特許第5920840号(P5920840)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5920840
(24)【登録日】2016年4月22日
(45)【発行日】2016年5月18日
(54)【発明の名称】研磨用組成物およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/14 20060101AFI20160428BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20160428BHJP
   B24B 37/00 20120101ALI20160428BHJP
   C09G 1/02 20060101ALI20160428BHJP
【FI】
   C09K3/14 550Z
   H01L21/304 622D
   B24B37/00 H
   C09K3/14 550D
   C09G1/02
【請求項の数】10
【全頁数】34
(21)【出願番号】特願2013-204467(P2013-204467)
(22)【出願日】2013年9月30日
(65)【公開番号】特開2015-67773(P2015-67773A)
(43)【公開日】2015年4月13日
【審査請求日】2015年6月2日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000236702
【氏名又は名称】株式会社フジミインコーポレーテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】000003034
【氏名又は名称】東亞合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100136423
【弁理士】
【氏名又は名称】大井 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100154449
【弁理士】
【氏名又は名称】谷 征史
(72)【発明者】
【氏名】土屋 公亮
(72)【発明者】
【氏名】森 嘉男
【審査官】 磯貝 香苗
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2004/107429(WO,A1)
【文献】 特開2005−353681(JP,A)
【文献】 特開2010−016344(JP,A)
【文献】 特開2008−053415(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/046163(WO,A1)
【文献】 特開2015−067774(JP,A)
【文献】 特開2010−199595(JP,A)
【文献】 特開2011−103498(JP,A)
【文献】 特開2009−070904(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/14
B24B 37/00
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコンからなる表面を備えたシリコンウエハの研磨に用いられる研磨用組成物であって、
砥粒としてシリカ粒子と、水溶性高分子MA−endを含み、
前記水溶性高分子MA−endの主鎖は、主構成領域としての非アニオン性領域と、該主鎖の少なくとも一方の端部に位置するアニオン性領域と、からなり、
前記アニオン性領域は、少なくとも1つのアニオン性基を有する、研磨用組成物。
【請求項2】
前記アニオン性領域は、前記主鎖の一方の端部のみに存在する、請求項1に記載の研磨用組成物。
【請求項3】
前記主鎖は炭素−炭素結合からなる、請求項1または2に記載の研磨用組成物。
【請求項4】
pHが8〜12の範囲にある、請求項1〜3のいずれか一項に記載の研磨用組成物。
【請求項5】
pHが9.0〜12.0の範囲にある、請求項1〜4のいずれか一項に記載の研磨用組成物。
【請求項6】
前記水溶性高分子MA−endは、アクリロイルモルホリン系ポリマーまたはビニルピロリドン系ポリマーである、請求項1〜のいずれか一項に記載の研磨用組成物。
【請求項7】
前記アニオン性基はカルボキシ基である、請求項1〜のいずれか一項に記載の研磨用組成物。
【請求項8】
前記アニオン性基は前記主鎖の末端に存在する、請求項1〜のいずれか一項に記載の研磨用組成物。
【請求項9】
前記水溶性高分子MA−endに加えて、水溶性高分子ML−endをさらに含み、
前記水溶性高分子ML−endは、主鎖の少なくとも一方の端部に疎水性領域を有しており、
前記疎水性領域は、重合開始剤に由来する少なくとも1つの疎水性基を有する、請求項1〜8のいずれか一項に記載の研磨用組成物。
【請求項10】
シリコンからなる表面を備えたシリコンウエハの研磨に用いられる研磨用組成物の製造方法であって、
砥粒としてシリカ粒子と、水溶性高分子MA−endとを含む研磨用組成物を調製する工程を含み、
前記水溶性高分子MA−endの主鎖は、主構成領域としての非アニオン性領域と、該主鎖の少なくとも一方の端部に位置するアニオン性領域とからなり、
前記アニオン性領域は、少なくとも1つのアニオン性基を有する研磨用組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は研磨用組成物に関する。詳しくは、主にシリコンウエハ等の半導体基板その他の被研磨物の研磨に用いられる研磨用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、金属や半金属、非金属、その酸化物等の材料表面に対して研磨液を用いた精密研磨が行われている。例えば、半導体装置の構成要素等として用いられるシリコンウエハの表面は、一般に、ラッピング工程(粗研磨工程)とポリシング工程(精密研磨工程)とを経て高品位の鏡面に仕上げられる。上記ポリシング工程は、典型的には、1次ポリシング工程(1次研磨工程)とファイナルポリシング工程(最終研磨工程)とを含む。シリコンウエハ等の半導体基板を研磨する用途で主に使用される研磨用組成物に関する技術文献として、特許文献1および2が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−345145号公報
【特許文献2】特開2001−240850号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
シリコンウエハ等の半導体基板その他の基板を研磨するための研磨用組成物(特に精密研磨用の研磨用組成物)には、被研磨物表面の保護や濡れ性向上等の目的で水溶性高分子を含有させたものが多い。そのような水溶性高分子としては、例えばヒドロキシエチルセルロース(HEC)が挙げられる。しかし、HECは天然物(セルロース)に由来する高分子であるため、人工的にモノマーを重合させて得られる高分子(以下、合成高分子ともいう。)に比べて化学構造や純度の制御性に限界がある。また、合成高分子に目を向けると、HEC等の天然物由来高分子と比べて、重量平均分子量や分子量分布(数平均分子量(Mn)に対する重量平均分子量(Mw)の比)の調整等の構造制御が比較的容易であり、表面欠陥を生じる原因となり得る異物や高分子構造の局所的な乱れ(ミクロな凝集等)等を高度に低減することが可能である等の利点を有するものの、実用性の観点において、HECと同等以上の性能を発揮する合成高分子を得ることは未だ難しいのが現状である。今後、研磨後の表面品位に対する要求がますます厳しくなると見込まれるなか、表面欠陥を高度に低減し得る研磨用組成物が提供されれば有益である。
【0005】
本発明は、上述のような事情に鑑みて創出されたものであり、表面欠陥を低減し得る研磨用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によると、水溶性高分子MA−endを含む研磨用組成物が提供される。前記水溶性高分子MA−endの主鎖は、主構成領域としての非アニオン性領域と、該主鎖の少なくとも一方の端部に位置するアニオン性領域と、からなる。前記アニオン性領域は、少なくとも1つのアニオン性基を有する。かかる構成によると、上記高分子MA−endがアニオン性表面を有する砥粒と共存する場合に表面欠陥を低減することができる。また、組成物の分散安定性が向上する。前記アニオン性領域は、前記主鎖の一方の端部のみに存在することが好ましい。また、前記アニオン性基はカルボキシ基であることが好ましい。さらに、前記アニオン性基は前記主鎖の末端に存在することが好ましい。
【0007】
ここに開示される技術の好ましい一態様では、前記主鎖は炭素−炭素結合からなる。このような構造の主鎖を有する高分子MA−endは、疎水性表面を有する被研磨物の保護性に優れる。
【0008】
ここに開示される技術の好ましい一態様では、研磨用組成物のpHは8〜12の範囲にある。上記pHは、例えばシリコンウエハ等の被研磨物の研磨に用いられる研磨液に好ましく適用され得る。
【0009】
ここに開示される技術の好ましい一態様では、前記水溶性高分子MA−endは、アクリロイルモルホリン系ポリマーまたはビニルピロリドン系ポリマーである。上記高分子MA−endとしてアクリロイルモルホリン系ポリマーまたはビニルピロリドン系ポリマーを含む研磨用組成物によると、表面欠陥を低減する効果がよりよく発揮され得る。
【0010】
ここに開示される技術の好ましい一態様では、研磨用組成物は、前記水溶性高分子MA−endに加えて、水溶性高分子MC−endをさらに含む。前記水溶性高分子MC−endの主鎖は、主構成領域としての非カチオン性領域と、該主鎖の少なくとも一方の端部に位置するカチオン性領域と、からなる。前記カチオン性領域は、少なくとも1つのカチオン性基を有する。かかる構成によると、表面欠陥をさらに効率よく低減することができる。
【0011】
ここに開示される技術の好ましい一態様では、研磨用組成物は、前記水溶性高分子MA−endに加えて、水溶性高分子ML−endをさらに含む。前記水溶性高分子ML−endは、主鎖の少なくとも一方の端部に疎水性領域を有する。前記疎水性領域は、重合開始剤に由来する少なくとも1つの疎水性基を有する。かかる構成によると、被研磨物の表面が疎水性表面である場合に表面欠陥をさらに低減することができる。また、水溶性高分子ML−endを含む組成物によるとヘイズの低減が実現される。
【0012】
ここに開示される技術の好ましい一態様では、研磨用組成物はさらに砥粒を含む。上記高分子MA−endと砥粒とを含む研磨用組成物を用いることで、砥粒のメカニカル作用によって研磨レートが向上し、表面欠陥をより効率的に低減することができる。
【0013】
ここに開示される研磨用組成物は、シリコンウエハの研磨に好ましく用いることができる。上記高分子MA−endを含む研磨用組成物によると、より高品位のシリコンウエハ表面が実現され得る。上記研磨用組成物は、例えば、ラッピングを経たシリコンウエハのポリシングに好ましく適用することができる。特に好ましい適用対象として、シリコンウエハのファイナルポリシングが例示される。
【0014】
また、本発明によると、研磨用組成物の製造方法が提供される。その製造方法は、主構成領域としての非アニオン性領域とアニオン性領域とからなる主鎖を有する水溶性高分子MA−endであって、前記アニオン性領域は、前記主鎖の少なくとも一方の端部に位置しており、かつ少なくとも1つのアニオン性基を有する水溶性高分子MA−end、を含む研磨用組成物を調製することを特徴とする。かかる製造方法によると、表面欠陥を低減し得る研磨用組成物が提供される。ここに開示される技術の好ましい一態様では、研磨用組成物は、砥粒と塩基性化合物と水とをさらに含み得る。また、上記製造方法は、前記砥粒と前記塩基性化合物と水を含む分散液を用意すること;前記水溶性高分子MA−endと水とを含む水溶液を用意すること;および前記分散液に対して前記水溶液を添加して混合すること;を包含することが好ましい。
【0015】
さらに、本発明によると、ここに開示されるいずれかの研磨用組成物を用いて研磨物を製造する方法が提供される。その方法は、研磨用組成物を含む研磨液を用意すること;前記研磨液を被研磨物に供給すること;および前記被研磨物の表面を前記研磨液で研磨すること;を包含する。かかる製造方法によると、欠陥の少ない高品位表面を備えた研磨物が製造される。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0017】
<水溶性高分子MA−end
ここに開示される研磨用組成物は水溶性高分子MA−end(以下、単に高分子MA−endともいう。)を含有することによって特徴づけられる。高分子MA−endの主鎖は、主構成領域としての非アニオン性領域と、該主鎖の少なくとも一方の端部に位置するアニオン性領域と、から構成されている。高分子MA−endは、例えば分子量のばらつき等、構造や諸特性を高レベルで制御する観点から、典型的には重合法によって調製された合成高分子(合成ポリマー)であることが好ましい。
【0018】
この明細書において水溶性高分子の主鎖とは、当該高分子の骨格をなす鎖状構造のことをいう。かかる鎖状構造は典型的には共有結合によって構成されている。当該高分子が2以上の分子鎖(典型的には、末端基または分岐点間に線状または分岐状に連なった構成単位)を有する場合には、他の分子鎖をペンダントとみなし得る中心的な分子鎖を主鎖とすればよい。合成高分子の場合、主鎖は一般的には最も基本的な重合分子鎖であり、例えばグラフト重合体の場合、その長短にかかわらず、主鎖とは異なる構造(例えばブロック構造)の分子鎖(典型的には主鎖とは異なるモノマーに由来する分子鎖)は側鎖として定義され得る。
【0019】
また、この明細書において水溶性高分子主鎖の主構成領域とは、水溶性高分子主鎖の基本領域であり、例えば主鎖を三等分したときにその中央部分と同じ性質(例えば、イオン性、親水性/疎水性)を示す領域と定義してもよい。高分子MA−endの場合、端部に位置するアニオン性領域以外の領域(すなわち非アニオン性領域)が、主構成領域と定義される。後述の高分子MC−endにおける非カチオン領域、高分子ML−endにおける親水性領域についても同様である。水溶性高分子主鎖全体の繰返し単位(合成高分子の場合、重合性モノマーに由来する単位)のモル数に占める主構成領域のモル数の割合(モル比)は、通常は50%より大きく、75%以上(例えば90%以上、典型的には95%以上)とすることが適当である。上記主構成領域のモル数の割合は、99%以上であってもよい。
【0020】
