(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1層の上面のうち前記第2層から露出している露出面は、前記一対の第2領域よりも前記検体との接触角が小さく、かつ、前記第1領域よりも前記検体との接触角が大きい
請求項10に記載の弾性表面波センサ。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係るSAWセンサの実施形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下に説明する各図面において同じ構成部材には同じ符号を付すものとする。また、各部材の大きさや部材同士の間の距離などは模式的に図示しており、現実のものとは異なる場合がある。
【0014】
また、SAWセンサは、いずれの方向が上方または下方とされてもよいものであるが、以下では、便宜的に、直交座標系xyzを定義するとともにz方向の正側を上方として、上面、下面などの用語を用いるものとする。
【0015】
<第1の実施形態>
図1は、第1の実施形態に係るSAWセンサ1を示す斜視図である。
【0016】
SAWセンサ1は、例えば、全体として概ね長方形の板状に形成されている。その厚みは、例えば、0.5mm〜3mmであり、x方向の長さは、例えば、1cm〜5cmであり、y方向の長さは、例えば、1cm〜3cmである。
【0017】
SAWセンサ1には、検体液を取り込むための第1流入口3、および、電気信号の入出力に供される複数の端子5が設けられている。第1流入口3は、例えば、長方形の一端に位置し、複数の端子5は、例えば、長方形の他端に位置している。
【0018】
SAWセンサ1は、例えば、発振回路等を含む不図示のリーダに装着される。装着は、例えば、SAWセンサ1の端子5側の端部をリーダのスロットに差し込むことによって行われる。そして、SAWセンサ1は、リーダから複数の端子5のいずれかに入力された電気信号を、第1流入口3から取り込んだ検体液の性質または成分に応じて変化させ、複数の端子5のいずれかからリーダへ出力する。SAWセンサ1は、例えば、使い捨てのセンサとされている。
【0019】
SAWセンサ1は、基体7と、基体7に搭載されたセンサチップ9とを有している。センサチップ9は、検体液に応じた電気信号の変換を実質的に行う。基体7は、センサチップ9の取り扱い性の向上等に寄与するパッケージとして機能する。
【0020】
基体7には、既述の第1流入口3と、第1流入口3から取り込まれた検体液をセンサチップ9に導くための流路11が形成されている。流路11は、例えば、第1流入口3からセンサチップ9へ直線状に延びている。また、基体7には、既述の複数の端子5と、複数の端子5とセンサチップ9とを接続する配線13(
図2参照)とを有している。
【0021】
図2は、SAWセンサ1の分解斜視図である。
【0022】
基体7は、例えば、互いに積層される層状の下層部材15、中層部材17および上層部材19を有している。
【0023】
下層部材15は、例えば、プリント配線板と同様の構成とされている。その絶縁基体16は、例えば、樹脂またはセラミックを主体として構成されている。絶縁基体16の平面形状は、例えば、SAWセンサ1全体の平面形状と同様である。絶縁基体16の上面には、既述の複数の端子5および配線13が形成されている。センサチップ9は、例えば、接着剤によって、絶縁基体16の上面に固定されている。
【0024】
中層部材17は、例えば、樹脂またはセラミック等の絶縁性材料によって構成されている。中層部材17は、例えば、接着剤によって下層部材15と貼り合わされている。中層部材17の平面形状は、複数の端子5が露出するように、下層部材15よりも若干短い長方形とされている。また、中層部材17の一端側には、第1流入口3および流路11を構成するための切り欠き17aと、センサチップ9を収容するための第1孔部17bとが形成されている。切り欠き17aと第1孔部17bとは接続されている。
【0025】
上層部材19は、例えば、親水性フィルムによって構成されている。従って、上層部材19は、例えば、下層部材15および中層部材17に比較して検体液に対する濡れ性が高くなっている。なお、検体液に対する濡れ性(または親水性)は、一般に知られているように、検体液との接触角によってその程度を測定することができる。親水性フィルムとしては、親水化処理が施された市販の樹脂性フィルムを使用することができる。樹脂は、例えば、ポリエステル系またはポリエチレン系である。上層部材19は、例えば、接着剤によって中層部材17と貼り合わされている。上層部材19の平面形状は、中層部材17と同様に、下層部材15よりも若干短い長方形とされている。また、上層部材19には、センサチップ9の上面を露出させるための第2孔部19bが形成されている。
【0026】
なお、SAWセンサ1は、例えば、可撓性を有さない。例えば、下層部材15、中層部材17および上層部材19の少なくとも1つは、可撓性を有していない。
【0027】
下層部材15、中層部材17および上層部材19を積層すると、中層部材17に切り欠き17aが形成されていることによって、下層部材15の上面と上層部材19の下面との間に流路11が構成される。また、中層部材17および上層部材19に第1孔部17bおよび第2孔部19bが形成されていることによって、センサチップ9が収容される凹部が構成される。
【0028】
下層部材15の上面には、流路11が構成される位置において、底面部材21が設けられている。底面部材21の上面は、流路11の底面を構成する。底面部材21は、例えば、上層部材19と同様に、親水性フィルムによって構成されている。従って、底面部材21は、下層部材15よりも検体液との接触角が小さくなっている。底面部材21は、例えば、接着剤22(
図6(a)参照)によって下層部材15の上面に固定されている。
【0029】
流路11は、z方向の高さが比較的小さく設定されている。例えば、流路11のz方向の高さは、50μm〜0.5mmである。検体液の量を少なくする(例えば採血の量を少なくする)観点からは、流路11の高さは、50μm程度であることが好ましい。また、上述のように、流路11の天井面(流路11の上面、上層部材19の下面)および底面(流路11の下面、底面部材21の上面)は、検体液との接触角が小さい。
【0030】
流路11のz方向の高さが小さく、また、天井面等において検体液との接触角が小さいことから、検体液が第1流入口3に接触すると、検体液は、毛細管現象によって流路11をセンサチップ9に向かって流れる。すなわち、本実施形態の基体7においては、マイクロピペットなどの器具を用いて検体液を吸引し、吸引した検体液を第1流入口3へ流し込むというような作業は不要である。
【0031】
