている場合を『◎』として評価した。
【0078】
また、電磁波シールドの可撓性についても評価するために、作製した電磁波シールドを折り曲げて電磁波シールド特性が変化するか否かを確認した。
【0079】
<実施例、比較例>
[実施例1]
容量が100Lの電解槽に、電極面積が200mm×200mmのチタン製の電極板を陰極とし、電極面積が200mm×200mmの銅製の電極板を陽極として用いて、その電解槽中に電解液を装入し、これに直流電流を通電して銅粉を陰極板に析出させた。
【0080】
このとき、電解液としては、銅イオン濃度が5g/L、硫酸濃度が150g/Lの組成のものを用いた。また、この電解液に、添加剤としてサフラニンO(関東化学工業株式会社製)を電解液中の濃度として100mg/Lとなるように添加し、さらに塩酸溶液(和光純薬工業株式会社製)を電解液中の塩化物イオン(塩素イオン)濃度として10mg/Lとなるように添加した。そして、上述したような濃度に調整した電解液を、定量ポンプを用いて15L/minの流量で循環しながら、温度を25℃に維持し、陰極の電流密度が25A/dm
2になるように通電して陰極板上に銅粉を析出させた。陰極板上に析出した電解銅粉を、スクレーパーを用いて機械的に電解槽の槽底に掻き落として回収し、回収した銅粉を純水で洗浄した後、減圧乾燥器に入れて乾燥した。
【0081】
得られた電解銅粉の形状を、上述した走査型電子顕微鏡(SEM)による方法で観察した結果、析出した銅粉において、少なくとも90個数%以上の銅粉は、2次元又は3次元の樹枝状の形状の銅粉であって、主幹とその主幹から分岐した複数の枝と、さらにその枝からさらに分岐した枝とを有する樹枝状形状を呈した銅粒子が集合してなる樹枝状銅粉であった。また、銅粉は、1層又は複数の重なった積層構造で構成された平板状であった。
【0082】
また、その主幹及び枝を有する樹枝状形状の銅粒子は、その断面平均厚さが3.4μmの平板状であった。また、その樹枝状銅粉の平均粒子径(D50)は58.6μmであった。そして、その銅粒子の断面平均厚さと樹枝状銅粉の平均粒子径から算出されるアスペクト比(断面平均厚さ/平均粒子径)は0.06であった。また、得られた樹枝状銅粉の嵩密度は2.9g/cm
3であった。また、樹枝状銅粉の結晶子径は2538Åであった。また、BET比表面積は1.1m
2/gであった。
【0083】
[実施例2]
電解液として、銅イオン濃度が7g/L、硫酸濃度が150g/Lの組成のものを用い、その電解液に、添加剤としてサフラニンOを電解液中の濃度として150mg/Lとなるように添加し、さらに塩酸溶液を電解液中の塩素イオン濃度として25mg/Lとなるように添加した。そして、上述したような濃度に調整した電解液を、定量ポンプを用いて20L/minの流量で循環しながら、温度を30℃に維持し、陰極の電流密度が20A/dm
2になるように通電して陰極板上に銅粉を析出させた。これら以外の条件は、実施例1と同様にして電解銅粉を作製した。
【0084】
得られた電解銅粉の形状を、上述した走査型電子顕微鏡(SEM)による方法で観察した結果、析出した銅粉において、少なくとも90個数%以上の銅粉は、2次元又は3次元の樹枝状の形状の銅粉であって、主幹から分岐した複数の枝と、さらにその枝からさらに分岐した枝とを有する樹枝状形状を呈した銅粒子が集合してなる樹枝状銅粉であった。また、銅粉は、1層又は複数の重なった積層構造で構成された平板状であった。
【0085】
また、その主幹及び枝を有する樹枝状形状の銅粒子は、その断面平均厚さが1.2μmの平板状であった。また、その樹枝状銅粉の平均粒子径(D50)は44.3μmであった。そして、その銅粒子の断面平均厚さと樹枝状銅粉の平均粒子径から算出されるアスペクト比(断面平均厚さ/平均粒子径)は0.03であった。また、得られた樹枝状銅粉の嵩密度は1.5g/cm
3であった。また、樹枝状銅粉の結晶子径は1861Åであった。また、BET比表面積は1.7m
2/gであった。
【0086】
[実施例3]
