特許第5922858号(P5922858)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5922858
(24)【登録日】2016年4月22日
(45)【発行日】2016年5月24日
(54)【発明の名称】高抵抗シリコンウェーハの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/324 20060101AFI20160510BHJP
   C30B 29/06 20060101ALI20160510BHJP
   H01L 21/322 20060101ALI20160510BHJP
   H01L 21/329 20060101ALI20160510BHJP
   H01L 29/868 20060101ALI20160510BHJP
【FI】
   H01L21/324 N
   C30B29/06 A
   H01L21/322 Y
   H01L29/91 A
【請求項の数】1
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2009-49908(P2009-49908)
(22)【出願日】2009年3月3日
(65)【公開番号】特開2010-205936(P2010-205936A)
(43)【公開日】2010年9月16日
【審査請求日】2011年12月16日
【審判番号】不服2014-16120(P2014-16120/J1)
【審判請求日】2014年8月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】302006854
【氏名又は名称】株式会社SUMCO
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100126882
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 光永
(72)【発明者】
【氏名】栗田 一成
【合議体】
【審判長】 小野田 誠
【審判官】 加藤 浩一
【審判官】 河口 雅英
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−123351(JP,A)
【文献】 特開2005−145744(JP,A)
【文献】 特開2002−100632(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L21/324
H01L21/322
H01L21/329
C30B29/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
p/n型反転領域が発生する表面からの深度範囲を調節するシリコンウェーハの製造方法であって、
ウェーハ表面抵抗値が714〜1905Ωcmとなるp型ドーパント濃度、窒素濃度;3.98×1013〜8.92×1013atoms/cm (ASTM F123-1981)、酸素濃度Oiが14.57×1017〜16.63×1017atoms/cm (ASTM F123-1979)としてCZ法により単結晶を引き上げる引き上げ工程と、この単結晶からスライスしてウェーハに加工する加工工程と、非酸化性雰囲気による酸素外方拡散熱処理工程と、を有し、
前記酸素外方拡散熱処理が、アルゴンガス、水素ガス、あるいはそれらの混合ガス雰囲気中にて処理温度1100〜1250℃、処理時間1〜5時間とされる熱処理条件であり、
前記酸素外方拡散熱処理を施すことにより、デバイス製造の工程における熱処理が行われる際に、サーマルドナー発生に起因するp/n型反転領域を、デバイス活性領域およびそれに接して形成される空乏層領域には接しない深さに発生させ、
ウェーハ表面側のp型領域と厚さ方向内側のp/n型領域との境界となる抵抗値のピーク位置が、前記窒素濃度によってウェーハ表面からの境界深度30〜45μmの範囲に設定されるよう調節するとともに、
デバイスの製造される領域で、前記酸素外方拡散熱処理後さらに800℃3hr+1000℃16hrの熱処理した場合に発生する酸素析出物密度が、ウェーハ表面抵抗値が714〜1905Ωcmとなるp型ドーパント濃度、酸素濃度Oiが14.57×1017〜16.63×1017atoms/cm (ASTM F123-1979)、多結晶化(DF切れ)を起こさない最大限界濃度とされる32×1016atoms/cm (ASTM F123-1981)の炭素をドープしてCZ法により得られたウェーハに前記酸素外方拡散熱処理後さらに800℃3hr+1000℃16hrの熱処理した場合に発生する酸素析出物密度に比べて、2〜4×1010個/cm 多くすることを特徴とする高抵抗シリコンウェーハの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波用集積回路のデバイス等の基板に使用される高抵抗シリコンウェーハおよびその製造方法に用いて好適な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
移動体通信用や近距離無線LANなど、高周波のデバイスの普及あるいは微細化や信号量の増大から、高周波を用いる回路の需要が増大している。高周波回路の基板には高抵抗を要求される。このような用途に対し、非常に高価なGaAsなどの化合物半導体ではなく、通常のチョクラルスキー法(CZ法)によるシリコン単結晶から作製された基板によるCMOS(Complementary Metal Oxide semiconductor )を適応することもある。また、FZ法(帯溶融法)は直径の大きい単結晶の製造が困難であり、品質の安定性やコストに問題があって、需要に対する十分な対応ができない。
CZ基板によるCMOSでは、消費電力が大きく基板ノイズの発生が大であるため不適とされてきた。しかし、微細化の技術や設計などの改善が進められ、抵抗値の高いCZ法によるシリコンウェーハを用いることにより、これらの問題点が克服できるようになってきている。
【0003】
CZ法は石英るつぼを用いて原料を溶解し、その溶融液から直接引き上げ育成してシリコン単結晶が製造され、2.3×10Ωcmとされる高純度シリコンの抵抗率を、ホウ素(B:p型)やリン(P:n型)などのドーパントを微量添加し、所望の抵抗率に調整する。CZ法によるシリコン単結晶では、るつぼから溶け出した酸素を通常20ppma(16×1018atoms/cm[ASTMF121-1979])程度含有している。
【0004】
シリコンに含有される相対的に高濃度の酸素は、シリコンウェーハに欠陥を生じさせデバイスの特性不良の原因となり得るが、一方ではデバイスの製造過程において、スリップ伸展の防止などウェーハの強度高化や変形抑止したり、デバイスの動作不良の原因となる混入重金属イオンをトラップするゲッタリングサイトとなる微小欠陥を、ウェーハ内部に形成させるなどの作用がある。
CZ法によるシリコン単結晶を用いるとき必然的に混入してくる酸素によって、ドーパント量の低減により高抵抗に設定した抵抗率を大きく変化させる場合がある。シリコン中で酸素原子は通常電気的に中性であり、直接にはその電気抵抗などに影響を及ぼさない。
1時間程度以上とされる長時間、300〜500℃の低温域とされるような条件で熱処理されると、安定なSiOの析出物までにはいたらない複合物が形成され、これが電子を放出してドナーの性質を示すようになるので、酸素ドナーあるいはサーマルドナーと呼ばれている。
【0005】
図1は、サーマルドナー発生量の多少とウェーハの抵抗率との関係を模式的に示す図である。通常の抵抗率が10Ωcm程度の低抵抗ウェーハの場合、サーマルドナーの発生量に比しドーパント量が十分多いので、サーマルドナーが生じても抵抗率への影響は軽微である。ところが、高抵抗のウェーハの場合、ドーパント量が少ないため、その抵抗率はサーマルドナーにより大きく影響される。特にp型の場合、アクセプターによる正孔でもたらされていた導電性は、ドナーによる電子の供給により消滅して抵抗率が著しく上昇して無限大にまで増大する。そして、ドナーが増して、酸素ドナー濃度がアクセ婦他濃度を超えるとp/n型反転を生じ、n型の半導体になってしまって抵抗率が減少する現象が起きる。このサーマルドナーの発生しやすい温度域での加熱は、デバイスの製造最終段階において、配線形成などの熱処理として必然的におこなわれる。
【0006】
サーマルドナーの発生量は、酸素濃度を低くしたシリコンウェーハでは少なくなる。そこで酸素含有量低減のために、るつぼ中のシリコン融液に磁場を印加してその流れを制御しつつ単結晶引き上げをおこなう磁場印加引き上げ法(MCZ法)の適用や、内面にSiCをコーティングしたるつぼを用いる方法など、低酸素の単結晶を製造する方法が提案されている。
