(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
目的物質を検出する検出チップを収容する1つ又は複数の凹状からなる収容部と前記収容部に前記目的物質の存在を検証する被検体液を送液する流路とが形成された透光性のプレート本体と、
前記収容部に収容される前記検出チップと、を有し、
前記検出チップは、光を透過する板状の透明基体部と、前記透明基体部の一の面に形成され、前記流路と連結して前記流路方向に沿って前記被検体液が導入される検出溝と、を有し、
前記検出溝は、断面視で前記一の面に対して一の勾配をもって傾斜する傾斜面を少なくとも一部に有し、断面V字状、断面台形状及び断面多角形状のいずれかの形状で形成された溝部の内表面上に、少なくとも電場増強層が配されて形成され、前記検出溝の前記被検体液と接する最表面の一部又は全部が前記目的物質の検出面とされるとともに、1つの前記検出チップに対して複数並行して形成され、
隣接する前記検出溝の溝部間に間隔を有し、前記溝部間の前記間隔をなす部位に第1の遮光部が形成されていることを特徴とする目的物質検出プレート。
プレート本体が円板状の部材からなり、その円心に対して、収容部より近い位置に配される被検体液を貯留する被検体液貯留部及び洗浄液を貯留する洗浄液貯留部と、前記収容部より遠い位置に配される前記被検体液及び前記洗浄液からなる廃液を貯留する廃液貯留部と、を有し、
前記被検体液貯留部、前記洗浄液貯留部及び前記廃液貯留部のそれぞれが、前記被検体液、前記洗浄液及び前記廃液を送液する流路を介して前記収容部と接続される請求項1から2のいずれかに記載の目的物質検出プレート。
【背景技術】
【0002】
昨今、健康診断、製薬、疾患や伝染病の早期発見、環境汚染検出、テロ対策などのさまざまな分野で、持ち運びか可能で、操作が簡単でかつ高感度な検出器が必要とされている。携行が可能な程度に小さく、液体中に含まれる様々な物質の測定が可能なセンサーとして、表面プラズモン共鳴(SPR;Surface Plasmon Resonance)を用いるSPRセンサーや導波モードを用いる光導波センサーが知られている(例えば、非特許文献1〜19、及び特許文献1〜7参照)。これらのセンサーは、疾患に起因する様々なバイオマーカーやウイルスの検出、たんぱく質などの様々なバイオ物質の選択的な検出、環境中の汚染の評価、テロに用いられる毒物や違法薬物、爆薬の検出に用いられてきている。
【0003】
図1に、クレッチマン配置と呼ばれる最もポピュラーなSPRセンサー200の構成例を示す。このSPRセンサー200は、透明基板201上に金や銀、アルミニウムなどの金属を蒸着して金属薄膜層202を形成し、透明基板201の金属薄膜層202を形成した面と反対側の面に光学プリズム203を密着させた構造からなり、光源204から照射されるレーザー光を偏光板205にて偏光し、光学プリズム203を通して透明基板201に照射する。入射光210Aは、全反射となる条件で入射する。入射光210Aの金属の表面側に染み出すエバネセント波によって、ある入射角度で表面プラズモン共鳴が発現する。入射角度θは、光学系を駆動させて適宜変更する。表面プラズモン共鳴が起こると、エバネセント波は表面プラズモンによって吸収されるので、この入射角付近では反射光の強度が著しく減少する。表面プラズモン共鳴が発現する条件は、金属薄膜層202表面近傍の誘電率によって変化することから、金属薄膜層202の表面において物質の吸着や接近、離脱、変質が生じると、反射光210Bの強度に変化が現れる。よって、金属薄膜層202の表面上に被検出試料が結合したり吸着して誘電率に変化が生じると、入射光210Aの反射特性に変化が生じるため、金属薄膜層202から反射される反射光210Bの強度変化を光検出器206によりモニターすることによって、被検出試料を検出することができる。
【0004】
光導波モードセンサーは、SPRセンサーとよく似た構造を持ち、やはりセンサーの検出面における、物質の吸着や誘電率の変化を検出するセンサーである。この光導波モードセンサーは、SPRセンサーで用いることができる全ての光学系と同等の光学系を使用することが可能であることが知られている。
【0005】
図2に、クレッチマン配置と類似の配置を用いた光導波モードセンサー400を示す。光導波モードセンサー400は、透明基板401aと、その上に被覆した金属層又は半導体層で構成される薄膜層401bと、更にこの薄膜層401b上に形成される光導波路層401cとからなる検出板401を用いる。この検出板401の光導波路層401cが形成されている面とは反対側の面に屈折率調節オイルを介して光学プリズム402が密着される。光源403から照射され、偏光板404にて偏光された入射光410Aは、光学プリズム402を通して検出板401に照射される。入射光410Aは、検出板401に対して全反射となる条件で入射する。ある特定の入射角度θにおいて、入射光410Aが光導波路内を伝搬する光導波モード(漏洩モード、又はリーキーモードとも呼ばれる)と結合すると、光導波モードが励起され、この入射角近傍で光の反射光強度が大きく変化する。このような光導波モードの励起条件は、光導波路層401c表面近傍の誘電率によって変化することから、光導波路層401cの表面において物質の吸着や接近、離脱、変質が生じると、反射光410Bの強度に変化が現れる。この変化を光検出器405により観測することにより、光導波路層401c表面における物質の吸着や接近、離脱、変質といった現象を検出することができる。
【0006】
SPRセンサーや光導波モードセンサーには、検出面に光励起発光が可能な物質、例えば蛍光色素など(以下、蛍光物質と呼ぶ)、を付着又は近接させると、蛍光物質の発光を増強する効果もある。この効果は、しばしば、物質検出をする際の信号の増幅に用いられる。例えば、
図1中の金属薄膜層202表面近傍に所望の特定物質を捕捉した際、この特定物質が非常に小さい物質であったり、量が著しく少なかったり、その誘電率が周辺媒質と殆ど同じであったりした場合、
