(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5928096
(24)【登録日】2016年5月13日
(45)【発行日】2016年6月1日
(54)【発明の名称】水中のスケールモニタリング法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/10 20060101AFI20160519BHJP
G01N 27/416 20060101ALI20160519BHJP
【FI】
G01N27/10
G01N27/46 301M
【請求項の数】1
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2012-80556(P2012-80556)
(22)【出願日】2012年3月30日
(65)【公開番号】特開2013-210275(P2013-210275A)
(43)【公開日】2013年10月10日
【審査請求日】2015年3月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(72)【発明者】
【氏名】宮▲崎▼ 洋平
(72)【発明者】
【氏名】井上 宗亮
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 一也
【審査官】
蔵田 真彦
(56)【参考文献】
【文献】
実開昭55−069114(JP,U)
【文献】
特開平10−213559(JP,A)
【文献】
特開2002−336861(JP,A)
【文献】
特開平09−138207(JP,A)
【文献】
特開2007−000840(JP,A)
【文献】
米国特許第05102515(US,A)
【文献】
米国特許出願公開第2006/0243647(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/00−27/10、27/14−27/30、
27/32−27/404、27/414−27/416、
27/42−27/447、27/48−27/49
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の距離に保って水中に配置された一対の電極間に所定の電圧を印加し、該電極間を流れる電流値又はそれに対応した特性値により、水系のスケール付着を定量的に評価するスケールモニタリング法であって、
前記特性値として電気伝導率を用い、
電極表面にスケールが付着していない基準用電気伝導率計と、所定時間対象水系に設置し電極表面にスケールが付着した浸漬用電気伝導率計とを測定標準溶液に浸漬し、各電気伝導率計の電気伝導率の値の差から水中でのスケール付着を定量的に評価することを特徴とするスケールモニタリング法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はスケール付着モニタリング法に係り、特に、集塵水系、排水および冷却水系等におけるスケールの発生状況を検知する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
集塵水系等の水系においては、水中の硬度成分によるスケールが付着して、配管閉塞や熱交換効率低下等の様々な付着障害が生じる。従って、これらの水系においては、系内のスケールの付着状況を検知して、適正な処置を講じることにより、この付着障害を防止するようにしている。スケール付着障害を防止するために、スケール防止剤を添加する場合、適正な薬注制御を行うために、系内のスケールの付着状況を把握する必要がある。
【0003】
従来、水中でのスケール付着を検知する方法については、短管やテストピースを用いる方法(例えば特許文献1の従来技術)、差圧式のスケール検知装置を用いる方法がある。しかし、これらの従来法は、評価に時間がかかる、手作業が多く人為的ミスが起こりやすい、対象水を通水した時に懸濁物質等による詰まりを生じやすく測定が困難になるなどの問題がある。
【0004】
即ち、短管を用いた方法は、配管内壁面にスケールが付着する様子を実機の配管を模擬した状況で確認できる。しかし、実機の水を分岐し短管に通水する手間があり、また、短管内壁面へのスケール付着状況は持ち帰り分析して初めて結果が分かるため、結果に対するリアクションが遅れ、水系内で問題が起きた際リアルタイムに対応できないという問題がある。さらに、基本的にほとんどが手作業であり人為的なミスが多い。
【0005】
テストピースを用いた方法は、短管法と比べてテストピースの設置が容易である。しかしながら、短管法と同様に、結果に対するリアクションが遅れる。また、外観観察により判断する場合は、定量性に欠けるという問題がある。
【0006】
特許文献1には、水系内のスケール及び/又はスライムの付着量を各々オンラインで連続的に検知することができるスケール・スライム付着検知装置が記載されている。この装置によれば、スケールが付着する試験片部位の温度測定により、リアルタイムでスケール付着を検知できるが、製作費が高くなる。また、熱を加えるため実機と条件が異なる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−196872
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、電気伝導率計を用いることにより対象水系のスケール付着状況をリアルタイムに評価できると共に、結果に対するリアクションを早めることができ、さらに定量的に評価することにより人為的ミスを防ぐことができる水中のスケールモニタリング法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の水中のスケールモニタリング法は、所定の距離に保って水中に配置された一対の電極間に所定の電圧を印加し、該電極間を流れる電流値又はそれに対応した特性値により、水系のスケール付着を定量的に評価する
