【実施例】
【0029】
次に、本実施の形態である
リチウムイオン二次電池(ラミネート電池)1の実施例について説明する。なお、比較のために作製した比較例のリチウムイオン電池(ラミネート電池)についても併せて説明する。
【0030】
[実施例1]
本実施例では、正極板の製造過程において、乾燥時間内で難燃化剤が沈降しながら析出するように乾燥条件を定める。
【0031】
具体的には、乾燥温度を100℃、乾燥時間を260秒とする乾燥条件の下で、正極集電体の表面に前述の環状ホスファゼン化合物を含む正極活物質合剤を塗布して形成された塗布層を乾燥して、リチウムイオン二次電池1の正極板3を作製した。
【0032】
実施例1では、乾燥温度(100℃)は、環状ホスファゼン化合物の融点(110℃)よりも低い温度とした。また、乾燥時間(260秒)は、恒率乾燥および減率乾燥をそれぞれ一定温度(100℃)で完了させることができる長さとした。この乾燥時間は、この乾燥条件は、塗着層を早期に乾燥させるのではなく、難燃化剤を確実に沈降しながら析出させることを可能にする。
【0033】
なお後述する比較例のように、120℃で100秒の乾燥条件で、乾燥を行うと、沈降の前に乾燥が起こる、あるいは対流のため沈降が妨げられるため難燃化剤は合剤内にほぼ均等に分散する。
【0034】
[実施例2]
本実施例では、正極板の製造過程において、初期の乾燥条件として、比較的低い温度で加熱し、溶媒の蒸発速度が低下した時点、すなわち減率乾燥過程に至った段階で温度を上昇させた。このような乾燥条件を採用すると、析出した難燃化剤を沈降させて、しかも乾燥完了までの時間を短縮することができる。
【0035】
具体的には、正極板3の製造過程において、初期の乾燥炉設定温度を100℃に設定した。乾燥開始から100秒後に乾燥速度が低下した。その時点で、乾燥炉の設定温度を120℃に上昇させた。50秒後に乾燥が終了した。
【0036】
[実施例3]
本実施例では、正極板の製造過程において、初期の乾燥条件として、比較的高い温度で加熱している。乾燥速度が低下した時点において乾燥温度を低下させた。
【0037】
そこで実施例3では、具体的に、正極板の製造過程において、初期の乾燥炉設定温度を120℃に設定した。乾燥開始から50秒後に乾燥速度が低下した。その時点で、乾燥炉の設定温度を100℃に低下させた。130秒後に乾燥が終了した。
【0038】
[比較例1]
本比較例では、難燃化剤(環状ホスファゼン化合物)を含まない正極活物質合剤を用いて、上述の特許文献2で実質的に採用された乾燥条件の下で、正極集電体の表面に正極活物質合剤を塗布して形成された塗布層を乾燥して、リチウムイオン二次電池の正極板を作製した。具体的には、予熱温度を120℃、予熱時間を50秒、乾燥温度を120℃、乾燥時間を100秒とする乾燥条件を定めた。
【0039】
[比較例2]
比較例1と同様の乾燥条件の下で、正極集電体の表面に難燃化剤(環状ホスファゼン化合物)を含む正極活物質合剤を塗布して形成された塗布層を乾燥して正極板を形成し、リチウムイオン二次電池を作製した。
【0040】
[比較例3]
比較例2に対して、予熱温度および予熱時間を変えた以外は、比較例2と同様の乾燥条件下で、正極集電体の表面に難燃化剤(環状ホスファゼン化合物)を含む正極活物質合剤を塗布して形成された塗布層を乾燥して、リチウムイオン二次電池の正極板を作製した。具体的には、乾燥条件として、予熱温度を100℃、予熱時間を70秒、乾燥温度を120℃、乾燥時間を100秒とする乾燥条件と定めた。
【0041】
(正極板の内部観察)
実施例及び比較例として作製した正極板の内部を観察した。正極板内部の観察は、島津製作所製の電子線マイクロアナライザ(EPMA−1600)を用いて、正極板内部における難燃化剤の分布度を測定した(
図2および
図3)。
図2及び
図3は、実施例1および比較例2の正極板内部における、正極集電体からの距離(任意単位)とリン濃度(任意単位)との関係を示すグラフである。このグラフから、正極板内部の正極集電体側か
ら正極活物質合剤層の表面側に向かって変化するリン濃度を測定して、リンを含む環状ホスファゼン化合物(難燃化剤)の正極活物質合剤層内の分布度を確認した。なお、比較例3については、正極板内部における難燃化剤の分布度を示すグラフは特に示していないが、比較例3の正極板の内部は、比較例2の正極板の内部と同様の構造となることが確認された。また実施例2
及び3についても、正極板内部における難燃化剤の分布度を示すグラフは特に示していないが、実施例2
