(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5924675
(24)【登録日】2016年4月28日
(45)【発行日】2016年5月25日
(54)【発明の名称】ナノ結晶磁性体の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01F 1/36 20060101AFI20160516BHJP
H01F 1/08 20060101ALI20160516BHJP
B22F 1/02 20060101ALI20160516BHJP
H01F 1/24 20060101ALI20160516BHJP
H01F 1/11 20060101ALI20160516BHJP
B22F 1/00 20060101ALN20160516BHJP
【FI】
H01F1/36
H01F1/08
B22F1/02 E
H01F1/24
H01F1/11 A
!B22F1/00 Y
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-114075(P2012-114075)
(22)【出願日】2012年5月18日
(65)【公開番号】特開2013-243185(P2013-243185A)
(43)【公開日】2013年12月5日
【審査請求日】2014年12月11日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成23年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「希少金属代替材料開発プロジェクト/Nd−Fe−B系磁石を代替する新規永久磁石の実用化に向けた技術開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100093230
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 利夫
(72)【発明者】
【氏名】杵鞭 義明
(72)【発明者】
【氏名】砥綿 篤哉
(72)【発明者】
【氏名】安岡 正喜
【審査官】
堀 拓也
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−041961(JP,A)
【文献】
特開2010−232225(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/36
B22F 1/02
H01F 1/08
H01F 1/11
H01F 1/24
B22F 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒径10〜100nmのナノ結晶磁性粒子の表面に、ガラス転移温度が300〜800℃のガラスよりなる1〜20nmの厚さの電気的絶縁層をコーティングした後、
ガラス転移温度より100〜600℃低い加熱成形温度で加圧成形することにより、ナノ結晶磁性粒子を緻密化するとともに、
ナノ結晶磁性粒子間に電気的絶縁層を均一に介在させることを特徴とするナノ結晶磁性体の製造方法。
【請求項2】
前記ガラスとして典型的にSiO2ガラスを用いることを特徴とする請求項1に記載のナノ結晶磁性体の製造方法。
【請求項3】
ナノ結晶磁性粒子間に、ガラスよりなる電気絶縁層を指数則クリープにより変形させながら均一に分散させることを特徴とする請求項1または2に記載のナノ結晶磁性体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はナノ結晶磁性粒子間に電気的絶縁層を均一に分散させたナノ結晶磁性体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、微構造がナノ結晶により構成されるナノ結晶磁性体の開発が盛んである。これは、微構造の設計が磁気特性に大きく影響を与えるためである。
【0003】
特許文献1には、金属磁性粒子と、金属磁性粒子を被覆する絶縁被膜とを有する複数の複合粒子を備えた軟磁性材料とその製造方法が提案されている。
【0004】
この特許文献1の軟磁性材料は、複合磁性粒子として、平均粒径5〜300μm程度の