高分子MA−endの主鎖において主構成領域となる非アニオン性領域は、当該領域が全体としてアニオン性とは異なるイオン性(すなわち非アニオン性)を示す領域のことを指す。換言すれば、当該領域全体としてカチオン性またはノニオン性を示す領域である。被研磨物の保護性等の観点から、非アニオン性領域はノニオン性を示す領域(すなわちノニオン性領域)であることが好ましい。また、砥粒に対する吸着性の観点からは、非アニオン性領域はカチオン性を示す領域(すなわちカチオン性領域)であることが好ましい。非アニオン性領域は、カチオン性やノニオン性の繰返し単位から構成されており、アニオン性の繰返し単位を実質的に含まないことが好ましい。ここで、アニオン性の繰返し単位を実質的に含まないとは、当該領域において上記アニオン性の繰返し単位のモル比が0.01%未満(例えば0.001%未満)であることをいう。なお、この明細書においてイオン性(カチオン性、アニオン性またはノニオン性)とは、特に断りがない限り、研磨用組成物中におけるイオン性を指すものとする。例えば、研磨用組成物がpH8〜12を示す場合には、pH8〜12の条件下における上記領域のイオン性が採用される。後述の親水性/疎水性についても同様である。
【0021】
上記非アニオン性領域中には、カチオン性基およびノニオン性基から選ばれる少なくとも1種の官能基が含まれ得る。表面欠陥低減の観点から、非アニオン性領域はアニオン性基を実質的に有しないことが好ましく、ノニオン性であることがさらに好ましい。上記非アニオン性領域は、例えば、アミド構造、第四級窒素構造、複素環構造、ビニル構造(ビニル基に由来する炭素−炭素結合(−C−C−)からなる構造を包含する意味で用いられる。以下同じ。)、ポリオキシアルキレン構造等を有するものであり得る。特に、ビニル構造を主鎖骨格に有するものが基板表面への吸着特性の点で好ましく、また工業的にも好ましい。さらに、主鎖形成モノマー中に窒素原子を含有するものが好ましい。非アニオン性領域を有するポリマーとしては、例えば、ポリビニルピロリドン、ポリアクリロイルモルホリン、ポリアクリルアミド、ポリイソプロピルアクリルアミド、ポリアクリロニトリルが好ましい。
【0022】
上記非アニオン性領域は、表面欠陥低減の観点から、上記領域における全繰返し単位のモル数に占める繰返し単位としてのアクリロイルモルホリン(ACMO)単位および/またはビニルピロリドン(VP)単位のモル比が50%以上を占める領域であることが好ましい。例えば、上記領域における全繰返し単位のモル数に占める繰返し単位としてのACMO単位のモル比が50%以上を占めるアクリロイルモルホリン系領域であることが好ましく、あるいは、上記領域における全繰返し単位のモル数に占める繰返し単位としてのVP単位のモル比が50%以上を占めるビニルピロリドン系領域であることが好ましい。上記領域における全繰返し単位のモル数に占めるACMO単位および/またはVP単位のモル数の割合は、70%以上であることがより好ましく、80%以上(例えば90%以上、典型的には95%以上)であることがさらに好ましい。非アニオン性領域の全繰返し単位が実質的にACMO単位またはVP単位から構成されていてもよい。上記のような非アニオン性領域を有する高分子MA−endは、好適にはアクリロイルモルホリン系ポリマーまたはビニルピロリドン系ポリマーであり得る。
【0023】
上記非アニオン性領域は、親水性と分散性の観点から、上記領域における全繰返し単位のモル数に占める繰返し単位としてのビニルアルコール(VA)単位のモル比が50%以上を占めるビニルアルコール系領域であってもよい。上記非アニオン性領域がビニルアルコール系領域である場合、上記領域における全繰返し単位のモル数に占めるVA単位のモル数の割合は、70%以上であることがより好ましく、80%以上(例えば90%以上、典型的には95%以上)であることがさらに好ましい。非アニオン性領域の全繰返し単位が実質的にVA単位から構成されていてもよい。上記のような非アニオン性領域を有する高分子MA−endは、好適にはビニルアルコール系ポリマーであり得る。
【0024】
高分子MA−endの主鎖に存在するアニオン性領域は、当該領域全体としてアニオン性を示す領域であり、主鎖の少なくとも一方の端部に位置する領域である。この明細書において主鎖の端部とは主鎖の末端を含む部分を指す。したがって、主鎖の端部に位置する領域とは、主鎖の少なくとも一方の末端から主鎖中心方向に延びる所定範囲の領域ということができる。ここに開示される高分子MA−endは、主鎖端部にアニオン性領域を有することで、高分子MA−endがアニオン性表面を有する砥粒(例えばアルカリ雰囲気中のシリカ砥粒)と共存する場合に表面欠陥を低減し得る。その理由として次のことが考えられる。すなわち、高分子MA−endがアニオン性表面を有する砥粒と共存する場合、高分子MA−endの主鎖端部は砥粒のアニオン性表面と反発するため、高分子MA−endの砥粒表面への吸着が抑制され、高分子を介した砥粒の凝集発生が抑制される。その結果、研磨用組成物中において良好な分散状態が実現される。この良好な分散状態(初期分散性)は、さらに研磨後の洗浄性向上に寄与し、砥粒由来の凝集体が洗浄後も残存する事象の発生を抑制する。その結果、表面欠陥(例えばPID(Polishing Induced Defect))を低減する効果が実現されていると考えられる。
【0025】
上記アニオン性領域は、高分子MA−endの主鎖の一方の端部のみに存在することが好ましい。例えば、高分子MA−endがアニオン性表面を有する砥粒と共存する場合であって、高分子MA−endの非アニオン性領域がカチオン性を示す場合、高分子MA−endは上記砥粒に吸着しやすいため、高分子を介した砥粒の凝集体が発生しやすい。しかし、高分子MA−endの主鎖の一方の端部のみにアニオン性領域が存在することで、高分子MA−endはその端部で上記砥粒と離隔する。これによって、良好な分散性、洗浄性の向上が実現される。かかる状態は、さらには表面欠陥低減の実現に寄与する。
【0026】
また、ここに開示されるアニオン性領域は、少なくとも1つのアニオン性基を有する。アニオン性領域におけるアニオン性基の数の上限は特に制限されず、砥粒に対して良好な吸着性を発揮する観点から、50以下(例えば10以下、典型的には5以下)程度が適当である。アニオン性領域におけるアニオン性基の数は好適には1または2である。アニオン性基としては、有機アニオン性基が好ましく、例えば、カルボキシ基、ヒドロキシ基、スルホ基、硫酸基、リン酸基、ホスホン酸基等に由来するアニオン性基が挙げられる。典型的には、カルボキシ基、ヒドロキシ基、スルホ基、硫酸基、リン酸基、ホスホン酸基等の共役塩基が挙げられる。なかでも、カルボキシ基および/またはヒドロキシ基の共役塩基が好ましく、カルボキシ基の共役塩基がより好ましい。ここに開示される技術は、非アニオン性領域としてアクリロイルモルホリン系領域またはビニルピロリドン系領域を有する主鎖の端部に、カルボキシ基を有するアニオン性領域が配置された高分子MA−endを含む態様で特に好ましく実施され得る。
【0027】
アニオン性領域はまた、アニオン性の繰返し単位から構成された領域であってもよい。当該領域は、カチオン性およびノニオン性の繰返し単位を実質的に含まないことが好ましい。ここで、カチオン性およびノニオン性の繰返し単位を実質的に含まないとは、当該領域における上記カチオン性およびノニオン性の繰返し単位のモル比が0.01%未満(例えば0.001%未満)であることをいう。
【0028】
また、アニオン性基は高分子MA−endの主鎖の末端に存在することが好ましい。これによって、高分子MA−endがアニオン性表面を有する砥粒と共存する場合に、高分子MA−endは、その主鎖の末端部分がアニオン性表面を有する砥粒と反発して離隔し、良好な分散性が実現される。砥粒の分散性と砥粒表面および基板表面の保護性とを両立する観点から、アニオン性基は高分子MA−endの主鎖の末端のみに存在していることが好ましく、上記主鎖の片末端のみに存在していることがより好ましい。この場合、例えばアニオン性領域におけるアニオン性基は1つとなり得るが、このような構成によっても、良好な分散性、表面欠陥低減効果が実現される。一般に、水溶性高分子はその繰り返し単位の総体として全体の性質が決定される一方、その末端は運動性に富むため、上記末端の化学的、立体的構造が高分子の挙動、特に脱吸着反応挙動を大きく左右する。ここに開示される技術は、上記末端の性質を利用し、表面欠陥低減に寄与させたものである。
【0029】
高分子MA−endの主鎖全体の繰返し単位のモル数に占めるアニオン性領域のモル数の割合は、通常は50%未満であり、25%以下(例えば10%以下、典型的には5%以下)とすることが適当である。上記アニオン性領域のモル数の割合は、1%以下であってもよい。
【0030】
アニオン性領域の導入方法は特に限定されない。例えば、アニオン性基を有する重合開始剤を使用して高分子MA−endを重合することにより、高分子MA−endの主鎖端部にアニオン性領域を導入することができる。あるいは、高分子MA−endの重合の際に、アニオン性基を有する連鎖移動剤や、アニオン性基を有する重合停止剤を使用することによってアニオン性領域を導入してもよい。また、アニオン性基を有する繰返し単位のブロック(典型的にはアニオン性領域からなるブロック(アニオン性ブロック))と非アニオン性領域からなるブロック(非アニオン性ブロック)とからなるブロック共重合体を公知の重合法によって調製することによっても、主鎖端部にアニオン性領域を有する構成を得ることができる。なかでも、主鎖末端にアニオン性基を導入し得ることから、アニオン性基を有する重合開始剤の使用によってアニオン性領域を導入することが好ましい。この場合、アニオン性基は重合開始剤に由来する。アニオン性基を有する重合開始剤としては、例えばカルボキシ基等の有機アニオン性基を有する重合開始剤が挙げられる。重合開始剤はアゾ系開始剤であることが好ましい。その具体例としては、4,4‘−アゾビス(4−シアノペンタン酸)(ACVA)、2,2’−アゾビスイソ酪酸、2,2’−アゾビス(2−メチルペンタン酸)等が挙げられる。連鎖移動剤を用いる方法としては、メルカプトプロピオン酸等のカルボキシ基を有するチオール類の存在下にラジカル重合することで高分子片末端にアニオン性源を導入する方法が例示される。この場合、予めカルボキシ基を水酸化カリウム等で中和しておくことも可能である。上記態様では、アニオン性基は連鎖移動剤に由来する。
【0031】
また、高分子MA−endが主鎖以外に1以上の側鎖を有する場合には、当該側鎖も非アニオン性であり得る。例えば、側鎖は主鎖の非アニオン性領域と同じイオン性を示すものであり得る。ここに開示される高分子MA−endは、主鎖の少なくとも一方の端部(好適には一方の端部のみ)に位置するアニオン性領域以外は、非アニオン性であり得る。したがって、ここに開示される高分子MA−endは、主鎖の少なくとも一方の端部(好適には一方の端部のみ)に位置するアニオン性領域と、非アニオン性領域と、から構成されたものであり得る。
【0032】
高分子MA−endの種類は特に制限されず、例えば後で例示される水溶性高分子のなかから、高分子MA−endとなり得るもの(典型的には、非アニオン性領域を主鎖に有する水溶性高分子)を好ましく採用することができる。高分子MA−endは1種のみを単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。なかでも、アクリロイルモルホリン系ポリマーおよびビニルピロリドン系ポリマーがより好ましく、アクリロイルモルホリン系ポリマーがさらに好ましい。例えば、高分子MA−endとして、主鎖の端部にアニオン性領域を有するアクリロイルモルホリン系ポリマーを好ましく使用することができる。高分子MA−endとして、主鎖の末端にアニオン性基(例えばカルボキシ基)を有するアクリロイルモルホリン系ポリマーが特に好ましい。
【0033】
ここに開示される技術において、研磨用組成物に含まれる水溶性高分子の総量に占める高分子MA−endの割合は特に限定されない。高分子MA−endの効果をよりよく発揮させる観点から、水溶性高分子の総量に占める高分子MA−endの割合は10重量%以上(例えば30重量%以上、典型的には50重量%以上)であることが適当である。同様の理由から、上記高分子MA−endの割合は、70重量%以上(例えば90重量%以上、典型的には95重量%以上)であることが好ましい。水溶性高分子は、実質的に高分子MA−endのみから構成されていてもよい。また、研磨用組成物に含まれる水溶性高分子の総量に占める高分子MA−endの割合の上限は特に限定されない。他の水溶性高分子と併用することの効果をよりよく発現させる観点から、水溶性高分子の総量に占める高分子MA−endの割合は90重量%以下(例えば70重量%以下、典型的には50重量%以下)であってもよい。
【0034】
<水溶性高分子MC−end
ここに開示される研磨用組成物は、上述の高分子MA−endに加えて、水溶性高分子MC−end(以下、単に高分子MC−endともいう。)をさらに含むことが好ましい。高分子MC−endは、その主鎖が、主構成領域としての非カチオン性領域と、該主鎖の少なくとも一方の端部に位置するカチオン性領域と、から構成されている。高分子MC−endは、高分子MA−endと同様の理由から、典型的には重合法によって調製された合成高分子(合成ポリマー)であることが好ましい。
【0035】
高分子MC−endの主鎖において主構成領域となる非カチオン性領域は、当該領域が全体としてカチオン性とは異なるイオン性(すなわち非カチオン性)を示す領域である。換言すれば、当該領域全体としてアニオン性またはノニオン性を示す領域である。被研磨物の保護性等の観点から、非カチオン性領域はノニオン性を示す領域(すなわちノニオン性領域)であることが好ましい。また、組成物の分散安定性、洗浄性等の観点からは、非カチオン性領域はアニオン性を示す領域(すなわちアニオン性領域)であることが好ましい。非カチオン性領域は、アニオン性やノニオン性の繰返し単位から構成されており、カチオン性の繰返し単位を実質的に含まないことが好ましい。ここで、カチオン性の繰返し単位を実質的に含まないとは、当該領域において上記カチオン性の繰返し単位のモル比が0.01%未満(例えば0.001%未満)であることをいう。
【0036】
上記非カチオン性領域中には、アニオン性基およびノニオン性基から選ばれる少なくとも1種の官能基が含まれ得る。表面欠陥低減の観点から、非カチオン性領域はカチオン性基を実質的に有しないことが好ましい。上記非カチオン性領域は、例えば、アミド構造、複素環構造、ビニル構造、ポリオキシアルキレン構造等を有するものであり得る。特に、ビニル構造を主鎖骨格に有するものが基板表面への吸着特性の点で好ましく、また工業的にも好ましい。非カチオン性領域を有するポリマーとしては、例えば、ポリビニルアルコールやVA単位を含むポリマー、ポリアクリル酸等が挙げられる。
【0037】
上記非カチオン性領域は、親水性と分散性の観点から、上記領域における全繰返し単位のモル数に占める繰返し単位としてのVA単位のモル比が50%以上を占めるビニルアルコール系領域であることが好ましい。上記領域における全繰返し単位のモル数に占めるVA単位のモル数の割合は、70%以上であることがより好ましく、80%以上(例えば90%以上、典型的には95%以上)であることがさらに好ましい。非カチオン性領域の全繰返し単位が実質的にVA単位から構成されていてもよい。上記のような非カチオン性領域を有する高分子MC−endは、好適にはビニルアルコール系ポリマー(ポリビニルアルコール(PVA))であり得る。
