(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5923540
(24)【登録日】2016年4月22日
(45)【発行日】2016年5月24日
(54)【発明の名称】アミノ酸含有飲食品及び劣化臭防止方法
(51)【国際特許分類】
A23L 27/21 20160101AFI20160510BHJP
A23L 33/17 20160101ALI20160510BHJP
A23L 2/00 20060101ALI20160510BHJP
A23L 2/52 20060101ALI20160510BHJP
【FI】
A23L1/227 Z
A23L1/305
A23L2/00 B
A23L2/00 F
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-65622(P2014-65622)
(22)【出願日】2014年3月27日
(62)【分割の表示】特願2010-540391(P2010-540391)の分割
【原出願日】2009年11月27日
(65)【公開番号】特開2014-147391(P2014-147391A)
(43)【公開日】2014年8月21日
【審査請求日】2014年3月31日
(31)【優先権主張番号】特願2008-303573(P2008-303573)
(32)【優先日】2008年11月28日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006138
【氏名又は名称】株式会社明治
(74)【代理人】
【識別番号】100116850
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 隆行
(72)【発明者】
【氏名】常松 雅子
(72)【発明者】
【氏名】小野 麻奈美
【審査官】
大久保 智之
(56)【参考文献】
【文献】
特開平02−128670(JP,A)
【文献】
特開2003−235512(JP,A)
【文献】
特開2007−116939(JP,A)
【文献】
特開平01−285157(JP,A)
【文献】
特開昭60−186261(JP,A)
【文献】
特開2008−073007(JP,A)
【文献】
特開2010−059120(JP,A)
【文献】
特開2005−015686(JP,A)
【文献】
特許庁,周知・慣用技術集(香料),2000年,第II部 食品用香料,備考参照,126,127,150−155,166−197,258−265,326−341,432−437頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 33/00
A23L 2/00
A23L 27/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノ酸及び糖類を含有する,アミノ酸含有飲食品であって,
前記アミノ酸は,前記アミノ酸含有飲食品に,1重量%以上で含まれ,
さらに,下記式(I)で示されるエステル化合物を0.1ppm以上200ppm以下で含有し,
前記エステル化合物は,エチルブチレートおよびエチルプロピオネートを含
み,「メチル シス−2−ヘキセノエート,エチル シス−2−ヘキセノエート,メチル シス−2−オクテノエート,エチル シス−2−オクテノエート,メチル シス−3−オクテノエート,およびエチル シス−3−オクテノエート」からなる群から選択される1種又は2種以上を更に含む,アミノ酸含有飲食品。
(式(I)において,
R
1がメチル基の場合,
R
2は,シス体のC
5〜C
7アルケニル基であり,
R
1がエチル基の場合,
R
2は,C
2〜C
3アルキル基であるか,又はシス体のC
5〜C
7アルケニル基である。)
【請求項2】
請求項1に記載のアミノ酸含有飲食品であって,
前記エステル化合物は,エチルブチレート,エチルプロピオネート,メチル シス−2−ヘキセノエート,エチル シス−2−ヘキセノエート,メチル シス−3−ヘキセノエート,エチル シス−3−ヘキセノエート,メチル シス−2−オクテノエート,エチル シス−2−オクテノエート,メチル シス−3−オクテノエート,およびエチル シス−3−オクテノエートを含む,
アミノ酸含有飲食品。
【請求項3】
請求項1に記載のアミノ酸含有飲食品であって,
