特許第5920610号(P5920610)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5920610瞳強度分布の設定方法、照明光学系およびその調整方法、露光装置、並びにデバイス製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5920610
(24)【登録日】2016年4月22日
(45)【発行日】2016年5月18日
(54)【発明の名称】瞳強度分布の設定方法、照明光学系およびその調整方法、露光装置、並びにデバイス製造方法
(51)【国際特許分類】
   G03F 7/20 20060101AFI20160428BHJP
【FI】
   G03F7/20 521
   G03F7/20 501
【請求項の数】30
【全頁数】31
(21)【出願番号】特願2014-535497(P2014-535497)
(86)(22)【出願日】2013年9月4日
(86)【国際出願番号】JP2013073737
(87)【国際公開番号】WO2014042044
(87)【国際公開日】20140320
【審査請求日】2015年3月18日
(31)【優先権主張番号】61/699,611
(32)【優先日】2012年9月11日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】特願2013-33568(P2013-33568)
(32)【優先日】2013年2月22日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004112
【氏名又は名称】株式会社ニコン
(74)【代理人】
【識別番号】100095256
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 孝雄
(72)【発明者】
【氏名】松井 良太
【審査官】 佐野 浩樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−165271(JP,A)
【文献】 特開2008−166777(JP,A)
【文献】 特開2010−045309(JP,A)
【文献】 特開平09−258428(JP,A)
【文献】 特開2007−248568(JP,A)
【文献】 特開2002−261004(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/060099(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/060024(WO,A1)
【文献】 特開2002−334836(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0052448(US,A1)
【文献】 特開平08−250411(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L21/027,21/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1面に配置されるパターンの像を第2面上に形成する結像光学系に照明光を供給する照明光学系の照明瞳に形成すべき瞳強度分布を設定する方法であって、
前記第1面に配置される所定のパターンと、前記照明瞳に沿って二次元的に分布する複数の光強度要素により表された瞳強度分布とを用いてプロセスウィンドウを計算することと、
許容されるマスク・エラー・エンハンスメント・ファクタを制約条件として、前記プロセスウィンドウが所定値以上になるように線形計画法を用いて強度分布を設定することと、を含むことを特徴とする瞳強度分布の設定方法。
【請求項2】
許容される線幅誤差を設定することをさらに含み、
前記瞳強度分布を設定することは、前記許容される線幅誤差および前記許容されるマスク・エラー・エンハンスメント・ファクタを制約条件として、前記プロセスウィンドウが所定値以上になるように瞳強度分布を設定することを特徴とする請求項1に記載の設定方法。
【請求項3】
第1面に配置されるパターンの像を第2面上に形成する結像光学系に照明光を供給する照明光学系の照明瞳に形成すべき瞳強度分布を設定する方法であって、
前記第1面に配置される所定のパターンと、前記照明瞳に沿って二次元的に分布する複数の光強度要素により表された瞳強度分布とを用いてプロセスウィンドウを計算することと、
許容される線幅誤差を設定することと、
前記許容される線幅誤差および許容されるマスク・エラー・エンハンスメント・ファクタを制約条件として、前記プロセスウィンドウが所定値以上になるように瞳強度分布を設定することと、を含むことを特徴とする瞳強度分布の設定方法。
【請求項4】
前記許容される線幅誤差は、前記第2面上に形成されるパターン像の線幅の所望値からの許容誤差であることを特徴とする請求項3に記載の設定方法。
【請求項5】
前記許容される線幅誤差および前記許容されるマスク・エラー・エンハンスメント・ファクタに関する制約条件として、前記結像光学系および前記照明光学系を含む装置の個体差および/または装置パラメータの変動を導入した制約条件を用いることを特徴とする請求項4に記載の設定方法。
【請求項6】
前記瞳強度分布を設定することは、凸計画法を用いて前記プロセスウィンドウが所定値以上になるように瞳強度分布を設定することを含むことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の設定方法。
【請求項7】
第1面に配置されるパターンの像を第2面上に形成する結像光学系に照明光を供給する照明光学系の照明瞳に形成すべき瞳強度分布を設定する方法であって、
前記第1面に配置される所定のパターンと、前記照明瞳に沿って二次元的に分布する複数の光強度要素により表された瞳強度分布とを用いてプロセスウィンドウを計算することと、
許容されるマスク・エラー・エンハンスメント・ファクタを制約条件として、凸計画法を用いて前記プロセスウィンドウが所定値以上になるように瞳強度分布を設定することと、を含むことを特徴とする瞳強度分布の設定方法。
【請求項8】
前記瞳強度分布を設定することは、前記プロセスウィンドウを表す楕円の面積が最大値に近づくように瞳強度分布を設定することを含むことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の設定方法。
【請求項9】
前記瞳強度分布を設定することは、基準的な瞳強度分布から設定された瞳強度分布を求めることを含むことを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の設定方法。
【請求項10】
前記設定された瞳強度分布に基づいてマスク・エラー・エンハンスメント・ファクタを計算することと、
前記計算されたマスク・エラー・エンハンスメント・ファクタと前記許容されるマスク・エラー・エンハンスメント・ファクタとの差が許容範囲に収まっているか否かを判断することと、をさらに含むことを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載の設定方法。
【請求項11】
前記計算されたマスク・エラー・エンハンスメント・ファクタと前記許容されるマスク・エラー・エンハンスメント・ファクタとの差が前記許容範囲に収まっていないときに、前記計算されたマスク・エラー・エンハンスメント・ファクタと前記許容されるマスク・エラー・エンハンスメント・ファクタとの差が前記許容範囲に収まるまで、前記瞳強度分布を設定することを繰り返すことによりマスク・エラー・エンハンスメント・ファクタを設定することをさらに含むことを特徴とする請求項10に記載の設定方法。
【請求項12】
異なる複数のDOFについて、前記マスク・エラー・エンハンスメント・ファクタを設定することを繰り返すことと、
前記プロセスウィンドウを表す楕円の面積が最大値に最も近づくときの設定されたDOFの値を求めることと、をさらに含むことを特徴とする請求項11に記載の設定方法。
【請求項13】
前記設定されたDOFに対応する瞳強度分布を用いて、前記第2面上に形成されるパターン像の評価位置の所望位置からのシフト量を求めることと、
前記シフト量が所定値よりも大きいか否かを判断することと、をさらに含むことを特徴とする請求項12に記載の設定方法。
【請求項14】
異なる複数の所定フォーカス位置について、前記マスク・エラー・エンハンスメント・ファクタを設定することを繰り返すことと、
前記プロセスウィンドウを表す楕円の面積が最大値に最も近づくときの設定された所定フォーカス位置を求めることと、をさらに含むことを特徴とする請求項11乃至13のいずれか1項に記載の設定方法。
【請求項15】
前記設定された所定フォーカス位置に対応する瞳強度分布を用いて、前記第2面上に形成されるパターン像の評価位置の所望位置からのシフト量を求めることと、
前記シフト量が所定値よりも大きいか否かを判断することと、をさらに含むことを特徴とする請求項14に記載の設定方法。
【請求項16】
前記シフト量が前記所定値よりも大きいときに、前記プロセスウィンドウを表す楕円の面積が最大値に向かって収束するように前記評価位置を調整しつつ前記評価位置を設定することをさらに含むことを特徴とする請求項13または15に記載の設定方法
【請求項17】
前記評価位置の設定に際して、前記第2面の複数のデフォーカス位置に応じて計算された前記シフト量を前記評価位置の調整量として用いることを特徴とする請求項16に記載の設定方法
【請求項18】
光源からの光により被照射面を照明する照明光学系の調整方法において、
請求項1乃至17のいずれか1項に記載の設定方法を用いて、前記照明光学系の照明瞳に形成すべき瞳強度分布を設定することと、
前記設定された瞳強度分布をターゲットとして前記照明瞳に形成される瞳強度分布を調整することと、を含むことを特徴とする調整方法。
【請求項19】
前記設定された瞳強度分布をターゲットとして前記照明瞳に形成される瞳強度分布を調整する際に、前記被照射面を通過した光に基づいて前記照明瞳と光学的に共役な面における光強度分布を計測することを特徴とする請求項18に記載の調整方法
【請求項20】
前記照明光学系が備える空間光変調器であって且つ前記照明瞳に瞳強度分布を形成するための空間光変調器を制御することによって、前記設定された瞳強度分布をターゲットとして前記照明瞳に形成される瞳強度分布を調整することを特徴とする請求項18または19に記載の調整方法
【請求項21】
請求項18乃至20のいずれか1項に記載の調整方法により調整されたことを特徴とする照明光学系。
【請求項22】
光源からの光により被照射面を照明する照明光学系において、
前記照明光学系の照明瞳に形成された瞳強度分布を計測する瞳分布計測装置と、
前記照明瞳に形成される瞳強度分布を調整する瞳調整装置と、
請求項1乃至17のいずれか1項に記載の設定方法を用いて設定された瞳強度分布をターゲットとして前記照明瞳に形成される瞳強度分布を調整するために前記瞳調整装置を制御する制御部とを備えることを特徴とする照明光学系。
【請求項23】
前記瞳分布計測装置は、前記被照射面を通過した光に基づいて前記照明瞳と光学的に共役な面における光強度分布を計測することを特徴とする請求項22に記載の照明光学系。
【請求項24】
前記瞳分布計測装置は、前記被照射面へ向かう光に基づいて前記照明瞳と光学的に共役な面における光強度分布を計測することを特徴とする請求項23に記載の照明光学系。
【請求項25】
前記瞳調整装置は、所定面に配列されて個別に制御される複数の光学要素を有し、前記照明瞳に瞳強度分布を可変的に形成する空間光変調器を備え、
前記制御部は、前記空間光変調器の前記複数の光学要素を制御することを特徴とする請求項22乃至24のいずれか1項に記載の照明光学系
【請求項26】
