【文献】
ESCUDERO, A. et al.,Chronic X-ray dermatitis treated by topical 5-aminolaevulinic acid-photodynamic therapy,British Journal of Dermatology,2002年,vol.147,pp.394-396
【文献】
三好憲雄ら,日本におけるポルフィリン前駆体(5−ALA)の光検出と光線力学治療,日本レーザー医学会誌,2008年,vol.29, No.2,pp.164-168
【文献】
秋葉澄伯,放射線とがん,医学のあゆみ,2012年 5月 5日,vol.241,No.5, pp.327-332
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
鉄化合物が、塩化第二鉄、三二酸化鉄、硫酸鉄、ピロリン酸第一鉄、クエン酸第一鉄、クエン酸鉄ナトリウム、クエン酸第一鉄ナトリウム、クエン酸鉄アンモニウム、ピロリン酸第二鉄、乳酸鉄、グルコン酸第一鉄、ジエチレントリアミン五酢酸鉄ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸鉄アンモニウム、エチレンジアミン四酢酸鉄ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸鉄アンモニウム、ジカルボキシメチルグルタミン酸鉄ナトリウム、ジカルボキシメチルグルタミン酸鉄アンモニウム、フマル酸第一鉄、酢酸鉄、シュウ酸鉄、コハク酸第一鉄、コハク酸クエン酸鉄ナトリウム、ヘム鉄、デキストラン鉄、トリエチレンテトラアミン鉄、ラクトフェリン鉄、トランスフェリン鉄、鉄クロロフィリンナトリウム、フェリチン鉄、含糖酸化鉄、及び硫化グリシン鉄から選ばれる1種又は2種以上の化合物であることを特徴とする請求項3記載の放射線障害の予防及び/又は治療剤。
【背景技術】
【0002】
放射線障害は、生物体がX線、ガンマ線等の放射線に被曝することにより発生する身体的な障害や損傷の総称であり、その原因として放射線照射や放射能汚染等が知られている。放射線障害には、放射線被曝直後〜数ヶ月以内に出現する急性期症状の放射線障害である早発性放射線障害(急性放射線障害)と、放射線被曝後数年ないし数十年後に出現する放射線障害である晩発性放射線障害(遅延性放射線障害)がある。
【0003】
細胞の放射線に対する感受性は、活発に分裂している細胞ほど高くなり、造血器などの細胞再生系が最も影響を受けやすくなる。例えば、早発性放射線障害においては、1Gy(グレイ)以上被曝すると、一部の人に悪心、嘔吐、全身倦怠などの二日酔いに似た放射線宿酔という症状が現れ、1.5Gy以上の被曝では、最も感受性の高い造血細胞が影響を受け、白血球と血小板の供給が途絶えることにより出血が増加すると共に免疫力が低下し、重症の場合は30〜60日程度で死亡する。また、皮膚は上皮基底細胞の感受性が高く、3Gy以上で脱毛や一時的紅斑、7〜8Gyで水泡形成、10Gy以上で潰瘍がみられる。5Gy以上被曝すると、小腸内の幹細胞が死滅し、吸収細胞の供給が途絶する。このため吸収力低下による下痢や、細菌感染が発生し、重症の場合は20日以内に死亡する。15Gy以上の非常に高い線量の被曝では、中枢神経に影響が現れ、意識障害、ショック症状を伴うようになる。中枢神経への影響の発現は早く、ほとんどの被曝者が5日以内に死亡する。他方、晩発性放射線障害においては、白血病をはじめとした各種の悪性腫瘍、放射線性白内障などの発病率が上昇する。
【0004】