なお、毛細管現象は、流路内面の接触角が90°未満であれば、生じ得る。従って、上層部材19および底面部材21(親水性フィルム)の濡れ性(親水性)は、検体液(水に代表させてもよい)の接触角が90°未満となる高さであればよい。また、毛細管現象を確実に生じさせる観点からは、これらの濡れ性は、接触角が60°未満となる高さであることが好ましい。
【0032】
図3は、センサチップ9の斜視図である。また、
図4は、センサチップ9の分解斜視図である。
【0033】
センサチップ9は、圧電基板23と、圧電基板23を覆うカバー25と、これらの外部に露出し、電気信号の入出力に供される複数のパッド27とを有している。圧電基板23とカバー25との間には、検体液が導入される空間29が構成されている。空間29は、カバー25の側面に開口する第2流入口31を介して基体7の流路11と接続される。
【0034】
圧電基板23は、例えば、タンタル酸リチウム(LiTaO
3)単結晶,ニオブ酸リチウム(LiNbO
3)単結晶、水晶などの圧電性を有する単結晶の基板からなる。圧電基板23の平面形状および各種寸法は適宜に設定されてよい。一例として、圧電基板23の厚みは、0.3mm〜1mmである。
【0035】
カバー25は、その大部分を構成するカバー本体33(基材)と、カバー本体33の下面(天井面)に貼り付けられたフィルム35とを有している。
【0036】
カバー本体33は、例えば、圧電基板23上に位置する枠部37と、枠部37上に位置する蓋部39とを有している。枠部37の上下に貫通する開口は、圧電基板23および蓋部39によって上下から塞がれる。これによって、空間29が構成される。また、枠部37の一部が途切れていることによって、第2流入口31が構成される。なお、枠部37および蓋部39は、一体的に形成されていてもよい。
【0037】
カバー本体33は、例えば、樹脂またはセラミック等の絶縁性材料からなる。好適には、カバー本体33は、ポリジメチルシロキサンからなる。ポリジメチルシロキサンを用いることによって、角部が丸みを帯びた形状など、カバー本体33を任意の形状にすることが容易である。また、ポリジメチルシロキサンを用いれば、カバー本体33の天井部や側壁を比較的簡単に分厚く形成することが容易である。蓋部39の厚みおよび枠部37の幅(カバー本体33の側壁の厚み)は、例えば、0.3mm〜5mmである。
【0038】
フィルム35は、例えば、上層部材19および底面部材21と同様に、親水性フィルムによって構成されている。従って、例えば、フィルム35は、カバー本体33よりも検体液との接触角が小さい。また、その下面における検体液の接触角は、90°未満であり、好ましくは、60°未満である。フィルム35は、例えば、接着剤41によってカバー本体33の下面に貼り付けられている。なお、フィルム35は、カバー本体33および/またはフィルム35自体の密着力によって、接着剤41を用いずにカバー本体33の下面に貼り付けられていてもよい。
【0039】
カバー25には、空間29の排気等に寄与する貫通孔43が形成されている。貫通孔43は、例えば、蓋部39、接着剤41およびフィルム35それぞれに孔が形成されることによって、カバー25の上部に構成されている。この貫通孔43は、例えば、センサチップ9の上面が上層部材19の第2孔部19bを介して基体7の外部に露出することによって、基体7の外部に露出する(
図1および
図2参照)。従って、空間29は、貫通孔43を介してSAWセンサ1の外部に通じている。貫通孔43は、空間29に対して第2流入口31とは反対側に位置している。
【0040】
パッド27は、例えば、カバー25の外側において圧電基板23の上面に設けられている。特に図示しないが、例えば、パッド27は、ボンディングワイヤによって、下層部材15上に設けられたパッドと接続され、ひいては、配線13と接続される。
【0041】
空間29のz方向の高さ(詳細には後述する金属膜55とフィルム35との間の距離)は、比較的小さく設定されている。例えば、当該高さは、流路11と同様に、50μm〜0.5mmであり、好ましくは、50μm程度である。また、空間29の天井面は、流路11の天井面等と同様に、フィルム35によって検体液との接触角が小さい。従って、流路11において毛細管現象によって第2流入口31に導かれた検体液は、毛細管現象によって空間29内に導入される。
【0042】
検体液が空間29に導入されたとき、もともと空間29内に存在していた空気は、貫通孔43から外部へ放出される。これによって、検体液が空間29内に入り込みやすくなる。なお、貫通孔43は、検体液が流路11を流れるときにも流路11および空間29の空気を排出し得る。
【0043】
図5は、圧電基板23の上面を示す平面図である。なお、
図5においては、空間29、第2流入口31および流路11も2点鎖線で示している。
【0044】
圧電基板23の上面には、空間29に収まる領域において、第1IDT電極45、第2IDT電極47および短絡電極51が形成されている。
【0045】
第1IDT電極45は所定のSAWを発生させるためのものであり、第2IDT電極47は、第1IDT電極45で発生したSAWを受信するためのものである。第1IDT電極45で発生したSAWを第2IDT電極47が受信できるように第2IDT電極47は、第1IDT電極45で発生したSAWの伝搬路上に配置されている。
【0046】
第1IDT電極45および第2IDT電極47それぞれは、一対の櫛歯電極を有している。各櫛歯電極は、バスバーおよびバスバーから延びる複数の電極指を有している。そして、一対の櫛歯電極は、複数の電極指が互いに噛み合うように配置されている。第1IDT電極45および第2IDT電極47は、トランスバーサル型のIDT電極を構成している。
【0047】
第1IDT電極45および第2IDT電極47の電極指の本数、隣接する電極指同士の距離、電極指の交差幅などをパラメータとして周波数特性を設計することができる。IDT電極によって励振されるSAWとしては、レイリー波、ラブ波、リーキー波などが存在し、いずれが利用されてもよい。センサチップ9は、例えば、ラブ波を利用している。
【0048】
第1IDT電極45および第2IDT電極47のSAWの伝搬方向における外側の領域にSAWの反射抑制のための弾性部材が設けられてもよい。SAWの周波数は、例えば、数メガヘルツ(MHz)から数ギガヘルツ(GHz)の範囲内において設定可能である。なかでも、数百MHzから2GHzとすれば、実用的であり、かつ圧電基板23の小型化ひいてはセンサチップ9の小型化を実現することができる。
【0049】
第1IDT電極45および第2IDT電極47はそれぞれ配線49を介してパッド27に接続されている。これらのパッド27および配線49を介して、第1IDT電極45に電気信号が入力され、また、第2IDT電極47から電気信号が出力される。
