特許第5920791号(P5920791)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5920791
(24)【登録日】2016年4月22日
(45)【発行日】2016年5月18日
(54)【発明の名称】災害救助用のジャッキ
(51)【国際特許分類】
   B66F 3/24 20060101AFI20160428BHJP
   B66F 3/28 20060101ALI20160428BHJP
   B66F 3/35 20060101ALI20160428BHJP
【FI】
   B66F3/24 E
   B66F3/24 H
   B66F3/28
   B66F3/35
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-508624(P2013-508624)
(86)(22)【出願日】2011年4月4日
(86)【国際出願番号】JP2011002008
(87)【国際公開番号】WO2012137246
(87)【国際公開日】20121011
【審査請求日】2014年1月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】390041162
【氏名又は名称】株式会社飛鳥電機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100148138
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡
(72)【発明者】
【氏名】井野 秀一
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 満
(72)【発明者】
【氏名】吉村 眞一
【審査官】 藤村 聖子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−324983(JP,A)
【文献】 特開平08−026700(JP,A)
【文献】 特開2007−284247(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66F 3/24
B66F 3/28
B66F 3/35
F15B 15/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素吸蔵合金(22)を熱源(23)で加熱して、水素吸蔵合金(22)に吸蔵された水素ガスを供給する水素ガス供給構造(2)と、水素ガス供給構造(2)から供給される水素ガスの圧力で伸張して、ジャッキアップ対象を昇揚操作する作動構造(1)とを備えており、
作動構造(1)は、設置面に載置される丸皿状の作動ベース(3)と、作動ベース(3)に組付けられて内部に密封された作動空間(4)を備えるジャッキ部(5)とを含み、
ジャッキ部(5)は、上下スライド自在な複数個の伸縮筒(6〜9)を多段筒状に組んでなるものであり、その最上部の伸縮筒(9)に設けた押上部(10)が作動ベース(3)の近傍に格納される待機姿勢と、押上部(10)が作動ベース(3)の上方へ突出する伸張姿勢との間で伸縮可能に構成されており、
最上部の伸縮筒(9)と作動ベース(3)との間には、ジャッキ部(5)の伸縮動作に追随しながら、各伸縮筒(6〜9)の傾動を規制する伸縮ガイド構造(15)が作動空間(4)内に設けられており、
伸縮ガイド構造(15)が、作動ベース(3)に固定したガイド筒(16)と、伸縮筒(6〜8)に設けられて上下面が開口するガイド筒(17〜19)と、最上部の伸縮筒(9)の内面に固定されるガイド軸(20)と、ガイド筒(16〜19)の上端内面に設けられた軸受(16a〜19a)とで構成されており、
