(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、
図1〜
図7Bを参照しながら、本実施形態に係る有機トランジスタの製造方法について説明する。なお、以下の全ての図面においては、図面を見やすくするため、各構成要素の寸法や比率などは適宜異ならせてある。
【0016】
図1は、本実施形態の有機トランジスタの製造方法で製造する有機トランジスタ1を示す概略断面図である。有機トランジスタ1は、いわゆるボトムコンタクト型の有機薄膜トランジスタである。
【0017】
有機トランジスタ1は、基板2と、親めっき層3,13と、無電解めっき用の触媒5,15と、ゲート電極6と、ソース電極16と、ドレイン電極17と、有機半導体層20と、を有している。親めっき層(下地膜)13は、ゲート電極6とソース電極16またはドレイン電極17とを絶縁する絶縁体層として機能する。
【0018】
基板2は、光透過性を有するもの及び光透過性を有しないもののいずれも用いることができる。例えば、ガラス、石英ガラス、窒化ケイ素等の無機物や、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、PET(ポリエチレンテレフタレート)やPBT(ポリブチレンテレフタレート)などのポリエステル樹脂等の有機高分子(樹脂)などを用いることができる。
【0019】
これら基板2の材料は、無電解めっきの結果として形成される金属製のめっき皮膜と金属結合を形成しない。そのため、本実施形態においては、これらの材料を、直接めっき皮膜を形成しにくく、また形成されるめっき皮膜が剥離しやすい難めっき性の材料として取り扱う。同様の理由によりめっき皮膜が剥離しやすい材料であれば、例えば上述した材料の複合材料なども同様に基板2の形成材料として用いることができる。
【0020】
親めっき層3は、基板2の一主面の全面を覆って形成されている。親めっき層3は、例えば、平均粒径が約100nm、90nm、80nm、70nm、60nm、50nm、40nm、30nm、20nm、又は10nm以下のアルミナ粒子を有している。アルミナ粒子としては、平均粒径が約100nm以下であれば、粒状、棒状、羽毛状などの形状を採用することができる。ここで「平均粒径」とは、動的光散乱法など公知の方法を測定原理として、体積平均粒径、面積平均粒径、累積中位径(Median径)などを採用して求めることができる値である。また、アルミナ粒子が、棒状や羽毛状など異形の形状を有する場合には、一粒子のなかでの最大径(長手方向の大きさ)が上述の平均粒径であり、一粒子において短手方向の大きさは上述の平均粒径よりも小さい値を示す。
【0021】
また、親めっき層3は、上記アルミナ粒子を分散させるバインダー(基材)を有している。バインダー材料としては、光硬化性樹脂を用いることができ、特に紫外線硬化性樹脂を好適に用いることができる。このような樹脂材料としては、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、アクリルウレタン樹脂、フェノール樹脂、エン・チオール樹脂、ポリシロキサンなどを例示することができる。以下の説明においては、親めっき層3は、バインダーとして紫外線硬化性樹脂を用いるものとして説明する。
【0022】
触媒(無電解めっき用触媒)5は、親めっき層3の表面の一部に選択的に設けられている。触媒5は、無電解めっき用のめっき液に含まれる金属イオンを還元する触媒であり、金属パラジウムが好適に挙げられる。
【0023】
ゲート電極6は、触媒5の表面に形成された金属配線であり、後述するように無電解めっきにより触媒5の表面に析出した金属で形成されている。ゲート電極6の材料としては、ニッケル−リン(NiP)や、銅(Cu)が挙げられる。
【0024】
親めっき層13は、ゲート電極6を覆い、親めっき層3の表面において選択的に設けられている。絶縁体層として機能する親めっき層13は、例えば数百nm程度の厚さで形成されている。親めっき層13の形成材料としては、上述の親めっき層3と同様のものを用いることができる。親めっき層3と親めっき層13とは、含まれるアルミナ粒子やバインダーの種類が同じでもよく、異ならせてもよい。以下の説明においては、親めっき層3,13は、厚さのみ異なり、同じアルミナ粒子を含み、バインダーとして紫外線硬化性樹脂を用いるものとして説明する。
