(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
メモリーCPUや撮像素子など半導体デバイスの基板として用いられるシリコン単結晶ウエーハを切り出すシリコン単結晶棒は、主にチョクラルスキー(CZ)法により製造されている。CZ法により作製されたシリコン単結晶棒中には酸素原子が含まれており、該シリコン単結晶棒から切り出されるシリコンウエーハを用いてデバイス製造する際、シリコン原子と酸素原子とが結合し、酸素析出物やBMDが形成される。これらはウエーハ内部の重金属などの汚染原子を捕獲してデバイス特性を向上させるIG能力を有することが知られており、ウエーハのバルク部での酸素析出量やBMD密度が高くなるほど高性能かつ信頼性の高いデバイスを得ることができる。
【0003】
近年ではシリコンウエーハ中の結晶欠陥を制御しつつ十分なIG能力を付与するために、単結晶棒の成長中に酸素を高濃度に取り込むよう制御したり、炭素や窒素を意図的にドープするなどの製造方法が行われている。前記の方法によって製造されたシリコン単結晶棒から切り出されるシリコンウエーハに鏡面加工を施してポリッシュドウエーハとして供給する。近年、鏡面加工後にウエーハ表層部の欠陥の抑制又はバルク内にIG層の形成を目的とするアニール処理を施す、エピタキシャル層を付与する、あるいはSOIウエーハを作製するなど、種々のウエーハ供給の要求が高まっている。
【0004】
これらのウエーハは何段階ものデバイスプロセスを通過するため、プロセス中に素子領域へ侵入し電気特性を阻害したり、撮像素子の画像ムラを生じさせるなど、有害となり得る不純物の拡散を防止する技術の前進は必須課題であり、最近ではIG層を形成するBMDの密度のミリメートルオーダーの周期的な変動を精密に抑制し、面内分布の制御や均一性の制御技術の確立が望まれている。そのような技術の前進は、メモリーCPUや撮像素子のみならず、太陽電池向け材料の特性の向上に貢献するため、極めて応用範囲が広く、前述の如く電気特性の向上や、プロセス中の反りあるいはスリップ転位の発生を防止するなどの効果がある。
【0005】
ここで特許文献1および特許文献2に、酸素濃度の変動を低く抑えてウエーハ面内のBMD密度を均一にする技術について記述がある。単結晶成長中に取り込まれる格子間酸素濃度のばらつきを抑制することは極めて重要であるが、単結晶成長中は酸素のみならず種々の欠陥が導入される。
【0006】
デバイスプロセスにおいてIG層を形成する場合、空孔欠陥の存在が重要であり、その密度の高さによって十分なゲッタリング能力を与えるBMD析出量の大きさが決まる。しかしながら、単結晶成長中に格子間シリコンが導入される場合、空孔と格子間シリコンとの反応によって空孔が消滅し、BMD析出のソースとなる単結晶中の空孔濃度が低下し、所望のBMD析出量が得られないことがある。その十分な空孔濃度を導入するためには点欠陥の段階で、成長方向に対し固液界面からの不連続な過剰な格子間シリコンの導入を抑える必要がある。したがって、これらの従来技術だけではBMDの密度のミリメートルオーダーの周期的な変動を精密に抑制するのには不十分である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、デバイスプロセス後、BMDが均一に形成され、均一なゲッタリング能力を有するようになるシリコン単結晶ウエーハを判別することができるシリコン単結晶ウエーハの評価方法を提供することを目的とする。また、上記のようなシリコン単結晶ウエーハや、該シリコン単結晶ウエーハを切り出すことができるシリコン単結晶棒の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明は、シリコン単結晶ウエーハの評価方法であって、前記シリコン単結晶ウエーハを、フーリエ変換赤外分光光度計によってウエーハ径方向にステップ走査して酸素濃度を測定し、該ウエーハ径方向のステップ状の測定点を少なくとも両端に含む4mm以上10mm以下の幅の区間を、ステップ状の測定点ごとに各々設定し、該各々の区間において、一端の測定点での酸素濃度[Oi]