エチルブチレートおよびエチルプロピオネートをそれぞれ10重量部としたときに,
「メチル シス−2−ヘキセノエート,エチル シス−2−ヘキセノエート,メチル シス−3−ヘキセノエート,エチル シス−3−ヘキセノエート,メチル シス−2−オクテノエート,エチル シス−2−オクテノエート,メチル シス−3−オクテノエート,およびエチル シス−3−オクテノエート」をそれぞれ1重量部含む,
アミノ酸含有飲食品。
【請求項4】
請求項3に記載のアミノ酸含有飲食品であって,
前記エステル化合物を10ppm以上100ppm以下で含む,
アミノ酸含有飲食品。
【請求項5】
前記アミノ酸含有飲食品が,アミノ酸含有飲料,又はアミノ酸含有ゼリー飲料である,
請求項1に記載のアミノ酸含有飲食品。
【請求項6】
エステル化合物を添加する工程を含み,
前記エステル化合物は,エチルブチレートおよびエチルプロピオネートと,「メチル シス−2−ヘキセノエート,エチル シス−2−ヘキセノエート,メチル シス−3−ヘキセノエート,エチル シス−3−ヘキセノエート,メチル シス−2−オクテノエート,エチル シス−2−オクテノエート,メチル シス−3−オクテノエート,およびエチル シス−3−オクテノエート」を含む,
アミノ酸含有飲食品の劣化臭防止方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,アミノ酸劣化臭防止剤,アミノ酸含有飲食品及び劣化臭防止方法に関する。より詳しく説明すると,本発明は,所定の短分子エステル化合物を有効成分として含有するアミノ酸劣化臭防止剤,そのアミノ酸劣化臭防止剤を有効量で含むアミノ酸含有飲食品,及び劣化臭防止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アミノ酸は,たとえば,栄養成分を強化する目的で飲食品や医薬品に添加されていた。そして,近年,アミノ酸が,疲労回復,筋力強化,成長補助,免疫力増加,美肌促進,及び脂質代謝調節などの機能を有することが明らかになった。これにより,アミノ酸含有飲食品の開発が進められている。
【0003】
しかしながら,アミノ酸含有飲食品は,殺菌時や保存中に,アミノ酸特有の風味が劣化臭として発現する場合がある。この劣化臭を抑制するために,いくつかの提案がなされている。
【0004】
たとえば,特開2000−4836号公報(下記特許文献1)には,酸味料でpHを調製した後,非還元糖および甘味料で風味を整えるアミノ酸含有食品の製造法が開示されている。
【0005】
また,特開2005−336078号公報(下記特許文献2)には,分岐アミノ酸または分岐アミノ酸を含むペプチドにステビア抽出物を配合して劣化臭をマスキングする方法が開示されている。
【0006】
さらに,特開2007−185169号公報(下記特許文献3)には,アミノ酸含有食品のメチオニン含量に対して,スレオニン含量が10倍以上の重量含有比となるように調整し,非還元糖を特定量で配合する方法が開示されている。
【0007】
一方,香料を配合することで,アミノ酸の劣化臭を抑制する方法も提案されている。このような方法として,たとえば,特開平2−128670号公報(下記特許文献4)には,苦味を有するアミノ酸にハーブ系又はフルーツ系の香料を配合する方法が開示されている。
【0008】
また,特開2003−235512号公報(下記特許文献5)には,アミノ酸を含む主原料に果物系フレーバー,チョコレートフレーバー,ミルクフレーバー,ティーフレーバー又はバニラフレーバーを配合する方法が開示されている。
【0009】
さらに,特開2005−82488号公報(下記特許文献6)には,アミノ酸と,カルボン又はサリチル酸メチルとを配合した口腔用組成物が開示されている。
【0010】
しかしながら,上記のアミノ酸の劣化臭を防止する方法は,いずれも効果が十分ではなかった。
【0011】
【特許文献1】特開2000−4836号公報
【特許文献2】特開2005−336078号公報
【特許文献3】特開2007−185169号公報
【特許文献4】特開平2−128670号公報
【特許文献5】特開2003−235512号公報
【特許文献6】特開2005−82488号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は,アミノ酸の劣化臭を効果的に防止できるアミノ酸劣化臭防止剤を提供することを目的とする。
【0013】
