特許第5924719号(P5924719)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ポリプラスチックス株式会社の特許一覧

特許5924719環状オレフィン系樹脂用曇り防止剤、当該曇り防止剤を含む環状オレフィン系樹脂組成物、ならびに、当該組成物を用いた光学材料及び光学部品
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5924719
(24)【登録日】2016年4月28日
(45)【発行日】2016年5月25日
(54)【発明の名称】環状オレフィン系樹脂用曇り防止剤、当該曇り防止剤を含む環状オレフィン系樹脂組成物、ならびに、当該組成物を用いた光学材料及び光学部品
(51)【国際特許分類】
   C08L 45/00 20060101AFI20160516BHJP
   C08L 65/00 20060101ALI20160516BHJP
   C08J 3/22 20060101ALI20160516BHJP
   C09K 3/18 20060101ALI20160516BHJP
   H05K 3/46 20060101ALI20160516BHJP
【FI】
   C08L45/00
   C08L65/00
   C08J3/22CES
   C09K3/18
   H05K3/46
【請求項の数】7
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-519724(P2015-519724)
(86)(22)【出願日】2014年4月4日
(86)【国際出願番号】JP2014059935
(87)【国際公開番号】WO2014192413
(87)【国際公開日】20141204
【審査請求日】2015年9月24日
(31)【優先権主張番号】特願2013-115995(P2013-115995)
(32)【優先日】2013年5月31日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390006323
【氏名又は名称】ポリプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】多田 智之
(72)【発明者】
【氏名】西村 克裕
【審査官】 渡辺 陽子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−328174(JP,A)
【文献】 特開2006−328175(JP,A)
【文献】 特開2008−274135(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/047583(WO,A1)
【文献】 国際公開第2007/043448(WO,A1)
【文献】 特開平06−240059(JP,A)
【文献】 特開2012−017359(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L23,45,65、C08J3/22、C08K5
C09K3/18
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状オレフィン系樹脂と、環状オレフィン系樹脂用曇り防止剤と、を含み、かつ、硬化剤を含まず、
前記環状オレフィン系樹脂用曇り防止剤は、環状オレフィン系樹脂組成物から得られる成形体の透明性及び耐熱性を維持する環状オレフィン系樹脂用曇り防止剤であって、縮合リン酸エステルからなり、
前記環状オレフィン系樹脂用曇り防止剤の含有量は、前記環状オレフィン系樹脂100質量部に対して、0.05質量部以上0.8質量部以下である環状オレフィン系樹脂組成物。
【請求項2】
前記縮合リン酸エステルは下記一般式(I)で表される化合物である請求項1に記載の環状オレフィン系樹脂組成物
【化1】
(一般式(I)中、R、R、R〜Rは、それぞれ独立に、炭素数6〜20のアリール基を表し、Rは炭素数6〜25のアリーレン基を表し、nは0〜3の整数を示す。)
【請求項3】
前記縮合リン酸エステルは、下記一般式(II)又は(IV)で表される化合物である請求項2に記載の環状オレフィン系樹脂組成物
【化2】
【化3】
【請求項4】
前記環状オレフィン系樹脂100質量部と、前記環状オレフィン系樹脂用曇り防止剤0.5〜10質量部と、を含むマスターバッチを少なくとも前記環状オレフィン系樹脂と混合してなる請求項1から3のいずれかに記載の環状オレフィン系樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の環状オレフィン系樹脂組成物からなる光学材料。
【請求項6】
請求項1から4のいずれかに記載の環状オレフィン系樹脂組成物を成形してなる光学部品。
【請求項7】