しかしながら、これらの酸素の低減方法は、低酸素化に技術的な限界があって、コストも上昇し、その上低酸素化によりウェーハの強度が低下して、デバイス製造過程で変形が原因の不良品を発生しやすくなるという問題もある。
【0007】
CZ法によるシリコン単結晶を用い、サーマルドナーによる影響を排除した高抵抗率ウェーハとその製造方法に関する発明が特許文献1に開示されている。この発明は、抵抗率が100Ωcm以上で、初期格子間酸素(固溶酸素)濃度が10〜25ppma(7.9×1017〜19.8×1017atoms/cm[ASTMF121-1979])の、通常の酸素量を含むCZ法による単結晶をウェーハに加工し、これに酸素析出処理を施して、残留格子間酸素濃度を8ppma(6.4×1017atoms/cm[ASTMF121-1979])以下にするというものである。しかし、残留格子間酸素濃度を8ppmaに低下させる熱処理方法が、結果的に酸素析出物が形成され残留格子間酸素濃度が8ppma以下になればよいので特別に限定されるものではない、と説明されるのみで、わずかに実施例において、酸素雰囲気または窒素雰囲気にて800℃で4時間の加熱と酸素雰囲気中1000℃で16時間の加熱との二段熱処理、または酸素雰囲気中650℃で2時間、同じく800℃で4時間および酸素雰囲気中1000℃で16時間、それぞれ加熱することによる三段熱処理が示されているだけであり、熱処理条件範囲等は明確にされていない。
【0008】
デバイスを形成させるウェーハの、厚さ方向の酸素の存在状態を制御する方法として、DZ−IG(IntrinsicGettering)処理が一般におこなわれている。これは、ウェーハ表面近傍のデバイスが形成される領域すなわち活性化領域は無欠陥層(DZ:DenudedZone)とし、内部には、混入してくる重金属イオンなどを捕獲する作用のある、酸素析出物による欠陥を形成させようとする熱処理である。
通常、(1)表面のDZ形成のための高温での酸素外方拡散熱処理、(2)析出核形成のための低温熱処理(酸素析出核形成熱処理)、および(3)内部のゲッタリングサイトとなる酸素析出物による欠陥形成のための中温あるいは高温熱処理(酸素析出物成長熱処理)、の三段階の熱処理が施される。
【0009】
特許文献2には、抵抗率が100Ωcm以上の高抵抗のウェーハに、このDZ−IG処理を施すウェーハおよびその条件の発明が開示されている。これは、特許文献1の発明と同様、ウェーハのいずれの部分でも格子間酸素濃度が8ppm以下であって、表面近傍のDZとバルク部の酸素析出物層とを有し、その上でDZと酸素析出物層との遷移領域の幅が5μm以下であることとするものである。
上述の特許文献2の発明のウェーハ製造方法は、CZ法により得た初期格子間酸素濃度が10〜25ppmaの単結晶から加工したウェーハを用い、(a)950〜1050℃で2〜5時間の第一熱処理、(b)450〜550℃で4〜5時間の第二熱処理、(c)750〜850℃で2〜8時間の第三熱処理および(d)950〜1100℃の第四熱処理、の四段階の熱処理を施し、上記のように格子間酸素濃度を8ppm以下にする。
この場合、(a)の第一熱処理は表面のDZ形成のための酸素外方拡散処理で、(d)の第四熱処理はゲタリングサイト形成のための酸素析出処理であるが、(b)および(c)は、析出核形成のための処理をより十分におこない、格子間酸素濃度を確実に8ppm以下に低下させようとしていると思われる。
【0010】
しかしながら、熱処理によりウェーハ厚み方向全域に亘り、固溶酸素濃度を8ppma以下に低下させることは必ずしも容易ではなく、多大な熱処理工数を要し製造コストの増加を招く。その上、固溶酸素濃度を減少させてしまうことはウェーハの強度を大きく低下させるので、酸素ドナーを低減できたとしても、デバイス形成工程で実施される高温熱処理においてウェーハに変形やスリップ転位を発生させ易い。
【0011】
特許文献3においては、炭素ドープによってp/n型反転領域のできる深さを表面から8μm程度として上記の問題を解決している。しかし、Cドープでは、炭素濃度を高くすると多結晶化が発生して単結晶化(Dislocation Free; 以下、DFと記す)率が低下する、結果的に単結晶を引き上げられないため、炭素濃度は一定の上限が存在し、それ以上の高濃度炭素ドープウェーハは製造できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】国際公開第00/55397号パンフレット
【特許文献2】特開2002−100631号公報
【特許文献3】特許第3985768号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかし、炭素ドープウェーハでは、単結晶を引き上げるために必要な炭素濃度範囲の上限により、特許文献3のようにp/n型反転でn型領域のできる深さ位置範囲を最大でも表面から10μm程度までしか深くできないが、最近のデバイス設計条件である高周波といわれる適用周波数範囲の上昇、消費電力低減要求とデザインルールの微細化要求から、さらなる深度、20μm以上60μm程度にまで、p/n型反転が起きない範囲を拡大するとともに、このような深々度での位置制御を正確におこないたいという要求が生じている。
【0014】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、CZ法による単結晶を用いるp型の高抵抗ウェーハにおいて、表面の活性化領域に形成されたCMOSが動作不良やn−well分離不十分などを生じることの少ない、優れた特性を有する高抵抗ウェーハを提供可能とし、さらに、以下の目的を達成しようとするものである。
1.単結晶を維持したまま、p/n型反転の起きる領域を炭素ドープウェーハに比べてより深々度範囲に形成可能とすること。
2.p/n型反転の起きる境界深度を制御可能とすること。
3.具体的には、この境界深度を少なくともウェーハ表面から10μm〜70μmの範囲で深度制御可能に形成すること
4.高抵抗ウェーハにおいて、その全深度にわたってp型を維持可能とする、つまり、p/n型反転の発生を防止可能なウェーハおよびその製造方法を提供すること。
【課題を解決するための手段】
【0015】
炭素をドープしたp型の高抵抗CZウェーハに、デバイス製造工程としてCMOSを製造しその特性を調査したところ、目的とする特性が十分得られないもの、あるいは隣り合ったn−wellの分離が十分できないため、デバイス特性が悪化するものが生じる場合があり、問題を生じた高抵抗ウェーハについて種々調査した結果、次のようなことがあきらかになった。
【0016】
まず、表面にデバイスを形成させる前のウェーハでは、表面層のDZ層あるいは内部のBMD(Bulk Micro Defect )とも呼ばれる酸素析出物については、何ら問題はなく正常に分布しているが、CMOSのデバイスが形成された後のウェーハを調べると、表面近くはp型半導体であるが、内部はn型半導体に反転しているものがあり、とくにこのp/n型反転領域が表面に近い位置に存在した場合、CMOSの特性が目標値に達していなかったり、n−wellの分離が不十分なものが生じていた。
【0017】
ウェーハ内部で生じるp/n型反転は、図1に示すように、デバイス形成の製造工程の熱処理によって生じるサーマルドナーが原因であると推定される。しかし、サーマルドナーが発生しないように、ウェーハ深さ方向全域にわたって固溶酸素を低減することは、熱処理を十分長くおこなう必要があり製造時間が長時間化して生産性が低下する上、ウェーハの強度低下を招くおそれがあるという問題がある。
さらに、このp/n型反転現象は、より抵抗率の高いウェーハに屡々見られるが、p/n型反転が発生していたとしても、このp/n型反転領域が十分深い位置にあれば、CMOSの特性やn−well分離にほとんど影響しないので、より深い位置にこのp/n型反転領域が形成されて、それより浅い部分はp型を維持するよう位置制御をおこなえばデバイス特性に影響しない。つまり、サーマルドナーの発生する位置が表面に形成されるCMOSの作動に影響を及ぼさない深さであればウェーハ特性としては充分である。
【0018】
つまり、p型のウェーハ上にn−wellを形成させたとき、wellとウェーハ基板との間に空乏層が生じるが、その空乏層からp/n型反転領域が十分離れているようにp/n型反転発生を制御できればよい。ウェーハの抵抗率が高いとき、空乏層の領域は通常の抵抗率の低い場合よりも大きくなるので、高周波数帯に対応するデバイスに適用する高抵抗ウェーハの場合には、発生したp/n型反転領域の表面からの深さは、炭素ドープによって製造されたウェーハでは対応できないほど十分大きくする必要がある。
【0019】
