(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
電場増強層は、溝部上に金属材料又は半導体材料で形成される薄膜層と透明材料で形成される光導波路層とがこの順で配されて形成される請求項1から3のいずれかに記載の目的物質検出チップ。
【背景技術】
【0002】
昨今、健康診断、製薬、疾患や伝染病の早期発見、環境汚染検出、テロ対策などのさまざまな分野で、持ち運びが可能で、操作が簡単でかつ高感度に目的物質を検出可能である検出器が必要とされている。
携行が可能な程度に小さく、液体中に含まれる様々な物質の測定が可能なセンサーとしては、表面プラズモン共鳴(SPR;Surface Plasmon Resonance)を用いるSPRセンサーや光導波モードを用いる光導波モードセンサーが知られている(例えば、非特許文献1〜19、及び特許文献1〜7参照)。これらのセンサーは、疾患に起因する様々なバイオマーカーやウイルスの検出、たんぱく質などの様々なバイオ物質の選択的な検出、環境中に含まれる重金属や油などによる環境汚染の評価、テロに用いられる毒物や違法薬物、爆薬の検出に用いられてきている。
【0003】
図1に、クレッチマン配置と呼ばれる最もポピュラーなSPRセンサー200の構成例を示す。このSPRセンサー200は、透明基板201上に金や銀、アルミニウムなどの金属を蒸着して金属薄膜層202を形成し、透明基板201の金属薄膜層202を形成した面と反対側の面に光学プリズム203を密着させた構造からなり、光源204から照射されるレーザー光を偏光板205にて偏光し、光学プリズム203を通して透明基板201に照射する。入射光210Aは、全反射となる条件で入射する。入射光210Aの金属の表面側に染み出すエバネセント波によって、ある入射角度で表面プラズモン共鳴が発現する。入射角度θは、光学系を駆動させて適宜変更する。表面プラズモン共鳴が起こると、エバネセント波は表面プラズモンによって吸収されるので、この入射角付近では反射光の強度が著しく減少する。表面プラズモン共鳴が発現する条件は、金属薄膜層202表面近傍の誘電率によって変化することから、金属薄膜層202の表面において物質の吸着や接近、離脱、変質が生じると、反射光210Bの強度に変化が現れる。よって、金属薄膜層202の表面上に被検出試料が結合したり吸着して誘電率に変化が生じると、入射光210Aの反射特性に変化が生じるため、金属薄膜層202から反射される反射光210Bの強度変化を光検出器206によりモニターすることによって、被検出試料を検出することができる。
【0004】
また、SPRセンサーにおいて、光学系を簡素化し、小型化を実現した系として、波長分解型測定法が報告されている(例えば、非特許文献6、7参照)。
図2に、非特許文献6の報告に係る光学系のSPRセンサー300の概要を示す。入射光310Aは、光源301から光ファイバ302Aを介して光学プリズム303の手前まで導かれ、コリメートレンズ304によって平行光にされ、偏光板305にてp偏光にされた後に、光学プリズム303に入射される。この入射光310Aは、光学プリズム303上に密着する形で配された透明基板306上の金属薄膜層307に照射され、金属薄膜層307から反射される反射光310Bとして、集光レンズ308を通じて光ファイバ302Bで光検出器309まで導かれる。ここで光検出器309は、分光器309Aを備えており、反射光310Bの反射スペクトルを観測する。このSPRセンサー300は、前述のSPRセンサー200と同様に、金属薄膜層307表面近傍で誘電率の変化が生じると、反射スペクトルに変化が生じ、誘電率変化を検知できる一方で、前述のSPRセンサー200と異なり、光学系を駆動させて入射光310Aの金属薄膜層に対する入射角度を変更することなく、反射光310Bを波長分解して測定に供する、つまりスペクトルを測定するため、光学系を簡素にし、装置を小型化できる利点を有する。
【0005】
光導波モードセンサーは、SPRセンサーとよく似た構造を持ち、やはりセンサーの検出面における、物質の吸着や誘電率の変化を検出するセンサーである。この光導波モードセンサーは、SPRセンサーで用いることができる全ての光学系と同等の光学系を使用することが可能であることが知られている。
【0006】
図3に、クレッチマン配置と類似の配置を用いた光導波モードセンサー400を示す。光導波モードセンサー400は、透明基板401aと、その上に被覆した金属層又は半導体層で構成される薄膜層401bと、更にこの薄膜層401b上に形成される光導波路層401cとからなる検出板401を用いる。この検出板401の光導波路層401cが形成されている面とは反対側の面に屈折率調節オイルを介して光学プリズム402が密着される。光源403から照射され、偏光板404にて偏光された入射光410Aは、光学プリズム402を通して検出板401に照射される。入射光410Aは、検出板401に対して全反射となる条件で入射する。ある特定の入射角度θにおいて、入射光410Aが光導波路内を伝搬する光導波モード(漏洩モード、又はリーキーモードとも呼ばれる)と結合すると、光導波モードが励起され、この入射角近傍で光の反射光強度が大きく変化する。このような光導波モードの励起条件は、光導波路層401c表面近傍の誘電率によって変化することから、光導波路層401cの表面において物質の吸着や接近、離脱、変質が生じると、反射光410Bの強度に変化が現れる。この変化を光検出器405により観測することにより、光導波路層401c表面における物質の吸着や接近、離脱、変質といった現象を検出することができる。
【0007】
また、
図4に、
図2に示したSPRセンサー300の光学系を光導波モードセンサーに適用した光導波モードセンサー500の概要を示す。該
