特許第5921977号(P5921977)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5921977
(24)【登録日】2016年4月22日
(45)【発行日】2016年5月24日
(54)【発明の名称】バリア絶縁膜形成方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 16/56 20060101AFI20160510BHJP
【FI】
   C23C16/56
【請求項の数】4
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2012-150255(P2012-150255)
(22)【出願日】2012年7月4日
(65)【公開番号】特開2014-12868(P2014-12868A)
(43)【公開日】2014年1月23日
【審査請求日】2015年4月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(72)【発明者】
【氏名】畠中 正信
(72)【発明者】
【氏名】原田 雅通
(72)【発明者】
【氏名】柴田 明宏
【審査官】 末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第09/107205(WO,A1)
【文献】 国際公開第08/105360(WO,A1)
【文献】 特開2010−010624(JP,A)
【文献】 特開2009−049326(JP,A)
【文献】 特開平03−198329(JP,A)
【文献】 特開2010−010626(JP,A)
【文献】 特開2008−311663(JP,A)
【文献】 特開2010−087233(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 16/00−16/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン基板が有する貫通電極用の孔の内側面にバリア絶縁膜を形成するバリア絶縁膜形成方法であって、
活性化した窒素とZr(BHとを前記シリコン基板に供給して該Zr(BHを窒素で窒化することにより前記孔の内側面をZrBN膜で覆う被覆工程と、
活性化した酸素として酸素ラジカルを前記ZrBN膜に供給して該ZrBN膜を酸化することにより前記孔の内側面にZrBON膜を形成する酸化工程と
を備えるバリア絶縁膜形成方法。
【請求項2】
前記被覆工程と前記酸化工程との組を複数回繰り返す
請求項1に記載のバリア絶縁膜形成方法。
【請求項3】
前記被覆工程では、
窒素ラジカル、水素ラジカル、及びZr(BHを前記基板に供給することにより前記ZrBN膜を形成す
請求項1又は2に記載のバリア絶縁膜形成方法。
【請求項4】
前記被覆工程では、
ガスを励起して窒素ラジカルを生成するとともに、
ガスを励起して水素ラジカルを生成し、
ガスとHガスとの分圧比(PN2/PH2)を3<PN2/PH2<5とする
請求項に記載のバリア絶縁膜形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、バリア絶縁膜、特に、シリコン貫通電極(Through Silicon Via:TSV)の周囲に形成されてTSVとシリコン基板とを絶縁するためのバリア絶縁膜の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、シリコン系の半導体デバイスには、層間絶縁膜の構成材料であるシリコン酸化物や、例えば特許文献1に記載のように、キャパシタの構成材料である遷移金属酸化物等、各種の絶縁材料が用いられている。
【0003】
また、近年では、こうした半導体デバイスの高性能化を図る技術の一つとして、例えば特許文献2に記載のように、シリコン基板に形成された貫通電極(シリコン貫通電極:Through Silicon Via (TSV))を介して複数の半導体チップを積層する三次元実装技術が注目されている。図9には、TSVを有した半導体装置の一部断面構造が示されている。
【0004】
半導体装置10は、トランジスタ等の素子が形成されたシリコン基板11と、該シリコン基板11の上面に積層されるとともに、例えば低誘電率の絶縁膜にシリコン基板11の素子と接続される各種配線が形成された配線層12とを有している。そして、配線層12の上面を覆うように例えば酸化シリコン等の絶縁層13が形成されているとともに、シリコン基板11の下面を覆うように接着層14が形成されている。
【0005】
また、半導体装置10には、上記接着層14、シリコン基板11、配線層12、及び絶縁層13を貫通する貫通孔Hが形成されている。貫通孔Hには、例えば銅等の金属によって形成されたシリコン貫通電極15が、バリア絶縁膜16を介して形成されている。バリア絶縁膜16は、シリコン貫通電極15と配線層12の配線とが接続することや、シリコン貫通電極15を構成する金属元素が貫通孔Hの外側に移動することを抑える。
【0006】
こうした半導体装置10は、上記接着層14を介して他の半導体装置と三次元的に実装される。この際、上記シリコン貫通電極15は、半導体装置10の上面側の半導体装置、あるいは該半導体装置10の下面側の半導体装置が有する配線等と接続される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−311663号公報
