特許第5928155号(P5928155)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5928155水性複合樹脂組成物及びそれを用いたコーティング剤及び該コーティング剤の塗膜を有する物品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5928155
(24)【登録日】2016年5月13日
(45)【発行日】2016年6月1日
(54)【発明の名称】水性複合樹脂組成物及びそれを用いたコーティング剤及び該コーティング剤の塗膜を有する物品
(51)【国際特許分類】
   C08G 77/458 20060101AFI20160519BHJP
   C08G 77/442 20060101ALI20160519BHJP
   C09D 175/04 20060101ALI20160519BHJP
   C09D 133/00 20060101ALI20160519BHJP
   C09D 183/04 20060101ALI20160519BHJP
   C09D 183/06 20060101ALI20160519BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20160519BHJP
   C08G 18/83 20060101ALI20160519BHJP
【FI】
   C08G77/458
   C08G77/442
   C09D175/04
   C09D133/00
   C09D183/04
   C09D183/06
   C09D5/02
   C08G18/83
【請求項の数】9
【全頁数】30
(21)【出願番号】特願2012-116458(P2012-116458)
(22)【出願日】2012年5月22日
(65)【公開番号】特開2013-241539(P2013-241539A)
(43)【公開日】2013年12月5日
【審査請求日】2015年3月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124970
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 通洋
(72)【発明者】
【氏名】松沢 博
(72)【発明者】
【氏名】桐澤 理恵
【審査官】 小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−1457(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 77/458
C08G 18/83
C08G 77/442
C09D 5/02
C09D 133/00
C09D 175/04
C09D 183/04
C09D 183/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水性基を有するポリウレタン(a1)とビニル重合体(a2)とがポリシロキサン(a3)を介して結合した複合樹脂(A)及び水系媒体を含有する水性複合樹脂組成物であって、前記親水性基を有するポリウレタン(a1)と前記ポリシロキサン(a3)との結合が、前記ポリウレタン(a1)の有する加水分解性シリル基及び/またはシラノール基と前記ポリシロキサン(a3)の有する加水分解性シリル基及び/またはシラノール基との縮合結合であり、前記ビニル重合体(a2)と前記ポリシロキサン(a3)との結合が、前記ビニル重合体(a2)の有する加水分解性シリル基及び/またはシラノール基と前記ポリシロキサン(a3)の有する加水分解性シリル基及び/またはシラノール基との縮合結合であり、前記複合樹脂(A)中の前記ポリシロキサン(a3)由来の構造の質量割合が15〜55質量%の範囲であり、前記ポリシロキサン(a3)が、エポキシ基を有することを特徴とする水性複合樹脂組成物。
【請求項2】
前記親水性基を有するポリウレタン(a1)と前記ビニル重合体(a2)との質量割合[(a2)/(a1)]が20/1〜1/20の範囲である請求項1記載の水性複合樹脂組成物。
【請求項3】
前記ビニル重合体(a2)が、加水分解性シリル基を有するビニル単量体及びシラノール基を有するビニル単量体からなる群より選ばれる1種以上のビニル単量体の重合物である請求項1または2記載の水性複合樹脂組成物。

【請求項4】
前記ポリシロキサン(a3)が、ケイ素原子に結合した芳香族環式構造、ケイ素原子に結合した炭素原子数1〜3個を有するアルキル基、及びケイ素原子に結合した炭素原子数1〜3個を有するアルコキシ基からなる群より選ばれる1種以上を有するものである請求項1〜3のいずれか1項記載の水性複合樹脂組成物。
【請求項5】
前記ポリシロキサン(a3)が、下記一般式(I)及び(II)からなる群より選ばれる1種以上の構造を有するものである請求項1〜4のいずれか1項記載の水性複合樹脂組成物。
【化1】
【化2】
(一般式(I)中のRは、エポキシ基を有する有機基、及び/または、炭素原子数が4〜12の有機基であり、一般式(II)中のR及びRは、それぞれ独立にメチル基またはエチル基である。)
【請求項6】
前記ポリシロキサン(a3)が、アルキル基の炭素原子数が1〜3であるアルキルトリアルコキシシランの縮合物を用いて形成されたものである請求項1〜5のいずれか1項記載の水性複合樹脂組成物。
【請求項7】
前記ポリシロキサン(a3)が、エポキシ基とアルコキシシリル基とを有する化合物を用いてエポキシ基を導入されたものである請求項1〜6のいずれか1項記載の水性複合樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項記載の水性複合樹脂組成物を含有することを特徴とするコーティング剤。
【請求項9】
請求項8記載のコーティング剤を用いて形成された塗膜を有することを特徴とする物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コーティング剤や接着剤をはじめとする様々な用途に使用可能な水性複合樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、無機材料と有機材料の特性を兼備させた高機能材料の開発が各産業分野で広く行われており、無機材料は耐候性、耐熱性、耐擦傷性等の耐久性に優れ、有機材料は柔軟性・加工性に富んでいることが一般的に知られている。この中、無機材料と有機材料とを複合化した水性樹脂が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。この水性樹脂の塗膜は、比較的硬いため、外力や温度変化等の影響によって変形や伸縮を引き起こしやすい基材の表面被覆に使用した場合、塗膜が基材の変形等に追従できず、塗膜の剥離、屈曲によるクラックの発生等を生じる場合があった。
【0003】
上記の塗膜の剥離、クラックの発生等を抑制できるものとして、柔軟性に優れたポリウレタンを複合化した材料が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。この
ポリウレタンを複合化した材料の塗膜は、高耐候性に加え、耐クラック性に優れ、高伸度で基材追従性を有しているが、高度な耐久性が要求される場合には硬化剤を使用することが必須で、作業性に劣る点が指摘されていた。また、硬化剤を使用した2液硬化仕様では、塗膜伸度が経時的に減少し基材追従性を損なう場合もみられた。
【0004】
そこで、作業性に優れる1液硬化仕様で、高耐候性、耐クラック性及び基材追従性に優れた塗膜を形成可能な材料が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−279408号公報
【特許文献2】特開2010−1457号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、作業性に優れる1液硬化仕様で、塗膜外観、基材密着性、表面硬度、耐溶剤性、耐クラック性、耐候性、耐汚染性及び基材追従性に優れた塗膜を形成可能な水性複合樹脂組成物及びそれを用いたコーティング剤及び該コーティング剤の塗膜を有する物品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、親水性基を有するポリウレタンとビニル重合体とがポリシロキサンを介して結合した複合樹脂であって、特定の割合のポリシロキサン由来成分を有するもののうち、ポリシロキサンがエポキシ基を有するものと、水系媒体とを含有する水性複合樹脂組成物が、塗膜外観、基材密着性、表面硬度、耐溶剤性、耐クラック性、耐候性、耐汚染性及び基材追従性に優れた塗膜を形成可能であることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、親水性基を有するポリウレタン(a1)とビニル重合体(a2)とがポリシロキサン(a3)を介して結合した複合樹脂(A)及び水系媒体を含有する水性複合樹脂組成物であって、前記親水性基を有するポリウレタン(a1)と前記ポリシロキサン(a3)との結合が、前記ポリウレタン(a1)が有する加水分解性シリル基及び/またはシラノール基と前記ポリシロキサン(a3)の有する加水分解性シリル基及び/またはシラノール基との反応によって形成されたものであり、前記ビニル重合体(a2)と前記ポリシロキサン(a3)との結合が、前記ビニル重合体(a2)の有する加水分解性シリル基及び/またはシラノール基と前記ポリシロキサン(a3)の有する加水分解性シリル基及び/またはシラノール基との反応によって形成されたものであり、前記複合樹脂(A)中の前記ポリシロキサン(a3)由来の構造の質量割合が15〜55質量%の範囲であり、前記ポリシロキサン(a3)が、エポキシ基を有することを特徴とする水性複合樹脂組成物に関する。また、該水性複合樹脂組成物を含有することを特徴とするコーティング剤に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の水性複合樹脂組成物は、金属基材、プラスチック基材、無機基材、繊維質基材、布材、紙、木質基材等の様々な基材に対して良好な密着性を有することから、コーティング剤や接着剤に使用することができる。とりわけ、本発明の水性複合樹脂組成物は、耐久性や耐候性に優れた塗膜を形成できることから、各種基材のプライマー層形成用コーティング剤やトップコート層形成用コーティング剤等に好適に使用することができる。
【0010】
また、本発明の水性複合樹脂組成物は、優れた耐久性や耐候性とともに、優れた防錆性を有する塗膜を形成できることから、例えば、外壁、屋根等の建築部材、ガードレール、防音壁、排水溝等の土木部材、家電製品、産業機械、自動車の部品等に使用される亜鉛めっき鋼板、アルミニウム−亜鉛合金鋼板等のめっき鋼板や、アルミ板、アルミ合金板、電磁鋼板、銅板、ステンレス鋼板等の金属基材の表面被覆用コーティング剤や、前記した各種の鋼板とトップコート層との間のプライマーコート層形成用コーティング剤として好適に使用することができる。