【0038】
高分子MC−endの主鎖に存在するカチオン性領域は、当該領域全体としてカチオン性を示す領域であり、主鎖の少なくとも一方の端部に位置する領域である。ここに開示される高分子MC−endは、主鎖端部にカチオン性領域を有することで、高分子MC−endがアニオン性表面を有する砥粒(例えばアルカリ雰囲気中のシリカ砥粒)と共存する場合に表面欠陥を低減することができる。その理由としては、特に限定的に解釈されるものではないが、例えば次のことが考えられる。すなわち、高分子MC−endがアニオン性表面を有する砥粒と共存する場合、高分子MC−endはその主鎖端部が砥粒のアニオン性表面と引き合い、高分子MC−endは上記端部のみが砥粒表面に吸着した状態になっていると考えられる。このような特有の吸着状態によって砥粒表面は良好に保護され、それによって、実用的な研磨レートを実現しながら表面欠陥(例えばスクラッチやPID)を低減する効果が実現されていると考えられる。上記のように、高分子MC−endは、高分子MA−endとは異なる作用によって表面欠陥低減に寄与することから、高分子MA−endと高分子MC−endとを併用することにより、表面欠陥はより高レベルで低減され得る。
【0039】
上記カチオン性領域は、高分子MC−endの主鎖の一方の端部のみに存在することが好ましい。これによって、表面欠陥をさらに低減することができる。高分子MC−endがアニオン性表面を有する砥粒と共存する場合に、上記の構成を備える高分子MC−endはその端部でのみ上記砥粒と引き合い、他端では上記砥粒と適度に離隔した状態になっていると考えられる。この状態は、水溶性高分子を介した砥粒の凝集を阻害するため、当該凝集に起因する表面欠陥を低減し得ると考えられる。
【0040】
また、ここに開示されるカチオン性領域は、少なくとも1つのカチオン性基を有する。カチオン性領域におけるカチオン性基の数の上限は特に制限されず、分散性の観点から、50以下(例えば10以下、典型的には5以下)程度が適当である。カチオン性領域におけるカチオン性基の数は好適には1または2である。カチオン性基としては、有機カチオン性基が好ましく、例えばアミノ基(第一級アミン、第二級アミンの形態に由来するものを包含する。)、イミン基、アミジノ基、イミダゾリノ基等に由来するカチオン性基が挙げられる。典型的には、アミノ基、イミン基、アミジノ基、イミダゾリノ基等を系内の酸で中和カチオン化したもの(アンモニウム、イミニウム、アミジノ、イミダゾリウム塩)等が挙げられる。カチオン性基は第四級アンモニウムの形態であってもよい。なかでも、アミノ基を系内の酸で中和カチオン化したものが好ましい。ここに開示される技術は、非カチオン性領域としてビニルアルコール系領域を有する主鎖の端部に、アミノ基を有するカチオン性領域が配置された高分子MC−endを含む態様で特に好ましく実施され得る。
【0041】
カチオン性領域はまた、カチオン性の繰返し単位から構成された領域であってもよい。当該領域は、アニオン性およびノニオン性の繰返し単位を実質的に含まないことが好ましい。ここで、アニオン性およびノニオン性の繰返し単位を実質的に含まないとは、当該領域における上記アニオン性およびノニオン性の繰返し単位のモル比が0.01%未満(例えば0.001%未満)であることをいう。
【0042】
また、カチオン性基は高分子MC−endの主鎖の末端に存在することが好ましい。これによって、高分子MC−endがアニオン性表面を有する砥粒と共存する場合に、高分子MC−endは上記砥粒の表面を良好に保護する形態をとり、砥粒に起因する表面欠陥を好適に低減する。砥粒の保護性と分散性とを両立する観点から、カチオン性基は高分子MC−endの主鎖の末端のみに存在していることが好ましく、上記主鎖の片末端のみに存在していることがより好ましい。この場合、例えばカチオン性領域におけるカチオン性基は1つとなり得るが、このような構成によっても、優れた表面欠陥低減効果が実現される。
【0043】
高分子MC−endの主鎖全体の繰返し単位のモル数に占めるカチオン性領域のモル数の割合は、通常は50%未満であり、25%以下(例えば10%以下、典型的には5%以下)とすることが適当である。上記カチオン性領域のモル数の割合は1%以下であってもよい。
【0044】
カチオン性領域の導入方法は特に限定されない。例えば、カチオン性基を有する重合開始剤を使用して高分子MC−endを重合することにより、高分子MC−endの主鎖端部にカチオン性領域を導入することができる。あるいは、高分子MC−endの重合の際に、カチオン性基を有する連鎖移動剤や、カチオン性基を有する重合停止剤を使用することによってカチオン性領域を導入してもよい。また、カチオン性基を有する繰返し単位のブロック(典型的にはカチオン性領域からなるブロック(カチオン性ブロック))と非カチオン性領域からなるブロック(非カチオン性ブロック)とからなるブロック共重合体を公知の重合法によって調製することによっても、主鎖端部にカチオン性領域を有する構成を得ることができる。なかでも、主鎖末端にカチオン性基を導入し得ることから、カチオン性基を有する重合開始剤の使用によってカチオン性領域を導入することが好ましい。この場合、カチオン性基は重合開始剤に由来する。カチオン性基を有する重合開始剤としては、例えばアミノ基等の有機カチオン性基を有する重合開始剤が挙げられる。重合開始剤はアゾ系開始剤であることが好ましい。その具体例としては、適用すべき半減期温度に応じ、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)(V−50)や2,2’−アゾビス(2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン)塩酸塩等が挙げられる。連鎖移動剤を用いる方法としては、アミノエタンチオール等のアミノ基を有するチオール類の存在下でラジカル重合した後、塩酸等でその連鎖片末端をカチオン化する方法が例示される。この場合、予めアミノエタンチオールを塩酸等で中和しておくことも可能である。上記態様では、カチオン性基は連鎖移動剤に由来する。
【0045】
また、高分子MC−endが主鎖以外に1以上の側鎖を有する場合には、当該側鎖も非カチオン性であり得る。例えば、側鎖は主鎖の非カチオン性領域と同じイオン性を示すものであり得る。ここに開示される高分子MC−endは、主鎖の少なくとも一方の端部(好適には一方の端部のみ)に位置するカチオン性領域以外は、非カチオン性であり得る。したがって、ここに開示される高分子MC−endは、主鎖の少なくとも一方の端部(好適には一方の端部のみ)に位置するカチオン性領域と、非カチオン性領域と、から構成されたものであり得る。
【0046】
高分子MC−endの種類は特に制限されず、例えば後で例示される水溶性高分子のなかから、高分子MC−endとなり得るもの(典型的には、非カチオン性領域を主鎖に有する水溶性高分子)を好ましく採用することができる。高分子MC−endは1種のみを単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。なかでも、ビニルアルコール系ポリマーがより好ましい。例えば、高分子MC−endとして、主鎖の端部にカチオン性領域を有するビニルアルコール系ポリマーを好ましく使用することができる。高分子MC−endとして、主鎖の末端にカチオン性基(例えばアミノ基)を有するビニルアルコール系ポリマーが特に好ましい。
【0047】
高分子MC−endを使用する場合、高分子MA−endと高分子MC−endとの使用量の比(研磨用組成物中における含有量の比としても把握され得る。)は特に限定されない。高分子MA−endと高分子MC−endとを組み合わせて使用することの効果をよりよく発揮させる観点から、これらの使用量比(MA−end:MC−end)を重量基準で5:95〜95:5とすることが適当であり、10:90〜90:10(例えば20:80〜80:20)とすることが好ましい。
【0048】
<水溶性高分子ML−end
ここに開示される研磨用組成物は、上述の高分子MA−endに加えて、水溶性高分子ML−end(以下、単に高分子ML−endともいう。)をさらに含むことが好ましい。高分子ML−endは、主鎖の少なくとも一方の端部に疎水性領域を有する。高分子ML−endは、高分子MA−endと同様の理由から、典型的には重合法によって調製された合成高分子(合成ポリマー)であり得る。
【0049】
高分子ML−endの主鎖は、その少なくとも一方の端部に疎水性領域を有するものであればよい。例えば、ここに開示される高分子ML−endは、疎水性領域と親水性領域とからなる主構成領域を主鎖に有する水溶性高分子、または親水性領域からなる主構成領域を主鎖に有する水溶性高分子のいずれであってもよい。
【0050】
高分子ML−endの主鎖は、主構成領域としての親水性領域と、該主鎖の少なくとも一方の端部に位置する疎水性領域とから構成されていることが好ましい。ここで、親水性領域とは、当該領域が全体として親水性を示す領域のことを指す。親水性領域は、親水性の繰返し単位(親水性単位)から構成されており、疎水性の繰返し単位(疎水性単位)を実質的に含まないことが好ましい。ここで、疎水性の繰返し単位を実質的に含まないとは、当該領域において上記疎水性の繰返し単位のモル比が0.01%未満(例えば0.001%未満)であることをいう。あるいはまた、親水性領域は、親水性単位と疎水性単位とを含むものであってもよい。
【0051】
上記親水性領域は、水溶性等の観点から、上記領域における全繰返し単位のモル数に占める繰返し単位としての親水性単位のモル比が50%を超える親水性領域であることが好ましい。上記領域における全繰返し単位のモル数に占める親水性単位のモル数の割合(モル比)は、60%以上であることがより好ましく、70%以上(例えば75%以上、典型的には90%以上)であることがさらに好ましい。親水性領域の全繰返し単位が実質的に親水性単位から構成されていてもよい。親水性単位の好適例として、VA単位またはVP単位が挙げられる。親水性領域は、VA単位またはVP単位を上記のモル比で含むビニルアルコール系領域またはビニルピロリドン系領域であることが好ましい。上記のような親水性領域を有する高分子ML−endは、好適にはビニルアルコール系ポリマーまたはビニルピロリドン系ポリマーであり得る。
【0052】
上記疎水性単位となり得る重合性モノマーとしては、例えば、酪酸ビニル、ソルビン酸ビニル、ヘキサン酸ビニル、エチルヘキサン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル等の、炭素数4以上のアルキル酢酸ビニル類;(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸イソデシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸ペンタデシル、(メタ)アクリル酸セチル、(メタ)アクリル酸ベヘニル、(メタ)アクリル酸3−(トリメトキシシリル)プロピル等の、炭素数4以上の(メタ)アクリル酸エステル類;スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、t−ブチルスチレン等の芳香族ビニル系モノマー;等が挙げられる。これらは1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。なかでも、炭素原子数が4〜16(例えば4〜10、典型的には4〜8)の直鎖状または分岐状の飽和モノカルボン酸のビニルエステル類や、炭素原子数が4〜10(例えば4〜8、典型的には4〜6)のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル類が好ましい。
【0053】
疎水性単位は、上記親水性領域中にランダム共重合体や交互共重合体、ブロック共重合体のかたちで導入され得る。また、上記疎水性単位は主鎖や側鎖に導入されてもよい。上記親水性領域中に占める疎水性単位のモル比は通常は50%未満であり、好ましくは40%以下(例えば30%以下、典型的には25%以下)である。上記疎水性単位のモル比は10%以下であってもよい。
【0054】
ここに開示される高分子ML−endの親水性領域は、SP値が11.0以上である繰返し単位の1種または2種以上から構成される領域であり得る。SP値が11.0以上の繰返し単位としては、VP単位(SP値 11.0)、アクリルアミド単位(SP値 14.5)、VA単位(SP値 18.5)、アクリル酸単位(SP値 20.2)等が挙げられる。上記繰返し単位のSP値(2種以上の繰返し単位を含む場合にはそれらの平均SP値。以下同じ。)としては、疎水性領域による効果を好適に発現する観点から、14以上(例えば18以上)であってもよい。
【0055】
ここでSP値とは、溶解度パラメータ(Solubility Parameter)を意味する。この明細書において、水溶性高分子を構成する繰返し単位のSP値とは、Specific Interactions and the Miscibility of Polymer Blend, Michael M. Coleman et al. (1991) Technomic Publishing Co. Inc.に記載の原子団のモル蒸発熱の合計(ΣΔH)およびモル体積の合計(ΣV)から、下記式(1)により算出される値をいう。
SP値(δ(cal/cm-31/2)=(ΣΔH/ΣV)1/2 (1)
【0056】
上記親水性領域は、例えば、アミド構造、複素環構造、ビニル構造、ポリオキシアルキレン構造等を有するものであり得る。特に、ビニル構造を主鎖骨格に有するものが基板表面への吸着特性の点で好ましく、また工業的にも好ましい。親水性領域を有するポリマーとしては、例えば、ポリビニルアルコールやVA単位を含むポリマーが挙げられる。
【0057】
高分子ML−endの主鎖に存在する疎水性領域は、当該領域全体として疎水性を示す領域であり、主鎖の少なくとも一方の端部に位置する領域である。ここに開示される高分子ML−endは、主鎖端部に疎水性領域を有することにより、例えば疎水性表面を有する被研磨物(例えばシリコンウエハ)に良好に吸着する。これにより、被研磨物表面に適度の濡れ性が付与され、被研磨物表面の保護性が向上し、ヘイズおよび欠陥の低減が実現される。上記のように、高分子ML−endは、高分子MA−endとは異なる作用によって表面欠陥低減に寄与していることから、高分子MA−endと高分子ML−endとを併用することにより、表面欠陥をより高レベルで低減することができる。さらに、高分子MC−end、高分子MA−endおよび高分子ML−endは、いずれも異なる作用によって表面欠陥を低減するものであり得るため、これら3種の水溶性高分子を含む研磨用組成物によると、表面欠陥の低減をさらに高いレベルで実現することができる。なお、疎水性領域は典型的にはノニオン性領域であり得る。
【0058】
