【文献】
日本溶射協会,溶射技術ハンドブック,日本,株式会社新技術開発センター,1998年 5月30日,初版 第1刷,p.343
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記セラミック基材の表面に、規則的なアンカー用凹部が形成されており、該アンカー用凹部上に前記金属の溶射膜を形成する、請求項1または2に記載のセラミック部材の製造方法。
溶融ガラスを製造する手段と、得られた溶融ガラスを成形する成形手段と、成形後のガラスを徐冷する徐冷手段とを有し、1500℃未満の溶融ガラスに接触する部材に、請求項4または5に記載のセラミック部材が用いられている、ガラス物品の製造装置。
溶融ガラスを製造する手段と、得られた溶融ガラスを成形する成形手段と、成形後のガラスを徐冷する徐冷手段とを有し、1400℃以下の溶融ガラスに接触する部材に、請求項6に記載のセラミック部材が用いられている、ガラス物品の製造装置。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<セラミック部材>
図1は、本発明のセラミック部材の一実施形態を示した断面図である。符号1はセラミック基材、符号2は金属溶射膜、3はアンカー用凹部をそれぞれ示す。
本発明のセラミック部材は、セラミック基材1と、その表面上に設けられた金属溶射膜2を有し、セラミック基材1と金属溶射膜2との界面の空間に、セラミック基材から滲み出したガラス相(図示せず)が充填されている。
【0016】
<セラミック基材>
セラミック基材1としては、ガラス相を3〜30質量%含むレンガが用いられる。溶融ガラスに対する耐食性を得るために緻密性が高いレンガが好ましく、この観点で下記するジルコニア等を主体とする電鋳レンガまたはジルコンを主成分とする焼結レンガが用いられる。
ガラス相の含有量が3質量%未満であると、後述する熱処理を行った際に、セラミック基材1からガラス相が滲み出す現象が生じ難い。30質量%を超えるとガラス相の滲み出し量が多くなり金属溶射膜が膨れる問題が生じやすい。
【0017】
[電鋳レンガ]
電鋳レンガは、ジルコニア、アルミナ、珪酸アルミナ、ジルコン−ムライト、シリカおよびチタニアからなる群から選ばれる少なくとも1種を構成成分とし、これらの原料を電気炉で完全に溶解して鋳造するレンガであり、実質的に結晶相とガラス相とからなる。本発明では、公知の電鋳レンガの中から、ガラス相の含有量が3〜30質量%のものを選択して用いることができる。
本発明におけるセラミック基材中のガラス相の含有量は、断面写真に基づき、結晶相とガラス相の面積の合計に対するガラス相の面積率を求め、これを質量率に換算することにより得られる値である。具体的には、金属溶射膜を被覆するセラミック基材の緻密な表面から50mm以内の表層において、電子顕微鏡によって50〜100倍で撮影した反射電子像(組成像)を用いて、ガラス相と結晶相を二値化して求める。
本発明で用いられる電鋳レンガの具体例としては、AZS(Al
2O
3-SiO
2-ZrO
2)レンガ、ジルコニアの含有量を高めた高ジルコニア質レンガ等が挙げられる。これらのうちAZSレンガは、加熱または熱変動時に生じるクラックが生じ難いため好ましい。
AZSレンガのガラス相の含有量は、10〜25質量%が好ましく、15〜20質量%がより好ましい。AZSレンガのガラス相の含有量は、原料の配合比によって調整できる。
AZSレンガの組成として、Al
2O
3が40〜55質量%、SiO
2が10〜15質量%、ZrO
2が30〜45質量%、Na
2Oが0.5〜2.5質量%が好ましい。他の成分、例えば、ガラス相を構成する各種金属酸化物及び不可避不純物などが、2%以下が好ましく、1%以下がより好ましい。
高ジルコニア質レンガのガラス相の含有量は、2〜20質量%が好ましく、4〜15質量%がより好ましい。高ジルコニア質レンガのガラス相の含有量は、調合によって調整できる。
高ジルコニア質レンガの組成として、Al
2O
3が0.5〜20質量%、SiO
2が2〜10質量%、ZrO
2が80〜96質量%が好ましい。他の成分は、例えば、ガラス相を構成する各種金属酸化物及び不可避不純物などが、Na
2Oを含めて、好ましくは3%以下、2%以下がより好ましい。
【0018】
[ジルコンを主成分とする焼結レンガ]
ジルコンを主成分とする焼結レンガは、ジルコンを80〜96質量%含有する焼結レンガであり、実質的に結晶相とガラス相とからなる。本発明では、公知のジルコンを主成分とする焼結レンガの中から、ガラス相の含有量が3〜30質量%のものを選択して用いることができる。
ジルコンを主成分とする焼結レンガにおけるガラス相の含有量は、3〜10質量%が好ましく、4〜10質量%がより好ましい。ジルコンを主成分とする焼結レンガのガラス相の含有量は、原料粉末の配合比によって調整できる。
ジルコンを主成分とする焼結レンガの組成として、SiO
2が30〜45質量%、ZrO
2が50〜70質量%、他の金属酸化物が5質量%以下が好ましい。
【0019】
[アンカー用凹部]
