特許第5920888号(P5920888)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5920888
(24)【登録日】2016年4月22日
(45)【発行日】2016年5月18日
(54)【発明の名称】ネコ尿中コーキシン除去材料
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/493 20060101AFI20160428BHJP
   G01N 33/48 20060101ALI20160428BHJP
   C07K 1/34 20060101ALI20160428BHJP
【FI】
   G01N33/493 A
   G01N33/48 A
   C07K1/34
【請求項の数】11
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2012-500697(P2012-500697)
(86)(22)【出願日】2011年2月17日
(86)【国際出願番号】JP2011054062
(87)【国際公開番号】WO2011102540
(87)【国際公開日】20110825
【審査請求日】2014年2月14日
(31)【優先権主張番号】特願2010-32990(P2010-32990)
(32)【優先日】2010年2月17日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】304021831
【氏名又は名称】国立大学法人 千葉大学
(73)【特許権者】
【識別番号】504165591
【氏名又は名称】国立大学法人岩手大学
(73)【特許権者】
【識別番号】591281220
【氏名又は名称】日本全薬工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100118773
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 節
(74)【代理人】
【識別番号】100111741
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 夏夫
(72)【発明者】
【氏名】松野 伸哉
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 恭一
(72)【発明者】
【氏名】山下 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 綾子
(72)【発明者】
【氏名】鈴田 靖幸
【審査官】 大瀧 真理
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/013839(WO,A1)
【文献】 特開2003−250575(JP,A)
【文献】 特開2009−101289(JP,A)
【文献】 ASHOUR M-B A. et al.,Substituted trifluoroketones as potent, selective inhibitors of mammalian carboxylesterases,Biochem. Pharmacol.,1987年 6月15日,Vol.36,No.12,P.1869-1879
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48 − 33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ基を有する高分子基材の表面に、カルボキシエステラーゼ阻害活性を有するトリフルオロケトン誘導体がジチオールを介して固定された、ネコ尿中のコーキシンを除去するための材料。
【請求項2】
高分子基材の表面に以下の式(VII)又は(VIII)で表されるカルボキシエステラーゼ阻害活性を有するトリフルオロケトン誘導体側鎖のいずれかが固定されている、請求項1記載のネコ尿中のコーキシンを除去するための材料。
【化1】
[ここで、XはC1-12の炭化水素鎖であり、Yはフッ素で置換されていてもよいC1-12の飽和若しくは不飽和炭化水素鎖であり、Aは-S-、-SO-、-OSO-、-Se-、-SeO-、若しくは-OSeO-であり、Bは-CF3、-CF2H、-CH2F、若しくは-CH3である。]
【化2】
[ここで、XはC1-12の炭化水素鎖であり、Yはフッ素で置換されていてもよいC2-12の飽和若しくは不飽和炭化水素鎖であり、Aは-S-、-SO-、-OSO-、-Se-、-SeO-若しくは-OSeO-であり、Bは-CF3、-CF2H、-CH2F、若しくは-CH3である。]
【請求項3】
式(VII)及び(VIII)で表される側鎖において、Xは-(CH2)n-[nは1〜12]であり、Aは-S-、-SO-又は-OSO-であり、Yは-(CH2)m-[mは1〜12]であり、Bは-CF3である、請求項2記載のネコ尿中のコーキシンを除去するための材料。
【請求項4】
式(VII)又は式(VIII)で表される側鎖が、以下の式(IX)から(XII)で表される側鎖のいずれかである、請求項2記載のネコ尿中のコーキシンを除去するための材料。
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
[式(IX)〜(XII)で表される側鎖において、Xは-(CH2)n-[nは1〜12]であり、mは1〜12である。]
【請求項5】
高分子基材がポリエチレン製多孔性中空糸膜である、請求項1〜4のいずれか1項に記載のネコ尿中のコーキシンを除去するための材料。
【請求項6】