図4に示す光照射手段は、光源501と、光ファイバ502Aと、コリメートレンズ503と偏光板504で構成されている。光源501からの光は、光ファイバ502Aに入射され、光学プリズム505に入射しやすい位置に導かれる。光ファイバ502Aの先に配置されたコリメートレンズ503により、光ファイバ502Aからの出射光は、平行光となるように設定される。また、この出射光は、偏光板504にて所望の偏光状態に偏光された後に、光学プリズム505に入射される。光学プリズム505に入射された光は、検出板506で反射され、反射光として光学プリズム505から出射された後、集光レンズ507により集光されて光ファイバ502Bに取り込まれ、分光器508及び光検出器509にて、反射強度又は反射スペクトルを観測可能とされる。検出板506は、透明基板506a上に、金属層又は半導体層で構成される薄膜層506bと、光導波路層506cとがこの順で配されたもので構成され、検出板506の光導波路層506cが配される面と反対側の面に光学プリズム505が光学的に密着されて配される。このような構造を有する光導波モードセンサー500により、入射光が検出板506で反射された後の特性、例えば反射光スペクトルを観測すると、入射光のある特定波長帯域の光が、検出板506の表面に形成された光導波路層506c内及びその近傍を局在的に伝搬する光導波モードを励起する条件を満たし、この波長帯域で反射強度が著しく変化する現象が生じる。この光導波モード励起条件は、検出板506の光導波路層506c表面近傍の誘電率によって変化するため、光導波路層506c表面近傍の誘電率に変化があると、反射スペクトルが変化する。これにより、反射スペクトルの変化又はある特定波長帯域の反射光強度の変化を観測することで、光導波路層506c表面近傍において誘電率変化を引き起こしている原因、例えば、物質の吸着や接近、離脱、変質を光検出器509で検出することができる。
また、光導波モードセンサーでは、光導波路層にナノ孔を形成し検出面の表面積を増大させると、検出感度が飛躍的に向上することがこれまでに報告されている。(例えば、特許文献4、5、非特許文献10〜13参照)
【0008】
SPRセンサーや光導波モードセンサーには、検出面に光励起発光が可能な物質、例えば蛍光色素など(以下、蛍光物質と呼ぶ)、を付着又は近接させると、蛍光物質の発光を増強する効果もある。この効果は、しばしば、物質検出をする際の信号の増幅に用いられる。例えば、
図1中の金属薄膜層202表面近傍に所望の特定物質を捕捉した際、この特定物質が非常に小さい物質であったり、量が著しく少なかったり、その誘電率が周辺媒質と殆ど同じであったりした場合、
図1で示した、反射光特性の変化を観測する手法では、十分な信号を得られない場合がある。このとき、捕捉した特定物質に対し、蛍光物質を付着させて標識として用いる。付着した蛍光物質は、励起光によって励起されたプラズモンによる電場増強効果で発光強度が強められるため、前記特定物質の捕捉を間接的に高感度で検出が可能となる。この効果は、
図2の金属薄膜層307表面近傍、
図3の光導波路層401c表面近傍、
図4の光導波路層506c表面近傍でも同様に得られる。
【0009】
ここで、蛍光物質からの発光は、
図1〜4のいずれの場合も、主に検出板の励起光を照射する側とは反対側、つまり蛍光物質が付着している側に発せられることから、この発光を検出するためには、発光を検出する装置、例えばCCDや光電子増倍管、フォトダイオードなどの光検出器を、検出板の検出面側、つまりプリズムを配する面と反対側に配置する。
【0010】
以上に示した、SPRセンサーや光導波モードセンサーは、既に様々な装置も販売され、広く使用されているが、一般的な測定の場合、
図1〜4に示したような、プリズムと検出板の他に、検出対象となる目的物質を検出面表面に輸送するための輸送路、例えば、被検体が液体の場合、流路を検出板表面に配置する必要がある。そのため、部品点数が多くなり、取扱いが容易でないという問題がある。
また、実際の使用時には、プリズムと検出板と輸送路とを接合させて用いる必要があるが、この接合工程は、検出毎に検出板や輸送路を交換する場合には、毎回行う必要があり、システムが複雑になってしまうという問題点がある。
更に、部品としてのプリズムは、一般的に高精度の研磨を必要とし、高価であるという問題点がある。
【0011】
プリズム、検出板及び輸送路を一体的に形成したものとしては、特許文献7に開示のバイオチップが挙げられる。このバイオチップでは、基板に、輸送路としての微細流体チャネルが形成されるとともに、該微細流体チャネル中に第1及び第2傾斜面によって形成された複数の楔状の先鋭部が形成されている。また、先鋭部の傾斜面上には、表面プラズモンを励起する金属層と、蛍光体で標識化された標的分子と特異結合する捕捉分子が固定された誘電体層とが形成され、誘電体層に標的物質が固定された場合に、表面プラズモンを通じて励起される蛍光体から蛍光が検出される。
このバイオチップによれば、プリズム、検出板及び輸送路の機能を奏する各部が基板に対して、一体的に形成されており、部品点数を減らすことができる。
しかしながら、このバイオチップにおいては、微細流体チャネルにおける被検体液の送液方向に対して、先鋭部の傾斜面が対向するように形成され、被検体液の送液を先鋭部が立ち塞ぐように構成されているため、被検体液を微細流体チャネル中に送液し難いという問題がある。
また、このバイオチップにおいては、標的分子の検出面をなす先鋭部と、輸送路としての微細流体チャネルとが別個に形成されるため、依然としてシステムが複雑で、生産コストが高くなるという問題がある。
更に、検出面を先鋭部とする構成では、該先鋭部の第1傾斜面に入射される反射光が対向する第2傾斜面に反射されることから、第1傾斜面における標的分子の存在を、反射光の特性変化に基づいて検出する
図1〜
図4の光学系を用いて検出することができないという問題がある。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(目的物質検出装置及び目的物質検出チップ)
本発明の目的物質検出装置は、本発明の目的物質検出チップと、光照射手段と、光検出手段と、必要に応じて、その他の部材とを有する。
本発明の目的物質検出装置では、目的物質として、例えば、ウイルス、たんぱく質、DNA等の生体物質、重金属、油分、毒物、劇物、その他各種分子などを検出することができる。また、誘電率の変化を伴う物質の変質を観測することもできる。
【0019】
<目的物質検出チップ>
前記目的物質検出チップは、透明基体部と、流路と、必要に応じて、その他の部材とを有する。
【0020】
−透明基体部−
前記透明基体部は、光を透過する板状の部材としてなる。
前記透明基体部の形成材料としては、前記光透過性を有し、前記流路が形成可能である限り特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、射出成型技術を用いて量産が可能なポリスチレン、ポリカーボネート等のプラスチック材料、高い透明性が確保できるシリカガラス等のガラス材料が好ましい。
【0021】
前記透明基体部は、従来のSPRセンサー又は光導波モードセンサーに用いられる光学プリズムの役割を有する。
即ち、前記光照射手段から照射される光を、前記透明基体部に形成される後述の溝部の傾斜面に対して、表面プラズモン共鳴又は光導波モードが励起される特定の入射角度で導入する役割を有する。
