特許第5925907号(P5925907)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5925907MgO−TiO焼結体ターゲット及びその製造方法
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  • 特許5925907-MgO−TiO焼結体ターゲット及びその製造方法 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5925907
(24)【登録日】2016年4月28日
(45)【発行日】2016年5月25日
(54)【発明の名称】MgO−TiO焼結体ターゲット及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/04 20060101AFI20160516BHJP
   C04B 35/46 20060101ALI20160516BHJP
   C23C 14/34 20060101ALN20160516BHJP
【FI】
   C04B35/04 Z
   C04B35/46 Z
   !C23C14/34 A
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-543701(P2014-543701)
(86)(22)【出願日】2014年3月4日
(86)【国際出願番号】JP2014055346
(87)【国際公開番号】WO2014156497
(87)【国際公開日】20141002
【審査請求日】2014年9月24日
(31)【優先権主張番号】特願2013-73239(P2013-73239)
(32)【優先日】2013年3月29日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100093296
【弁理士】
【氏名又は名称】小越 勇
(74)【代理人】
【識別番号】100173901
【弁理士】
【氏名又は名称】小越 一輝
(72)【発明者】
【氏名】高見 英生
(72)【発明者】
【氏名】中村 祐一郎
(72)【発明者】
【氏名】荒川 篤俊
(72)【発明者】
【氏名】荻野 真一
【審査官】 立木 林
(56)【参考文献】
【文献】 特公平08−005708(JP,B2)
【文献】 国際公開第2013/005690(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/004398(WO,A1)
【文献】 飯泉清賢,外3名,TiO焼結体の物理的諸性質におよぼすMgO添加の影響,東京工芸大学紀要,日本,1985年,vol. 8,No. 1,p. 30-34
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/04
C04B 35/465
C23C 14/34
CiNii
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
TiOを25〜90mol%含有し、残部がMgO及び不可避的不純物からなり、TiO相とMgO相の2相が存在し、該MgO相の最長径が50μm以上となる領域が1mm当たり10個以下であることを特徴とするMgO−TiO焼結体スパッタリングターゲット
【請求項2】
相対密度が95%以上であることを特徴とする請求項1記載のMgO−TiO焼結体スパッタリングターゲット
【請求項3】
バルク抵抗率が10Ω・cm以下であることを特徴とする請求項1又は2記載のMgO−TiO焼結体スパッタリングターゲット
【請求項4】
MgOに25〜90mol%以下のTiOが含有した焼結体スパッタリングターゲットの製造方法であって、平均粒径が10μm以下のMgO粉末と平均粒径が50μm以下のTiO粉末からなる原料粉を混合し、これを1250〜1450℃の温度、200kgf/cm以上の加圧力で、ホットプレスして作製することを特徴とするMgO−TiO焼結体スパッタリングターゲットの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気ディスク装置用の磁気記録媒体やトンネル磁気抵抗効果(TMR)素子と言ったエレクトロデバイス用の酸化マグネシウム層を形成するために用いられる酸化マグネシウム系ターゲット及びその製造方法に関し、特に導電性を有し、かつ高密度のスパッタリング用焼結体酸化マグネシウム系ターゲット及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、磁気ディスクの小型化・高記録密度化に伴い、磁気記録媒体の研究・開発が行われ、特に磁性層や下地層の改良が種々行われてきた。