【0011】
また、本発明の水性複合樹脂組成物は、ポリカーボネート基材やアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン基材をはじめとする様々なプラスチック基材に対して優れた密着性を有することから、例えば、携帯電話、家電製品、OA機器、自動車内装材等のプラスチック製品の、表面被覆用コーティング剤として好適に使用することができる。
【0012】
また、本発明の水性複合樹脂組成物は、基材追従性に優れる塗膜を形成できることから、例えば、偏光板を構成する各種機能フィルムの接着剤等に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の水性複合樹脂組成物は、親水性基を有するポリウレタン(a1)とビニル重合体(a2)とがポリシロキサン(a3)を介して結合した複合樹脂(A)及び水系媒体を含有する水性複合樹脂組成物であって、前記親水性基を有するポリウレタン(a1)と前記ポリシロキサン(a3)との結合が、前記ポリウレタン(a1)が有する加水分解性シリル基及び/またはシラノール基と前記ポリシロキサン(a3)の有する加水分解性シリル基及び/またはシラノール基との反応によって形成されたものであり、前記ビニル重合体(a2)と前記ポリシロキサン(a3)との結合が、前記ビニル重合体(a2)の有する加水分解性シリル基及び/またはシラノール基と前記ポリシロキサン(a3)の有する加水分解性シリル基及び/またはシラノール基との反応によって形成されたものであり、前記複合樹脂(A)中の前記ポリシロキサン(a3)由来の構造の質量割合が15〜55質量%の範囲であり、前記ポリシロキサン(a3)が、エポキシ基を有するものである。
【0014】
まず、前記複合樹脂(A)について説明する。前記複合樹脂(A)は、親水性基を有するポリウレタン(a1)とビニル重合体(a2)とがポリシロキサン(a3)を介して結合したものである。
【0015】
前記複合樹脂(A)は、水系媒体中に分散したものであるが、前記複合樹脂(A)の一部が水系媒体中に溶解していても良い。水系媒体中に分散した複合樹脂(A)は、10〜500nmの平均粒子径を有することが、基材追従性に優れ、かつ耐クラック性等の耐久性や耐候性に優れた塗膜を形成できるので好ましい。なお、ここでいう平均粒子径とは、粒子の動的散乱光を検出する測定原理で粒度分布を求める方法で測定した値をいう。
【0016】
また、前記複合樹脂(A)は、耐久性及び耐候性に優れた塗膜を形成できるので、複合樹脂(A)全体に対して15〜55質量%のポリシロキサン(a3)由来の構造を有することが重要である。例えば、前記ポリシロキサン(a3)の質量割合が10質量%である複合樹脂では、比較的良好な基材追従性を有する塗膜を形成できるものの、かかる塗膜は耐久性及び耐候性の点で十分でなく、経時的に基材からの剥離等が生じる場合がある。
【0017】
一方、前記ポリシロキサン(a3)由来の構造の質量割合が65質量%である複合樹脂含有の組成物は、前記親水性基を有するポリウレタン(a1)や前記ビニル重合体(a2)由来の構造の質量割合が低くなるのに伴い造膜性が低下し、その結果、塗膜表面にクラックが発生する場合がある。
【0018】
前記複合樹脂(A)中の前記ポリシロキサン(a3)由来の構造の質量割合は、20〜35質量%の範囲であることが、優れた耐久性と耐候性と基材追従性とを兼ね備えた塗膜を形成できるので好ましい。
【0019】
なお、前記ポリシロキサン(a3)由来の構造とは、前記複合樹脂(A)を構成する親水性基を有するポリウレタン(a1)とビニル重合体(a2)との連結部分を構成する主鎖が酸素原子とケイ素原子とからなる構造を指す。また、前記ポリシロキサン(a3)由来の構造の質量割合は、前記複合樹脂(A)の調製に使用する原料の仕込み割合に基づき、ポリシロキサン(a3)等の加水分解縮合反応によって生成しうるメタノールやエタノール等の副生成物の生成を考慮し算出した値である。
【0020】
また、前記複合樹脂(A)は、水系媒体中に安定して分散するうえで、親水性基を有することが必須である。
【0021】
親水性基は、主として前記複合樹脂(A)の外層を構成するポリウレタン(a1)中に存在することが必須であるが、必要に応じて、前記ビニル重合体(a2)中に存在していても良い。
【0022】
前記親水性基としては、アニオン性基、カチオン性基、及びノニオン性基を使用できるが、これらの中でもアニオン性基を使用することがより好ましい。
【0023】
前記アニオン性基としては、例えば、カルボキシル基、カルボキシレート基、スルホン酸基、スルホネート基等を使用することができ、これらのなかでも、一部または全部が塩基性化合物等によって中和されたカルボキシレート基やスルホネート基を使用することが、良好な水分散性を有する複合樹脂を調製するうえで好ましい。
【0024】
前記アニオン性基の中和に使用可能な塩基性化合物としては、例えば、アンモニア;トリエチルアミン、ピリジン、モルホリン等の有機アミン;モノエタノールアミン等のアルカノールアミン;ナトリウム、カリウム、リチウム、カルシウム等の金属塩基化合物などが挙げられる。
【0025】
前記アニオン性基としてカルボキシレート基やスルホネート基を使用する場合、それらは複合樹脂(A)全体に対して50〜1000mmol/kgの範囲で存在することが、水性複合樹脂(A)粒子の良好な水分散安定性を維持できるので好ましい。
【0026】
また、前記カチオン性基としては、例えば、3級アミノ基等が挙げられる。前記3級アミノ基の一部または全てを中和する際に使用することができる酸としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、乳酸、マレイン酸などの有機酸類や、スルホン酸、メタンスルホン酸等の有機スルホン酸類、及び、塩酸、硫酸、オルトリン酸、オルト亜リン酸等の無機酸等を単独または2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0027】
また、前記3級アミノ基の一部または全てを4級化する際に使用することができる4級化剤としては、例えば、ジメチル硫酸、ジエチル硫酸等のジアルキル硫酸類や、メチルクロライド、エチルクロライド、ベンジルクロライドなどのハロゲン化アルキル類、メタンスルホン酸メチル、パラトルエンスルホン酸メチル等のアルキルまたはエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、エピクロルヒドリン等のエポキシ類を単独または2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0028】
また、前記ノニオン性基としては、例えば、ポリオキシエチレン基、ポリオキシプロピレン基、ポリオキシブチレン基、ポリ(オキシエチレン−オキシプロピレン)基、及びポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレン基等のポリオキシアルキレン基が挙げられる。これらのなかでもオキシエチレン単位を有するポリオキシアルキレン基を使用することが、親水性をより一層向上させるうえで好ましい。
【0029】
また、前記複合樹脂(A)としては、前記親水性基を有するポリウレタン(a1)と前記ビニル重合体(a2)との質量割合[(a2)/(a1)]が、20/1〜1/20の範囲であるものを使用することが、基材追従性に優れ、かつ耐久性及び耐候性に優れた塗膜を形成できるので好ましく、10/1〜1/10の範囲であることがより好ましく、5/1〜1/5の範囲が特に好ましい。
【0030】
また、前記親水性基を有するポリウレタン(a1)と前記ポリシロキサン(a3)との結合は、例えば、前記親水性基を有するポリウレタン(a1)の有する加水分解性シリル基及び/またはシラノール基と前記ポリシロキサン(a3)の有する加水分解性シリル基及び/またはシラノール基との反応によって形成されるものである。また、前記ビニル重合体(a2)と前記ポリシロキサン(a3)との結合は、前記ビニル重合体(a2)の有する加水分解性シリル基及び/またはシラノール基と前記ポリシロキサン(a3)の有する加水分解性シリル基及び/またはシラノール基との反応によって形成されるものである。
【0031】
次に、前記複合樹脂(A)を構成する親水性基を有するポリウレタン(a1)について説明する。
【0032】
前記親水性基を有するポリウレタン(a1)は、優れた基材追従性を本発明の水性複合樹脂組成物に付与するうえで必須成分である。
【0033】
前記親水性基を有するポリウレタン(a1)としては、各種のものを使用することができるが、例えば、3,000〜100,000の数平均分子量を有するものを使用することが好ましく、5,000〜10,000の数平均分子量を有するものを使用することが、基材追従性に優れ、かつ耐久性及び耐候性に優れた塗膜を形成できるので好ましい。
【0034】
前記親水性基を有するポリウレタン(a1)は、前記複合樹脂(A)に水分散安定性を付与するうえで親水性基を有することが必須である。親水性基は、前記親水性基を有するポリウレタン(a1)全体に対して、50〜1,000mmol/kgの範囲に存在することが、複合樹脂に一層良好な水分散性を付与するうえで好ましい。
【0035】
前記親水性基を有するポリウレタン(a1)としては、例えば、ポリオールとポリイソシアネートとを反応させて得られるポリウレタンを使用することができる。前記親水性基を有するポリウレタン(a1)の有する親水性基は、例えば、前記ポリオールを構成する一成分として、親水性基を有するポリオールを使用することによって、前記親水性基を有するポリウレタン(a1)中に導入することができる。
【0036】
前記親水性基を有するポリウレタン(a1)の製造に使用可能なポリオールとしては、例えば、前記親水性基を有するポリオール及びその他のポリオールを組み合わせ使用することができる。
【0037】
前記親水性基を有するポリオールとしては、例えば、2,2’−ジメチロールプロピオン酸、2,2’−ジメチロールブタン酸、2,2’−ジメチロール酪酸、2,2’−ジメチロール吉草酸等のカルボキシル基を有するポリオールや、5−スルホイソフタル酸、スルホテレフタル酸、4−スルホフタル酸、5[4−スルホフェノキシ]イソフタル酸等のスルホン酸基を有するポリオールを等が挙げられる。また、前記親水性基を有するポリオールとしては、前記した低分子量の親水性基を有するポリオールと、例えば、アジピン酸等の各種ポリカルボン酸とを反応させて得られる親水性基を有するポリエステルポリオール等を使用することもできる。
【0038】
