(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ブチラール化度が50〜90質量%のポリビニルブチラールの連続繊維からなるメルトブローン不織布又はスパンボンド不織布であって、1−ブタナールの含有量が10質量ppm以下であることを特徴とする不織布。
ブチラール化度が50〜90質量%であり、150℃、2.16kgfにおけるMFRが0.5〜45g/10分であり、酸価が0.12mgKOH/g以下であり、かつ1−ブタナールの含有量が5質量ppm以下であるポリビニルブチラールからなるペレットを用い、220℃以下の温度で溶融紡糸して得られた連続繊維を集積してウェブを得ることを特徴とする請求項1に記載の不織布の製造方法。
含水率が5質量%以下のポリビニルブチラール粉末を押出機に投入し、少なくとも一つのベントを用いて0.005MPa以下の圧力に減圧して脱揮しながら、220℃以下の温度で溶融混練してペレットを得てから、当該ペレットを用いて溶融紡糸する請求項3に記載の不織布の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。本発明で使用するポリビニルブチラールは、以下の化学式(I)で表されるものである。
【0011】
本発明で用いられるPVBにおいて、ブチラール化度は、上記化学式(I)で表されるポリマー組成中における繰返し単位Xの含有比率で示される。本発明において具体的にはブチラール化度が好適には50〜90質量%のものが、より好適には55〜85質量%のものが使用できる。ブチラール化度が50質量%未満の場合、ガラス転移温度が高くなり、樹脂の流動性も低下するので、PVB不織布を接着層として用いる際に熱接着性が不十分となる。一方、ブチラール化度が90質量%を超える場合、PVB不織布を接着層として用いる際に接着界面の樹脂強度が不十分となる。なお、ブチラール化度は、原料のPVBペレットと、溶融紡糸して製造した後の不織布とで実質的に変化することはない。
【0012】
本発明で用いられるPVB樹脂の製造方法は特に限定されず、公知の方法を採用できる。例えば、酢酸ビニル単量体を重合して得たポリ酢酸ビニルをけん化することによりポリビニルアルコールを得て、これをブチラール化することによってPVB樹脂を得ることができる。以下、PVB樹脂の代表的な製造方法について説明する。
【0013】
ポリビニルアルコールは、酢酸ビニル単量体を重合して得たポリ酢酸ビニルをけん化することにより得られる。酢酸ビニル単量体を重合する方法としては、溶液重合法、塊状重合法、懸濁重合法、乳化重合法など、公知の方法を適用することができる。その際、重合開始剤として、アゾ系開始剤、過酸化物系開始剤、レドックス系開始剤などを、重合方法に応じて適宜選択すればよい。
【0014】
酢酸ビニル単量体を重合する際に、本発明の主旨を損なわない範囲で他のビニルエステル単量体を共重合させてもよい。そのようなビニルエステル単量体としては、例えば、ギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリル酸ビニル、ラウリル酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、オレイン酸ビニル、安息香酸ビニルなどが挙げられる。
【0015】
けん化の方法としては、公知の方法である、アルカリ触媒又は酸触媒を用いた加アルコール分解による方法、加水分解による方法などを採用することができ、なかでも、溶剤としてメタノールを用い、触媒として苛性ソーダ(NaOH)を用いる方法が簡便であるため、好ましい。酢酸ビニル単量体を重合して得たポリ酢酸ビニルをけん化して得たポリビニルアルコールは、ビニルアルコール単位と酢酸ビニル単位とを含む。
【0016】
ポリビニルアルコールのブチラール化は、公知の方法に基づいて行えばよく、例えば、酸触媒の存在下にポリビニルアルコールと1−ブタナールとを混合すればよい。酸触媒は特に限定されず、有機酸および無機酸のいずれを使用してもよく、例えば、酢酸、パラトルエンスルホン酸、硝酸、硫酸、塩酸などを用いればよい。なかでも、塩酸、硫酸、硝酸を用いる方法が一般的であり、特に塩酸を用いることが好ましい。
【0017】
