(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
基材と、該基材の表面の少なくとも一部が露出するように基材の表面に形成された中間層と、該中間層の表面の少なくとも一部が露出するように中間層の表面に形成された、表面が微細凹凸構造である硬化層とを有し、
前記硬化層の表面が前記領域(I)であり、前記中間層の露出した表面が前記領域(II)であり、前記基材の露出した表面が前記領域(III)である、請求項1に記載の微細凹凸構造を表面に有する物品。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら、本発明を詳細に説明する。
なお、
図2〜8において、
図1と同じ構成要素には同一の符号を付して、その説明を省略する場合がある。また、
図1〜8においては、各部材を図面上で認識可能な程度の大きさとするため、各部材毎に縮尺を異ならせてある。
また、本明細書において、「(メタ)アクリレート」は、アクリレートおよびメタクリレートを意味する。また、「(共)重合体」は、重合体および共重合体を意味する。
【0015】
[微細凹凸構造を表面に有する物品]
本発明の微細凹凸構造を表面に有する物品は、微細凹凸構造を表面に有し、使用されるまでの間、該表面を保護フィルムで保護される。微細凹凸構造を表面に有する物品の該表面は、前記微細凹凸構造の領域(I)と、該領域(I)よりも保護フィルムとの剥離強度が高い領域(II)と、該領域(II)に隣接し、かつ領域(II)よりも保護フィルムとの剥離強度が低い領域(III)とを有する。
なお、本発明において、微細凹凸構造を表面に有する物品の該表面(すなわち、保護フィルムで保護される表面)を「物品の表面」という。
【0016】
図1、2に、本発明の微細凹凸構造を表面に有する物品の一例を示す。
図1は微細凹凸構造を表面に有する物品(以下、単に「物品」という場合がある。)10を模式的に示す縦断面図であり、
図2は
図1に示す物品10を模式的に示す上面図である。この例の物品10は、基材11と、該基材11の表面の両端が露出するように基材11の表面に形成された中間層12と、該中間層12の表面の両端が露出するように中間層12の表面に形成された、表面が微細凹凸構造である硬化層13とを有する。
図1に示す物品10の場合、物品10の表面は、硬化層13の表面13aと、中間層12の露出した表面12aと、基材11の露出した表面11aとで構成され、硬化層13の表面13aが領域(I)であり、中間層12の露出した表面12aが領域(II)であり、基材11の露出した表面11aが領域(III)である。
なお、
図1に示す物品10は長尺なフィルムであり、基材11および中間層12の表面の両端とは、幅方向における表面の端部のことである。
【0017】
領域(I)は、物品10の表面のうち、微細凹凸構造の領域であり、反射防止性などの機能を発現する領域である。物品10の表面に保護フィルムを貼着したときに、保護フィルムは領域(I)に貼着していてもよいし、領域(I)上で保護フィルムが浮いた状態でもよい。
領域(I)の保護フィルムとの剥離強度(剥離強度(I))は特に限定されないが、1.0N/25mm以下が好ましく、0.03〜0.5N/25mmがより好ましい。剥離強度(I)が1.0N/25mmを超えると、領域(I)において保護フィルムが強固に密着し、保護フィルムを剥離しにくくなることがある。
【0018】
剥離強度(I)は以下のようにして測定される値である。
物品の表面に保護フィルムを貼着したもの(保護フィルム付き物品)を剥離強度測定機にセットし、領域(I)と保護フィルムとが貼着している箇所において90°引き剥がし試験を行って剥離強度を測定し、これを剥離強度(I)とする。
【0019】
領域(II)は、物品10の表面のうち、中間層12の露出した表面12aであり、物品10の表面に保護フィルムを貼着したときに、保護フィルムが貼着する平坦な面である。
領域(II)の保護フィルムとの剥離強度(剥離強度(II))は、剥離強度(I)よりも高い。剥離強度(II)が剥離強度(I)よりも高いことで、物品10の表面に保護フィルムを貼着したときに領域(II)において保護フィルムが十分に密着する。よって、領域(I)上で保護フィルムが浮いた状態であっても、保護フィルムが不用意に剥がれる恐れがない。加えて、領域(II)において十分な密着強度を確保できるので、粘着力の強い粘着剤層を備えた保護フィルムを用いる必要がなく、また、領域(I)上で保護フィルムが浮いた状態でもよいので、保護フィルムを剥離したときに糊残りを抑制できる。
【0020】
