(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
上記ナトリウム含有物で被覆したCu−Ga合金粒中のGaの含有量が、当該Cu−Ga合金スパッタリングターゲット中のGaの含有量の30〜70%であることを特徴とする請求項1記載のCu−Ga合金スパッタリングターゲット。
上記ナトリウム化合物粒と上記ナトリウム含有物を除いた当該Cu−Ga合金スパッタリングターゲット中のGa濃度が10〜45質量%であることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項記載のCu−Ga合金スパッタリングターゲット。
【背景技術】
【0002】
近年、クリーンエネルギーの一つとして、太陽光発電が注目されている。主に、結晶系Siの太陽電池が使用されているが、供給面やコストの問題から、変換効率の高いCIGS(Cu−In−Ga−Se四元系合金)太陽電池が注目されている。
【0003】
CIGS太陽電池の基本構造は、ガラス基板の上に形成された裏面電極となるMo電極層と、このMo電極層の上に形成された光吸収層となるCIGS膜(Cu−In−Ga−Se膜、又はCu−In−Ga−S−Se膜)と、光吸収層の上に形成されたZnS、CdS等からなるバッファ層と、このバッファ層の上に形成された透明電極とを備える。このうち、CIGS膜は、I−III−VI族元素から構成されている。
【0004】
CIGS膜の形成方法としては、蒸着法が知られているが、より広い面積で均一な膜を得るためにスパッタリングにより作製された金属プリカーサ膜をセレン化する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
スパッタ法は、Cu−Ga合金スパッタリングターゲットとInターゲットを使用してスパッタすることにより、金属プリカーサ膜を作製し、これをセレン(Se)又は硫黄(S)雰囲気中で熱処理してCIGS膜を形成する方法である。
【0006】
CIGS膜を備える太陽電池では、ガラス基板にソーダライムガラスを用いると、ガラス基板からNa等のアルカリ金属が拡散して光吸収層に作用し、太陽電池の変換効率が高まることが知られている。
【0007】
しかしながら、ソーダライムガラス基板からのNa拡散は必ずしも均一ではないため、Na導入量の制御が困難という問題がある。太陽電池において、制御性よくNaを導入することは重要な技術課題となっている。
【0008】
光吸収層へ制御性よくNaを導入する方法としては、金属プリカーサ膜にアルカリ金属含有溶液を付着させてセレン化水素ガス雰囲気中で熱処理する方法(例えば、特許文献2参照。)が提案されている。しかしながら、特許文献2のNa導入方法は、スパッタ工程とセレン化工程の間に新たな工程を追加するため、管理が複雑化するという問題がある。
【0009】
また、金属Naを添加したCu−Ga合金スパッタリングターゲットを用いてNaを含んだ金属プリカーサ膜を形成し、セレン化/硫化する方法が提案されている(例えば、特許文献3参照。)。しかしながら、金属Naは、極めて反応性が高く、水分と接触すると反応して発火するため、ターゲット作製において、水を使用する平面研削や切断加工を実行することが困難という問題がある。
【0010】
更に、フッ化ナトリウムを添加したCu−Ga合金スパッタリングターゲットを用いて、Naを導入する方法が提案されている(例えば、特許文献4参照。)。しかしながら、フッ素は、VII族のハロゲン元素であって、CIGS膜を構成するI、III、VI族ではない元素であるため、不純物として光吸収層に悪影響を及ぼすことがある。
【0011】
特許文献4では、セレン化における熱処理工程でフッ素を除去することを提案しているが、それは熱処理工程に、セレン化の条件に加えてフッ素除去の条件も要求することであって、本来のセレン化条件を限定してしまうという問題がある。更に、特許文献4では、膜中にフッ素が大量に取り込まれないようにフッ化ナトリウムの添加量を制限している。このため、ナトリウムの添加量が制限されてしまう。
【0012】
また、フッ化ナトリウムを添加したCu−Ga合金スパッタリングターゲットは、スパッタ時にアーク放電が発生しやすいという問題がある。特許文献4では、フッ化ナトリウムの平均粒径を5μm以下にすることでアーク放電を抑制している。しかしながら、スパッタ条件によっては、5μm以下の小粒径であってもアーク放電が多発してしまうという問題がある。
【0013】
CIGS膜を構成するVI族元素(カルコゲン元素)とナトリウムの化合物としてNa
2SやNa
2Seを添加する方法が提案されている(例えば、特許文献5参照。)。しかしながら、Na
2S、Na
2Seは、強い腐食性のある物質なので取り扱いが困難という問題がある。更に、特許文献5は、蒸着法であってスパッタターゲットを使用していないので、Cu−Ga合金スパッタリングターゲットに適用することができない。
【0014】
また、特許文献6には、CIGS膜を構成するI、III及びVI族元素(カルコゲン元素)から構成されるCuInS
2とNaInS
2の粉末混合ターゲットを用いたスパッタ法によってNa添加したCIGS膜を製造する方法が実施例に記載されている。しかしながら、特許文献6の製造方法は、Cu−GaとInの金属プリカーサ膜をセレン化するCIGS膜の製造方法でないので、セレン化する製造方法には適用できないという問題がある。したがって、特許文献6に記載されている方法では、金属プリカーサ膜をセレン化する方法のように、より広い面積で均一な膜を形成することは難しい。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明を適用したCu−Ga合金スパッタリングターゲット及びその製造方法について詳細に説明する。なお、本発明は、特に限定がない限り、以下の詳細な説明に限定されるものではない。
【0023】
まず、Cu−Ga合金スパッタリングターゲット(以下、単にターゲットともいう。)と、生成されたスパッタ膜中のGa濃度との関係を簡単に説明する。本発明者らは、ナトリウム(Na)を含有したCu−Ga合金ターゲットをスパッタリングし、スパッタ膜中のガリウム(Ga)濃度を詳細に調べた結果、ターゲットのエロージョン領域に相対する位置の膜と、それ以外の位置の膜ではGa濃度が異なっており、そのGa濃度の変化はターゲット中のNa成分の存在形態に依存することを見出した。
【0024】