ハードディスクの記録密度は、年々急速に増大しており、現状の600Gbit/inの面密度から、将来は1Tbit/inに達すると考えられている。1Tbit/inに記録密度が達すると、記録bitのサイズが10nm以下になり、その場合、熱揺らぎによる常磁性化が問題となってくると予想され、現在使用されている材料、例えばCo−Cr基合金にPtを添加して、結晶磁気異方性を高めた材料では十分でないことが予想される。10nm以下のサイズで安定的に強磁性として振舞う磁性粒子は、より高い結晶磁気異方性を持っている必要があるからである。
【0003】
上記のような理由から、L1構造を持つFePt相が超高密度記録媒体材料として注目されている。L1構造を持つFePt相は高い結晶磁気異方性とともに、耐食性、耐酸化性に優れているため、磁気記録媒体としての応用に適した材料と期待されているものである。そして、FePt相を超高密度記録媒体材料として使用する場合には、規則化したFePt磁性粒子を磁気的に孤立させた状態で出来るだけ高密度に方位をそろえて分散させるという技術の開発が求められている。FePt薄膜に磁気異方性を付与するためには、結晶方向を制御することが必要とされているが、これは単結晶基板を選択することで容易に可能となる。磁化方位軸を垂直に配向させるには、FePt層の下地層として酸化マグネシウム膜が適していることが報告されている。
【0004】
さらに、磁気ヘッド(ハードディスク用)やMRAMに用いられるTMR素子の絶縁層(トンネル障壁)として使われる酸化マグネシウム膜等々にも使用されることも知られている。上記のような酸化マグネシウム膜は、古くは真空蒸着法によって形成されていたが、最近は、製造工程の簡略化や大面積化を容易にするために、スパッタリング法を用いた酸化マグネシウム膜の製作が行われている。従来技術としては、下記の公知文献がある。
【0005】
前記特許文献1は、酸化マグネシウム純度99.9%以上、相対密度99%以上の酸化マグネシウム焼結体よりなる酸化マグネシウムであって、平均粒径が60μm以下で、結晶粒内に平均粒径2μm以下の丸みを帯びた気孔が存在している微構造を有し、スパッタ製膜速度1000Å/min以上に対応可能な酸化マグネシウムターゲットを開示する。これは、高純度酸化マグネシウム粉末に平均粒径100nm以下の酸化マグネシウム微粉末を添加混合して成形し、成形体を一次焼結及び二次焼結する方法を基礎としている。
【0006】
前記特許文献2は、相対密度99%以上の酸化マグネシウム焼結体よりなり、Ar雰囲気或いはAr−O混合雰囲気中でのスパッタ成膜において500Å/min以上の成膜速度が得られることを特徴とする酸化マグネシウムターゲットであり、平均粒径0.1〜2μmの高密度酸化マグネシウム粉末を3t/cm以上の圧力でCIP成形し、得られた成形体を焼結することを提案している。
【0007】
前記特許文献3には、酸化マグネシウム純度99.9%以上、相対密度99.0%以上の酸化マグネシウム焼結体よりなる酸化マグネシウムターゲットであって、スパッタ成膜速度600Å/min以上に対応可能な酸化マグネシウムからなるターゲットが記載され、高純度酸化マグネシウム粉末に電融酸化マグネシウム粉末と平均粒径100nm以下の酸化マグネシウム微粉末を添加混合して成形し、成形体を一次焼結及び二次焼結する方法であり、良好な配向性、結晶性及び膜特性を有する酸化マグネシウム膜をスパッタ法により高い成膜速度で成膜できると記載されている。
【0008】
前記特許文献4には、MgOを主成分とするターゲット及びその製造方法であり、放電電圧が低く、放電時の耐スパッタリング性、速い放電の応答性、絶縁性を目途とし、A型のPDPの誘電体層の保護膜に利用するために、MgOを主成分とするターゲット内にLa粒子、Y粒子、Sc粒子を分散させることが提案されている。
【0009】
