(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1記載の製造方法において、前記リン原子含有アルコール化合物(I)が有する水酸基の一部を不飽和基含有一塩基酸(α)とエステル結合を形成するように反応させ、かつ、前記リン原子含有アルコール化合物(I)が有する他の水酸基の一部乃至全部を多塩基酸無水物(β)とエステル結合を形成するように反応させるビニルエステル化合物の製造方法。
前記リン原子含有アルコール化合物(I)が含有する水酸基1当量に対し、前記不飽和基含有一塩基酸(α)と前記多塩基酸無水物(β)とのモル数の和が0.5〜1当量となる割合で反応させる請求項2記載の製造方法。
前記不飽和基含有一塩基酸(α)と前記多塩基酸無水物(β)とのモル数の比[(nα)/(nβ)]が、10/90〜90/10の範囲となるように両者を用いる請求項2記載の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の製造方法は、前記した通り、アルコキシ基を芳香核上の置換基として有する芳香族アルデヒド(a1)と、P−H基又はP−OH基を分子構造中に有する有機リン化合物(a2)とを反応させて得られるリン原子含有化合物(i)を、更に、フェノール化合物(a3)と反応させてリン原子含有フェノール化合物(A1)を得、次いで、得られたリン原子含有フェノール化合物(A1)と、アルキレンオキサイド又はアルキレンカーボネート(A2)とを反応させてリン原子含有アルコール化合物(I)を得た後、前記リン原子含有アルコール化合物(I)が有する水酸基の一部乃至全部を不飽和基含有一塩基酸(α)とエステル結合を形成するように反応させることを特徴とするものである。
【0018】
本発明の製造方法により得られるビニルエステル化合物は、分子主骨格に特定のリン原子含有構造を有することから、優れた耐熱性及び難燃性を硬化物に付与できると共に、耐マイグレーション性に代表される電気信頼性や、レジストインキ材料に用いた場合の銅箔密着性にも優れたものとなる。
【0019】
本発明で用いるアルコキシ基を芳香核上の置換基として有する芳香族アルデヒド(a1)は、例えば、ベンズアルデヒド、o−トルアルデヒド、p−トルアルデヒド、o−エチルアルデヒド、p−エチルアルデヒド、p−イソプロピルベンズアルデヒド、ナフトアルデヒド、アントラセンアルデヒド等の芳香族アルデヒドの置換基としてアルコキシ基を有するものが挙げられ、具体的には、下記構造式(a1−1)
【0021】
(式中、R
5は水素原子又は炭素原子1〜3のアルキル基であり、Rは炭素原子1〜4のアルキル基を表し、nは1〜3の整数である。)
で表される芳香族アルデヒド(a1−1)、或いは、下記構造式(a1−2)
【0023】
(式中、R
5は水素原子又は炭素原子1〜3のアルキル基であり、Rは炭素原子1〜4のアルキル基を表し、nは1〜3の整数である。)
で表される芳香族アルデヒド(a1−2)が挙げられる。
【0024】
これらの中でも、リン原子の含有率の高いビニルエステル化合物が得られることから、前記芳香族アルデヒド(a1−1)が好ましく、nの値が1であるものがより好ましい。
【0025】
本発明で用いる芳香族アルデヒド(a1)は、その芳香核上の置換基としてアルコキシ基を有することから、該芳香族アルデヒド(a1)と、P−H基又はP−OH基を有する有機リン化合物(a2)との反応生成物であるリン原子含有化合物(i)が有する水酸基が反応性に優れるものとなり、触媒を殆ど用いなくとも、該リン原子含有化合物(i)とフェノール化合物(a3)中の反応が円滑に進行する。このような特長がより顕著に現れることから、前記芳香族アルデヒド(a1)が有するアルコキシ基は、メトキシ基又はエトキシ基であることが好ましく、また、芳香族アルデヒドとしてはベンズアルデヒド、ナフトアルデヒドが好ましい
【0026】
前記芳香族アルデヒド(a1)と反応させるP−H基又はP−OH基を分子構造中に有する有機リン化合物(a2)は、具体的には、下記構造式(a2−1)又は構造式(a2−2)
【0028】
[上記構造式(a2−1)又は構造式(a2−2)中、Xaは水素原子又は水酸基であり、R
1、R
2、R
3、R
4はそれぞれ独立的に、水素原子、炭素原子数1〜5のアルキル基、塩素原子、臭素原子、フェニル基、アラルキル基を表す。]
で表される化合物が挙げられる。ここで、R
1、R
2、R
3、R
4を構成する炭素原子数1〜5のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、t−ブチル基、n−ペンチル基が挙げられる。
【0029】
本発明では、得られるリン原子含有化合物(i)のフェノール化合物(a3)との反応性が極めて良好なものとなることから、前記構造式(a2−1)又は構造式(a2−2)におけるXaが水素原子であるものが好ましく、特に、得られるビニルエステル化合物の硬化物が難燃性に優れるものとなることから、前記構造式(a2−1)で表される有機リン化合物が好ましい。とりわけ、構造式(a2−1)においてR
1、R
2、R
3、R
4の全てが水素原子であって、かつ、Xaが水素原子である、9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキシドであることが、得られるリン原子含有化合物(i)とフェノール化合物(a3)との反応性が高くなり、また、最終的に得られるビニルエステル化合物の難燃性及び耐熱性が極めて良好なものとなることから好ましい。
【0030】
ここで、前記芳香族アルデヒド(a1)と、前記有機リン化合物(a2)との反応は、例えば、80〜180℃の温度条件下、無触媒で行うことができる。この際、アルコール系有機溶媒、炭化水素系有機溶媒などの非ケトン系有機溶媒を用いても良い。
【0031】
このような方法で得られるリン原子含有化合物(i)は、例えば、前記芳香族アルデヒド(a1)として構造式(a1−1)で表される化合物を用い、かつ、前記有機リン化合物(a2)として構造式(a2−1)又は構造式(a2−2)で表される化合物を用いた場合、具体的には、下記構造式x1〜x4
【0033】
(上記構造式x1〜x4中、R
1、R
2、R
3、R
4は、それぞれ独立的に、水素原子、炭素原子数1〜5のアルキル基、塩素原子、臭素原子、フェニル基、アラルキル基を表し、R
5は水素原子又は炭素原子数1〜5のアルキル基を表し、Rは炭素原子1〜4のアルキル基を表し、nは1〜3の整数である。)
のいずれか一つで表されるものが挙げられる。
【0034】
これらの中でも、特にフェノール化合物(a3)との反応性に優れることから、前記構造式x1又はx2で表される化合物が好ましく、特に、最終的に得られるビニルエステル化合物が難燃性に優れるものとなることから、前記構造式x1で表される化合物が好ましい。
【0035】
次に、本発明で用いるフェノール化合物(a3)はフェノール、クレゾール、キシレノール、エチルフェノール、イソプロピルフェノール、t−ブチルフェノール、オクチルフェノール、ノニルフェノール、ビニルフェノール、イソプロペニルフェノール、アリルフェノール、フェニルフェノール、ベンジルフェノール、クロルフェノール、ブロムフェノール、ナフトール等の1価フェノール;カテコール、レゾルシノール、ハイドロキノン、1,5−ジヒドロキシナフタレン、1,6−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレン等の2価フェノール;ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS等のビスフェノール;フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ビスフェノールAノボラック樹脂、ビスフェノールSノボラック樹脂、α−ナフトールノボラック樹脂、β−ナフトールノボラック樹脂、ジヒドロキシナフタレンノボラック樹脂、その他下記構造式(A3−a)
【0037】
(式中、Raは水素原子又は炭素原子数1〜6の炭化水素基を表し、laは繰り返し単位で0〜10の整数である。)
