特許第5924761号(P5924761)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5924761
(24)【登録日】2016年4月28日
(45)【発行日】2016年5月25日
(54)【発明の名称】洗浄液、及び防食剤
(51)【国際特許分類】
   C23F 11/16 20060101AFI20160516BHJP
   C11D 7/34 20060101ALI20160516BHJP
   C23G 1/06 20060101ALI20160516BHJP
   C23G 1/18 20060101ALI20160516BHJP
【FI】
   C23F11/16
   C11D7/34
   C23G1/06
   C23G1/18
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2011-288931(P2011-288931)
(22)【出願日】2011年12月28日
(65)【公開番号】特開2013-136823(P2013-136823A)
(43)【公開日】2013年7月11日
【審査請求日】2014年9月20日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000220239
【氏名又は名称】東京応化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(72)【発明者】
【氏名】原口 高之
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 智弥
(72)【発明者】
【氏名】大橋 卓矢
(72)【発明者】
【氏名】江藤 崇弘
(72)【発明者】
【氏名】森 大二郎
【審査官】 祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第01/071789(WO,A1)
【文献】 特表2001−527159(JP,A)
【文献】 特開2007−328338(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23F 11/00 − 11/18
C23G 1/00 − 5/06
C11D 1/00 − 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記式(1)で表される化合物と、(B)溶剤とを含有する洗浄液であって、
前記(B)溶剤は、有機溶剤、又は前記有機溶剤の水溶液であり、
前記有機溶剤は、スルホキシド類、スルホン類、アミド類、ラクタム類、ラクトン類、イミダゾリジノン類、及び多価アルコール類からなる群(ただし、アルカノールアミン類を除く)より選ばれる少なくとも1つである洗浄液。
HS−(CH−OH・・・(1)
(式(1)において、xは3以上の整数である。)
【請求項2】
前記xが3以上10以下の整数である、請求項1記載の洗浄液。
【請求項3】
銅又は銅含有合金からなる金属層を備える基板の洗浄に用いられる、請求項1又は2に記載の洗浄液。
【請求項4】
下記式(1)で表される化合物を0.05〜5.0質量%含有する洗浄液を用いて、銅又は銅含有合金を防食する防食方法。
HS−(CH−OH・・・(1)
(式(1)において、xは3以上の整数である。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、本発明は、洗浄液、並びに銅又は銅含有金属の防食剤に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスは、シリコンウェーハ等の基板上に金属配線層、低誘電体層、絶縁層等を積層して形成されるものであり、このような半導体デバイスは、レジストパターンをマスクとしてエッチング処理を施すリソグラフィー法により、上記各層を加工して製造されている。
【0003】
上記リソグラフィー法において用いられるレジスト膜、一時的積層膜(犠牲膜ともいう)、さらにはエッチング工程において生じた金属配線層や低誘電体層由来の残渣物は、半導体デバイスの支障とならないよう、また、次工程の妨げとならないよう、洗浄液を用いて除去される。
【0004】
また、近年では、半導体デバイスの高密度化、高集積化に伴い、ダマシン法を用いた配線形成方法が採用されている。このような配線形成方法においては、半導体デバイスの金属配線層を構成する金属配線材料として腐食の発生しやすい銅や銅含有金属等が採用されている。
【0005】