【0025】
触媒(無電解めっき用触媒)15は、親めっき層13の表面の一部に選択的に設けられている。触媒15の形成材料としては、上述の触媒5と同様のものを用いることができる。
【0026】
ソース電極16およびドレイン電極17は、触媒15の表面に形成された金属配線である。ソース電極16は、第1電極161と、第1電極の表面を覆う第2電極162とを有している。同様に、ドレイン電極17は、第3電極171と、第3電極の表面を覆う第4電極172とを有している。
【0027】
第1電極161および第3電極171は、上述したゲート電極6と同様に、無電解めっきにより形成される金属配線である。第1電極161,第3電極171の材料としては、ニッケル−リン(NiP)や、銅(Cu)が挙げられる。本実施形態においては、第1電極161,第3電極171の形成材料として、ニッケル−リン(仕事関数:5.5eV)を用いることとして説明する。
【0028】
第2電極162および第4電極172は、第1電極161,第3電極171の触媒15に接しない表面全面を覆って形成された金属めっき層である。すなわち、第2電極162,第4電極172は、ソース電極16およびドレイン電極17において、それぞれ互いに対向する側面16a,17a(対向する面)を覆って設けられている。
【0029】
第2電極162および第4電極172の形成材料としては、後述する有機半導体層20の形成材料のHOMO/LUMO準位との関係で、電子移動(または正孔移動)が容易な仕事関数を持つ金属材料を用いる。本実施形態においては、第2電極162,第4電極172の形成材料として、金(仕事関数:5.4eV)を用いることとして説明する。
【0030】
有機半導体層20は、ソース電極16およびドレイン電極17の間において親めっき層13の表面に設けられ、ソース電極16とドレイン電極17とに接して形成されている。詳しくは、有機半導体層20は、ソース電極16の側面16a、およびドレイン電極17の側面17aに接して設けられており、第2電極162,第4電極172と接している。
【0031】
有機半導体層20の形成材料としては、通常知られた有機半導体材料を用いることができる。例えば、銅フタロシアニン(CuPc)、ペンタセン、ルブレン、テトラセン、P3HT(poly(3-hexylthiophene-2,5-diyl))のようなp型半導体や、C
60のようなフラーレン類、PTCDI−C8H(N,N'-dioctyl-3,4,9,10-perylene tetracarboxylic diimide)のようなペリレン誘導体などのn型半導体を用いることができる。中でも、TIPSペンタセン(6,13-Bis(triisopropylsilylethynyl)pentacene)のような可溶性ペンタセンや、P3HTなどの有機半導体ポリマーは、トルエンのような有機溶媒に可溶であり、湿式工程で有機半導体層20を形成可能であるため好ましい。本実施形態においては、有機半導体層20の形成材料として、TIPSペンタセン(HOMO準位:5.2eV)を用いることとして説明する。
【0032】
このような有機トランジスタ1では、ソース電極16およびドレイン電極17の表面に第2電極162,第4電極172が形成されているため、駆動時に有機半導体層20とソース電極16(または有機半導体層20とドレイン電極17)との間で電流が流れやすく、良好な駆動が可能である。
【0033】
図2A、
図2Bは、有機トランジスタの駆動の様子を示す模式図であり、
図2Aは、第2電極を有しないこと以外は有機トランジスタ1と同様の構成を備えた有機トランジスタ1x、
図2Bは、本実施形態の製造方法で製造する有機トランジスタ1について示した図である。
【0034】
まず、
