【文献】
Applied and Environmental Microbiology,2011年,Vol. 77, No. 10,pp. 3484-3492
【文献】
Annals of Microbiology,2011年,Vol. 61,pp. 879-885
【文献】
International Journal of Food Microbiology,2010年,Vol. 139,pp. 56-63
【文献】
Systematic and Applied Microbiology,2009年,Vol. 32,pp. 438-448
【文献】
Food Control,2009年,Vol. 20,pp. 144-148
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来から、各種の微生物が産生する抗菌性物質について研究がなされてきている。これらの抗菌性物質を飲食品の分野に利用する場合には、無害でありかつ飲食品の風味への影響が少ないことが必要とされることから、現実に利用できる抗菌性物質及び該抗菌性物質を産生する微生物は限られたものとなっている。
【0003】
各種微生物の中でも乳酸菌は、従来から、ヨーグルト等を始めとする乳製品等の飲食品中に含まれあるいは添加されていることから、該乳酸菌が産生する抗菌性物質については、安全性、飲食品の風味への影響が少ない等の点で期待されている。前記乳酸菌が産生する抗菌性物質としては、乳酸等の有機酸、過酸化水素、ジアセチル等の低分子化合物などが既に知られており、更に、ヨーグルトスターター、チーズスターターとして利用されているラクトコッカス・ラクティス(
Lactococcus lactis)が産生するナイシン(Nisin)、ラクトコッカス・クレモリス(
Lactococcus cremoris)が産生するディプロコッキン(diplococcin)などのタンパク質も知られている。
しかし、これらの抗菌性物質は、カビの増殖を抑制することができないという問題がある。カビは、殆どすべての飲食品に対する腐敗菌となり、飲食品にとって大敵であり、飲食品分野においては可能な限りその増殖を抑制することが必要とされる。
【0004】
飲食品の中でも特にパンは、焼成直後に食すことが少なく、日持ちの長いものが望まれている。前記カビは、一般的に耐熱性が低いため、通常のパンの焼成条件で死滅するが、その後、冷却される過程で空気中のカビに接触する、あるいは、パンをスライスし、包装するなどの過程において、ヒトの手に接触することでパンにカビが付着することなどがあるため、このようなカビの発生を防ぐことが必要である。
【0005】
これに対し、油脂のトリアシルグリセロールリパーゼ処理物と、乳酸菌培養物もしくはその処理物とを含有するパンの青カビの増殖を抑制するための防カビ剤が提案されている(特許文献1参照)。
しかし、この提案の防カビ剤は、カビの中でも青カビのみにその効果が限定されてしまい、飲食品において増殖する多くのカビに対応できないという問題がある。
【0006】
そこで、本出願人は、カビの増殖を抑制し得る抗菌性物質を産生する乳酸菌として、ラクトバチルス・サンフランシスエンシス(
Lactobacillus sanfranciscencis)の新菌株や、ラクトバチルス・プランタラム(
Lactobacillus plantarum)の新菌株を開発し、特許を取得しているが(特許文献2及び3参照)、カビの増殖を更に効果的に抑制することができる抗菌性物質及び該抗菌性物質を産生する微生物の提供が望まれている。
【0007】
したがって、安全性が高く、カビ等の真菌の増殖を抑制でき、かつ飲食品の風味への影響が少ない抗菌性物質を産生する新規な乳酸菌の探索乃至開発が強く望まれているのが現状である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(ラクトバチルス・プランタラムの新菌株)
本発明のラクトバチルス・プランタラム(
Lactobacillus plantarum)は、本発明者が鋭意検討した結果、得られた新菌株であり、真菌の増殖を抑制する抗菌性物質を産生する。前記新菌株は、ラクトバチルス・プランタラムT16株として、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(〒292−0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8)に寄託申請し、平成23年12月27日、受領番号:NITE P−1195として受託されている。
【0014】
<抗菌性物質>
