(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
疎水性ポリマーと親水性ポリマーとを含む製膜原液を凝固液中で凝固させて多孔質中空糸膜を形成する凝固工程と、前記多孔質中空糸膜を洗浄して多孔質中空糸膜中に残存する親水性ポリマーを除去する親水性ポリマー除去工程とを有する多孔質中空糸膜の製造方法であって、
前記親水性ポリマー除去工程は、洗浄液を収容したn個(ただし、nは2以上の整数である。)の洗浄槽内を順次通過する多孔質中空糸膜に対し、多孔質中空糸膜の外周側の洗浄液を加圧又は減圧し、洗浄液が多孔質中空糸膜の膜部を通液する1つ以上の圧力洗浄工程を有し、
少なくとも1か所の洗浄槽間で、下流側の洗浄槽から上流側の洗浄槽に洗浄液が供給され、前記圧力洗浄工程は合計でm1回(ただし、m1は1以上の整数である。)行われ、
前記圧力洗浄工程は少なくとも1番目から(n−1)番目までのいずれか1以上の洗浄槽を通過する多孔質中空糸膜に対して行われる、多孔質中空糸膜の製造方法。
前記圧力洗浄工程は、洗浄液を収容したn個(ただし、nは2以上の整数である。)の洗浄槽内を順次通過する多孔質中空糸膜に対し、前記多孔質中空糸膜の外周側の洗浄液を減圧し、前記多孔質中空糸膜の内周側から外周側へ洗浄液を通液させる減圧洗浄工程と、
前記多孔質中空糸膜の外周側の洗浄液を加圧し、前記多孔質中空糸膜の外周側から内周側へ洗浄液を供給する加圧洗浄工程とを有し、
前記減圧洗浄工程と加圧洗浄工程は合計でm2回(ただし、m2は3以上の整数である。)行われ、
前記加圧洗浄工程は少なくとも1番目から(n−1)番目までのいずれか1以上の洗浄槽を通過する多孔質中空糸膜に対して行われる、請求項8に記載の多孔質中空糸膜の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
なお、
図2〜6において、
図1に示した実施形態に対応する構成要素には、同一の符号を付してその詳細な説明を省略することがある。
【0017】
[多孔質中空糸膜の洗浄装置]
本発明の多孔質中空糸膜の洗浄装置(以下、単に「洗浄装置」という。)は、製膜原液を凝固液中で凝固させて得られた多孔質中空糸膜を洗浄し、多孔質中空糸膜中に残存する親水性ポリマーを除去するための装置である。
本発明の洗浄装置は、多孔質中空糸膜が順次通過する、洗浄液を収容したn個(ただし、nは2以上の整数である。)の洗浄槽と、洗浄液に浸漬された多孔質中空糸膜の外周側の洗浄液を加圧又は減圧し、洗浄液を多孔質中空糸膜の膜部に通液させる1つ以上の圧力付与部とを有する。
【0018】
図1に本発明の洗浄装置の一例を示す。
図1に示す洗浄装置1は、多孔質中空糸膜Mが順次通過する、洗浄液Lを収容した2個の洗浄槽10と、多孔質中空糸膜Mを洗浄する、第一の減圧洗浄部20と加圧洗浄部30と第二の減圧洗浄部40と、下流側の洗浄槽に清浄な洗浄液を供給する供給手段50と、多孔質中空糸膜Mの走行を規制する規制手段60とを備えて構成される。
図示例の洗浄装置1は、2個の洗浄槽10を備えているが、n個(ただし、nは2以上の整数である。)の洗浄槽10を備える場合、上流側から1番目の洗浄槽11、2番目の洗浄槽12・・・と数える。
また、本発明において、「上流」及び「下流」は多孔質中空糸膜Mの走行方向を基準とし、「上流側」とは洗浄装置1に多孔質中空糸膜Mが供給される側であり、「下流側」とは洗浄装置1から多孔質中空糸膜Mが排出される側とする。
【0019】
第一の減圧洗浄部20と、加圧洗浄部30と、第二の減圧洗浄部40は直列に配列し、この配列の両端には第一の減圧洗浄部20と第二の減圧洗浄部40が位置している。
また、1番目の洗浄槽11には第一の減圧洗浄部20と加圧洗浄部30が収められ、2番目の洗浄槽12には第二の減圧洗浄部40が収められている。
【0020】
<洗浄槽>
洗浄槽10は、洗浄液Lを収容する。
洗浄槽10の材質は特に制限されず、例えばポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリアミド、ポリプロピレン、若しくはポリアセタールなどの樹脂;鉄、アルミニウム、銅、ニッケル、若しくはチタンなどの金属、若しくはこれら金属を主な成分とする合金類(例えばニッケル合金、チタン合金、ジュラルミン又はステンレスなど):又は、これらの複合材料などが挙げられる。特に、1番目の洗浄槽11の材質はチタンが好ましい。
洗浄槽10の形状及び大きさについては、1番目の洗浄槽11は後述する流路部材23,33を浸漬できるものであればよく、2番目の洗浄槽12は後述する流路部材43を浸漬できるものであればよい。
【0021】
各洗浄槽10には、洗浄槽10からあふれた分の洗浄液Lを排出するオーバーフロー管11a,12aが設けられている。
図1の洗浄装置1の場合、2番目の洗浄槽12からオーバーフローした洗浄液Lは、2番目の洗浄槽12のオーバーフロー管12aから1番目の洗浄槽11へ供給される。一方、1番目の洗浄槽11からオーバーフローした洗浄液Lは、1番目の洗浄槽11のオーバーフロー管11aから系外へ排出される。
【0022】
<圧力付与部>
本発明の洗浄装置の圧力付与部は、洗浄液に浸漬された多孔質中空糸膜の外周側の洗浄液を加圧又は減圧し、洗浄液を多孔質中空糸膜の膜部に通液する。前記圧力付与部は、1番目以降(n−1)番目までのいずれか1以上の洗浄槽に収められている。前記圧力付与部は少なくとも1つあればよいが、前記圧力付与部は2つ以上あれば好ましく、洗浄液に浸漬された多孔質中空糸膜の外周側の洗浄液を減圧し、前記多孔質中空糸膜の内周側から外周側へ洗浄液を通液させる2つ以上の減圧洗浄部と、洗浄液に浸漬された多孔質中空糸膜の外周側の洗浄液を加圧し、前記多孔質中空糸膜の外周側から内周側へ洗浄液を供給する1つ以上の加圧洗浄部とを有するのが最も好ましい。
圧力付与部が2以上ある場合、前記減圧洗浄部と前記加圧洗浄部は直列に配列している。前記加圧洗浄部は1番目以降(n−1)番目までのいずれか1以上の洗浄槽に収められている。
洗浄槽が2以上ある場合、前記圧力付与部は、必ずしも各洗浄槽に1つずつ収められていなくてもよい。例えば、洗浄槽の個数nが2で、前記圧力付与部が1番目の洗浄槽に1個だけ収められている場合も、本発明の範囲に含まれる。また、洗浄槽の個数nが2で、前記圧力付与部が1番目の洗浄槽に3個収められている場合も、本発明の範囲に含まれる。即ち、洗浄槽の個数nと前記圧力付与部の個数は、一致していなくてもよい。
【0023】
<第一の減圧洗浄部>
第一の減圧洗浄部20は、洗浄液Lに浸漬された多孔質中空糸膜Mの外周側の洗浄液を減圧し、多孔質中空糸膜Mの内側から外周側へ洗浄液Lを通液させる。
図1に示す第一の減圧洗浄部20は、多孔質中空糸膜Mを通過させる中空糸膜走行流路21及び前記中空糸膜走行流路21から分岐する分岐流路22が、
図2に示すように流路部材本体23aの一壁面を貫通するように形成され、かつ中空糸膜走行流路21の両端の開口21a、21bが洗浄液L中に配置されて流路内が洗浄液Lで満たされる流路部材23と;前記流路部材23の中空糸膜走行流路21内の洗浄液Lを分岐流路22を通じて吸引し、中空糸膜走行流路21内の洗浄液Lの圧力を低下させる液体吸引手段24とを有している。
液体吸引手段24は、洗浄液Lを吸引するエゼクター24aと、洗浄液Lを作動流体としてエゼクター24aに圧送するポンプ24bと、一端が流路部材23の分岐流路22と接続され、他端が1番目の洗浄槽11に接続された第一の配管24cと、一端が1番目の洗浄槽11に接続され、他端がエゼクター24aに接続された第二の配管24dを有している。
【0024】
流路部材23は、
図1、又は2に示すように、多孔質中空糸膜Mを通過させる中空糸膜走行流路21と、中空糸膜走行流路21から分岐する分岐流路22が内部を貫通するように形成されている。この例では、流路部材23が1番目の洗浄槽11に収容された洗浄液L中に浸漬されることで、中空糸膜走行流路21の両端の開口21a、21bが洗浄液L中に配置され、それにより開口21a、21bから洗浄液Lが流入して中空糸膜走行流路21と分岐流路22の内部が洗浄液Lで満たされる。
【0025】
分岐流路22は第一の配管24cを介して液体吸引手段24のエゼクター24aと接続されており、エゼクター24aによって、分岐流路22を通じて中空糸膜走行流路21内の洗浄液Lを吸引できるようになっている。これにより、中空糸膜走行流路21内での洗浄液Lの流動圧力損失によって、中空糸膜走行流路21内での洗浄液Lの圧力を低下させることができる。
第一の減圧洗浄部20は、このように洗浄液Lが満たされ、かつ減圧された状態の中空糸膜走行流路21内を通過するように、多孔質中空糸膜Mを連続的に走行させるようになっている。
【0026】
この例の流路部材23は、
図2に示すように、中空糸膜走行流路21を形成する溝と分岐流路22が形成された流路部材本体23aの上部が、上蓋部23bによって閉じられることで形成されている。