図2Aに示す有機トランジスタ1xのように、第2電極を有さない構成とすると、有機半導体層20のHOMOと第1電極161の仕事関数との間のギャップ(エネルギー準位差)が大きいため、ショットキー抵抗を生じ、電流が流れにくい。そのため、例えば図に矢印Aを用いて示すような、高抵抗な有機半導体層20を流れる電流の流れを形成しやすく、良好な導通を確保しにくい。
【0035】
対して、
図2Bに示すように、有機トランジスタ1において、不図示のゲート電極に印加されると、有機半導体層20において親めっき層13との界面付近に、数nmの厚さのチャネル領域ARが形成され、ソース電極16と不図示のドレイン電極との間の導通を可能とする。この際、ソース電極16の表面は、第1電極161よりも有機半導体層20の形成材料との間で電子移動が容易な(有機半導体層20のHOMOとのエネルギー準位差が小さい)仕事関数を持つ金属材料を用いて第2電極162が形成されており、ショットキー抵抗が低減されているため、電流は、第1電極161および第2電極162を介して、良好にチャネル領域ARに流れ込む。図では、矢印Bを用いて電流の流れを示している。そのため、高性能の有機トランジスタ1を実現することができる。
【0036】
本実施形態の製造方法で製造する有機トランジスタ1は、以上のような構成となっている。
【0037】
以下、
図3A〜7Bを用いて、上述の有機トランジスタ1の製造方法について説明する。
【0038】
まず、
図3Aに示すように、基板2の表面に、上述のアルミナ粒子を上述の透明樹脂の前駆体に均一に分散させた塗布液を塗布し、塗膜3Aを形成する。塗布の方法としては、スピンコート、ディップコート、スプレーコート、ロールコート、刷毛塗り、フレキソ印刷やスクリーン印刷といった印刷法などの通常知られた方法を例示することができる。
【0039】
塗布液の溶媒としては極性溶媒を好適に用いることができる。使用可能な溶媒として、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール(イソプロピルアルコール、IPA)などのアルコール類、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)のようなエーテル類、トルエンのような芳香族炭化水素、アセトニトリルのようなニトリル類、酢酸エステルのようなエステル類を挙げることができる。
【0040】
透明樹脂として紫外線硬化性樹脂を選択する場合、塗布液に少量の光重合開始剤を添加することとしても良い。
【0041】
次いで、
図3Bに示すように、加熱または光(紫外線)照射のいずれか一方または両方を行うことにより、前駆体を硬化させて親めっき層3を形成する。
【0042】
塗布液に含まれるアルミナ粒子の粒径が100nm以下であると、可視光領域の光の波長よりも小さいことから、アルミナ粒子に起因した可視光の散乱がほとんど無く、親めっき層3は高い光透過率を呈することとなる。したがって、光透過性を有する材料を用いた基板2を使用する場合、塗布液を基板2の全面に塗布し、親めっき層3を形成することで、基板2の光透過率を維持することができる。
【0043】
また、アルミナ粒子の粒径がさらに小さい場合(例えば20nm程度)、バインダーに対するアルミナ粒子の濃度(アルミナ含有量)を5体積%程度に抑えることにより、親めっき層3の表面粗さを低減し、平滑な親めっき層3を作成できる。すると、親めっき層3の上部に形成するゲート電極を覆う絶縁体層を薄肉化することができ、高い特性を有するトランジスタを製造することが可能となる。
【0044】
アルミナ粒子を分散させるバインダーとして紫外線硬化性樹脂を用いると、前駆体の硬化の工程を常温で行うことが可能となるため、残留応力が含まれにくい。したがって、例えば基板2として弾性率が低い材料を用いる場合や、ロール状に巻き取ることが可能なほど薄いものを用いる場合において、残留応力によって全体が歪んでしまう不具合が抑制され好ましい。
【0045】
なお、紫外線硬化性樹脂を用いる場合には、紫外線照射による硬化反応後に一定時間の加熱を行い、反応を完結させる(いわゆるポストベーク)こととしても良い。この場合であっても、ポストベーク前に前駆体の大半が硬化しているため、残留応力は生じにくく、紫外線硬化性樹脂を用いる利点を享受することができる。