【特許文献2】特開2010−87233号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上記シリコン貫通電極15の周囲には、該シリコン貫通電極15とシリコン基板11とを絶縁するためのバリア絶縁膜16が必要である。そして、上述のようなシリコン酸化物や遷移金属酸化物等は、こうしたシリコン貫通電極15用のバリア絶縁膜16を形成する材料として用いることが可能ではある。
【0009】
ここで、シリコン貫通電極15用のバリア絶縁膜16には、下記(a)(b)の特性が求められる。
(a)シリコン貫通電極15における信号遅延を抑えるための誘電率
(b)シリコン貫通電極15とシリコン基板11との間における絶縁性
上述した層間絶縁膜に利用されるようなシリコン酸化膜によれば、上記(a)を満たすことができるものの、熱CVD法により形成されるシリコン酸化膜よりも膜密度が低く、また多くの不純物を含むことになるため、上記(b)を満たすことは極めて困難である。他方、キャパシタに利用されるような遷移金属酸化膜によれば、上記(b)を満たすことができるものの、上記(a)を満たすことは極めて困難である。
【0010】
それゆえに、シリコン貫通電極15用のバリア絶縁膜16としてより適切な性質を有した膜が要請されている。
この発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、シリコン貫通電極における信号遅延を抑えつつ該シリコン貫通電極とシリコン基板との絶縁性を高めることのできるバリア絶縁膜形成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
以下、上記課題を解決するための手段及びその作用効果について記載する。
請求項1に記載の発明は、シリコン基板が有する貫通電極用の孔の内側面にバリア絶縁膜を形成するバリア絶縁膜形成方法であって、活性化した窒素とZr(BHとを前記シリコン基板に供給して該Zr(BHを窒素で窒化することにより前記孔の内側面をZrBN膜で覆う被覆工程と、活性化した酸素として酸素ラジカルを前記ZrBN膜に供給して該ZrBN膜を酸化することにより前記孔の内側面にZrBON膜を形成する酸化工程とを備えることを要旨とする。
【0012】
Zr(BHの窒化によって得られるZrBN膜は、銅等の金属配線用のバリア膜として鋭意研究がなされている。そして、本願発明者らは、ZrBN膜が有するバリア性と段差被覆性とを研究する過程で、ZrBN膜の酸化によって得られるZrBON膜が以下の特性を有することを見出した。
・ZrBON膜は、バリア性を維持しつつ、熱CVD法で形成されたシリコン酸化物膜と略同じ程度の絶縁性も発現する。
・ZrBON膜は、遷移金属であるZrの酸化物でありながらも、シリコン系酸化物と同じ程度の誘電率を有する。
【0013】
上記請求項1に記載の発明によれば、貫通電極用の孔の内側面がZrBN膜で覆われた後、該ZrBN膜の酸化によって、該孔の内側面がZrBON膜で覆われることとなる。そのため、ZrBN膜と同じ程度の段差被覆性をバリア絶縁膜に与えつつ、シリコン系の絶縁膜と同じ程度の誘電率、及び熱CVDによって形成されるシリコン酸化膜と同じ程度の絶縁性をバリア絶縁膜としてのZrBON膜に与えることができる。
【0014】
また、上記ZrBN膜の酸化自体は、活性化した酸素の1つである酸素イオンをZrBN膜に供給することによっても可能ではある。しかしながら、活性化した酸素として酸素イオンを用いる場合には、酸素イオンがZrBN膜に入射するときのエネルギーによって、ZrBN膜がダメージを受けやすい。
【0015】
この点、請求項に記載の発明によれば、活性化した酸素として酸素ラジカルが用いられるため、上述したようなダメージを抑えつつ、十分な絶縁性が得られるだけZrBN膜を酸化することができる。
【0016】
請求項に記載の発明は、前記被覆工程と前記酸化工程との組を複数回繰り返すことを要旨とする。
上記方法によれば、同一の膜厚を有したZrBON膜を形成する場合、被覆工程と酸化工程とを1度ずつのみ行うことによってZrBON膜を形成するよりも、膜の全体がより確実に酸化されたZrBON膜を形成することができる。
【0017】
請求項に記載の発明は、前記被覆工程では、窒素ラジカル、水素ラジカル、及びZr(BHを前記基板に供給することにより前記ZrBN膜を形成することを要旨とする。
【0018】
ZrBN膜の形成にあたり、窒素ラジカル及びZr(BHと共に水素ラジカルが供給されると、窒素ラジカルによって窒化されたZrBN粒子の末端部分は、水素ラジカルによって終端(ターミネート)される。
【0019】
それゆえに、上記請求項に記載の発明のように、被覆工程において窒素ラジカルとZr(BHに加えて水素ラジカルを基板に供給することによって、水素ラジカルによるターミネート効果が発現される分、ZrBN粒子のサイズを小さくすることができる。ひいては、ZrBON膜の段差被覆性をより高めることができるとともに、バリア絶縁膜の形成工程におけるパーティクルの発生を抑えることもできる。
【0020】
請求項に記載の発明は、前記被覆工程では、Nガスを励起して窒素ラジカルを生成するとともに、Hガスを励起して水素ラジカルを生成し、NガスとHガスとの分圧比(PN2/PH2)を3<PN2/PH2<5とすることを要旨とする。
【0021】
上記被覆工程において水素ラジカルを添加しつつZrBN膜を形成するとZrBN膜の段差被覆性が高められるものの、水素ラジカルを添加することなくZrBN膜を形成したときよりも成膜レートが低くなる。
【0022】
この点、上記請求項に記載の発明のように、窒素ガスと水素ガスとの分圧比を上記範囲とすれば、成膜レートの低下を抑えつつ、ZrBN膜の段差被覆性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1リア絶縁膜形成装置の断面構造を示す断面図。