上側に向かって伸びる各ガイド筒(17〜19)は、下段側の各ガイド筒(16〜18)で上下スライド自在に案内されており、ガイド軸(20)は最上部のガイド筒(19)で上下スライド自在に案内されており、
ジャッキ部(5)を待機姿勢に退縮させた状態において、ガイド筒(17〜19)とガイド軸(20)がガイド筒(16)の内部に収容されるとともに、各伸縮筒(6〜9)が内外に重なった状態で作動ベース(3)内に収納されて、作動構造(1)の全体扁平形状に保持されるようになっており、
水素ガス供給構造(2)で供給した水素ガスを、作動空間(4)に供給するとともに、各ガイド筒(16〜19)の上端内面から各ガイド筒(16〜19)内に供給することにより、ジャッキ部(5)を待機姿勢から伸張姿勢に切換えることができるように構成されていることを特徴とする災害救助用のジャッキ。
【請求項2】
水素ガス供給構造(2)が、作動ベース(3)の内部に配置されている請求項1記載の災害救助用のジャッキ。
【請求項3】
水素ガス供給構造(2)の加熱源が、バッテリー(25)を駆動源とするヒーター(23)の電熱と、固形燃料(36)の燃焼熱と、生石灰(37)の加水反応熱と、被災地における可燃廃材の燃焼熱のいずれかひとつである請求項1又は2記載の災害救助用のジャッキ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地震災害や台風災害を受けて倒壊した建物の下敷きになり、あるいは崩落した地盤に生き埋めになった被災者を救助するために使用される携行可能な災害救助用のジャッキに関する。
【背景技術】
【0002】
本発明のジャッキに関して、特許文献1のアクチュエータが公知である。そこでは、シリンダーとピストンとで区画される作動室の内部に粉末状の金属水素化物とフィルターを配置し、金属水素化物をペルチェ素子で加熱することにより、金属水素化物に吸蔵されている水素ガスを作動室に放出させて、ピストンロッドを進出できるようにしている。また、加熱時とは逆の電位の電流をペルチェ素子に供給して、金属水素化物を冷却することにより、水素ガスを金属水素化物に吸着させて、ピストンロッドをシリンダー内へ退入できるようにしている。
【0003】
特許文献2には、水素吸蔵合金を利用した自動車用のジャッキが開示してある。そこでは、水素吸蔵合金とフィルターを内蔵する密閉容器状の水素出入体と、流体圧シリンダーとでジャッキを構成している。水素出入体と流体圧シリンダーの作動室とは耐圧ホースで接続されており、水素出入体を自動車のマフラーの外面に密着させて加熱することにより、水素吸蔵合金に吸蔵された水素ガスを放出させて流体圧シリンダーを作動させ、ジャッキアップできる。また、水素出入体を自動車のマフラーから取外すことにより、水素吸蔵合金を冷却して水素ガスを吸蔵させ、流体圧シリンダーのピストンロッドをシリンダー内へ退入することができる。
【0004】
特許文献3にも、自動車の排ガスの熱を利用して作動するジャッキが開示してある。そこでは、基台シリンダーと、基台シリンダーに対して昇降する昇降シリンダーとで作動室を区画し、作動室の内部に水素吸蔵合金とフィルターを配置している。基台シリンダーの周囲はガスジャケットで囲まれており、自動車の排ガスを耐熱ホースを介してガスジャケットへ送給することにより、水素吸蔵合金に吸蔵された水素ガスを放出させて、昇降シリンダーを基台シリンダーから進出させ、ジャッキアップできる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭61−270505号公報(第2頁左下欄1〜18行、図1
【特許文献2】特開平02−095697号公報(第2頁左下欄5〜20行、図1