上記疎水性領域は、高分子ML−endの主鎖の一方の端部のみに存在することが好ましい。例えば、被研磨物の表面が疎水性表面である場合に、高分子ML−endの主鎖の一方の端部のみに疎水性領域が存在することで、高分子ML−endはその端部で上記被研磨物の表面に適度に吸着し、ヘイズおよび欠陥の低減に寄与する。
【0059】
また、ここに開示される疎水性領域は、少なくとも1つの疎水性基を有する。疎水性領域における疎水性基の数の上限は特に制限されず、被研磨物に対して良好な吸着性を発揮する観点から、50以下(例えば10以下、典型的には5以下)程度が適当である。疎水性領域における疎水性基の数は好適には1または2である。疎水性基としては、例えば、アルキル基、フェニル基、アリル基等が挙げられ、さらにはこれらを有するポリマー単位やポリジメチルシロキサンやポリアルキレンオキサイド等が挙げられる。なかでも、アルキル基が好ましい。ここに開示される技術は、親水性領域としてビニルアルコール系領域またはビニルピロリドン系領域を有する主鎖の端部に、アルキル基(例えばイソブチル基)を有する疎水性領域が配置された高分子ML−endを含む態様で特に好ましく実施され得る。なお、疎水性基は典型的にはノニオン性基であり得る。
【0060】
疎水性領域の導入方法は特に限定されない。例えば、疎水性基を有する重合開始剤を使用して高分子ML−endを重合することにより、高分子ML−endの主鎖端部に疎水性領域を導入することができる。あるいは、高分子ML−endの重合の際に、疎水性基を有する連鎖移動剤や、疎水性基を有する重合停止剤を使用することによって疎水性領域を導入してもよい。また、疎水性基を有する繰返し単位のブロック(典型的には疎水性領域からなるブロック(疎水性ブロック))と非疎水性(典型的には親水性)領域からなるブロック(非疎水性ブロック)とからなるブロック共重合体を公知の重合法によって調製することによっても、主鎖端部に疎水性領域を有する構成を得ることができる。なかでも、主鎖末端に疎水性基を導入し得ることから、疎水性基を有する重合開始剤の使用によって疎水性領域を導入することが好ましい。この場合、疎水性基は重合開始剤に由来する。疎水性基を有する重合開始剤としては、例えば、構造中に炭化水素単位を有するアゾ系や過酸化物系重合開始剤等が挙げられる。その具体例としては、2,2‘−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、t−ブチルハイドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド等が挙げられる。
また、ポリジメチルシロキサン単位やポリアルキレンオキサイド単位を含む高分子アゾ重合開始剤を用いることもできる。これらの開始剤を用いると、高分子の片末端に、疎水性ブロックとしてのポリジメチルシロキサンやポリアルキレンオキサイドをそれぞれ導入することができる。
連鎖移動剤を用いる方法としては、ラウリルメルカプタン等の疎水性アルキルを有するチオール類の存在下にラジカル重合することで高分子片末端に疎水性アルキル基を導入する方法が例示される。
したがって、ここに開示される技術における高分子ML−endの疎水性領域は、重合開始剤に由来する少なくとも1つの疎水性基を有するものに限定されない。
【0061】
ここに開示される高分子ML−endの疎水性領域は、SP値が11.0未満である単位から構成される領域であり得る。上記単位は、典型的には重合開始剤に由来する単位であり得る。上記重合開始剤に由来する単位に加えて、SP値が11.0未満である繰返し単位の1種または2種以上を含んでもよい。上記疎水性領域を構成する単位のSP値(2種以上の繰返し単位を含む場合にはそれらの平均SP値。以下同じ。)は、被研磨物への吸着性の観点から、10.5以下(例えば10.0以下、典型的には9.0以下)であってもよい。
【0062】
疎水性領域はまた、親水性の繰返し単位を実質的に含まないことが好ましい。ここで、親水性の繰返し単位を実質的に含まないとは、当該領域における上記親水性の繰返し単位のモル比が0.01%未満(例えば0.001%未満)であることをいう。疎水性領域は、重合開始剤に由来する疎水性末端と、疎水性単位とから実質的に構成されたものであり得る。疎水性領域を構成し得る疎水性単位となり得る重合性モノマーとしては、上述の親水性領域における疎水性単位となり得る重合性モノマーとして例示したものを好ましく用いることができる。
【0063】
上記のように、疎水性基は、重合開始剤に由来するため典型的には高分子ML−endの主鎖の末端に存在し得る。これによって、高分子ML−endは被研磨物表面を良好に保護することができる。被研磨物の表面を保護する観点から、疎水性基は高分子ML−endの主鎖の片末端のみに存在していることがより好ましい。この場合、例えば疎水性領域における疎水性基は1つとなり得るが、このような構成によってもヘイズおよび欠陥の低減が実現される。
【0064】
高分子ML−endの主鎖全体の繰返し単位のモル数に占める疎水性領域のモル数の割合は、通常は50%未満であり、25%以下(例えば10%以下、典型的には5%以下)とすることが適当である。上記疎水性領域のモル数の割合は、1%以下であってもよい。
【0065】
また、高分子ML−endが主鎖以外に1以上の側鎖を有する場合には、当該側鎖も親水性であり得る。ここに開示される高分子ML−endは、主鎖の少なくとも一方の端部(好適には一方の端部のみ)に位置する疎水性領域以外は、親水性であり得る。したがって、ここに開示される高分子ML−endは、主鎖の少なくとも一方の端部(好適には一方の端部のみ)に位置する疎水性領域と、親水性領域と、から構成されたものであり得る。
【0066】
高分子ML−endの全繰返し単位(主鎖および側鎖を含む高分子を構成する繰返し単位の合計)に占める親水性単位のモル比は、水溶性の観点から通常は50%以上であることが適当であり、好ましくは60%以上(例えば70%以上、典型的には75%以上)である。上記親水性単位のモル比は、90%以上(例えば95%以上、典型的には99%以上)であってもよい。また、高分子ML−endの全繰返し単位(主鎖および側鎖を含む高分子を構成する繰返し単位の合計)に占める疎水性単位のモル比は、通常は50%以下であることが適当であり、好ましくは40%以下(例えば30%以下、典型的には25%以下)である。上記疎水性単位のモル比は、10%以下(例えば5%以下、典型的には1%以下)であってもよい。
【0067】
高分子ML−endの種類は特に制限されず、例えば後で例示される水溶性高分子のなかから、高分子ML−endとなり得るもの(典型的には、親水性領域を主鎖に有する水溶性高分子)を好ましく採用することができる。高分子ML−endは1種のみを単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。なかでも、ビニルアルコール系ポリマーおよびビニルピロリドン系ポリマーがより好ましく、ビニルアルコール系ポリマーがさらに好ましい。ここに開示される技術の好ましい一態様に係る高分子ML−endは、主鎖の端部に疎水性領域を有するビニルアルコール系ポリマーである。高分子ML−endとして、主鎖の末端に疎水性基(例えばアルキル基、典型的にはイソブチル基)を有するビニルアルコール系ポリマーが特に好ましい。
【0068】
高分子ML−endを使用する場合、高分子MA−endと高分子ML−endとの使用量の比(研磨用組成物中における含有量の比としても把握され得る。)は特に限定されない。高分子MA−endと高分子ML−endとを組み合わせて使用することの効果をよりよく発揮させる観点から、これらの使用量比(MA−end:ML−end)を重量基準で5:95〜95:5とすることが適当であり、10:90〜90:10(例えば20:80〜80:20)とすることが好ましい。
【0069】
<任意水溶性高分子>
ここに開示される研磨用組成物は、高分子MA−endに加えて、必要に応じて、高分子MC−end、高分子MA−endおよび高分子ML−endとは異なる水溶性高分子(以下「任意ポリマー」ともいう。)を含有し得る。かかる任意ポリマーの種類は特に制限されず、研磨用組成物の分野において公知の水溶性高分子のなかから適宜選択することができる。
上記任意ポリマーは、分子中に、カチオン性基、アニオン性基およびノニオン性基から選ばれる少なくとも1種の官能基を有するものであり得る。上記任意ポリマーは、例えば、分子中に水酸基、カルボキシ基、アシルオキシ基、スルホ基、第一級アミド構造、第四級窒素構造、複素環構造、ビニル構造、ポリオキシアルキレン構造等を有するものであり得る。凝集物の低減や洗浄性向上等の観点から、上記任意ポリマーとしてノニオン性のポリマーを好ましく採用し得る。
ここに開示される研磨用組成物における任意ポリマーとしては、例えば後で例示する水溶性高分子のなかから選択される1種または2種以上を好ましく採用することができる。
【0070】
任意ポリマーの使用量は、研磨用組成物に含まれる高分子MA−endの100重量%以下とすることが適当であり、50重量%以下とすることが好ましく、30重量%以下(例えば10重量%以下)とすることがより好ましい。ここに開示される研磨用組成物は、任意ポリマーを実質的に含有しない(例えば、上記水溶性高分子成分の総量に占める任意ポリマーの割合が1重量%未満であるか、あるいは任意ポリマーが検出されない)態様で好ましく実施され得る。
【0071】
また、ここに開示される研磨用組成物が任意ポリマーとしてセルロース誘導体を含む場合、その使用量は、該研磨用組成物に含まれる水溶性高分子の総量の10重量%以下に抑えることが好ましく、5重量%以下(典型的には1重量%以下)とすることがさらに好ましい。このことによって、天然物に由来するセルロース誘導体の使用に起因する異物の混入や凝集の発生をより高度に抑制することができる。
【0072】
<水溶性高分子の共通事項>
次に、ここに開示される研磨用組成物に含有され得る水溶性高分子、すなわち高分子MC−end、高分子MA−end、高分子ML−end、その他の水溶性高分子を包含する水溶性高分子(以下、同じ。)、に共通して適用され得る共通事項(構造や特性等を包含する技術的事項)について包括的に説明する。
【0073】
ここに開示される研磨用組成物に含有され得る水溶性高分子の種類は特に制限されず、ビニルアルコール系ポリマーや、アクリル系ポリマー、オキシアルキレン単位を含むポリマー、窒素原子を含有するポリマー等のなかから適切なものを選択して用いることができる。被研磨物の保護性の観点から、ここに開示される研磨用組成物は、水溶性高分子として、オキシアルキレン単位を含むポリマーを含まないものであってもよい。
【0074】
水溶性高分子の主鎖の構造は特に限定されず、炭素−炭素結合からなるものや、主鎖中に酸素原子(O)や窒素原子(N)を含むものが挙げられる。なかでも、上記水溶性高分子は炭素−炭素結合(−C−C−)からなる主鎖を有することが好ましい。当該主鎖を有する水溶性高分子は、疎水性表面を有する被研磨物に対して適度に吸着するので、上記被研磨物の保護性に優れる。また、主鎖が炭素−炭素結合からなることは凝集物の低減や洗浄性向上の観点からも好ましい。上記炭素−炭素結合は、好ましくはVAやACMO、VP等のビニル基含有モノマーのビニル基に由来する。
【0075】
ビニルアルコール系ポリマーは、典型的には、当該ポリマー中に主たる繰返し単位としてVA単位を含むポリマー(PVA)である。当該ポリマーにおいて、全繰返し単位のモル数に占めるVA単位のモル数の割合は、通常は50%以上であり、80%以上(例えば90%以上、典型的には95%以上)であることが適当である。水溶性高分子の全繰返し単位が実質的にVA単位から構成されていてもよい。PVAにおいて、VA単位以外の繰返し単位の種類は特に限定されず、例えば酢酸ビニル単位、プロピオン酸ビニル単位、ヘキサン酸ビニル単位等が挙げられる。
【0076】
PVAのけん化度は、典型的には65モル%以上であり、好ましくは80モル%以上、より好ましくは90モル%以上である。研磨用組成物の性能安定性の観点から、けん化度が95モル%以上(典型的には95モル%超、例えば98モル%以上)のPVAが特に好ましい。なお、PVAのけん化度は、原理上、100モル%以下である。
【0077】
アクリル系ポリマーとは、典型的には(メタ)アクリロイル型のモノマー単位を含むポリマーである。ここで「(メタ)アクリロイル」とは、アクリルおよびメタクリルを包括的に指す意味である。例えば、当該ポリマー中に主たる繰返し単位としてアクリル酸(AA)単位および/またはメタクリル酸(MAA)単位を含むポリマーが挙げられる。当該ポリマーにおいて、全繰返し単位のモル数に占めるAA単位およびMAA単位のモル数の割合は、50%以上であることが好ましく、80%以上(例えば90%以上、典型的には95%以上)であることがより好ましい。水溶性高分子の全繰返し単位が実質的にAA単位またはMAA単位から構成されていてもよい。なかでも、当該ポリマーにおいて、全繰返し単位のモル数に占めるAA単位のモル数の割合が50%以上(例えば80%以上、典型的には90%以上)を占めるアクリル酸系ポリマー(ポリアクリル酸)が好ましい。
【0078】
オキシアルキレン単位を含むポリマーは、炭素原子数2〜6のオキシアルキレン単位(典型的には−C2nO−で表される構造単位。ここでnは2〜6の整数である。)の1種または2種以上を含むポリマーであり得る。上記オキシアルキレン単位の炭素原子数が2〜3であるポリマーが好ましい。そのようなポリマーの例として、ポリエチレンオキサイド(PEO)、エチレンオキサイド(EO)とプロピレンオキサイド(PO)とのブロック共重合体、EOとPOとのランダム共重合体等が挙げられる。
EOとPOとのブロック共重合体は、ポリエチレンオキサイド(PEO)ブロックとポリプロピレンオキサイド(PPO)ブロックとを含むジブロック体、トリブロック体等であり得る。上記トリブロック体の例には、PEO−PPO−PEO型トリブロック体およびPPO−PEO−PPO型トリブロック体が含まれる。通常は、PEO−PPO−PEO型トリブロック体がより好ましい。
【0079】
PEO−PPO−PEO型トリブロック体としては、下記一般式(1)で表されるポリマーを好ましく使用し得る。
HO−(EO)−(PO)−(EO)−H ・・・(1)
一般式(1)中のEOはオキシエチレン単位(−CHCHO−)を示し、POはオキシプロピレン単位(−CHCH(CH)O−)を示し、a、bおよびcはそれぞれ1以上(典型的には2以上)の整数を示す。
一般式(1)において、aとcとの合計は、2〜1000の範囲であることが好ましく、より好ましくは5〜500の範囲であり、さらに好ましくは10〜200の範囲である。一般式(1)中のbは、2〜200の範囲であることが好ましく、より好ましくは5〜100の範囲であり、さらに好ましくは10〜50の範囲である。
【0080】
EOとPOとのブロック共重合体またはランダム共重合体において、該共重合体を構成するEOとPOとのモル比(EO/PO)は、水への溶解性や洗浄性等の観点から、1より大きいことが好ましく、2以上であることがより好ましく、3以上(例えば5以上)であることがさらに好ましい。
