(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
磁気ヘッドを非破壊で検査する装置としては、光学顕微鏡を用いる方法、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope: SEM)を用いる方法、原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope: AFM)を用いる方法、磁気力顕微鏡(Magnetic Force Microscope: MFM)を用いる方法などがある。
【0003】
上記した方法にはそれぞれ一長一短があるが、ハードディスクに書き込むために磁気ヘッドが発生する磁場を非破壊で検査できるという点においては、磁気力顕微鏡(MFM)を用いる方法が、他の方式の観察手段を用いる方法よりも優れている。
【0004】
この磁気力顕微鏡(MFM)を用いて磁気ヘッド素子が個々に分離される前のローバーの状態でライトトラックの実効トラック幅を測定することについては、例えば特開2010−175534号公報(特許文献1)に記載されている。即ち、特許文献1には、試料であるローバーの磁気ヘッド回路パターンに電流を印加することにより磁場を発生させ、この発生した磁場にカンチレバーに取付けた磁性探針を近づけてカンチレバーの探針の変位量を検出することをカンチレバーを2次元走査させて行うことにより試料の発生する磁場を2次元測定することが記載されている。
【0005】
また、従来の磁気ヘッド検査は磁気ヘッドローバー状態の薄膜磁気ヘッドにボンディングパッドより記録信号(励磁用信号)を入力し、薄膜磁気ヘッドに含まれる記録ヘッド(素子)より発生される磁界の様子を、磁気ヘッドの浮上高さ相当分の位置でスキャン移動させて磁気力顕微鏡(MFM)、走査型ホールプローブ顕微鏡(SHPM)又は走査型磁気抵抗効果顕微鏡(SMRM)にて直接観察することで、記録ヘッド(素子)の物理的な形状ではなく発生磁界形状を測定し、磁気的な実効トラック幅の検査を非破壊で実施可能にする方法として、特許文献2には、スピンスタンドを用いてHGA状態又は擬似HGA状態でしか検査できなかった実効トラック幅の測定を、磁気力顕微鏡を用いることによってローバー状態で行えるようにすることが特開2009−230845号公報(特許文献2)に記載されている
また、1Tb/in
2を超える高密度な記録密度を実現する記録方式として近接場光を発生させて磁気記録する方式の熱アシスト磁気記録方式が提案されているが、この熱アシスト磁気記録ヘッドは導波路を伝わる入射光の偏光方向に垂直な方向の幅が、近接場光が発生する頂点部に向かって徐々に小さくなる断面形状を有し、かつ入射光の進行方向において近接場光が発生する頂点部に向かい、幅が、徐々に、もしくは段階的に小さくなる形状になるようにした導電性を有する構造体を用いて近接場光を発生する。導波路を、導電性を有する構造体の横に配置し、導電性を有する構造体の側面に発生する表面プラズモンを介して近接場光を発生させる構成が、特開2011−146097号公報(特許文献3)に記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1には、探針を持つカンチレバーを2次元走査することによって、磁気ヘッドのローバーに形成された個々の磁気ヘッド素子が形成する磁場の二次元分布を測定することが記載されているが、熱アシスト磁気ヘッドが発生する近接場光と磁場とを測定するための構成及びその方法については触れられていない。
従来の磁気記録はヘッドの磁界発生部の大きさがトラック幅となるため、特許文献1による磁界を測定することで、ヘッドのトラック幅を検査できたが、発生する近接場光の大きさがトラック幅となる熱アシストヘッドは検査できない。
【0008】
また、特許文献2に記載されているローバーの状態において発生磁界形状を測定して磁気的な実行トラック幅を検査する磁気ヘッド検査装置でも、熱アシスト磁気ヘッドが発生する近接場光と磁場とを測定するための構成及びその方法については触れられていない。
【0009】
一方、特許文献3には、熱アシスト磁気記録ヘッドの構造及びこのヘッドを組み込んだ磁気記録装置について記載されており、熱アシスト磁気記録ヘッドを採用することにより発生するHDD内での実動作時の温度上昇を抑えることは考慮されているが、熱アシスト磁気記録ヘッドが発生する近接場光を検査すること、及び長時間近接場光を発生させる検査時における温度上昇は考慮されていない。