これらの半導体デバイスの製造方法では、除去対象の残渣物の種類に応じて、アルカリ性、酸性、又は中性の洗浄液が使用されており、洗浄液による銅や銅含有金属の腐食が問題となる。この銅や銅含有金属の腐食の問題は、酸性、又はアルカリ性の洗浄液を用いる場合に顕著である。従って、基板の洗浄時に、これらの銅や銅含有金属等を腐食させない洗浄液の開発が求められてきた。
【0006】
かかる洗浄液による銅や銅含有金属等の腐食の問題を解決するために、例えば、分子内に少なくとも1つのメルカプト基を含み、隣接する炭素原子にメルカプト基と水酸基とが結合する、炭素数2以上のアルコールを防食剤として含有する洗浄液が提案されている(特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−273663号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1に記載の防食剤を含む洗浄液は、銅等の金属に対する腐食防止効果はある程度認められるが、その腐食防止効果はさらなる改善が求められるものであった。
【0009】
本発明は、銅又は銅含有金属に対して優れた防食効果を有する洗浄液、及び防食剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意研究を重ねた結果、特定の構造の直鎖メルカプトアルコール化合物が優れた防食効果を有し、防食剤として有用であることを見出した。また、本発明者らは、この直鎖メルカプトアルコール化合物を防食剤として洗浄液に加えることにより上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
【0011】
本発明の第一の態様は、(A)下記式(1)で表される化合物と、(B)溶剤とを含有する洗浄液である。
HS−(CH−OH・・・(1)
(式(1)において、xは3以上の整数である。)
【0012】
本発明の第二の態様は、上記式(1)で表される化合物からなる、銅又は銅含有金属の防食剤である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、銅又は銅含有金属に対して優れた防食効果を有する洗浄液、及び防食剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
≪洗浄液≫
本発明に係る洗浄液は、(A)下記式(1)で表される化合物と、(B)溶剤とを含有する洗浄液である。
HS−(CH−OH・・・(1)
(式(1)において、xは3以上の整数である。)
【0015】
<(A)式(1)で表される化合物>
洗浄剤は、例えば、銅や銅含有金属等により配線が形成された基板等の被洗浄物の洗浄に使用される。かかる洗浄により、被洗浄物の表面に付着する、レジスト膜、一時的積層膜、エッチング工程において生じた金属配線層や低誘電体層由来の残渣物等が、被洗浄物の表面から除去される。洗浄剤が下記式(1)で表される直鎖メルカプトアルコール化合物を含む場合、銅や銅含有金属からなる配線の腐食を抑制することができ、洗浄時の、配線の抵抗値の変化や、断線の発生を抑制することができる。
HS−(CH−OH・・・(1)
(式(1)において、xは3以上の整数である。)
【0016】
式(1)において、xは3以上の整数であって、その上限は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。洗浄液による銅や銅含有金属の腐食を良好に抑制できる点から、xは3以上10以下の整数であるのが好ましく、3以上9以下の整数であるのがより好ましい。xがかかる範囲である化合物を防食剤として用いる場合、防食剤が洗浄剤に溶解しやすいため、良好な防食効果を得やすい。また、この場合、洗浄後の被洗浄物を水によりリンスする場合の、防食剤である式(1)で表される化合物の析出を抑制することができる。
【0017】
xが3未満の整数である化合物は、洗浄液には溶解しやすいが、防食効果に劣る。xが10を超える整数である化合物は、良好な防食効果を示すが、かかる化合物を含む洗浄液を用いる場合、洗浄後の水によるリンスによって、被洗浄物の表面に析出する場合がある。このため、xが10を超える整数である化合物を含む洗浄液を用いる場合、洗浄後は、有機溶剤によるリンスに次いで、必要に応じて、水によるリンスを行うのが好ましい。
【0018】
式(1)で表される化合物の好適な例としては、
HS−(CH−OH;
HS−(CH−OH;
HS−(CH−OH;
HS−(CH−OH;
HS−(CH−OH;
HS−(CH−OH;
HS−(CH−OH;、及び
HS−(CH10−OH、が挙げられる。
【0019】