0(ppma)と他端の測定点での酸素濃度[Oi]
1(ppma)との差Δ[Oi](ppma)を、区間の幅Δx(mm)で割った酸素濃度勾配Δ[Oi]/Δx(ppma/mm)の絶対値を算出し、該酸素濃度勾配の絶対値が0ppma/mm以上0.01ppma/mm以下である区間の数が、全ての区間数の85%以上であるか否かを基準にして、析出酸素のストリエーションに関する評価を行うことを特徴とするシリコン単結晶ウエーハの評価方法を提供する。
【0010】
このような本発明の評価方法であれば、析出酸素のストリエーションに関して簡便に評価を行うことができる。しかも、デバイスプロセスなど、酸素析出のプロセスを経た際には、ウエーハ面内で、BMDが均一に形成され、均一なゲッタリング能力を有し、撮像素子での画像ムラの発生を防ぐことができるシリコン単結晶ウエーハを判別することができる。
【0011】
ここで、上記区間の幅Δx(mm)を4mm以上10mm以下とする理由であるが、まず、Δxが4mmを下回るような小さすぎる値をとった場合、測定器の測定誤差による変動を過剰に判定することとなるからである。一方、Δxが10mmを上回るような値をとった場合は、広範囲の酸素濃度勾配の値を示すこととなり、酸素の局所変動を捉えにくくなる。したがって酸素の局所変動を適切に捉えるためにはΔxの値を4mm以上10mm以下にする必要がある。
【0012】
図5は、フーリエ変換赤外分光光度計(FT−IR)によって、シリコン単結晶ウエーハ面内を径方向に1mm毎にステップ走査して酸素濃度を測定した結果の一例である。本発明のようにΔxが10mm幅である区間におけるΔ[Oi](すなわち、[Oi]
0−[Oi]
1)の値に対し、11mm区間におけるΔ[Oi]’(すなわち、[Oi]
0−[Oi]
1’)の値の方が小さく検出される場合を示したものである。特に撮像素子の場合、一辺が数十mmサイズから数mmサイズまで多数のチップが存在し、上記区間Δxの幅が広すぎる場合には、例えば数mmサイズの狭いチップ領域内の酸素濃度変動を精密に検出することが困難となる。
【0013】
また、上記のように、酸素濃度勾配の絶対値が0ppma/mm以上0.01ppma/mm以下である区間の数が、全ての区間数の85%以上であるか否かを基準にして、析出酸素のストリエーションに関する評価を行う。
本発明者らが鋭意検討を重ねた結果、析出酸素のストリエーションの発生を評価するにあたり、酸素濃度勾配の絶対値が上記範囲となる区間数に関して、85%という割合が析出酸素のストリエーションの発生の有無の基準となることをつきとめた。
【0014】
ここで、ウエーハ面内の酸素析出量の変動は例えばX線トポグラフィーによれば、ストリエーション状のパターンとして確認できる。また前記ストリエーション状のパターンは、熱処理前後におけるウエーハ径方向の初期酸素濃度と残留酸素濃度の濃度差([Op]とする)の分布変動とよく一致する。そのストリエーションの濃淡が強い場合はウエーハ面内の[Op]の最大値と最小値の格差が大きいことを示しており、BMD分布が不均一である。
そして[Op]の面内分布はウエーハ径方向の初期酸素濃度分布とよく一致しているので、シリコン単結晶中に取り込まれる酸素濃度のウエーハ径方向の分布が均一であれば、[Op]の面内分布の均一性が高いものとなる。すなわち、BMD分布が均一なものとなる。
【0015】
このような評価方法を用いることによって、前述したように、デバイスプロセス後、析出酸素のストリエーションが発生せず、BMDの均一性が高く、撮像素子での画像ムラの発生を防止できる優れたウエーハを判別することが可能である。
【0016】
このとき、前記ステップ走査によるステップ幅を、0.5mm以上2mm以下とすることができる。
【0017】