【特許文献3】特開平04−356259号公報(段落番号0007、図1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のアクチュエータは、ペルチェ素子を駆動するために直流電流を供給する必要があり、電力の供給が遮断された地震災害や台風災害の現場で使用することができない。同様に、特許文献2、3のジャッキは、いずれも自動車の排ガスを熱源にして水素吸蔵合金を加熱するので、エンジンの燃料を入手できない場合に使用できない。さらに、自動車が入り込めない狭い災害現場において、ジャッキを作動させることができない。また、ピストンとシリンダーを構成要素とする流体圧シリンダー構造のジャッキは、少なくともシリンダーの全長に相当する設置空間がないと設置できない。倒壊した建物の下敷きになった被災者を救助する状況では、昇揚すべき瓦礫の下の隙間が小さいことが多く、ジャッキを瓦礫と地面との間に設置するのが困難となるからである。
【0007】
本発明の目的は、電力やエンジン燃料の入手が困難な災害現場において使用することができ、徒歩による携行運搬が可能で、瓦礫の下の小さな隙間に設置することができる災害救助用のジャッキを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る災害救助用のジャッキは、水素吸蔵合金22を熱源23で加熱して、水素吸蔵合金22に吸蔵された水素ガスを供給する水素ガス供給構造2と、水素ガス供給構造2から供給される水素ガスの圧力で伸張して、ジャッキアップ対象を昇揚操作する作動構造1とを備えている。図1に示すように、作動構造1は、設置面に載置される丸皿状の作動ベース3と、作動ベース3に組付けられて内部に密封された作動空間4を備えるジャッキ部5とを含む。ジャッキ部5は、上下スライド自在な複数個の伸縮筒6〜9を多段筒状に組んでなるものであり、その最上部の伸縮筒9に設けた押上部10が作動ベース3の近傍に格納される待機姿勢と、押上部10が作動ベースの上方へ突出する伸張姿勢との間で伸縮可能に構成する。最上部の伸縮筒9と作動ベース3との間には、ジャッキ部5の伸縮動作に追随しながら、各伸縮筒6〜9の傾動を規制する伸縮ガイド構造15が作動空間4内に設けられている。伸縮ガイド構造15は、作動ベース3に固定したガイド筒16と、伸縮筒6〜8に設けられて上下面が開口するガイド筒17〜19と、最上部の伸縮筒9の内面に固定されるガイド軸20と、ガイド筒16〜19の上端内面に設けられた軸受16a〜19aとで構成されている。上側に向かって伸びる各ガイド筒17〜19は、下段側の各ガイド筒16〜18で上下スライド自在に案内されており、ガイド軸20は最上部のガイド筒19で上下スライド自在に案内されている。ジャッキ部5を待機姿勢に退縮させた状態において、ガイド筒17〜19とガイド軸20がガイド筒16の内部に収容されるとともに、各伸縮筒6〜9が内外に重なった状態で作動ベース3内に収納されて、作動構造1の全体扁平形状に保持されるようになっている。水素ガス供給構造2で供給した水素ガスを作動空間4に供給するとともに、各ガイド筒16〜19の上端内面から各ガイド筒16〜19内に供給することにより、ジャッキ部5を待機姿勢から伸張姿勢に切換えることができることを特徴とする(図2参照)。
【0014】
水素ガス供給構造2は、作動ベース3の内部に配置する(図1参照)。
【0015】
水素ガス供給構造2の加熱源は、バッテリー25を駆動源とするヒーター23の電熱と、固形燃料36の燃焼熱と、生石灰37の加水反応熱と、被災地における可燃廃材の燃焼熱のいずれかひとつからなる。
【発明の効果】
【0016】
本発明においては、水素ガス供給構造2と、水素ガスの圧力で伸張してジャッキアップ対象を昇揚操作する作動構造1とで災害救助用のジャッキを構成した。また、作動ベース3と、内部に密封された作動空間4を備えているジャッキ部5などで作動構造1を構成し、ジャッキ部5を待機姿勢と伸張姿勢との間で伸縮できるように構成した。このように、水素ガスを駆動媒体とするジャッキは、電力やエンジン燃料の入手が困難な災害現場や、自動車が入り込めない狭い災害現場においても、問題なく作動させることができる。
