特許第5920545号(P5920545)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5920545粉体塗料用組成物、粉体塗料および塗装物品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5920545
(24)【登録日】2016年4月22日
(45)【発行日】2016年5月18日
(54)【発明の名称】粉体塗料用組成物、粉体塗料および塗装物品
(51)【国際特許分類】
   C09D 127/16 20060101AFI20160428BHJP
   C09D 133/10 20060101ALI20160428BHJP
   C09D 5/03 20060101ALI20160428BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20160428BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20160428BHJP
【FI】
   C09D127/16
   C09D133/10
   C09D5/03
   B05D7/24 301A
   B05D7/24 302L
   B32B27/30 D
【請求項の数】10
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2015-550109(P2015-550109)
(86)(22)【出願日】2015年6月29日
(86)【国際出願番号】JP2015068707
【審査請求日】2015年10月28日
(31)【優先権主張番号】特願2014-136303(P2014-136303)
(32)【優先日】2014年7月1日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2014-136304(P2014-136304)
(32)【優先日】2014年7月1日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】旭硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080159
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 望稔
(74)【代理人】
【識別番号】100090217
【弁理士】
【氏名又は名称】三和 晴子
(74)【代理人】
【識別番号】100121393
【弁理士】
【氏名又は名称】竹本 洋一
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 俊
(72)【発明者】
【氏名】相川 将崇
【審査官】 小久保 敦規
(56)【参考文献】
【文献】 英国特許出願公開第02262100(GB,A)
【文献】 国際公開第2001/025353(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/002964(WO,A1)
【文献】 特開平09−165535(JP,A)
【文献】 特開2006−297685(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00− 10/00
C09D 101/00−201/10
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記ポリビニリデンフルオリド(A)と下記アクリル樹脂(B)とを含む、粉体塗料用組成物。
ポリビニリデンフルオリド(A):融点が151〜200℃のポリビニリデンフルオリド。
アクリル樹脂(B):ガラス転移温度が40〜90℃のアクリル樹脂。
【請求項2】
前記ポリビニリデンフルオリドの結晶化度が10〜35%である、請求項1に記載の粉体塗料用組成物。
【請求項3】
前記アクリル樹脂(B)が、メチルメタクリレートに由来する単位とエチルメタクリレートに由来する単位からなり、
前記メチルメタクリレートに由来する単位と前記エチルメタクリレートに由来する単位の比率[(メチルメタクリレート単位)/(エチルメタクリレート単位)]が50/50〜90/10(モル比)である、請求項1または2に記載の粉体塗料用組成物。
【請求項4】
前記ポリビニリデンフルオリド(A)の融点と前記アクリル樹脂(B)のガラス転移温度の差が65〜150℃である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の粉体塗料用組成物。
【請求項5】
前記ポリビニリデンフルオリド(A)の含有量が、前記ポリビニリデンフルオリド(A)と前記アクリル樹脂(B)との合計100質量部のうち、30〜95質量部である、請求項1〜のいずれか一項に記載の粉体塗料用組成物。
【請求項6】
請求項1〜のいずれか一項に記載の粉体塗料用組成物からなる粉体を含む、粉体塗料。
【請求項7】
基材の表面に、請求項に記載の粉体塗料から形成されてなる塗膜を有する、塗装物品。
【請求項8】
前記基材の材質が、化成処理薬剤で表面処理されたアルミニウムまたはアルミニウム合金である、請求項に記載の塗装物品。
【請求項9】
前記化成処理薬剤が、クロムを含まない、ジルコニウム系処理薬剤またはチタニウム系処理薬剤である、請求項に記載の塗装物品。
【請求項10】
基材の表面と、前記粉体塗料から形成されてなる塗膜の間に、さらに、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂およびエポキシ樹脂からなる群から選択される少なくとも一種のプライマーからなるプライマー層を有する、請求項に記載の塗装物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉体塗料用組成物、粉体塗料および塗装物品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化、オゾン層破壊、酸性雨等の地球的規模の環境破壊問題が大きくクローズアップされている。国際的に地球環境汚染対策が叫ばれ、環境保護の観点から各種規制が行われるようになってきた。中でも、有機溶剤(VOC)の大気中への放出は大きな問題になり、各業界においてもVOC規制強化の流れとともに脱有機溶剤化(脱VOC)の動きが活発になっている。塗料業界においても従来の有機溶剤型塗料に代わり得るものとして、VOCを全く含まず、排気処理、廃水処理が不要で回収再利用も可能な環境に優しい塗料として粉体塗料への期待が高まっている。
【0003】
粉体塗料としては、アクリル樹脂系粉体塗料、ポリエステル樹脂系粉体塗料、またはエポキシ樹脂系粉体塗料が主に用いられている。しかし、これら粉体塗料を用いて形成された塗膜は、耐候性に劣るという欠点を有する。
耐候性に優れる粉体塗料としては、フッ素樹脂を用いたフッ素樹脂系粉体塗料も開発されている。
【0004】
フッ素樹脂系粉体塗料としては、たとえば、下記の粉体塗料が提案されている。
(1)融点が150℃以下、結晶化度が35%以下および質量平均分子量が1×10〜5×10であるビニリデンフルオリド共重合体の粉体と、ガラス転移温度が110℃以下および質量平均分子量が1×10〜5×10であるメチルメタクリレート共重合体の粉体とをドライブレンドした粉体塗料;または前記ビニリデンフルオリド共重合体の水性分散液中にて前記メチルメタクリレート共重合体を形成し得る単量体をシード重合し、得られた水性分散液をスプレードライした粉体塗料(特許文献1)。
(1)の粉体塗料におけるメタクリル酸メチル系共重合体としては、メタクリル酸メチルと、アクリル酸n−ブチル、メタクリル酸t−ブチル等のメタクリル酸メチルと共重合可能な単量体との共重合体が用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−165535号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、(1)の粉体塗料は、重合体が充分に粉砕できず製造困難となることがある。また、顔料等の分散性が悪く、塗膜の耐候性が悪くなることがある。また、(1)の粉体塗料で形成される塗膜は、基材に対する溶融膜の濡れ性が悪いため密着性が充分でないことがある。特に、環境に配慮した、クロム(VI)を含まない化成処理薬剤で表面処理されたアルミニウム基材に対して、塗膜の密着性が低下しやすい。また、溶融膜の溶融粘度が高いため、気泡抜けが悪くなって、塗膜の基材への密着性が悪くなることがある。
【0007】
本発明の目的は、充分に粉砕でき、かつ耐候性および基材に対する密着性に優れた塗膜を形成できる粉体塗料を得ることができる粉体塗料用組成物;耐候性および基材に対する密着性に優れた塗膜を形成できる粉体塗料;ならびに耐候性および基材に対する密着性に優れた塗膜を表面に有する塗装物品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の[1]〜[11]の構成を有する粉体塗料用組成物、粉体塗料および塗装物品を提供する。
[1]下記ポリビニリデンフルオリド(A)と下記アクリル樹脂(B)とを含む、粉体塗料用組成物。
ポリビニリデンフルオリド(A):融点が151〜200℃のポリビニリデンフルオリド。