図2】同バリア絶縁膜形成装置が有する成膜チャンバの概略構成を示す図。
図3】バリア絶縁膜形成方法の処理手順を示すフローチャート。
図4】(a)Zr(BHガス、(b)Nガス、(c)Hガス、(d)Oガス、及び(e)マイクロ波電源からの電力の供給態様を示すタイミングチャート。
図5】ZrBON膜に印加した電界と、そのときの電流密度との関係を示すグラフ。
図6】(a)(b)(c)(d)Hガスを添加しないで形成したZrBN膜と該ZrBN膜が形成された貫通孔との断面構造を撮像したSEM画像。
図7】(a)(b)(c)(d)Hガスを添加して形成したZrBN膜と該ZrBN膜が形成された貫通孔との断面構造を撮像したSEM画像。
図8】ZrBN膜形成時におけるPN2/PH2と、貫通孔の各部におけるZrBN膜の被覆率との関係を示すグラフ。
図9】シリコン貫通電極を有する半導体装置の一部断面構造を示す部分断面図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明のバリア絶縁膜形成方法の一実施形態について、図1図8を参照して説明する。まず、図1及び図2を参照して、バリア絶縁膜形成装置について説明する。なお、本実施形態のバリア絶縁膜形成方法及びバリア絶縁膜形成装置の処理対象である基板とは、上記半導体装置10においてバリア絶縁膜16とシリコン貫通電極15とが形成されていない構造物のことである。
【0027】
図1は、成膜装置として具現化されたバリア絶縁膜形成装置の概略構成を示している。成膜装置20は、ロードロックチャンバ21と、ロードロックチャンバ21に連結されたコアチャンバ22と、コアチャンバ22に連結された2つの成膜チャンバ23と、同じくコアチャンバ22に連結された2つの酸化チャンバ24とを有している。コアチャンバ22に接続された各チャンバ23,24とロードロックチャンバ21とは、コアチャンバ22とこれらチャンバとの間に設けられたゲートバルブが開放されることによって、1つの真空系を形成することができる。なお、以下では、成膜チャンバ23での成膜処理の後に酸化チャンバ24での酸化処理が実施されるものとして、上記各チャンバの機能を説明する。
【0028】
ロードロックチャンバ21は、複数の基板Sを収容する真空槽である。基板Sに対する成膜処理が開始されるときには、基板Sが、ロードロックチャンバ21を介して成膜装置20内部に運ばれる。また、基板Sに対する酸化処理が終了されるときには、基板Sが、ロードロックチャンバ21を介して成膜装置20の外部に運ばれる。
【0029】
コアチャンバ22は、基板Sを搬送する搬送ロボット22aが搭載された真空槽である。基板Sに対する成膜処理が開始されるときには、ロードロックチャンバ21内の基板Sが、搬送ロボット22aによってコアチャンバ22を介して成膜チャンバ23に運ばれる。また、基板Sに対する酸化処理が終了されるときには、酸化チャンバ24内の基板Sが、搬送ロボット22aによってコアチャンバ22を介してロードロックチャンバ21に運ばれる。
【0030】
成膜チャンバ23は、CVD法を用いて基板Sに対してホウ窒化ジルコニウム(ZrBN)膜を形成する真空槽である。図2は、成膜チャンバ23の概略構成を示している。成膜チャンバ23は、上部に開口を有したチャンバ本体31と、チャンバ本体31の上部に配設されることでその開口を塞ぐチャンバリッド32とを備えている。
【0031】
チャンバ本体31とチャンバリッド32とによって形成される内部空間である成膜室31Sには、基板Sが載置される基板ステージ33が配設されている。基板ステージ33に内設された抵抗加熱ヒータ33Hは、基板ステージ33に基板Sが載置されるときに、基板Sの温度を例えば150℃〜240℃の所定温度にまで昇温させる。基板Sは、基板ステージ33に載置されることによって、成膜室31S内での位置が決められるとともに、成膜処理が行われている間中、その温度が所定温度に維持される。基板ステージ33の下方には、基板Sの搬出入を行う際等に基板ステージ33を上下方向に動かす昇降機構34が連結されている。
【0032】
チャンバ本体31の側部には、排気ポートP1を介して成膜室31S内を排気する排気ポンプ35が接続されている。排気ポンプ35は、ターボ分子ポンプやドライポンプ等の各種ポンプによって構成されるものであって、成膜チャンバ23での成膜処理を行うときには、成膜室31S内の圧力を例えば1Pa〜1000Paの所定圧力に減圧する。
【0033】
チャンバリッド32のチャンバ本体31側には、複数の第1供給孔H1と、複数の第2供給孔H2とを有するシャワープレート36が取り付けられている。
第1供給孔H1は、ZrBN膜の形成材料である四水素化ホウ素ジルコニウム(Zr(BH)を成膜室31Sに供給する。より詳しくは、第1供給孔H1には、チャンバリッド32の内部に形成されたガス通路GP1と該チャンバリッド32を貫通する原料ガスポートP2とを介して、Zr(BHの入った原料タンクTKが接続されている。原料タンクTKには、キャリアガスであるアルゴン(Ar)を該原料タンクTKに供給するためのマスフローコントローラMFC1が接続されている。原料タンクTKは、マスフローコントローラMFC1からのキャリアガスによってバブリングされたZr(BHを、キャリアガスとともに原料ガスポートP2に導出することで、Zr(BHとキャリアガスとを第1供給孔H1から成膜室31Sに供給する。
【0034】
他方、第2供給孔H2は、励起した窒素及び励起した水素を成膜室31Sに供給する。より詳しくは、第2供給孔H2には、チャンバリッド32の内部に形成されたガス通路GP2と該チャンバリッド32を貫通する励起ガスポートP3とを介して、窒素(N)ガスを供給するマスフローコントローラMFC2、水素(H)ガスを供給するマスフローコントローラMFC3、及びArガスを供給するマスフローコントローラMFC4が接続されている。これらマスフローコントローラMFC2,MFC3,MFC4は、各ガスを所定流量に調量しつつ励起ガスポートP3に導出する。