セラミック基材1の表面に、規則的なアンカー用凹部3が形成されていることが好ましい。アンカー用凹部3を設けることにより、セラミック基材1と金属溶射膜2との密着強さがより向上する。特にセラミック基材1の表面に平行な方向の引っ張り応力に対する密着強さが向上する。
図2はアンカー用凹部3の形状の一例を示すもので、(a)は平面図、(b)は(a)中のB−B線に沿う断面図である。
本例のアンカー用凹部3は、断面形状が長方形である複数の直線溝gが格子状に設けられている。各溝gの側面は、セラミック基材1の表面に対して垂直であり、溝幅wは一定である。
アンカー効果が効果的に得られるには、アンカー用凹部3を構成する溝gにはある程度の深さが必要であるが、深すぎると、セラミック基材1の表層部分の強度を低下させ、加工も難しい。例えば、溝gの深さdは、50〜350μm程度が好ましく、より好ましくは150〜250μm程度である。
【0020】
金属溶射膜2とセラミック基材1との間で発生する応力の分散度は、溝ピッチ(溝間間隔であり、隣接する溝のそれぞれの中央線間の距離を指す。)pによって変わり、応力を分散して一箇所にかかる応力を小さくするには溝ピッチpを小さくすることが好ましい。金属溶射膜2の応力耐久性及びセラミック基材1の強度を勘案すると、溝ピッチpは、2.5mm程度以下が好ましく、より好ましくは1.5mm程度以下である。同じ理由により、溝幅wも狭い方が好ましく、又、セラミック基材1の表層部分の強度を保持する点でも溝幅wは狭い方が好ましい。但し、溶射される金属粒子の粒径より溝幅wが狭いと、溶射粒子で溝を充填できないので、溝幅wは、溶射粒子の粒径以上とする。例えば、溝幅wは100μm以上が好ましく、150μm程度以上がより好ましい。
【0021】
隣り合う溝gの間の凸部が応力に抗して破断しない強度を保有するためには、応力に応じた凸部幅x(=溝間間隔、溝ピッチpと溝幅wとの差)を確保する必要がある。金属溶射膜2から加わる、セラミック基材1の表面に平行な方向の引っ張り応力は、セラミック基材1上に形成される金属溶射膜2の厚さmが厚いほど大きくなる。この点で、凸部の幅xは、金属溶射膜2の厚さmの4倍程度以上であると好ましい。更に、溝ピッチpを小さくする点を考慮すると、好ましい凸部の幅xは、膜の厚さmの2.5〜5倍程度となる。
【0022】
溝gの側面にかかる応力は、溝が深い(すなわち、側面が大きい)ほど側面全体に応力が分散し、凸部が破断し難くなる。従って、溝の深さdに対する溝ピッチpの割合(p/d)が小さいほど、応力の分散性が高く、金属溶射膜2の剥離を抑制し易くなる。前述の好適な溝ピッチp及び溝の深さdに基づいて応力が適切に分散されるp/d値を求めると、好ましくは3〜8程度となる。
【0023】
なお、アンカー用凹部は、
図2に示す形状のものに限られない。例えば略円柱状の孔が規則的に形成されていてもよい。
図2に示すような溝3の代替として断続的な孔を形成する場合は、直交格子(碁盤目)の交差位置に孔を形成することが好ましい。または孔ピッチ距離が均一となるように千鳥状(互い違い状:Staggered Layout)の位置に配置されていることが好ましい。例えば、孔ピッチの距離は0.7〜2.5mm程度が好ましく、1.0〜1.6mm程度がより好ましい。孔直径は200〜500μm程度が好ましく、300〜400μmがより好ましい。孔の深さは200〜600μm程度が好ましく、300〜500μm程度がより好ましい。
【0024】
アンカー用凹部3の形成は、アンカー用凹部3が溝状である場合、例えば砥石、ダイヤモンドブレード等で構成される研削刃を装着した研削機を用いて機械的に行うことができる。または、レーザー等の高エネルギービームや高圧水流を用いて行ってもよい。アンカー用凹部3が孔状である場合は、ピンドリル等の形態の研削具、またはレーザー等の高エネルギービームや高圧水流を用いて形成することができる。アンカー用凹部3を形成する前に、予め研削機による切り出し等によってセラミック基材1の表面を精度の高い平面に整えると、不測の凹凸に起因して金属溶射膜2が剥離するのを回避できる点で好ましい。
【0025】
本発明において、アンカー用凹部3は溝状、孔状のいずれでもよいが、孔状の方が、金属溶射膜で閉じた閉空間(孔の内方の空間)が相対的に小さく、孔一つ一つで閉空間を構成できるため、セラミック基材1と金属溶射膜2との界面にガラス相が充填されることによる、金属溶射膜2の厚さ方向の引張り力に対する密着強さの向上効果が大きい点で好ましい。他方、溝状の方は、金属溶射膜で閉じた閉空間(溝の内方の空間)が相対的に大きく、大きな溝で閉空間を構成するため、上記効果が相対的に低い。
【0026】
<金属溶射膜>
金属溶射膜2は、溶射法によって形成された金属膜である。溶射法は、高温に加熱された金属粒子を基材上に射出し、該金属粒子の堆積によって被膜を形成する方法である。したがって、金属溶射膜は、溶融金属の塗布等による固化膜などとは異なり、断面において粒状堆積構造が見られる。
金属としては、白金族金属、および白金族金属の1種以上を主成分とする合金からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属が用いられる。