【0050】
短絡電極51は、圧電基板23の上面のうち第1IDT電極45と第2IDT電極47との間の領域である検出領域23aに配置されている。この短絡電極51は、圧電基板23の上面のうちSAWの伝搬路となる部分を電気的に短絡させるためのものである。この短絡電極51を設けることによって、SAWの種類によってはSAWの損失を小さくすることができる。なお、SAWとして特にリーキー波を使用したときに短絡電極51による損失抑制効果が高いと考えられる。
【0051】
短絡電極51は、例えば、第1IDT電極45から第2IDT電極47へ向かうSAWの伝搬路に沿って伸びた長方形状とされている。短絡電極51のSAWの伝搬方向と直交する方向(x方向)における幅は、例えば、第1IDT電極45の電極指の交差幅と同じである。また、短絡電極51のSAWの伝搬方向と平行な方向(y方向)における第1IDT電極45側の端部は、第1IDT電極45の端部に位置する電極指の中心からSAWの半波長分だけ離れた場所に位置している。同様にして、短絡電極51のy方向における第2IDT電極47側の端部は、第2IDT電極47の端部に位置する電極指の中心からSAWの半波長分だけ離れた場所に位置している。
【0052】
短絡電極51は、電気的に浮き状態とされていてもよいし、グランド電位用のパッド27を設け、これに接続されてグランド電位とされてもよい。短絡電極51をグランド電位とした場合には、第1IDT電極45と第2IDT電極47との間の電磁結合による直達波の伝搬を抑制することができる。
【0053】
第1IDT電極45、第2IDT電極47、短絡電極51、配線49およびパッド27は、例えば、金、アルミニウム、アルミニウムと銅との合金などからなる。またこれらの電極は、多層構造としてもよい。多層構造とする場合は、例えば、1層目がチタンまたはクロムからなり、2層目がアルミニウム、アルミニウム合金または金からなり、さらに最上層にチタンまたはクロムを積層してもよい。
【0054】
図6(a)は、
図1のVIa−VIa線における断面図であり、
図6(b)は、
図1のVIb−VIb線における断面図である。
【0055】
圧電基板23の上面には、保護膜53と、保護膜53の上に位置する金属膜55が設けられている。
【0056】
保護膜53は、第1IDT電極45、第2IDT電極47、短絡電極51および配線49を覆っており、これら電極および配線の酸化防止などに寄与するものである。保護膜53は、例えば、無機絶縁材料からなる。無機絶縁材料は、例えば、酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化チタン、窒化珪素、またはシリコンである。SAWセンサ1では、保護膜53として二酸化珪素(SiO
2)を使用している。
【0057】
保護膜53は、パッド27を露出させるようにして、圧電基板23の上面全体にわたって形成されている。保護膜53の厚み(圧電基板23の上面からの高さ)は、例えば、第1IDT電極45および第2IDT電極47の厚みよりも厚い。また、保護膜53の厚みは、例えば、200nm〜10μmである。なお、保護膜53は必ずしも圧電基板23の上面全体にわたって形成する必要はなく、例えば、パッド27を含む圧電基板23の上面の外周に沿った領域が露出するように圧電基板23の上面中央付近のみを被覆するように形成してもよい。
【0058】
金属膜55は、保護膜53上において、第1IDT電極45と第2IDT電極47との間に位置している。また、金属膜55は、例えば、第2流入口31から空間29の最奥に亘って広がっている。金属膜55は、例えば、クロムおよびクロム上に成膜された金の2層構造となっている。金属膜55の表面には、例えば、核酸やペプチドからなるアプタマーが固定化されている。
【0059】
アプタマーが固定化された金属膜55に検体液が接触すると、検体液中の特定の標的物質(検出対象)がその標的物質に対応するアプタマーと結合し、金属膜55の重さが変化する。その結果、第1IDT電極45から第2IDT電極47へ伝搬するSAWの位相特性などが変化する。従って、その位相特性などの変化に基づいて、検体液の性質または成分を調べることができる。なお、保護膜53は、SAWの伝搬中心を圧電基板23の上面付近からその上方へ移し、検体液の測定精度を向上させることにも寄与し得る。
【0060】
ここで、検体液が第1IDT電極45および第2IDT電極47上にまで流れると、SAWセンサ1の検出感度の低下等の不都合を生じるおそれがある。そこで、空間29を金属膜55と各IDT電極との間において仕切るように、圧電基板23上に隔壁を設けることが考えられる。しかし、この場合、SAWがIDT電極と金属膜55との間を伝搬する際に、隔壁によってSAWの伝搬ロスが生じる等の不都合が生じる。そこで、本実施形態では、フィルム35によって検体液の流れを規定し、これによって、隔壁を設けずに、検体液がIDT電極上に流れることを抑制している。具体的には、以下のとおりである。
【0061】
図5および
図6に示すように、フィルム35は、その幅(y方向)の大きさが空間29の幅よりも小さく設定されており、金属膜55に対向する一方で、第1IDT電極45および第2IDT電極47に対向していない。第1IDT電極45および第2IDT電極47には、カバー本体33のうちフィルム35から露出した部分が対向している。また、既に述べたように、フィルム35(厳密にはその主面)は、カバー本体33よりも検体液との接触角が小さい。
【0062】
換言すれば、カバー25は、その下面において、第1IDT電極45および第2IDT電極47に対向する第2領域(一例として電極対向面25a(
図6(b)))と、検出部(検出領域23a)に対向し、電極対向面25aよりも検体液との接触角が小さい第1領域(一例として検出部対向面25b(
図6(a)および
図6(b)))とを有している。
【0063】
従って、検体液は、IDT電極上よりも検出領域23a上に導かれやすくなっている。その結果、IDT電極と金属膜55との間に隔壁を設けることなく、検体液がIDT電極上に流れることを抑制することができる。
【0064】
この作用を好適に得る観点から、検出部対向面25bと電極対向面25aとの検体液との接触角の差は、ある程度の大きさであることが好ましい。例えば、検体液との接触角の差は、20°以上であることが好ましく、さらには、40°以上であることが好ましい。
【0065】
また、y方向において金属膜55に検体液を十分に行き渡らせるために、フィルム35は、y方向において、金属膜55の全体を覆い、第1IDT電極45および第2IDT電極47に重ならないことが好ましい。すなわち、フィルム35の幅(y方向)は、金属膜55の幅(y方向)以上であることが好ましく、また、第1IDT電極45と第2IDT電極47との距離未満であることが好ましい。なお、フィルム35の幅は、例えば、流れ方向(x方向)に亘って一定である。