前記特許文献5には、MgOを主成分とするターゲットにおいて、強度、破壊靭性値、耐熱衝撃性を向上させることを目途とし、MgOマトリックス中にLaB粒子を分散させると共に、焼結前の還元ガス雰囲気中での還元処理、所定温度での一次焼結、二次焼結が提案されている。
【0010】
前記特許文献6には、MgOを主成分とするターゲットにおいて、相対密度と平均結晶粒径を0.5〜100μmに規定するとともに、MgOマトリックス中に希土類元素であるSc、Y、La、Ce、Gd、Yb、Ndを分散させることが記載されている。前記特許文献7には、高密度焼結体を製造することを目途とし、MgO圧粉体を放電プラズマ焼結法により焼結することが提案されている。
【0011】
前記特許文献8及び特許文献9には、最終到達密度を3.568g/cmとし、機械的性質及び熱伝導性が良好で、ガス発生による雰囲気の汚染を低減することを目途とし、一軸加圧焼結により、(111)面を多く配向させたMgO焼結体を得るものであり、粒径が1μm以下のMgO原料粉末を一軸加圧焼結し、その後酸素雰囲気中で1273K以上の温度で熱処理することが提案されている。この場合は、原料粉末は、MgOが用いられ、密度を向上させる手法が焼結条件に限定されている。
【0012】
前記特許文献10は、MgO膜を大規模にかつ均一に成膜するターゲットを提案するものであり、平均結晶粒径、密度、抗折力、ターゲット表面の中心性平均粗さを規定するとともに、原料粉末の粒径を1μm以下とし、その後造粒工程を経て、所定の荷重と温度で焼結し、ターゲットの中心線平均粗さRaを1μm以下に表面仕上げすることが提案されている。なお、特許文献11には、垂直磁気記録媒体において、非磁性基体と非磁性下地層との間に、NaCl型構造を有するMgO、NiO、TiO、またはTiの炭化物のいずれかの材料からなる非磁性シード層を形成することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平10−130827号公報
【特許文献2】特開平10−130828号公報
【特許文献3】特開平10−158826号公報
【特許文献4】特開平10−237636号公報
【特許文献5】特開平11−6058号公報
【特許文献6】特開平11−335824号公報
【特許文献7】特開平11−139862号公報
【特許文献8】特開2009−173502号公報
【特許文献9】国際公開2009/096384号パンフレット
【特許文献10】特開2000−169956号公報
【特許文献11】特開2004−213869号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
近年、磁気ディスク装置(ハードディスク)の磁気記録媒体、トンネル磁気抵抗効果(TMR)素子等のエレクトロデバイスを用として、酸化マグネシウム膜の需要が高まりつつある。この酸化マグネシウムは、絶縁性材料であるため、通常、高周波(RF)スパッタリングが用いられる。しかしながら、このRFスパッタリングは、成膜速度が遅いため生産性が悪く、またパーティクルが発生しやすいため膜の品質を劣化させるという問題があった。そこで、本発明は、成膜速度が速く、パーティクルの発生が少ない直流(DC)スパッタリングが可能な高密度のターゲット及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために、本発明者らは鋭意研究を行った結果、酸化マグネシウムMgOに、これと同じNaCl型の結晶構造を持ち、かつ格子定数が近い値を有する、導電性の酸化チタンTiOを混合した複合酸化物のターゲットとすることで、導電性を有する焼結体が得られ、DCスパッタリングが可能となり、しかも、得られた膜は、酸化マグネシウムと同等の結晶構造を持つので、下地膜等としての機能が損なわれないという知見を得た。
【0016】
このような知見に基づき、本発明は、
1)TiOを25〜90mol%含有し、残部がMgO及び不可避的不純物からなるMgO−TiO焼結体、
2)相対密度が95%以上であることを特徴とする上記1)記載のMgO−TiO焼結体、
3)バルク抵抗率が10Ω・cm以下である上記1)又は2)記載のMgO−TiO焼結体、
4)TiO相とMgO相の2相が存在し、該MgO相の最長径が50μm以上となる領域が1mm当たり10個以下であることを特徴とする上記1)〜3)のいずれか一に記載のMgO−TiO焼結体、