白金族金属としては、白金(Pt)、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)が挙げられる。白金族金属を主成分とする合金としては、例えば、Pt−5%Au合金、Pt−10%Ir合金、Pt−10%Rh合金等の白金合金が挙げられる。
【0027】
<セラミック部材の製造方法>
まず、セラミック基材1上に金属溶射膜2を形成する。セラミック基材1の表面にアンカー用凹部3が設けられている場合は、該アンカー用凹部3を覆うように金属溶射膜2を形成する。溶射方法は、レーザー溶射法、ワイヤーフレーム溶射法、プラズマ溶射法、アーク溶射法、酸水素炎溶射法等、公知の溶射方法を適宜用いることができる。
溶射法において射出される金属粒子の粒子径(飛行溶射粒子径)は細かい方が好ましく、溶射方法の種類によっては40μm程度まで減少可能であるが、概して50〜150μm程度である。
溶射法によって射出された金属粒子は、セラミック基材1の表面上に堆積して金属溶射膜2を形成する。セラミック基材1の表面にアンカー用凹部3が形成されている場合、溶射法によって射出された金属粒子は該凹部3を充填し、さらに表面上に堆積して金属溶射膜2を形成する。
金属溶射膜2の厚さmは、溶射量によって適宜調整できる。厚いほど、セラミック基材1の表面に平行な方向の引っ張り応力による歪みが大きくなるため、溶射膜2の厚さm(凹部がある場合は、凹部が無い部位での厚さ)は100〜400μm程度が好ましく、より好ましい範囲は200〜350μmである。
【0028】
射出される金属粒子の温度は、概して、700〜1500℃程度であるので、予め加熱(すなわち、予熱)を行うなど、溶射を施す際のセラミック基材の温度を上昇させて、金属粒子とセラミック基材との温度差を減少させると、金属溶射膜2とセラミック基材1との密着性が向上するので好ましい。この場合、セラミック基材1を加熱(予熱)した状態で、溶射を行った後に常温まで徐冷することが好ましい。
溶射時のセラミック基材1の温度(予熱温度)は、射出される金属粒子の凝固温度以下、具体的には200〜500℃程度が好ましく、より好ましくは300〜400℃とする。徐冷時の降温速度はできる限り遅い方が良く、望ましくは10℃/分程度以下とする。
【0029】
次いで、セラミック基材1上に金属溶射膜2が形成された状態で、1500℃以上の温度で熱処理を行う。
かかる熱処理を行うことにより、セラミック基材1と金属溶射膜2との界面の微小な空間に、セラミック基材1からガラス相が滲み出して、該空間にガラス相が充填された状態が得られる。これは、1500℃以上の高温に加熱されると、セラミック基材中のガラス相が流動しやすくなるとともに、ガラス相とセラミックス相の熱膨張差によって、該ガラス相が微小な空間に押し出され、該空間内に濡れ広がると考えられる。
【0030】
本発明において、セラミック基材1と金属溶射膜2との界面の空間にガラス相が充填された状態とは、セラミック基材1と金属溶射膜2との間にガラス相が存在し、該ガラス相の少なくとも一部は、セラミック基材1と金属溶射膜2の両方に接している状態をいう。セラミック基材1と金属溶射膜2との界面において空間が若干残っていてもよいが、セラミック基材1と金属溶射膜2との良好な密着強度を得るうえで、かかる空間はできるだけ残っていないことが好ましい。例えば、熱処理後の断面写真において、セラミック基材1と金属溶射膜2との界面に存在する空間の全面積に対して、ガラス相が存在せずに残っている空間が20面積%以下であることが好ましく、10面積%以下がより好ましく、0面積%が最も好ましい。
【0031】
熱処理温度が1500℃よりも低いと、セラミック基材1と金属溶射膜2との界面の空間がガラス相で満たされた状態が得られにくい。これは、ガラス相の流動状態が不足するため、短時間で該空間内に濡れ広がることができず、時間の経過とともにセラミックス相とガラス相とが反応するため、加熱時間を長くしても該空間がガラス相で満たされた状態が得られないと考えられる。
一方、熱処理温度の上限は、溶射膜2を構成する金属の融点より低いことが必要である。
したがって熱処理温度は、溶射膜2の融点未満であって、後述の好ましい熱処理時間で、セラミック基材1と金属溶射膜2との界面の空間がガラス相で満たされるように設定することが好ましい。好ましい熱処理温度は、セラミック基材1の成分組成等によっても異なるが、例えば1500〜1700℃程度が好ましく、1500〜1600℃程度がより好ましい。熱処理温度がこれら範囲であればガラス相の流動性が高いため、セラミック基材1と金属溶射膜2との界面の空間をガラス相で満たす効果に対するセラミックス相とガラス相との反応の影響は低い。
熱処理時間は、短すぎると、セラミック基材1と金属溶射膜2との界面に多く空間が残ってしまう。一方、熱処理時間が長くなると、時間の経過とともにセラミックス相とガラス相が反応するため、セラミック基材1と金属溶射膜2との界面の空間に、ガラス相が押し出される現象が進行しにくくなる。