高分子基材がポリエチレン製多孔性シートである、請求項1〜4のいずれか1項に記載のネコ尿中のコーキシンを除去するための材料。
【請求項7】
(i) グラフト重合により高分子基材にグリシジルメタクリレートを結合させ、高分子基材の表面にエポキシ基を導入する工程、
(ii) ジチオールと臭化トリフルオロケトンをイソプロパノールの存在下で反応させ、
チオール基を有するトリフルオロケトンを作製する工程、
(iii) 工程(i)で高分子基材に導入されたエポキシ基と工程(ii)で作製したトリフルオロケトンのチオール基とを反応させて、エポキシ基をトリフルオロケトン基に転化する工程、
を含む、ネコ尿中のコーキシンを除去するための材料を製造する方法。
【請求項8】
高分子基材がポリエチレン製多孔性中空糸膜である、請求項7記載の方法。
【請求項9】
高分子基材がポリエチレン製多孔性シートである、請求項7記載の方法。
【請求項10】
ジチオールが1,2-エタンジチオールであり、臭化トリフルオロケトンが3-ブロモ-トリフルオロプロパン-2-オンである、請求項7〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のネコ尿中のコーキシンを除去するための材料を含む、ネコの腎臓機能障害由来の尿中タンパク検出キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ネコのタンパク尿の検出によるネコの腎機能障害の診断に関し、ネコ尿中の生理的タンパク質であるコーキシンを除去する方法及びコーキシンを除去する材料に関する。
【背景技術】
【0002】
ペットとして飼育されているネコは、高齢になると腎臓病に非常に罹りやすく、その死因の上位を占めており、ネコの腎臓病の早期診断が獣医小動物臨床の現場で重要な課題となっている。人の場合は、尿中に排泄されるタンパク質量を測定することが腎臓病の初期診断に用いられている。タンパク尿は、腎臓の異常を早期に知らせてくれる診断マーカーとして利用されている。しかしネコにおいては、健常時にも腎臓由来のタンパク質であり、カルボキシエステラーゼの一種である分子量70kDaのコーキシン(Cauxin:carboxylesterase−like urinary excreted protein)が尿中に高濃度存在しているため、市販の尿試験紙では生理的なタンパク尿(Cauxin尿)と病的なタンパク尿との識別を行うことができない。コーキシンのネコ尿中の濃度は0.50g/Lと高濃度であり、ネコは1日に100mgを排出している。
そのため、ネコの腎臓病診断においては、コーキシンを尿から除去する必要があり、そのための前処理材料が必要となる。
ネコ尿中からコーキシンを除去する方法として、コーキシンの有する糖鎖に特異的に結合するレクチンを利用する方法が報告されていた(特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第WO2009/013839号パンフレット
【発明の概要】
【0004】
本発明は、トリフルオロケトン誘導体をリガンドとして用いたネコ尿中のコーキシンを除去する方法及びコーキシンを除去する材料の提供を目的とする。
レクチンを用いてネコ尿中のコーキシンを除去する方法は、レクチンが高価であり、また除去材料の高容量化が容易でなかった。
そこで、本発明者らは、レクチンに代わるネコ尿コーキシン除去材料の開発について鋭意検討を行った。本発明者らは、カルボキシエステラーゼの一種であるコーキシンがカルボキシエステラーゼの阻害剤の活性中心と結合することを考慮し、カルボキシエステラーゼの基質ポケットに結合して阻害剤としてはたらくトリフルオロケトン(TFK)誘導体を、放射線グラフト重合法により基材に結合させコーキシン除去材料を作製し検討を行ったところ、低分子化合物であるTFKはコーキシンを吸着する十分なスペースを確保できることから、除去材料の高容量化に有利であることを見出し本発明を完成させた。TFKを用いた場合、高価なレクチンを用いるより安価に精製材料を作製できるという利点もある。
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1] 高分子基材の表面に、カルボキシエステラーゼ阻害活性を有するトリフルオロケトン誘導体がジチオールを介して固定された、ネコ尿中のコーキシンを除去するための材料。
[2] 高分子基材の表面に以下の式(VII)又は(VIII)で表されるカルボキシエステラーゼ阻害活性を有するトリフルオロケトン誘導体側鎖のいずれかが固定されている、[1]のネコ尿中のコーキシンを除去するための材料。
【化1】
[ここで、XはC1−12、好ましくはC2−5の炭化水素鎖であり、Yはフッ素で置換されていてもよいC1−12、好ましくはC1−5の飽和若しくは不飽和炭化水素鎖であり、Aは−S−、−SO−、−OSO−、−Se−、−SeO−、若しくは−OSeO−であり、Bは−CF、−CFH、−CHF、若しくは−CHである。]
【化2】
[ここで、XはC1−12、好ましくはC2−5の炭化水素鎖であり、YはC2−12、好ましくはC2−5の飽和若しくは不飽和炭化水素鎖であり、Aは−S−、−SO−、−OSO−、−Se−、−SeO−若しくは−OSeO−であり、Bは−CF、−CFH、−CHF、若しくは−CHである。]
[3] 式(VII)及び(VIII)で表される側鎖において、Xは−(CH−[nは1〜12]であり、Aは−S−、−SO−又は−OSO−であり、Yは−(CH−[mは1〜12]であり、Bは−CFである、[2]のネコ尿中のコーキシンを除去するための材料。