で表されるノボラック樹脂等のノボラック型フェノール樹脂;
【0038】
ジシクロペンタジエン、テトラヒドロインデン、4−ビニルシクロヘキセン、5−ビニルノルボナ−2−エン、α−ピネン、β−ピネン、及びリモネンからなる群から選択される脂肪族環状炭化水素基を介してフェノール類が結節された分子構造をもつフェノール樹脂;下記構造式(A3−b)
【0040】
(前記式中、Rbは水素原子又は炭素原子数1〜6の炭化水素基、lbは繰り返し単位で0〜10の整数である。)で表されるアラルキル型フェノール樹脂;
下記構造式(A3−c)、
【0042】
(前記式中、Rcは水素原子又は炭素原子数1〜6の炭化水素基、lcは繰り返し単位で0〜10の整数である。)で表されるアラルキル型フェノール樹脂;
下記構造式(A3−d)
【0044】
(前記式中、Rdは水素原子又は炭素原子数1〜6の炭化水素基、ldは繰り返し単位で0〜10の整数である。)で表されるアラルキル型フェノール樹脂;
下記構造式(A3−e)
【0046】
(前記式中、Reは水素原子又は炭素原子数1〜6の炭化水素基、leは繰り返し単位で0〜10の整数である。)で表されるアラルキル型フェノール樹脂;
下記構造式(A3−f)
【0048】
(前記式中、Reは水素原子又は炭素原子数1〜6の炭化水素基、lfは繰り返し単位で0〜10の整数である。)で表されるアラルキル型フェノール樹脂;
下記構造式(A3−g)
【0050】
(前記式中、Rgは水素原子又は炭素原子数1〜6の炭化水素基、lgは繰り返し単位で0〜10の整数である。)で表される化合物等のアラルキル型フェノール樹脂;
下記構造式(A3−h)
【0052】
(式中、Rhはそれぞれ独立的に水素原子、炭素原子数1〜4のアルキル基である。)
で表されるビフェノール;及び
【0055】
(式中、Riはそれぞれ独立的に水素原子、炭素原子数1〜4のアルキル基である。)
で表される多価ナフトール;
【0056】
フェノール性水酸基含有芳香族炭化水素基(Ph)、アルコキシ基含有縮合多環式芳香族炭化水素基(An)、並びに、メチレン基、アルキリデン基、及び芳香族炭化水素構造含有メチレン基から選択される2価の炭化水素基(M)(以下、これを単に「メチレン基等(M)」と略記する)の各構造単位をそれぞれ、「Ph」、「An」、「M」で表した場合、下記部分構造式(A3−j)
【0058】
であらわされる構造部位を分子構造内に含む多官能フェノール等が挙げられる。
【0059】
ここで、前記部分構造式A3−jで表される構造部位を分子構造内に含む多官能フェノールは、更に具体的には、下記構造式(A3−j2)及び(A3−j3)
【0062】
下記構造式(A3−j4)又は(A3−j5)
【0064】
で表される構造を繰り返し単位とするノボラック構造の分子末端に、下記構造式(A3−j6)
【0066】
で表される構造を有する構造、その他下記構造式(A3−j7)〜(A3−j10)
【0068】
で表される構造を繰り返し単位とする交互共重合体構造が挙げられる。
【0069】
ここで、前記フェノール性水酸基含有芳香族炭化水素基(Ph)は、様々な構造をとり得るものであり、具体的には、以下のPh1〜Ph16の構造式で表されるフェノール、ナフトール、及びこれらの芳香核上の置換基としてアルキル基を有する化合物から形成される芳香族炭化水素基であることが誘電性能に優れる点から好ましい。
【0071】
ここで、前記各構造は、該構造が分子末端に位置する場合には、1価の芳香族炭化水素基となる。また、上掲した構造のうちナフタレン骨格上に他の構造部位との結合位置を二つ以上有するものは、それらの結合位置は同一核上であってもよいし、或いは、それぞれ異核上にあってもよい。
【0072】
次に、フェノール樹脂構造中に含まれる前記アルコキシ基含有縮合多環式芳香族炭化水素基(An)は、縮合多環式芳香核上の置換基としてアルコキシ基を有する1価又は多価の芳香族炭化水素基であり、具体的には下記構造式An1〜An12で表されるアルコシキナフタレン型の構造が挙げられる。
【0074】
ここで、前記各構造は、該構造が分子末端に位置する場合には、1価の芳香族炭化水素基となる。また、上掲した構造のうちナフタレン骨格上に他の構造部位との結合位置を二つ以上有するものは、それらの結合位置は同一核上であってもよいし、或いは、それぞれ異核上にあってもよい。
【0075】
次に、前記した、メチレン基、アルキリデン基、及び芳香族炭化水素構造含有メチレン基から選択される2価の炭化水素基(M)は、例えば、メチレン基の他、アルキリデン基としては、エチリデン基、1,1−プロピリデン基、2,2−プロピリデン基、ジメチレン基、プロパン−1,1,3,3−テトライル基、n−ブタン−1,1,4,4−テトライル基、n−ペンタン−1,1,5,5−テトライル基が挙げられる。また、芳香族炭化水素構造含有メチレン基は、下記M1〜M8の構造のものが挙げられる。
【0077】
これらの中でも特に誘電効果に優れる点からメチレン基であることが好ましい。
【0078】
本発明では、これらの中でも特に2価フェノール、ノボラック型フェノール樹脂、アラルキル型フェノール樹脂が、得られるビニルエステル化合物が硬化性や有機溶剤への溶解性に優れるものとなることから好ましく、特に、ノボラック型フェノール樹脂が好ましい。この場合、ノボラック型フェノール樹脂の150℃における溶融粘度は0.5〜300dPa・sの範囲であることが、得られるビニルエステル樹脂をレジストインキ材料として用いた場合に、耐熱性及び耐マイグレーション性に優れることから好ましい。
【0079】
前記芳香族アルデヒド(a1)と前記有機リン化合物(a2)との反応生成物であるリン原子含有化合物(i)と、前記フェノール化合物(a3)との反応は、140〜200℃の温度条件下で行うことができる。本発明において、前記リン原子含有化合物(i)と前記フェノール化合物(a3)との反応は極めて反応性が高く、特に触媒を必要としないが、適宜用いても構わない。ここで使用し得る触媒としては、塩酸、硫酸、リン酸などの無機酸、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、シュウ酸などの有機酸、三弗化ホウ素、無水塩化アルミニウム、塩化亜鉛などのルイス酸などが挙げられる。その使用量は仕込み原料の総重量に対して、5.0質量%未満であることが好ましい。
【0080】
また、本発明では前記リン原子含有化合物(i)と前記フェノール化合物(a3)との反応割合は特に限定されることがなく、寧ろ、その良好な反応性ゆえ、目的とする難燃性や耐熱性の性能レベル、或いは、用途に応じて任意に前記フェノール化合物(a3)に対するリン原子含有化合物(i)の変性量をコントロールすることができる。但し、前記リン原子含有化合物(i)が反応生成物中に残存しないような割合、具体的には、フェノール化合物(a3)の芳香核上の反応点に対して、当量以下となる割合で反応させることが好ましい。更に、前記フェノール化合物(a3)として好ましく用いられるノボラック型フェノール樹脂と前記リン原子含有化合物(i)とを反応させる場合、リン原子の含有率が質量基準で4.0〜7.0質量%となる割合となる範囲であることが、耐熱性及び難燃性に優れる酸基含有ビニルエステル樹脂となることから好ましい。
【0081】
前記リン原子含有化合物(i)と前記フェノール化合物(a3)との反応後は、必要により、脱水・乾燥して目的物を得ることができる。この様にして得られるリン原子含有フェノール化合物(A1)には、未反応成分である前記リン原子含有化合物(i)が実質的に殆ど残存することがない。例えば、ノボラック型フェノール樹脂と前記リン原子含有化合物(i)とを反応させ、リン原子の含有率を質量基準で4.0〜7.0質量%の範囲に調節した場合、前記リン原子含有化合物(i)の残存量は、リン原子含有フェノール樹脂(A1)中GPCでの検出限界以下となる。
【0082】
このようにして得られるリン原子含有フェノール化合物(A1)の分子構造は、前記した各原料成分の選択により任意に設計することが可能であるが、具体的には、前記フェノール化合物(a3)の芳香核上の置換基として、下記構造式z1〜z4