流路部材23は、特別な機構を有していなくても、流路部材本体23aに対し上蓋部23bを密着させ、液体吸引手段24によって分岐流路22から洗浄液Lを吸引することで、中空糸膜走行流路21及び分岐流路22内の洗浄液Lの圧力が低下し、前記圧力の低下によりこれらの内部が減圧状態となり、流路部材本体23aに対し上蓋部23bが吸着する。ただし、流路部材本体23aと上蓋部23bに、それらを閉じるための機構を設けてもよい。具体的には、流路部材本体23aに対し上蓋部23bを並行に昇降させる機構を設けると、中空糸膜走行流路21を簡単に開放、及び閉止することができ、中空糸膜走行流路21に多孔質中空糸膜Mを配置したり、取り除いたりすることが容易となり好ましい。
【0027】
中空糸膜走行流路21の断面形状は、中空糸膜走行流路21を形成する溝が形成された流路部材本体23aの上部が、上蓋部23bによって閉じられることで形成される場合、流路の形成が容易な点から、
図2に示すように、矩形が好ましく、特に正方形が好ましい。また、中空糸膜走行流路21の断面形状が矩形であれば、断面形状が円形の場合に比べて、多孔質中空糸膜Mが流路の壁面と接触したとしてもその接触面積がより小さく、損傷が生じ難い点でも有利である。
また、流路部材本体23a側と上蓋部23bの合わせ面の両方に半円形の流路を形成し、閉じ合わせることで円形流路を形成した場合に比べ、中空糸膜走行流路21の断面形状を矩形とし、その一辺を上蓋部23bの底部によって形成すると、流路の形成は流路部材本体23a側のみでよく、上蓋部23bの合わせ面をフラットにすることができる。このようにすると、流路加工が容易であり、流路部材本体23a側と上蓋部23bの精密な位置合わせは不要であり、流路に多孔質中空糸膜Mを配置した際、多孔質中空糸膜Mは流路に完全に埋まり込むため、上蓋部23bを閉じる際に合わせ面に多孔質中空糸膜Mを挟みこんでしまう恐れがなくなる。
【0028】
中空糸膜走行流路21の断面形状が三角形の場合も、その一辺を上蓋部23bの底部によって形成すると矩形と同じ効果が得られる。中空糸膜走行流路21の断面形状が三角形の場合、正三角形が好ましい。
中空糸膜走行流路21の断面形状を正多角形にすると、中空糸膜走行流路21内の多孔質中空糸膜M周囲を流動する洗浄液Lの流動状態が、多孔質中空糸膜Mの中心軸に対し軸対称状態となり、中空糸膜走行流路21内の多孔質中空糸膜Mの走行状態が安定しやすくなる。
ただし、中空糸膜走行流路21の断面形状は矩形や三角形には限定されず、三角形以外の多角形や円形などであってもよい。
【0029】
中空糸膜走行流路21の壁面と多孔質中空糸膜Mの最小隙間は多孔質中空糸膜Mの直径の5%〜40%が好ましく、10%〜20%がより好ましい。
最小隙間が前記下限値以上であれば、多孔質中空糸膜Mが中空糸膜走行流路21の壁面と接触することによる表面損傷や、多孔質中空糸膜Mの走行抵抗が増大することを抑制しやすい。
従って、中空糸膜走行流路21の幅d
1は多孔質中空糸膜Mの直径の110%〜180%が好ましく、120%〜140%がより好ましいことになる。また、中空糸膜走行流路21の高さd
2も、多孔質中空糸膜Mの直径の110%〜180%が好ましく、120%〜140%がより好ましいことになる。
【0030】
一方、最小隙間が前記上限値以下であれば、多孔質中空糸膜Mが中空糸膜走行流路21内で、洗浄液Lの流動により振動や屈曲を起こし、多孔質中空糸膜Mの走行抵抗が増大することを抑制できる。加えて、多孔質中空糸膜Mが走行する中空糸膜走行流路21内の洗浄液Lの圧力を、所定の圧力に低下又は上昇させるのに必要な液体吸引手段24での洗浄液Lの吸引量も抑制できる。
【0031】
中空糸膜走行流路21の内壁面は、多孔質中空糸膜Mが接触した場合でも多孔質中空糸膜Mの表面が損傷しないように、精密研削仕上げや研磨仕上げによって滑らかに仕上げることが好ましい。またそれに加え、中空糸膜走行流路21の内壁面には、多孔質中空糸膜Mとの摩擦抵抗を低減させるフッ素系コーティングやダイヤモンドライクカーボンコーティングなどを施すのがさらに好ましい。
【0032】
中空糸膜走行流路21の長さDは、100〜2000mmが好ましく、300〜1000mmがより好ましい。中空糸膜走行流路21の長さが前記下限値以上であれば、多孔質中空糸膜M周囲の減圧に必要な洗浄液Lの吸引量が少なくてすむ。中空糸膜走行流路21の長さが前記上限値以下であれば、多孔質中空糸膜Mの走行抵抗や洗浄装置1が過大になることを抑制しやすい。
【0033】
第一の減圧洗浄部20では、開口21b、又は開口21aから分岐流路22までの距離はそれぞれ等しく、開口21b、又は開口21aから分岐流路22までの流路の構造は、分岐流路22に対し対称構造であることが好ましい。
このような構造とすると、洗浄液Lを分岐流路22から液体吸引手段24により吸引した際に、中空糸膜走行流路21内に多孔質中空糸膜Mを引き込む力(膜中心軸方向の圧縮力)が分岐流路22を挟んで対称となる。
【0034】
分岐流路22の断面形状は特に限定されず、円形でもよいし矩形でもよい。
流路部材23の材質としては、洗浄液Lで腐食したり、洗浄液Lに侵されたりしない素材であり、洗浄液Lの吸引で変形や破損しない十分な強度を維持できれば特に制限はなく、例えば、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリアミド、ポリプロピレン、若しくはポリアセタールなどの樹脂;鉄、アルミニウム、銅、ニッケル、若しくはチタンなどの金属若しくは合金類;又はこれらの複合材料などが挙げられる。これらの中でもチタンが好ましい。
【0035】
液体吸引手段24は、中空糸膜走行流路21内の洗浄液Lを分岐流路22を通じて吸引し、中空糸膜走行流路21内の洗浄液Lの圧力を低下させる。この例の液体吸引手段40は、洗浄液Lを吸引するエゼクター24aと、洗浄液Lを作動流体としてエゼクター24aに圧送するポンプ24bと、第一の配管24cと、第二の配管24dとを有しており、エゼクター24aは第一の配管24cを介して分岐流路22及び1番目の洗浄槽11と接続されており、中空糸膜走行流路21内から、分岐流路22、又は第一の配管24cを通じて洗浄液Lを吸引できるようになっている。
吸引された洗浄液Lは、第一の配管24cを通じて1番目の洗浄槽11内に戻されるようになっている。ただし、本発明の洗浄装置1はこの形態には限定されず、液体吸引手段24によって吸引した洗浄液Lは廃棄、又は別工程に移送される形態であってもよい。
【0036】
エゼクター24aは、ポンプ24bから圧送される洗浄液Lの運動エネルギーを利用して、中空糸膜走行流路21内の洗浄液Lを分岐流路22を通じて吸引する。具体的には、ポンプ24bより洗浄液Lを加圧しノズル(図示略)から高速吐出させ、その洗浄液Lの運動エネルギーを利用し、洗浄液Lを随伴吸引させる。
通常、液体を高減圧度で吸引する場合、ポンプ流路内やインペラー内で真空泡や減圧沸騰による蒸気泡が発生し、ポンプに異常振動が発生したりキャビテーションによるインペラーの損傷が起こったりする場合がある。
エゼクター24aを用いた吸引は、このような現象やポンプの損傷を防ぐ方法として有効である。
【0037】
エゼクター24aの構造は極めて単純で、ポンプのような回転部がなく、内部で真空泡や減圧沸騰による蒸気泡が発生して振動が発生しても、エゼクター24aは破損しにくい。加えて、異物を吸引しても破損したり詰まったりする恐れも少ない。
また、例えば第一の減圧洗浄部20内部で多孔質中空糸膜Mが切断された場合、その端部を分岐流路22から洗浄液Lとともに吸い込むと、ポンプの回転部分に多孔質中空糸膜Mの端部が巻き付いて、ポンプがロックして停止したり、ポンプインペラーやモーターが破損したりする恐れがある。
これに対し、エゼクター24aの場合は、多孔質中空糸膜Mの端部が巻き付く部分がなく、ポンプ24bからエゼクター24aに加圧供給される洗浄液Lと一緒にエゼクター24aの吐出口から排出されるだけで、ポンプ24bを損傷させる恐れはほとんどない。
【0038】
ポンプ24bとしては、1番目の洗浄槽11から洗浄液Lを吸引し、吸引した洗浄液Lをエゼクター24aに供給でき、必要な減圧度に到達できるものが好ましい。例えば単段や多段の渦巻きポンプ、カスケードポンプ、スクロールポンプ、又はギヤポンプなどが挙げられる。またポンプの駆動軸とモーター回転軸がマグネットカップリングにより接続されたシールレスタイプのポンプは、ポンプ回転軸は外気と遮断されており、高減圧状態の洗浄液Lにシール部から外気が漏入し減圧膨張によりポンプ効率が低下する恐れがなく特に好ましい。
【0039】
液体吸引手段24は、インバータ(図示略)により制御できるようになっていることが好ましい。
また、一定の圧力に保ちたい部分に圧力センサー(図示略)を設け、前記圧力センサーの出力をインバータにフィードバックして、液体吸引手段24のポンプ24bのポンプ回転速度などを自動制御できるようにすることがより好ましい。
【0040】
前記減圧洗浄部により減圧した際の圧力範囲は、−0.1MPa以上0MPa未満が好ましく、−0.09MPa以上−0.03MPa未満がより好ましく、−0.08MPa以上−0.04MPa未満が更に好ましい。
【0041】
<加圧洗浄部>
加圧洗浄部30は、洗浄液に浸漬された多孔質中空糸膜Mの外周側の洗浄液を加圧し、多孔質中空糸膜Mの外周側から内周側へ洗浄液Lを供給させる。