図1で示した、反射光特性の変化を観測する手法では、十分な信号を得られない場合がある。このとき、捕捉した特定物質に対し、蛍光物質を付着させて標識として用いる。付着した蛍光物質は、励起光によって励起されたプラズモンによる電場増強効果で発光強度が強められるため、前記特定物質の捕捉を間接的に高感度で検出が可能となる。この効果は、
図2の光導波路層401c表面近傍でも同様に得られる。
【0007】
ここで、蛍光物質からの発光は、
図1、
図2のいずれの場合も、主に検出板の励起光を照射する側とは反対側、つまり蛍光物質が付着している側に発せられることから、この発光を検出するためには、発光を検出する装置、例えばCCDや光電子増倍管、フォトダイオードなどの光検出器を、検出板の検出面側、つまりプリズムを配する面と反対側に配置する必要がある。
【0008】
以上に示した、SPRセンサーや光導波モードセンサーは、既に様々な装置も販売され、広く使用されているが、一般的な測定の場合、
図1や
図2に示したような、プリズムと検出板の他に、検出対象となる目的物質を検出面表面に輸送するための輸送路、例えば、被検体が液体の場合、流路を検出板表面に配置する必要がある。そのため、部品点数が多くなり、取扱いが容易でないという問題がある。
また、実際の使用時には、プリズムと検出板と輸送路とを接合させて用いる必要があるが、この接合工程は、検出毎に検出板や輸送路を交換する場合には、毎回行う必要があり、システムが複雑になってしまうという問題点がある。
また、部品としてのプリズムは、一般的に高精度の研磨を必要とし、高価であるという問題点がある。
【0009】
プリズム、検出板及び輸送路を一体的に形成したものとしては、特許文献7に開示のバイオチップが挙げられる。このバイオチップでは、基板に、輸送路としての微細流体チャネルが形成されるとともに、該微細流体チャネル中に第1及び第2傾斜面によって形成された複数の楔状の先鋭部が形成されている。また、先鋭部の傾斜面上には、表面プラズモンを励起する金属層と、蛍光体で標識化された標的分子と特異結合する捕捉分子が固定された誘電体層とが形成され、誘電体層に標的物質が固定された場合に、表面プラズモンを通じて励起される蛍光体から蛍光が検出される。
このバイオチップによれば、プリズム、検出板及び輸送路の機能を奏する各部が基板に対して、一体的に形成されており、部品点数を減らすことができる。
しかしながら、このバイオチップにおいては、標的分子の検出面をなす先鋭部と、輸送路としての微細流体チャネルとが別個に形成されるため、依然としてシステムが複雑で、生産コストが高くなるという問題がある。
また、こうしたプリズム、検出板及び輸送路をプレート上に配することで、効率的な検出手法の確立が求められている。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(目的物質検出装置及び目的物質検出プレート)
本発明の目的物質検出装置は、本発明の目的物質検出プレートと、光照射手段と、光検出手段と、必要に応じて、その他の部材とを有する。
本発明の目的物質検出装置では、目的物質として、例えば、ウイルス、たんぱく質、DNA、バイオマーカー等の生体物質、汚染物質、毒物、劇物、その他各種分子などを検出することができる。
【0017】
<目的物質検出プレート>
前記目的物質検出プレートは、透光性のプレート本体と、前記目的物質を検出する検出チップとを有する。
【0018】
−プレート本体−
前記プレート本体は、前記検出チップを収容する1つ又は複数の凹状からなる収容部と前記収容部に前記目的物質の存在を検証する被検体液を送液する流路とが形成されてなる。
【0019】
前記プレート本体の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、円板状、三角板状、四角板状などのプレート部材が挙げられる。
前記プレート本体の形成材料としては、透光性を有する限り特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、環状ポリオレフィン、アクリル、ポリスチレン、ポリカーボネートなどのプラスチック材料や高い透過性が確保できるガラス材料が挙げられる。
【0020】
前記収容部の形成方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記プレート本体を射出成型で形成する方法、前記プレート本体に切削等の機械的加工を施して形成する方法などが挙げられる。
前記収容部の凹部の形状としては、特に制限はなく、収容する前記検出チップの形状、大きさに応じて適宜選択することができる。
なお、前記凹部の底面は、収容する前記検出チップの一面と安定的に接するように、平坦な面として形成されることが好ましい。
【0021】
前記流路の形成方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記プレート本体を射出成型で形成する方法、前記プレート本体に切削等の機械的加工を施して形成する方法などが挙げられる。
前記流路の前記プレート本体を平面からみたときの平面形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、直線状、曲線状などとすることができる。例えば、前記プレート本体が円板状である場合には、その回動方向に沿う形の曲線状とすることができる。
また、その断面形状としては、例えば、その断面で凹状、V字状、半円状、半楕円状、台形状などとすることができる。
【0022】
前記プレート本体としては、特に制限はないが、更に、前記被検体液を貯留する被検体液貯留部、前記被検体液を洗浄する洗浄液を貯留する洗浄液貯留部、前記被検体液及び前記洗浄液からなる廃液を貯留する廃液貯留部を有していてもよい。また、これらの液体がこぼれることを防ぐための蓋部を有していてもよい。また、これらの貯留部に液体がスムーズに入って行くように、貯留部の空気を抜くベント穴を形成しておくことも好ましい。
【0023】
−検出チップ−
前記検出チップは、前記収容部に収容され、透明基体部と、検出溝とを有する。
なお、前記検出チップは、前記収容部の底面に対して、前記透明基体部の前記検出溝が配される面と反対側の面が接合するように収容される。
また、前記検出チップとしては、前記収容部に対して固定状態で収容されてもよいし、固定することなく収容されてもよい。