【0084】
(上記構造式z1〜z4中、R
1、R
2、R
3、R
4は、それぞれ独立的に、水素原子、炭素原子数1〜5のアルキル基、塩素原子、臭素原子、フェニル基、アラルキル基を表し、R
5は水素原子又は炭素原子数1〜5のアルキル基を表し、Rは炭素原子1〜4のアルキル基を表し、nは芳香核上の置換基ORの数であり1〜3である。)
で表される部分構造からなる群から選択される構造部位を有するフェノール化合物となる。
【0085】
次に、リン原子含有フェノール化合物(A1)と反応させるアルキレンオキサイド又はアルキレンカーボネート(A2)は、それぞれ炭素原子数2〜5のアルキレン基を有するものであれば良く、例えば、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、ペンチレンオキサイド等のアルキレンオキサイドや、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ペンチレンカーボネート等のアルキレンカーボネートが挙げられる。これらはそれぞれ単独で用いても良いし、2種類以上を併用しても良い。
【0086】
前記アルキレンオキサイド又はアルキレンカーボネート(A2)の中でも、得られる酸基含有ビニルエステル化合物がより低粘度のものとなることから、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、エチレンカーボネート、又はプロピレンカーボネートが好ましい。また、得られる酸基含有ビニルエステル化合物が耐マイグレーション性により優れるものとなることから、エチレンカーボネート又はプロピレンカーボネートが特に好ましい。
【0087】
前記(A2)成分としてアルキレンオキサイドを用いる場合、前記リン原子含有フェノール化合物(A1)との反応は、アルカリ触媒の存在下、100〜200℃の温度条件下で前記アルキレンオキサイドを重付加反応させる方法が挙げられる。
【0088】
一方、前記(A2)成分としてアルキレンカーボネートを用いる場合、前記リン原子含有フェノール化合物(A1)との反応は、アルカリ触媒又は酸触媒の存在下、80〜200℃の温度条件で反応させる方法が挙げられる。中でも、反応の進行が速く、不純物を低減できることからアルカリ触媒を用いることが好ましい。アルカリ触媒の具体例としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化バリウム、酸化マグネシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、トリフェニルホスフィン等が挙げられるが、中でも水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、トリフェニルホスフィン等が好ましい。触媒の使用割合は前記リン原子含有フェノール化合物(A1)が含有する水酸基1当量に対して触媒が0.001〜0.1当量となる割合で用いることが好ましい。また、反応温度は、反応が良好に進行し、不純物が少なくなることから、特に100〜180℃の範囲であることがより好ましい。
【0089】
また、前記リン原子含有フェノール化合物(A1)と、前記アルキレンオキサイド又はアルキレンカーボネート(A2)との反応は無溶剤条件下でも進行するが、溶剤使用する場合は反応を阻害するアルコール系溶剤以外の有機溶剤、例えば、トルエン、キシレン、ジ−tert−ブチルヒドロキシトルエンを用いることが好ましい。
【0090】
前記リン原子含有フェノール化合物(A1)と、前記アルキレンオキサイド又はアルキレンカーボネート(A2)との反応において、これらの反応割合は特に制限されるものではないが、得られるビニルエステル化合物が光感度や現像性に優れるものとなることから、前記リン原子含有フェノール化合物(A1)が含有するフェノール性水酸基1モルに対し、前記アルキレンオキサイド又はアルキレンカーボネート(A2)が1〜3モルとなる割合であることが好ましく、実質的に1モルとなる割合であることが特に好ましい。
【0091】
上記反応により、前記リン原子含有フェノール化合物(A1)のフェノール水酸基がアルコール性水酸基へ変性され、リン原子含有アルコール化合物(I)が得られる。次いで、該リン原子含有アルコール化合物(I)の水酸基の一部乃至全部を、不飽和基含有一塩基酸(α)とエステル結合を形成するように反応させることにより、本願発明の目的物である酸基含有ビニルエステル化合物を得ることが出来る。
【0092】
ここで用いる不飽和基含有一塩基酸(α)は、例えば、(メタ)アクリル酸(α1)、或いは、1分子内に2つ以上のエステル結合を有し、かつ、分子片末端にカルボキシル基を有する不飽和化合物(α2)が挙げられる。これらのうち、得られる酸基含有ビニルエステル化合物のラジカル重合性不飽和二重結合濃度が高くなることにより、感度が良好となる点から、(メタ)アクリル酸が好ましい。
【0093】
前記リン原子含有アルコール化合物(I)を、不飽和基含有一塩基酸(α)と反応させる際、これらの反応比率は、最終的に得られるビニルエステル化合物が感光性に優れるものとなることから、前記リン原子含有アルコール化合物(I)が含有する水酸基1当量に対し、前記不飽和基含有一塩基酸(α)が0.5〜1当量となる割合で反応させることが好ましく、0.8〜1当量となる割合で反応させることがより好ましい。
【0094】
本発明のビニルエステル化合物は、感光性のビニル基に加え、更に、酸基を有するものであっても良く、このような化合物はアルカリ現像が可能であることから、例えば、レジストインキ用などに好適に用いることが出来る。
【0095】
このような酸基含有ビニルエステル化合物は、例えば、アルコキシ基を芳香核上の置換基として有する芳香族アルデヒド(a1)と、P−H基又はP−OH基を分子構造中に有する有機リン化合物(a2)とを反応させて得られるリン原子含有化合物(i)を、更に、フェノール化合物(a3)と反応させてリン原子含有フェノール化合物(A1)を得、次いで、得られたリン原子含有フェノール化合物(A1)と、アルキレンオキサイド又はアルキレンカーボネート(A2)とを反応させてリン原子含有アルコール化合物(I)を得た後、前記リン原子含有アルコール化合物(I)が有する水酸基の一部を不飽和基含有一塩基酸(α)とエステル結合を形成するように反応させ、かつ、前記リン原子含有アルコール化合物(I)が有する他の水酸基の一部乃至全部を多塩基酸無水物(β)とエステル結合を形成するように反応させることにより得ることが出来る。
【0096】
前記不飽和化合物(α2)は、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,2−エタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール等の脂肪族ジオールと、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸等の脂肪族ジカルボン酸とを反応させて得られる脂肪族ポリエステルポリオールに、コハク酸無水物、マレイン酸無水物、テトラヒドロフタル酸無水物などの二塩基酸無水物を反応させてハーフエステルを得、これを(メタ)アクリル酸と反応させた化合物や、下記構造式(α2−1)
【0097】
【化24】
(式中、Mは水素原子又はメチル基、R’は炭素原子数2〜6の炭化水素基を表し、lは1〜6の整数を表す。)
で表される化合物が挙げられる。前記一般式(α2−1)で表される化合物としては、(メタ)アクリル酸にε−カプロラクトンを反応させ分子伸長したポリラクトン(メタ)アクリレートや、(メタ)アクリル酸ダイマーが挙げられる。
【0098】
これら不飽和化合物(α2)の中でも、特にアルカリ現像性が良好である点から前記構造式(α2−1)で表される化合物が好ましく、特に、構造式(α2−1)中、nが1乃至6である場合には、硬化物に十分な柔軟性が付与され、近年、需要が伸びているフレキシブル基板へ適用することが可能となる。
【0099】