前記ラクトバチルス・プランタラム NITE P−1195は、真菌の増殖を抑制する抗菌性物質を産生することができる。
一般に乳酸菌が産生する抗菌性物質としては、バクテリアに対し増殖抑制能を示すバクテリオシンが知られているが、本発明の前記ラクトバチルス・プランタラム NITE P−1195が産生する抗菌性物質は、バクテリアではなく真菌に対する増殖抑制作用を示すため、真菌による汚染が問題となる飲食品への適用に特に好適である。
【0015】
前記抗菌性物質が増殖を抑制し得る前記真菌としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、糸状菌などが挙げられ、特にカビに好適である。
前記カビとしては、例えば、アスペルギルス(
Aspergillus)属、ペニシリウム(
Penicillium)属、クラドスポリウム(
Cladosporium)属などが挙げられる。
前記アスペルギルス属としては、例えば、黒麹カビ(
A.niger)、麹カビ(
A.oryzae)などが挙げられる。
前記ペニシリウム属としては、例えば、青カビ(
P.chrysogenum、
P.citrinum)などが挙げられる。
【0016】
前記抗菌性物質は、前記ラクトバチルス・プランタラム NITE P−1195が培養液中に分泌することにより産生される。前記抗菌性物質は、前記ラクトバチルス・プランタラム NITE P−1195の培養液を遠心分離、ろ過等することにより、前記ラクトバチルス・プランタラム NITE P−1195の菌体と分離した状態で得ることもできる。
【0017】
<性状、性質>
前記ラクトバチルス・プランタラム NITE P−1195は、グラム陽性無芽胞桿菌であり、嫌気性又は通性嫌気性であるラクトバチルス(
Lactobacillus)属に属する。
一般にラクトバチルス・プランタラム NITE P−1195のタイプ・ストレイン(type strain)では、D−ソルビトールを資化するのに対し、前記ラクトバチルス・プランタラム NITE P−1195では、D−ソルビトールを資化しない。このため、該ラクトバチルス・プランタラム NITE P−1195を他のラクトバチルス属乳酸菌から分離する際には、これらの糖資化性の違いを指標にすることができる。
【0018】
前記ラクトバチルス・プランタラム NITE P−1195は、上記のとおり独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターに寄託済であるので、分譲を受けてもよいし、前記栄養要求性などを指標にしてラクトバチルス属乳酸菌の中から分離してもよい。
前記栄養要求性から分離する場合、該分離は、例えば、前記D−ソルビトールの資化性の違いによりスクリーニングしたラクトバチルス属乳酸菌を、各種カビの胞子を含む溶液中で増殖させることにより、前記抗菌性物質の産生の有無を調べ、抗菌性物質を産生しているものを分離することができる。
【0019】
<培養>
前記ラクトバチルス・プランタラム NITE P−1195を培養する場合、使用できる培地としては、特に制限はなく、目的に応じて公知の乳酸菌培養培地の中から適宜選択することができる。
また、培養条件としても、特に制限はなく、目的に公知の乳酸菌培養条件の中から適宜選択することができる。
【0020】
<用途>
前記ラクトバチルス・プランタラム NITE P−1195は、真菌の増殖を抑制する抗菌性物質を産生することから、飲食品に使用すると該飲食品の日持ちを向上させることができる点で有利である。また、飲食品に好適に適用し得る後述の本発明の発酵物や、製パン用種、パン、パンの製造方法などにも好適に利用可能である。
【0021】
(発酵物)
本発明の発酵物は、本発明の前記ラクトバチルス・プランタラム NITE P−1195を少なくとも含有し、必要に応じて、更にその他の成分を含有する。
【0022】
<ラクトバチルス・プランタラム>
前記発酵物には、前記ラクトバチルス・プランタラム NITE P−1195が含まれている限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記ラクトバチルス・プランタラム NITE P−1195の培養液、該培養液から遠心分離等により菌体のみを分離したものなどが挙げられる。また、本発明の効果を損なわない限り、前記ラクトバチルス・プランタラム NITE P−1195は、生菌だけでなく、乾燥物や処理物などであってもよい。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0023】