そのため、前記透明基体部の屈折率の下限としては、1.33以上が好ましく、1.38以上がより好ましく、1.42以上がさらに好ましい。
また、前記屈折率の上限としては、4以下が好ましく、3以下がより好ましい。
なお、この屈折率については、別途図面を用いて後述する。
【0022】
−流路−
前記流路は、前記透明基体部の一の面に溝として形成され、前記溝の長さ方向に前記目的物質の存在を検証する被検体液が送液される。また、この流路は、断面視で前記透明基体部の一の面に対して一の勾配をもって傾斜する傾斜面を少なくとも一部に有するように形成された溝部の内表面上に、少なくとも電場増強層が配されて形成される。ここで、電場増強層とは、表面プラズモン共鳴の励起が可能な層状の構造で形成される層(表面プラズモン励起層)及び、光導波モードの励起が可能な層状の構造で形成される層を指す。電場増強層に関しては、別途後述する。また、前記流路は、溝の前記被検体液と接する最表面の一部又は全部が前記目的物質の検出面とされる。
このような流路の構成によれば、前記被検体液を送液する輸送路としての役割と、前記目的物質を検出する検出面としての役割とを兼備させることができ、前記被検体液を容易に送液することができるとともに、前記輸送路と前記検出面とを別個に形成するよりも生産コストを低減させることができる。
【0023】
前記目的物質検出チップにおける前記流路の数としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、1つでもよいし、複数であってもよい。
前記流路の前記被検体液が流れる方向の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、直線状であってもよいし、曲線状であってもよい。ただし、照射される光が直線偏光である場合、効率よく表面プラズモン共鳴を励起するには、前記傾斜面に対し常にp偏光された光が入射されることが好ましく、また、効率よく光導波モードを励起するには、前記傾斜面に対し常にs偏光又はp偏光された光が入射されることが好ましいことから、前記流路において、前記検出に供される部分は直線状であることが好ましい。
また、前記流路における溝としては、前記透明基体部に形成される前記溝部に前記電場増強層を配して形成されるため、その断面形状としては、前記溝部の形状に相似した形状とされる。
【0024】
−−溝部−−
前記透明基体部に前記溝部を形成する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記溝部を有するように前記透明基体部を射出成型する方法、前記透明基体部に機械的な手段、例えば切削手段を用いて形成する方法などが挙げられる。中でも、安価で生産性良く前記目的物質検出チップを製造することができることから、前記射出成型する方法が好ましい。
【0025】
前記溝部は、断面視で前記透明基体部の一の面に対して一の勾配をもって傾斜する傾斜面を少なくとも一部に有する。
前記溝部の形状としては、前記傾斜面を少なくとも一部に有するものであれば、特に制限はなく、例えば、断面V字状、断面台形状、断面多角形状などの形状が挙げられる。ただし、前記傾斜面が曲面とされ、一の勾配をもって傾斜する部分を一切有しない断面U字状の形状や断面半円状の形状などは、含まない。前記傾斜面が曲面であると、前記電場増強層における表面プラズモン又は光導波モードの励起が限定的となり、十分に目的物質を検出することができない。
したがって、前記溝部を構成する溝側面には、前記一の勾配をもって傾斜する傾斜面が少なくとも一部に存在する必要がある。一方、こうした観点から、前記傾斜面としては、前記目的物質を検出する検出面に形成されていればよく、前記溝部の長さ方向の全体に亘って形成されている必要はない。
また、前記溝部の長さ方向の全体に亘って前記傾斜面が形成されている場合でも、当該傾斜面のすべてを検出に使用する必要はなく、その一部のみに光照射を行い、またはその一部でのみ目的物質の捕捉を行い、検出を行ってもよい。
前記溝部を構成する溝側面としては、このような傾斜面を有する限り特に制限はなく、左右対称に形成されていてもよいし、左右非対称に形成されていてもよい。
なお、これらの詳細については、別途、図面を用いて後述する。
【0026】
前記溝部を前記透明基体部の一の面上からみたときの開口幅、即ち、前記一の面における前記左右の溝側面の間隔としては、特に制限はないが、5μm〜5cmが好ましい。前記開口幅が5μm未満であると、構造が微細なため、作製が困難となり、製造コストが高くなってしまい、また、前記溝部が小さいと、前記流路が狭くなり、粘性の高い液体は流れなくなってしまう。一方、前記開口幅が5cmを超えると、前記流路の内容積もそれにつれて大きくなるため、多くの被検体液が必要となってしまう。
また、前記溝部の深さとしては、特に制限はないが、上記と同じ理由で、5μm〜5cmが好ましい。
また、前記流路を複数配する場合、即ち、前記溝部を複数形成する場合、隣接する溝部の間隔としては、特に制限はないが、5μm〜5cmが好ましい。前記間隔が5μm未満であると、構造が微細なため、作製が困難となり、製造コストが高くなってしまうことや、間隔が狭いことから、隣接する流路間で被検体液の漏れが生じ易く被検体液が混ざってしまう恐れがあり、5cmを超えると、検出チップ自体が大きくなってしまい、作製時に材料を多く必要とする、保管時にスペースを取ってしまう、などの不都合が生じることがある。
【0027】
−−電場増強層−−
前記電場増強層としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、(A)前記溝部上に表面プラズモン共鳴を発現する表面プラズモン励起層を配することで形成することができ、また、(B)前記溝部上に光導波モードを励起する層構造を配することで形成することができる。ここで、前記光導波モードを励起する層構造は、金属材料又は半導体材料で形成される薄膜層と透明材料で形成される光導波路層とをこの順で前記溝部上に配することで形成することができる。
【0028】
(A)前記表面プラズモン励起層の形成材料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、入射する光の波長において負の誘電率を有する金属材料が挙げられるが、金、銀、プラチナ及びアルミニウムの少なくともいずれかを含む金属材料が好ましい。
この金属材料で形成される金属層は、プリズムを介してある入射角度で光を受けると、表面側に染み出したエバネセント波が表面プラズモンの励起条件を満たし、前記金属層の表面に前記表面プラズモン共鳴を発現させる。
