【文献】
IKEZOE, T. et al., Bone Marrow Transplant., 2010 Apr, vol.45, no.4, p.783-785
【文献】
UCHIBA, M. et al., Am. J. Physiol., 1996, vol.271, no.3, p.L470-L475
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
該トロンボモジュリンが、下記(i−1)又は(i−2)のいずれかのアミノ酸配列を含むペプチドであって、該ペプチドがトロンボモジュリン活性を有するペプチドである請求項1〜3のいずれかに記載の医薬;
(i−1)配列番号9又は配列番号11のいずれかに記載のアミノ酸配列における第19〜516位のアミノ酸配列、又は
(i−2)上記(i−1)のアミノ酸配列の1つ又は複数のアミノ酸が置換、欠失、又は付加されたアミノ酸配列。
【背景技術】
【0002】
血液には、白血球、赤血球、血小板という3系統の細胞が存在し、これらは骨髄に存在する造血幹細胞が分化・増殖することにより産生される。造血器悪性腫瘍は、造血幹細胞から分化した特定の細胞に異常が生じ、正常な機能を持たない血球が大量に産生する。その結果、正常な血球数が減少し、貧血、出血といった症状や感染症を合併して最終的には死に至る疾患である。造血器悪性腫瘍は、主として白血病、悪性リンパ腫、および多発性骨髄腫からなる。白血病は、世界で年間26万人が罹患し、21万人が死亡する。悪性リンパ腫と多発性骨髄腫は世界で併せて年間41万人が罹患し、24万人が死亡する。また、米国では、白血病、悪性リンパ腫、および多発性骨髄腫は、腫瘍患者のそれぞれ2.9%、5.3%、および1%を占める。
【0003】
造血細胞移植は、造血器悪性腫瘍の患者に健常人の造血細胞を移植して正常な造血機能を回復するための治療である。近年では、造血器悪性腫瘍以外にも先天性免疫不全症、先天性代謝異常症、固形腫瘍の大量化学療法や放射線療法の最大の副作用である骨髄抑制の救援療法としても行われている。造血細胞移植は、自分自身の骨髄あるいは末梢血幹細胞を用いる自家移植、血縁者あるいは非血縁者の造血細胞を用いる同種移植に大別される。造血細胞移植に用いる造血細胞は、ドナーの骨髄から採取、顆粒球状コロニー刺激因子(G−CSF)投与したドナーの末梢血、あるいは臍帯血が用いられる。
【0004】
造血細胞移植は、1)移植前処置、2)造血細胞の輸注(移植)、3)合併症の予防および治療からなる。移植前処置は、移植の7〜10日前にシクロフォスファミドなどの大量の化学療法剤投与および全身放射線照射(Total Body Irradiation;TBI)を行い、造血細胞移植を受ける患者の骨髄細胞を死滅させる。次にドナーから得た造血細胞を輸注する。移植に必要な細胞数は、骨髄移植では有核細胞を体重1kgあたり約3×10
8個、末梢血幹細胞ではCD34陽性細胞を体重1kgあたり2×10
6個以上、臍帯血移植では体重1kgあたり2×10
7個以上が望ましい。
【0005】
生着症候群(engraftment syndrome;ES)は、造血幹細胞移植後の好中球生着の時期に、発熱、紅斑様の皮疹、非心原性肺水腫をはじめとする症状を呈する病態である。生着症候群はこれらの一連の症状を広く包含している。同様の病態を、広範な血管透過性の亢進に伴う症候に注目して毛細血管漏出症候群(capillary leak syndrome;CLS)と呼ぶこともある。生着症候群を発症すると、入院期間の延長、モルヒネ投与期間の延長、さらには死亡率が上昇することなどが報告されている。
【0006】
一方、トロンボモジュリンは、トロンビンと特異的に結合しトロンビンの血液凝固活性を阻害すると同時にトロンビンのプロテインC活性化能を著しく促進する作用を有する物質として知られ、強力な血液凝固阻害作用を有することが知られている。トロンビンによる凝固時間を延長することや、トロンビンによる血小板凝集を抑制することが知られている。プロテインCは、血液凝固線溶系において重要な役割を演じているビタミンK依存性の蛋白質であり、トロンビンの作用により活性化され、活性化プロテインCとなる。この活性化プロテインCは、生体内で血液凝固系因子の活性型第V因子、および活性型第VIII因子を失活させ、また血栓溶解作用を有するプラスミノゲンアクチベータの産生に関与していることが知られている(非特許文献1)。したがって、トロンボモジュリンは、このトロンビンによるプロテインCの活性化を促進して抗血液凝固剤または血栓溶解剤として有用であるとされており、凝固亢進を伴う疾患の治療、予防に有効であるという動物実験についての報告もある(非特許文献2)。
【0007】
従来、トロンボモジュリンは、ヒトをはじめとする種々の動物種の血管内皮細胞上に発現している糖蛋白質として発見取得され、その後、クローニングに成功した。即ち、遺伝子工学的手法を用いてヒト肺cDNAライブラリーからシグナルペプチドを含むヒトトロンボモジュリン前駆体の遺伝子をクローニングし、そしてトロンボモジュリンの全遺伝子配列を解析し、シグナルペプチド(通常は、18アミノ酸残基が例示される)を含む575残基のアミノ酸配列が明らかにされている(特許文献1)。シグナルペプチドが切断されたマチュアなトロンボモジュリンは、そのマチュアなペプチドのN末端側よりN末端領域(1−226番目:シグナルペプチドが18アミノ酸残基であると考えた場合の位置表示、以下同じ)、6つのEGF様構造をもつ領域(227−462番目)、O型糖鎖付加領域(463−498番目)、膜貫通領域(499−521番目)、そして細胞質内領域(522−557番目)の5つの領域から構成されている。全長のトロンボモジュリンと同じ活性を有する部分(すなわち、最小活性単位)は、6つのEGF様構造を持つ領域のうち、主としてN末端側から4,5,6番目のEGF様構造からなる部分であることが知られている(非特許文献3)。
【0008】
全長のトロンボモジュリンは界面活性剤の存在下でないと溶解し難く、製剤としては界面活性剤の添加が必須であるのに対して、界面活性剤の非存在下でもきれいに溶解することができる可溶性トロンボモジュリンが存在する。可溶性トロンボモジュリンは、少なくとも、膜貫通領域の一部または全部を含有せしめないように調製すればよく、例えば、N末端領域と6つのEGF様構造をもつ領域とO型糖鎖付加領域の3つの領域のみからなる(即ち、配列番号9の第19〜516位のアミノ酸配列からなる)可溶性トロンボモジュリンは、組換え技術の応用により取得できること、そしてその組換え体可溶性トロンボモジュリンは、天然のトロンボモジュリンの活性を有していることが確認されている(特許文献1)。他に可溶性トロンボモジュリンの例としていくつかの報告がある(特許文献2〜9)。あるいは天然型としてヒト尿由来の可溶性トロンボモジュリン等も例示される(特許文献10、11)。
【0009】
因みに、遺伝子においては、自然の変異または取得時の変異により、多くのケースで認められる通り、ヒトにおいても多形性の変異が見つけられており、上述の575残基のアミノ酸配列からなるヒトトロンボモジュリン前駆体の第473位のアミノ酸においてValであるものと、Alaであるものが現在確認されている。このアミノ酸をコードする塩基配列においては、第1418位において、それぞれTとCとの変異に相当する(非特許文献4)。しかし、活性および物性においては、全く相違なく、両者は実質的に同一と考えることができる。
【0010】
従来トロンボモジュリンの用途として、例えば、心筋梗塞、血栓症(例えば、急性期または慢性期の脳血栓症、動脈または静脈の急性または慢性の末梢血栓症など)、塞栓症(例えば、急性期または慢性期の脳塞栓症、動脈または静脈の急性または慢性の末梢塞栓症など)、末梢血管閉塞症(例えば、バージャー病、レイノー病など)、閉塞性動脈硬化症、心臓手術に続発する機能性障害、移植臓器の合併症、血管内血液凝固症候群(DIC)、狭心症、一過性脳虚血発作、妊娠中毒症、深部静脈血栓症(Deep venous thrombosis:DVT)等の疾患の治療および予防に用いられることが期待されている。また、血栓症やDICなどの凝固亢進を伴う疾患以外の疾患に対する適用として、肝臓障害(特許文献12)、吸収性骨疾患(特許文献13)、創傷治癒(特許文献14)などが挙げられる。さらにトロンボモジュリンを他の有効成分と併用する用途として、創傷治癒(特許文献15)および脳組織の保護(特許文献16)などが開示されている。
【0011】
造血細胞移植にともなう合併症に対するトロンボモジュリンの用途としてVODが記載されている(特許文献17)。本特許文献は、非特許文献5を参考にビーグル犬にmonocrotalineを投与した薬剤性のVODモデルに対し、1mg/kgまたは3mg/kgのトロンボモジュリンを投与することによりGPTおよびビリルビンの上昇を抑制したことが記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の課題は、造血細胞移植に伴う生着症候群を予防及び/又は治療するための医薬、またはそれらの方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
近年、造血細胞移植は、あらたな化学療法剤や薬剤の組み合わせなどにより治療成績が向上しているが、合併症を発症した場合の致死率は依然として高く、造血細胞移植方法の改善による合併症を効果的に予防または治療して移植成績の更なる向上が求められている。本発明者らは、特に造血細胞移植に伴う生着症候群の予防及び/又は治療に着眼し、これを満足させる医薬を見出すべく鋭意研究した結果、驚くべきことにトロンボモジュリンを投与することにより、造血細胞移植に伴う生着症候群の臨床症状を改善することを見出した。トロンボモジュリンを開示する文献として、Am.J.Physiol.Lung Cell.Mol.Physiol.273:L889−L894,1997や特開2008−189574が挙げられるが、これらには、造血細胞移植に伴う生着症候群については全く記載されていない。
【0016】
すなわち、本発明はトロンボモジュリンを有効成分として含有し、造血細胞移植に伴う生着症候群を予防及び/又は治療するための医薬に関する。本発明の医薬は、造血器悪性腫瘍の根治療法として期待される造血細胞移植に際して投与することにより、造血細胞移植後の造血能を改善することが可能となる。また、造血細胞移植に伴う造血器悪性腫瘍患者の骨髄像および末梢血血球数を正常化し、造血器悪性腫瘍をより効果的に治療及び/又は改善することが可能となる。