ものを用い、金属磁性粒子としてFeないしFeをベースとした合金を使用している。また、絶縁被膜としては、例えば金属としてAl、Si、Ti、またはZrを用いたリン酸金属塩化合物などの絶縁性材料を使用している。そして、これにより、高い絶縁性を有し、高強度の成形体を得ることができる軟磁性材料を提供することができるとしている。
【0005】
一方、このような軟磁性材料の製造方法としては、まず、Feを主成分とした金属磁性粒子の原料粉末を準備し、歪みを除去するために400℃以上の融点未満(好ましくは600〜900℃)で熱処理を実施し、次に金属磁性粒子の表面に凹凸を形成し、金属粒子の表面に絶縁被膜を形成する方法を採用している。そして、この軟磁性材料の粉末を金型に入れ、加圧成形し、さらに、この加圧成形を経た成形体の内部には歪みや多数の転位が発生しているので、200〜900℃での熱処理を行い、これらの歪みや転位を取り除き、目的の成形体を得るようにしている。
【0006】
上記において、金属磁性粒子の表面に粒子径の100分の1程度のオーダーの微細な凹凸を形成するために、金属磁性粒子を酸性溶液に浸漬しており、この凹凸は成形体にしたときに複合磁性粒子同士を接合しやすくし、複合磁性粒子同時の摩擦を大きくし、これにより、高強度の成形体を得るようにしている。
【0007】
また、絶縁被膜の形成は、前記の酸性溶液をろ過した後、取り出された金属磁性粒子の固形分に含まれる水分を有機溶媒に置換した後、金属磁性粒子を有機溶媒に分散させて懸濁液とし、この懸濁液中に金属アルコキシドおよびリン酸水溶液を加えて、混合・撹拌し、加水分解を起こさせ、金属磁性粒子の表面に金属酸化膜または金属含有酸化物を形成させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−92120号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1は、軟磁性体とその製造方法に関するものであるが、粒径数ミクロン以上の金属磁性粒子にコーティングを行い、室温で加圧成形を行うもので、金属の塑性変形により形状を付与し緻密化していた。すなわち、ナノ磁性結晶粒子に比べてかなり大きな粒径の金属磁性粒子であった。また、磁性粒子を大きく変形させるため、残留応力が発生しヒステリシス損が増大するといった磁気特性が低下するという問題があり、そのため熱処理が必須であった。
【0010】
また、この製造方法では、磁性粒子がフェライト、Fe
16N
2、SmFeN、NdFeBといった脆性的な磁性粒子の場合では、磁性粒子が変形しないため、緻密化および成形することが困難であるという問題もあった。
【0011】
さらに、軟磁性体の製造工程も複雑なステップが要求され、さらに簡便に目的の磁性体を得ることが望まれていた。
【0012】
本発明は、このような従来技術の実情に鑑みてなされたもので、ナノ磁性粒子の有する磁気特性を損なうことなく、残留応力の発生による磁気特性の低下をなくし、簡便な手法で優れた特性を有するナノ結晶磁性体の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記課題を解決するため、第1には、平均粒径10〜100nmのナノ結晶磁性粒子の表面に、
ガラス転移温度が300〜800℃のガラスよりなる
1〜20nmの厚さの電気的絶縁層をコーティングした後、ガラス転移温度より
100〜600℃低い
加熱成形温度で加圧成形することにより、ナノ結晶磁性粒子を緻密化するとともに、ナノ結晶磁性粒子間に電気的絶縁層を均一に介在させることを特徴とするナノ結晶磁性体の製造方法を提供する。
【0016】
第2には、上記第1の発明において、前記ガラスとして典型的にSiO2ガラスを用いることを特徴とする。
【0017】
第3には、上記第1又は第2の発明において、ナノ結晶磁性粒子間に、ガラスよりなる電気絶縁層を指数則クリープにより変形させながら均一に分散させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ナノ磁性粒子の有する特有の磁気特性を損なうことなく、残留応力の発生による磁気特性の低下をなくし、簡便な手法で優れた特性を有するナノ結晶磁性体を製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】SiO
2ガラスを均一にコーティングしたナノ磁性粒子の全体像を示す図である。
【
図2】SiO
2ガラスを均一にコーティングしたナノ磁性粒子の拡大像である。