即ち、Na化合物粒がターゲット中に島状に存在する場合は、エロージョン領域直上の膜のGa濃度がそれ以外の位置の膜よりも高く、Na含有物がターゲット中のCu−Ga合金粒を被覆して存在する場合は、逆に、エロージョン領域直上の膜のGa濃度がそれ以外の位置の膜よりも低いことを見出した。そして、島状にNa化合物粒を含有させ、このNa化合物粒と、Na含有物で被覆したCu−Ga合金粒とを適度に混在させたターゲットにおいて、スパッタ膜のGa濃度がエロージョン領域の位置に関係なく均一になることを見出し、本発明に至った。
【0025】
ターゲットのエロージョン領域とは、スパッタリング時にターゲット中の元素がアルゴンガスよって叩き出されてターゲットが消耗した領域を指す。Ga濃度の変化は、ターゲット中のNaの存在形態により、ターゲットのエロージョン部分から放射状にスパッタ蒸発するGaの放出角度分布がNaの存在形態により変化するものと考えられる。
【0026】
以下に、本発明を適用したCu−Ga合金スパッタリングターゲットについて詳細に説明する。なお、本発明は、特に限定がない限り、以下の詳細な説明に限定されるものではない。
【0027】
<Cu−Ga合金スパッタリングターゲット>
先ず、Cu−Ga合金スパッタリングターゲットについて説明する。なお、Cu−Ga合金スパッタリングターゲットは、平面研削やボンディング等のターゲット仕上げ工程前のターゲット材(焼結体)の状態も含むものである。Cu−Ga合金スパッタリングターゲットは、後述するようにCu−Ga合金粉末を原料として粉末焼結法により製造することができる。
【0028】
Cu−Ga合金スパッタリングターゲットは、
図1に示すように、ターゲット中、即ちターゲットの表面及び内部にCu−Ga合金粒と、島状のナトリウム化合物粒(Na化合物粒)と、ナトリウム含有物(Na含有物)で被覆したCu−Ga合金粒が含有されている。なお、
図1中において、Cu−Ga合金粒を10で示し、ナトリウム化合物粒を20で示し、ナトリウム含有物で被覆したCu−Ga合金粒を30で示し、ナトリウム含有物を30a、Cu−Ga合金を30bで示す。
【0029】
[Cu−Ga合金粒]
Cu−Ga合金粒は、ガリウム(Ga)を10〜45質量%含有し、残部が銅(Cu)及び不可避不純物からなる。Cu−Ga合金粒は、ガリウムの割合が45質量%より多い場合、後に行うCu−Ga合金粉末を含む混合粉末を焼結する際に融点が低いガリウムが溶けて、一部に液相が発生し、均一な組織のCu−Ga合金スパッタリングターゲットを得ることができなくなる。したがって、Gaの濃度を10〜45質量%とすることによって、均一組成の高品質のCu−Ga合金スパッタリングターゲットとなる。
【0030】
[Na化合物粒]
Na化合物粒は、後に行うホットプレスによる焼結の温度よりも高い融点を有するものから選ばれる。Na化合物の融点が後に行う焼結の温度よりも低いと、溶融してしまい、ターゲット中で島状の形態を形成できなくなってしまうからである。
【0031】
具体的に、Na化合物粒としては、無水硫酸ナトリウムが好ましい。融点は884℃であって、後に行う焼結の温度よりも高いので、ターゲット中で島状の形態を形成することができる。
図2にNa化合物粒がターゲット中で島状に存在している状態の写真を示す。
図2で黒色の部分がNa化合物粒である。
【0032】
硫酸ナトリウムには、無水と水和物があるが、ターゲット中には無水の形態で存在する。ターゲット中の硫酸ナトリウムが無水であることは、熱重量分析装置(TG)にターゲット片を入れ、不活性ガス中で昇温しても水の離脱による重量減少が生じないことから確認することができる。硫酸ナトリウム水和物の粒子をターゲット中に含有させようとしても、ターゲット焼結工程の高温で脱水するので、水和物の形態でターゲット中に含有させることは難しい。
【0033】
ターゲット中のNa化合物粒の平均粒径は、1〜200μmであることが好ましい。平均粒径が200μmよりも大きい場合には、アーク放電が多発してスパッタ成膜が不安定になる。このような状態になると、スパッタ膜厚にスプラッシュ等の欠陥が生じたり、成膜速度が低下して膜厚が薄くなってしまう。また、平均粒径が200μmよりも大きい場合には、無水硫酸ナトリウム粒の分散が不均一になってしまい、スパッタ膜のNa濃度にばらつきが生じてしまう。
【0034】
Na化合物粒の平均粒径が1μmよりも小さい場合には、Na化合物粒が島状に孤立した分布状態でなく、粒子同士が互いに隣接して連続し繋がった状態で形成されてなる。このため、エロージョン領域直上のスパッタ膜のGa濃度が低くなってしまう。したがって、ターゲット中のNa化合物粒の平均粒径は、1〜200μmとすることが好ましい。
【0035】
ターゲット中のNa化合物粒の平均粒径は、ターゲット断面の顕微鏡又はEPMA画像から画像解析ソフトを使用して求めることができる。画像解析ソフトとしては、例えば、ImageJを使用することができる。即ち、Na化合物粒、例えば無水硫酸ナトリウム粒の色調や濃淡コントラストを持つ画素だけを抽出して、個々の粒子面積を円直径に換算した粒度分布を算出する。小径側から積算した粒子面積が全粒子面積の半分になる粒径を平均粒径とする。また、ターゲット断面の空隙率も同様に画像解析から求めることができる。
【0036】
[Na含有物で被覆したCu−Ga合金粒]
Na含有物で被覆したCu−Ga合金粒は、Na含有物でCu−Ga合金粒を被覆したものである。Na含有物は、Na化合物粒と同様に、Naと、Na以外の元素としてカルコゲン元素及び不可避不純物からなる。Na含有物は、
図1及び
図3に示すように、ターゲット中のCu−Ga合金粒の粒界に存在して、Cu−Ga合金粒を包囲するように被覆する。Na含有物は緻密な膜状の形態でもよいし、微細な粒子同士が互いに隣接して連続し繋がった状態であってもよい。
図3は、Na含有物がターゲット中のCu−Ga合金粒を被覆している写真を示す。
図3でCu−Ga合金粒の輪郭にNa含有物が存在しており、あたかもCu−Ga合金粒の輪郭線のように見えている。
【0037】
Na含有物で被覆したCu−Ga合金粒は、Cu−Ga合金粉末と、ナトリウム含有有機物粉末の混合粉末を加熱することで得られる。加熱によって有機成分が揮発するとともにCu−Ga合金粉末の表面がナトリウム含有物で被覆される。
【0038】
原料となるナトリウム含有有機物としては、具体的にはラウリル硫酸ナトリウムが好ましい。Cu−Ga合金粉末とラウリル硫酸ナトリウム粉末を混合し、この混合粉末を加熱すると、ラウリル硫酸ナトリウムの有機成分の揮発が起こり、Na含有物の無水硫酸ナトリウムが生成される。このNa含有物は、Cu−Ga合金粉の周囲に一様に付着して合金粉を被覆した状態を形成する。この粉末を大気中に放置すると、水分を吸って無水硫酸ナトリウムが硫酸ナトリウム水和物に変化することがあるが、後の焼結工程で水の離脱が起こり無水硫酸ナトリウムに戻る。