今日行われている放射線曝露に対する予防法としては、被曝した物質に対応する安定同位体やキレート剤の投与など、主に事故等特殊な状況により発生した放射性物質を取り込むことを予防することで、内部被爆を最低限に抑えるためのものであった。しかし、飛行機乗務員、放射線技師などすでに日常的に放射線を晒されている人のがん発症などを抑える予防薬は存在せず、大量の放射線を浴びるがん放射線治療患者の副作用を抑える予防薬も確立されていない。また、放射線治療の副作用予防としては、漢方薬である十全大補湯を投与するケースも知られているが、一般的ではない。前者は発生した放射性物質を取り込むことを予防することで、放射線への曝露自体を最低限に抑えるためのものであり、後者は曝露した放射線による症状の発症を抑えるものである。放射線曝露に対する治療法としては、造血促進するサイトカインの投与あるいは骨髄移植が知られている。これらの方法は、体内に蓄積した放射性物質、あるいは直接の放射線照射が引き起こす放射線障害の症状の一つである骨髄抑制に対する治療方法である。放射線障害によって骨髄細胞は正常な分裂が行えなくなるため、残った正常細胞に対しG−CSF等のサイトカインを投与することで血球の増殖・分化を促す。さらに重症の場合、骨髄細胞の移植を行うこともある。
【0005】
その他、放射線障害の予防・治療剤として、ニトロプルシド(特許文献1参照)、ラクトフェリン(特許文献2参照)、6,10,14,18−テトラメチル−5,9,13,17−ノナデカテトラエン−2−オン(特許文献3参照)、ピラゾロン誘導体(特許文献4参照)、増殖因子SCF、IL3、GM−CSF及びIL6(特許文献5参照)、(±)−N,N’−プロピレンジニコチンアミド(特許文献6参照)、13−オキシゲルミルプロピオン酸(特許文献7参照)、β−ラパコン(特許文献8参照)、アルカロイドの燐誘導体(特許文献9参照)、α−D−グルコピラノシル−(1→2)−L−アスコルビン酸(特許文献10参照)が提案されている。
【0006】
一方、5−ALAは、動物や植物や菌類に広く存在するテトラピロール生合成経路の中間体として知られており、通常5−アミノレブリン酸合成酵素により、スクシニルCoAとグリシンとから生合成される。5−ALAを用いた光線力学的療法又は光動力学的治療(以下「ALA−PDT」ともいう)も開発され、侵襲性が低くQOLが保たれる治療法として注目されており、ALA等を用いた腫瘍診断・治療剤等が報告されている。また、5−ALAは、成人病、がん、男性不妊の予防改善剤や治療剤として有用であることも知られている(例えば、特許文献11〜13参照)。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の放射線障害の予防及び/又は治療剤としては、上記式(I)で示される化合物又はその塩(以下、これらを総称して「ALA類」ということもある)を有効成分として含むものであれば特に制限されないが、ALA類に加えて鉄化合物を含有させることもできる。さらに、生存率を向上させるためや、体重の低下を改善する(防ぐ)ためや、造血障害を緩和するために使用しうるものが好ましい。本発明の放射線障害の予防及び/又は治療剤は、医薬品、医薬部外品、化粧品、飲食品、飼料、餌料、ペットフードとして用いることもできる。また、本発明の放射線障害を予防及び/又は治療する方法は、上記本発明の放射線障害の予防及び/又は治療剤を、ヒトの他、家畜・家禽類やペットなどの対象に投与することを特徴とする。また、本発明の放射線障害の予防及び/又は治療剤は、放射線照射の前後、例えば放射線照射日の1〜3日前から5〜10日後まで毎日投与することが好ましい。
【0018】
本発明において、放射線障害の「予防及び/又は治療」には、放射線障害の軽減、放射線障害の改善、放射線障害の緩和が含まれ、また、上記放射線障害には早発性放射線障害や晩発性放射線障害が含まれる。
【0019】
また、本発明の放射線障害を予防及び/又は治療するためのキットとしては、ALA類と鉄化合物とを有効成分として個別に含むキットであれば特に制限されないが、生存率を向上させるためや、体重の低下を改善する(防ぐ)ためや、造血障害を緩和するために使用しうるものが好ましい。かかる本発明の放射線障害を予防及び/又は治療するためのキットを用いる本発明の放射線障害を予防及び/又は治療する方法は、ALA類と鉄化合物とを同時又は前後してヒトの他、家畜・家禽類やペットなどの対象に放射線照射の前後に投与することを特徴とする。
【0020】