前記親水性基を有するポリオールと組み合わせ使用可能なその他のポリオールとしては、本発明の水性複合樹脂組成物に求められる特性や、水性複合樹脂組成物を適用する用途等に応じて適宜使用することができ、例えば、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール及びポリカーボネートポリオール等を等が挙げられる。
【0039】
前記ポリエーテルポリオールは、本発明の水性複合樹脂組成物に、特に優れた基材追従性を付与することができるため、前記親水性基を有するポリオールと組み合わせ使用することが好ましい。
【0040】
前記ポリエーテルポリオールとしては、例えば、活性水素原子を2個以上有する化合物の1種または2種以上を開始剤として、アルキレンオキサイドを付加重合させたもの等が挙げられる。
【0041】
前記開始剤としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン等を等が挙げられる。
【0042】
また、前記アルキレンオキサイドとしては、例えば、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、スチレンオキサイド、エピクロルヒドリン、テトラヒドロフラン等が挙げられる。
【0043】
また、前記ポリエステルポリオールとしては、例えば、低分子量のポリオールとポリカルボン酸とをエステル化反応して得られる脂肪族ポリエステルポリオールや芳香族ポリエステルポリオール、ε−カプロラクトン等の環状エステル化合物を開環重合反応して得られるポリエステルや、これらの共重合ポリエステル等が挙げられる。
【0044】
前記低分子量のポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコ−ル等が挙げられる。
【0045】
また、前記ポリカルボン酸としては、例えば、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、及びこれらの無水物またはエステル形成性誘導体等が挙げられる。
【0046】
また、前記親水性基を有するポリウレタン(a1)の製造に使用できるポリカーボネートポリオールは、本発明の水性複合樹脂組成物のプラスチック基材に対する密着性を格段に向上できるので好ましい。前記ポリカーボネートポリオールとしては、例えば、炭酸エステルとポリオールとを反応させて得られるものや、ホスゲンとビスフェノールA等とを反応させて得られるものが挙げられる。
【0047】
前記炭酸エステルとしては、メチルカーボネートや、ジメチルカーボネート、エチルカーボネート、ジエチルカーボネート、シクロカーボネート、ジフェニルカーボネ−ト等を使用することできる。
【0048】
前記炭酸エステルと反応しうるポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,5−ヘキサンジオール、2,5−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,11−ウンデカンジオール、1,12−ドデカンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、2−ブチル−2−エチルプロパンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ハイドロキノン、レゾルシン、ビスフェノール−A、ビスフェノール−F、4,4’−ビフェノール等の比較的低分子量のジヒドロキシ化合物や、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のポリエーテルポリオールや、ポリヘキサメチレンアジペート、ポリヘキサメチレンサクシネート、ポリカプロラクトン等のポリエステルポリオール等が挙げられる。
【0049】
前記ポリカーボネートポリオールとしては、前記ジメチルカーボネートと、前記1,6−ヘキサンジオールとを反応させて得られるものを使用することが、優れたプラスチック基材に対する密着性と優れた基材追従性とを両立でき、かつ安価であることからより好ましい。
【0050】
また、前記ポリカーボネートポリオールとしては、500〜6,000の範囲の数平均分子量を有するものを使用することが好ましい。
【0051】
前記ポリカーボネートポリオールは、前記ポリウレタン(a1)の製造に使用するポリオール及びポリイソシアネートの全量に対して、30〜95質量%の範囲で使用することが、プラスチック基材に対する密着性や耐候性及び耐久性を両立するうえで好ましい。
【0052】
前記ポリカーボネートポリオールを用いて得られた本発明の水性複合樹脂組成物は、とりわけ、ポリカーボネート基材、ポリエステル基材、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン基材、ポリアクリル基材、ポリスチレン基材、ポリウレタン基材、エポキシ樹脂基材、ポリ塩化ビニル系基材及びポリアミド系基材等の、一般に難付着性基材として知られる様々なプラスチック基材に対して優れた密着性を有することから、もっぱらプラスチック基材用コーティング剤に使用することができる。
【0053】
また、前記親水性基を有するポリウレタン(a1)を製造する際に使用するポリイソシアネートとしては、例えば、フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネートや、ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート等の脂肪族または脂肪族環式構造を有するジイソシアネート等を、単独で使用または2種以上を併用して使用することができる。これらのなかでも、脂肪族環式構造を有するジイソシアネートを使用することが、長期耐候性に優れる塗膜を形成できるため好ましい。
【0054】
前記親水性基を有するポリウレタン樹脂(a1)は、前記したような親水性基の他に、必要に応じてその他の官能基を有していてもよく、かかる官能基としては、後述するポリシロキサン(a3)と反応しうる加水分解性シリル基、シラノール基や、アミノ基、イミノ基、水酸基等が挙げられ、これらのなかでも加水分解性シリル基であることが、長期耐候性に優れる塗膜を形成できるため好ましい。
【0055】
前記親水性基を有するポリウレタン(a1)が有していても良い加水分解性シリル基は、加水分解性基がケイ素原子に直接結合した官能基であり、例えば、下記の一般式(III)で表される官能基が挙げられる。
【0056】
【化1】
(式中、Rはアルキル基、アリール基またはアラルキル基等の1価の有機基であり、Rはハロゲン原子、アルコキシ基、アシロキシ基、フェノキシ基、アリールオキシ基、メルカプト基、アミノ基、アミド基、アミノオキシ基、イミノオキシ基またはアルケニルオキシ基である。また、xは0〜2の整数である。)
【0057】
前記アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、1−メチルブチル基、2−メチルブチル基、ヘキシル基、イソヘキシル基等が挙げられる。
【0058】
前記アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、2−メチルフェニル基等が挙げられ、前記アラルキル基としては、例えば、ベンジル基、ジフェニルメチル基、ナフチルメチル基等が挙げられる。
【0059】
前記ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。
【0060】
前記アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基等が挙げられる。
【0061】
前記アシロキシ基としては、例えば、アセトキシ、プロパノイルオキシ、ブタノイルオキシ、フェニルアセトキシ、アセトアセトキシ等が挙げられ、前記アリールオキシ基としては、例えば、フェニルオキシ、ナフチルオキシ等が挙げられ、前記アルケニルオキシ基としては、例えば、アリルオキシ基、1−プロペニルオキシ基、イソプロペニルオキシ基等が挙げられる。
【0062】
前記Rは、加水分解によって生じうる一般式ROH等の脱離成分の除去が容易であることから、好ましくはそれぞれ独立してアルコキシ基であることが好ましい。
【0063】
また、前記親水性基を有するポリウレタン(a1)が有していても良いシラノール基は、水酸基が直接ケイ素原子に結合した官能基であって、主に前記した加水分解性シリル基が加水分解して生じる官能基である。
【0064】
前記加水分解性シリル基及びシラノール基は、前記親水性基を有するポリウレタン(a1)全体に対して10〜400mmol/kg存在することが、複合樹脂の良好な水分散安定性を確保できるので好ましい。
【0065】
次に、前記複合樹脂(A)を構成するビニル重合体(a2)について説明する。前記ビニル重合体(a2)は、後述するポリシロキサン(a3)を介して前記親水性基を有するポリウレタン(a1)と結合しうるものである。
【0066】
前記ビニル重合体(a2)としては、3,000〜100,000の数平均分子量を有するものを使用することが好ましく、5,000〜25,000の数平均分子量を有するものを使用することが、基材追従性に優れ、かつ耐クラック性等の耐久性及び耐候性に優れた塗膜を形成できるのでより好ましい。
【0067】
前記ビニル重合体(a2)としては、例えば、各種ビニル単量体を重合開始剤の存在下で重合することによって製造したものが挙げられる。
【0068】
前記ビニル単量体としては、前記ポリシロキサン(a3)の有する加水分解性シリル基等と反応しうる官能基を、ビニル重合体(a2)中に導入する観点から、加水分解性シリル基を有するビニル単量体や水酸基を有するビニル単量体等を使用することが好ましい。
【0069】
前記加水分解性シリル基を有するビニル単量体としては、例えば、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシランもしくは3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン等を使用することができ、これらのなかでも、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランを使用することが好ましい。
【0070】
なお、本発明において、「(メタ)アクリレート」とは、メタクリレートとアクリレートの一方または両方をいう。
【0071】
また、前記水酸基を有するビニル単量体としては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0072】
前記ビニル単量体としては、前記加水分解性シリル基を有するビニル単量体や水酸基を有するビニル単量体等の他に、必要に応じてその他のビニル単量体を併用しても良い。
【0073】