【0017】
本発明として具体的には以下のものが挙げられる。
〔1〕トロンボモジュリンを有効成分として含む医薬であって、造血細胞移植に伴う生着症候群を予防及び/又は治療するための該医薬。
〔2〕該トロンボモジュリンが、可溶性トロンボモジュリンである前記〔1〕に記載の医薬。
〔3〕該トロンボモジュリンが、配列番号9または配列番号11に記載のアミノ酸配列をコードするDNAを宿主細胞にトランスフェクトして調製された形質転換細胞より取得されるペプチドである前記〔1〕又は〔2〕に記載の医薬。
〔3−2〕該トロンボモジュリンが、1、3、5、7、9、または配列番号11に記載のアミノ酸配列をコードするDNAを宿主細胞にトランスフェクトして調製された形質転換細胞より取得されるペプチドである前記〔1〕又は〔2〕に記載の医薬。
〔3−3〕該トロンボモジュリンが、配列番号1または配列番号3に記載のアミノ酸配列をコードするDNAを宿主細胞にトランスフェクトして調製された形質転換細胞により取得されるペプチドである、前記〔1〕又は〔2〕に記載の医薬。
〔3−4〕該トロンボモジュリンが、配列番号5または配列番号7に記載のアミノ酸配列をコードするDNAを宿主細胞にトランスフェクトして調製された形質転換細胞により取得されるペプチドである、前記〔1〕又は〔2〕に記載の医薬。
【0018】
〔4〕該トロンボモジュリンが、下記(i−1)又は(i−2)のいずれかのアミノ酸配列を含むペプチドであって、該ペプチドがトロンボモジュリン活性を有するペプチドである請求項1〜3のいずれかに記載の高純度可溶性トロンボモジュリン;
(i−1)配列番号9又は配列番号11のいずれかに記載のアミノ酸配列における第19〜516位のアミノ酸配列、又は
(i−2)上記(i−1)のアミノ酸配列の1つ又は複数のアミノ酸が置換、欠失、又は付加されたアミノ酸配列。
〔4−2〕該トロンボモジュリンが、下記(i−1)又は(i−2)のいずれかのアミノ酸配列を含むペプチドであって、該ペプチドがトロンボモジュリン活性を有するペプチドである前記〔1〕又は〔2〕に記載の医薬;
(i−1)配列番号1又は配列番号3のいずれかに記載のアミノ酸配列における第19〜132位のアミノ酸配列、又は
(i−2)上記(i−1)のアミノ酸配列の1つ又は複数のアミノ酸が置換、欠失、又は付加されたアミノ酸配列。
【0019】
〔4−3〕該トロンボモジュリンが、下記(i−1)又は(i−2)のいずれかのアミノ酸配列を含むペプチドであって、該ペプチドがトロンボモジュリン活性を有するペプチドである前記〔1〕又は〔2〕に記載の医薬;
(i−1)配列番号5又は配列番号7のいずれかに記載のアミノ酸配列における第19〜480位のアミノ酸配列、又は
(i−2)上記(i−1)のアミノ酸配列の1つ又は複数のアミノ酸が置換、欠失、又は付加されたアミノ酸配列。
〔4−4〕該トロンボモジュリンが、配列番号9又は配列番号11のいずれかに記載のアミノ酸配列における第19〜516位の配列を有するペプチドである前記〔1〕又は〔2〕に記載の医薬。
【0020】
〔4−5〕該トロンボモジュリンが、下記(i−1)〜(i−3)のいずれかのペプチドであって、該ペプチドがトロンボモジュリン活性を有するペプチドである前記〔1〕又は〔2〕に記載の医薬;
(i−1)配列番号9又は配列番号11のいずれかに記載のアミノ酸配列における第19〜516位、第19〜515位、第17〜516位、もしくは第17〜515位の配列を含むペプチド、
(i−2)配列番号9又は配列番号11のいずれかに記載のアミノ酸配列における第19〜516位、第19〜515位、第17〜516位、もしくは第17〜515位の配列の1つ又は複数のアミノ酸が置換、欠失、又は付加されたアミノ酸配列を含むペプチド、又は
(i−3)上記(i−1)に記載のペプチド及び上記(i−2)に記載のペプチドからなる群から選ばれる2つ以上のペプチドの混合物。
【0021】
〔4−6〕該トロンボモジュリンが、配列番号9又は配列番号11のいずれかに記載のアミノ酸配列における第19〜516位、第19〜515位、第17〜516位、もしくは第17〜515位の配列を有するペプチド、またはそれらの混合物である前記〔1〕又は〔2〕に記載の医薬。
〔4−7〕該トロンボモジュリンが、配列番号9又は配列番号11のいずれかに記載のアミノ酸配列における第19〜516位、第19〜515位、第17〜516位、もしくは第17〜515位の配列からなるペプチド、またはそれらの混合物である前記〔1〕又は〔2〕に記載の医薬。
【0022】
〔4−8〕トロンボモジュリン活性が、下記の(1)〜(4)の性質を有する活性である前記〔4〕、〔4−2〕、〔4−3〕、又は〔4−5〕のいずれかに記載の医薬。
(1)トロンビンと選択的に結合する作用、
(2)トロンビンによるプロテインCの活性化を促進する作用、
(3)トロンビンによる凝固時間を延長する作用、及び
(4)トロンビンによる血小板凝集を抑制する作用;
〔5〕生着症候群が、皮疹、肺水腫、及び下痢からなる群から選ばれる少なくとも1つを伴う病態である前記〔1〕〜〔4−8〕のいずれかに記載の医薬。
なお、前記〔1〕〜〔4−8〕のように引用する項番号が範囲で示され、その範囲内に〔4−2〕等の枝番号を有する項が配置されている場合には、〔4−2〕等の枝番号を有する項も引用されることを意味する。以下においても同様である。
【0023】
〔5−2〕生着症候群が、38℃を超える発熱、皮疹、肺水腫、体重増加、アルブミン値の低下、呼吸困難、及び低酸素症からなる群から選ばれる少なくとも2つを伴う病態である前記〔1〕〜〔4−8〕のいずれかに記載の医薬。
〔5−3〕生着症候群が、肺水腫の病態である前記〔1〕〜〔4−8〕のいずれかに記載の医薬。
〔5−4〕生着症候群が、肺水腫及び体重増加の病態である前記〔1〕〜〔4−8〕のいずれかに記載の医薬。
【0024】
〔6〕前記〔1〕〜〔5−4〕のいずれかに記載の医薬と、免疫抑制剤及び造血器悪性腫瘍治療剤からなる群から選ばれる少なくとも1つを組み合わせてなる医薬であって、造血細胞移植に伴う生着症候群を予防及び/又は治療するための該医薬。
〔6−2〕前記〔1〕〜〔5−4〕のいずれかに記載の医薬と、免疫抑制剤とを組み合わせてなる医薬であって、造血細胞移植に伴う生着症候群を予防及び/又は治療するための該医薬。
〔6−3〕前記〔1〕〜〔5−4〕のいずれかに記載の医薬と、免疫抑制剤及び造血器悪性腫瘍治療剤とを組み合わせてなる医薬であって、造血細胞移植に伴う生着症候群を予防及び/又は治療するための該医薬。
〔6−4〕前記〔1〕〜〔5−4〕のいずれかに記載の医薬と、免疫抑制剤、造血器悪性腫瘍治療剤、ならびに造血細胞移植に伴う合併症の予防及び/又は治療剤からなる群から選ばれる少なくとも1つを組み合わせてなる医薬であって、造血細胞移植に伴う生着症候群を予防及び/又は治療するための該医薬。
【0025】
〔7〕免疫抑制剤及び造血器悪性腫瘍治療剤からなる群から選ばれる少なくとも1つと共に投与するための前記〔1〕〜〔5−4〕のいずれかに記載の医薬。
〔7−2〕免疫抑制剤と共に投与するための前記〔1〕〜〔5−4〕のいずれかに記載の医薬。
〔7−3〕免疫抑制剤及び造血器悪性腫瘍治療剤と共に投与するための前記〔1〕〜〔5−4〕のいずれかに記載の医薬。
〔7−4〕免疫抑制剤、造血器悪性腫瘍治療剤、ならびに造血細胞移植に伴う合併症の予防及び/又は治療剤からなる群から選ばれる少なくとも1つと共に投与するための前記〔1〕〜〔5−4〕のいずれかに記載の医薬。
〔7−5〕免疫抑制剤、造血器悪性腫瘍治療剤、ならびに造血細胞移植に伴う合併症の予防及び/又は治療剤と共に投与するための前記〔1〕〜〔5−4〕のいずれかに記載の医薬。
【0026】
〔8〕トロンボモジュリンを有効成分とする医薬であって、造血器悪性腫瘍における造血細胞移植に伴う造血能を改善するための該医薬。
〔9〕造血細胞移植に伴う生着症候群を予防及び/又は治療するための医薬の製造のためのトロンボモジュリンの使用。
〔9−2〕造血細胞移植に伴う生着症候群を予防及び/又は治療するための医薬の製造のためのトロンボモジュリンの使用であって、前記〔1〕〜〔7−5〕いずれかに記載の特徴を有する該使用。
〔10〕造血細胞移植に伴う生着症候群を予防及び/又は治療する方法であって、哺乳動物にトロンボモジュリンを投与する工程を含む該方法。
〔10−2〕造血細胞移植に伴う生着症候群を予防及び/又は治療する方法であって、哺乳動物にトロンボモジュリンを投与する工程を含む方法であって、前記〔1〕〜〔7−5〕のいずれかに記載の特徴を有する該方法。
【発明の効果】
【0027】
本発明のトロンボモジュリンを含有する医薬により、造血細胞移植に伴う生着症候群を予防及び/又は治療することができる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明を具体的に説明する。
本発明におけるトロンボモジュリンは、(1)トロンビンと選択的に結合して(2)トロンビンによるプロテインCの活性化を促進する作用を有することが知られている。また、(3)トロンビンによる凝固時間を延長する作用、及び/又は(4)トロンビンによる血小板凝集を抑制する作用が通常認められることが好ましい。これらトロンボモジュリンの持つ作用をトロンボモジュリン活性と呼ぶことがある。トロンボモジュリン活性としては、上記(1)および(2)の作用を有し、さらに上記(1)〜(4)の作用を全て備えていることが好ましい。
【0030】
トロンボモジュリンのトロンビンとの結合作用は、例えば、Thrombosis and Haemostasis 1993 70(3):418−422やThe Journal of Biological Chemistry 1989 Vol.264,No.9 pp.4872−4876を初めとする各種の公知文献に記載の試験方法により確認できる。トロンビンによるプロテインCの活性化を促進する作用は、例えば、特開昭64−6219号公報を初めとする各種の公知文献に明確に記載された試験方法によりプロテインCの活性化を促進する作用の活性量やその有無を容易に確認できるものである。また、トロンビンによる凝固時間を延長する作用、及び/又はトロンビンによる血小板凝集を抑制する作用についても同様に容易に確認できる。
【0031】