したがって、熱処理時間は、これらの不都合が生じないように設定することが好ましい。例えば1〜100時間程度が好ましく、10〜50時間がより好ましい。
本発明の製造方法によれば、セラミック基材1と金属溶射膜2との界面の空間に、セラミック基材に由来するガラス相が充填されている、本発明のセラミック部材が得られる。
【0032】
<セラミック部材の用途>
本発明のセラミック部材は、使用時の温度が1500℃未満の部材である。すなわち、使用時の温度が1500℃以上となることが想定されていない部位に用いられる。
使用温度が1500℃以上となる部材では、使用前に1500℃以上の熱処理を行わなくても、結果的に本発明と同様の効果が得られる可能性があり、かかる部材では本発明を適用する必要性が低いからである。
このことから、本発明のセラミック部材は、使用時の温度が1450℃以下の部材であることが好ましく、1400℃以下の部材であることがより好ましい。
【0033】
本発明のセラミック部材は、セラミック基材1上に金属溶射膜1が設けられているため、溶融ガラスに対する耐食性に優れる。したがって、本発明のセラミック部材は、溶融ガラスの製造に用いられる装置において、1500℃未満の溶融ガラスに接触する部材として好適に用いられる。また、本発明のセラミック部材は、溶融ガラスの製造に用いられる装置において、1450℃以下の溶融ガラスに接触する部材としてより好適に用いられ、1400℃以下の溶融ガラスに接触する部材としてさらに好適に用いられる。
具体的には、溶融槽から流出された溶融ガラスが、好ましくは減圧脱泡装置を経て、成形装置に送られるまでの流路において、1500℃未満の溶融ガラスに接触する部材として好適に用いられる。また、溶融槽から流出された溶融ガラスが、より好ましくは減圧脱泡装置を経て、成形装置に送られるまでの流路において、1450℃以下の溶融ガラスに接触する部材としてより好適に用いられ、1400℃以下の溶融ガラスに接触する部材としてさらに好適に用いられる。例えば、減圧脱泡槽の内壁を構成する部材、減圧脱泡槽の上流に設けられる溶融上昇管の内壁を構成する部材、または減圧脱泡槽の下流に設けられる下降管の内壁を構成する部材が挙げられる。
【0034】
本発明のセラミック部材は、セラミック基材1の表面上に金属溶射膜2が設けられているため、溶融ガラスと接触してもセラミック基材1の浸食が抑えられる。また後述の実施例に示されるように、セラミック基材1と金属溶射膜2との密着強さに優れるため、該金属溶射膜2が剥離し難く、耐久性に優れる。
【0035】
また、本発明のセラミック部材を溶融ガラスと接触する部材に用いた場合には、セラミック基材と金属溶射膜との界面の空間にガラス相が充填されていることから、溶融ガラス中における気泡発生を抑える効果が得られる。
すなわち、溶融ガラス中に存在する水分が、白金族金属の触媒作用により金属溶射膜の表面で酸素と水素とに分解されると、水素は金属溶射膜を透過し、酸素は金属溶射膜を透過せずその表面に残る。このとき、水素が金属溶射膜に留まれば、金属溶射膜表面の酸素と再び結合して水を生成するため、酸素が気泡となることはない。
ところが、従来のセラミック部材では、金属溶射膜と、その下層であるセラミック基材との界面に微小な空間があるため、金属溶射膜を透過した水素が、該空間を介して移動してしまい、金属溶射膜に水素が留まらない。このため、金属溶射膜表面の酸素は、再び水素と結合することができず、気泡となってしまう。
本発明のセラミック部材は、かかる金属溶射膜とセラミック基材との界面の空間にガラス相が充填されているため、水素は金属溶射膜に留まり、酸素と再び結合して水を生成することができる。したがって酸素が気泡となるのを防止できる。
【0036】
<溶融ガラスの製造装置>
本発明の溶融ガラスの製造装置は、1500℃未満の溶融ガラスに接触する部材に、本発明のセラミック部材が用いられているものである。また、本発明の溶融ガラスの製造装置は、1450℃以下の溶融ガラスに接触する部材に本発明のセラミック部材が用いられていることが好ましく、1400℃以下の溶融ガラスに接触する部材に本発明のセラミック部材が用いられていることがさらに好ましい。
また、本発明の溶融ガラスの製造装置は、白金族金属、および白金族金属の1種以上を主成分とする合金からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属の溶射膜を形成した、ガラス相を3〜30質量%含む、電鋳レンガまたはジルコンを主成分とする焼結レンガからなるセラミック基材を用いて、溶融ガラスの製造装置の1500℃未満、好ましくは1450℃以下、より好ましくは1400℃以下の溶融ガラスと接する部分の少なくとも一部を構成し、前記溶融ガラスの製造装置の少なくとも前記セラミック基材を1500℃以上の温度で熱処理してなる。
さらに、本発明の溶融ガラスの製造装置は、ガラス相を3〜30質量%含む、電鋳レンガまたはジルコンを主成分とする焼結レンガからなるセラミック基材を用いて、溶融ガラスの製造装置の1500℃未満、好ましくは1450℃以下、より好ましくは1400℃以下の溶融ガラスと接する部分の少なくとも一部を構成し、この構成された部分のセラミック基材上に、白金族金属、および白金族金属の1種以上を主成分とする合金からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属の溶射膜を形成し、次いで、溶融ガラスの製造装置の少なくとも前記金属の溶射膜の形成されたセラミック基材を1500℃以上の温度で熱処理してなる。