また、構造式(α2−1)で表され、かつ、該構造式(α2−1)中nが1乃至6である化合物は、(メタ)アクリル酸(α1)と併用することが好ましく、この際、前者:後者のモル比が20:80〜99:1となる範囲であることが、最終的に得られる酸基含有ビニルエステル化合物をレジストインキとして用いる場合の感度、現像性、及び予備乾燥時の乾燥性とのバランスに優れる点から好ましい。
【0100】
次に、本発明で用いる多塩基酸無水物(β)は、例えば無水マレイン酸、無水コハク酸、無水イタコン酸、ドデシル無水コハク酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、3−メチルテトラヒドロ無水フタル酸、4−メチルテトラヒドロ無水フタル酸、3−メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、4−メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、3,4−ジメチルテトラヒドロ無水フタル酸、4−(4−メチル−3−ペンテニル)テトラヒドロ無水フタル酸、3−ブテニル−5,6−ジメチルテトラヒドロ無水フタル酸、3,6−エンドメチレン−テトラヒドロ無水フタル酸、7−メチル−3,6−エンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物等の脂肪族酸無水類;無水フタル酸、テトラクロロ無水フタル酸、テトラブロモ無水フタル酸、無水クロレンド酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物等の芳香物酸無水物が挙げられる。
【0101】
これらの中でも、得られる酸基含有ビニルエステル化合物の溶剤溶解性が良好となる点から、テトラヒドロ無水フタル酸又はヘキサヒドロ無水フタル酸が好ましい。
【0102】
前記リン原子含有アルコール化合物(I)と不飽和基含有一塩基酸(α)及び多塩基酸無水物(β)とを反応させる際、これらの反応比率は、最終的に得られる酸基含有ビニルエステル化合物をレジストインキとして用いる場合の感度、現像性、及び予備乾燥時の乾燥性とのバランスに優れることから、前記リン原子含有アルコール化合物(I)が含有する水酸基1当量に対し、前記不飽和基含有一塩基酸(α)と前記多塩基酸無水物(β)とのモル数の和が0.5〜1当量となる割合で反応させることが好ましく、0.8〜1当量となる割合で反応させることがより好ましい。
【0103】
また、前記不飽和基含有一塩基酸(α)と前記多塩基酸無水物(β)とのモル数の比[(nα)/(nβ)]は、最終的に得られる酸基含有ビニルエステル化合物をレジストインキとして用いる場合の感度、現像性、及び予備乾燥時の乾燥性とのバランスに優れることから、10/90〜90/10の範囲であることが好ましく、35/65〜55/45の範囲であることがより好ましい。
【0104】
前記リン原子含有アルコール化合物(I)と不飽和基含有一塩基酸(α)及び多塩基酸無水物(β)とを反応させる際は、効率的かつ簡便な製造が可能となることから、不飽和基含有一塩基酸(α)との反応を先に行うことが好ましい。即ち、本発明においては、まず、前記リン原子含有アルコール化合物(I)と前記不飽和基含有一塩基酸(α)とを反応させ、次いで、該反応の生成物と前記多塩基酸無水物(β)とを反応さることが好ましい。
【0105】
前記リン原子含有アルコール化合物(I)と、前記不飽和基含有一塩基酸(α)との反応は、例えば、トルエン、ベンゼン、シクロヘキサン、n−ヘキサン、n−ヘプタン等の有機溶剤中で酸触媒下に脱水反応を行うことにより行うことができる。ここで用いる酸触媒としては、例えば、硫酸、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸等が挙げられる。また、反応中、重合を防止するために重合禁止剤(例えば、ハイドロキノン、p−メトキシフェノール、メチルハイドロキノン等)を使用することが好ましい。このときの反応温度は60〜120℃が好ましく、反応時間は3〜20時間であることが好ましい。
【0106】
次いで、前記リン原子含有アルコール化合物(I)と前記不飽和基含有一塩基酸(α)との反応生成物を水洗し、有機溶剤で置換した後、該樹脂溶液に前記多塩基酸無水物(β)を加えて反応させることにより、目的とする酸基含有ビニルエステル化合物を製造することができる。
【0107】
前記多塩基酸無水物(β)との反応は、50〜130℃の範囲、より好ましくは70〜120℃の範囲で行うことが反応制御の点から好ましい。また、反応触媒はアルカリ触媒であることが好ましく、ここで用いるアルカリ触媒は例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化バリウム、酸化マグネシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、トリフェニルホスフィン等が挙げられるが、中でも水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、トリフェニルホスフィン等が好ましい。
【0108】
このようにして得られるビニルエステル化合物の分子構造は、前記した各原料成分の選択により任意に設計することが可能であるが、具体的には、前記フェノール化合物(a3)の芳香核上の置換基として、下記構造式z1〜z4
【0110】
(上記構造式z1〜z4中、R
1、R
2、R
3、R
4は、それぞれ独立的に、水素原子、炭素原子数1〜5のアルキル基、塩素原子、臭素原子、フェニル基、アラルキル基を表し、R
5は水素原子又は炭素原子数1〜5のアルキル基を表し、Rは炭素原子1〜4のアルキル基を表し、nは芳香核上の置換基ORの数であり1〜3である。)
で表される部分構造からなる群から選択される構造部位を有し、そのフェノール性水酸基の一部乃至全部が、下記構造式(α)
【0111】
【化26】
(式中、Aは炭素原子数2〜5の直鎖又は分岐アルキレン基であり、R’は炭素原子数2〜6の炭化水素基を表し、Mは水素原子又はメチル基であり、mは繰り返し単位数であってそれぞれ1〜10の整数であり、lは繰り返し単位数であってそれぞれ0〜6の整数である。)
で置換された樹脂構造を有する酸基含有ビニルエステル化合物や、前記フェノール化合物(a3)の芳香核上の置換基として、下記構造式z1〜z4
【0113】
(上記構造式z1〜z4中、R
1、R
2、R
3、R
4は、それぞれ独立的に、水素原子、炭素原子数1〜5のアルキル基、塩素原子、臭素原子、フェニル基、アラルキル基を表し、R
5は水素原子又は炭素原子数1〜5のアルキル基を表し、Rは炭素原子1〜4のアルキル基を表し、nは芳香核上の置換基ORの数であり1〜3である。)
で表される部分構造からなる群から選択される構造部位を有し、そのフェノール性水酸基の一部が、下記構造式(α)
【0114】
【化28】
(式中、Aは炭素原子数2〜5の直鎖又は分岐アルキレン基であり、R’は炭素原子数2〜6の炭化水素基を表し、Mは水素原子又はメチル基であり、mは繰り返し単位数であってそれぞれ1〜10の整数であり、lは繰り返し単位数であってそれぞれ0〜6の整数である。)
で置換されており、かつ、他のフェノール性水酸基の一部乃至全部が、下記構造式(β)
【0115】
【化29】
(式中、Aは炭素原子数2〜5の直鎖又は分岐アルキレン基であり、R”は炭素原子数2〜10の直鎖、分岐、又は環状構造を含むアルキレン基であり、nは繰り返し単位数であってそれぞれ1〜10の整数である。)
で置換された樹脂構造を有する酸基含有ビニルエステル化合物となる。
【0116】
前記ビニルエステル化合物の二重結合当量は、光感度や現像性に優れるものとなることから、250〜2000g/eqの範囲であることが好ましく、500〜1500g/eqの範囲であることがより好ましく、600〜1000g/eqの範囲であることが特に好ましい。
【0117】
また、前記ビニルエステル化合物が酸基を含有する場合、その固形分酸価は、現像性に優れるものとなることから、30〜150mgKOH/gの範囲であることが好ましく、50〜100mgKOH/gの範囲であることがより好ましい。