剥離強度(II)は、剥離強度(I)よりも高ければ特に制限されないが、0.5N/25mm以上が好ましく、1〜10N/25mmがより好ましい。剥離強度(II)が0.5N/25mm以上であれば、保護フィルムが十分に密着する。
剥離強度(II)は剥離強度(I)と同様の方法にて、領域(II)と保護フィルムとが貼着している箇所において引き剥がし試験を行い、剥離強度を測定することで求められる。
【0021】
領域(III)は、物品10の表面のうち、基材11の露出した表面11aであり、物品10の表面に保護フィルムを貼着したときに、保護フィルムが貼着する平坦な面である。
領域(III)の保護フィルムとの剥離強度(剥離強度(III))は、剥離強度(II)よりも低い。剥離強度(III)が剥離強度(II)よりも低いことで、保護フィルムが貼着した物品から保護フィルムを剥がすときに、領域(III)が剥離の起点となるため、保護フィルムを容易に剥離できる。
【0022】
剥離強度(III)は、剥離強度(II)よりも低ければ特に制限されないが、剥離強度(I)よりも高いことが好ましく、具体的には0.01〜1N/25mmが好ましく、0.04〜0.25N/25mmがより好ましい。剥離強度(III)が0.01N/25mm未満であると、領域(III)を起点として不用意に保護フィルムが剥離する場合がある。一方、剥離強度(III)が1N/25mmを超えると、領域(III)において保護フィルムが必要以上に密着し、保護フィルムを剥がすときに領域(III)が剥離の起点となりにくく、保護フィルムを剥がしにくくなる場合がある。
剥離強度(III)は剥離強度(I)と同様の方法にて、領域(III)と保護フィルムとが貼着している箇所において引き剥がし試験を行い、剥離強度を測定することで求められる。
【0023】
領域(I)〜(III)の位置については、領域(III)が領域(II)に隣接していれば特に制限されないが、
図1に示すように、領域(III)は物品10の表面の端部に位置するのが好ましい。領域(III)が物品10の表面の端部に位置していれば、保護フィルムを剥がすときの剥離の起点も端部に位置することになるので、保護フィルムをより剥がしやすくなる。また、物品10を長尺なフィルムとして連続的に生産する場合、詳しくは後述するが、基材11上に中間層12を形成するに際して中間層12の塗布幅や塗布位置を調整することで、領域(III)を物品10の表面の端部に容易に設けることができる。
なお、物品10の表面の端部とは、物品10が長尺なフィルムである場合、幅方向における表面の端部のことである。
【0024】
また、
図1に示すように、領域(II)は領域(I)にも隣接していることが好ましい。領域(II)が領域(I)に隣接していれば、物品10の表面に保護フィルムを貼着したときに領域(II)において保護フィルムが十分に密着するので、領域(I)と領域(II)との界面から埃などが侵入するのを防ぐことができる。特に、領域(I)上で保護フィルムが浮いた状態であっても、埃などの侵入を防ぐことができる。よって、領域(I)の微細凹凸構造をより効果的に保護できる。また、物品10を長尺なフィルムとして連続的に生産する場合、詳しくは後述するが、基材11上に形成した中間層12上に硬化層13を形成するに際して硬化層13の塗布幅や塗布位置を調整することで、領域(II)を領域(I)および領域(III)に隣接するように容易に設けることができる。
【0025】
領域(II)および領域(III)の大きさについても特に制限されないが、例えば
図2に示すように領域(II)の幅w2は0.001mm以上であることが好ましく、0.1mm以上であることがより好ましい。幅w2が0.001mm以上であれば、保護フィルムとの密着面積を確保できるので、保護フィルムが物品10に密着しやすくなる。幅w2の上限値については特に制限されないが、物品10を例えば反射防止フィルムとして用いる場合、反射防止性を発現するのは領域(I)である。よって、物品10を表示装置等に貼り付けたときに反射防止性を発現しない部分を削減し、かつコストを軽減する観点から、幅w2は100mm以下であることが好ましく、20mm以下であることがより好ましい。
【0026】
また、
図2に示すように、領域(III)の幅w3は0.001mm以上であることが好ましく、0.1mm以上であることがより好ましい。幅w3が0.001mm以上であれば、保護フィルムを剥がす際の剥離の起点を確保できるので、保護フィルムを剥がしやすくなる。幅w3の上限値については特に制限されないが、物品10を表示装置等に貼り付けたときに反射防止性を発現しない部分を削減し、かつコストを軽減する観点から、幅w3は100mm以下であることが好ましく、20mm以下であることがより好ましい。
なお、領域(I)の幅w1については特に制限されず、物品10の用途に応じて適宜設定すればよい。