前記空間光変調器は、前記所定面内で二次元的に配列された複数のミラー要素と、該複数のミラー要素の姿勢を個別に制御駆動する駆動部とを有することを特徴とする請求項25に記載の照明光学系
【請求項27】
所定のパターンを照明するための請求項21乃至26のいずれか1項に記載の照明光学系を備え、前記所定のパターンを感光性基板に露光することを特徴とする露光装置
【請求項28】
前記所定のパターンの像を前記感光性基板上に形成する投影光学系を備え、前記照明瞳は前記投影光学系の開口絞りと光学的に共役な位置であることを特徴とする請求項27に記載の露光装置。
【請求項29】
請求項27または28に記載の露光装置を用いて、前記所定のパターンを前記感光性基板に露光することと、
前記所定のパターンが転写された前記感光性基板を現像し、前記所定のパターンに対応する形状のマスク層を前記感光性基板の表面に形成することと、
前記マスク層を介して前記感光性基板の表面を加工することと、を含むことを特徴とするデバイス製造方法。
【請求項30】
請求項1乃至17のいずか1項に記載の設定方法を、コンピュータに実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、瞳輝度分布の設定方法、照明光学系およびその調整方法、露光装置、並びにデバイス製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体素子等のデバイスの製造に用いられる露光装置では、デバイスパターンの微細化に伴い、高い解像度が要求されるようになってきた。解像度Rは、レイリーの式、すなわちR=k(λ/NA)で表される。ここで、λは、照明光(露光光)の波長、NAは投影光学系の開口数、kはレジストの解像性及び/又はプロセス制御性に依存するプロセス・ファクタである。このため、従来、照明光の短波長化及び投影光学系の開口数の増大化(高NA化)などにより、解像度の向上が図られてきた。
【0003】
しかしながら、露光波長の短波長化には、例えば光源及び硝材の開発に困難が伴う。また、高NA化は、投影光学系のDOF(Depth Of Focus)の低下を招き、ひいては結像性能(結像特性)の悪化の原因となるため、高NA化をむやみに推し進めることはできない。このような理由により、照明光の短波長化及び投影光学系の開口数の増大化(高NA化)のみでは、回路パターン・サイズの微細化に対処することが困難であった。このため、露光装置では、輪帯照明などの変形照明技術、及び位相シフトマスクなどの光延命技術の導入、レジスト技術における材料及び薄膜化及び多層化などのプロセス開発技術によるリソグラフィ性能向上(低k化)の努力がなされてきた。
【0004】
近年では、更なる高NA化を実現する装置として、局所液浸露光技術を採用した露光装置が実用化されている。しかしながら、液浸露光装置においても、照明光の短波長化だけでなく高NA化にも限界があり、低k化は必要不可欠となってきた。近年における低k化では、変形照明及び位相シフト技術などの超解像技術を駆使するのみならず、収差などの光学系誤差及びマスク(レチクル)のパターンがウェハ(感光性基板)上に転写される際に、そのパターンの忠実度が劣化する分をマスクパターンで補償する光近接効果補正(OPC:Optical proximity correction)への考慮も必要となってきた。ただし、低k化は、パターン像のコントラスト低下を招くため、この点に対する配慮も必要である。
【0005】
このような技術的背景において、低k値で量産可能な光学結像ソリューションを提供すべく、光学モデルによりマスクパターンと照明瞳での光強度分布とを同時に最適化するSMO(Source and Mask Optimization)手法や、照明瞳での光強度分布を最適化するSO(Source Optimization)手法が注目されている(例えば特許文献1を参照)。以下、照明瞳での光強度分布を、「瞳輝度分布」という。照明瞳とは、照明瞳と被照射面(露光装置の場合にはマスクまたはウェハ)との間の光学系の作用によって、被照射面が照明瞳のフーリエ変換面となるような位置として定義される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許6,563,566号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来のSMO手法やSO手法では、PW(プロセスウィンドウ:Process Window)を最大化することを主眼にしており、露光の評価指標として重要なMEEF(マスク・エラー・エンハンスメント・ファクタ:Mask Error Enhancement Factor)についての考慮はなされていない。ちなみに、MEEFとは、マスクパターンの製造誤差がウェハ上に増幅される程度を示す指標である。
【0008】
本発明は、前述の課題に鑑みてなされたものであり、MEEFを小さく抑えつつプロセスウィンドウが所定値以上になるように瞳輝度分布を設定することのできる設定方法を提供することを目的とする。また、本発明は、MEEFを小さく抑えつつプロセスウィンドウが所定値以上になるように瞳輝度分布を設定する設定方法を用いて、設定された瞳輝度分布をターゲットとして瞳輝度分布を適切に調整することのできる照明光学系を提供することを目的とする。また、本発明は、瞳輝度分布を適切に調整する照明光学系を用いて、適切な照明条件のもとで良好な露光を行うことのできる露光装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために、第1形態では、第1面に配置されるパターンの像を第2面上に形成する結像光学系に照明光を供給する照明光学系の照明瞳に形成すべき瞳輝度分布を設定する方法であって、
前記第1面に配置される所定のパターンと、前記照明瞳に沿って二次元的に分布する複数の輝度要素により表された瞳輝度分布とを用いてプロセスウィンドウを計算することと、
許容されるMEEF(マスク・エラー・エンハンスメント・ファクタ)を制約条件として、前記プロセスウィンドウが所定値以上になるように瞳輝度分布を設定することとを含むことを特徴とする瞳輝度分布の設定方法を提供する。
【0010】
第2形態では、光源からの光により被照射面を照明する照明光学系の調整方法において、
第1形態の設定方法を用いて、前記照明光学系の照明瞳に形成すべき瞳輝度分布を設定することと、
前記設定された瞳輝度分布をターゲットとして前記照明瞳に形成される瞳輝度分布を調整することとを含むことを特徴とする調整方法を提供する。
【0011】
第3形態では、第2形態の調整方法により調整されたことを特徴とする照明光学系を提供する。
【0012】
第4形態では、光源からの光により被照射面を照明する照明光学系において、
前記照明光学系の照明瞳に形成された瞳輝度分布を計測する瞳分布計測装置と、
前記照明瞳に形成される瞳輝度分布を調整する瞳調整装置と、
第1形態の設定方法を用いて設定された瞳輝度分布をターゲットとして前記照明瞳に形成される瞳輝度分布を調整するために前記瞳調整装置を制御する制御部とを備えることを特徴とする照明光学系を提供する。
【0013】
第5形態では、所定のパターンを照明するための第3形態または第4形態の照明光学系を備え、前記所定のパターンを感光性基板に露光することを特徴とする露光装置を提供する。
【0014】
第6形態では、第5形態の露光装置を用いて、前記所定のパターンを前記感光性基板に露光することと、
前記所定のパターンが転写された前記感光性基板を現像し、前記所定のパターンに対応する形状のマスク層を前記感光性基板の表面に形成することと、
前記マスク層を介して前記感光性基板の表面を加工することと、を含むことを特徴とするデバイス製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0015】
実施形態にしたがう瞳輝度分布の設定方法では、MEEFを小さく抑えつつプロセスウィンドウが所定値以上になるように瞳輝度分布を設定することができる。実施形態にかかる照明光学系では、MEEFを小さく抑えつつプロセスウィンドウが所定値以上になるように瞳輝度分布を設定する設定方法を用いて、設定された瞳輝度分布をターゲットとして瞳輝度分布を適切に調整することができる。実施形態の露光装置では、瞳輝度分布を適切に調整する照明光学系を用いて、適切な照明条件のもとで良好な露光を行うことができ、ひいては良好なデバイスを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施形態にかかる瞳輝度分布の設定方法のアルゴリズムを示すフローチャートである。
図2図1のステップS11とS15におけるDOFの最適化の工程を示すフローチャートである。
図3図2のステップS21およびS22において実行されるMEEFの最適化の工程を示すフローチャートである。
図4】プロセスウィンドウの大きさを定義する楕円を示す図である。
図5】照明瞳をグリッド状に分割した様子を示す図である。
図6】各照明ピクセルが有意なボケをもつ様子を示す図である。
図7】制約条件で強度値を制約している位置について説明する図である。
図8】プロセスウィンドウの最適化のための評価点について説明する図である。
図9】MEEFの最適化のための評価点について説明する図である。
図10】OPE誤差の最適化のための評価点について説明する図である。
図11】本実施形態にかかる瞳輝度分布の設定方法を適用して得られた瞳輝度分布を示す図である。
図12図11の各瞳輝度分布に対応するOPE誤差を示す図である。
図13】実施形態にかかる露光装置の構成を概略的に示す図である。
図14】空間光変調ユニットの構成および作用を概略的に示す図である。
図15】空間光変調ユニット中の空間光変調器の部分斜視図である。
図16】瞳分布計測装置の内部構成を概略的に示す図である。
図17】実施形態にかかる照明光学系の調整方法のフローチャートである。
図18】半導体デバイスの製造工程を示すフローチャートである。
図19】液晶表示素子等の液晶デバイスの製造工程を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、実施形態を、添付図面に基づいて説明する。まず、実施形態にかかる瞳輝度分布の設定方法を説明する。本実施形態にかかる瞳輝度分布の設定方法では、一例として露光装置を前提とし、第1面に配置されるパターン(マスクパターン)の像を第2面(ウェハの表面:露光面)上に形成する結像光学系(投影光学系)に照明光を供給する照明光学系の照明瞳に形成すべき瞳輝度分布を改善する。本願明細書において、「改善」とは、改善前の初期状態の瞳輝度分布でのプロセスウィンドウよりも、改善後の瞳輝度分布でのプロセスウィンドウの方が大きくなることを指す。このとき、初期状態の瞳輝度分布は、瞳面内一様に輝度0である分布であっても良い。
【0018】
本実施形態では、露光の評価指標として重要なMEEF(マスク・エラー・エンハンスメント・ファクタ:Mask Error Enhancement Factor)、OPE(光近接効果:Optical Proximity Effect)誤差、PW(プロセスウィンドウ:Process Window)に関して改善された自由形状(フリーフォーム)の瞳輝度分布を導出するアルゴリズムを提案する。露光装置におけるOPE誤差は、例えばウェハ(感光性基板)に形成されるレジストパターンの線幅誤差である。MEEFおよびOPE誤差には、それぞれユーザ指定値を与えることができる。本実施形態では、一例として、MEEFおよびOPE誤差をそれぞれユーザ指定値以下に抑えた上で、プロセスウィンドウが最大化するように改善された自由形状の瞳輝度分布を求める。
【0019】