このようなステップ幅であれば、十分に精度高く酸素濃度の測定を行うことができる。析出酸素のストリエーションの評価を高精度に行うことができる。
【0018】
また、本発明は、前記シリコン単結晶ウエーハの評価方法により、前記酸素濃度勾配の絶対値が0ppma/mm以上0.01ppma/mm以下である区間の数が、全ての区間数の85%以上であると評価されたものであることを特徴とするシリコン単結晶ウエーハを提供する。
【0019】
また、前記シリコン単結晶ウエーハ上にエピタキシャル層を有するエピタキシャルウエーハを提供する。
また、前記シリコン単結晶ウエーハによって作製されたSOIボンドウエーハや、前記シリコン単結晶ウエーハによって作製されたSOIベースウエーハを提供する。
さらには、前記シリコン単結晶ウエーハによって作製されたアニールウエーハを提供する。
【0020】
このようなシリコン単結晶ウエーハ、エピタキシャルウエーハ、SOIボンドウエーハ、SOIベースウエーハ、アニールウエーハであれば、BMDの均一性が高くなり得る優れたウエーハとなる。
【0021】
また、本発明は、前記シリコン単結晶ウエーハを切り出すシリコン単結晶棒をCZ法によって原料融液から引き上げるとき、該シリコン単結晶棒の引上げを、前記原料融液に2500ガウス以上4000ガウス以下の水平磁場を印加しつつ行うことを特徴とするシリコン単結晶棒の製造方法を提供する。
【0022】
酸素濃度の成長方向の微小変動およびウエーハ径方向の均一性は、水平磁場印加のCZ法における磁場強度の強弱により影響を受け易い。印加する水平磁場が上記範囲であれば、原料融液の温度ムラを小さくし、初期酸素濃度のミクロ分布変動を最も小さくすることができ、析出酸素のストリエーションを一層抑制することができる。
【0023】
また、前記シリコン単結晶棒の引上げを、シリコンの融点から1400℃の間の引上げ軸方向の結晶温度勾配の平均値G(℃/mm)が2.8℃/mm以下になるようにして行うことができる。
【0024】
酸素析出のプロセス後のBMD形成においては、空孔や格子間シリコンのような結晶欠陥の制御も関係する。結晶成長において空孔濃度や格子間シリコン濃度のバランスはプロセス後のBMD密度やサイズへの影響が大きく、結晶成長中の固液界面から導入されるそれぞれの点欠陥濃度は結晶温度勾配の平均値Gの値によって変化する。
Gが上記範囲であれば、格子間シリコンが導入されにくく、空孔リッチとなり、十分なBMD密度を得やすい。またバルク内の欠陥タイプの均質性と密度の均一性をより一層高めることができ、析出酸素の強いストリエーションを抑制することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明により、酸素析出のプロセスを経た場合に、ウエーハ面内でBMDが均一に形成され、均一なゲッタリング能力を有し、撮像素子での画像ムラの発生を防ぐことができる優れたシリコン単結晶ウエーハを判別することができる。また、半導体デバイス又は太陽電池の電気的特性を阻害しないシリコン単結晶ウエーハを製造でき、安定的に供給することができる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明について、実施態様の一例として、図を参照しながら詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
図1は本発明のシリコン単結晶ウエーハの評価方法のフローの一例である。
(工程1: FT−IRによる酸素濃度の測定)
まず、FT−IRを用いて、試料のシリコン単結晶ウエーハの酸素濃度を測定する。より具体的には、ウエーハの径方向に沿ってステップ走査することによって酸素濃度の測定を行う。なお、FT−IR自体は、例えば従来と同様のものを用いることができる。
【0028】
ここで、ステップ幅は特に限定されないが、例えば0.5mm以上2mm以下とすることができる。ステップ幅を2mm以下とすることによって、ウエーハ径方向の酸素濃度の変化を見逃すのを防ぐことができる。また、ステップ幅は0.5mm以上であれば十分であり、必要以上に測定点が増えるのを抑制することができる。このようなステップ幅であれば、十分に精度の高い測定を行うことができる。