【0035】
ガス通路GP2の内部であって、励起ガスポートP3と第2供給孔H2との間には、石英あるいはアルミナによって形成された耐熱性を有する照射管37が配設されている。照射管37及びチャンバリッド32の外側には、マイクロ波電源FGによって駆動されるマイクロ波源38が配設されている。また、マイクロ波源38と照射管37との間には、マイクロ波源38に接続される一方、照射管37との間には隙間を有する導波管39が配設されている。マイクロ波源38は、例えば2.45GHzのマイクロ波を発振させるマグネトロンであって、マイクロ波電源FGからの駆動電力により所定の出力範囲、例えば0.01kW〜3.0kWの範囲でマイクロ波を出力する。導波管39は、マイクロ波源38が発振させるマイクロ波を内部に伝播させることで照射管37の内部に導く。また、導波管39は、マイクロ波源38がマイクロ波を発振させるときに、照射管37を通過するガスにマイクロ波を照射することで該ガスを励起させる。なお、成膜チャンバ23は、各種ガスの励起によって生成されたラジカルが、成膜室31S内に供給される粒子の大部分を占めるような構成とされている。
【0036】
こうした成膜チャンバ23では、マスフローコントローラMFC2、マイクロ波電源FG、照射管37、マイクロ波源38、導波管39、チャンバリッド32、及びシャワープレート36が、窒素供給部を構成している。また、マスフローコントローラMFC1、原料タンクTK、チャンバリッド32、及びシャワープレート36が、原料供給部を構成している。
【0037】
酸化チャンバ24は、ZrBN膜が形成された基板Sを酸化する真空槽である。該酸化チャンバ24は、先の図2に示される成膜チャンバ23から原料ガスポートP2、ガス通路GP1、及び第1供給孔H1が割愛された構成であって、酸素ガスを供給するマスフローコントローラが励起ガスポートP3に接続された構成である。より詳しくは、酸化チャンバ24は、酸素供給部によりマイクロ波で励起された酸素を基板Sの表面に供給することで、ZrBN膜からZrBON膜を形成する。なお、本実施形態の成膜装置20では、成膜チャンバ23と酸化チャンバ24とが各別に設けられている。しかしながら、成膜チャンバ23の励起ガスポートP3に酸素ガスを供給するマスフローコントローラを接続することによって、基板SにZrBN膜を形成すること及び該ZrBN膜を酸化することができる単一の真空槽としてもよい。
【0038】
次に、図3及び図4を参照して、バリア絶縁膜形成方法について説明する。図3は、バリア絶縁膜形成方法の処理手順を示すフローチャートである。バリア絶縁膜を形成する際には、上記成膜チャンバ23において、基板S上にZrBN膜を形成することでその表面を覆う被覆工程が実施される(ステップS1)。
【0039】
このとき、マスフローコントローラMFC2からのNガスが、照射管37内で励起されつつ成膜室31S内に供給される。加えて本実施形態では、マスフローコントローラMFC3からのHガスも照射管37内で励起されつつ成膜室31Sに供給される。また、マスフローコントローラMFC1からのArガスと原料タンクTK内のZr(BHとの混合物であるZr(BHガスが成膜室31Sに供給される。
【0040】
上述のように、被覆工程では、Zr(BHを窒化する励起された窒素として窒素ラジカルを用いるようにしている。そのため、励起された窒素の一つである窒素イオンを用いる場合と比較して、励起された窒素が基板Sの表面に達することで既に形成されたZrBN膜に与えるダメージを小さくできる。
【0041】
Zr(BHと励起された窒素(窒素ラジカル)とを反応させることでZrBN膜を形成するときに、形成反応の起こる雰囲気中に励起された水素(水素ラジカル)が存在すると、ZrBNの有する未結合手の少なくとも一部は水素によって終端(ターミネート)されるようになる。そのため、ZrBNの粒子径が大きくなりにくいことから、基板Sの有する貫通孔Hにおける内表面の全体にZrBN膜が形成されやすくなる。言い換えれば、形成されるZrBN膜の段差被覆性が高められるようになる。加えて、上記チャンバ本体31の内壁やシャワープレート36の開口面等にZrBNが堆積しにくくなることから、成膜室31S内にはパーティクルが発生しにくくなる。そして、Zr(BHガスと窒素ラジカル及び水素ラジカルとが反応することによって、ZrBN膜が基板Sの上面と該基板Sに形成された上記貫通孔Hの内側面とに形成される。なお、被覆工程では、上記Nガス及びHガスに加えて、マスフローコントローラMFC4からArガスを供給することによって、成膜室31S内の圧力を調整するようにしてもよい。
【0042】
次いで、ZrBN膜の形成された基板Sが、成膜チャンバ23から酸化チャンバ24に運ばれた後、基板Sの表面を酸化することでZrBN膜からZrBON膜を形成する酸化工程が実施される(ステップS2)。
【0043】
このとき、照射管内で励起された酸素(酸素ラジカル)が成膜室内に供給されることによって、基板Sを覆うZrBN膜がその表面から酸化される。本実施形態では、ZrBN膜は、基板Sの表面及び貫通孔Hの内側面に形成されたZrBN膜の面方向及び厚さ方向の全体が酸化される。
【0044】