【0027】
ここで、
図1に示す物品10を構成する各層について説明する。
上述したように、基材11の露出した表面11aは領域(III)であり、中間層12の露出した表面12aは領域(II)であり、硬化層13の表面13aが領域(I)である。
基材11を構成する材料としては、剥離強度(III)が剥離強度(II)よりも低くなるものであれば特に限定されないが、光を透過するものが好ましく、例えば(メタ)アクリレート系(共)重合体、ポリカーボネート、スチレン(共)重合体、(メタ)アクリレート−スチレン共重合体等の合成高分子、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートブチレート等の半合成高分子、ポリエチレンテレフタレート、ポリ乳酸等のポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルスルフォン、ポリスルフォン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアセタール、ポリエーテルケトン、ポリウレタン、それら高分子の複合物(例えば、ポリメチルメタクリレートとポリ乳酸の複合物、ポリメチルメタクリレートとポリ塩化ビニルの複合物)、ガラス等が挙げられる。
【0028】
基材11の形状には特に制限はなく、製造する物品10に応じて適宜選択できるが、例えば物品10が反射防止フィルムである場合には、シート状やフィルム状が好ましい。特に、物品10を連続生産する観点から、基材11が折り曲げ可能なシート状やフィルム状であることが好ましい。また、基材11がシート状やフィルム状である場合、その厚さは500μm以下であることが好ましい。
また、剥離強度(III)が剥離強度(II)よりも低い状態を維持できれば、密着性、帯電防止性、耐擦傷性、耐候性等の特性の改良を目的として、基材11の中間層12が形成される側の表面に、コーティングやコロナ処理などの表面処理を施してもよい。
【0029】
中間層12としては、剥離強度(II)が剥離強度(I)よりも高くなるものであれば特に限定されないが、密着性の高い樹脂を含む中間層用材料から形成されるのが好ましい。密着性の高い樹脂としては、例えばアクリル系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリルグラフトポリエステル樹脂、ポリエチレンイミン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリスチレン系樹脂等が挙げられる。
また、これら密着性の高い樹脂の中でも、数平均分子量が1000,000以下、好ましくは100,000以下、より好ましくは40,000以下の低分子量成分を含む樹脂、架橋剤量が20部以下、好ましくは10部以下、より好ましくは1部以下の架橋密度が低い樹脂、室温での弾性率が10
10Pa以下、好ましくは10
9Pa以下、より好ましくは10
8Pa以下の樹脂が好ましい。
【0030】
中間層12の厚さは、製造する物品10の用途によって最適な厚さが異なるが、一般的に100〜80000nmが好ましく、500〜40000nmがより好ましく、1000〜10000nmが特に好ましい。中間層12が上記範囲より薄いと、光が層として認識しないことがある。また、中間層12は、基材11と硬化層13との接着性を高める役割も果たすが、中間層12が薄すぎると、基材11と硬化層13との接着性向上、ハードコート、帯電防止などの機能が十分に発現しにくい。一方、中間層12が上記範囲より厚いと、表面にクラックが生じることがある。また、コストが嵩むため、経済的でもない。
【0031】
中間層12は、必要に応じて紫外線吸収剤、酸化防止剤、離型剤、滑剤、可塑剤、帯電防止剤、光安定剤、難燃剤、難燃助剤、重合禁止剤、充填剤、シランカップリング剤、着色剤、強化剤、無機フィラー、耐衝撃性改質剤、近赤外線吸収剤等の添加剤を含有してもよい。
また、中間層12は、単層であってもよいし、多層であってもよい。
【0032】
硬化層13は、基材11上に中間層12を介して形成される層であり、例えば活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を重合および硬化してなる。
硬化層13の厚さは6〜29μmが好ましく、8〜21μmがより好ましい。硬化層13が上記範囲より薄いと、破断する場合がある。一方、硬化層13が上記範囲より厚いと、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を用いて硬化層13を形成する際に、通常の紫外線照射では硬化が十分に進行しにくい場合がある。
【0033】