本発明におけるトロンボモジュリンとしては、トロンボモジュリン活性を有していれば特に限定されないが、可溶性トロンボモジュリンであることが好ましい。可溶性トロンボモジュリンの溶解性の好ましい例示としては、水、例えば注射用蒸留水に対して(トリトンX−100やポリドカノール等の界面活性剤の非存在下、通常は中性付近にて)、1mg/mL以上、または10mg/mL以上が挙げられ、好ましくは15mg/mL以上、または17mg/mL以上が挙げられ、さらに好ましくは20mg/mL以上、25mg/mL以上、または30mg/mL以上が例示され、特に好ましくは60mg/mL以上が挙げられ、場合によっては、80mg/mL以上、または100mg/mL以上がそれぞれ挙げられる。可溶性トロンボモジュリンが溶解し得たか否かを判断するに当たっては、溶解した後に、例えば白色光源の直下、約1000ルクスの明るさの位置で、肉眼で観察した場合に、澄明であって、明らかに認められるような程度の不溶性物質を含まないことが端的な指標となるものと理解される。また、濾過して残渣の有無を確認することもできる。
【0032】
本発明におけるトロンボモジュリンとしては、ヒト型のトロンボモジュリンにおいてトロンボモジュリン活性の中心部位として知られている配列番号1の第19〜132位のアミノ酸配列を包含していることが好ましく、配列番号1の第19〜132位のアミノ酸配列を包含していれば特に限定されない。該配列番号1の第19〜132位のアミノ酸配列は、トロンビンによるプロテインCの活性化を促進する作用、すなわちトロンボモジュリン活性を有する限り自然または人工的に変異していてもよく、すなわち配列番号1の第19〜132位のアミノ酸配列において1つまたは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加していても良い。許容される変異の程度は、トロンボモジュリン活性を有すれば特に限定されないが、例えばアミノ酸配列として50%以上の相同性が例示され、70%以上の相同性が好ましく、80%以上の相同性がより好ましく、90%以上の相同性がさらに好ましく、95%以上の相同性が特に好ましく、98%以上の相同性が最も好ましい。このようにアミノ酸配列の1つ又は複数のアミノ酸が置換、欠失、付加しているアミノ酸配列を相同変異配列という。これらの変異については後述の通り、通常の遺伝子操作技術を用いれば容易に取得可能である。
【0033】
配列番号3の配列は、配列番号1の第125位のアミノ酸であるValがAlaに変異したものであるが、本発明におけるトロンボモジュリンとして、配列番号3の第19〜132位のアミノ酸配列を包含していることも好ましい。
【0034】
このように本発明におけるトロンボモジュリンとしては、配列番号1もしくは配列番号3の第19〜132位の配列、またはそれらの相同変異配列を少なくとも有し、少なくともトロンボモジュリン活性を有するペプチド配列を包含していれば特に限定されないが、配列番号1もしくは配列番号3のそれぞれにおける第19〜132位もしくは第17〜132位の配列からなるペプチド、または上記配列の相同変異配列からなり少なくともトロンボモジュリン活性を有するペプチドが好ましい例として挙げられ、配列番号1もしくは配列番号3の第19〜132位の配列からなるペプチドがより好ましい。また、配列番号1もしくは配列番号3のそれぞれにおける第19〜132位もしくは第17〜132位の相同変異配列からなり少なくともトロンボモジュリン活性を有するペプチドがより好ましい別の態様もある。
【0035】
また本発明におけるトロンボモジュリンの別の態様として、配列番号5の第19〜480位のアミノ酸配列を包含していることが好ましく、配列番号5の第19〜480位のアミノ酸配列を包含していれば特に限定されない。該配列番号5の第19〜480位のアミノ酸配列は、トロンビンによるプロテインCの活性化を促進する作用、すなわちトロンボモジュリン活性を有する限りその相同変異配列であってもよい。
【0036】
配列番号7の配列は、配列番号5の第473位のアミノ酸であるValがAlaに変異したものであるが、本発明におけるトロンボモジュリンとして、配列番号7の第19〜480位のアミノ酸配列を包含していることも好ましい。
【0037】
このように本発明におけるトロンボモジュリンとしては、配列番号5もしくは配列番号7の第19〜480位の配列、またはそれらの相同変異配列を少なくとも有し、少なくともトロンボモジュリン活性を有するペプチド配列を包含していれば特に限定されないが、配列番号5もしくは配列番号7のそれぞれにおける第19〜480位もしくは第17〜480位の配列からなるペプチド、または上記配列の相同変異配列からなり少なくともトロンボモジュリン活性を有するペプチドが好ましい例として挙げられ、配列番号5もしくは配列番号7の第19〜480位の配列からなるペプチドがより好ましい。また、配列番号5もしくは配列番号7のそれぞれにおける第19〜480位もしくは第17〜480位の相同変異配列からなり少なくともトロンボモジュリン活性を有するペプチドがより好ましい別の態様もある。
【0038】
また本発明におけるトロンボモジュリンの別の態様として、配列番号9の第19〜515位のアミノ酸配列を包含していることが好ましく、配列番号9の第19〜515位のアミノ酸配列を包含していれば特に限定されない。該配列番号9の第19〜515位のアミノ酸配列は、トロンビンによるプロテインCの活性化を促進する作用、すなわちトロンボモジュリン活性を有する限りその相同変異配列であってもよい。
配列番号11の配列は、配列番号9の第473位のアミノ酸であるValがAlaに変異したものであるが、本発明におけるトロンボモジュリンとして、配列番号11の第19〜515位のアミノ酸配列を包含していることも好ましい。
【0039】
このように本発明におけるトロンボモジュリンとしては、配列番号9もしくは配列番号11の第19〜515位の配列、またはそれらの相同変異配列を少なくとも有し、少なくともトロンボモジュリン活性を有するペプチド配列を包含していれば特に限定されないが、配列番号9もしくは配列番号11のそれぞれにおける第19〜516位、第19〜515位、第17〜516位、もしくは第17〜515位の配列からなるペプチド、または上記配列の相同変異配列からなり少なくともトロンボモジュリン活性を有するペプチドがより好ましい例として挙げられ、配列番号9における第19〜516位、第19〜515位、第17〜516位、もしくは第17〜515位の配列からなるペプチドが特に好ましい。これらの混合物も好ましい例として挙げられる。また、配列番号11のそれぞれにおける第19〜516位、第19〜515位、第17〜516位、もしくは第17〜515位の配列からなるペプチドが特に好ましい別の態様もある。これらの混合物も好ましい例として挙げられる。さらにそれらの相同変異配列からなり、少なくともトロンボモジュリン活性を有するぺプチドも好ましい例として挙げられる。
【0040】
相同変異配列を有するペプチドとは、上述した通りであるが、対象とするペプチドのアミノ酸配列中1つ以上、すなわち1つまたは複数のアミノ酸、さらに好ましくは数個(例えば1から20個、好ましくは1から10個、より好ましくは1から5個、特に好ましくは1から3個)のアミノ酸が置換、欠失、付加していてもよいペプチドをも意味する。許容される変異の程度は、トロンボモジュリン活性を有すれば特に限定されないが、例えばアミノ酸配列として50%以上の相同性が例示され、70%以上の相同性が好ましく、80%以上の相同性がより好ましく、90%以上の相同性がさらに好ましく、95%以上の相同性が特に好ましく、98%以上の相同性が最も好ましい。
【0041】
さらに、本発明におけるトロンボモジュリンとしては、特開昭64−6219における配列番号14(462アミノ酸残基)からなるペプチド、配列番号8(272アミノ酸残基)からなるペプチド、または配列番号6(236アミノ酸残基)からなるペプチドも好ましい例として挙げられる。
【0042】
本発明におけるトロンボモジュリンとしては配列番号1または配列番号3の第19〜132位のアミノ酸配列を少なくとも有しているペプチドであれば特に限定されないが、その中でも配列番号5または配列番号7の第19〜480位のアミノ酸配列を少なくとも有しているペプチドであることが好ましく、配列番号9もしくは配列番号11の第19〜515位のアミノ酸配列を少なくとも有しているペプチドであることがより好ましい。配列番号9もしくは配列番号11の第19〜515位のアミノ酸配列を少なくとも有しているペプチドとしては、配列番号9もしくは配列番号11のそれぞれにおける第19〜516位、第19〜515位、第19〜514位、第17〜516位、第17〜515位、もしくは第17〜514位の配列からなるペプチドがより好ましい例として挙げられる。また、配列番号9もしくは配列番号11のそれぞれにおける第19〜516位、第19〜515位、第19〜514位、第17〜516位、第17〜515位、もしくは第17〜514位の配列からなるペプチドの、配列番号9もしくは配列番号11それぞれについての混合物もより好ましい例として挙げられる。
【0043】
上記混合物の場合、配列番号9もしくは配列番号11のそれぞれにおける第17位から始まるペプチドと第19位から始まるペプチドの混合割合としては、(30:70)〜(50:50)が例示され、(35:65)〜(45:55)が好ましい例として挙げられる。
【0044】
また、配列番号9もしくは配列番号11のそれぞれにおける第514位、第515位、及び第516位で終わるペプチドの混合割合としては、(0:0:100)〜(0:90:10)が例示され、場合によっては、(0:70:30)〜(10:90:0)、(10:0:90)〜(20:10:70)が例示される。
これらペプチドの混合割合は、通常の方法により求めることができる。
【0045】
なお、配列番号1の第19〜132位の配列は、配列番号9の第367〜480位の配列に相当し、配列番号5の第19〜480位の配列は、配列番号9の第19〜480位の配列に相当する。また、配列番号3の第19〜132位の配列は、配列番号11の第367〜480位の配列に相当し、配列番号7の第19〜480位の配列は、配列番号11の第19〜480位の配列に相当する。さらに、配列番号1、3、5、7、9、および11のそれぞれにおける第1〜18位の配列は、全て同一の配列である。
【0046】