【0029】
(工程2: 酸素濃度勾配の絶対値を算出する区間の設定)
次に、酸素濃度勾配(Δ[Oi]/Δx(ppma/mm))の絶対値を算出するための区間を測定点ごとに設定する。該区間はステップ状の測定点を基準とするものであり、該測定点を少なくとも両端に含むように設定する。また、該区間の幅は4mm以上10mm以下に設定する。
区間の幅Δxは、測定器の測定誤差による変動が過剰に判定されてしまうのを防止するため4mm以上とする必要がある。また、酸素の局所変動が捉えられるように10mm以下とする必要がある。このような数値範囲の幅で上記区間を設定することで、酸素の局所変動を的確に捉えることができる。
【0030】
前述した
図5には、区間の幅Δxが10mmの場合が例示されている。ステップ走査によるステップ幅は1mmであり、ウエーハ径方向において端から1番目と11番目を両端とする区間の一例である。この区間内には端から2〜10番目の測定点が含まれることになる。次に、2番目と12番目を両端とする区間を設定し、以降、これを繰り返し、ウエーハの径方向の他端に達するまで区間を設定する。このようにして、ステップ状の測定点ごとに区間を設定することができる。
【0031】
なお、上記例に限定されず、適切なステップ幅で酸素濃度を測定し、4mm以上10mm以下の範囲で区間を設定することができる。目標とする精度、コストや手間等に応じて適宜決定することができる。
【0032】
(工程3: 酸素濃度勾配の絶対値の算出)
工程1、2により得た測定点、区間を基にして、区間ごとに、酸素濃度勾配の絶対値を算出して求める。すなわち、各々の区間において、一端の測定点での酸素濃度[Oi]
0(ppma)と他端の測定点での酸素濃度[Oi]
1(ppma)との差Δ[Oi](ppma)を、区間の幅Δx(mm)で割った酸素濃度勾配Δ[Oi]/Δx(ppma/mm)の絶対値を求める。
【0033】
(工程4: 析出酸素のストリエーションに関する評価)
そして、求めた酸素濃度勾配の絶対値を用いて析出酸素のストリエーションに関する評価を行う。より具体的には、酸素濃度勾配の絶対値が0ppma/mm以上0.01ppma/mm以下である区間の数が、全ての区間数の85%以上であるか否かを基準にして評価を行う。
【0034】
ここで、区間数の割合が85%以上のウエーハであれば、デバイスプロセスなど酸素析出処理を行った場合に析出酸素のストリエーションが発生しないウエーハであるとの評価を行うことができる。すなわち、BMDの均一性が高く、ゲッタリング能力の面内分布が均一になるものを判別することができる。撮像素子を作製した際に画像ムラが発生するのを抑制できるウエーハを判別することができる。
一方で、85%に満たないウエーハを析出酸素のストリエーションが発生するウエーハであるとの評価を行うことができる。
【0035】
なお、酸素濃度勾配の絶対値が0.01ppmaより大きい区間を基準として用いる場合、85%という割合を基準にすることはできない。このような条件の場合、全体的に酸素濃度の勾配が大きなものとなり、析出酸素のストリエーションが生じてしまう。
【0036】
以上のように、本発明の評価方法によって析出酸素のストリエーションについて評価することができ、優れた電気特性を有するシリコン単結晶ウエーハを適切に判別することが可能である。
【0037】
次に、本発明のシリコン単結晶ウエーハについて説明する。
本発明のシリコン単結晶ウエーハは、前述した本発明の評価方法によって、酸素濃度勾配の絶対値が0ppma/mm以上0.01ppma/mm以下である区間の数が、全ての区間数の85%以上であると評価されたものである。このようなものであれば、デバイスプロセス後において、ウエーハ面内において、均一なBMD密度およびゲッタリング能力を有する優れたウエーハとなる。