【0010】
本発明の目的は、検査時の発熱によるヘッド素子ダメージの防止及び熱膨張による測定中の位置ずれの発生を抑え、熱アシストヘッドの近接場光の形状を、発熱による影響無く高精度に測定できる熱アシスト磁気ヘッド素子検査方法及びその装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記した課題を解決するために、本発明では、熱アシスト磁気ヘッド素子検査装置を、
熱アシスト磁気ヘッド素子が多数形成されたローバーを収納するトレイ部と、熱アシスト
磁気ヘッド素子が多数形成されたローバーを載置する載置部を備えて試料検査位置におい
て前記載置部に載置したローバーに形成された熱アシスト磁気ヘッド素子の書込み磁界発
生部から発生する磁界の強度分布と近接場光発光部から発生する近接場光の強度分布とを
計測する計測手段と、前記計測手段を前記試料検査位置と前記トレイ部に収納されたロー
バーを前記計測手段に受け渡すため試料受渡位置との間を移動させる計測手段移動手段と
、前記トレイ部からローバーを取出して前記計測手段移動手段により前記試料受渡位置に移動させた前記計測手段の載置部に前記ローバーを載置する試料受渡手段と、前記計測
手段で計測した前記書込み磁界発生部から発生する磁界の強度分布のデータと前記近接場光発光部から発生する近接場光の強度分布のデータとを予め記憶しておいた参照データと比較することにより前記熱アシスト磁気ヘッド素子を検査するデータ処理部とを備えて構成し、前記計測手段の載置部は、前記近接場光を発生することにより近接場光発光部が発熱する前記ローバーを冷却する冷却機構を備え、
前記計測手段は先端部に探針が形成されて上下に振動可能なカンチレバーと、前記載置部を平面内で微小な範囲移動させるテーブルとを備え、前記ローバーの表面近傍で前記カンチレバーを上下に振動させながら前記テーブルでローバーを載置した前記載置部を平面内で微小な範囲で移動させることにより前記書込み磁界発生部から発生する磁界の強度分布を計測すると共に前記カンチレバーを上下に振動させながら前記近接場光発光部を含む領域を走査させることにより前記近接場光発光部から発生する近接場光の強度分布を計測するようにした。
【0012】
また、上記した課題を解決するために、本発明では、熱アシスト磁気ヘッド素子が多数
形成されたローバーをトレイ部から取出して試料受渡位置で待機している計測手段の載置
部に載置し、前記載置部に前記ローバーを載置した計測手段を試料検査位置に移動させ、
前記試料検査位置において、前記載置部に載置したローバーに形成された熱アシスト磁
気ヘッド素子の書込み磁界発生部から発生する磁界の強度分布と近接場光発光部から発生
する近接場光の強度分布とを計測し、前記計測した前記書込み磁界発生部から発生する磁
界の強度分布のデータと前記近接場光発光部から発生する近接場光の強度分布のデータと
を予め記憶しておいたデータと比較することにより前記熱アシスト磁気ヘッド素子を検査
する熱アシスト磁気ヘッド素子検査方法において、前記載置部に載置したローバーに形成
された熱アシスト磁気ヘッド素子の書込み磁界発生部から発生する磁界の強度分布と近接
場光発光部から発生する近接場光の強度分布とを計測するときに、前記近接場光を発生す
ることにより近接場光発光部が発熱する前記ローバーを冷却しながら前記磁界の強度分布
と前記近接場光の強度分布とを計測
し、前記磁界の強度分布と前記近接場光の強度分布とを計測することを、先端部に探針が形成されたカンチレバーを上下に振動させた状態で前記ローバーを載置した前記載置部を平面内で微小な範囲を移動させることにより、前記カンチレバーの探針が前記熱アシスト磁気ヘッド素子の書込み磁界発生部を含む領域と近接場光発光部を含む領域とを走査することにより行うようにした。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、従来方式では測定及び検査できない熱アシストヘッドの近接場光の形状を、ローバーの状態で発熱による影響無く測定することができるので、熱アシスト磁気ヘッドの製品歩留まりの向上を図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明を実施するための形態(実施形態)を、図を用いて説明する。