図3は、本発明の溶融ガラスの製造装置の一実施形態を示した縦断面図である。本実施形態の装置は、ガラス原料の溶解ならびに溶融ガラスの均質化および清澄を行う溶融槽11、内部の気圧が大気圧未満に設定され、溶融槽11から供給される溶融ガラス中の泡を浮上および破泡させる減圧脱泡装置12、溶融槽11と減圧脱泡装置12とを接続する第1の導管13、減圧脱泡装置12から流出される溶融ガラスを、冷却槽15を介して次工程の成形手段に送るための第2の導管14とから概略構成されている。図中符号Gは溶融ガラスを示す。
第1の導管13には冷却手段13aおよび撹拌手段13bが設けられており、溶融槽11から流出された溶融ガラスは、第1の導管13で1000℃以上、1500℃未満に冷却された後に、減圧脱泡装置12に導入されるようになっている。
減圧脱泡装置12は、減圧脱泡槽12aを備えており、減圧脱泡槽12aの上流側は上昇管12bを介して第1の導管13と連通しており、減圧脱泡槽12aの下流側は下降管12cを介して第2の導管14と連通している。減圧脱泡槽12a、上昇管12b、下降管12cの内部は減圧環境に維持され、サイフォン効果によって、第1の導管13内の溶融ガラスを、上昇管12bを介して減圧脱泡槽12aへ吸い上げるように構成されている。また導管14以降は、冷却槽15を介して成形手段につながっている。
【0037】
本実施形態の装置において、減圧脱泡装置12の減圧脱泡槽12a、上昇管12b、下降管12c、および冷却槽15の内壁を構成する部材が、本発明に係る、セラミック部材、または金属の溶射膜が形成されたセラミック基材を熱処理してなるものからなる。すなわち、減圧脱泡槽12a、上昇管12b、下降管12c、および冷却槽15の内壁は、内面が金属溶射膜で被覆されたセラミック基材からなっており、セラミック基材と金属溶射膜との界面の微小な空間にガラス相が充填されている。
かかる減圧脱泡装置12および冷却槽15は、まず、減圧脱泡槽12a、上昇管12b、下降管12c、および冷却槽15の内壁を、予め金属溶射膜で被覆されたセラミック基材で形成して、減圧脱泡装置12から冷却槽15までの一連の形状に組み立てた後、減圧脱泡装置12および冷却槽15を含む一連の構造物の内部を1500℃以上の所定温度で熱処理を施し、次いで使用温度以下に冷却する方法で製造される。また、本発明のセラミック部材により、減圧脱泡槽12a、上昇管12b、下降管12c、および冷却槽15の内壁を形成して、減圧脱泡装置12から冷却槽15までの一連の形状に組み立てることもできる。また、減圧脱泡槽12a、上昇管12b、下降管12c、および冷却槽15の内壁を、セラミック基材で形成して、これらの基材の溶融ガラスと接する側の表面に金属の溶射膜を形成し、次いで、前記金属の溶射膜の形成されたセラミック基材を1500℃以上の温度で熱処理することもできる。
こうして装置を製造した後、1500℃未満の使用温度で使用される。また、こうして装置を製造した後、1450℃以下の使用温度で使用されることが好ましく、1400℃以下の使用温度で使用されることがさらに好ましい。
なお、各部の組み立て手順や本発明のセラミック部材を用いる部位は、上記の例に限定されない。たとえば、冷却槽15での溶融ガラス温度はその上流部に比べて低いので、本発明のセラミック部材を用いる部位を減圧脱泡装置12のみとして、冷却槽15に用いない構成でもよい。あるいは、減圧脱泡装置12のうちで本発明のセラミック部材を用いる部位を、減圧脱泡槽12aのみとしたり、上昇管12bと下降管12cのみとしたり、下降管12cのみとしてもよい。また、第1の導管13、第2の導管14の内壁に、本発明のセラミック部材を用いてもよい。
【0038】
<溶融ガラスの製造方法>
本発明の溶融ガラスの製造方法は、1500℃未満の溶融ガラスに接触する部材に、本発明のセラミック部材が用いられている製造装置を用いて溶融ガラスを製造する方法である。また、本発明の溶融ガラスの製造方法は、1450℃以下の溶融ガラスに接触する部材に、本発明のセラミック部材が用いられている製造装置を用いることが好ましい溶融ガラスを製造する方法である。さらに、本発明の溶融ガラスの製造方法は、1400℃以下の溶融ガラスに接触する部材に、本発明のセラミック部材が用いられている製造装置を用いることがより好ましい溶融ガラスを製造する方法である。
例えば、
図3に示す溶融ガラスの製造装置を用いて溶融ガラスを製造する方法にあっては、溶融槽11から流出された溶融ガラスが、第1の導管13で1000℃以上、1500℃未満に冷却された後に、減圧脱泡装置12に導入される。また、溶融槽11から流出された溶融ガラスが、第1の導管13で1000℃以上、1450℃以下に冷却された後に、減圧脱泡装置12に導入されることが好ましい。さらに、溶融槽11から流出された溶融ガラスが、第1の導管13で1000℃以上、1400℃以下に冷却された後に、減圧脱泡装置12に導入されることがより好ましい。