硬化層13の表面13aには、
図1に示すように、表面反射防止性や撥水性等の機能を発現する微細凹凸構造が形成されている。具体的には、
図3に示すように、硬化層13の表面13aに、複数の凸部13bと凹部13cとが等間隔で形成されている。
凸部13bの形状としては、例えば円錐状、角錐状、釣鐘状などが挙げられる。ただし、凸部13bの形状はこれらに限定されず、硬化層13を膜面で切断した時の断面積の占有率が連続的に増大するような構造であればよい。また、より微細な凸部が合一して微細凹凸構造を形成していてもよい。すなわち、空気から材料表面まで連続的に屈折率を増大し、低反射率と低波長依存性を両立させた反射防止性能を示すような形状であればよい。
【0034】
本発明の物品10を例えば反射防止フィルムとして用いる場合、良好な反射防止性能を発現するためには、微細凹凸構造の隣り合う凸部13bまたは凹部13cの間隔(
図3では、隣り合う凸部13bの中心点(頂部)の間隔p)は、可視光の波長以下のサイズである必要がある。ここで「可視光」とは、波長が380〜780nmの光を指す。この間隔が380nm以下であれば、可視光の散乱を抑制でき、本発明の物品を反射防止フィルムなどの光学用途に好適に使用できる。
また、最低反射率や特定波長の反射率の上昇を抑制する観点から、凸部13bの高さまたは凹部13cの深さ(
図3では、凹部13cの中心点(底点)から凸部13bの中心点(頂部)までの垂直距離d)は60nm以上が好ましく、90nm以上がより好ましい。
なお、良好な反射防止性能を発現する微細凹凸構造の形状については、特開2009−31764号公報などに記載されており、本発明においてもそれと同様の形状を用いることができる。
【0035】
次に、硬化層13の原料として好適な活性エネルギー線硬化性樹脂組成物について説明する。活性エネルギー線硬化性樹脂組成物は、活性エネルギー線を照射することで重合反応が進行し、硬化する樹脂組成物である。
この活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(以下、単に「樹脂組成物」と言う場合がある)は、重合反応性モノマー成分と、活性エネルギー線重合開始剤と、必要に応じてその他の成分とを含有する。
【0036】
微細凹凸構造を形成するのに適した重合反応性モノマー成分や活性エネルギー線重合開始剤については、公知の成分を適用できる。例えば、重合反応性モノマー成分としては、分子中にラジカル重合性結合および/またはカチオン重合性結合を有するモノマー、オリゴマー、反応性ポリマー等が挙げられる。
ラジカル重合性結合を有するモノマーとしては、単官能モノマーや多官能モノマーが挙げられ、具体的には、各種の(メタ)アクリレート及びその誘導体などが挙げられる。
カチオン重合性結合を有するモノマーとしては、エポキシ基、オキセタニル基、オキサゾリル基、ビニルオキシ基等を有するモノマーが挙げられる。
微細凹凸構造を形成するのに適した重合反応性モノマー成分や活性エネルギー線重合開始剤としては、例えば特開2009−31764号公報に記載の各種の化合物を使用できる。
【0037】
樹脂組成物は、必要に応じて紫外線吸収剤、酸化防止剤、離型剤、滑剤、可塑剤、帯電防止剤、光安定剤、難燃剤、難燃助剤、重合禁止剤、充填剤、シランカップリング剤、着色剤、強化剤、無機フィラー、耐衝撃性改質剤等の添加剤を含有してもよい。
【0038】
硬化層13は、詳しくは後述するが、例えば微細凹凸構造の反転構造が形成されたスタンパを用いて形成される。硬化層13の形成工程において、樹脂組成物をスタンパへ流し込んで硬化させる場合、その作業性を考慮すると、樹脂組成物の25℃における回転式B型粘度計で測定される粘度は、10000mPa・s以下が好ましく、5000mPa・s以下がより好ましく、2000mPa・s以下が特に好ましい。ただし、樹脂組成物の粘度が10000mPa・sを超えても、スタンパへ流し込む際に予め樹脂組成物を加温して粘度を下げることが可能ならば、作業性を損なうことなく使用できる。
また、樹脂組成物の70℃における回転式B型粘度計で測定される粘度は、5000mPa・s以下が好ましく、2000mPa・s以下がより好ましい。
【0039】
また、硬化層13の形成工程において、ベルト状やロール状のスタンパを用いて連続生産する場合、その作業性を考慮すると、樹脂組成物の25℃における回転式B型粘度計で測定される粘度は、100mPa・s以上が好ましく、150mPa・s以上がより好ましく、200mPa・s以上が特に好ましい。樹脂組成物の粘度が100mPa・s以上であれば、スタンパを樹脂組成物に押し当てる工程でスタンパの幅を超えて樹脂組成物が脇へ漏れ難くなる。加えて、硬化層13の厚さを任意に調整しやすい。