これら本発明におけるトロンボモジュリンは後述の通り、これらのペプチドをコードするDNA(具体的には、配列番号2、配列番号4、配列番号6、配列番号8、配列番号10、または配列番号12等の塩基配列)をベクターにより宿主細胞にトランスフェクトして調製された形質転換細胞より取得することができる。
【0047】
さらに、これらのペプチドは、前記のアミノ酸配列を有すればよく、糖鎖が付いていても、また付いていなくともよく、この点は特に限定されるものではない。また遺伝子操作においては、使用する宿主細胞の種類により、糖鎖の種類や、付加位置や付加の程度は相違するものであり、いずれも用いることができる。糖鎖の結合位置および種類については、特開平11−341990号公報に記載の事実が知られており、本発明におけるトロンボモジュリンについても同様の位置に同様の糖鎖が付加する場合がある。後述の通り、遺伝子操作により取得することに特定されるものではないが、遺伝子操作により取得する場合には、発現に際して用いることができるシグナル配列としては、配列番号9の第1〜18位のアミノ酸配列をコードする塩基配列、配列番号9の第1〜16位のアミノ酸配列をコードする塩基配列、その他公知のシグナル配列、例えば、ヒト組織プラスミノゲンアクチベータのシグナル配列を利用することができる(国際公開88/9811号公報)。
【0048】
トロンボモジュリンをコードするDNA配列を宿主細胞へ導入する場合には、好ましくはトロンボモジュリンをコードするDNA配列を、ベクター、特に好ましくは、動物細胞において発現可能な発現ベクターに組み込んで導入する方法が挙げられる。発現ベクターとは、プロモーター配列、mRNAにリボソーム結合部位を付与する配列、発現したい蛋白をコードするDNA配列、スプライシングシグナル、転写終結のターミネーター配列、複製起源配列などで構成されるDNA分子であり、好ましい動物細胞発現ベクターの例としては、Mulligan RCら[Proc Natl Acad Sci USA 1981;78:2072−2076]が報告しているpSV2−Xや、Howley PMら[Methods in Emzymology 1983;101:387−402、Academic Press]が報告しているpBP69T(69−6)などが挙げられる。
【0049】
これらのペプチドを製造するに際して用いることのできる宿主細胞としては、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、COS−1細胞、COS−7細胞、VERO(ATCC CCL−81)細胞、BHK細胞、イヌ腎由来MDCK細胞、ハムスターAV−12−664細胞等が、またヒト由来細胞としてHeLa細胞、WI38細胞、ヒト293細胞が挙げられる。CHO細胞が極めて一般的であり好ましく、CHO細胞においては、DHFR−CHO細胞がさらに好ましい。
【0050】
また、遺伝子操作の過程やペプチドの製造過程において、大腸菌等の微生物も多く使われ、それぞれに適した宿主−ベクター系を使用することが好ましく、上述の宿主細胞においても、適宜のベクター系を選択することができる。遺伝子組換え技術に用いるトロンボモジュリンの遺伝子は、クローニングされており、そしてトロンボモジュリンの遺伝子組換え技術を用いた製造例が開示されており、さらにはその精製品を得るための精製方法も知られている[特開昭64−6219号公報、特開平2−255699号公報、特開平5−213998号公報、特開平5−310787号公報、特開平7−155176号公報、J Biol Chem 1989;264:10351−10353]。したがって本発明で用いるトロンボモジュリンは、上記の報告に記載されている方法を用いることにより、あるいはそれらに記載の方法に準じることにより製造することができる。例えば特開昭64−6219号公報では、全長のトロンボモジュリンをコードするDNAを含むプラスミドpSV2TMJ2を含む、Escherichia coli K−12 strain DH5(ATCC寄託番号67283号)が開示されている。また、この菌株を生命研(現独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター)の菌株(Escherichia coli DH5/pSV2TM J2)(FERM BP−5570)を用いることもできる。この全長のトロンボモジュリンをコードするDNAを原料として、公知の遺伝子操作技術によって、本発明のトロンボモジュリンを調製することができる。
【0051】
本発明に用いられるトロンボモジュリンは、従来公知の方法またはそれに準じて調製すればよいが、例えば、前記山本らの方法[特開昭64−6219号公報]、または特開平5−213998号公報を参考にすることができる。すなわちヒト由来のトロンボモジュリン遺伝子を遺伝子操作技術により、例えば、配列番号9のアミノ酸配列をコードするDNAとなし、さらに必要に応じた改変を行うことも可能である。この改変としては、例えば、配列番号11のアミノ酸配列をコードするDNA(具体的には、配列番号12の塩基配列よりなる)となすために、配列番号9の第473位のアミノ酸をコードするコドン(特に、配列番号10の第1418位の塩基)に、Zoller MJら[Methods in Enzymology 1983;100:468−500、Academic Press]の方法に従って、部位特異的変異を行う。例えば、配列番号10の第1418位の塩基Tは、配列番号13に示された塩基配列を有する変異用合成DNAを用いて塩基Cに変換したDNAとなすことができる。
【0052】
このようにして調製したDNAを、例えばチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞に組み込んで、形質転換細胞とし、適宜選択し、この細胞を培養して得た培養液から、公知の方法により精製されたトロンボモジュリンが製造できる。前述の通り配列番号9のアミノ酸配列をコードするDNA(配列番号10)を前記宿主細胞にトランスフェクトすることが好ましい。本発明に用いられるトロンボモジュリンの生産方法は、上記の方法に限定されるものではなく、例えば、尿や血液、その他体液等から抽出精製することでも可能であるし、またトロンボモジュリンを生産する組織またはこれら組織培養液等から抽出精製することも、また必要によりさらに蛋白分解酵素により切断処理することも可能である。
上記細胞培養方法により本発明におけるトロンボモジュリンを製造する場合、タンパク質の翻訳後修飾により、N末端アミノ酸に多様性が認められる場合がある。例えば、配列番号9における第17位、18位、19位、もしくは22位のアミノ酸がN末端となる場合がある。また、例えば第22位のグルタミン酸がピログルタミン酸に変換されるように、N末端アミノ酸が修飾される場合もある。第17位または19位のアミノ酸がN末端となることが好ましく、第19位のアミノ酸がN末端となることがより好ましい。また、第17位のアミノ酸がN末端となることが好ましい別の態様もある。以上の修飾や多様性等については配列番号11についても同様な例が挙げられる。
【0053】
さらに、配列番号10の塩基配列を有するDNAを用いて可溶性トロンボモジュリンを製造する場合、C末端アミノ酸の多様性が認められることがあり、1アミノ酸残基短いペプチドが製造される場合がある。すなわち、第515位のアミノ酸がC末端となり、さらに該第515位がアミド化されるといったように、C末端アミノ酸が修飾される場合がある。また、2アミノ酸残基短いペプチドが製造される場合もある。すなわち、第514位のアミノ酸がC末端となる場合がある。したがって、N末端アミノ酸とC末端アミノ酸が多様性に富んだペプチド、又はそれらの混合物が製造されることがある。第515位のアミノ酸又は第516位のアミノ酸がC末端となることが好ましく、第516位のアミノ酸がC末端となることがより好ましい。また、第514位のアミノ酸がC末端になることが好ましい別の態様もある。以上の修飾や多様性等については配列番号12の塩基配列を有するDNAについても同様である。
【0054】
上記方法で得られるトロンボモジュリンは、N末端及びC末端に多様性が認められるペプチドの混合物である場合がある。具体的は、配列番号9における第19〜516位、第19〜515位、第19〜514位、第17〜516位、第17〜515位、もしくは第17〜514位の配列からなるペプチドの混合物が挙げられる。
【0055】
次いで上記により取得された培養上清、または培養物からのトロンボモジュリンの単離精製方法は、公知の手法[堀尾武一編集、蛋白質・酵素の基礎実験法、1981]に準じて行うことができる。例えば、トロンボモジュリンと逆の電荷を持つ官能基を固定化したクロマトグラフィー担体と、トロンボモジュリンの間の相互作用を利用したイオン交換クロマトグラフィーや吸着クロマトグラフィーの使用も好ましい。また、トロンボモジュリンとの特異的親和性を利用したアフィニティークロマトグラフィーも好ましい例として挙げられる。吸着体の好ましい例として、トロンボモジュリンのリガンドであるトロンビンやトロンボモジュリンの抗体を利用する例が挙げられる。この抗体としては、適宜の性質、あるいは適宜のエピトープを認識するトロンボモジュリンの抗体を利用することができ、例えば、特公平5−42920号公報、特開昭64−45398号公報、特開平6−205692号公報などに記載された例が挙げられる。また、トロンボモジュリンの分子量サイズを利用した、ゲル濾過クロマトグラフィーや限外濾過が挙げられる。そしてまた、疎水性基を固定化したクロマトグラフィー担体と、トロンボモジュリンのもつ疎水性部位との間の疎水結合を利用した疎水性クロマトグラフィーが挙げられる。また、吸着クロマトグラフィーとしてハイドロキシアパタイトを担体として用いることも可能であり、例えば、特開平9−110900号公報に記載した例が挙げられる。これらの手法は適宜組み合わせることができる。精製の程度は、使用目的等により選択できるが、例えば電気泳動、好ましくはSDS−PAGEの結果が単一バンドとして得られるか、もしくは単離精製品のゲル濾過HPLCまたは逆相HPLCの結果が単一のピークになるまで純粋化することが望ましい。もちろん、複数種のトロンボモジュリンを用いる場合には、実質的にトロンボモジュリンのみのバンドになることが好ましいのであり、単一のバンドになることを求めるものではない。
【0056】