アクリル樹脂(B):ガラス転移温度が40〜90℃のアクリル樹脂。
[2]前記アクリル樹脂(B)が、メチルメタクリレートに由来する単位とエチルメタクリレートに由来する単位からなり、前記メチルメタクリレートに由来する単位と前記エチルメタクリレートに由来する単位の比率[(メチルメタクリレート単位)/(エチルメタクリレート単位)]が50/50〜90/10(モル比)である、[1]の粉体塗料用組成物。
[3]前記ポリビニリデンフルオリド(A)の融点と前記アクリル樹脂(B)のガラス転移温度の差が65〜150℃である、[1]または[2]の粉体塗料用組成物。
[4]前記ポリビニリデンフルオリド(A)の含有量が、前記ポリビニリデンフルオリド(A)と前記アクリル樹脂(B)との合計100質量部のうち、30〜95質量部である、[1]〜[3]のいずれかの粉体塗料用組成物。
【0009】
[5]前記[1]〜[4]のいずれかの粉体塗料用組成物からなる粉体を含む、粉体塗料。
[6]前記[1]〜[4]のいずれかの粉体塗料用組成物からなる第1の粉体と、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂およびシリコーン樹脂からなる群から選択される少なくとも1種の樹脂(C)を含み、フッ素樹脂を含まない粉体塗料用組成物からなる第2の粉体とを含む、粉体塗料。
[7]前記第1の粉体と前記第2の粉体との混合比((第1の粉体)/(第2の粉体))が、10/90〜90/10(質量比)である、[6]の粉体塗料。
【0010】
[8]基材の表面に、[5]〜[7]のいずれかの粉体塗料から形成されてなる塗膜を有する、塗装物品。
[9]前記基材の材質が、化成処理薬剤で表面処理されたアルミニウムまたはアルミニウム合金である、[8]の塗装物品。
[10]前記化成処理薬剤が、クロムを含まない、ジルコニウム系処理薬剤またはチタニウム系処理薬剤である、[9]の塗装物品。
[11]基材の表面と、前記粉体塗料から形成されてなる塗膜の間に、さらに、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂およびエポキシ樹脂からなる群から選択される少なくとも一種のプライマーからなるプライマー層を有する、[8]の塗装物品。
【発明の効果】
【0011】
本発明の粉体塗料用組成物によれば、充分に粉砕でき、かつ耐候性および基材に対する密着性に優れた塗膜を形成できる粉体塗料を得ることができる。
本発明の粉体塗料によれば、耐候性および基材に対する密着性に優れた塗膜を形成できる。
本発明の塗装物品は、耐候性および基材に対する密着性に優れた塗膜を表面に有する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下の用語の定義は、本明細書および特許請求の範囲にわたって適用される。
「フッ素樹脂」とは、分子中にフッ素原子を有する高分子化合物を意味する。
樹脂の「融点」とは、示差走査熱量測定(DSC)法で測定した融解ピークにおける温度を意味する。
樹脂の「ガラス転移温度」とは、示差走査熱量測定(DSC)法で測定した中間点ガラス転移温度を意味する。
「ドライブレンド」とは、粉体を溶融することなく、また、溶媒を添加することなく、2種以上の粉体を混合することを意味する。
「溶融膜」とは、粉体塗料を塗装して形成された該粉体塗料の溶融物からなる膜を意味する。
「塗膜」とは、前記溶融膜を冷却し、場合によっては硬化することにより形成される膜を意味する。
「単位」とは、重合体中に存在して重合体を構成する、単量体に由来する部分を意味する。また、ある単位の構造を重合体形成後に化学的に変換したものも単位という。
なお、以下、場合により、個々の単量体に由来する単位をその単量体名に「単位」を付した名称で呼ぶ。
【0013】
[粉体塗料用組成物]
本発明の粉体塗料用組成物は、ポリビニリデンフルオリド(A)(以下、PVDF(A)とも記す。)と、アクリル樹脂(B)とを含む粉体塗料用組成物である。なお、「ポリビニリデンフルオリド(A)とアクリル樹脂(B)とを含む粉体塗料用組成物」を、以下、「組成物(α)」という。
【0014】
組成物(α)は、必要に応じて、顔料、硬化剤、硬化触媒、他の成分(以下、これらを総称して「添加剤」と記す。)を含んでいてもよい。
組成物(α)を用いることによって、第1の粉体を製造できる。第1の粉体をそのまま後述する粉体塗料(I)として用いてもよく、第1の粉体と第2の粉体を混合した後述する粉体塗料(II)として用いてもよい。
なお、以下、本発明における第1の粉体を粉体(X)ともいい、本発明における第2の粉体を粉体(Y)ともいう。
【0015】
(PVDF(A))
PVDF(A)は、ビニリデンフルオリド(以下、VDFとも記す。)の単独重合体、またはVDF単位の80モル%以上100モル%未満と、VDF以外の単量体由来の単位の0モル%超20モル%以下とからなる共重合体である。VDF以外の単量体由来の単位の割合が20モル%を超えると、塗膜の耐候性が不充分になる。粉体(X)を熱硬化性の粉体塗料として用いる場合は、PVDF(A)は、カルボキシ基、水酸基、スルホ基等の硬化剤と反応し得る反応性基を有していてもよい。
【0016】
VDF以外の単量体としては、テトラフルオロエチレン、トリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、ペルフルオロブテン酸、マレイン酸、酢酸ビニル等が挙げられ、耐候性の点から、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレンが好ましい。
【0017】
PVDF(A)の融点は、151〜200℃であり、152〜190℃が好ましい。PVDF(A)の融点が前記下限値以上であれば、組成物(α)を粉砕して粉体(X)とする際に組成物(α)を粉砕できる。PVDF(A)の融点が前記上限値以下であれば、塗膜の基材への密着性に優れる。また、組成物(α)中への顔料の分散性に優れ、その結果、塗膜の耐候性がさらに優れる。また、組成物(α)を低温で溶融混練でき、アクリル樹脂(B)の劣化を抑えることができる。その結果、塗膜の黄変が抑えられ、塗膜の外観に優れる。
【0018】
PVDF(A)の数平均分子量(Mn)は、50,000〜400,000が好ましく、100,000〜300,000が特に好ましい。PVDF(A)の数平均分子量が前記範囲内であれば、塗膜が割れにくく、かつ塗膜の基材への密着性に優れる。その結果、塗膜の折り曲げ加工性にさらに優れる。PVDF(A)の数平均分子量が前記下限値以上であれば、組成物(α)を粉砕して粉体(X)とする際に組成物(α)を粉砕しやすい。
PVDF(A)の数平均分子量が前記上限値以下であれば、組成物(α)を低温で溶融混練でき、アクリル樹脂(B)の劣化を抑えることができる。その結果、塗膜の黄変が抑えられ、塗膜の外観に優れる。
【0019】
PVDF(A)の質量平均分子量(Mw)は、100,000〜500,000が好ましく、150,000〜400,000が特に好ましい。PVDF(A)の質量平均分子量が前記範囲内であれば、塗膜が割れにくく、かつ塗膜の基材への密着性に優れる。その結果、塗膜の折り曲げ加工性にさらに優れる。PVDF(A)の質量平均分子量が前記下限値以上であれば、組成物(α)を粉砕して粉体(X)とする際に組成物(α)を粉砕しやすい。PVDF(A)の質量平均分子量が前記上限値以下であれば、組成物(α)を低温で溶融混練でき、アクリル樹脂(B)の劣化を抑えることができる。その結果、塗膜の黄変が抑えられ、塗膜の外観に優れる。
【0020】
PVDF(A)の分子量分布(Mw/Mn)は、1〜3が好ましく、1.2〜2.5が特に好ましい。PVDF(A)の分子量分布が前記範囲内であれば、PVDF(A)の溶融粘度を低く調整できるので、後述するように組成物(α)を溶融混練して製造する際の顔料分散性に優れる。また、PVDF(A)の数平均分子量、質量平均分子量および分子量分布が前記範囲内であれば、PVDF(A)の融点を前記範囲内に調整しやすい。
【0021】
PVDF(A)の溶融粘度は、混練温度である190〜200℃において、1,000〜5,000Pa・sが好ましく、1,500〜4,000Pa・sが特に好ましい。溶融粘度が前記下限値未満のPVDF(A)は製造が困難である。PVDF(A)の溶融粘度が前記上限値以下であれば、顔料分散性や基材への密着性、塗膜の平滑性に優れる。
PVDF(A)の溶融粘度は、回転式レオメータを用いて、昇温速度:10℃/分の条件にて測定する。
【0022】
PVDF(A)の結晶化度は、10〜35%が好ましく、12〜30%が特に好ましい。PVDF(A)の結晶化度が前記下限値以上であれば、塗膜の耐薬品性、耐熱性が優れる。PVDF(A)の結晶化度が前記上限値以下であれば、塗膜物品を加工(折り曲げ加工等)した際に、加工部分における塗膜の色目変化(白化)が抑えられる。
PVDF(A)の結晶化度は、EXSTAR DSC7020(SIIナノテクノロジー社製)を用い、試料の10mgについて、温度範囲:−25〜200℃、昇温速度:10℃/分で熱収支を測定し、得られたチャートの吸熱ピークの面積および試料量から融解熱量M(J/g)を算出し、PVDFの完全結晶体の融解熱量M(EXPRESS Polymer Letters,第4巻,第5号、2010年,p.284−291に記載の文献値:104.5J/g)とから下式(1)によって算出する。