[4] 式(VII)又は式(VIII)で表される側鎖が、以下の式(IX)から(XII)で表される側鎖のいずれかである、[2]のネコ尿中のコーキシンを除去するための材料。
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
[式(IX)〜(XII)で表される側鎖において、Xは−(CH−[nは1〜12]であり、mは1〜12である。]
[5] 高分子基材がポリエチレン製多孔性中空糸膜である、[1]〜[4]のいずれかのネコ尿中のコーキシンを除去するための材料。
[6] 高分子基材がポリエチレン製多孔性シートである、[1]〜[4]のいずれかのネコ尿中のコーキシンを除去するための材料。
[7] (i) グラフト重合により高分子基材にグリシジルメタクリレートを結合させ、高分子基材の表面にエポキシ基を導入する工程、
(ii) ジチオールと臭化トリフルオロケトンをイソプロパノールの存在下で反応させ、チオール基を有するトリフルオロケトンを作製する工程、
(iii) 工程(i)で高分子基材に導入されたエポキシ基と工程(ii)で作製したトリフルオロケトンのチオール基とを反応させて、エポキシ基をトリフルオロケトン基に転化する工程、
を含む、ネコ尿中のコーキシンを除去するための材料を製造する方法。
[8] 高分子基材がポリエチレン製多孔性中空糸膜である、[7]の方法。
[9] 高分子基材がポリエチレン製多孔性シートである、[7]の方法。
[10] ジチオールが1,2−エタンジチオールであり、臭化トリフルオロケトンが3−ブロモ−トリフルオロプロパン−2−オンである、[7]〜[9]のいずれかの方法。
[11] [1]〜[6]のいずれかのネコ尿中のコーキシンを除去するための材料を含む、ネコの腎臓機能障害由来の尿中タンパク検出キット。
通常の尿検査に使われているタンパク試験紙を用いたネコの尿検査では、健常尿に大量に存在するコーキシンと腎疾患(腎機能障害)由来の尿タンパク質の区別が困難であるが、本発明のネココーキシン除去材料を用いて測定を行った場合、コーキシンを除去し、後者のタンパク質のみを選択的に検出することが可能である。また、本発明のネコ尿中コーキシン除去材料は低分子化合物であるトリフルオロケトン誘導体を用いるため、高容量化が可能であり、少量の検体を用いてコーキシンを除去することができ、量の少ないネコ尿から効率よくコーキシンを除去することができ、その後のタンパク試験紙を用いた尿検査も効率的に行うことができる。さらに、本発明のコーキシン除去材料は安価に製造することができる。
本明細書は本願の優先権の基礎である日本国特許出願2010−032990号の明細書および/または図面に記載される内容を包含する。
【図面の簡単な説明】
【0005】
図1は、多孔性中空糸膜へのトリフルオロケトンの固定経路を示す図である。
図2は、チオール基を有するトリフルオロケトン(C2TFK)の合成に用いた14種類の溶媒の構造を示す図である。
図3は、C2TFK膜の作製溶媒とモル転化率の関係を示す図である。
図4は、C2TFK膜の供給液中のタンパク質に対する破過曲線を示す図である。
図5は、C2TFK膜からの流出液中のタンパク質の分布(図5(a))及びCE活性の強度(図5(b))を示す図である。
図6は、IPA及びCCl4を溶媒とし、ネコの尿を希釈せずに透過したときのC2TFK膜の破過曲線の比較を示す図である。
図7は、多孔性シートへのトリフルオロケトンの固定経路を示す図である。
図8は、C2TFK−diolシートからの流出液中のタンパク質の分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0006】
以下、本発明を詳細に説明する。
ネコ尿からコーキシンを選択的に吸着除去するための材料は、基材、該基材に結合されたグラフト高分子鎖、及び該グラフト高分子鎖に固定されたトリフルオロケトン誘導体からなる。トリフルオロケトン誘導体は、カルボキシエステラーゼ(CE)の阻害剤として作用し、カルボキシエステラーゼであるコーキシンの活性中心に入って反応の開始を阻止するため、コーキシンを選択的に吸着する。
基材としては、高分子基材が挙げられる。高分子基材は、粒子状のもの、膜状あるいはシート状のもの、ファイバー状のものを用いることができる。高分子基材としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリフッ化ビニリデン等のハロゲン化ポリオレフィン、ポリオレフィンとフッ素樹脂との共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリスチレン、ナイロンなどが挙げられる。この中でもポリエチレンが好ましい。粒子状の高分子基材の場合、粒子の平均粒径は10μm〜80μm、好ましくは20μm〜60μmである。膜状あるいはシート状の高分子基材としては、連通孔を有する多孔質体が挙げられる。多孔質体の平均細孔径は、好ましくは0.5μm〜5μmであり、厚さは好ましくは1〜10mmである。また、孔の体積分率は好ましくは70〜85%である。孔のこのような多孔質体として、例えば、ポリエチレン製の多孔性中空糸膜やポリエチレン製の多孔性シートが用いられる。本発明において、高分子基材の表面に結合するという場合、多孔性高分子材料の孔中の表面に結合する場合も含まれる。