こうしたZrBN膜の酸化自体は、酸素イオンをZrBN膜の表面に供給することによっても可能ではある。しかしながら、酸素イオンを用いた場合、該酸素イオンがZrBN膜に入射するときのエネルギーによって、ZrBN膜がダメージを受けやすい。この点、本実施形態によれば、酸素イオンよりもエネルギーの小さい酸素ラジカルを用いてZrBN膜の酸化を行うようにしていることから、ZrBN膜へのダメージを抑えつつZrBON膜を酸化することができる。しかも、ZrBON膜の形成時には、ZrBN膜の面方向及び厚さ方向の全体が酸化されるようにしている。そのため、貫通孔Hの内側面に形成されたバリア絶縁膜16の全体にわたり絶縁性が発現されることから、シリコン貫通電極15と、該シリコン貫通電極15に接続される配線等以外の導電物とがより確実に絶縁されるようになる。なお、酸化工程においても、Oガスに加えてArガスを供給することによって、成膜室内の圧力を調整するようにしてもよい。
【0045】
そして、被覆工程と酸化工程との組がn回、例えば5回ずつ実施されることによって所定膜厚のZrBON膜が形成されるまで、ZrBN膜の形成とその酸化とが繰り返し実施される(ステップS3)。このように、本実施形態においては、被覆工程と酸化工程との組を複数回繰り返すことによってZrBON膜を形成するようにしている。そのため、同一の膜厚を有したZrBON膜を形成する場合、被覆工程と酸化工程とを1度ずつのみ行うことによってZrBON膜を形成するよりも、膜の全体がより確実に酸化されたZrBON膜を形成することができる。
【0046】
次いで、上記被覆工程と酸化工程について、図4を参照して詳述する。図4は、バリア絶縁膜の形成時における(a)Zr(BNガス、(b)Nガス、(c)Hガス、及び(d)Oガスを供給するマスフローコントローラのオン(ON)及びオフ(OFF)の態様を示すことによって、各ポートに対する各種ガスの供給態様を示している。加えて、(e)マイクロ波電源のオン(ON)及びオフ(OFF)の態様を示すことによって、マイクロ波源から照射管へのマイクロ波の供給態様を示している。
【0047】
まず、成膜チャンバ23に基板Sが搬入された状態で、Zr(BHガス、Nガス、及びHガスの供給が開始される(タイミングt1)。Zr(BHのキャリアガスであるArガス、Nガス、及びHガスの供給流量は、それぞれ例えば100sccm、400sccm、及び100sccmとされる。なお、キャリアガスとしてのArガスの供給流量は、Arガスの供給流量を増やすことに伴ってZr(BHの供給量が線形的に増える範囲に設定される。
【0048】
上述のように、被覆工程において水素ラジカルを添加しつつZrBN膜を形成することによって、ZrBN膜の段差被覆性が高められる。しかしながら、水素ラジカルによってZrBNの粒子径が大きくなりにくくなることから、水素ラジカルを添加することなくZrBN膜を形成したときよりも成膜レートが低くなる。そこで本実施形態のように、NガスとHガスとの分圧比であるPN2/PH2を「4」、つまり、NガスとHガスとの混合ガスのうち、Hガスの占める割合を20%とすれば、成膜レートの低下を抑えつつ、ZrBN膜の段差被覆性を高めることができる。なお本願発明者は、NガスとHガスとの分圧比は、3<PN2/PH2<5の範囲であれば、成膜レートの急激な低下が抑えられて上述の効果が得られることを確認している。
【0049】
その後、マイクロ波電源FGがオンの状態とされることによって、マイクロ波電源FGから照射管37にマイクロ波が供給される(タイミングt2)。マイクロ波の電力量は、例えば40Wとされる。こうして、基板Sの表面に対するZr(BH、窒素ラジカル、及び水素ラジカルの供給が開始されると、Zr(BHが窒素ラジカルによって窒化されることによって、ZrBN膜が、基板Sの表面及び基板Sの有する貫通孔Hの内側面に形成される。なお、上記各種ガスの供給を開始してから所定期間の後にマイクロ波の供給を開始するようにしている。そのため、各種ガスの供給とマイクロ波の供給とを同時に開始するよりも、Nガス及びHガスの励起を安定に行うことができる。ちなみに、タイミングt1からタイミングt2までの期間は、各ポートに供給されるガスの流量が一定になるまでの時間であって、例えばマスフローコントローラからのガスがポートに到達するまでの時間に設定される。
【0050】
そして、マイクロ波の供給が所定期間、例えば1分間実施されると、上記各種ガスの供給と、マイクロ波の供給とが停止される(タイミングt3)。本実施形態では、マイクロ波が供給されている期間を被覆工程としている。そのため、上記タイミングt2からタイミングt3までの期間が被覆工程に当たる。
【0051】
被覆工程が終了すると、基板Sが成膜チャンバ23から酸化チャンバ24に運ばれた後に、Oガスの供給が開始される(タイミングt4)。Oガスの供給流量は、例えば100sccmとされる。なお、タイミングt3からタイミングt4までの時間は、例えば基板Sの酸化チャンバ24への搬入が完了するまでの時間に設定される。
【0052】
その後、マイクロ波電源がオンの状態とされることによって、マイクロ波源から照射管にマイクロ波が供給される(タイミングt5)。マイクロ波の電力量は、例えば100Wとされる。これにより、基板Sの表面に対する酸素ラジカルの供給が開始されることで、ZrBN膜の酸化が開始される。なお、Oガスの供給を開始してから所定期間の後にマイクロ波の供給を開始するようにしている。そのため、上記被覆工程の開始時と同様に、Oガスの励起を安定に行うことができる。ちなみに、タイミングt4からタイミングt5までの期間も、上記タイミングt1からタイミングt2までの期間と同様に、マスフローコントローラからのOガスがポートに到達するまでの時間に設定される。
【0053】
そして、マイクロ波の供給が所定期間、例えば1分間実施されると、Oガスの供給と、マイクロ波の供給とが停止される(タイミングt6)。本実施形態では、マイクロ波が供給されている期間を酸化工程としている。そのため、上記タイミングt5からタイミングt6までの期間が酸化工程に当たる。