前記金属層の厚みとしては、金属材料及び入射する光の波長によってその最適値が決定されるが、この値はフレネルの式を用いた計算から算出が可能であることが知られている。一般的に、近紫外域から近赤外域で表面プラズモンを励起する場合、前記金属層の厚さは数nm〜数十nmとなる。
【0029】
前記表面プラズモン励起層、即ち、前記金属層の形成方法としては、特に制限はなく、蒸着法、スパッタリング法、CVD法、PVD法、スピンコート法等の公知の形成方法が挙げられるが、前記溝部が形成される前記透明基体部の形成材料が前記プラスチック材料や前記ガラス材料である場合、前記金属層を直接前記溝部上に形成すると、密着性が低く、簡単にはがれてしまうことがある。
そのため、密着性を向上させる観点から、前記溝部の内表面上にニッケルやクロムを形成材料とする接着層を形成し、この接着層上に前記金属層を形成することが好ましい。
【0030】
後述する目的物質又は該目的物質を標識化する蛍光物質からの発光を検出する場合、前記目的物質又は前記蛍光物質が、前記金属層に近接すると、発光した光が再度前記金属層に吸収され、発光効率が低下するクエンチングと呼ばれる現象が起こる。
この場合、前記目的物質及び前記蛍光物質を前記金属層の表面から離す目的で、厚みが数nmから数十nm程度の被覆層を形成するとクエンチングが抑制され、発光効率の低下を抑えられることが知られている。
こうしたことから、前記表面プラズモン励起層、即ち、前記金属層の表面が透明誘電体で被覆されることが好ましい。
前記透明誘電体としては、特に制限はなく、シリカガラス等のガラス材料、有機高分子材料、ウシ血清アルブミン等のたんぱく質など、厚さ数nmから数十nmの透明膜を形成可能な材料が挙げられる。
【0031】
(B)前記光導波モードを励起する層構造の形成において、前記薄膜層を形成する前記金属材料としては、特に制限はなく、例えば、一般に入手が可能で、安定な金属及びその合金などが挙げられるが、金、銀、銅、プラチナ及びアルミニウムの少なくともいずれかを含むことが好ましい。
前記薄膜層を形成する半導体材料としては、特に制限はなく、例えば、シリコン、ゲルマニウム等の半導体材料又は既知の化合物半導体材料が挙げられるが、特にシリコンは安価で加工が容易であるため好ましい。
前記薄膜層の厚みとしては、前記表面プラズモン励起層の金属層と同様で、前記薄膜層の材料及び入射する光の波長によってその最適値が決定されるが、この値はフレネルの式を用いた計算から算出が可能であることが知られている。一般的に、近紫外域から近赤外域の波長帯の光を使用する場合、前記薄膜層の厚さは数nm〜数百nmとなる。
なお、前記薄膜層として前記金属材料を選択する場合、密着性を向上させるために、前記溝部と前記薄膜層との間に、前述したクロムやニッケルの接着層を配することが好ましい。
【0032】
また、前記光導波路層の形成材料としては、光透過性の高い透明材料であれば特に制限はなく、例えば、酸化シリコン、窒化シリコン、アクリル樹脂等の樹脂材料、酸化チタン等の金属酸化物、窒化アルミニウム等の金属窒化物などが挙げられるが、作製が容易で、化学的安定性が高い酸化シリコンが好ましい。この場合、前記薄膜層を前記シリコンで形成すれば、前記シリコンの層の表面側を酸化させることで、簡便に形成することができる。
【0033】
−−表面処理−−
前記目的物質を選択的に検出する場合、特に制限はないが、前記流路の表面、即ち、前記目的物質の検出面に前記目的物質を特異的に捕捉するための表面処理が施されることが好ましい。
前記表面処理の方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記表面プラズモン励起層としての前記金属層に貴金属を用いて前記検出面とする場合には、金属−チオール結合を用いて捕捉物質を前記検出面に固定化させる化学修飾方法などが挙げられ、また、前記金属層を被覆する前記透明誘電体としてシリカガラスなどのガラス材料を用い、このガラス被覆層を前記検出面とする場合には、シランカップリングを用いて前記検出面に捕捉物質を固定化させる化学修飾方法などが挙げられる。
また、前記光導波路層の表面を前記検出面とする場合の表面処理方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記光導波路層として酸化シリコンを用い、その表面を前記検出面とする場合には、前記ガラス被覆層と同様、シランカップリングにて前記検出面に捕捉物質を固定化させる化学修飾方法などが挙げられる。
【0034】
−その他の部材−
前記その他の部材としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、蓋部、貫通孔等が挙げられる。
【0035】
前記蓋部は、前記流路に導入される前記被検体液が前記流路からこぼれないように、前記流路の開口部を塞ぐように、前記透明基体部の前記流路が形成される面上に配される。
前記蓋部の形成材料としては、特に制限はないが、前記目的物質又は該目的物質を標識化する蛍光物質からの発光を検出する場合、その発光を透過する透明材料で形成されることが好ましい。これにより、前記光検出手段による発光検出に基づき前記目的物質の存在を感度良く検出することができる。
このような蓋部としては、例えば、透明な樹脂材料又はガラス材料で形成される、シール材及び板材のいずれかで構成される。
なお、前記電場増強層から反射される反射光を検出する場合、前記蓋部を、例えば、反射材及び反射層を持つシール材又は板材のいずれかで構成することで、前記反射光を前記透明基体部側に反射させて該透明基体部中に伝搬させるようにしてもよい。
【0036】
前記貫通孔は、前記透明基体を貫通するように形成され、前記流路に前記被検体液を導入し、前記流路に導入された前記被検体液を排出する目的で形成される。
前記貫通孔としては、例えば、2つの前記貫通孔が、それぞれの貫通先の端部が前記流路における前記被検体液が流れる方向の始端と終端とに対して連接されるように、前記透明基体部の前記流路が形成される面と反対の面側から穿設されて設けられる。
【0037】
前記目的物質検出チップの実施形態の例を図面を用いて説明する。
図5(a)に示す本発明の一実施形態に係る目的物質検出チップ1は、透明基体部2の一の面に断面V字状の溝からなる流路3が形成されて構成される。また、流路3は、その断面を説明する
図5(b)に示すように、断面V字状に形成された溝部の内表面上に、電場増強層4が配されて形成される。流路3内には、目的物質の存在を検証する被検体液が導入され、その最表面、ここでは電場増強層4の表面が前記目的物質の検出面とされる。