【0066】
また、フィルム35は、x方向において、第2流入口31(より好適には蓋部39の第2流入口31側の縁部)から検出領域23aを超える位置まで延びていることが好ましい。この場合、流路11から第2流入口31に到達した検体液を好適に検出領域23a上に導くことができる。また、検体液が検出領域23aを超えるまで好適に排気を行うことができるように、貫通孔43は、検出領域23aを超えた位置に開口していることが好ましい。
【0067】
フィルム35は、平面状に形成されたカバー本体33の下面に貼り付けられていることから、フィルム35および接着剤41の厚みでカバー本体33の下面に対して段差を構成している。当該段差の高さは、例えば、フィルム35と金属膜55との距離の1/2〜3/2であり、また、例えば、50μm〜300μmである。また、フィルム35は、例えば、その主面に対して親水化処理が施されたフィルムが裁断されて形成されており、その裁断面(側面)は、主面(下面)に比較して親水性が低い、すなわち検体液との接触角が大きい。
【0068】
従って、フィルム35を濡らしている検体液は、フィルム35の側面を超えてカバー本体33(電極対向面25a)を濡らす可能性が低くなっている。その結果、例えば、カバー本体33の親水性をさほど低くしなくても、検体液がIDT電極上に広がる可能性が低減され、ひいては、カバー本体33の材料の選択肢が広がる。
【0069】
図5および
図6では、流路11および空間29等の位置関係も例示されている。
図5に示すように、流路11の幅(y方向)は、フィルム35の幅(y方向)以下であることが好ましい。この場合、検体液の総量を少なくしつつ、測定に供される空間29内の検体液の量を多くすることができる。例えば、フィルム35の幅が3mm程度である場合、流路11の幅は、好ましくは、50μm〜3mmであり、より好ましくは、50μm〜1mmであり、さらに好ましくは50μm程度である。
【0070】
図6(a)に示すように、流路11の天井面(上層部材19の下面)は、検出部対向面25b(フィルム35の下面)と平面方向において隣接している。従って、検体液が流路11から空間29へ円滑に流れると期待される。なお、流路11の天井面と検出部対向面25bとは、略面一であることが好ましい。面一にする調整は、例えば、接着剤41の厚みを調整することによって可能である。流路11の天井面は、フィルム35および接着剤41の厚みが無視できる場合には、カバー本体33の下面と略面一であってもよい。
【0071】
なお、面一または同一面内という場合、上記の流路11の天井面と検出部対向面25bとの関係のように、2つの面が連続していない場合(2つの面がギャップを介して隣接している場合)が含まれるものとする。
【0072】
図6(a)に示すように、流路11の底面(底面部材21の上面)は、金属膜55の上面と平面方向において隣接している。従って、検体液が流路11から空間29へ円滑に流れると期待される。なお、流路11の底面と金属膜55の上面とは、略面一であることが好ましい。面一にする調整は、例えば、接着剤22の厚みを調整することによって可能である。流路11の底面は、金属膜55の厚みが無視できる場合には、保護膜53の上面と略面一であってもよい。
【0073】
流路11の天井面および底面は、親水性フィルムによって構成されているから、空間29の天井面のうちの電極対向面25a(カバー本体33)よりも検体液との接触角が小さい。従って、SAWセンサ1では、流路11において検体液を好適に空間29へ導くことができる一方で、電極対向面25aが検体液で濡れることが抑制される。流路11の天井面および底面における検体液との接触角と、空間29の天井面のうちの検出部対向面25b(フィルム35)における検体液との接触角とは、いずれが高くてもよいし、同程度であってもよい。
【0074】
図7(a)〜
図7(d)は、センサチップ9の製造方法を説明する断面図である。製造工程は、
図7(a)から
図7(d)まで順に進んでいく。
【0075】
まず、
図7(a)に示すように、圧電基板23の上面に第1IDT電極45、第2IDT電極47、短絡電極51、配線49およびパッド27などを形成する。具体的には、まず、スパッタリング法、蒸着法またはCVD(Chemical Vapor Deposition)法等の薄膜形成法によって圧電基板23の上面に金属層が形成される。次に、金属層に対して、縮小投影露光機(ステッパー)とRIE(Reactive Ion Etching)装置とを用いたフォトリソグラフィ法等によってパターニングが行われる。金属層をパターニングすることによって各種の電極や配線などが形成される。
【0076】
第1IDT電極45などが形成されると、
図7(b)に示すように保護膜53が形成される。具体的には、まず、保護膜53となる薄膜を形成する。薄膜形成法は、例えば、スパッタリング法もしくはCVD法である。次に、パッド27が露出するように、RIE等によって薄膜の一部が除去される。これによって、保護膜53が形成される。
【0077】
保護膜53が形成されると、
図7(c)に示すように、金属膜55が形成される。具体的には、蒸着法またはスパッタリング法などによって、金属膜55と同一形状の開口が形成された不図示のマスクを介して、金属材料を保護膜53上に成膜する。その後、金属膜55上にアプタマーを配置する。或いは、金属膜55上にアプタマーを化学結合によって固定化してもよい。
【0078】
最後に、
図7(d)に示すように、カバー25を圧電基板23に取り付ける。具体的には、まず、ポリジメチルシロキサンなどからなる流動物を所定の鋳型に流し込み、これを固め、カバー本体33を形成する。なお、この形成方法では、枠部37と蓋部39とは一体的に形成される。次に、接着剤41によってフィルム35を蓋部39に貼り付ける。その後、カバー本体33のうち少なくとも保護膜53と接触する部分に酸素プラズマ処理を施し、カバー本体33を保護膜53に接触させ、カバー本体33を圧電基板23に接合する。
【0079】
なお、このように、ポリジメチルシロキサンからなるカバー本体33に酸素プラズマ処理を施し、カバー本体33をSiO
2からなる保護膜53に接触させる場合、接着剤などを用いることなくカバー本体33と保護膜53とを接合することができる。この理由は必ずしも明らかではないが、カバー本体33と保護膜53との間にSiとOとの共有結合が形成されることによるものと考えられる。ただし、接着剤を用いてカバー本体33を保護膜53に接合してもよい。
【0080】