【0039】
ターゲット中のNa含有物で被覆したCu−Ga合金粒の被覆厚みは、0.1〜10μmが好ましい。被覆厚みが10μmよりも厚いと、被覆されたCu−Ga合金粒の配合が少なくなって、膜Ga濃度がばらついてしまう。被覆厚みが0.1μmよりも薄いとエロージョン領域直上のスパッタ膜のGa濃度が低くなってしまう。
【0040】
[Ga濃度、Na濃度]
Na化合物粒及びNa含有物を除いたターゲットのGa濃度が10〜45質量%であって、カルコゲン元素を除いたターゲットのNa濃度が0.1〜5質量%である。
【0041】
Ga濃度とNa濃度は、それぞれ下記の(1)式と(2)式で与えられる濃度とする。Cu含有量、Ga含有量、Na含有量は、原子吸光分析装置やICP(Inductively Coupled Plasma)発光分光分析装置、あるいはEPMA装置等によって測定することができる。
【0042】
Ga濃度={Ga含有量/(Cu含有量+Ga含有量)}×100 ・・・(1)式
Na濃度={Na含有量/(Cu含有量+Ga含有量)}×100 ・・・(2)式
【0043】
ターゲットは、Ga濃度が45質量%を上回ると、後に行う混合粉末をホットプレスにて焼結する工程で融点が低いガリウムが溶けて、一部に液相が発生し、均一な組織のターゲットとならない。また、Ga濃度が10〜45質量%の範囲を外れると光吸収層の特性が不適になる。
【0044】
Na濃度が0.1質量%よりも低いと、スパッタ膜中のNa濃度が不足するため、光吸収層を形成する場合、Naの光吸収層への拡散が不十分となり、太陽電池の変換効率が十分に高まらず、Na添加効果が得られなくなってしまう。Na濃度が5質量%よりも高いと、ターゲット強度が不足して製造中やスパッタ中にターゲットが割れたり、欠けたりしてしまう。
【0045】
[Na含有物で被覆したCu−Ga合金粒のGaの割合]
ターゲット中におけるNa含有物で被覆したCu−Ga合金粒のGaの割合は、30〜70%である。ここで、Gaの割合は、下記の(3)式に示す、Na含有物で被覆されたCu−Ga合金粒が含むGaの重量をターゲット全体に含まれるGaの重量で除した値とする。なお、Gaの割合は、後述の(4)式で求めた値を用いてもよい。
【0046】
Gaの割合={(Na含有物で被覆されたCu−Ga合金粒のGa含有量)/(ターゲット全体のGa含有量)}×100 ・・・(3)式
【0047】
Gaの割合が30%よりも小さい場合には、エロージョン領域直上の膜のGa濃度が高くなってしまう。70%よりも大きい場合には、エロージョン領域直上の膜のGa濃度が低くなってしまう。
【0048】
Na含有物で被覆されたCu−Ga合金粒中のGa含有量は、ターゲット断面のEPMA(Electron Probe MicroAnalyser)分析と画像解析ソフトを使用して求めることもできる。画像解析ソフトとしては、例えば、ImageJを使用することができる。即ち、EPMA画像からNa含有物で被覆されたCu−Ga合金粒を抽出し、EPMA分析にてこの合金粒のGa濃度を測定する。次に、ImageJを用いてEPMA画像内におけるこの合金粒の面積割合を求める。このGa濃度と面積割合の積は、Na含有物で被覆されたCu−Ga合金粒中のGa含有量に相当する。Na含有物で被覆されていないCu−Ga合金粒についても同様にしてGa濃度と面積割合の積を求める。二つの積の和はターゲット全体のGa含有量に相当するから、Na含有物で被覆されたCu−Ga合金粒の積と、二つの積の和の比率はGaの割合に等しい。
【0049】
したがって、Na含有物で被覆されたCu−Ga合金粒中のGaの割合は、下記の(4)式により求めることができる。
Gaの割合=〔(Na含有物で被覆されたCu−Ga合金粒のGa濃度×面積割合)/{(Na含有物で被覆されたCu−Ga合金粒のGa濃度×面積割合)+(Na含有物で被覆されていないCu−Ga合金粒のGa濃度×面積割合)}〕×100・・・(4)式
【0050】
また、(4)式の分母をターゲットの平均Ga濃度とした値もGaの割合に等しい。分母をターゲットの平均Ga濃度とした場合には、(5)式のようになる。
Gaの割合={(Na含有物で被覆されたCu−Ga合金粒のGa濃度×面積割合)/(ターゲットの平均Ga濃度)}×100・・・(5)式
【0051】
(5)式中のターゲットの平均Ga濃度は、ターゲットの異なる場所から1〜5gの小片を2〜5箇所サンプリングしてICP(Inductively coupled plasma)分析することで測定することができる。
【0052】
以上のように、Cu−Ga合金スパッタリングターゲットでは、Cu−Ga合金粒と、島状のナトリウム化合物粒と、ナトリウム含有物で被覆したCu−Ga合金粒を含有し、島状のナトリウム化合物粒が存在する場合、エロージョン領域直上の膜のGa濃度がエロージョン領域以外の位置の膜よりも高くなり、Na含有物がターゲット中のCu−Ga合金粒を被覆して存在する場合、逆に、エロージョン領域直上の膜のGa濃度がエロージョン以外の位置の膜よりも低くなることから、適度に混在させることによって、スパッタ膜のGa濃度がエロージョン領域の位置に関係なく均一になる。Cu−Ga合金スパッタリングターゲットでは、割れやアーク放電等の不具合が生じることなく、スパッタ膜にナトリウムを添加することができる。
【0053】
したがって、このCu−Ga合金スパッタリングターゲットで太陽電池の光吸収層を形成した場合には、Ga濃度が均一であり、スパッタの際にターゲットの割れや欠け、アーク放電等が発生せず、光吸収層にNaを制御よく拡散させることができる。
【0054】
<Cu−Ga合金スパッタリングターゲットの製造方法>
Cu−Ga合金スパッタリングターゲットは、Cu−Ga合金粉末とナトリウム化合物を混合したナトリウム化合物合金粉末(以下、合金粉末Aともいう。)と、Cu−Ga合金粉末とナトリウム含有有機物粉末の混合粉末を加熱して、Cu−Ga合金粉末の周囲をナトリウム含有物で被覆したナトリウム含有物被覆合金粉末(以下、合金粉末Bともいう。)を作製し、合金粉末Aと合金粉末Bの混合粉末をホットプレス焼結することで製造できる。このようにCu−Ga合金スパッタリングターゲットの製造方法では、アルカリ金属単体を使用することなく、アルカリ金属を含有するCu−Ga合金スパッタリングターゲットを製造することができる。
【0055】
[Cu−Ga合金粉末の製造方法]