グラフト高分子鎖は、上記基材にグラフト重合法により官能基を有する高分子鎖を結合させることにより作製する。グラフト重合法は、基材に均一にラジカルを生成させ、そのラジカルを開始点としてモノマーをグラフト重合させて高分子鎖を結合させる。グラフト重合においては、α線、β線、γ線、電子線等の電離放射線照射によりラジカルを生成させる。また、紫外線や重合開始剤を用いることもできる。官能基を有するグラフト高分子鎖を形成する重合性単量体は、該官能基を吸着用官能基に変換することができるのであれば、特に限定されるものではない。官能基としては、例えば、エポキシ基が挙げられ、重合性単量体としては、例えば、エポキシ基を有する重合単量体であるグリシジルメタクリレート(GMA)やグリシジルアクリレートなどが挙げられる。グラフト高分子の官能基を適切な密度で基材に固定するためには、グラフト重合の起点となるラジカルの発生量を適切な範囲に調節する必要がある。このために基材への放射線等の照射線量を調整する。照射線量は、基材がポリエチレンの場合、10kGy〜250kGy、好ましくは、10kGy〜100kGyである。グラフト重合を行った際のグラフト率(100(導入されたGMA鎖の質量)/(PE膜の質量))は、100〜150%程度が好ましい。グラフト率が100%以下では、基材のポリエチレン表面が露出してしまうため、タンパク質の非特異的な吸着が起きる可能性があり、150%以上では、基材強度が低下してしまうために、得られた膜の裁断時に切断面が欠けるなどするために加工性が低下してします。グラフト重合により高分子基材の表面にエポキシ基等の官能基が導入される。
基材に高分子鎖をグラフト重合法により結合させる方法は、特開2007−45906号公報、特開2009−101289号公報に記載されており、これらの記載に従って行うことができる。
次いで、官能基を有する高分子鎖を結合させた基材にトリフルオロケトン誘導体を結合させる。高分子鎖がグリシジルメタクリレートの場合、チオール基を有するトリフルオロケトン(TFK)誘導体を結合させればよい。ここで用いるチオールを有するトリフルオロケトン誘導体は、チオール基を有するトリフルオロケトン、そのカルボニル基が水和したgem−ジオール又はトリフルオロケトン若しくはgem−ジオールの−CFが−CFH、−CHF、若しくは−CHに置換したメチルアナログ等のアナログを含む。例えば、以下の一般式(I)で表されるケトン化合物が挙げられる。本願発明で用い得るトリフルオロケトン誘導体は、カルボキシエステラーゼ阻害活性を有する。
【化7】
[ここで、XはC1−12、好ましくはC2−5の炭化水素鎖であり、Yはフッ素で置換されていてもよいC1−12、好ましくはC1−5の飽和若しくは不飽和炭化水素鎖であり、Aは−S−、−SO−、−OSO−、−Se−、−SeO−、若しくは−OSeO−であり、Bは−CF、−CFH、−CHF、若しくは−CHである。]
また、Xは好ましくは−(CH−[nは1〜12、好ましくは2〜5の整数、さらに好ましくは2である]である。また、Aは好ましくは−S−、−SO−又は−OSO−であり、さらに好ましくは−S−である。また、Yは好ましくは−(CH−[mは1〜12、好ましくは1〜5の整数、さらに好ましくは1である]である。さらに、Bは、好ましくは−CFである。
一般式(I)で表されるチオール基を有するトリフルオロケトン誘導体としては、例えば、
【化8】
[ここで、XはC1−12、好ましくはC2−5の炭化水素鎖であり、好ましくは−(CH−[nは1〜12、好ましくは2〜5の整数、さらに好ましくは2である]である。]や、
【化9】
[ここで、XはC1−12、好ましくはC2−5の炭化水素鎖であり、好ましくは−(CH−[nは1〜12、好ましくは2〜5の整数、さらに好ましくは2である]である。]で表される化合物が挙げられる。
さらに、チオール基を有するトリフルオロケトン誘導体は、下記の一般式(IV)で表されるgem−ジオール化合物を含む。
【化10】
[ここで、XはC1−12、好ましくはC2−5の炭化水素鎖であり、Yはフッ素で置換されていてもよいC2−12、好ましくはC2−5の飽和若しくは不飽和炭化水素鎖であり、Aは−S−、−SO−、−OSO−、−Se−、−SeO−若しくは−OSeO−であり、Bは−CF、−CFH、−CHF、若しくは−CHである。]
また、Xは好ましくは−(CH−[nは1〜12、好ましくは2〜5の整数、さらに好ましくは2である]である。また、Aは好ましくは−S−、−SO−又は−OSO−であり、さらに好ましくは−S−である。また、Yは好ましくは−(CH)m−[mは1〜12、好ましくは1〜5の整数、さらに好ましくは1である]である。さらに、Bは、好ましくは−CFである。
一般式(II)で表されるチオール基を有するトリフルオロケトン誘導体としては、例えば、
【化11】
[ここで、XはC1−12、好ましくはC2−5の炭化水素鎖であり、好ましくは−(CH−[nは1〜12、好ましくは2〜5の整数、さらに好ましくは2である]である。]で表される化合物が挙げられる。
チオール基を有するトリフルオロケトン誘導体は、臭化トリフルオロケトン誘導体と以下の一般式(V)で表されるジチオールを有機溶媒中で混合することにより合成することができる。
【化12】
[ここで、XはC1−12、好ましくはC2−5の炭化水素鎖であり、好ましくは−(CH−[nは1〜12、好ましくは2〜5の整数、さらに好ましくは2である]である。]
例えば、ジチオールとして、上記一般式(I)におけるnが2である1,2−エタンジチオール(1,2−ethanedithiol)(C2DT)を用いることができ、臭化トリフルオロケトンとしては、図2に構造式を示す3−ブロモ−トリフルオロプロパン−2−オン(3−bromo−trifluoropropane−2−one)(TFA)を用いることができ、1,2−ethanedithiol(C2DT)及び3−bromo−trifluoropropane−2−one(TFA)を有機溶媒中で混合し反応させ、チオール基を有するトリフルオロケトンである1,1,1−トリフルオロ−3−(2−スルファニルエチルスルファニル)プロパン−2−オン(1,1,1−trifluoro−3−(2−sulfanylethylsulfanyl)propane−2−one(C2TFK)を合成することができる。