結晶化度(%)=(M/M)×100 ・・・(1)
【0023】
PVDF(A)の急冷時の結晶化度と徐冷時の結晶化度との差(|徐冷時−急冷時|)は、3%以下が好ましく、2.5%以下が特に好ましい。前記結晶化度の差が前記上限値以下であれば、実際の塗装における溶融膜の冷却条件によらず、同じ外観の塗膜を形成できる。
急冷時の結晶化度は、試料について、300℃で完全に溶解させた後、冷却速度:10℃/分で300℃から室温まで冷却し、再結晶化させ、示差走査熱量測定により、再結晶化させた試料の10mgを昇温速度:10℃/分で室温から200℃まで昇温し、得られたチャートの吸熱ピークの面積および試料量から融解熱量M(J/g)を算出し、PVDFの完全結晶体の融解熱量M(EXPRESS Polymer Letters,第4巻,第5号,2010年,p.284−291に記載の文献値:104.5J/g)とから前記式(1)によって算出する。
徐冷時の結晶化度は、再結晶化条件である冷却速度を0.5℃/分に変更した以外は、急冷時の結晶化度と同様にして算出する。
【0024】
PVDF(A)は、公知の重合法によりVDFおよび必要に応じて他の単量体を重合して製造できる。重合法としては、乳化重合法、懸濁重合法等が挙げられる。
【0025】
(アクリル樹脂(B))
アクリル樹脂(B)は、アクリレートまたはメタクリレートに由来する単位を有する重合体である。粉体(X)を熱硬化性の粉体塗料として用いる場合、アクリル樹脂(B)は、カルボキシ基、水酸基、スルホ基等の硬化剤と反応し得る反応性基を有していてもよい。
【0026】
アクリル樹脂(B)は、ガラス転移温度を後述する範囲内に調整しやすい点から、メチルメタクリレート(以下、MMAとも記す。)由来の単位とMMA以外の単量体由来の単位とからなるメチルメタクリレート共重合体が好ましい。
【0027】
他の単量体としては、アルキルアクリレート、アルキルメタクリレート(ただし、メチルメタクリレートを除く。)、ヒドロキシアルキルアクリレート、ヒドロキシアルキルメタクリレート、アクリル酸、メタクリル酸、アクリルアミド、メタクリルアミド、メタクリル酸グリシジル、アクリル酸グリシジル、3−トリメトキシシリルプロピルメタクリレート等が挙げられ、顔料の分散性、基材との密着性、組成物(α)の粉砕のしやすさの点から、エチルメタクリレート(以下、EMAとも記す。)が好ましい。
【0028】
アクリル樹脂(B)としては、MMA単位とEMA単位とからなる重合体が特に好ましい。
MMA単位とEMA単位の比率(MMA単位/EMA単位)は、50/50〜90/10(モル比)が好ましく、55/45〜85/15(モル比)がより好ましく、60/40〜80/20(モル比)が特に好ましい。前記比率(MMA単位/EMA単位)が前記下限値以上であれば、アクリル樹脂(B)のガラス転移温度が低くなりすぎることを抑制しやすく、組成物(α)がより粉砕しやすくなる。前記比率(MMA単位/EMA単位)が前記上限値以下であれば、アクリル樹脂(B)のガラス転移温度が高くなりすぎることを抑制しやすく、基材に対する溶融膜の濡れ性に優れるため、密着性に優れた塗膜が形成されやすい。
【0029】
アクリル樹脂(B)のガラス転移温度は、40〜90℃であり、45〜80℃が好ましい。アクリル樹脂(B)のガラス転移温度が前記下限値以上であれば、組成物(α)を粉砕して粉体とする際に組成物(α)を粉砕できる。また、組成物の溶融混練時にベタつきが少ない。また、粉体のブロッキングが抑えられる。アクリル樹脂(B)のガラス転移温度が前記上限値以下であれば、溶融膜の基材への濡れ性に優れ、その結果、塗膜の基材への密着性に優れる。また、溶融混練時の組成物の溶融粘度が下がるため、組成物(α)中の顔料の分散性に優れ、その結果、塗膜の耐候性にさらに優れる。また、塗装時の溶融膜の溶融粘度が下がり、その結果、気泡抜けがよくなり、塗膜の基材への密着性に優れる。
【0030】
PVDF(A)の融点とアクリル樹脂(B)のガラス転移温度の差は、65〜150℃が好ましく、70〜140℃が特に好ましい。PVDF(A)の融点とアクリル樹脂(B)のガラス転移温度の差が前記下限値以上であれば、組成物(α)を粉砕して粉体とする際に、組成物(α)を粉砕しやすい。また、組成物(α)の溶融混練時にべたつきが少ない。また、粉体のブロッキングが抑えられる。PVDF(A)の融点とアクリル樹脂(B)のガラス転移温度の差が前記上限値以下であれば、組成物(α)中の顔料の分散性に優れる。また、塗装時の溶融膜の溶融粘度が下がり、その結果、気泡抜けがよくなり、塗膜の基材への密着性に優れる。
【0031】
アクリル樹脂(B)の数平均分子量(Mn)は、20,000〜100,000が好ましく、30,000〜90,000が特に好ましい。アクリル樹脂(B)の数平均分子量が前記下限値以上であれば、組成物を粉砕して粉体とする際に組成物を粉砕しやすい。また、組成物の溶融混練時にベタつきが少ない。また、粉体のブロッキングが抑えられる。アクリル樹脂(B)の数平均分子量が前記上限値以下であれば、溶融膜の基材への濡れ性に優れ、その結果、塗膜の基材への密着性に優れる。また、溶融混練時の組成物の溶融粘度が下がるため、組成物中への顔料の分散性に優れ、その結果、塗膜の耐候性にさらに優れる。また、塗装時の溶融膜の溶融粘度が下がり、その結果、気泡抜けがよくなり、塗膜の基材への密着性に優れる。
【0032】
アクリル樹脂(B)の質量平均分子量(Mw)は、30,000〜200,000が好ましく、40,000〜150,000が特に好ましい。アクリル樹脂(B)の質量平均分子量が前記下限値以上であれば、組成物を粉砕して粉体とする際に組成物を粉砕しやすい。また、組成物の溶融混練時にベタつきが少ない。また、粉体のブロッキングが抑えられる。アクリル樹脂(B)の質量平均分子量が前記上限値以下であれば、溶融膜の基材への濡れ性に優れ、その結果、塗膜の基材への密着性に優れる。また、溶融混練時の組成物の溶融粘度が下がるため、組成物中への顔料の分散性に優れ、その結果、塗膜の耐候性にさらに優れる。また、塗装時の溶融膜の溶融粘度が下がり、その結果、気泡抜けがよくなり、塗膜の基材への密着性に優れる。
【0033】
アクリル樹脂(B)の分子量分布(Mw/Mn)は、1〜4が好ましく、1.2〜3が特に好ましい。アクリル樹脂(B)の分子量分布が前記範囲内であれば、110〜210℃における溶融粘度が低くなり、顔料分散性や基材への密着性、塗膜の平滑性に優れる。また、アクリル樹脂の数平均分子量、質量平均分子量および分子量分布が前記範囲内であれば、アクリル樹脂のガラス転移温度を前記範囲内に調整しやすい。
【0034】
アクリル樹脂(B)の溶融粘度は、混練温度である190〜200℃において、10〜1,000Pa・sが好ましく、50〜500Pa・sが特に好ましい。アクリル樹脂(B)の溶融粘度が前記下限値未満であれば、PVDF(A)の溶融粘度との差が大きくなりすぎ、PVDF(A)との溶融混練が不充分になる。アクリル樹脂(B)の溶融粘度が前記上限値以下であれば、PVDF(A)の高い溶融粘度をカバーして、粉体塗料用組成物全体の溶融粘度を充分に低下させるため、顔料分散性や基材への密着性、塗膜の平滑性に優れる。
アクリル樹脂(B)の溶融粘度は、回転式レオメータを用いて、昇温速度:10℃/分の条件にて測定する。
【0035】
(顔料)
顔料としては、光輝顔料、防錆顔料、着色顔料および体質顔料からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0036】
光輝顔料は、塗膜を光輝かせるための顔料である。光輝顔料としては、アルミニウム粉、ニッケル粉、ステンレス粉、銅粉、ブロンズ粉、金粉、銀粉、雲母粉、グラファイト粉、ガラスフレーク、鱗片状酸化鉄粉等が挙げられる。
【0037】
防錆顔料は、防錆性が必要な基材に対して、基材の腐食や変質を防止するための顔料である。防錆顔料としては、環境への負荷が少ない無鉛防錆顔料が好ましい。無鉛防錆顔料としては、シアナミド亜鉛、酸化亜鉛、リン酸亜鉛、リン酸カルシウムマグネシウム、モリブデン酸亜鉛、ホウ酸バリウム、シアナミド亜鉛カルシウム等が挙げられる。
【0038】
着色顔料は、塗膜を着色するための顔料である。着色顔料としては、酸化チタン、カーボンブラック、酸化鉄、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、キナクリドン、イソインドリノン、ベンズイミダゾロン、ジオキサジン等が挙げられる。
【0039】
体質顔料は、塗膜の硬度を向上させ、かつ塗膜の厚さを増すための顔料である。また、基材が切断された場合に、塗膜の切断面をきれいにできることからも配合することが好ましい。体質顔料としては、タルク、硫酸バリウム、マイカ、炭酸カルシウム等が挙げられる。
【0040】
酸化チタンとしては、光触媒反応が進行しにくくなるような表面処理がなされたものが好ましく、具体的には、シリカ、アルミナ、ジルコニア、セレン、有機成分(ポリオール等)等で表面処理された酸化チタンが好ましく、これらの表面処理によって、酸化チタン含有量が83〜90質量%に調整された酸化チタンが特に好ましい。酸化チタン含有量が前記下限値以上であれば、塗膜の白色度に優れる。酸化チタン含有量が前記上限値以下であれば、塗膜が劣化しにくい。
【0041】