そしてまた、本発明の予防及び/又は治療薬剤の組合せとしては、上記本発明の放射線障害の予防及び/又は治療剤と、本発明の放射線障害の予防及び/又は治療剤以外の放射線障害の予防・治療剤との組合せや、ALA類と鉄化合物と放射線障害の予防・治療剤との組合せであれば特に制限されず、これら予防及び/又は治療薬剤の組合せを投与することによっても放射線障害を予防及び/又は治療することができる。これら組合せの各製剤(成分)は、同時又は別々に投与することができる。また、これら組合せの各製剤(成分)は、放射線照射の前後、例えば放射線照射日の1〜3日前から5〜10日後まで毎日投与することができる。
【0021】
上記ALA類の中でも式(I)のR
1及びR
2が共に水素原子の場合である5−ALA又はその塩を好適に例示することができる。5−ALAは、δ−アミノレブリン酸とも呼ばれるアミノ酸の1種である。また、5−ALA誘導体としては、式(I)のR
1が水素原子又はアシル基であり、式(I)のR
2が水素原子、直鎖若しくは分岐状アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はアラルキル基である、5−ALA以外の化合物を挙げることができる。
【0022】
式(I)におけるアシル基としては、ホルミル、アセチル、プロピオニル、ブチリル、イソブチリル、バレリル、イソバレリル、ピバロイル、ヘキサノイル、オクタノイル、ベンジルカルボニル基等の直鎖又は分岐状の炭素数1〜8のアルカノイル基や、ベンゾイル、1−ナフトイル、2−ナフトイル基等の炭素数7〜14のアロイル基を挙げることができる。
【0023】
式(I)におけるアルキル基としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル基等の直鎖又は分岐状の炭素数1〜8のアルキル基を挙げることができる。
【0024】
式(I)におけるシクロアルキル基としては、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、シクロドデシル、1−シクロヘキセニル基等の飽和、又は一部不飽和結合が存在してもよい、炭素数3〜8のシクロアルキル基を挙げることができる。
【0025】
式(I)におけるアリール基としては、フェニル、ナフチル、アントリル、フェナントリル基等の炭素数6〜14のアリール基を挙げることができる。
【0026】
式(I)におけるアラルキル基としては、アリール部分は上記アリール基と同じ例示ができ、アルキル部分は上記アルキル基と同じ例示ができ、具体的には、ベンジル、フェネチル、フェニルプロピル、フェニルブチル、ベンズヒドリル、トリチル、ナフチルメチル、ナフチルエチル基等の炭素数7〜15のアラルキル基を挙げることができる。
【0027】
上記ALA誘導体としては、R
1が、ホルミル、アセチル、プロピオニル、ブチリル基等である化合物や、上記R
2が、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル基等である化合物が好ましく、上記R
1とR
2の組合せが、ホルミルとメチル、アセチルとメチル、プロピオニルとメチル、ブチリルとメチル、ホルミルとエチル、アセチルとエチル、プロピオニルとエチル、ブチリルとエチルの組合せなどを好適に例示することができる。
【0028】
ALA類は、生体内で式(I)の5−ALA又はその誘導体の状態で有効成分として作用すればよく、投与する形態に応じて、溶解性を上げるための各種の塩、エステル、または生体内の酵素で分解されるプロドラッグ(前駆体)として投与することができる。例えば、5−ALA及びその誘導体の塩としては、薬理学的に許容される酸付加塩、金属塩、アンモニウム塩、有機アミン付加塩等を挙げることができる。酸付加塩としては、例えば塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、リン酸塩、硝酸塩、硫酸塩等の各無機酸塩、ギ酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、トルエンスルホン酸塩、コハク酸塩、シュウ酸塩、乳酸塩、酒石酸塩、グリコール酸塩、メタンスルホン酸塩、酪酸塩、吉草酸塩、クエン酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、リンゴ酸塩等の各有機酸付加塩を例示することができる。