前記その他のビニル単量体としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル類;N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート等の三級アミノ基を有するビニル単量体;N−メチルアミノエチル(メタ)アクリレート等の二級アミノ基を有するビニル単量体;アミノメチルアクリレート等の一級アミノ基を有するビニル単量体等の塩基性窒素原子を有するビニル単量体;2,2,2−トリフルオロエチル(メタ)アクリレート等のフッ素を有するビニル単量体;酢酸ビニル等のビニルエステル類;メチルビニルエーテル等のビニルエーテル類;(メタ)アクリロニトリル等の不飽和カルボン酸のニトリル類;スチレン等の芳香族環を有するビニル化合物;イソプレン等のα−オレフィン類、グリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基を有するビニル単量体;(メタ)アクリルアミド等のアミド基を有するビニル単量体;N−メチロール(メタ)アクリルアミド等のメチロールアミド基及びそのアルコキシ化物を有するビニル単量体;2−アジリジニルエチル(メタ)アクリレート等のアジリジニル基を有するビニル単量体;(メタ)アクリロイルイソシアナート等のイソシアナート基及び/またはブロック化イソシアナート基を有するビニル単量体;2−イソプロペニル−2−オキサゾリン等のオキサゾリン基を有するビニル単量体;ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート等のシクロペンテニル基を有するビニル単量体;アクロレイン等のカルボニル基を有するビニル単量体;アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート等のアセトアセチル基を有するビニル単量体;(メタ)アクリル酸、マレイン酸、もしくはこれらの半エステルまたはこれらの塩等のカルボキシル基を有する単量体等を1種または2種以上使用することができる。
【0074】
前記ビニル重合体(a2)を製造する際に使用可能な重合開始剤としては、例えば、過硫酸塩類、有機過酸化物類、過酸化水素等のラジカル重合開始剤や、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩等のアゾ開始剤が挙げられる。また、前記ラジカル重合開始剤は、例えば、アスコルビン酸等の還元剤と併用しレドックス重合開始剤として使用しても良い。
【0075】
前記重合開始剤の代表的なものである過硫酸塩類としては、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等が挙げられ、有機過酸化物類として、具体的には、例えば、過酸化ベンゾイル、ラウロイルパーオキサイド、デカノイルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド類、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド等のジアルキルパーオキサイド類、t−ブチルパーオキシラウレート、t−ブチルパーオキシベンゾエート等のパーオキシエステル類、クメンハイドロパーオキサイド、パラメンタンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド類等が挙げられる。
【0076】
重合開始剤の使用量は、重合が円滑に進行する量を使用すれば良いが、ビニル重合体(a2)の製造に使用するビニル単量体の全量に対して、10質量%以下とすることが好ましい。
【0077】
次に、前記複合樹脂(A)を構成するポリシロキサン(a3)について説明する。前記ポリシロキサン(a3)は、前記親水性基を有するポリウレタン(a1)と前記ビニル重合体(a2)との連結部分を構成するものである。
【0078】
また、前記ポリシロキサン(a3)は、耐候性、耐汚染性に優れた塗膜を形成するうえで、エポキシ基を有することが重要である。
【0079】
前記エポキシ基は、耐候性、耐汚染性に優れ、かつ基材追従性に優れた塗膜を形成できるうえで、前記ポリシロキサン(a3)全体に対して、0.1モル%から50モル%の範囲で存在することが好ましい。
【0080】
前記ポリシロキサン(a3)は、ケイ素原子と酸素原子とからなる鎖状構造を有するものであって、必要に応じて加水分解性シリル基やシラノール基等を有するものである。前記ポリシロキサン(a3)としては、下記一般式(I)及び(II)からなる群より選ばれる1種以上の構造を有するものが好ましい。
【0081】
【化2】
【0082】
【化3】
(一般式(I)中のRは、エポキシ基を有する有機基、及び/または、炭素原子数が4〜12の有機基であり、一般式(II)中のR及びRは、それぞれ独立にメチル基またはエチル基である。)
【0083】
前記一般式(I)中のRが、エポキシ基を有する有機基である場合の具体例としては、グリシドキシアルキル基、エポキシシクロヘキシルアルキル基等が挙げられる。
【0084】
前記一般式(I)中のRが、炭素原子数が4〜12の有機基である場合の具体例としては、ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、1−メチルブチル基、2−メチルブチル基、ヘキシル基、イソヘキシル基、シクロヘキシル基、フェニル基、ナフチル基、2−メチルフェニル基、ベンジル基、ナフチルメチル基等が挙げられる。
【0085】
また、前記ポリシロキサン(a3)としては、アルキル基の炭素原子数が1〜3個であるアルキルトリアルコキシシランの縮合物を用いて形成されたものが好ましい。
【0086】
前記加水分解性シリル基は、加水分解性基が前記ケイ素原子に直接結合した原子団であって、例えば、前記親水性基を有するポリウレタン(a1)の説明の際に例示した一般式(III)に示されるような構造からなるものが挙げられる。
【0087】
前記加水分解性基は、水の影響により水酸基を形成しうるものであって、例えば、ハロゲン原子、アルコキシ基、置換アルコキシ基、アシロキシ基、フェノキシ基、メルカプト基、アミノ基、アミド基、アミノオキシ基、イミノオキシ基、アルケニルオキシ基等が挙げられ、これらのなかでもアルコキシ基や置換アルコキシ基であることが好ましい。
【0088】
前記シラノール基は、水酸基が前記ケイ素原子に直接結合した原子団を示すものであって、前記加水分解性シリル基が加水分解した際に形成される。
【0089】
前記ポリシロキサン(a3)としては、エポキシ基と加水分解性シリル基及び/またはシラノール基とを有する化合物と、その他のシラン化合物とを完全にまたは部分的に加水分解縮合して得られるものを使用することができる。
【0090】
前記エポキシ基と加水分解性シリル基及び/またはシラノール基とを有する化合物としては、2−(3、4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2−(3、4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン等のエポキシ基とアルコキシシリル基とを有する化合物;前記エポキシ基とアルコキシシリル基とを有する化合物の部分加水分解縮合物;アミノシラン化合物とエポキシ化合物との反応物等が挙げられ、これらのなかでも、耐久性及び耐候性に優れた塗膜を形成できるので、エポキシ基とアルコキシシリル基とを有する化合物を使用することが好ましい。これらの化合物は、単独使用でも2種類以上の併用でもよい。
【0091】
前記アミノシラン化合物としては、例えば、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジエトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0092】
また、前記エポキシ化合物としては、例えば、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ハイドロキノンジグリシジルエーテル、アジピン酸ジグリシジルエーテル、フタル酸ジグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0093】
前記エポキシ基と加水分解性シリル基及び/またはシラノール基とを有する化合物以外のシラン化合物としては、例えば、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリ−n−ブトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、iso−ブチルトリメトキシシラン、シクロヘキシルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシランもしくは3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン等のオルガノトリアルコキシシラン;ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジ−n−ブトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、メチルシクロヘキシルジメトキシシランもしくはメチルフェニルジメトキシシラン等のジオルガノジアルコキシシラン類;メチルトリクロロシラン、エチルトリクロロシラン、フェニルトリクロロシラン、ビニルトリクロロシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、ジエチルジクロロシランもしくはジフェニルジクロロシラン等の各種のクロロシラン類や、それらの部分加水分解縮合物等を使用することができ、これらのなかでもオルガノトリアルコキシシランやジオルガノジアルコキシシランを使用することが好ましい。これらのシラン化合物は、単独使用でも2種類以上の併用でもよい。
【0094】
次に、本発明で使用する複合樹脂(A)の製造方法について説明する。
【0095】
前記複合樹脂(A)は、例えば、以下の(I)〜(III)の工程によって製造することができる。
【0096】
(I)の工程は、有機溶剤中で、前記したビニル単量体を前記重合開始剤の存在下で重合することによってビニル重合体(a2)の有機溶剤溶液を得る工程である。
【0097】
かかる反応は、例えば、重合開始剤を含む有機溶剤中に、前記ビニル単量体を逐次供給または一括供給し、次いで、攪拌下、20〜120℃の範囲で0.5〜24時間程度行うことが好ましい。
【0098】
また、(II)の工程は、前記ビニル重合体(a2)の有機溶剤溶液下で前記ビニル重合体(a2)の有する加水分解性シリル基等の反応性官能基と、シラン化合物の有する加水分解性シリル基またはシラノール基との反応と、前記シラン化合物間の加水分解縮合反応とを進行させることによって、ビニル重合体(a2)とポリシロキサン(a3)とが結合した複合樹脂(A’)の有機溶剤溶液を得る工程である。
【0099】