PVB樹脂の具体的な製造方法としては、以下の方法が代表的な方法として例示される。まず、80〜100℃のポリビニルアルコールの水溶液(濃度3〜15質量%)を調製し、当該水溶液の温度を、−10〜30℃まで、10〜60分かけて徐々に低下させる。次いで、当該水溶液に1−ブタナール及び酸触媒を加えて、−10〜30℃に保ちながら30〜300分ブチラール化反応を進行させた後、さらに30〜200分かけて、30〜80℃まで昇温させ、この温度範囲において1〜8時間保持する。引き続き、アルカリによる中和処理及び水洗を行った後に、乾燥することにより、PVBの粉末を得ることができる。
【0018】
PVBの粉末は、通常、それを溶媒に溶かして、セラミック用バインダー、接着剤、インク、塗料などに用いられる。また、PVBの粉末に可塑剤を加えて混練して、合せガラス用中間膜を得ることもできる。しかしながら、用途によっては粉末のままでは取扱いにくい場合がある。例えば、溶融成形する場合に、成形機にスムーズにPVBを供給するためには粉末のままでは取扱いが困難である。したがって、そのような場合にはPVBペレットを製造することが好ましい。本発明のように、溶融紡糸する場合などには、ペレットの形態で取扱うことが有用である。
【0019】
PVBペレットの製造に用いられるPVB粉体の含水率は、5質量%以下であることが好ましい。水分含有量を5質量%以下とすることにより、過剰な水分の脱揮によって1−ブタナールの脱揮が妨げられる事がないため、得られるPVBペレットの1−ブタナール含有量を少なくすることができる。一方、水分含有量が少なすぎると、粉体が飛散しやすく粉塵爆発を引き起こすおそれがあるため、水分含有量は、0.1質量%以上であることが好ましい。PVB粉体の含水率を上記範囲に調整する方法としては、例えば、中和処理及び水洗を行った後の乾燥条件を調節する方法などが挙げられる。
【0020】
こうして得られたPVB粉末を押出機に投入し、溶融混練してペレットを製造することができる。このとき、少なくとも一つのベントを用いて減圧して脱揮しながら、溶融混練してペレットを得ることが好ましく、これによりPVBペレットの1−ブタナール含有量を少なくすることができるとともに、酸価を低くすることもできる。押出機としては、単軸押出機や二軸押出機を用いることができ、ベントを複数有する押出機が好適である。溶融混練時の樹脂温度はPVBの溶融温度以上220℃以下であることが好ましい。220℃以下の比較的低い温度で溶融混練することにより、得られるPVBペレットの酸価を低くすることができるとともに1−ブタナール含有量を少なくすることもできる。
【0021】
ベントによって減圧される圧力を0.005MPa以下とすることが好ましい。ここでいう0.005MPa以下という圧力はベント内部の絶対圧のことである。通常の大気圧は0.1MPaであるから、減圧度(ゲージ圧)で表現すれば0.095MPa以上ということである。このように、非常に低い圧力(高い減圧度)の下で、しかも比較的低温で溶融混練することによって、得られるPVBペレットの酸価を低くすることができるとともに1−ブタナール含有量を少なくすることもできる。
【0022】
以上のようにして押出機で溶融混練した後、押出してから切断されることによって、PVBペレットが得られる。押出し方法としては、溶融樹脂をストランド状に押出す方法が好適である。切断方法としては、回転カッターなどのカッターで切断する方法が好適である。
【0023】
こうして得られた、本発明で用いられるPVBペレットの酸価は、0.12mgKOH/g以下であることが好ましい。酸価が0.12mgKOH/gより大きい場合、溶融紡糸時にPVBの分解が進行し、得られるPVB不織布の1−ブタナール含有量が多くなり、悪臭が発生する。溶融紡糸して連続繊維を製造する際には、溶融した樹脂が細いノズルを高速で通過する必要がある。したがって、溶融粘度を低くするために、通常の溶融成形よりも高温で紡糸することが普通であり、その際酸価の高いPVBペレットを用いたのでは、紡糸時に生じる高いせん断力もあいまって、PVBが劣化しやすい。PVBペレットの酸価は、より好ましくは0.1mgKOH/g以下である。
【0024】
さらに、PVBペレットの1−ブタナール含有量は5質量ppm以下であることが好ましい。1−ブタナール含有量が5質量ppmより大きい場合、得られるPVB繊維の1−ブタナール含有量が多くなり、悪臭が発生するおそれがある。