固定されない場合、前記収容部の中で前記検出チップの位置が変動しないように、位置規制することが好ましい。例えば、前記収容部を四角柱状、楕円柱状に切り出し、その内部に前記収容部の大きさよりもわずかに小さい四角柱状、楕円柱状の前記検出チップを配することで、位置規制される。
【0024】
−−透明基体部−−
前記透明基体部は、光を透過する板状の部材としてなる。
前記透明基体部の形成材料としては、前記光透過性を有し、前記検出溝が形成可能である限り特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、射出成型技術を用いて量産が可能なポリスチレン、ポリカーボネート等のプラスチック材料、高い透明性が確保できるシリカガラス等のガラス材料が好ましい。
【0025】
前記透明基体部は、従来のSPRセンサー又は光導波モードセンサーに用いられる光学プリズムの役割を有する。
即ち、前記光照射手段から照射される光を、前記検出溝に形成される後述の溝部の傾斜面に対して、表面プラズモン共鳴又は光導波モードが励起される特定の入射角度で導入する役割を有する。
そのため、前記透明基体部の屈折率の下限としては、1.33以上が好ましく、1.38以上がより好ましく、1.42以上がさらに好ましい。また、前記屈折率の上限としては、4以下が好ましく、3以下がより好ましい。
なお、この屈折率については、別途図面を用いて後述する。
【0026】
前記透明基体部としては、前記検出溝が形成される面と反対の面が前記収容部の底部に接するか又は近接するように前記収容部内に配される。この面は、前記収容部の底部方向から照射される光の入射面とされることから平坦に形成されることが好ましい。
【0027】
−−検出溝−−
前記検出溝は、前記透明基体部の一の面に形成され、前記流路と連結して前記被検体液が導入される溝として形成される。また、この検出溝は、断面視で前記透明基体部の一の面に対して一つの勾配をもって傾斜する傾斜面を少なくとも一部に有するように形成された溝部の内表面上に、電場増強層が配されて形成される。ここで、電場増強層とは、表面プラズモン共鳴の励起が可能な層状の構造で形成される層(表面プラズモン励起層)及び、光導波モードの励起が可能な層状の構造で形成される層を指す。電場増強層に関しては、別途後述する。
【0028】
前記検出溝の数としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、1つでもよいし、複数であってもよいが、前記検出溝は、前記目的物質を検出する検出面をなすことから、可能な限りその面積を増やし、前記目的物質の検出感度を向上させることが望ましく、したがって複数であることが好ましい。
この場合、1つの前記検出チップに対して複数の前記検出溝が並行して形成されることが好ましい。
【0029】
−−−溝部−−−
前記溝部の形成方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記溝部を有するように前記透明基体部を射出成型する方法、前記透明基体部に機械的な手段、例えば切削手段を用いて形成する方法などが挙げられる。
【0030】
前記溝部は、断面視で前記透明基体部の一の面に対して一の勾配をもって傾斜する傾斜面を少なくとも一部に有する。
前記溝部の形状としては、前記傾斜面を少なくとも一部に有するものであれば、特に制限はなく、例えば、断面V字状、断面台形状、断面多角形状などの形状が挙げられる。ただし、前記傾斜面が曲面とされ、一の勾配をもって傾斜する部分を一切有しない断面U字状の形状や断面半円状の形状などは、含まない。前記傾斜面が曲面であると、前記電場増強層における表面プラズモン又は光導波モードの励起が限定的となり、十分に目的物質を検出することができない。
したがって、前記溝部を構成する溝側面には、前記一の勾配をもって傾斜する傾斜面が少なくとも一部に存在する必要がある。一方、こうした観点から、前記傾斜面としては、前記目的物質を検出する検出面に形成されていればよく、前記溝部の長さ方向の全体に亘って形成されている必要はない。
また、前記溝部の長さ方向の全体に亘って前記傾斜面が形成されている場合でも、当該傾斜面のすべてを検出に使用する必要はなく、その一部のみに光照射を行い、又はその一部でのみ目的物質の捕捉を行い、検出を行ってもよい。
前記溝部を構成する溝側面としては、このような傾斜面を有する限り特に制限はなく、左右対称に形成されていてもよいし、左右非対称に形成されていてもよい。
なお、これらの詳細については、別途、図面を用いて後述する。
【0031】
前記溝部を前記透明基体部の一の面上からみたときの開口幅、即ち、前記一の面における前記左右の溝部の側面の間隔としては、特に制限はないが、5μm〜5cmが好ましい。前記開口幅が5μm未満であると、構造が微細なため、作製が困難となり、製造コストが高くなってしまい、また、溝部が小さいと、検出溝が狭くなり、粘性の高い液体は流れなくなってしまう。一方、前記開口幅が5cmを超えると、検出溝の内容積もそれにつれて大きくなるため、多くの被検体液が必要となってしまう。
また、前記溝部の深さとしては、特に制限はないが、上記と同じ理由で、5μm〜5cmが好ましい。
また、前記検出溝を複数配する場合、即ち、前記溝部を複数形成する場合、隣接する溝部の間隔としては、特に制限はないが、5μm〜5cmが好ましい。前記間隔が5μm未満であると、構造が微細なため、作製が困難となり、製造コストが高くなってしまう。前記間隔が5cmを超えると、検出チップ自体が大きくなってしまい、作製時に材料を多く必要とする、保管時にスペースを取ってしまう、などの不都合が生じることがある。
また、この溝部間の間隔をなす部位では、光照射手段から照射される光が、光検出手段側に直接抜けてしまうことになるため、これらの部位には光を減衰させる遮光部を設けることが好ましい。
【0032】
−−−電場増強層−−−
前記電場増強層としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、(A)前記溝部上に表面プラズモン共鳴を発現する表面プラズモン励起層を配することで形成することができ、また、(B)前記溝部上に光導波モードを励起する層構造を配することで形成することができる。ここで、前記光導波モードを励起する層構造は、金属材料又は半導体材料で形成される薄膜層と透明材料で形成される光導波路層とをこの順で前記溝部上に配することで形成することができる。