かかる反応は、例えば、(I)の工程に引き続き、前記ビニル重合体(a2)の有機溶剤溶液中に、前記ポリシロキサン(a3)を形成しうる前記シラン化合物を逐次供給または一括供給し、次いで、攪拌下、20〜120℃の範囲で0.5〜24時間程度行うことが好ましい。
【0100】
(II)の工程は、更に2段階の反応工程を経ることが好ましい。具体的には前記ビニル重合体(a2)の有する加水分解性シリル基またはシラノール基と、前記したフェニルトリメトキシシラン等の比較的低分子量のシラン化合物とを反応させる工程と、次いで、該反応物と、メチルトリメトキシシランやエチルトリメトキシシラン等のメチルトリアルコキシシラン及びエチルトリアルコキシシランを予め縮合させた縮合物とを反応させる工程とを経ることが好ましい。ポリシロキサン(a3)の構造形成を上記のような工程で行うことで、一層、基材追従性に優れ、かつ耐久性に優れた塗膜を形成可能な水性複合樹脂組成物を得ることができる。
【0101】
また、(III)の工程は、前記樹脂(A’)と、親水性基を有するポリウレタン(a1)と、エポキシ基と加水分解性シリル基及び/またはシラノール基とを有する化合物とを混合し、加水分解縮合させることにより、前記ビニル重合体(a2)と親水性基を有するポリウレタン(a1)とが前記ポリシロキサン(a3)を介して結合した複合樹脂(A)の有機溶剤溶液を得る工程である。
【0102】
前記反応は、例えば、(II)の工程に引き続き、前記樹脂(A’)の有機溶剤溶液中に前記親水性基を有するポリオールを含むポリオールと前記ポリイソシアネートとを反応させることによって得られる親水性基を有するポリウレタン(a1)を逐次供給または一括供給し、更に、エポキシ基と加水分解性シリル基及び/またはシラノール基とを有する化合物を供給し、次いで、攪拌下、20〜120℃の範囲で0.5〜24時間程度行うことが好ましい。
【0103】
また、前記複合樹脂(A)は、親水性基を有するポリウレタン(a1)と前記ビニル重合体(a2)とエポキシ基と加水分解性シリル基及び/またはシラノール基とを有する化合物とを混合し、加水分解縮合させた後、該反応物と、メチルトリメトキシシランやエチルトリメトキシシラン等のメチルトリアルコキシシラン及びエチルトリアルコキシシランを予め縮合させた縮合物とを反応させ、複合樹脂(A)の有機溶剤溶液を得る工程によっても製造することができる。
【0104】
上記の工程によって得られた複合樹脂(A)の有機溶剤溶液は、例えば、前記複合樹脂(A)の有する親水性基を中和し、該中和物を水系媒体中に分散することによって水性化することができる。
【0105】
前記親水性基の中和は、必ずしも行う必要はないが、前記複合樹脂(A)の水分散安定性を向上する観点から、行うことが好ましい。とりわけ前記親水性基がカルボキシル基やスルホン酸基等のアニオン性基である場合には、それらの全部または一部を、塩基性化合物を用いて中和し、カルボキシレート基やスルホネート基とすることが、水分散安定性を一層向上するうえで好ましい。
【0106】
前記中和は、例えば、前記複合樹脂(A)の有機溶剤溶液中に、塩基性化合物等を逐次または一括供給し、攪拌することによって行うことができる。
【0107】
前記中和後、複合樹脂(A)の中和物の有機溶剤溶液中に水系媒体を供給し、次いで、該有機溶剤を除去することによって、本発明で使用する複合樹脂(A)を含有する水性複合樹脂組成物を製造することができる。
【0108】
前記有機溶剤の除去は、例えば、蒸留によって行うことができる。
【0109】
また、前記水系媒体としては、水、水と混和する有機溶剤、及び、これらの混合物が挙げられる。水と混和する有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、n−及びイソプロパノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール等のポリアルキレングリコール類;ポリアルキレングリコールのアルキルエーテル類;N−メチル−2−ピロリドン等のラクタム類、等が挙げられる。本発明では、水のみを用いても良く、また水及び水と混和する有機溶剤との混合物を用いても良く、水と混和する有機溶剤のみを用いても良い。安全性や環境に対する負荷の点から、水のみ、または、水及び水と混和する有機溶剤との混合物が好ましく、水のみが特に好ましい。
【0110】
本発明の水性複合樹脂組成物は、製造の際の急激な粘度上昇を抑制し、かつ、水性複合樹脂組成物の生産性や、その塗工のしやすさや乾燥性等を向上する観点から、20〜70質量%の不揮発分を有するものであることが好ましく、30〜60質量%の範囲であることがより好ましい。
【0111】
また、本発明の水性複合樹脂組成物には、必要に応じて硬化触媒を含有させることも可能である。
【0112】
前記硬化触媒としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸カリウム、ナトリウムメチラート、テトライソプロピルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネート、オクチル酸錫、オクチル酸鉛、オクチル酸コバルト、オクチル酸亜鉛、オクチル酸カルシウム、ナフテン酸亜鉛、ナフテン酸コバルト、ジ−n−ブチル錫ジアセテート、ジ−n−ブチル錫ジオクトエート、ジ−n−ブチル錫ジラウレート、ジ−n−ブチル錫マレエート、p−トルエンスルホン酸、トリクロル酢酸、燐酸、モノアルキル燐酸、ジアルキル燐酸、モノアルキル亜燐酸、ジアルキル亜燐酸等が挙げられる。
【0113】
本発明の水性複合樹脂組成物には、必要に応じて熱硬化性樹脂を含有させることも可能である。かかる熱硬化性樹脂としては、ビニル系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、エポキシエステル樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂、石油樹脂、ケトン樹脂、シリコン樹脂、あるいはこれらの変性樹脂等が挙げられる。
【0114】
本発明の水性複合樹脂組成物には、必要に応じて粘土鉱物、金属、金属酸化物、ガラス等の各種の無機粒子を使用することができる。金属の種類としては、金、銀、銅、白金、チタン、亜鉛、ニッケル、アルミニウム、鉄、シリコン、ゲルマニウム、アンチモン、それらの金属酸化物等が挙げられる。
【0115】
本発明の水性複合樹脂組成物には、必要に応じて光触媒性化合物や無機顔料、有機顔料、体質顔料、ワックス、界面活性剤、安定剤、流動調整剤、染料、レベリング剤、レオロジーコントロール剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、可塑剤等の各種の添加剤等を使用することができる。
【0116】
前記水性複合樹脂組成物は、基材追従性に優れた塗膜を形成できることから、コーティング剤や接着剤等の各種用途に使用することができる。これらのなかでも、本発明の水性複合樹脂組成物は、前記基材追従性とともに耐久性及び耐候性に優れた塗膜を形成できることから、コーティング剤に使用することが好ましく、トップ層形成用コーティング剤やプライマー層形成用コーティング剤に使用することがより好ましい。
【0117】
前記コーティング剤を塗布し塗膜を形成可能な基材としては、例えば、金属基材やプラスチック基材、ガラス基材、紙や木材基材、繊維質基材等が挙げられる。
【0118】
また、本発明のコーティング剤は、前記耐久性や耐候性や基材追従性に加え、基材表面における錆の発生の防止や該錆に起因した塗膜の剥がれや膨れを防止できるレベルの耐食性を有する塗膜を形成できることから、例えば、外壁や屋根等の建築部材、ガードレール、防音壁、排水溝等の土木部材、家電製品、産業機械、自動車の部品等を構成する各種金属基材の表面被覆に使用することができる。特に、前記複合樹脂(A)を構成する親水性基を有するポリウレタン(a1)がポリエーテルポリオールと親水性基を有するポリオールとを含むポリオール及びポリイソシアネートを反応させて得られたものであるコーティング剤は、金属基材に対する密着性や基材追従性に優れることから、もっぱら金属基材用のコーティング剤に使用することができ、とりわけ、従来のクロメート処理に代わりうる鋼板表面処理剤に好ましく使用することができる。また、前記金属基材用のコーティング剤は、前記金属基材の表面に直接塗布し乾燥することによって塗膜を形成してもよく、前記金属基材とトップ層との間のプライマー層の形成に使用してもよい。
【0119】
前記金属基材としては、例えば、亜鉛めっき鋼板、アルミニウム−亜鉛合金鋼板等のめっき鋼板や、アルミ板、アルミ合金板、電磁鋼板、銅板、ステンレス鋼板等が挙げられる。
【0120】
また、本発明のコーティング剤のうち、該コーティング剤中に含まれる複合樹脂(A)を構成する親水性基を有するポリウレタン(a1)がポリカーボネートポリオールと親水性基を有するポリオールとを含むポリオール及びポリイソシアネートを反応させて得られるものであるコーティング剤は、前記耐久性や耐候性、基材追従性を損なうことなく、様々な種類のプラスチック基材に対して優れた密着性を有する。とりわけ、前記コーティング剤は、一般に難付着性基材として知られるポリメチルメタクリレート樹脂やポリスチレン樹脂等からなる基材に対しても非常に優れた密着性を有することから、プラスチック基材の表面被覆用コーティング剤として好適に使用することができる。
【0121】
前記プラスチック基材としては、一般に、携帯電話、家電製品、自動車内外装材、OA機器等のプラスチック成型品に採用されている、ポリカーボネート基材、ポリエステル基材、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン基材、ポリアクリル基材、ポリスチレン基材、ポリウレタン基材、エポキシ樹脂基材、ポリ塩化ビニル系基材及びポリアミド系基材からなる群より選ばれるプラスチック基材を使用することができる。
【0122】
また、本発明のコーティング剤は、比較的透明な塗膜を形成できることから、例えば、透明プラスチック基材の表面被覆に使用することができる。ここで、前記透明プラスチック基材としては、ポリメチルメタクリレート樹脂(PMMA樹脂)やポリカーボネート樹脂等からなる基材を使用することができる。これらの透明プラスチック基材は、通称、有機ガラスといわれ、一般の無機系ガラスと比較して軽量で割れにくい等の特徴を有し、近年、無機系ガラスの代替として住宅や自動車の窓ガラスへの適用が検討されている。本発明のコーティング剤によれば、住宅等の窓ガラスに使用された有機ガラスの透明度を損なうことなく、前記有機ガラスに対して優れた耐候性や耐久性や耐汚染性等を付与することができる。
【0123】
前記した各種基材は、予め被覆が施されていても良いが、本発明のコーティング剤はプラスチック基材等に対して優れた密着性を有することから、予め被覆等の表面処理の施されていない基材であっても問題なく使用することができる。
【0124】