本発明における精製法を具体的に例示すれば、トロンボモジュリン活性を指標に精製する法が挙げられ、例えばイオン交換カラムのQ−セファロースFast Flowで培養上清または培養物を粗精製しトロンボモジュリン活性を有する画分を回収し、ついでアフィニティーカラムのDIP−トロンビン−アガロース(diisopropylphosphorylthrombin agarose)カラムで主精製しトロンボモジュリン活性が強い画分を回収し、回収画分を濃縮し、ゲル濾過にかけトロンボモジュリン活性画分を純品として取得する精製方法[Gomi K et al、Blood 1990;75:1396−1399]が挙げられる。指標とするトロンボモジュリン活性としては、例えばトロンビンによるプロテインC活性化の促進活性が挙げられる。その他に、好ましい精製法を例示すると以下の通りである。
【0057】
トロンボモジュリンと良好な吸着条件を有する適当なイオン交換樹脂を選定し、イオン交換クロマト精製を行う。特に好ましい例としては、0.18mol/L NaClを含む0.02mol/Lトリス塩酸緩衝液(pH7.4)で平衡化したQ−セファロースFast Flowを用いる方法である。適宜洗浄後、例えば0.3mol/L NaCl含む0.02mol/Lトリス塩酸緩衝液(pH7.4)で溶出し粗精製品のトロンボモジュリンを得ることができる。
【0058】
次に、例えばトロンボモジュリンと特異的親和性を持つ物質を樹脂に固定化しアフィニティークロマト精製を行うことができる。好ましい例としてDIP−トロンビン−アガロースカラムの例と、抗トロンボモジュリンモノクローナル抗体カラムの例が挙げられる。DIP−トロンビン−アガロースカラムは、予め、例えば、100mmol/L NaClおよび0.5mmol/L塩化カルシウムを含む20mmol/Lトリス塩酸緩衝液(pH7.4)で平衡化せしめ、上記の粗精製品をチャージして、適宜の洗浄を行い、例えば、1.0mol/L NaClおよび0.5mmol/L塩化カルシウムを含む20mmol/Lトリス塩酸緩衝液(pH7.4)で溶出し精製品のトロンボモジュリンを取得することができる。また抗トロンボモジュリンモノクローナル抗体カラムにおいては、予めCNBrにより活性化したセファロース4FF(GEヘルスケアバイオサイエンス社)に、抗トロンボモジュリンモノクローナル抗体を溶解した0.5mol/L NaCl含有0.1mol/L NaHCO3緩衝液(pH8.3)に接触させ、セファロース4FFに抗トロンボモジュリンモノクローナル抗体をカップリングさせた樹脂を充填したカラムを、予め例えば0.3mol/L NaCl含む20mmol/Lリン酸塩緩衝液(pH7.3)で平衡化し、適宜の洗浄の後、例えば、0.3mol/L NaCl含む100mmol/Lグリシン塩酸緩衝液(pH3.0)にて溶出せしめる方法が例示される。溶出液は適当な緩衝液で中和し、精製品として取得することもできる。
【0059】
次に得られた精製品をpH3.5に調整した後に、0.3mol/L NaClを含む100mmol/Lグリシン塩酸緩衝液(pH3.5)で平衡化した陽イオン交換体、好ましくは強陽イオン交換体であるSP−セファロースFF(GEヘルスケアバイオサイエンス社)にチャージし、同緩衝液で洗浄して得られた非吸着画分を得る。得られた画分は適当な緩衝液で中和し、高純度精製品として取得することができる。これらは、限外濾過により濃縮することが好ましい。
【0060】
さらに、ゲル濾過による緩衝液交換を行うことも好ましい。例えば、50mmol/L NaClを含む20mmol/Lリン酸塩緩衝液(pH7.3)で平衡化せしめたSephacryl S−300カラムもしくはS−200カラムに、限外濾過により濃縮した高純度精製品をチャージし、50mmol/L NaClを含む20mmol/Lリン酸塩緩衝液(pH7.3)で展開分画し、トロンビンによるプロテインC活性化の促進活性の確認を行って活性画分を回収し、緩衝液交換した高純度精製品を取得することができる。このようにして得られた高純度精製品は安全性を高めるために適当なウイルス除去膜、例えばプラノバ15N(旭化成メディカル株式会社)を用いて濾過することが好ましく、その後限外濾過により目的の濃度まで濃縮することができる。最後に無菌濾過膜により濾過することが好ましい。
【0061】
本発明において、造血細胞移植としては、上述した通り造血器悪性腫瘍の治療や、先天性免疫不全症、先天性代謝異常症、および固形腫瘍の大量化学療法や放射線療法の最大の副作用である骨髄抑制の救援療法が具体的な例として挙げられる。本発明の医薬も、上述した造血細胞移植に用いることができる。
【0062】
本発明における造血細胞移植方法としては、1)ドナーから採取した骨髄細胞を患者に輸注する、2)G−CSFを投与したドナーから末梢血を採取し、CD34陽性細胞だけを取り出して患者に輸注する、または3)凍結された臍帯血を解凍して患者に輸注する、のいずれかの方法が好ましい例として挙げられる。
【0063】
本発明におけるドナーとしては、造血器悪性腫瘍患者自身、ヒト白血球抗原(Human leukocyte antigen:HLA)が一致あるいはほぼ一致する造血器悪性腫瘍患者の近親者、HLAが一致あるいはほぼ一致する第三者を選択する方法が好ましい例として挙げられる。
【0064】
本発明の医薬の一態様は、生着症候群を予防及び/又は治療することができる。生着症候群は造血幹細胞移植後の造血細胞が生着するまでの期間に、発熱、紅斑様の皮疹、非心原性肺水腫をはじめとする症状を呈する病態である。造血細胞移植が生着するまでの期間としては、生着が確認された日から例えば7日前までの期間が挙げられる。
【0065】
本発明における生着症候群は、皮疹、肺水腫(以下、肺浸潤と呼ばれることもある)、及び下痢からなる群から選ばれる少なくとも1つを伴う病態であれば特に限定されないが(Maiolinoらの診断基準;Maiolino A et al、Bone MarrowTransplant 2003;31:393−7)、肺水腫の病態であることが好ましい。
【0066】
また、本発明における生着症候群の一態様として、38℃を超える発熱、皮疹、肺水腫、体重増加、アルブミン値の低下、呼吸困難、及び低酸素症からなる群から選ばれる少なくとも2つを伴う病態が挙げられる(Schmid I、Biol Blood Marrow Transplant 2008;14:438−44)。その中でも、肺水腫及び体重増加であることが好ましい。
【0067】
さらに、本発明における生着症候群の一態様として、Spitzerの診断基準(Spitzer TR、Bone Marrow Transplant 2001;27:893−8)、すなわち大基準および小基準に基づく診断される病態が挙げられる。大基準としては、1)非感染性の38.3℃以上の発熱、2)体表面積の25%以上にわたる非薬剤性の紅斑様の皮疹、3)広範な肺浸潤影を呈し、低酸素血症を伴う非心原生肺水腫があり、小基準として1)総ビリルビン2mg/dl以上またはトランスアミナーゼの正常値の2倍以上の上昇を伴う肝機能障害、2)腎機能障害(血清クレアチニンの2倍以上の上昇)、3)2.5%以上の体重増加、4)原因不明の一過性脳症がある。上記の大基準3つ、あるいは大基準2つと小基準1つ以上を満たす病態の場合に生着症候群であると診断される。
【0068】
肺水腫は、肺の実質(気管支、肺胞)に水分が漏出して貯留した状態を指し、水分により呼吸が障害され、呼吸不全に陥る。肺の毛細血管は、ガス交換のために元々小さな穴が開いており、血漿が血管外に漏出して灌流することにより、周囲の細胞に酸素や栄養分を補給し、老廃物を回収している。正常な状態では漏出する量と血管に戻る量はつり合っているが、何らかの原因でバランスが崩れて漏出する量が上回る状態が続くと肺胞や気管支に水分が貯留する。肺水腫では、呼吸困難、ピンク色の痰、発汗、チアノーゼ、湿性ラ音の聴診などが認められ、最終的に呼吸不全や心不全で死亡する。
【0069】
肺水腫は、その原因から心原性肺水腫と非心原性肺水腫に大別される。心原性肺水腫は、心筋梗塞などによって心臓の左心室から全身へ血液を送り出す力が低下して毛細血管の内圧が上昇し、水分が血管外に漏出する。非心原性肺水腫は、重症肺炎、敗血症、重症外傷、肝硬変、ネフローゼ、および薬物中毒などに続発し、血漿膠質浸透圧の低下(アルブミンの減少)や血管透過性の亢進によって起こる。
【0070】
本発明における肺水腫としては、呼吸困難、低酸素血症、ピンク色の痰、発汗、チアノーゼの少なくとも1つの症状が挙げられる。肺水腫の症状であることは、例えば胸部X線撮影や聴診によって確認することができる。肺水腫の改善は、例えば胸部X線の透過性が低下した肺野(浸潤影)の減少、動脈酸素分圧の上昇、聴診で水泡性ラ音を認める肺野の減少によって確認することができる。
【0071】
本発明における体重増加としては、例えば生着前後で2.5%以上増加していることが挙げられる。体重増加は、体重計を用いた経時的な測定により診断することができる。
本発明における発熱としては、例えば体温が38℃を超えた状態であることが挙げられる。体温は、例えば直腸温、口腔温、腋窩温、鼓膜温の少なくともいずれかを1つを測定すればよく、それぞれの部位の測定に応じた体温計またはサーモグラフィーを用いて測定することができる。
【0072】
本発明における皮疹としては、例えば体表面積の25%以上にわたる非薬剤性の紅斑様の皮疹が挙げられる。皮疹の診断としては、視診、触診、生検により診断することができる。
【0073】
本発明におけるアルブミン値の低下としては、血清のアルブミンが低下した状態を指し、造血細胞移植後の患者から採血し分離した血清中のアルブミン濃度を測定することにより診断することができる。低下したアルブミン値としては、血清アルブミン値が3.0mg/dL未満が例示され、2.5mg/dL未満が好ましい例として挙げられる。血清アルブミンの測定方法は、特に限定されるものではないが、ブロムクレゾールグリーン(BCG)法、ブロムクレゾールパープル(BCP)法、BCP改良法が好ましい例として挙げられ、BCP改良法がより好ましい。
【0074】
本発明における呼吸困難としては、呼吸に際して苦しさや努力感などの自覚症状があれば特に限定されない。造血細胞移植後に患者が呼吸困難の症状を自覚すれば診断可能である。
【0075】