減圧脱泡装置12の減圧脱泡槽12a、上昇管12b、下降管12c、および冷却槽15の内壁は、1000℃以上、1500℃未満の溶融ガラスと接触するが、該内壁を構成するセラミック基材の表面(すなわち、内面)が、金属溶射膜で被覆されているため、溶融ガラスに対する耐食性に優れる。また、セラミック基材と金属溶射膜との密着強さに優れるため、該溶射膜が剥離し難く、耐久性に優れる。
さらに、金属溶射膜とその下層であるセラミック基材との界面にガラス相が充填されているため、ガラス中の水分が、金属溶射膜の表面で酸素と水素とに分解されても、該水素は金属溶射膜に留まることができる。したがって、上述したように、該水素が、水分の分解で生じた酸素と再び結合して水を生成することができるため、かかる酸素に起因して、溶融ガラス中で気泡が発生するのを抑えることができる。
【0039】
<ガラス物品の製造装置および製造方法>
本発明のガラス物品の製造装置は、溶融ガラスを製造する手段と、得られた溶融ガラスを成形する成形手段と、成形後のガラスを徐冷する徐冷手段とを有し、1500℃未満の溶融ガラスに接触する部材に、本発明のセラミック部材が用いられているものである。また、本発明のガラス物品の製造装置は、溶融ガラスを製造する手段と、得られた溶融ガラスを成形する成形手段と、成形後のガラスを徐冷する徐冷手段とを有し、1450℃以下の溶融ガラスに接触する部材に、本発明のセラミック部材が用いられていることが好ましい。さらに、本発明のガラス物品の製造装置は、溶融ガラスを製造する手段と、得られた溶融ガラスを成形する成形手段と、成形後のガラスを徐冷する徐冷手段とを有し、1400℃以下の溶融ガラスに接触する部材に、本発明のセラミック部材が用いられていることがより好ましい。
溶融ガラスを製造する手段が、本発明の溶融ガラスの製造装置であることが好ましい。例えば、
図3に示す、溶融ガラスの製造装置の溶融ガラスの流れ方向の下流に、溶融ガラスを成形する成形手段、その下流に成形後のガラスを徐冷する徐冷手段を有する構成とすることができる。徐冷手段の下流には、さらに切断や研磨を行う加工手段を設けてもよい。成形手段としては、図示していないが、公知のフロート法、ダウンドロー法、フュージョン法など色々な手段が利用できる。徐冷手段および加工手段も公知の技術を利用できる。
図4は本発明に係るガラス物品の製造装置を用いたガラス物品の製造方法の一例を示すフロー図である。
図4に示す方法に従い、ガラス物品を製造するには、好ましくは
図3の溶融ガラス製造装置を用いたガラス溶融工程S1により溶融ガラスGを得て、溶融ガラスGを成形手段に送って目的の形状に成形する成形工程S2を経た後、徐冷工程S3にて徐冷する。その後に、必要に応じて後加工工程S4において切断や研磨などの後加工することでガラス物品G5を得ることができる。
【実施例】
【0040】
以下に実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
本例では、セラミック基材としてAZS(Al
2O
3−SiO
2−ZrO
2)レンガを用い、下記するように当該レンガの表面を規則的な配置をもった孔加工を施した後に金属溶射を行って金属膜付き基材を得、該金属膜付き基材に熱処理を施してセラミック部材を製造した。以下、このセラミック基材の表面に金属溶射膜が形成された基材を、金属膜付き基材とも称する。
使用したセラミック基材の成分組成を蛍光X線分析法で測定した結果を表1に示す。また熱処理前の金属膜付き基材の断面写真に基づいて求めたガラス相の含有量を表1に合わせて示す(以下、実施例2および比較例1においても同様である。)。ガラス相の含有量の算出は以下の方法で行う。電子顕微鏡を用い、熱処理前の金属膜付き基材の断面の、基材表面から基材内部へ向かって20mmの位置までの間で、50倍の電子顕微鏡の反射電子像(組成像)を撮影する。得られた画像について、結晶相とガラス相の面積の合計と、それに対するガラス相の面積率を求め、該面積率を質量率に換算して得られる値を、ガラス相の含有量(単位:質量%)とする。
まず、AZSレンガを、縦50mm×横50mm×高さ10mmのレンガ片に切断し、このレンガ片の50mm×50mmの一面に、ファイバーレーザーを用いてアンカー用凹部を形成した。アンカー用凹部は略円柱状の孔とし、孔直径は300μm、孔の深さは400μm、孔ピッチの距離は1mmとした。
次いで、レンガ片を大気雰囲気中で300℃まで加熱し、孔を形成した面上にワイヤーフレーム溶射法を用いて白金の溶射を開始した(飛行溶射粒子径:100μm程度、温度約100℃)。白金被膜の膜厚が300μmになるまで溶射を続けた後、レンガ片を常温まで徐冷して金属膜付き基材を得た。
同じ条件で金属膜付き基材を2枚作製し、一方の金属膜付き基材に対して、大気下で電気炉により、1500℃で100時間の熱処理を施してセラミック部材を得た。
また対照として、他方の金属膜付き基材には熱処理を施さず、そのまま未処理サンプルとした。