酸化チタンの市販品としては、石原産業社製の「タイペーク(商品名) PFC105」(酸化チタン含有量:87質量%)、「タイペーク(商品名) CR95」(酸化チタン含有量:90質量%)、堺化学社製の「D918」(酸化チタン含有量:85質量%)、デュポン社製の「Ti−Pure(商品名) R960」(酸化チタン含有量:89質量%)、「Ti−Select(商品名)」(酸化チタン含有量:90質量%)等が挙げられる。
【0042】
(硬化剤)
粉体(X)を熱硬化性の粉体塗料として用いる場合は、組成物(α)は硬化剤を含んでいてもよい。
硬化剤は、樹脂(PVDF(A)、アクリル樹脂(B)等)の反応性基と反応して樹脂を架橋したり高分子量化して、樹脂を硬化させる化合物である。硬化剤は、樹脂が有する反応性基(水酸基、カルボキシ基等)に反応し得る反応性基を2個以上有する。硬化剤の反応性基は、常温で樹脂の反応性基に反応しやすいものは好ましくない点から、粉体塗料が加熱溶融された際に反応し得る反応性基であることが好ましい。たとえば、常温で高い反応性基を有するイソシアナート基よりもブロック化イソシアナート基が好ましい。ブロック化イソシアナート基は、粉体塗料が加熱溶融された際にブロック剤が脱離してイソシアナート基となり、該イソシアナート基が反応性基として作用する。
【0043】
硬化剤としては、公知の化合物を用いることができ、たとえば、ブロック化イソシアナート系硬化剤、アミン系硬化剤(メラミン樹脂、グアナミン樹脂、スルホアミド樹脂、尿素樹脂、アニリン樹脂等)、β−ヒドロキシアルキルアミド系硬化剤、トリグリシジルイソシアヌレート系硬化剤等が挙げられる。基材との密着性、塗装後の製品の加工性、塗膜の耐水性に優れる点から、ブロック化イソシアナート系硬化剤が特に好ましい。
硬化剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0044】
硬化剤の軟化温度は、10〜120℃が好ましく、40〜100℃が特に好ましい。軟化温度が前記下限値以上であれば、粉体塗料が室温で硬化しにくく、粒状の塊ができにくい。軟化温度が前記上限値以下であれば、組成物を溶融混練して粉体を製造する際、硬化剤を粉体中に均質に分散させやすく、得られる塗膜の表面平滑性、強度および耐湿性等に優れる。
【0045】
ブロック化イソシアナート系硬化剤としては、室温で固体のものが好ましい。
ブロック化イソシアナート系硬化剤としては、脂肪族、芳香族または芳香脂肪族のジイソシアナートと、活性水素を有する低分子化合物とを反応させて得たポリイソシアナートを、ブロック剤と反応させ、マスキングすることによって製造したものが好ましい。
【0046】
ジイソシアナートとしては、トリレンジイソシアナート、4,4’−ジフェニルメタンイソシアナート、キシリレンジイソシアナート、ヘキサメチレンジイソシアナート、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアナート)、メチルシクロヘキサンジイソシアナート、ビス(イソシアナートメチル)シクロヘキサン、イソホロンジイソシアナート、ダイマー酸ジイソシアナート、リジンジイソシアナート等が挙げられる。
【0047】
活性水素を有する低分子化合物としては、水、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチロールプロパン、グリセリン、ソルビトール、エチレンジアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、ヘキサメチレンジアミン、イソシアヌレート、ウレチジオン、水酸基を含有する低分子量ポリエステル、ポリカプロラクトン等が挙げられる。
【0048】
ブロック剤としては、アルコール類(メタノール、エタノール、ベンジルアルコール等)、フェノール類(フェノール、クレゾール等)、ラクタム類(カプロラクタム、ブチロラクタム等)、オキシム類(シクロヘキサノン、オキシム、メチルエチルケトオキシム等)等が挙げられる。
【0049】
(硬化触媒)
粉体(X)を熱硬化性の粉体塗料として用いる場合は、組成物(α)は硬化触媒を含んでいてもよい。
硬化触媒は、硬化反応を促進し、塗膜に優れた化学性能および物理性能を付与するものである。
ブロック化イソシアナート系硬化剤を用いる場合、硬化触媒としては、スズ触媒(オクチル酸スズ、トリブチルスズラウレート、ジブチルスズジラウレート等)が好ましい。
硬化触媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0050】
(他の成分)
組成物(α)は、必要に応じて、顔料、硬化剤および硬化触媒以外の添加剤(以下、他の添加剤とも記す。)を含んでいてもよい。
他の添加剤としては、たとえば、紫外線吸収剤、光安定剤、つや消し剤(超微粉合成シリカ等)、界面活性剤(ノニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、またはアニオン系界面活性剤)、レベリング剤、表面調整剤(塗膜の表面平滑性を向上させる)、脱ガス剤(粉体に巻き込まれる空気、硬化剤から出てくるブロック剤、水分等が塗膜内に留まらないよう、溶融膜外へ出す作用がある。なお、通常は、固体だが、溶融すると非常に低粘度になる。)、充填剤、熱安定剤、増粘剤、分散剤、帯電防止剤、防錆剤、シランカップリング剤、防汚剤、低汚染化剤等が挙げられる。
【0051】
(組成物(α)の各成分の含有量)
組成物(α)中のPVDF(A)の含有量は、PVDF(A)とアクリル樹脂(B)との合計100質量部のうち、30〜95質量部が好ましく、35〜90質量%がより好ましく、40〜85質量%が特に好ましい。PVDF(A)の含有量が前記下限値以上であれば、塗膜の耐候性にさらに優れる。PVDF(A)の含有量が前記上限値以下であれば、塗膜の折り曲げ加工性にさらに優れる。
【0052】
組成物(α)が含む樹脂成分はPVDF(A)とアクリル樹脂(B)のみからなる、すなわち組成物(α)はPVDF(A)およびアクリル樹脂(B)以外の他の樹脂を含まないことが好ましい。組成物(α)が他の樹脂を含まなければ、塗膜の耐候性および密着性にさらに優れる。
【0053】
組成物(α)が顔料を含む場合、組成物(α)中の顔料の含有量は、組成物(α)に含まれる樹脂成分の100質量部に対して、20〜200質量部が好ましく、50〜150質量部が特に好ましい。
【0054】
組成物(α)が硬化剤を含む場合、組成物(α)中の硬化剤(E)の含有量は、組成物(α)に含まれる樹脂成分の100質量部に対して、1〜50質量部が好ましく、3〜30質量部が特に好ましい。
硬化剤がブロック化イソシアナート系硬化剤の場合、組成物(α)中のブロック化イソシアナート系硬化剤の含有量は、組成物(α)中の水酸基に対するイソシアナート基のモル比が0.05〜1.5となる量が好ましく、0.8〜1.2となる量が特に好ましい。該モル比が前記範囲の下限値以上であれば、粉体塗料の硬化度が高くなり、基材への塗膜の密着性、塗膜の硬度および耐薬品性等に優れる。該モル比が前記範囲の上限値以下であれば、塗膜が脆くなりにくく、しかも、塗膜の耐熱性、耐薬品性、耐湿性等に優れる。
【0055】
組成物(α)が硬化触媒を含む場合、組成物(α)中の硬化触媒の含有量は、顔料以外の組成物(α)中の固形分の合計100質量部に対して、0.0001〜10質量部が好ましい。硬化触媒の含有量が前記下限値以上であれば、触媒効果が充分に得られやすい。硬化触媒の含有量が前記上限値以下であれば、粉体塗料の塗装時に粉体塗料中に巻き込まれた空気等の気体が抜けやすく、気体が残存することで生じる塗膜の耐熱性、耐候性および耐水性の低下が少ない。
【0056】
組成物(α)が他の添加剤を含む場合、組成物(α)中の他の添加剤の合計の含有量は、組成物(α)(100質量%)のうち、45質量%以下が好ましく、30質量%以下が特に好ましい。
【0057】
(作用機序)
以上説明した本発明の粉体塗料用組成物(組成物(α))にあっては、融点を特定の範囲に制御したPVDF(A)と、ガラス転移温度を特定の範囲に制御したアクリル樹脂(B)を組み合わせるため、粉体塗料とする際に充分に粉砕が可能で、かつ耐候性および密着性に優れた塗膜を形成できる粉体塗料を得ることができる。
また、PVDF(A)に、特定の比率のMMA単位およびEMA単位からなるアクリル樹脂(B)を組み合わせる場合には、基材に対する溶融膜の濡れ性がより優れ、密着性がより優れた塗膜を形成できる粉体塗料を得ることができる。特に、クロム(VI)を含まない化成処理薬剤で表面処理されたアルミニウム基材に対しても、溶融膜の濡れ性に優れ、密着性に優れた塗膜を形成できる粉体塗料を得ることができる。
【0058】
[粉体塗料]
本発明の粉体塗料は、下記の粉体塗料(I)と粉体塗料(II)とに分けられる。
粉体塗料(I):本発明の粉体塗料用組成物(組成物(α))からなる第1の粉体(粉体(X))を含む。
粉体塗料(II):本発明の粉体塗料用組成物(組成物(α))からなる第1の粉体(粉体(X))と、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂およびシリコーン樹脂からなる群から選択される少なくとも1種の樹脂(C)を含み、フッ素樹脂を含まない粉体塗料用組成物からなる第2の粉体(粉体(Y))とを含む。