前記光学部品は、導光板、レンズ、及び、ランプカバーのいずれかである請求項に記載の光学部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環状オレフィン系樹脂用曇り防止剤、当該曇り防止剤を含む環状オレフィン系樹脂組成物、ならびに、当該組成物を用いた光学材料及び光学部品に関する。
【背景技術】
【0002】
環状オレフィン系樹脂は、透明性や耐熱性等に優れるため、光学材料等に使用される。他方、環状オレフィン系樹脂を含む成形品は、例えば、湿熱環境下において可視光を照射させると成形品表面に曇りが生じる可能性があるので、透明性が損なわれ得る。
【0003】
例えば、特許文献1には、環状オレフィン系樹脂の透明性を損なうことなく難燃性を付与する目的で、環状オレフィン系樹脂100重量部と縮合リン酸エステル2〜40重量部とが配合された組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−328174号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1記載の組成物においては、組成物中の縮合リン酸エステルの含有量が高いので、環状オレフィン系樹脂が有する透明性以外の性質、特に耐熱性等が損なわれ、熱環境下で環状オレフィン系樹脂を黄変等させる可能性がある。また、特許文献1記載の組成物においては、組成物中の縮合リン酸エステルの含有量が高いので、環状オレフィン系樹脂に縮合リン酸エステルが十分に溶け込まずに相分離を起こし得る。また、特に湿熱条件下等では、成形品からのリン化合物の溶出等が発生し、当該組成物から得られる成形体の透明性が低下する可能性がある。また、縮合リン酸エステルは、環状オレフィン系樹脂よりも一般的に分子量が小さいので、縮合リン酸エステルが組成物中に過剰量存在していると、環状オレフィン系樹脂のTg、溶融粘度、耐熱性、靭性等を低下させる可能性がある。
【0006】
他方、特許文献1における課題は、環状オレフィン系樹脂に対する難燃性の付与である以上、縮合リン酸エステルの含有量を低減させることはできない。従って、特許文献1においては、環状オレフィン系樹脂が有する透明性及び耐熱性等が損なわれていない組成物を得ることは難しい。
【0007】
本発明は、以上のような課題に鑑みてなされたものであり、環状オレフィン系樹脂の有する透明性及び耐熱性が損なわれていない環状オレフィン系樹脂組成物、ならびに、当該組成物を用いた光学材料及び光学部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、縮合リン酸エステルからなる環状オレフィン系樹脂用曇り防止剤によれば上記課題を解決できる点を見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0009】
(1) 環状オレフィン系樹脂を含む環状オレフィン系樹脂組成物に含有され、前記環状オレフィン系樹脂組成物から得られる成形体の透明性及び耐熱性を維持する環状オレフィン系樹脂用曇り防止剤であって、縮合リン酸エステルからなる環状オレフィン系樹脂用曇り防止剤。
【0010】
(2) 前記縮合リン酸エステルは下記一般式(I)で表される化合物である(1)に記載の環状オレフィン系樹脂用曇り防止剤。
【化1】
(一般式(I)中、R、R、R〜Rは、それぞれ独立に、炭素数6〜20のアリール基を表し、Rは炭素数6〜25のアリーレン基を表し、nは0〜3の整数を示す。)
【0011】
(3) 前記縮合リン酸エステルは、下記一般式(II)又は(IV)で表される化合物である(2)に記載の環状オレフィン系樹脂用曇り防止剤。
【化2】
【化3】
【0012】
(4) 環状オレフィン系樹脂と、(1)から(3)のいずれかに記載の環状オレフィン系樹脂用曇り防止剤と、を含み、
前記環状オレフィン系樹脂用曇り防止剤の含有量は、前記環状オレフィン系樹脂100質量部に対して、0.05質量部以上1質量部以下である環状オレフィン系樹脂組成物。
【0013】
(5) 前記環状オレフィン系樹脂100質量部と、(1)から(3)のいずれかに記載の環状オレフィン系樹脂用曇り防止剤0.5〜10質量部と、を含むマスターバッチを少なくとも前記環状オレフィン系樹脂と混合してなる(4)に記載の環状オレフィン系樹脂組成物。
【0014】
(6) (4)又は(5)に記載の環状オレフィン系樹脂組成物からなる光学材料。
【0015】
(7) (4)又は(5)に記載の環状オレフィン系樹脂組成物を成形してなる光学部品。
【0016】
(8) 前記光学部品は、導光板、レンズ、及び、ランプカバーのいずれかである(7)に記載の光学部品。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、環状オレフィン系樹脂の有する透明性及び耐熱性が損なわれていない環状オレフィン系樹脂組成物、ならびに、当該組成物を用いた光学材料及び光学部品が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0019】