【0040】
樹脂組成物の粘度は、含まれるモノマーの種類や含有量を調節することで調整できる。具体的には、水素結合などの分子間相互作用を有する官能基や化学構造を含むモノマーを多量に用いると、樹脂組成物の粘度は高くなる。また、分子間相互作用のない低分子量のモノマーを多量に用いると、樹脂組成物の粘度は低くなる。
【0041】
また、硬化後の樹脂組成物が柔らかいと、微細凹凸構造を形成させるスタンパから硬化物を剥離する際または剥離した後に、ナノサイズの凸部13b同士が寄り添ってしまう場合がある。ナノの領域においては、マクロの領域においては問題にならないような表面張力でも顕著に働く。すなわち、表面自由エネルギーを下げようと、微細凹凸構造の凸部13b同士で寄り添い、表面積を小さくしようとする力が働く。この力が硬化物の硬さを上回ると、凸部13b同士が寄り添いくっついてしまう。そのような微細凹凸構造では、所望の反射防止性能や撥水性などの機能性が十分に発揮されなくなる場合がある。
以上の点から、樹脂組成物の硬化物の引張弾性率は、1GPa以上が好ましい。そのような樹脂組成物を使用すれば、凸部13b同士が寄り添うことを回避し易くなる。
【0042】
<微細凹凸構造を表面に有する物品の製造方法>
図1に示す物品10は、例えば基材11上に中間層12を形成した後、微細凹凸構造の反転構造を表面に有するスタンパを用いて中間層12上に硬化層13を形成することで得られる。
中間層12の形成方法としては、上述した樹脂や添加剤を溶剤に溶解または分散させて中間層用材料を基材11上に塗布した後、溶剤を乾燥させる方法や、上述した樹脂のうち、反応性樹脂を含む中間層用材料を基材11上に塗布した後、光や熱により硬化させる方法、これらを多段に組み合わせた方法などが挙げられる。
【0043】
硬化層13の形成方法としては、微細凹凸構造の反転構造を表面に有するスタンパを用いて射出成形やプレス成形により硬化層13をバッチ的に形成する方法、ロール状のスタンパを用い、該スタンパと基材11上の中間層との間に樹脂組成物を配し、活性エネルギー線の照射により樹脂組成物を硬化して、スタンパの凹凸形状を転写し、その後スタンパを剥離して硬化層13を連続的に形成する方法、樹脂組成物にスタンパの凹凸形状を転写してからスタンパを剥離し、その後で活性エネルギー線を照射して樹脂組成物を硬化して硬化層13を連続的に形成する方法などが挙げられる。
良好な反射防止性能を発現する微細凹凸構造の形成方法については、特開2009−31764号公報などに記載されており、本発明においてもそれと同様の形成方法を用いることができる。
【0044】
なお、連続的に物品10を製造する場合、中間層用材料と樹脂組成物を同時に塗布してもよく、連続的に塗布してもよく、それぞれ単独で塗布してもよい。
また、硬化層13の形成に用いるスタンパに微細凹凸構造の反転構造を形成する方法については特に制限されず、電子ビームリソグラフィー法、レーザー光干渉法が挙げられる。例えば、適当な支持基板上に適当なフォトレジスト膜を塗布し、紫外線レーザー、電子線、X線等の光で露光し、現像することによって微細凹凸構造を有する型が得られる。さらに、陽極酸化ポーラスアルミナをスタンパとして利用することも可能である。例えば、アルミニウムをシュウ酸、硫酸、リン酸等を電解液として所定の電圧にて陽極酸化することにより形成される20〜200nm間隔の細孔構造をスタンパとして利用してもよい。
【0045】
<作用効果>
以上説明した本発明の物品は、その表面が上述した領域(I)〜(III)を有するので、保護フィルムを貼着したときに領域(II)において保護フィルムが十分に密着する。さらに、領域(II)において十分な密着強度を確保できるので、粘着力の強い粘着剤層を備えた保護フィルムを用いる必要がなく、また、領域(I)上で保護フィルムが浮いた状態でもよいので、保護フィルムを剥離したときに糊残りを抑制できる。加えて、領域(III)が保護フィルムを剥がすときの剥離の起点となるので、保護フィルムを容易に剥離できる。よって、例えば低粘着性の粘着ロールを有するフィルム剥離装置を用いて保護フィルムを自動的に安定して剥離することが可能となる。
【0046】
また、
図1に示すように、中間層12を介して基材11上に硬化層13が形成されていれば、中間層12が接着剤の役割も果たすので、基材11と硬化層13との接着性も向上する。
【0047】
本発明の物品は、表面に微細凹凸構造を有する機能性物品として最適である。そのような機能性物品としては、例えば、本発明の物品を備えた反射防止物品や撥水性物品が挙げられる。特に、本発明の物品を備えたディスプレイや自動車用部材などは、機能性物品として好適である。
【0048】
<他の実施形態>
本発明の物品は、