金属塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等の各アルカリ金属塩、マグネシウム、カルシウム塩等の各アルカリ土類金属塩、アルミニウム、亜鉛等の各金属塩を例示することができる。アンモニウム塩としては、アンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩等のアルキルアンモニウム塩等を例示することができる。有機アミン塩としては、トリエチルアミン塩、ピペリジン塩、モルホリン塩、トルイジン塩等の各塩を例示することができる。なお、これらの塩は使用時において溶液としても用いることができる。
【0029】
以上のALA類のうち、望ましいものは、5−ALA、及び5−ALAメチルエステル、5−ALAエチルエステル、5−ALAプロピルエステル、5−ALAブチルエステル、5−ALAペンチルエステル等の各種エステル類、並びに、これらの塩酸塩、リン酸塩、硫酸塩であり、5−ALA塩酸塩や5−ALAリン酸塩を特に好適に例示することができる。
【0030】
上記ALA類は、化学合成、微生物による生産、酵素による生産のいずれの公知の方法によって製造することができる。また、上記ALA類は、水和物又は溶媒和物を形成していてもよく、またいずれかを単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0031】
上記鉄化合物としては、有機塩でも無機塩でもよく、無機塩としては、塩化第二鉄、三二酸化鉄、硫酸鉄、ピロリン酸第一鉄を挙げることができ、有機塩としては、カルボン酸塩、例えばヒドロキシカルボン酸塩である、クエン酸第一鉄、クエン酸鉄ナトリウム、クエン酸第一鉄ナトリウム、クエン酸鉄アンモニウム等のクエン酸塩や、ピロリン酸第二鉄、乳酸鉄、グルコン酸第一鉄、ジエチレントリアミン五酢酸鉄ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸鉄アンモニウム、エチレンジアミン四酢酸鉄ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸鉄アンモニウム、ジカルボキシメチルグルタミン酸鉄ナトリウム、ジカルボキシメチルグルタミン酸鉄アンモニウム、フマル酸第一鉄、酢酸鉄、シュウ酸鉄、コハク酸第一鉄、コハク酸クエン酸鉄ナトリウム等の有機酸塩や、ヘム鉄、デキストラン鉄、トリエチレンテトラアミン鉄、ラクトフェリン鉄、トランスフェリン鉄、鉄クロロフィリンナトリウム、フェリチン鉄、含糖酸化鉄、硫化グリシン鉄を挙げることができるが、中でもクエン酸第一鉄ナトリウムやクエン酸鉄ナトリウムが好ましい。
【0032】
上記鉄化合物は、それぞれ単独でも、2種以上を混合しても用いてもよい。鉄化合物の投与量としては、ALA類の投与量(5−ALA換算)に対してモル比で0.01〜100倍であればよく、0.05倍〜10倍が望ましく、0.1倍〜8倍がより望ましい。
【0033】
本発明のALA類と鉄化合物を併用する放射線障害を予防及び/又は治療する方法においては、ALA類と鉄化合物とを含む組成物として、あるいは、それぞれ単独で同時又は前後して投与することができる。それぞれ単独で投与する場合は同時に投与することが好ましいが、それぞれ単独で前後して投与する場合は、ALA類と鉄化合物との投与が相加的効果、好ましくは相乗的効果を奏することができるように投与することが好ましい。
【0034】
本発明の放射線障害の予防及び/又は治療剤や、放射線障害を予防及び/又は治療するためのキットに、さらに、造血促進するサイトカイン、ニトロプルシド、ラクトフェリン、6,10,14,18−テトラメチル−5,9,13,17−ノナデカテトラエン−2−オン、ピラゾロン誘導体、増殖因子SCF、IL3、GM−CSF及びIL6、(±)−N,N’−プロピレンジニコチンアミド、13−オキシゲルミルプロピオン酸、β−ラパコン、アルカロイドの燐誘導体、α−D−グルコピラノシル−(1→2)−L−アスコルビン酸、アミフォスチン等の既存の放射線障害の予防・治療剤を1種又は2種以上を組み合わせて併用することができる。また、本発明の放射線障害の予防及び/又は治療剤や、放射線障害を予防及び/又は治療するためのキットを骨髄移植療法と併用することもできる。本発明の放射線障害の予防及び/又は治療剤や、放射線障害を予防及び/又は治療するためのキットは、これら既存の放射線障害の予防・治療剤や骨髄移植療法とは作用メカニズムと異なるため、本発明の放射線障害の予防及び/又は治療薬剤の組合せを用いると、相加的な、場合によっては相乗的な効果が期待できる。