チオール基を有するトリフルオロケトン誘導体を合成する際に用いる有機溶媒としては、イソプロパノール、四塩化炭素、エチルアセテート、ジオキサンが挙げられ、この中でイソプロパノール及び四塩化炭素が高いモル転化率が得られるが、環境への安全性の観点からイソプロパノールが好ましい。
ジチオールとトリフルオロケトン誘導体は1対1〜2、好ましくは1対1〜1.2のモル比で混合し、窒素雰囲気下、室温で10〜72時間、好ましくは24〜60時間反応させることによりチオール基を有するトリフルオロケトン誘導体を得ることができる。
チオール基を有するトリフルオロケトン誘導体を含む溶液に、上記の高分子鎖を結合させた基材を浸漬させることにより、基材中のエポキシ基がトリフルオロケトン誘導体基に転化される。この際の浸漬時間は、2〜72時間、好ましくは10〜60時間である。トリフルオロケトン基のモル転化率(100(導入したTFK基のモル数)/(反応前のエポキシ基のモル数))は、8%以上が好ましく、25%以上がさらに好ましく、30%以上がさらに好ましい。エポキシ基のトリフルオロケトン誘導体基への転化を行った後に、転化しなかったエポキシ基が残存するが、エポキシ基が親水化されないまま残存している場合、タンパク質を非特異的に吸着するおそれがある。そこで、残存しているエポキシ基をジオール基に転化することが好ましい。エポキシ基のジオール基への転化は、トリフルオロケトン誘導体を結合させた基材を硫酸に浸漬する等により、基材のエポキシ基に水を付加すればよい。本発明において、1,1,1−trifluoro−3−(2−sulfanylethylsulfanyl)propane−2−one(C2TFK)を結合させ、残存するエポキシ基をジオール基に転化した基材をC2TFK−diol基材という。
この方法により、膜又はシート体積当たり50〜1000μmol/mL、好ましくは50〜500μmol/mL、さらに好ましくは50〜360μmol/mLのトリフルオロケトン誘導体基密度を有する膜又はシートを作製することができる。
このようにして作製したネココーキシン除去材料は、高分子中空糸膜や高分子多項性シート等に、以下の式(VII)又は(VIII)で表される側鎖のいずれかが結合している。
【化13】
[ここで、XはC1−12、好ましくはC2−5の炭化水素鎖であり、Yはフッ素で置換されていてもよいC1−12、好ましくはC1−5の飽和若しくは不飽和炭化水素鎖であり、Aは−S−、−SO−、−OSO−、−Se−、−SeO−、若しくは−OSeO−であり、Bは−CF、−CFH、−CHF、若しくは−CHである。]
また、Xは好ましくは−(CH−[nは1〜12、好ましくは2〜5の整数、さらに好ましくは2である]である。また、Aは好ましくは−S−、−SO−又は−OSO−であり、さらに好ましくは−S−である。また、Yは好ましくは−(CH−[mは1〜12、好ましくは1〜5の整数、さらに好ましくは1である]である。さらに、Bは、好ましくは−CFである。
【化14】
[ここで、XはC1−12、好ましくはC2−5の炭化水素鎖であり、Yはフッ素で置換されていてもよいC2−12、好ましくはC2−5の飽和若しくは不飽和炭化水素鎖であり、Aは−S−、−SO−、−OSO−、−Se−、−SeO−若しくは−OSeO−であり、Bは−CF、−CFH、−CHF、若しくは−CHである。]
また、Xは好ましくは−(CH−[nは1〜12、好ましくは2〜5の整数、さらに好ましくは2である]である。また、Aは好ましくは−S−、−SO−又は−OSO−であり、さらに好ましくは−S−である。また、Yは好ましくは−(CH)m−[mは1〜12、好ましくは1〜5の整数、さらに好ましくは1である]である。さらに、Bは、好ましくは−CFである。
上記の側鎖には、例えば以下の式(IX)から(XII)で表される側鎖が含まれる。
【化15】
【化16】
【化17】
【化18】
式(IX)〜(XII)で表される側鎖において、XはC1−12、好ましくはC2−5の炭化水素鎖であり、好ましくは−(CH−[nは1〜12、好ましくは2〜5の整数、さらに好ましくは2である]であり、mは1〜12、好ましくは1〜5の整数、さらに好ましくは1である。 また、さらに以下の式(XIII)で表される側鎖(残存するエポキシ基から転化したジオール基)が結合している。
【化19】
上記の方法で作製したネココーキシン除去材料を用いてネコ尿からコーキシンを除去することができる。ネコ尿からのコーキシンの除去は、ネココーキシン除去材料とネコ尿を接触させ、ネココーキシンをコーキシン除去材料に吸着させる。ネコ尿とコーキシン除去材料との接触は、容器中にコーキシン除去材料とネコ尿を入れてバッチ法で行ってもよいし、トリフルオロケトン誘導体を結合させた膜又はシートにネコ尿を通過させてもよいし、コーキシン除去材料をカラム等に充填し、該カラムにネコ尿を通過させてもよい。膜又はシートを用いる場合、液体流入口と液体流出口を有するデバイスの途中に膜を組み込み、ネコ尿を液体流入口から流入させ液体流出口から流出させるときに尿が膜又はシートを通過するようにすればよい。カラムを用いる場合、少量のネコ尿を用いた場合でも尿タンパク質の検出が可能なように、ミニカラムを用いるのが望ましい。ミニカラムの容量は、例えば100μL〜2000μLである。例えば、ポリプロピレン等の樹脂でできた市販のマイクロピペット用チップ(ブルーチップまたはイエローチップ)の先端に脱脂綿、濾紙等を詰めさらにコーキシンに特異的に結合する物質を結合させた担体を詰め、コーキシン除去用ミニカラムを作製し、該ミニカラムにネコ尿を添加して通過した尿を回収することにより、コーキシンを除去したネコ尿を得ることができる。また、膜を組み込んだデバイスやネココーキシン除去用材料を充填したカラムをシリンジと連結できるようにし、シリンジに採取したネコ尿をデバイスやカラムを通過させることにより、コーキシンを除去した尿を得ることができる。