【0081】
窒素原子を含有するポリマーとしては、主鎖に窒素原子を含有するポリマーおよび側鎖官能基(ペンダント基)に窒素原子を有するポリマーのいずれも使用可能である。
主鎖に窒素原子を含有するポリマーの例としては、N−アシルアルキレンイミン型モノマーの単独重合体および共重合体が挙げられる。N−アシルアルキレンイミン型モノマーの具体例としては、N−アセチルエチレンイミン、N−プロピオニルエチレンイミン、N−カプロイルエチレンイミン、N−ベンゾイルエチレンイミン、N−アセチルプロピレンイミン、N−ブチリルエチレンイミン等が挙げられる。N−アシルアルキレンイミン型モノマーの単独重合体としては、ポリ(N−アセチルエチレンイミン)、ポリ(N−プロピオニルエチレンイミン)、ポリ(N−カプロイルエチレンイミン)、ポリ(N−ベンゾイルエチレンイミン)、ポリ(N−アセチルプロピレンイミン)、ポリ(N−ブチリルエチレンイミン)等が挙げられる。N−アシルアルキレンイミン型モノマーの共重合体の例には、2種以上のN−アシルアルキレンイミン型モノマーの共重合体と、1種または2種以上のN−アシルアルキレンイミン型モノマーと他のモノマーとの共重合体が含まれる。
なお、本明細書中において共重合体とは、特記しない場合、ランダム共重合体、交互共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体等の各種の共重合体を包括的に指す意味である。
【0082】
ペンダント基に窒素原子を有するポリマーとしては、例えばN−(メタ)アクリロイル型のモノマー単位を含むポリマー、N−ビニル型のモノマー単位を含むポリマー等が挙げられる。
【0083】
N−(メタ)アクリロイル型のモノマー単位を含むポリマーの例には、N−(メタ)アクリロイル型モノマーの単独重合体および共重合体(典型的には、N−(メタ)アクリロイル型モノマーの共重合割合が50重量%を超える共重合体)が含まれる。N−(メタ)アクリロイル型モノマーの例には、N−(メタ)アクリロイル基を有する鎖状アミドおよびN−(メタ)アクリロイル基を有する環状アミドが含まれる。
【0084】
N−(メタ)アクリロイル基を有する鎖状アミドの例としては、(メタ)アクリルアミド;N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N−プロピル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N−n−ブチル(メタ)アクリルアミド等のN−アルキル(メタ)アクリルアミド;N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジイソプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジ(n−ブチル)(メタ)アクリルアミド等のN,N−ジアルキル(メタ)アクリルアミド;等が挙げられる。N−(メタ)アクリロイル基を有する鎖状アミドをモノマー単位として含むポリマーの例として、N−イソプロピルアクリルアミドの単独重合体およびN−イソプロピルアクリルアミドの共重合体(例えば、N−イソプロピルアクリルアミドの共重合割合が50重量%を超える共重合体)が挙げられる。
【0085】
N−(メタ)アクリロイル基を有する環状アミドの例としては、N−(メタ)アクリロイルモルホリン、N−(メタ)アクリロイルピロリジン等が挙げられる。N−(メタ)アクリロイル基を有する環状アミドをモノマー単位として含むポリマーの例として、アクリロイルモルホリン系ポリマー(PACMO)が挙げられる。アクリロイルモルホリン系ポリマーは、典型的には、N−アクリロイルモルホリン(ACMO)の単独重合体およびACMOの共重合体(例えば、ACMOの共重合割合が50重量%を超える共重合体)である。アクリロイルモルホリン系ポリマーにおいて、全繰返し単位のモル数に占めるACMO単位のモル数の割合は、通常は50%以上であり、80%以上(例えば90%以上、典型的には95%以上)であることが適当である。水溶性高分子の全繰返し単位が実質的にACMO単位から構成されていてもよい。
【0086】
N−ビニル型のモノマー単位を含むポリマーの例には、N−ビニルラクタム型モノマーの単独重合体および共重合体(例えば、N−ビニルラクタム型モノマーの共重合割合が50重量%を超える共重合体)、N−ビニル鎖状アミドの単独重合体および共重合体(例えば、N−ビニル鎖状アミドの共重合割合が50重量%を超える共重合体)が含まれる。
N−ビニルラクタム型モノマーの具体例としては、N−ビニルピロリドン(VP)、N−ビニルピペリドン、N−ビニルモルホリノン、N−ビニルカプロラクタム(VC)、N−ビニル−1,3−オキサジン−2−オン、N−ビニル−3,5−モルホリンジオン等が挙げられる。N−ビニルラクタム型のモノマー単位を含むポリマーの具体例としては、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリビニルカプロラクタム、VPとVCとのランダム共重合体、VPおよびVCの一方または両方と他のビニルモノマー(例えば、アクリル系モノマー、ビニルエステル系モノマー等)とのランダム共重合体、VPおよびVCの一方または両方を含むポリマーセグメントを含むブロック共重合体やグラフト共重合体(例えば、PVAにPVPがグラフトしたグラフト共重合体)等が挙げられる。なかでも、VPの単独重合体およびVPの共重合体(例えば、VPの共重合割合が50重量%を超える共重合体)であるビニルピロリドン系ポリマー(PVP)が好ましい。ビニルピロリドン系ポリマーにおいて、全繰返し単位のモル数に占めるVP単位のモル数の割合は、通常は50%以上であり、80%以上(例えば90%以上、典型的には95%以上)であることが適当である。水溶性高分子の全繰返し単位が実質的にVP単位から構成されていてもよい。
N−(メタ)アクリロイル基を有する鎖状アミドをモノマー単位として含むポリマーの例として、N−イソプロピルアクリルアミドの単独重合体およびN−イソプロピルアクリルアミドの共重合体(例えば、N−イソプロピルアクリルアミドの共重合割合が50重量%を超える共重合体)が挙げられる。
N−ビニル鎖状アミドの具体例としては、N−ビニルアセトアミド、N−ビニルプロピオン酸アミド、N−ビニル酪酸アミド等が挙げられる。
【0087】
ペンダント基に窒素原子を有するポリマーの他の例として、アミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート等の、アミノ基を有するビニルモノマー(例えば、(メタ)アクリロイル基を有するモノマー)の単独重合体および共重合体が挙げられる。
【0088】
また、ここに開示される水溶性高分子は、例えばヒドロキシエチルセルロース系ポリマー等のセルロース誘導体(セルロース系ポリマー)であってもよい。ここに開示される研磨用組成物が水溶性高分子としてセルロース誘導体を含む場合、その使用量は、該研磨用組成物に含まれる水溶性高分子の総量の10重量%以下に抑えることが好ましく、5重量%以下(典型的には1重量%以下)とすることがさらに好ましい。このことによって、天然物に由来するセルロース誘導体の使用に起因する異物の混入や凝集の発生をより高度に抑制することができる。ここに開示される研磨用組成物は、例えば、セルロース誘導体を実質的に含有しない(例えば、上記水溶性高分子の総量に占めるセルロース誘導体の割合が1重量%未満であるか、あるいはセルロース誘導体が検出されない)態様で好ましく実施され得る。
【0089】
ここに開示される水溶性高分子の重量平均分子量(Mw)は、2×10以上である。したがって、この明細書において水溶性高分子とは、Mwが2×10以上の化合物と定義してもよい。一方、水溶性高分子の分子量の上限は特に限定されない。例えば重量平均分子量(Mw)が200×10以下(例えば150×10以下、典型的には100×10以下)の水溶性高分子を用いることができる。凝集物の発生をよりよく防止する観点から、通常は、Mwが100×10未満(より好ましくは80×10以下、さらに好ましくは50×10以下、典型的には40×10以下、例えば30×10以下)の水溶性高分子の使用が好ましい。また、研磨用組成物の濾過性や洗浄性等の観点から、Mwが25×10以下(より好ましくは20×10以下、さらに好ましくは15×10以下、例えば10×10以下)の水溶性高分子を好ましく使用し得る。また、ヘイズや表面欠陥の低減の観点から、水溶性高分子のMwの下限は4×10以上(例えば6×10以上)であることが好ましい。なかでも、Mwが1×10以上の水溶性高分子がより好ましい。
【0090】
ここに開示される技術において、水溶性高分子の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との関係は特に制限されない。凝集物の発生防止等の観点から、例えば分子量分布(Mw/Mn)が5.0以下であるものを好ましく用いることができる。研磨用組成物の性能安定性等の観点から、水溶性高分子のMw/Mnは、好ましくは4.0以下、より好ましくは3.5以下、さらに好ましくは3.0以下(例えば2.5以下)である。
なお、原理上、Mw/Mnは1.0以上である。原料の入手容易性や合成容易性の観点から、通常は、Mw/Mnが1.05以上の水溶性高分子を好ましく使用し得る。
【0091】
なお、水溶性高分子のMwおよびMnとしては、水系のゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)に基づく値(水系、ポリエチレンオキサイド換算)を採用することができる。
【0092】
特に限定するものではないが、ここに開示される研磨用組成物が砥粒を含む場合、水溶性高分子の含有量(高分子MC−end、高分子MA−end、高分子ML−endその他の水溶性高分子の合計量)は、砥粒100重量部に対して例えば0.01重量部以上とすることができる。砥粒100重量部に対する水溶性高分子の含有量は、研磨後の表面平滑性向上(例えばヘイズや欠陥の低減)の観点から0.02重量部以上が適当であり、好ましくは0.03重量部以上、より好ましくは0.05重量部以上(例えば0.1重量部以上)である。また、砥粒100重量部に対する水溶性高分子の含有量は、研磨速度や洗浄性等の観点から、例えば40重量部以下とすることができ、通常は20重量部以下が適当であり、好ましくは15重量部以下、より好ましくは12重量部以下である。
【0093】
<水>
ここに開示される研磨用組成物に含まれる水としては、イオン交換水(脱イオン水)、純水、超純水、蒸留水等を好ましく用いることができる。使用する水は、研磨用組成物に含有される他の成分の働きが阻害されることを極力回避するため、例えば遷移金属イオンの合計含有量が100ppb以下であることが好ましい。例えば、イオン交換樹脂による不純物イオンの除去、フィルタによる異物の除去、蒸留等の操作によって水の純度を高めることができる。
ここに開示される研磨用組成物は、必要に応じて、水と均一に混合し得る有機溶剤(低級アルコール、低級ケトン等)をさらに含有してもよい。通常は、研磨用組成物に含まれる溶媒の90体積%以上が水であることが好ましく、95体積%以上(典型的には99〜100体積%)が水であることがより好ましい。
【0094】
ここに開示される研磨用組成物(典型的にはスラリー状の組成物)は、例えば、その固形分含量(non-volatile content;NV)が0.01重量%〜50重量%であり、残部が水系溶媒(水または水と上記有機溶剤との混合溶媒)である形態、または残部が水系溶媒および揮発性化合物(例えばアンモニア)である形態で好ましく実施され得る。上記NVが0.05重量%〜40重量%である形態がより好ましい。なお、上記固形分含量(NV)とは、研磨用組成物を105℃で24時間乾燥させた後における残留物が上記研磨用組成物に占める重量の割合を指す。
【0095】
<砥粒>
ここに開示される研磨用組成物は、砥粒を含有することが好ましい。ここに開示される砥粒の材質や性状は特に制限されず、研磨用組成物の使用目的や使用態様等に応じて適宜選択することができる。砥粒の例としては、無機粒子、有機粒子、および有機無機複合粒子が挙げられる。無機粒子の具体例としては、シリカ粒子、アルミナ粒子、酸化セリウム粒子、酸化クロム粒子、二酸化チタン粒子、酸化ジルコニウム粒子、酸化マグネシウム粒子、二酸化マンガン粒子、酸化亜鉛粒子、ベンガラ粒子等の酸化物粒子;窒化ケイ素粒子、窒化ホウ素粒子等の窒化物粒子;炭化ケイ素粒子、炭化ホウ素粒子等の炭化物粒子;ダイヤモンド粒子;炭酸カルシウムや炭酸バリウム等の炭酸塩等が挙げられる。有機粒子の具体例としては、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)粒子やポリ(メタ)アクリル酸粒子(ここで(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸およびメタクリル酸を包括的に指す意味である。)、ポリアクリロニトリル粒子等が挙げられる。このような砥粒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0096】
上記砥粒としては、無機粒子が好ましく、なかでも金属または半金属の酸化物からなる粒子が好ましい。ここに開示される技術において使用し得る砥粒の好適例としてシリカ粒子が挙げられる。その理由は、被研磨物(シリコンウエハ)と同じ元素と酸素原子とからなるシリカ粒子を砥粒として使用すれば研磨後にシリコンとは異なる金属または半金属の残留物が発生せず、シリコンウエハ表面の汚染や被研磨物内部にシリコンとは異なる金属または半金属が拡散することによるシリコンウエハとしての電気特性の劣化などの虞がなくなるからである。かかる観点から好ましい研磨用組成物の一形態として、砥粒としてシリカ粒子のみを含有する研磨用組成物が例示される。また、シリカは高純度のものが得られやすいという性質を有する。このことも砥粒としてシリカ粒子が好ましい理由として挙げられる。シリカ粒子の具体例としては、コロイダルシリカ、フュームドシリカ、沈降シリカ等が挙げられる。被研磨物表面にスクラッチを生じにくく、よりヘイズの低い表面を実現し得るという観点から、好ましいシリカ粒子としてコロイダルシリカおよびフュームドシリカが挙げられる。なかでもコロイダルシリカが好ましい。なかでも、シリコンウエハのポリシング(特に、ファイナルポリシング)に用いられる研磨用組成物の砥粒として、コロイダルシリカを好ましく採用し得る。
【0097】
シリカ粒子を構成するシリカの真比重は、1.5以上であることが好ましく、より好ましくは1.6以上、さらに好ましくは1.7以上である。シリカの真比重の増大によって、シリコンウエハを研磨する際に、研磨速度(単位時間当たりに被研磨物の表面を除去する量)が向上し得る。被研磨物の表面(研磨面)に生じるスクラッチを低減する観点からは、真比重が2.2以下のシリカ粒子が好ましい。シリカの真比重としては、置換液としてエタノールを用いた液体置換法による測定値を採用し得る。
【0098】