上記のように形成されたセンサチップ9は、その後、基体7に収容される。例えば、まず、センサチップ9は、下層部材15に接着剤によって固定されるとともに、ワイヤボンディングによって配線13に電気的に接続される。その後、中層部材17および上層部材19が下層部材15に貼り合わされ、センサチップ9は、基体7に収容される。
【0081】
以上のとおり、本実施形態では、SAWセンサ1は、圧電基板23と、該圧電基板23の上面に位置し、圧電基板23上の検出部(検出領域23a)を挟んで互いに離間している第1IDT電極45および第2IDT電極47と、第1IDT電極45、第2IDT電極47および検出部上にこれらに跨る空間29を構成するカバー25と、を有している。カバー25の下面において、検出部に対向する検出部対向面25b(フィルム35の下面)は、第1IDT電極45および第2IDT電極47に対向する一対の電極対向面25a(カバー本体33の下面)よりも検体液との接触角が小さい。
【0082】
従って、既に述べたように、検出部対向面25bの幅(y方向)によって空間29における検体液の幅(y方向)を制御可能である。その結果、例えば、検体液がIDT電極上に流れることを防止するための隔壁をIDT電極と検出部との間に設ける必要が無い。
【0083】
隔壁が設けられないことによって、SAWの伝搬ロスが低減され、SN比が向上する。例えば、隔壁をエポキシ樹脂によって形成した場合には、隔壁の幅は25μm程度まで薄くすることができるが、そこまで薄くした場合であっても5dB程度の伝搬ロスが発生することが確かめられている。一方、SAWセンサ1によれば隔壁が存在しないため、隔壁をエポキシ樹脂によって形成したものと比べて5dB以上の伝搬ロスの改善を図ることができる。また、隔壁を構成するべき枠部37の形状が簡素化されるという利点もある。その結果、枠部37および蓋部39を別個に形成した場合において、これらの接合が容易化される。例えば、接合に用いられる接着剤が検出領域23a上に滲み出すおそれが低減される。また、検体液が隔壁に接触することがないから、隔壁に非特異的吸着を抑制するための処理を施す必要も生じない。金属膜55とIDT電極との間に隔壁を配置可能な面積を確保する必要も生じないから、金属膜55とIDT電極との距離を短くして、検出精度を向上させることも容易化される。
【0084】
また、検体液の厚みは、空間29の高さ(金属膜55とフィルム35との距離)によって規定され、検体液の幅は、フィルム35の幅によって規定されるから、検出領域23aに存在する検体液の質量を一定に保ち、検体液の質量のばらつきによる測定誤差を抑制することもできる。
【0085】
なお、SAWセンサ1は、検体液がIDT電極上に流れることを許容するものであってもよい。この場合であっても、検出部対向面25b(第1領域)が電極対向面25a(検出部対向面25bに対して検出部およびIDT電極の並び方向(y方向)両側に位置する一対の第2領域)よりも検体液との接触角が小さいことにより、種々の効果が奏される。
【0086】
例えば、検出部対向面25bと電極対向面25aとで検体液との接触角が同等であると、検体液が流路11ないしは空間29の内壁を伝うことによって、検体液が検出部対向面25b上に先んじてIDT電極上を流れ、その結果、検出部上に気泡が生じるおそれがある。しかし、検出部対向面25bにおける検体液との接触角を電極対向面25aよりも小さくし、検体液が検出部上を優先的に流れるようにすることによって、そのような気泡の発生が抑制される。
【0087】
<第2の実施形態>
図8は、第2の実施形態に係るSAWセンサのセンサチップ209を示す断面図である。なお、該断面図は、
図6(b)の一部に相当する。
【0088】
センサチップ209は、フィルム35および接着剤41に代えて、コーティング層235が設けられている点のみが、第1の実施形態のセンサチップ9と相違する。すなわち、センサチップ209においては、カバー225の下面のうち、第1IDT電極45および第2IDT電極47に対向する電極対向面225aは、カバー本体33(基材)のコーティング層235が配置されていない面によって構成され、検出部(検出領域23a)に対向する検出部対向面225bは、カバー本体33のコーティング層235が配置されている面によって構成されている。
【0089】
コーティング層235は、カバー本体33(基材)に対して親水性処理を施すことによって形成される。例えば、カバー本体33は、検出部対向面225bとなる領域において、酸素プラズマによるアッシングがなされ、シランカップリング剤が塗布され、最後に、ポリエチレングリコールが塗布される。なお、この場合、コーティング層235は、ポリエチレングリコールによって構成される。この他、ホスホリルコリンを有する処理剤を用いて表面処理し、ホスホリルコリンからなるコーティング層235を形成してもよい。
【0090】
コーティング層235は、カバー本体33の材料よりも親水性が高い材料からなる。従って、カバー本体33のコーティング層235が配置された面は、配置されていない面よりも検体液に対する濡れ性が高くなる、すなわち検体液との接触性が小さい。
【0091】
コーティング層235は、層状となる程度にカバー本体33に配置されている(重ねられている)ことが好ましい。その厚みは、第1の実施形態のフィルム35および接着剤41の合計の厚みに比較して薄く、例えば、5Å〜50nmである。なお、枠部37の厚み(空間29のIDT電極上における高さ)は、第1の実施形態と同様でもよいし、コーティング層がフィルム35および接着剤41よりも薄い分だけ、薄くされてもよい。
【0092】
以上のとおり、本実施形態では、第1の実施形態と同様に、第1IDT電極45、第2IDT電極47および検出部上にこれらに跨る空間29を構成するカバー225の下面において、検出部に対向する検出部対向面225bは、一対のIDT電極に対向する一対の電極対向面225aよりも検体液との接触角が小さい。
【0093】
従って、本実施形態においても、第1の実施形態と同様の効果が奏される。例えば、検出部対向面225bの幅(y方向)によって空間29における検体液の幅(y方向)を制御可能であり、隔壁を設けずに、検体液がIDT電極上に流れることを抑制できる。
【0094】
また、本実施形態では、第1の実施形態に比較して、例えば、上述のようにコーティング層が薄いことから、センサチップ209の薄型化を図ることができる。なお、第1の実施形態は、本実施形態に比較して、例えば、製造工程の簡素化およびコスト削減が期待され、また、既に述べたように、フィルム35が形成する濡れ性が低い段差によって、検体液がIDT電極上に流れることが抑制される効果が期待される。
【0095】
<第3の実施形態>