【0017】
また、水素ガスを駆動媒体とするジャッキは、機械式のねじジャッキや空気式のジャッキに比べて、はるかに大きな最大押上げ荷重を出力できるので、被災現場において瓦礫などの、より重たいジャッキアップ対象を確実に持ち上げることができる。さらに、ジャッキ部5を待機姿勢に退縮させた状態において、作動構造1の全体を扁平形状に保持するので、ピストンとシリンダーを構成要素とする従来のジャッキに比べて、ジャッキ全体をコンパクトに格納でき、したがって徒歩による携行運搬を容易化できる。さらに、待機姿勢において作動構造1の全体を扁平形状に格納するので、ジャッキアップしたい瓦礫の下に小さな隙間しかないような状況であっても、ジャッキを確実に設置して瓦礫などを的確に昇揚でき、全体として使い勝手に優れた災害救助用のジャッキを提供できる。
【0018】
ジャッキ部5を、複数個の伸縮筒6〜9を多段筒状に組んで伸縮自在に構成すると、その内部の作動空間4に水素ガスを供給することにより、ジャッキ部5を待機姿勢と伸張姿勢との間で、確動的に伸縮させることができる。つまり、ジャッキ部5の中途部が曲がったり、全体が大きく傾斜するのを解消した状態で、ジャッキ部5を直線的に伸縮させることができる。したがって、ジャッキアップ対象を安定した状態で、しかも的確に昇揚できる。
【0019】
ジャッキ部5の内部にベローズ33を収容し、ベローズ33の内部を作動空間4とするジャッキによれば、ベローズ33の内部に水素ガスを供給することで、ジャッキ部5を伸長操作することができる。したがって、ジャッキ部5の内部空間の全てを作動空間4とする場合に比べて、作動空間4に送給すべき水素ガスの量を減らすことができ、水素吸蔵合金22に吸蔵した水素を無駄のない状態で供給しながら、ジャッキ部5を的確に伸張させることができる。また、作動空間4に供給された水素ガスの全てが、密閉されたベローズ33内に保持されるので、伸張途中にジャッキ部5が傾くようなことがあったとしても、水素ガスが外部に漏れるのを確実に防止でき、したがって、災害救助用のジャッキの信頼性を向上できる。さらに、各伸縮筒6〜9の加工精度やシール精度を高精度化する必要がないうえ、伸縮ガイド構造15を設ける場合に比べて、全体構造を簡素化してジャッキの製造に要するコストを削減できる。
【0020】
伸縮可能なベローズ33とダイヤフラム34のいずれかで構成されるジャッキ部5と、押上部10を構成する板材と、作動ベース3とで構成した作動構造1によれば、ジャッキ構造を著しく簡素化できる。また、伸縮するジャッキ部5を、ベローズ33とダイヤフラム34のいずれかで構成するので、テレスコピック構造のジャッキ部5に比べて、ジャッキを著しく軽量化できる。したがって、テレスコピック構造のジャッキ部5を備えたジャッキと同様の押上げ荷重を出力できるにも拘らず、全体コストが少なくて済み、携行しやすく、取扱いが容易な簡易型のジャッキとすることができる。
【0021】
作動空間4の内部に伸縮ガイド構造15を設けるようにしたジャッキによれば、伸縮時にジャッキ部5が傾動するのを伸縮ガイド構造15で規制することができる。したがって、押上部10に対する荷重のばらつきでジャッキ部5が傾きながら伸張するのを規制して、ジャッキ部5の押上げ荷重を的確に出力することができる。また、伸縮ガイド構造15をジャッキ部5の伸縮動作に追随して伸縮させるので、待機姿勢にした状態においてジャッキ全体をコンパクトに格納して、徒歩による携行運搬を容易化し、保管スペースを小さくできる。
【0022】
水素ガス供給構造2を作動ベース3の内部に配置すると、作動構造1と水素ガス供給構造2とを一体化できるので、作動構造1と水素ガス供給構造2が個別に設けてある場合に比べて、ジャッキの携行や保管をより簡便に行うことができる。また、水素ガス供給構造2が作動空間4に臨む状態で作動ベース3の内部に配置してある場合には、作動空間4において水素ガス供給構造2が占める空間の分だけ、作動空間4に供給すべき水素ガスの量を減らして、水素ガスを有効に利用することができる。