【0046】
次に、
図4Aに示すように、親めっき層3上にレジスト材料を塗布し、これをプリベークすることでパターニングされていないレジスト層4Aを形成する。レジスト材料としては、ここではポジ型フォトレジストを用いる。
【0047】
その後、金属配線を形成する領域に対応する位置に開口部Maを備え、金属配線を形成しない領域に遮光部Mbを備えたマスクM1を介し、レジスト層4Aに紫外線Lを照射して、レジスト層4Aを露光する。
【0048】
次いで、
図4Bに示すように、紫外線が照射されたレジスト層を溶解する現像液で現像することにより、開口部4aが設けられたレジスト層4を形成する。
【0049】
次いで、
図4Cに示すように、レジスト層4に形成された開口部4aに露出している親めっき層3に、無電解めっきに用いる触媒5を付与する。具体的には、2価パラジウム塩と2価スズ(Sn)塩とのコロイド溶液を塗布し、その後アクセレーターと呼ばれる酸またはアルカリ溶液に浸漬して、パラジウムを0価に還元することで、金属パラジウムからなる触媒5が付与される。
【0050】
このとき、親めっき層3には極微細な凹凸をもつアルミナ粒子が含まれているため、この極微細な凹凸にめっきの触媒である金属パラジウムが付着すると考えられる。これにより、親めっき層3と触媒5との界面の結合が強固になると考えられる。
【0051】
次いで、
図4Dに示すように、無電解めっき液に浸漬することにより、触媒5の表面で無電解めっき液に溶解する金属イオンを還元して析出させ、開口部4a内に選択的にゲート配線6を形成する。
【0052】
次いで、
図4Eに示すように、残存するレジスト層の全面に紫外線を露光した後に、通常知られた現像液でレジスト層を除去する。このようにして、ゲート配線6を形成する。
【0053】
次に、
図5Aに示すように、ゲート配線6を覆って親めっき層3の表面に、上述のアルミナ粒子を上述の透明樹脂の前駆体に均一に分散させた塗布液を塗布する。塗布の方法としては、上述の方法を用いることができる。
【0054】
塗布液の溶媒としては、上述の塗膜3Aに係る塗布液と同様の極性溶媒を好適に用いることができる。また、塗布液においては、濃度や溶媒の種類を変更することにより、塗布液全体の粘度を調整し、塗布液の塗膜13Aの膜厚を制御する。すなわち、塗布液の濃度や溶媒の種類を適宜選択することにより、塗膜13Aから形成される親めっき層の層厚を制御する。
【0055】
例えば、塗布液に含まれるアルミナ粒子の濃度が高まると、塗布液の粘度が上昇するため、塗布液を厚塗りすることが可能となる。
【0056】
また、塗布液の溶媒として、数ある溶媒の中から相対的に高粘度のものを選択すると、厚塗りに適した塗布液とすることができるため、塗膜13Aを厚くすることが容易となり、相対的に低粘度のものを選択すると、薄塗りに適した塗布液とすることができるため、塗膜13Aが薄くなる。
【0057】
さらに、塗布液の溶媒の沸点に着目すると、沸点が低い溶媒は比較的低粘度のものが多く、沸点が高いものは比較的高粘度のものが多いため、沸点に着目して溶媒を選択してもよい。
【0058】
加えて、低沸点溶媒を用いた塗布液では、塗布すると直ちに乾固して塗膜13Aの表面に塗りムラや塗りスジが生じることがある。そのため、塗布液を塗布する作業環境に応じて、塗りムラや塗りスジが生じないように適切な沸点の溶媒を選択するとよい。一方で、塗布液の塗布後に、溶媒を容易に除去できる程度には沸点が低い溶媒であることが好ましい。
【0059】
これらの溶媒は、単独で用いることとしてもよく、2種以上を適宜混合して用いることとしても構わない。例えば、高沸点・高粘度の溶媒であるPGMEAに低沸点・低粘度の溶媒であるメタノールを適宜混合して用いることで、塗布液の粘度と沸点とのバランスを調整することが可能である。さらに、必要に応じて重ね塗りをして塗膜を厚くすることとしてもかまわない。
【0060】
図5Aに示す工程においては、塗膜13Aから形成される親めっき層をゲート配線6の絶縁体層として用いるため、塗膜13Aが数百nm程度の厚さとなるように厚塗りする。
【0061】