図9は、第3の実施形態に係るSAWセンサのセンサチップ309を示す断面図である。なお、該断面図は、
図6(b)の一部に相当する。
【0096】
センサチップ309は、IDT電極に対向する電極対向面325aが、検出部に対向する検出部対向面325bよりも圧電基板23側に突出することによって第1溝325rが構成されている点のみが第1の実施形態のセンサチップ9と相違する。
【0097】
具体的には、カバー本体333の蓋部339の下面には、フィルム35および接着剤41の合計の厚みよりも深い第2溝333rが形成されており、この第2溝333r内に接着剤41およびフィルム35が収容されることによって、フィルム35の下面を底面とする第1溝325rが構成されている。
【0098】
第2溝333rの幅および長さは、例えば、フィルム35の幅および長さと同等である。第1の実施形態と同様に、フィルム35は、蓋部339の流路11(
図1参照)側の縁部まで延びていることが好ましく、ひいては、第2溝333r(第1溝325r)も、当該縁部まで延びていることが好ましい。ただし、第2溝333rは、フィルム35よりも長くてもよいし、若干広くてもよい。
【0099】
検出部対向面325b(フィルム35)と金属膜55との間隔(検体液の厚み)は、例えば、第1の実施形態と同様である。別の観点では、本実施形態の枠部337は、第1の実施液体の枠部37よりも薄く、本実施形態における電極対向面325aと保護膜53との間隔は、第1の実施形態の電極対向面25aと保護膜53との間隔よりも小さい。
【0100】
以上のとおり、本実施形態では、第1の実施形態と同様に、第1IDT電極45、第2IDT電極47および検出部上にこれらに跨る空間29を構成するカバー325の下面において、検出部に対向する検出部対向面325bは、一対のIDT電極に対向する一対の電極対向面325aよりも検体液との接触角が小さい。
【0101】
従って、本実施形態においても、第1および第2の実施形態と同様の効果が奏される。例えば、検出部対向面325bの幅(y方向)によって空間329における検体液の幅(y方向)を制御可能であり、隔壁を設けずに、検体液がIDT電極上に流れることを抑制できる。
【0102】
また、検出部対向面325bと金属膜55との間の検体液は、その側面が第1溝325rの側面に接触する。従って、検体液は、SAWセンサを取り巻く気体(例えば空気)に触れる面積が減少する。その結果、検体液の蒸発が抑制され、検体液の必要量を抑えることができる。
【0103】
なお、本実施形態では、第1の実施形態と同様に、検出部対向面325bをフィルム35によって構成したが、第2の実施形態と同様に、コーティング層によって検出部対向面325bを構成してもよい。この場合において、コーティング層は、第1溝325r(第2溝333r)の底面のみに設けられてもよいし、底面に加えて側面に設けられてもよい。
【0104】
<第4の実施形態>
図10は、第4の実施形態に係るSAWセンサ401を示す分解斜視図である。
図11(a)は、
図10のXIa−XIa線における断面図であり、
図11(b)は
図10のXIb−XIb線における断面図である。
【0105】
第1の実施形態においては、センサチップ9がカバー25を有していた。これに対して、第4の実施形態のセンサチップ409は、カバー25を有していない。そして、第4の実施形態のSAWセンサ401においては、中層部材17および上層部材419がカバー425を構成している。具体的には、以下のとおりである。
【0106】
センサチップ409は、概略、センサチップ9からカバー25を無くした構成である。すなわち、
図11に示すように、センサチップ409は、センサチップ9と同様に、圧電基板23を有しており、また、圧電基板23の上に、第1IDT電極45、第2IDT電極47、配線49、パッド27および金属膜55等を有している。
【0107】
ただし、第4の実施形態では、圧電基板23は、カバー25を配置するためのスペースが不要であるから、第1の実施形態の圧電基板23よりも小型化されてよい。これに応じて中層部材17の第1孔部17bも小さくされてよい。
【0108】
センサチップ409は、短絡電極51および保護膜53が省略されている。ただし、センサチップ409は、センサチップ9と同様に、短絡電極51および保護膜53を有するものであってもよい。
【0109】
SAWセンサ401は、SAWセンサ101と同様に、下層部材15、中層部材17および上層部材419が積層されて構成された基体407を有している。下層部材15および中層部材17の構成は、第1の実施形態と概略同様である。
【0110】
上層部材419は、第1の実施形態とは異なり、第2孔部19b(
図1)が形成されていない。従って、上層部材419のうち、中層部材17の第1孔部17bに重なる部分は、センサチップ409(圧電基板23)の上面を覆う。このようにして、中層部材17および上層部材419によってカバー425が構成される。なお、上層部材419のみをカバーを構成する部材とみなしてもよい。
【0111】
カバー425は、第1の実施形態のカバー25と同様に、カバー本体433と、カバー本体433の下面に接着剤441によって貼り付けられたフィルム435とを有している。また、カバー425には、排気用の貫通孔443が形成されている。
【0112】
カバー本体433の天井部分(上層部材419)は、例えば、第1の実施形態の上層部材19と同様に、親水性フィルムにより形成されている。また、フィルム435は、カバー本体433よりも親水性が高い親水性フィルムにより構成されている。なお、上層部材419は、濡れ性が比較的低い材料(例えば下層部材15や中層部材17と同一材料)によって構成されてもよい。
【0113】
そして、フィルム435は、検出部(金属膜55)に対向する検出部対向面425bを構成し、カバー本体433のフィルム435が貼られていない部分は、第1IDT電極45および第2IDT電極47に対向する電極対向面425aを構成している。
【0114】
フィルム435は、x方向において、圧電基板23に対向する範囲だけでなく、圧電基板23上の空間29に検体液を導くための流路11にまで延びている。これにより、検出部対向面425bと流路11の天井面とは面一になっている。
【0115】
なお、中層部材17の厚みは、空間29および流路11の高さが適当な大きさとなるように、適宜に設定されてよい。
【0116】
以上のとおり、本実施形態では、空間29を構成するカバー425の天井面において、検出部に対向する検出部対向面425bは、一対のIDT電極に対向する一対の電極対向面425aよりも検体液との接触角が小さい。
【0117】
従って、本実施形態においても、第1の実施形態と同様の効果が奏される。例えば、検出部対向面425bの幅(y方向)によって空間29における検体液の幅(y方向)を制御可能であり、隔壁を設けずに、検体液がIDT電極上に流れることを抑制できる。