ここに開示される技術において、研磨用組成物中に含まれる砥粒は、一次粒子の形態であってもよく、複数の一次粒子が凝集した二次粒子の形態であってもよい。また、一次粒子の形態の砥粒と二次粒子の形態の砥粒とが混在していてもよい。好ましい一態様では、少なくとも一部の砥粒が二次粒子の形態で研磨用組成物中に含まれている。
【0099】
砥粒の平均一次粒子径DP1は特に制限されないが、研磨効率等の観点から、好ましくは5nm以上、より好ましくは10nm以上である。より高い研磨効果(例えば、ヘイズの低減、欠陥の除去等の効果)を得る観点から、平均一次粒子径DP1は、15nm以上が好ましく、20nm以上(例えば20nm超)がより好ましい。また、より平滑性の高い表面が得られやすいという観点から、砥粒の平均一次粒子径DP1は、好ましくは100nm以下、より好ましくは50nm以下、さらに好ましくは40nm以下である。ここに開示される技術は、より高品位の表面(例えば、LPD(Light Point Defect)やPID等の欠陥が低減された表面)を得やすい等の観点から、平均一次粒子径DP1が35nm以下(より好ましくは32nm以下、例えば30nm未満)の砥粒を用いる態様でも好ましく実施され得る。
【0100】
なお、ここに開示される技術において、砥粒の平均一次粒子径DP1は、例えば、BET法により測定される比表面積S(m/g)から平均一次粒子径DP1(nm)=2720/Sの式により算出することができる。砥粒の比表面積の測定は、例えば、マイクロメリテックス社製の表面積測定装置、商品名「Flow Sorb II 2300」を用いて行うことができる。
【0101】
砥粒の平均二次粒子径DP2は特に限定されないが、研磨速度等の観点から、好ましくは10nm以上、より好ましくは20nm以上である。より高い研磨効果を得る観点から、平均二次粒子径DP2は、30nm以上であることが好ましく、35nm以上であることがより好ましく、40nm以上(例えば40nm超)であることがさらに好ましい。また、より平滑性の高い表面を得るという観点から、砥粒の平均二次粒子径DP2は、200nm以下が適当であり、好ましくは150nm以下、より好ましくは100nm以下である。ここに開示される技術は、より高品位の表面(例えば、LPDやPID等の欠陥が低減された表面)を得やすい等の観点から、平均二次粒子径DP2が70nm未満(より好ましくは60nm以下、例えば50nm未満)の砥粒を用いる態様でも好ましく実施され得る。
砥粒の平均二次粒子径DP2は、対象とする砥粒の水分散液を測定サンプルとして、例えば、日機装株式会社製の型式「UPA−UT151」を用いた動的光散乱法により測定することができる。
【0102】
砥粒の平均二次粒子径DP2は、一般に砥粒の平均一次粒子径DP1と同等以上(DP2/DP1≧1)であり、典型的にはDP1よりも大きい(DP2/DP1>1)。特に限定するものではないが、研磨効果および研磨後の表面平滑性の観点から、砥粒のDP2/DP1は、通常は1.2〜3の範囲にあることが適当であり、1.5〜2.5の範囲が好ましく、1.7〜2.3(例えば1.9を超えて2.2以下)の範囲がより好ましい。
【0103】
砥粒の形状(外形)は、球形であってもよく、非球形であってもよい。非球形をなす砥粒の具体例としては、ピーナッツ形状(すなわち、落花生の殻の形状)、繭型形状、金平糖形状、ラグビーボール形状等が挙げられる。例えば、砥粒の多くがピーナッツ形状をした砥粒を好ましく採用し得る。
【0104】
特に限定するものではないが、砥粒の一次粒子の長径/短径比の平均値(平均アスペクト比)は、好ましくは1.05以上、さらに好ましくは1.1以上である。砥粒の平均アスペクト比の増大によって、より高い研磨速度が実現され得る。また、砥粒の平均アスペクト比は、スクラッチ低減等の観点から、好ましくは3.0以下であり、より好ましくは2.0以下、さらに好ましくは1.5以下である。
【0105】
上記砥粒の形状(外形)や平均アスペクト比は、例えば、電子顕微鏡観察により把握することができる。平均アスペクト比を把握する具体的な手順としては、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、独立した粒子の形状を認識できる所定個数(例えば200個)の砥粒粒子について、各々の粒子画像に外接する最小の長方形を描く。そして、各粒子画像に対して描かれた長方形について、その長辺の長さ(長径の値)を短辺の長さ(短径の値)で除した値を長径/短径比(アスペクト比)として算出する。上記所定個数の粒子のアスペクト比を算術平均することにより、平均アスペクト比を求めることができる。
【0106】
<塩基性化合物>
ここに開示される研磨用組成物は、典型的には塩基性化合物を含有し得る。ここで塩基性化合物とは、研磨用組成物に添加されることによって該組成物のpHを上昇させる機能を有する化合物を指す。塩基性化合物は、研磨対象となる面を化学的に研磨する働きをし、研磨速度の向上に寄与し得る。また、塩基性化合物は、研磨用組成物(特に、砥粒を含む組成の研磨用組成物)の分散安定性の向上に役立ち得る。
【0107】
塩基性化合物としては、窒素を含む有機または無機の塩基性化合物、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物、各種の炭酸塩や炭酸水素塩等を用いることができる。例えば、アルカリ金属の水酸化物、水酸化第四級アンモニウムまたはその塩、アンモニア、アミン等が挙げられる。アルカリ金属の水酸化物の具体例としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等が挙げられる。炭酸塩または炭酸水素塩の具体例としては、炭酸水素アンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム等が挙げられる。水酸化第四級アンモニウムまたはその塩の具体例としては、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム等が挙げられる。アミンの具体例としては、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン、モノエタノールアミン、N−(β−アミノエチル)エタノールアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、無水ピペラジン、ピペラジン六水和物、1−(2−アミノエチル)ピペラジン、N−メチルピペラジン、グアニジン、イミダゾールやトリアゾール等のアゾール類等が挙げられる。このような塩基性化合物は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0108】
研磨速度向上等の観点から好ましい塩基性化合物として、アンモニア、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウムおよび炭酸ナトリウムが挙げられる。なかでも好ましいものとして、アンモニア、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化テトラメチルアンモニウムおよび水酸化テトラエチルアンモニウムが例示される。より好ましいものとしてアンモニアおよび水酸化テトラメチルアンモニウムが挙げられる。特に好ましい塩基性化合物としてアンモニアが挙げられる。
【0109】
<界面活性剤>
ここに開示される研磨用組成物は、必要に応じて、界面活性剤(典型的には、分子量2×10未満の水溶性有機化合物)を含む態様で好ましく実施され得る。界面活性剤の使用により、研磨用組成物の分散安定性が向上し得る。また、研磨面のヘイズを低減することが容易となり得る。界面活性剤は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。なお、ここに開示される技術は、界面活性剤を含まない態様でも好ましく実施され得る。
【0110】
界面活性剤としては、アニオン性またはノニオン性のものを好ましく採用し得る。低起泡性やpH調整の容易性の観点から、ノニオン性の界面活性剤がより好ましい。例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のオキシアルキレン重合体;ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリルエーテル脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等のポリオキシアルキレン付加物;複数種のオキシアルキレンの共重合体(ジブロック型、トリブロック型、ランダム型、交互型);等のノニオン性界面活性剤が挙げられる。
【0111】
ノニオン性界面活性剤の具体例としては、エチレンオキサイド(EO)とプロピレンオキサイド(PO)とのブロック共重合体(ジブロック体、PEO(ポリエチレンオキサイド)−PPO(ポリプロピレンオキサイド)−PEO型トリブロック体、PPO−PEO−PPO型トリブロック体等)、EOとPOとのランダム共重合体、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシエチレンプロピルエーテル、ポリオキシエチレンブチルエーテル、ポリオキシエチレンペンチルエーテル、ポリオキシエチレンヘキシルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルエーテル、ポリオキシエチレン−2−エチルヘキシルエーテル、ポリオキシエチレンノニルエーテル、ポリオキシエチレンデシルエーテル、ポリオキシエチレンイソデシルエーテル、ポリオキシエチレントリデシルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンイソステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルアミン、ポリオキシエチレンステアリルアミン、ポリオキシエチレンオレイルアミン、ポリオキシエチレンステアリルアミド、ポリオキシエチレンオレイルアミド、ポリオキシエチレンモノラウリン酸エステル、ポリオキシエチレンモノステアリン酸エステル、ポリオキシエチレンジステアリン酸エステル、ポリオキシエチレンモノオレイン酸エステル、ポリオキシエチレンジオレイン酸エステル、モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノパルチミン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン、トリオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン、テトラオレイン酸ポリオキシエチレンソルビット、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油等が挙げられる。なかでも好ましい界面活性剤として、EOとPOとのブロック共重合体(特に、PEO−PPO−PEO型のトリブロック体)、EOとPOとのランダム共重合体およびポリオキシエチレンアルキルエーテル(例えばポリオキシエチレンデシルエーテル)が挙げられる。
【0112】
界面活性剤の分子量は、典型的には2×10未満であり、研磨用組成物の濾過性や被研磨物の洗浄性等の観点から1×10以下が好ましい。また、界面活性剤の分子量は、典型的には200以上であり、ヘイズ低減効果等の観点から250以上が好ましく、300以上(例えば500以上)がより好ましい。なお、界面活性剤の分子量としては、GPCにより求められる重量平均分子量(Mw)(水系、ポリエチレングリコール換算)または化学式から算出される分子量を採用することができる。
【0113】
ここに開示される研磨用組成物が界面活性剤を含む場合、水溶性高分子の含有量W1と界面活性剤の含有量W2との重量比(W1/W2)は特に制限されないが、例えば0.01〜500の範囲とすることができ、1〜300の範囲が好ましく、5〜200の範囲がより好ましい。
【0114】
<その他の成分>
ここに開示される研磨用組成物は、本発明の効果が著しく妨げられない範囲で、キレート剤、有機酸、有機酸塩、無機酸、無機酸塩、防腐剤、防カビ剤等の、研磨用組成物(例えば、シリコンウエハのファイナルポリシングに用いられる研磨用組成物)に用いられ得る公知の添加剤を、必要に応じてさらに含有してもよい。ここに開示される技術は、有機酸、無機酸等の酸を含まない態様で実施してもよい。また、酸化剤(具体的には、金属(例えば銅)を酸化する目的で使用される酸化剤。例えば、過硫酸塩(例えば過硫酸アンモニウム)や過酸化水素)を含まない態様でも好ましく実施され得る。
【0115】
キレート剤の例としては、アミノカルボン酸系キレート剤および有機ホスホン酸系キレート剤が挙げられる。アミノカルボン酸系キレート剤の例には、エチレンジアミン四酢酸、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム、ニトリロ三酢酸、ニトリロ三酢酸ナトリウム、ニトリロ三酢酸アンモニウム、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸ナトリウム、トリエチレンテトラミン六酢酸およびトリエチレンテトラミン六酢酸ナトリウムが含まれる。有機ホスホン酸系キレート剤の例には、2−アミノエチルホスホン酸、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)、エタン−1,1−ジホスホン酸、エタン−1,1,2−トリホスホン酸、エタン−1−ヒドロキシ−1,1−ジホスホン酸、エタン−1−ヒドロキシ−1,1,2−トリホスホン酸、エタン−1,2−ジカルボキシ−1,2−ジホスホン酸、メタンヒドロキシホスホン酸、2−ホスホノブタン−1,2−ジカルボン酸、1−ホスホノブタン−2,3,4−トリカルボン酸およびα−メチルホスホノコハク酸が含まれる。これらのうち有機ホスホン酸系キレート剤がより好ましく、なかでも好ましいものとしてエチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)およびジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)が挙げられる。特に好ましいキレート剤として、エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)が挙げられる。
【0116】
有機酸の例としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸等の脂肪酸、安息香酸、フタル酸等の芳香族カルボン酸、クエン酸、シュウ酸、酒石酸、リンゴ酸、マレイン酸、フマル酸、コハク酸、有機スルホン酸、有機ホスホン酸等が挙げられる。有機酸塩の例としては、有機酸のアルカリ金属塩(ナトリウム塩、カリウム塩等)やアンモニウム塩等が挙げられる。無機酸の例としては、硫酸、硝酸、塩酸、炭酸等が挙げられる。無機酸塩の例としては、無機酸のアルカリ金属塩(ナトリウム塩、カリウム塩等)やアンモニウム塩が挙げられる。有機酸およびその塩、ならびに無機酸およびその塩は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