電解液として、銅イオン濃度が5g/L、硫酸濃度が125g/Lの組成のものを用い、その電解液に、添加剤としてサフラニンOを電解液中の濃度として200mg/Lとなるように添加し、さらに塩酸溶液を電解液中の塩素イオン濃度として25mg/Lとなるように添加した。そして、上述したような濃度に調整した電解液を、定量ポンプを用いて25L/minの流量で循環しながら、温度を35℃に維持し、陰極の電流密度が25A/dm
2になるように通電して陰極板上に銅粉を析出させた。これら以外の条件は、実施例1と同様にして電解銅粉を作製した。
【0087】
得られた電解銅粉の形状を、上述した走査型電子顕微鏡(SEM)による方法で観察した結果、析出した銅粉において、少なくとも90個数%以上の銅粉は、2次元又は3次元の樹枝状の形状の銅粉であって、主幹から直線的に分岐した複数の枝と、さらにその枝からさらに分岐した枝とを有する樹枝状形状を呈した銅粒子が集合してなる樹枝状銅粉であった。また、銅粉は、1層又は複数の重なった積層構造で構成された平板状であった。
【0088】
また、その主幹及び枝を有する銅粒子は、その断面平均厚さが2.6μmの平板状であった。また、その樹枝状銅粉の平均粒子径(D50)は37.4μmであった。そして、その銅粒子の断面平均厚さと樹枝状銅粉の平均粒子径から算出されるアスペクト比(断面平均厚さ/平均粒子径)は0.07であった。また、得られた樹枝状銅粉の嵩密度は1.4g/cm
3であった。また、樹枝状銅粉の結晶子径は1630Åであった。また、BET比表面積は1.6m
2/gであった。
【0089】
[実施例4]
実施例1で得られた樹枝状銅粉60質量部に、フェノール樹脂(群栄化学株式会社製,PL−2211)20質量部、ブチルセロソルブ(関東化学株式会社製,鹿特級)10質量部を混合し、小型ニーダー(日本精機製作所製,ノンバブリングニーダーNBK−1)を用い、1500rpm、3分間の混錬を4回繰り返すことでペースト化した。得られた導電ペーストを金属スキージでガラス上に印刷し、大気雰囲気中にて150℃、200℃でそれぞれ30分間硬化させた。
【0090】
硬化により得られた被膜の比抵抗値は、それぞれ、9.4×10
−5Ω・cm(硬化温度150℃)、2.5×10
−5Ω・cm(硬化温度200℃)であった。
【0091】
[実施例5]
実施例2で得られた樹枝状銅粉60質量部に、フェノール樹脂(群栄化学株式会社製,PL−2211)20質量部、ブチルセロソルブ(関東化学株式会社製,鹿特級)10質量部を混合し、小型ニーダー(日本精機製作所製,ノンバブリングニーダーNBK−1)を用い、1500rpm、3分間の混錬を4回繰り返すことでペースト化した。得られた導電ペーストを金属スキージでガラス上に印刷し、大気雰囲気中にて150℃、200℃でそれぞれ30分間硬化させた。
【0092】
硬化により得られた被膜の比抵抗値は、それぞれ、9.7×10
−5Ω・cm(硬化温度150℃)、3.1×10
−5Ω・cm(硬化温度200℃)であった。
【0093】
[実施例6]
実施例1にて作製した樹枝状銅粉を樹脂に分散して電磁波シールド材とした。
【0094】
すなわち、実施例1にて得られた樹枝状銅粉55gに対して、塩化ビニル樹脂100gと、メチルエチルケトン200gとをそれぞれ混合し、小型ニーダーを用いて、1500rpm、3分間の混錬を4回繰り返すことによってペースト化した。ペースト化に際しては、銅粉が凝集することなく、樹脂中に均一に分散した。これを、100μmの厚さの透明ポリエチレンテレフタレートシートからなる基材の上にメイヤーバーを用いて塗布・乾燥し、厚さ20μmの電磁波シールド層を形成した。
【0095】
電磁波シールド特性については、周波数1GHzの電磁波を用いて、その減衰率を測定することによって評価した。表1に、特性評価の結果を示す。
【0096】
[比較例1]
電解液に、添加剤としてのサフラニンOと、塩素イオンとを添加しない条件としたこと以外は、実施例1と同じ条件で銅粉を陰極板上に析出させて電解銅粉を作製した。
【0097】
得られた電解銅粉の形状を、上述した走査型電子顕微鏡(SEM)による方法で観察した結果、得られた銅粉は樹枝状の形状を呈していたものの、粒状の銅粒子が集合したものであった。なお、