図1は、本発明の実施形態における磁気ヘッド素子検査装置1000のシステムの構成を示すブロック図である。磁気ヘッド素子検査装置1000は、検査部100、モニタ部200、搬送部300、及び信号処理・制御部400を備えている。
【0016】
検査部100、モニタ部200と搬送部300は、防音ボックス600で覆われており、外部からの音が検査に影響を与えないように遮音する構成になっている。
【0017】
図2は、本発明の実施形態における磁気ヘッド素子検査装置1000の構成を示す平面図である。
磁気ヘッド素子検査装置1000は、防音ボックス600で覆われた除振テーブル500上に、検査部100と搬送部300を配置して構成されている。
【0018】
搬送部300は、ハンドリングロボット310とハンドリングロボット310のX方向の移動をガイドするガイドレール320、検査前のローバー40を搭載する供給用トレイ331及び検査後のローバーを搭載する良品回収トレイ332、不良品回収トレイ333を載置するトレイ載置部330を備えている。
【0019】
図2において、Hは試料受渡ステーションで、Mは試料検査ステーションである。検査部100は、試料受渡ステーションHと試料検査ステーションMとの間をガイドレール150に沿って移動可能な構造になっている。検査部100は、試料受渡ステーションHでハンドリングロボット310によりトレイ載置部330との間でローバーの受渡を行い、ガイドレール150に沿って移動して、試料検査ステーションMでローバーに多数形成された熱アシスト磁気ヘッド素子の検査を行う。
【0020】
図3Aは、本発明に係る熱アシスト磁気ヘッド素子を検査する検査部100の構成を示すブロック図である。
図3Aの熱アシスト磁気ヘッド素子の検査部100は、磁気ヘッド素子の製造工程において、多数の薄膜磁気ヘッド素子が形成されたウェハを加工してスライダ単体(薄膜磁気ヘッドチップ)を切り出す前の工程のローバー40(ヘッドスライダが複数配列されたブロック)の状態で熱アシスト磁気ヘッド素子の発生する近接場光の強度分布を測定することが可能なものである。通常、3cm〜10cm程度の細長いブロック体として多数の薄膜磁気ヘッド素子が形成されたウェハから切り出されたローバー40は、40個〜90個程度のヘッドスライダ(薄膜磁気ヘッド素子)が配列された構成となっている。
【0021】
本実施形態に係る熱アシスト磁気ヘッドの検査部100は、このローバー40をワークとして所定の検査を行うように構成されている。ローバー40は、
図2に示した供給用トレイ331に20〜30本程度、短軸方向に所定間隔で配列収納されている。ハンドリングロボット310を用いて供給用トレイ331から一本ずつ取り出されたローバー40は、試料受渡ステーションHで待機している検査部100に搬送され、検査部100の載置部114に載置される。載置部114に載置されたローバー40は後述のような手順で検査される。
【0022】
本実施形態に係る磁気ヘッド素子検査装置1000の検査部100は、走査型プローブ顕微鏡をベースとしている。検査部100は、試料受渡ステーションHと試料検査ステーションMとの間をガイドレール150に沿って移動可能で、かつ、X−Y方向に移動可能な検査ステージ101と、検査ステージ101上に載置されてローバー40をX,Y方向に微小な距離移動可能なピエゾ素子(図示せず)で駆動されるXステージ106、Yステージ105を備えて構成されている。
【0023】
ローバー40は、その長軸方向の片側面がYステージ105の上面に設けられているローバー40の位置決め用の載置部114の段差部1142に設けられた基準面1141に突き当てられることによってY方向に位置決めされる。ローバー40は、
図3Bに示すようにこの段差部1142の側面(基準面)1141に当接されることによってZ方向及びX方向の所定位置に設置されるようになっている。段差部1142の側面(基準面1141)には、ローバー40の後側面(熱アシスト磁気ヘッド素子のプローブ電極41及び42が形成されている面の反対側の面)が当接されてローバー40の位置決めが行われるようになっている。
【0024】
Yステージ105の上方にはローバー40の位置ずれ量測定用のカメラ103が設けられている。Zステージ104は検査ステージ101のカラム1011に固定されており、カンチレバー10をZ方向に移動させるものである。検査ステージ101のXステージ106、Yステージ105、Zステージ104は、それぞれ図示していないピエゾ素子で駆動されるピエゾステージで構成されている。