【0054】
酸化工程が終了すると、基板Sが酸化チャンバ24から再び成膜チャンバ23に運ばれた後、被覆工程が実施される。被覆工程と酸化工程との組が所定回数、例えば5回繰り返されると、基板Sが成膜装置20から搬出されて、基板Sの貫通孔Hに対するバリア絶縁膜16の形成が終了される。なお、図4におけるタイミングt7は5回目の酸化工程におけるOガスの供給開始タイミングであり、タイミングt8はマイクロ波の供給開始タイミングである。そして、タイミングt9は、Oガス及びマイクロ波の供給停止タイミングである。
【0055】
[実施例]
[ZrBON膜の誘電率とリーク電流値]
直径200mmのシリコン基板に対して、ZrBN膜を形成する被覆工程と、ZrBN膜を酸化する酸化工程とを以下の条件で実施することによって、膜厚が100nmのZrBON膜を形成した。
【0056】
[実施例1]
<被覆工程>
・キャリアガス(Arガス)流量 100sccm
・Nガス流量 400sccm
・Hガス流量 100sccm
・成膜チャンバ内の圧力 410Pa
・マイクロ波電力 100W
・基板温度 210℃
<酸化工程>
・Oガス流量 100sccm
・成膜チャンバ内の圧力 70Pa
・マイクロ波電力 100W
・基板温度 210℃
まず、ZrBON膜の誘電率を以下の方法にて算出した。つまり、水銀プローブを用いて、直流バイアスに1MHzの高周波を重畳してC−V特性を測定した後、C−V特性の測定結果から誘電率を算出した。
【0057】
ZrBON膜の誘電率の測定結果とともに、絶縁膜として多用されている酸化シリコン(SiO)、窒化シリコン(Si)、遷移金属の酸化物である酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化ハフニウム(HfO)、及び酸化タンタル(Ta)の誘電率を表1に示す。なお、ZrBONの値としては、5個の試料について誘電率を測定した結果のうちの最小値と最大値とを記載している。
【0058】
【表1】
【0059】
表1に示されるように、ZrBN膜を酸化して形成したZrBON膜の誘電率は、Zrの酸化物を含めた他の遷移金属の酸化物よりも極端に低いことが認められた。加えて、信号遅延が起こりにくい程度の低誘電率膜であるSiO膜と同等の誘電率であることが認められた。それゆえに、ZrBN膜を形成する被覆工程と、該被覆工程にて形成されたZrBN膜を酸化する酸化工程を経て形成されるZrBON膜を、シリコン貫通電極(TSV)用のバリア絶縁膜として用いた場合、他の遷移金属の酸化膜よりも該TSVにおける信号遅延を抑えることができる。
【0060】
次に、試験用ZrBON膜のリーク電流としての電流密度J(A/cm)を以下の方法にて測定した。つまり、ZrBON膜が形成されたシリコン基板を接地するとともに、ZrBON膜上の水銀プローブに正の電圧を印加することで、ZrBON膜に印加される電界E(MV/cm)に対する電流密度を測定した。こうした方法にて測定されたリーク電流の値を図5に示す。
【0061】
図5に示されるように、ZrBON膜は、3MV/cmの電界が印加されたとしても、電流密度の値が、実用上好ましいとされる1×10−8A/cmを超えない値であることが認められた。なお、プラズマCVD法によって形成されたシリコン酸化膜やシリコン窒化膜など、これらシリコン系の絶縁膜の場合には、同測定法において1MV/cmの電界が印加されると1×10−8A/cmを超えるような値であった。それゆえに、上述の方法にて形成されたZrBON膜を上記TSV用のバリア絶縁膜として用いることにより、プラズマCVD法によって形成されたシリコン系の絶縁膜を用いるよりも、シリコン基板とTSVとの絶縁性を高めることができると言える。
【0062】
[ZrBON膜のバリア性]
膜厚が100nmの銅膜を有するシリコン基板上に、上記条件にてZrBON膜を20nmだけ積層することによって試験用ウエハ(No.1)を得た。そして、試験用ウエハ(No.1)に対して500℃の雰囲気で1時間アニール処理を施した後、SIMS測定による膜厚方向の元素分析をZrBON膜に対して行った。
【0063】
また、膜厚が100nmのアルミニウム膜を有するシリコン基板上に、上記条件にてZrBON膜を20nmだけ積層することによって試験用ウエハ(NO.2)を得た。そして、試験用ウエハ(No.2)に対して上記試験用ウエハ(No.1)と同様のアニール処理を施した後、SIMS測定による膜厚方向の元素分析をZrBON膜に対して行った。
【0064】
SIMS測定の結果、試験用ウエハ(No.1)のZrBON膜中には銅の存在が認められなかった。また、試験用ウエハ(No.2)のZrBON膜中にはアルミニウムの存在が認められなかった。したがって、上記成膜方法にて形成したZrBON膜は、銅及びアルミニウムの拡散を抑制する機能、つまりバリア性を有していると言える。
【0065】
[ZrBN膜の段差被覆性]
上記被覆工程にて形成されるZrBN膜の上記貫通孔に対する埋め込み性、言い換えれば段差被覆性におけるHガスの影響を評価するために、以下の実施例2及び実施例3の条件にて、直径20μm、深さ100μmの貫通孔が複数形成された直径200mmのシリコン基板にZrBN膜を形成した。なお、実施例2と実施例3とでは、Nガス及びHガスの供給流量のみが異なるため、実施例3についてはNガス及びHガスの供給流量のみを記載する。
【0066】
[実施例2]
・キャリアガス(Arガス)流量 100sccm
・Nガス流量 500sccm
・Hガス流量 0sccm
・成膜チャンバ内の圧力 410Pa