【0118】
また、本実施形態では、カバー425は、下層部材15上に位置し、圧電基板23の側方に位置する中層部材17と、中層部材17上に位置し、圧電基板23の上面を覆う上層部材419と、を有している。従って、例えば、第1の実施形態に比較して構成が簡素化される。
【0119】
なお、本実施形態では、第1の実施形態と同様に、検出部対向面425bをフィルムによって構成したが、第2の実施形態と同様に、コーティング層によって検出部対向面425bを構成してもよい。この場合において、コーティング層は、検出部対向面425bのみに設けられてもよいし、フィルム435と同様に、流路11の天井面にも設けられてよい。
【0120】
<第5の実施形態>
図12(a)および
図12(b)は、第5の実施形態に係るSAWセンサ501を示す断面図であり、
図11(a)および
図11(b)に対応している。
【0121】
SAWセンサ501は、第4の実施形態のSAWセンサ401に対して、中層部材の構成のみが相違する。具体的には、以下のとおりである。
【0122】
SAWセンサ501の中層部材517は、下層部材15上に位置する第1層518Aと、その上に位置する第2層518Bとを有している。
【0123】
第1層518Aの平面形状は、例えば、第4の実施形態の中層部材17の平面形状と同様である。
【0124】
第2層518Bの平面形状は、例えば、第1層518Aの平面形状において、空間29を構成する孔部をy方向(検出部とIDT電極との並び方向)において小さくし、また、流路11を形成する切り欠き部を無くした形状とされている。
【0125】
従って、
図12(b)に示されるように、y方向において、第1層518Aは、第2層518Bよりも圧電基板23に近い。そして、第1層518Aの上面は、その一部(露出面518a)が第2層518Bから空間29内に露出している。
【0126】
また、
図12(a)に示されるように、第1層518Aの上面は、第2層518Bの流路11を形成するための切り欠きから露出して、流路11の底面を構成している。なお、本実施形態では、第1の実施形態で流路11の底面を構成した底面部材21は設けられていない。
【0127】
第1層518Aの上面(少なくとも第2層518Bからの露出面)は、比較的検体液との接触角が小さくなるように構成されている。例えば、第1層518Aの上面は、第1層518Aの上面が親水性フィルムにより構成されることによって、または第1層518Aの上面にコーティング層が配置されることによって、検体液との接触角が小さくされている。第1層518Aの上面における検体液との接触角は、例えば、電極対向面425aにおける検体液との接触角よりも小さく、検出部対向面415bにおける検体液との接触角よりも大きい。
【0128】
以上のとおり、本実施形態では、中層部材517は、第1層518Aおよび第2層518Bを有し、y方向において第1層518Aが第2層518Bよりも圧電基板23に近い。
【0129】
従って、例えば、検体液が空間29全体に充填されることを前提とした構成において、第4の実施形態に比較して検体液の量を減らすことができる。
【0130】
また、本実施形態では、第1層518Aの上面のうち第1層518Aが第2層518Bよりも圧電基板23に近いことにより第2層518Bから露出した露出面518aは、電極対向面425aよりも検体液との接触角が小さく、かつ、検出部対向面425bよりも検体液との接触角が大きい。
【0131】
従って、例えば、検体液が空間29全体に充填されることを前提とした構成において、検出部対向面425bに優先的に検体液を流しつつも、検体液を空間29全体に容易に充填することができる。
【0132】
<第6の実施形態>
図13は、第6の実施形態に係るSAWセンサ601を示す断面図であり、
図12(a)の一部に対応している。
【0133】
第1〜5の実施形態では、流入口(3等)が基体(7等)の側面に開口し、排気のための貫通孔(43等)が基体の上面に開口した。第6の実施形態では、これとは逆に、流入口603が基体607の上面に開口し、排気のための貫通孔643が基体607の側面に開口している。具体的には、以下のとおりである。
【0134】
SAWセンサ601では、例えば、第4および第5の実施形態と同様に、センサチップ409はカバーを有しておらず、上層部材619により圧電基板23を覆うカバーが構成されている。流入口603は、上層部材619に形成されている。
【0135】
また、SAWセンサ601では、例えば、第5の実施形態と同様に、中層部材517は、第1層618Aおよび第2層(不図示)とを有しており、第2層には流路等を形成するための切り欠きが形成されている。これにより、第1層618Aと上層部材619との間には、センサチップ409上の空間29、当該空間29に検体液を導くための流路611、および、空間29からの排気のための流路612が形成されている。
【0136】
流入口603は、例えば、流入用の流路611の一端の上面に開口している。流路611は、例えば、流入口603から空間29に向かって直線状に延びている。排気用の流路612は、例えば、空間29から流路611とは反対側へ直線状に延び、貫通孔643に通じている。
【0137】
上層部材619の下面においては、他の実施形態と同様に、検出部対向面625bにおける検体液との接触角は、隣接面(第2領域、不図示)における検体液との接触角よりも小さくなっている。例えば、第4および第5の実施形態と同様に、上層部材619の下面には、フィルム635が検出部に対向するように設けられている。
【0138】
また、第5の実施形態と同様に、第1層618Aの上面は、親水性フィルムが設けられることなどによって検体液との接触角が比較的小さくなっている。すなわち、流路611および612の底面における検体液との接触角が小さい。
【0139】
なお、流入口603と流路611との接続部付近の壁面も、親水性フィルムが設けられることなどによって検体液との接触角が小さく設定されていることが好ましい。
【0140】
以上のような構成においても、第1〜第5の実施形態と同様の効果が奏される。例えば、検出部対向面625bの幅(y方向)によって空間29における検体液の幅(y方向)を制御可能であり、隔壁を設けずに、検体液がIDT電極上に流れることを抑制できる。
【0141】
(流路形状の変形例)
図14は、検出部上に検体液を導く流路の形状の変形例を説明する図であり、中層部材717の斜視図である。
【0142】
中層部材717は、上述の実施形態の中層部材と同様に、下層部材と上層部材との間に介在する部材であり、中層部材717に切り欠き717aが形成されていることによって、検体液を検出部に導く流路711が形成される。