防腐剤および防カビ剤の例としては、イソチアゾリン系化合物、パラオキシ安息香酸エステル類、フェノキシエタノール等が挙げられる。
【0117】
<用途>
ここに開示される研磨用組成物は、種々の材質および形状を有する被研磨物の研磨に適用され得る。被研磨物の材質は、例えば、シリコン、アルミニウム、ニッケル、タングステン、銅、タンタル、チタン、ステンレス鋼等の金属もしくは半金属、またはこれらの合金;石英ガラス、アルミノシリケートガラス、ガラス状カーボン等のガラス状物質;アルミナ、シリカ、サファイア、窒化ケイ素、窒化タンタル、炭化チタン等のセラミック材料;炭化ケイ素、窒化ガリウム、ヒ化ガリウム等の化合物半導体基板材料;ポリイミド樹脂等の樹脂材料;等であり得る。これらのうち複数の材質により構成された被研磨物であってもよい。なかでも、シリコンからなる表面を備えた被研磨物の研磨に好適である。ここに開示される技術は、例えば、砥粒としてシリカ粒子を含む研磨用組成物(典型的には、砥粒としてシリカ粒子のみを含む研磨用組成物)であって、研磨対象物がシリコンである研磨用組成物に対して特に好ましく適用され得る。
被研磨物の形状は特に制限されない。ここに開示される研磨用組成物は、例えば、板状や多面体状等の、平面を有する被研磨物の研磨に好ましく適用され得る。
【0118】
ここに開示される研磨用組成物は、被研磨物のファイナルポリシングに好ましく使用され得る。したがって、この明細書によると、上記研磨用組成物を用いたファイナルポリシング工程を含む研磨物の製造方法(例えば、シリコンウエハの製造方法)が提供される。なお、ファイナルポリシングとは、目的物の製造プロセスにおける最後のポリシング工程(すなわち、その工程の後にはさらなるポリシングを行わない工程)を指す。ここに開示される研磨用組成物は、また、ファイナルポリシングよりも上流のポリシング工程(粗研磨工程と最終研磨工程との間の予備研磨工程を指す。典型的には少なくとも1次ポリシング工程を含み、さらに2次、3次・・・等のポリシング工程を含み得る。)、例えばファイナルポリシングの直前に行われるポリシング工程に用いられてもよい。
【0119】
ここに開示される研磨用組成物は、シリコンウエハの研磨に特に好ましく使用され得る。例えば、シリコンウエハのファイナルポリシングまたはそれよりも上流のポリシング工程に用いられる研磨用組成物として好適である。例えば、上流の工程によって表面粗さ0.01nm〜100nmの表面状態に調製されたシリコンウエハのポリシング(典型的にはファイナルポリシングまたはその直前のポリシング)への適用が効果的である。ファイナルポリシングへの適用が特に好ましい。
【0120】
<研磨液>
ここに開示される研磨用組成物は、典型的には該研磨用組成物を含む研磨液の形態で被研磨物に供給されて、その被研磨物の研磨に用いられる。上記研磨液は、例えば、ここに開示されるいずれかの研磨用組成物を希釈(典型的には、水により希釈)して調製されたものであり得る。あるいは、該研磨用組成物をそのまま研磨液として使用してもよい。すなわち、ここに開示される技術における研磨用組成物の概念には、被研磨物に供給されて該被研磨物の研磨に用いられる研磨液(ワーキングスラリー)と、希釈して研磨液として用いられる濃縮液(研磨液の原液)との双方が包含される。ここに開示される研磨用組成物を含む研磨液の他の例として、該組成物のpHを調整してなる研磨液が挙げられる。
【0121】
研磨液における水溶性高分子の含有量は特に制限されず、例えば1×10−4重量%以上とすることができる。ヘイズ低減等の観点から、好ましい含有量は5×10−4重量%以上であり、より好ましくは1×10−3重量%以上、例えば2×10−3重量%以上である。また、研磨速度等の観点から、上記含有量を0.2重量%以下とすることが好ましく、0.1重量%以下(例えば0.05重量%以下)とすることがより好ましい。
【0122】
ここに開示される研磨用組成物が砥粒を含む場合、研磨液における砥粒の含有量は特に制限されないが、典型的には0.005重量%以上であり、0.01重量%以上であることが好ましく、より好ましくは0.05重量%以上、例えば0.1重量%以上である。砥粒の含有量の増大によって、より高い研磨速度が実現され得る。よりヘイズの低い表面を実現する観点から、通常は、上記含有量は10重量%以下が適当であり、好ましくは7重量%以下、より好ましくは5重量%以下、さらに好ましくは1重量%以下、例えば0.5重量%以下である。
【0123】
ここに開示される研磨液が塩基性化合物を含む場合、研磨液における塩基性化合物の含有量は特に制限されない。研磨速度向上等の観点から、通常は、その含有量を研磨液の0.001重量%以上とすることが好ましく、0.003重量%以上とすることがより好ましい。また、ヘイズ低減等の観点から、上記含有量を0.4重量%未満とすることが好ましく、0.25重量%未満とすることがより好ましい。
【0124】
研磨液のpHは特に制限されない。例えば、pH8.0〜12.0が好ましく、9.0〜11.0がより好ましい。かかるpHの研磨液となるように塩基性化合物を含有させることが好ましい。上記pHは、例えば、シリコンウエハの研磨に用いられる研磨液(例えばファイナルポリシング用の研磨液)に好ましく適用され得る。
【0125】
ここに開示される研磨用組成物が界面活性剤を含む場合、研磨液における界面活性剤の含有量は特に制限されず、例えば1×10−6重量%以上とすることができる。ヘイズ低減等の観点から、好ましい含有量は1×10−5重量%以上であり、より好ましくは5×10−5重量%以上、例えば1×10−4重量%以上である。また、洗浄性や研磨速度等の観点から、上記含有量は0.2重量%以下が好ましく、0.1重量%以下(例えば0.05重量%以下)がより好ましい。
【0126】
<濃縮液>
ここに開示される研磨用組成物は、被研磨物に供給される前には濃縮された形態(すなわち、研磨液の濃縮液の形態)であってもよい。このように濃縮された形態の研磨用組成物は、製造、流通、保存等の際における利便性やコスト低減等の観点から有利である。濃縮倍率は、例えば、体積換算で2倍〜100倍程度とすることができ、通常は5倍〜50倍程度が適当である。好ましい一態様に係る研磨用組成物の濃縮倍率は10倍〜40倍であり、例えば15倍〜25倍である。
【0127】
このように濃縮液の形態にある研磨用組成物は、所望のタイミングで希釈して研磨液を調製し、その研磨液を被研磨物に供給する態様で使用することができる。上記希釈は、典型的には、上記濃縮液に前述の水系溶媒を加えて混合することにより行うことができる。また、上記水系溶媒が混合溶媒である場合、該水系溶媒の構成成分のうち一部の成分のみを加えて希釈してもよく、それらの構成成分を上記水系溶媒とは異なる量比で含む混合溶媒を加えて希釈してもよい。また、後述するように多剤型の研磨用組成物においては、それらのうち一部の剤を希釈した後に他の剤と混合して研磨液を調製してもよく、複数の剤を混合した後にその混合物を希釈して研磨液を調製してもよい。
【0128】
上記濃縮液のNVは、例えば50重量%以下とすることができる。研磨用組成物の安定性(例えば、砥粒の分散安定性)や濾過性等の観点から、通常、濃縮液のNVは、40重量%以下とすることが適当であり、30重量%以下が好ましく、より好ましくは20重量%以下、例えば15重量%以下である。また、製造、流通、保存等の際における利便性やコスト低減等の観点から、濃縮液のNVは、0.5重量%以上とすることが適当であり、好ましくは1重量%以上、より好ましくは3重量%以上、例えば5重量%以上である。
【0129】
上記濃縮液における水溶性高分子の含有量は、例えば3重量%以下とすることができる。研磨用組成物の濾過性や洗浄性等の観点から、通常、上記含有量は、好ましくは1重量%以下であり、より好ましくは0.5重量%以下である。また、上記含有量は、製造、流通、保存等の際における利便性やコスト低減等の観点から、通常は1×10−3重量%以上であることが適当であり、好ましくは5×10−3重量%以上、より好ましくは1×10−2重量%以上である。
【0130】
ここに開示される研磨用組成物が砥粒を含む場合、上記濃縮液における砥粒の含有量は、例えば50重量%以下とすることができる。研磨用組成物の安定性(例えば、砥粒の分散安定性)や濾過性等の観点から、通常、上記含有量は、好ましくは45重量%以下であり、より好ましくは40重量%以下である。好ましい一態様において、砥粒の含有量を30重量%以下としてもよく、20重量%以下(例えば15重量%以下)としてもよい。また、製造、流通、保存等の際における利便性やコスト低減等の観点から、砥粒の含有量は、例えば0.5重量%以上とすることができ、好ましくは1重量%以上、より好ましくは3重量%以上(例えば5重量%以上)である。
【0131】
ここに開示される研磨用組成物は、一剤型であってもよく、二剤型を始めとする多剤型であってもよい。例えば、該研磨用組成物の構成成分のうち一部の成分を含むA液(例えば、高分子MA−endを含む液)と、残りの成分を含むB液(例えば高分子MC−endや高分子ML−endを含む液)とが混合されて被研磨物の研磨に用いられるように構成され得る。あるいはまた、高分子MA−endと水とを含む研磨用組成物に対して、別途用意した砥粒(例えばシリカ砥粒)を所定のタイミングで混合する態様で用いられ得る。
【0132】
<研磨用組成物の調製>
ここに開示される研磨用組成物の製造方法は特に限定されない。例えば、翼式攪拌機、超音波分散機、ホモミキサー等の周知の混合装置を用いて、研磨用組成物に含まれる各成分を混合するとよい。これらの成分を混合する態様は特に限定されず、例えば全成分を一度に混合してもよく、適宜設定した順序で混合してもよい。
【0133】
特に限定するものではないが、塩基性化合物を含む組成の研磨用組成物については、より凝集の少ない研磨用組成物を安定して(再現性よく)製造する観点から、例えば、砥粒(例えばシリカ粒子)と塩基性化合物と水とを含む分散液(以下「塩基性砥粒分散液」ともいう。)を用意し、この塩基性砥粒分散液と水溶性高分子とを混合する製造方法を好ましく採用することができる。
【0134】
このように砥粒と塩基性化合物とが共存している塩基性砥粒分散液は、上記塩基性化合物により上記砥粒の静電反撥が強められているので、塩基性化合物を含まない(典型的にはほぼ中性の)砥粒分散液に比べて砥粒の分散安定性が高い。このため、中性の砥粒分散液に水溶性高分子を加えた後に塩基性化合物を加える態様や、中性の砥粒分散液と水溶性高分子と塩基性化合物とを一度に混合する態様に比べて、砥粒の局所的な凝集が生じにくい。このことは、研磨用組成物の濾過性向上や研磨後の表面における欠陥低減等の観点から好ましい。
【0135】
なお、上記水溶性高分子は、あらかじめ水に溶解した水溶液(以下「ポリマー水溶液」ともいう。)の形態で塩基性砥粒分散液と混合することが好ましい。このことによって、砥粒の局所的な凝集がよりよく抑制され得る。
塩基性砥粒分散液とポリマー水溶液とを混合する際には、塩基性砥粒分散液に対してポリマー水溶液を添加することが好ましい。かかる混合方法によると、例えばポリマー水溶液に対して塩基性砥粒分散液を添加する混合方法に比べて、砥粒の局所的な凝集をよりよく防止することができる。砥粒がシリカ粒子(例えばコロイダルシリカ粒子)である場合には、上記のように塩基性砥粒分散液に対してポリマー水溶液を添加する混合方法を採用することが特に有意義である。
【0136】
上記塩基性砥粒分散液は、製造目的たる研磨用組成物を構成する砥粒、水溶性高分子、塩基性化合物および水のうち、砥粒の少なくとも一部と、塩基性化合物の少なくとも一部と、水の少なくとも一部とを含有する。例えば、上記砥粒分散液が、研磨用組成物を構成する砥粒の全部と、塩基性化合物の少なくとも一部と、水の少なくとも一部とを含有する態様を好ましく採用し得る。
【0137】
塩基性砥粒分散液中における塩基性化合物の含有量は、好ましくは0.01重量%以上、より好ましくは0.05重量%以上、さらに好ましくは0.1重量%以上である。塩基性化合物の含有量の増加によって、研磨用組成物の調製時における局所的な凝集の発生がよりよく抑制される傾向となる。また、塩基性砥粒分散液中における塩基性化合物の含有量は、好ましくは10重量%以下、より好ましくは5重量%以下、さらに好ましくは3重量%以下である。塩基性化合物の含有量の低下によって、研磨用組成物中における塩基性化合物の含有量の調整が容易となる。
【0138】
塩基性砥粒分散液のpHは、8以上が好ましく、より好ましくは9以上である。pHの上昇によって、この塩基性砥粒分散液に水溶性高分子またはその水溶液を添加した場合に、局所的な凝集の発生がよりよく抑制される傾向となる。塩基性砥粒分散液のpHは、12以下が好ましく、より好ましくは11.5以下であり、さらに好ましくは10.5以下である。塩基性砥粒分散液のpHを塩基性側においてより低く設定することにより、該分散液の調製に必要な塩基性化合物の量が少なくなるので、研磨用組成物中における塩基性化合物の含有量の調整が容易となる。また、例えば砥粒がシリカ粒子である場合、pHが高すぎないことはシリカの溶解を抑制する観点からも有利である。混合物のpHは、塩基性化合物の配合量等により調整することができる。
【0139】
かかる塩基性砥粒分散液は、砥粒と塩基性化合物と水とを混合することにより調製することができる。上記混合には、例えば翼式攪拌機、超音波分散機、ホモミキサー等の周知の混合装置を用いることができる。塩基性砥粒分散液に含まれる各成分を混合する態様は特に限定されず、例えば全成分を一度に混合してもよく、適宜設定した順序で混合してもよい。好ましい一態様の一例として、砥粒と水とを含むほぼ中性の分散液と、塩基性化合物またはその水溶液とを混合する態様が挙げられる。
【0140】
上記水溶性高分子を塩基性砥粒分散液に水溶液(ポリマー水溶液)の形態で混合する場合、そのポリマー水溶液中における水溶性高分子の含有量は、好ましくは0.02重量%以上、より好ましくは0.05重量%以上、さらに好ましくは0.1重量%以上である。水溶性高分子の含有量の増加によって、研磨用組成物中における水溶性高分子の含有量の調整が容易となる。ポリマー水溶液中における水溶性高分子の含有量は、好ましくは10重量%以下、より好ましくは5重量%以下、さらに好ましくは3重量%以下である。水溶性高分子の含有量の減少によって、このポリマー水溶液を塩基性砥粒分散液と混合する際に、砥粒の局所的な凝集がよりよく抑制される傾向となる。
【0141】