スケールモニタリング法であって、前記特性値として電気伝導率を用い、電極表面にスケールが付着していない基準用電気伝導率計と、所定時間対象水系に設置し電極表面にスケールが付着した浸漬用電気伝導率計とを測定標準溶液に浸漬し、各電気伝導率計の電気伝導率の値の差から水中でのスケール付着を定量的に評価することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明では、水系の水中に配置した電極間に所定の電圧を印加し、流れる電流値又はそれに対応した特性値から水系のスケール付着を定量的に評価する。
【0012】
本発明では、スケール付着状況を定量的に観察できるので、人為的ミスを防ぐことができる。
【0013】
また、本発明では、持ち帰り分析する必要がなく、その場でスケール付着状況を評価できるので、結果に対するリアクションが早い。
【0014】
上記特性値として電気伝導率を採用した場合には、例えば基準用電気伝導率計と浸漬用電気伝導率計を用いて、水中のスケール付着状況を容易に定量的に観察することができる。
【0015】
具体的には、所定の距離を保った電極間にかけた電圧とその際流れる電流とからオームの法則により電気抵抗を測定し、この電気抵抗の値から電気伝導率を求める。電気伝導率計の電極表面にスケールが付着すると、電極間を流れる電流量が減少し電気抵抗が上昇する。これにより、電気伝導率は真の値よりも小さくなる。電気伝導率の低下とスケール付着量は反比例の関係であるため、電気伝導率の低下からスケール付着量を定量的に測定することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明についてさらに詳細に説明する。
【0018】
本発明では、所定の距離に保って水中に配置された一対の電極間に所定の電圧を印加し、該電極間を流れる電流値又はそれに対応した特性値により、水系のスケール付着を定量的に評価する。この水系としては、集塵水系、排水系、冷却水系などが例示されるが、これに限定されない。
【0019】
本発明では、電気伝導率計の1対の電極部を水中に浸漬して電気伝導率を測定し、水中でのスケール付着状況を定量的に評価することが好ましい。対象水の水質変動が小さい場合、測定装置を対象水に浸漬したまま電気伝導率を測定する。また、対象水の水質変動が大きい場合は、測定標準溶液を用いて電気伝導率を測定する。
【0020】
具体的には、第1の電気伝導率計(以下、浸漬用電気伝導率計という。)を対象水系に電極部全体が浸かるように設置し、1〜30日間浸漬する。対象水の水質変動が小さい場合、この測定の際に基準用電気伝導率計も対象水系に浸漬し電気伝導率を測定する。対象水の水質変動が大きい場合は、浸漬用電気伝導率計を取り出し、付着したスケールが剥離しないように測定標準溶液(1w/w%NaCl水溶液)で緩やかに共洗いする。その後、共洗いした浸漬用電気伝導率計と基準用電気伝導率計を測定標準溶液に浸漬し電気伝導率を測定する。
【0021】
浸漬用電気伝導率計の電極表面にスケールが付着すると、その電極間を流れる電流量が減少し抵抗が上昇する。これにより、電気伝導率の値が真の値よりも低下する。電気伝導率の値の低下とスケール付着量は反比例の関係であるため、電気伝導率の低下からスケール付着量を定量的に測定することができる。
【0022】
電気伝導率測定のため対象水系から取り出した浸漬用電気伝導率計は、電気伝導率測定後、再び元の対象水に浸漬する。モニタリングを終了する場合は、10%HNO
3水溶液で電気伝導率計を洗浄しスケールを除去する。その後、純水でよく洗い乾燥させた後、保管する。
【実施例】
【0023】
電気伝導率の低下とスケール付着量の相関性確認試験を行った。
【0024】
以下の手順に従って、炭酸カルシウム過飽和溶液に浸漬用電気伝導率計を浸漬した後、1w/w%NaCl水溶液を用いて電気伝導率を測定することにより、電極部へのスケール付着量と電気伝導率の低下量との相関性を試験した。
(1) 測定標準溶液(1w/w%NaCl水溶液)の電気伝導率を測定する(ブランク)。
(2) 500mlビーカーに純水、CaCl
2水溶液、NaHCO
3水溶液を加え、所定の濃度になるようにする。
【0025】
(カルシウム硬度、M−アルカリ度ともに1000ppm)
(3) 浸漬用電気伝導率計とSUS製のテストピース(1×30×50mm)を(2)のビーカーに浸漬する(
図1(a))。
(4) 恒温槽で50℃一定で1時間撹拌する(
図1(b)〜(c))。
(5) 反応後、電気伝導率計とテストピースを取り出し、純水で洗浄する。
(6) テストピースを乾燥し、重量を測定する(
図1(d))。
(7) (1)と同じ溶液を用いて、電気伝導率を測定する(
図1(e))。
(8) (2)〜(7)を1サイクルとし、これを4〜15サイクル繰り返す。この際、上記(2)の溶液はサイクルごとに交換し、4、6、10、15サイクル目にデータを取った。
【0026】
その結果を表1及び
図2に示す。
【0027】
【表1】
【0028】
表1及び
図2の通り、電極に対するスケール付着量が増加するに従い電気伝導率の値が低下した。なお、再現性も確認できた。この実験により、浸漬用電気伝導率の値の低下と電極部へのスケール付着量には相関性があり、電気伝導率計を用いて水中でのスケール付着を定量的に評価できることが認められた。