【0025】
また、本発明で用いられるPVBペレットのメルト・フロー・レート(MFR)は、0.5〜45g/10分であることが好ましい。MFRが0.5g/10分未満である場合、その流動性が低下し、繊維化が困難となる。一方、MFRが45g/10分より大きくなると流動性は高いが、繊維としての強度が低下し使用が困難となる。MFRは、より好ましくは1〜40g/10分である。なお本発明でいうMFRは、JIS K7210試験法に準拠して測定され、150℃で溶融したポリマーをキャピラリーから荷重2.16kgfで押出した時の10分間の吐出量で示される。
【0026】
こうして得られたPVBペレットを用いて、本発明のPVB不織布が製造される。具体的には、ブチラール化度が50〜90質量%であり、150℃、2.16kgfにおけるMFRが0.5〜45g/10分であり、酸価が0.12mgKOH/g以下であり、かつ1−ブタナールの含有量が5質量ppm以下であるPVBペレットを用い、220℃以下の温度で溶融紡糸して得られた連続繊維を集積してウェブを得る方法が好適である。紡糸温度が220℃を超えると、PVBの熱分解が著しく、悪臭の原因物質である1−ブタナールの生成が促進される。溶融紡糸する際には、溶融した樹脂が細いノズルを高速で通過する必要があるので、溶融粘度を低くするために、通常の溶融成形よりも高温で紡糸することが普通であるが、本発明では敢えて低めの温度に設定することが重要である。温度が高すぎると、1−ブタナールの生成が促進されるのみならず、紡糸ノズルに熱劣化した樹脂(ポリマー塊状物)が発生してノズル汚れや糸切れを起こしてしまう。
【0027】
本発明のPVB不織布は、連続繊維からなる不織布である。連続繊維不織布は、短繊維不織布のように相互に交絡させる必要がないため、カード工程などにおいて、用いる単繊維の強力の制約が小さく、幅広い仕様の不織布を安定的に製造することが容易である。また、毛羽の発生の少ない不織布を製造することもできる。本発明の連続繊維不織布の形態は、スパンボンド不織布又はメルトブローン不織布である。中でも、細繊度化が可能であり、しかも溶融押出ししてから直接不織布を製造することの可能なメルトブローン不織布が特に好ましい。
【0028】
連続繊維不織布の製造に際し、紡糸に供されるPVBペレットは、その水分率が5000質量ppm以下になるまで乾燥しておくことが好ましい。水分率が5000質量ppmよりも大きくなると紡糸することが困難となる。
【0029】
以下、メルトブローン不織布を製造する場合について具体的に説明する。メルトブロー法で製造する場合の一例として、紡糸装置は従来公知のメルトブロー装置を用いることができ、紡糸条件としては、紡糸ノズルの孔径は0.2〜0.5mm、単孔吐出量は0.1〜1.0g/分、ノズル長1mあたりのエアー量は5〜20Nm
3/min、紡糸温度は170℃以上220℃以下、熱風温度(1次エアー温度)は180℃以上230℃以下で行うことが好ましい。紡糸温度が170℃未満であると繊維化するにはポリマー粘度が高くなりすぎ、加温エアーでの細化が困難となる。一方、220℃を超えるとポリマーの熱分解が著しく、悪臭の原因物質である1−ブタナールの生成が促進される。
【0030】
得られるメルトブローン不織布の目付は1〜100g/m
2であることが好ましい。目付が1g/m
2未満であると不織布を熱溶融してガラス繊維層等の相手素材と接着しても接着点が少なく、接着強力が不十分となる。一方100g/m
2を越えると、加熱して接着する際に熱が伝わりにくく、やはり接着強力が不十分となる。より好ましくは5〜50g/m
2である。また繊維径は用途に応じて適宜コントロールすればよいが、加工性、不織布の強力、接着性能などを考慮すると0.5〜40μmであることが好ましく、さらには3〜20μmであることが好ましい。
【0031】
次に、スパンボンド不織布を製造する場合について具体的に説明する。スパンボンド法で製造する場合の一例として、紡糸装置は従来公知のスパンボンド装置を用いることができ、紡糸条件としては、紡糸ノズルの孔径は0.2〜1mm、単孔吐出量は0.1〜2.0g/分、延伸エアーは500〜5000m/分、紡糸温度は150℃以上220℃以下で行うことが好ましい。紡糸温度が150℃未満であると繊維化するにはポリマー粘度が高くなりすぎ、ノズル圧が高くなり吐出が困難となる。紡糸温度はより好適には170℃以上である。一方、220℃を超えるとポリマーの熱分解が著しく、悪臭の原因物質である1−ブタナールの生成が促進される。