本発明における低酸素症としては、動脈血中の酸素分圧が70mmHg(Torr)以下の状態が例示され、60mmHg(Torr)が好ましい例として挙げられる。動脈血酸素分圧は、動脈から採取した血液を血液ガス分析装置により測定可能である。採取する動脈としては、上腕動脈、大腿動脈、または橈骨動脈が例示されるがこれに限定されるものではない。
【0076】
本発明におけるチアノーゼとしては、血液中の酸素濃度が低下に伴って皮膚や粘膜が青紫色を呈する状態を指し、視診により診断可能である。
【0077】
本発明における移植造血細胞の生着としては、造血細胞移植において導入された細胞が骨髄に生着することが挙げられ、骨髄像は、導入した造血細胞が特定の時点でどの程度生存しているかを示す1つの指標として挙げられる。
【0078】
移植造血細胞の生着改善を示す指標としては、骨髄像における有核細胞数および巨核球数で評価することができる。骨髄像の有核細胞数の下限としては10万/μL以上が好ましく、上限としては25万/μL以下が好ましい。巨核球数の下限としては50/μL以上が好ましく、上限としては150/μL以下が好ましい。骨髄像の有核細胞数および巨核球数を上記の範囲までに回復する時期としては、移植後6ヶ月が好ましく、移植後3ヶ月がより好ましく、移植後1ヶ月がさらに好ましい態様として挙げられる。
【0079】
また、移植造血細胞の生着改善を示す指標として、末梢血好中球数が500/μL以上に到達するまでの期間を評価することも好ましい。骨髄移植の場合、到達期間の上限としては28日以下がこのましく、21日以下がより好ましい。下限としては特に制限されるものではないが、14日以上が好ましい。また、臍帯血移植の場合、到達期間の上限としては42日以下がこのましく、35日以下がより好ましい。下限としては特に制限されるものではないが、14日以上が好ましい。移植造血細胞の生着率を上記の範囲にすることも、移植造血細胞の生着率を改善することの好ましい態様として挙げられる。
【0080】
本発明における移植造血細胞の生存期間としては、具体的には、下限としては1ヶ月以上が好ましく、3ヶ月以上がより好ましく、6ヶ月以上がさらに好ましく、1年以上が特に好ましく、3年以上が最も好ましく、上限としては限定されることはないが、10年以下が好ましい。移植造血細胞の生存期間を上記の範囲にすることも、移植造血細胞の生存期間を延長することの好ましい態様として挙げられる。
【0081】
本発明における移植の回数としては、具体的には上限として、3回以下が好ましく、2回以下がより好ましく、1回が最も好ましい。また、下限としては、限定されることはないが、1回以上が好ましい。また、再移植がないのが最も好ましい。
本発明における末梢血血球数としては、全血中の赤血球数、白血球数、および血小板数が挙げられる。また、末梢血血球数を正常化することとしては、造血器作成腫瘍の病状が改善されていると判断できる状態に末梢血血球数を上昇させることであれば特に限定されない。
【0082】
正常化された末梢血血球数は、移植後通常全血中の赤血球数、白血球数、および血小板数によって例示される。末梢血赤血球数の下限としては、男性の場合360万/μL以上が好ましく、380万/μL以上がより好ましく、400万/μL以上がさらに好ましい。また、末梢血赤血球数の上限としては580万/μL以下が好ましく、540万/μL以下がよりこのましい。一方、女性の場合の末梢血赤血球数の下限としては、330万/μL以上が好ましく、360万/μL以上がより好ましい。末梢血赤血球数の上限としては、520万/μL以下が好ましく、490万/μL以下がより好ましい。
【0083】
末梢血白血球数の下限としては、4,000/μL以上が好ましい。また末梢血白血球数の上限としては14,000/μL以下が好ましい。末梢血血小板数の下限としては8万/μL以上が好ましく、12万/μL以上がより好ましく、15万/μL以上が最も好ましい。また、末梢血血小板数の上限としては、50万/μL以下が好ましく、35万/μL以下がより好ましい。末梢血血球数を上記の範囲までに回復する時期としては、移植後6ヶ月が好ましく、移植後3ヶ月がより好ましく、移植後1ヶ月がさらに好ましい。末梢血血球数を上記の範囲にすることも、末梢血血球数を正常化することの好ましい態様として挙げられる。
【0084】
本発明の医薬は、造血細胞移植を受ける患者または造血細胞移植を受けた患者に投与することができる。すなわち、本発明の医薬が患者に投与されるタイミングとしては、造血細胞移植を受ける前であっても造血細胞移植を受けた後であってもよい。造血細胞移植を受ける患者に医薬を投与する場合、造血細胞移植を受ける前に医薬を患者に投与すればよく、造血細胞移植の前処置を開始するまでに医薬を投与することが好ましい。また、造血細胞移植を受けた患者に医薬を投与する場合、造血細胞移植を受けた後に医薬を患者に投与すればよく、それぞれの合併症の診断基準を満たした時点までに医薬を投与することが好ましい。さらに、本発明の医薬は、造血細胞移植中の患者に投与することができる。この場合、造血細胞移植を行うのと同時に患者に投与すればよい。
【0085】
また、本発明の医薬が投与される患者としては、造血細胞移植を受ける患者または造血細胞移植を受けた患者、さらには造血細胞移植中の患者であれば特に限定されないが、造血器悪性腫瘍患者であることが好ましい。
【0086】
造血細胞移植としては、造血器悪性腫瘍に対して施す造血細胞移植、すなわち造血器悪性腫瘍における造血細胞移植であることが好ましい。
【0087】
本発明における造血器悪性腫瘍患者としては、造血能が高度に障害された造血器悪性腫瘍患者であれば特に限定されないが、白血病、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫またはそれらの類縁疾患を罹患した患者が具体的な例として挙げられ、急性白血病患者が好ましい例として挙げられる。また、慢性白血病患者が好ましい場合もある。造血能が高度に障害された指標として、末梢血または骨髄中に異常細胞が認められる状態が例示される。異常細胞の有無は、例えば採血または骨髄穿刺で得られた末梢血または骨髄液から塗沫標本を作製し顕微鏡で観察することにより評価することができる。
【0088】
本発明の医薬の一態様は、造血細胞移植を受ける造血器悪性腫瘍患者または造血細胞移植を受けた造血器悪性腫瘍患者に投与されることにより、造血細胞移植に伴う造血能を改善することができる。
【0089】
造血能の改善の程度は、末梢血の血球数を測定することにより確認することができる。末梢血血球数は、電気抵抗法、光学的測定法、あるいは電気抵抗法と光学的測定法を利用した測定装置により測定可能である。また、血球計算盤を用いた用手法による測定も可能である。
【0090】
本発明の医薬の一態様は、造血細胞移植を受ける造血器悪性腫瘍患者または造血細胞移植を受けた造血器悪性腫瘍患者に投与されることにより、造血器悪性腫瘍を治療及び/又は改善することができる。
【0091】
造血器悪性腫瘍の治療及び/又は改善の程度は、1)骨髄中の異常細胞数を計測することにより確認することができる。また、遺伝子異常が明らかとなっている造血器悪性腫瘍の場合には、Fluorescence in situ hybridization(FISH)法やPolymerase chain reaction(PCR)法を適宜組み合わせて確認することができる。
【0092】
本発明の医薬は、有効成分としてトロンボモジュリンを含有していれば特に限定されることはなく、必要に応じて造血細胞移植患者に使用される医薬を単一または複数の製剤として製造して使用することもできる。すなわち、本発明により、トロンボモジュリン、並びに免疫抑制剤及び造血器悪性腫瘍治療剤からなる群から選ばれる少なくとも1つを組み合わせてなる医薬であって、造血細胞移植に伴う生着症候群を予防及び/又は治療するための該医薬、造血細胞移植に伴う造血能を改善するための該医薬、造血器悪性腫瘍を治療及び/又は改善するための該医薬が提供される。トロンボモジュリンと、免疫抑制剤及び造血器悪性腫瘍治療剤からなる群から選ばれる少なくとも1つを組み合わせてなる医薬としては、トロンボモジュリン及び免疫抑制剤を組み合わせてなる医薬であることが好ましい。また、トロンボモジュリンと、免疫抑制剤及び造血器悪性腫瘍治療剤を組み合わせてなる医薬であることが好ましい別の態様もある。
【0093】
また、本発明により、トロンボモジュリンと、免疫抑制剤、造血器悪性腫瘍治療剤、ならびに造血細胞移植に伴う合併症の予防及び/又は治療剤からなる群から選ばれる少なくとも1つを組み合わせてなる医薬であって、造血細胞移植に伴う生着症候群を予防及び/又は治療するための該医薬、造血細胞移植に伴う造血能を改善するための該医薬、造血器悪性腫瘍を治療及び/又は改善するための該医薬が提供される。
【0094】
上記免疫抑制剤としては、副腎皮質ステロイド、アルカロイド系薬剤、カルシニューリン阻害剤、サイクリン依存性カイネース阻害剤、抗胸腺細胞グロブリン、抗リンパ球グロブリン、抗サイトカイン抗体、抗CD抗体などが包含される。これらの薬剤として、プレドニソロン、メチルプレドニソロン、ハイドロコルチゾン、トリアムシノロン、ベタメタゾン、デキザメタゾン、シクロスポリン、タクロリムス、シロリムス、ラパマイシン、アトガム、Muromonab−CD3、バシリキシマブ、ダクリズマブ、インフリキシマブ、エタネルセプト、アダリムマブ、トシリズマブ、グスペリムスが例示され、タクロリムス、シロリムス、ラパマイシン、シクロスポリンが好ましいがこれらに限定されるものではない。さらにまた、後述する代謝拮抗剤やアルキル化剤を免疫抑制剤として使用する例も好ましい例として挙げられることができ、メトトレキセート、シタラビン、ミコフェノール酸も好ましいがこれらに限定されるものではない。
【0095】
また、上記造血器悪性腫瘍治療剤としては、化学療法剤を含む造血器悪性腫瘍の治療に用いる薬剤であり、DNAまたはRNAポリメラーゼ阻害剤、代謝拮抗剤、抗悪性腫瘍酵素、アルキル化剤、微小管重合阻害剤、ホルモン療法剤、分子標的剤などが包含される。これらの薬剤として、ドキソルビシン、ダウノルビシン、イダルビシン、アクラルビシン、エトポシド、メトトレキセート、シタラビン、クラドリビン、ミコフェノール酸、ミゾリビン、アザチオプリン、マイトマイシンC、L−アスパラギナーゼ、シクロフォスファミド、ブスルファン、メルファラン、ビンクリスチン、ビンブラスチン、フィルグラスチム、レノグラスチム、ナルトグラスチム、トレチノイン(All−Trans Retinoic Acid:ATRA)、リツキシマブ、オファツムマブ、アレムツズマブ、ゲムツズマブ・オゾガマイシン、131−Iトシツモマブ、90−Yイブリツモマブ・チウキセタン、ダクリズマブ、IDEC−114、KW−0761が例示されるが、これらに限定されるものではない。これらの薬剤は、造血器悪性腫瘍の病型に応じて単独あるいは適宜組み合わせて使用される。