また,本発明は,アミノ酸の劣化臭を効果的に防止できるアミノ酸含有飲食品を提供することを目的とする。
【0014】
さらに,本発明は,アミノ酸の劣化臭を効果的に防止できる劣化臭防止方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は,基本的には,所定の低分子エステル化合物を用いることで,アミノ酸の劣化臭を効果的に防止できるという知見に基づくものである。
【0016】
本発明の第1の側面は,下記式(I)で示されるエステル化合物(本発明のエステル化合物)を有効成分として含有するアミノ酸の劣化臭防止剤に関する。
【化1】
(式(I)において,
R
1がメチル基の場合,
R
2は,C
4〜C
7アルケニル基であり,
R
1がエチル基の場合,
R
2は,C
2〜C
3アルキル基であるか,又はC
4〜C
7アルケニル基である。)
【0017】
後述する実施例により実証されたとおり,所定の低分子エステル化合物を配合することで,アミノ酸の劣化臭を効果的に防止することができた。すなわち,上記のエステル化合物は,アミノ酸の劣化臭を防止するために有効に用いることができる。
【0018】
また,実施例により実証されたとおり,本発明のエステル化合物として好ましいものは,式(I)において,
R
1がメチル基の場合,
R
2は,シス体のC
5〜C
7アルケニル基であり,
R
1がエチル基の場合,
R
2は,C
2〜C
3アルキル基であるか,又はシス体のC
5〜C
7アルケニル基である。
【0019】
なお,後述する実施例によりアミノ酸の劣化臭を防止することが実証された化合物は,「エチル ブチレート,エチル プロピオネート,メチル 2−ヘキセノエート,エチル 2−ヘキセノエート,メチル 3−ヘキセノエート,エチル 3−ヘキセノエート,メチル 2−オクテノエート,エチル 2−オクテノエート,メチル 3−オクテノエート,およびエチル 3−オクテノエート」である。よって,これらのエステル化合物からなる群から選択される1種のエステル化合物又は2種以上の混合物は,アミノ酸の劣化臭防止剤として確実に有効である。
【0020】
なお,後述する実施例により実証されたとおり,本発明のエステル化合物は,メチオニン,イソロイシン,ロイシン,フェニルアラニンおよびトリプトファン由来の劣化臭を効果的に防止できる。
【0021】
本発明の第2の側面は,アミノ酸を含有するアミノ酸含有飲食品に関する。そして,アミノ酸は,アミノ酸含有飲食品に,1重量%以上で含まれる。また,このアミノ酸含有飲食品は,本発明のエステル化合物を0.1ppm以上200ppm以下で含有する。
【0022】
本発明の第2の側面の好ましい態様は,アミノ酸含有飲料,又はアミノ酸含有ゼリー飲料に関する。
【0023】
本発明の第3の側面は,本発明のエステル化合物を添加する工程を含む,アミノ酸含有飲食品の劣化臭防止方法に関する。本発明のエステル化合物をアミノ酸含有飲食品の製造工程において添加してもよいし,製造されたアミノ酸含有飲食品にエステル化合物を添加してもよい。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば,本発明のエステル化合物を有効成分として含有することで,アミノ酸の劣化臭を効果的に防止できるアミノ酸劣化臭防止剤を提供できる。
【0025】
また,本発明によれば,有効量のアミノ酸劣化臭防止剤を有効成分として含有することで,アミノ酸の劣化臭を効果的に防止できるアミノ酸含有飲食品を提供できる。
【0026】
さらに,本発明によれば,本発明のエステル化合物を有効量で添加することで,アミノ酸の劣化臭を効果的に防止できる劣化臭防止方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下,発明を実施するための最良の形態について説明する。
【0028】
本発明の第1の側面は,下記式(I)で示されるエステル化合物(本発明のエステル化合物)を有効成分として含有するアミノ酸の劣化臭防止剤に関する。
【化2】
(式(I)において,
R
1がメチル基の場合,
R
2は,C
4〜C
7アルケニル基であり,
R
1がエチル基の場合,
R
2は,C
2〜C
3アルキル基であるか,又はC
4〜C
7アルケニル基である。)
【0029】