5)MgOに25mol%以上90mol%以下のTiOが含有したスパッタリング用焼結体の製造方法であって、平均粒径が10μm以下のMgO粉と平均粒径が50μm以下のTiO粉とからなる原料粉を混合し、これを1250〜1450℃の温度、200kgf/cm以上の加圧力で、ホットプレスして作製することを特徴とする、MgO−TiO焼結体の製造方法、を提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、高密度でバルク抵抗率の低い酸化マグネシウム系焼結体を提供することができる。これをターゲットとして用いた場合には、DCスパッタリングにより成膜することができるので、成膜速度を格段に向上させることができ、しかも安定したスパッタリングが可能となるので、パーティクルの発生量が少ないという優れた効果を有する。また、RFスパッタリング用の高価なRF電源を必要としないので、装置設備のコストを低減することができるという優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施例2のターゲットをレーザー顕微鏡で観察した組織画像である。
図2】実施例2のターゲットをレーザー顕微鏡で観察した組織画像(図1を約1/5縮尺した画像)である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明のMgO−TiO焼結体は、MgOにTiOを添加することが、大きな特徴の一つである。導電性を有するTiOを添加することで、MgO−TiOからなる導電性の焼結体が得られるので、この焼結体を用いて作製したスパッタリングターゲットは、DCスパッタが可能となり、また、スパッタリングの際発生するパーティクルの量を低減することができる。
【0020】
本発明は、上記に示すように、導電性を有するTiOを添加することにより、焼結体に導電性を付与し、DCスパッタリングを可能とするものであるが、さらに重要な点は前記TiOが、MgOと同一のNaCl型の結晶構造を有し、かつ、MgOに近い値の格子定数をとり、MgOと同じ酸化物でMgOと反応して中間化合物を生成しないことである。これにより、スパッタリングによって形成した膜は、従来の酸化マグネシウム単独の膜と比べて、その特性を損なうことがないという優れた効果を有する。
また、本発明に適用可能な導電性材料として、TiOの他、TiN、TiC、CrN、NbN、NbC、TaN、TaC、ZrN、ZrC、VN、VC、などが挙げられる。格子定数の観点だけからすると、TiC、VC、WC、TiNが有望であるが、これらの炭化物或いは窒化物は、原料粉中に酸素不純物を多く含み、MgOと混合、焼結するときに分解したり、MgOの酸素を還元したり、MgOと中間化合物を生成したりする可能性があり、本来のMgや「TiC、VC、WC、TiN」がもつ特性(格子定数など)が損なわれることが考えられる。
【0021】
本発明のMgO−TiO焼結体において、TiOの含有量は、25mol%以上90mol%以下、好ましくは、35mol%以上70mol%以下とする。25mol%未満であると、DCスパッタリングが可能なバルク抵抗が得られにくく、一方、90mol%超であると、形成した膜の特性が純TiOに近づき、所望の特性が得られないため、好ましくない。
なお、本発明には、DCスパッタリングが可能であり、かつ、膜の特性を著しく変化させない範囲であれば、その他の材料を添加する場合も含まれる。
【0022】
また、本発明のMgO−TiO焼結体において、相対密度が95%以上であることが好ましい。さらに好ましくは、相対密度が98%以上である。このような高密度焼結体をスパッタリング用ターゲットとして用いた場合には、スパッタリングの際、パーティクルの発生量を低減することができる。
【0023】
また、本発明のMgO−TiO焼結体において、バルク抵抗率が10Ω・cm以下であることが好ましい。さらに好ましくは、0.01Ω・cm以下である。このように、バルク抵抗値が低い焼結体をスパッタリング用ターゲットとして用いた場合には、より安定的なDCスパッタリングが可能となる。これにより、従来のRFスパッタに比べて成膜速度を速くすることができるので、生産性を向上することができる。
なお、上記のバルク抵抗率を超える範囲であっても、DCスパッタリングが可能であれば、本発明に包含されることは当然理解されるべきである。