【0143】
切り欠き717aは、流入口を構成する端部からセンサチップが配置される位置まで一定の幅で延びており、第1の実施形態の第1孔部17bに相当する部分も含んでいる。なお、流路711において、底面または天井面において検体液との接触角が小さくされる幅(y方向の範囲)は、切り欠き717aの幅と同等でもよいし、切り欠き717aの幅よりも小さくてもよい。
【0144】
なお、以上の実施形態において、検出部対向面25b、225b、325b、425bおよび625bは、第1領域の一例であり、電極対向面25a、225a、325aおよび425aは第2領域の一例であり、基体7、407および607はパッケージの一例であり、下層部材15は下層部の一例であり、中層部材17および517は中層部の一例であり、上層部材419は上層部の一例である。
【0145】
本発明は、以上の実施形態に限定されず、種々の態様で実施されてよい。
【0146】
実施形態では、SAWセンサがセンサチップと基体とを有する場合を例示したが、SAWセンサは、センサチップのみで完成品として流通されてもよい。
【0147】
ただし、SAWセンサを、カバーを含むセンサチップと基体とを有する構成とすれば、例えば、空間29の高さおよび第1領域の幅を高精度に形成して、検出部における検体液の量のばらつきを抑制し、ひいては、検出精度を向上させる一方で、相対的に大きな基体7においては精度の要求を下げることができ、検出精度の高い安価なSAWセンサを実現できる。
【0148】
また、第1の実施形態等では、センサチップ9のカバー25は、基体7から露出したが、センサチップ9が外部へ露出しないように基体が構成されてもよい。例えば、基体は、上層部材19およびカバー25の上に貼り合わされ、貫通孔43に連通する貫通孔が形成された層状の部材をさらに有していてもよい。
【0149】
また、第4の実施形態において、中層部材17は、センサチップ409の側方4方に位置して、センサチップ409の略全体を囲んだ。また、
図4の変形例では、中層部材7171は、センサチップの側方3方に位置した。しかし、中層部材は、少なくともセンサチップの側方両側に位置すればよい。例えば、検出部上の空間に向かって延びる、空間の幅と同等の幅の流入路(
図14参照)と、空間から流入路とは反対側へ延びる、空間の幅と同等の幅の流出路(乃至は排気路)とが形成されてもよい。
【0150】
下層部および中層部は一体的に形成され、その上に上層部材(上層部)が被せられてもよい。この場合も、圧電基板が載置されている面を基準に、下層部と中層部とを区別可能である。また、中層部および上層部は一体的に形成され、下層部材(下層部)に載置されてもよい。この場合も、圧電基板上の空間の上面を基準に、中層部と上層部とを区別可能である。
【0151】
また、検体液の流れる流路(基体の流路だけでなく、センサチップの空間含む)は、実施形態に例示したもの以外に、適宜に構成されてよい。
【0152】
第1領域と、第1領域に対して検出部およびIDT電極の並び方向両側に位置する一対の第2領域との境界は、検出部とIDT電極との間に位置する必要は無い。例えば、第1領域と第2領域との境界は、IDT電極上に位置してもよいし、IDT電極よりも外側に位置してもよい。このような場合においても、例えば、検体液がIDT電極上を流れることを許容するSAWセンサにおいて、検体液を検出部上に優先的に流れさせ、検出部上に気泡が生じることを抑制することができる。
【0153】
カバーの下面は、第1領域の検体液との接触角が第2領域の検体液との接触角よりも小さければよい。例えば、第1領域は、検体液の接触角が90°未満でなくてもよい。例えば、毛細管現象を利用しない場合においても、第1領域の検体液との接触角が電極対向面の検体液との接触角よりも小さければ、IDT電極上に検体液が流れることを抑制しつつ、検出部上に検体液を流すことができる。ただし、毛細管現象を利用した方が検体液の検出部上への導入が容易であるし、第1領域の幅等によって検体液の幅(量)を精度よく制御することも容易である。
【0154】
また、第1領域における検体液の接触角が90°未満である場合において、第2領域における検体液の接触角は、90°以上でなくてもよい。例えば、第1の実施形態に係るSAWセンサ1の試作品では、電極対向面25aの接触角が70°であり、検出部対向面25bの接触角が25°であったが、検体液のIDT電極上への流れは十分に抑制された。これには、既に述べた、フィルム35および接着剤41の厚みによって構成される濡れ性の低い段差による効果が影響していると考えられる。なお、第2の実施形態のように、電極対向面225a(第2領域)と検出部対向面225b(第1領域)とが略面一で、かつ、IDT電極上に検体液が流れることを許容しない場合においては、電極対向面の接触角は90°以上であることが好ましい。
【0155】
実施形態では、第1領域は、フィルムまたはコーティング層により構成され、第2領域に対して下方に位置した。しかし、第1領域と第2領域とは面一であってもよい。例えば、予めフィルムまたはコーティング層の厚みで凹部が形成されたカバー本体に、フィルムまたはコーティング層を配置してもよい。
【0156】
一対のIDT電極および検出部(金属膜)は、1組だけでなく、複数組設けられてもよい。例えば、第1の実施形態において、金属膜55の広さを検出領域23aと同等とするとともに、IDT電極および金属膜の組み合わせをx方向(検体液の流れ方向)に複数組配列してもよい。この場合において、1組の金属膜にはアプタマーを固定化させる一方で、他の1組の金属膜にはアプタマーを固定化させず、両者を比較することによって、検体液とアプタマーとの結合によるSAWの変化を測定してもよい。また、金属膜毎に異なる種類のアプタマーを固定化させ、検体液について異なる性質または成分を測定してもよい。
【0157】
実施形態では、親水性の語(例)を用いて説明した。しかし、既に言及したように、検体(検体液)は、水を含むものに限定されない。検体が水を含まない場合、親水性に代えて親媒性の語を用いればよい。
【0158】
なお、本明細書に記載した形態(特に第1、第4および第5の実施形態)からは、検出部に対向する第1領域が、第1領域に対して検出部およびIDT電極の並び方向両側に位置する一対の第2領域よりも、圧電基板側に突出していることを特徴とする別発明を抽出可能である。
【0159】
当該別発明においては、必ずしも第1領域の検体液との接触角が第2領域の検体液との接触角よりも小さい必要は無い。当該別発明においては、例えば、圧電基板から第1領域までの高さが、圧電基板から第2領域までの高さよりも低くなることから、第2領域よりも第1領域において毛細管現象を生じやすくすることができる。