先ず、Cu−Ga合金粉末の製造方法を説明する。Cu−Ga合金粉末は、原料としてCu粉末及びGaが用いられる。Cu粉末及びGaの純度は、光吸収層を形成した場合に光吸収層の特性に影響を与えないような純度が適宜選択される。
【0056】
Cu粉末は、例えば、電解法又はアトマイズ法により製造される電解Cu粉又はアトマイズCu粉を使用することができる。電解Cu粉は、硫酸銅溶液等の電解液中で電気分解により陰極に海綿状又は樹枝状の形状のCuを析出させて製造される。アトマイズCu粉は、ガスアトマイズ法、水アトマイズ法、遠心アトマイズ法、メルトエクストラクション法等により球状又は不定形の形状のCu粉末が製造される。なお、Cu粉末は、これらの方法以外で製造されたものを使用してもよい。
【0057】
Gaは、融点が低い金属(融点:29.78℃)であり、加熱により容易に融解する。融解したGaは、Cu粉末を被覆して二元系合金化する。Gaの形状には、制限はないが、小片であると秤量が容易である。小片は、Gaを室温近傍で溶解して鋳造し、鋳造物を砕いて得ることができる。
【0058】
原料となるCu−Ga合金粉末は、ガリウム(Ga)を10〜45質量%含有し、残部が銅(Cu)及び不可避不純物からなり、平均粒径が1〜200μm程度であることが好ましい。Cu−Ga合金粉末は、ガスアトマイズ法、水アトマイズ法、鋳塊粉砕法等で製造したものを使用できる。また、Cu粉末とGaとを加熱しながら混合して直接にCu−Ga合金粉末を製造したものを使用してもよい。
【0059】
Cu−Ga合金粉末は、ガリウムの割合が45質量%を上回る場合、上述したように、焼結工程において融点が低いガリウムが溶けて、一部に液相が発生し、均一な組織のスパッタリングターゲットを得ることができなくなる。
【0060】
Cu−Ga合金粉末の平均粒径が1μmより小さい場合には、混合粉末を焼結する工程で黒鉛型に混合粉末を充填するが、黒鉛型の隙間から粉末が漏れやすくなり適当ではない。一方、平均粒径が200μmより大きい場合には、混合粉末を焼結しても高密度の焼結体が得られない状態となる。したがって、Cu−Ga合金粉末の平均粒径は、1μm〜200μmであることが好ましい。
【0061】
[Cu−Ga合金粉末とナトリウム化合物を混合した合金粉末Aの製造方法]
上述のCu−Ga合金粉末とナトリウム(Na)化合物を混合した合金粉末Aの製造方法について説明する。
【0062】
Na化合物としては、酸化ナトリウム、過酸化ナトリウム、硫化ナトリウム、セレン化ナトリウム、硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、過硫酸ナトリウム、亜セレン酸ナトリウム、亜テルル酸ナトリウム等の無機化合物である。
【0063】
このNa化合物の粉末は、平均粒径1〜200μmであることが好ましい。Na化合物の粉末の平均粒径が200μmよりも大きい場合には、Cu−Ga合金粉末と均質に混合することができない。Na化合物の平均粒径が1μmよりも小さい場合には、粉末が舞い上がりやすくなってターゲット製造工程でハンドリングに特別な注意が必要となってコストが高くなってしまう。
【0064】
上述した原料のCu−Ga合金粉末とNa化合物の粉末とを、Cu−Ga合金スパッタリングターゲットに含有されるNaの濃度が所定の濃度となるように、混合して混合粉末を作製する。この混合には、ボールミル、2軸遊星攪拌機、V型混合機、3次元混合機、タンブラーミキサー等を使用できる。
【0065】
[Cu−Ga合金粉末の周囲をナトリウム含有物で被覆した合金粉末Bの製造方法]
次に、Cu−Ga合金粉末の周囲をナトリウム含有物で被覆した合金粉末Bの製造方法について説明する。
【0066】
まず、ナトリウム含有有機物粉末と上述したCu−Ga合金粉末を混合する。ナトリウム含有有機物としては、具体的に脂肪酸塩の粉末やC、H、O、S、Naなどを成分とする、アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシレンエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルフォン酸塩等の粉末を挙げることができる。より具体的にはラウリル硫酸ナトリウムが好ましい。この混合には、ボールミル、2軸遊星攪拌機、V型混合機、3次元混合機、タンブラーミキサー等を使用できる。
【0067】
この混合粉末を真空又は不活性雰囲気中にて300〜600℃で加熱する。この加熱工程により、有機成分が揮発して減量するとともに、Cu−Ga合金粉末の周囲がナトリウム含有物で被覆される。即ち、加熱により、脂肪酸塩やアルキル硫酸エステル塩等のナトリウ含有有機物が溶融してCu−Ga合金粉末の周囲に付着し始める。さらに熱分解と有機成分の揮発が生じ、ナトリウム含有物で被覆されたCu−Ga合金粉末が形成される。Cu−Ga合金粉末とナトリウム含有有機物粉末を混合しながら加熱してもよい。ナトリウム含有物は、ナトリウム含有有機物が溶融・熱分解したものであるが、後の焼結工程でさらに熱分解やCu−Ga合金との反応を生じて変性することもある。
【0068】
例えば、ラウリル硫酸ナトリウムは、加熱中に融点206℃にて溶融し、液状になってCu−Ga合金粉末の周囲に付着する。さらに加熱温度が上がると熱分解と有機成分の揮発が起こり、ナトリウム含有物がCu−Ga合金粉末の周囲を被覆する。
【0069】
不活性雰囲気としては、アルゴンガス、窒素ガスまたはそれらの混合ガスなどを使用できる。
【0070】
加熱温度は、300〜600℃であり、300℃よりも低いと有機成分が多量に残留し、ターゲット強度が低下して割れや欠けが生じやすくなってしまう。また、加熱温度が600℃よりも高いとCu−Ga合金粉末同士が焼結してしまい、粉砕して粉末に戻す工程を追加しなければならなくなってしまう。
【0071】
[Cu−Ga合金粉末とNa化合物を混合した合金粉末Aと、Cu−Ga合金粉末の周囲をナトリウム含有物で被覆した合金粉末Bの混合]
【0072】
上述したCu−Ga合金粉末とNa化合物を混合した合金粉末Aと、Cu−Ga合金粉末の周囲をナトリウム含有物で被覆した合金粉末Bを混合して混合粉末を得る。合金粉末AとBの重量は、前述したGaの割合が30〜70%になるように決定する。この混合には、ボールミル、2軸遊星攪拌機、V型混合機、3次元混合機、タンブラーミキサー等を使用できる。
【0073】
[ホットプレス焼結]
次に、合金粉末Aと合金粉末Bとを混合した混合粉末をホットプレス装置にて焼結を行い、Cu−Ga合金粒と、島状のナトリウム化合物粒と、ナトリウム含有物で被覆したCu−Ga合金粒とからなる焼結体を作製する。