図2は、上述したp型ウェーハ上に形成されたCMOSの構成とp/n型反転領域との関係を説明する図である。図示するCMOSはtwin−well構造とし、p、n−wellが補完し合う構造になっている。p型ウェーハ3表面から基板深さ方向に、p−well並びにn−wellおよび欠乏層1が形成されており、p/n型反転領域2の発生により、n型ウェーハ4に反転している。
図2(a)ではp/n型反転領域2が欠乏層領域に接しているため、n−wellの分離が十分でなく、所定の特性が得られない。一方、同(b)に示すように、p/n型反転領域2を十分深い位置に発生させることによって、CMOSの特性やn−well分離に影響を及ぼすことがほとんどなくなることが分かる。
【0020】
n型への反転が生じるか生じないかは、サーマルドナーの発生量とウェーハのドーパント量により大きく影響される。サーマルドナーの発生量は、酸素量、ウェーハの熱処理条件、およびデバイス形成時の熱履歴により推測は可能であり、ドーパント量はウェーハの抵抗率によりほぼ決定され、抵抗率が高いウェーハほど少ない。
【0021】
したがって、n型への反転が生じるかどうかについては、上記の諸条件がわかれば予測は可能で、デバイス形成時の熱履歴を知ることができれば、ウェーハの熱処理条件を選定することにより、n型への反転の発生を抑止することは可能と思われる。しかしながら、n型への反転が生じたとしても、デバイスの形成領域はp型を維持し、n型に反転した部分が十分深い位置であればデバイスの性能には影響しないので、n型への反転の発生を制御するよりも、p/n型反転領域の発生位置、すなわち表面からの深さを制御できればよい。
【0022】
ウェーハは、表面の活性領域の欠陥を低減する目的などのため、高温加熱処理が施される。ウェーハが高温加熱されると、多くの場合、酸素の外方拡散が生じて表面層の酸素濃度が低下する。したがって、デバイスの製造過程でサーマルドナーが発生する条件の処理を受けたとき、ウェーハ内部はn型へ反転したとしても、表面近くは酸素濃度が低いためサーマルドナーが少なくp型を維持できる。
【0023】
このようにして、ウェーハ表面の酸素濃度の低下がp/n型反転領域の位置を決定していると推測されるので、高温加熱処理により生じる酸素の外方拡散を制御すれば、ウェーハにp/n型反転が生じたとしても、反転領域は表面のデバイスの作動に影響のない深さ位置に移行させることができる。
【0024】
そこで、高抵抗のウェーハを用い、デバイス製造時のシンタリングプロセスなど最もサーマルドナーの生じやすい条件として、450℃、1時間の熱処理をおこなった後、深さ方向の抵抗分布を広がり抵抗の測定法にて調査して、デバイス特性に影響を及ぼさないのに必要なp/n型反転領域の深さ位置を求めることとし、ウェーハに対し酸素外方拡散処理など種々の熱処理を施して、その条件の影響を調査した。
【0025】
ここでp/n型反転領域の境界深度位置は、深さ方向の抵抗値分布が実際の測定値としてピークを呈する深さ位置として定義する。これは、p/n型反転領域は、サーマルドナーからの電子供給がデバイス領域であるp型部分に影響を及ぼさない、つまり、p/n型反転領域のウェーハ表面側境界はp型領域のアクセプターによる正孔でもたらされていた導電性が、ドナーによる電子の供給により消滅して、理論的には、抵抗率無限大にまで増大する部分が、n型の半導体の状態であるとの認識による。
【0026】
このようなp/n型反転領域の境界位置が、前述のように表面のデバイスが形成される領域、さらにはn−wellに接して形成される空乏層に接しない深さにあればよい。この位置について調べてみると、表面から10μm以上あることが好ましく、実際には20μm〜50μmとすることが好ましい。ところが、炭素を高濃度にドープしたウェーハでは、多結晶化(DF切れ)を起こすので、炭素濃度を5×1017atoms/cm 以上にすることができない。このような炭素濃度では、p/n型反転領域の境界深度位置を10μm程度より深くすることはできず、さらに、どんなに初期酸素濃度Oi、熱処理条件等を調整しても、20μmを超えて形成することはできない。
【0027】
ところが、本発明者らは、従来、New Donorといわれるドナーが発生するため、n型反転が起こりやすいとされてきた、窒素をウェーハにドープすることで、これらの問題を解決できることを見出した。
つまり、炭素ドープでは実現できなかった深深度にp/n型反転領域の境界深度を設定可能とするとともに、さらに、ドープする窒素濃度を制御するだけで、このp/n型反転境界の形成される深さ位置(境界深度)を制御可能とすることを可能としたものである。これにより、境界深度よりも表面側にはp/n型反転領域を形成しないことができる。
しかも、特定の熱処理条件とした処理を施すことで、炭素ドープCZウェーハでは改善できなかった抵抗値が深さ位置で低下してしまうことを防止する、つまり、ウェーハ深さ方向に抵抗値が一定の状態となるか、表面抵抗値よりも深さ方向に抵抗値が低下する部分がない高抵抗ウェーハを提供可能とすることができる。
【0028】
本発明の高抵抗シリコンウェーハの製造方法は、p/n型反転領域が発生する表面からの深度範囲を調節するシリコンウェーハの製造方法であって、
ウェーハ表面抵抗値が714〜1905Ωcmとなるp型ドーパント濃度、窒素濃度;3.98×1013〜8.92×1013atoms/cm (ASTM F123-1981)、酸素濃度Oiが14.57×1017〜16.63×1017atoms/cm (ASTM F123-1979)としてCZ法により単結晶を引き上げる引き上げ工程と、この単結晶からスライスしてウェーハに加工する加工工程と、非酸化性雰囲気による酸素外方拡散熱処理工程と、を有し、
前記酸素外方拡散熱処理が、アルゴンガス、水素ガス、あるいはそれらの混合ガス雰囲気中にて処理温度1100〜1250℃、処理時間1〜5時間とされる熱処理条件であり、
前記酸素外方拡散熱処理を施すことにより、デバイス製造の工程における熱処理が行われる際に、サーマルドナー発生に起因するp/n型反転領域を、デバイス活性領域およびそれに接して形成される空乏層領域には接しない深さに発生させ、
ウェーハ表面側のp型領域と厚さ方向内側のp/n型領域との境界となる抵抗値のピーク位置が、前記窒素濃度によってウェーハ表面からの境界深度30〜45μmの範囲に設定されるよう調節するとともに、
デバイスの製造される領域で、前記酸素外方拡散熱処理後さらに800℃3hr+1000℃16hrの熱処理した場合に発生する酸素析出物密度が、ウェーハ表面抵抗値が714〜1905Ωcmとなるp型ドーパント濃度、酸素濃度Oiが14.57×1017〜16.63×1017atoms/cm (ASTM F123-1979)、多結晶化(DF切れ)を起こさない最大限界濃度とされる32×1016atoms/cm (ASTM F123-1981)の炭素をドープしてCZ法により得られたウェーハに前記酸素外方拡散熱処理後さらに800℃3hr+1000℃16hrの熱処理した場合に発生する酸素析出物密度に比べて、2〜4×1010個/cm 多くすることを特徴とする。
本発明の高抵抗シリコンウェーハの製造方法は、p/n型反転領域が発生する表面からの深度範囲を調節するシリコンウェーハの製造方法であって、
ウェーハ表面抵抗値が0.1〜10kΩcmとなるp型ドーパント濃度、窒素濃度;1.0×1013〜10×1013atoms/cm (ASTM F123-1981)、酸素濃度Oiが5.0×1017〜20×1017atoms/cm (ASTM F123-1979)としてCZ法により単結晶を引き上げる引き上げ工程と、この単結晶からスライスしてウェーハに加工する加工工程と、非酸化性雰囲気による酸素外方拡散熱処理工程と、を有し、
ウェーハ表面側のp型領域と厚さ方向内側のp/n型領域との境界となる抵抗値のピーク位置が、前記窒素濃度によってウェーハ表面からの境界深度10〜70μmの範囲に設定されるよう調節することにより上記課題を解決した。
本発明は、前記酸素外方拡散熱処理工程後に、酸素析出核形成熱処理工程および/または酸素析出物形成熱処理工程と、を有することができる。
本発明の高抵抗シリコンウェーハの製造方法は、p/n型反転領域が発生せず、ウェーハ厚さ全域において抵抗分布が、0.1〜10kΩcmの範囲に設定される基準値に対し、そのバラツキが、0〜30%以内に設定されるp型領域を有するシリコンウェーハの製造方法であって、
ウェーハ表面抵抗値が0.1〜10kΩcmとなるp型ドーパント濃度、窒素濃度;1.0×1013〜10×1013atoms/cm (ASTM F123-1981)、酸素濃度Oiが5×1017〜20×1017atoms/cm (ASTM F123-1979)としてCZ法により単結晶を引き上げる引き上げ工程と、この単結晶からスライスしてウェーハに加工する加工工程と、非酸化性雰囲気による酸素外方拡散熱処理工程と、酸素析出核形成熱処理工程および/または酸素析出物形成熱処理工程と、を有することにより上記課題を解決した。