及び3の正極板の内部は、実施例1の正極板の内部と同様の構造となることが確認された。
【0042】
(電池特性の評価/高率放電試験)
実施例及び比較例として作製した正極板を
リチウムイオン二次電池(ラミネート電池)1に用いた場合の電池特性を評価した。電池特性の評価は、高率放電試験により行った。高率放電試験では、まず、25℃の環境下で、4.2〜3.0Vの電圧範囲で、1.6Aの電流による充放電サイクルを2回繰り返し、さらに4.1Vまで電池の充電を行った。充電した後、電流1.6A(0.2CA),8A(1CA), 16A(2CA)、24A(3CA)で各率放電を測定した。終止電圧は3.0Vとした。1.6A(0.2CA)放電時の容量に対する24A(3CA)放電時の相対容量(%)を表1に示す。
【0043】
(難燃性の評価/釘刺し試験)
実施例及び比較例として作製した正極板をリチウムイオン二次電池に用いた場合の電池について、釘刺し試験を行った。釘刺し試験では、まず、上記の高率放電試験と同じ条件で充放電サイクルを繰り返して4.2Vまで電池の充電を行った。その後、同じ25℃の温度条件下で、軸部の直径が5mmのセラミック製の釘を、速度1.6mm/sで電池の側面の中心に垂直に突き刺し、温度と電圧をモニターした。最高到達温度を表1に示す。
【0044】
(総合評価)
高率放電試験および釘刺し試験の結果、0.2CA容量に対する3CA放電の相対容量(%)が高く、釘刺し時の最高到達温度(℃)が低く抑制されている場合は○とし、いずれか一方でも満足しない場合は×とした。
【表1】
【0045】
表1及び
図3に示すように、正極板の内部を観察した結果、高い温度で乾燥した比較例2及び比較例3で、難燃化剤(環状ホスファゼン化合物)が正極活物質合剤層中の正極集電体側および表面側に関係なくほぼ均一に正極活物質合剤層中に分散して存在していることが確認された。これに対して、表1及び
図2に示すように、乾燥工程の全部または一部で低い温度で乾燥した実施例1〜3では、難燃化剤(環状ホスファゼン化合物)が正極活物質合剤層中の表面側には殆ど存在せず、正極集電体側に偏って存在(偏在)していることが分かった。さらに、実施例1〜
3では、正極活物質合剤層中の難燃化剤(環状ホスファゼン化合物)が、正極活物質合剤層の表面側から集電体側に近づくに従って分布度が大きくなっていくことが分かった(
図2参照)。
【0046】
これらの結果から、乾燥工程の全部または一部で低い温度で乾燥を行うことにより、集電体側に近い領域中の難燃化剤の存在比が正極活物質合剤層の表面に近い領域中の難燃化剤の存在比よりも大きく、しかも難燃化剤の存在比が、集電体に近づくに従って大きくなっていく正極板を形成できることが分かった。なお、予熱温度および予熱時間が異なる比較例2および比較例3では、いずれも難燃化剤(環状ホスファゼン化合物)が正極活物質合剤層中の正極集電体側に偏って存在する正極板は得られなかったことから、乾燥前の予熱条件は本発明の構成を得るための条件にはならいことも分かった。
【0047】
また、高率放電試験および釘刺し試験の結果、正極活物質合剤層に難燃化剤が含まれていない比較例1では、高率放電容量は維持されるものの、釘刺し試験において強制的に内部短絡させたところ最高到達温度が著しく高い温度となった。また、発煙が観察された。比較例2および3では、正極活物質合剤層に難燃化剤(環状ホスファゼン化合物)が含まれているため最高到達温度は低く抑えられた。また、発煙・発火は観察されなかった。しかしながら、難燃化剤(環状ホスファゼン化合物)が正極活物質合剤層中にほぼ均一に分散されているため、高率放電容量が低い結果となった。これに対して、難燃化剤(環状ホスファゼン化合物)が正極活物質合剤層中の正極集電体側に偏って存在(偏在)する正極板を備える実施例1〜3は、高率放電容量が良好であり、釘刺し時の最高到達温度が低い温度に止まった。また、発煙・発火は認められなかった。これらの結果から、難燃化剤(環状ホスファゼン化合物)が正極活物質合剤層中の正極集電体側に偏在する正極板を用いることにより、高率放電特性を低下させることなく、リチウムイオン電池の安全性を向上できることが分かった。
【0048】
以上、本発明の実施の形態および実施例について具体的に説明したが、本発明は、これらの実施の形態および実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づく変更が可能であるのは勿論である。