なお、「樹脂(C)を含み、フッ素樹脂を含まない粉体塗料用組成物」を、以下、「組成物(β)」という。
以下、粉体塗料(I)および粉体塗料(II)のそれぞれについて説明する。
【0059】
[粉体塗料(I)]
粉体塗料(I)は、粉体(X)の少なくとも1種を含む。
粉体塗料(I)中の粉体(X)の含有量は、50〜100質量%が好ましく、70〜100質量%がより好ましく、80〜100質量%がさらに好ましく、90〜100質量%が特に好ましい。粉体塗料(I)が、粉体(X)のみからなる塗料であってもよい。
【0060】
(粉体塗料(I)の製造方法)
粉体塗料(I)は、たとえば、下記工程(a)、工程(b)および工程(c)を有する製造方法によって製造できる。
(a)PVDF(A)とアクリル樹脂(B)とを含み、必要に応じて前記添加剤を含んでもよい混合物を溶融混練して組成物(α)からなる混練物を得る工程。
(b)組成物(α)からなる混練物を粉砕して粉体(X)を得る工程。
(c)必要に応じて、粉体(X)の分級を行う工程。
【0061】
<工程(a)>
各成分を混合し混合物を調製した後、該混合物を溶融混練して各成分が均一化された混練物を得る。
各成分は、あらかじめ粉砕して粉末状にすることが好ましい。
混合に用いる装置としては、高速ミキサ、V型ミキサ、反転ミキサ等が挙げられる。
溶融混練に用いる装置としては、1軸押出機、2軸押出機、遊星ギア等が挙げられる。
混練物は、冷却後、ペレットとすることが好ましい。
【0062】
<工程(b)>
粉砕に用いる装置としては、ピンミル、ハンマーミル、ジェットミル等の粉砕機が挙げられる。
【0063】
<工程(c)>
粒子径の大きすぎる粉体や粒子径の小さすぎる粉体を除去するために、粉砕後に分級を行うことが好ましい。分級を行う場合、粒子径が10μm未満の粒子および粒子径が100μmを超える粒子の少なくともいずれかを除去することが好ましい。
分級方法としては、ふるい分けによる方法、空気分級法等が挙げられる。
【0064】
粉体(X)の平均粒子径は、たとえば、50%平均体積粒度分布で15〜50μmが好ましい。粉体の粒子径の測定は、通常、細孔通過時の電位変化を捉える形式、レーザー回折方式、画像判断形式、沈降速度測定方式等の粒子径測定機を用いて行われる。
【0065】
(作用機序)
以上説明した粉体塗料(I)にあっては、本発明の粉体塗料用組成物(組成物(α))からなる粉体を含むため、耐候性および基材に対する密着性に優れた塗膜を形成できる。
【0066】
[粉体塗料(II)]
粉体塗料(II)は、粉体(X)の少なくとも1種および下記粉体(Y)の少なくとも1種を含む。
粉体(Y):組成物(β)からなる粉体。組成物(β)は、必要に応じて添加剤を含んでいてもよい。
【0067】
粉体塗料(II)中の粉体(X)と粉体(Y)との合計の含有量は、50〜100質量%が好ましく、70〜100質量%がより好ましく、80〜100質量%がさらに好ましく、90〜100質量%が特に好ましい。粉体塗料(II)が、粉体(X)および粉体(Y)のみからなる塗料であってもよい。
【0068】
粉体塗料(II)中の粉体(X)と粉体(Y)との混合比(粉体(X)/粉体(Y))は、10/90〜90/10(質量比)が好ましく、20/80〜80/20(質量比)がより好ましく、25/75〜75/25(質量比)が特に好ましい。粉体(X)の割合が前記下限値以上であれば、塗膜の耐候性がさらに優れる。粉体(Y)の割合が前記下限値以上であれば、塗膜のコストを抑えることができる。
【0069】
(樹脂(C))
樹脂(C)は、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂およびシリコーン樹脂からなる群から選択される少なくとも1種である。
【0070】
<アクリル樹脂>
アクリル樹脂としては、組成物(α)で例示したアクリル樹脂(B)と同様のものが挙げられ、好ましい態様も同様である。
【0071】
<ポリエステル樹脂>
ポリエステル樹脂としては、多価カルボン酸化合物に由来する単位と多価アルコール化合物に由来する単位とを有し、必要に応じて、これら2種の単位以外の単位(たとえば、ヒドロキシカルボン酸化合物に由来する単位等)を有するものが挙げられる。
【0072】
多価カルボン酸化合物としては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、フタル酸無水物等が挙げられ、硬化膜が耐候性に優れる点から、イソフタル酸が好ましい。
【0073】
多価アルコール化合物としては、基材との密着性および硬化膜の柔軟性に優れる点から、脂肪族多価アルコール、または脂環族多価アルコールが好ましく、脂肪族多価アルコールがより好ましい。
多価アルコール化合物としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、スピログリコール、1,10−デカンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール等が挙げられる。
多価アルコールとしては、ネオペンチルグリコール、1,2−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、トリメチロールプロパン等が好ましく、入手容易の点で、ネオペンチルグリコール、またはトリメチロールプロパンが特に好ましい。
【0074】
ポリエステル樹脂の市販品としては、ダイセル・オルネクス社製の「CRYLCOAT(商品名) 4642−3」、「CRYLCOAT(商品名) 4890−0」、日本ユピカ社製の「GV−250」、「GV−740」、「GV−175」等が挙げられる。
【0075】
<ウレタン樹脂>
ウレタン樹脂としては、ポリオール(アクリルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、多価アルコール等)と、イソシアナート化合物とを混合した混合物、または反応させた樹脂が挙げられる。粉末状のポリオール(アクリルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール等)と粉末状のイソシアナート化合物やブロック化イソシアナート化合物とからなる粉体塗料を用いることが好ましい。
【0076】
<エポキシ樹脂>
エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)−1−ブタノールの1,2−エポキシ−4−(2−オキシラニル)シクロヘキサン付加物等が挙げられる。
エポキシ樹脂の市販品としては、三菱化学社製の「エピコート(商品名) 1001」、「エピコート(商品名) 1002」、「エピコート(商品名) 4004P」、DIC社製の「エピクロン(商品名) 1050」、「エピクロン(商品名) 3050」、新日鉄住金化学社製の「エポトート(商品名) YD−012」、「エポトート(商品名) YD−014」、ナガセケムテックス社製の「デナコール(商品名) EX−711」、ダイセル社製の「EHPE3150」等が挙げられる。
【0077】
<シリコーン樹脂>
シリコーン樹脂としては、分岐構造を有し、反応活性基としてシラノール基(Si−OH)を有しており、互いに脱水縮合することで硬化し、硬化後は三次元架橋構造の塗膜を形成し得るものが挙げられる。また、比較的低分子量のシリコーン樹脂(変性用シリコーン樹脂中間体)と他の熱硬化性樹脂(アルキッド樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂等)とを併用してもよい。
シリコーン樹脂の市販品としては、JSR社製の「グラスカ HPC−7506」、カネカ社製の「ゼムラック(商品名)」、エボニック社製の「SILIKOPON(商品名) EF」、「SILIKOPON(商品名) EW」、「SILIKOPON(商品名) EC」、「SILIKOPON(商品名) ED」等が挙げられる。
【0078】
(添加剤)
添加剤としては、組成物(α)で例示したものと同様のものが挙げられ、好ましい態様も同様である。
【0079】
(組成物(β)の各成分の含有量)
組成物(β)中の樹脂(C)の含有量は、組成物(β)(100質量%)のうち、20〜85質量%が好ましく、30〜80質量%がより好ましく、40〜75質量%が特に好ましい。
【0080】
組成物(β)が硬化剤を含む場合、組成物(β)中の硬化剤の含有量は、組成物(β)に含まれる樹脂成分の100質量部に対して、1〜50質量部が好ましく、3〜30質量部が特に好ましい。
硬化剤がブロック化イソシアナート系硬化剤の場合、組成物(β)中のブロック化イソシアナート系硬化剤の含有量は、組成物(β)中の水酸基に対するイソシアナート基のモル比が0.05〜1.5となる量が好ましく、0.8〜1.2となる量が特に好ましい。該モル比が前記範囲の下限値以上であれば、粉体塗料の硬化度が高くなり、基材への塗膜の密着性、塗膜の硬度および耐薬品性等が優れる。該モル比が前記範囲の上限値以下であれば、塗膜が脆くなりにくく、しかも、塗膜の耐熱性、耐薬品性、耐湿性等が優れる。
【0081】
組成物(β)が硬化触媒を含む場合、組成物(β)中の硬化触媒の含有量は、顔料以外の組成物(β)中の固形分の合計100質量部に対して、0.0001〜10質量部が好ましい。硬化触媒の含有量が前記下限値以上であれば、触媒効果が充分に得られやすい。硬化触媒の含有量が前記上限値以下であれば、粉体塗料の塗装時に粉体塗料中に巻き込まれた空気等の気体が抜けやすく、気体が残存することで生じる塗膜の耐熱性、耐候性および耐水性の低下が少ない。