前記ラクトバチルス・プランタラム NITE P−1195の乾燥物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、自然乾燥法、熱風乾燥法、通風乾燥法、噴霧乾燥法、減圧乾燥法、凍結乾燥法、天日乾燥法、真空乾燥法等により乾燥させたものなどが挙げられる。
【0024】
前記ラクトバチルス・プランタラム NITE P−1195の処理物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、酵素処理等の化学的処理を施したもの、加熱処理、機械的摩砕処理(例えば、フレンチプレス、マントンガウリンホモジナイザー、ダイノミル等による処理)、超音波処理等の物理的処理を施したものなどが挙げられる。このような処理物は、前記ラクトバチルス・プランタラム NITE P−1195の破砕物であってもよい。また、前記ラクトバチルス・プランタラム NITE P−1195の処理物としては、エタノールやメタノール等の溶媒、好ましくは食品に適用可能な溶媒で抽出されたものであってもよい。
【0025】
前記発酵物中の前記ラクトバチルス・プランタラム NITE P−1195の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、発酵終点での含有量として、1.0×10
7CFU/g以上が好ましく、1.0×10
8CFU/g以上がより好ましく、1.0×10
9CFU/g以上が特に好ましい。前記ラクトバチルス・プランタラム NITE P−1195の含有量が、1.0×10
7CFU/g未満であると、十分な防カビ性を付与することができないことがある。前記ラクトバチルス・プランタラム NITE P−1195の含有量の上限に臨界的な意義はないが、発酵物中の菌体量が多すぎると、パンに用いた場合、生地の発酵中に生成される有機酸量が多くなり、生地が緩みべたつきが生じることがあるため、1.0×10
11CFU/g以下であることが好ましい。
なお、前記CFUは、colony forming unit(コロニー形成単位)の略号である。
また、前記発酵物は、前記ラクトバチルス・プランタラム NITE P−1195に施したような、前記化学的処理、前記加熱処理、前記物理的処理などを更に施したものであってもよい。
【0026】
<その他の成分>
前記発酵物中の前記その他の成分としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、公知の食品添加物、糖類、イースト、乳化剤、着色剤、香料、保存料、油脂、小麦粉、水などが挙げられる。
前記その他の成分の含有量としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0027】
<製造方法>
前記発酵物を製造する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記ラクトバチルス・プランタラム NITE P−1195が発酵し得る培地に、該ラクトバチルス・プランタラム NITE P−1195を所望量接種し、所望の温度及び時間で発酵させる方法などが挙げられる。
必要に応じて添加し得る前記その他の成分は、前記ラクトバチルス・プランタラム NITE P−1195の発酵時に添加していてもよく、発酵後に添加してもよいが、発酵時に添加することが好ましい。
【0028】
前記ラクトバチルス・プランタラム NITE P−1195の培地への接種量、発酵させる温度、発酵させる時間などとしては、特に制限はなく、前記発酵物中の所望のラクトバチルス・プランタラム NITE P−1195の含有量などに応じて適宜選択することができる。
【0029】
なお、前記発酵物は、発酵物そのものであってもよく、該発酵物に、希釈、濃縮、乾燥などの処理を施したものであってもよく、該発酵物を精製したものであってもよい。したがって、前記発酵物の性状としては、特に制限はなく、液体であってもよく、固体であってもよい。
【0030】
<用途>
前記発酵物は、真菌の増殖を抑制できるラクトバチルス・プランタラム NITE P−1195を含有し、無害でありかつ飲食品の風味への影響が少ないため、飲食品に使用すると該飲食品の日持ちを向上させることができる点で有利であり、種々の飲食品や製パン用種等として好適に利用でき、特に後述の本発明の製パン用種、パン、及びパンの製造方法に好適に利用できる。
【0031】
(飲食品)
本発明の飲食品は、本発明の前記ラクトバチルス・プランタラム NITE P−1195を少なくとも含有し、必要に応じて、更にその他の成分を含有する。
【0032】
<ラクトバチルス・プランタラム>