次いで、
図5Bに示すように、親めっき層13を形成する領域に対応して開口部が設けられたマスクM2を介し、塗膜13Aに紫外線Lを照射してバインダーを硬化させ、親めっき層13を形成する。
【0062】
次いで、
図5Cに示すように、塗膜を溶解する溶媒Sで現像することにより、未硬化の塗膜を除去し、パターニングされた親めっき層13を形成する。
【0063】
次に、
図6Aに示すように、親めっき層13を覆って親めっき層3の上面にレジスト材料を塗布し、これをプリベークすることでパターニングされていないレジスト層14Aを形成する。レジスト材料としてはポジ型フォトレジストを用いる。
【0064】
その後、ソース電極およびドレイン電極を形成する領域に対応して開口部が設けられたマスクM3を介し、レジスト層14Aに紫外線Lを照射し、レジスト層14Aを露光する。
【0065】
次いで、
図6Bに示すように、紫外線が照射されたレジスト層を溶解する現像液で現像することにより、開口部14aが設けられたレジスト層14を形成する。
【0066】
次いで、
図6Cに示すように、開口部14aに露出している親めっき層13に、無電解めっきに用いる触媒15を付与した後、無電解めっき液に浸漬することにより、触媒15の表面で無電解めっき液に溶解する金属イオンを還元して析出させ、開口部14a内に選択的に第1電極161,第3電極171を形成する。
【0067】
次いで、
図6Dに示すように、残存するレジスト層の全面に紫外線を露光した後に、通常知られた現像液でレジスト層を除去する。このようにして、第1電極161,第3電極171を形成する。
【0068】
次に、
図7Aに示すように、全体を置換金めっき浴に浸漬させることで、第1電極161,第3電極171の表面に金を置換析出させ、更に、還元金めっき浴に浸漬させることにより、第1電極161、第3電極171の表面に金を形成材料とする第2電極162,第4電極172を形成する。このようにして、ソース電極16およびドレイン電極17を形成する。
【0069】
次いで、
図7Bに示すように、TIPSペンタセンのような、有機溶媒に可溶な有機半導体を溶解した溶液S1を、ソース電極16およびドレイン電極17の間に塗布し、乾燥させることにより、有機半導体層20を形成する。なお、ここでは、湿式法により有機半導体層20を形成することとしたが、昇華法、転写法などの方法を用いることもできる。
以上のようにして、有機トランジスタ1を製造することができる。
【0070】
以上のような構成の有機トランジスタの製造方法によれば、第2電極162,第4電極172の形成前に予めレジスト層14を除去しているため、ソース電極16の側面16a、およびドレイン電極17の側面17aにも確実に第2電極162,第4電極172を形成することができる。そのため、有機半導体層20とソース電極16,ドレイン電極17との間の接触抵抗を低減させた高性能の有機トランジスタ1を容易に製造することができる。さらに、本実施形態の製造方法は、湿式プロセスを用いて電極を形成するので真空プロセスを必要とせず、また、高価なSAMs材料も使用しないので、基板の大型化やトランジスタの量産化に対して有効である。
【0071】
なお、本実施形態においては、ゲート電極がソース・ドレイン電極よりも基板側に配置されたボトムゲート型の有機トランジスタについて説明したが、これに限らず、トップゲート型の有機トランジスタにも適用可能である。
【0072】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る実施の形態例について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。上述した例において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0073】
例えば、基板としてPET基板を用いて、該基板上に親めっき層を形成しためっき用部材を複数用意し、複数のめっき用部材を搬送しながら搬送過程において上述の製造方法を用いて有機トランジスタを製造することで、PET基板上に高性能の有機トランジスタを形成することができる。