【0082】
組成物(β)が他の添加剤を含む場合、組成物(β)中の他の添加剤の合計の含有量は、組成物(β)(100質量%)のうち、45質量%以下が好ましく、30質量%以下が特に好ましい。
【0083】
(粉体塗料(II)全体における各成分の含有量)
組成物(α)中のアクリル樹脂(B)および組成物(β)中の樹脂(C)の合計の含有量は、組成物(α)中のPVDF(A)およびアクリル樹脂(B)と組成物(β)中の樹脂(C)との合計の100質量部に対して、10〜90質量部が好ましく、20〜80質量部がより好ましく、25〜75質量部が特に好ましい。アクリル樹脂(B)および樹脂(C)の合計の含有量が前記下限値以上であれば、塗膜のコストを抑えることができる。アクリル樹脂(B)および樹脂(C)の合計の含有量が前記上限値以下であれば、塗膜の耐候性がさらに優れる。
【0084】
組成物(α)中の顔料および組成物(β)中の顔料の合計の含有量は、組成物(α)および組成物(β)に含まれる樹脂成分の100質量部に対して、20〜200質量部が好ましく、50〜150質量部が特に好ましい。
【0085】
(粉体塗料(II)の製造方法)
粉体塗料(II)は、たとえば、下記工程(a)〜(g)を有する製造方法によって製造できる。
(a)PVDF(A)とアクリル樹脂(B)とを含み、必要に応じて添加剤を含んでもよい混合物を溶融混練して組成物(α)からなる混練物を得る工程。
(b)組成物(α)からなる混練物を粉砕して粉体(X)を得る工程。
(c)必要に応じて、粉体(X)の分級を行う工程。
(d)樹脂(C)を含み、フッ素樹脂を含まず、必要に応じて添加剤を含んでもよい、混合物を溶融混練して組成物(β)からなる混練物を得る工程。
(e)前記組成物(β)からなる混練物を粉砕して粉体(Y)を得る工程。
(f)必要に応じて、粉体(Y)の分級を行う工程。
(g)粉体(X)と粉体(Y)とをドライブレンドする工程。
【0086】
<工程(a)、(d)>
各成分を混合し混合物を調製した後、該混合物を溶融混練して各成分が均一化された混練物を得る。
各成分は、あらかじめ粉砕して粉末状にすることが好ましい。
混合に用いる装置としては、高速ミキサ、V型ミキサ、反転ミキサ等が挙げられる。
溶融混練に用いる装置としては、1軸押出機、2軸押出機、遊星ギア等が挙げられる。
混練物は、冷却後、ペレットとすることが好ましい。
【0087】
<工程(b)、(e)>
粉砕に用いる装置としては、ピンミル、ハンマーミル、ジェットミル等の粉砕機が挙げられる。
【0088】
<工程(c)、(f)>
粒子径の大きすぎる粉体や粒子径の小さすぎる粉体を除去するために、粉砕後に分級を行うことが好ましい。分級を行う場合、粒子径が10μm未満の粒子および粒子径が100μmを超える粒子の少なくともいずれかを除去することが好ましい。
分級方法としては、ふるい分けによる方法、空気分級法等が挙げられる。
【0089】
粉体(X)および粉体(Y)の平均粒子径は、たとえば、50%平均体積粒度分布で15〜50μmが好ましい。粉体の粒子径の測定は、通常、細孔通過時の電位変化を捉える形式、レーザー回折方式、画像判断形式、沈降速度測定方式等の粒子径測定機を用いて行われる。
【0090】
<工程(g)>
ドライブレンドに用いる装置としては、ハイスピードミキサ、ダブルコーンミキサ、ニーダ、ダンプラーミキサ、ミキシングシェーカ、ドラムシェーカ、ロッキングシェーカ等が挙げられる。
粉体(X)と粉体(Y)との混合比(粉体(X)/粉体(Y))は、10/90〜90/10(質量比)が好ましく、20/80〜80/20(質量比)がより好ましく、25/75〜75/25(質量比)が特に好ましい。粉体(X)の割合が前記下限値以上であれば、塗膜の耐候性がさらに優れる。粉体(Y)の割合が前記下限値以上であれば、塗膜のコストを抑えることができる。
【0091】
(作用機序)
以上説明した粉体塗料(II)にあっては、粉体(X)と粉体(Y)とを含むため、耐候性および基材に対する密着性に優れた塗膜を形成できる。
【0092】
[塗装物品]
本発明の塗装物品は、基材の表面に、粉体塗料(I)または粉体塗料(II)(以下、粉体塗料(I)および粉体塗料(II)をまとめて粉体塗料とも記す。)から形成されてなる塗膜を有する。
基材と前記塗膜との密着性を高めるために、基材と前記塗膜の間にプライマーを含むプライマー層を有していてもよい。
プライマーとしては、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂およびエポキシ樹脂からなる群から選択される少なくとも一種の樹脂を適宜用いることができる。
プライマー層の膜厚は、1〜60μmが好ましく、5〜40μmがより好ましい。
【0093】
(基材)
基材の材質としては、アルミニウム、鉄、マグネシウム等の金属類が好ましく、防食性に優れ、軽量で、建築材料用途に優れた性能を有する点から、アルミニウムまたはアルミニウム合金がより好ましい。アルミニウム合金としては、アルミニウムと、銅、マンガン、ケイ素、マグネシウム、亜鉛およびニッケルからなる群から選ばれる少なくとも一種との合金が挙げられる。基材の形状、サイズ等は、特に限定されない。
【0094】
アルミニウムまたはアルミニウム合金は、表面が酸化比較皮膜を有していてもよく、化成処理薬剤で表面処理されていてもよく、基材と粉体塗料から形成されてなる塗膜との密着性に優れることから、化成処理薬剤で表面処理されていることが特に好ましい。
化成処理薬剤としては、6価クロム系処理薬剤、3価クロム系処理薬剤、ジルコニウム系処理薬剤、チタニウム系処理薬剤などが挙げられる。環境への配慮の点から、ジルコニウム系処理薬剤、チタニウム系処理薬剤が好ましい。
具体的に、ジルコニウム系処理薬剤としては、日本シー・ビー・ケミカル社製の「ケミボンダ―(商品名)5507、5703、5705、5706」、日本パーカライジング社製の「パルコート3762、3796、20X」、ヘンケル社製の「アロジン(商品名)5200、4707」、日本ペイント社製の「アルサーフ(商品名)320、375」、バルクケミカル社製の「E−CLPS(商品名)1700、1900」等が挙げられ、チタニウム系処理薬剤としては、日本ペイント社製の「アルサーフ(商品名)CX4707」、バルクケミカル社製の「E−CLPS(商品名)2100、2900」等が挙げられる。
【0095】
(塗装物品の製造方法)
本発明の塗装物品は、下記工程(h)および工程(i)を有する製造方法によって製造できる。
(h)粉体塗料を基材に塗装し、粉体塗料の溶融物からなる溶融膜を形成する工程。
(i)溶融膜を冷却して塗膜を形成する工程。
【0096】
<工程(h)>
粉体塗料を基材に塗装して基材上に粉体塗料の溶融物からなる溶融膜を形成する。
粉体塗料の溶融物からなる溶融膜は、基材への粉体塗料の塗装と同時に形成してもよく、基材に粉体塗料の粉体を付着させた後に基材上で粉体を加熱溶融させて形成してもよい。粉体塗料が熱硬化性の場合、粉体塗料が加熱溶融されるとほぼ同時に、組成物中の反応成分の硬化反応が開始するため、粉体塗料の加熱溶融と基材への付着はほぼ同時に行うか、粉体塗料の基材への付着の後に粉体塗料の加熱溶融を行う必要がある。
【0097】
プライマー層を有する場合、プライマー層と粉体塗料の溶融物からなる溶融膜は、基材に、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂およびエポキシ樹脂からなる群から選択される少なくとも一種のプライマーを付着させたのち、粉体塗料の粉体を付着させ、加熱溶融させて形成することができる。なお、基材に前記プライマーを付着させ、加熱溶融させたのち、粉体塗料の粉体を付着させ、再度加熱溶融させても形成することができる。
【0098】
粉体塗料を加熱して溶融し、その溶融状態を所定時間維持するための加熱温度(以下、焼付け温度とも記す。)と加熱維持時間(以下、焼付け時間とも記す。)は、粉体塗料の原料成分の種類や組成、所望する塗膜の厚さ等により適宜設定される。粉体塗料が熱可塑性の場合、焼付け温度は、200〜300℃が好ましい。焼付け時間は、5〜180分が好ましい。粉体塗料が熱硬化性の場合、焼付け温度は、硬化剤の反応温度に応じて設定することが好ましい。たとえば、硬化剤としてブロック化ポリイソシアナート系硬化剤を用いた場合の焼付け温度は、170〜210℃が好ましい。焼付け時間は、5〜120分が好ましく、10〜60分が特に好ましい。
【0099】
塗装方法としては、静電塗装法、静電吹付法、静電浸漬法、噴霧法、流動浸漬法、吹付法、スプレー法、溶射法、プラズマ溶射法等が挙げられる。溶融膜を薄膜化した場合でも、溶融膜の表面平滑性に優れ、さらに、塗膜の隠ぺい性に優れる点からは、粉体塗装ガンを用いた静電塗装法が好ましい。
【0100】
粉体塗装ガンとしては、コロナ帯電型塗装ガンまたは摩擦帯電型塗装ガンが挙げられる。コロナ帯電型塗装ガンは、粉体塗料をコロナ放電処理して吹き付けるものである。摩擦帯電型塗装ガンは、粉体塗料を摩擦帯電処理して吹き付けるものである。
粉体塗装ガンからの粉体塗料の吐出量は、50〜200g/分が好ましい。