【0032】
得られるスパンボンド不織布の目付は5〜200g/m
2であることが好ましい。目付が5g/m
2未満であると地合いが粗すぎて、接着強力が不十分となる。一方、200g/m
2を越えると、加熱して接着する際に熱が伝わりにくく、やはり接着強力が不十分となる。より好ましくは10〜150g/m
2、さらに好ましくは20〜100g/m
2である。スパンボンド不織布中における繊維径は用途に応じて適宜コントロールすればよいが、不織布の強力、接着性能などを考慮すると5〜50μmであることが好ましく、さらには10〜40μmであることが好ましい。
【0033】
以上のようにして製造された本発明のPVB不織布は、1−ブタナールの含有量が10質量ppm以下である。このような1−ブタナール含有量の極めて少ないPVB不織布を得るためには、前述のように、酸価が低く、1−ブタナール含有量も少ない特殊なPVBペレットを用い、これを低温で溶融紡糸して、紡糸工程中の1−ブタナール発生を抑制することが極めて重要である。これによって、臭気の発生が高度に抑制されたPVB不織布を初めて得ることができた。
【0034】
本発明のPVB不織布は、接着剤として好適に用いられる。具体的には、PVB不織布からなる接着層を介して、無機繊維層とそれ以外の層とが接着されてなる積層体が、本発明の好適な実施態様である。PVBは無機物、特にガラスに対する接着性に優れているので、無機繊維層を接着するのに適している。しかも、PVBは有機高分子化合物に対する接着性にも優れているので、上記それ以外の層が、有機高分子化合物からなる層であることが特に好ましい。
【0035】
前記積層体中の無機繊維層は特に限定されず、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維あるいはロックウールなどからなる層が例示されるが、接着性や汎用性の観点からガラス繊維からなる層が好ましい。また前記積層体中のそれ以外の層は特に限定されないが、有機高分子化合物からなる層であることが好ましい。有機高分子化合物からなる層としては、有機繊維の集合体や、それ以外の有機高分子化合物のシートが挙げられる。有機繊維の集合体としては、有機繊維の不織布、織布、編地が例示される。有機高分子化合物のシートとしては、単なる樹脂シートのみならず、発泡体シートや人工皮革シートなどを用いることができる。
【0036】
これらの層を接着させるに際しては、複数の層の間にPVB不織布を介して加熱することによってPVB繊維を溶融させ、複数の層を互いに接着させることができる。このとき、加熱と同時に加圧することが好ましい。
【0037】
無機繊維層と有機高分子化合物からなる層とが本発明のPVB不織布で接着されてなる積層体の用途は特に限定されないが、好適な用途の一つが車両用内装材である。車両用内装材は、軽量性、剛性、クッション性、吸音性、制振性、通気性、耐熱性などの様々な要求性能が求められるので、前記積層体を用いることが好ましい用途である。
【実施例】
【0038】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。実施例中の評価項目は、以下の方法に従った。
【0039】
(1)PVBペレットの酸価(mgKOH/g)
JIS K6728:1977の規定に基づき測定した。
【0040】
(2)PVBペレット及び不織布の1−ブタナール含有量(質量ppm)
島津製作所株式会社製ヘッドスペースガスクロマトグラフィー「GC−14B」に、ジーエルサイエンス株式会社製カラム(「TC−1」:内径0.25mm、長さ30m)を装着して測定した。
【0041】
(3)溶融紡糸性
不織布を製造する際の連続紡糸可能時間を評価した。具体的には、紡糸を開始してから、紡糸ノズルに熱劣化した樹脂(ポリマー塊状物)が発生してノズル汚れや糸切れを起こすまでの時間を測定した。
【0042】
(4)不織布及び積層体の坪量
JIS P8124に準じて坪量(g/m
2)を測定した。
【0043】
(5)不織布の厚さ