また、このような優れたシリコン単結晶ウエーハを基に作製されたエピタキシャルウエーハ、SOIボンドウエーハ、SOIベースウエーハ、アニールウエーハにおいては優れた電気特性を示すことができる。
【0038】
また、上記のような本発明のシリコン単結晶ウエーハは、以下のようにして引き上げたシリコン単結晶棒から切り出すことによって得ることができる。以下に、本発明のシリコン単結晶棒の製造方法について説明する。
まず、
図2(A)は、本発明の製造方法を実施する際に用いることができるCZ法による単結晶引き上げ装置の一例である。単結晶引き上げ装置1のメインチャンバー2の天井部からは上に伸びる引上げチャンバー3が連接されており、この上部にシリコン単結晶棒4をワイヤー5で引上げる機構(不図示)が設けられている。また、メインチャンバー2内には、溶融された原料融液6を収容するための石英ルツボ7と、該石英ルツボを支持する黒鉛ルツボ8が設けられている。また、黒鉛ルツボ8を囲繞し、原料を溶融するためのヒーター9が配設されている。このヒーター9の外側には、断熱部材10がその周囲を取り囲むように設けられている。
【0039】
また、メインチャンバー2の水平方向の外側に磁石11を設置することができ、それによって、原料融液6に水平方向あるいは垂直方向等の磁場を印加して原料融液の対流を抑制し、単結晶の安定成長をはかる、いわゆるMCZ(Magnetic field applied czochralski)法による単結晶引上げ装置とすることもできる。
【0040】
なお、メインチャンバー内に装備するホットゾーンの最適構造や、融液面、ヒーターの発熱中心の位置関係などの最適条件は、熱数値解析シュミレーションソフトFEMAGの計算により算出することができる。
ここで、前述したように結晶温度勾配の平均値G(℃/mm)の値は、結晶成長中の固液界面から導入される点欠陥濃度、そして結晶欠陥分布、さらにはBMD形成に影響を与えることになる。
そこで、所望のGの値が得られるよう制御するために、FEMAGによる熱数値解析結果からGの推定を行い、引き上げ装置内のホットゾーンのレイアウトを変更したり、上記のように、
図2に示されたガス整流筒12の下端から原料融液の表面までの距離、あるいはヒーター駆動によりヒーターの発熱中心の位置を調整するなどの手段を講じることができる。
【0041】
ここで、Gの値を所望の値に制御するのに好適な手段の例をより具体的に挙げる。
図2に示すように、原料融液6より上部に、メインチャンバー2の上部内壁からの除熱量を抑えるため、ホットゾーン上部を断熱部材で覆うことができる(
図2(A)の上部断熱材13)。
また、引上げチャンバー3の上方からの除熱を抑えてさらに徐冷効果を高めるため、引上げチャンバー3の上方の引き上げ結晶通路部の内壁を断熱部材で覆うことができる(
図2(B)の断熱筒14)。
または、付帯設備として強制冷却のための水冷ジャケット(
図2(C)の冷却筒15)を有する引き上げ装置の場合は水冷ジャケットの内壁を断熱部材で覆う(冷却筒被覆断熱材16)などの手段を用いることができる。
【0042】
あるいは、原料融液より上部のガス整流筒設置部分に加熱手段を設けたり、ヒーターの加熱部分(スリット)の延伸若しくはヒーターの発熱中心の上方移動などの方法により、さらに徐冷効果を高める手段を用いてもよい。
【0043】
次に、このような単結晶引き上げ装置1を用いて単結晶棒を引上げる方法について説明する。
石英ルツボ7中に、原料である多結晶シリコンを充填する。この時、基板の抵抗率を決定するリン、ホウ素、砒素、アンチモン、ガリウム、ゲルマニウム、アルミニウムなど所望の抵抗率制御用のドーパントを添加することもできる。抵抗率制御用のドーパント以外に用途に応じて窒素や炭素をドープする場合もある。
石英ルツボ7に原料を充填した後、真空ポンプを稼動させてメインチャンバー2のガス流出口から排気しながら、引き上げチャンバー3に設けられたガス導入口からArガスを流入し、装置内部をAr雰囲気に置換する。