【0035】
本発明の放射線障害の予防及び/又は治療剤や放射線障害を予防及び/又は治療するためのキットの各成分や予防・治療学的薬剤の組合せの各成分の投与経路としては、舌下投与も含む経口投与、あるいは、点鼻投与、吸入投与、点滴を含む静脈内投与、パップ剤等による経皮投与、座薬、又は経鼻胃管、経鼻腸管、胃漏チューブ若しくは腸漏チューブを用いる強制的経腸栄養法による投与等の非経口投与などを挙げることができる。なお、予防及び/又は治療薬剤の組合せにおける既存の放射線障害の予防・治療剤の投与経路は、各薬剤において既に認められている投与経路を採用することが好ましい。
【0036】
本発明の放射線障害の予防及び/又は治療剤や放射線障害を予防及び/又は治療するためのキットの各成分や予防・治療学的薬剤の組合せの各成分の剤型としては、上記投与経路に応じて適宜決定することができるが、注射剤、点鼻剤、点滴剤、錠剤、カプセル剤、細粒剤、散剤、液剤、シロップ等に溶解した水剤、パップ剤、座剤等を挙げることができる。本発明の放射線障害の予防及び/又は治療剤や放射線障害を予防及び/又は治療するためのキットの各成分は医薬用途の他、錠剤やカプセル剤のサプリメントの形態とすることもできる。また特に、嚥下することが困難な高齢者や乳幼児等には、口中において速やかな崩壊性を示す崩壊錠の形態や、経鼻胃管投与に適した液剤の形態が好ましい。
【0037】
本発明の放射線障害の予防及び/又は治療剤や放射線障害を予防及び/又は治療するためのキットを調製するために、必要に応じて、薬理学的に許容し得る担体、賦形剤、希釈剤、添加剤、崩壊剤、結合剤、被覆剤、潤滑剤、滑走剤、滑沢剤、風味剤、甘味剤、可溶化剤、溶剤、ゲル化剤、栄養剤等を添加することができ、具体的には、水、生理食塩水、動物性脂肪及び油、植物油、乳糖、デンプン、ゼラチン、結晶性セルロース、ガム、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリアルキレングリコール、ポリビニルアルコール、グリセリンを例示することができる。なお、本発明の放射線障害の予防及び/又は治療剤を水溶液として調製する場合には、ALA類の分解を防ぐため、水溶液がアルカリ性とならないように留意する必要があり、アルカリ性となってしまう場合は、酸素を除去することによって分解を防ぐこともできる。
【0038】
本発明の放射線障害の予防及び/又は治療剤や放射線障害を予防及び/又は治療するためのキットは、ヒトの他、家畜・家禽類やペットなど獣医分野でも使用することができる。かかる予防及び/又は治療剤の投与の量・頻度・期間としては、対象がヒトの場合、放射線障害患者の年齢、体重、症状等により異なるが、ALA類の投与量としては、5−ALAモル換算で、成人一人当たり、0.01mmol〜25mmol/日、好ましくは0.025mmol〜7.5mmol/日、より好ましくは0.075mmol〜5.5mmol/日、さらに好ましくは0.2mmol〜2mmol/日挙げることができ、投与頻度としては、一日一回〜複数回の投与又は点滴等による連続的投与を例示することができる。投与期間は、当該技術分野の薬理学者や臨床医が既知の方法により決定することができる。
【0039】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【0040】
(実施例1)
<放射線障害を患ったマウスへの5−ALA投与による放射線障害緩和効果>
放射線照射に伴い惹起する、骨髄抑制をはじめとする諸症状によって引き起こされる死亡について、ALA投与による生存率向上効果および体重減少の抑制、外見上の変化を検証した。
【0041】
[実験方法]