【0118】
前記ビニルエステル化合物が芳香核上の置換基として有する前記構造式z1〜z4について、特に難燃性に優れる樹脂となることから、前記構造式z1又はz2で表されるものが好ましく、前記構造式z1で表されるものが特に好ましい。
【0119】
前記ビニルエステル化合物が有する前記構造式(α)で表される構造部位において、耐マイグレーション性に優れる硬化物が得られることから、Aはエチレン基又はプロピレン基であることが好ましい。また、光感度や現像性に優れるものとなることから、mはその平均値が1であることが好ましい。更に、ラジカル重合性不飽和二重結合濃度が高くなり感度が良好となることから、lは0であることが好ましい。
【0120】
また、前記ビニルエステル化合物が有する前記構造式(β)で表される構造部位において、耐マイグレーション性に優れるものとなることから、Aはエチレン基又はプロピレン基であることが好ましい。また、光感度や現像性に優れるものとなることから、nはその平均値が1であることが好ましい。更に、溶剤溶解性に優れるものとなることから、R”は環状構造を含むアルキレン基であることが好ましい。
【0121】
本発明のビニルエステル化合物は、レジストインキとして用いる場合の感度、現像性、及び予備乾燥時の乾燥性とのバランスに優れることから、全フェノール性水酸基のうち、50〜100モル%が前記構造式(α)又は前記構造式(β)で置換されていることが好ましく、80〜100モル%が置換されていることがより好ましい。
【0122】
また、本発明ビニルエステル化合物は、レジストインキとして用いる場合の感度、現像性、及び予備乾燥時の乾燥性とのバランスに優れることから、前記構造式(α)で表される構造部位と前記構造式(β)で表される構造部位との存在比率が、10/90〜90/10の範囲であることが好ましく、35/65〜55/45の範囲であることがより好ましい。
【0123】
また、本発明のニルエステル化合物のより具体的な例として、前記フェノール化合物(a3)がノボラック型フェノール樹脂である場合には、ノボラック型フェノール樹脂構造を有し、その芳香核上の置換基として、下記構造式z1〜z4
【0124】
【化30】
(上記構造式z1〜z4中、R
1、R
2、R
3、R
4は、それぞれ独立的に、水素原子、炭素原子数1〜5のアルキル基、塩素原子、臭素原子、フェニル基、アラルキル基を表し、R
5は水素原子又は炭素原子数1〜5のアルキル基を表し、Rは炭素原子1〜4のアルキル基を表し、nは芳香核上の置換基ORの数であり1〜3である。)
で表される部分構造からなる群から選択される構造部位を有し、
フェノール性水酸基の一部乃至全部が、下記構造式(α)
【0125】
【化31】
(式中、Aは炭素原子数2〜5の直鎖又は分岐アルキレン基であり、Mは水素原子又はメチル基であり、mは繰り返し単位数であってそれぞれ1〜10の整数であり、lは繰り返し単位数であってそれぞれ0〜6の整数である。)
で置換された樹脂構造を有するビニルエステル樹脂、又は、ノボラック型フェノール樹脂構造を有し、その芳香核上の置換基として、下記構造式z1〜z4
【0126】
【化32】
(上記構造式z1〜z4中、R
1、R
2、R
3、R
4は、それぞれ独立的に、水素原子、炭素原子数1〜5のアルキル基、塩素原子、臭素原子、フェニル基、アラルキル基を表し、R
5は水素原子又は炭素原子数1〜5のアルキル基を表し、Rは炭素原子1〜4のアルキル基を表し、nは芳香核上の置換基ORの数であり1〜3である。)
で表される部分構造からなる群から選択される構造部位を有し、
フェノール性水酸基の一部が、下記構造式(α)
【0127】
【化33】
(式中、Aは炭素原子数2〜5の直鎖又は分岐アルキレン基であり、Mは水素原子又はメチル基であり、mは繰り返し単位数であってそれぞれ1〜10の整数であり、lは繰り返し単位数であってそれぞれ0〜6の整数である。)
で置換されており、かつ、他のフェノール性水酸基の一部乃至全部が、下記構造式(β)
【0128】
【化34】
(式中、Aは炭素原子数2〜5の直鎖又は分岐アルキレン基であり、R”は炭素原子数2〜10の直鎖、分岐、又は環状構造を含むアルキレン基であり、nは繰り返し単位数であってそれぞれ1〜10の整数である。)
で置換された樹脂構造を有する酸基含有ビニルエステル樹脂となる。
【0129】
次に、本発明の感光性樹脂組成物は、酸基含有ビニルエステル化合物(A)、光重合開始剤(B)、及びエポキシ樹脂(C)を必須成分とする感光性樹脂組成物であって、酸基含有ビニルエステル化合物(A)として、前記本発明の酸基含有ビニルエステル化合物を用いるものである。
【0130】
本発明で用いる光重合開始剤(B)は、例えば、アセトフェノン、2,2−ジエトキシ−2−フェニルアセトフェノン、p−ジメチルアミノプロピオフェノン、シクロロアセトフェノン、2−メチル−1−〔4−(メチルチオ)フェニル〕−2−モルホリノプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)−ブタノン−1等のアセトフェノン類;ベンゾフェノン、2−クロロベンゾフェノン、p,p−ビスジエチルアミノベンゾフェノン、p,p−ビスジエチルアミノベンゾフェノン、4−ベンゾイル−4’−メチルジフェニルサルファイド等のベンゾフェノン類;ベンジル、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル等のベンゾインエーテル類;ベンジルジメチルケタール等のケタール類;チオキサントン、2−クロロチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン等のチオキサントン類;アントラキノン、2,4,5−トリアリールイミダゾール二量体、2,4,6−トリス−S−トリアジン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド等が挙げられる。これらのなかでも、重合開始能が高いことから、2−メチル−1−〔4−(メチルチオ)フェニル〕−2−モルホリノプロパン−1−オンや2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)−ブタノン−1が好ましい。これらの光重合開始剤(B)は、単独又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0131】
前記光重合開始剤(B)の配合量は、酸基含有ビニルエステル化合物(A)100質量部に対して、通常0.5〜50質量部の範囲であることが好ましい。即ち、0.5質量部以上においては、酸基含有ビニルエステル化合物(A)の光硬化反応が良好に進行し、また、50質量部以下では硬化物の機械物性が良好なものとなる。光に対する感度、硬化物の機械物性などに優れる点から、光重合開始剤(B)のより好ましい配合量としては酸基含有ビニルエステル化合物(A)100質量部に対して、2〜30質量部の範囲である。
【0132】
また、本発明で用いるエポキシ樹脂(C)は、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールFノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールSノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、レゾルシン・クレゾール共縮合ノボラック型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、トリスフェノールメタン型エポキシ樹脂、ゴム変性エポキシ樹脂、トリス(2,3−エポキシプロピル)イソシアヌレート、ジフェニルジグリシジルエーテル、テトラメチルジフェニルジグリシジルエーテル、オキサゾリドン環を含有するエポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン等の不飽和脂環式化合物とフェノール類との重付加反応物のポリグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0133】