図1に示す物品10に限定されない。
図1に示す物品10は、領域(III)が物品の表面の端部の両方に位置し、かつ領域(II)が領域(I)の両側に位置しているが、例えば
図4(a)に示す物品20aのように、表面の一方の端部のみに領域(III)が設けられていてもよい。なお、
図4(a)に示す物品20aは、表面の他方の端部に領域(I)が位置しているが、
図4(b)に示す物品20bのように、表面の他方の端部には領域(II)が位置していてもよい。
ただし、
図1に示すように領域(III)が物品の表面の端部の両方に位置していれば、保護フィルムを剥がすときに物品10の両側から容易に剥離できる。また、
図1、4(b)に示すように、領域(II)が領域(I)の両側に位置していれば、保護フィルムを貼着したときに物品10との密着性がより向上し、詳しくは後述するが、
図8に示すように保護フィルム60が領域(I)に橋架けした状態で物品10の表面を覆うため、物品10の汚れや傷付きをより効果的に防止できる。
【0049】
また、
図1に示す物品10は、硬化層13の表面13a全体に微細凹凸構造が形成されているが、例えば
図5(a)に示す物品30aのように、硬化層13の表面13aに微細凹凸構造を有さない平坦部が形成されていてもよい。この平坦部を含む領域を領域(IV)という。領域(IV)の保護フィルムとの剥離強度(IV)については特に制限されないが、剥離強度(IV)が領域(I)の剥離強度(I)および領域(III)の剥離強度(III)よりも高ければ、領域(IV)が領域(II)を兼ねることができ、例えば
図5(b)に示す物品30bのように、基材11上に直接硬化層13を形成することもできる。
ただし、
図1、5(a)に示すように中間層12を介して基材11上に硬化層13を形成すれば、基材11と硬化層13との接着性がより向上する。
【0050】
また、
図1に示す物品10は、硬化層13が中間層12上に形成されているが、例えば
図6に示す物品40のように、基材11上に、基材11の表面11aの少なくとも一部が露出するように、中間層12および硬化層13が隣接して形成されていてもよい。
ただし、
図1に示すように中間層12を介して基材11上に硬化層13を形成すれば、基材11と硬化層13との接着性がより向上する。
【0051】
なお、上述した物品10、20a、20b、30a、30b、40は、領域(III)を有する基材11上に、領域(II)を有する中間層12と、領域(I)を有する硬化層13が形成されているが、例えば
図7に示す物品50のように、領域(I)を有する硬化層13と、領域(II)を有する部材14と、領域(III)を有する部材15とが横並びに隣接して配列していてもよい。なお、これらの配列の順番は、部材15が部材14に隣接していれば特に制限されないが、保護フィルムをより剥離しやすい点で、部材15が物品50の幅方向の端部に位置し、硬化層13と部材14とが隣接していることが好ましい。
部材14、15の材料としては、剥離強度(I)〜(III)が上述した関係を満たすものであれば特に制限されない。
【0052】
[保護フィルム付き物品]
本発明の保護フィルム付き物品は、上述した本発明の物品の表面に保護フィルムが貼着し、表面が保護フィルムで保護されたものである。
図8に、本発明の保護フィルム付き物品の一例を示す。この例の保護フィルム付き物品1は、
図1に示す物品10の表面に保護フィルム60が貼着されている。
【0053】
<保護フィルム>
図8に示す保護フィルム60は、基材フィルム61上に粘着剤層62が積層している。
基材フィルム61を構成する材料としては、例えば、ポリエステル系樹脂、ナイロン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、セロハン、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリウレタン、フッ素樹脂、ポリアクリロニトリル、ポリブテン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアリレート樹脂、アセチルセルロース等が挙げられる。中でも柔軟性、透明性などの観点から、ポリエチレン系樹脂が好ましい。
【0054】
粘着剤層62を構成する材料としては、例えば、ゴム系粘着剤、アクリル系粘着剤、エチレン−酢酸ビニル共重合(EVA)系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ウレタン系粘着剤、ビニルアルキルエーテル系粘着剤、ポリビニルアルコール系粘着剤、ポリビニルピロリドン系粘着剤、ポリアクリルアミド系粘着剤、セルロース系粘着剤等が挙げられる。中でも耐水性、耐候性、柔軟性の観点から、EVA系粘着剤が好ましい。