本発明において、ネココーキシン除去用材料を充填したカラム等をネココーキシン除去デバイス、ネココーキシン除去カラム、ネココーキシン除去チップということがある。
この際、ネコ尿とコーキシンに特異的に結合する物質の量比に限定はないが、ネコ尿中のコーキシンがすべて除去される量比で接触させればよい。コーキシンは健常ネコの尿中において、約0.9mg/mL、腎機能障害に罹患したネコの尿中において、約0.1mg/mL以下存在しており、本発明の方法においては、健常ネコの尿中に存在するコーキシンを90%以上、好ましくは95%以上除去するように処理する。ネコ尿は、1回の測定当たり50〜200μL、好ましくは100μL用いればよい。
ネコの腎機能障害の検出のためにはコーキシンを除去したネコ尿中のタンパク質を測定すればよい。腎機能障害のマーカーとなり得るタンパク質として、例えばアルブミン、リゾチーム、ハプトグロビン等が挙げられる。
尿中タンパク質の測定は、尿タンパク質測定用の試験紙を用いて行うことができる。
尿タンパク質測定用の試験紙は、公知の市販のものを用いればよい。市販の試験紙としては和光純薬工業のプレテスト等がある。該試験紙はブロムフェノールブルー、テトラブロモフェノールブルー等のpH指示薬とクエン酸緩衝液等のpH緩衝液を染み込ませてある試験紙であり、pH指示薬のタンパク誤差によりタンパク質を検出する。
また、ブラッドフォード法、BCAタンパク質定量法、スルホサリチル酸法等により行うことができる。
ネコの場合、コーキシンを除去した尿中タンパク質濃度により、腎疾患に罹患しているか否かを診断することができる。ネコ尿中タンパク質濃度が、約100〜数百μg/mL、好ましくは約100〜約200μg/mL以上の場合、腎疾患に罹患している可能性が高い。最終的には、獣医師の総合的な判断により、腎疾患に罹患しているか否かが診断される。
本発明の方法により、ネコ尿中の腎機能障害に由来するタンパク質を検出することができ、ネコの腎機能障害を診断することができる。
本発明におけるネコとは、ネコ科に属する動物をいい、イエネコ、ピューマ、ヤマネコ等のネコ亜科に属する動物、ヒョウ、ライオン、トラ、ジャガー等のヒョウ亜科に属する動物、チータ等のチータ亜科に属する動物を含む。
また、本発明は上記のコーキシン除去用材料あるいはそれを含むデバイスを含むネコの腎臓機能障害由来の尿中タンパク検出キットあるいはネコ腎臓病診断キットを含む。該キットは、尿タンパク検出用試験紙を含んでいてもよい。
本発明は、さらに、コーキシンの活性阻害剤として上記のトリフルオロケトン誘導体を用いることも含む。たとえば、コーキシン特異的阻害剤であるトリフルオロケトン誘導体をネコ尿の採尿容器にあらかじめ入れておいて、コーキシンを不活化することにより白血球の活性が測れる。
本発明は、さらに、トリフルオロケトン誘導体を含むネコ尿臭の発生防止剤も含む。該ネコ尿臭発生防止剤は、トリフルオロケトン誘導体を有効成分として含み、ネコ尿臭の原因となり得るカルボキシエステラーゼであるコーキシンを阻害する。
本発明を以下の実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【実施例1】
【0007】
基材として多孔性中空糸膜を用いたコーキシン除去材料のネコ尿中からのコーキシン除去性能の評価
方法
1.チオール基を有するカルボキシエステラーゼ阻害剤の多孔性中空糸膜への固定
多孔性中空糸膜へのTFKの固定経路を図1に示す。まず、ポリエチレン製多孔性中空糸膜(平均細孔径0.36μm)に200kGyの電子線を照射し、エポキシ基を有するモノマーであるグリシジルメタクリレート(GMA)を重合した。得られた膜をGMA膜と呼ぶ。グラフト率を下記(1)式によって定義し、グラフト重合に伴う膜の重量増加から算出した。
チオール基を有するTFKである1,1,1−trifluoro−3−(2−sulfanylethylsulfanyl)propane−2−one(C2TFK)の合成経路とその合成反応の溶媒として検討した14種類の有機溶媒を図2に示す。溶媒を脱酸素し、1,2−ethanedithiol(C2DT)及び3−bromo−trifluoropropane−2−one(TFA)を、それぞれ1.00Mおよび1.05Mとなるように溶解した。この溶液を、窒素雰囲気下、室温で48時間攪拌した。
攪拌後の溶液に、グラフト率130%のGMA膜を常温で浸漬させて、GMA膜中のエポキシ基をC2TFK基に転化した。エポキシ基からTFK基へのモル転化率を下記(2)式によって定義し、浸漬前後における膜の重量増加から算出した。得られた膜をC2TFK(x,y)膜と呼ぶ。ここで、x及びyは、それぞれ反応に使用した溶媒及びモル転化率である。その後、膜に残存したエポキシ基をすべてdiol基に転化して、C2TFK−diol(x,y)膜とした。
トリフルオロケトンを結合させた膜を0.50M硫酸に、60℃で3時間浸漬することにより、残存エポキシ基をジオール基に転化した(ジオール化)。
【数1】
【数2】
2.TFK固定多孔性中空糸膜によるネコ尿からのcauxin選択除去性能の評価