これらの中でも、レジストインキとして用いた際の熱管理幅が広く、熱硬化後の硬化物の耐熱性等に優れる面からクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、レゾルシン・クレゾール共縮合ノボラック型エポキシ樹脂、オキサゾリドン環を含有するエポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン等の不飽和脂環式化合物とフェノール類との重付加反応物のポリグリシジルエーテルが好ましく、レジストインキとして用いた際の光感度、反応性に優れる面からはビスフェノールA型エポキシ樹脂やトリス(2,3−エポキシプロピル)イソシアヌレートを用いることが好ましい。これらの樹脂は用途に合わせて単独又は2種以上を組み合わせて使用可能である。
【0134】
前記オキサゾリドン環を含有するエポキシ樹脂は特に制限はないが、例えば、多官能型エポキシ樹脂と芳香族モノイソシアネートとを反応させて得られるエポキシ樹脂等が挙げられる。
【0135】
また、本発明では、更に、硬化促進剤を使用することが好ましい。硬化促進剤としては、例えば、メラミン及びその誘導体、イミダゾール及びその誘導体、ジシアンジアミド、フェノール及びその誘導体などの種々のエポキシ樹脂用硬化促進剤等が挙げられる。
【0136】
エポキシ樹脂(C)の配合量は、前記酸基含有ビニルエステル化合物(A)100質量部に対して5〜40質量部が好ましい。即ち、5質量部以上用いることにより、最終的に得られる硬化物の耐熱性、耐溶剤性、耐酸性、密着性等の諸物性に優れたものとなる他、絶縁抵抗等の電気特性に十分な性能が得られ、一方、40質量部以下とすることにより、光に対する感度に優れ、レジストインキとして用いた際の感光性、現像性に優れたものとなる。
【0137】
本発明の感光性樹脂組成物には、特にレジストインキ用樹脂組成物として用いる際には、上記各成分に加え、希釈剤(D)を配合することが好ましい。
【0138】
前記希釈剤(D)は、特に限定されるものではないが、例えば、エチルメチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン;トルエン、キシレン、テトラメチルベンゼン等の芳香族炭化水素;メチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、メチルカルビトール、ブチルカルビトール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル等のグリコールエーテル;酢酸エチル、酢酸ブチル、ブチルセロソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のエステル;エタノール、プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール等のアルコール;オクタン、デカン等の脂肪族炭化水素;石油エーテル、石油ナフサ、水添石油ナフサ、ソルベントナフサ等の石油系溶剤等の有機溶剤や、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカプロラクタム、アクリロイルモルホリン、メトキシテトラエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアクリルアミド、メラミン(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、グリセリンジグリシジルエーテルジ(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ヘキサンジオール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール、トリス−ヒドロキシエチルイソシアヌレート等の多価アルコール、又はこれらのエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド付加物の多価(メタ)アクリレート等の光重合性反応性希釈剤等を挙げることができる。これらの中でもレジストインキとして用いた際の予備乾燥後の平滑性が良好となる点からエステルの単独使用、エステルと石油系溶剤との併用物が好ましく、これらと光重合性反応性希釈剤の併用物が更に好ましい。前記エステルの中でもプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテートを用いることが好ましい。
【0139】
希釈剤(D)は単独又は2種以上の混合物として用いられ、その配合量としては、酸基含有ビニルエステル化合物(A)100質量部当り、30〜300質量部であることが好ましく、特に50〜200質量部であることが好ましい。
【0140】
本発明の感光性樹脂組成物をレジストインキ用樹脂組成物とするためには、前記酸基含有ビニルエステル化合物(A)、光重合開始剤(B)、エポキシ樹脂(C)、及び希釈剤(D)を混合し、3本ロールや自転公転型撹拌機等の手段により均一に混合させることにより得られる。
【0141】
ここで、酸基含有ビニルエステル化合物(A)の配合量としては、特に制限されるものではないが、レジストインキの光感度、予備乾燥後の乾燥性の改善効果が良好なものとなり、更に熱硬化後に得られる塗膜の耐熱性、耐溶剤性に優れる点からレジストインキ用樹脂組成物中10〜70質量%であることが好ましく、特に30〜60質量%となる範囲であることが好ましい。
【0142】
本発明の感光性樹脂組成物には、その用途に応じて顔料、充填剤、添加剤等が使用できる。具体的には、キナクリドン系、アゾ系、フタロシアニン系等の有機顔料;酸化チタン、金属箔状顔料、防錆顔料等の無機顔料;硫酸バリウム、炭酸カルシウム、球状溶融シリカ、破砕状溶融シリカ、結晶シリカ、アルミナ、窒化珪素、水酸化アルミ、カーボンブラック、タルク、クレー等の充填剤;ヒンダードアミン系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系等の紫外線吸収剤;ヒンダードフェノール系、リン系、イオウ系、ヒドラジド系等の酸化防止剤;シラン系、チタン系等のカップリング剤;フッ素系界面活性剤等のレベリング剤;アエロジル等のレオロジーコントロール剤;顔料分散剤:ハジキ防止剤;消泡剤等の添加剤等が挙げられる。また必要に応じてガラス繊維、ガラス布、炭素繊維等の強化材を含有させることができる。また必要に応じて難燃付与剤も添加できる。この難燃付与剤としては種々のものが使用できるが、例えば、デカブロモジフェニルエーテル、テトラブロモビスフェノールAなどのハロゲン化合物;赤リンや各種燐酸エステル化合物などの燐原子含有化合物;メラミン或いはその誘導体などの窒素原子含有化合物;水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、硼酸亜鉛、硼酸カルシウムなどの無機系難燃化合物が例示できる。
【0143】
このようにして得られた感光性樹脂組成物は、紫外線などの光を照射することによって、硬化物を得ることが出来る。特にレジストインキ用樹脂組成物として用いる場合には、例えば、スクリーン印刷、カーテンコート法、ロールコート法、スピンコート法、ディップコート法等によりプリント基板上に10〜150μm(液膜厚)の厚さに塗布した後、60〜90℃で15〜90分予備乾燥し有機溶剤等の揮発分を揮発させ(塗布と予備乾燥工程を複数回繰り返して積層させる場合もある)、その乾燥塗膜に所望のマスクパターンのネガフィルムを密着させ、その上から紫外線を照射し露光を行い(或いはレーザー光などを用いて直接パターンを露光しても良く、この場合はマスクパターンは必要としない。)、その後希アルカリ水溶液を現像液として現像することにより非露光領域の塗膜は除去され、露光部分の塗膜は光硬化しているので除去されず残留することにより、パターンを形成させることが出来る。この際の希アルカリ水溶液としては、0.5〜5質量%の炭酸ナトリウム水溶液や水酸化ナトリウム水溶液が一般的であるが、他のアルカリ溶液も使用可能である。次いで、130〜160℃で20〜90分熱風乾燥機等で熱硬化させることにより、電気特性、耐マイグレーション性、耐熱性、耐溶剤性等に優れた硬化塗膜を得ることが出来る。