【0025】
ローバー40の所定の位置決めが終了すると、プローブユニット140が駆動されて、プローブ141の先端部分がローバー40に形成されたプローブ電極41と42に接触する。
【0026】
プローブユニット140は、
図4Aにその側面図を示すように、プローブガード141と、プローブガード141に取付けられたプローブ142を備え、支持プレート144で検査ステージ101に支持されている。一方、ローバー40は、
図4Bに示すように磁気ヘッド素子が多数形成された角棒状の基板であり、
図4Cに示したように磁気ヘッド素子のローバー40の内部に形成されたプローブ電極41と42とにプローブ142の先端部分1421と1422とを接触させた状態で交流電流143を印加することにより、書込み回路部43の書込み次回発生部502(
図5A参照)から磁界が発生する。ローバー40に印加する交流電流の周波数を、カンチレバー131の共振周波数とは異なる周波数とすることによって、ローバー40から発生する磁界の分布を高速に測定し、ライト実行トラック幅を測定することができる。
【0027】
プローブガード141は、駆動部143によりY方向に移動可能な構成になっていて、プローブ142の先端部分1421及び1422とローバー40に形成されたプローブ電極41及び42とが接触、離れの動作を行うように駆動する。
【0028】
プローブユニット140のプローブ141が駆動部143で駆動されて、プローブ141の先端部分1421と1422とがローバー40に形成されたプローブ電極41と42にそれぞれ接触することにより、制御部PC30から出力する励磁信号とレーザ発光用信号又は直接に励起用レーザ301がローバー40に形成された熱アシスト磁気ヘッド素子に供給可能な状態となる。この状態で、ローバー40は、載置部114に熱アシスト磁気ヘッド素子の書込み磁界発生部502が磁界を発生可能、近接場光発光部504が発光可能な状態で、載置部114に設けた図示していない吸着手段により吸着保持される。
【0029】
ピエゾドライバ107は、検査ステージ101に搭載されたXステージ106、Yステージ105、Zステージ104をそれぞれ駆動するピエゾ素子(図示せず)を駆動制御するものである。制御部PC30は、モニタを含むパーソナルコンピュータ(PC)を基本構成とする制御用コンピュータで構成されている。図に示すように、検査ステージ101のYステージ105上に載置されたローバー40の上方の対向する位置には、前記近接場光と磁界との両方を測定できるカンチレバー10が配置されている。カンチレバー10は、Zステージ104の下側に設けられた加振部122に取り付けられている。加振部122はピエゾ素子で構成され、ピエゾドライバ107からの励振電圧によって機械的共振周波数近傍の周波数の交流電圧が印加され、カンチレバー10の先端部の探針4は上下方向(Z方向)に振動される。
【0030】
カンチレバー10は、近接場光と磁界との両方を測定できる。
図5A及び
図5Bに示すように、探針4は、カンチレバー10の板状のレバー1の先端部に四面体構造で形成されている。レバー1と探針4とはシリコン(Si)で形成されている。レバー1と探針4の正面側(
図5A及び
図5Bの左側)には薄い磁性膜2(例えばCo、Ni、Fe、NiFe、CoFe、NiCo等)が形成されており、磁性膜2の表面には貴金属(例えば金や銀又は白金等)又は貴金属を含む合金の微粒子または薄膜3が形成されている。カンチレバー10は、レバー1と探針4、薄い磁性膜2、貴金属の粒子又は薄膜3とを備えて構成したことにより、近接場光と磁界との両方を測定することができる。
【0031】
すなわち、探針4の表面に形成した薄い磁性膜2は、磁界を測定する際の感度と分解能を決め、磁界を測定する時に被測定物の磁場を感受する。また、貴金属(例えば金や銀等)又は貴金属を含む合金の微粒子または薄膜3は、探針4に近接場光が当った時に局在型表面プラズモン増強効果により、近接場光を増幅する。また、外部からレーザ光が照射された場合には、微粒子または薄膜3は励起され、近接場光を発光する。
【0032】
カンチレバー10の探針4のZ方向の振動は、