【0041】
[実施例2]
実施例1において、セラミック基材を高ジルコニア質レンガに変更したほかは同様にして金属膜付き基材を得、該金属膜付き基材に実施例1と同様の熱処理を施してセラミック部材を製造した。また対照として、熱処理を施さない未処理サンプルを実施例1と同様に作成した。
【0042】
[比較例1]
実施例1において、セラミック基材をαβアルミナ質レンガに変更したほかは同様にして金属膜付き基材を得、該金属膜付き基材に実施例1と同様の熱処理を施してセラミック部材を製造した。また対照として、熱処理を施さない未処理サンプルを実施例1と同様に作成した。
【0043】
【表1】
【0044】
[評価方法]
(密着強さ)
各例で得られたセラミック部材および未処理サンプルのそれぞれから、縦14mm×横14mm×高さ10mmの板状片を3個ずつ切り出し、
図5に示すように、14mm×14mmの両面に、それぞれ熱硬化型エポキシ接着剤23を用いて引張治具24、25を接着して試験片を作成した。図中符号21はセラミック基材、22は金属溶射膜を示す。
引張強度測定器(TSE社製、製品名:AUTOCOM/AC・50KN−C)を用い、0.5mm/分の速度条件で、引張治具24,25を互いに遠ざかる方向へ引張り、セラミック基材21と金属溶射膜22とが剥離したときの荷重を測定した。剥離時の荷重の値(P)と板状片(セラミック部材)の面積(S)とから、密着強さ(P/S、単位はMPa)を求めた。その結果を
図6示す。
【0045】
図6の結果に示されるように、比較例1では未処理サンプルとセラミック部材の密着強さがほぼ同等であった。これに対して、実施例1、2におけるセラミック部材の密着強さは、未処理サンプルの密着強さの3倍以上であり、熱処理を施すことにより密着強さが格段に向上したことが認められる。
【0046】
(断面組織)
各例でセラミック部材を製造する際に、熱処理を行う前の金属膜付き基材と、これを熱処理した後のセラミック部材の断面写真をそれぞれ撮影した。
図7は実施例1、
図8は実施例2、
図9は比較例1で得られた写真である。符号21はセラミック基材、22は金属溶射膜を示す。
図7において、(a)は熱処理前、(b)は熱処理後の断面写真であり、(a’)は(a)の写真においてガラス相をマッピングして示したものであり、(b’)は(b)の写真においてガラス相をマッピングして示したものである。
図8、9において、(a)は熱処理前、(b)は熱処理後の断面写真であり、(b’)は(b)の写真の要部(図中符号Bで示す。)を拡大して示したものである。
【0047】
図7〜9の(a)に示されるように、熱処理前の金属膜付き基材においては、セラミック基材21と金属溶射膜22との界面に微小な隙間(空間)が存在する。一方、
図7、8の(b)に示されるように、実施例1、2の熱処理後のセラミック部材では、セラミック基材21と金属溶射膜22との界面に隙間がなく、
図7、8の(b’)に示されるように、該界面に沿ってガラス相が存在している。
これに対して、
図9の(b)に示されるように、比較例1の熱処理後のセラミック部材では、セラミック基材21と金属溶射膜22との界面には隙間があり、
図9の(b’)に示されるように、該界面へのガラス相の滲み出しは認められない。
【0048】
[実施例3]
本例では、下記の通り、溶融ガラスの製造装置として、セラミック部材からなるガラス溶融用の容器を作製し、該容器内でガラス原料を1400℃で溶融させた後、冷却した。しかる後、後述の評価方法により、容器内壁の近傍における、ガラス中の水分含有量と気泡の有無を調べた。
まず、実施例2で用いたのと同材質の高ジルコニア質レンガからなり、一面に実施例1と同様にしてアンカー用凹部が設けられたセラミック基材を用いて、外径75mm、外壁の高さ55mm、内径50mm、内壁の深さ40mmである、有底円筒状の容器を作成した。アンカー用凹部が設けられた面が内面となるようにした。
次いで、この容器を大気雰囲気中で300℃まで加熱し、内面上に、実施例1と同様にして膜厚が300μmの金属溶射膜を形成して、金属膜付き基材からなる容器を得た。
続いて、この容器を大気下で電気炉に入れ、1600℃で5時間の熱処理を施してセラミック部材からなる容器を得た。
【0049】
上記実施例3の実施に当たっては、得られた容器を加熱炉内に入れ、常圧下で
図10に示す熱履歴を加えた。
図10の縦軸は加熱炉内の雰囲気温度を示す。まず4時間40分かけて、常温から1400℃に昇温し、1400℃に達した時点で、ホウケイ酸ガラスのガラス原料を容器内に投入し、1400℃で1時間加熱してガラス原料を溶融させた。この後、720℃まで急冷し、720℃で1時間保持した後、2時間かけて600℃まで温度を下げ、さらに3時間かけて常温まで徐冷して、容器内で固化したガラスを得た。
【0050】
[比較例2]
実施例3において、金属膜付き基材からなる容器に熱処理を施さないほかは、実施例3と同様にして容器内で固化したガラスを得た。
[比較例3]
実施例3において、セラミック基材の材質を高ジルコニア質レンガから、比較例1で用いたのと同じαβアルミナ質レンガに変更したほかは、実施例3と同様にして金属膜付き基材からなる容器を得、該容器に実施例3と同様の熱処理を施してセラミック部材からなる容器を作製した。