【0074】
さらに、基板として長尺のPETフィルムを用い、該フィルム上に親めっき層を形成しためっき用部材をロール状に巻き取っておき、該めっき用部材を巻出しながら搬送し、上述の製造方法を用いて連続的に有機トランジスタを形成した後に、製造される有機トランジスタをロール状に巻き取る、所謂ロールトゥロール工程においてPETフィルム上に有機トランジスタを形成することができる。
【0075】
このようなプロセスに用いて有機トランジスタを製造する場合、上述の製造方法では、親めっき層に含まれるアルミナ粒子が100nm以下と小さいため、めっき用部材が高い透明性を示すとともに、フィルムをロール状に巻き取った場合に親めっき層が高い追随性を示し、親めっき層が亀裂や剥離を生じにくい。したがって、高品質な有機トランジスタを高い生産性で製造することが可能となる。
【0076】
[実施例]
以下に本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0077】
[ゲート電極の作成]
まず、アルミナ粒子としてコロイダルアルミナ粒子(Aldrich社製)を用い、バインダーとして紫外線硬化型アクリル樹脂(アートレジンUN−3220HA、根上工業株式会社製)を用いて、メタノール分散液(以下、塗布液)を調整した。
【0078】
図8は、本実施例で用いたコロイダルアルミナ粒子のTEM像であり、別途、動的光散乱法を測定原理とする測定器を用いて、体積平均粒子径が20nm程度の粒状ナノ粒子であることを確認した。
【0079】
塗布液におけるバインダーに対するアルミナの濃度は体積比により規定し(体積%)、アルミナおよびバインダーの密度を考慮して調整した。本実施例においては、アルミナの密度として3.97g/cm
3、バインダーの密度として1.19g/cm
3を用いて、これらの値から重量換算し、アルミナの2質量%メタノール分散液と、バインダーの2質量%メタノール溶液とを混合することで、塗布液を調整した。また、塗布液には、バインダーに対し3質量%の重合開始剤(irgacure1173、チバスペシャリティケミカルズ社製)を添加して用いた。
【0080】
本実施例においては、バインダーに対するアルミナの濃度が5体積%となる塗布液を調整し、親めっき層の形成に用いた。すなわち、50mm×50mm角のPET基板(型番:A-4100(コートなし)、東洋紡績株式会社製)に上記塗布液を塗布して乾燥させた後に、紫外線を照射することにより硬化させ、親めっき層を形成した。
【0081】
詳しくは、基板上に塗布液をスピンコート(3000rpm×30秒)にて塗布して乾燥させた後、紫外線照射装置(マルチライト、ウシオ電機株式会社製)を用いて、365nmの紫外線を、放射照度:37mW/cm
2、照射時間:40秒(照射量:1480mJ/cm
2)の条件で照射した。その後、120℃で30分間加熱して親めっき層を形成した。
【0082】
次に、基板の親めっき層が形成された面に対し、レジスト材料(SUMIRESIST PFI-34A6、住友化学株式会社製)をスピンコートし、90℃にて30分間加熱(プリベーク)することにより、レジスト層を形成した。スピンコートの条件は1000rpmで30秒間であり、約1μmの厚さのレジスト層を形成した。
【0083】
次いで、フォトマスクを介して、37mW/cm
2の強度の紫外線を2.8秒間露光し、110℃で30分間加熱(ポストベーク)した後に、2.38%TMAH溶液に2分間浸漬することにより、レジスト層にマスクパターンを現像し開口部を形成した。
【0084】
次いで、レジスト層開口部が形成された基板について、室温にて30秒間、超音波水洗を行った後に、無電解めっき用の触媒コロイド溶液(メルプレート アクチベーター7331、メルテックス社製)に、室温にて300秒間浸漬し、レジスト層の開口部に露出している親めっき層に触媒を付着させた。
【0085】
次いで、表面を水洗した後に、無電解めっきの触媒活性化剤(メルプレート PA−7340、メルテックス社製)に、室温にて180秒間浸漬し、レジスト層の開口部に付着している触媒を活性化させた。