【0096】
さらにまた、造血細胞移植に伴う合併症の予防及び/又は治療剤としては、抗リンパ球グロブリン、ステロイド、ミコフェノール酸、C1エステラーゼインヒビター濃縮物、フロセミド、トラセミド、アゾセミド、ピレタニド、ヒドロクロロサイアザイド、トリクロルメチアジド、インダパミド、クロルタリドン、スピノラクトン、カンレノ酸、エプレレノン、アセタゾラミド、ドパミン、アミノフィリン、カルペリチドなどが例示され、ステロイド、ミコフェノール酸が好ましいがこれらに限定されるものではない。
【0097】
本発明の、トロンボモジュリンと、免疫抑制剤及び造血器悪性腫瘍治療剤からなる群から選ばれる少なくとも1つとを組み合わせてなる医薬は、それぞれの成分が一つにまとめられて混合された配合剤の状態であってもよく、また、それぞれの成分が混合されておらず、複数の容器から別々に投与できる非混合的な組み合わせの状態であってもよい。
【0098】
本発明で用いる造血細胞移植の前処置としては、前述の造血器悪性腫瘍治療剤に加えて放射線療法を適宜組み合わせて実施する。放射線療法の照射法として、Source axis distance(SAD)、Source skin distance(SSD)、Sweeping beam、ビーム移動法、治療寝台移動法が例示される。TBIの線量と投与スケジュールとして、1回照射法あるいは分割照射法が例示される。1回照射法では10〜12Gy、分割照射法では1回あたり2Gyを6日で12Gy、1回2.25Gyを7日で15.75Gy、1回1.8Gyを1日2ないし3回で合計15Gy程度、1回2〜3Gyを1日1〜2回で合計12Gyといった方法が例示されるがこれらに限定されるものではない。TBIの線量率として、5〜15cGy/minが例示される。また、さらに、ミニ移植と呼ばれる放射線療法を行わない前処置として、フルダラビン、クラドリビン、抗胸腺グロブリンを適宜組み合わせて使用することが例示されるが、これらに限定されるものではない。
【0099】
本発明のトロンボモジュリンと、免疫抑制剤及び造血器悪性腫瘍治療剤からなる群から選ばれる少なくとも1つを組み合わせてなる医薬は、トロンボモジュリンと、免疫抑制剤及び造血器悪性腫瘍治療剤からなる群から選ばれる少なくとも1つの各活性成分の完全な混合物として同時に患者に投与することができる。また、本発明の該医薬におけるトロンボモジュリンと、免疫抑制剤及び造血器悪性腫瘍治療剤からなる群から選ばれる少なくとも1つは、別々の成分として同時あるいは逐次に患者に投与することができる。
【0100】
例えば、トロンボモジュリンおよび免疫抑制剤を組み合わせてなる医薬の場合、逐次に投与する際には、トロンボモジュリンおよび免疫抑制剤の投与順序は問わないが、トロンボモジュリンの次に免疫抑制剤を投与することが好ましい。また、免疫抑制剤の次にトロンボモジュリンを投与するという好ましい別の態様もある。トロンボモジュリンは、造血細胞移植前または造血細胞移植後、あるいは造血細胞移植中に投与することもできるが、造血細胞移植前または造血細胞移植後に投与することが好ましく、造血細胞移植後に投与することがより好ましい。また、造血細胞移植前に投与することがより好ましい別の態様もある。さらに、造血細胞移植中に投与することがより好ましい場合もある。免疫抑制剤は、造血細胞移植中または造血細胞移植後に投与することが好ましい。投与順序または投与部位は、対象となる患者の状態に応じて適宜変化させることが可能である。
【0101】
本発明の医薬は、免疫抑制剤及び造血器悪性腫瘍治療剤からなる群から選ばれる少なくとも1つと共に投与することにより、造血細胞移植に伴う生着症候群を予防及び/又は治療することができる。免疫抑制剤としては、免疫抑制剤として例示された上記医薬が例示され、造血器悪性腫瘍治療剤としては、造血器悪性腫瘍治療剤として例示された上記医薬が例示される。
【0102】
具体的には、免疫抑制剤と共に本発明の医薬を投与することができる。また、造血器悪性腫瘍治療剤と共に本発明の医薬を投与することができる。さらには、免疫抑制剤及び造血器悪性腫瘍治療剤と共に本発明の医薬を投与することができる。
【0103】
また、例えばトロンボモジュリン、免疫抑制剤、および造血器悪性腫瘍治療薬とを組み合わせてなる医薬の場合、逐次に投与する際には、造血器悪性腫瘍治療薬の投与順序は、造血器悪性腫瘍治療薬が造血細胞移植前または造血細胞移植後に投与されれば特に限定されないが、トロンボモジュリンおよび免疫抑制剤の投与後に造血器悪性腫瘍治療薬を投与することが好ましい。また、造血器悪性腫瘍治療薬の投与後にトロンボモジュリンおよび免疫抑制剤を投与するのが好ましい別の態様もある。造血器悪性腫瘍治療薬は、造血細胞移植前または造血細胞移植後、あるいは造血細胞移植中に投与することもできるが、造血細胞移植前または造血細胞移植後に投与することが好ましい。投与順序または投与部位は、対象となる患者の状態に応じて適宜変化させることが可能である。
【0104】
さらに、例えばトロンボモジュリンと、免疫抑制剤、造血器悪性腫瘍治療薬、ならびに造血細胞移植に伴う合併症の予防及び/又は治療剤とを組み合わせてなる医薬の場合、逐次に投与する際には、造血細胞移植に伴う合併症の予防及び/又は治療剤の投与順序は、造血細胞移植に伴う合併症の予防及び/又は治療剤が造血細胞移植前または造血細胞移植後に投与されれば特に限定されないが、トロンボモジュリン、免疫抑制剤、および造血器悪性腫瘍治療薬の投与後に造血細胞移植に伴う合併症の予防及び/又は治療剤を投与することが好ましい。また、造血細胞移植に伴う合併症の予防及び/又は治療剤の投与後にトロンボモジュリン、免疫抑制剤、および造血器悪性腫瘍治療薬を投与するのが好ましい別の態様もある。造血細胞移植に伴う合併症の予防及び/又は治療剤は、造血細胞移植前または造血細胞移植後、あるいは造血細胞移植中に投与することもできるが、造血細胞移植後に投与することが好ましい。投与順序または投与部位は、対象となる患者の状態に応じて適宜変化させることが可能である。
【0105】
本発明の医薬は、担体を含有することができる。本発明で用いることのできる担体としては、水溶性の担体が好ましく、例えば、ショ糖、グリセリン等や、その他の無機塩のpH調整剤等を添加剤として加えて調製することができる。さらに必要に応じて、特開平1−6219号公報および特開平6−321805号公報に開示される通り、アミノ酸、塩類、糖質、界面活性剤、アルブミン、ゼラチン等を添加しても良いし、また、防腐剤を添加することも好ましく、例えば、パラ安息香酸エステル類が好ましい例として挙げられ、パラ安息香酸メチルが特に好ましい例として挙げられる。防腐剤の添加量は、通常0.01〜1.0%(重量%を示す、以下同じ)が例示され、好ましくは0.1〜0.3%が挙げられる。これらの添加方法は特に限定されないが、凍結乾燥とする場合には、通常行われるように、例えば、免疫抑制剤、造血器悪性腫瘍治療薬から選ばれる少なくとも1つを含有する溶液とトロンボモジュリン含有溶液を混合した後、添加物を添加混合する方法や、またはあらかじめ添加物を水、注射用蒸留水あるいは適当な緩衝液に溶解した免疫抑制剤、造血器悪性腫瘍治療薬から選ばれる少なくとも1つに混合した後、トロンボモジュリン含有溶液を添加混合にする方法にて溶液を調製し、凍結乾燥する方法が挙げられる。本発明の医薬が各医薬成分を組み合わせてなる医薬である場合には、各医薬は、適宜の製造方法により担体を添加して製造することが好ましい。本発明の医薬としては、注射液の形態で提供されても、また凍結乾燥製剤を使用時に溶解して使用する形態で提供されてもよい。
【0106】
製剤化工程においては、アンプルまたはバイアルに、水、注射用蒸留水あるいは適当な緩衝液1mLあたり0.05〜15mg、好適には0.1〜5mgのトロンボモジュリンと、抗血小板剤、抗血液凝固剤、または血栓溶解剤の何れか1つと上記添加物を含有する溶液を、例えば0.5〜10mL充填した後に凍結し、減圧下のもとで乾燥する方法が例示される。またはそのままに水溶液注射用製剤として調製できる。
【0107】
本発明の医薬は、非経口投与法、例えば静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与などによって投与することが望ましい。また経口投与、直腸内投与、鼻内投与、舌下投与なども可能である。本発明の医薬が各医薬成分を組み合わせてなる医薬である場合には、それぞれの医薬成分は、適宜の投与方法により投与することが好ましい。
【0108】
静脈内投与の場合、一度に所望の量を投与する方法または点滴静脈内投与が挙げられる。
一度に所望の量を投与する方法は投与時間が短い点で好ましい。一度に投与する場合には、注射器での投与に要する時間に通常幅があるが、投与に要する時間としては、投与する液量にもよるが、通常は2分以下が好ましく、1分以下がより好ましく、30秒以下がさらに好ましい。また下限としては特に限定されないが、1秒以上が好ましく、5秒以上がより好ましく、10秒以上がさらに好ましい。投与量は上記の好ましい投与量であれば特に限定されない。また、点滴静脈内投与はトロンボモジュリンの血中濃度を一定に保つことが容易な点で好ましい。
【0109】
本発明における医薬の1日の投与量は、患者の年齢、体重、疾患の程度、投与経路などによっても異なるが、一般的にトロンボモジュリンの量として、上限としては20mg/kg以下が好ましく、10mg/kg以下がより好ましく、5mg/kg以下がさらに好ましく、2mg/kg以下が特に好ましく、1mg/kg以下が最も好ましく、下限としては0.001mg/kg以上が好ましく、0.005mg/kg以上がより好ましく、0.01mg/kg以上がさらに好ましく、0.02mg/kg以上が特に好ましく、0.05mg/kg以上が最も好ましい。
【0110】