・マイクロ波電力 100W
・基板温度 210℃
・成膜時間 300秒
[実施例3]
・Nガスの供給流量 400sccm
・Hガスの供給流量 100sccm
上記のように、実施例2では、NガスとHガスとの混合ガスに占めるHガスの添加比率を0%とした一方、実施例3では、同Hガスの添加比率を20%とした。実施例2にて形成されたZrBN膜の断面のSEM画像を図6(a)〜(d)に示すとともに、実施例3にて形成されたZrBN膜の断面のSEM画像を図7(a)〜(d)に示す。なお、各図において、(a)は貫通孔及びその内側面に形成されたZrBN膜の全体を示すSEM画像、(b)はシリコン基板の表面側における貫通孔及びその内側面に形成されたZrBN膜のSEM画像、(c)は貫通孔の深さ方向における中央付近のZrBN膜のSEM画像、(d)は貫通孔の底面側におけるZrBN膜のSEM画像である。
【0067】
実施例2では、図6(b)に示されるように、シリコン基板の表面に形成されたZrBN膜の厚さを表面厚さT1とすると、該表面厚さT1は30.3nmであった。また、図6(c)に示されるように、貫通孔の深さ方向における中央付近において、該貫通孔の側面に形成されたZrBN膜の厚さを側面厚さT2とすると、該側面厚さT2は11.9nmであった。そして、図6(d)に示すように、貫通孔の底面に形成されたZrBN膜の厚さを底面厚さT3とすると、該底面厚さT3は11.9nmであった。
【0068】
一方、実施例3では、図7(b)に示されるように、ZrBN膜の表面厚さT1は44.3nmであった。また、図7(c)に示されるように、ZrBN膜の側面厚さT2は44.3nmであった。そして、図7(d)に示されるように、ZrBN膜の底面厚さT3は52.3nmであった。
【0069】
図8は、Nガス流量とHガス流量との比率を変更し、その他の条件を実施例2及び実施例3と同じにした場合における、表面厚さT1に対する側面厚さT2の比である側面被覆率と、及び表面厚さT1に対する底面厚さT3の比である底面被覆率とを示すグラフである。同図8では、側面被覆率を実線で示すとともに、底面被覆率を破線で示している。なお、実施例2における側面被覆率は46.5%であり、底面被覆率は37.6%であった。他方、実施例3における側面被覆率は100%であり、底面被覆率は118%であった。また同図8は、Nガス流量とHガス流量との比率を変更し、その他の条件を実施例2及び実施例3と同じにした場合における成膜速度を示すグラフである。
【0070】
図8に示されるように、上記被覆工程時におけるHガスの添加比率を高くすることによって、貫通孔の側面及び底面におけるZrBN膜の被覆率を高められることが認められた。そのため、被覆工程時におけるHガスの添加比率を高くすることによって、ZrBN膜の段差被覆性を高めることができると言える。なお、被覆工程に続く酸化工程において、ZrBN膜の面方向及び厚さ方向の全体を酸化してZrBON膜化したとしても、ZrBN膜を形成したときの貫通孔Hにおける膜の被覆率は概ね保たれる。それゆえに、上記被覆工程と酸化工程とを複数回繰り返したとしても、被覆工程時の条件が同一であれば、被覆工程を1回のみ行ったときの被覆率が概ね保たれる。つまりは、被覆工程時のHガスの添加比率を高めることにより、ZrBON膜の段差被覆性を高めることができると言える。またNガスとHガスとの分圧比が3<PN2/PH2<5の範囲であれば、成膜レートの急激な低下を抑えられることが認められた。
【0071】
上記実施形態によれば、以下に列挙する効果が得られるようになる。
(1)基板Sの有するシリコン貫通電極15用の貫通孔Hの内側面をZrBN膜で覆った後、該ZrBN膜の酸化によって、該貫通孔Hの内側面をZrBON膜で覆うようにした。そのため、ZrBN膜と同じ程度の段差被覆性をバリア絶縁膜16に与えつつ、プラズマ酸化膜と同じ程度の誘電率、及び熱酸化膜と同じ程度の絶縁性をバリア絶縁膜16としてのZrBON膜に与えることができる。
【0072】
(2)ZrBN膜の酸化する活性化した酸素として酸素ラジカルを用いるようにした。そのため、活性化した酸素の1つである酸素イオンをZrBN膜に供給して酸化するよりも、該ZrBN膜に対するダメージを抑えつつ、十分な絶縁性が得られるだけZrBN膜を酸化することができる。
【0073】
(3)被覆工程と酸化工程との組を複数回繰り返すことによって、バリア絶縁膜16であるZrBON膜を形成するようにした。そのため、同一の膜厚を有したZrBON膜を形成する前提であれば、被覆工程と酸化工程とを1度ずつのみ行うことによってZrBON膜を形成するよりも、膜の全体がより確実に酸化されたZrBON膜を形成することができる。
【0074】
(4)被覆工程では、窒素ラジカルとZr(BHに加えて水素ラジカルを基板Sに供給することとした。そのため、水素ラジカルによるZrBN粒子のターミネート効果が発現される分、ZrBN粒子のサイズを小さくすることができる。ひいては、ZrBON膜の段差被覆性をより高めることができるとともに、バリア絶縁膜16の形成工程におけるパーティクルの発生を抑えることもできる。
【0075】
(5)被覆工程においては、窒素ガスと水素ガスとの分圧比であるPN2/PH2を3<PN2/PH2<5とした。そのため、ZrBN膜形成時の成膜レートの低下を抑えつつ、ZrBN膜の段差被覆性を高めることができる。
【0076】
なお、上記実施形態は以下のように適宜変更して実施することもできる。
・成膜装置20の処理対象である基板Sは、シリコン基板11、配線層12、絶縁層13、及び接着層14を備える構成とした。これに限らず、少なくとも、貫通孔Hが形成されたシリコン基板11を有する構成であればよい。
【0077】