図1は、実施形態にかかる瞳輝度分布の設定方法のアルゴリズムを示すフローチャートである。図2は、図1のステップS11とS15におけるベストフォーカス位置およびDOFの最適化の工程を示すフローチャートである。図3は、図2のステップS21およびS22において実行されるMEEFの最適化の工程を示すフローチャートである。図1のステップS11とS15におけるベストフォーカス位置およびDOF(Depth Of Focus:ベストフォーカス位置からのデフォーカス量の許容範囲)の最適化では、図2のステップS21およびS22を実行する。
【0020】
図2のステップS21およびS22では、ベストフォーカス位置およびDOFの値を変えながら図3のステップS31〜S35を実行する。ベストフォーカス位置およびDOFは、図3のステップS32において、すなわち「線形最適化」の工程において解く線形計画問題中の定数である。ステップS32の「線形最適化」の工程では、以下の線形計画問題を解く。すなわち、式(A)乃至式(Q)に示す制約条件の下で、式(a)で示すメリット関数を最大化するという線形計画問題を解く。
【0021】
【数1】
【0022】
【数2】
【0023】
【数3】
【0024】
図4は、プロセスウィンドウの大きさを定義する楕円を示す図である。図4において、縦軸はパターン像が形成されるウェハの露光面における光強度Iを、横軸は露光面のガウスフォーカス位置に対するデフォーカス量を示している。ここで、ガウスフォーカス位置とは、投影光学系の収差、ウェハの多層膜構造、およびマスクの三次元効果を考慮しないときのフォーカス位置である。したがって、投影光学系の収差、ウェハの多層膜構造、およびマスクの三次元効果を考慮しないときのフォーカス位置(ガウスフォーカス位置)のデフォーカス量は0であるが、投影光学系の収差、ウェハの多層膜構造、およびマスクの三次元効果を考慮したときのベストフォーカス位置のガウスフォーカス位置に対するデフォーカス量ΔFは0にならない。
図4においてプロセスウィンドウを表わす楕円の鉛直方向(強度Iを示す縦軸方向)の幅が最大になるデフォーカス方向(図4の横軸方向)の位置を、投影光学系の収差、ウェハの多層膜構造、およびマスクの三次元効果を考慮したときのベストフォーカス位置とする。ガウスフォーカス位置に対するベストフォーカス位置のデフォーカス量はΔFである。別の表現をすれば、図4においてプロセスウィンドウを表わす楕円の重心を通って鉛直方向(強度Iを示す縦軸方向)に楕円を二等分する直線のデフォーカス方向(図4の横軸方向)の位置が、投影光学系の収差、ウェハの多層膜構造、およびマスクの三次元効果を考慮したときのベストフォーカス位置である。ステップS32の線形計画問題において最大化したいのはプロセスウィンドウである。すなわち、図4において楕円の面積で定義されるプロセスウィンドウを最大化する。ベストフォーカス位置およびDOFは、ステップS32において線形計画問題を解く時点では定数とする。ベストフォーカス位置およびDOFは、図2のアルゴリズムにおいて最適化(改善)される。図4に示すw’,wは最適化変数であり、プロセスウィンドウの大きさを定義する楕円が縦軸と交わるときの2つの強度値である。w’,wについては、制約条件(L)、(M)、(N)の説明において詳述する。
【0025】
以下、各制約条件について説明する。制約条件(A)において、Siは図5に示すようにグリッド状に分割された照明瞳の各ピクセルiの強度値であり、nは照明ピクセルの総数である。照明瞳をどの程度細かく分割するかはユーザ定義(ユーザが決定する事項)であり、ステップS32の線形最適化に際して既知の定数である。Siの最大値としてSMaxを定義する。Si(1≦i≦n)、SMaxは、線形計画問題における最適化変数である。Siを最適化することにより、自由形状の瞳輝度分布の最適化(改善)を行う。図5では、縦33×横33個のピクセルで照明瞳を表現した例を示しているが、多くの場合、縦65×横65個のピクセルによる表現、またはこれよりも多い縦129×横129個のピクセルによる表現の方が有意に良い結果が得られる。このように、ステップS32では、照明瞳に沿って二次元的に分布する複数の輝度要素Siにより表された瞳輝度分布を用いる。
【0026】
収差が無視できるほどに十分小さい場合、瞳輝度分布にx,y方向の非対称性があると、デフォーカスの際に像の歪みにつながる。通常、収差は十分小さいから、瞳輝度分布を表すSiはx軸およびy軸に関して対称である方が良い。この場合、線形計画問題における最適化変数は、照明瞳のうちの第一象限のピクセルにおけるSiに限定される。グリッド分割された複数の照明ピクセルで表現される瞳輝度分布を実際に実現する際には、図6に示すように、各照明ピクセル61は有意なボケ62をもつ。各ピクセルがウェハ上の光強度分布に対して及ぼす寄与は各照明ピクセルのボケを考慮して計算されなければならない。ボケを考慮せずに各照明ピクセルの寄与を計算した際に得られる最適解の性能は、実際に実現したときの性能と異なる。ボケはハードウェア起因であり、ハードウェアに特異的なボケを考慮することにより、実際に実現可能な瞳輝度分布が得られる。
【0027】
制約条件(B)において、PFR(Pupil
Fill Ratio)はユーザ定義の値である。制約条件(B)により、全てのSiがSMaxに等しいときの和ΣSi(i=1〜n)を1としたとき、少なくともPFRの割合だけΣSi(i=1〜n)が値を持つようにする。PFRには、例えば0.05程度以上の値を入れる。PFRがあまりに小さいと、投影光学系中で使われる箇所が局在するために熱収差の影響が出やすいなどの影響がある。
【0028】
制約条件(C)、(D)、(E)、(F)では、ユーザ定義のリファレンス瞳輝度分布(例えば設計上の瞳輝度分布)からの差異が大きくならないように制約する。リファレンス瞳輝度分布が各照明ピクセルiにおいてもつ強度値がriである。最適瞳輝度分布の強度値Siとriとの差の絶対値diをとるために制約条件(C)、(D)を用いる。nrefは、n個の照明ピクセルのうちリファレンス瞳輝度分布が有意な強度を持つピクセルの個数であり、nref ≦nである。
【0029】
制約条件(E)、(F)により、リファレンス瞳輝度分布からの差異量を制約する。最大値が1になるようにriを規格化しておくと、リファレンス瞳輝度分布の強度和はSMaxΣri(i=1〜nref)である。制約条件(E)では、強度差の絶対値diの和Σdi(i=1〜nref)がSMaxΣri(i=1〜nref)に占める割合をユーザ定義の定数Rによって制約する。ただし、制約条件(E)で監視しているのはriが有意な値を持つnref個のピクセルにおいてのみであり、リファレンス瞳輝度分布から減る量の上限を制約する。制約条件(F)と組み合わせることにより、リファレンス瞳輝度分布から増える量の上限も制約する。nref=nであれば、制約条件(F)は不要であり、削除する。リファレンス瞳輝度分布からの差異を制約する必要がなければ、線形計画問題から制約条件(C)、(D)、(E)、(F)を削除する。このように、ステップS32では、例えばユーザ定義の基準的な瞳輝度分布から改善された瞳輝度分布を求める。
【0030】
制約条件(G)では、ウェハ上でのアンカー・ゲージの強度値(threshold強度:しきい値)を1に規格化する。インコヒーレント結像理論から、ウェハ上の光強度I(χ,Bias)は照明ピクセル強度Siの線形和により次の式(b)で表される。式(b)において、Ci(χ,Defocus,Bias)は、各照明ピクセルiがある単位強度のときに、デフォーカス量Defocusだけ位置ずれしたウェハ上の位置χ(ベクトル(x,y) )に、ある量Biasだけ全体に太らせたマスクパターンによる回折を経て与えられる光強度を示している。すなわち、Bias量とは、例えばマスクパターンの設計上のライン幅に対する調整量である。
【0031】
【数4】
【0032】
制約条件(H)、(I)、(J)、(K)では、離散的にサンプリングしたウェハ上の点の強度値を制約し、大局的にユーザ指定のターゲット構造(Target構造)が実現されるようにする。図7は、制約条件(H)、(I)、(J)、(K)で強度値を制約している位置について説明する図である。図7において灰色で示す矩形状の部分がターゲット構造(ユーザが作りたいパターン像の構造)である。露光の結果として得られるレジスト構造は、ウェハ上の光強度分布をしきい値(threshold強度)で二値化することにより、図7において黒い太線で示すように近似的に求まる。
【0033】
図7に示すように、ターゲット構造のエッジを挟んでEdge_Dark点およびEdge_Bright点をとる。制約条件(G)によりしきい値が1であるから、制約条件(H)、(I)により図7のEdge_Dark点とEdge_Bright点との間に強度1の位置が存在することになり、近似レジスト構造のエッジ位置をEdge_Dark点とEdge_Bright点との間に位置させることができる。Edge_Dark点とEdge_Bright点との距離はユーザ定義の定数である。Edge_Dark点とEdge_Bright点との距離を小さくすると、レジスト構造をターゲット構造に近づけることができる。
【0034】
制約条件(J)、(K)は、レジスト構造がエッジから離れた位置でも正常な強度値をもつための制約条件である。強度値が1よりも大きくなるべき位置(明るくなるべき位置)にBright点を、強度値が1よりも小さくなるべき位置(暗くなるべき位置)にDark点を取り、それぞれの位置での強度値をユーザ指定値のIBright(>1)、IDark(<1)で制約する。Bright点、Dark点の強度の制約はデフォーカス面でも行う。図4の楕円のプロセスウィンドウが定義されるDOF以下の離散的なデフォーカス面、すなわち次の式(c)で示すデフォーカス面Defocus(ただしΔzはユーザ定義値であり、照明光の波長λ=193nmで、投影光学系の像側開口数NA=1.35の場合にはΔzが5nm程度以下であることが推奨される。ただし、Δzが小さいと多くのデフォーカス面を評価する必要が出てくるため計算負荷が高くなる。計算負荷を軽減する目的で、Δzを20nmなど大きく設定するのが有効な場合もある。)で制約する。
【0035】
【数5】
【0036】
制約条件(L)、(M)、(N)により、図4の w’、w 、w'' を制約する。図4の楕円の上半分は次の式(d)により、下半分は次の式(e)により表される。離散的なデフォーカス面Defocus=kdefΔz+ΔFで制約する。プロセスウィンドウの定義から、図4の楕円の内側領域は、各デフォーカス面においてCD値(レジストパターン像の線幅値)がユーザ指定の許容誤差±ΔCD(レジストパターン像の線幅の許容誤差:許容されるOPE誤差)の範囲に収まる強度値である。
【0037】
【数6】
【0038】
図8に示すように、CD(TargetCD)から±ΔCDだけずらした位置の明るい方にPW_Bright点、暗い方にPW_Dark点をとる。全てのPW_Bright点の強度値が各離散デフォーカス面において式(d)で表される楕円の上半分よりも上であり、全てのPW_Dark点の強度値が各離散デフォーカス面において式(e)で表される楕円の下半分よりも下である必要があり、これを保証するのが制約条件(L)、(M)、(N)である。
【0039】
メリット関数と制約条件(L)、(M)、(N)とによるプロセスウィンドウの最適化方法(改善方法)は、プロセスウィンドウを評価する図形の形状が決まっていれば同様に成り立つので、プロセスウィンドウを評価する図形の形状を長方形、ひし形など他の形状にしても良い。例えばプロセスウィンドウを評価する図形を長方形で表すとき、式(a)で表されるメリット関数および制約条件(L)、(M)を、次に示すような式(a’)で表されるメリット関数および式(L’),式(M’)で表される制約条件に差し替えればよい。このとき、w'' が不要であるから、制約条件(N)は削除する。
【0040】
【数7】
【0041】
制約条件(O)により、MEEFを制約する。D. Ziger, D., Proc.