点滴静脈内投与の場合、上記の好ましい投与量であれば特に限定されないが、1日の投与量の上限としては1mg/kg以下が好ましく、0.5mg/kg以下がより好ましく、0.1mg/kg以下がさらに好ましく、0.08mg/kg以下が特に好ましく、0.06mg/kg以下が最も好ましく、下限としては0.005mg/kg以上が好ましく、0.01mg/kg以上がより好ましく、0.02mg/kg以上がさらに好ましく、0.04mg/kg以上が特に好ましい。
【0111】
1日あたり1回または必要に応じて数回投与する。投与間隔は、2日から14日に1回、好ましくは2日から7日に1回、さらに好ましくは3日から5日に1回にとすることも可能である。
【0112】
かくして取得されたトロンボモジュリンを含有する本発明の医薬を、肺水腫をともなう生着症候群を発症した骨髄異形成症候群(以下、MDSと略すことがある)患者に投与したところ、動脈血酸素分圧の上昇、肺水腫で認められる胸部X線の肺野全体の浸潤影の消失、聴診による湿性ラ音が減少するとともに、体重増加の抑制および減少が認められ、造血細胞移植に伴う合併症発症に対して優れた予防および治療効果が認められた。すなわち、この造血器悪性腫瘍患者に対する効果から、本発明の医薬は、造血細胞移植を実施した患者において造血細胞移植に伴う生着症候群の予防及び/又は治療として有用であることが確認された。上述のように本発明の医薬を製造するに際しては、有効量のトロンボモジュリンを医薬上許容される担体と混合する公知の方法により調製すればよい。
【0113】
本発明の医薬は、出血しやすい造血器悪性腫瘍患者が造血細胞移植を受ける際にも出血のリスクを高めることなく安全かつ高い効果を示すことができる点で非常に有用である。該有用性は、本発明の医薬の有効成分であるトロンボモジュリンが出血を助長することなく、逆に出血症状を改善することが報告されている(Saito Hら、J Thromb Haemost 2007;5:31−41)ことからも裏付けることができる。出血のリスクの評価方法として、血漿に本発明の医薬を加えた検体を用いて凝固時間(例えば、Mohri Mら(Mohri M et al、Thromb Haemost 1999; 82: 1687−93)に記載の活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT))の測定が例示される。また、造血細胞移植における出血状態の評価方法として、血液(輸血)や血漿製剤の使用量を指標とすることが例示される。
【0114】
本発明の医薬は、造血細胞移植の特長である手術侵襲が少なくかつ短時間に行われるという利便性を損なうことなく使用することができる点においても有用である。また、上述のように本発明の医薬は出血のリスクを高めることがないため、投与量が適正であることを評価するための検査が不要である。投与量が適正であることを評価する方法としては、上述の凝固時間法を指標とした出血リスクの評価方法が例示される。
【0115】
[配列表の説明]
配列番号1:TME456の生産に用いた遺伝子がコードするアミノ酸配列
配列番号2:配列番号1のアミノ酸配列をコードする塩基配列
配列番号3:TME456Mの生産に用いた遺伝子がコードするアミノ酸配列
配列番号4:配列番号3のアミノ酸配列をコードする塩基配列
配列番号5:TMD12の生産に用いた遺伝子がコードするアミノ酸配列
配列番号6:配列番号5のアミノ酸配列をコードする塩基配列
配列番号7:TMD12Mの生産に用いた遺伝子がコードするアミノ酸配列
配列番号8:配列番号7のアミノ酸配列をコードする塩基配列
配列番号9:TMD123の生産に用いた遺伝子がコードするアミノ酸配列
配列番号10:配列番号9のアミノ酸配列をコードする塩基配列
配列番号11:TMD123Mの生産に用いた遺伝子がコードするアミノ酸配列
配列番号12:配列番号11のアミノ酸配列をコードする塩基配列
配列番号13:部位特異的変異を行う際に使用する変異用合成DNA
【実施例】
【0116】
以下、実施例および試験例により本発明を具体的に説明するが、本発明は何らこれらによって限定されるものではない。
【0117】
試験例に用いる本発明におけるトロンボモジュリンは、前記山本らの方法(特開昭64−6219号に記載の方法)に従って製造した。以下にその製造例を示す。なお、今回の製造例で得られたトロンボモジュリンは、ラットおよびサルを用いた単回および反復静脈内投与試験、マウス生殖試験、局所刺激性試験、安全性薬理試験、ウイルス不活化試験などによりその安全性が確認されている。
【0118】
[製造例1]
<トロンボモジュリンの取得>
上記の方法、すなわち、配列番号9のアミノ酸配列をコードするDNA(具体的には、配列番号10の塩基配列よりなる)を、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞にトランスフェクションして、この形質転換細胞の培養液より前述した定法の精製法にて、50mmol/L NaClを含む20mmol/Lリン酸塩緩衝液(pH7.3)で活性画分を回収した高純度精製品を取得した。さらに限外濾過を行って濃度が11.2mg/mLのトロンボモジュリン(本明細書においてTMD123と略すことがある)溶液を取得した。
【0119】
<添加剤溶液調製>
10Lのステンレス製容器に、塩酸アルギニン(味の素社製)480gを量り入れ、注射用水を5L加えて溶解した。1mol/L水酸化ナトリウム溶液を添加して、pHを7.3に調整した。
【0120】
<薬液調製・充填 >
上記添加剤溶液全量を20Lのステンレス製容器に入れ、上記得られたTMD123溶液2398mL(可溶性トロンボモジュリンのたん白質量として26.88gに相当。ただし12%過量仕込み。)加え混合攪拌した。さらに注射用水を加えて全量を12Lとして均一に混合撹拌した。この薬液を、孔径が0.22μmのフィルター(ミリポア製MCGL10S)で濾過滅菌した。濾過液を1mLずつバイアルに充填し、ゴム栓を半打栓した。
【0121】
<凍結乾燥>
凍結乾燥→窒素充填→ゴム栓全打栓→キャップ巻締めの順で以下の条件にて凍結乾燥工程を行い、1容器中に可溶性トロンボモジュリン2mg、塩酸アルギニン40mgを含むTMD123含有製剤を得た。
【0122】
<凍結乾燥条件>
予備冷却(15分かけて室温から15℃)→ 本冷却(2時間かけて15℃から−45℃)→ 保持(2時間 −45℃)→ 真空開始(18時間 −45℃)→ 昇温(20時間かけて−45℃から25℃)→ 保持(15時間25℃)→ 昇温(1時間かけて25℃から45℃)→ 保持(5時間45℃)→ 室温(2時間かけて45℃から25℃)→ 復圧窒素充填(−100mmHgまで)→ 全打栓 → キャップ巻締め
【0123】
[製造例2]
配列番号11のアミノ酸配列をコードするDNA(具体的には、配列番号12の塩基配列よりなる)を、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞にトランスフェクションして、この形質転換細胞の培養液より前述した定法の精製法にて精製されたトロンボモジュリン(本明細書においてTMD123Mと略すことがある)溶液を取得し、上記と同様の方法によりTMD123Mの凍結乾燥製剤を取得する。
【0124】
[製造例3]
配列番号1のアミノ酸配列をコードするDNA(具体的には、配列番号2の塩基配列よりなる)を、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞にトランスフェクションして、この形質転換細胞の培養液より前述した定法の精製法にて精製されたトロンボモジュリン(本明細書においてTME456と略すことがある)を取得し、上記と同様の方法によりTME456の凍結乾燥製剤を取得する。
【0125】
[製造例4]
配列番号3のアミノ酸配列をコードするDNA(具体的には、配列番号4の塩基配列よりなる)を、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞にトランスフェクションして、この形質転換細胞の培養液より前述した定法の精製法にて精製されたトロンボモジュリン(以下、TME456Mと略すことがある)を取得し、上記と同様の方法によりTME456Mの凍結乾燥製剤を取得する。
【0126】
[製造例5]
配列番号5のアミノ酸配列をコードするDNA(具体的には、配列番号6の塩基配列よりなる)を、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞にトランスフェクションして、この形質転換細胞の培養液より前述した定法の精製法にて精製されたトロンボモジュリン(本明細書においてTMD12と略すことがある)を取得し、上記と同様の方法によりTMD12の凍結乾燥製剤を取得する。
【0127】
[製造例6]
配列番号7のアミノ酸配列をコードするDNA(具体的には、配列番号8の塩基配列よりなる)を、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞にトランスフェクションして、この形質転換細胞の培養液より前述した定法の精製法にて精製されたトロンボモジュリン(以下、TMD12Mと略すことがある)を取得し、上記と同様の方法によりTMD12Mの凍結乾燥製剤を取得する。
【0128】
[実施例1]
<MDS患者の造血細胞移植に対する効果>
MDSを発症した68歳の男性に対して全身放射線照射とフルダラビンとブスルファンを投与した後、HLAニ座不一致の非血縁者から造血細胞移植を行った。移植片対宿主病(Graft−versus host disease;GVHD)予防としてタクロリムスとミコフェノール酸を使用した。移植後13日目より体重が増加し、移植後第18日目には体重の増加は6%に達した。呼吸困難と湿性ラ音の発現とともに、胸部X線とコンピューター断層撮影で両側の中下肺野全体に浸潤影を認め、非心原性の肺水腫を合併したESと診断した。凝固異常を合併したためATIII製剤(1,500U/day)の投与を開始したが悪化を続け過凝固状態にあったため、移植第18日目よりTMD123投与を開始した。TMD123投与開始4日目に動脈血酸素分圧の上昇、TMD投与開始6日目には湿性ラ音の消失し、肺水腫の改善が認められた。TMD123投与開始8日目には肺野の浸潤影の減少、TMD123投与開始14日目(TMD123投与終了日)には肺野の浸潤影は正常化した。また、投与投与開始5日目以降に体重とSFMCが減少に転じ、TMD123投与終了翌日の体重は、造血細胞移植前と同程度まで減少した。
なお、TMD123は製造例1に準じて製造したものを用いた。