不織布を標準環境下(温度20℃、相対湿度65%)に4時間以上放置した後、株式会社尾崎製作所製厚み測定器「ピーコックダイヤルシックネスゲージH」(測定子寸法10mmφ、180g/cm
2)にて5ヶ所の厚さを測定し、平均値を不織布の厚さ(mm)とした。
【0044】
(6)不織布の臭気
不織布の臭気を、官能試験により下記の基準にしたがって評価した。
A:臭気がほとんど感じられなかった。
B:臭気が少し感じられた。
C:臭気が感じられた。
【0045】
(7)積層体の厚さ
積層体を標準環境下(温度20℃、相対湿度65%)に4時間以上放置した後、株式会社尾崎製作所製厚み測定器「ピーコックデジタルゲージPDN12」(測定子寸法16mmφ、550g/cm
2)にて5ヶ所の厚さを測定し、平均値を積層体の厚さ(mm)とした。
【0046】
(8)積層体の接着強力
インストロン社製試験機「5543」を用いて、ウレタン発泡体層とガラス繊維層の間の接着強力(N/15mm)を測定した。積層体を幅15mmに切断して試料を作成し、試料の一端のウレタン発泡体層とガラス繊維層の間を少し剥離してから、上下のチャックで挟み、試験速度100mm/minで引張測定を行った。
【0047】
実施例1
[PVB粉体の製造]
還流冷却器、温度計およびイカリ型攪拌翼を備えた内容積2リットルのガラス製容器に、イオン交換水1295gと、ポリビニルアルコール(重合度300、けん化度98モル%)105gとを仕込み、全体を95℃に昇温してPVAを完全に溶解させ、PVA水溶液(濃度7.5質量%)を調製した。調製したPVA水溶液を、回転速度120rpmにて攪拌を続けながら、約30分かけて10℃まで徐々に冷却した後、当該水溶液に、1−ブタナール58gと、ブチラール化触媒(酸触媒)として濃度20質量%の塩酸90mlとを添加して、PVAのブチラール化を開始した。ブチラール化を150分間行った後、60分かけて全体を50℃まで昇温し、50℃にて120分間保持した後に、室温まで冷却した。冷却によって析出した樹脂をろ過した後、イオン交換水(樹脂に対して100倍量のイオン交換水)で洗浄した後、中和のために0.3質量%水酸化ナトリウム溶液を加え、40℃で10時間保持した後、さらに100倍量のイオン交換水で再洗浄し、脱水したのち、40℃、減圧下で18時間乾燥し、ポリビニルブチラールの粉体(水分含有量1.0質量%)を得た。
【0048】
[PVBペレットの製造]
溶融押出機として、ベント部が2つ設けられ、L/Dが54の同方向回転2軸型押出機(東芝機械株式会社製)を用いた。押出機のホッパーにPVB粉末を投入し、スクリュー回転数300回/分、樹脂速度120kg/時間、樹脂温度200℃の条件で溶融押出しした。このとき、ベント部内の圧力をホッパー側からそれぞれ0.005MPa及び0.003MPaに減圧した。ダイホールから出てきたストランド状の溶融樹脂を水槽で冷却した後、ペレタイザーでカッティングして、直径1.6mm、長さ1.6mmの円筒状のPVBペレット(水分含有量0.2質量%)を得た。
【0049】
[PVBペレットの分析]
得られたPVBペレットは、ブチラール化度が68モル%、残存アセチル基(酢酸ビニル単位)の含有率が2モル%、残存水酸基(ビニルアルコール単位)の含有率が30モル%であった。また、1−ブタナールの含有量は3.5質量ppmであり、酸価は0.09mgKOH/gであった。分析結果を表1に示す。
【0050】
[メルトブローン不織布の製造]
得られたPVBペレットを使用し、メルトブローン不織布を製造した。直径0.4mmのノズル孔が幅1m当たり1000個設けられた紡糸ノズルを用い、紡糸温度205℃、1孔当たりの吐出量0.5g/分で樹脂を押出した。ノズル1m幅当たり、12Nm
3/minの熱風を吹き付けて延伸した。このようにして、繊維径5μm、坪量46.4g/m
2、厚さ0.296mmのメルトブローン不織布が得られた。紡糸を開始してから塊状物が発生するまでの時間は16時間を超えた。得られたメルトブローン不織布の1−ブタナール含有量は5.5質量ppmであり、臭気試験の結果はAであった。評価結果を表1に示す。
【0051】
[積層体の製造]
得られたメルトブローン不織布を接着層として使用し、「表面材1/PVB不織布/ガラス繊維/PVB不織布/発泡体/PVB不織布/ガラス繊維/PVB不織布/表面材2」の層構成に積層した。このとき発泡体層には、坪量180g/m