加圧洗浄部30は、多孔質中空糸膜Mを通過させる中空糸膜走行流路31及び前記中空糸膜走行流路31から分岐する分岐流路32が内部を貫通するように形成され、かつ中空糸膜走行流路31の両端の開口31a、31bが洗浄液L中に配置されて流路内が洗浄液Lで満たされる流路部材33と;前記流路部材33の中空糸膜走行流路31内に分岐流路22を通じて洗浄液Lを圧入し、中空糸膜走行流路31内の洗浄液Lの圧力を上昇させる液体圧入手段34とを有している。
液体圧入手段34は、洗浄液Lを中空糸膜走行流路31内に圧送するポンプ34bと、一端が1番目の洗浄槽11と接続され、他端が流路部材33の分岐流路32に接続された第一の配管34cを有している。
前記加圧洗浄部は、1番目以降(n−1)番目までのいずれか1以上の前記洗浄槽に収められていることが好ましく、n番目の前記洗浄槽に更に収められていてもよい。
【0042】
分岐流路32は第一の配管34cを介して液体圧入手段34のポンプ34bと接続されており、ポンプ34bによって、分岐流路32を通じて中空糸膜走行流路31内に洗浄液Lを圧入できるようになっている。これにより、中空糸膜走行流路31内での洗浄液Lの流動圧力損失によって、中空糸膜走行流路31内での洗浄液Lの圧力を上昇させることができる。
加圧洗浄部30は、このように洗浄液Lが満たされ、かつ加圧された状態の中空糸膜走行流路31内を通過するように、多孔質中空糸膜Mを連続的に走行させるようになっている。
【0043】
流路部材33の構成は、第一の減圧洗浄部20の流路部材23と同じである。すなわち、
図2に示す流路部材23のように、中空糸膜走行流路21を形成する溝と分岐流路22が形成された流路部材本体23aの上部が、上蓋部23bによって閉じられることで形成されている。
流路部材33として
図2に示す流路部材23を用いた場合、流路部材本体23aに対し上蓋部23bを密着させた状態で洗浄液Lを圧入すると、中空糸膜走行流路21の内部は加圧状態となり、上蓋部23bを押し上げる力が働いて上蓋部23bが流路部材本体23aから持ち上がり、隙間が生じて加圧状態の洗浄液Lが漏れ、内部の洗浄液Lの圧力が低下することがある。そのため、上蓋部23bには常時、上蓋部23bを押し上げる力より大きな閉止力を与えるのが好ましい。
上蓋部23bへの閉止力付与には、上蓋部23bを流路部材本体23aにボルトなどで締結したり、上蓋部23bの昇降と閉止力付与を兼ねることができるネジ送り機構、油圧シリンダー、空圧シリンダー、又は水圧シリンダーなどの流体推進機構を用いたりすることが好ましい。
【0044】
また、中空糸膜走行流路31及び分岐流路32の断面形状についても、第一の減圧洗浄部20の流路部材23と同じである。
さらに、中空糸膜走行流路31の幅や高さ、及び中空糸膜走行流路31の長さは、第一の減圧洗浄部20の流路部材23の幅、高さ又は長さと同じである。
【0045】
加圧洗浄部30では、開口31b、又は開口31aから分岐流路32までの距離はそれぞれ等しくてもよいし、例えば多孔質中空糸膜Mが開口31aから開口31bに向かって移動する場合、分岐流路32から開口31b側を開口31a側より短く設定してもよい。
特に、分岐流路32から開口31b側を開口31a側より短くした構造とすると、洗浄液Lを分岐流路32から液体圧入手段34により圧入した際、多孔質中空糸膜Mには中空糸膜走行流路31内から引き出される力(膜中心軸方向の張力)が分岐流路32を挟んで発生するが、その力は開口31b側が強くなり、多孔質中空糸膜Mが開口31aから開口31bに向かって移動させる推力に利用できる。
【0046】
液体圧入手段34は、1番目の洗浄槽11内の洗浄液Lを吸引し、分岐流路32を通じて圧入し、中空糸膜走行流路31内の洗浄液Lの圧力を上昇させる。
この例の液体圧入手段34は、洗浄液Lを中空糸膜走行流路31内に圧送するポンプ34bと、第一の配管34cとを有しており、ポンプ34bは第一の配管34cを介して分岐流路32及び1番目の洗浄槽11と接続されており、第一の配管34cを通じ分岐流路32を経て中空糸膜走行流路31内に洗浄液Lを圧入できるようになっている。
【0047】
液体圧入手段34としては、中空糸膜走行流路31内に洗浄液Lを分岐流路32を通じて圧入し、所定の圧力を発生可能な揚程、及び吐出量を持つもので、洗浄液Lで腐食しない材質、又は接液部コーティングがされているものであればよい。例えば単段や多段の渦巻きポンプ、カスケードポンプ、スクロールポンプ、又はギヤポンプなどが挙げられる。またポンプの駆動軸とモーター回転軸がマグネットカップリングにより接続されたシールレスタイプのポンプは、ポンプ回転軸は外気と遮断されており、高減圧状態の洗浄液Lにシール部から外気が漏入し減圧膨張によりポンプ効率が低下する恐れがなく特に好ましい。
【0048】
液体圧入手段34は、インバータ(図示略)により制御できるようになっていることが好ましい。
また、一定の圧力に保ちたい部分に圧力センサー(図示略)を設け、前記圧力センサーの出力をインバータにフィードバックして、液体圧入手段34のポンプ34bのポンプ回転速度などを自動制御できるようにすることがより好ましい。
【0049】
前記加圧洗浄部により圧力を付与した際の圧力範囲は、0.01MPa以上1MPa未満が好ましく、0.05MPa以上0.5MPa未満がより好ましく、0.1MPa以上0.3MPa未満が更に好ましい。
【0050】
<第二の減圧洗浄部>
第二の減圧洗浄部40は、洗浄液に浸漬された多孔質中空糸膜Mの外周側の洗浄液を減圧し、多孔質中空糸膜Mの内側から外周側へ洗浄液Lを通液させる。
第二の減圧洗浄部40は、多孔質中空糸膜Mを通過させる中空糸膜走行流路41及び前記中空糸膜走行流路41から分岐する分岐流路42が内部を貫通するように形成され、かつ中空糸膜走行流路41の両端の開口41a、41bが洗浄液L中に配置されて流路内が洗浄液Lで満たされる流路部材43と;前記流路部材43の中空糸膜走行流路41内の洗浄液Lを分岐流路42を通じて吸引し、中空糸膜走行流路41内の洗浄液Lの圧力を低下させる液体吸引手段44とを有している。
液体吸引手段44は、洗浄液Lを吸引するエゼクター44aと、洗浄液Lを作動流体としてエゼクター44aに圧送するポンプ44bと、一端が流路部材43の分岐流路42と接続され、他端が2番目の洗浄槽12に接続された第一の配管44cと、一端が2番目の洗浄槽12に接続され、他端がエゼクター44aに接続された第二の配管44dを有している。
第二の減圧洗浄部40は、第一の減圧洗浄部20と同じ構成であるため、各部材についての説明は省略する。
【0051】
<供給手段>
供給手段50は、2番目以降n番目までのいずれか1以上の洗浄槽(
図1の洗浄装置1の場合は2番目の洗浄槽12)に清浄な洗浄液を供給する。供給手段50は、n番目に清浄な洗浄液を供給する事が好ましい。
供給手段50は、清浄な洗浄液を収容するタンク51と、清浄な洗浄液を2番目の洗浄槽12に送る供給配管52とを備える。
【0052】
<規制手段>
規制手段60は、多孔質中空糸膜Mの走行を規制する。
図1の規制手段60は、ガイドロール61a〜61gから構成されている。多孔質中空糸膜Mは、これらガイドロール61a〜61gによって走行を規制される。具体的には、
図1に示すように、多孔質中空糸膜Mは連続的に1番目の洗浄槽11に収容された洗浄液L中に引き込まれ、第一の減圧洗浄部20の開口21aから流路部材23の中空糸膜走行流路21内に導入され、中空糸膜走行流路21内の洗浄液L中を通過して開口21bから導出される。ついで、加圧洗浄部30の開口31aから流路部材33の中空糸膜走行流路31内に導入され、中空糸膜走行流路31内の洗浄液L中を通過して開口31bから導出された後、洗浄液Lの外部へと引き出される。引き続き、多孔質中空糸膜Mは2番目の洗浄槽12に収容された洗浄液L中に引き込まれ、第二の減圧洗浄部40の開口41aから流路部材43の中空糸膜走行流路41内に導入され、中空糸膜走行流路41内の洗浄液L中を通過して開口41bから導出された後、洗浄液Lの外部へと引き出されるようになっている。
規制手段60におけるガイドロール61a〜61gとしては、多孔質中空糸膜の製造に通常使用されるガイドロールが使用できる。
【0053】
<作用効果>
本発明の洗浄装置1においては、1番目の洗浄槽11に多孔質中空糸膜Mが浸漬すると、洗浄液Lが多孔質中空糸膜Mを通過し、多孔質中空糸膜Mの内周側へ導入される。導入された洗浄液Lは、その後、第一の減圧洗浄部20の作動により、再び多孔質中空糸膜Mを通過して外周側へ排出される。その結果、多孔質中空糸膜M中に残存する親水性ポリマー(その分解物を含む)が洗浄液Lとともに分岐流路22から除去される。
また、加圧洗浄部30において、多孔質中空糸膜Mの外周側から内周側に洗浄液Lが供給される。すると、多孔質中空糸膜M中の親水性ポリマーが洗浄液Lによって置換されたり希釈されたりしながら、膜中空部に押し込まれる。加えて、上流側の第一の減圧洗浄部20において、多孔質中空糸膜Mの内周側から外周側へ通液する洗浄液量が増え、その結果、親水性ポリマーの除去効果が大きくなる。
さらに、2番目の洗浄槽12に多孔質中空糸膜Mが浸漬すると、洗浄液Lが多孔質中空糸膜Mを通過し、多孔質中空糸膜Mの内周側に導入される。導入された洗浄液Lは、その後、第二の減圧洗浄部40の作動により、再び多孔質中空糸膜Mを通過して外周側へ排出される。その結果、加圧洗浄部30にて膜中空部に押し込まれた親水性ポリマーが洗浄液Lとともに除去される。また、多孔質中空糸膜M中に残存する親水性ポリマーのうち、多孔質中空糸膜Mの多孔質部の壁面に付着しているものなど、特に除去されにくいものに対しても高い除去効果を発揮することができる。