上記式(I)に含まれるエステル化合物は,全て低分子エステル化合物である。そして,これらの低分子エステル化合物は,公知であり,市販されている。よって,本発明のエステル化合物自体は,市販されているものを購入することができる。
【0030】
C
4〜C
7アルケニル基とは,炭素数が4個以上7個以下のアルケニル基を意味する。C
4〜C
7アルケニル基には,二重結合が2つのジアルケニル基も含まれる。しかしながら,実施例において実証されたとおり,C
4〜C
7アルケニル基として二重結合が1つ含まれる(モノ)アルケニル基が好ましい。さらに,C
4〜C
7アルケニル基には,分枝したC
4〜C
7アルケニル基も含まれる。しかしながら,実施例において実証されたとおり,C
4〜C
7アルケニル基は,直鎖のC
4〜C
7アルケニル基が好ましい。アルケニル基は二重結合を有するため,シス体とトランス体が存在する。実施例において実証されたとおり,アルケニル基の中では,シス体が好ましい。さらに,実施例において実証されたとおり,本発明のエステル化合物におけるC
4〜C
7アルケニル基は,C
5〜C
7アルケニル基が好ましい。
【0031】
C
2〜C
3アルキル基とは,炭素数が2個又は3個のアルキル基を意味する。具体的な,C
2〜C
3アルキル基は,エチル基,又はプロピル基である。
【0032】
本発明のエステル化合物の例は,「エチル ブチレート,エチル プロピオネート,メチル 2−ヘキセノエート,エチル 2−ヘキセノエート,メチル 3−ヘキセノエート,エチル 3−ヘキセノエート,メチル 2−オクテノエート,エチル 2−オクテノエート,メチル 3−オクテノエート,およびエチル 3−オクテノエート」である。
【0033】
アミノ酸の劣化臭防止剤とは,アミノ酸含有食品などにおけるアミノ酸の殺菌時,保存時,又は経時変化により発生するアミノ酸特有の劣化臭を防止するための剤を意味する。
【0034】
本発明のアミノ酸の劣化臭防止剤は,上記のとおり本発明のエステルを,アミノ酸の劣化臭を防止するための有効成分として含有する。本発明のアミノ酸の劣化臭防止剤は,本発明のエステルそのものであってもよいし,公知の希釈剤,又は担体を含んだ組成物であってもよい。本発明のアミノ酸の劣化臭防止剤は,希釈剤,及び担体以外にも公知の成分を含んでもよい。本発明のアミノ酸の劣化臭防止剤の剤型として,公知の剤型を適宜採用できる。剤型の例は,液剤,錠剤,粉末剤,顆粒剤,ペースト状の剤型,乳液状の剤型,及びゼリー状の剤型である。
【0035】
希釈剤の例は,水,エタノール,プロピレングリコール,グリセリン,及び界面活性剤である。担体の例は,アラビアガム,デキストリン,グルコース,シクロデキストリン,及びスクロースである。
【0036】
アミノ酸特有の劣化臭は,アミノ酸と糖類との相互作用によって引き起こされるアミノカルボニル反応に起因すると考えられる。したがって,本発明のアミノ酸の劣化臭防止剤は,アミノ酸と糖類が存在するアミノ酸含有飲食品におけるアミノ酸の劣化臭を防止するために,効果的に用いることができる。後述する実施例により実証されたとおり,本発明のエステル化合物は,メチオニン,イソロイシン,ロイシン,フェニルアラニンおよびトリプトファン由来の劣化臭を効果的に防止できる。これらのアミノ酸は,特に劣化臭の原因となると考えられる。このため,本発明のアミノ酸の劣化臭防止剤は,これらのアミノ酸を含有するアミノ酸含有飲食品におけるアミノ酸の劣化臭を防止するために有効に利用されうる。
【0037】
本発明の第2の側面は,アミノ酸を含有するアミノ酸含有飲食品に関する。アミノ酸含有飲食品とは,アミノ酸が所定量以上で含まれる飲食品を意味する。アミノ酸含有飲食品の例は,アミノ酸成分を添加して,アミノ酸の含有量を高めた飲食物である。具体的なアミノ酸含有飲食品の例は,飲料,ゼリー飲料,ゼリー,食品である。好ましいアミノ酸含有飲食品は,アミノ酸含有飲料,又はアミノ酸含有ゼリー飲料である。アミノ酸含有飲食品におけるアミノ酸は,遊離アミノ酸やアミノ酸の塩であってもよい。アミノ酸の塩の例は,ナトリウム塩,塩酸塩,および酢酸塩である。
【0038】
本発明におけるアミノ酸含有飲食品は,アミノ酸を1重量%以上で含む。なお,アミノ酸がアミノ酸含有飲食品に1.5重量%以上で含有されるものは,特にアミノ酸由来の劣化臭が生じ易い。このため,本発明のアミノ酸含有飲食品として,アミノ酸がアミノ酸含有飲食品に1.5重量%以上で含有されるものである場合,アミノ酸の有益な機能を享受しつつ,アミノ酸の劣化臭を防止できるため特に好ましい。なお,メチオニン,イソロイシン,ロイシン,フェニルアラニンおよびトリプトファンの合計量が,アミノ酸含有飲食品の1重量%以上(好ましくは1.5重量%以上)で含まれる場合,本発明のアミノ酸含有食品は,効果的にアミノ酸の劣化臭を防止できる。