式(1)で表される化合物の、洗浄液における含有量は、洗浄液の洗浄効果を阻害せず、洗浄剤中に式(1)で表される化合物が均一に溶解可能であれば特に限定されない。洗浄液における、式(1)で表される化合物の含有量は、洗浄液の質量に対して、0.05〜5.0質量%が好ましく、0.1〜1.0質量%がより好ましい。式(1)で表される化合物を、かかる範囲の量で洗浄液に加える場合、良好な金属の防食効果を得つつ、洗浄液により洗浄された、被洗浄物を、水等によりリンスする場合に、式(1)で表される化合物の析出を抑制しやすい。なお、洗浄液において、式(1)で表される化合物は、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0020】
<(B)溶剤>
洗浄液は、式(1)で表される化合物や、後述する(C)アルカリ性化合物、又は酸性化合物、や(D)その他の添加剤を溶解させる(B)溶剤を含む。溶剤は、洗浄液に含まれる成分を均一に溶解させることができるものであれば特に限定されず、水、有機溶剤、及び有機溶剤の水溶液の何れも用いることができる。
【0021】
有機溶剤は、水溶性有機溶剤であっても、疎水性有機溶剤であってもよいが、水溶性有機溶剤が好ましい。溶剤に含まれる有機溶剤が水溶性である場合、被洗浄物の表面に残留する洗浄液を、水により被洗浄物をリンスすることによって除去しやすい点で好ましい。
【0022】
水溶性有機溶剤の好適な例としては、ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類;ジメチルスルホン、ジエチルスルホン、ビス(2−ヒドロキシエチル)スルホン、テトラメチレンスルホン等のスルホン類;N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド等のアミド類;N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン、N−ヒドロキシメチル−2−ピロリドン、N−ヒドロキシエチル−2−ピロリドン等のラクタム類;β−プロピオラクトン、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン、γ−カプロラクトン、ε−カプロラクトン等のラクトン類;1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、1,3−ジエチル−2−イミダゾリジノン、1,3−ジイソプロピル−2−イミダゾリジノン等のイミダゾリジノン類;エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノアセテート、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、グリセリン、1,2−ブチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、2,3−ブチレングリコール等の多価アルコール類、及びその誘導体;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、2−(2−アミノエトキシ)エタノール、N,N−ジメチルエタノールアミン、N,N−ジエチルエタノールアミン、N,N−ジブチルエタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、N−エチルエタノールアミン、N−ブチルエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン等のアルカノールアミン類を挙げることができる。
【0023】
これらの水溶性有機溶剤の中では、ジメチルスルホキシド、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、及びジエチレングリコールモノブチルエーテルがより好ましい。
【0024】
洗浄液に含まれる溶剤が、水溶性有機溶剤を含む場合、被洗浄物に付着する親水性の残渣と疎水性の残渣との双方を除去しやすいことから、水溶性有機溶剤を水とともに用いるのが好ましい。
【0025】
洗浄液における溶剤の含有量は、洗浄液に溶解させる成分の使用量に応じて自ずと定まる。洗浄液に含まれる溶剤が、水と水溶性有機溶剤とを含む場合、洗浄液における水溶性有機溶剤の含有量は、10〜90質量%が好ましく、20〜80質量%がより好ましい。洗浄液が水を含まない場合、洗浄液における水性有機溶剤の含有量は、50〜99質量%が好ましく、75〜95質量%がより好ましい。
【0026】
<(C)アルカリ性化合物、又は酸性化合物>
洗浄液としては、アルカリ性洗浄液、酸性洗浄液、及び中性洗浄液の何れも使用でき、被洗浄物に付着する、除去対象の残渣物の種類に応じて適宜選択される。これらの洗浄液の中では、洗浄効果に優れる点から、アルカリ性、又は酸性の洗浄液が好ましい。洗浄液が、アルカリ性、又は酸性の洗浄液である場合、洗浄液には、アルカリ性化合物、又は酸性化合物が配合される。ただし、アルカリ性の洗浄液について、溶剤が塩基性化合物であるアルカノールアミン類を含む場合、必ずしも、洗浄液にアルカリ性化合物を配合する必要は無い。