【0054】
本発明の洗浄装置1は、第二の減圧洗浄部40が、第一の減圧洗浄部20及び加圧洗浄部30とは別の洗浄槽10に収められている。また、多孔質中空糸膜M中に残存する親水性ポリマーの大部分は、第一の減圧洗浄部20及び加圧洗浄部30によって除去される。従って、2番目の洗浄槽12には、親水性ポリマー等の残存物が少ない多孔質中空糸膜Mが通過するため、2番目の洗浄槽12中の洗浄液Lは、親水性ポリマーによって汚染されにくい。さらに、第二の減圧洗浄部40が収められている2番目の洗浄槽12には、清浄な洗浄液が供給されるとともに、オーバーフロー管12aによってあふれた洗浄液Lは1番目の洗浄槽11へ排出される。そのため、第二の減圧洗浄部40においては、比較的清浄な洗浄液で多孔質中空糸膜Mを洗浄できるので、過剰な洗浄液を使用しなくても、親水性ポリマーが多孔質中空糸膜M中に取り込まれたり、多孔質中空糸膜M表面に再付着したりするのを抑制できる。
【0055】
従って、本発明の洗浄装置1によれば、洗浄液の使用量を抑制しつつ、膜保持水中の残存物質濃度を低減でき、かつ親水性ポリマーの再付着を防止できる。加えて、2番目の洗浄槽12から排出した洗浄液を1番目の洗浄槽11に供給し、第一の減圧洗浄部20及び加圧洗浄部30での洗浄に再利用できるので、洗浄液の使用量を削減できる。
【0056】
<他の実施形態>
本発明の洗浄装置は、
図1に示す洗浄装置1に限定されない。例えば洗浄装置1では、流路部材23,33,43の全体が洗浄液L中に浸漬されているが、中空糸膜走行流路21,31,41の両端の開口21a,21b,31a,31b,41a,41bが洗浄液L中に配置されて各流路内が洗浄液Lで満たされるものであれば、流路部材23,33,43の全体を洗浄液L中に浸漬する形態には限定されない。
なお、加圧洗浄部30は、液体圧入手段34によって分岐流路32から圧入される洗浄液Lで中空糸膜走行流路31内が満たされ、中空糸膜走行流路31を経て両端の開口31a、31bから洗浄液Lが排出される。
【0057】
また、第一の減圧洗浄部20及び第二の減圧洗浄部40の液体吸引手段24,44は、エゼクター24a,44aを用いた吸引システムに限定されず、例えば吸引ポンプ等で中空糸膜走行流路21,41内の洗浄液Lを分岐流路22,42を通じて吸引してもよい。
【0058】
また、
図1に示す洗浄装置1は、第一の減圧洗浄部20と加圧洗浄部30が同じ洗浄槽11に収められているが、例えば
図3に示すように、第一の減圧洗浄部20と加圧洗浄部30は別々の洗浄槽10に収められていてもよい。この例の洗浄装置2は、第一の減圧洗浄部20が1番目の洗浄槽11に、加圧洗浄部30が2番目の洗浄槽12に、第二の減圧洗浄部40が3番目の洗浄槽13にそれぞれ収められており、3番目の洗浄槽13からオーバーフローした洗浄液は2番目の洗浄槽12に供給され、2番目の洗浄槽12からオーバーフローした洗浄液は1番目の洗浄槽11に供給され、1番目の洗浄槽11からオーバーフローした洗浄液は系外へ排出される。
図3中、符号13aはオーバーフロー管であり、61h〜61jはガイドロールである。
ただし、洗浄装置の小型化の観点からは、第一の減圧洗浄部20と加圧洗浄部30が同じ洗浄槽10に収められた
図1に示す洗浄装置1の方が好ましい。
【0059】
以上の実施形態では、第一の減圧洗浄部と第二の減圧洗浄部の間に1つの加圧洗浄部が設けられた洗浄装置を説明したが、本発明はこれに限定されず、加圧洗浄部は2以上設けられていてもよい。
加圧洗浄部を2以上設ける場合は、少なくともn番目の洗浄槽にも加圧洗浄部を収めることが好ましく、例えば
図4又は5に示すように、2番目の洗浄槽12において、第二の減圧洗浄部40の上流側に加圧洗浄部30を設けるのが好ましい。
なお、
図4に示す洗浄装置3は、1番目の洗浄槽11に、1つの加圧洗浄部30が第一の減圧洗浄部20の下流側に設けられたものであり、
図5に示す洗浄装置4は、1番目の洗浄槽11に、3つの加圧洗浄部30が第一の減圧洗浄部20の下流側に、直列的に設けられている。
また、
図5においては、第一の減圧洗浄部20、加圧洗浄部30、及び第二の減圧洗浄部40は、液体吸引手段、又は液体加圧手段等の構成部材を省略した。
【0060】
ところで、
図1又は3に示す洗浄装置1又は2に多孔質中空糸膜Mを供した場合、多孔質中空糸膜M中に残存する親水性ポリマーの大部分が第一の減圧洗浄部20及び加圧洗浄部30にて除去されるが、これらは第一の減圧洗浄部20及び加圧洗浄部30を収めた洗浄槽10中の洗浄液L中に分散し、洗浄液Lを汚染する。
また、詳しくは後述するが、多孔質中空糸膜中の親水性ポリマーを除去する際は、予備工程として酸化剤を使用した親水性ポリマーの低分子量化工程及び洗浄工程を行う場合がある。低分子量化工程で用いられる酸化剤は予備工程の洗浄工程で概ね除去されるが、酸化剤が残存した状態で多孔質中空糸膜を洗浄装置1,2に供すると、第一の減圧洗浄部20及び加圧洗浄部30にて残りの酸化剤が親水性ポリマー等とともに除去され、洗浄液L中に分散し、洗浄液を汚染する。
加圧洗浄部30では、この汚染された洗浄液を多孔質中空糸膜Mの外周側から内周側へ供給するので、膜を伝って汚染された洗浄液が第二の減圧洗浄部40が収められたn番目の洗浄槽に逆流する場合があり、この場合、n番目の洗浄槽中の洗浄液Lも汚染される恐れがある。この傾向は、洗浄槽の数が少ないほど顕著である。
【0061】
しかし、
図4,5に示すように、n番目(2番目)の洗浄槽12にも加圧洗浄部30を設けると、n−1番目(1番目)の洗浄槽11の加圧洗浄部30にて多孔質中空糸膜Mの内周側へ供給された洗浄液が、2番目の洗浄槽12に逆流するのを防止でき、その結果、2番目の洗浄槽12中の洗浄液Lが汚染されるのをより効果的に防げる。かかる理由は以下のように考えられる。
すなわち、2番目の洗浄槽12にも加圧洗浄部30を設けると、この加圧洗浄部30により多孔質中空糸膜Mの内周側へ供給された洗浄液によって、1番目の洗浄槽11の加圧洗浄部30で多孔質中空糸膜Mの内周側へ供給された洗浄液が、2番目の洗浄槽12に到達する前に多孔質中空糸膜Mから排出されるので、2番目の洗浄槽12への逆流を防止できると考えられる。
ここで、2番目の洗浄槽12に到達する前に排出されるとは、主に、1番目の洗浄槽11から導出された多孔質中空糸膜Mがガイドロール61dに到達するまでの間(槽間空送部)において、洗浄液が多孔質中空糸膜Mから排出されることであり、排出された洗浄液は1番目の洗浄槽11に戻される。
【0062】
また、上述したように、多孔質中空糸膜Mに酸化剤が付着している場合であっても、1番目の洗浄槽11からの洗浄液の逆流を防止できるので、2番目の洗浄槽12や、これに収められた加圧洗浄部30及び第二の減圧洗浄部40を構成する部材が、酸化剤に対する腐食性が低い材質(例えばSUSなど)でも、酸化剤による腐食の心配がない。ただし、1番目の洗浄槽11の洗浄液Lには、多孔質中空糸膜Mから除去された酸化剤が多く含まれるので、1番目の洗浄槽11や、これに収められた第一の減圧洗浄部20及び加圧洗浄部30を構成する部材は、耐腐食性を有する材質(例えばチタンなど)にしておくのが好ましい。
【0063】
上述した洗浄装置1〜4では、下流側の洗浄槽が上流側の洗浄槽よりも高い位置になるように、各洗浄槽が横並びに配列されているが、各洗浄槽は同じ高さになるように横並びに配列してもよい。ただし、洗浄液を再利用する場合は、下流側の洗浄槽から上流側の洗浄槽へ洗浄液を供給できるようにする。
【0064】
また、例えば
図6に示すように、下から1番目の洗浄槽11、2番目の洗浄槽12、及び3番目の洗浄槽13の順になるように、各洗浄槽が縦並びに配列した洗浄装置5でもよい。
図6に示す洗浄装置5のように、各洗浄槽が縦並びに配列した装置は、洗浄槽の数や加圧洗浄部の数を増やしても、各洗浄槽が横並びに配列した装置に比べてスペースをとらないため、省スペース化の観点で好適である。
なお、
図6中、符号13aはオーバーフロー管であり、符号61h〜61jはガイドロールである。
また、
図6においては、第一の減圧洗浄部20、加圧洗浄部30、及び第二の減圧洗浄部40は、液体吸引手段、又は液体加圧手段等の構成部材を省略した。
【0065】
なお、上述した実施形態は、n番目の洗浄槽からオーバーフローした洗浄液をn−1番目の洗浄槽に供給し、n−1番目の洗浄槽からオーバーフローした洗浄液をn−2番目の洗浄槽にさらに供給するといったように、下流側の洗浄槽から上流側の洗浄槽へと次々に洗浄液を供給し、多孔質中空糸膜の洗浄に再利用しているが、本発明の洗浄装置はこれに限定されない。
例えば、n番目の洗浄槽からオーバーフローした洗浄液は、n−1番目の洗浄槽に供給することなく、系外へ排出してもよい。また、n番目の洗浄槽からオーバーフローした洗浄液の一部をn−1番目の洗浄槽に供給し、残りの洗浄液を系外へ排出してもよい。さらに、n−1番目の洗浄槽にも清浄な洗浄液を供給してもよい。n番目の洗浄槽よりも上流側の洗浄槽からオーバーフローした洗浄液についても同様であり、例えばn−1番目の洗浄槽からオーバーフローした洗浄液をn−2番目の洗浄槽に供給してもよいし、供給しなくてもよい。