前記飲食品には、前記ラクトバチルス・プランタラム NITE P−1195が含まれている限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記ラクトバチルス・プランタラム NITE P−1195の培養液、該培養液から遠心分離等により菌体のみを分離したものなどが挙げられる。また、本発明の効果を損なわない限り、前記ラクトバチルス・プランタラム NITE P−1195の生菌だけでなく、該ラクトバチルス・プランタラム NITE P−1195の乾燥物や処理物などであってもよい。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
前記ラクトバチルス・プランタラム NITE P−1195の菌体、乾燥物、処理物などとしては、前記発酵物と同様のものなどが挙げられる。
また、前記飲食品には、前記ラクトバチルス・プランタラム NITE P−1195の菌体、乾燥物、処理物などの代わりに、前記ラクトバチルス・プランタラム NITE P−1195の培養から分離及び/又は精製した抗菌性物質を含んでいてもよい。
【0033】
前記飲食品における、前記ラクトバチルス・プランタラム NITE P−1195の含有量としては、該飲食品に対して該抗菌性物質の抗菌性を奏し得る含有量であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0034】
前記飲食品中に前記抗菌性物質を含有させる方法としては、特に制限はなく、該飲食品の種類、目的等に応じて適宜選択することができる。
【0035】
<その他の成分>
前記飲食品中の前記その他の成分としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、該飲食品の原料、材料や、公知の食品添加物、調味料、着色料、保存料などが挙げられる。
前記その他の成分の含有量としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0036】
前記飲食品の種類としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、清涼飲料、炭酸飲料、栄養飲料、果実飲料、乳酸飲料等の飲料;アイスクリーム、アイスシャーベット、かき氷等の冷菓;そば、うどん、はるさめ、餃子の皮、シュウマイの皮、中華麺、即席麺等の麺類;飴、キャンディー、ガム、チョコレート、錠菓、スナック菓子、ビスケット、ゼリー、ジャム、クリーム、焼き菓子、パン等の菓子類;カニ、サケ、アサリ、マグロ、イワシ、エビ、カツオ、サバ、クジラ、カキ、サンマ、イカ、アカガイ、ホタテ、アワビ、ウニ、イクラ、トコブシ等の水産物;かまぼこ、ハム、ソーセージ等の水産・畜産加工食品;加工乳、発酵乳等の乳製品;サラダ油、てんぷら油、マーガリン、マヨネーズ、ショートニング、ホイップクリーム、ドレッシング等の油脂及び油脂加工食品;ソース、たれ等の調味料;カレー、シチュー、親子丼、お粥、雑炊、中華丼、かつ丼、天丼、鰻丼、ハヤシライス、おでん、マーボドーフ、牛丼、ミートソース、玉子スープ、オムライス、餃子、シューマイ、ハンバーグ、ミートボール等のレトルトパウチ食品;種々の形態の健康食品、栄養補助食品、医薬品、医薬部外品などが挙げられる。
【0037】
本発明のラクトバチルス・プランタラム NITE P−1195が産生する抗菌性物質は、耐熱性であり、オートクレーブ滅菌処理等を行ってもその抗菌性が失われないため、滅菌処理等の加熱処理を行うことが必要な飲食品であっても好適に使用し得る点で有利である。
また、前記飲食品は、抗菌性に優れるため、保存性に優れ、日持ちがよく、日持ち延長効果に優れる点で有利である。前記飲食品は、前記具体例の中でも、特に日持ちが問題とされるパンなどが好ましい。
【0038】
(製パン用種及びパン、並びにパンの製造方法)
本発明の製パン用種は、本発明の前記ラクトバチルス・プランタラム NITE P−1195を少なくとも含有し、小麦粉、水等の製パンに必要な各種成分を含有し、更に必要に応じて、その他の成分を含有する。
本発明のパンは、本発明の前記ラクトバチルス・プランタラム NITE P−1195を少なくとも含有し、小麦粉、水等のパンに必要な各種成分を含有し、更に必要に応じて、その他の成分を含有する。
本発明のパンの製造方法は、本発明の前記ラクトバチルス・プランタラム NITE P−1195を使用してパンを製造する工程を少なくとも含み、必要に応じて、更にパンの製造方法として公知の工程を含んでいてもよい。
本発明の前記製パン用種は、本発明の前記パンの製造方法に好適に用いられ、本発明の前記パンは、本発明の前記パンの製造方法により好適に製造される。