【0033】
(A)前記表面プラズモン励起層の形成材料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、入射する光の波長において負の誘電率を有する金属材料が挙げられるが、金、銀、プラチナ及びアルミニウムの少なくともいずれかを含む金属材料が好ましい。
この金属材料で形成される金属層は、プリズムを介してある入射角度で光を受けると、表面側に染み出したエバネセント波が表面プラズモンの励起条件を満たし、前記金属層の表面に前記表面プラズモン共鳴を発現させる。
前記金属層の厚みとしては、金属材料及び入射する光の波長によってその最適値が決定されるが、この値はフレネルの式を用いた計算から算出が可能であることが知られている。一般的に、近紫外域から近赤外域で表面プラズモンを励起する場合、前記金属層の厚さは数nm〜数十nmとなる。
【0034】
前記表面プラズモン励起層、即ち、前記金属層の形成方法としては、特に制限はなく、蒸着法、スパッタリング法、CVD法、PVD法、スピンコート法等の公知の形成方法が挙げられるが、前記溝部が形成される前記透明基体部の形成材料が前記プラスチック材料や前記ガラス材料である場合、前記金属層を直接前記溝部上に形成すると、密着性が低く、簡単にはがれてしまうことがある。
そのため、密着性を向上させる観点から、前記溝部の内表面上にニッケルやクロムを形成材料とする接着層を形成し、この接着層上に前記金属層を形成することが好ましい。
【0035】
後述する目的物質又は該目的物質を標識化する蛍光物質からの発光を検出する際、前記目的物質又は前記蛍光物質が、前記金属層に近接すると、発光した光が再度前記金属層に吸収され、発光効率が低下するクエンチングと呼ばれる現象が起こる。
この場合、前記目的物質及び前記蛍光物質を前記金属層の表面から離す目的で、厚みが数nmから数十nm程度の被覆層を形成するとクエンチングが抑制され、発光効率の低下を抑えられることが知られている。
こうしたことから、前記表面プラズモン励起層、即ち、前記金属層の表面が透明誘電体で被覆されることが好ましい。
前記透明誘電体としては、特に制限はなく、シリカガラス等のガラス材料、有機高分子材料、ウシ血清アルブミン等のたんぱく質など、厚さ数nmから数十nmの透明膜を形成可能な材料等が挙げられる。
【0036】
(B)前記光導波モードを励起する層構造の形成において、前記薄膜層を形成する前記金属材料としては、特に制限はなく、例えば、一般に入手が可能で、安定な金属及びその合金などが挙げられるが、金、銀、銅、プラチナ及びアルミニウムの少なくともいずれかを含むことが好ましい。
前記薄膜層を形成する半導体材料としては、特に制限はなく、例えば、シリコン、ゲルマニウム等の半導体材料又は既知の化合物半導体材料が挙げられるが、特にシリコンは安価で加工が容易であるため好ましい。
前記薄膜層の厚みとしては、前記表面プラズモン励起層の金属層と同様で、前記薄膜層の材料及び入射する光の波長によってその最適値が決定されるが、この値はフレネルの式を用いた計算から算出が可能であることが知られている。一般的に、近紫外域から近赤外域の波長帯の光を使用する場合、前記薄膜層の厚さは数nm〜数百nmとなる。
なお、前記薄膜層として前記金属材料を選択する場合、密着性を向上させるために、前記溝部と前記薄膜層との間に、前述したクロムやニッケルの接着層を配することが好ましい。
【0037】
また、前記光導波路層の形成材料としては、光透過性の高い透明材料であれば特に制限はなく、例えば、酸化シリコン、窒化シリコン、アクリル樹脂等の樹脂材料、酸化チタン等の金属酸化物、窒化アルミニウム等の金属窒化物などが挙げられるが、作製が容易で、化学的安定性が高い酸化シリコンが好ましい。この場合、前記薄膜層を前記シリコンで形成すれば、前記シリコンの層の表面側を酸化させることで、簡便に形成することができる。
【0038】
−−−表面処理−−−
前記目的物質を選択的に検出する場合、特に制限はないが、前記検出溝の表面、即ち、検出面に前記目的物質を特異的に捕捉するための表面処理が施されることが好ましい。
前記表面処理の方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記表面プラズモン励起層としての前記金属層に貴金属を用いて前記検出面とする場合には、金属−チオール結合を用いて捕捉物質を前記検出面に固定化させる化学修飾方法などが挙げられ、また、前記金属層を被覆する前記透明誘電体としてシリカガラスなどのガラス材料を用い、このガラス被覆層を前記検出面とする場合には、シランカップリングを用いて前記検出面に捕捉物質を固定化させる化学修飾方法などが挙げられる。
また、前記光導波路層の表面を前記検出面とする場合の表面処理方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記光導波路層として酸化シリコンを用い、その表面を前記検出面とする場合には、前記ガラス被覆層と同様、シランカップリングにて前記検出面に捕捉物質を固定化させる化学修飾方法などが挙げられる。
【0039】
ここで前記目的物質検出プレートの一実施形態を
図3及び
図4を用いて説明する。
図3に示すように、目的物質検出プレート1のプレート本体2は、円板状に形成され、図示しないスピンドルなどの回動手段により、図中矢印A方向に回動可能とされる。
プレート本体2には、その拡大部に示すように、流路3と、収容部4と、被検体液を溜めておくための被検体液貯留部5が形成され、その回動によって、被検体液貯留部5から流路3を経由して収容部4に被検体液が導入される。4’及び5’は廃液を溜めておくための廃液貯留部である。
また、収容部4には、検出チップ8が収容され、被検体液中に存在する目的物質を検出する。即ち、