(1)動物及び飼育条件
日本SLC株式会社よりC57BL/6マウスの雄を8週齢で購入し、入荷当日に視診上健康なマウスを試験に供した。入荷翌日、体重を基に無作為抽出により1群10匹として3群に分け、更に1群を1ケージ当たり3匹、3匹、4匹となるように分けた。オリエンタル酵母株式会社製の基礎飼料MFを、水道水と共に自由に摂取させ、室温23〜24℃、湿度30〜40%、12時間蛍光灯照明の飼育室において飼育した。
【0042】
(2)試験群
以下に示すとおり、投与薬剤の異なる[1]〜[3]の3群に分けた。
[1]群;5−ALA非投与群(10匹)
[2]群;5−ALA塩酸塩10mg/kg body weight投与群(10匹)
[3]群;5−ALA塩酸塩100mg/kg body weight投与群(10匹)
【0043】
(3)放射線障害の惹起
パンタックHF350(200KV,20mA Filter:Cu0.1mm+Al0.5mm)にて、3時間の間隔を空けて4Gyの放射線を2回、計8Gyの放射線を照射した。
【0044】
(4)薬剤の投与
照射開始後、毎日、上記[1]群に対しては水、[2]群及び[3]群に対しては5−ALA塩酸塩水溶液を、それぞれゾンデを用いて胃内に強制投与した。
【0045】
(5)生存率の測定
放射線照射日をday0とし、day21まで生存を確認した。21日間生き延びた個体は生存と判定した。day5−12の間は最低2日に1回死亡確認を行い、体重減少が30%以上、動きが悪く(触っても逃げない)、体温低下を認める個体は死亡と判定した。死後硬直を経過して解硬した死体は12時間以上前の死亡と判定した。なお、午前中に確認した場合は前日の死亡と判定した。
【0046】
(6)体重の測定
上記(5)における生存確認の際、同時に体重を測定した。
【0047】
(7)外見の変化
上記(5)における測定の間、投与群、非投与群の間に、外見に何らかの変化が見られるかどうかについて確認を行った。
【0048】
[結果]
(1)生存率の変化
検査に用いた試験群の生存率の変化を
図1に示す。[3]100mg/kg投与群と[1]ALA非投与群のLogrank法による有意差検定の結果、有意に[3]100mg/kg投与群の方の生存率が向上した。([1]0mg/kg vs [3]100mg/kg;p=0.0289、[1]0mg/kg vs [2]10mg/kg;p=0.161)
【0049】
(2)体重の変化
検査に用いた試験群の体重の変化を
図2に示す。照射11日後において、[1]ALA非投与群と[2]10mg/kg投与群、及び[3]100mg/kg投与群との体重に有意差が見られた。([1]0mg/kg vs [3]100mg/kg;p=0.03456,[1]0mg/kg vs [2]10mg/kg;p=0.03556)
【0050】
(3)外見上の変化
検査に用いた試験群の外見上の変化の所見を以下の表1に示す。経時的に5−ALA投与群、5−ALA非投与群の外見を観察し続けたところ、[1]ALA非投与群は放射線により毛づやが悪く、立毛して衰弱が見られたが、[2]10mg/kg投与群、及び[3]100mg/kg投与群は[1]ALA非投与群に比べて毛羽立ちが軽度であった。
【0052】
(実施例2)
<放射線障害を患ったマウスへの5−ALA又は5−ALA+クエン酸第一鉄(SFC)投与による造血促進効果>
放射線治療の副作用としての造血障害に対して、予防・治療的な5−ALA又は5−ALA+SFCの投与により造血促進効果が得られるかを検証した。
【0053】
1.評価モデルの確立検討試験
[実験方法]
(1)動物及び飼育条件
日本SLC株式会社よりC57BL/6マウスの雄を8週齢で購入し、入荷当日に視診上健康なマウスを試験に供した。入荷翌日、体重を基に無作為抽出により1群4匹として10群に分け、1群を1ケージに収納した。オリエンタル酵母株式会社製の基礎飼料MFを、水道水と共に自由に摂取させ、室温23〜24℃、湿度30〜40%、12時間蛍光灯照明の飼育室において飼育した。
【0054】
(2)試験群
以下に示すとおり、投与薬剤及び放射線量の異なる1)〜9)の9群と未処理群の10群に分けた。