さらに、前記酸素外方拡散熱処理が、アルゴンガス、水素ガス、あるいはそれらの混合ガス雰囲気中にて処理温度1100〜1250℃、処理時間1〜5時間とされる熱処理条件であることが可能である。
また、酸素外方拡散熱処理を施すことにより、デバイス製造の工程における熱処理が行われる際に、サーマルドナー発生に起因するp/n型反転領域を、デバイス活性領域およびそれに接して形成される空乏層領域には接しない深さに発生させることができる また、前記酸素析出核形成熱処理が、処理温度600〜800℃、処理時間1〜20時間とされる熱処理条件とされ、前記酸素析出物形成熱処理が、処理温度1000〜1100℃℃、処理時間1〜20時間とされる熱処理条件であることがある。
本発明においては、前記酸素外方拡散熱処理を施した後、さらに酸素析出核形成熱処理および/または酸素析出物形成熱処理を施すことが望ましい。
本発明の高抵抗シリコンウェーハは、抵抗率が100Ωcm以上で、シリコンウェーハ表面に無欠陥層が形成されたp型のシリコンウェーハであって、
窒素がドープされ、デバイス製造の工程における熱処理が行われた際にサーマルドナー発生に起因するp/n型反転領域がデバイスの活性領域およびそれに接して形成される空乏領域には接しない深さにあることにより上記課題を解決した。
本発明において、前記p/n型反転領域がウェーハ表面から10μm〜70μmの範囲とされる深さにあることがより好ましい。
本発明には、前記p/n型反転領域が酸素析出物を含有することが可能である。
また、また、本発明において、ウェーハ内の窒素濃度が、1.0×1013〜10×1013atoms/cm (ASTM F123-1981)とされる手段を採用することもできる。
本発明においては、p型ウェーハで、窒素がドープされ、アルゴンガス、水素ガス、あるいはそれらの混合ガス雰囲気中にて処理温度1100〜1250℃、処理時間1〜5時間とされる熱処理により、表面から深さ方向への抵抗分布が、0.1〜10kΩcm程度のp型表面領域と、深さ方向に抵抗値が上昇下降してピークを有するピーク領域と、酸素ドナーによるp/n型反転深度領域とを有し、前記ピーク領域におけるピーク位置がウェーハ表面からの深度10〜70μmの範囲とされることが好ましい。
本発明においては、p型ウェーハで、窒素がドープされ、アルゴンガス、水素ガス、あるいはそれらの混合ガス雰囲気中にて処理温度1100〜1250℃、処理時間1〜5時間とされる熱処理に加えて、処理温度1000〜1100℃℃、処理時間1〜20時間とされる熱処理により、表面からさ方向への抵抗分布が、厚さ全域において、0.1〜10kΩcmの範囲に設定される基準値に対し、そのバラツキが、0〜30%以内に設定されることができる。
本発明においては、800℃3hr+1000℃16hrの熱処理した場合に発生する酸素析出物密度が、多結晶化(DF切れ)を起こさない最大限界濃度とされる32×1016atoms/cm (ASTM F123-1981)の炭素をドープしたウェーハに同一条件で熱処理した場合に発生する酸素析出物密度に比べて、2〜4×1010個/cm多いことができる。
【0029】
本発明の本発明の高抵抗シリコンウェーハの製造方法は、p/n型反転領域が発生する表面からの深度範囲を調節するシリコンウェーハの製造方法であって、
ウェーハ表面抵抗値が0.1〜10kΩcmとなるp型ドーパント濃度、窒素濃度;1.0×1013〜10×1013atoms/cm (ASTM F123-1981)、酸素濃度Oiが5.0×1017〜20×1017atoms/cm (ASTM F123-1979)としてCZ法により単結晶を引き上げる引き上げ工程と、この単結晶からスライスしてウェーハに加工する加工工程と、非酸化性雰囲気による酸素外方拡散熱処理工程と、を有し、
ウェーハ表面側のp型領域と厚さ方向内側のp/n型領域との境界となる抵抗値のピーク位置が、前記窒素濃度によってウェーハ表面からの境界深度10〜70μmの範囲に設定されるよう調節することにより、上記の範囲にピーク位置で表現されるp/n型反転領域境界の深さ位置を制御して、炭素ドープのウェーハでは実現できない深さ位置とし、同時にこの状態をウェーハ面内においてほぼ均一状態に全面で形成するとともに、同程度の熱処理時間により炭素ドープのウェーハに比べて高いゲッタリング能を有し、かつ、より高いウェーハ変形防止およびスリップ・割れ発生防止を実現でき、さらに、同じ表面抵抗値に設定しても、より高周波のデバイスに対応可能なウェーハを提供することができる。
【0030】
本発明本発明は、前記酸素外方拡散熱処理工程後に、酸素析出核形成熱処理工程および/または酸素析出物形成熱処理工程と、を有することで、炭素ドープのウェーハに比べて深い位置にp/n型反転領域境界を形成することができる。
【0031】
本発明本発明の高抵抗シリコンウェーハの製造方法は、p/n型反転領域が発生せず、ウェーハ厚さ全域において抵抗分布が、0.1〜10kΩcmの範囲に設定される基準値に対し、そのバラツキが、0〜30%以内に設定されるp型領域を有するシリコンウェーハの製造方法であって、
ウェーハ表面抵抗値が0.1〜10kΩcmとなるp型ドーパント濃度、窒素濃度;1.0×1013〜10×1013atoms/cm (ASTM F123-1981)、酸素濃度Oiが5×1017〜20×1017atoms/cm (ASTM F123-1979)としてCZ法により単結晶を引き上げる引き上げ工程と、この単結晶からスライスしてウェーハに加工する加工工程と、非酸化性雰囲気による酸素外方拡散熱処理工程と、酸素析出核形成熱処理工程および/または酸素析出物形成熱処理工程と、を有することにより、炭素ドープウェーハでは実現できなかった、p/n型反転領域が発生しない高抵抗ウェーハを実現することが可能となる。
【0032】
さらにさらに、前記酸素外方拡散熱処理が、アルゴンガス、水素ガス、あるいはそれらの混合ガス雰囲気中にて処理温度1100〜1250℃、処理時間1〜5時間とされる熱処理条件であることが可能である。
【0033】
また、また、酸素外方拡散熱処理を施すことにより、デバイス製造の工程における熱処理が行われる際に、サーマルドナー発生に起因するp/n型反転領域を、デバイス活性領域およびそれに接して形成される空乏層領域には接しない深さに発生させることができる。
【0034】
また、また、前記酸素析出核形成熱処理が、処理温度600〜800℃、処理時間1〜20時間とされる熱処理条件とされ、前記酸素析出物形成熱処理が、処理温度1000〜1100℃℃、処理時間1〜20時間とされる熱処理条件であることがある。
【0035】
本発明本発明においては、前記酸素外方拡散熱処理を施した後、さらに酸素析出核形成熱処理および/または酸素析出物形成熱処理を施すことで、雇用している酸素を固定することで、酸素濃度を低減して、ドナーの影響を低減することができる。
【0036】
本発明の本発明の高抵抗シリコンウェーハは、抵抗率が100Ωcm以上で、シリコンウェーハ表面に無欠陥層が形成されたp型のシリコンウェーハであって、
上記のいずれか記載の製造方法によって製造され、
窒素がドープされ、デバイス製造の工程における熱処理が行われた際にサーマルドナー発生に起因するp/n型反転領域がデバイスの活性領域およびそれに接して形成される空乏領域には接しない深さにあることにより、サーマルドナーの影響をなくし、優れた特性
を発揮するCMOSなどのデバイスを製造できるウェーハを提供することが可能となる。
【0037】
本発明本発明において、前記p/n型反転領域がウェーハ表面から境界深度とされる10μm〜70μmまでの範囲とされる深さにあることで、サーマルドナーの影響をより一層低減できる。なお、境界深度は好ましくは15〜60μm、20〜50μm、30〜45μm、35〜55μm、25〜40μm、40〜65μm、45〜70μmとすることができる。
【0038】
本発明本発明には、前記p/n型反転領域が酸素析出物を含有することにより、ゲッタリング能を有し、かつ、変形・割れの防止を図ることができる。
【0039】
また、また、本発明において、ウェーハ内の窒素濃度が、1.0×1013〜10×1013atoms/cm (ASTM F123-1981)とされるとともに、この範囲内において、濃度を調節することにより、高濃度の場合はp/n型反転領域境界を深い深度位置に設定し、低濃度の場合には、p/n型反転領域境界を浅い深度位置に設定することができる。
【0040】