of SPIE 7122, 71223W (2008)を参照すると、MEEFを近似的に以下の式(f)で表すことができる。ただし、式(f)におけるCD_BiasedおよびCD_Defaultは、それぞれ図9中のデフォルトのマスク(設計上のマスク)による光強度分布およびバイアスを施したマスクによる光強度分布に対応している。I(χ,Bias),I(χ,0),I(χ+Bias,Bias)は、それぞれ図9において参照符号63,64,65で示す点の強度値である。式(f)では、マスクのバイアス量(ウェハ次元での換算値)と、ウェハでの位置の微小移動量(点63,64と点65との位置の差)とが同じBiasであるとしている。
【0042】
【数8】
【0043】
MEEFにユーザ指定の許容最大値MEEFMaxが指定されている場合には、以下の不等式(g)が成り立つべきである。ここで、図9に示すように、CD値の評価方向の位置のBiasを必ず光強度が小さくなる方にとり、かつマスクのバイアスをウェハ上の強度が大きくなるようにとると、不等式(g)における絶対値を外すことができ、以下の不等式(h)が得られる。また、不等式(h)の分母が正であるから、両辺に{I(χ,Bias)−I(χ+Bias,Bias)}を掛けると、以下の不等式(i)が得られる。こうして、MEEFの制約条件が強度に関して線形の不等式になり、制約条件(O)によりMEEFをユーザ指定の許容値MEEFMax以下に制約することができる。
【0044】
【数9】
【0045】
制約条件(P)、(Q)により、OPE誤差を制約する。図10は、OPE誤差の最適化のための評価点OPE_Bright点およびOPE_Dark点について説明する図である。OPE誤差すなわちCD誤差をユーザ指定値以下に抑制するアルゴリズムは、以下の通りである。Target CD(ターゲットCD)からのCD誤差に対するユーザ指定の許容最大値をΔCDtargetとする。Target CDを定義する端の点から、CDを計測する方向において互いに逆方向にΔCDtarget/2だけ離れた位置に、図10に示すようにOPE_Bright点およびOPE_Dark点をとる。
【0046】
OPE_Bright点の強度がしきい値(threshold強度)よりも大きくなる制約条件(P)を課し、OPE_Dark点の強度がしきい値よりも小さくなる制約条件(Q)を課すと、しきい値(=1)は必ずOPE_Bright点とOPE_Dark点との間にあることになる。すなわち、しきい値による二値化で得られる構造のエッジがOPE_Bright点とOPE_Dark点との間に位置する。CD値を定義する2つのエッジ位置の誤差をそれぞれΔCDtarget/2以下にすることができるから、2つのエッジ位置で定義されるCD値の誤差がΔCDtarget以下に抑えられる。以上のことから、制約条件(P)、(Q)によりOPE誤差を最適化(改善)することができる。
【0047】
このように、ステップS32では、第1面に配置される所定のパターンと、照明瞳に沿って二次元的に分布する複数の輝度要素Siにより表された瞳輝度分布とを用いてプロセスウィンドウを計算する。そして、許容されるMEEFおよび許容されるOPE誤差を制約条件として、プロセスウィンドウを表す楕円の面積が最大値に近づくように(一般的にはプロセスウィンドウが所定値以上になるように)瞳輝度分布を改善する。
【0048】
ステップS32の線形計画問題において、MEEFは近似的に制約されている。評価パターンの位置シフトがなく且つBias量が十分小さい場合にはMEEFの近似精度は良いが、そうでない場合には厳密計算によるMEEFの補正を行う必要がある。図3は、その厳密計算によるMEEFの補正を行うループを示している。ステップS32の線形計画問題において、MEEFMax=MEEFTargetと初期値設定する(ステップS31)。ここで、MEEFTargetはユーザ指定の許容最大値である。
【0049】
ステップS32の線形計画問題を解いて得られた瞳輝度分布を用いてMEEFを厳密計算し、厳密計算により得られた値をMEEFcurrentに代入する(ステップS33)。そして、MEEFTargetとMEEFcurrentとの差の絶対値abs(MEEFTarget−MEEFcurrent)が十分小さいか否かを判断する(ステップS34)。abs(MEEFTarget−MEEFcurrent)が十分小さければ終了するが、abs(MEEFTarget−MEEFcurrent)が十分小さくなければ、MEEFMaxを調整し(ステップS35)、再度ステップS32の線形計画問題を解く過程を繰り返す。一般に、MEEFMaxが小さいほどMEEFcurrentも小さくなるので、MEEFTargetを実現するのに必要十分なだけMEEFMaxを小さくすれば良い。
【0050】
このように、ステップS32〜S35では、ステップS32により改善(設定)された瞳輝度分布に基づいてMEEFを計算し、計算されたMEEFと許容されるMEEFとの差が許容範囲に収まっているか否かを判断する。そして、計算されたMEEFと許容されるMEEFとの差が許容範囲に収まっていないときに、計算されたMEEFと許容されるMEEFとの差が許容範囲に収まるまで、瞳輝度分布を改善することを繰り返すことによりMEEFを改善する。
【0051】
ステップS31〜S35ではベストフォーカス位置およびDOFを定数としているが、図2の「ベストフォーカス位置およびDOFの最適化」ではベストフォーカス位置およびDOFを最適化する。投影光学系の収差、ウェハの多層膜構造、およびマスクの三次元効果を考慮した場合には、ベストフォーカス位置を変えた方がプロセスウィンドウが大きくなり得る。ユーザや装置の都合などにより必要なDOFが決まっている場合には、DOFを固定してベストフォーカス位置のみを最適化すれば良い。図2は、ベストフォーカス位置およびDOFを最適化する際には2段階で最適化すると良いことを示すものである。図2のステップS21およびS22において、それぞれベストフォーカス位置およびDOFを変えながらステップS31〜S35のアルゴリズムを繰り返し実行する。具体的に、ステップS21では、一定のピッチ(例えば2nmなど、ベストフォーカス位置とDOFとの局所最適(local optimum)な組み合わせが2つ以上存在し得ないほど十分細かい値)で、ベストフォーカス位置およびDOFを変えながらメリット関数の値(ひいてはプロセスウィンドウの値)が最も大きくなる時のベストフォーカス位置およびDOFの値を求める。
【0052】
ステップS22では、ステップS21で得られたベストフォーカス位置およびDOFの近傍で、さらにメリット関数が大きくなるベストフォーカス位置およびDOFの値をより高精度に求める。ステップS22は、メリット関数の値が最大値で十分に収束した時点で終了とする。ステップS21において十分細かいピッチで2次元グリッド探索を行うことを経てベストフォーカス位置およびDOFの最適化を行うことにより、得られるベストフォーカス位置およびDOFはグローバル最適な値であると言える。このように、ステップS21およびS22では、異なる複数のベストフォーカス位置およびDOFについて、MEEFを改善することを繰り返すことと、プロセスウィンドウを表す楕円の面積が最大値に最も近づくときの改善されたベストフォーカス位置およびDOFの値を求めることとを含んでいる。
【0053】
上述の式(b)に示すようにウェハ上の光強度Iを照明ピクセル強度Siの線形和で表すには、ウェハ上の評価位置(x,y)が固定でなければならない。よって、ステップS32の線形計画問題の中では評価位置を固定とし、その外側のループで評価位置を調整する。図1は、その評価位置調整のループを示している。ステップS11のベストフォーカス位置およびDOF最適化において、ステップS21およびS22のアルゴリズムを実行する。次いで、ステップS21およびS22の最適化により得られた瞳輝度分布を用いて、最適化したベストフォーカス位置を中心としたDOFの範囲内で位置シフトを計算する(ステップS12)。
【0054】
位置シフトの計算では、ステップS32の線形計画問題において評価したCDを定義する2点と、実際にCDを求めたときのCDを定義する2点との乖離を調べる(ステップS13)。その乖離が十分小さい(例えば、0.01nm程度以下)場合、評価位置を調整する必要がないので、ループ終了とする。乖離が十分小さくない場合には、評価位置を最適化変数としてプロセスウィンドウの値を最大化するような最適化を行う(ステップS14〜S16)。評価位置を適宜調整し、プロセスウィンドウの値が最大になるような評価位置を探索して、プロセスウィンドウの値がほぼ最大値に収束した時にループ終了とする。
【0055】
評価位置を調整する方法の一つは、直前までの最適瞳輝度分布を用いて計算したdefocus面毎の評価位置シフト量をそのまま調整量として用いることである。線形計画問題は特定の評価位置(defocus面毎に違っていてもよい)に関してグローバル最適解を求めることができるので、この手法により直前までの最適瞳輝度分布よりも必ず良い改善された瞳輝度分布を得ることができる。ここでは、ステップS21およびS22のように2次元グリッド探索を経てベストフォーカス位置およびDOFの最適化を行うことにより導出される最適ベストフォーカス位置および最適DOFもグローバル最適であることを用いている。ユーザが評価位置をシフトさせることをあまり望まない場合には、評価位置の調整量に制限をつければ良い。
【0056】
このように、ステップS11〜S16では、改善(設定)されたベストフォーカス位置およびDOFに対応する瞳輝度分布を用いて、ウェハ上に形成されるパターン像の現状の評価位置からのシフト量を求め。求めたシフト量が所定値よりも大きいか否かを判断する。そして、シフト量が所定値よりも大きいときに、プロセスウィンドウを表す楕円の面積が最大値に向かって収束するように評価位置を調整する。評価位置の改善に際して、ウェハ面の複数のデフォーカス位置に応じて計算されたシフト量を評価位置のデフォーカス毎の調整量として用いる。
【0057】