図4に示すように、収容部4は、凹状に形成され、その内部に検出チップ8が収容される。この収容部4では、その側面において流路3と連結され、被検体液を検出チップ8に送液可能とされている。なお、図中の符号9は、収容部4から被検体液がこぼれることを防止する目的で配される蓋部である。
【0040】
収容部4内に検出チップ8が収容された様子を
図5(a),(b)を用いて説明する。
図5(a)は、
図4のA−A線断面に相当する図である。また、
図5(b)は、
図4のB−B線断面に相当する図である。
これらの図に示すように、検出チップ8は、収容部4内に収容される。流路3から送液される被検体液は、検出溝6に導入される。プレート本体2の外部に設置された光源10から、透明基体部7の検出溝6が形成された面と反対側の面側から光Lが照射され、検出溝6に光が入射される。検出溝6に光が照射されると、検出溝6に配される電場増強層により電場が増強され、目的物質又は目的物質を標識化する蛍光物質からの蛍光を観察することができる。目的物質の検出は、検出溝6上に被検体液が導入された状態で行っても良いが、被検体液を導入後、被検体液中に含まれる目的物質を検出面に固定化した捕捉物質で捕捉後、洗浄液を収容部4に導入して不純物や夾雑物を洗浄した後に行うと、不純物や夾雑物による信号を除去でき好ましい。
ここで、プレート本体2において被検体液を収容部4へ供給する側の流路3から供給された被検体液は、検出チップ8の検出溝6に沿って流れた後、廃液貯留部5’へと繋がる流路3へ排出されるように、収容部4内に検出チップ8が配置されることが好ましい。このことを実現するには、収容部4への被検体液供給口、つまり被検体液を収容部4へ供給する側の流路3と収容部4との接合部と、収容部4から被検体液を排出する排出口、つまり収容部4から廃液を排出する流路3と収容部4との接合部とを結ぶ直線と、検出溝6とが平行に配置されているか、平行状態からのずれが角度換算で±45°以内であることが好ましい。このように流路3と検出溝6とが連結されると、流路3から検出溝6に対して被検体液を効率的に導入することができる。また、検出溝6内に洗浄液を導入させ易くなり、検出溝6内に残留する被検体液を容易に洗浄することができる。なお、
図5(a),(b)に示す例では、収容部4への被検体液供給口と収容部4から被検体液を排出する排出口とを結ぶ直線と検出溝6とは平行に配置されている。
【0041】
このように構成される目的物質検出プレート1では、流路3と収容部4で構成される検出構造が複数形成されるため、各収容部内に配される検出チップにより、目的物質を効率的に検出することができる。また、この検出構造ごとに異なる目的物質を検出させることもでき、1回の作業で複数の目的物質の検出を行うことができ、効率的な検出試験を実施することができる。更に、検出チップ8の検出溝6が、収容部4内で被検体液の流路及び目的物質の検出面のそれぞれの役割を担うように構成されるため、流路と検出面とを別個に製造する必要がなく、生産コストを低減させることができる。
【0042】
前記目的物質検出プレートの他の実施形態を
図6(a),(b)を用いて説明する。
図6(a)に示すように、目的物質検出プレート100は、円板状のプレート本体102からなり、プレート本体102は、検出チップ108を収容する収容部104と、被検体液を貯留する被検体液貯留部105と、被検体液を洗浄する洗浄液を貯留する洗浄液貯留部106と、被検体液及び洗浄液からなる廃液を貯留する廃液貯留部107と、収容部104と被検体液貯留部105を接続する流路103aと、収容部104と洗浄液貯留部106を接続する流路103bと、収容部104と廃液貯留部107を接続する流路103cとを有する。なお、プレート本体102の円心部分は、切り抜かれ、市販のCDのような形状とされている。
被検体液貯留部105及び洗浄液貯留部106は、プレート本体102の円心に対して、収容部104より近い位置に配され、廃液貯留部107は、収容部104より遠い位置に配される。
図6(b)に、収容部104、被検体液貯留部105、洗浄液貯留部106、廃液貯留部107及び流路103a〜103cで構成される1つの検出ユニットを拡大して示す。
収容部104に収容される検出チップ108は、1つの検出溝109を有する。この検出溝109に対して流路103a,103bは、略Y字状に形成される。この時、収容部104と流路103a、103bの接合部と、収容部104と流路103cの接合部とを結ぶ直線と検出溝109は、平行から±22.5°ずれた形で配置されている。これ以外の構成については、目的物質検出プレート1の構成に準じて適宜構成される。
【0043】
このような目的物質検出プレート100によれば、プレート本体102を回動させると、遠心力により、被検体液貯留部105に貯留された被検体液を収容部104に送液させることができ、洗浄液貯留部106に貯留された洗浄液を収容部104に送液させることができ、また、収容部104に送液された被検体液及び洗浄液を廃液貯留部107に送液させることができる。また、検出チップ108の検出溝109に対して、被検体液及び洗浄液を導入させ易く、検出試験及び洗浄を効率的に行うことができる。
なお、図中では、検出チップ108上に検出溝109が1本形成されている例を示したが、1つの検出チップ108上に検出溝109は、複数本形成されていてもよい。また、
図6(a)に示すように、収容部104、被検体液貯留部105、洗浄液貯留部106、廃液貯留部107、検出チップ108及び流路103a〜103cで構成される1つの検出ユニットをプレート本体102上に複数ユニット形成すると、同時に複数の検出試験を実施することが可能となり好ましい。
【0044】
次に、前記検出チップの実施形態の例を図面を用いて説明する。
図7(a)に示す本発明の一実施形態に係る検出チップ11は、透明基体部12の一の面に断面V字状の溝からなる検出溝13が形成されて構成される。また、検出溝13は、その断面を説明する
図7(b)に示すように、断面V字状に形成された溝部の内表面上に、電場増強層14が配されて形成される。検出溝13内には、目的物質の存在を検証する被検体液が導入され、その最表面、ここでは電場増強層14の表面が前記目的物質の検出面とされる。