・Zr(BHのキャリアガスとしてはArガスに限らず、他の不活性ガス、例えばHe、Ne、Kr、Xeガス等を用いるようにしてもよい。
・被覆工程では、活性化された窒素の生成源としてNガスを、また、活性化された水素の生成源としてHガスを用いるようにした。これに限らず、例えば活性化された窒素及び活性化された水素の生成源となるアンモニア(NH)ガスを用いるようにしてもよい。また、NガスとNHガスとの併用や、HガスとNHガスとの併用も可能である。
【0078】
・酸化工程では、活性化された酸素の生成源としてのOガスを用いるようにした。これに限らず、酸化工程では、Oガスに加えて、Hガスを用いる、あるいは、Hガスと一酸化二窒素(NO)ガスとを用いるようにしてもよい。これにより、ZrBN膜を酸化することによってZrBON膜を形成しつつ、酸化雰囲気中に含まれる水素や窒素によってZrBON膜の組成を調整することができる。それゆえに、ZrBON膜の組成をバリア絶縁膜16としての特性を発現する上で至適なものとすることもできるようになる。
【0079】
・Zr(BHガス、Hガス、及びNガスの供給をタイミングt1にて同時に開始するようにした。これに限らず、これらガスの供給を開始するタイミングは、各別等、任意に変更可能である。
【0080】
・各種ガスの供給の後に、マイクロ波の供給を行うようにした。これに限らず、各種ガスの供給とマイクロ波の供給とを同時に行うようにしてもよい。
・被覆工程及び酸化工程では、各種ガスの供給とマイクロ波の供給とを同時に停止するようにした。これに限らず、マイクロ波の供給を停止した後に、各種ガスの供給を停止するようにしてもよい。
【0081】
・上記成膜装置20を、被覆工程と酸化工程とを単一のチャンバにて実施可能な装置として具現化するようにしてもよいことは、上述したとおりである。この場合、被覆工程を終了するタイミングであるタイミングt3と、酸化工程に用いられる酸素ガスの供給タイミングであるタイミングt4の間は、被覆工程で用いられたZr(BHガス、Nガス、及びHガスがチャンバ内から排気されるまでの時間とすればよい。また、酸化工程の終了タイミングであるタイミングt6と、該酸化工程に続いて行われるZr(BHガス等の供給開始タイミングとの間も、酸化工程で用いられたOガスがチャンバ内から排気されるまでの時間とすればよい。
【0082】
・被覆工程及び酸化工程における基板温度、成膜室内の圧力、及びマイクロ波の電力等のプロセス条件は、ZrBN膜の形成や酸化が可能な範囲で任意に変更可能である。
・被覆工程における窒素ガスと水素ガスとの分圧比であるPN2/PH2は、上記3〜5の範囲でなくともよく、ZrBN膜を形成することのできる分圧比であればよい。
【0083】
・被覆工程では、水素ラジカルに代えて、水素イオンを供給しつつZrBN膜を形成するようにしてもよい。
・被覆工程では、水素ラジカルを供給しつつZrBN膜を形成するようにしたが、水素ラジカルを供給せずにZrBN膜を形成するようにしてもよい。
【0084】
・被覆工程においてZr(BHを窒化する活性化された窒素として窒素ラジカルを用いるようにした。これに限らず、被覆工程におけるイオンの衝撃がシリコン基板に形成された素子やZrBON膜の電気的特性等に影響しないのであれば、上記活性化された窒素として窒素イオンを用いるようにしてもよい。
【0085】
・上述のように、被覆工程にて窒素イオンによってZr(BHを窒化するのであれば、成膜チャンバ23には、マイクロ波電源FG、照射管37、マイクロ波源38、及び導波管39に代えて高周波電源を設けるようにしてもよい。
【0088】
・被覆工程と酸化工程との組を繰り返す回数を5回とした。これに限らず、被覆工程と酸化工程との組を繰り返す回数は、1以上の任意の回数とすることができる。つまり、貫通孔Hに形成するバリア絶縁膜16の目標膜厚や被覆工程1回あたりに形成できるZrBN膜の厚さ等に応じて上記組を繰り返す回数を決めればよい。
・上記酸化工程では、ZrBN膜が、基板Sの表面及び貫通孔Hの内側面に形成されたZrBN膜の面方向及び厚さ方向の全体が酸化されることとしたが、酸化工程は、ZrBN膜の面方向の少なくとも一部、及び厚さ方向の少なくとも一部が酸化される条件にて行ってもよい。こうした条件にてZrBN膜の酸化を行ったとしても、ZrBN膜が酸化されていることから、少なからず絶縁性を有した膜とすることができる。
【0089】
・上記バリア絶縁膜の形成方法では、上記成膜装置20の有する成膜チャンバ23において被覆工程を実施した後に、同成膜装置20の有する酸化チャンバ24において酸化工程を実施することによってバリア絶縁膜としてのZrBON膜を形成するようにした。これに限らず、被覆工程と酸化工程とを各別の装置にて実施することによって、ZrBON膜を形成するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0090】
10…半導体装置、11…シリコン基板、12…配線層、13…絶縁層、14…接着層、15…シリコン貫通電極(TSV)、16…バリア絶縁膜、20…成膜装置、21…ロードロックチャンバ、22…コアチャンバ、22a…搬送ロボット、23…成膜チャンバ、24…酸化チャンバ、31…チャンバ本体、31S…成膜室、32…チャンバリッド、33…基板ステージ、34…昇降機構、35…排気ポンプ、36…シャワープレート、37…照射管、38…マイクロ波源、39…導波管、FG…マイクロ波電源、GP1,GP2…ガス通路、H…貫通孔、MFC1,MFC2,MFC3,MFC4…マスフローコントローラ、P1…排気ポート、P2…原料ガスポート、P3…励起ガスポート、S…基板、TK…原料タンク。
図1
図2
図3
図4
図8
図9
図5
図6
図7