本発明本発明においては、p型ウェーハで、窒素がドープされ、アルゴンガス、水素ガス、あるいはそれらの混合ガス雰囲気中にて処理温度1100〜1250℃、処理時間1〜5時間とされる熱処理により、表面から深さ方向への抵抗分布が、0.1〜10kΩcm程度のp型表面領域と、深さ方向に抵抗値が上昇下降してピークを有するピーク領域と、酸素ドナーによるp/n型反転深度領域とを有し、前記ピーク領域におけるピーク位置がウェーハ表面からの深度10〜70μmの範囲とされることが好ましい。
【0041】
本発明本発明においては、p型ウェーハで、窒素がドープされ、アルゴンガス、水素ガス、あるいはそれらの混合ガス雰囲気中にて処理温度1100〜1250℃、処理時間1〜5時間とされる熱処理に加えて、処理温度1000〜1100℃℃、処理時間1〜20時間とされる熱処理により、表面から付加さ方向への抵抗分布が、厚さ全域において、0.1〜10kΩcmの範囲に設定される基準値に対し、そのバラツキが、0〜30%以内に設定されることができる。
【0042】
本発明本発明においては、800℃3hr+1000℃16hrの熱処理した場合に発生する酸素析出物密度が、多結晶化(DF切れ)を起こさない最大限界濃度とされる32×1016atoms/cm (ASTM F123-1981)の炭素をドープしたウェーハに同一条件で熱処理した場合に発生する酸素析出物密度に比べて、2〜4×1010個/cm 多いことができる。
【0043】
上記の熱処理条件として、アルゴン、水素、またはこれらの混合ガス、または窒素に少量の酸素を含有した混合ガスを用いた調整雰囲気中にて、高温で1時間以上の酸素外方拡散処理をおこなうのが、限られた時間ではp/n型反転領域の位置をより深くできることがわかった。高温加熱により、酸素または酸素を含む雰囲気でも酸素外方拡散は可能であるが、非酸化性または弱酸化性雰囲気とする方が、表面近傍の酸素分圧を低くでき、酸素の離脱速度が大きくなると思われる。この非酸化性雰囲気中での高温加熱処理は、いわゆるDZ処理と同様COP(Crystal Originated Particle )欠陥などの表面近傍の欠陥を消滅させる効果もある。
【0044】
また、デバイス形成領域として使用される領域は、ウェーハ表面部から数μm程度の深さ領域に限定されている。このため、近年、デバイス形成領域として使用されないその他のウェーハの下層領域は、研磨処理などにより除去されることがある。このため、無理にウェーハ全域に亘り酸素濃度を低下させなくても、酸素外方拡散熱処理を行うことで、デバイス形成領域として使用されるウェーハ表層部が十分に低酸素化され、p型で高抵抗率を有するデバイス形成領域を確保することができる。
【0045】
上述の表面部の酸素を外方拡散により低減させた後、低温で加熱しさらに高温で加熱する熱処理、すなわち、酸素析出熱処理を施すのが望ましい。酸素析出熱処理により酸素析出が促進され、ウェーハ内部での残存酸素が低下し高抵抗化が図れる。さらに、p/n型反転領域をより深い位置で発生させることができる。
【0046】
酸素析出熱処理では、酸素外方拡散のための高温加熱により消失あるいは収縮した、酸素析出のための核を再形成あるいは成長させるための低温加熱による酸素析出核形成熱処理と、この核をさらに成長させ酸素析出物とするための高温加熱による酸素析出物成長熱処理とによる。
【0047】
デバイスの種類によっては、ウェーハ内部の抵抗率が低すぎると、デバイス使用領域よりも深い位置を通る電流量が増加し、エネルギー損出や電流ノイズを発生させることから、デバイス特性を著しく悪化させる。このため、デバイス使用領域より深い位置での高抵抗化が要求される場合がある。
【0048】
この場合に、ウェーハに酸素外方拡散熱処理を施すだけでは、ウェーハ内部、すなわち、ウェーハ全域を低酸素化することは困難であり、ウェーハ内部の残存酸素濃度が高くならざるを得ない。これに対応するため、ウェーハ表面の酸素を外方拡散させた後、酸素析出熱処理を施すのが望ましい。
【0049】
すなわち、ウェーハ内部の抵抗率が低いことによる、エネルギー損出や電流ノズル発生などの問題は、デバイス使用領域よりも深い位置での高抵抗化が達成されていればよく、その極性がn型であっても問題ないと考えられることから、酸素析出熱処理を施して、n型に反転したウェーハ内部の高抵抗化を図ることが有効である。
【0050】
以上、本発明においては、表面のDZ、p/n型反転領域の発生位置、内部のBMD形成について、より望ましい状態を得るための条件、つまり炭素ドープウェーハに比べて、酸素濃度が低い状態を実現し、炭素ドープウェーハに比べて高いBMD密度を実現するとともに、p/n型反転領域形成位置をより深くするか、p/n型反転領域が形成されず、抵抗値が付加さ方向で低減しない条件を求めたものである。
【0051】
本発明は、高周波用ダイオード等のデバイス製造に供して最適な高抵抗なものであり、ゲッタリングに必要な酸素析出起因欠陥密度が確保され、デバイス熱処理工程での酸素ドナーの発生を効果的に抑制でき、十分な機械的強度を有する高抵抗シリコンウェーハを提供する。
また、熱処理時間が短く、熱処理炉内でのシリコンウェーハの重金属汚染が生じにくく、上述したシリコンウェーハを高品質で低コストで製造できる高抵抗率のシリコンウェーハの製造方法を提供する。
さらに、上述したシリコンウェーハを用いた安価で、高比抵抗層の抵抗率が十分に高くノイズの少ない高周波用ダイオードに用いて好適なシリコンウェーハを提供する。
また、高抵抗CZ結晶を育成した後、加工されたウェーハへ施す熱処理工程を短縮することにより経済性に優れ、しかもデバイス熱処理工程での酸素ドナーの発生を効果的に抑制でき、更にはバルクに形成される酸素析出起因欠陥(酸素析出核あるいは酸素析出物)が再結合中心となって再結合中心を形成する必要がなく、また、ゲッタリング能力、ウェーハの機械的強度が高く、ライフタイム制御可能で収率が高く低コストな高周波用デバイスを製造可能な高抵抗率のシリコンウェーハおよびその製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0052】
本発明の高抵抗シリコンウェーハによれば、CMOSなどのデバイスを表面に形成させたとき、特性不良やn−wellの分離不能などの問題発生が少ない。高抵抗シリコンウェーハにおいてこのような問題の多発する原因は、一つにはサーマルドナーの影響を強く受け易いことにある。このサーマルドナーの発生を抑止するため、ウェーハ中の固溶酸素濃度をできるだけ低く抑える方法があるが、固溶酸素の減少はウェーハ強度を低下させるので、デバイスの製造過程にて変形によるトラブルを生じさせるおそれがある。また、熱処理によってウェーハ中の固溶酸素濃度を低く抑えようとすると、多大な工数を要することになる。したがって、本発明の高抵抗シリコンウェーハでは、ウェーハ内部の固溶酸素は低減させないので、このような問題は生じることなく、効率的な処理によって、デバイス製造工程で種々の熱処理がおこなわれた場合でも、サーマルドナーの影響をなくし、優れた特性を発揮するCMOSなどのデバイスを製造できる。さらに、本発明においては、p/n型反転領域の発生位置の深度を制御して、しかもより深い位置に形成することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
図1】シリコンウェーハにおけるサーマルドナー発生量と抵抗率との関係を示す図である。
図2】p型ウェーハ上に形成されたCMOSの構成とp/n型反転領域との関係を説明する図である。
図3】本発明のシリコンウェーハの製造方法の実施形態におけるアニール後のウェーハ深さ方向への抵抗値分布を示すグラフである。
図4】本発明のシリコンウェーハの製造方法の実施形態におけるアニール後のウェーハ深さ方向への抵抗値分布を示すグラフである。
図5】本発明のシリコンウェーハの製造方法の実施形態におけるアニール後のウェーハ深さ方向への抵抗値分布を示すグラフである。
図6】本発明のシリコンウェーハの製造方法の実施形態におけるアニール後のウェーハ深さ方向への抵抗値分布を示すグラフである。
図7】本発明のシリコンウェーハの製造方法の実施形態におけるアニール後のウェーハ深さ方向への抵抗値分布を示すグラフである。
図8】本発明のシリコンウェーハの製造方法の実施形態におけるアニール後のウェーハ深さ方向への抵抗値分布を示すグラフである。
図9】本発明のシリコンウェーハの製造方法の実施形態におけるアニール後のウェーハ面内における残存酸素濃度を示すグラフである。
図10】本発明のシリコンウェーハの製造方法の実施形態におけるアニール後のウェーハ面内におけるBMD(酸素析出物)密度を示すグラフである。
図11】サーマルドナー発生の影響を調べるために用いた、CMOSがウェーハ上に形成される工程をシミュレートした熱処理条件を示す図である。
図12】本発明における熱処理レートを説明するための図である。