粉体塗装ガンのガン部分の先端から基材までの距離は、塗着効率の点から、150〜400mmが好ましい。
【0101】
コロナ帯電型塗装ガンを用いる場合、コロナ放電処理によって粉体塗料を構成する成分に加える荷電圧は、−50〜−100kVが好ましく、塗着効率(粉体塗料が基材に付着する割合)と塗膜の外観に優れる点から、−60〜−80kVが好ましい。
摩擦帯電型塗装ガンを用いる場合、摩擦帯電処理による粉体塗料の内部発生電流値は、塗着効率と塗膜の外観に優れる点から、1〜8μAが好ましい。
【0102】
静電塗装法を工業的に実施する場合には、たとえば、未塗装の基材を設置し、かつアースをするための、アースが取られた導電性水平ベルトコンベアを、塗装室に敷設し、塗装室上部にガンを設置する。塗装パターン幅は50〜500mmが好ましく、ガンの運行スピードは1〜30m/分が好ましく、コンベアスピードは1〜50m/分が好ましく、目的に合わせて前記範囲から適した条件を選択すればよい。
【0103】
塗装方法としては、比較的厚い塗膜を形成できる点からは、流動浸漬法が好ましい。
流動浸漬法においては、空気等のガスに担持されて流動している粉体塗料が収容されている流動槽中に、粉体塗料の溶融温度以上の温度に塗装面が加熱されている基材を浸漬し、粉体を基材の塗装面に付着させるとともに溶融し、基材上に所定の厚さの溶融膜を形成した後、塗装された基材を流動槽から取り出し、場合により所定時間溶融膜の溶融状態を維持し、その後溶融状態の塗膜を冷却し、場合によっては硬化して、塗膜が形成された基材とすることが好ましい。
【0104】
流動浸漬法における流動槽内の温度は15〜55℃が好ましく、粉体を流動化させるために流動槽に吹き込む空気等のガスの温度も15〜55℃が好ましい。流動槽に浸漬する際の基材の少なくとも塗装面の温度は300〜450℃が好ましく、基材を流動槽内に浸漬させておく時間は1〜120秒が好ましい。流動槽から取り出した基材は1〜5分間、150〜250℃の温度に維持することが好ましい。
【0105】
<工程(f)>
溶融状態の溶融膜を室温(20〜25℃)まで冷却し、場合によっては硬化させて塗膜を形成する。
焼付け後の冷却は、急冷、徐冷のいずれでもよく、基材から塗膜がはがれにくい点で、徐冷が好ましい。
塗膜の厚さは、特に制限されないが、100〜1,000μmが好ましい。アルミカーテンウォール等の高層ビル用の部材等の用途では、20〜90μmが好ましい。海岸沿いに設置してあるエアコンの室外機、信号機のポール、標識等の耐候性の要求が高い用途では、100〜200μmが好ましい。なお、上述したように、厚さが厚い場合には、流動浸漬法を選択することで達成できる。
【0106】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の記載によっては限定されない。
例1〜3は実施例、例4〜7は比較例であり、例8,9は参考例である。
【0107】
[測定方法]
(融点)
Thermal Analysis System(パーキンエルマー社製)を用い、試料の10mgについて、温度範囲:−25〜200℃、昇温速度:10℃/分で熱収支を測定し、得られたチャートの融解ピークを融点とした。
【0108】
(分子量)
試料の0.5質量%テトラヒドロフラン(以下、THFと記す。)溶液を、キャリア(THF)の流量を1.0mL/分とし、カラムとしてTSKgel G4000XL(東ソー社製)を用いて、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)(東ソー社製、HLC−8220)によりポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)および質量平均分子量(Mw)を求めた。
【0109】
(アクリル樹脂の組成)
13C−NMR法により、アクリル樹脂の組成分析を実施した。分析条件は、以下のとおりとした。
測定装置:日本電子製「ECP−400」、
測定法:NOE消去プロトンデカップリング法、
測定溶媒:重DMF、
測定温度:60℃。
【0110】
(結晶化度)
PVDF(A)の結晶化度は、EXSTAR DSC7020(SIIナノテクノロジー社製)を用い、試料の10mgを昇温速度:10℃/分で室温から200℃まで昇温し、得られたチャートの吸熱ピークの面積および試料量から融解熱量M(J/g)を算出し、PVDFの完全結晶体の融解熱量M(EXPRESS Polymer Letters,第4巻,第5号,2010年,p.284−291に記載の文献値:104.5J/g)とから下式(1)によって算出した。
結晶化度(%)=(M/M)×100 ・・・(1)
急冷時の結晶化度は、試料について、300℃で完全に溶解させた後、冷却速度:10℃/分で300℃から室温まで冷却し、再結晶化させ、EXSTAR DSC7020(SIIナノテクノロジー社製)を用い、再結晶化させた試料の10mgを昇温速度:10℃/分で室温から200℃まで昇温し、得られたチャートの吸熱ピークの面積および試料量から融解熱量M(J/g)を算出し、PVDFの完全結晶体の融解熱量M(EXPRESS Polymer Letters,第4巻,第5号,2010年,p.284−291に記載の文献値:104.5J/g)とから式(1)によって算出した。
徐冷時の結晶化度は、再結晶化条件である冷却速度を0.5℃/分に変更した以外は、急冷時の結晶化度と同様にして算出した。
【0111】
(溶融粘度)
樹脂の190℃における溶融粘度は、回転式レオメータ(アントンパール・ジャパン社製、レオメータMCR302)を用いて、昇温速度:10℃/分の条件にて測定した。
【0112】
(ガラス転移温度)
Thermal Analysis System(パーキンエルマー社製)を用い、試料の10mgについて、温度範囲:−25〜200℃、昇温速度:10℃/分で熱収支を測定し、得られたチャートの変曲点から中点法によってガラス転移温度を求めた。
【0113】
(平均粒子径)
粉体の平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定機(Sympatec社製、Helos−Rodos)で測定し、50%平均体積粒度分布により求めた。
【0114】
[評価方法]
(粉砕性)
各例で得られるペレットを下記の条件で粉砕し、その粉砕性を以下の基準で判定した。
<試験条件>
粉砕機:ダルトン社製、製品名「高速型ピンミル微粉砕機 インパクトミル AVIS−100型」、
温度:室温、
回転数:毎分20,000回転。
<判定基準>
○(良好):ペレットを充分に粉砕できる。
×(不良):ペレットを粉砕できない。
【0115】
(外観)
塗膜の表面の状態を目視し、以下の基準で判定した。
○(良好):塗膜の表面平滑性に優れ、表面凹凸、はじき、濡れ性の不良等が確認されない。
×(不良):塗膜の表面平滑性が悪く、表面凹凸、はじき、濡れ性の不良等が確認される。
【0116】
(光沢度)
光沢計(日本電色工業社製、PG−1M)を用い、JIS K 5600−4−7:1999(ISO 2813:1994年)に準拠して塗膜の表面の60度鏡面光沢度を測定した。
【0117】
(密着性)
JIS K 5600−5−6(1999年)に準拠し、塗膜と基材(アルミニウム板)との密着性を以下の基準で評価した。
○(良好):基材からの塗膜のはがれは確認されない。
×(不良):基材からの塗膜のはがれが確認される。
【0118】
(折り曲げ加工性)
JIS K 5600−5−1:1999年(ISO 1519:1973年)に準拠して試験片の折り曲げ試験を行い、以下の基準で折り曲げ加工性を評価した。
○(良好):塗膜の割れおよび基材からの塗膜のはがれは確認されない。
×(不良):塗膜の割れまたは基材からの塗膜のはがれが確認される。
【0119】
(耐候性)
沖縄県那覇市の屋外に試験片を設置し、設置直前の塗膜の表面の60度鏡面光沢度と、3年後における塗膜の表面の60度鏡面光沢度を、光沢計(日本電色工業社製、PG−1M)を用い、JIS K 5600−4−7:1999年(ISO 2813:1994年)に準拠して測定した。試験直前の60度鏡面光沢度の値を100%としたときの、3年後の60度鏡面光沢度の値の割合を光沢保持率(単位:%)として算出し、下記基準で促進耐候性を判定した。
<判定基準>
○(良好):光沢保持率が60%以上であり、変色はしない。
△(可):光沢保持率が40%以上60%未満であり、変色はしない。
×(不良):光沢保持率が40%未満である、または黄色に変色する。
【0120】
[製造例1]
(アクリル樹脂(B−1)の製造)
温度計、還流冷却器、撹拌機、滴下ロートを備えた容量300mLの4つ口フラスコに、キシレンの100gを仕込み、撹拌しながら加熱して80℃に昇温した。次いで、80℃の温度で、MMAの63.7g、EMAの36.3g、日油社製の過酸化物系重合開始剤パーヘキシルOの5g、およびキシレンの25gを予め均一混合したもの(滴下成分)を、2時間かけて滴下ロートより等速滴下した。滴下終了後、100℃で7時間保持した後、反応を終了した。反応終了後、減圧下において、反応生成物から溶媒であるキシレンを減圧下で除去し、アクリル樹脂(B−1)を得た。得られたアクリル樹脂(B−1)の組成はMMA単位/EMA単位=67/33(モル比)であった。アクリル樹脂(B−1)の固形分濃度、質量平均分子量、数平均分子量、ガラス転移温度、溶融粘度を表1に示す。