電場増強層4では、図示しない光照射手段から照射される光Lにより、表面プラズモン共鳴又は光導波モードが励起され、層内及び層表面付近に強い電場が形成される。前記光照射手段では、透明基体部2の流路3が形成される面と反対の面である面R側から光Lを照射する。
【0038】
このとき、
図5(b)の解説図として示す
図5(c)のように、透明基体部2は、点線で示す三角形プリズムとして機能する領域を有し、面R側から照射される光Lを特定の入射角度で電場増強層4に入射させる。即ち、透明基体部2は、SPRセンサー及び光導波モードセンサーにおける光学プリズムとして機能し、電場増強層4の表面近傍での電場を増強させて、この現象に由来する目的物質の検出を可能とする。なお、面Rは、プリズムの入射面として機能することから、平坦性が高いことが好ましい。
【0039】
図5(c)に示す透明基体部2の溝部における底角φは、該溝部を形成する傾斜面に対する光Lの入射角度θによって決定される。例えば、この
図5(c)に示す目的物質検出チップ1の例では、透明基体部2の流路3が形成される面とその反対の面である面Rとが平行で、溝部を形成する2つの傾斜面が左右対称で、前記光照射手段から光Lを面Rに対して垂直に入射させる場合としている。この場合の底角φ(°)は、(90°−θ)×2となる角度で選択される。
入射角度θは、表面プラズモン共鳴及び光導波モードの励起条件によって決定されることから、底角φは、透明基体部2の形成材料の屈折率及び電場増強層4の構成に依存する。
ここで、透明基体部2の屈折率が低すぎると、入射角度θを大きくする必要があり、ひいては底角φを小さくする必要が生ずる。流路3の開口幅が数100μm以下のマイクロ流路の場合、底角φが30°以下である場合には、流路3の形成が難しくなることから、透明基体部2の屈折率としては、1.38以上が好ましく、1.42以上がより好ましい。一方、加工の難易度が特に問題とならない大きさの流路の場合、透明基体部2の屈折率はさらに低くて良いが、少なくとも水の屈折率1.33より高いことが好ましい。
一方、透明基体部2の屈折率が高すぎると、光Lを面Rに入射した際、面Rでの反射が強くなってしまう、という問題点がある。また、屈折率が高くなお且つ透明性も高い材料は候補が限られてしまう。よって、透明基体部2の屈折率としては、4以下が好ましく、3以下がより好ましい。
【0040】
前記目的物質検出チップの他の実施形態を
図6(a)を用いて説明する。
図6(a)に示す目的物質検出チップ11では、透明基体部12の一の面に4つの流路13が形成される。流路13は、
図6(a)のA−A線断面を示す
図6(b)に示されるように、それぞれが断面V字状の溝として形成される。また、
図6(a)及びそのB−B線断面を示す
図6(c)に示されるように、前記被検体液を流路13に導入する貫通孔15と、流路13に導液された被検体液を排出する貫通孔15’とが形成される。
【0041】
図7(a)及び
図7(b)は、目的物質検出チップ11に対して、蓋部16を配した状態を示す図である。即ち、蓋部16は、板状又はシート状の部材からなり、流路13の開口を塞ぐように透明基体部12上に配され、流路13から前記被検体液がこぼれることを防止する。この場合、被検体液は
図7(b)の貫通孔15の下側開口部より導入され、流路13を流れた後、貫通孔15’の下側開口部より排出される。なお、前記被検体液の送液は、流路13が細い場合、毛細管現象によって自然に行われるが、効率的に送液するため、圧力を付加した状態で行ってもよい。
【0042】
図8(a)は、溝部の形状をV字状から台形状に変更させた変更例を示す断面図である。即ち、
図8(a)に示す目的物質検出チップ21では、透明基体部22と、流路23と、蓋部26とで構成され、流路23としては、台形状に形成される。
溝部の形状ひいては流路の溝形状がV字状である場合、流路の溝側面すべてを検出面として利用できるメリットがある一方、流路の左右の溝側面が交差する底部が鋭角となり、この部分に送液された被検体液及びこの部分に捕捉された目的物質やその他の不純物を洗浄し難くなる。そのため、各検出試験ごとに行われる洗浄に大きな負担がかかるとともに、洗浄しきれなかった被検体液、目的物質及びその他の不純物の存在により、検出に誤りが生ずることがある。
この点、台形状の流路23とすれば、底部が鋭角になることがないため、使用後の被検体液及び目的物質の洗浄が容易となる。この流路23の台形状の底部の幅方向(図中左右方向)の長さとしては、流路23の開口幅を5μm〜5cmとしたときに、2μm〜4cmが好ましい。
【0043】
図8(b)は、前記流路の溝形状を多角形状に変形させた変更例を示す断面図である。即ち、
図8(b)に示す目的物質検出チップ21’では、透明基体部22’と、流路23’と、蓋部26’とで構成され、透明基体部22’の溝部における溝側面、ひいては流路23’の溝側面が多段の勾配をもって形成される。この場合、勾配ごとに異なる励起波長による検出を同時に実施することが可能となる。
なお、流路23’の更なる変更例については、前記目的物質検出装置における具体的な検出方法ととともに、後掲の図面で説明をする。
【0044】
<光照射手段>
前記光照射手段は、前記目的物質検出チップの前記流路が形成される面と反対の面側から前記電場増強層に光を照射する手段である。
前記光照射手段の構成としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、レーザー、白色ランプ、LEDなどの光源、前記光源からの光をコリメートするコリメータ、前記光源からの光を集光するレンズ、前記光源からの光を偏光する偏光板など、公知の光学部材から適宜選択して構成することができる。
中でも、前記光源から発せられる光を直線偏光に偏光する偏光板を有して構成されることが好ましい。
【0045】
<光検出手段>
前記光検出手段は、(C)前記電場増強層から反射される反射光を検出する手段として構成される。また、検出の手段として、前記目的物質又は前記目的物質を標識化する前記蛍光物質からの蛍光を検出する場合には、(D)前記光照射手段から照射される光により、前記流路内に存在する前記被検体液中の前記目的物質又は前記蛍光物質から発せられる蛍光を検出する手段として構成される。これら2つの態様では、前記光検出手段の光学配置が異なる。
【0046】
前記光検出手段の構成としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、前記(C)の場合、前記反射光を検出するCCD、フォトダイオード、光電子増倍管などの光検出器、前記反射光を前記光検出器に導く光ファイバ、前記反射光を集光して前記光検出器に導く集光レンズなど、公知の光学部材から適宜選択して構成することができる。