【0055】
また、保護フィルム60としては、アクリル樹脂製の平板に貼着したときの該平板に対する剥離強度が0.01〜10N/25mmであることが好ましく、より好ましくは0.1〜2.5N/25mmである。保護フィルム60の剥離強度が上記範囲内であれば、中間層12を構成する樹脂等の選択により、領域(II)の保護フィルム60との剥離強度(すなわち、中間層12と保護フィルム60の密着性)を0.5N/25mm以上に容易に調整できる。従って、物品10と保護フィルム60の十分な密着性が発現され、かつ、保護フィルム60を剥離する際の保護フィルム60の凝集破壊を抑制することができる。特に、保護フィルム60の剥離強度が0.1〜2.5N/25mmの範囲内であれば、保護フィルム60を剥離するときに、中間層12と保護フィルム60の剥離が容易となり、かつ、保護フィルム60を剥離する際の微細凹凸構造を有する硬化層13への糊残りを抑制することができる。
保護フィルム60のアクリル樹脂製の平板に対する剥離強度は、アクリル樹脂製の平板に保護フィルムを貼着したものを剥離強度測定機にセットし、90°引き剥がし試験を行って剥離強度を測定することで求められる。
【0056】
保護フィルム60としては、市販品を用いてもよい。例えば株式会社サンエー化研製のポリオレフィン系フィルム「PAC−4−50」などが好適である。
【0057】
<保護フィルム付き物品の製造方法>
本発明の保護フィルム付き物品1は、例えば上述した方法により物品10を製造した後、物品10の表面に保護フィルム60を貼着することで製造できる。このとき、保護フィルム60は硬化層13の表面(すなわち、領域(I))に貼着していてもよいし、硬化層13上で保護フィルム60が浮いた状態でもよい。
【0058】
<作用効果>
以上説明した本発明の保護フィルム付き物品は、本発明の物品の表面に保護フィルムが貼着しているので、物品の表面の領域(II)において保護フィルムが十分に密着している。さらに、領域(II)において十分な密着強度を確保できるので、粘着力の強い粘着剤層を備えた保護フィルムを用いる必要がなく、また、領域(I)上で保護フィルムが浮いた状態でもよいので、保護フィルムを剥離したときに糊残りを抑制できる。加えて、物品の表面の領域(III)が保護フィルムを剥がすときの剥離の起点となるので、保護フィルムを容易に剥離できる。
【実施例】
【0059】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0060】
[実施例1]
<物品の製造>
(中間層の形成)
基材として145mm×145mmのトリアセチルセルロースフィルム(厚さ40μm)を用意した。この基材上に、基材の表面が端から10mmの幅で露出するように、バーコーターを用いてアクリル系樹脂を含有する中間層用材料(東亞合成株式会社製、「アロンタック S−1511X」、粘度3000〜6000mPa・s/25℃、アクリル樹脂製の平板との剥離強度26.5N/25mm)を均一に塗布し、70℃の乾燥機内にて5分間静置し、135mm×135mmの中間層(厚さ10μm)を形成した。
【0061】
(活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の調製)
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(新中村化学工業株式会社製、「A−DPH」)25質量部、ペンタエリスリトールトリアクリレート(第一工業製薬株式会社製、「PET−3」)25質量部、エチレンオキサイド変性ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(日本化薬株式会社製、「KAYARAD DPEA−12」)25質量部、ポリエチレングリコールジアクリレート(新中村化学工業株式会社製、「A−600」)25質量部、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(日本チバガイギー株式会社製、「IRG.184」)1質量部、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド(日本チバガイギー株式会社製、「IRG.819」)0.5質量部、ポリオキシエチレンアルキル(12〜15)エーテルリン酸(日本ケミカルズ株式会社製、「NIKKOL TDP−2」)0.1質量部を混合して、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を得た。
【0062】
(硬化層の形成)