【0027】
洗浄液がアルカリ性である場合、洗浄液に配合されるアルカリ性化合物は、有機、又は無機のアルカリ性化合物から適宜選択される。有機のアルカリ性化合物としては、種々の塩基性の含窒素有機化合物を用いることができる。塩基性の含窒素有機化合物の中では、4級アンモニウム水酸化物が好ましい。4級アンモニウム水酸化物の好適な例としては、テトラメチルアンモニウム水酸化物、テトラエチルアンモニウム水酸化物、テトラプロピルアンモニウム水酸化物、テトラブチルアンモニウム水酸化物、エチルトリメチルアンモニウム水酸化物、ジメチルジエチルアンモニウム水酸化物、メチルトリエチルアンモニウム水酸化物、メチルトリプロピルアンモニウム水酸化物、メチルトリブチルアンモニウム水酸化物、ベンジルトリメチルアンモニウム水酸化物、及び(2−ヒドロキシエチル)トリメチルアンモニウム水酸化物等が挙げられる。これらの4級アンモニウム水酸化物の中では、洗浄液の洗浄効果が良好であることから、テトラメチルアンモニウム水酸化物、テトラプロピルアンモニウム水酸化物、テトラブチルアンモニウム水酸化物、ベンジルトリメチルアンモニウム水酸化物及びテトラエチルアンモニウム水酸化物が好ましく、テトラメチルアンモニウム水酸化物又はテトラブチルアンモニウム水酸化物がより好ましい。有機のアルカリ性化合物は、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0028】
有機のアルカリ性化合物の洗浄液への配合量は、化合物の塩基性の強さによっても異なるが、典型的には、洗浄液の質量に対して、1〜20質量%が好ましく、2〜15質量%がより好ましい。
【0029】
無機のアルカリ性化合物は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されず、種々の化合物を用いることができる。無機のアルカリ性化合物の好適な例としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム等のアルカリ金属水酸化物が挙げられる。無機のアルカリ性化合物は、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0030】
無機のアルカリ性化合物の洗浄液への配合量は、化合物の塩基性の強さによっても異なるが、典型的には、洗浄液の質量に対して、0.1質量ppm〜1質量%が好ましく、1質量ppm〜0.5質量%がより好ましい。
【0031】
洗浄液が酸性である場合、洗浄液に配合される酸性化合物は、本発明の目的を阻害しない範囲でプロトン酸から適宜選択される。好適な酸性化合物の具体例としては、塩酸、フッ酸、硫酸、硝酸、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、イソ吉草酸、乳酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、クエン酸、グリコール酸、ジグリコール酸、燐酸、メタンスルホン酸、トリフルオロ酢酸、トリフルオロメタンスルホン酸等のプロトン酸が挙げられる。酸性化合物は、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0032】
酸性化合物の洗浄液への配合量は、化合物の酸性の強さによっても異なるが、典型的には、洗浄液の質量に対して、0.1〜20質量%が好ましく、0.5〜15質量%がより好ましい。1.0〜10質量%がさらに好ましい。
【0033】
<(D)その他の添加剤>
洗浄液は、本発明の目的を阻害しない範囲で、式(1)で表される化合物、アルカリ性、又は酸性物質の他に、洗浄液に通常配合し得る種々の添加剤を含んでいてもよい。洗浄液に配合することができる、その他の添加剤の好適な例としては、界面活性剤、酸化防止剤、防腐剤等が挙げられる。
【0034】
その他の添加剤の使用量は、添加剤の種類によって適宜定められる。その他の添加剤は、洗浄剤において、通常使用される範囲の量で、洗浄剤に配合される。
【0035】
≪被洗浄物の洗浄方法≫
式(1)で表される化合物を含む洗浄液により洗浄される、被洗浄物は特に限定されない。被洗浄物が、銅又は銅含有合金からなる金属層を備える基板である場合、式(1)で表される化合物を含む洗浄液により基板を洗浄する場合でも、金属層の腐食が良好に抑制される。銅又は銅含有合金からなる金属層を備える基板の好適な例としては、シリコンウェーハ等の基板上に金属配線層、低誘電体層、絶縁層等を積層して半導体デバイスが形成された基板が好ましい。
【0036】