【0039】
本発明の前記製パン用種及び前記パン、並びに前記パンの製造方法においては、本発明の前記ラクトバチルス・プランタラム NITE P−1195を含有又は使用するが、該ラクトバチルス・プランタラム NITE P−1195が産生する抗菌性物質は、耐熱性であることから、パンの焼成工程を経てもその抗菌性が失われないため、該製パン用種及び該パンの製造方法を使用して得られたパンは、カビ等の真菌に対する保存性に優れ、日持ちが良く、日持ち延長効果に優れる点で有利である。
【0040】
<抗菌性物質>
前記製パン用種及び前記パン、並びに前記パンの製造方法において含有又は使用する前記ラクトバチルス・プランタラム NITE P−1195としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、該ラクトバチルス・プランタラム NITE P−1195の培養液、該培養液から遠心分離等により菌体のみを分離したものなどが挙げられる。また、本発明の効果を損なわない限り、前記ラクトバチルス・プランタラム NITE P−1195の生菌だけでなく、該ラクトバチルス・プランタラム NITE P−1195の乾燥物や処理物などであってもよい。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
前記ラクトバチルス・プランタラム NITE P−1195の菌体、乾燥物、処理物などとしては、前記発酵物と同様のものなどが挙げられる。
また、前記製パン用種及び前記パン、並びに前記パンの製造方法には、前記ラクトバチルス・プランタラム NITE P−1195の菌体、乾燥物、処理物などの代わりに、前記ラクトバチルス・プランタラム NITE P−1195の培養から分離及び/又は精製した抗菌性物質を含有又は使用してもよい。
【0041】
前記製パン用種及び前記パンにおける前記ラクトバチルス・プランタラム NITE P−1195の含有量としては、該製パン用種及び該パンに対して該抗菌性物質の抗菌性を奏し得る含有量であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、十分な抗菌作用が得られる点で、1.0×10
7CFU/g以上が好ましく、1.0×10
9CFU/g以上がより好ましい。
【0042】
本発明の前記パンの製造方法としては、特に制限はなく、公知のものの中から適宜選択することができ、例えば、中種パンの製造方法、直捏法(ストレート法)、液種法などが挙げられる。これらの中でも、パン生地中で前記ラクトバチルス・プランタラム NITE P−1195が発酵等し得る点で、中種法が好ましい。なお、前記パンの製造方法における各種操作、条件等については、特に制限はなく、公知の操作、条件等の中から適宜選択することができる。
【0043】
前記パンのpHとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、4.5〜6.5が好ましく、真菌の増殖の抑制作用に優れる点で、5.0〜5.5がより好ましい。前記pHが、4.5未満であると、パンの風味が悪くなることや、グルテンの網目構造を弱め、ガス保持力を低下させ、パンの品質に影響を与えることなどがあり、6.5を超えると、パンの風味が悪くなることなどがある。
前記パンのpHは、パンを水等の溶媒と混合して破砕し、破砕液のpHを、pHメーター(株式会社堀場製作所製)で測定することにより確認できる。
【実施例】
【0044】
以下に本発明の実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0045】
(実施例1)
<ラクトバチルス・プランタラムT16株の分離及び同定>
カビの増殖を抑制する抗菌性物質を産生するラクトバチルス・プランタラム(受託番号:NITE P−1195)T16株は、Broberg A. et al., Appl. Environ. Microbiol., 2007, Sep;73(17), 5547−5552, Epub 2007, Jul 6.、Lavermicocca P. et al., Appl. Environ. Microbiol., 2000,Sep;66(9), 4084−4090、及びLavermicocca P. et al., Appl. Environ. Microbiol., 2003, Jan;69(1), 634−640を参照して以下の方法で分離した。
【0046】
−乳酸菌の培養−