[環状オレフィン系樹脂用曇り防止剤]
本発明の環状オレフィン系樹脂用曇り防止剤(以下、「本発明の曇り防止剤」とも言う)は、縮合リン酸エステルからなる。本明細書において、「曇り防止」とは、環状オレフィン系樹脂が本来有している透明性を成形加工によって低下させないこと、及び、その後に成形体が曝される環境変化による成形体内部の白濁の結果、成形体の透明性が低下して生じる「曇り」の発生を防止することを言う。
【0020】
従来、縮合リン酸エステルは、環状オレフィン系樹脂に難燃性を付与するための難燃剤として使用されて来た。しかし、本発明の曇り防止剤には、環状オレフィン系樹脂に難燃性を付与する機能はなく、もっぱら環状オレフィン系樹脂が有する透明性及び耐熱性を維持する機能を有する点で、本発明の曇り防止剤と、縮合リン酸エステルを含む従来の難燃剤とは明確に区別される。具体的には、曇り防止剤としての縮合リン酸エステルの使用と、難燃剤としての縮合リン酸エステルの使用とは、後述するように縮合リン酸エステルの使用量が異なる。
【0021】
(縮合リン酸エステル)
本発明における縮合リン酸エステルは、特に限定されないが、芳香族環を有する縮合リン酸エステル等が挙げられる。縮合リン酸エステル中のリン原子は5価であり、3価のリン原子を含むリン化合物と比較して、酸化によるリン原子への影響が少なく、熱環境下での黄変等の変色が抑制される。縮合リン酸エステルは、1種単独で使用しても2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0022】
例えば、本発明における好ましい縮合リン酸エステルの構造としては下記一般式(I)で表される化合物が挙げられる。
【化4】
(一般式(I)中、R、R、R〜Rは、それぞれ独立に、炭素数6〜20のアリール基を表し、Rは炭素数6〜25のアリーレン基を表し、nは0〜3の整数を示す。)
【0023】
一般式(I)中、R、R、R〜Rで示されるアリール基としては、フェニル基、ナフチル基、ビフェニレン基等が挙げられる。アリール基は、置換基としてメチル基、エチル基等のアルキル基を有していてもよい。Rで示されるアリーレン基としては、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニレン基、ビスフェノール残基等が挙げられる。
【0024】
一般式(I)で表される化合物としては公知のものを使用できる。例えば、1,3フェニレンビス(ジフェニルホスフェート)、1,3フェニレンビス(ジ−4メチルフェニルホスフェート)、1,3フェニレンビス(ジ−2,6キシレニルホスフェート)、1,4フェニレンビス(ジフェニルホスフェート)、1,4フェニレンビス(ジ−2,6キシレニルホスフェート)、4,4’ビフェニレンビス(ジフェニルホスフェート)、4,4’ビフェニレンビス(ジ−2、6キシレニルホスフェート);これらのホスフェート類に対応するハイドロキノンホスフェート類、ビフェノールホスフェート類及びビフェノール−Aホスフェート類等が挙げられる。これらの化合物は1種単独でも2種以上を同時に使用してもよい。
【0025】
一般式(I)で表される化合物のうち、環状オレフィン系樹脂の有する透明性及び耐熱性を特に有効に維持できる点で、下記一般式(II)で表される化合物(1,3フェニレンビス(ジ−2,6キシレニルホスフェート)、別名レゾルシノールビス(ジ−2,6キシレニルホスフェート))、又は下記一般式(IV)で表される化合物(4,4’ビフェニレンビス(ジ−2,6キシレニルホスフェート))が特に好ましい。
【化5】
【化6】
【0026】
(環状オレフィン系樹脂)
本発明における環状オレフィン系樹脂は、環状オレフィンに由来する構造単位を主鎖に含む重合体又は共重合体であれば、特に限定されない。例えば、環状オレフィンの付加重合体又はその水素添加物、環状オレフィンとα−オレフィンとの付加共重合体又はその水素添加物等を挙げることができる。環状オレフィン系樹脂は、1種単独で使用することも、2種以上を併用することもできる。
【0027】
また、環状オレフィン系樹脂としては、環状オレフィンに由来する構造単位を主鎖に含む上記重合体又は上記共重合体において、さらに極性基を有する不飽和化合物がグラフト及び/又は共重合したものも挙げられる。
【0028】
極性基としては、例えば、カルボキシル基、酸無水物基、エポキシ基、アミド基、エステル基、ヒドロキシル基等を挙げることができ、極性基を有する不飽和化合物としては、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸、グリシジル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸アルキル(炭素数1〜10)エステル、マレイン酸アルキル(炭素数1〜10)エステル、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシエチル等を挙げることができる。