図3Aに示すように、半導体レーザ素子109と、4分割光ディテクタ素子からなる変位センサ110とを備えて構成される変位検出部130により検出される。この変位検出部130においては、半導体レーザ素子109から出射したレーザがカンチレバー1の探針4が形成されている面と反対側の面に照射され、カンチレバー1で反射したレーザは変位センサ110に入射する。変位センサ110は、受光面が4つの領域に分割された4分割センサであり、変位センサ110の分割されたそれぞれの受光面に入射したレーザはそれぞれ光電変換されて4つの電気信号として出力される。
【0033】
ここで、変位センサ110は4つに分割された受光面を持ち、カンチレバー10が加振部122により振動が加えられていない状態、即ち静止した状態で半導体レーザ素子109からレーザが照射されたときに、カンチレバー10からの反射光が4つに分割された受光面のそれぞれに等しく入射するような位置に設置されている。差動アンプ111は、変位センサ110から出力される4つの電気信号の差分信号に所定の演算処理を施してDCコンバータ112に出力する。
【0034】
すなわち、差動アンプ111は、変位センサ110から出力される4つの電気信号間の差分に対応した変位信号をDCコンバータ112に出力する。従って、カンチレバー10が加振部122により加振されていない状態では、差動アンプ111からの出力はゼロになる。DCコンバータ112は、差動アンプ111から出力される変位信号を実効値の直流信号に変換するRMS−DCコンバータ(Root Mean Squared value to Direct Current converter)で構成される。
【0035】
差動アンプ111から出力される変位信号は、カンチレバー10の変位に応じた信号であり、カンチレバー10は振動しているので交流信号となる。DCコンバータ112から出力される信号は、フィードバックコントローラ113に出力される。フィードバックコントローラ113は、カンチレバー10の現在の振動の大きさをモニタするための信号として制御部PC30にDCコンバータ112から出力される信号を出力すると共に、カンチレバー10の励振の大きさを調整するためのZステージ104の制御用信号として制御部PC30を通じて、ピエゾドライバ107にDCコンバータ112から出力される信号を出力する。この信号を制御部PC30でモニタし、その値に応じて、ピエゾドライバ107によりZステージ104を駆動するピエゾ素子(図示せず)を制御することによって、測定開始前に、カンチレバー10の初期位置を調整するようにしている。
【0036】
この実施の形態では、ハードディスクドライブのヘッド浮上高さをカンチレバー10の初期位置として設定する。発信機102は、カンチレバー10を励振するための発振信号をピエゾドライバ107に供給するものである。ピエゾドライバ107は、この発信機102からの発振信号に基づいて加振部122を駆動してカンチレバー10を所定の周波数で振動させる。
【0037】
図5A及び
図5Bは、
図3Aに示した熱アシスト磁気ヘッド素子の検査部100による磁界と近接場光の検出原理の概略を示す図であり、ローバー40に形成されている熱アシスト磁気ヘッド素子部501の書込み磁界発生部502と熱アシスト光(近接場光)発光部504の構成を拡大してカンチレバー10と一緒に示した図である。
【0038】
図5Aに示すように、カンチレバー10は、ローバー40に形成された熱アシスト磁気ヘッド素子部501の表面からヘッド浮上高さHfに相当する高さにカンチレバー10の磁性膜2及び貴金属(例えば金や銀等)又は貴金属を含む合金の微粒子または薄膜3を形成した探針4の先端部5が位置するように、Zステージ104によって位置決めされる。カンチレバー10は、ローバー40のヘッドの記録面510に平行な平面に数百nm〜数μmの範囲内でスキャンされる。
【0039】
この実施の形態では、Xステージ106及びYステージ107によってローバー40が移動される。このとき、熱アシスト磁気ヘッド素子部501は
図3Aに示した制御部PC30から出力される励磁信号と発光用信号301又は直接に励起用レーザ光を供給され、熱アシスト磁気ヘッド素子部501の書込み磁界発生部502は書込み磁界(交流磁界)503を発生し、近接場光発光部504は熱アシスト光(近接場光)505を発光させる。
【0040】
探針4は、表面に、磁性体2と貴金属(例えば金や銀等)又は貴金属を含む合金の微粒子または薄膜3が形成されている。
【0041】