実際の半導体露光装置に適用に際して、装置の個体差や装置パラメータの短期的変動にロバストであることが好ましい。ロバスト性の向上を実現するには、ステップS32の線形計画問題において装置の個体差や装置パラメータの短期的変動を導入すれば良い。装置の個体差および装置パラメータの短期的変動には、具体的には光の波長、投影光学系の収差・透過率、MSD(moving standard deviation)、像高などの違いがあるが、これらは全てウェハ上の光強度Iを計算する式(b)におけるCi(χ,Defocus,Bias)の変化になる。
【0058】
装置の個体差および装置パラメータの変動として考えられる量を導入したCi(χ,Defocus,Bias)を用いた制約条件(G)〜(M)、(O)〜(Q)をステップS32の線形計画問題に加えることにより、こうした変化を考慮した上での共通プロセスウィンドウを最大化し、変化の下でも制約条件が成り立つような瞳輝度分布、すなわち変化にロバストな瞳輝度分布を得ることができる。このように、許容されるOPE誤差および許容されるMEEFなどに関する制約条件として、結像光学系および照明光学系を含む装置の個体差および/または装置パラメータの変動を導入した制約条件を用いることにより、ロバスト性の向上した瞳輝度分布を得ることができる。
【0059】
式(b)を「ウェハ上の光強度」として説明したが、ウェハ上の光強度でなくとも照明ピクセル強度Siの線形和で表現できるものであれば良い。水中またはレジスト中の光強度を用いることができることは自明であるが、P. Liu et atl., Proc. of SPIE 8326, 83260A (2012)にあるようにレジスト中の強度に線形の係数を掛けることで近似的に表現したPAG(photo-acid
generator)の分布でもよい。加えて、P. Liu et
atl., Proc. of SPIE 8326, 83260A (2012)
ではGaussianのコンボリューションによって酸の拡散効果を近似的に加えているが、これを用いてもよい。
【0060】
上記アルゴリズムにおける線形計画問題は、より上位の概念である凸最適化問題(convex optimization:凸計画問題;凸計画法)に拡張しても良い。単純に現状のメリット関数を二乗すると凸最適化問題になる。また、凸最適化問題に拡張することで、必要に応じて2次までの関数をメリット関数や制約条件に導入できるようになる。すなわち、許容されるMEEFを制約条件として、凸計画法を用いてプロセスウィンドウが所定値以上になるように瞳輝度分布を設定しても良い。
【0061】
図11は、本実施形態にかかる瞳輝度分布の設定方法を適用して得られた瞳輝度分布を示す図である。以下に示す数値例では、各指標に対する注力の度合いを調整し、図11(a)に示すデフォルトの輪帯状の瞳輝度分布(基準的な輪帯状の瞳輝度分布)66aから、図11(b)〜(e)に示すように改善された瞳輝度分布66b〜66eを得た。表(1)に、図11(a)〜(e)の各瞳輝度分布66a〜66eの性能を示す。数値例では、ピッチが90nm〜700nm(ウェハ上換算)までの45個の1次元ライン・アンド・スペース・パターンに対して瞳輝度分布の最適化(改善)を行った。
【0062】
45個のパターンのうち、パターン番号1〜13は、ウェハ上換算で目標ライン幅が45nmで且つピッチがウェハ上換算で90nm〜150nmの範囲で変化するパターンである。パターン番号14〜29は、ウェハ上換算で目標ライン幅が75nmで且つピッチがウェハ上換算で150nm〜300nmの範囲で変化するパターンである。パターン番号30〜45は、ウェハ上換算で目標ライン幅が100nmで且つピッチがウェハ上換算で300nm〜700nmの範囲で変化するパターンである。x方向に周期的なラインに対する最適化のため、y方向直線偏光の光をパターンに照射した。
【0063】
表(1)
プロセスウィンドウ MEEF 最大OPE誤差
(%・μm) (nm)
瞳輝度分布66a 0.93 2.8 −
瞳輝度分布66b 1.44 2.6 5.6
瞳輝度分布66c 0.99 2.0 6.0
瞳輝度分布66d 1.17 2.7 0.1
瞳輝度分布66e 1.21 2.5 0.5
【0064】
図11(a)に示すデフォルトの瞳輝度分布66aを用いてマスクパターンにOPC処理(ライン幅のBiasing)を行った。図11(b)に示す瞳輝度分布66bは、MEEFおよびOPE誤差を無視してプロセスウィンドウの最適化のみに注力して得られた瞳輝度分布である。MEEFを無視したにも関わらずデフォルトよりもMEEFが改善したのは、プロセスウィンドウの最大化によって強度コントラストが向上したためであろうと考えられる。
【0065】
図11(c)に示す瞳輝度分布66cは、MEEFにユーザ指定最大値2を設定して得られた瞳輝度分布である。図11(d)に示す瞳輝度分布66dは、OPE誤差にユーザ指定最大値0.1nmを設定して得られた瞳輝度分布である。図11(e)に示す瞳輝度分布66eは、OPE誤差を0.5nm以下に抑えつつ、MEEFに2.5を設定して得られた瞳輝度分布であり、プロセスウィンドウおよびMEEFを向上させながらOPE誤差があまり大きくならないように配慮したバランスのとれた瞳輝度分布である。図12は、図11の各瞳輝度分布に対応するOPE誤差を示す図である。図12において、横軸はパターン番号1〜45を示し、縦軸はOPE誤差(CD誤差:nm)を示している。OPEを制約した瞳輝度分布66dと66eにおいて、OPE誤差を指定した通り小さく抑えることができた。以上のように、本実施形態にかかる瞳輝度分布の設定方法では、MEEFを小さく抑えつつプロセスウィンドウが所定値以上になるように瞳輝度分布を設定することができる。
【0066】
本実施形態にかかる瞳輝度分布の設定方法は、目標パターンから計算機上で瞳輝度分布とマスクパターン形状とを最適化していく段階、および実際に瞳輝度分布とマスクパターンとを作製し、意図した露光結果が得られるように瞳輝度分布を修正する段階において使用される。目標パターンから瞳輝度分布とマスクパターン形状とを最適化していく段階では、SMO(Source and Mask Optimization:例えば、T. Muelders et
al., Proc. of SPIE 8326, 83260G (2012)を参照)手法などが用いられるが、その中で空間像を用いて瞳輝度分布の最適化を行う。瞳輝度分布の最適化に際して、マスクパターン形状を変化させることなく、本実施形態にかかる設定方法によって瞳輝度分布のみを最適化(改善)する。本実施形態にかかる設定方法では、線形計画問題の活用により高速な最適化が可能である。その結果、最適化変数である照明ピクセルの数を増大させてより高い最適化結果を得ることができ、ひいてはより良い露光結果につながる瞳輝度分布を得ることができる。
【0067】
意図した露光結果が得られるように瞳輝度分布を修正する段階では、計算で導出したマスクパターンおよび瞳輝度分布による露光結果(目標値)と、実際に作製したマスクパターンおよび瞳輝度分布による露光結果との乖離を補正する。一般に、乖離の補正に際して、マスクまたは瞳輝度分布を作り直して所望の結果が得られるようにする。しかしながら、例えば米国特許公開第2011/0069305号公報に記載されているように自由形状の瞳輝度分布をアクティブに調整する技術を利用することにより、マスクの作り直しよりも安価に且つ迅速に瞳輝度分布を調整し、ひいては露光結果の調整を行うことが可能である。
【0068】
このとき、本実施形態にかかる瞳輝度分布の設定方法を用いて、どのように瞳輝度分布を調整すべきかを導出する。評価位置は、実験と計算との差異を埋めるように設定する。計算機上で線幅CDcalcが得られ、露光結果において線幅CDexp が得られていて、所望の線幅値がCDtargetであるものとすると、次の式(j)に示すような換算CDtargetが計算機上で得られるような瞳輝度分布を本実施形態の設定方法を用いて導出すれば、露光結果において所望の線幅CDtargetが得られると期待される。
換算CDtarget=CDtarget×(CDexp/CDcalc) (j)
【0069】
図13は、実施形態にかかる露光装置の構成を概略的に示す図である。図13において、感光性基板であるウェハWの転写面(露光面)の法線方向に沿ってZ軸を、ウェハWの転写面内において図13の紙面に平行な方向に沿ってX軸を、ウェハWの転写面内において図13の紙面に垂直な方向に沿ってY軸をそれぞれ設定している。
【0070】
図13を参照すると、本実施形態の露光装置には、光源1から露光光(照明光)が供給される。光源1として、たとえば193nmの波長の光を供給するArFエキシマレーザ光源や、248nmの波長の光を供給するKrFエキシマレーザ光源などを用いることができる。本実施形態の露光装置は、装置の光軸AXに沿って、空間光変調ユニット3を含む照明光学系ILと、マスクMを支持するマスクステージMSと、投影光学系PLと、ウェハWを支持するウェハステージWSとを備えている。
【0071】
光源1からの光は、照明光学系ILを介してマスクMを照明する。マスクMを透過した光は、投影光学系PLを介して、マスクMのパターンの像をウェハW上に形成する。光源1からの光に基づいてマスクMのパターン面(被照射面)を照明する照明光学系ILは、空間光変調ユニット3の作用により、複数極照明(2極照明、4極照明など)、輪帯照明等の変形照明、通常の円形照明などを行う。また、マスクMのパターンの特性に応じて、複雑な外形形状および分布を有する瞳輝度分布に基づく変形照明を行う。
【0072】
照明光学系ILは、光軸AXに沿って光源1側から順に、ビーム送光部2と、空間光変調ユニット3と、リレー光学系4と、マイクロフライアイレンズ(またはフライアイレンズ)5と、コンデンサー光学系6と、照明視野絞り(マスクブラインド)7と、結像光学系8とを備えている。空間光変調ユニット3は、ビーム送光部2を介した光源1からの光に基づいて、その遠視野領域(フラウンホーファー回折領域)に所望の光強度分布(瞳輝度分布)を形成する。空間光変調ユニット3の内部構成および作用については後述する。
【0073】