【0074】
ホットプレス装置による焼結は、真空又は不活性雰囲気中で、温度300〜880℃、圧力5〜50MPaの条件で行うことが好ましい。このような条件で焼結を行うことにより、空孔の少ない緻密な焼結体を製造することができる。例えば、合金粉末AがCu−Ga合金粉末と、硫酸ナトリウム水和物とからなり、合金粉末Bが硫酸ナトリウム水和物で被覆したCu−Ga合金粉末からなる場合には、焼結により、合金粉末A中の硫酸ナトリウムから水が離脱し、島状の無水硫酸ナトリウム粒を形成し、合金粉末B中の硫酸ナトリウムから水が離脱し、無水硫酸ナトリウムで被覆したCu−Ga合金粒を形成する。
【0075】
焼結の温度が300℃よりも低い場合には、焼結が進まず空隙の多い焼結体になってしまう。空隙が多いと、機械強度が低下して割れや欠けが生じやすくなる。焼結の温度が880℃よりも高い場合には、硫酸ナトリウムの融点(884℃)に近い高温なので、硫酸ナトリウムが融解したり分解したりして焼結体が割れたり欠けたりしてしまう。
【0076】
焼結の圧力が5MPaよりも小さい場合には、空隙の多い焼結体になってしまう。焼結の圧力が50MPaよりも高い場合には、ホットプレス装置の黒鉛型が割れやすくなってしまう。Cu−Ga合金粉末にCu粉末とGaとを加熱しながら混合して直接に合金粉末を製造したものを使用した場合は、ホットプレス装置内で圧力をかけない状態(0MPa)で300〜880℃の温度で合金粉末を熱処理してから5〜50MPaの圧力をかけてもよい。熱処理をすることによって、Gaの液相が出現することをより抑制できる。ホットプレス装置内で圧力をかけない状態(0MPa)とは、ホットプレス装置の上パンチまたは下パンチによる圧力をかけない状態である。
【0077】
最後に、得られた焼結体を機械加工し、バッキングプレートへボンディングする。以上の工程により、Cu−Ga合金スパッタリングターゲットの製造方法では、Cu−Ga合金粒と、島状のナトリウム化合物粒と、ナトリウム含有物で被覆したCu−Ga合金粒とからなるCu−Ga合金スパッタリングターゲットを得ることができる。
【0078】
以上のようなCu−Ga合金スパッタリングターゲットの製造方法は、Cu−Ga合金粉末とNa化合物を混合した合金粉末Aと、Cu−Ga合金粉末の周囲をナトリウム含有物で被覆した合金粉末Bを混合して、ホットプレス装置にて所定の温度、圧力条件の下で焼結することによって、Cu−Ga合金粒と、島状のナトリウム化合物粒と、ナトリウム含有物で被覆したCu−Ga合金粒とからなるCu−Ga合金スパッタリングターゲットを製造することができる。また、このCu−Ga合金スパッタリングターゲットの製造方法では、硫酸ナトリウム等の化合物、およびナトリウム含有有機物を用いていることによって、金属Na単体よりも取り扱いが容易である。
【0079】
また、このCu−Ga合金スパッタリングターゲットの製造方法では、金属Na単体を用いていないため、機械加工の際に水分と接触しても発熱することなく、ターゲットにアルカリ金属を容易に含有させることができる。
【0080】
このCu−Ga合金スパッタリングターゲットの製造方法により得られたCu−Ga合金スパッタリングターゲットは、Cu−Ga合金粒と、島状のナトリウム化合物粒と、ナトリウム含有物で被覆したCu−Ga合金粒とからなることによって、エロージョンからスパッタ蒸発するスパッタ膜のGa濃度がエロージョン位置に関係なく一定になって、均一なGa濃度分布のスパッタ膜を製造することができる。
【実施例】
【0081】
以下、本発明を適用した具体的な実施例について説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0082】
(実施例1)
実施例1では、先ず、Cu−Ga合金粉末とナトリウム化合物を混合した合金粉末Aを作製するために、平均粒径100μmのCu−30質量%Ga合金粉末及び平均粒径21μmの無水硫酸ナトリウム粉末(純度99.0%以上)を用意した。Cu−Ga合金粉末は、Cu粉末とGaとをAr中で200℃に加熱しながら混合して直接に合金粉末を作製したものである。
【0083】
平均粒径100μmのCu−30質量%Ga合金粉末4850gと無水硫酸ナトリウム粉末150gを、ポリエチレン製5L容器に直径φ10mmジルコニアボール5kgと共に投入して、2時間ボールミル混合を行って合金粉末A1を作製した。この合金粉末A1のNa仕込み濃度は1.0質量%である。
【0084】
次に、Cu−Ga合金粉末の周囲をナトリウム含有物で被覆した合金粉末B1を作製するために、平均粒径100μmのCu−30質量%Ga合金粉末及びラウリル硫酸ナトリウム粉末(純度97%以上)を用意した。Cu−Ga合金粉末は、Cu粉末とGaとをAr中で200℃に加熱しながら混合して直接に合金粉末を作製したものである。
【0085】
ラウリル硫酸ナトリウム粉末555gとCu−30質量%Ga合金粉末4445gを、ポリエチレン製5L容器に投入して、3次元混合機に取り付け2時間混合を行った。この混合粉末を窒素ガス中で500℃、5時間加熱して、合金粉末B1を作製した。この合金粉末B1のNa仕込み濃度は1.0質量%である。
【0086】
次に、合金粉末A1を500g、合金粉末B1を500g取り、ポリエチレン製1L容器に直径φ10mmジルコニアボール1kgと共に投入して、1時間ボールミル混合した。この混合粉末を、直径φ152mmのホットプレス用黒鉛型に投入し、プレス圧力をかけない状態で真空中800℃1時間の無負荷加熱を行った後、引き続いて圧力30MPa、温度800℃で1時間ホットプレス焼結を行って直径φ152mmの焼結体を作製した。焼結体には、割れや欠けがなかった。
【0087】
作製した焼結体の異なる位置から2gの小片を5個サンプリングしてICP(Inductively Coupled Plasma)分析し、Cu含有量、Ga含有量から求めた平均Ga濃度は30質量%であった。またNa含有量から求めたNa濃度は1.0質量%であった。
【0088】
作製した焼結体を油中で研磨し、断面組織をEPMA観察したところ、焼結体中に、Na含有物で被覆されたCu−Ga合金粒と、被覆のないCu−Ga合金粒及び島状に孤立した無水硫酸ナトリウム粒が存在していた。EPMA画像の中のNa含有物で被覆されたCu−Ga合金粒すべてをEPMA分析したところGa濃度は30質量%であった。また、EPMA画像の中のNa含有物で被覆されたすべてのCu−Ga合金粒の面積割合を、画像解析ソフトImageJを使用して求めたところ50%であった。Gaの割合を前述した式(5)を用いて求めたところ50%であった。