カンチレバー10が加振部122により振動を加えられた状態で、ローバー40を載置したXステージ106をピエゾドライバ107で制御されたピエゾ素子(図示せず)により一定の速度でX方向に移動させる。一方、プローブユニット140の駆動部143で駆動されてプローブ142の先端部分1421と1422とがそれぞれローバー40に形成された電極41と42とに接触した状態で交流電流143を印加すると、書込み回路部43の書込み磁界発生部502から書込み磁界503が発生する。
【0042】
カンチレバー10の探針4が書込み磁界発生部502により発生した書込み磁界503の中に入ると、探針4の表面に形成された薄膜の磁性体2が磁化され、探針4が磁気力を受けることにより、カンチレバー10の振動状態が変化する。この振動の変化を
図3Aの変位センサ110で検出する。すなわち、カンチレバー10の振動状態が変わると、半導体レーザ素子109から発射されてカンチレバー10で反射されたレーザの変位センサ110の4つに分割された受光面への入射位置が変化する。
【0043】
この変位センサ110の出力を差動アンプ111で検出することによりカンチレバー10の振動状態の変化を検出することができる。この検出した信号を制御部PC30で処理することにより、熱アシスト磁気ヘッド素子部501の磁界発生部502が発生する書込み磁界503の強度分布を検出することが可能となる。この検出した書込み磁界の強度分布を予め設定した基準値と比較することにより、書込み磁界発生部502から発生した書込み磁界の良否を判定することができる。
【0044】
一方、
図5Bに示すように、カンチレバー10が加振部122によりローバー40の表面(記録面)510に対して上下方向に振動を加えられた状態で、ローバー40を載置したXステージ106を一定の速度でX方向に移動させることにより探針4が近接場光発生部504により近接場光505が発生している領域に到達すると、探針4の表面の磁性膜3の上に形成された貴金属(例えば金や銀等)又は貴金属を含む合金の微粒子または薄膜3による局在型表面プラズモン増強効果により、近接場光505の散乱光506が増幅される。この増幅された散乱光506は、カンチレバー10の近傍に配置された光検出器115で検出される。
【0045】
Xステージ106を駆動して探針4を近接場光発生部504を含む一定の距離を移動させた後Xステージ106の駆動を停止し、Yステージ107を駆動して探針4をY方向に1ピッチ分移動させXステージ106を前回と逆の方向に駆動して探針4を近接場光発生部504を含む一定の距離を移動させることを繰返して、探針4で近接場光発生部504を含む領域を走査する。
【0046】
このようにして、熱アシスト磁気ヘッド素子部501の近接場光発生部504からこの近接場光発生部504の極近傍の領域に発生した近接場光を、近接場光発生部504から比較的離れた場所で検出することが可能となる。この検出した信号を制御部PC30で処理することにより、近接場光発生部504から発生した近接場光の強度の分布を求めることができる。この求めた近接場光の強度の分布を予め設定した基準データと比較することにより近接場光発生部504からの近接場光発光の状態の良否を判定することができる。
【0047】
更に、熱アシスト磁気ヘッド素子部501の磁界発生部502が発生する書込み磁界(交流磁界)503と近接場光発生部504から発生する熱アシスト光(近接場光)505との位置関係も測定することが可能となる。これにより、製造工程途中のできるだけ早い段階で熱アシスト磁気ヘッド素子の書込み磁界と近接場光の強度分布の検査及び両者の位置関係の測定を行うことができる。
【0048】
ここで、熱アシスト磁気ヘッド素子部501の近接場光発生部504を検査する場合、カンチレバー10を振動させながらピエゾ素子(図示せず)でXステージ106及びYステージ105を駆動して、探針4を近接場光505が発光している領域を含む領域を走査させる。この検査の間中、近接場光発生部504は近接場光505を発光させ続けている。この近接場光発生部504から近接場光505を発光させるためには、熱アシスト磁気ヘッド素子部501の外部から又は熱アシスト磁気ヘッド素子部501の内部に形成したレーザ光源部(図示せず)から発射されたレーザを近接場光発生部504に照射し続けなければならない。このレーザの照射は、探針4で近接場光発生部504を含む領域の上部を走査している間中続けられる。
【0049】