【0024】
また、本発明のMgO−TiO焼結体において、TiO相とMgO相の2相が存在し、MgO相の最長径が50μm以上である領域が1mm当たり10個以下であることが好ましい。さらに好ましくは、MgO相の最長径が30μm以上である領域が1mm当たり25個以下である。TiO相は網目状に連なって分散していることが望ましい。
【0025】
本発明は、導電率がそれぞれ大きく異なるMgOとTiOが共存する焼結体であるが、粗大なMgO相が存在すると、そこを起点とした異常放電が発生しやすくなる。このような粗大なMgO相の領域を極力低減することにより、粗大なMgO相を起点とした異常放電を抑制することが可能となり、パーティクル量を低減することができる。なお、MgO相の最長径とは、ターゲットの一部から採取したサンプルの研磨面において、MgO相を形成する粒子の最大長さを意味する。
【0026】
本発明のMgO−TiO焼結体は、以下の方法によって、作製することができる。
まず、原料として、MgO粉とTiO粉を用意する。MgO粉末は平均粒径が10μm以下、TiO粉末は平均粒径が50μm以下のものを使用するのが好ましい。粉末の粒径がこの範囲を超えると均一な混合が困難となり、また偏析と結晶の粗大化が生じるため好ましくない。原料粉末の粒径は微細な方が良いが、TiOは微細化が難しく、生産上の観点から、平均粒径1μm以上とすることが好ましい。
次に、これらの原料粉末を所定のモル比となるように秤量し、ボールミル等の公知の手法を用いて粉砕を兼ねて混合する。
【0027】
このようにして得られた混合粉末をホットプレス法で真空雰囲気、あるいは、不活性ガス雰囲気において成型・焼結させる。また、前記ホットプレス以外にも、プラズマ放電焼結法など様々な加圧焼結方法を使用することができる。特に、熱間静水圧焼結法は焼結体の密度向上に有効である。焼結時の保持温度は、1250〜1450℃の温度範囲とするのが好ましい。また、焼結時の保持圧力は、200kgf/cm以上の圧力範囲とするのが好ましい。
【0028】
また、本発明において、このようにして得られた焼結体を研削等により所望の形状に加工することで、スパッタリングターゲットを作製することができる。このようにして製造したスパッタリングターゲットは、DCスパッタリングが可能となるため、成膜速度が格段に向上し、生産性を大幅に改善することができる。さらに、スパッタリングの際に発生するパーティクル量を低減することができるので、成膜時における歩留まりを向上することができるという優れた効果を有する。
【実施例】
【0029】
以下、実施例および比較例に基づいて説明する。なお、本実施例はあくまで一例であり、この例によって何ら制限されるものではない。すなわち、本発明は特許請求の範囲によってのみ制限されるものであり、本発明に含まれる実施例以外の種々の変形を包含するものである。
【0030】
(実施例1)
原料粉として、平均粒径1μm、純度4N(99.99%)のMgO粉末、平均粒径30μm、純度3N(99.9%)のTiO粉を用意した。そして、表1に記載される組成比となるようにこれらの原料粉を調合した。
次に、秤量した粉末を、粉砕媒体のジルコニアボールと共に容量10リットルのボールミルポットにAr雰囲気で封入し、両粉末が均一に分散するように、20時間以上回転させて混合・粉砕した。
次に、ポットから取り出した粉末を、直径180mmのグラファイトダイスに充填しホットプレス装置を用いて成形・焼結させた。ホットプレスの条件は、真空雰囲気、保持温度1400℃とし、昇温開始時から保持終了まで250kgf/cmで加圧した。
【0031】
このようにして作製した焼結体について、アルキメデス法による密度測定を行った結果、98%の相対密度を有していた。ここで、相対密度は、ターゲットの実測密度を計算密度(理論密度ともいう)で割り返して求めた値である。計算密度は、ターゲットの構成成分が互いに拡散あるいは反応せずに混在していると仮定したときの密度であり、式:計算密度=Σ(構成成分の分子量×構成成分のモル比)/Σ(構成成分の分子量×構成成分のモル比/構成成分の理論密度)なお、MgOの理論密度は3.585g/cm、TiOの理論密度は4.93g/cmを採用した。以下の実施例及び比較例においても同様とした。