【0086】
次いで、表面を水洗した後に、無電解めっき液(メルプレート NI−867、メルテックス社製)に、73℃にて60秒間浸漬し、レジスト層の開口部に付着している触媒上にニッケル−リンを析出させてニッケル−リンめっきを行った。
【0087】
次いで、表面を水洗した後に乾燥させ、残存するレジスト層を含む全面に、37mW/cm
2の強度の紫外線を1分間露光した後、50g/Lの濃度のNaOH水溶液に2分間浸漬することでレジスト層を除去し、ゲート電極を作成した。
【0088】
図9Aは、作成したゲート電極の写真であり、
図9Bはゲート電極の拡大写真である。凹凸の少ない平坦なゲート電極が形成しているのが分かる。
【0089】
[絶縁体層の作成]
PET基板においてゲート電極が形成された側の全面に、シランカップリング剤(KBE903、信越シリコーン社製) をエタノールと水の混合溶媒で0.05質量%に希釈した溶液を、スピンコートで塗布した。
【0090】
次いで、120℃で5分間加熱した後、次の塗布液をスピンコートで塗布した。スピンコートの条件は800rpmで30秒間とした。
【0091】
塗布液は、バインダーの10質量%メタノール溶液と、バインダーの10質量%PGMEA溶液と、の1:1混合溶液を用い、コロイダルアルミナ(Aldrich社製)の10質量%メタノール分散液を希釈して調整した。バインダーに対するアルミナの含有率は5体積%とした。バインダーには、紫外線硬化型アクリル樹脂(アートレジンUN−3220HA、根上工業株式会社製)を用い、上述の重合開始剤を3質量%添加した。
【0092】
上記の塗布液を塗布して乾燥させた後、フォトマスクを介して365nmの紫外線を、放射照度:37mW/cm
2、照射時間:40秒の条件で照射した。次いで、120℃で2分間加熱した後、基板全体をアセトンに浸漬しながら10秒間超音波処理を行って現像し、さらに120℃で30分間加熱することで、絶縁体層として機能する親めっき層を形成した。
【0093】
図10Aは、絶縁体層を作成した基板の写真であり、
図10Bは、
図10Aの破線で囲まれた領域内の絶縁体層の拡大写真である。観察の結果、絶縁体層ではフィラーが十分に分散しており、凝集体などは確認されなかった。また、段差測定機で絶縁体層の厚さを測定したところ、膜厚は350nm程度であった。
【0094】
[ソース・ドレイン電極の作成]
次いで、PET基板において絶縁体層が形成された側の全面に、上述の方法にてレジスト層の作成と、無電解めっきとを行うことにより、絶縁体層上にパターニングされたNiP電極を形成した。NiP電極は、実施形態で説明した第1電極に対応する。
【0095】
更に、加えて、レジスト剥離後に、置換金めっき浴に2分間浸漬させ、更に還元めっき浴に3分間浸漬させることで、無電解金めっきを行い、NiP電極の表面を金で被覆してソース電極およびドレイン電極を作成した。
【0096】
図11は、上記の手順で作製した多層配線構造の断面SEM像である。断面SEM像より、ソース・ドレイン電極は二層で構成され、NiP電極の表面をきれいに金が被覆している様子が観察された。
【0097】
また、ゲート電極とソース・ドレイン電極との間の導通をテスターで計測したところ、リーク電流は確認されなかった。従って、本実施例の親めっき層は絶縁体層としても使用可能であることが確認された。
【0098】
[有機半導体層の作成]
窒素雰囲気下、ソース電極およびドレイン電極の間に、TIPSペンタセン(シグマアルドリッチ製)のトルエン溶液を滴下し、自然乾燥させることで有機半導体層を形成して、有機トランジスタを作成した。用いたTIPSペンタセン/トルエン溶液の調整も、窒素雰囲気下で行った。
【0099】
図12は、表面に有機半導体層を形成したソース電極およびドレイン電極の拡大写真である。ソース電極およびドレイン電極の間にTIPSペンタセンの結晶が形成されていることが観察された。
【0100】
[有機トランジスタの評価]
作成した有機トランジスタのトランジスタ特性は、半導体パラメータアナライザー(型番:4145B、横河・ヒューレット・パッカード社製)を用いて評価した。