また、前記波長分解型測定法を用いる場合、前記光検出手段として、分光器と光検出器とを備えることにより、反射光のスペクトルを測定するか、ある特定波長領域における反射光強度を測定する。
また、前記(D)の場合、前記蛍光を検出するCCD、フォトダイオード、光電子増倍管などの光検出器、前記蛍光を前記光検出器に導く光ファイバ、前記蛍光を集光して前記光検出器に導く集光レンズなど、公知の光学部材から適宜選択して構成することができる。検出される光が前記目的物質又は前記蛍光物質から発せられる蛍光に由来するものであるのか、それ以外の光によるものなのかを区別するために、前記蛍光波長帯の光のみを透過する波長フィルタを介して前記光検出器による検出を行ってもよい。
【0047】
<その他の部材>
前記その他の部材としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、連結流路、送液ポンプなどが挙げられる。
前記連結流路としては、目的に応じて様々な機能を持つ流路からなり、例えば、前記被検体液を分離するための分岐部、前記被検体液を混ぜ合わせる合流部を有するものが挙げられ、これらは、前記流路又は前記貫通孔に連接されて配される。
また、前記送液ポンプとしては、前記流路に前記被検体液を送液するポンプなどが挙げられる。
【0048】
前記目的物質検出装置で前記目的物質を検出する具体的な構成例を、図面を用いて以下に説明する。
【0049】
前記目的物質の検出を前記電場増強層から反射される反射光を検出する場合、
図9に示すような光学配置とすることができる。
即ち、目的物質検出装置30は、目的物質検出チップ31と、該目的物質検出チップ31の面R側から光L1,L2を照射する光照射手段(不図示)と、該目的物質検出チップ31の左右側部近傍にそれぞれ配される2つの光検出器37、37’とで構成される。目的物質検出チップ31は、透明基体部32と、該透明基体部32の溝部を構成する左右の溝側面を左右対称として形成された流路33と、該流路33の開口を塞ぐように透明基体部32上に形成された蓋部36とで構成される。
目的物質検出チップ31の面R側から流路33に対して照射された光L1,L2は、流路33の2つの傾斜面により、図中左右方向に反射される。ここでは、透明基体部32を空気より屈折率が高い材料で形成すると同時に、蓋部36を透明基体部32の形成材料より屈折率が低い材料で形成することで、各反射光が透明基体部32内で全反射しながら伝搬するように構成されている。また、蓋部36を反射部材により形成しても、同様の効果を得ることができる。
透明基体部32と蓋部36の屈折率が同じか、または蓋部36の屈折率の方が大きい場合は、各反射光は、蓋部36の上側の表面で反射して伝搬することになる。
伝搬した光は、透明基体部32の側面から出射されるため、この位置に光検出器37、37’を配して光を検出する。このとき、効率良く光を光検出器37、37’に取り込むために、透明基体部32の側面(光の出射面)を平坦に形成することが好ましく、よって、必要に応じ、研磨を施すことが好ましい。また、この光の出射面付近に集光レンズを配して、光をより多く光検出器に取り込むことも好ましい。
【0050】
照射する光として、レーザー光のような単色光を用いる場合、入射角度の変更機構により、前記光照射手段を目的物質検出チップ31の面R側で半円を描くように周回させるか、又は目的物質検出チップ31の方を固定された前記光照射手段の周りで周回させて、入射角度を変えながら、表面プラズモン共鳴又は光導波モードの励起に伴う反射率の変化を観測することで、前記目的物質の捕捉時に生じる反射率の入射角度依存性の変化を捉えて、前記目的物質の有無を検出する。なお、同様の測定は、集光レンズ(不図示)によって、流路33の傾斜面に光を集光しながら角度をつけ、表面プラズモン共鳴又は光導波モードの励起に伴う反射特性の変化を観測することでも実施可能である。
入射角度の変更機構や目的物質検出チップ31を周回させる回転機構は、可動部を必要とするため、検出装置そのものが大型化するデメリットがある。そこで、入射角度を一定の角度に固定した状態で反射光強度を観測し、目的物質の捕捉時に生じる反射光強度の増減を観測することによって、目的物質を検出する手法も好ましい。この場合は、光を流路33の傾斜面に集光する機構も不要である。
【0051】
照射する光として、ランプ光やLEDなどの白色光を用いる場合、光はコリメートした後、目的物質検出チップ31の面R側から入射させる。その反射光は、分光器を備えた検出器37、37’によって検出される。表面プラズモン共鳴又は光導波モードの励起に伴う反射スペクトルを観測し、前記目的物質の捕捉時に生じる反射スペクトルの変化を捉えて、前記目的物質の有無を検出する。この場合も、単色光を用いた時に必要な入射角度の変更機構や光を流路33の傾斜面に集光する機構が不要となるため、装置が簡略化でき好ましい。
【0052】
なお、前記白色光を用いる場合、測定中に光の入射角度を変化させると、この入射角度の変化によって、前記反射率の波長依存性が変化するため、前記目的物質の捕捉時の反射特性の変化を読み取ることが難しくなってしまう。
そのため、この場合、光の入射角度は、一定の角度に固定しておくことが好ましい。この角度に関しては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、流路33を構成する2つの傾斜面が左右対称の場合、面Rに対して垂直に光を入射すると、左右に配置された光検出器37、37’で目的物質の検出が可能となる。
更にこのとき、
図10に示すように、面Rに対して入射角度を傾けると、入射角度θ1と入射角度θ2とで左右の傾斜面に光が入射され、左右の傾斜面で異なる反射特性が得られることから、目的に応じ、左右の面で異なる検出を同時に実施することが可能となる。
【0053】
ただし、以上で述べた目的物質検出チップ31の左右の面を両方用いての検出を必ず実施する必要はなく、目的物質検出チップ31の左右のいずれか一方にのみ光検出器37を配置して検出を行ってもよい。また、流路33を構成する2つの傾斜面は、必ずしも左右対称である必要はなく、例えば、
図11に示すように、反射光を目的物質検出チップ41の片側でのみ検出する場合は、検出に使用しない側の面の成す角度は、検出に特に影響を与えないことから、どのような形状を取っていてもよく、例えば図に示したように流路43の検出に使用しない側の面を垂直に形成してもよい。なお、図中の符号46は、蓋部を示す。
【0054】
また、