【0023】
水素ガス供給構造2の加熱源として、ヒーター23の電熱を使用する場合には、切換えスイッチを切換え操作するだけの簡単な操作で、水素吸蔵合金22の加熱を開始できるので、専門的な知識がない人であっても、誰もがジャッキを作動させて救助活動に参加できる。固形燃料36の燃焼熱や、生石灰37の加水反応熱、あるいは被災地における可燃廃材の燃焼熱のいずれかひとつを加熱源とする水素ガス供給構造2によれば、災害救助用のジャッキの保管管理を簡素化できる。ヒーター23の電熱を加熱源とする場合には、バッテリー25の充電状態を定期的に確認しながら災害に備える必要があるが、固形燃料36や生石灰37の場合には、保管状態さえ良好であれば、保管期間が長期にわたる場合でも、問題なく使用できるからである。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】実施例1に係る災害救助用のジャッキの断面図である。
図2】ジャッキ部を扁平な待機姿勢にした状態の断面図である。
図3】実施例2に係る災害救助用のジャッキの断面図である。
図4参考例1に係る災害救助用のジャッキの断面図である。
図5参考例2に係る災害救助用のジャッキの断面図である。
図6参考例3に係る災害救助用のジャッキの断面図である。
図7】実施例に係る災害救助用のジャッキの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
(実施例1) 図1および図2は本発明に係る災害救助用のジャッキの実施例1を示す。図1において災害救助用のジャッキは、ジャッキアップ対象を昇揚操作する作動構造1と、作動構造1の内部に配置される水素ガス供給構造2を主要構造にして構成してある。作動構造1は、設置面に載置される作動ベース3と、作動ベース3に組付けられて、内部に密封された作動空間4を備えているジャッキ部5などで構成する。作動ベース3は、円形の底壁と、底壁の周縁に連続して設けられる丸筒状の周囲壁とで、上向きに開口する丸皿状に形成してあり、金属材で形成してある。作動ベース3の開口縁には、抜止壁3aが筒内面側へ張り出してある。
【0026】
ジャッキ部5は、4個の上下スライド自在な金属製の伸縮筒6〜9を多段筒状に組んで伸縮自在に構成してある。各伸縮筒6〜9のうち、下側3個の伸縮筒6・7・8は丸筒状に形成されて、筒壁の上端の内縁に抜止壁6a・7a・8aがそれぞれ形成してある。最上部の伸縮筒9は下向きに開口する丸皿状に形成されている。各伸縮筒6〜9と、先に説明した作動ベース3とによって作動空間4が区画してあり、各伸縮筒6〜9の下端周面には、水素ガスの漏洩を防ぐリング状のシール材6b・7b・8b・9bが装着してある。各シール材6b・7b・8b・9bが装着されるリング状の壁の上面が、先の抜止壁3a・6a・7a・8aで抜止保持される。
【0027】
最下部の伸縮筒6を作動ベース3の筒内面で、残る伸縮筒7・8・9をそれぞれ下段側の伸縮筒6・7・8の筒内面で上下スライド自在に案内支持することにより、ジャッキ部5の全体がテレスコピック構造に構成してある。各伸縮筒6〜9は、上方スライドして先の抜止壁3a・6a・7a・8aで受止められる伸張姿勢(図1に示す姿勢)と、各伸縮筒6〜9が内外に重なる待機姿勢(図2に示す状態)との間で伸縮できる。
【0028】