また、前記基材は、それぞれ、板状、球状、フィルム状、シート状であってもよい。また、本発明のコーティング剤は特に基材追従性に優れることから、外力や温度等の影響によって変形や伸縮を引き起こしやすいフィルム状やシート状の基材や、表面に微細な凹凸を有する基材に対しても好適に使用することができる。
【0125】
本発明のコーティング剤は、例えば、それを前記基材表面に直接、塗布し、次いで乾燥、硬化させることによって、曝露試験後の塗膜外観、基材密着性、表面硬度、耐溶剤性、耐クラック性、耐候性、耐汚染性及び基材追従性等に優れた塗膜を形成することができる。
【0126】
前記したような種々の基材上に、前記コーティング剤を塗装し、硬化させることによって、塗装物を得ることができる。その際に、(1)前記コーティング剤を基材に直接塗装する、(2)予め基材上に下塗り塗料を塗装してから、前記コーティング剤を上塗り塗料として塗装する、(3)基材に下塗り塗料として前記コーティング剤を塗装し、次いで別の上塗り塗料を塗装し塗膜を形成させる等の塗装方法により塗装物を得ることができる。
【0127】
本発明のコーティング剤を塗装する方法としては、例えば、刷毛塗り、ローラー塗装、スプレー塗装、浸漬塗装、フロー・コーター塗装、ロール・コーター塗装、電着塗装等が挙げられる。
【0128】
また、前記(2)または(3)の塗装方法で前記コーティング剤からなる塗膜を有する塗装物を得る場合、下塗り塗料や、上塗り塗料として、従来から知られているアクリル樹脂系塗料、ポリエステル樹脂系塗料、アルキド樹脂系塗料、エポキシ樹脂系塗料、脂肪酸変性エポキシ樹脂系塗料、シリコーン樹脂系塗料、ポリウレタン樹脂系塗料等を使用することができる。
【0129】
前記乾燥し硬化を進行させる方法としては、常温下で1〜10日程度養生する方法であってもよいが、硬化を迅速に進行させる観点から、50〜250℃の温度で、1〜600秒程度加熱する方法が好ましい。また、比較的高温で変形や変色をしやすいプラスチック基材を用いる場合には、30〜100℃程度の比較的低温下で養生を行うことが好ましい。
【0130】
本発明のコーティング剤を用いて形成する塗膜の膜厚は、基材の使用される用途等に応じて、0.5〜1,000μmとすることができる。
【0131】
上記のような方法により、本発明のコーティング剤を用いて形成された塗膜を有する物品としては、例えば、テレビ、冷蔵庫、洗濯機、エアコン等の家電製品の筐体;パソコン、スマートフォン、携帯電話、デジタルカメラ、ゲーム機等の電子機器の筐体;プリンター、ファクシミリ等のOA機器の筐体;自動車、鉄道車輌等の各種車輌の内装材に用いられる各種部品などの各種プラスチック部材が挙げられる。また、外壁、屋根、ガラス、化粧板等の建築物の内外装材;防音壁、排水溝等の土木部材;家電製品、産業機械、自動車の部品等に使用される亜鉛めっき鋼板、アルミニウム−亜鉛合金鋼板等のめっき鋼板、アルミ板、アルミ合金板、電磁鋼板、銅板、ステンレス鋼板等の金属部材も挙げられる。さらに、本発明のコーティング剤は、基材追従性に優れる塗膜を形成できることから、液晶ディスプレイの偏光板を構成する各種機能フィルム等も挙げられる。
【実施例】
【0132】
次に、本発明を、実施例及び比較例により具体的に説明をする。
【0133】
(合成例1:メチルトリメトキシシランの縮合物(a3’−1)の製造)
攪拌機、温度計、滴下ロート、冷却管及び窒素ガス導入口を備えた反応容器に、メチルトリメトキシシラン(以下、「MTMS」と略記する。)1,421質量部を仕込んで、60℃まで昇温した。次いで、前記反応容器中にiso−プロピルアシッドホスフェート(堺化学株式会社製「A−3」)0.17質量部と脱イオン水207質量部との混合物を5分間で滴下した後、80℃の温度で4時間撹拌して加水分解縮合反応させた。
【0134】
上記の加水分解縮合反応によって得られた縮合物を、温度40〜60℃及び40〜1.3kPaの減圧下(メタノールの留去開始時の減圧条件が40kPaで、最終的に1.3kPaとなるまで減圧する条件をいう。以下、同様。)で蒸留し前記反応過程で生成したメタノール及び水を除去することによって、数平均分子量1,000のMTMSの縮合物(a3’−1)を含有する液(有効成分70質量%)1,000質量部を得た。
【0135】
なお、前記有効成分とは、MTMS等のシランモノマーのメトキシ基が全て縮合反応した場合の理論収量(質量部)を、縮合反応後の実収量(質量部)で除した値〔シランモノマーのメトキシ基が全て縮合反応した場合の理論収量(質量部)/縮合反応後の実収量(質量部)〕により算出したものである。
【0136】
(合成例2:複合樹脂中間体(A’−1)の製造)
攪拌機、温度計、滴下ロート、冷却管及び窒素ガス導入口を備えた反応容器に、プロピレングリコールモノプロピルエーテル(以下、「PnP」と略記する。)125質量部、フェニルトリメトキシシラン(以下、「PTMS」と略記する。)168質量部及びジメチルジメトキシシラン(以下、「DMDMS」と略記する。)102質量部を仕込んで、80℃まで昇温した。次いで、同温度で、メチルメタクリレート(以下、「MMA」と略記する。)38質量部、ブチルメタクリレート(以下、「BMA」と略記する。)24質量部、ブチルアクリレート(以下、「BA」と略記する。)36質量部、アクリル酸(以下、「AA」と略記する。)24質量部、3−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン(以下、「MPTS」と略記する。)4質量部、PnP 54質量部及びtert−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート(以下、「TBPEH」と略記する。)6質量部を含有する混合物を、前記反応容器中へ4時間で滴下した後、更に同温度で2時間反応させることによって、カルボキシル基と加水分解性シリル基とを有する数平均分子量が10,200のアクリル重合体(a2−1)の有機溶剤溶液を得た。
【0137】
上記で得られたアクリル重合体(a2−1)に、iso−プロピルアシッドホスフェート(堺化学株式会社製「A−3」)2.7質量部と脱イオン水76質量部との混合物を5分間で滴下し、更に同温度で1時間撹拌して加水分解縮合反応させることで、アクリル重合体(a2−1)の有する加水分解性シリル基と、前記PTMS及びDMDMS由来のポリシロキサンの有する加水分解性シリル基及びシラノール基とが結合した複合樹脂中間体(A’’−1)を含有する液を得た。
【0138】
上記で得られた前記複合樹脂中間体(A’’−1)を含有する液と合成例1で得られたMTMSの縮合物(a3’−1)を含有する液(有効成分70質量%)291質量部とを混合し、更に、脱イオン水49質量部を添加して同温度で16時間撹拌し、加水分解縮合反応させることによって、前記複合樹脂中間体(A’’−1)とMTMSの縮合物(a3’−1)とが結合した複合樹脂中間体(A’−1)を含有する液1,000質量部(不揮発分50質量%)を得た。
【0139】
(合成例3:複合樹脂中間体(A’−2)の製造)
攪拌機、温度計、滴下ロート、冷却管及び窒素ガス導入口を備えた反応容器に、PnP 121質量部、PTMS 267質量部及びDMDMS 162質量部を仕込んで、80℃まで昇温した。次いで、同温度で、MMA 61質量部、BMA 50質量部、BA 7質量部、MPTS 4質量部、PnP 52質量部及びTBPEH 6質量部を含有する混合物を、前記反応容器中へ4時間で滴下した後、更に同温度で2時間反応させることによって、加水分解性シリル基を有する数平均分子量が10,300のアクリル重合体(a2−2)の有機溶剤溶液を得た。
【0140】
上記で得られたアクリル重合体(a2−2)の有機溶剤溶液に、A−3 4.3質量部と脱イオン水121質量部との混合物を5分間で滴下し、更に同温度で1時間撹拌して加水分解縮合反応させることで、アクリル重合体(a2−2)の有する加水分解性シリル基と、前記PTMS及びDMDMS由来のポリシロキサンの有する加水分解性シリル基及びシラノール基とが結合した複合樹脂中間体(A’’−2)を含有する液を得た。
【0141】
上記で得られた複合樹脂中間体(A’’−2)を含有する液とMTMSの縮合物(a3’−1)を含有する液(有効成分70質量%)123質量部とを混合し、更に、脱イオン水21質量部を添加して同温度で16時間撹拌し、加水分解縮合反応させることによって、前記複合樹脂中間体(A’’−2)とMTMSの縮合物(a3’−1)とが結合した複合樹脂中間体(A’−2)を含有する液1,000質量部(不揮発分50質量%)を得た。
【0142】
(実施例1:水性複合樹脂組成物(I)の製造)
攪拌機、温度計、滴下ロート、冷却管及び窒素ガス導入口を備えた反応容器に、数平均分子量2,000のポリテトラメチレングリコール(三菱化学株式会社製「PTMG−2000」)158質量部、及びイソホロンジイソシアネート(以下、「IPDI」と略記する。)66質量部を仕込んで100℃まで昇温し、同温度で1時間反応させた。次いで、温度を80℃に下げ、ジメチロールプロピオン酸(以下、「DMPA」と略記する。)13質量部、ネオペンチルグリコール(以下、「NPG」と略記する。)5質量部、及びメチルエチルケトン(以下、「MEK」と略記する。)121質量部を、前記反応容器中へ投入した後、更に80℃で5時間反応させた。次いで、温度を50℃に下げ、3−アミノプロピルトリエトキシシラン(以下、「APTES」と略記する。)30質量部、及びイソプロピルアルコール(以下、「IPA」と略記する。)285質量部を前記反応容器中へ投入し反応させることで、カルボキシル基と加水分解性シリル基とを有する数平均分子量が7,400のポリウレタン(a1−1)の有機溶剤溶液を製造した。
【0143】
上記で得られたポリウレタン(a1−1)の有機溶剤溶液に、前記複合樹脂中間体を含有する液(A’−1)158質量部及び3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン(以下、「GPMDES」と略記する。)30質量部を混合し、攪拌下80℃で3時間、加水分解縮合反応させることで、ポリウレタン(a1−1)が有する加水分解性シリル基と前記複合樹脂中間体(A’−1)が有する加水分解性シリル基とが結合した複合樹脂(I’)を含有する液を得た。
【0144】
上記で得られた複合樹脂(I’)を含有する液とトリエチルアミン(以下、「TEA」と略記する。)10質量部とを混合することで前記複合樹脂中のカルボキシル基を中和した中和物を得た後、該中和物と脱イオン水610質量部とを混合したものを、40〜1.3kPaの減圧下で、40〜60℃の条件で8時間蒸留し、生成したメタノールや有機溶媒及び水を除去することで、不揮発分が37.5質量%の水性複合樹脂組成物(I)の水分散液1,000質量部を得た。
【0145】
(実施例2:水性複合樹脂組成物(II)の製造)