まず、滅菌済みの小試験管に滅菌したMRS培地(Difco社製)を5mLずつ分注し、ここに1,300種類の乳酸菌をそれぞれ接種し、温度30℃にて静置培養した。16時間以上培養した試験管を3,000rpmで5分間遠心した後、得られた培養上清を滅菌済みの小試験管に500μLずつ分注した。なお、乳酸菌の標準菌株としては、FERM P−18246及びFERM P−21534を用いた。
なお、ラクトバチルス・サンフランシスエンシス FERM P−18246の詳細は、特開2002−291466号公報に開示されているカビに対する抗菌作用を有する乳酸菌であり、また、ラクトバチルス・プランタラム FERM P−21534の詳細は、特開2009−261249号公報に開示されているカビに対する抗菌作用を有する乳酸菌である。いずれも、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許生物寄託センターより入手できる。
【0047】
−黒麹カビ胞子液及び青カビ胞子液の調製−
ポテトデキストロース寒天培地(栄研化学株式会社製)に、黒麹カビ(
Aspergillus niger JCM5546(独立行政法人理化学研究所バイオリソースセンターより入手)又は青カビ(
Penicillium sp.)を接種し、充分に生育させた後、寒天培地上に生育した黒麹カビ及び青カビをそれぞれ採取し、生理食塩水中に懸濁後、1.0×10
4CFU/mL程度まで希釈した。
【0048】
なお、前記青カビ(
Penicillium sp.)は、パンに生育したものである。カビの生育が見られたパンを生理食塩水を加えて粉砕及び懸濁し、ポテトデキストロース寒天培地(栄研化学株式会社製)に塗沫した。得られたコロニーを分離し、単独培養して形態観察したところ、Penicillium属に属するカビであると推定した。
【0049】
−ラクトバチルス・プランタラムのスクリーニング−
前記小試験管中の乳酸菌の培養上清500μLに、前記希釈したカビ胞子液500μLを添加し、混合した。次いで、温度30℃にて2日間静置培養した。
培養後のカビの増殖の度合いを目視にて観察し、前記標準菌株と比較して、最もカビの増殖を抑制した乳酸菌を選択し、分離した。
【0050】
−簡易同定−
前記分離した乳酸菌の菌株の簡易同定として、菌の形状観察、糖資化性の確認、及び16SrRNA配列の解読を行った。その結果、分離した乳酸菌は、グラム陽性、カタラーゼ陰性の桿菌であり、D−ソルビトールを資化せず、乳酸菌(ラクトバチルス・プランタラム)の新菌株であることを同定した。この新菌株を、ラクトバチルス・プランタラムT16株とした。
なお、ここで分離した乳酸菌ラクトバチルス・プランタラムT16株は、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターに寄託申請し、平成23年12月27日、受領番号:NITE P−1195として受託された。
【0051】
(製造例1)
<発酵物1の調製>
実施例1で分離したラクトバチルス・プランタラムT16株を用いて、下記組成及び配合量の発酵種を調製し、温度30℃にて64時間発酵させることにより発酵物1を得た。なお、発酵開始から16時間後、24時間後、及び40時間後に、前記発酵種に塩酸及び/又は水酸化ナトリウムを添加し、pH5.0となるように調整した。発酵終点でのラクトバチルス・プランタラムT16株の含有量は、1.5×10
9CFU/gであった。
[組成]
・小麦粉(日清製粉株式会社製) 10質量%
・ブドウ糖(商品名:グルファイナル、サンエイ糖化株式会社製) 7質量%
・イーストエキス(商品名:醇味T−154、オリンタル酵母工業株式会社製)1質量%
・ラクトバチルス・プランタラムT16株(実施例1) 1.0×10
7CFU/g
・
水 残部
合計 100質量%
【0052】
(比較製造例1)
<発酵物2の調製>
製造例1において、ラクトバチルス・プランタラムT16株を、ラクトバチルス・サンフランシスエンシス(
Lactobacillus sanfranciscencis FERM P−18246)に変えたこと以外は、製造例1と同様の方法で、比較製造例1の発酵物2を調製した。発酵終点でのラクトバチルス・サンフランシスエンシスの含有量は、2.1×10
9CFU/gであった。
【0053】
(比較製造例2)
<発酵物3の調製>
製造例1において、ラクトバチルス・プランタラムT16株を、ラクトバチルス・プランタラム FERM P−21534に変えたこと以外は、製造例1と同様の方法で、比較製造例2の発酵物3を調製した。発酵終点でのラクトバチルス・プランタラム FERM P−21534の含有量は、3.8×10
9 CFU/gであった。
【0054】
製造例1、比較製造例1、及び比較製造例2で調製した発酵物1〜3について、下記表1にまとめて示す。