【0029】
また、本発明において環状オレフィン系樹脂として用いられる上記共重合体としては、市販の樹脂を用いることも可能である。市販されている環状オレフィン系樹脂としては、例えば、TOPAS(登録商標)(TOPAS Advanced Polymers社製)、アペル(登録商標)(三井化学社製)、ゼオネックス(登録商標)(日本ゼオン社製)、ゼオノア(登録商標)(日本ゼオン社製)、アートン(登録商標)(JSR社製)等を挙げることができる。
【0030】
環状オレフィンとα−オレフィンとの付加共重合体として、特に好ましい例としては、〔1〕炭素数2〜20のα−オレフィンに由来する構造単位と、〔2〕下記一般式(III)で示される環状オレフィンに由来する構造単位と、を含む共重合体を挙げることができる。
【化7】
(式中、R〜R12は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、及び、炭化水素基からなる群より選ばれるものであり、
とR10、R11とR12は、一体化して2価の炭化水素基を形成してもよく、
又はR10と、R11又はR12とは、互いに環を形成していてもよい。
また、nは、0又は正の整数を示し、
nが2以上の場合には、R〜Rは、それぞれの繰り返し単位の中で、それぞれ同一でも異なっていてもよい。)
【0031】
〔〔1〕炭素数2〜20のα−オレフィン〕
炭素数2〜20のα−オレフィンは、特に限定されるものではない。例えば、特開2007−302722と同様のものを挙げることができる。また、これらのα−オレフィンは、1種単独でも2種以上を同時に使用してもよい。これらの中では、エチレンの単独使用が最も好ましい。
【0032】
〔〔2〕一般式(III)で示される環状オレフィン〕
一般式(III)で示される環状オレフィンについて説明する。一般式(III)におけるR〜R12は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、及び、炭化水素基からなる群より選ばれるものである。一般式(III)で示される環状オレフィンの具体例としては、特開2007−302722と同様のものを挙げることができる。
【0033】
これらの環状オレフィンは、1種単独でも、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの中では、ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン(慣用名:ノルボルネン)を単独使用することが好ましい。
【0034】
〔1〕炭素数2〜20のα−オレフィンと〔2〕一般式(III)で表される環状オレフィンとの重合方法及び得られた重合体の水素添加方法は、特に限定されるものではなく、公知の方法に従って行うことができる。
【0035】
また、用いられる重合触媒についても特に限定されるものではなく、チーグラー・ナッタ系、メタセシス系、メタロセン系触媒等の従来周知の触媒を用いて周知の方法により環状オレフィン系樹脂を得ることができる。
【0036】
[環状オレフィン系樹脂組成物]
本発明の曇り防止剤は、環状オレフィン系樹脂を含む環状オレフィン系樹脂組成物(以下、本発明の曇り防止剤を含む環状オレフィン系樹脂組成物を「本発明の組成物」とも言う)に含有される。これにより、環状オレフィン系樹脂の曇りや環状オレフィン系樹脂の耐熱性の低下を抑制できるので、環状オレフィン系樹脂組成物から得られる成形体の透明性や耐熱性が維持される。
【0037】
本発明において「環状オレフィン系樹脂組成物から得られる成形体の透明性を維持する」とは、本発明の組成物から得られる成形体について、実施例において示した湿熱環境下における可視光照射試験を行った場合に、試験後であっても成形体に曇りが目視観察でほぼ認められないことを指す。
【0038】
本発明において「環状オレフィン系樹脂組成物から得られる成形体の耐熱性を維持する」とは、本発明の組成物から得られる成形体について、環状オレフィン系樹脂のTgに近い温度条件下で耐熱性試験(110℃、1000時間)を行った場合に、耐熱性試験後の成形体の黄色度(DIN6167)から、耐熱性試験前の成形体の黄色度を引いた値(「ΔYI」とも言う)が1未満であることを指す。ΔYIが1未満であることは、熱環境下においても成形体の黄変がほぼ抑制されていることを示す。
【0039】
本発明の組成物中に含まれる本発明の曇り防止剤の量は、環状オレフィン系樹脂100質量部に対して、0.05質量部以上1質量部以下である。本発明の曇り防止剤の量が環状オレフィン系樹脂100質量部に対して、0.05質量部以上、好ましくは0.08質量部以上、さらに好ましくは0.1質量部以上であると、環状オレフィン系樹脂の曇りを防止でき、透明性が損なわれにくい。本発明の曇り防止剤の量が環状オレフィン系樹脂100質量部に対して、1質量部以下、好ましくは0.8質量部以下、さらに好ましくは0.5質量部以下であると、環状オレフィン系樹脂の透明性及び耐熱性が損なわれにくい。