【
図3】SiO
2ガラスの低温での緻密化挙動、圧力依存性を示す図で、縦軸は相対密度、横軸は成形圧力である。
【
図4】SiO
2ガラスの低温での緻密化挙動、時間依存性を示す図で、縦軸は相対密度、横軸は保持時間である。
【
図5】緻密化したナノ磁性粒子のX線回折パターンである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0021】
本発明のナノ結晶磁性体の製造方法は、平均粒径10〜100nmのナノ結晶磁性粒子の表面に、ガラスよりなる電気的絶縁層をコーティングした後、ガラス転移温度より低い温度で加圧成形することにより、ナノ結晶磁性粒子を緻密化するとともに、ナノ結晶磁性粒子間に電気的絶縁層を均一に介在させることを特徴とするものである。
【0022】
本発明で用いるナノ結晶磁性体としては、軟磁性体、硬磁性体、あるいは両者の複合材料(ナノコンポジット)を用途に応じて選定する。このようなナノ結晶磁性体の材料としては、典型的には、フェライト、Fe
16N
2、SmFeN、NdFeB、α-Feを例示することができるが、それ以外のものも使用可能である。ナノ結晶磁性体は、そのナノ構造のもつ特徴を有効に発揮できるようにするため平均粒径が100nm以下であることが好ましく、その下限は10nm程度である。平均粒径があまり小さすぎると、例えば硬磁性体では保磁力が低下するため、上記下限値以上であることが好ましい。
【0023】
ナノ結晶磁性粒子をコーティングする電気的絶縁材料としては、ガラスを用いることができ、そのようなガラスとしては、典型的にはSiO
2ガラスを用いることができる。また、SiO
2-B
2O
3系,SiO
2-Al
2O
3系,SiO
2-MO系(但し、MはCa、Sr、Mg、BaまたはZnを示す),SiO
2-B
2O
3系-MO系,SiO
2-M
1O-M
2O系(但し、M
1およびM
2は同一または異なってCa、Sr、Mg、BaまたはZnを示す),SiO
2-B
2O
3-M
1O-M
2O系,SiO
2-M
32O系(但し、M
3はLi、NaまたはKを示す)、SiO
2-B
2O
3-M
32O系、リン酸塩系、ホウ酸塩系、ゲルマン酸塩系、アンチモン系 ハロゲン化物系、フッ化物系等のガラス、さらにMgOのほか、AlO,HfO,TiO等のアモルファス状の金属酸化物、アモルファス状のM
4M
5OFe
2O
3(但し、M
4M
5はMn、Ni、Zn、Co、Feを示す)およびアモルファス金属も用いることができる。
【0024】
電気的絶縁材料からなるガラスは、ナノ結晶磁性粒子の磁気特性への影響を考慮するとガラス転移点が低いことが好ましく、800℃以下であることが望ましい
。ただし、ガラス転移温度が低すぎると製品加熱時に形状維持ができないため、概ね300℃以上とすることが望ましい。
【0025】
絶縁層の厚さtは、磁性粒子の半径をrとすれば、
【0027】
となるようにすることが好ましい。
ここでαは磁性粒子体積に対する絶縁材料の体積比率である。
【0028】
絶縁層の厚さtは、原料粉末である磁性粒子の初期充填密度および磁性粒子間距離に合わせて適宜調整することができるが、概ねt/rは0.1程度とする。したがって、絶縁層の厚さtは1〜20nm程度となる。
【0029】
また、たとえば絶縁材料としてSiO
2ガラスを用いた場合、磁性粒子の表面をシランカップリング剤などで修飾後、オルトケイ酸テトラエチルなどのアルコキシドを用いると均一にコーティングを行うことができる。ここで、化学組成を調整し、ガラス転移点の低い絶縁層とすることが、後工程の加圧成形が容易となるので望ましい。
【0030】
コーティングした磁性粉末は、金型に充填し、所定の温度まで加熱後、加圧成形を行う。この場合、加熱温度は、絶縁層のガラスのガラス転移温度より低い温度とし、好ましくはは100〜600℃程度低い温度とする。ただし、磁性粒子の反応・粒成長抑制を考慮すると800℃以下が望ましく。また、成形型の消耗を減らすには500℃以下が望ましい。この作業は、湿式あるいは乾式で行うことができるが、湿式の場合高い結晶配向度が得られる利点がある。また、金型に、コーティングした磁性粉末を充填し、加熱、加圧成形を行う作業を行う際に磁場を印加すると結晶を配向させることができる利点がある。
【0031】
成形圧力はガラスの組成に依存するが、たとえばアルコキシド由来のSiO