上記ポリマー水溶液のpHは特に限定されず、例えばpH2〜11に調整され得る。上記ポリマー水溶液は、好ましくは中性付近から塩基性付近の液性に調整され、より好ましくは塩基性に調整される。より具体的には、ポリマー水溶液のpHは、8以上が好ましく、より好ましくは9以上である。pH調整は、典型的には、研磨用組成物を構成する塩基性化合物の一部を用いて行うことができる。ポリマー水溶液のpHの上昇によって、塩基性砥粒分散液にポリマー水溶液を添加した場合に、砥粒の局所的な凝集がよりよく抑制され得る。ポリマー水溶液のpHは、12以下が好ましく、より好ましくは10.5以下である。ポリマー水溶液のpHが塩基性側において低くなると、該ポリマー水溶液の調製に必要な塩基性化合物の量が少なくなるため、研磨用組成物中における塩基性化合物の含有量の調整が容易となる。また、例えば砥粒がシリカ粒子である場合、pHが高すぎないことはシリカの溶解を抑制する観点からも有利である。
【0142】
塩基性砥粒分散液にポリマー水溶液を投入する際の速度(供給レート)は、該分散液1Lに対してポリマー水溶液500mL/分以下とすることが好ましく、より好ましくは100mL/分以下、さらに好ましくは50mL/分以下である。投入速度の減少によって、砥粒の局所的な凝集をよりよく抑制することができる。
【0143】
好ましい一態様において、ポリマー水溶液は、塩基性砥粒分散液に投入する前に濾過することができる。ポリマー水溶液を濾過することにより、該ポリマー水溶液中に含まれる異物や凝集物の量をさらに低減することができる。
【0144】
濾過の方法は特に限定されず、例えば、常圧で行う自然濾過の他、吸引濾過、加圧濾過、遠心濾過等の公知の濾過方法を適宜採用することができる。濾過に用いるフィルタは、目開きを基準に選択されることが好ましい。研磨用組成物の生産効率の観点から、フィルタの目開きは、0.05μm以上が好ましく、より好ましくは0.1μm以上、さらに好ましくは0.2μmである。また、異物や凝集物の除去効果を高める観点から、フィルタの目開きは、100μm以下が好ましく、より好ましくは70μm以下、さらに好ましくは50μm以下である。フィルタの材質や構造は特に限定されない。フィルタの材質としては、例えば、セルロース、ナイロン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリカーボネート、ガラス等が挙げられる。フィルタの構造としては、例えばデプス、プリーツ、メンブレン等が挙げられる。
【0145】
上記で説明した研磨用組成物製造方法は、塩基性砥粒分散液と水溶性高分子またはその水溶液とを混合して得られる研磨用組成物が研磨液(ワーキングスラリー)またはこれとほぼ同じNVである場合にも、後述する濃縮液である場合にも好ましく適用され得る。
【0146】
<研磨>
ここに開示される研磨用組成物は、例えば以下の操作を含む態様で、被研磨物の研磨に使用することができる。以下、ここに開示される研磨用組成物を用いて被研磨物を研磨する方法の好適な一態様につき説明する。
すなわち、ここに開示されるいずれかの研磨用組成物を含む研磨液(典型的にはスラリー状の研磨液であり、研磨スラリーと称されることもある。)を用意する。上記研磨液を用意することには、研磨用組成物に濃度調整(例えば希釈)、pH調整等の操作を加えて研磨液を調製することが含まれ得る。あるいは、上記研磨用組成物をそのまま研磨液として使用してもよい。また、多剤型の研磨用組成物の場合、上記研磨液を用意することには、それらの剤を混合すること、該混合の前に1または複数の剤を希釈すること、該混合の後にその混合物を希釈すること、等が含まれ得る。
【0147】
次いで、その研磨液を被研磨物に供給し、常法により研磨する。例えば、シリコンウエハのファイナルポリシングを行う場合には、ラッピング工程および予備ポリシング工程を経たシリコンウエハを一般的な研磨装置にセットし、該研磨装置の研磨パッドを通じて上記シリコンウエハの表面(被研磨面)に研磨液を供給する。典型的には、上記研磨液を連続的に供給しつつ、シリコンウエハの表面に研磨パッドを押しつけて両者を相対的に移動(例えば回転移動)させる。かかる研磨工程を経て被研磨物の研磨が完了する。
なお、上記研磨工程で使用される研磨パッドは特に限定されない。例えば、不織布タイプ、スウェードタイプ、砥粒を含むもの、砥粒を含まないもの等のいずれを用いてもよい。
【0148】
<リンス>
ここに開示される研磨用組成物であって砥粒を含む研磨用組成物を用いて研磨された研磨物は、砥粒を含まない他は上記砥粒を含む研磨用組成物と同じ成分を含むリンス液を用いてリンスされ得る。換言すると、ここに開示される技術では、砥粒を含まない他は上記研磨用組成物と同じ成分を含むリンス液を用いて上記研磨物をリンスする工程(リンス工程)を有してもよい。リンス工程により、研磨物の表面の欠陥の原因となる砥粒等の残留物を低減させることができる。リンス工程は、ポリシング工程とポリシング工程との間に行われてもよいし、ファイナルポリシング工程の後であって後述の洗浄工程の前に行われてもよい。砥粒を含まない他は上記研磨用組成物と同じ成分を含むリンス液を用いてリンスすることにより、例えば被研磨物(例えばシリコンウエハ)表面に吸着した水溶性高分子(例えば高分子MA−end)の作用を阻害せず、欠陥やヘイズをさらに低減することができる。かかるリンス液は、典型的には水溶性高分子(例えば高分子MA−end)と水とを含むシリコンウエハ研磨用組成物(具体的には、シリコンウエハ研磨のリンスに用いられる組成物。リンス用組成物ともいう。)であり得る。リンス用組成物の組成等については、砥粒を含まない他は上述の研磨用組成物と基本的に同じなので、ここでは説明は繰り返さない。
【0149】
<洗浄>
また、ここに開示される研磨用組成物を用いて研磨された研磨物は、典型的には、研磨後に(必要であればリンス後に)洗浄される。この洗浄は、適当な洗浄液を用いて行うことができる。使用する洗浄液は特に限定されず、例えば、半導体等の分野において一般的なSC−1洗浄液(水酸化アンモニウム(NHOH)と過酸化水素(H)と水(HO)との混合液。以下、SC−1洗浄液を用いて洗浄することを「SC−1洗浄」という。)、SC−2洗浄液(HClとHとHOとの混合液。)等を用いることができる。洗浄液の温度は、例えば常温〜90℃程度とすることができる。洗浄効果を向上させる観点から、50℃〜85℃程度の洗浄液を好ましく使用し得る。
【0150】
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。なお、以下の説明において「部」および「%」は、特に断りがない限り重量基準である。
【0151】
<研磨用組成物の調製>
(実施例1)
砥粒、水溶性高分子、アンモニア水(濃度29%)および脱イオン水を混合して、研磨用組成物の濃縮液を得た。この濃縮液を脱イオン水で20倍に希釈して、実施例1に係る研磨用組成物を調製した。
砥粒としては、平均一次粒子径25nm、平均二次粒子径46nmのコロイダルシリカを使用した。上記平均一次粒子径は、マイクロメリテックス社製の表面積測定装置、商品名「Flow Sorb II 2300」を用いて測定されたものである。また、上記平均二次粒子径は、日機装株式会社製の型式「UPA−UT151」を用いて測定された体積平均二次粒子径である(以下の例において同じ。)。
水溶性高分子としては、重合開始剤としてアゾ系開始剤ACVA(大塚化学株式会社製)を用いて重合したポリアクリロイルモルホリン(PACMO−A)を使用した。
砥粒、水溶性高分子およびアンモニア水の使用量は、研磨用組成物中における砥粒の含有量が0.09%となり、水溶性高分子の含有量が0.01%となり、アンモニア(NH)の含有量が0.01%となる量とした。この研磨用組成物のpHは10.2であった。
【0152】
(実施例2)
水溶性高分子としてポリアクリロイルモルホリン(PACMO−B)とポリビニルアルコール(PVA−A)とを1:1の比で使用した他は実施例1と同様にして、実施例2に係る研磨用組成物を調製した。PACMO−Bは、重合開始剤としてアゾ系開始剤ACVA(大塚化学株式会社製)を用いて重合したポリアクリロイルモルホリンであり、PVA−Aは、重合開始剤としてアゾ系開始剤V−50(和光純薬工業株式会社製)を用いて重合したポリビニルアルコールである。PVA−Aのけん化度は98%以上であった。この研磨用組成物のpHは10.2であった。
【0153】
(実施例3)
水溶性高分子としてPACMO−Aとポリビニルアルコール(PVA−B)とを1:1の比で使用した他は実施例1と同様にして、実施例3に係る研磨用組成物を調製した。PVA−Bは、重合開始剤としてアゾ系開始剤AIBN(大塚化学株式会社製)を用いて重合したポリビニルアルコールである。PVA−Bのけん化度は98%以上であった。この研磨用組成物のpHは10.2であった。
【0154】
(実施例4)
水溶性高分子としてPACMO−Aに代えてポリビニルピロリドン(PVP−A)を使用した。また、界面活性剤としてポリオキシエチレンデシルエーテルを0.00005%となるように研磨用組成物中に添加した。その他は実施例1と同様にして、実施例4に係る研磨用組成物を調製した。PVP−Aは、重合開始剤としてアゾ系開始剤ACVA(大塚化学株式会社製)を用いて重合したポリビニルピロリドンである。この研磨用組成物のpHは10.2であった。
【0155】
(実施例5)
水溶性高分子としてPVP−Aと疎水変性PVAとを1:1の比で使用した他は実施例4と同様にして、実施例5に係る研磨用組成物を調製した。上記疎水変性PVAは、重合開始剤としてアゾ系開始剤AIBN(大塚化学株式会社製)を用いて重合したポリビニルアルコールであり、VAとヘキサン酸ビニルとが80:20のモル比で共重合されたランダム共重合体である。この研磨用組成物のpHは10.2であった。
【0156】
(比較例1〜2)
水溶性高分子としてPACMO−Aに代えてポリアクリロイルモルホリン(PACMO−C)(比較例1)、ポリアクリロイルモルホリン(PACMO−D)(比較例2)を使用した他は実施例1と同様にして、比較例1〜2に係る研磨用組成物をそれぞれ調製した。PACMO−Cは、重合開始剤としてアゾ系開始剤AIBN(大塚化学株式会社製)を用いて重合したポリアクリロイルモルホリンであり、PACMO−Dは、重合開始剤としてアゾ系開始剤V−50(和光純薬工業株式会社製)を用いて重合したポリアクリロイルモルホリンである。この研磨用組成物のpHは10.2であった。
【0157】
(比較例3)
水溶性高分子としてPVP−Aに代えてポリビニルピロリドン(PVP−B)を使用した他は実施例4と同様にして、比較例3に係る研磨用組成物を調製した。PVP−Bは、重合開始剤としてアゾ系開始剤V−50(和光純薬工業株式会社製)を用いて重合したポリビニルピロリドンである。この研磨用組成物のpHは10.2であった。
【0158】
実施例および比較例で使用した水溶性高分子の概略を表1に示した。
【0159】
<シリコンウエハの研磨>
各例に係る研磨用組成物をそのまま研磨液として使用して、シリコンウエハの表面を下記の条件で研磨した。シリコンウエハとしては、粗研磨を行い直径が300mm、伝導型がP型、結晶方位が<100>、抵抗率が0.1Ω・cm以上100Ω・cm未満であるものを、研磨スラリー(株式会社フジミインコーポレーテッド製、商品名「GLANZOX 2100」)を用いて予備研磨を行うことにより表面粗さ0.1nm〜10nmに調整して使用した。
【0160】
[研磨条件]
研磨機:株式会社岡本工作機械製作所製の枚葉研磨機、型式「PNX−332B」
研磨テーブル:上記研磨機の有する3テーブルのうち後段の2テーブルを用いて、予備研磨後のファイナル研磨1段目および2段目を実施した。
(以下の条件は各テーブル同一である。)
研磨荷重:15kPa
定盤回転数:30rpm
ヘッド回転数:30rpm
研磨時間:2分
研磨液の温度:20℃
研磨液の供給速度:2.0リットル/分(掛け流し使用)
【0161】
<洗浄>
研磨後のシリコンウエハを、NHOH(29%):H(31%):脱イオン水(DIW)=1:3:30(体積比)の洗浄液を用いて洗浄した(SC−1洗浄)。より具体的には、周波数950kHzの超音波発振器を取り付けた洗浄槽を2つ用意し、それら第1および第2の洗浄槽の各々に上記洗浄液を収容して60℃に保持し、研磨後のシリコンウエハを第1の洗浄槽に6分、その後超純水と超音波によるリンス槽を経て、第2の洗浄槽に6分、それぞれ上記超音波発振器を作動させた状態で浸漬した。
【0162】
<分散性評価>
各例に係る研磨用組成物に対して、温度25℃、濾過差圧50kPaの条件で2〜3分(約2分30秒)間、吸引濾過を行った。フィルタとしては、日本ポール社製のディスクフィルタ、商品名「ウルチポア(登録商標)N66」(直径47mm、定格濾過精度0.2μm)を使用した。単位時間内に上記フィルタを通過した研磨用組成物の体積から濾過流速を求め、以下の2水準で分散性を評価した。得られた結果を表1の「分散性」の欄に示した。
A:研磨用組成物の濾過流速が100mL/分以上であった。
C:研磨用組成物の濾過流速が100mL/分未満であった。
【0163】
<PID検査>
洗浄後のシリコンウエハの表面を、レーザーテック社製のウエハ欠陥検査装置、商品名「MAGICS M5350」を用いて検査した。直径300mmのシリコンウエハ表面において検出されたPIDの数を比較例1のPID数を100%とする相対値に換算して表1に示した。
【0164】
【表1】
【0165】
表1に示されるように、水溶性高分子として、主鎖の端部にアニオン性領域(より具体的には主鎖片末端にアニオン性基)を有するPACMO−A(高分子MA−end)、PACMO−B(高分子MA−end)またはPVP−A(高分子MA−end)を含む研磨用組成物を使用した実施例1〜5は、良好な分散性を実現することができた。また、実施例1〜5は、水溶性高分子として高分子MA−endを使用しなかった比較例1〜3と比べて、PID低減性にも優れていた。
また、PACMO−B(高分子MA−end)と、主鎖の端部にカチオン性領域(より具体的には主鎖片末端にカチオン性基)を有するPVA−A(高分子MC−end)とを含む研磨用組成物を用いた実施例2では、PACMO−A単独使用の実施例1と比べてPIDがさらに減少した。この結果から、高分子MC−endが高分子MA−endとは異なる作用によって表面欠陥低減に寄与したことが推察される。具体的には、高分子MC−endは砥粒表面に良好に吸着することによって、PID低減に寄与したと推察される。
さらに、PACMO−A(高分子MA−end)と、主鎖の端部に疎水性領域(より具体的には主鎖片末端に疎水性基)を有するPVA−B(高分子ML−end)とを含む研磨用組成物を用いた実施例3、PVP−A(高分子MA−end)と、主鎖の端部に疎水性領域(より具体的には主鎖片末端に疎水性基)を有する疎水変性PVA(高分子ML−end)とを含む研磨用組成物を用いた実施例5では、PACMO−A単独使用の実施例1と比べてPIDがさらに減少した。この結果から、高分子ML−endが高分子MA−endとは異なる作用によってPID低減に寄与したことが推察される。具体的には、高分子ML−endは被研磨物(シリコンウエハ)表面に良好に吸着することによって、PID低減に寄与したと推察される。
【0166】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。