図13】デバイス製造工程における熱処理条件をパラメータとしたウェーハ中の残存酸素量と生成されるサーマルドナー密度との関係を模式的に示す図である。
図14】本発明のシリコンウェーハから製造される高周波用ダイオードの一例を説明するための概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0054】
以下、本発明に係るシリコンウェーハおよびその製造方法の一実施形態を、図面に基づいて説明する。
【0055】
本発明のシリコンウェーハは、p/n型反転領域が発生する表面からの深度範囲を調節するシリコンウェーハであって、ウェーハ表面抵抗値が0.1〜10kΩcmとなるp型ドーパント濃度、窒素濃度;1.0×1013〜10×1013atoms/cm (ASTM F123-1981)、酸素濃度Oiが5.0×1017〜20×1017atoms/cm (ASTM F123-1979)としてCZ法により単結晶を引き上げられた単結晶からスライスされ、非酸化性雰囲気による酸素外方拡散熱処理工程を経ることで、図3に示すように、ウェーハ表面側のp型領域と厚さ方向内側のp/n型領域との境界となる抵抗値のピーク位置が、前記窒素濃度によってウェーハ表面からの境界深度10〜70μmの範囲に設定されており、表面近傍は無欠陥層が形成されたp型のウェーハであって、デバイスの製造工程において種々の熱処理がおこなわれたとき、サーマルドナー発生に起因するp/n型反転領域が、デバイス活性領域およびそれに接して形成される空乏層領域とは離れた深さにあるものである。
【0056】
本発明のシリコンウェーハは、表面から深さ10〜70μmに設定された境界深度以内の範囲には、サーマルドナーによるp/n型反転領域が発生しないものである。p/n型反転領域をデバイス活性領域およびそれに接して形成される空乏層領域とは離れた深さに発生させることができる。
【0057】
抵抗率が0.1〜10kΩcmとするのは、デバイスの取り扱う周波数が高くなり、ことに2.5GHzを超えるあるいは目標として60GHz程度以上になってくると、従来の10Ωcm以下の低抵抗の基板ではノイズの発生や信号の減衰顕著になるが、高抵抗にするとこれらの影響を低減できるからである。また抵抗率が100Ωcm未満の低抵抗率p型ウェーハでは、ドーパントが十分存在するため、n型の反転は容易には生じない。
【0058】
また、抵抗率が600〜1000Ωcmであるシリコンウェーハとすることで、高比抵抗層の抵抗率が非常に高く非常にノイズの少ない高品質な高周波用ダイオードを作製できるものとなる。
【0059】
ウェーハを用いたデバイスの製造工程における熱処理にて、サーマルドナーによるn型反転が生じたとき、そのp/n型反転領域はデバイス活性領域およびそれに接して形成される空乏層領域とは離れた深さにあるものとするのは、p/n型反転領域がこれらの領域と接すると、表面部に形成されたデバイスに影響を及ぼし、その特性不良を生じたり、n−well分離が不十分になったりするからである。
【0060】
このp/n型反転領域は、デバイス活性領域およびそれに接して形成される空乏層領域とは離れた深さに生じさせることが必要である。例えば、p/n型反転領域が境界深度として10〜70μmの範囲である設定値10μm、15μm、20μm、25μm、30μm、35μm、40μm、45μm、50μm、55μm、60μm、65μmより浅い位置に生じると、表面部に形成されたデバイスに影響を及ぼすからである。p/n型反転領域が表面から上記の境界深度を超える深さにあることは、言い換えれば、デバイスの製造過程における熱処理にてn型反転が生じたとしても、n型反転した部分は深さ上記の境界深度を超える内部であることを意味している。
【0061】
このデバイスの製造工程における熱処理は、例えば、450℃にて1時間加熱する、あるいは650℃30minという、サーマルドナーを最も発生しやすい条件で代表させることができる。また、p/n型反転領域の位置は、図3に示すように、広がり抵抗の測定法にてウェーハの深さ方向の抵抗率分布を計測し、抵抗率が極大になる深さで検出することができる。
【0062】
ウェーハの酸素濃度は、通常のCZ法にて製造されたシリコン単結晶に含まれてくる範囲であればよく、とくには限定しない。しかし、ウェーハ内部の酸素は、ゲッタリング作用を有するBMDを形成させる酸素析出物となって存在することが望ましく、このような酸素析出物を形成させるための熱処理が施されるのがよい。
【0063】
さらに、窒素は、電気的に中性でゲタリング作用を有する酸素析出物の形成を促進させたり、熱処理により格子間酸素(固溶酸素)が低下してウェーハ強度が低下するときに、強度を維持する効果があるので窒素濃度1.0×1013〜10×1013atoms/cm (ASTM F123-1981)の範囲で含有させる。この場合、この範囲下限未満では、その効果が十分現れず、多すぎる含有はCZ法の単結晶育成時に多結晶化しやすくなるあるいは、抵抗率や欠陥密度のばらつきが大きくなりすぎるので、この範囲上限以下とするのがよい。
【0064】
さらに、窒素に加えて、炭素は、電気的に中性でゲタリング作用を有する酸素析出物の形成を促進させたり、熱処理により格子間酸素(固溶酸素)が低下してウェーハ強度が低下するときに、強度を維持する効果があるので、0.5×1016〜32×1016atoms/cm(ASTMF123-1981)含有させてもよい。この場合、この範囲下限未満では、その効果が十分現れず、多すぎる含有はCZ法の単結晶育成時に多結晶化しやすくなるので、この範囲上限以下とするのがよい。
【0065】
本発明のシリコンウェーハを製造するには、まず、引き上げ工程として、CZ法により、抵抗率が0.1〜10kΩcm以上、初期格子間酸素濃度が5.0×1017〜20×1017atoms/cm (ASTM F123-1979)、窒素濃度が1.0×1013〜10×1013atoms/cm (ASTM F123-1981)のp型シリコン単結晶を育成する(単結晶育成工程)。このとき、ルツボの回転数、導入するガスの種類および流量、印加する磁場条件、シリコン融液の温度分布および対流などの引き上げ条件を適宜調整することにより、上述した所望のシリコン単結晶を育成することができる。
【0066】
次いで、加工工程として、得られたシリコン単結晶を、ワイヤーソーやスライサーなどの切断装置でスライスし、面取り、ラッピング、エッチング、研磨などの工程を必要に応じて行ないシリコンウェーハとする。
【0067】
その後、得られたシリコンウェーハに対し、ランプ加熱方式を採用した熱処理炉などを用いて、アルゴン、窒素、あるいはそれらの混合ガス雰囲気中、700℃から1〜2℃/minの昇温速度で1000℃まで昇温し、1000℃で0〜6時間保持する第1の熱処理工程を行ない、冷却することによって本発明のシリコンウェーハが得られる。
【0068】
上述の第1の熱処理工程は、このシリコンウェーハがデバイスの製造工程における熱処理がおこなわれたとき、表面から10〜70μmの範囲とされる境界深度以内の領域にはサーマルドナー発生によるp/n型反転領域が発生しないように、ウェーハを調整雰囲気中にて1100〜1200℃で1〜5時間の酸素外方拡散熱処理を施すものである。
【0069】
この加熱処理は、図3に示すように、酸素の外方拡散を十分におこなわせて、表面層の酸素濃度を低下させ、後のデバイス製造過程にてサーマルドナーが発生し内部がn型半導体に転換したとしても、p/n型反転領域が表面から十分深い位置にあるようにさせるためである。
【0070】
処理雰囲気は、アルゴン、水素、またはこれらの混合ガス、または窒素に少量の酸素を含有した混合ガスを用いた調整雰囲気にする。これらのガスを用いることにより、高温加熱時の酸素外方拡散を促進させ、上記p/n型反転領域を表面から十分深い位置にすることができる。まず、水素、アルゴン、あるいはこれらの混合ガスを用いる場合には、所期の酸素外方拡散効果に加え、ウェーハ表層のCOPを消滅させる効果があり、表面品質に優れたウェーハを得ることができる。
【0071】
窒素は、アルゴンおよび水素に比べて安価でありコスト的に有利であるが、窒素雰囲気中で処理すると、酸素外方拡散できるものの、ウェーハ表面に窒化膜が形成され、窒化膜を除去する工程が新たに必要となる。このため、調整雰囲気としては、窒素ガスに3%程度の酸素を含有させたものを使用することが望ましい。しかし、窒素を用いた雰囲気ではウェーハ表層のCOPを消滅する効果がないことに留意する必要がある。
【0072】