ジャッキ部5を待機姿勢にした状態においては、各伸縮筒6〜9を作動ベース3の内部に格納することができる。このときの災害救助用のジャッキは扁平な円盤形状となっており、その全高寸法は100mmである。最上部の伸縮筒9の天井壁が、被災地において瓦礫などのジャッキアップ対象を昇揚操作する押上部10として機能する。なお、最上部の伸縮筒9の内面の直径は250mmとし、作動ベース3の外径は300mmとし、ジャッキ部5の伸縮ストロークは32mm前後とし、作動空間4の最大伸張時の容積は19000ccとした。災害救助用のジャッキの全重量は6.6kgであり、待機姿勢にした状態においてジャッキ部5を扁平に格納できることもあって、徒歩で被災地を目指すような場合に、ロープなどの他の救助器具とともにリュックサックに収納した状態で携行し運搬することができる。
【0029】
ジャッキ部5の伸縮動作に追随しながら、各伸縮筒6〜9の傾動を規制するために、最上部の伸縮筒9と作動ベース3との間に伸縮ガイド構造15を設けている。伸縮ガイド構造15は、上下面が開口する4個のガイド筒16〜19と、最上部の伸縮筒9の内面中央に固定されるガイド軸20とで構成してある。最下部のガイド筒16は、作動ベース3の中央に固定してある。
【0030】
上側へ向かって延びる各ガイド筒17〜19は、下段側の各ガイド筒16〜18で上下スライド自在に案内されており、ガイド軸20は最上部のガイド筒19で上下スライド自在に案内されている。各ガイド筒17〜19、およびガイド軸20の上下スライドを円滑に行うために、各ガイド筒16〜19の上端内面にリニアブッシュ16a・17a・18a・19aが固定してある。このように、伸縮ガイド構造15の全体は、テレスコピック構造に構成してあり、ジャッキ部5を待機姿勢にした状態において、ガイド筒17〜19とガイド軸20を、作動ベース3に固定したガイド筒16の内部に収容することができる。
【0031】
水素ガス供給構造2は、水素吸蔵合金22およびヒーター(熱源)23と、これら両者22・23を交互に重ねた状態で収容する水素吸蔵チャンバー24と、バッテリー(2次電池)25と、水素吸蔵チャンバー24の出入口26を開閉する電磁弁27などで構成する。作動ベース3の周面には、押ボタン型の切換えスイッチが設けてある。第1ボタン28を押込み操作すると、バッテリー25の電流をヒーター23へ供給して水素吸蔵合金22を加熱でき、もう一度押込み操作すると、バッテリー25への電流供給を遮断してヒーター23の作動を停止できる。また、第2ボタン29を押込み操作すると、電磁弁27を開状態に切換えて、水素吸蔵チャンバー24の内部と作動空間4を連通でき、もう一度押込み操作すると、電磁弁27を閉状態に切換えて、水素吸蔵チャンバー24の内部と作動空間4の連通状態を遮断できる。
【0032】
上記のように構成した災害救助用のジャッキは、被災地において次のようにして使用する。まずジャッキアップ対象の下側の載置面を平らにして、作動ベース3を設置する。このとき、瓦礫などのジャッキアップ対象と載置面との間隔が必要以上に大きい場合には、材木やコンクリートブロックなどを載置面に積み、その上面に作動ベース3を設置する。次ぎに、第1ボタン28を押込んでヒーター23を作動させ、水素吸蔵合金22を加熱して、水素ガスを放出させる。同時に、第1ボタン29を押込んで電磁弁27を開状態に切換えて、水素吸蔵チャンバー24内に放出された水素ガスを、出入口26と電磁弁27を介して作動空間4へと送給してジャッキ部5を伸張させる。
【0033】
水素ガスが作動空間4に送給されると、まず中央の伸縮筒9が押し出されて上昇する。さらに、伸縮筒9が次の伸縮筒8の抜止壁8aで受止められると、伸縮筒9は伸縮筒8を同行しながら上昇する。同様にして、各伸縮筒8〜6は、最上部の伸縮筒9に同行して順に上昇移動し、押上部10がジャッキアップ対象を押し上げ操作する。ジャッキアップ対象が必要な高さまで押し上げられたら第1ボタン29を押込んでヒーター23への通電状態を停止し、同時に第2ボタン29を押込んで電磁弁27を閉状態に切換えて出入口26を遮断する。これにより、作動空間4に送り込んだ水素ガスが水素吸蔵合金22に吸着されるのを防止して、ジャッキ部5を伸張姿勢に保持し続けることができる。この状態で、ジャッキアップ対象を支柱あるいはコンクリートブロックで支えて安全を確保し、瓦礫などにはさまれた被災者を助け出す。