【0066】
また、上述した実施形態は、減圧洗浄部と加圧洗浄部が直列に配列し、この配列の両端に減圧洗浄部が位置しているが、本発明の洗浄装置は、少なくとも配列の両端に減圧洗浄部が位置していればよく、配列の途中にも減圧洗浄部が設けられていてもよい。
さらに、洗浄槽の個数(n)については2個以上であれば制限されないが、洗浄装置の小型化の観点から、2〜3個が好ましい。
【0067】
[多孔質中空糸膜の製造方法]
本発明の多孔質中空糸膜の製造方法は、疎水性ポリマーと親水性ポリマーとを含む製膜原液を凝固中で凝固させて多孔質中空糸膜を形成する凝固工程と、前記多孔質中空糸膜を洗浄して多孔質中空糸膜中に残存する親水性ポリマーを除去する親水性ポリマー除去工程とを有する。また、親水性ポリマー除去工程の後には、通常、多孔質中空糸膜を乾燥する乾燥工程を有する。
以下、本発明の多孔質中空糸膜の製造方法について、詳細に説明する。
【0068】
<凝固工程>
本実施形態例の多孔質中空糸膜の製造方法では、まず、疎水性ポリマーと親水性ポリマーとを含む製膜原液を調製する。ついで、この製膜原液を、例えば環状の吐出口が形成されたノズルから凝固液中に吐出し、凝固液中で凝固させる凝固工程により、多孔質中空糸膜を形成する。
【0069】
疎水性ポリマーは、凝固工程により多孔質中空糸膜を形成し得る物質であればよく、そのような物質であれば特に制限なく使用できるが、ポリスルホンやポリエーテルスルホンなどのポリスルホン系樹脂、ポリフッ化ビニリデンなどのフッ素系樹脂、ポリアクリロニトリル、セルロース誘導体、ポリアミド、ポリエステル、ポリメタクリレート、又はポリアクリレートなどが挙げられる。また、これらの樹脂の共重合体を使用してもよいし、これら樹脂や共重合体の一部に置換基を導入したものも使用できる。また、分子量などが異なる同種のポリマーをブレンドして用いてもよく、2種以上の異なる種類の樹脂を混合して使用してもよい。
これらのなかでフッ素系樹脂、中でもポリフッ化ビニリデンやフッ化ビニリデン単体と他の単量体からなる共重合体は、次亜塩素酸などの酸化剤に対する耐久性が優れている。
よって、例えば後述の親水性ポリマー除去工程などで、酸化剤により処理されるような多孔質中空糸膜を製造する場合には、疎水性ポリマーとしてフッ素系樹脂を選択することが好適である。
【0070】
親水性ポリマーは、製膜原液の粘度を多孔質中空糸膜の形成に好適な範囲に調整し、製膜状態の安定化を図るために添加されるものであって、ポリエチレングリコールやポリビニルピロリドンなどが好ましく使用される。これらの中でも、多孔質中空糸膜の孔径の制御や多孔質中空糸膜の強度の点から、ポリビニルピロリドンやポリビニルピロリドンに他の単量体が共重合した共重合体が好ましい。
また、親水性ポリマーには、2種以上の樹脂を混合して使用することもできる。例えば親水性ポリマーとして、より高分子量のものを用いると、膜構造の良好な多孔質中空糸膜を形成しやすい傾向がある。一方、低分子量の親水性ポリマーは、後述の親水性ポリマー除去工程において多孔質中空糸膜からより除去されやすい点で好適である。よって、目的に応じて、分子量が異なる同種の親水性ポリマーを適宜ブレンドして用いてもよい。
【0071】
上述した疎水性ポリマー及び親水性ポリマーをこれらが可溶な溶媒(良溶媒)に混合することにより、製膜原液を調製することができる。製膜原液には、所望によりその他の添加成分を加えてもよい。
溶媒の種類には特に制限はないが、乾湿式紡糸で凝固工程を行う場合には、空走部において製膜原液を吸湿させることによって多孔質中空糸膜の孔径を調整するため、水と均一に混合しやすい溶媒を選択することが好ましい。このような溶媒としては、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドン、又はN−メチルモルホリン−N−オキシドなどが挙げられ、これらを1種以上使用できる。また、溶媒への疎水性ポリマーや親水性ポリマーの溶解性を損なわない範囲で、疎水性ポリマーや親水性ポリマーの貧溶媒を混合して使用してもよい。
製膜原液の温度は、特に制限はないが通常は20〜40℃である。
【0072】
製膜原液中における疎水性ポリマーの濃度は、薄すぎても濃すぎても製膜時の安定性が低下し、好適な多孔質中空糸膜構造が形成されに難くなる傾向にあるため、下限は10質量%が好ましく、15質量%がより好ましい。また、上限は30質量%が好ましく、25質量%がより好ましい。
製膜原液中における疎水性ポリマーの濃度範囲は、10〜30質量%が好ましく、15〜25質量%がより好ましい。
一方、親水性ポリマーの濃度の下限は、多孔質中空糸膜をより形成しやすいものとするために1質量%が好ましく、5質量%がより好ましい。親水性ポリマーの濃度の上限は、製膜原液の取扱性の点から20質量%が好ましく、12質量%がより好ましい。
製膜原液中における親水性ポリマーの濃度範囲は、1〜20質量%が好ましく、5〜12質量%がより好ましい。
【0073】
こうして調製された製膜原液を環状の吐出ノズルなどから吐出して、凝固液に浸漬することによって、疎水性ポリマーが凝固されて、疎水性ポリマーと親水性ポリマーとで構成される多孔質中空糸膜が得られる。ここで親水性ポリマーは、ゲル状態で疎水性ポリマーと三次元的に絡みあっているものと推察される。
吐出後、凝固液を収容した凝固槽に至るまでの間に、空走区間を設けても(乾湿式紡糸)、空走区間を設けなくても(湿式紡糸)よい。
【0074】
また、多孔質中空糸膜の強度をさらに向上させたい場合には、多孔質中空糸膜の内部に補強支持体を配することができる。補強支持体としては、各種の繊維で製紐された中空状の編紐や組紐、又は中空糸膜等が挙げられ、各種素材を単独又は組み合わせて用いることができる。中空編紐や組紐に使用される繊維として、合成繊維、半合成繊維、再生繊維、又は天然繊維等が挙げられ、また繊維の形態は、モノフィラメント、マルチフィラメント、又は紡績糸のいずれであってもよい。
【0075】
凝固工程で使用する凝固液は、疎水性ポリマーの非溶媒で、親水性ポリマーの良溶媒である必要があり、水、エタノール、又はメタノール等やこれらの混合物が挙げられるが、特に製膜原液に用いた溶媒と水との混合液が安全性、又は運転管理の面から好ましい。
【0076】
このように製膜原液を凝固液に吐出すると、製膜原液中に凝固液が拡散するにしたがって、疎水性ポリマーと親水性ポリマーがそれぞれ相分離を起こす。このように相分離が進行しつつ、凝固することにより、疎水性ポリマーと親水性ポリマーとが相互に入り組んだ三次元網目構造の多孔質中空糸膜が得られる。相分離が止まった時点で、次工程である親水性ポリマー除去工程へと移る。
【0077】
<親水性ポリマー除去工程>
上述の凝固工程により形成された多孔質中空糸膜は、一般的に孔径が大きく高透水性を潜在的には有しているが、多孔質中空糸膜中に溶液状態の親水性ポリマーが多量に残存しているため、このままでは十分な高透水性を発揮することが困難となる場合がある。また、親水性ポリマーが膜中で乾固すると、膜の機械的強度の低下の原因にもなる。よって、凝固工程の後には、多孔質中空糸膜中に残存する親水性ポリマーを除去する親水性ポリマー除去工程を行う。
【0078】
本発明においては、親水性ポリマー除去工程として、少なくとも後述の減圧洗浄工程と加圧洗浄工程とを行うことが必要であるが、その前に予備工程として、以下に説明する(i)多孔質中空糸膜の洗浄工程と、(ii)酸化剤を使用した親水性ポリマーの低分子量化工程と、(iii)低分子量化された親水性ポリマーの洗浄工程とを順次実施してもよい。
このような予備工程を実施するか否かは、主に、多孔質中空糸膜の構造によって適宜判断すればよい。例えば、多孔質中空糸膜が多層構造である場合や孔径が緻密である場合などは、(i)〜(iii)の予備工程を実施することが好ましく、所望により、この予備工程を2回以上繰り返して行うことが、後の減圧洗浄工程及び加圧洗浄工程の効果をより高める上で好ましい。
【0079】
(予備工程)
(i)多孔質中空糸膜の洗浄工程
多孔質中空糸膜の洗浄工程で使用する洗浄液としては、清澄で親水性ポリマーが分散又は溶解する液体であれば特に限定されるものではないが、洗浄効果が高いことから水が好ましい。使用する水としては、水道水、工業用水、河川水、又は井戸水等が挙げられ、これらにアルコール、無機塩類、酸化剤、又は界面活性剤等を混合して使用してもよい。また、洗浄液としては、疎水性ポリマーの良溶媒と水との混合液を用いることもできる。
【0080】
多孔質中空糸膜を洗浄液により洗浄する方法としては、例えば洗浄液中に多孔質中空糸膜を浸漬させる方法、又は洗浄液が貯蔵された洗浄槽中に多孔質中空糸膜を走行させる方法などが挙げられる。
洗浄温度は、親水性ポリマーの溶液の粘度を低く抑えて、拡散移動速度の低下を防ぐため、高い方が好適であり、50℃以上が好ましく、より好ましくは80℃以上である。さらに、洗浄液を沸騰させながら洗浄を行うと、沸騰によるバブリングによって多孔質中空糸膜の外表面を掻き取ることもできるため、効率のよい洗浄が可能となる。
前記洗浄温度の範囲は、50℃〜100℃が好ましく、80℃〜100℃がより好ましい。
【0081】