1)〜3)群;5−ALA非投与で、3.5Gy照射群、4.0Gy照射群、4.5Gy照射群の3群
4)〜6)群;5−ALA塩酸塩100mg/kg body weight投与で、3.5Gy照射群、4.0Gy照射群、4.5Gy照射群の3群
7)〜9)群;5−ALA塩酸塩100mg+SFC157mg/kg body weight投与で、3.5Gy照射群、4.0Gy照射群、4.5Gy照射群の3群
【0055】
(3)放射線障害の惹起
パンタックHF350(200KV,20mA Filter:Cu0.1mm+Al0.5mm)にて、3.5Gy、4.0Gy、4.5Gyの3種の線量で放射線をday0に一括照射した。
【0056】
(4)薬剤の投与
照射開始2日前(day−2)からday6まで毎日、上記1)〜3)群に対しては水、4)〜6)群に対しては5−ALA塩酸塩水溶液、7)〜9)群に対しては、5−ALA塩酸塩とSFCの水溶液を、それぞれゾンデを用いて胃内に強制投与した。
【0057】
(5)体重の測定
放射線照射日をday0とし、照射開始2日前(day−2)、day0、day3、day5及びday7に体重を測定した。
【0058】
(6)血球数の測定
骨髄、脾臓及び胸腺から採取した細胞群を、フローサイトメーターにより解析した。各々の細胞を同定する指標として、以下の[表2]に示すマーカーを用いた。
【0059】
【表2】
※1.Ery I〜IVは赤血球前駆細胞である。フローサイトメーターによりCD11b
−の細胞のみソートした後、Ter119とCD71の二つのマーカーを用い展開した。分化とともにTer119の発現は上がり、CD71は下がる。すなわちEryIがもっとも未熟であり、EryIVがもっとも成熟した赤血球前駆細胞である。
※2.DN、DP、CD4SP、CD8SPはT細胞およびT細胞の前駆細胞である。分化とともにDNからDPへと変化し、最終的に成熟したT細胞であるCD4SPもしくはCD8SPへと分化する。これらの区別には、フローサイトメーターで血球系マーカーCD45
+細胞のみをソートしたのち、CD4,CD8の二つのマーカーを用い展開した。
【0060】
[結果]
(1)体重の変化
評価モデルの確立検討試験に用いた試験群の体重の変化を、3.5Gy、4.0Gy、4.5Gyの各線量ごとに
図3に示す。その結果、放射線照射による体重減少はいずれの線量でも5%以内であったが、ALA+SFC投与群ではいずれの線量でもH
2Oコントロールと比較し、体重減少の軽減が認められた。
【0061】
(2)血球数の測定
骨髄、脾臓及び胸腺から採取した細胞群を、フローサイトメーターにより解析した結果を
図4に示す。骨髄細胞数は、B細胞、T細胞、多形核白血球(好中球)、単球、EryI〜IVの合算値としてカウントした。胸腺細胞数は、CD4SP、CD8SP、DN、DPの数の合算値としてカウントした。脾臓細胞数は、B細胞、T細胞、多形核白血球(好中球)、単球、EryI〜IVの合算値としてカウントした。
【0062】
骨髄細胞数(正常1.4×10
7)をみると、4.0Gy照射と4.5Gy照射の間に閾値があると考えられた。胸腺細胞数(正常1.0×10
8)は3.5Gy照射で正常の1/10程度に減少していたが、3.5〜4.5Gy照射の間に大きな開きはなかった。脾臓細胞数(正常7.5×10
7)は3.5Gy照射で正常の1/30程度であり、3.5〜4.5Gy照射の間は線量依存的に直線的に減少傾向がみられた。また、4.0Gy照射、ALA投与群の脾臓細胞数にH
2Oコントロール群と比較し有意な改善を認めた。その他の項目については有意差は認められなかった。そして、中程度の造血障害を惹起し、かつALA投与により各臓器で安定した改善傾向を認める線量として、4.0Gyを設定し、次の造血促進効果の評価試験を行うこととした。
【0063】
2.造血促進効果の評価試験
[実験方法]
(1)動物及び飼育条件
日本SLC株式会社よりC57BL/6マウスの雄を8週齢で購入し、入荷当日に視診上健康なマウスを試験に供した。入荷翌日、体重を基に無作為抽出により1群8匹として3群に分け、更に1群を1ケージ当たり4匹となるように収容した。また未処理群として1群4匹を1ケージに収容した。オリエンタル酵母株式会社製の基礎飼料MFを、水道水と共に自由に摂取させ、室温23〜24℃、湿度30〜40%、12時間蛍光灯照明の飼育室において飼育した。