微細凹凸構造を表面に有する半径60mmの円盤状スタンパの微細凹凸構造面に、先に調製した活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を流し込み、その上から、中間層が形成された基材の中心とスタンパの中心とが一致するように、かつ活性エネルギー線硬化性樹脂組成物と中間層とが接するように、中間層が形成された基材で活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を押し広げながら被覆した。ついで、基材側から高圧水銀灯を用いて1000mJ/cm
2のエネルギーで紫外線を照射し、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を硬化した。その後スタンパを剥離して、微細凹凸構造を表面に有する物品を得た。
【0063】
得られた物品の表面にはスタンパの微細凹凸構造が転写されており、
図3に示すような、隣り合う凸部13bの間隔pが100nm、凸部13bの高さdが180nmである略円錐状の微細凹凸構造が形成されていた。
また、この物品10は、145mm×145mmの基材上に、135mm×135mmの中間層が形成されており、さらに該中間層上に微細凹凸構造を有する硬化層が基材の中心から半径60mmで形成されている。
【0064】
<保護フィルム付き物品の製造>
保護フィルムとしてポリオレフィン系フィルム(株式会社サンエー化研製、「PAC−4−50」、アクリル樹脂製の平板との剥離強度0.1N/25mm)の粘着面を物品の硬化層が形成されている全面に手で圧着し、保護フィルム付き物品を得た。
【0065】
得られた保護フィルム付き物品を電動式計測スタンド(株式会社イマダ製、「MX500N」)にセットし、中間層の露出した表面(すなわち、領域(II))と保護フィルムとが貼着している箇所において、保護フィルムを物品に対して90°の角度で、かつ300mm/minの速度で引き剥がし試験を行い、剥離強度を測定した。その結果、領域(II)の保護フィルムとの剥離強度(II)は8.8N/25mmであった。
同様にして、基材の露出した表面(すなわち、領域(III))と保護フィルムとが貼着している箇所において引き剥がし試験を行い、剥離強度を測定した。その結果、領域(III)の保護フィルムとの剥離強度(III)は0.15N/25mmであった。
【0066】
また、保護フィルムを剥がした後の物品の表面を目視にて観察したところ、微細凹凸構造に糊残りは生じていなかった。
さらに、保護フィルム付き物品を直径1cmのロール状に巻き取った際、およびロール状から伸ばした際に、保護フィルムは剥離しなかった。
また、実施例1で得られた保護フィルム付き物品は、その表面に剥離強度の異なる領域(II)、(III)を備えているので、剥離強度が低い領域(III)が剥離の起点となり、保護フィルムを剥離しやすかった。
【0067】
[実施例2]
中間層用材料として、アクリル系樹脂を含有する中間層用材料(東亞合成株式会社製、「アロンタック S−3403」、粘度3500〜4500mPa・s/25℃、アクリル樹脂製の平板との剥離強度31.4N/25mm)を用いた以外は、実施例1と同様にして物品を製造し、保護フィルムを貼着して剥離強度を測定した。
その結果、領域(II)の保護フィルムとの剥離強度(II)は9.7N/25mmであり、領域(III)の保護フィルムとの剥離強度(III)は0.15N/25mmであった。
また、保護フィルムを剥がした後の物品の表面を目視にて観察したところ、微細凹凸構造に糊残りは生じていなかった。
さらに、保護フィルム付き物品を直径1cmのロール状に巻き取った際、およびロール状から伸ばした際に、保護フィルムは剥離しなかった。
また、実施例2で得られた保護フィルム付き物品は、その表面に剥離強度の異なる領域(II)、(III)を備えているので、剥離強度が低い領域(III)が剥離の起点となり、保護フィルムを剥離しやすかった。
【0068】
[比較例1]
中間層を形成しなかった以外は(すなわち、基材上に直接硬化層を形成し、領域(II)を形成しなかった以外は)、実施例1と同様にして物品を製造し、保護フィルムを貼着して保護フィルム付き物品を製造した。
得られた保護フィルム付き物品を直径1cmのロール状に巻き取った際、およびロール状から伸ばした際に、保護フィルムが剥がれてしまい、保護フィルムが十分に密着していなかった。
【0069】
[比較例2]
基材表面の全面に中間層を形成した以外は(すなわち、領域(III)を形成しなかった以外は)、実施例1と同様にして物品を製造し、保護フィルムを貼着して保護フィルム付き物品を製造した。
得られた保護フィルム付き物品から保護フィルムを剥がそうとしたが、保護フィルムを剥離するのが困難であった。