多孔質中空糸膜の洗浄工程によって、多孔質中空糸膜に残存する親水性ポリマーは比較的濃度の低い状態となる。このような低濃度の場合に、より高い洗浄効果を得るためには、(ii)酸化剤を使用した親水性ポリマーの低分子量化工程を行うことが好ましい。
なお、凝固工程により形成された多孔質中空糸膜には、親水性ポリマーの他、製膜原液に用いた溶媒も残存しているが、多孔質中空糸膜の洗浄工程によって多孔質中空糸膜に残存する溶媒は除去される。
【0082】
(ii)酸化剤を使用した親水性ポリマーの低分子量化工程
親水性ポリマーの低分子量化としては、まず、多孔質中空糸膜に酸化剤を含む薬液を保持させ、ついで、薬液を保持した多孔質中空糸膜を気相中で加熱する方法が好ましい。
酸化剤としては、オゾン、過酸化水素、過マンガン酸塩、重クロム酸塩、又は過硫酸塩等を使用することもできるが、酸化力が強く分解性能に優れること、取扱性に優れること、安価なこと等の点より、特に次亜塩素酸塩が好ましい。次亜塩素酸塩としては、次亜塩素酸ナトリウム、又は次亜塩素酸カルシウムなどが挙げられるが、特に次亜塩素酸ナトリウムが好ましい。
【0083】
この際、薬液の温度は50℃以下が好ましく、30℃以下がより好ましい。50℃より高温であると、多孔質中空糸膜の浸漬中に酸化分解が促進され、薬液中に脱落した親水性ポリマーがさらに酸化分解し、酸化剤の浪費が進んでしまう。一方、過度に低温であると、酸化分解は抑制されるものの、常温で実施する場合と比較して、低温に温度制御するためのコストなどが増加する傾向にある。よって、その点からすると、薬液の温度は0℃以上が好ましく、10℃以上がより好ましい。
前記薬液の温度の範囲は、0℃〜50℃が好ましく、10℃〜30℃がより好ましい。
【0084】
多孔質中空糸膜に薬液を保持させたあとは、多孔質中空糸膜を気相中で加熱することにより、親水性ポリマーを酸化分解する。気相中での加熱によれば、多孔質中空糸膜中に保持された薬液が大きく希釈されたり、薬液が加熱媒体中へ脱落溶出したりすることがほとんどなく、薬液中の酸化剤が多孔質中空糸膜中に残存する親水性ポリマーの分解に効率よく使用されるため好ましい。
【0085】
具体的な加熱方法としては、大気圧下で加熱流体を用いて多孔質中空糸膜を加熱することが好ましい。加熱流体としては相対湿度の高い流体を使用すること、すなわち湿熱条件で加熱を行うことが、次亜塩素酸塩などの酸化剤の乾燥を防ぎ、効率的な分解処理が可能となるため好ましい。その際、流体の相対湿度としては80%以上が好ましく、90%以上とすることがより好ましく、100%近傍とするのが最も好ましい。
前記相対湿度の範囲は、80%〜100%が好ましく、90%〜100%がより好ましい。
加熱温度の下限は、連続処理を行う場合、処理時間を短くできることから50℃とするのが好ましく、80℃がより好ましい。温度の上限は、大気圧状態では100℃とするのが好ましい。
大気圧状態での前記加熱温度の範囲は、50℃〜100℃が好ましく、80℃〜100℃がより好ましい。
【0086】
(iii)低分子量化された親水性ポリマーの洗浄工程
このように、(ii)酸化剤を使用した親水性ポリマーの低分子量化工程を実施した後には、上述した(i)多孔質中空糸膜の洗浄工程と同様の条件にて、再度、多孔質中空糸膜を洗浄液に浸漬して洗浄し、低分子量化された親水性ポリマーをある程度除去することが好ましい。
【0087】
(減圧洗浄工程及び加圧洗浄工程)
以上のようにして所望により予備工程を行った後、洗浄液を収容したn個(ただし、nは2以上である。)の洗浄槽内を順次通過する多孔質中空糸膜に対し、減圧洗浄工程と加圧洗浄工程とを行う。
減圧洗浄工程は、洗浄液で浸漬された多孔質中空糸膜の外周側の洗浄液を減圧して、前記多孔質中空糸膜の内周側から外周側へ洗浄液を通液させる工程であって、多孔質中空糸膜の外周側の圧力が内周側(中空部)よりも低くなるようにし、その際の圧力差により親水性ポリマーを多孔質中空糸膜の外周側へと移動させ、除去する工程である。
一方、加圧洗浄工程は、洗浄液で浸漬された多孔質中空糸膜の外周側の洗浄液を加圧し、前記多孔質中空糸膜の外周側から内周側へ洗浄液を供給する工程であって、多孔質中空糸膜中の親水性ポリマーを洗浄液によって置換したり希釈したりしながら、膜中空部に押し込む工程である。加えて、多孔質中空糸膜の外周側の圧力が内周側よりも高くなるようにし、上述した減圧洗浄工程において内周側から外周側へ通液する洗浄液量を増やす工程である。これにより、親水性ポリマーの除去効果が向上する。
これら減圧洗浄工程と加圧洗浄工程とを行うことで、予備工程を行ってもなお残存している親水性ポリマーであっても、効果的に除去することができる。
【0088】
減圧洗浄工程及び加圧洗浄工程は合計でm
2回(ただし、m
2は3以上の整数である。)行われ、少なくとも1回目とm
2回目は減圧洗浄工程である。
また、加圧洗浄工程は少なくとも1〜(n−1)番目のいずれかの洗浄槽を通過する多孔質中空糸膜に対して行われる。
以下、減圧洗浄工程と加圧洗浄工程の具体的な方法の一例として、
図1に示す本発明の洗浄装置1を使用した方法について説明する。
なお、本発明においては、例えば減圧洗浄工程、加圧洗浄工程、及び減圧洗浄工程の順で、減圧洗浄工程と加圧洗浄工程を合計で3回行う場合、1回目に行われる減圧洗浄工程を1番目の減圧洗浄工程、2回目に行われる加圧洗浄工程を2番目の加圧洗浄工程、3回目に行われる減圧洗浄工程を3番目の減圧洗浄工程とよぶ。
【0089】
まず、1番目の洗浄槽11に収容した洗浄液L中に、第一の減圧洗浄部20の流路部材23と、加圧洗浄部30の流路部材33とを浸漬させる。一方、2番目の洗浄槽12に収容した洗浄液L中に、第二の減圧洗浄部40の流路部材43を浸漬させる。これにより、流路部材23,33,43の開口21a,21b,31a,31b,41a,41bから中空糸膜走行流路21,31,41及び分岐流路22,32,42内に洗浄液Lが流入し、洗浄液Lで満たされた状態となる。
このような洗浄液Lで満たされた中空糸膜走行流路21,31,41内を順次通過するように、凝固工程及び所望により予備工程を経た多孔質中空糸膜Mを連続的に走行させる。
多孔質中空糸膜Mの走行速度は、10〜100m/分が好ましく、20〜60m/分がより好ましい。
【0090】
1番目の洗浄槽11に多孔質中空糸膜Mが浸漬されると、洗浄液Lが多孔質中空糸膜Mを通過し、多孔質中空糸膜Mの内周側に導入される。
その後、第一の減圧洗浄部20において、液体吸引手段24により、中空糸膜走行流路21内の洗浄液Lを分岐流路22及び第一の配管24cを通じて吸引し、中空糸膜走行流路21内の洗浄液Lの圧力を低下させる。中空糸膜走行流路21内の洗浄液Lの圧力は、少なくとも多孔質中空糸膜Mの内部の圧力よりも低くなるように減圧する。これにより、多孔質中空糸膜Mを通過し、多孔質中空糸膜Mの内周側へ導入された洗浄液Lが、再び多孔質中空糸膜Mを通過して外周側へ排出される(1番目の減圧洗浄工程)。その結果、多孔質中空糸膜M中に残存する親水性ポリマーが洗浄液Lとともに分岐流路22から除去される。
【0091】
引き続き、加圧洗浄部30において、液体圧入手段34により1番目の洗浄槽11内の洗浄液Lを吸引し、この吸引した洗浄液Lを分岐流路32を通じて圧入し、中空糸膜走行流路31内の洗浄液Lの圧力を上昇させる。中空糸膜走行流路31内の洗浄液Lの圧力は、少なくとも多孔質中空糸膜Mの内部の圧力よりも高くなるように加圧する。これにより、多孔質中空糸膜Mの外周側から内周側に洗浄液Lが供給される(2番目の加圧洗浄工程)。すると、多孔質中空糸膜M中の親水性ポリマーが洗浄液Lによって置換されたり希釈されたりしながら、膜中空部に押し込まれる。加えて、上流側の第一の減圧洗浄部20において、多孔質中空糸膜Mの内周側から外周側へ通液する洗浄液量が増え、その結果、親水性ポリマーの除去効果が大きくなる。
【0092】
第一の減圧洗浄部20及び加圧洗浄部30を通過した多孔質中空糸膜Mは、規制手段60によって1番目の洗浄槽11から導出され、引き続き2番目の洗浄槽12へ導入される。
2番目の洗浄槽12に多孔質中空糸膜Mが浸漬されると、洗浄液Lが多孔質中空糸膜Mを通過し、多孔質中空糸膜Mの内周側に導入される。
その後、第二の減圧洗浄部40において、液体吸引手段44により、中空糸膜走行流路41内の洗浄液Lを分岐流路42及び第一の配管44cを通じて吸引し、中空糸膜走行流路41内の洗浄液Lの圧力を低下させる。中空糸膜走行流路41内の洗浄液Lの圧力は、少なくとも多孔質中空糸膜Mの内部の圧力よりも低くなるように減圧する。これにより、多孔質中空糸膜Mを通過し、多孔質中空糸膜Mの内周側へ導入された洗浄液Lが、再び多孔質中空糸膜Mを通過して外周側へ排出される(3番目の減圧洗浄工程)。その結果、加圧洗浄部30にて膜中空部に押し込まれた親水性ポリマーが洗浄液Lとともに除去される。また、多孔質中空糸膜M中に残存する親水性ポリマーのうち、多孔質中空糸膜Mの多孔質部の壁面に付着しているものなど、特に除去されにくいものに対しても高い除去効果を発揮することができる。
【0093】
減圧洗浄工程及び加圧洗浄工程を行う際は、清浄な洗浄液を供給手段50から2番目の洗浄槽12に供給する。また、オーバーフロー管12aによって2番目の洗浄槽12からあふれた洗浄液を1番目の洗浄槽11へ排出する。さらにオーバーフロー管11aによって1番目の洗浄槽11からあふれた洗浄液を系外へ排出する。