【0064】
(2)試験群
以下に示すとおり、投与薬剤の異なるa)〜c)の3群と未処理の4群に分けた。
a)群;5−ALA非投与群
b)群;5−ALA塩酸塩100mg/kg body weight投与群
c)群;5−ALA塩酸塩100mg+SFC157mg/kgbody weight投与群
【0065】
(3)放射線障害の惹起
パンタックHF350(200KV,20mA Filter:Cu0.1mm+Al0.5mm)にて、4.0Gyの線量で放射線をday0に一括照射した。
【0066】
(4)薬剤の投与
照射開始2日前(day−2)からday6まで毎日、上記a)群に対しては水、b)群に対しては5−ALA塩酸塩水溶液、c)群に対しては、5−ALA塩酸塩とSFCの水溶液を、それぞれゾンデを用いて胃内に強制投与した。
【0067】
(5)体重の測定
放射線照射日をday0とし、照射開始2日前(day−2)、day0、day3及びday6に体重を測定した。
【0068】
(6)血球数の測定
骨髄、脾臓及び胸腺から採取した細胞群を、フローサイトメーターにより解析した。各々の細胞を同定する指標として、上記の[表2]に示すマーカーを用いた。
【0069】
[結果]
(1)体重の測定
造血促進効果の評価試験に用いた試験群の体重の変化を
図5に示す。その結果、ALA+SFC投与群は体重減少において安定した改善傾向を示すことがわかった。
【0070】
(2)血球数の測定
骨髄、脾臓及び胸腺から採取した細胞群を、フローサイトメーターにより解析した結果を
図6に示す。骨髄細胞数は、B細胞、T細胞、多形核白血球(好中球)、単球、EryI〜IVの合算値としてカウントした。胸腺細胞数は、CD4SP、CD8SP、DN、DPの数の合算値としてカウントした。脾臓細胞数は、B細胞、T細胞、多形核白血球(好中球)、単球、EryI〜IVの合算値としてカウントした。
【0071】
図6からわかるように、ALA投与群及びALA+SFC投与群の脾臓細胞数にH
2Oコントロール群と比較し有意な改善を認めた。
【0072】
図6の骨髄細胞のうち、赤血球前駆細胞EryI、EryII/III、EryIVの数をカウントした結果を
図7に示す。その結果、骨髄TER119+赤血球前駆細胞数は、ALA投与群において改善傾向が見られた。また、
図6の脾臓細胞のうち、赤血球前駆細胞EryIVの数をカウントした結果を
図8に示す。その結果、赤血球前駆細胞EryIVの数は、ALA投与群において統計学的に有意に改善が見られた。
【0073】
図6の骨髄細胞のうち、多形核白血球(好中球)、単球、B細胞それぞれの数をカウントし、また、顆粒球・単球・マクロファージ・NK細胞マーカーであるCD11b
+細胞の数もカウントした。結果を
図9(上段)に示す。その結果、単球数とB細胞数は、ALA投与群において改善傾向が見られた。
【0074】
図6の脾臓細胞のうち、多形核白血球(好中球)、単球、B細胞、T細胞それぞれの数をカウントし、また、顆粒球・単球・マクロファージ・NK細胞マーカーであるCD11b
+細胞の数もカウントした。結果を
図9(下段)に示す。多形核白血球数、CD11b
+細胞数とT細胞数は、ALA投与群において改善傾向が見られた。また、B細胞数は、ALA投与群において統計学的に有意に改善が見られ、T細胞数は、ALA+SFC投与群において統計学的に有意に改善が見られたものの、単球数は、ALA+SFC投与群において統計学的に有意に減少していた。
【0075】
図6の胸腺細胞のうち、DN、DPの数をカウントした。結果を
図10に示す。
【0076】
以上のとおり、ALA投与やALA+SFC投与により、軽度放射線障害マウス脾臓細胞の減少が抑制された。また、ALA投与により、軽度放射線障害マウス脾臓細胞中の比較的成熟度の高い赤血球前駆細胞EryIVの減少が抑制された。これらのことから、ALA投与やALA+SFC投与により、放射線照射による造血障害を緩和できることが示唆された。