2、厚さ6mmのポリエーテル系硬質ウレタン発泡体(株式会社イノアックコーポレーション製)を用い、ガラス繊維層(日本バイリーン株式会社製)には、坪量100g/m
2、厚さ20mmのものを用いた。また、表面材1層には坪量25g/m
2のポリエステル繊維不織布(前田工繊株式会社製)を使用し、表面材2層には坪量220g/m
2のポリエステル繊維不織布(前田工繊株式会社製)を用いた。これらを積層し、プレス温度130℃にてプレス時間30秒、圧力0.3kg/cm
2のプレス条件にてプレス成形を行い積層体を得た。得られた積層体の坪量は810.6g/m
2であり、厚さは9.52mmであった。また、ウレタン発泡体層とガラス繊維層の間の剥離強力は0.82N/15mmであった。評価結果を表1に示す。
【0052】
実施例2
実施例1と同じPVBペレットを使用し、同じ紡糸温度で、坪量24.5g/m
2、厚さ0.221mmのメルトブローン不織布を得て、得られた不織布を用いて実施例1と同様に積層体を製造し、評価した。結果を表1に示す。
【0053】
比較例1
実施例1において、PVBペレットを製造する際のベント部内の圧力を、ホッパー側からそれぞれ0.02MPa及び0.01MPaに変更した以外は実施例1と同様にしてPVBペレットを製造した。得られたPVBペレットを使用し、実施例1と同じ紡糸温度で、坪量24.2g/m
2、厚さ0.233mmのメルトブローン不織布を製造した。得られた不織布を用いて実施例1と同様に積層体を製造し、評価した。結果を表1に示す。
【0054】
比較例2
実施例1と同じPVBペレットを使用し、紡糸温度を240℃にして、坪量25.8g/m
2、厚さ0.250mmのメルトブローン不織布を得た。得られた不織布を用いて実施例1と同様に積層体を製造し、評価した。結果を表1に示す。
【0055】
比較例3
共重合ポリプロピレンを使用し、紡糸温度285℃で、坪量25.2g/m
2、厚さ0.253mmのメルトブローン不織布を得た。得られた不織布を接着層として使用し、実施例1と同様に積層体を得た。結果を表1に示す。
【0056】
実施例3
実施例1で得られたPVBペレットを使用し、スパンボンド不織布を製造した。直径0.4mmのノズル孔が幅1m当たり1000個設けられた紡糸ノズルを用い、紡糸温度200℃、1孔当たりの吐出量1.0g/分で樹脂を押出しドラフト延伸させた。このようにして、繊維径15μm、坪量30.0g/m
2、厚さ0.441mmのスパンボンド不織布が得られた。紡糸を開始してから塊状物が発生するまでの時間は16時間を超えた。得られたスパンボンド不織布を接着層として、実施例1と同じ層構成で積層し、プレス温度140℃、プレス時間25秒、圧力0.2kg/cm
2のプレス条件にてプレス成形を行い積層体を得た。結果を表1に示す。
【0057】
比較例4
比較例1で得られたPVBペレットを用い、紡糸温度を240℃に変更した以外は実施例3と同様にして、坪量31.2g/m
2、厚さ0.451mmのスパンボンド不織布を得た。得られたスパンボンド不織布を接着層として使用し、実施例3と同様にして積層体を得た。結果を表1に示す。
【0058】
比較例5
接着層として、変性ポリエステル繊維からなる、坪量30.0g/m
2、厚さ0.230mmの蜘蛛の巣状スパンボンド不織布(東洋紡績株式会社製「ダイナックG0030」)を使用し、実施例3と同様にして積層体を得た。結果を表1に示す。
【0059】
【表1】
【0060】
表1に示されるとおり、酸価が0.12mgKOH/g以下で、1−ブタナールの含有量が5質量ppm以下であるPVBペレットを使用し、220℃以下の紡糸温度で製造した実施例1〜3のPVB不織布は、1−ブタナール含有量が低く、臭気が大幅に低減されていた。そして、当該不織布を接着層として使用することにより得られた積層体は、いずれも優れた層間接着性を示していた。一方、酸価が0.12mgKOH/gを超え、1−ブタナール含有量が5質量ppmを超えるPVBペレットを使用した比較例1及び4、220℃を超える温度で紡糸した比較例2及び4は、いずれも得られたPVB不織布の1−ブタナール含有量が高く、臭気が感じられた。また、ポリプロピレン製の不織布を用いた比較例3の積層体や、変性ポリエステル製の不織布を用いた比較例5の積層体は、層間接着性が不十分であった。