【0089】
また無水硫酸ナトリウムの平均粒径は、画像解析ソフトImageJを使用して求めたところ20μmであった。焼結体の空隙率は、画像解析ソフトImageJを使用して求めたところ0.01面積%未満であり、緻密であるとわかった。焼結体から小片を取り出し、熱重量分析装置(TG−DTA2000SA、ブルーカー社製)で分析したところ、重量減少は0.01質量%未満であったことから、硫酸ナトリウムは無水の状態で含有されているとわかった。
【0090】
そして、このφ152mm焼結体をCu製バッキングプレートに接合してターゲットを作製し、スパッタ装置(SH−450アルバック社製)に取り付けた。この装置はターゲット中心から半径40mmの位置にエロージョン最深部がある。スパッタ電源はDC電源(MDX1.5K、アドバンスドテクノロジー社製)を用いた。ターゲット直上30mmの高さの位置に、25×200mmのNaフリーガラス基板を固定した。到達真空度5×10
−4Pa、Arガス圧0.5Paの条件で基板を静止したまま、DC500Wの条件で5分間スパッタ成膜した。ガラス基板を取り出してスパッタ膜をICP分析した。その結果、ターゲット直上位置とエロージョン最深部直上位置のスパッタ膜のGa濃度の差は0.0質量%であって、スパッタ膜のGa濃度は均一であった。またNa濃度は0.6質量%であった。
【0091】
また、ガラス基板を取り付けないで、DC500W、1時間のスパッタを行い、マイクロアークモニター(アドバンスドテクノロジー社製)を用いてアークを計測した。通常、スパッタ開始直後は、ターゲット面の加工汚れ等の影響でアークが発生するので、スパッタ開始5分間のアークはカウントしていない。その結果、1分間あたりのアーク回数は0.0回/分と極めて少なかった。
【0092】
(実施例2)
実施例2では、合金粉末A1を300g、合金粉末B1を700g取って、ボールミル混合した以外は実施例1と同様にしてホットプレス焼結体を作製した。焼結体に割れや欠けは生じなかった。焼結体中には、Na含有物で被覆されたCu−Ga合金粒と、被覆のないCu−Ga合金粒および島状に孤立した無水硫酸ナトリウム粒が存在していた。
【0093】
焼結体のNa濃度は1.0質量%であった。実施例1と同様にして求めた焼結体のGaの割合は70%であった。空隙率は0.01面積%未満であり緻密であった。焼結体中に島状に孤立して分散している硫酸ナトリウム粒の平均粒径は22μmであった。焼結体の熱分析から重量減は0.01質量%未満であったので硫酸ナトリウムは無水であった。この焼結体からターゲットを作製し、実施例1と同様にスパッタを実施した結果、ターゲット直上位置とエロージョン最深部直上位置のスパッタ膜のGa濃度の差は−0.6質量%であって、スパッタ膜のGa濃度は均一であった。またNa濃度は0.6質量%であった。1分間あたりのアーク回数は0.0回/分と極めて少なかった。
【0094】
(実施例3)
実施例3では、合金粉末A1を700g、合金粉末B1を300g取って、ボールミル混合した以外は実施例1と同様にしてホットプレス焼結体を作製した。焼結体に割れや欠けは生じなかった。焼結体中には、Na含有物で被覆されたCu−Ga合金粒と、被覆のないCu−Ga合金粒および島状に孤立した無水硫酸ナトリウム粒が存在していた。
【0095】
焼結体のNa濃度は1.0質量%であった。実施例1と同様にして求めた焼結体のGaの割合は30%であった。空隙率は0.01面積%未満であり緻密であった。焼結体中に島状に孤立して分散している硫酸ナトリウム粒の平均粒径は22μmであった。焼結体の熱分析から重量減は0.01質量%未満であったので硫酸ナトリウムは無水であった。この焼結体からターゲットを作製し、実施例1と同様にスパッタを実施した結果、ターゲット直上位置とエロージョン最深部直上位置のスパッタ膜のGa濃度の差は0.6質量%であって、スパッタ膜のGa濃度は均一であった。またNa濃度は0.6質量%であった。1分間あたりのアーク回数は0.0回/分と極めて少なかった。
【0096】
(実施例4)
実施例4では、平均粒径100μmのCu−35質量%Ga合金粉末を用いた合金粉末A2と、平均粒径100μmのCu−25質量%Ga合金粉末とラウリル硫酸ナトリウム粉末の混合粉末をアルゴン中で加熱した合金粉末B2を用い、ホットプレス温度を700℃とした以外は実施例1と同様にしてホットプレス焼結体を作製した。焼結体に割れや欠けは生じなかった。焼結体中には、Na含有物で被覆されたCu−Ga合金粒と、被覆のないCu−Ga合金粒および島状に孤立した無水硫酸ナトリウム粒が存在していた。
【0097】
焼結体のNa濃度は1.0質量%であった。実施例1と同様にして求めた焼結体のGaの割合は41%であった。空隙率は0.01面積%未満であり緻密であった。焼結体中に島状に孤立して分散している硫酸ナトリウム粒の平均粒径は22μmであった。焼結体の熱分析から重量減は0.01質量%未満であったので硫酸ナトリウムは無水であった。この焼結体からターゲットを作製し、実施例1と同様にスパッタを実施した結果、ターゲット直上位置とエロージョン最深部直上位置のスパッタ膜のGa濃度の差は0.3質量%であって、スパッタ膜のGa濃度は均一であった。またNa濃度は0.6質量%であった。1分間あたりのアーク回数は0.0回/分と極めて少なかった。
【0098】
(実施例5)
実施例5では、平均粒径100μmのCu−10質量%Ga合金粉末を用いた合金粉末A3と、平均粒径100μmのCu−10質量%Ga合金粉末とラウリル硫酸ナトリウム粉末をボールミル混合して加熱した合金粉末B3を用いた以外は実施例1と同様にしてホットプレス焼結体を作製した。焼結体に割れや欠けは生じなかった。焼結体中には、Na含有物で被覆されたCu−Ga合金粒と、被覆のないCu−Ga合金粒および島状に孤立した無水硫酸ナトリウム粒が存在していた。
【0099】
焼結体のNa濃度は1.0質量%であった。実施例1と同様にして求めた焼結体のGaの割合は50%であった。空隙率は0.01面積%未満であり緻密であった。焼結体中に島状に孤立して分散している硫酸ナトリウム粒の平均粒径は22μmであった。焼結体の熱分析から重量減は0.01質量%未満であったので硫酸ナトリウムは無水であった。この焼結体からターゲットを作製し、実施例1と同様にスパッタを実施した結果、ターゲット直上位置とエロージョン最深部直上位置のスパッタ膜のGa濃度の差は0.0質量%であって、スパッタ膜のGa濃度は均一であった。またNa濃度は0.6質量%であった。1分間あたりのアーク回数は0.0回/分と極めて少なかった。