2ガラスの場合、1GPa以上とし、上限は2GPa程度とする。
【0032】
なお、先に述べたガラス転移点の低いガラス組成に調整することにより、必要圧力を低下させることが可能である。
【0033】
加圧時間は、圧力と温度に依存するが、温度保持中の反応を抑制するため、1時間以下1分間以上とすることが望ましい。
【0034】
上記の条件で加圧成形を行うと、絶縁層であるガラスが磁性粒子間に非常に均一に分散するが、これはガラスが指数則クリープに従った変形挙動を示すためと考えられる。また、このような絶縁層のコーティングにより、ナノ結晶磁性粒子の磁気特性を損なうことなく、緻密化したナノ結晶磁性体が得られることになる。
【0035】
なお、磁気特性に残留応力の影響がある場合には、必要に応じて熱処理を行っても良い。
【実施例】
【0036】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明する。
【0037】
まず、フェライト(Fe
3O
4)ナノ磁性粒子を水熱合成により作製した。原料には、FeCl
36H
2OおよびFeCl
24H
2O(いずれも和光純薬)をイオン交換水およびエチレングリコールに溶解させたものを用いた。ここで、Fe
3+/Fe
2+の比率は1.8:1とした。各水和物が溶解後、水酸化ナトリウム水溶液を添加し、テフロン(登録商標)容器中で180℃、4hオートクレーブにて水熱処理を行った。得られたナノ磁性粒子は、エタノールおよび蒸留水にて数回洗浄した。洗浄した粉末をイオン交換水に分散させ、3−アミノプロピルトリエトキシシラン(信越化学KBE−903)を添加し、120℃、1hオートクレーブにて加熱し、シランカップリングによる表面修飾を行った。表面修飾後、エタノールおよび蒸留水により再度洗浄し、平均粒径20nmの表面修飾フェライト磁性ナノ粒子を得た。
【0038】
次に、合成したナノ磁性粒子および界面活性剤(Tween 20)を水中に添加し、超音波分散させた。分散後、水、エタノールで希釈し、アンモニア水を添加して塩基性に調整した。そして、スターラーにより攪拌しながら、オルトケイ酸テトラエチルを少量ずつ添加し表面をSiO
2ガラスで均一にコーティングを行った。コーティングしたナノ磁性粒子の電顕写真を
図1、
図2に示す。
【0039】
次に、コーティング層に用いたSiO
2ガラス(アルコキシド由来)のガラス転移点を調査した。測定試料には、SiO
2球状粒子(アルドリッチ LudoxTM−40 平均粒径30nm)を用い、無加圧における収縮挙動より評価した。収縮挙動は線膨張計(ブルーカーAXS TD5200S)にて測定した。その結果、ガラス転移点はおよそ700℃であることが分かった。これは高純度のSiO
2ガラスのガラス転移点よりも500℃低い値であった。
【0040】
SiO
2ガラスの低温での緻密化挙動は、先のSiO
2球状粒子を超硬製の型に充填し、所定の温度に加熱後、一軸加圧を5分加えた後の変形量を線膨張計で測定することにより評価した。評価装置には、SPS焼結機(住友石炭 SPS1050)を用いた。これよりガラス転移点以下であっても、圧力(パンチ面圧)300MPa以上で緻密化が進行することがわかった(
図3)。
【0041】
圧力を保持した場合の緻密化挙動を、同様に調査した。圧力は1GPaとした(
図4)。これより圧力保持中も徐々に密度が上がることがわかり、ガラス転移点以下でクリープ変形が進行することがわかった。
【0042】
緻密化したナノ磁性体のX線回折を測定した。比較として、原料粉末のX線回折も行った(
図5)。両者は、全く同じ回折パターンを示すことがわかる。すなわち、加圧成形中、ナノ磁性粒子は粒成長を起こしておらず、またコーティング層との反応も無かったことがわかる。
【0043】
緻密化したナノ磁性粒子の電顕写真を
図6に示す。写真中、白いコントラストがSiO
2ガラス層に対応する。SiO
2ガラス層は、均一にナノ磁性体中に分散していることわかる。挿入図は、高分解電子顕微鏡像である。この図からも、結晶相(ナノ磁性粒子)の間にアモルファス相(SiO
2ガラス)が、層状で存在していることがわかる。さらに、
図1や
図2と比較すると、磁性ナノ粒子の形状がそのまま維持されていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、磁石、鉄心などの磁性材料の製造方法として利用される。