電場増強層14では、図示しない光照射手段から照射される光により、表面プラズモン共鳴又は光導波モードが励起され、層内及び層表面付近に強い電場が形成される。前記光照射手段では、透明基体部12の検出溝13が形成される面と反対の面である面R側から光を照射する。
【0045】
このとき、
図7(b)の解説図として示す
図7(c)のように、透明基体部12は、点線で示す三角形プリズムとして機能する領域を有し、面R側から照射される光Lを特定の入射角度で電場増強層14に入射させる。即ち、透明基体部12は、SPRセンサー及び光導波モードセンサーにおける光学プリズムとして機能し、電場増強層14の表面近傍での電場を増強させて、この現象に由来する目的物質の検出を可能とする。なお、面Rは、プリズムの入射面として機能することから、平坦性が高いことが好ましい。
【0046】
図7(c)に示す検出溝13の溝部における底角φは、該溝部を形成する傾斜面に対する光Lの入射角度θによって決定される。例えば、この
図7(c)に示す検出チップ11の例では、透明基体部12の検出溝13が形成される面とその反対の面である面Rとが平行で、溝部を形成する2つの傾斜面が左右対称で、前記光照射手段から光Lを面Rに対して垂直に入射させる場合としている。この場合の底角φ(°)は、(90°−θ)×2となる角度で選択される。
入射角度θは、表面プラズモン共鳴及び光導波モードの励起条件によって決定されることから、底角φは、透明基体部12の形成材料の屈折率及び電場増強層14の構成に依存する。
ここで、透明基体部12の屈折率が低すぎると、入射角度θを大きくする必要があり、ひいては底角φを小さくする必要が生ずる。検出溝13の開口幅が数100μm以下のマイクロ流路の場合、底角φが30°以下である場合には、検出溝13の形成が難しくなることから、透明基体部12の屈折率としては、1.38以上が好ましく、1.42以上がより好ましい。一方、加工の難易度が特に問題とならない大きさの検出溝の場合、透明基体部12の屈折率はさらに低くて良いが、少なくとも水の屈折率1.33より高いことが好ましい。
一方、透明基体部12の屈折率が高すぎると、光Lを面Rに入射した際、面Rでの反射が強くなってしまう、という問題点がある。また、屈折率が高くなお且つ透明性も高い材料は候補が限られてしまう。よって、透明基体部12の屈折率としては、4以下が好ましく、3以下がより好ましい。
【0047】
この例では、
図7(a),(b)に示すように、検出チップ11には、検出溝13が並行して形成される。このように形成することで、検出溝が1つの場合よりも検出面の表面積を多くとることができ、目的物質の検出感度を向上させることができる。
また、隣接する検出溝の溝部間には、前述のように間隔15があってよい。このような間隔15を有するように形成される溝部は、透明基体部12を射出成型する際、この溝形状を形成するスタンパの溝部、即ち、間隔15に対向する部分を鋭角に作成する必要がなくなり、生産コストの低減を図ることができる。
また、前述のように間隔15には光を減衰させる遮光部を設けることが好ましい。
【0048】
図8に、検出チップの他の実施形態を示す。この検出チップ21は、透明基体部22と、複数の検出溝23を有する。検出溝23の形状は、断面視で台形状とされる。このような検出チップによれば、断面がV字状の溝と比して、溝の底部が鋭角でなく、平坦に形成されるため、検出試験終了後に洗浄を行う際、溝の底部に洗浄液が流れ込み易く、効率的に洗浄を行うことができ、好ましい。但し、このような平面部には、間隔15と同様に、光を減衰させる遮光部を設け、光検出器側に光照射手段からの光がなるべく到達しないようにすることが好ましい。
【0049】
前記検出溝は、該溝を構成する2つの傾斜面が、左右対称でなくともよい。
例えば、
図9に示すように、前記2つの傾斜面が異なる勾配を有するように検出溝33を形成してもよい。この場合、それぞれの傾斜面で異なる発光特性が得られるため、2つの異なる検出を同時に実施可能である。
例えば、左右の面で、それぞれ異なる波長で電場増強が生じるように設定しておく。例えば、左側の面では、550nmの光によって表面プラズモンが励起されるように設定し、右側の面では、660nmの光で表面プラズモンが励起されるように設定する。左側の面では、550nmの励起光で発光する蛍光色素が特異的に吸着されるような検体の測定を実施し、右側の面では、660nmの励起光で発光する蛍光色素が特異的に吸着されるような検体の測定を実施する。光源には、550nmの励起光と、660nmの励起光とをそれぞれ備え、交互に照射するか、交互にフィルタなどで遮光することによって、それぞれの励起光による信号を左右それぞれの面から検出できるため2つの検体を同時に検出することが可能となる。なお、
図9中、符号31は、検出チップを示し、符号32は、透明基体部を示す。
【0050】
また、前記2つの傾斜面は、多段の勾配をもって形成されていてもよい。
例えば、
図10に示すように、前記2つの傾斜面が多段の勾配を有するように検出溝43を形成してもよい。この場合、勾配ごとに異なる励起波長による検出を同時に実施することが可能となる。なお、
図10中、符号41は、検出チップを示し、符号42は、透明基体部を示す。
【0051】
また、蛍光を片方の傾斜面でのみ検出する場合は、検出に使用しない側の面の成す角度は、検出に特に影響を与えないことから、どのような形状を取っていても良く、例えば
図11に示したように検出溝53の検出に使用しない側の面を垂直に形成してもよい。なお、
図11中、符号51は、検出チップを示し、符号52は、透明基体部を示す。
【0052】
<光照射手段>
前記光照射手段は、前記検出チップの前記検出溝が形成される面と反対の面側から前記電場増強層に光を照射する手段である。
前記光照射手段の構成としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、レーザー、白色ランプ、LEDなどの光源、前記光源からの光をコリメートするコリメータ、前記光源からの光を集光するレンズ、前記光源からの光を偏光する偏光板など、公知の光学部材から適宜選択して構成することができる。
中でも、前記光源から発せられる光を直線偏光に偏光する偏光板を有して構成されることが好ましい。
【0053】
<光検出手段>