【0034】
ジャッキ部5が最大伸張位置まで伸張した状態では、そのことを図示していないセンサーで検知して、ヒーター23への通電状態を停止し、同時に電磁弁27を閉状態に切換えて出入口26を遮断し、ジャッキ部5を伸張姿勢に保持する。この状態で、ジャッキアップ対象に落下防止措置を施して安全を確保したのち、瓦礫などにはさまれた被災者を助出す。なお、被災者を救出したのちは、ジャッキアップ対象を支持していた支柱あるいはコンクリートブロックを除去したのち、第2ボタン29を押込んで電磁弁27を開状態に切換え、水素吸蔵チャンバー24と作動空間4とを連通する。これにより、水素ガスが水素吸蔵合金22に吸着されるが、この水素吸着反応は緩やかに進行するので、ジャッキ部5が急激に下降することはなく、ゆっくりと退縮して作動ベース3に格納される。
【0035】
因みに、ジャッキの最大押上げ荷重は、最上段の伸縮筒9の受圧面積と、作動空間4内に送給された水素ガスの圧力との積に比例する。例えば、不使用状態の作動空間4が概ね1気圧であった場合に、水素ガスを供給して作動空間4の気圧を2気圧に上昇させると、伸縮筒9の押上部10は約0.52tの押上げ力を発揮できる。また、作動空間4の気圧を4気圧に上昇させると、伸縮筒9の押上部10は約1.5tの押上げ力を発揮できる。このように、水素ガスを駆動媒体とするジャッキは、機械式のねじジャッキや空気式のジャッキに比べて、はるかに大きな最大押上げ荷重を出力できるので、被災現場においてより重たいジャッキアップ対象を確実に持ち上げて、災害救助に貢献できる。
【0036】
水素吸蔵合金22としては、La−Ni系、Ca−Ni系、Mm−Ni系、Ti−Fe系などを適用することができる。Mm−Ni系において、Mmは希土類生成過程で得られる複数の希土類を含む合金である。La−Ni系の水素吸蔵合金22を使用する場合であって、最上部の伸縮筒9の内面の直径を250mmとする場合には、作動空間4を1気圧上昇させるのに必要な水素吸蔵合金22の重量は130g前後である。
【0037】
以上のように構成した災害救助用のジャッキによれば、電力やエンジン燃料の入手が困難な災害現場において使用できるのはもちろん、重量が大きな瓦礫などのジャッキアップ対象を押し上げて、瓦礫などに挟まれた被災者を救出できる。また、全体重量が小さく、待機姿勢にしたジャッキの全体を扁平形状に保持できるので、徒歩による携行運搬を容易に行なうことができ、自動車が進入できない被災現場であっても、確実に持ち込むことができる。さらに、瓦礫の下の隙間が小さいような状況においても、ジャッキを支障なく設置して災害救助に役立てることができる。第1、第2のボタン28・29を切換え操作するだけで、瓦礫などのジャッキアップ対象を押し上げることができるので、救助作業に携わる人員が不足するような場合には、専門知識のない一般人であってもジャッキを作動させて救助作業を行うことができる。
【0038】
(実施例2) 図3は本発明に係る災害救助用のジャッキの実施例2を示す。そこでは、水素ガス供給構造2を作動構造1とは別に設けて、作動ベース3に設けた連結口31と電磁弁27とをガス通路32で連通するようにした。また、水素吸蔵チャンバー24の内部を2室に区分して、その一方にバッテリー25を配置し、他方に水素吸蔵合金22とヒーター23を収容するようにした。なお、切換えスイッチは、水素吸蔵チャンバー24の開口面を密封する蓋を利用して、その上面に配置した。他は先の実施例と同じであるので、同じ部材に同じ符号を付してその説明を省略する。以下の実施例および参考例においても同じとする。
【0039】