図6は、この比較例1にて得られた銅粉のSEM観察像(倍率:10,000倍)である。また、得られた銅粉の平均粒子径(D50)は40μm以上にもなり、非常に大きな樹枝状銅粉であることが確認された。
【0098】
[比較例2]
電解液として、銅イオン濃度が10g/L、硫酸濃度が150g/Lの組成のものを用いた。また、この電解液に、添加剤としてサフラニンO(関東化学工業株式会社製)を電解液中の濃度として50mg/Lとなるように添加し、さらに塩酸溶液(和光純薬工業株式会社製)を電解液中の塩化物イオン(塩素イオン)濃度として10mg/Lとなるように添加した。そして、上述したような濃度に調整した電解液を、定量ポンプを用いて15L/minの流量で循環しながら、温度を45℃に維持し、陰極の電流密度が20A/dm
2になるように通電して陰極板上に銅粉を析出させた。なお、これら以外の条件は、実施例1と同様にして電解銅粉を作製した。
【0099】
図7に、得られた電解銅粉の形状をSEMにより倍率10,000倍の視野で観察した結果を示す。析出した銅粉において、粒状の銅粒子が2次元又は3次元に集合した樹枝状の形状の銅粉であった。その樹枝状の主幹及び枝は丸みを帯びており、実施例にて得られた銅粉のように、1層又は複数の重なった積層構造で構成された平板状ではなかった。
【0100】
[比較例3]
従来の平板状銅粉との比較を行うため、機械的に扁平化して平板状銅粉を作製した。具体的に、平板状銅粉の作製は、平均粒子径5.4μmの粒状アトマイズ銅粉(メイキンメタルパウダーズ社製)500gにステアリン酸5gを添加し、ボールミルで扁平化処理を行った。ボールミルには、3mmのジルコニアビーズを5kg投入し、500rpmの回転速度で90分間回転した。
【0101】
こうして作製した平板状銅粉をレーザー回折・散乱法粒度分布測定器で測定した結果、平均粒子径が12.6μmであり、走査型電子顕微鏡で観察した結果、断面平均厚さは0.5μmであった。そして、その断面平均厚さと平均粒子径から算出されるアスペクト比(断面平均厚さ/平均粒子径)は0.04であった。
【0102】
得られた平板状銅粉を、実施例4と同様にして、平板銅粉55質量部に、フェノール樹脂(群栄化学株式会社製,PL−2211)15質量部、ブチルセロソルブ(関東化学株式会社製,鹿特級)10質量部を混合し、小型ニーダー(日本精機製作所製,ノンバブリングニーダーNBK−1)を用い、1500rpm、3分間の混錬を4回繰り返すことでペースト化した。得られた導電ペーストを金属スキージでガラス上に印刷し、大気雰囲気中にて150℃、200℃でそれぞれ30分間硬化させた。
【0103】
硬化により得られた被膜の比抵抗値は、それぞれ、5.4×10
−4Ω・cm(硬化温度150℃)、8.2×10
−5Ω・cm(硬化温度200℃)であった。
【0104】
[比較例4]
比較例3にて作製した平板状銅粉を樹脂に分散して電磁波シールド材とした。
【0105】
すなわち、比較例2にて得られた平板状銅粉40gに対して、塩化ビニル樹脂100gと、メチルエチルケトン200gとをそれぞれ混合し、小型ニーダーを用いて、1500rpm、3分間の混錬を4回繰り返すことによってペースト化した。ペースト化に際しては、銅粉が凝集することなく、樹脂中に均一に分散した。これを100μmの厚さの透明ポリエチレンテレフタレートシートからなる基材の上にメイヤーバーを用いて塗布・乾燥し、厚さ25μmの電磁波シールド層を形成した。
【0106】
電磁波シールド特性については、周波数1GHzの電磁波を用いて、その減衰率を測定することによって評価した。表1に、特性評価の結果を示す。
【0107】
【表1】
本発明に係る銅粉は、直線的に成長した主幹とその主幹から分かれた複数の枝とを有する樹枝状の形状をなし、主幹及び枝は、断面平均厚さが1.0μmを超えて5.0μm以下の平板状の銅粒子1から構成されており、当該銅粉は1層又は複数の重なった積層構造で構成された平板状であって平均粒子径(D50)が1.0μm〜100μmである。