【0094】
前記加圧洗浄工程の圧力範囲は、0.01MPa以上1MPa未満が好ましく、0.05MPa以上0.5MPa未満がより好ましく、0.1MPa以上0.3MPa未満が更に好ましい。
前記減圧洗浄工程の圧力範囲は、−0.1MPa以上0MPa未満が好ましく、−0.09MPa以上−0.03MPa未満がより好ましく、−0.08MPa以上−0.04MPa未満が更に好ましい。
【0095】
<乾燥工程>
乾燥工程では、親水性ポリマーの除去工程が実施された多孔質中空糸膜を乾燥する。
乾燥工程の方法としては特に制限はなく、多孔質中空糸膜を熱風乾燥機などの乾燥装置に導入する方法で行えばよい。
【0096】
本発明者らは鋭意検討した結果、以下の(1)〜(4)を全て満たす場合、下記関係式(A)が成立する事が分かった。
(1)n個の洗浄槽があり、全ての洗浄槽に1個の圧力付与部がある。
(2)各槽の洗浄液は流入してきた洗浄液量が全量前段(上流)の水槽にオーバーフローする。n番目の洗浄槽に1分間に供給する洗浄液量、及び1番目の洗浄槽から1分間に流出する洗浄液量が等しく、その量は1分間あたりV(g)である。
(3)1番目の洗浄槽に膜が1分間に持ち込む水分量、及びn番目の洗浄槽から多孔質中空糸膜が1分間に持ち出す水分量が等しく、その量は1分間あたりM(g)である。
(4)1番目の洗浄槽に導入される多孔質中空糸膜において、多孔質中空糸膜中に含まれる膜残存物質量濃度がX
0(%)であり、1番目の洗浄槽を出た多孔質中空糸膜中に含まれる膜残存物質濃度がX
1(%)であり、同様にn番目の水槽において、多孔質中空糸膜中に含まれる膜残存物質濃度がX
n−1(%)であり、かつ、n番目の洗浄槽を出た多孔質中空糸膜中に含まれる膜残存物質濃度がX
n(%)である。
【0098】
同様に、(1)、(2´)、(3)、及び(4)を全て満たす場合、以下の関係式(B)が成立する事が分かった。
(2´)各槽に、それぞれ個別に1分間あたりV(g)の洗浄液を供給する。
【0100】
前記関係式(A)、及び(B)について、それぞれ洗浄槽の個数nを変えた時の洗浄液希釈率(V/M)と膜残存物質除去率(1−(X
n/X
0))の関係を示したグラフを
図7に示す。
【0101】
図7において、「n=2((2´)各槽に洗浄液を供給)」及び「n=3((2´)各槽に洗浄液を供給)」は、前記関係式(B)の結果を示す。
また、前記関係式(B)の場合、各槽に、それぞれ個別に新鮮な洗浄液を供給することから、全体の洗浄液の供給量は前記関係式(A)の供給量の洗浄槽個数倍となる。即ち、
図7の「n=2((2´)各槽に洗浄液を供給)」及び「n=3((2´)各槽に洗浄液を供給)」においては、横軸はn×V/Mとなる。
【0102】
図7より明らかなように、洗浄液希釈率に対する膜残存除去率の特性を表す曲線は、後述の実施例、及び比較例の洗浄槽個数及び洗浄液希釈率を変えた際の洗浄液希釈率に対する膜残存除去率の特性とよく一致することが分かった。
【0103】
図7から、洗浄槽が1個の洗浄装置に比べ、洗浄槽の数が2個以上ある洗浄装置の方が膜残存物質の除去効率が良いことが分かった。
洗浄槽の個数nは2個以上が好ましく、3個以上がより好ましい。洗浄槽の個数が多い方がより洗浄効果は高いが、スペース制限や投資効果等の理由から、洗浄槽の個数nは10個以下が好ましく、8個以下がより好ましく、6個以下が最も好ましい。
洗浄槽の個数nの範囲は、2個以上10個以下が好ましく、3個以上8個以下がより好ましく、3個以上6個以下が更に好ましい。
洗浄液希釈率V/Mは、洗浄槽の数が1個の場合に比べ、洗浄槽が2個以上ある方が膜残存物質の除去効率の差が顕著であることを示す。前記洗浄液希釈率V/Mは0.5≦V/M≦100の範囲が好ましく、1≦V/M<50の範囲がより好ましく、膜残存物質の除去率が90%以上ある3≦V/M<30の範囲が更に好ましい。
【0104】
<作用効果>
以上説明したような方法によれば、親水性ポリマー除去工程において減圧洗浄工程、加圧洗浄工程、及び減圧洗浄工程の順で、減圧洗浄工程と加圧洗浄工程を合計3回行う場合、3番目の減圧洗浄工程を、1番目の減圧洗浄工程及び2番目の加圧洗浄工程とは、別の洗浄槽を通過する多孔質中空糸膜に対して行う。すなわち、1番目の減圧洗浄工程及び2番目の加圧洗浄工程は、1番目の洗浄槽を通過する多孔質中空糸膜に対して行い、3番目の減圧洗浄工程は、その後の2番目の洗浄槽を通過する多孔質中空糸膜に対して行う。このとき、多孔質中空糸膜に残存する親水性ポリマーの大部分は、1番目の減圧洗浄工程及び2番目の加圧洗浄工程によって除去される。従って、2番目の洗浄槽には、親水性ポリマー等の残存物が少ない多孔質中空糸膜が通過するため、2番目の洗浄槽中の洗浄液は親水性ポリマーによって汚染されにくい。さらに、2番目の洗浄槽には、清浄な洗浄液が供給されるとともに、オーバーフローした洗浄液を1番目の洗浄槽へ排出する。そのため、3番目の減圧洗浄工程では、比較的清浄な洗浄液で多孔質中空糸膜を洗浄できるので、過剰な洗浄液を使用しなくても、親水性ポリマーが多孔質中空糸膜中に取り込まれたり、多孔質中空糸膜表面に再付着したりするのを抑制できる。
【0105】
従って、本発明の多孔質中空糸膜の製造方法によれば、洗浄液の使用量を抑制しつつ、膜保持水中の残存物質濃度を低減でき、かつ親水性ポリマーの再付着を防止できる。加えて、2番目の洗浄槽から排出した洗浄液を1番目の洗浄槽に供給し、1番目の減圧洗浄工程及び2番目の加圧洗浄工程での洗浄に再利用できるので、洗浄液の使用量を削減できる。
【0106】
<他の実施形態>
本発明の多孔質中空糸膜の製造方法は、上述した方法に限定されない。
例えば、親水性ポリマー除去工程において
図3に示すような洗浄装置2を用い、1番目の洗浄槽11を通過する多孔質中空糸膜Mに対して1番目の減圧洗浄工程を行い、2番目の洗浄槽12を通過する多孔質中空糸膜Mに対して2番目の加圧洗浄工程を行い、3番目の洗浄槽13を通過する多孔質中空糸膜Mに対して3番目の減圧洗浄工程を行ってもよい。
【0107】
また、親水性ポリマー除去工程において加圧洗浄工程を2回以上行ってもよい。
加圧洗浄工程を2回以上行う場合は、少なくともn番目の洗浄槽を通過する多孔質中空糸膜に対しても加圧洗浄工程を行うのが好ましく、例えば
図4〜6に示すように、n番目の洗浄槽を通過する多孔質中空糸膜Mに対して、加圧洗浄工程を行った後で、引き続き減圧洗浄工程を行うのが好ましい。
【0108】
上述したように、1〜(n−1)番目の洗浄槽中の洗浄液は、多孔質中空糸膜から除去された親水性ポリマーや酸化剤によって汚染されやすい。加圧洗浄工程では、この汚染された洗浄液を多孔質中空糸膜の外周側から内周側へ供給するので、膜を伝って汚染された洗浄液がn番目の洗浄槽に逆流する場合があり、この場合、n番目の洗浄槽中に洗浄液も汚染される恐れがある。
しかし、n番目の洗浄槽(
図4及び5の場合は2番目の洗浄槽12、
図6の場合は3番目の洗浄槽13)を通過する多孔質中空糸膜Mに対しても加圧洗浄工程を行えば、n−1番目の洗浄槽(
図4及び5の場合は1番目の洗浄槽11、
図6の場合は2番目の洗浄槽12)を通過する多孔質中空糸膜Mに対して、最後に行われた加圧洗浄工程により多孔質中空糸膜Mの内周側へ供給された洗浄液が、n番目の洗浄槽に逆流するのを防止でき、その結果、n番目の洗浄槽中の洗浄液が汚染されるのをより効果的に防げる。
【0109】
また、減圧洗浄工程及び加圧洗浄工程に先立って予備工程を行う場合は、酸化剤による洗浄液の汚染が懸念される。
しかし、n番目の洗浄槽を通過する多孔質中空糸膜Mに対しても加圧洗浄工程を行えば、n番目の洗浄槽に洗浄液が逆流するのを防止できる。よって、n番目の洗浄槽の洗浄液が汚染されるのを防ぐとともに、n番目の洗浄槽や、これに収められた加圧洗浄部及び第二の減圧洗浄部を構成する部材が酸化剤で腐食するのも防止できる。ただし、上流側の洗浄槽(特に1番目の洗浄槽)の洗浄液には、多孔質中空糸膜から除去された酸化剤が多く含まれるので、上流側の洗浄槽や、これに収められた第一の減圧洗浄部及び加圧洗浄部を構成する部材は、耐腐食性を有する材質(例えばチタンなど)にしておくのが好ましい。
【0110】
なお、上述した実施形態は、n番目の洗浄槽からオーバーフローした洗浄液をn−1番目の洗浄槽に供給し、n−1番目の洗浄槽からオーバーフローした洗浄液をn−2番目の洗浄槽にさらに供給するといったように、下流側の洗浄槽から上流側の洗浄槽へと次々に洗浄液を供給し、多孔質中空糸膜の洗浄に再利用しているが、本発明はこれに限定されない。
例えば、n番目の洗浄槽からオーバーフローした洗浄液は、n−1番目の洗浄槽に供給することなく、系外へ排出してもよい。また、n番目の洗浄槽からオーバーフローした洗浄液の一部をn−1番目の洗浄槽に供給し、残りの洗浄液を系外へ排出してもよい。さらに、n−1番目の洗浄槽にも清浄な洗浄液を供給してもよい。n番目の洗浄槽よりも上流側の洗浄槽からオーバーフローした洗浄液についても同様であり、例えばn−1番目の洗浄槽からオーバーフローした洗浄液をn−2番目の洗浄槽に供給してもよいし、供給しなくてもよい。
【0111】
また、上述した実施形態は、減圧洗浄工程と加圧洗浄工程とを合計でm