このときのレーザの発光効率は、レーザ照射エネルギに対して数%程度であり、残りは熱エネルギに変換され、近接場光発生部504及びその近傍が発熱することになる。近接場光発生部504を含む領域を検査するためにレーザを照射している時間が比較的長いため、例えば、レーザ光源部(図示せず)に50Wの電力を印加してレーザを発生させた場合、近接場光発生部504及びその近傍は200〜300℃程度まで温度が上昇する。これにより、検査中にローバー40が熱膨張して検査位置ずれが発生すると共に、カンチレバー10にも熱変形が発生するために、検査の精度が低下してしまう可能性がある。
【0050】
そこで、本実施形態においては、ローバー40を搭載する載置部114を、
図6に示すように熱伝導性が良い導電性の材料(例えば、炭化珪素)で形成されたローバーホルダ部1145と、ローバーホルダ部1145の下部に位置してローバーホルダ部1145を冷却するための冷却部1146と、ローバーホルダ部1145の内部に埋め込んでローバーホルダ部1145の温度を検出する温度センサ1157を備えて構成した。ローバーホルダ部1145には、ローバー40を搭載する載置部1142が形成され、載置部1142に搭載したローバー40を図示していない真空吸引して保持するための排気ポート1147が形成されている。冷却部1146には冷却水の導入ポート1148と内部に導入された冷却水を外部に排出するための排出ポート1149が設けられており、図示していない配管により供給された冷却水が導入ポート1148から冷却部1146の内部に供給され、図示していない冷却部1146の内部の水路を通って排出ポート1149から外部に排出されるようになっている。
【0051】
載置部114を
図6に示すような構成としたことにより、ローバーホルダ部1145の内部に埋め込んだ温度センサ1157でローバーホルダ部1145の温度を制御部PC30でモニタしながら冷却部1146でローバーホルダ部1145を冷却することにより、ローバーホルダ部1145に載置されたローバー40を一定の温度に維持した状態で近接場光発生部504から近接場光505を探針4を用いて検出することが可能になる。
【0052】
これにより、検査中にローバー40が熱膨張することによる検査位置ずれの発生を防止できると共に、カンチレバー10の熱変形の発生を抑制することができるために、検査の精度を高く維持することが可能になる。
【0053】
図7は、上述した熱アシスト磁気ヘッドの検査部100を用いてローバー40を検査する動作の手順を示すフロー図である。
【0054】
先ずハンドリングユニット310でトレイ載置部330の供給用トレイ331からローバー40を1本取り出し、試料受渡ステーションHで待機している熱アシスト磁気ヘッド素子の検査部100の載置部114の基準面1141にローバー40を押し当てた状態でローバー40を載置部114に載置する(S701)。次に、検査ステージ101はガイドレール150に沿って移動して、試料検査ステーションMに到達する(S702)。
【0055】
試料検査ステーションMにおいて、熱アシスト磁気ヘッドの検査部100のカメラ103で載置部114に載置されているローバー40を撮像してローバー40の位置情報を得、この得た位置情報に基づいて制御部PC30でピエゾドライバ107を制御してXステージ106又はYステージ105を駆動することにより、ローバー40の位置を調整するアライメントを行い(S703)、ローバー40を測定位置に移動して測定する熱アシスト磁気ヘッド素子部501の位置決めをする(S704)。
【0056】
次に、プローブユニット140の駆動部143を作動させてプローブ141を前進させ、プローブ141の先端部1411と1412とをローバー40に形成された熱アシスト磁気ヘッド素子部501のプローブ電極41と42とに接触させ、熱アシスト磁気ヘッド素子部501に励磁信号301を供給し、同時に図示していない手段により発光用信号又は直接に励起用レーザ光を熱アシスト磁気ヘッド素子部501に供給する(S705)。これにより磁界発生部502から書込み磁界(交流磁界)503を発生させ、近接場光発行部504から光アシスト光(近接場光)505を発生させる。
【0057】
次に、制御部PC30で制御されたピエゾドライバ107によりZステージ104を駆動するピエゾ素子(図示せず)を制御することによって、カンチレバー10を熱アシスト磁気ヘッド素子部501の記録面510にアプローチする(S706)。
【0058】