【0040】
本発明の曇り防止剤が環状オレフィン系樹脂100質量部に対して、1質量部超(例えば、2質量部以上)であると、環状オレフィン系樹脂に難燃性が付与され得るが、環状オレフィン系樹脂の耐熱性を損ない、本発明の曇り防止剤による効果が奏されない。さらに、このような配合量であると、環状オレフィン系樹脂に縮合リン酸エステルが十分に溶け込まずに相分離を起こし、特に湿熱条件下等で、成形品からのリン化合物の溶出等が発生し、当該組成物から得られる成形体の透明性が低下する可能性がある。また、環状オレフィン系樹脂のポリマー特性(Tg、溶融粘度、耐熱性、靭性等)の低下をもたらし得る。
【0041】
本発明の組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、さらに公知の添加剤(酸化防止剤、ヒンダードアミン系光安定剤、紫外光吸収剤、難燃剤、硫黄系安定剤、金属抽出剤等)が添加されていてもよい。環状オレフィン系樹脂組成物中の添加剤の種類や量は、得ようとする効果に応じて適宜調整できる。
【0042】
(環状オレフィン系樹脂組成物の製造方法)
本発明の環状オレフィン系樹脂組成物の製造方法は、特に限定されるものではなく、公知の方法を採用できる。例えば、環状オレフィン系樹脂、環状オレフィン系樹脂用曇り防止剤、あるいはさらに、必要に応じ配合される樹脂等を、一括で、又は逐次に溶融混練する方法が挙げられる。溶融混練する方法としては、例えば、樹脂組成物をブレンドした後、一軸若しくは二軸のスクリュー押出機、バンバリーミキサー、ロール、各種ニーダー等で溶融混練する方法等が挙げられる。溶融混練における温度については、環状オレフィン系樹脂、環状オレフィン系樹脂曇り防止剤、及び、必要に応じ配合される樹脂等が溶融していれば特に限定はないが、通常160℃〜350℃、好ましくは180℃〜300℃の温度範囲で実施するのが一般的である。
【0043】
例えば、本発明の組成物を構成する成分を一度に混合して本発明の組成物を調製してもよい。あるいは、環状オレフィン系樹脂と、本発明の曇り防止剤とを含むマスターバッチを、環状オレフィン系樹脂等を含むベース樹脂と混合して本発明の組成物を調製してもよい。マスターバッチを使用して本発明の組成物を調製すると、耐熱性が高く、より黄変の抑制された組成物が得られる点で好ましい。
【0044】
本発明において使用できるマスターバッチは、最終的に得ようとする環状オレフィン系樹脂組成物中の曇り防止剤の濃度よりも高い濃度の曇り防止剤を含むものであれば特に限定されない。本発明において使用できるマスターバッチは、例えば、環状オレフィン系樹脂100質量部と、本発明の曇り防止剤0.5〜10質量部と、を含む。
【0045】
[光学材料及び光学部品]
本発明の環状オレフィン系樹脂組成物は、環状オレフィン系樹脂の有する透明性及び耐熱性が損なわれていないので、光学材料として好適に使用できる。また、本発明の組成物や本発明の光学材料を成形することで、透明性及び耐熱性が優れた光学部品が得られる。光学部品としては、導光板、レンズ、及び、ランプカバー等が挙げられる。
【実施例】
【0046】
以下、実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0047】
環状オレフィン系樹脂として、商品名:TOPAS(登録商標)5013L−10(TOPAS Advanced Polymers社製、溶融粘度56Pa・s、Tg134℃)を用いた。環状オレフィン系樹脂と、各種リン化合物と、を表1記載の割合で使用し、これらを、二軸押出機(日本製鋼所製、商品名:TEX30)を用いて、シリンダー温度260℃にて溶融混練し、ペレット化を実施して、実施例及び比較例の環状オレフィン系樹脂組成物を得た。なお、比較例1においては、環状オレフィン系樹脂のみを二軸押出機で溶融押出した。比較例9においては、溶融混練をしていない環状オレフィン系樹脂を射出成形した。
【0048】
次いで、得られたペレットを用いて、射出成形機(住友重機械社製、商品名:SE75D)にて、シリンダー温度270℃、金型温度115℃の条件にて、70mm×70mm×2mmの平板を成形することにより試験片を得、下記の試験に供した。
【0049】
環状オレフィン系樹脂の溶融粘度はISO11443に準拠して260℃、剪断速度1216/秒において測定した。また、環状オレフィン系樹脂のガラス転移点(Tg)はDSC法(JIS K7121記載の方法)によって昇温速度10℃/分の条件で測定した。
【0050】