また、4端子法により焼結体のバルク抵抗測定を行った結果、0.01Ω・cmであった。また、この焼結体の断面を研磨し、レーザー顕微鏡で中心部を観察したところ、MgO相とTiO相の2相が観察でき、MgO相の最長径が50μm以上、30μm以上となる領域は、それぞれ5個/mm、15個/mmであった。
【0032】
さらに、焼結体を、ターゲット形状に研削機で研磨加工し、円盤状のターゲットを作製した。これをDCスパッタ装置に取り付け、スパッタリングを行った。スパッタリングの条件は、スパッタパワー:0.5kW、Arガス圧:5Paとし、シリコン基板上に30秒間成膜した。そして、基板上へ付着したパーティクルの個数をパーティクルカウンターで測定した。このときのパーティクル個数は120個であった。
【0033】
【表1】
【0034】
(実施例2)
原料粉として、平均粒径1μm、純度4N(99.99%)のMgO粉末、平均粒径20μm、純度3N(99.9%)のTiO粉を用意した。そして、表1に記載される組成比となるようにこれらの原料粉を調合した。
次に、秤量した粉末を、粉砕媒体のジルコニアボールと共に容量10リットルのボールミルポットにAr雰囲気で封入し、両粉末が均一に分散するように、20時間以上回転させて混合・粉砕した。
次に、ポットから取り出した粉末を、直径180mmのグラファイトダイスに充填しホットプレス装置を用いて成形・焼結させた。ホットプレスの条件は、真空雰囲気、保持温度1400℃とし、昇温開始時から保持終了まで300kgf/cmで加圧した。
【0035】
このようにして作製した焼結体について、アルキメデス法による密度測定を行った結果、98%の相対密度を有していた。また、4端子法により焼結体のバルク抵抗測定を行った結果、0.003Ω・cmであった。また、この焼結体の断面を研磨し、レーザー顕微鏡で中心部を観察した。その結果を図1に示す。図1に示すようにMgO相(濃いグレーの部分)とTiO相(薄いグレーの部分)の2相が観察できた。また、MgO相の最長径が50μm以上、30μm以上となる領域は、図2に示すようにそれぞれ1個、2個であり、この画像領域を1mm当たりの面積に換算したとき、それぞれ3個/mm2、5個/mmであった。なお、他の実施例及び比較例(但し、比較例1を除く)においても、図1と同倍率の組織画像でMgO相とTiO相の2相から形成されていることを確認し、図2と同倍率の画像領域において、最長径が50μm以上及び30μm以上のMgO相の個数をカウントし、これを1mm当たりの面積に換算して、単位面積当たりの個数とした。
【0036】
さらに、焼結体を、ターゲット形状に研削機で研磨加工し、円盤状のターゲットを作製した。これをDCスパッタ装置に取り付け、スパッタリングを行った。スパッタリングの条件は、スパッタパワー:0.5kW、Arガス圧:5Paとし、シリコン基板上に30秒間成膜した。そして、基板上へ付着したパーティクルの個数をパーティクルカウンターで測定した。このときのパーティクル個数は51個であった。
【0037】
(実施例3)
原料粉として、平均粒径1μm、純度4N(99.99%)のMgO粉末、平均粒径30μm、純度3N(99.9%)のTiO粉を用意した。そして、表1に記載される組成比となるようにこれらの原料粉を調合した。
次に、秤量した粉末を、粉砕媒体のジルコニアボールと共に容量10リットルのボールミルポットにAr雰囲気で封入し、両粉末が均一に分散するように、20時間以上回転させて混合・粉砕した。
次に、ポットから取り出した粉末を、直径180mmのグラファイトダイスに充填しホットプレス装置を用いて成形・焼結させた。ホットプレスの条件は、真空雰囲気、保持温度1400℃とし、昇温開始時から保持終了まで250kgf/cmで加圧した。
【0038】
このようにして作製した焼結体について、アルキメデス法による密度測定を行った結果、99.5%の相対密度を有していた。また、4端子法により焼結体のバルク抵抗測定を行った結果、0.002Ω・cmであった。また、この焼結体の断面を研磨し、レーザー顕微鏡で中心部を観察したところ、MgO相とTiO相の2相が観察でき、MgO相の最長径が50μm以上、30μm以上となる領域は、それぞれ0個/mm、5個/mmであった。
【0039】