ビーム送光部2は、光源1からの入射光束を適切な大きさおよび形状の断面を有する光束に変換しつつ空間光変調ユニット3へ導くとともに、空間光変調ユニット3に入射する光束の位置変動および角度変動をアクティブに補正する機能を有する。リレー光学系4は、空間光変調ユニット3からの光を集光して、マイクロフライアイレンズ5へ導く。マイクロフライアイレンズ5は、たとえば縦横に且つ稠密に配列された多数の正屈折力を有する微小レンズからなる光学素子であり、平行平面板にエッチング処理を施して微小レンズ群を形成することによって構成されている。
【0074】
マイクロフライアイレンズでは、互いに隔絶されたレンズエレメントからなるフライアイレンズとは異なり、多数の微小レンズ(微小屈折面)が互いに隔絶されることなく一体的に形成されている。しかしながら、レンズ要素が縦横に配置されている点でマイクロフライアイレンズはフライアイレンズと同じ波面分割型のオプティカルインテグレータである。マイクロフライアイレンズ5における単位波面分割面としての矩形状の微小屈折面は、マスクM上において形成すべき照野の形状(ひいてはウェハW上において形成すべき露光領域の形状)と相似な矩形状である。
【0075】
マイクロフライアイレンズ5は、入射した光束を波面分割して、その後側焦点位置またはその近傍の照明瞳に多数の小光源からなる二次光源(実質的な面光源;瞳輝度分布)を形成する。マイクロフライアイレンズ5の入射面は、リレー光学系4の後側焦点位置またはその近傍に配置されている。なお、マイクロフライアイレンズ5として、例えばシリンドリカルマイクロフライアイレンズを用いることもできる。シリンドリカルマイクロフライアイレンズの構成および作用は、例えば米国特許第6913373号明細書に開示されている。
【0076】
本実施形態では、マイクロフライアイレンズ5により形成される二次光源を光源として、照明光学系ILの被照射面に配置されるマスクMをケーラー照明する。このため、二次光源が形成される位置は投影光学系PLの開口絞りASの位置と光学的に共役であり、二次光源の形成面を照明光学系ILの照明瞳面と呼ぶことができる。典型的には、照明瞳面に対して被照射面(マスクMが配置される面、または投影光学系PLを含めて照明光学系と考える場合にはウェハWが配置される面)が光学的なフーリエ変換面となる。
【0077】
なお、瞳輝度分布とは、照明光学系ILの照明瞳面または当該照明瞳面と光学的に共役な面における光強度分布である。マイクロフライアイレンズ5による波面分割数が比較的大きい場合、マイクロフライアイレンズ5の入射面に形成される大局的な光強度分布と、二次光源全体の大局的な光強度分布(瞳輝度分布)とが高い相関を示す。このため、マイクロフライアイレンズ5の入射面および当該入射面と光学的に共役な面における光強度分布についても瞳輝度分布と称することができる。
【0078】
コンデンサー光学系6は、マイクロフライアイレンズ5から射出された光を集光して、照明視野絞り7を重畳的に照明する。照明視野絞り7を通過した光は、結像光学系8を介して、マスクMのパターン形成領域の少なくとも一部に照明視野絞り7の開口部の像である照明領域を形成する。なお、図13では、光軸(ひいては光路)を折り曲げるための光路折曲げミラーの設置を省略しているが、必要に応じて光路折曲げミラーを照明光路中に適宜配置することが可能である。
【0079】
マスクステージMSにはXY平面(例えば水平面)に沿ってマスクMが載置され、ウェハステージWSにはXY平面に沿ってウェハWが載置される。投影光学系PLは、照明光学系ILによってマスクMのパターン面上に形成される照明領域からの光に基づいて、ウェハWの転写面(露光面)上にマスクMのパターンの像を形成する。こうして、投影光学系PLの光軸AXと直交する平面(XY平面)内においてウェハステージWSを二次元的に駆動制御しながら、ひいてはウェハWを二次元的に駆動制御しながら一括露光またはスキャン露光を行うことにより、ウェハWの各露光領域にはマスクMのパターンが順次露光される。
【0080】
図14および図15を参照して、空間光変調ユニット3の内部構成および作用を説明する。空間光変調ユニット3は、図14に示すように、プリズム32と、プリズム32のYZ平面に平行な側面32aに近接して配置された空間光変調器30とを備えている。プリズム32は、例えば蛍石または石英のような光学材料により形成されている。
【0081】
空間光変調器30は、例えばYZ平面に沿って二次元的に配列された複数のミラー要素30aと、複数のミラー要素30aを保持する基盤30bと、基盤30bに接続されたケーブル(不図示)を介して複数のミラー要素30aの姿勢を個別に制御駆動する駆動部30cとを備えている。空間光変調器30では、制御部CRからの制御信号に基づいて作動する駆動部30cの作用により、複数のミラー要素30aの姿勢がそれぞれ変化し、各ミラー要素30aがそれぞれ所定の向きに設定される。
【0082】
プリズム32は、直方体の1つの側面(空間光変調器30の複数のミラー要素30aが近接して配置される側面32aと対向する側面)をV字状に凹んだ側面32bおよび32cと置き換えることにより得られる形態を有し、XZ平面に沿った断面形状に因んでKプリズムとも呼ばれる。プリズム32のV字状に凹んだ側面32bおよび32cは、鈍角をなすように交差する2つの平面P1およびP2によって規定されている。2つの平面P1およびP2はともにXZ平面と直交し、XZ平面に沿ってV字状を呈している。
【0083】
2つの平面P1とP2との接線(Y方向に延びる直線)P3で接する2つの側面32bおよび32cの内面は、反射面R1およびR2として機能する。すなわち、反射面R1は平面P1上に位置し、反射面R2は平面P2上に位置し、反射面R1とR2とのなす角度は鈍角である。一例として、反射面R1とR2とのなす角度を120度とし、光軸AXに垂直なプリズム32の入射面IPと反射面R1とのなす角度を60度とし、光軸AXに垂直なプリズム32の射出面OPと反射面R2とのなす角度を60度とすることができる。
【0084】
プリズム32では、空間光変調器30の複数のミラー要素30aが近接して配置される側面32aと光軸AXとが平行であり、且つ反射面R1が光源1側(露光装置の上流側:図14中左側)に、反射面R2がマイクロフライアイレンズ5側(露光装置の下流側:図14中右側)に位置している。さらに詳細には、反射面R1は光軸AXに対して斜設され、反射面R2は接線P3を通り且つXY平面に平行な面に関して反射面R1とは対称的に光軸AXに対して斜設されている。
【0085】
プリズム32の反射面R1は、入射面IPを介して入射した光を空間光変調器30に向かって反射する。空間光変調器30の複数のミラー要素30aは、反射面R1と反射面R2との間の光路中に配置され、反射面R1を経て入射した光を反射する。プリズム32の反射面R2は、空間光変調器30を経て入射した光を反射し、射出面OPを介してリレー光学系4へ導く。
【0086】
空間光変調器30は、反射面R1を経て入射した光に対して、その入射位置に応じた空間的な変調を付与して射出する。空間光変調器30は、図15に示すように、所定面内で二次元的に配列された複数の微小なミラー要素(光学要素)30aを備えている。説明および図示を簡単にするために、図14および図15では空間光変調器30が4×4=16個のミラー要素30aを備える構成例を示しているが、実際には16個よりもはるかに多数、典型的には4000個〜100,000個程度のミラー要素30aを備えている。
【0087】
図14を参照すると、光軸AXと平行な方向に沿って空間光変調ユニット3に入射した光線群のうち、光線L1は複数のミラー要素30aのうちのミラー要素SEaに、光線L2はミラー要素SEaとは異なるミラー要素SEbにそれぞれ入射する。同様に、光線L3はミラー要素SEa,SEbとは異なるミラー要素SEcに、光線L4はミラー要素SEa〜SEcとは異なるミラー要素SEdにそれぞれ入射する。ミラー要素SEa〜SEdは、その位置に応じて設定された空間的な変調を光L1〜L4に与える。
【0088】
空間光変調器30の複数のミラー要素30aの配列面は、リレー光学系4の前側焦点位置またはその近傍に配置されている。空間光変調器30の複数のミラー要素30aによって反射されて所定の角度分布が与えられた光は、リレー光学系4の後側焦点面4aに所定の光強度分布SP1〜SP4を形成する。すなわち、リレー光学系4は、空間光変調器30の複数のミラー要素30aが射出光に与える角度を、空間光変調器30の遠視野領域(フラウンホーファー回折領域)である面4a上での位置に変換している。
【0089】
再び図15を参照すると、リレー光学系4の後側焦点面4aの位置にマイクロフライアイレンズ5の入射面が位置決めされている。したがって、マイクロフライアイレンズ5の直後の照明瞳に形成される瞳輝度分布は、空間光変調器30およびリレー光学系4がマイクロフライアイレンズ5の入射面に形成する光強度分布SP1〜SP4に対応した分布となる。空間光変調器30は、図15に示すように、例えば平面状の反射面を上面にした状態で1つの平面に沿って規則的に且つ二次元的に配列された多数の微小なミラー要素30aを含む可動マルチミラーである。
【0090】
各ミラー要素30aは可動であり、その反射面の傾き(すなわち反射面の傾斜角および傾斜方向)は、制御部CRからの指令にしたがって作動する駆動部30cの作用により独立に制御される。各ミラー要素30aは、その配列面に平行で且つ互いに直交する二方向(Y方向およびZ方向)を回転軸として、所望の回転角度だけ連続的或いは離散的に回転することができる。すなわち、各ミラー要素30aの反射面の傾斜を二次元的に制御することが可能である。
【0091】
各ミラー要素30aの反射面を離散的に回転させる場合、回転角を複数の状態(例えば、・・・、−2.5度、−2.0度、・・・0度、+0.5度・・・+2.5度、・・・)で切り換え制御するのが良い。図15には外形が正方形状のミラー要素30aを示しているが、ミラー要素30aの外形形状は正方形に限定されない。ただし、ただし、光利用効率の観点から、ミラー要素30aの隙間が少なくなるように配列可能な形状(最密充填可能な形状)とすることができる。また、光利用効率の観点から、隣り合う2つのミラー要素30aの間隔を必要最小限に抑えることができる。