なお、表1中、「全量コンパウンド」とは、環状オレフィン系樹脂としてTOPAS5013L−10と、表1中記載の成分と、を二軸押出機で溶融混練し、ペレット化を実施した後に射出成形により試験片を成形したことを指す。また、「マスターバッチ」とは、環状オレフィン系樹脂と、表1中記載の成分と、からマスターバッチを調製し、当該マスターバッチを、リンの濃度が表1中記載の添加量になるように、ペレットブレンドにより環状オレフィン系樹脂で希釈した後に試験片を成形したことを指す。「マスターバッチ」において使用されたマスターバッチは、表1中に示したように、環状オレフィン系樹脂と、環状オレフィン系樹脂100質量部に対して2質量部から8質量部の範囲の各種リン化合物と、を含む。「リンの価数」とは、各種リン化合物中のリン原子の価数を指す。「環状オレフィン系樹脂に対するリン添加量」は、使用した全環状オレフィン系樹脂に対する各種リン化合物の添加量を指す。
【0051】
表1中、使用した各成分の詳細は下記の通りである。
PX−200(縮合リン酸エステルに相当):1,3フェニレンビス(ジ−2,6キシレニルホスフェート)、大八化学工業株式会社製
4,4’ビフェニレンビス(ジ−2,6キシレニルホスフェート)(縮合リン酸エステルに相当):表1中の「縮合リン酸エステル2」
亜リン酸トリデシル:和光純薬工業株式会社製
HOSTANOX P−EPQ(表1中の「P−EPQ」):テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、クラリアントジャパン社製
IRGAFOS(登録商標) 168:トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、BASF社製
SUMILIZER(登録商標) GP:2,4,8,10−テトラ−t−ブチル−6−[3−(3−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)プロポキシ]ジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサホスフェピン、住友化学株式会社製
PX−200/Tinuvin770DF:上記PX−200と、Tinuvin770DF(ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニル)セバケイト、Ciba Specialty Chemicals(UK) Limited社製)とのブレンド混合物である。
TOPAS(登録商標) 5013L−10(表1中の「5013L−10」):ノルボルネンとエチレンとの共重合体である環状オレフィン系樹脂、TOPAS Advanced Polymers社製、溶融粘度56Pa・s、Tg134℃
【0052】
[LED試験(湿熱環境下における可視光照射試験)]
各試験片について、反ゲート側の末端部から40mmまでの箇所を切り出し、40mm×70mm×2mmのLED試験用試験片を得た。反ゲート側の末端部(ゲート側から70mm)の中心部分にLED(光束20lm)を有するガイドプレートを装着した。次いで、LEDを光源とする光を各LED試験用試験片に直接照射し、かつ、60℃×90%湿度の条件で湿熱恒温槽に1週間暴露させた後、LEDを消灯し、次いで、70℃にて恒温槽内の水蒸気を除去した後にLED試験用試験片を回収した。LED試験後の各LED試験用試験片にハロゲン球(12V100W HAL−L、OLYMPUS社製)を光源とする光を照射して各試験片の曇りを目視により観察し、下記の判定基準に従って判定した。その結果を表2の「LED照射後の曇り判定」の項に示す。
(判定基準)
○:LED照射により試験片に曇りが発生しなかった。
×:LED照射により試験片に曇りが発生した。
【0053】
[黄色度(YI値)]
各試験片について、耐熱性試験(110℃、1000時間)を行った。耐熱性試験前後の各試験片の黄色度(DIN6167)を、YKB−Gardnar GmbH製色差計color−sphereを使用して測定した。その結果を表2の「耐熱性試験後のYI値」の項に示す。表2中、「初期YI」とは、耐熱性試験前の各試験片の黄色度を示す。また、「ΔYI」とは、耐熱性試験後の各試験片の黄色度から、耐熱性試験前の各試験片の黄色度を引いた値を指す。
【0054】
【表1】
【0055】
【表2】
【0056】
表2に示される通り、本発明の曇り防止剤を含む試験片は、LED試験後においても曇りが抑制されているので透明性に優れることがわかる。さらに、本発明の曇り防止剤を含む試験片は、ΔYIが低く、耐熱性試験後の黄変も抑えられているので耐熱性にも優れることがわかる。特に、マスターバッチを使用すると、好ましく黄変を抑制できることがわかる。
【0057】
また、比較例9における試験片では曇りが発生した一方で、溶融混練を行った他の試験例では曇りが発生しない例が認められたことから、曇りは、溶融混練による樹脂へのダメージにより発生したものではないことがわかる。