被洗浄物の洗浄方法は、通常行われる方法であれば特に限定されない。具体的には、例えば浸漬法、パドル法、シャワー法等を用いて、上記の洗浄液を被洗浄物に1〜40分間接触させることにより処理される。洗浄は、通常は室温で行われるが、洗浄効果を高めるため洗浄液を85℃程度まで昇温させて行ってもよい。
【実施例】
【0037】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0038】
〔実施例1〜3、及び比較例1〜3〕
防食剤として表2に記載の化合物を用いた。下表1に記載の比率で、洗浄液に含まれる各成分を混合し、均一に溶解した洗浄液を調製した。なお、比較例1では、防食剤を使用しなかったため、洗浄液における水の含有量を50.30質量%とした。
【0039】
【表1】
【0040】
得られた洗浄液を用いて、下記方法に従って、防食試験を行った。各実施例、及び比較例の洗浄液を用いて、防食試験を行った際の、銅膜の腐食量(nm)を、表2に示す。
【0041】
<防食試験方法>
スパッタ法により膜厚30nmの銅膜が表面に形成されたシリコン基板から、4cm×2cmのサイズに切り出された試験片を、被洗浄物として用いた。試験容器としては、容量100mlのガラス製ビーカーを用いた。試験片の短辺がビーカーの底面に接するように、試験片をビーカーの内壁に立てかけて試験を行った。各実施例、及び比較例の50℃に温められた洗浄液を、試験片が入ったビーカーにゆっくりと注いだ後、洗浄液の温度を50℃に保持した状態で、試験片を10分間、洗浄液に浸漬した。浸漬中は、1段プロペラ翼が取り付けられた撹拌装置により、回転数200rpmにて、洗浄液を撹拌した。浸漬終了後、試験片を洗浄液から引き上げ、試験片表面を水によりリンスした後、試験片表面に窒素を吹きつけ、試験片を乾燥させた。乾燥後の試験片の銅膜が形成された表面の表面抵抗値を、VR−70(国際電気株式会社製)により測定した。表面抵抗値から銅膜の腐食量を算出した。
【0042】
【表2】
【0043】
実施例1〜3と、比較例1とによれば、式(1)で表される防食剤を含む洗浄剤であれば、洗浄工程における、銅の腐食を極めて良好に抑制できることが分かる。一方、比較例2及び3によれば、式(1)で表される化合物と同様にメルカプト基を有する化合物であっても、式(1)に含まれない化合物を防食剤として用いた洗浄液では、銅膜の腐食は抑制されても、ある程度銅膜が腐食されることが分かる。
【0044】
〔実施例4、及び5〕
メルカプトヘキサノール(HS−(CH−OH)の含有量を0.30質量%から0.10質量%に変えることと、水の含有量を50.00質量%から50.20質量%に変えることの他は、実施例2と同様に実施例4の洗浄液を調製した。また、メルカプトヘキサノールの含有量を0.30質量%から0.70質量%に変えることと、水の含有量を50.00質量%から49.60質量%に変えることの他は、実施例2と同様に実施例5の洗浄液を調製した。
【0045】
実施例4及び5の洗浄液を用いて、実施例2と同様に防食試験を行ったところ、実施例4の洗浄液による銅膜腐食量は、0.85nmであり、実施例5の洗浄液による銅膜腐食量は0.50nmであった。
【0046】
実施例2と実施例4とによれば、洗浄液中の防食剤の含有量を0.10質量%程度まで減らす場合、やや銅膜腐食量は増加するものの、優れた防食効果を維持できることが分かる。また、実施例2と実施例5とによれば、洗浄液中の防食剤の含有量を、増加させることによって、洗浄液の防食効果をさらに優れたものとできることが分かる。
【0047】
〔実施例6、及び比較例4〕
防食剤として表4に記載の化合物を用いた。下表3に記載の比率で、洗浄液に含まれる各成分を混合し、均一に溶解した洗浄液を調製した。なお、比較例4では、防食剤を使用しなかったため、洗浄液における水の含有量を50.30質量%とした。
【0048】
【表3】
【0049】
【表4】
【0050】
実施例2、及び実施例6と、比較例4とによれば、アルカリ性の洗浄液において、洗浄液に含まれるアルカリ性物質の種類によらず、式(1)で表される防食剤を用いることにより、洗浄工程における銅の腐食を極めて良好に抑制できることが分かる。
【0051】
〔実施例7、及び比較例5〕
防食剤として表6に記載の化合物を用いた。下表5に記載の比率で、洗浄液に含まれる各成分を混合し、均一に溶解した洗浄液を調製した。なお、比較例5では、防食剤を使用しなかったため、洗浄液における水の含有量を50.30質量%とした。
【0052】
【表5】
【0053】
【表6】
【0054】
実施例7と、比較例5とによれば、酸性の洗浄液においても、式(1)で表される防食剤を用いることにより、洗浄工程における銅の腐食を極めて良好に抑制できることが分かる。