【0100】
(実施例6)
実施例6では、平均粒径100μmのCu−40質量%Ga合金粉末を用いた合金粉末A4と、平均粒径100μmのCu−40質量%Ga合金粉末とラウリル硫酸ナトリウム粉末をボールミル混合して300℃で10時間加熱した合金粉末B4を用い、ホットプレス温度を300℃とした以外は実施例1と同様にしてホットプレス焼結体を作製した。焼結体に割れや欠けは生じなかった。焼結体中には、Na含有物で被覆されたCu−Ga合金粒と、被覆のないCu−Ga合金粒および島状に孤立した無水硫酸ナトリウム粒が存在していた。
【0101】
焼結体のNa濃度は1.0質量%であった。実施例1と同様にして求めた焼結体のGaの割合は50%であった。空隙率は0.01面積%未満であり緻密であった。焼結体中に島状に孤立して分散している硫酸ナトリウム粒の平均粒径は22μmであった。焼結体の熱分析から重量減は0.01質量%未満であったので硫酸ナトリウムは無水であった。この焼結体からターゲットを作製し、実施例1と同様にスパッタを実施した結果、ターゲット直上位置とエロージョン最深部直上位置のスパッタ膜のGa濃度の差は0.0質量%であって、スパッタ膜のGa濃度は均一であった。またNa濃度は0.6質量%であった。1分間あたりのアーク回数は0.0回/分と極めて少なかった。
【0102】
(実施例7)
実施例7では、平均粒径100μmのCu−30質量%Ga合金粉末4984gと無水硫酸ナトリウム粉末16gをボールミル混合した合金粉末A5と、平均粒径100μmのCu−30質量%Ga合金粉末4938gとラウリル硫酸ナトリウム粉末62gをボールミル混合して加熱した合金粉末B5を用いた以外は実施例1と同様にしてホットプレス焼結体を作製した。焼結体に割れや欠けは生じなかった。焼結体中には、Na含有物で被覆されたCu−Ga合金粒と、被覆のないCu−Ga合金粒および島状に孤立した無水硫酸ナトリウム粒が存在していた。
【0103】
焼結体のNa濃度は0.1質量%であった。実施例1と同様にして求めた焼結体のGaの割合は50%であった。空隙率は0.01面積%未満であり緻密であった。焼結体中に島状に孤立して分散している硫酸ナトリウム粒の平均粒径は22μmであった。焼結体の熱分析から重量減は0.01質量%未満であったので硫酸ナトリウムは無水であった。この焼結体からターゲットを作製し、実施例1と同様にスパッタを実施した結果、ターゲット直上位置とエロージョン最深部直上位置のスパッタ膜のGa濃度の差は0.0質量%であって、スパッタ膜のGa濃度は均一であった。またNa濃度は0.1質量%であった。1分間あたりのアーク回数は0.0回/分と極めて少なかった。
【0104】
(実施例8)
実施例8では、平均粒径100μmのCu−30質量%Ga合金粉末4332gと無水硫酸ナトリウム粉末668gをタンブラーミキサーで4時間混合した合金粉末A6と、平均粒径100μmのCu−30質量%Ga合金粉末3080gとラウリル硫酸ナトリウム粉末1920gをボールミル混合して加熱した合金粉末B6を用いた以外は実施例1と同様にしてホットプレス焼結体を作製した。焼結体に割れや欠けは生じなかった。焼結体中には、Na含有物で被覆されたCu−Ga合金粒と、被覆のないCu−Ga合金粒および島状に孤立した無水硫酸ナトリウム粒が存在していた。
【0105】
焼結体のNa濃度は5.0質量%であった。実施例1と同様にして求めた焼結体のGaの割合は50%であった。空隙率は0.01面積%未満であり緻密であった。焼結体中に島状に孤立して分散している硫酸ナトリウム粒の平均粒径は22μmであった。焼結体の熱分析から重量減は0.01質量%未満であったので硫酸ナトリウムは無水であった。この焼結体からターゲットを作製し、実施例1と同様にスパッタを実施した結果、ターゲット直上位置とエロージョン最深部直上位置のスパッタ膜のGa濃度の差は0.0質量%であって、スパッタ膜のGa濃度は均一であった。またNa濃度は3.0質量%であった。1分間あたりのアーク回数は0.0回/分と極めて少なかった。
【0106】
(実施例9)
実施例9では、平均粒径1μmの無水硫酸ナトリウム粉末を用いた合金粉末A7を用いた以外は実施例1と同様にしてホットプレス焼結体を作製した。焼結体に割れや欠けは生じなかった。焼結体中には、Na含有物で被覆されたCu−Ga合金粒と、被覆のないCu−Ga合金粒および島状に孤立した無水硫酸ナトリウム粒が存在していた。
【0107】
焼結体のNa濃度は1.0質量%であった。実施例1と同様にして求めた焼結体のGaの割合は50%であった。空隙率は0.01面積%未満であり緻密であった。焼結体中に島状に孤立して分散している硫酸ナトリウム粒の平均粒径は22μmであった。焼結体の熱分析から重量減は0.01質量%未満であったので硫酸ナトリウムは無水であった。この焼結体からターゲットを作製し、実施例1と同様にスパッタを実施した結果、ターゲット直上位置とエロージョン最深部直上位置のスパッタ膜のGa濃度の差は0.0質量%であって、スパッタ膜のGa濃度は均一であった。またNa濃度は0.6質量%であった。1分間あたりのアーク回数は0.0回/分と極めて少なかった。
【0108】
(実施例10)
実施例10では、平均粒径200μmの無水硫酸ナトリウム粉末を用いた合金粉末A8を300gと、合金粉末B1を700gをボールミル混合した以外は実施例1と同様にしてホットプレス焼結体を作製した。焼結体に割れや欠けは生じなかった。焼結体中には、Na含有物で被覆されたCu−Ga合金粒と、被覆のないCu−Ga合金粒および島状に孤立した無水硫酸ナトリウム粒が存在していた。
【0109】
焼結体のNa濃度は1.0質量%であった。実施例1と同様にして求めた焼結体のGaの割合は70%であった。空隙率は0.01面積%未満であり緻密であった。焼結体中に島状に孤立して分散している硫酸ナトリウム粒の平均粒径は22μmであった。焼結体の熱分析から重量減は0.01質量%未満であったので硫酸ナトリウムは無水であった。この焼結体からターゲットを作製し、実施例1と同様にスパッタを実施した結果、ターゲット直上位置とエロージョン最深部直上位置のスパッタ膜のGa濃度の差は−0.6質量%であって、スパッタ膜のGa濃度は均一であった。またNa濃度は0.6質量%であった。1分間あたりのアーク回数は0.0回/分と極めて少なかった。
【0110】
(比較例1)