【0092】
空間光変調器30では、制御部CRからの制御信号に応じて作動する駆動部30cの作用により、複数のミラー要素30aの姿勢がそれぞれ変化し、各ミラー要素30aがそれぞれ所定の向きに設定される。空間光変調器30の複数のミラー要素30aによりそれぞれ所定の角度で反射された光は、リレー光学系4を介して、マイクロフライアイレンズ5の直後の照明瞳に、複数極状(2極状、4極状など)、輪帯状、円形状等の光強度分布(瞳輝度分布)を形成する。また、マイクロフライアイレンズ5の直後の照明瞳には、マスクMのパターンの特性に応じて、複雑な外形形状および分布を有する瞳輝度分布が形成される。
【0093】
すなわち、リレー光学系4およびマイクロフライアイレンズ5は、空間光変調ユニット3中の空間光変調器30を介した光に基づいて、照明光学系ILの照明瞳に所定の光強度分布を形成する分布形成光学系を構成している。マイクロフライアイレンズ5の後側焦点位置またはその近傍の照明瞳と光学的に共役な別の照明瞳位置、すなわち結像光学系8の瞳位置および投影光学系PLの瞳位置(開口絞りASの位置)にも、マイクロフライアイレンズ5の直後の照明瞳における光強度分布に対応する瞳輝度分布が形成される。
【0094】
本実施形態の露光装置は、例えばマスクステージMSに取り付けられて、照明光学系ILの照明瞳に形成された瞳輝度分布を計測する瞳分布計測装置DTを備えている。瞳分布計測装置DTは、図16に示すように、ピンホール部材10と、集光レンズ11と、たとえば二次元CCDイメージセンサのような光検出器12とを有する。ピンホール部材10は、計測に際して、照明光学系ILの被照射面(すなわち露光に際してマスクMのパターン面Pmが位置決めされるべき高さ位置)に配置される。また、ピンホール部材10は集光レンズ11の前側焦点位置に配置され、光検出器12の検出面は集光レンズ11の後側焦点位置に配置されている。
【0095】
したがって、光検出器12の検出面は、照明光学系ILの照明瞳と光学的に共役な位置、すなわち結像光学系8の瞳面と光学的に共役な位置に配置される。瞳分布計測装置DTでは、照明光学系ILを経た光が、ピンホール部材10のピンホールを通過し、集光レンズ11の集光作用を受けた後、光検出器12の検出面に達する。光検出器12の検出面には、結像光学系8の瞳面における光強度分布(瞳輝度分布)に対応する光強度分布が形成される。
【0096】
こうして、瞳分布計測装置DTは、照明光学系ILの被照射面を通過した光に基づいて、照明光学系ILの照明瞳(結像光学系8の瞳面)と光学的に共役な面における光強度分布を計測する。具体的に、瞳分布計測装置DTは、照明光学系による被照射面上の各点に関する瞳輝度分布(各点に入射する光が照明光学系の射出瞳位置に形成する瞳輝度分布)を計測する。
【0097】
露光装置の動作を統括的に制御する制御部CRは、瞳分布計測装置DTでの計測結果を参照しつつ、照明瞳に所望の瞳輝度分布が形成されるように、空間光変調器30の複数のミラー要素30aを制御する。瞳分布計測装置DTのさらに詳細な構成および作用については、たとえば特開2000−19012号公報を参照することができる。また、瞳分布計測装置DTとし、たとえば米国特許第5925887号公報に開示されるピンホールを介して瞳輝度分布を検出する装置を用いることもできる。
【0098】
また、瞳分布計測装置DTに代えて、あるいは瞳分布計測装置DTに加えて、投影光学系PLを介した光に基づいて(すなわち投影光学系PLの像面を通過した光に基づいて)、投影光学系PLの瞳面(投影光学系PLの射出瞳面)における瞳輝度分布を計測する瞳分布計測装置DTw(不図示)を設けることもできる。具体的に、瞳分布計測装置DTwは、例えば投影光学系PLの瞳位置と光学的に共役な位置に配置された光電変換面を有する撮像部を備え、投影光学系PLの像面の各点に関する瞳輝度分布(各点に入射する光が投影光学系PLの瞳位置に形成する瞳輝度分布)を計測する。これらの瞳分布計測装置の詳細な構成および作用については、例えば米国特許公開第2008/0030707号明細書を参照することができる。また、瞳分布計測装置として、米国特許公開第2010/0020302号公報の開示を参照することもできる。
【0099】
露光装置では、マスクMのパターンをウェハWに高精度に且つ忠実に転写するために、例えばマスクMのパターン特性に応じた適切な照明条件のもとで露光を行うことが重要である。本実施形態では、複数のミラー要素30aの姿勢がそれぞれ個別に変化する空間光変調器30を備えた空間光変調ユニット3を用いて、空間光変調器30の作用により形成される瞳輝度分布を自在に且つ迅速に変化させ、ひいては多様な照明条件を実現することができる。すなわち、照明光学系ILでは、姿勢が個別に制御される多数のミラー要素30aを有する空間光変調器30を用いているので、照明瞳に形成される瞳輝度分布の外形形状および分布の変更に関する自由度は高い。
【0100】
しかしながら、実際に照明瞳に形成される瞳輝度分布は様々な原因により設計上の瞳輝度分布とは僅かに異なるものとなったり、瞳輝度分布以外の光学特性が瞳輝度分布を設計した条件と異なるものとなったりして、設計上の瞳輝度分布に応じた所望の結像性能を達成することは困難である。本実施形態の露光装置では、所望の結像性能に十分近い結像性能が得られるように、本実施形態にかかる瞳輝度分布の設定方法を用いて照明光学系ILの照明瞳に形成すべき瞳輝度分布を設定し、設定された瞳輝度分布をターゲットとして照明瞳に形成される瞳輝度分布を調整し、ひいては照明光学系ILを調整する。
【0101】
図17は、本実施形態にかかる照明光学系の調整方法のフローチャートである。本実施形態にかかる照明光学系ILの調整方法では、図1図12を参照して説明した瞳輝度分布の設定方法を用いて、照明光学系の照明瞳に形成すべき瞳輝度分布を設定する(ステップS01)。すなわち、ステップS01は、図1のステップS11〜S16を含んでおり、MEEFを小さく抑えつつ、プロセスウィンドウが所定値以上になるように瞳輝度分布を改善(設定)する。
【0102】
次いで、本実施形態にかかる照明光学系ILの調整方法では、改善(設定)された瞳輝度分布をターゲットとして照明瞳に形成される瞳輝度分布を調整する(ステップS02)。具体的に、ステップS02では、瞳分布計測装置DTの計測結果を参照しつつ空間光変調器30の複数のミラー要素30aの姿勢をそれぞれ制御することにより、ステップS01で改善された瞳輝度分布にできるだけ近い瞳輝度分布を照明瞳に形成し、ひいては照明光学系ILの照明瞳に形成される瞳輝度分布を調整する。
【0103】
換言すると、ステップS02では、設計上の瞳輝度分布に応じた所望の結像性能をターゲットに、照明光学系ILの照明瞳に形成される瞳輝度分布が適切に調整される。なお、ステップS02の後に、必要に応じて、改善(設定)された瞳輝度分布に基づいてテスト露光を行い、投影光学系PLの像面に設置されたウェハWに形成されたレジストパターンの線幅を実測することにより、OPE誤差が許容範囲に収まっていることを確認しても良い。
【0104】
以上のように、本実施形態にかかる照明光学系ILの調整方法では、MEEFを小さく抑えつつプロセスウィンドウが所定値以上になるように瞳輝度分布を設定する設定方法を用いて、所望の結像性能をターゲットに瞳輝度分布を適切に調整することができる。その結果、本実施形態の露光装置(IL,MS,PL,WS)では、所望の結像性能をターゲットに瞳輝度分布を適切に調整する照明光学系ILを用いて、適切な照明条件のもとで良好な露光を行うことにより、性能の良好なデバイスを製造することができる。
【0105】
なお、上述の実施形態では、瞳分布計測装置DTが、照明光学系ILの被照射面(マスクMのパターン面の位置)を通過した光に基づいて、照明光学系ILの照明瞳(結像光学系8の瞳面)と光学的に共役な面における光強度分布を計測している。しかしながら、これに限定されることなく、照明光学系ILの被照射面へ向かう光に基づいて照明瞳と光学的に共役な面における光強度分布を計測することもできる。一例として、マイクロフライアイレンズ5とコンデンサー光学系6との間の光路中から照明光の一部を取り出し、取り出した光をマイクロフライアイレンズ5の直後の照明瞳と光学的に共役な面で検出することにより、マイクロフライアイレンズ5の直後の照明瞳における瞳輝度分布に対応する光強度分布を計測する。
【0106】
また、上述の実施形態では、空間光変調器30の複数のミラー要素30aの配列面に対向した光学面を有するプリズム部材として、1つの光学ブロックで一体的に形成されたKプリズム32を用いている。しかしながら、これに限定されることなく、一対のプリズムにより、Kプリズム32と同様の機能を有するプリズム部材を構成することができる。また、1つの平行平面板と一対の三角プリズムとにより、Kプリズム32と同様の機能を有するプリズム部材を構成することができる。また、1つの平行平面板と一対の平面ミラーとにより、Kプリズム32と同様の機能を有する組立て光学部材を構成することができる。
【0107】
本実施形態では、空間光変調器30として、たとえば二次元的に配列された複数のミラー要素30aの向きを連続的にそれぞれ変化させる空間光変調器を用いている。このような空間光変調器として、たとえば欧州特許公開第779530号公報、米国特許第5,867,302号公報、米国特許第6,480,320号公報、米国特許第6,600,591号公報、米国特許第6,733,144号公報、米国特許第6,900,915号公報、米国特許第7,095,546号公報、米国特許第7,295,726号公報、米国特許第7,424,330号公報、米国特許第7,567,375号公報、米国特許公開第2008/0309901号公報、米国特許公開第2011/0181852号公報並びに米国特許公開第2011/188017号公報に開示される空間光変調器を用いることができる。なお、二次元的に配列された複数のミラー要素5aの向きを離散的に複数の段階を持つように制御してもよい。