さらに、焼結体を、ターゲット形状に研削機で研磨加工し、円盤状のターゲットを作製した。これをDCスパッタ装置に取り付け、スパッタリングを行った。スパッタリングの条件は、スパッタパワー:0.5kW、Arガス圧:5Paとし、シリコン基板上に30秒間成膜した。そして、基板上へ付着したパーティクルの個数をパーティクルカウンターで測定した。このときのパーティクル個数は46個であった。
【0040】
(実施例4)
原料粉として、平均粒径1μm、純度4N(99.99%)のMgO粉末、平均粒径30μm、純度3N(99.9%)のTiO粉を用意した。そして、表1に記載される組成比となるようにこれらの原料粉を調合した。
次に、秤量した粉末を、粉砕媒体のジルコニアボールと共に容量10リットルのボールミルポットにAr雰囲気で封入し、両粉末が均一に分散するように、10時間回転させて混合・粉砕した。
次に、ポットから取り出した粉末を、直径180mmのグラファイトダイスに充填しホットプレス装置を用いて成形・焼結させた。ホットプレスの条件は、真空雰囲気、保持温度1400℃とし、昇温開始時から保持終了まで250kgf/cmで加圧した。
【0041】
このようにして作製した焼結体について、アルキメデス法による密度測定を行った結果、99.5%の相対密度を有していた。また、4端子法により焼結体のバルク抵抗測定を行った結果、0.0005Ω・cmであった。また、この焼結体の断面を研磨し、レーザー顕微鏡で中心部を観察したところ、MgO相とTiO相の2相が観察でき、MgO相の最長径が50μm以上、30μm以上となる領域は、それぞれ0個/mm、0個/mmであった。
【0042】
さらに、焼結体を、ターゲット形状に研削機で研磨加工し、円盤状のターゲットを作製した。これをDCスパッタ装置に取り付け、スパッタリングを行った。スパッタリングの条件は、スパッタパワー:0.5kW、Arガス圧:5Paとし、シリコン基板上に30秒間成膜した。そして、基板上へ付着したパーティクルの個数をパーティクルカウンターで測定した。このときのパーティクル個数は22個であった。
【0043】
(比較例1)
原料粉として、平均粒径1μm、純度4N(99.99%)のMgO粉末のみを用意した。そして、この粉末を、粉砕媒体のジルコニアボールと共に容量10リットルのボールミルポットに封入し、10時間回転させて粉砕した。
次に、ポットから取り出した粉末を、直径180mmのグラファイトダイスに充填しホットプレス装置を用いて成形・焼結させた。ホットプレスの条件は、真空雰囲気、保持温度1500℃とし、昇温開始時から保持終了まで300kgf/cmで加圧した。
このようにして作製した焼結体について、アルキメデス法による密度測定を行った結果、99%の相対密度を有していた。また、4端子法により焼結体のバルク抵抗測定を行ったが、抵抗値が高く測定できなかった。
この焼結体を、ターゲット形状へ旋盤で切削加工し、円盤状のターゲットを作製した。これをDCスパッタ装置に取り付け、スパッタリングを行ったが、DCスパッタリングができなかった。
【0044】
(比較例2)
原料粉として、平均粒径1μm、純度4N(99.99%)のMgO粉末、平均粒径25μm、純度3N(99.9%)のTiO粉を用意した。そして、表1に記載される組成比となるようにこれらの原料粉を調合した。
次に、秤量した粉末を、粉砕媒体のジルコニアボールと共に容量10リットルのボールミルポットにAr雰囲気で封入し、両粉末が均一に分散するように、20時間以上回転させて混合・粉砕した。
次に、ポットから取り出した粉末を、直径180mmのグラファイトダイスに充填しホットプレス装置を用いて成形・焼結させた。ホットプレスの条件は、真空雰囲気、保持温度1400℃とし、昇温開始時から保持終了まで300kgf/cmで加圧した。
【0045】
このようにして作製した焼結体について、アルキメデス法による密度測定を行った結果、96%の相対密度を有していた。また、4端子法により焼結体のバルク抵抗測定を行った結果、抵抗値が高く測定できなかった。また、この焼結体の断面を研磨し、レーザー
顕微鏡で中心部を観察したところ、MgO相とTiO相の2相が観察でき、MgO相の最長径が50μm以上、30μm以上となる領域は、それぞれ13個/mm、35個/mmであった。
【0046】
この焼結体を、ターゲット形状に研削機で研磨加工し、円盤状のターゲットを作製した。これをDCスパッタ装置に取り付け、スパッタリングを行ったが、DCスパッタリングができなかった。