2回行う際に、1回目とm
2回目を減圧洗浄工程としているが、本発明の多孔質中空糸膜の製造方法は、少なくとも1回目とm
2回目が減圧洗浄工程であればよく、途中でも減圧洗浄工程を行ってもよい。
なお、減圧洗浄工程と加圧洗浄工程の回数は、合計で3回以上が好ましい。
【0112】
本発明の洗浄とは、多孔質中空糸膜中に保持されている水分の少なくとも一部を、外周側の洗浄液と置換することにより、多孔質中空糸膜を本質的に構成する物質以外の物質であって、前記多孔質中空糸膜の製造工程に由来し、例えば前記多孔質中空糸膜の製造工程で用いる親水性ポリマー又は前記多孔質中空糸膜の製造工程で副次的に生成する物質などを除去することである。
本発明の除去とは、前記多孔質中空糸膜が保持する、前記多孔質中空糸膜を本質的に構成する物質以外の物質で、多孔質部より抽出可能な物質量を、洗浄前の残存量に対して、50%以下まで減少させ、好ましくは30%以下まで減少させ、より好ましくは10%以下まで減少させることである。
本発明の除去とは、前記多孔質中空糸膜が保持する、前記多孔質膜を本質的に構成する物質以外の物質で、多孔質部より抽出可能な物質量を、洗浄前の残存量に対して、50%以下まで減少させ、好ましくは30%以下まで減少させ、より好ましくは10%以下まで減少させることである。
【0113】
以下、実施例により本発明を詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されない。
[実施例1]
(凝固工程)
表1に示す質量比となるように、ポリフッ化ビニリデンA(アトフィナジャパン製、商品名カイナー301F)、ポリフッ化ビニリデンB(アトフィナジャパン製、商品名カイナー9000LD)、ポリビニルピロリドン(ISP社製、商品名K−90)、及びN,N−ジメチルアセトアミドをそれぞれ混合して、製膜原液(1)及び製膜原液(2)を調製した。
ついで、中心に中空部が形成され、その外側に、2種の液を順次塗布できるように環状の吐出口が二重に順次形成されたノズル(特開2005−42074号公報の
図1参照。)を用意し、これを30℃に保温した状態で、中空部には多孔質基材としてポリエステル製マルチフィラメント単繊組紐(マルチフィラメント;830T/96F、16打ち)を導入するとともに、その外周に製膜原液(2)、及び製膜原液(1)を内側から順次塗布し、80℃に保温した凝固液(N,N−ジメチルアセトアミド5質量部と水95質量部との混合液)中で凝固させた。このようにして、外表面近傍に分画層を1層有し、内部に向かって孔径が増大する傾斜構造の多孔質層が組紐にコーティングされた中空糸膜を得た。塗布された製膜原液(1)及び(2)のうち、中空糸膜の膜構造を形成する主原液は、外側に塗布された製膜原液(1)である。
更に、この中空糸膜の外径よりも大きい内径の中空部が中心に形成され、その外側に、2種の液を順次塗布できるように環状の吐出口が二重に順次形成されたノズル(特開2005−42074号公報の
図1参照。)を用意し、これを30℃に保温した状態で、中空部には上述のようにして得られた中空糸膜を導入するとともに、その外周にグリセリン(和光純薬工業製 一級)、及び製膜原液(1)を内側から順次塗布し、先に使用したものと同じ80℃に保温された凝固液中で凝固させた。このようにしてさらに多孔質層がコーティングされた2層構造で組紐支持体を有する多孔質中空糸膜を得た。
このときの紡糸速度(中空糸膜の走行速度)は8.8m/minとした。
【0115】
(親水性ポリマー除去工程)
こうして得られた多孔質中空糸膜について、次のようにして、親水性ポリマー除去工程を実施した。
(1)予備工程
予備工程として、以下の(i)〜(iii)の工程を2回繰り返して行った。
(i)中空糸膜の洗浄工程
100℃の沸騰水が入れられた洗浄槽中に、多孔質中空糸膜を滞在時間5分間の条件で浸漬し、洗浄を行った。
(ii)酸化剤を使用した親水性ポリマーの低分子量化工程
次に、温度30℃、濃度60000mg/Lの次亜塩素酸塩の水溶液が入れられた水槽中に、多孔質中空糸膜を滞在時間1分間の条件で浸漬した。その後、温度85℃、相対湿度100%の湿熱中、滞在時間3分間の条件で加熱し、親水性ポリマーを低分子量化した。
(iii)低分子量化された親水性ポリマーの洗浄工程
次に、この多孔質中空糸膜を(i)と同じ条件で再度洗浄した。
(2)減圧洗浄工程−加圧洗浄工程−減圧洗浄工程
図1に示すように、洗浄液として温度70℃の水が入れられた洗浄槽11及び洗浄槽12を用意し、洗浄槽11中に、2つの中空糸膜走行流路21及び31を間隔をあけて直列に配置した。更に洗浄槽12に1つの中空糸膜走行流路41を配置した。そして、これらの中空糸膜走行流路21、31又は41に前段側(上流側)から多孔質中空糸膜Mを順次導入するとともに、3つのうち最前段(最も上流側)の中空糸膜走行流路21の分岐流路22と最後段(最も下流側)の中空糸膜走行流路41の分岐流路42には減圧手段(液体吸引手段24又は44)を接続し、表2に示すように、第1の減圧洗浄部の減圧手段(液体吸引手段24)のゲージ圧が−0.05MPa、及び第2の減圧洗浄部の減圧手段(液体吸引手段44)のゲージ圧が−0.05MPaとなるように減圧した。また、3つのうち中央の中空糸膜走行流路31の分岐流路32に接続された液体圧入手段からは、ゲージ圧が0.3MPaとなるように70℃の水を洗浄液として供給した。各中空糸膜走行流路21、31及び41における中空糸膜Mの滞在時間はいずれも約3秒間とした。
多孔質中空糸膜Mが1分間に洗浄槽に持ち込む水分量を測定した所、211.2g/minだった。
また、1分間に洗浄槽11へ導入される多孔質中空糸膜M中に含まれる膜残存物質量は6.5g/minだった。
洗浄槽12の多孔質中空糸膜Mの走行方向に対して下流側の末端より、1分間あたり4000g洗浄液を供給した。さらに、洗浄液は洗浄槽12の多孔質中空糸膜Mの走行方向に対して上流側より洗浄槽11へ全量オーバーフローして流れ込み、洗浄槽11の多孔質中空糸膜Mの走行方向に対して上流側より1分間あたり4000gを排出した。
洗浄槽12の洗浄液中の残存物質濃度及び膜中に含まれる膜残存物質の除去率を表3に示す。
【0117】
(乾燥工程)
親水性ポリマー除去工程後に、95℃×3分間の条件の乾燥工程に多孔質中空糸膜Mを通過させた。
【0118】
このような凝固工程、親水性ポリマー除去工程、及び乾燥工程により製造された2層構造で組紐支持体を有する多孔質中空糸膜は、外径2.8mm、及び内径1.0mmであった。
【0119】
(残存している膜残存物質の量の測定)
所定の長さに多孔質中空糸膜を切り出し、これをN,N−ジメチルアセトアミドに加え、前記多孔質中空糸膜を溶解させた。ついで、不溶成分である多孔質基材を取り除いた後の溶液をガラス板上で蒸発乾固させて、厚さ20μm程度のフィルムを得た。ついで、このフィルムをサンプルとして、赤外分光光度計により吸光度スペクトルを測定した。
そして、ポリフッ化ビニリデンのC−F伸縮振動による吸収強度を100%とした際に、ポリビニルピロリドンのカルボニル基伸縮振動の吸収強度が何%に相当するかをこれら吸収強度の比から求め、この値(%)を残存している膜残存物質(ポリビニルピロリドン)の残存量とした。
【0120】
(膜残存物質の除去率)
洗浄槽に導入される前の膜残存物質X
0とn番目の洗浄槽から出て行く膜残存物質Xnの比X
0/Xnを1から引いた数値を膜残存物質の除去率と定義した。
【0121】
(洗浄槽の洗浄液中残存物質濃度の測定)
一般に使用されている蒸発乾固法により洗浄槽の洗浄液中の残存物質濃度を測定した。
【0122】
[比較例1]
図8に示すように洗浄槽11を1個だけ用い、その洗浄槽中に第一の減圧洗浄部20−加圧洗浄部30−第二の減圧洗浄部40を配置し、洗浄槽11の多孔質中空糸膜Mの走行方向に対して下流側の末端より、1分間あたり4000gの洗浄液を供給し、洗浄槽11の多孔質中空糸膜Mの走行方向に対して上流側より1分間あたり4000gを排出した以外は、実施例1と同様にして多孔質中空糸膜を製造した。
洗浄槽11の洗浄液中の残存物質濃度及び膜中に含まれる膜残存物質の除去率を表3に示す。
また、得られた多孔質中空糸膜の外径及び内径は実施例1と同じであった。
【0123】
[実施例2]
洗浄液の供給量を1000g/minとした以外は、実施例1と同様にして中空糸膜を製造した。
【0124】
[実施例3]
洗浄液の供給量を200g/minとした以外は、実施例1と同様にして中空糸膜を製造した。
【0125】
[比較例2]
洗浄液の供給量を1000g/minとした以外は、比較例1と同様にして中空糸膜を製造した。
【0126】
[比較例3]
洗浄液の供給量を200g/minとした以外は、比較例1と同様にして中空糸膜を製造した。
【0128】
表3に示すように、親水性ポリマー除去工程において同じ洗浄液希釈率とした場合、洗浄槽が1個である比較例に比べて、洗浄槽が2個以上ある実施例のほうが最終段槽(最下流側の洗浄槽)における洗浄液中の残存物質濃度が低く、かつ膜残存物資の除去率が高かった。すなわち、洗浄槽を2個以上有する洗浄装置の方が、洗浄槽を1個のみ有する洗浄装置に比べ、洗浄液の使用量を抑制しつつ、膜保持水中の残存物質濃度を低減することができた。