沈殿物を取り除くために、雄ネコの尿をフィルター(孔径0.22μm)で濾過した。その後、人工尿(2.0w/w%尿素,0.80w/w% NaCl)を加えて3倍に希釈し、ウシ血清アルブミン(BSA)を0.20mg/mLとなるように添加し、供給液とした。供給液を、人工尿で平衡化した膜の内面から外面へと一定の流量(10mL/h)で透過した。ここで、膜の外面からの流出液を採取して、流出液に含まれるタンパク質をBradford法によって定量し、破過曲線を作製した。動的吸着容量は、コーキシンが破過したときまでのコーキシンの吸着量をGMA膜の体積で割った値として定義し、下記(3)式から算出した。
【数3】
ここで、C、C、V及びVは、それぞれ供給液中のタンパク質濃度、流出液中のタンパク質濃度、コーキシンが破過したときまでの流出液量、及び膜の体積である。
3.溶媒を変えて作製したTFK固定多孔性中空糸膜のコーキシン選択除去性能の比較
沈殿物を上記2と同様の方法で除去したネコ尿を供給液として、C2TFK−diol(IPA,36)膜及びC2TFK−diol(CCl,36)膜に透過した。そして、ネコ尿中のタンパク質に対する破過曲線を作製した。評価法は上記2と同様の方法を用いた。
結果
1.C2TFKの合成の溶媒にはイソプロパノールを用いることにした
C2DT及びTFAはすべての溶媒に溶解した。TFAを溶媒へ添加するときに、ジメチルホルムアミド及びジメチルスルホキシドに対しては白煙を生じた。また、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、及びヘキサンを溶媒として用いた溶液では、48時間の攪拌後に沈殿を生じた。攪拌後の溶液を、C2TFKの固定にそのまま用いることができると、作製の工程からC2TFKの精製工程を省略することができる。そのため、反応後に沈殿を生じることは好ましくない。
反応終了時に沈殿を生じなかったメタノール(MeOH)、イソプロパノール(IPA)、アセトン(Ac)、メチルエチルケトン(MEK)、酢酸エチル(EtOAc)、トルエン(PhMe)、四塩化炭素(CCl)及びジオキサン(DOX)の8種類の溶媒を用いて作製したC2TFK溶液に、GMA膜を48時間浸漬させたときのモル転化率を図3に示す。環境安全性の点で問題がある四塩化炭素を除きモル転化率が最大となった溶媒はIPAであり、このときのモル転化率は36%であった。一方で、他の6種類の溶媒を用いたときのモル転化率はいずれも25%以下であった。
2.C2TFK−diol(IPA,y)膜により供給液中からコーキシンを選択的に除去できた
C2TFK溶液へのGMA膜への浸漬時間を変化させることにより、C2TFK−diol(IPA,8〜36)膜(C2TFK基密度80〜360μmol/cm)を作製できた。C2TFK−diol(IPA,8〜36)膜の供給液中のタンパク質に対する破過曲線を図4に示す。破過曲線の縦軸及び横軸には、それぞれ流出液中のタンパク質濃度(C)を供給液中のそれ(C)で割った値、及び透過液量を膜体積で割った値(DEV)をとった。破過曲線はモル転化率によらず一致した。供給液中のタンパク質は透過直後に破過し、BSA濃度に相当するC/C=0.2まで上昇して、3〜7フラクションの間は一定であった。その後、C/C=0.8まで上昇して一定になった。一方で、diol膜はC/C=0.9まで上昇して一定になった。
モル転化率8%のC2TFK−diol(IPA,8%)膜からの流出液中のタンパク質の分布及びCE活性の強度を図5(a)及び(b)に示す。図5(a)はSDS−PAGEにより解析した流出液中のタンパク質の分布を示し、図5(b)は試験紙により評価したカルボキシエステラーゼ活性の強度を示す。図5(b)中、レーンU、F及びBは、それぞれネコ尿、供給液及びBSA溶液を示し、レーン1〜14は流出液のフラクション番号を示す。ネコ尿に含まれるタンパク質のバンドは、8フラクション目以降に現れた。一方で、BSAのバンドはすべてのフラクションに現れた。また、流出液中のタンパク質のCE活性は、7フラクション目以降に現れた。
ほぼ同一のフラクションで、ネコ尿中に含まれるタンパク質のバンド及びCE活性が出現した。これより、ネコ尿に含まれるタンパク質はコーキシンである。また、7フラクション目まではコーキシンのバンドが観察されなかったことから、C2TFK−diol膜はコーキシンを特異的に除去できることがわかった。さらに、diol膜からの流出液では、すべてのフラクションでコーキシンのバンドが観察されたことから、C2TFK基がコーキシンを除去することがわかった。
破過曲線がC/C=1に達しなかったのは、膜が供給液中に生じた懸濁物を濾過するからである。C/C=0.8で平衡に達したと仮定して算出される、7フラクション目までの膜体積あたりのコーキシン動的吸着容量は0.77mg/mLであった。C2TFK−diol膜1.0mLあたり、平均的なコーキシン濃度のネコ尿1.5mLを処理できることから、試験紙での評価に必要なネコ尿0.10mLの処理に十分な吸着容量である。また、7フラクション目までの処理に要したのは4分であった。試験紙を用いたネコの腎臓病診断を可能にするコーキシン高速除去材料を開発できた。
3.C2TFK−diol(IPA,36)膜はC2TFK−diol(CCl,38)膜と破過曲線が一致した
ネコの尿を希釈せずに透過したときの破過曲線を図6に示す。C2TFK−diol(IPA,36)膜とC2TFK−diol(CCl,38)膜の破過曲線ほぼ一致した。これより、C2TFK及びC2DTの反応溶媒をCClからIPAに代えても、コーキシン除去性能が同程度の膜を作製できることがわかった。
【実施例2】
【0008】
基材として多孔性シートを用いたコーキシン除去材料のネコ尿中からのコーキシン除去性能の評価