【0039】
本発明のアミノ酸含有飲食品は,本発明のエステル化合物を0.1ppm以上200ppm以下で含有する。本発明のエステル化合物が0.1ppm未満ではアミノ酸含有飲食品の劣化臭を十分に抑制することができない。一方,本発明のエステル化合物を,200ppmを越えて配合すると,エステル化合物の香気が強くなりすぎてアミノ酸含有飲食品の風味に悪影響を及ぼす。なお,本発明のエステル化合物の好ましい含有量は,本発明のアミノ酸含有飲食品中に1ppm以上100ppm以下である。また,本発明のエステル化合物をアミノ酸含有飲食品に配合する方法は,特に限定されない。本発明のエステル化合物をアミノ酸含有飲食品に配合する方法の例は,原材料を混合する際に本発明のエステル化合物を添加する方法;および原材料を混合し,殺菌した後,本発明のエステル化合物を添加する方法があげられる。
【0040】
本発明のアミノ酸含有飲食品には,アミノ酸含有飲食品の風味に悪影響を及ぼさない範囲で香料を配合してもよい。
【0041】
アミノ酸含有飲食品は,必要に応じて,飲食品で通常使用されている糖類,甘味料,酸味料,着色料,保存剤,防かび剤,酸化防止剤,増粘安定剤,乳化剤,ゲル化剤を配合してもよい。
【0042】
本発明の第3の側面は,本発明のエステル化合物を添加する工程を含む,アミノ酸含有飲食品の劣化臭防止方法に関する。アミノ酸含有飲食品を製造する過程で,本発明のエステル化合物又は本発明のアミノ酸の劣化臭防止剤を添加し,これによりアミノ酸含有飲食品の劣化臭を防止してもよい。また,アミノ酸含有飲食品を製造した後に,本発明のエステル化合物又は本発明のアミノ酸の劣化臭防止剤を添加し,これによりアミノ酸含有飲食品の劣化臭を防止してもよい。
【0043】
以下,実施例を用いて本発明を具体的に説明する。しかしながら,本発明は以下の実施例に限定されず,当業者に自明な範囲で適宜変更を加えることができる。
【実施例1】
【0044】
実施例1:官能基別香料成分のマスキング効果の検討
検討方法
表1に示すアミノ酸バランス組成物を1.6重量%,クエン酸を0.7重量%,トレハロースを1.0重量%およびショ糖を3.0重量%で溶解した水溶液(模擬液)を調製した。この模擬液を55℃,7日間で保存した後に,以下に示す各種の官能基別香料成分(酸パート,アルコールパート,エステルパート1および2,ラクトンパート,含硫黄化合物パート)を0.5ppm,5ppm,50ppmのそれぞれの濃度で添加して飲料を調製した。それぞれの飲料をよく訓練されたパネラー5名により官能評価を行い,各パートのマスキング効果を比較した。パネラー5名の平均的な評価を表2に示す。なお,評価基準を以下に示す。
【0045】
【表1】
【0046】
官能基別香料成分
酸パート:70%エタノール水溶液に,酢酸,プロピオン酸,酪酸,ヘキサン酸,イソ吉草酸,オクタン酸およびデカン酸を等量ずつ混合溶解し,それらの酸の合計量が上記の濃度となるように飲料に添加した。
アルコールパート:70%エタノール水溶液に,ヘキサノール,シス−3−ヘキセノール,オクタノール,デカノール,リナロール,ゲラニオール,メントールおよびβ−フェニルエチルアルコールを等量ずつ混合溶解し,それらのアルコールの合計量が上記の濃度となるように飲料に添加した。
エステルパート1:70%エタノール水溶液に,エチル アセテート,エチル ブチレート,エチル プロピオネート,エチル バレレート,プロピル アセテート,ブチル アセテートおよびイソアミル アセテートを等量ずつ混合溶解し,それらのエステル化合物の合計量が上記の濃度となるように飲料に添加した。エステルパート2:70%エタノール水溶液に,エチル ヘキサノエート,メチル 2−ヘキセノエート,エチル 2−ヘキセノエート,メチル 3−ヘキセノエート,エチル 3−ヘキセノエート,エチル ヘプタノエート,エチル オクタノエート,メチル 2−オクテノエート,エチル 2−オクテノエート,メチル 3−オクテノエート,エチル 3−オクテノエート,エチル ノナノエート,エチル デカノエート,ヘキシル アセテート,イソアミル ブチレート,オクチル アセテート,メチル 2−デセノエート,エチル 2−デセノエートおよびメチル 3−ノナノエートを等量ずつ混合溶解し,それらのエステル化合物の合計量が上記の濃度となるように飲料に添加した。