次に、ピエゾドライバ107によりピエゾ素子(図示せず)を駆動してXステージ106をX方向に一定の距離を一定の速度で移動させながら加振部122でカンチレバー10を振動させることをY方向に等ピッチずつずらしながら行うことにより、カンチレバー10を熱アシスト磁気ヘッド素子部501の記録面510に平行な平面内で縦と横がそれぞれ数百nm〜数μmの範囲の領域をスキャンする(S707)。
【0059】
このスキャンにより、熱アシスト磁気ヘッド素子部501の磁界発生部502から発生する書込み磁界503によるカンチレバー10の振動の変化を半導体レーザ素子109と位置センサ110とを備えて構成される変位検出部130からの出力信号から検出され、制御部PC30で処理することにより磁界発生部502の位置情報と磁界発生部502が発生する磁界の分布情報が得られる。
【0060】
一方、近接場光発光部504から発生した近接場光505は、スキャンによりこの近接場光505の発生領域内に到達したカンチレバー10の探針4の表面に形成した貴金属(例えば金や銀等)又は貴金属を含む合金の微粒子または薄膜3による局在型表面プラズモン増強効果により増幅されて検出器115により検出される。この増幅された近接場光を検出した検出器115からの検出信号302を制御部PC30で処理し、熱アシスト光(近接場光)505のそれぞれの強度分布を求め、近接場光発光部504の位置情報と表面形状の情報を得る。そして、磁界発生部502の位置情報と近接場光発光部504の位置情報とから磁界発生部502と近接場光発光部504の位置関係の測定(側長)を行い(S708)、磁界発生部502と近接場光発光部504との間隔が、所定の間隔で形成されているかをチェックする。
【0061】
次に、プローブユニット140の駆動部143を作動させてプローブ141を後退させ、プローブ141の先端部1411と1412とをプローブ電極41と42とから離した状態で、更にローバー40上で測定する箇所があるかをチェックし(S709)、更に測定する箇所がある場合には、Zステージ104でカンチレバー10を上昇させた状態で次のヘッドの測定位置に移動して(S710)、S705からの動作を繰返す。一方、更に測定する箇所がない場合には、Zステージ104でカンチレバー10を上昇させた状態で検査ステージ101をガイドレール150に沿って試料受渡ステーションHまで移動させ(S711)、測定が終了したローバー40をハンドリングユニット310で取出して、検査結果に応じて良品回収トレイ332又は不良品回収トレイ333に収納する(S712)。
【0062】
次に、供給トレイ331に未検査のローバー40があるか否かをチェックし(S713)、未検査のローバー40がある場合にはS701に戻って未検査のローバー40を供給トレイ331から取出して,検査ステージ101に搬送してS701からのステップを実行する。一方、供給トレイ内に未検査のローバー40が無い場合には、測定を終了する(S714)。
【0063】
測定が終了して良品収納用トレイ332に収納された良品と判定されたローバーは、磁気ヘッド製造の次工程に搬送さて処理される。一方、不良品収納用トレイ333に収納された不良と判定されたローバー1は、次工程に送られずに廃棄されるか、又は不良原因究明のために不良解析工程に搬送される。
【0064】
本実施形態によれば、熱アシスト磁気ヘッドの検査部100でローバー40に形成された熱アシスト磁気ヘッド素子501から発生する書込み磁界(交流磁界)と熱アシスト光(近接場光)とをカンチレバー10による1回のスキャンで検出することができ、製造工程の上流で、かつ、比較的短い時間で検査を行うことができる。
【0065】
上記に説明した実施形態においては、プローブ141からローバー40に形成された素子の電極41と42とに交流電流を印加して、書込み回路部43の書込み磁界発生部502から磁場を発生させた状態で先端部付近に探針4が形成されたカンチレバー10を振動させてその振動の状態を計測する方式、即ちMFM(Magnetic Force Microscope:磁気力顕微鏡)方式でローバー40に形成された熱アシスト磁気ヘッド素子501の状態を計測する方法について説明したが、プローブ141からローバー40に形成された素子のプローブ電極41と42とに交流電流を印加せず、書込み回路部43の書込み磁界発生部502から磁場が発生していない状態でカンチレバー10を振動させてローバー40に接触させ、その振動の状態を計測する方式、即ちAFM(Atomic Force Microscope:原子間力顕微鏡)方式でローバー40の表面形状を計測する場合にも適用することができる。