方法
1.試薬及び基材
基材膜として、イノアックコーポレーション製多孔性シートを用いた。このシートはシート厚、空孔率、平均細孔径、及び比表面積は、それぞれ2mm、75%、1−1.5μm、及び2.6m/gであった。エポキシ基を有するビニルモノマーとして、グリシジルメタクリレート(CH=CCHCOOCHCHOCH、以下、GMAと略記)をナカライテスク(株)から購入し、そのまま使用した。1,2−ethanedithiol(以下、C2DTと呼ぶ)及び3−bromo−1,1,1−trifluoropropane−2−one(以下、TFAと呼ぶ)、それぞれ和光純薬工業(株)、東京化成工業(株)、及びSigma−Aldrichから購入し、そのまま使用した。ネコ尿及びネコ血清は、雄のイエネコから採取されたものを、それぞれ冷蔵又は冷凍保存したものを使用した。ウシ血清アルブミン(以下、BSAと略記)は、Sigma−Aldrich社から購入して、そのまま使用した。尿試験紙は,プレテストマルチIIを和光純薬工業から購入して、使用した。
2.トリフルオロケトン固定多孔性シート(C2TFK−diol sheet)の作製
多孔性シートへのTFKの固定経路を図7に示す。まず、ポリエチレン製多孔性シートに200kGyの電子線を照射し、ラジカルを発生させた。発生したラジカルを反応開始点として、GMAをグラフト重合した。得られたシートをGMAシートと呼ぶ。ここで、グラフト率(egree of rafting:dg)を(1)式によって定義し、グラフト重合に伴うシートの重量増加から算出した。
グラフト率[%]=100(W−W)/W (1)
ここで、W及びWは、それぞれ基材及びGMAシートの乾燥重量[g]である。
つぎに、窒素バブリングによって、イソプロパノールを脱酸素し、C2DT及びTFAを、それぞれ0.10M及び0.105Mとなるように溶解した。この溶液を、窒素雰囲気下、室温で48時間攪拌した。攪拌後の溶液をC2TFK溶液と呼ぶ。この溶液に、グラフト率100%のGMAシートを48時間まで浸漬して、GMAシート中のエポキシ基をC2TFK基に転化した。得られたシートをC2TFKシートと呼ぶ。エポキシ基からC2TFK基へのモル転化率を、(2)式によって定義し、グラフト重合に伴うシートの重量増加から算出した。
モル転化率[%]=100[(W−W)/M]/[(W−W)/142] (2)
ここで、WはC2TFK基導入後のシートの乾燥重量[g]である。また、204および142は、それぞれC2TFK基及びGMAの分子量[g/mol]である。
シートに残存したエポキシ基を親水性基に転化するために、C2TFKシートを0.5M HSO水溶液に60℃で3時間浸漬して、残存エポキシ基をdiol基に転化したシートを作製した。得られたシートをC2TFK−diolシートと呼ぶ。
3.トリフルオロケトン固定多孔性シート(C2TFK−diolシート)によるモデル溶液からのcauxin除去能の評価
沈殿物を取り除くために、雄ネコの尿を遠心後、フィルター(孔径0.22μm)で濾過した。その後、人工尿(2.0w/w%尿素、0.80w/w% NaCl、0.10w/w% CaCl、0.10w/w% MnCl)を加えて3倍に希釈し、血清タンパク質のモデルとしてウシ血清アルブミン(BSA)を0.20mg/mLとなるように添加してモデル尿とし、供給液とした。
人工尿を透過して平衡化したシートに、供給液を一定の流量10mL/hで透過した。ここで、流出液のフラクションを0.1mLずつ採取して、流出液に含まれるタンパク質の分布を、非還元条件でのドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミド電気泳動法(以後,SDS−PAGE法と略記)によって評価した。SDS−PAGEには、12w/w%ポリアクリルアミドゲルを用いた。ゲルには、流出液2μLを供した。
結果と考察
1.トリフルオロケトン固定多孔性シート(C2TFK−diolシート)のコーキシン除去性能の評価
モル転化率10%のC2TFK−diolシートに、3倍希釈したネコ尿にBSAを添加した溶液(BSA濃度:0.2g/L)を供給液として、流量一定(10mL/h)で透過したときの、流出液中のタンパク質の分布をSDS−PAGEによって解析した結果を図8に示す。図8中、U、F及びBで表されるレーンは、それぞれ希釈尿、上記供給液及び0.2g/L BSA溶液をサンプルとして用いた結果を示す。レーン1〜14はC2TFK−diolシートを透過させて得られた一連のフラクションを示す。上のバンドがコーキシンのバンド、下のバンドがBSAのバンドである。
C2TFK−diolシートでは、コーキシンのバンドは1フラクション目〜6フラクション目まで徐々に濃くなっている。一方で、BSAに由来するバンドはすべてのフラクションの流出液で観察された。このことは、コーキシンがC2TFH−diolシートに吸着されたこと、C2TFK−diolシートのコーキシン吸着許容量を超えたコーキシンが徐々に流出したことを示している。これより、C2TFK−diolシートは、コーキシンを選択的に除去できていることがわかった。また、C2TFK−diolシートの溶液の透過性能は高く、手押しで溶液を透過できた。
【産業上の利用可能性】
【0009】
本発明のネココーキシン除去材料は、ネコの腎臓病の診断のための尿中タンパク質の測定のための、尿の前処理材料として用いることができる。
本明細書で引用した全ての刊行物、特許および特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。
図2
図4
図6
図1
図3
図5
図7
図8