図12に示すように、流路53を形成する透明基体部52の、溝部を構成する2つの傾斜面を左右非対称として形成すると、それぞれの傾斜面で異なる反射特性が得られるため、2つの異なる検出を同時に実施可能である。なお、
図12中の符号51は、目的物質検出チップを示し、符号56は、蓋部を示す。
【0055】
図13に示すように、流路83を形成する透明基体部82の溝部を多角形状に構成し、流路83内に面Rと平行な平面を持たせることで、底部が鋭角になることを避け、被検体液及び目的物質の洗浄を容易に行うことができる。また、透明基体部82の厚さに制限があって、深い流路を形成できない場合には、
図13に示す断面形状を持つ流路83を用いることで、
図8(a)に示す台形型より、広い傾斜面を得ることができ、より高い感度が期待できる。なお、この場合、底部の凸部の上辺、つまり凸部を構成する2つの傾斜面の間の部分は、この凸部を構成する一方の傾斜面で反射された光がこの凸部の他方の傾斜面で再度反射されないよう、ある程度の幅を持っていることが好ましい。なお、
図13中の符号81は、目的物質検出チップを示し、符号86は、蓋部を示す。
【0056】
前記目的物質又は前記蛍光物質から発せられる蛍光を検出する場合の前記目的物質検出装置の構成例を
図14に示す。即ち、目的物質検出装置60は、目的物質検出チップ61と、光Lを目的物質検出チップ61の面R側から照射する光照射手段(不図示)と、前記目的物質又は前記蛍光物質から発せられる蛍光kを蛍光kの波長帯域の光のみを透過する波長フィルタ68を介して検出する光検出器67とを有する。また、目的物質検出チップ61は、透明基体部62と、その一の面に形成される流路63と、該流路63を塞ぐように透明基体部62上に配される蓋部66と、蓋部66上の流路63の開口と対向する位置以外に配される遮光部69とを有する。
図14では、遮光部69は蓋部66の上に形成されているが、これは、透明基体部62の流路63の開口部以外の上面部と蓋部66との間に形成してもよい。
【0057】
ここで、照射する光Lとしては、前記目的物質又は前記蛍光色素の励起帯の波長に対応するレーザー光か、光フィルタや分光器などで単色化した光を用いる。入射角度は、反射光の測定時と同様に、面Rに対して垂直に入射してもよく、ある一定の角度を持って入射してもよい。
このとき、前記光照射手段を目的物質検出チップ61の面R側で半円を描くように周回させるか、又は目的物質検出チップ61の方を固定された前記光照射手段の周りで周回させて、光Lの入射角度を変え、流路63の前記電場増強層に光Lを照射すると、表面プラズモン共鳴又は光導波モードが励起される特定の角度において、発光強度が増大する現象が観測でき、観測している発光が表面プラズモン共鳴又は光導波モードによって生じたものか、表面プラズモン共鳴又は光導波モードの励起に関与しない光Lの迷光が前記蛍光物質に照射され、前記目的物質の検出とは無関係に発光したものかを確認することができる。
【0058】
ただ、反射光を検出する場合と同様で、入射角度の変更機構や目的物質検出チップ61を周回させる回転機構は、可動部を必要とするため、検出装置そのものが大型化するデメリットがある。装置を小型且つ安価に構成するには、入射角度を一定の角度に固定した状態で蛍光強度を観測し、目的物質を検出する手法が好ましい。
【0059】
蛍光を検出する場合でも、既述の反射光を検出する場合と同様の溝構造の流路を持つ目的物質検出チップを用いることができる。つまり、
図5(b)に示したような断面V字状の溝、
図8(a)に示すような断面台形状の溝、
図8(b)に示すような断面多角形状の溝、
図11に示すような一つの傾斜面のみを検出に用いる溝、
図12に示すような左右非対称なV字状の溝など、が適用可能である。また、
図13に示すような断面多角形状の溝も適用可能である。ただし、
図8(a)や
図13に示す目的物質検出チップのように、流路内に面Rと平行な平面を持つ場合、これらの平面部には、光を減衰させる遮光部を設け、光検出器側に光照射手段からの光がなるべく到達しないようにすることが好ましい。
【0060】
図12に示すように、流路53を構成する2つの傾斜面を左右非対称として形成すると、それぞれの傾斜面で異なる蛍光特性が得られるため、2つの異なる検出を同時に実施可能である。
例えば、左右の面で、それぞれ異なる波長で電場増強が生じるように設定しておく。例えば、左側の面では、550nmの光によって表面プラズモンが励起されるように設定し、右側の面では、660nmの光で表面プラズモンが励起されるように設定する。左側の面では、550nmの励起光で発光する蛍光色素が特異的に吸着されるような検体の測定を実施し、右側の面では、660nmの励起光で発光する蛍光色素が特異的に吸着されるような検体の測定を実施する。光源には、550nmの励起光と、660nmの励起光とをそれぞれ備え、交互に照射するか、交互にフィルタなどで遮光することによって、それぞれの励起光による信号を左右それぞれの面から検出できるため2つの検体を同時に検出することが可能となる。更に、
図8(b)のように、流路23’を構成する2つの傾斜面を複数段の異なる角度の面で構成すれば、さらに多くの異なる励起波長による検出を同時に実施することが可能となる。
【0061】
前記目的物質自体が蛍光kを発する場合、流路63の検出面で前記目的物質を捕捉し、前記目的物質の発光の有無及び発光強度を観測することによって、前記目的物質の有無及び量が観測できる。
しかし、多くの物質は、強い発光特性を示さないので、流路63の検出面で捕捉した後、前記蛍光物質を前記目的物質に付着させて発光を観測する。
前記蛍光物質を付着させる方法に関しては、特に制限はなく、公知の手法を適用することができ、例えば、前記目的物質に特異的に吸着する抗体に前記蛍光物質を結合させておき、この蛍光物質付きの抗体を前記目的物質に吸着させる方法が挙げられる。
【0062】
(目的物質検出方法)
本発明の目的物質検出方法は、本発明の前記目的物質検出装置を用いて前記目的物質を検出する方法であって、被検体液導入工程と、光照射工程と、光検出工程とを含む。
【0063】
前記被検体導入工程は、前記目的物質検出チップの前記流路内に前記目的物質の存在を検証する被検体液を導入する工程である。
前記光照射工程は、前記目的物質検出チップの流路が形成される面と反対の面側から電場増強層に光を照射する工程である。
前記光検出工程は、(E)前記電場増強層から反射された光を検出する工程、又は(F)前記光照射工程で実施される前記光の照射に基づき、前記流路内に存在する前記被検体液中の前記目的物質又は前記目的物質を標識化する蛍光物質から発せられる蛍光を検出する工程である。