【0144】
本発明の感光性樹脂組成物は、例えばプリント配線板等の回路基板のソルダーレジストインキ用樹脂組成物、層間絶縁層、液晶カラーフィルタ用のレジスト材料、例えばオーバーコート、液晶用スペーサー、カラーフィルタ用顔料レジスト、ブラックマトリクス用レジスト等に好ましく使用される。
【実施例】
【0145】
次に本発明を実施例、比較例により具体的に説明するが、以下において「部」及び「%」は特に断わりのない限り質量基準である。尚、180℃における溶融粘度及び軟化点測定、GPC測定、
13C−NMR、FD−MSスペクトルは以下の条件にて測定した。
【0146】
1)180℃における溶融粘度:ASTM D4287に準拠した。
【0147】
2)軟化点測定法:JIS K7234に準拠した。
【0148】
製造例1 フェノール樹脂(A1−1)の製造
温度計、冷却管、分留管、撹拌器を取り付けたフラスコに、9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキシド以下、「HCA」と略記する)を124g(0.59モル)、p−アニスアルデヒド78.7g(0.59モル)、フェノールノボラック樹脂161.2g(1.55モル)を仕込み、90℃の温度条件下、窒素を吹き込みながら撹拌した。その後、140℃に昇温して4時間攪拌した後、160℃に昇温して4時間、更に180℃に加熱して2時間撹拌した。その後、水を加熱減圧下で除去し、下記構造単位A及び構造単位B
【0149】
【化35】
【0150】
を繰り返し単位とするリン原子含有フェノール樹脂(A1−1)を350g得た。得られたリン原子含有フェノール樹脂(A1−1)の水酸基当量は228g/eq.、軟化点148℃、180℃での溶融粘度は400dPa・sであった。
【0151】
製造実施例1 酸基含有ビニルエステル樹脂(A−1)の製造
温度計、冷却管、分留管、窒素ガス導入管、撹拌器を取り付けたフラスコに、窒素を吹き込みつつエチレンカーボネート88g(1.0モル)とリン原子含有フェノール樹脂(A−1)228g(1.0モル)とトリフェニルホスフィン0.95gを仕込み、170℃で4時間反応を行った。反応中、エチレンカーボネートから脱離した二酸化炭素が発生するので随時系外に除去した。この反応溶液にトルエン609gとメチルハイドロキノン1.52g、及びアクリル酸32.4g(0.45モル)とパラトルエンスルホン酸13.5gを仕込み、80℃で7時間反応を行った。反応により生成した水はトルエンとの共縮混合物としてデカントにより分取し除去した。その後得られた樹脂溶液を水洗し、トルエンをジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート(EDGAC)125gにて溶剤置換しつつ留去した。さらに、この樹脂溶液中に、テトラヒドロ無水フタル酸80.6g(0.53モル)とトリフェニルホスフィン0.19gとジ−tert−ブチルヒドロキシトルエン1.92gを仕込み、110℃で4時間反応させ、酸基含有ビニルエステル樹脂(A−1)溶液を得た。得られた樹脂溶液の固形分は75%、固形分の二重結合当量は830g/eq.、固形分酸価は80.0mgKOH/g、固形分のリン含有量は2.7質量%であった。
【0152】
製造実施例2 酸基含有ビニルエステル樹脂(A−2)の製造
温度計、冷却管、分留管、窒素ガス導入管、撹拌器を取り付けたフラスコに、窒素を吹き込みつつエチレンカーボネート88g(1.0モル)とリン原子含有フェノール樹脂(A−1)228g(1.0モル)とトリフェニルホスフィン0.95gを仕込み、170℃で4時間反応を行った。反応中、エチレンカーボネートから脱離した二酸化炭素が発生するので随時系外に除去した。この反応溶液にトルエン621gとメチルハイドロキノン1.55g、及びメタクリル酸38.7g(0.45モル)とパラトルエンスルホン酸13.7gを仕込み、80℃で7時間反応を行った。反応により生成した水はトルエンとの共縮混合物としてデカントにより分取し除去した。その後得られた樹脂溶液を水洗し、トルエンをジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート(EDGAC)127gにて溶剤置換しつつ留去した。さらに、この樹脂溶液中に、テトラヒドロ無水フタル酸80.6g(0.53モル)とトリフェニルホスフィン0.20gとジ−tert−ブチルヒドロキシトルエン1.96gを仕込み、110℃で4時間反応させ、酸基含有ビニルエステル樹脂(A−2)の溶液を得た。得られた樹脂溶液の固形分は75%、固形分の二重結合当量は844g/eq.、固形分酸価は78.5mgKOH/g、固形分のリン含有量は2.7質量%であった。
【0153】
製造実施例3 酸基含有ビニルエステル樹脂(A−3)の製造
温度計、冷却管、分留管、窒素ガス導入管、撹拌器を取り付けたフラスコに、窒素を吹き込みつつプロピレンカーボネート102g(1.0モル)とリン原子含有フェノール樹脂(A−1)228g(1.0モル)とトリフェニルホスフィン0.99gを仕込み、170℃で4時間反応を行った。反応中、エチレンカーボネートから脱離した二酸化炭素が発生するので随時系外に除去した。この反応溶液にトルエン637gとメチルハイドロキノン1.59g、及びアクリル酸32.4g(0.45モル)とパラトルエンスルホン酸14.1gを仕込み、80℃で7時間反応を行った。反応により生成した水はトルエンとの共縮混合物としてデカントにより分取し除去した。その後得られた樹脂溶液を水洗し、トルエンをジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート(EDGAC)129gにて溶剤置換しつつ留去した。さらに、この樹脂溶液中に、テトラヒドロ無水フタル酸80.6g(0.53モル)とトリフェニルホスフィン0.20gとジ−tert−ブチルヒドロキシトルエン1.99gを仕込み、110℃で4時間反応させ、酸基含有ビニルエステル樹脂(A−3)の溶液を得た。得られた樹脂溶液の固形分は75%、固形分の二重結合当量は861g/eq.、固形分酸価は76.9mgKOH/g、固形分のリン含有量は2.6質量%であった。
【0154】
製造実施例4 酸基含有ビニルエステル樹脂(A−4)の製造
温度計、冷却管、分留管、窒素ガス導入管、撹拌器を取り付けたフラスコに、窒素を吹き込みつつプロピレンカーボネート102g(1.0モル)とリン原子含有フェノール樹脂(A−1)228g(1.0モル)とトリフェニルホスフィン0.99gを仕込み、170℃で4時間反応を行った。反応中、エチレンカーボネートから脱離した二酸化炭素が発生するので随時系外に除去した。この反応溶液にトルエン649gとメチルハイドロキノン1.62g、及びメタクリル酸38.7g(0.45モル)とパラトルエンスルホン酸14.3gを仕込み、80℃で7時間反応を行った。反応により生成した水はトルエンとの共縮混合物としてデカントにより分取し除去した。その後得られた樹脂溶液を水洗し、トルエンをジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート(EDGAC)131gにて溶剤置換しつつ留去した。さらに、この樹脂溶液中に、テトラヒドロ無水フタル酸80.6g(0.53モル)とトリフェニルホスフィン0.20gとジ−tert−ブチルヒドロキシトルエン2.03gを仕込み、110℃で4時間反応させ、酸基含有ビニルエステル樹脂(A−4)溶液を得た。得られた樹脂溶液の固形分は75%、固形分の二重結合当量は875g/eq.、固形分酸価は75.8mgKOH/g、固形分のリン含有量は2.5質量%であった。
【0155】
合成比較例1 酸基含有ビニルエステル樹脂(A’−1)の製造