【0055】
【表1】
【0056】
(製造例2)
<食パン1の製造>
−中種製パン法用中種の製造−
製造例1で調製した発酵物1を用いて、下記組成及配合量の中種製パン法用中種を調製した。ミキンシング条件は、低速2分間・中速1分間(L2M1)であり、捏上温度24℃にて捏上した後、温度28℃、相対湿度85%の条件で4時間発酵させた。
[組成]
・小麦粉(商品名:カメリヤ、強力粉、日清製粉株式会社製) 70質量部
・イースト(商品名:レギュラー、オリンタル酵母工業株式会社製) 2.3質量部
・製パン改良剤 0.1質量部
(商品名:ニューオリコフード、オリエンタル酵母株式会社製)
・発酵物1(製造例1) 5質量部
・水 40質量部
【0057】
−食パンの製造−
前記中種製パン法用中種を用い、下記条件にて本捏を行った後、仕上げ(分割重量:220g/6個(プルマン)、ベンチ:25℃にて23分間発酵後成型及び型詰めした)、ホイロ発酵(35℃、相対湿度85%、40分間〜60分間、型下30mm)、焼成(上火210℃、下火220℃、28分間)を行い、食パン1を製造した。なお、本捏のミキンシング条件は、低速1分間・中速3分間・ショートニング添加後・中速3分間・高速1分間(L1M3↓M3H1)であり、28℃にて、フロアタイム20分間で捏上した。
なお、中種製パン法用中種は、本捏において5質量%添加した。
[組成]
・小麦粉(商品名:カメリヤ、強力粉、日清製粉株式会社製) 30質量部
・食塩 2質量部
・グラニュー糖 5質量部
・脱脂粉乳 2質量部
・ショートニング 4質量部
・水 28質量部
【0058】
(比較製造例3)
<食パン2の製造>
製造例2の中種製パン法用中種の製造工程において、発酵物1を添加しなかったこと以外は、製造例2と同様の方法で比較製造例3の食パン2を製造した。
【0059】
(比較製造例4)
<食パン3の製造>
製造例2の中種製パン法用中種の製造工程において、発酵物1を、発酵物2(比較製造例1)に変えたこと以外は、製造例2と同様の方法で比較製造例4の食パン3を製造した。
【0060】
(比較製造例5)
<食パン4の製造>
製造例2の中種製パン法用中種の製造工程において、発酵物1を、発酵物3(比較製造例2)に変えたこと以外は、製造例2と同様の方法で比較製造例5の食パン4を製造した。
【0061】
製造例2、及び比較製造例3〜比較製造例5の食パン1〜4について、下記表2にまとめて示す。
【0062】
【表2】
【0063】
(実施例2〜3、比較例1〜6)
食パン1〜4を用いて、以下に示す方法で、カビの増殖抑制作用の評価、並びに、pHの測定を行った。結果を下記表3及び4に示す。
【0064】
<<カビの増殖抑制作用の評価>>
−カビ胞子液の食パンへの接種−
実施例1と同様の方法で調製した黒麹カビ胞子液又は青カビ胞子液を、1スポット当たり5胞子となるように、焼成後1日間経過した食パン(パンクラム)1〜4に9箇所スポットした。この食パンを、温度28℃、相対湿度60%の条件下で保管し、黒麹カビ胞子液又は青カビ胞子液のスポットから1日目、2日目、3日目、4日目、及び5日目の各スポットの様子を目視にて観察し、下記評価基準に従いカビの増殖抑制作用について評価した。また、5日目の黒麹カビのスポットの様子を
図1に、5日目の青カビのスポットの様子を2に示す。
なお、1スポット当たりの胞子数は、調製した黒麹カビ胞子液又は青カビ胞子液をポテトデキストロース寒天培地(栄研化学株式会社製)に接種し、予め黒麹カビ胞子液又は青カビ胞子液中に存在する胞子数を算出し、その胞子数に基づき、1スポット当たり5胞子となるように、黒麹カビ胞子液又は青カビ胞子液を生理食塩水で希釈することで調整した。
[評価基準]
−:全くカビの生育が認められない
±:平均直径3mm未満のカビのコロニーがわずかに認められた
+:平均直径3mm以上6mm未満のカビの小さなコロニーが認められた
++:平均直径6mm以上10mm未満のカビの中程度のコロニーが認められた
+++:平均直径10mm以上30mm未満のカビの大きなコロニーが認められた
【0065】
<<pHの測定>>
10gの食パン1〜4をそれぞれ水90mLと混合し、ホモジナイザーを用いて260rpmで3分間破砕し、破砕液を調製した。この破砕液のpHを、pHメーター(株式会社堀場製作所製)で測定し、この値を食パン1〜4のpHとした。
【0066】
【表3】
【0067】
【表4】
【0068】
表3及び4の結果より、ラクトバチルス・プランタラムT16株(受託番号:NITE P−1195)を用いた場合、従来抗菌作用を有することが知られている乳酸菌と比較して、より優れた抗菌作用を有することがわかった。