【0121】
[製造例2]
(アクリル樹脂(B−2)の製造)
仕込み量を、MMAの86.4g、EMAの13.6gに変更した以外は、製造例1と同様にして、アクリル樹脂(B−2)を得た。得られたアクリル樹脂(B−2)の組成はMMA単位/EMA単位=87/13(モル比)であった。アクリル樹脂(B−2)の固形分濃度、質量平均分子量、数平均分子量、ガラス転移温度、溶融粘度を表1に示す。
【0122】
[製造例3]
(アクリル樹脂(Z−1)の製造)
仕込み量を、メチルアクリレート(以下、MAとも記す。)の58.0g、ブチルメタクリレートの42.0gに変更した以外は、製造例1と同様にして、アクリル樹脂(Z−1)を得た。アクリル樹脂(Z−1)の固形分濃度、質量平均分子量、数平均分子量、ガラス転移温度、溶融粘度を表1に示す。
【0123】
[製造例4]
(アクリル樹脂(Z−2)の製造)
仕込み量を、MMAの使用量を100gに変更した以外は、製造例1と同様にして、アクリル樹脂(Z−2)を得た。アクリル樹脂(Z−2)の固形分濃度、質量平均分子量、数平均分子量、ガラス転移温度、溶融粘度を表1に示す。
[製造例5]
(アクリル樹脂(X−1)の製造)
仕込み量を、MMAの94.3g、EMAの5.7gに変更した以外は、製造例5と同様にして、固形分濃度が99.5質量%、Mwが70,000、Mnが39,000のアクリル樹脂(X−1)を得た。得られたアクリル樹脂(X−1)の組成は、MMA単位/EMA単位=95/5(モル比)であった。また、アクリル樹脂(X−1)のガラス転移温度は102.5℃であり、190℃における溶融粘度は730.5Pa・sであった。
【0124】
[製造例6]
(アクリル樹脂(X−2)の製造)
MMAの代わりに、MAの63.7gを使用し、EMAの代わりに、ステアリルメタクリレートの36.3gを使用した以外は、製造例5と同様にして、固形分濃度が99.5質量%、Mwが70,000、Mnが44,000のアクリル樹脂(X−2)を得た。得られたアクリル樹脂(X−2)の組成はMA単位/ステアリルメタクリレート単位=87/13(モル比)であった。また、アクリル樹脂(X−2)のガラス転移温度は18.2℃であり、190℃における溶融粘度は5.5Pa・sであった。
【0125】
【表1】
【0126】
[粉体塗料組成物の調製に用いた各成分]
A−1:市販のPVDF(A)。SHENZHOU NEWMATERIAL CO.,Ltd(東岳社製)、製品名「PVDF DS203」、質量平均分子量(Mw):270,000、数平均分子量(Mn):160,000、融点:170.0℃、結晶化度:22.5%、結晶化度(急冷時):19.7%、結晶化度(徐冷時):21.8%、結晶化度の差(|徐冷時−急冷時|):2.1%、190℃における溶融粘度:3,100Pa・s。
D−1:酸化チタン顔料(デュポン社製、Ti−Pure(商品名) R960、酸化チタン含有量:89質量%)。
D−2:有機系紫外線吸収剤(BASF社製、Tinuvin(商品名) 405、分子量:583.8、融点:76.3℃、揮発温度:348.5℃)。
D−3:脱ガス剤(ベンゾイン)。
D−4:粉体塗料用レベリング剤(ビックケミー社製、BYK(商品名)−360P)。
【0127】
[例1〜7]
表2に記載の各成分を、高速ミキサー(佑崎有限公司社製)を用いて、10〜30分程度混合し、粉末状の混合物を得た。該混合物を2軸押出機(サーモプリズム社製、16mm押出し機)を用いて、120℃のバレル設定温度にて溶融混練を行い、粉体塗料用組成物からなるペレットを得た。該ペレットを粉砕機(FRITSCH社製、ロータースピードミルP14)を用いて常温で粉砕し、200メッシュによる分級を行い、平均粒子径が約20μmの粉体を得た。この際の粉砕性を表2に示す。
なお、例4および例7では、ペレットがベタつき、粉砕ができず、粉体塗料を製造することができなかった。例5では、170℃のバレル設定温度にて溶融混練を行い、ペレットを得た。
【0128】
得られた粉体を粉体塗料として用い、クロメート処理を行ったアルミニウム板の一面に、静電塗装機(小野田セメント社製、GX3600C)にて静電塗装を行い、250℃雰囲気中で10分間保持した。放置して室温まで冷却し、厚さ25〜45μmの塗膜が付いたアルミニウム板を得た(以下、塗膜付きアルミニウム板とも記す。)。得られた塗膜付きアルミニウム板を試験片として評価を行った。結果を表2に示す。
【0129】
【表2】
【0130】
表2に示すように、融点が151〜200℃の範囲にあるPVDF(A−1)と、ガラス転移温度が40〜90℃の範囲にあるアクリル樹脂(B−1)、(B−2)を用いた例1〜3においては、組成物を充分に粉砕して粉体塗料とすることができ、得られた塗膜は通常の条件における耐候性および密着性に優れていた。また、該塗膜は外観、光沢度、折り曲げ加工性にも優れていた。PVDF(A−1)の含有量が、PVDF(A)とアクリル樹脂(B)との合計100質量部に対して30〜95質量部の範囲内にある例1、2においては、得られた塗膜が厳しい条件における耐候性にも優れていた。
一方、ガラス転移温度が40℃未満のアクリル樹脂(Z−1)を用いた例4においては、ペレットがベタつき、粉砕できず、粉体塗料が製造できなかった。
ガラス転移温度が90℃超のアクリル樹脂(Z−2)を用いた例5においては、密着性、耐候性、外観、光沢度、折り曲げ加工性がいずれも不充分であった。
さらに、MMA単位とEMA単位からなり、比率(MMA単位/EMA単位)が50/50〜90/10(モル比)であり、ガラス転移温度が40〜90℃の範囲にあるアクリル樹脂(B−1)、(B−2)を使用した例6および例7においては、溶融膜の濡れ性に優れていたため、基材への塗膜の密着性に優れていた。
一方、比率(MMA単位/EMA単位)が50/50〜90/10(モル比)の範囲外であり、ガラス転移温度が90℃超であるアクリル樹脂(X−1)を使用した例6においては、溶融膜の濡れ性が不充分なため、得られた塗膜の基材への密着性が不充分であった。また、基材のアルミニウム板に腐食が認められた。MMAおよびEMA以外の単量体を共重合させて得たガラス転移温度が40℃未満であるアクリル樹脂(X−2)を使用した例7では、粉体塗料を製造できなかった。
【0131】
[例8]
クロメート処理を行ったアルミニウム板に代えて、ヘンケル社製のクロム(VI)を含まない化成処理薬剤(商品名:「アロジン5200」)で処理したアルミニウム板を用い、プライマーとしてペルノックス社製エポキシ樹脂(商品名:「ペルパウダーPCE−900」)を、膜厚が30μmになるように静電塗装してから、例1で得られた粉体塗料を静電塗装した以外は例1と同様に塗膜が付いたアルミニウム板を得た。
【0132】
[例9]
プライマーとしてペルノックス社製エポキシ樹脂粉体塗料を用いなかった以外は例8と同様にして塗膜が付いたアルミニウム板を得た。
例1、例8および例9で得られた塗膜が付いたアルミニウム板を試験片として、腐食性および耐候性の評価を行った。結果を表3に記す。
【0133】
<腐食性(耐中性塩水噴霧性)>
JIS K 5600−7−1(1999年)に準拠し、アルミニウム板の腐食性を、以下の基準で評価した。
○(良好):塗膜のクロスカット部に、塗膜のふくれやアルミニウムの白錆の発生が確認されない。
×(不良):塗膜のクロスカット部に、塗膜のふくれやアルミニウムの白錆の発生が確認される。
【0134】
【表3】
【0135】
表3において、例8はクロムを含まない化成処理薬剤で処理したアルミニウム板であっても、プライマー層を設けることによって、例1のクロム化成処理を施したアルミニウム板と同様に腐食性に優れることが確認された。一方、クロムフリー化成処理を施したアルミニウム板であっても、プライマー層を有さない例9では、クロスカット部の膨れやさびといった腐食性が充分でないことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0136】
本発明の粉体塗料は、信号機、電柱、道路標示のポール、橋梁、高欄、建築資材(門扉、フェンス、家屋用ザイディング材、カーテンウォール、屋根等)、自動車の車体や部品(バンパー、ワイパーブレード等)、家電製品(エアコンの室外機、温水器の外装等)、風力発電用のブレード、太陽電池のバックシート、太陽熱発電用集熱鏡の裏面、ナス電池外装等の表面の塗膜を形成するために有用である。
なお、2014年7月1日に出願された日本特許出願2014−136303号および2014年7月1日に出願された日本特許出願2014−136304号の明細書、特許請求の範囲および要約書の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。
【要約】
充分に粉砕でき、耐候性、および基材に対する密着性に優れた塗膜を形成できる粉体塗料を得ることができる粉体塗料用組成物;耐候性、および基材に対する密着性に優れた塗膜を形成できる粉体塗料;ならびに耐候性、および基材に対する密着性に優れた塗膜を表面に有する塗装物品を提供する。融点が151〜200℃のポリビニリデンフルオリド(A)と、ガラス転移温度が40〜90℃のアクリル樹脂(B)とを含む、粉体塗料用組成物を用いる。また、該粉体塗料用組成物を用いた粉体塗料、および該粉体塗料から形成されてなる塗膜を有する塗装物品。