比較例1では、合金粉末Bを用いず、合金粉末A1のみ1000g用いてホットプレス焼結した以外は、実施例1と同様にして焼結体を作製した。焼結体に割れや欠けは生じなかった。焼結体中には、Cu−Ga合金粒と島状に孤立した無水硫酸ナトリウム粒が存在しているが、Na含有物で被覆されたCu−Ga合金粒は存在していない。したがって、Gaの割合は0%である。
【0111】
焼結体のNa濃度は1.0質量%であった。実施例1と同様にして求めた焼結体の空隙率は0.01面積%未満であり緻密であった。島状に孤立して分散している硫酸ナトリウム粒の平均粒径は22μmであった。焼結体の熱分析から重量減は0.01質量%未満であったので硫酸ナトリウムは無水であった。この焼結体からターゲットを作製し、実施例1と同様にスパッタを実施した結果、ターゲット直上位置とエロージョン最深部直上位置のスパッタ膜のGa濃度の差は1.6質量%であって、スパッタ膜のGa濃度は不均一であった。またNa濃度は0.6質量%であった。1分間あたりのアーク回数は0.0回/分と極めて少なかった。
【0112】
(比較例2)
比較例2では、合金粉末A1を800g、合金粉末B1を200g取って、ボールミル混合した以外は実施例1と同様にしてホットプレス焼結体を作製した。焼結体に割れや欠けは生じなかった。焼結体中には、Na含有物で被覆されたCu−Ga合金粒と、被覆のないCu−Ga合金粒および島状に孤立した無水硫酸ナトリウム粒が存在していた。
【0113】
焼結体のNa濃度は1.0質量%であった。実施例1と同様にして求めた焼結体のGaの割合は20%であった。空隙率は0.01面積%未満であり緻密であった。焼結体中に島状に孤立して分散している硫酸ナトリウム粒の平均粒径は22μmであった。焼結体の熱分析から重量減は0.01質量%未満であったので硫酸ナトリウムは無水であった。この焼結体からターゲットを作製し、実施例1と同様にスパッタを実施した結果、ターゲット直上位置とエロージョン最深部直上位置のスパッタ膜のGa濃度の差は1.0質量%であって、スパッタ膜のGa濃度は不均一であった。またNa濃度は0.6質量%であった。1分間あたりのアーク回数は0.0回/分と極めて少なかった。
【0114】
(比較例3)
比較例3では、合金粉末A1を200g、合金粉末B1を800g取って、ボールミル混合した以外は実施例1と同様にしてホットプレス焼結体を作製した。焼結体に割れや欠けは生じなかった。焼結体中には、Na含有物で被覆されたCu−Ga合金粒と、被覆のないCu−Ga合金粒および島状に孤立した無水硫酸ナトリウム粒が存在していた。
【0115】
焼結体のNa濃度は1.0質量%であった。実施例1と同様にして求めた焼結体のGaの割合は80%であった。空隙率は0.01面積%未満であり緻密であった。焼結体中に島状に孤立して分散している硫酸ナトリウム粒の平均粒径は22μmであった。焼結体の熱分析から重量減は0.01質量%未満であったので硫酸ナトリウムは無水であった。この焼結体からターゲットを作製し、実施例1と同様にスパッタを実施した結果、ターゲット直上位置とエロージョン最深部直上位置のスパッタ膜のGa濃度の差は−1.0質量%であって、スパッタ膜のGa濃度は不均一であった。またNa濃度は0.6質量%であった。1分間あたりのアーク回数は0.0回/分と極めて少なかった。
【0116】
(比較例4)
比較例4では、合金粉末Aを用いず、合金粉末B1のみ1000g用いてホットプレス焼結した以外は、実施例1と同様にして焼結体を作製した。焼結体に割れや欠けは生じなかった。焼結体中は、すべてNa含有物で被覆されたCu−Ga合金粒からなっていた。したがってGaの割合は100%である。
【0117】
焼結体のNa濃度は1.0質量%であった。実施例1と同様にして求めた焼結体の空隙率は0.01面積%未満であり緻密であった。この焼結体からターゲットを作製し、実施例1と同様にスパッタを実施した結果、ターゲット直上位置とエロージョン最深部直上位置のスパッタ膜のGa濃度の差は−1.6質量%であって、スパッタ膜のGa濃度は不均一であった。またNa濃度は0.6質量%であった。1分間あたりのアーク回数は0.0回/分と極めて少なかった。
【0118】
以上、実施例及び比較例に使用した合金粉末AおよびBについてそれぞれ表1と表2にまとめた。実施例及び比較例の合金粉末AとBの混合について表3にまとめ、ホットプレス焼結条件について表4にまとめ、ターゲット(焼結体)及びスパッタの評価について表5にまとめた。
【0119】
【表1】
【0120】
【表2】
【0121】
【表3】
【0122】
【表4】
【0123】
【表5】
【0124】
表5に示す結果から、実施例1〜実施例10のNa含有物で被覆されたCu−Ga合金粒のGa配分が30〜70%のターゲットは、スパッタ膜のGa濃度差が1質量%よりも小さく均一な組成になっている。所定量のNaが含有されたスパッタ膜を形成できることもわかる。また、実施例1〜実施例10では、Cu−Ga合金粉末と無水硫酸ナトリウム粉末を混合した合金粉末Aと、Cu−Ga合金粉末とラウリル硫酸ナトリウム粉末を混合し加熱した合金粉末Bを混合しホットプレス焼結することで、割れたり欠けたりすることなく、Naが含有されたCu−Ga合金スパッタリングターゲットを作製することができた。
【0125】
一方、比較例1では、焼結体中にNa含有物で被覆されたCu−Ga合金粒が存在しないため、スパッタ膜のGa濃度差が大きくなって不均一であった。
【0126】
比較例2と3では、それぞれ、焼結体中のNa含有物で被覆されたCu−Ga合金粒のGaの割合が30%よりも小さいか、70%よりも大きいために、スパッタ膜のGa濃度差が大きくなって不均一であった。
【0127】
比較例4では、焼結体中に、Na含有物の被覆のないCu−Ga合金粒および島状に孤立した無水硫酸ナトリウム粒が存在しないために、スパッタ膜のGa濃度差が大きくなって不均一であった。
【0128】
以上の結果から、実施例のように、Naを含有するCu−Ga合金スパッタリングターゲットを作製するにあたって、Cu−Ga合金粉末とナトリウム化合物を混合した合金粉末Aと、Cu−Ga合金粉末とナトリウム含有有機物粉末の混合粉末を加熱して、Cu−Ga合金粉末の周囲をナトリウム含有物で被覆した合金粉末Bを作製し、合金粉末Aと合金粉末Bを混合してホットプレス焼結することによって、Na含有物で被覆されたCu−Ga合金粒のGa配分が30〜70%のターゲットを作製でき、Ga濃度差が1質量%よりも小さく均一な組成のスパッタ膜を形成できることがわかる。また、実施例から、Cu−Ga合金スパッタリングターゲットを作製するにあたって割れや欠けが発生せず、更に、スパッタの際にアーク放電が発生せず、不具合の発生を防止できることがわかる。