攪拌機、温度計、滴下ロート、冷却管及び窒素ガス導入口を備えた反応容器に、数平均分子量2,000のポリテトラメチレングリコール(三菱化学株式会社製「PTMG−2000」)142質量部、IPDI 60質量部を仕込んで100℃まで昇温し、同温度で1時間反応させた。次いで、温度を80℃に下げ、DMPA 12質量部、NPG 4質量部、及びMEK 110質量部を、前記反応容器中へ投入した後、更に80℃で5時間反応させた。次いで、温度を50℃に下げ、APTES 27質量部、及びIPA 258質量部を前記反応容器中へ投入し反応させることで、カルボキシル基と加水分解性シリル基とを有する数平均分子量が7,400のポリウレタン(a1−2)の有機溶剤溶液を得た。
【0146】
上記で得られたポリウレタン(a1−2)の有機溶剤溶液に、合成例2で得られた複合樹脂中間体(A’−1)を含有する液209質量部、及びGPTES 34質量部を混合し、攪拌下80℃で5時間加水分解縮合反応させることで、ポリウレタン(a1−2)の有する加水分解性シリル基と前記複合樹脂中間体(A’−1)の有する加水分解性シリル基が有する加水分解性シリル基とが結合した複合樹脂(II’)を含有する液を得た。
【0147】
上記で得られた複合樹脂(II’)を含有する液とTEA 13質量部とを混合することで複合樹脂中のカルボキシル基を中和した中和物を得た後、該中和物と脱イオン水610質量部とを混合したものを、実施例1と同様の条件で蒸留することによって、不揮発分が37.5質量%の水性複合樹脂組成物(II)の水分散液1,000質量部を得た。
【0148】
(実施例3:水性複合樹脂組成物(III)の製造)
複合樹脂中間体(A’−1)209質量部の代わりに複合樹脂中間体(A’−2)216質量部を使用し、かつTEA 13質量部の代わりにTEA 7質量部を使用した以外は実施例2と同様の方法で、不揮発分が37.5質量%の水性複合樹脂組成物(III)1000質量部を得た。
【0149】
(実施例4:水性複合樹脂組成物(IV)の製造)
攪拌機、温度計、滴下ロート、冷却管及び窒素ガス導入口を備えた反応容器に、数平均分子量2,000のポリテトラメチレングリコール(三菱化学株式会社製「PTMG−2000」)122質量部、IPDI 51質量部を仕込んで100℃まで昇温し、同温度で1時間反応させた。次いで、温度を80℃に下げ、DMPA 10質量部、NPG 4質量部、及びMEK 94質量部を、前記反応容器中へ投入した後、更に80℃で5時間反応させた。次いで、温度を50℃に下げ、APTES 23質量部、及びIPA 221質量部を前記反応容器中へ投入し反応させることで、カルボキシル基と加水分解性シリル基とを有する数平均分子量が7,500のポリウレタン(a1−4)の有機溶剤溶液を得た。
【0150】
上記で得られたポリウレタン(a1−4)の有機溶剤溶液に、アクリル重合体(a2−1)の有機溶剤溶液162質量部及びGPTMS 28質量部を混合し、「A−3」〔堺化学(株)製のiso−プロピルアシッドホスフェート〕1.0質量部と脱イオン水20質量部との混合物を5分間で滴下し、攪拌下80℃で5時間加水分解縮合反応させ、次いで、前記メチルトリメトキシシランの縮合物(a3’−1)80質量部とを混合し、更に、脱イオン水14質量部を添加して同温度で16時間撹拌し、加水分解縮合反応させることで、複合樹脂(IV’)を含有する液を得た。
【0151】
上記で得られた複合樹脂(IV’)を含有する液とTEA 14質量部とを混合することで複合樹脂中のカルボキシル基を中和した中和物を得、次いで、該中和物と脱イオン水610質量部とを混合したものを、実施例1と同様の条件で蒸留することによって、不揮発分が37.0質量%の水性複合樹脂組成物(IV)1000質量部を得た。
【0152】
(実施例5:水性複合樹脂組成物(V)の調製)
GPTMS 28質量部の代わりにGPMDES 15質量部とGPTES 17質量部の混合物を使用した以外は実施例4と同様にして、不揮発分が37.5質量%の水性複合樹脂組成物(V)1000質量部を得た。
【0153】
(実施例6:水性複合樹脂組成物(VI)の調製)
GPTMS 28質量部の代わりにGPMDES 10質量部とGPTES 11質量部とGPTMS 9質量部の混合物を使用した以外は実施例4と同様にして、不揮発分が37.3質量%の水性複合樹脂組成物(VI)1000質量部を得た。
【0154】
(実施例7:水性複合樹脂組成物(VII)の調製)
攪拌機、温度計、滴下ロート、冷却管及び窒素ガス導入口を備えた反応容器に、ポリエステルポリオール 123質量部(「ネオペンチルグリコールと1,6−ヘキサンジオールとアジピン酸とを反応させて得られたポリエステルポリオール」水酸基当量1000g/当量)、IPDI 50質量部を仕込んで100℃まで昇温し、同温度で1時間反応させた。次いで、温度を80℃に下げ、DMPA 10質量部、NPG 4質量部、及びMEK 94質量部を前記反応容器中へ投入した後、更に80℃で5時間反応させた。次いで、温度を50℃に下げ、APTES 23質量部、及びIPA 221質量部を前記反応容器中へ投入し反応させることで、カルボキシル基と加水分解性シリル基とを有する数平均分子量が7900のポリウレタン(a1−7)の有機溶剤溶液を得た。
【0155】
上記で得られたポリウレタン(a1−7)の有機溶剤溶液に、前記複合樹脂中間体(A’−1)を含有する液279質量部及びGPTES 17質量部を混合し、攪拌下60℃で4時間加水分解縮合反応させることで、前記ポリウレタン(a1−7)の有する加水分解性シリル基と前記複合樹脂中間体(A’−1)の有する加水分解性シリル基が有する加水分解性シリル基とが結合した複合樹脂(VII’)を含有する液を得た。
【0156】
上記で得られた複合樹脂(VII’)を含有する液とTEA 14質量部とを混合することで複合樹脂中のカルボキシル基を中和した中和物を得、次いで、該中和物と脱イオン水610質量部とを混合したものを、実施例1と同様の条件で蒸留することによって、不揮発分が36.5質量%の水性複合樹脂組成物(VII)1000質量部を得た。
【0157】
(実施例8:水性複合樹脂組成物(VIII)の調製)
攪拌機、温度計、滴下ロート、冷却管及び窒素ガス導入口を備えた反応容器に、数平均分子量2000のポリテトラメチレングリコール(三菱化学株式会社製「PTMG−2000」) 61質量部、IPDI 26質量部を仕込んで100℃まで昇温し、同温度で1時間反応させた。次いで、温度を80℃に下げ、DMPA 5質量部、NPG 2質量部、及びMEK 47質量部を前記反応容器中へ投入した後、更に80℃で5時間反応させた。次いで、温度を50℃に下げ、APTES 12質量部、及びIPA 110質量部を前記反応容器中へ投入し反応させることで、カルボキシル基と加水分解性シリル基とを有する数平均分子量が7500のポリウレタン(a1−8)の有機溶剤溶液を得た。
【0158】
上記で得られたポリウレタン(a1−8)の有機溶剤溶液に、前記複合樹脂中間体(A’−1)を含有する液489質量部及びGPTES 30質量部を混合し、攪拌下50℃で8時間加水分解縮合反応させることで、前記ポリウレタン(VIII)の有する加水分解性シリル基と前記複合樹脂中間体(A’−1)の有する加水分解性シリル基とが結合した複合樹脂(VIII’)を含有する液を得た。
【0159】
上記で得られた前記複合樹脂(VIII’)を含有する液とTEA 16質量部とを混合することで複合樹脂中のカルボキシル基を中和した中和物を得、次いで、該中和物と脱イオン水610質量部とを混合したものを、実施例1と同様の条件で蒸留することによって、不揮発分が36.5質量%の水性複合樹脂組成物(VIII)1000質量部を得た。
【0160】
(実施例9:水性複合樹脂組成物(IX)の調製)
攪拌機、温度計、滴下ロート、冷却管及び窒素ガス導入口を備えた反応容器に、1,6−ヘキサンジオール骨格を有する数平均分子量2000のポリカーボネートポリオール(宇部興産株式会社製 UH−200) 61質量部、IPDI 26質量部を仕込んで100℃まで昇温し、同温度で3時間反応させた。次いで、温度を80℃に下げ、DMPA 5質量部、NPG 2質量部、及びMEK 47質量部を前記反応容器中へ投入した後、更に80℃で5時間反応させた。次いで、温度を50℃に下げ、APTES 12質量部、及びIPA 110質量部を前記反応容器中へ投入し反応させることで、カルボキシル基と加水分解性シリル基とを有する数平均分子量が7500のポリウレタン(a1−9)の有機溶剤溶液を得た。
【0161】
上記で得られたポリウレタン(a1−9)の有機溶剤溶液に、前記複合樹脂中間体(A’−1)を含有する液489質量部及びGPTES 30質量部を混合し、攪拌下50℃で8時間加水分解縮合反応させることで、前記ポリウレタン(a1−9)の有する加水分解性シリル基と前記複合樹脂中間体(A’−1)の有する加水分解性シリル基とが結合した複合樹脂(IX’)を含有する液を得た。
【0162】
上記で得られた複合樹脂(IX’)を含有する液とTEA 16質量部とを混合することで、複合樹脂(IX’)中のカルボキシル基を中和した中和物を得、次いで、該中和物と脱イオン水560質量部とを混合したものを、実施例1と同様の条件で蒸留することによって、不揮発分が37.5質量%の水性複合樹脂組成物(IX)1000質量部を得た。
【0163】
上記の実施例1〜9で得られた複合樹脂の[ポリシロキサン構造/複合樹脂]、[ビニル重合体(a2)構造/親水性基を有するポリウレタン(a1)構造]を、表1に示した。なお、[ポリシロキサン構造/複合樹脂]及び[ビニル重合体(a2)構造/親水性基を有するポリウレタン(a1)構造]は、複合樹脂の調製に使用する原料の仕込み割合に基づいて求めた。また、前記[ポリシロキサン構造/複合樹脂]の質量割合は、ポリシロキサン構造を形成する際に生成しうるメタノールやエタノール等の副生成物の生成を考慮し算出した。
【0164】
【表1】
【0165】
表1に記載の保存安定性は、各複合樹脂の水分散液の粘度(初期粘度)と、各複合樹脂の水分散液を50℃の環境下に30日間放置した後の粘度(経時粘度)とを測定し、経時粘度を初期粘度で除した値[経時粘度/初期粘度]で評価した。この値が概ね0.5〜3.0程度であれば、塗料などとして使用可能である。
【0166】
(実施例10:水性複合樹脂組成物(I)の塗膜評価)
実施例1で得られた水性複合樹脂組成物(I)を用いて、下記の塗膜評価を行った。
【0167】
[塗膜外観の評価]
上記で得られた水性複合樹脂組成物(I)を、株式会社エンジニアリングテストサービス製のクロメート処理されたアルミ板上に、硬化塗膜の膜厚が30μmとなるように塗装し、23℃の環境下で1週間乾燥させて硬化塗膜を得た。得られた硬化塗膜の作製直後の塗膜外観と、デューパネル光ウェザーメーター(スガ試験機株式会社製、光照射時:30W/m、70℃;湿潤時:湿度90%以上、50℃、光照射/湿潤サイクル=8時間/4時間)で1,000時間曝露を行なった後の塗膜外観とを目視で観察し、下記の基準で塗膜外観を評価した。