次に黒鉛ルツボ8を囲繞するように配置されたヒーター9で加熱し、原料を溶融させて原料融液6を得る。原料を溶融後、ワイヤー5の先端に取り付けられた種結晶を原料融液6に浸漬し、種結晶を回転させながら引き上げてシリコン単結晶棒4を育成する。
【0044】
なお、このとき、結晶温度勾配の平均値Gを2.8℃/mm以下に制御しながらシリコン単結晶棒を引上げるのが好ましい。Gを0〜2.8℃/mmの小さい範囲に制御することによって、固液界面から格子間シリコンの点欠陥が導入されにくく、シリコン単結晶中のバルク内が空孔リッチとなり易い。これによりBMD析出のソースとなる単結晶中の空孔濃度が低下して所望のBMD析出量が得られなくなるのを防ぐことができる。また、BMD密度の均一性を高めることができる。
【0045】
また、水平磁場印加のCZ法における磁場強度の設定値であるが、本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、2500ガウスから4000ガウスの範囲内が最適値であり、酸素析出のプロセス後のストリエーションを抑制できることがわかった。
2500ガウス以上とすることで、結晶回転などから由来するシリコン融液の温度ムラの影響を受けにくくすることができる。そして、ウエーハ面内の初期酸素濃度分布が短周期に変動してプロセス後のストリエーションの幅が微細化し、線密度が増加するのを抑制することができる。
また4000ガウス以下とすることで、長周期の融液の温度ムラが発生してウエーハ面内の初期酸素濃度分布が長周期に変動し、プロセス後のストリエーションの線密度が減少する代わりに析出縞一本一本の幅が大きくなるのを抑制することができる。
上記のように2500ガウス以上4000ガウス以下の範囲であれば、原料融液の温度ムラが小さく、初期酸素濃度のミクロ分布変動が最も小さく、プロセス後の析出酸素のストリエーションを一層抑制することができる。
【実施例】
【0046】
以下、実施例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例および参考例)
異なる製造方法でシリコン単結晶棒を引上げ、それらのシリコン単結晶棒から切り出したシリコン単結晶ウエーハについて、本発明の評価方法を実施した。
【0047】
(実施例1−3)
図2(B)の引き上げ装置のメインチャンバー内に設置された口径32インチ(800mm)の石英ルツボ内に、シリコン多結晶原料360kgを充填した。さらに抵抗調整用のボロンドーパントも充填し、ヒーターを用いて加熱し原料を溶融した。
そしてMCZ法を用い、中心磁場強度が2500ガウス(実施例1)、2700ガウス(実施例2)または3800ガウス(実施例3)の水平磁場を印加しながら、直径300mm、直胴長さ140cmのN型シリコン単結晶棒を育成した。
なお、シリコン融点から1400℃の間の引き上げ軸方向の結晶温度勾配の平均値G(℃/mm)を2.7℃/mmに制御しつつ育成した。
【0048】
(参考例1−3)
実施例1−3と同様にして、
図2(B)の引き上げ装置を用いて原料を溶融した。
そして、MCZ法を用い、中心磁場強度が2200ガウス(参考例1)、2400ガウス(参考例2)または4200ガウス(参考例3)の水平磁場を印加しながら、直径300mm、直胴長さ140cmのN型シリコン単結晶を育成した。
なお、Gの値を実施例と同様、2.7℃/mmに制御しつつ育成した。
【0049】
(参考例4−7)
図2(C)の引き上げ装置に対して上部断熱材および冷却筒被覆断熱材のない、
図3のような引き上げ装置を用意し、実施例1−3と同様にして原料を溶融した。
そして、MCZ法を用い、中心磁場強度2200ガウス(参考例4)、2700ガウス(参考例5)、3800ガウス(参考例6)または4200ガウス(参考例7)の水平磁場を印加しながら、直径300mm、直胴長さ140cmのN型シリコン単結晶を育成した。