【0047】
(比較例3)
原料粉として、平均粒径1μm、純度4N(99.99%)のMgO粉末、平均粒径100μm、純度3N(99.9%)のTiO粉を用意した。そして、表1に記載される組成比となるようにこれらの原料粉を調合した。
次に、秤量した粉末を、粉砕媒体のジルコニアボールと共に容量10リットルのボールミルポットにAr雰囲気で封入し、両粉末が均一に分散するように、5時間回転させて混合・粉砕した。
次に、ポットから取り出した粉末を、直径180mmのグラファイトダイスに充填しホットプレス装置を用いて成形・焼結させた。ホットプレスの条件は、真空雰囲気、保持温度1400℃とし、昇温開始時から保持終了まで300kgf/cmで加圧した。
【0048】
このようにして作製した焼結体について、アルキメデス法による密度測定を行った結果、97%の相対密度を有していた。また、4端子法により焼結体のバルク抵抗測定を行った結果、0.007Ω・cmであった。また、この焼結体の断面を研磨し、レーザー顕微鏡で中心部を観察したところ、MgO相とTiO相の2相が観察でき、MgO相の最長径が50μm以上、30μm以上となる領域は、それぞれ25個/mm、53個/mmであった。
【0049】
さらに、焼結体を、ターゲット形状に研削機で研磨加工し、円盤状のターゲットを作製した。これをDCスパッタ装置に取り付け、スパッタリングを行った。スパッタリングの条件は、スパッタパワー:0.5kW、Arガス圧:5Paとし、シリコン基板上に30秒間成膜した。そして、基板上へ付着したパーティクルの個数をパーティクルカウンターで測定した。このときのパーティクル個数は2000個であった。
【0050】
(比較例4)
原料粉として、平均粒径1μm、純度4N(99.99%)のMgO粉末、平均粒径100μm、純度3N(99.9%)のTiO粉を用意した。そして、表1に記載される組成比となるようにこれらの原料粉を調合した。
次に、秤量した粉末を、粉砕媒体のジルコニアボールと共に容量10リットルのボールミルポットにAr雰囲気で封入し、両粉末が均一に分散するように、5時間回転させて混合・粉砕した。
次に、ポットから取り出した粉末を、直径180mmのグラファイトダイスに充填しホットプレス装置を用いて成形・焼結させた。ホットプレスの条件は、真空雰囲気、保持温度1400℃とし、昇温開始時から保持終了まで300kgf/cmで加圧した。
【0051】
このようにして作製した焼結体について、アルキメデス法による密度測定を行った結果、99.5%の相対密度を有していた。また、4端子法により焼結体のバルク抵抗測定を行った結果、0.002Ω・cmであった。また、この焼結体の断面を研磨し、レーザー顕微鏡で観察したところ、MgO相とTiO相の2相が観察でき、MgO相の最長径が50μm以上、30μm以上となる領域は、それぞれ15個/mm、41個/mmであった。
【0052】
さらに、焼結体を、ターゲット形状に研削機で研磨加工し、円盤状のターゲットを作製した。これをDCスパッタ装置に取り付け、スパッタリングを行った。スパッタリングの条件は、スパッタパワー:0.5kW、Arガス圧:5Paとし、シリコン基板上に30秒間成膜した。そして、基板上へ付着したパーティクルの個数をパーティクルカウンターで測定した。このときのパーティクル個数は500個であった。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明のMgO−TiO焼結体は、DCスパッタリングが可能であることから、従来のMgO焼結体をRFスパッタリングした場合に比べ、成膜速度を格段に高めることができ、生産性向上という大きな効果が得られる。また、DCスパッタリングは、安価なDC電源を利用することで実現できるので、既存設備をそのまま利用することができ、設備投資のコストを低減することができる。
以上より、本発明のMgO−TiO焼結体は、磁気ディスク装置用の磁気記録媒体やトンネル磁気抵抗効果(TMR)素子と言ったエレクトロデバイス用の薄膜を形成する際に用いられる酸化マグネシウム系スパッタリングターゲットとして有用である。また、従来の絶縁性MgOでは実現できなかった導電性セラミックス材料として、静電気除去や耐熱部材などの新たな分野に対しても利用可能である。
図1
図2