前記光検出手段は、前記光照射手段から照射される光により、前記検出溝内に存在する前記被検体液中の前記目的物質又は前記目的物質を標識化する前記蛍光物質から発せられる蛍光を検出する手段として構成される。
【0054】
前記光検出手段の構成としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、前記蛍光を検出するCCD、フォトダイオード、光電子増倍管などの光検出器、前記蛍光を前記光検出器に導く光ファイバ、前記蛍光を集光して前記光検出器に導く集光レンズなど、公知の光学部材から適宜選択して構成することができる。
また、検出される光が前記目的物質又は前記蛍光物質から発せられる蛍光に由来するものであるのか、それ以外の光によるものなのかを区別するために、前記蛍光波長帯の光のみを透過する波長フィルタを介して前記光検出器による検出を行ってもよい。
【0055】
<その他の部材>
前記その他の部材としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、送液ポンプなどが挙げられる。前記送液ポンプとしては、前記流路に前記被検体液を送液するポンプなどが挙げられる。
【0056】
前記目的物質又は前記蛍光物質から発せられる蛍光を検出する前記目的物質検出装置の構成例を
図12に示す。ここでは、検出チップ61と、光Lを検出チップ61の面R側から照射する光照射手段(不図示)と、前記目的物質又は前記蛍光物質から発せられる蛍光kを蛍光kの波長帯域の光のみを透過する波長フィルタ68を介して検出する光検出器67とを有する。また、検出チップ61は、透明基体部62と、その一の面に形成される検出溝63を有する。
【0057】
照射する光Lとしては、前記目的物質又は前記蛍光色素の励起帯の波長に対応するレーザー光か、光フィルタや分光器などで単色化した光を用いる。
このとき、前記光照射手段を検出チップ61の面R側で半円を描くように周回させるか、又は検出チップ61の方を固定された前記光照射手段の周りで周回させて、光Lの入射角度を変え、検出溝63の前記電場増強層に光Lを照射すると、表面プラズモン共鳴又は光導波モードが励起される特定の角度において、発光強度が増大する現象が観測でき、観測している発光が表面プラズモン共鳴又は光導波モードによって生じたものか、表面プラズモン共鳴又は光導波モードの励起に関与しない光Lの迷光が前記蛍光物質に照射され、前記目的物質の検出とは無関係に発光したものかを確認することができる。
【0058】
ただ、入射角度の変更機構や検出チップ61を周回させる回転機構は、可動部を必要とするため、検出装置そのものが大型化するデメリットがある。装置を小型且つ安価に構成するには、入射角度を一定の角度に固定した状態で蛍光強度を観測し、目的物質を検出する手法が好ましい。
【0059】
前記目的物質自体が蛍光kを発する場合、検出溝63の検出面で前記目的物質を捕捉し、前記目的物質の発光の有無及び発光強度を観測することによって、前記目的物質の有無及び量が観測できる。
しかし、多くの物質は、強い発光特性を示さないので、検出溝63の検出面で捕捉した後、前記蛍光物質を前記目的物質に付着させて発光を観測する。
前記蛍光物質を付着させる方法に関しては、特に制限はなく、公知の手法を適用することができ、例えば、前記目的物質に特異的に吸着する抗体に前記蛍光物質を結合させておき、この蛍光物質付きの抗体を前記目的物質に吸着させる方法が挙げられる。
【0060】
(目的物質検出方法)
本発明の目的物質検出方法は、本発明の前記目的物質検出装置を用いて前記目的物質を検出する方法であって、被検体液導入工程と、光照射工程と、光検出工程とを含む。
【0061】
前記被検体導入工程は、前記目的物質検出プレートの前記流路内に前記被検体液を送液し、前記検出チップの前記検出溝内に前記被検体液を導入する工程である。
前記光照射工程は、前記検出チップの検出溝が形成される面と反対の面側から電場増強層に光を照射する工程である。
前記光検出工程は、前記光照射工程で実施される前記光の照射に基づき、前記検出溝内に存在する前記被検体液中の前記目的物質又は前記目的物質を標識化する蛍光物質から発せられる蛍光を検出する工程である。
これらの工程は、前記目的物質検出装置で説明した事項により適宜実施することができる。
【実施例】
【0062】
(実施例1)
本発明の有効性を確認するため、検出チップ71と、光Lを検出チップ71の面R側から照射する光照射手段(不図示)と、前記目的物質又は前記蛍光物質から発せられる蛍光を検出する光検出器77とを有する試作機を作製した(
図13参照)。
【0063】
ここで、検出チップ71は、次のように製造した。
先ず、ポリスチレンを形成材料とし、射出成型により断面V字状の溝部が形成された板状の透明基体部72を作製した。前記溝部を構成する2つの傾斜面は、左右対称とし、その底角φは、49°とした。また、前記溝部の開口幅は、300μmとした。
次いで、この透明基体部72の前記溝部が形成された面に対して、該溝部が形成されていない平坦領域に対して垂直方向から、この平坦領域において厚みが0.6nmとなるようにクロムを蒸着させ、前記溝部が形成された面全体に接着層としてのクロム薄膜74aを形成した。
次いで、前記平坦領域において厚みが100nmとなるように金を蒸着させ、クロム薄膜74a上に表面プラズモン励起層としての金薄膜74bを形成した。
次いで、前記平坦領域において厚みが49nmとなるようにスパッタリング法によりシリカガラス薄膜を堆積させ、金薄膜74bの表面を透明誘電体74cで被覆した。
これにより、透明基体部72に前記溝部の形状とほぼ同形の溝形状を有する検出溝73を形成した。またこの時、透明基体部72の検出溝73の開口部以外の上面に積層されたクロム薄膜74aと金薄膜74bは遮光部として働く。
以上により、検出チップ71を製造した。
【0064】
この検出チップ71に対し、検出溝73を水で満たし、
図13に示すように、前記光照射手段から光を照射し、検出チップ71の面R側から該面Rに対して垂直な方向から光を直径約1mmのビーム径で入射させた。前記光照射手段は、白色光源と、該白色光源から発せられる光をp偏光に直線偏光させる偏光板とで構成し、また、前記白色光源と、該白色光源から発せられる光をs偏光に直線偏光させる偏光板とで構成し、2通りに構成した。