【0108】
上述の実施形態では、二次元的に配列されて個別に制御される複数のミラー要素を有する空間光変調器として、二次元的に配列された複数の反射面の向き(角度:傾き)を個別に制御可能な空間光変調器30を用いている。しかしながら、これに限定されることなく、たとえば二次元的に配列された複数の反射面の高さ(位置)を個別に制御可能な空間光変調器を用いることもできる。このような空間光変調器としては、たとえば米国特許第5,312,513号公報、並びに米国特許第6,885,493号公報の図1dに開示される空間光変調器を用いることができる。これらの空間光変調器では、二次元的な高さ分布を形成することで回折面と同様の作用を入射光に与えることができる。なお、上述した二次元的に配列された複数の反射面を持つ空間光変調器を、たとえば米国特許第6,891,655号公報や、米国特許公開第2005/0095749号公報の開示に従って変形しても良い。
【0109】
上述の実施形態では、照明光学系ILの照明瞳に形成される瞳輝度分布を調整する瞳調整装置として、所定面内に配列されて個別に制御可能な複数のミラー要素30aを有する反射型の空間光変調器30を用いている。しかしながら、これに限定されることなく、所定面内に配列されて個別に制御される複数の透過光学要素を備えた透過型の空間光変調器を用いることもできる。
【0110】
上述の実施形態では、マスクの代わりに、所定の電子データに基づいて所定パターンを形成する可変パターン形成装置を用いることができる。なお、可変パターン形成装置としては、たとえば所定の電子データに基づいて駆動される複数の反射素子を含む空間光変調素子を用いることができる。空間光変調素子を用いた露光装置は、たとえば米国特許公開第2007/0296936号公報に開示されている。また、上述のような非発光型の反射型空間光変調器以外に、透過型空間光変調器を用いても良く、自発光型の画像表示素子を用いても良い。
【0111】
上述の実施形態の露光装置は、本願特許請求の範囲に挙げられた各構成要素を含む各種サブシステムを、所定の機械的精度、電気的精度、光学的精度を保つように、組み立てることで製造される。これら各種精度を確保するために、この組み立ての前後には、各種光学系については光学的精度を達成するための調整、各種機械系については機械的精度を達成するための調整、各種電気系については電気的精度を達成するための調整が行われる。各種サブシステムから露光装置への組み立て工程は、各種サブシステム相互の、機械的接続、電気回路の配線接続、気圧回路の配管接続等が含まれる。この各種サブシステムから露光装置への組み立て工程の前に、各サブシステム個々の組み立て工程があることはいうまでもない。各種サブシステムの露光装置への組み立て工程が終了したら、総合調整が行われ、露光装置全体としての各種精度が確保される。なお、露光装置の製造は温度およびクリーン度等が管理されたクリーンルームで行っても良い。
【0112】
次に、上述の実施形態にかかる露光装置を用いたデバイス製造方法について説明する。図18は、半導体デバイスの製造工程を示すフローチャートである。図18に示すように、半導体デバイスの製造工程では、半導体デバイスの基板となるウェハWに金属膜を蒸着し(ステップS40)、この蒸着した金属膜上に感光性材料であるフォトレジストを塗布する(ステップS42)。つづいて、上述の実施形態の露光装置を用い、マスク(レチクル)Mに形成されたパターンをウェハW上の各ショット領域に転写し(ステップS44:露光工程)、この転写が終了したウェハWの現像、つまりパターンが転写されたフォトレジストの現像を行う(ステップS46:現像工程)。
【0113】
その後、ステップS46によってウェハWの表面に生成されたレジストパターンをマスクとし、ウェハWの表面に対してエッチング等の加工を行う(ステップS48:加工工程)。ここで、レジストパターンとは、上述の実施形態の露光装置によって転写されたパターンに対応する形状の凹凸が生成されたフォトレジスト層であって、その凹部がフォトレジスト層を貫通しているものである。ステップS48では、このレジストパターンを介してウェハWの表面の加工を行う。ステップS48で行われる加工には、例えばウェハWの表面のエッチングまたは金属膜等の成膜の少なくとも一方が含まれる。なお、ステップS44では、上述の実施形態の露光装置は、フォトレジストが塗布されたウェハWを、感光性基板としてパターンの転写を行う。
【0114】
図19は、液晶表示素子等の液晶デバイスの製造工程を示すフローチャートである。図19に示すように、液晶デバイスの製造工程では、パターン形成工程(ステップS50)、カラーフィルタ形成工程(ステップS52)、セル組立工程(ステップS54)およびモジュール組立工程(ステップS56)を順次行う。ステップS50のパターン形成工程では、プレートPとしてフォトレジストが塗布されたガラス基板上に、上述の実施形態の露光装置を用いて回路パターンおよび電極パターン等の所定のパターンを形成する。このパターン形成工程には、上述の実施形態の露光装置を用いてフォトレジスト層にパターンを転写する露光工程と、パターンが転写されたプレートPの現像、つまりガラス基板上のフォトレジスト層の現像を行い、パターンに対応する形状のフォトレジスト層を生成する現像工程と、この現像されたフォトレジスト層を介してガラス基板の表面を加工する加工工程とが含まれている。
【0115】
ステップS52のカラーフィルタ形成工程では、R(Red)、G(Green)、B(Blue)に対応する3つのドットの組をマトリックス状に多数配列するか、またはR、G、Bの3本のストライプのフィルタの組を水平走査方向に複数配列したカラーフィルタを形成する。ステップS54のセル組立工程では、ステップS50によって所定パターンが形成されたガラス基板と、ステップS52によって形成されたカラーフィルタとを用いて液晶パネル(液晶セル)を組み立てる。具体的には、例えばガラス基板とカラーフィルタとの間に液晶を注入することで液晶パネルを形成する。ステップS56のモジュール組立工程では、ステップS54によって組み立てられた液晶パネルに対し、この液晶パネルの表示動作を行わせる電気回路およびバックライト等の各種部品を取り付ける。
【0116】
また、本発明は、半導体デバイス製造用の露光装置への適用に限定されることなく、例えば、角型のガラスプレートに形成される液晶表示素子、若しくはプラズマディスプレイ等のディスプレイ装置用の露光装置や、撮像素子(CCD等)、マイクロマシーン、薄膜磁気ヘッド、及びDNAチップ等の各種デバイスを製造するための露光装置にも広く適用できる。更に、本発明は、各種デバイスのマスクパターンが形成されたマスク(フォトマスク、レチクル等)をフォトリソグラフィ工程を用いて製造する際の、露光工程(露光装置)にも適用することができる。
【0117】
なお、上述の実施形態では、露光光としてArFエキシマレーザ光(波長:193nm)やKrFエキシマレーザ光(波長:248nm)を用いているが、これに限定されることなく、他の適当なパルスレーザ光源、たとえば波長157nmのレーザ光を供給するFレーザ光源、波長146nmのレーザ光を供給するKr2レーザ光源、波長126nmのレーザ光を供給するAr2レーザ光源などを用いることができる。また、g線(波長436nm)、i線(波長365nm)などの輝線を発する超高圧水銀ランプなどのCW(Continuous Wave)光源を用いることも可能である。また、YAGレーザの高調波発生装置などを用いることもできる。この他、例えば米国特許第7,023,610号明細書に開示されているように、真空紫外光としてDFB半導体レーザ又はファイバーレーザから発振される赤外域、又は可視域の単一波長レーザ光を、例えばエルビウム(又はエルビウムとイッテルビウムの両方)がドープされたファイバーアンプで増幅し、非線形光学結晶を用いて紫外光に波長変換した高調波を用いても良い。
【0118】
また、上述の実施形態において、投影光学系と感光性基板との間の光路中を1.1よりも大きな屈折率を有する媒体(典型的には液体)で満たす手法、所謂液浸法を適用しても良い。この場合、投影光学系と感光性基板との間の光路中に液体を満たす手法としては、国際公開第WO99/49504号パンプレットに開示されているような局所的に液体を満たす手法や、特開平6−124873号公報に開示されているような露光対象の基板を保持したステージを液槽の中で移動させる手法や、特開平10−303114号公報に開示されているようなステージ上に所定深さの液体槽を形成し、その中に基板を保持する手法などを採用することができる。ここでは、国際公開第WO99/49504号パンフレット、特開平6−124873号公報および特開平10−303114号公報の教示を参照として援用する。
【0119】
また、上述の実施形態において、米国公開公報第2006/0170901号及び第2007/0146676号に開示されるいわゆる偏光照明方法を適用することも可能である。ここでは、米国特許公開第2006/0170901号公報及び米国特許公開第2007/0146676号公報の教示を参照として援用する。
【0120】
また、上述の実施形態では、露光装置においてマスクを照明する照明光学系に対して本発明を適用している。しかしながら、これに限定されることなく、一般に、第1面に配置される物体の像を第2面上に形成する結像光学系に照明光を供給するための照明光学系に対して本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0121】
1 光源
2 ビーム送光部
3 空間光変調ユニット
30 空間光変調器
30a ミラー要素
30c 駆動部
32 Kプリズム
4 リレー光学系
5 マイクロフライアイレンズ
6 コンデンサー光学系
7 照明視野絞り(マスクブラインド)
8 結像光学系
IL 照明光学系
CR 制御部
DT 瞳分布計測装置
M マスク
PL 投影光学系
W ウェハ
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