温度計、冷却管、分留管、窒素ガス導入管、撹拌器を取り付けたフラスコに、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート(EDGAC)94.5g、ビスフェノールF型エポキシ樹脂250g、ノボラック型エポキシ樹脂600g、9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイド150gを反応させて、エポキシ当量362g/eq.のリン含有エポキシ樹脂を得た。このエポキシ樹脂315gにアクリル酸63.3gとメチルハイドロキノン0.24g、トリフェニルホスフィン1.22gを仕込み、98℃で24時間反応させた。更にテトラヒドロ無水フタル酸122gと2−メチルハイドロキノン0.3gとジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート(EDGAC)239gを加え、95℃で6時間反応させ、固形分60%、樹脂溶液の酸価が54mgKOH/g(固形分酸価90mgKOH/g)の酸基含有ビニルエステル樹脂(A’−1)溶液を得た。
【0156】
比較製造例2 酸基含有ビニルエステル樹脂(A’−2)の製造
温度計、冷却管、分留管、窒素ガス導入管、撹拌器を取り付けたフラスコに、窒素を吹き込みつつプロピレンカーボネート102g(1.0モル)とクレゾールノボラック樹脂120g(1.0モル)とトリフェニルホスフィン0.67gを仕込み、170℃で4時間反応を行った。反応中、エチレンカーボネートから脱離した二酸化炭素が発生するので随時系外に除去した。この反応溶液にトルエン333gとメチルハイドロキノン1.11g、及びアクリル酸43.2g(0.60モル)とパラトルエンスルホン酸8.8gを仕込み、80℃で7時間反応を行った。反応により生成した水はトルエンとの共縮混合物としてデカントにより分取し除去した。その後得られた樹脂溶液を水洗し、トルエンをジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート(EDGAC)83gにて溶剤置換しつつ留去した。さらに、この樹脂溶液中に、テトラヒドロ無水フタル酸38.0g(0.25モル)とトリフェニルホスフィン0.13gとジ−tert−ブチルヒドロキシトルエン1.30gを仕込み、110℃で4時間反応させ、酸基含有ビニルエステル樹脂(A’−2)溶液を得た。得られた樹脂溶液の固形分は75%、固形分の二重結合当量は414g/eq.、固形分酸価は60.4mgKOH/gであった。
【0157】
配合例1 エポキシ樹脂(C−1)溶液の調整
ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート904gを100℃に加熱し、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂〔DIC株式会社製、EPICLON N−680、軟化点95℃、エポキシ当量211〕2110gを均一溶解して、固形分70%のエポキシ樹脂(C−1)溶液を得た。
【0158】
配合実施例1〜4及び配合比較例1,2
表1に示す配合組成(数値は質量部である)に従って配合し、冷却装置をつけた自転公転型撹拌機で混合して、レジストインキ用感光性樹脂組成物を調製した。得られたレジストインキ用感光性樹脂組成物の乾燥性、感度、アルカリ現像性及び塗膜性能を表2に示す。
【0159】
評価
レジストインキ用感光性樹脂組成物の乾燥性、感度、アルカリ現像性及び塗膜性能について、以下に示す方法で評価した。ただし、評価(5)半田耐熱性移行の塗膜性能は、ポリイミドフィルム基板に、レジストインキ用感光性樹脂組成物を60μmの厚さ(乾燥前)に塗布し、80℃で30分間予備乾燥後、200mJ/cm
2の露光量で紫外線を照射し、次いで30℃の1重量%炭酸ナトリウム水溶液を用い、2.0kg/cm
2のスプレー圧で60秒間現像処理したのち、150℃で30分後硬化することにより作成した硬化塗膜を用いて評価した。
【0160】
評価(1)乾燥性
ポリイミドフィルム基板に、レジストインキ用感光性樹脂組成物を60μmの厚さに塗布し、80℃で30分間予備乾燥した。次に、塗膜を室温に冷却した状態でソルダーマスクパターンを塗膜面に接触させ、塗膜よりソルダーマスクパターンを剥離しその状態を評価した。
○:塗膜とパターンが全く付着せず容易に剥離できるもの
△:痕跡を残さずに剥離できるがわずかに付着感があるもの
×:剥離時ソルダーマスクパターンに付着するもの
【0161】
評価(2)感度
ポリイミドフィルム基板にレジストインキ用感光性樹脂組成物を60μmの厚さに塗布し、80℃で30分間予備乾燥した塗膜に、21段ステップタブレット(コダック社製)を密着させ、オーク製作所製メタルハライドランプ露光装置を用いて、アイグラフィック社製紫外線積算強度計を用い200mJ/cm
2の紫外線を照射露光した。次いで、30℃の1重量%炭酸ナトリウム水溶液を用い、2.0kg/cm
2のスプレー圧で60秒間現像を行った後の露光部分の除去されない部分の段数を数字にて示した。数字が大きい方が高感度であることを表す。
【0162】
評価(3)現像時間
ポリイミドフィルム基板にレジストインキ用感光性樹脂組成物を60μmの厚さに塗布し、80℃で30分間予備乾燥した塗膜にソルダーマスクパターンを密着させ、200mJ/cm
2の紫外線を照射露光した。次いで30℃の1重量%炭酸ナトリウム水溶液を用い、2.0kg/cm
2のスプレー圧で現像を行った。現像時、15秒毎に未露光部分の現像状態を拡大鏡にて目視判定し、完全にインキが除去され、完全な現像ができた時間を現像時間とした。
【0163】
評価(4)熱管理幅
ポリイミドフィルム基板にレジストインキ用感光性樹脂組成物を60μmの厚さに塗布し、80℃20分から80℃90分まで10分間隔で予備乾燥時間を変更した各々の塗膜に(3)現像時間と同様の評価を実施し、60秒で現像可能な最大の予備乾燥時間(分)を熱管理幅とした。
【0164】
評価(5)半田耐熱性
硬化塗膜をJIS C 6481の試験方法に従って、260℃で半田浴へ10秒間浸漬を最大3回繰り返し、外観変化の現れない最大回数を記した。
【0165】
評価(6)鉛筆硬度
硬化塗膜をJIS K 5400の試験方法に従って試験し、塗膜に傷のつかない最も高い硬度を観測した。
【0166】
評価(7)密着性
硬化塗膜に巾1mmで10×10のクロスカットを入れ、セロハンテープで剥離テストを行い剥がれの状態を目視観察した。
○:剥がれが認められないもの
△:1〜10箇所に剥がれが認められるもの
×:10箇所以上剥がれたもの
【0167】
評価(8)耐薬品性
硬化塗膜を10重量%の塩酸に30分間浸漬した後の塗膜状態を評価した。
○:全く変化が認められないもの
×:塗膜が膨潤して剥離したもの
【0168】
評価(9)耐溶剤性
硬化塗膜を塩化メチレンに30分間浸漬した後の塗膜状態を評価した。
○:全く変化が認められないもの
×:塗膜が膨潤して剥離したもの
【0169】
評価(10)PCT耐性
硬化塗膜を121℃、飽和水蒸気中50時間の条件で評価した。
○:全く変化が認められないもの
△:塗膜に若干のふくれ、剥がれ、変色が見られるもの
×:塗膜にふくれ、剥がれ、変色が見られるもの
【0170】
評価(11)電気信頼性
電気信頼性として硬化塗膜の電気絶縁性を以下の条件で評価した。
加湿条件:温度120℃、湿度95%RH、引加電圧30V、100時間
測定条件:測定時間60秒、引加電圧500V
○:加湿後の絶縁抵抗値10
−10Ω以上、銅のマイグレーションなし
△:加湿後の絶縁抵抗値10
−10Ω以上、銅のマイグレーションあり
×:加湿後の絶縁抵抗値10
−9Ω以下、銅のマイグレーションあり
【0171】
評価(12)難燃性
ASTM D4804−03に準拠し、難燃性を評価した。サンプル数n=5で、各サンプル2回、3秒間ずつ接炎し、計10回の燃焼時間を測定し、下記の基準に沿って判定した。
VTM−0:個々の燃焼時間10秒以下、かつトータル燃焼時間50秒以下
VTM−1:個々の燃焼時間30秒以下、かつトータル燃焼時間250秒以下
VTM−2:個々の燃焼時間30秒以下、かつトータル燃焼時間250秒以下、かつ燃焼物が落下
BURN:個々の燃焼時間30秒以上、またはトータル燃焼時間250秒以上
【0172】
【表1】
【0173】
【表2】