前記2通りの光照射手段により検出チップ71のR面側から照射された白色光の透過光を、該検出チップ71の検出溝73が形成された面に対向配置した光検出器77にて測定した。
図14にその結果を示す。
該
図14は、透過光強度の波長依存性を示しており、s偏光の場合に比べ、p偏光の場合には、570nm〜870nmの波長領域において、明確な透過光強度の増加が確認できる。s偏光の場合には表面プラズモンが励起され得ないことを考慮すれば、この現象は、p偏光された入射光により、前記波長領域において表面プラズモンが励起され、その結果、前記入射光が強く散乱されて生じたものと考えられる。
このように、検出チップ71を用いれば、従来のように、プリズムと検出チップとの煩雑な貼り合せ工程を経ることなく、検出チップ71で容易に表面プラズモンを励起することが可能であり、また、この表面プラズモンの励起により、蛍光物質からの蛍光も容易に増強することができる。また、検出チップ71を収容する前記目的物質検出プレートを用いれば、効率的に前記目的物質の検出を行うことができる。
【0065】
(実施例2)
実施例1と同様に先ず、ポリスチレンを形成材料とし、射出成型により断面V字状の溝部が形成された板状の透明基体部72を作製した。前記溝部の構造は、実施例1と同じである。この透明基体部72の前記溝部が形成された面に対して、該溝部が形成されていない平坦領域に対して垂直方向から、この平坦領域において厚みが0.6nmとなるようにクロムを蒸着させ、接着層としてのクロム薄膜層74aを形成した。次いで、このクロム層上に、前記平坦領域において厚みが120nmとなるように金を蒸着させて表面プラズモン励起層としての金薄膜層74bを形成した。次いで、この金の層上に、前記平坦領域において厚みが49nmとなるようにスパッタリング法によりシリカガラス薄膜(透明誘電体層74c)を堆積させた。これにより、透明基体部72に検出溝73を形成した。
その後、この薄膜を堆積した透明基体を弱アルカリ水溶液に24時間浸漬後乾燥した後、0.1v/v%3−アミノプロピルトリエトキシシランのエタノール溶液に15時間浸漬し、シリカガラス表面に反応活性なアミノ基を修飾した。その後、透明基体をエタノールでリンスし乾燥後、0.5mMのスルホスクシンイミジル−N−(D−ビオチニル)−6−アミノヘキサネートを含むリン酸緩衝生理食塩水を検出溝73上に滴下して2時間室温で放置し、検出溝表面に目的物質を捕捉する物質としてビオチンを導入した。以上により、検出チップ71を製造した。
【0066】
次いで、
図6(a)に示す目的物質検出プレート100を以下のように作製した。
プレート本体102の形成母材として、COP(環状ポリオレフィン)基板を利用し、このCOP基板に対して、CADデザインに基づき直径0.01〜4mmの切削工具を適宜交換しながら、NC(Numerical Control)加工機を用いて切削加工を行って、収容部104、被検体液貯留部105、洗浄液貯留部106、廃液貯留部107及び流路103a〜103cを有するプレート本体102を作製した。
収容部104の形状は、直径5.2mm、深さ1.6mmの円柱状とした。
そこへ前述の検出チップ71(チップの板の厚さ1.5mm)を、NC加工機による加工により、直径5.2mmの円柱状に削り出して組み込んだ。
このとき、検出チップ71の裏面は、組み込みが容易になるように、エッジを落としてから収容部104に組み込むようにした。
その後、すべての流路103a〜103cを覆うように、プレート本体102の全面を圧力感受性粘着透明シートによりシール(蓋)した。次いで、被検体液の注入目的ないしエアベント目的で、このシールの一部を、CO
2レーザーマーカを用いて除去した。
その後、共焦点顕微鏡により、組み込んだ検出チップ71の境界面を観察したところ、プレート本体102の表面(つまりシールの裏面)との隙間は、50μmであった。この隙間部分に、被検体液が導入され、検出溝73の内壁に吸着した目的物質についた蛍光ラベルが、電場増強効果により強く発光することによって、目的物質を高感度で検出することが可能である。また、この隙間は、0〜200μm程度と狭いことが好ましい。それは、この部分が薄層化されることによって抗原抗体反応が迅速化され、短い時間での検出が可能となるからである。
なお、被検体液貯留部105から収容部104への流路103aは、幅500μm、深さ100μmとし、洗浄液貯留部106から収容部104への流路103bは、幅200μm、深さ50μmとし、収容部104から廃液貯留部107への流路103cは、幅30μm、深さ50μmとした。
被検出液としては、蛍光色素Alexa700(Invitrogen社製)が付いたストレプトアビジンを目的物質として100nM含むリン酸緩衝生理食塩水を用いた。この被検出液を流路103aを介して検出溝73に注入し、検出溝73を被検出液で満たした後、ビオチンによるストレプトアビジンの捕捉のために1時間室温で放置した。
その後、不純物等を洗浄するために、0.05v/v%のトリトンX−100(ナカライテスク社製)を含むリン酸緩衝生理食塩水を、103bを介して検出溝73に注入し洗浄した後、検出溝73をリン酸緩衝生理食塩水で満たした。
以上のプロセスを経た目的物質検出プレート100に、コリメータレンズと偏光板を備えた波長680nm±10nmの光を発する光フィルタ付きLEDを光照射手段として光を照射した。また、光検出器77として冷却CCDカメラを用い、このCCDカメラの前に、波長710nm以上の光を透過する光フィルタと波長720nm以上の光を透過する光フィルタを設置して、光検出手段を構成した。露光時間は60秒間とした。
光照射手段よりp偏光を照射したところ、Alexa700からの蛍光を観測することができた。一方、光照射手段よりs偏光を照射したところ、Alexa700からの蛍光は観測されなかった。表面プラズモンはp偏光の光の照射によってのみ励起されることから、観測結果は、検出溝73内の検出面における表面プラズモン励起層による表面プラズモンの励起によって蛍光色素からの蛍光が増強され、高感度で検体が検出できたことを示す。