参考例1図4は災害救助用のジャッキの参考例1を示す。そこでは、ジャッキ部5の内部にベローズ33を収容して、ベローズ33の内部に作動空間4を形成するようにした。また、ベローズ33で区画した作動空間4の内部に水素ガス供給構造2を配置した。ベローズ33は、水素気密性が高いラミネートフィルム、あるいは高分子材料で蛇腹状に形成してあり、その上端が最上段に位置する伸縮筒9の押上部10の内面に固定され、その下端が作動ベース3の内底壁に固定してある。
【0040】
実施例1、2で説明したジャッキにおいては、押上部10に対する荷重の偏りで各伸縮筒6〜9が傾きながら伸張するおそれがあり、その場合には各シール材6a〜9aがシール不良に陥って、作動空間4内の水素ガスが外部へ漏洩するおそれがある。しかし、上記のように、ジャッキ部5を多段筒状の伸縮筒6〜9とベローズ33とで構成すると、たとえ、各シール材6a〜9aがシール不良に陥ることがあったとしても、水素ガスがベローズ33の作動空間4から漏洩するのを確実に防止できる。また、先の実施例における伸縮ガイド構造15を省略でき、さらに各伸縮筒6〜9の加工精度やシール精度を高精度化する必要がないので、全体としてジャッキの製造に要するコストを削減できる。
【0041】
参考例2図5は災害救助用のジャッキの参考例2を示す。そこでは、ジャッキ部5をベローズ33で構成して、ベローズ33の上端に板材を固定して押上部10とした。また、ベローズ33の下端を水素吸蔵チャンバー24の開口面を密封する蓋に固定して、ベローズ33内の作動空間4に臨む蓋に出入口26と電磁弁27を配置した。この参考例においては、水素吸蔵チャンバー24が作動ベース3を兼ねており、ジャッキ部5を待機姿勢にした状態において、ベローズ33の全体が折畳まれて、その上端に設けた押上部10が作動ベース3の近傍に格納される。
【0042】
参考例3図6は災害救助用のジャッキの参考例3を示す。そこでは、ジャッキ部5をダイヤフラム34で構成して、ダイヤフラム34の上端に板材を固定して押上部10とした。また、ダイヤフラム34の下端に板材を固定して作動ベース3とした。水素ガス供給構造2を作動構造1とは別に設けて、電磁弁27と作動ベース3に設けた連結口31とをガス通路32で連通するようにした。ダイヤフラム34は、水素気密性が高いラミネートフィルム、あるいは高分子材料で形成してある。
【0043】
(実施例図7は本発明に係る災害救助用のジャッキの実施例を示す。そこでは、水素ガス供給構造2の加熱源として、固形燃料(熱源)36の燃焼熱と、生石灰(熱源)37と水38の加水反応熱のいずれかを利用できるようにした。そのために、固形燃料36、または生石灰37と水38を収容するための加熱容器39を設け、作動ベース3の中央下面に加熱容器39を装填するための凹部40を上凹み状に形成する。また、出入口26に設けた切換弁41を、押引き可能な操作ロッド42で開状態と閉状態に切換えられるようにした。なお、生石灰37と水38とは、包装袋から取出した状態で加熱容器39に収容する。固形燃料36の燃焼熱、および生石灰37と水38の加水反応熱は、凹部40の天井壁を介して水素吸蔵合金22に伝導される。
【0045】
ジャッキ部5は、少なくとも2個の伸縮筒で構成することができる。作動空間4の供給した水素ガスは、水素吸蔵合金22に再吸着させる必要はなく、空気中に放出してジャッキ部5を退縮することができる。切換えスイッチは実施例で説明した構造である必要なく、ヒーター23および電磁弁27への通電状態を制御できるものであればよい。
【符号の説明】
【0046】
1 作動構造
2 水素ガス供給構造
3 作動ベース
4 作動空間
5 ジャッキ部
6〜9 伸縮筒
10 押上部
15 伸縮ガイド構造
22 水素吸蔵合金
23 ヒーター(熱源)
24 水素吸蔵チャンバー
25 バッテリー
26 出入口
27 電磁弁
33 ベローズ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7