○:クラックの発生がないもの。
△:若干のクラックの発生がみられるもの。
×:クラックの発生があるもの。
【0168】
[密着性の評価]
上記で得られた水性複合樹脂組成物(I)を、ガラス(JIS 3202R)、未処理アルミニウム(A1050P)、またはポリエチレンテレフタレート(東レ株式会社「ルミラーT60」)の基材上に塗装し、硬化塗膜の膜厚が30μmとなるように塗装し、23℃の環境下で1週間乾燥させて硬化塗膜を得た。得られた各基材上の硬化塗膜について、JIS K−5600 碁盤目試験法に基づいて測定した。前記硬化塗膜の上にカッターで1mm幅の切込みを入れ碁盤目の数を100個とし、全ての碁盤目を覆うようにセロハンテープを貼り付け、すばやく引き剥がして付着して残っている碁盤目の数を数えることにより密着性を評価した。
【0169】
[鉛筆硬度の評価]
塗膜外観の評価に用いた硬化塗膜と同様のものについて、JIS K−5600 引っ掻き硬度(鉛筆法)試験法に基づいて測定した。前記硬化塗膜の上に鉛筆の先端を載せ、0.5〜1mm/sの速度で押す。その後、肉眼できず跡の有無を確認し、きず跡を生じなかった最も硬い鉛筆の硬度を鉛筆硬度とした。
【0170】
[耐溶剤性の評価]
塗膜外観の評価に用いた硬化塗膜と同様のものについて、エタノールを浸み込ませたフェルトで、硬化塗膜上を往復50回ラビングしたのちの硬化塗膜の状態を、指触及び目視により、下記の基準で耐溶剤性を評価した。
○:軟化及び光沢低下が認められない。
△:若干の軟化または光沢低下が認められる。
×:著しい軟化または光沢低下が認められる。
【0171】
[耐屈曲性の評価]
塗膜外観の評価に用いた硬化塗膜と同様のものについて、JIS K−5600 耐屈曲性試験法に基づいて評価した。マンドレルの直径は2mmを用いた。評価基準は下記の通りである。なお、この耐屈曲性の評価により、耐クラック性と基材追従性を併せて評価できる。
○:折り曲げ部分の塗膜表面にクラックが認められない。
△:折り曲げ部分の塗膜表面に若干のクラックが認められる。
×:折り曲げ部分の塗膜表面に著しいクラックが認められる。
【0172】
[耐候性の評価]
塗膜外観の評価に用いた硬化塗膜と同様のものについて、作製直後の硬化塗膜の鏡面反射率(光沢値)(%)と、前記硬化塗膜を、デューパネル光ウェザーメーター(スガ試験機株式会社製、光照射時:30W/m、70℃;湿潤時:湿度90%以上、50℃、光照射/湿潤サイクル=8時間/4時間)で1,000時間曝露した後の塗膜の鏡面反射率(光沢値)(%)の、曝露前の硬化塗膜の鏡面反射率(光沢値)に対する保持率(光沢保持率:%)〔(100×暴露後の塗膜の鏡面反射率)/(曝露前の硬化塗膜の鏡面反射率)〕で評価した。保持率の値が大きいほど、耐候性が良好であることを示す。
【0173】
[耐汚染性の評価]
塗膜外観の評価に用いた硬化塗膜と同様のものについて、大阪府高石市のDIC株式会社堺工場内において3か月間曝露を行なった。曝露試験後の未洗浄の塗膜と、曝露試験前の塗膜との色差(ΔE)を、コニカミノルタセンシング株式会社製「CM−3500d」を用いて評価した。前記色差(ΔE)が小さいほど、耐汚染性が良好であることを示す。
【0174】
[基材追従性の評価]
水性複合樹脂組成物(I)を、ポリプロピレンフィルム上に硬化塗膜の膜厚が200μmとなるように塗装し、140℃の環境下で5分間乾燥させた後、25℃の環境下で24時間乾燥させて硬化塗膜を得た。この硬化塗膜を基材のポリプロピレンフィルムから剥がし、硬化塗膜の引張伸度を測定し、基材追従性の評価とした。なお、引張伸度の測定条件は、下記の通りである。
測定機器:株式会社島津製作所製「オートグラフAGS−1kNG」
サンプル形状:10mm×70mm
チャック間:20mm
引張速度:300mm/分
測定雰囲気:22℃、60%RH
【0175】
(実施例11〜18:水性複合樹脂組成物(II)〜(IX)の塗膜評価)
水性複合樹脂組成物(II)〜(IX)を用いて、実施例1と同様の操作で各塗膜評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0176】
【表2】
【0177】
本発明の水性複合樹脂組成物である実施例10〜18のものは、曝露試験後も含めて塗膜外観は良好であり、基材との密着性にも優れていることが分かった。さらに、耐溶剤性、耐クラック性、耐候性、耐汚染性、かつ基材追従性にも優れていることが分かった。
【0178】
(比較合成例1:比較用水性複合樹脂組成物(R−1)の調製)
攪拌機、温度計、滴下ロート、冷却管及び窒素ガス導入口を備えた反応容器に、数平均分子量2,000のポリテトラメチレングリコール(三菱化学株式会社製「PTMG−2000」) 158質量部及びIPDI 66質量部を仕込んで100℃まで昇温し、同温度で1時間反応させた。
次いで、温度を80℃に下げ、DMPA 13質量部、NPG 5質量部、及びMEK 121質量部を、前記反応容器中へ投入した後、更に80℃で5時間反応させた。
次いで、温度を50℃に下げ、APTES 30質量部、及びIPA 285質量部を前記反応容器中へ投入し反応させることで、カルボキシル基と加水分解性シリル基とを有する数平均分子量が7,500のポリウレタン(r−1)の有機溶剤溶液を得た。
次いで、前記ポリウレタン(r−1)の有機溶剤溶液の全量と合成例2で得られた複合樹脂中間体(A’−1)を含有する液158質量部とを混合し、攪拌下80℃で1時間加水分解縮合反応させることで、前記ポリウレタン(r−1)の有する加水分解性シリル基と前記複合樹脂中間体(A’−1)の有する加水分解性シリル基とが結合した比較用複合樹脂(R’−1)を含有する液を得た。
次いで、前期した比較用複合樹脂(R’−1)を含有する液とTEA 12質量部とを混合することで前記比較用複合樹脂中のカルボキシル基を中和した中和物を得た後、該中和物と脱イオン水610質量部とを混合したものを、実施例1と同様の条件で蒸留することによって、不揮発分が35質量%の複合樹脂(R−1)の液1,000質量部を得た。
【0179】
(比較合成例2:比較用水性複合樹脂組成物(R−2)の調製)
攪拌機、温度計、滴下ロート、冷却管及び窒素ガス導入口を備えた反応容器に、数平均分子量2,000のポリテトラメチレングリコール(三菱化学株式会社製「PTMG−2000」) 122質量部、IPDI 51質量部を仕込んで100℃まで昇温し、同温度で1時間反応させた。
次いで、温度を80℃に下げ、DMPA 10質量部、NPG 4質量部、及びMEK 94質量部を、前記反応容器中へ投入した後、更に80℃で5時間反応させた。
次いで、温度を50℃に下げ、APTES 23質量部、IPA 221質量部を前記反応容器中へ投入し反応させることで、カルボキシル基と加水分解性シリル基とを有する数平均分子量が7,500のポリウレタン(r−2)の有機溶剤溶液を得た。
次いで、前記ポリウレタン(r−2)の有機溶剤溶液の全量と合成例2で得られた複合樹脂中間体(A’−1)を含有する液279質量部とを混合し、攪拌下80℃で1時間加水分解縮合反応させることで、前記ポリウレタン(r−2)の有する加水分解性シリル基と前記複合樹脂中間体(A’−1)の有する加水分解性シリル基とが結合した比較用複合樹脂(R’−2)を含有する液を得た。
次いで、前期した比較用複合樹脂(R’−2)を含有する液とTEA 14質量部とを混合することで、前記比較用複合樹脂中のカルボキシル基を中和した中和物を得た後、該中和物と脱イオン水610質量部とを混合したものを、実施例1と同様の条件で蒸留することによって、不揮発分が35質量%の水性複合樹脂組成物(R−2)1,000質量部を得た。
【0180】
(比較合成例3:比較用水性複合樹脂組成物(R−3)の調製)
攪拌機、温度計、滴下ロート、冷却管及び窒素ガス導入口を備えた反応容器に、数平均分子量2,000のポリテトラメチレングリコール(三菱化学株式会社製「PTMG−2000」) 61質量部、IPDI 26質量部を仕込んで100℃まで昇温し、同温度で1時間反応させた。
次いで、温度を80℃に下げ、DMPA 5質量部、NPG 2質量部、及びMEK 47質量部を、前記反応容器中へ投入した後、更に80℃で5時間反応させた。
次いで、温度を50℃に下げ、APTES 12質量部、IPA 110質量部を前記反応容器中へ投入し反応させることで、カルボキシル基と加水分解性シリル基とを有する数平均分子量が7,500のポリウレタン(r−3)の有機溶剤溶液を得た。
次いで、前記ポリウレタン(r−3)の有機溶剤溶液の全量と合成例2で得られた複合樹脂中間体(A’−1)を含有する液489質量部とを混合し、攪拌下80℃で1時間加水分解縮合反応させることで、前記ポリウレタン(r−3)の有する加水分解性シリル基と前記複合樹脂中間体(A’−1)の有する加水分解性シリル基とが結合した比較用複合樹脂(R’−3)を含有する液を得た。
次いで、前期した比較用複合樹脂(R’−3)を含有する液とTEA 16質量部とを混合することで、前記比較用複合樹脂中のカルボキシル基を中和した中和物を得た後、該中和物と脱イオン水560質量部とを混合したものを、実施例1と同様の条件で蒸留することによって、不揮発分が35質量%の水性複合樹脂組成物(R−3)1,000質量部を得た。
【0181】
上記の比較合成例1〜3で得られた比較用複合樹脂の[ポリシロキサン構造/複合樹脂]、[ビニル重合体構造/親水性基を有するポリウレタン構造]の質量割合等を、表3に示した。なお、[ポリシロキサン構造/複合樹脂]及び[ビニル重合体(a2)構造/親水性基を有するポリウレタン(a1)構造]は、複合樹脂の調製に使用する原料の仕込み割合に基づいて求めた。また、[ポリシロキサン構造/複合樹脂]の質量割合は、ポリシロキサン構造を形成する際に生成しうるメタノールやエタノール等の副生成物の生成を考慮し算出した。
【0182】
【表3】
【0183】
表3に記載の保存安定性は、表1に記載したものと同意である。
【0184】
(比較例1〜3)
表4に示した配合組成で水性複合樹脂組成物(R1)〜(R3)と硬化剤を混合し、2液硬化型水性複合樹脂組成物を得た後、実施例1と同様の操作で、各塗膜評価を行った。なお、表中の[ポリシロキサン構造/全複合樹脂]は、複合樹脂(A)、(B)及び比較複合樹脂(R)の合計量から求めたものである。
【0185】
【表4】
【0186】
比較例1は、[ポリシロキサン構造/全複合樹脂]=17/100の2液硬化型水性複合樹脂組成物の例だが、初期の基材追従性が低いことが分かった。
【0187】
比較例2は、[ポリシロキサン構造/全複合樹脂]=30/100の2液硬化型水性複合樹脂組成物の例だが、初期の基材追従性が低く、経時的に基材追従性が損なわれることが分かった。
【0188】
比較例3は、[ポリシロキサン構造/全複合樹脂]=53/100の2液硬化型水性複合樹脂組成物の例だが、初期の基材追従性が低く、経時的に基材追従性が非常に大きく損なわれることが分かった。