この容器を用い、実施例3と同様にして容器内で固化したガラスを得た。
【0051】
[評価方法]
(水分含有量および気泡の有無)
ガラス中の水分含有量の指標としてガラスのβ−OH値を測定した。ガラスのβ−OH値(単位:mm
−1)は、ガラス試料について波長2.75〜2.95μmの光に対する吸光度を測定し、その最大値β
maxを該ガラス試料の厚さ(mm)で割ることで求めることができる。
上記各例で得られた、容器内で固化したガラスを、高さ方向に沿う切断面で、容器ごと切断し、厚さ1mmの縦断面サンプルを切り出した。得られた縦断面サンプルの、容器の高さ方向の中央部であって、容器内壁と固化したガラスとの界面付近の領域について、上記の方法でβ−OH値を測定した。また該領域の写真を撮影した。
実施例3の結果を
図11に示し、比較例2の結果を
図12に示し、比較例3の結果を
図13に示す。各図の(a)は断面写真であり、界面の基準位置を矢印で示す。図中符号21はセラミック基材、22は金属溶射膜、30はガラスを示す。各図の(b)はβ−OH値の測定結果を示すグラフで、横軸は(a)の断面写真の横方向における距離(単位:μm)を示し、縦軸はβ−OH値(単位:mm
−1)を示す。界面の基準位置に対応する位置を矢印で示す。
【0052】
[参考例1]
上記した実施例3、比較例2、3の各例の金属膜付き基材からなる容器は、金属溶射膜の下層がセラミック基材からなるが、本例では、下記するように、金属溶射膜の下層がガラスからなる場合の水分含有量を測定した。
すなわち、実施例3において、セラミック部材からなる容器を加熱炉内に入れた後、1400℃に達した時点で、ホウケイ酸ガラスのガラス原料を容器内に投入する際に、投入すべきガラス原料の一部を該セラミック部材からなる容器に直接投入するとともに、別途用意された白金ロジウム製の坩堝内に該ガラス原料の残りを入れ、この坩堝を該容器内に入れた。それ以外は実施例3と同様にして容器内で固化したガラスを得た。
図14はその縦断面を示す写真である。本例では、セラミック部材からなる容器31内で、固化したガラス30中に坩堝32が埋め込まれており、坩堝32の内面と外面の両方が、固化したガラスと接している状態が得られる。
【0053】
本例で得られた、容器内で固化したガラスを、高さ方向に沿う切断面で、容器および坩堝ごと切断し、厚さ1mmの縦断面サンプルを切り出した。得られた縦断面サンプルの、坩堝の深さ方向の中央部であって、坩堝の内面および外面とガラスとの界面付近の領域(
図14中に、符号33で示す。)について、上記の方法でβ−OH値を測定した。
結果を
図15に示す。横軸は
図14の断面写真の横方向における距離を示し、縦軸はβ−OH値を示す。
図15において、坩堝の側壁に該当する位置を矢印で示す。
なお、β−OH値の測定に用いた縦断面サンプルにおいて、ガラス中の気泡発生は認められなかった。
【0054】
図12(b)、
図13(b)の結果に示されるように、比較例2、3では、ガラス中の水分含有量(β−OH値)が、金属溶射膜に隣接する領域で低下している。また
図12(a)、
図13(a)に示されるように、金属溶射膜に隣接する領域でガラス中に気泡の発生が認められた。このことから、溶融ガラス中に存在する水分が金属溶射膜の表面で分解されて生じた酸素が、再び水を生成することなく、気泡になったことがわかる。
また、比較例2は、セラミック基材としてガラス相を6質量%含む高ジルコニア質レンガを用いたが、使用前に1500℃の熱処理を行わなかったため、使用時に1400℃で1時間加熱されても、断面写真において金属溶射膜とセラミック基材との界面に微小な隙間が観察された。
比較例3は、セラミック基材がガラス相を0.8質量%しか含有しないため、使用前に1500℃の熱処理を行っても、断面写真において金属溶射膜とセラミック基材との界面に微小な隙間が観察された。
これらのことから、比較例2,3では、溶融ガラス中に存在する水分が金属溶射膜の表面で分解されて生じた水素は、金属溶射膜を透過し、金属溶射膜とセラミック基材との界面の空間を介して移動してしまい、金属溶射膜に留まらなかったと考えられる。
【0055】
一方、
図15の結果に示されるように、参考例1では、金属溶射膜に隣接する領域でガラス中の水分含有量(β−OH値)が低下せず、また
図11の結果に示されるよう実施例3でもほとんど水分含有量(β−OH値)が低下しなかった。また参考例1および実施例3においては、ガラス中の気泡発生も認められなかった。このことから、溶融ガラス中に存在する水分が金属溶射膜の表面で分解されて生じた酸素は、再び水素と結合して水を生成したため、気泡が発生しなかったと考えられる。
また、実施例3の断面写真において金属溶射膜とセラミック基材との界面にはガラス相が存在し、隙間は観察さなかった。上述したように、実施例3において参考例1と同等の気泡抑制効果が得られたことから、金属溶射膜とセラミック基材との界面のガラス相が、溶融ガラス中の気泡抑制に寄与していることがわかる。