なお、Gの値を3.2℃/mmに制御しつつ育成した。
【0050】
以上の実施例1−3および参考例1−7のシリコン単結晶棒からスライスしたウエーハに鏡面加工を施した。そして、各々のウエーハに対して本発明の評価方法を実施し、析出酸素のストリエーションが発生するか否かの評価を行った。
より具体的には、FT−IRにより、ウエーハ試料の径方向に2mmステップ幅で走査させ、1107cm
−1にある格子間酸素とシリコンのSi−Oピークを使用して格子間酸素を測定した。その際、顕微FTIRの空間分解能を100μm×100μmとし、酸素濃度の測定ばらつきを0.01ppma(1979年ASTM基準)以下に抑えることを可能にし、測定に供した。
また、酸素濃度勾配を算出する区間を4mmに設定し、区間ごとに酸素濃度勾配の絶対値を算出した。そして、酸素濃度勾配の絶対値が0ppma/mm以上0.01ppma/mm以下である区間の割合を算出した。
【0051】
その結果、下記の表1に示すように、実施例1−3のシリコン単結晶ウエーハでは上記割合は、順に86.6%、94.8%、92.1%であり、いずれも85%以上であった。
一方、参考例1−7での上記割合は、参考例2の83.4%が最高値であり、いずれも85%未満であった。
したがって、酸素析出処理を施した場合、実施例1−3のウエーハでは析出酸素のストリエーションは発生せず、参考例1−7のウエーハでは析出酸素のストリエーションが発生するものと評価をした。
【0052】
(検証)
次に、上記評価が適切であるかどうか検証するため、これらのウエーハに対して実際にデバイスプロセスを模して酸素析出熱処理を施し、析出酸素のストリエーションの発生の有無を確かめた。
なお、酸素析出熱処理として下記の3段の熱処理を施した。
1段目…650℃、窒素雰囲気中で20分間の熱処理、2段目…800℃、4時間のドライ酸化処理、3段目…1000℃、14時間のドライ酸化処理。
これらの熱処理を施した後、冷却した。
【0053】
上記の酸素析出熱処理を施したウエーハに対し、X線トポグラフィー解析を行った。解析結果の例として、実施例1−3、参考例2、3、5のX線トポグラフィーイメージを
図4に示す。
また、ゲッタリング能力を評価するためにニッケルによる故意汚染を行い、シャローピットの検出を行った。
また、ウエーハに撮像素子デバイスプロセスを施して画像ムラの発生について調査した。
【0054】
実施例1−3では明瞭なストリエーションパターンは見当たらなかった。またシャローピットは検出されなかった。さらに画像ムラはなかった。
【0055】
一方、参考例1−7ではストリエーションパターンが確認された。例えば参考例2では、ウエーハ面内の外周部に弱いストリエーションが確認された。また、参考例3では弱いストリエーションがウエーハ全面に確認された。さらに、参考例5では明瞭なストリエーションが確認された。
また参考例1−3においては、シャローピットは検出されなかったが、弱い画像ムラが確認された。
そして、参考例4−7においては、シャローピットが検出され、強い画像ムラが確認された。
【0056】
【表1】
【0057】
このように、実際に酸素析出熱処理を施した結果、本発明の評価方法による析出酸素のストリエーションに関する評価通りの結果が得られたことが分かった。したがって本発明の評価方法は有効であることが分かる。
また、本発明の評価方法によって上記割合が85%以上のウエーハ(実施例1−3)では、析出酸素のストリエーションが抑制された優れたウエーハであった。BMDも、十分な密度で均一に形成することができ、撮像素子の画像ムラも生じない。本発明の評価方法を利用することで、このような優れたウエーハを判別することができ、安定して提供することが可能である。
【0058】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
例えば、本発明は製造されるシリコン単結晶の結晶方位、導電型、抵抗率などに限定されることなく適用できる。