これらの工程は、前記目的物質検出チップ及び前記目的物質検出装置で説明した事項により適宜実施することができる。
【実施例】
【0064】
(実施例1)
本発明の実施例として、
図15に示す目的物質検出装置70を製造した。
該目的物質検出装置70は、目的物質検出チップ71と、光Lを目的物質検出チップ71の面R側から照射する光照射手段(不図示)と、前記目的物質又は前記蛍光物質から発せられる蛍光を検出する光検出器77とを有する。
【0065】
目的物質検出チップ71は、次のように製造した。
先ず、ポリスチレンを形成材料とし、射出成型により断面V字状の溝部が形成された板状の透明基体部72を作製した。前記溝部を構成する2つの傾斜面は、左右対称とし、その底角φは、49°とした。また、前記溝部の開口幅は、300μmとした。溝部の被検体液が流れる方向の長さは35mmとし、溝部の両端部には直径1mmの貫通孔(不図示)を形成した。
次いで、この透明基体部72の前記溝部が形成された面に対して、該溝部が形成されていない平坦領域に対して垂直方向から、この平坦領域において厚みが0.6nmとなるようにクロムを蒸着させ、前記溝部が形成された面全体に接着層としてのクロム薄膜74aを形成した。
次いで、前記平坦領域において厚みが100nmとなるように金を蒸着させ、クロム薄膜74a上に表面プラズモン励起層としての金薄膜74bを形成した。
次いで、前記平坦領域において厚みが49nmとなるようにスパッタリング法によりシリカガラス薄膜を堆積させ、金薄膜74bの表面を透明誘電体74cで被覆した。
これにより、透明基体部72に流路73を形成した。またこの時、透明基体部72の流路73の開口部以外の上面に積層されたクロム薄膜74aと金薄膜74bは遮光部として働く。
次いで、ポリメチルメタクリレートを主成分とするカバーフィルムを蓋部76として用い、流路73の開口部分をシーリングした。以上により、目的物質検出チップ71を製造した。
【0066】
一方の貫通孔から水を注入して流路73内を水で満たした後、この目的物質検出チップ71に対し、
図15に示すように、目的物質検出装置70の前記光照射手段から光を照射し、目的物質検出チップ71の面R側から該面Rに対して垂直な方向から光を直径約1mmのビーム径で入射させた。前記光照射手段は、白色光源と、該白色光源から発せられる光をp偏光に直線偏光させる偏光板とで構成し、また、前記白色光源と、該白色光源から発せられる光をs偏光に直線偏光させる偏光板とで構成し、2通りに構成した。
前記2通りの光照射手段により目的物質検出チップ71のR面側から照射された白色光の透過光を、該目的物質検出チップ71の流路73が形成された面に対向配置した光検出器77にて測定した。
図16にその結果を示す。
該
図16は、透過光強度の波長依存性を示しており、s偏光の場合に比べ、p偏光の場合には、570nm〜870nmの波長領域において、明確な透過光強度の増加が確認できる。s偏光の場合には表面プラズモンが励起され得ないことを考慮すれば、この現象は、p偏光された入射光により、前記波長領域において表面プラズモンが励起され、その結果、前記入射光が強く散乱されて生じたものと考えられる。
このように、目的物質検出装置70を用いれば、従来のように、プリズムと検出チップとの煩雑な貼り合せ工程を経ることなく、目的物質検出チップ71で容易に表面プラズモンを励起することが可能であり、また、この表面プラズモンの励起により、蛍光物質からの蛍光も容易に増強することができる。
【0067】
(実施例2)
実施例1と同様に先ず、ポリスチレンを形成材料とし、射出成型により断面V字状の溝部が形成された板状の透明基体部72を作製した。前記溝部の構造は、実施例1と同じである。この透明基体部72の前記溝部が形成された面に対して、該溝部が形成されていない平坦領域に対して垂直方向から、この平坦領域において厚みが0.6nmとなるようにクロムを蒸着させ、接着層としてのクロム薄膜74aを形成した。次いで、このクロム層上に、前記平坦領域において厚みが120nmとなるように金を蒸着させて表面プラズモン励起層としての金薄膜74bを形成した。次いで、この金の層上に、前記平坦領域において厚みが49nmとなるようにスパッタリング法によりシリカガラス薄膜(透明誘電体74c)を堆積させた。これにより、透明基体部72に流路73を形成した。
その後、この薄膜を堆積した透明基体を弱アルカリ水溶液に24時間浸漬後乾燥した後、0.1v/v%3−アミノプロピルトリエトキシシランのエタノール溶液に15時間浸漬し、シリカガラス表面に反応活性なアミノ基を修飾した。その後、透明基体をエタノールでリンスし乾燥後、0.5mMのスルホスクシンイミジル−N−(D−ビオチニル)−6−アミノヘキサネートを含むリン酸緩衝生理食塩水を流路73上に滴下して2時間室温で放置し、流路表面に目的物質を捕捉する物質としてビオチンを導入した。以上のプロセスの後に、ポリメチルメタクリレートを主成分とするカバーフィルムを蓋部76として用い、流路73の開口部分をシーリングした。以上により、目的物質検出チップ71を製造した。
被検出液としては、蛍光色素Alexa700(Invitrogen社製)が付いたストレプトアビジンを目的物質として100nM含むリン酸緩衝生理食塩水を用いた。この被検出液を貫通孔より流路73に注入し、流路中を被検出液で満たした後、該貫通孔部分をテープで封止し、ビオチンによるストレプトアビジンの捕捉のために1時間室温で放置した。
その後、貫通孔部分の封止を解き、不純物等を洗浄するために、0.05v/v%のトリトンX−100(ナカライテスク社製)を含むリン酸緩衝生理食塩水で5回流路を洗浄した後、流路73をリン酸緩衝生理食塩水で満たした。
以上のプロセスを経た目的物質検出チップ71に、コリメータレンズと偏光板を備えた波長680nm±10nmの光を発する光フィルタ付きLEDを光照射手段として直径約1cmの光Lを照射した。また、光検出器77として冷却CCDカメラを用い、このCCDカメラの前に、波長710nm以上の光を透過する光フィルタと波長720nm以上の光を透過する光フィルタを設置して、光検出手段を構成した。露光時間は60秒間とした。
光照射手段よりp偏光を照射したところ、
図17に示す写真中の白線として見られる、流路に沿って光るAlexa700からの蛍光を観測することができた。一方、光照射手段よりs偏光を照射したところ、Alexa700からの蛍光は観測されなかった。表面プラズモンはp偏光の光の照射によってのみ励起されることから、観測結果は、流路73内の検出面における表面プラズモン励起層による表面プラズモンの励起によって蛍光色素からの蛍光が増強され、高感度で検体が検出できたことを示す。