熱処理の加熱温度および時間は、1100〜1250℃で1〜5時間とする。これは、1100℃を下回る温度では酸素外方拡散そのものが起こり難く、効果が小さくなり、1250℃を超える温度ではウェーハにスリップ転位が発生し易くなると同時に、熱処理炉への負担が大きく炉内構造部品の寿命低下をきたすからである。また、熱処理が1時間未満の時間では、p/n型反転領域の深さを表面から境界深度以上の深さとすることができなくなるからであり、5時間を超える時間の加熱を行っても、酸素外方拡散の効果が飽和することによる。
【0073】
本発明のウェーハでは、p/n型反転領域の深さをデバイス活性領域およびそれに接して形成される空乏層領域とは離れた深さ、例えば、表面から境界深度以上の深さとした上で、ウェーハ内部にゲタリング作用のある酸素析出物によるBMDを十分形成させるとともに、ウェーハ内部での残存酸素が低下し高抵抗化を図るために、さらに酸素析出熱処理を施すのがよい。
【0074】
この酸素析出処理としては、上述の酸素外方拡散の熱処理の後、第1の熱処理工程後のシリコンウェーハを、第1の熱処理工程と同様のランプ加熱方式を採用した熱処理炉などを用いて1200℃まで昇温し、アルゴン、水素、あるいはそれらの混合ガス雰囲気中、1200℃、1〜2時間保持する第2の熱処理工程を行ない、冷却することによって本発明のシリコンウェーハが得られる。また、第2の熱処理としては、酸素析出のための核を形成させるため600〜800℃で1〜20時間の酸素析出核形成熱処理をおこない、次いで1000〜1100℃にて、1〜20時間のBMD形成を目的とした酸素析出物成長熱処理をおこなうことができる。
【0075】
これらの熱処理は加熱温度および加熱時間に依存し、使用する雰囲気条件に依存しないことから、アルゴン、水素、またはこれらの混合ガス、または窒素等いずれも使用することができる。前述の通り、コスト的に有利なことから、窒素ガスに3%程度の酸素を含有させた雰囲気にするのが望ましい。
【0076】
酸素析出核形成熱処理において、加熱温度を600〜800℃とするのは、この範囲を外れると酸素析出核の形成そのものが起こり難くなり、効果が制限されるためである。また、加熱時間を1〜20時間とするのは、1時間未満では効果が十分でなく、20時間を超える加熱は、さらに時間を長くしても効果の大きな改善は見られず、無駄になるからである。
【0077】
また、この熱処理は、シリコンウェーハを、アルゴン、窒素、あるいはそれらの混合ガス雰囲気(非酸化性雰囲気)中、700℃から1〜2℃/minの昇温速度で1000℃まで昇温し、1000℃で0〜6時間保持する熱処理工程とすることができ、これにより、短い熱処理時間で、さらにニュードナーなどの酸素ドナーをより効果的に抑制できる。
【0078】
核形成のための熱処理の後、1000〜1100℃にて、1〜20時間の酸素析出物成長熱処理をおこなう。酸素析出物成長熱処理において、加熱温度を1000〜1100℃にするのは、1000℃未満では酸素析出物の成長促進が行われず、1100℃を超える温度では、酸素析出物の成長が進まないばかりでなく、できた析出物が再固溶により減少することもあるからである。加熱時間を1〜20時間とするのは、1時間未満では酸素析出物の成長が十分でなく、20時間を超える加熱は、さらに時間を長くしても効果が飽和するからである。
【0079】
上述の通り、本発明の製造方法では、サーマルドナーに起因するp/n型反転領域が発生しても、CMOSが動作不良やn−well分離不良をなくすため、p/n型反転領域をデバイス活性領域および空乏層領域には接しない深さに発生させることにしている。
【0080】
このため、酸素外方拡散熱処理を施した後、必要に応じて、酸素析出核形成熱処理および酸素析出物成長熱処理を施している。これらの処理条件として、酸素外方拡散熱処理では1100〜1250℃で1〜5時間、酸素析出核形成熱処理では600〜800℃で1〜20時間、さらに酸素析出物成長熱処理では1000〜1100℃で1〜20時間と例示されている。
【0081】
ところが、具体的な処理条件は、デバイス製造条件によって要求される、ウェーハ抵抗値、高抵抗層の深さ、および酸素濃度等に基づいて決定される。したがって、p/n型反転領域をデバイス活性領域や空乏層領域に接しない深さ位置に発生させるためには、次の手順で初期酸素濃度を決定し、それを前提として具体的な熱処理条件が決定される。
【0082】
図13は、デバイス製造工程における熱処理条件をパラメータとしたウェーハ中の残存酸素量と生成されるサーマルドナー密度との関係を模式的に示す図である。まず、マスターテーブルとして、図11または図12に示すような、デバイス製造工程における熱処理毎のウェーハ残存酸素量−サーマルドナー生成量の関係を整備する。このとき、デバイス製造工程における熱処理条件としては、例えば、加熱温度400〜500℃で加熱時間1〜12時間の範囲内のものを用いればよい。
【0083】
次に、デバイス製造工程における熱処理条件(熱処理シーケンス)に基づいて、マスターテーブルから、各残存酸素濃度から生成されるサーマルドナー密度を算出する。一方、デバイスの製造仕様から定まるウェーハ抵抗値および高抵抗層の深さから、許容できるサーマルドナー生成量を計算する。
【0084】
得られたサーマルドナーの許容範囲の量から、目標(ターゲット)となるウェーハ深さ位置における残存酸素濃度を決定する。決定された残存酸素濃度を確保するため、p型の単結晶から得られたウェーハの初期酸素濃度を決定し、それを前提として酸素析出熱処理シミュレータを用い、酸素外方拡散熱処理、および必要に応じて具体的な熱処理条件を決定する。
【0085】
さらに、本発明の製造方法では、p/n型反転領域をデバイス活性領域および空乏層領域には接しない深さに発生させるとともに、酸素外方拡散熱処理を施した後、必要に応じて、酸素析出核形成熱処理および酸素析出物成長熱処理を施すことによって、内部の酸素析出物をより一層確実にして、サーマルドナーの発生を低減するものである。
【0086】
通常、酸素ドナーの発生が懸念されるデバイス製造熱処理工程は、配線シンタリング工程であり、一般的なシンタリング工程の熱処理条件は400℃、1時間あるいは450℃、5時間であり、このようなデバイス工程における熱処理でも、サーマルドナーの発生を低減するものである。
【0087】
このため、本発明の高抵抗シリコンウェーハにおいては、p型ウェーハを用いた場合にp/n型反転領域でn型反転するのみでなく、内部の酸素析出の促進によって再びp型反転する形態も発生し得るものである。
【0088】
本発明によれば、デバイス熱処理工程での酸素ドナーの発生を効果的に抑制でき、シリコンウェーハ内における酸素析出起因欠陥を所望の状態に制御することが可能となるので、十分な機械的強度を有するとともに、酸素析出物自身がスリップ転位源となることを防止し、シリコンウェーハ内の酸素析出起因欠陥を高周波用ダイオードのP型領域とN型領域との間に配置される高比抵抗層における再結合中心として用いることができ、ライフタイム制御のための再結合中心(Au,Pt等による再結合中心、あるいは、電子線照射欠陥による再結合中心等)形成処理を必要とせずに処理工程数を減少し、充分なゲッタリング能力を有し、デバイス製造熱処理によっても抵抗率が所望の範囲から変化せず、処理時間を短縮して製造コストを低減し、高品質で安価で高比抵抗層の抵抗率が十分に高くノイズの少ない高周波用ダイオードの作製に好適なシリコンウェーハを提供できる。
【0089】
以下、本発明に係るシリコンウェーハの他の実施形態を、図面に基づいて説明する。
【0090】
本発明のシリコンウェーハは、p/n型型反転領域が発生せず、ウェーハ厚さ全域において抵抗分布が、0.1〜10kΩcmの範囲に設定される基準値に対し、そのバラツキが、0〜30%以内に設定されるp型領域を有するシリコンウェーハであって、ウェーハ表面抵抗値が0.1〜10kΩcmとなるp型ドーパント濃度、窒素濃度;1.0×1013〜10×1013atoms/cm (ASTM F123-1981)、酸素濃度Oiが5.0×1017〜20×1017atoms/cm (ASTM F123-1979)としてCZ法により単結晶を引き上げられた単結晶からスライスされ、非酸化性雰囲気による酸素外方拡散熱処理工程と酸素析出核形成熱処理工程および/または酸素析出物形成熱処理工程と、を経ることで、図4に示すように、ウェーハ表面側のp型領域と、このp型領域より深い部分が、このp型領域の抵抗値とほぼ等しい抵抗値を有する領域か、このp型領域の抵抗値よりも高抵抗な領域と、を有するものである。つまり、ウェーハ深度方向に、表面p型領域の設定抵抗値よりも低抵抗な領域が存在しないウェーハである。
【0091】
このように、本実施形態においては、酸素外方拡散熱処理工程に加えて、たとえば1000℃1時間もしくはこれと相等しい熱効果を有する熱処理を加えることによって、炭素ドープウェーハで生じていた表面p型領域の設定抵抗値よりも低抵抗となるp/n型反転領域が存在しないウェーハを実現することができる。