ラクトンパート:γ−ヘキサラクトン,γ−オクタラクトン,γ−ノナラクトン,γ−デカラクトン,γ−ウンデカラクトン,γ−ドデカラクトン,δ−デカラクトン,δ−ウンデカラクトンおよびδ−ドデカラクトンを等量ずつ混合溶解し,それらのラクトンの合計量が上記の濃度となるように飲料に添加した。
【0047】
評価基準
◎:アミノ酸由来の劣化臭が非常に良くマスキングされている。
○:アミノ酸由来の劣化臭が良くマスキングされている。
△:アミノ酸由来の劣化臭がややマスキングされている。
×:アミノ酸由来の劣化臭がマスキングされていない。
【0048】
【表2】
【0049】
表2に示すように,官能基別の香料成分の中ではエステルパートがアミノ酸由来の劣化臭をよくマスキングしていた。
【実施例2】
【0050】
実施例2:各エステル化合物のマスキング効果の検討
実施例1において検討したエステルパート1および2の各エステル化合物のマスキング効果について,実施例1と同様に模擬液に添加して,それぞれの飲料をよく訓練されたパネラー5名により官能評価を行い,各エステル化合物のマスキング効果を比較した。パネラー5名の平均的な評価を表3に示す。なお,評価基準は実施例1と同様である。
【0051】
【表3】
【0052】
表3の結果から,エチル ブチレート,エチル プロピオネート,メチル 2−ヘキセノエート,エチル 2−ヘキセノエート,メチル 3−ヘキセノエート,エチル 3−ヘキセノエート,メチル 2−オクテノエート,エチル 2−オクテノエート,メチル 3−オクテノエートおよびエチル 3−オクテノエートがアミノ酸に由来する劣化臭をよくマスキングしていた。
【実施例3】
【0053】
実施例3:エステル化合物の添加濃度の検討
実施例2でマスキング効果のあった5品のエステル化合物を使用して表4に示すマスキングフレーバーAを調製した。
【0054】
【表4】
【0055】
実施例1の模擬液に対して,このマスキングフレーバーAを,エステル化合物5品の合計量が無添加(比較品1),0.05ppm(比較品2),0.1ppm(本発明品1),10ppm(本発明品2),100ppm(本発明品3),200ppm(本発明品4),300ppm(比較品3)となるように添加して飲料を調製した。それぞれの飲料をよく訓練されたパネラー5名により官能評価を行い,アミノ酸由来の劣化臭およびマスキングフレーバーAの風味について,以下に示す評価基準により評価した。パネラー5名の平均的な評価結果を表5に示す。
【0056】
評価基準
(アミノ酸由来の劣化臭)
×:アミノ酸由来の劣化臭を強く感じる。
○:アミノ酸由来の劣化臭をやや感じるが,ほとんど気にならない。
◎:アミノ酸由来の劣化臭は全く感じられない。
(マスキングフレーバーAの風味)
×:マスキングフレーバーAの風味が強く出すぎている。
○:マスキングフレーバーAの風味がやや強いが,ほとんど気にならない。
◎:マスキングフレーバーAの風味はほとんど気にならない。
【0057】
【表5】
【0058】
表5の結果より,エステル化合物の添加濃度が無添加(比較品1)および0.05ppmではアミノ酸由来の劣化臭が強く感じられ,0.1ppm(本発明品1),10ppm(本発明品2),100ppm(本発明品3)および200ppm(本発明品4)では,アミノ酸由来の劣化臭はほとんど感じられなかった。一方,添加濃度が300ppm(比較品3)では,アミノ酸由来の劣化臭は感じられなかったが,マスキングフレーバーA自体の風味が強く出すぎていた。
【実施例4】
【0059】
実施例4.シス体とトランス体との比較
次に,アルケニル基を有するエステル化合物におけるシス体とトランス体とで,アミノ酸の劣化臭を防止する能力に差があるかどうかを検証した。以下の化合物を用いて実施例2と同様に評価を行った。その結果を表6に示す。
【0060】
【表6】
【0061】
表6に示されるとおり,式(1)で示される化合物のうち,R
2にアルケニル基を有するものは,シス体のものの方がトランス体に比べて,アミノ酸の劣化臭をより効果的に防止することがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明は,食品産業の分野で利用されうる。