【0101】
図13は、上述の方法を用い、湿式プロセスで作製した有機トランジスタのトランジスタ特性を示すグラフである。
【0102】
得られた有機薄膜トランジスタのゲート電極に0V〜40Vのゲート電圧を印加し、ソース−ドレイン間に0V〜50Vの電圧を印加して電流を流した。その結果、図に示す様に、作製した有機トランジスタはp型トランジスタとして動作した。
【0103】
以上の結果より、全湿式プロセスにて有機トランジスタを作成できることが分かった。また、無電解めっき法を用い、有機半導体層の形成材料のHOMOとエネルギーギャップが小さい仕事関数を有する金属材料でソース・ドレイン電極全面を被覆できるため、有機半導体層とソース・ドレイン電極との電気的接触抵抗が小さい有機トランジスタを提供できる。
以上の結果より、本発明の有用性が確かめられた。
【0104】
本発明の一実施形態において、トランジスタの製造方法は、無電解めっき用触媒を担持させる下地膜を形成することと、前記下地膜の上にソース電極およびドレイン電極に対応した開口部を有するレジスト層を形成することと、前記開口部内の前記下地膜に前記無電解めっき用触媒を担持させ、第1の無電解めっきを行うことと、前記レジスト層を除去することと、前記第1の無電解めっきにより形成された電極の表面に第2の無電解めっきを行い、ソース電極およびドレイン電極を形成することと、前記ソース電極とドレイン電極との互いに対向する面に接した半導体層を形成することと、を有し、前記第2の無電解めっきに用いる金属材料の仕事関数と、前記半導体層の形成材料において電子移動に用いる分子軌道のエネルギー準位とのエネルギー準位差は、前記第1の無電解めっきに用いる金属材料の仕事関数と、前記分子軌道のエネルギー準位とのエネルギー準位差よりも小さいことを特徴とする。
上記実施形態において、例えば、前記半導体層が有機半導体からなることができる。
また、上記実施形態において、例えば、前記半導体の形成材料が溶解した溶液を配置して前記半導体層を形成することができる。
また、上記実施形態において、例えば、前記下地膜が、光硬化性樹脂からなる基材と、平均粒径が100nm以下のアルミナ粒子と、を含み、前記基材の前駆体と前記アルミナ粒子とを含む溶液を配置し、選択的に光照射を行うことで、前記下地膜を選択的に形成することができる。
また、上記実施形態において、例えば、前記光硬化性樹脂が、紫外線硬化性樹脂にできる。
また、上記実施形態において、例えば、前記トランジスタを、非金属材料からなる基板上に形成することができる。
また、上記実施形態において、例えば、前記トランジスタを、樹脂材料からなる基板上に形成することができる。
また、上記実施形態において、例えば、前記基板が、可撓性を有することができる。
【0105】
本発明の別の一実施形態において、トランジスタは、ソース電極およびドレイン電極と、前記ソース電極および前記ドレイン電極の間のチャネルに対応させて設けられたゲート電極と、前記ソース電極および前記ドレイン電極の、互いに対向する面に接して設けられた半導体層と、を備え、前記ソース電極は、第1電極と、前記第1電極の表面の少なくとも一部に設けられた第2電極とを有し、前記ドレイン電極は、第3電極と、前記第3電極の表面の少なくとも一部に設けられた第4電極とを有し、前記第2電極の形成材料の仕事関数と、前記半導体層の形成材料において電子移動に用いる分子軌道のエネルギー準位とのエネルギー準位差は、前記第1電極の形成材料の仕事関数と、前記分子軌道のエネルギー準位とのエネルギー準位差よりも小さく、前記第4電極の形成材料の仕事関数と、前記半導体層の形成材料において電子移動に用いる分子軌道のエネルギー準位とのエネルギー準位差は、前記第3電極の形成材料の仕事関数と、前記分子軌道のエネルギー準位とのエネルギー準位差よりも小さいことを特徴とする。
上記実施形態において、例えば、前記第1電極と前記第3電極とは、同じ材料からなることができる。
また、上記実施形態において、例えば、前記第2電極と前記第4電極とは、同じ材料からなることができる。
また、上記実施形態において、例えば、前記半導体層が有機半導体からなることができる。