これにより、ゲッタリング能力、ウェーハの機械的強度が高く、ライフタイム制御可能で収率が高く低コストな高周波用ダイオードを製造可能な高抵抗率のシリコンウェーハおよびその製造方法を提供することができる。
【0092】
次に、本発明のシリコンウェーハを適用する高周波用ダイオードについて説明する。
図14は、本発明のシリコンウェーハから製造される高周波用ダイオードの一例を説明するための概略断面図である。図14(a)に示す高周波用ダイオードは、PINダイオードであり、本発明のシリコンウェーハに、P型領域12と、N型領域11と、P型領域12とN型領域11との間に配置された高比抵抗層(I層)13とを形成したものである。
【0093】
図14(a)に示す高周波用ダイオードは、以下のようにして製造することができる。
まず、本発明のシリコンウェーハを用意し、表面から2μm程度の位置に1×1018atoms/cm程度の濃度でボロン(B)を拡散する。ここでのボロンの拡散は、1000℃程度の温度での熱拡散法やイオン注入法などにより行なうことができる。
次いで、ボロンが拡散されたシリコンウェーハの裏面に、裏面から2μm程度の位置に1×1018atoms/cm程度の濃度でリン(P)を拡散する。ここでのリンの拡散は、850℃程度の温度での熱拡散法やイオン注入法などにより行なうことができる。
続いて、シリコンウェーハの表面に電子ビーム蒸着によりAu電極を形成し、シリコンウェーハの裏面に電子ビーム蒸着によりのAl電極を形成する。その後、シリコンウェーハからダイオードを切り出して、メサエッチングを行い、メサエッチング後のエッチング面にシリコン樹脂を塗布する(端面のパッシベーション処理)。
【0094】
図14(b)は、本発明のシリコンウェーハから製造される高周波用ダイオードの他の例を説明するための概略断面図である。
図に示す高周波用ダイオードは、インパットダイオードであり、上記のシリコンウェーハに、p+層22と、n+層21と、高比抵抗層(I層)23と、p+層22と高比抵抗層(I層)23との間に配置されたn層24を形成したものである。インパットダイオードは、負性抵抗を用いた発進素子である。インパットダイオードでは、半導体中でのインパクトイオン化により生成されたキャリアを飽和ドリフト速度で移動させる。このとき、生成されたキャリアによる電流の位相と印加電圧との間にπ/2の位相差が現れ、実効的な抵抗成分が負、すなわち負性抵抗が現れる。
図14(b)に示す高周波用ダイオードは、上記のPINダイオードと同様の手法によりp+層22と、n+層21と、高比抵抗層(I層)23と、n層24とをシリコンウェーハに形成して製造することができる。
【0095】
図14(c)は、本発明のシリコンウェーハから製造される高周波用ダイオードの他の例を説明するための概略断面図である。
図14(c)に示す高周波用ダイオードは、インパットダイオードであり、上記のシリコンウェーハに、p+層31と、n+層32と、高比抵抗層(I層)33と、p+層32と高比抵抗層(I層)33との間に配置されたp層34を形成したものである。
図14(c)に示す高周波用ダイオードは、上記のPINダイオードと同様の手法によりp+層31と、n+層32と、高比抵抗層(I層)33と、p層34とをシリコンウェーハに形成して製造することができる。
【実施例】
【0096】
本発明の実施例とするために、ボロンをドープしてCZ法にて引き上げたシリコン単結晶から異なる窒素濃度を有する部分を、それぞれ(Top)(Tail )とするインゴットとして切り出して、この異なるインゴットからスライスして作製したウェーハをそれぞれ複数枚用意した。この酸素濃度、抵抗率、窒素濃度を表1に示す。また、比較のため、炭素を表1に記載される濃度でドープしたものも用意した。ここで、酸素濃度、抵抗値、窒素濃度は、ウェーハを切り出したそれぞれのインゴット中の上限値と下限値とを示している。
【0097】
【表1】
【0098】
これらのウェーハに、AN1として、1200℃1hrの熱処理をおこなった後、深さ方向の抵抗率分布を広がり抵抗測定により求めた。その結果を図3に示す。
この結果から、炭素をドープしたC-dope、窒素濃度が低いN(Top)-dope、窒素濃度の高いN(Tail)-dopeの順に、p/n型反転境界となる抵抗値のピークが、深さ方向30μm、38μm、45μmとなり、順に深くなっていることがわかる。
【0099】
さらに、これらのウェーハに、AN2として、1200℃1hr+1000℃6hrの熱処理をおこなった後、深さ方向の抵抗率分布を広がり抵抗測定により求めた。その結果を図4に示す。
この結果から、炭素をドープしたC-dopeでは、抵抗値ピークが20μmにあるが、窒素ドープしたものでは、表層のp型領域に比べて、抵抗値が低減する領域が付加さ方向には存在していないことがわかる。
【0100】
さらに、これらのウェーハに、AN1として、1200℃1hrの熱処理をおこなった後、650℃30minの熱処理をおこない、深さ方向の抵抗率分布を広がり抵抗測定により求めた。その結果を図5に示す。
この結果から、炭素をドープしたC-dope、窒素濃度が低いN(Top)-dope、窒素濃度の高いN(Tail)-dopeのいずれも、層のp型領域の抵抗値とほぼ同一の抵抗値が付加さ方向で形成され、抵抗値が低減する領域が付加さ方向には存在していないことがわかる。
【0101】
さらに、これらのウェーハに、AN2として、1200℃1hr+1000℃6hrの熱処理をおこなった後、650℃30minの熱処理をおこない、深さ方向の抵抗率分布を広がり抵抗測定により求めた。その結果を図6に示す。
この結果から、炭素をドープしたC-dope、窒素濃度が低いN(Top)-dope、窒素濃度の高いN(Tail)-dopeのいずれも、層のp型領域の抵抗値とほぼ同一の抵抗値が付加さ方向で形成され、抵抗値が低減する領域が付加さ方向には存在していないことがわかる。
【0102】
さらに、これらのウェーハに、AN1として、1200℃1hrの熱処理をおこなった後、650℃30min+400℃1hrの熱処理をおこない、深さ方向の抵抗率分布を広がり抵抗測定により求めた。その結果を図7に示す。
この結果から、炭素をドープしたC-dope、窒素濃度が低いN(Top)-dope、窒素濃度の高いN(Tail)-dopeの順に、p/n型反転境界となる抵抗値のピークが、深さ方向20μm、30μm、31μmとなり、順に深くなっていることがわかる。また、炭素をドープしたC-dopeに比べて、窒素濃度が低いN(Top)-dope、窒素濃度の高いN(Tail)-dopeともに、深深度部分での抵抗値の低下が軽減されていることがわかる。
【0103】
さらに、これらのウェーハに、AN2として、1200℃1hr+1000℃6hrの熱処理をおこなった後、650℃30min+400℃1hrの熱処理をおこない、深さ方向の抵抗率分布を広がり抵抗測定により求めた。その結果を図8に示す。
この結果から、炭素をドープしたC-dopeでは、抵抗値ピークが20μmにあるが、窒素ドープしたものでは、表層のp型領域に比べて、抵抗値が低減する領域が付加さ方向には存在していないことがわかる。
【0104】
次に、上記の炭素をドープしたC-dope、窒素濃度が低いN(Top)-dope、窒素濃度の高いN(Tail)-dopeにおいて、AN1として、1200℃1hrの熱処理後、及び、AN2として、1200℃1hr+1000℃6hrの熱処理後の残存酸素濃度を測定した。その結果を図9に示す。酸素濃度の測定は、赤外吸収測定(FT-IR)によっておこなった。
この結果から、炭素をドープしたC-dopeに比べて、窒素をドープしたものでは、熱処理時間が長くなったAN2においては、残存酸素濃度がより低減していることがわかる。
【0105】
同様に、上記の炭素をドープしたC-dope、窒素濃度が低いN(Top)-dope、窒素濃度の高いN(Tail)-dopeにおいて、AN1として、1200℃1hrの熱処理後、及び、AN2として、1200℃1hr+1000℃6hrの熱処理後に、さらに780℃3hr+1000℃16hrの熱処理を加えた後、発生したBMD密度を測定した。その結果を図10に示す。この測定は、ライトエッチ後の断面光学顕微鏡観察によっておこなった。
この結果から、炭素をドープしたC-dopeに比べて、窒素をドープしたものでは、熱処理時間が長くなったAN2においては、BMD密度がより増加していることがわかる。
【符号の説明】
【0106】
11:N型領域、12:P型領域、13、23、33:高比抵抗層(I層)、24:
n層、21、32:n+層、22、31:p+層、34:p
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14