(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1において、前記水系及び蒸気系プラントがボイラプラントであり、前記腐食抑制剤を該プラントの蒸気及び/又は復水に添加することを特徴とする水系及び蒸気系プラントの腐食抑制方法。
請求項1又は2において、前記エマルションは、炭素数8〜12の飽和脂肪酸トリグリセリドを主成分とする油脂を、植物由来のエステル系乳化剤で乳化してなるエマルションであることを特徴とする水系及び蒸気系プラントの腐食抑制方法。
請求項1ないし3のいずれか1項において、前記腐食抑制剤に含まれる全脂肪酸成分の物質量の合計量に対する炭素数8〜12の飽和脂肪酸成分の物質量の割合が40%以上であることを特徴とする水系及び蒸気系プラントの腐食抑制方法。
請求項1ないし4のいずれか1項において、前記腐食抑制剤に含まれる全脂肪酸成分の物質量の合計量に対する炭素数7以下の脂肪酸成分の物質量の割合が10%未満であることを特徴とする水系及び蒸気系プラントの腐食抑制方法。
請求項6又は7において、前記エマルションは、炭素数8〜12の飽和脂肪酸トリグリセリドを主成分とする油脂を、植物由来のエステル系乳化剤で乳化してなるエマルションであることを特徴とする水系及び蒸気系プラントの腐食抑制剤。
【背景技術】
【0002】
ボイラプラント、その他の各種の水系及び蒸気系プラントにおける鋼材、銅材といった金属の腐食は、時にはプラントの停止を引き起こす重大な障害となる。これらのプラントにおける金属の腐食を防ぐ一般的な方法は、腐食抑制剤を水系及び蒸気系プラントの流体に添加することである。
【0003】
従来、水系及び蒸気系プラントの腐食抑制剤としては各種無機物質、有機物質が使用されている。腐食抑制作用のある代表的な無機物質としては、亜硝酸塩、リン酸塩、ホウ酸塩等が挙げられる。また、腐食抑制作用のある代表的な有機物質としては、脂肪酸、アミン、多価アルコール、有機酸塩等が挙げられる。
中でも脂肪酸は取り扱いの容易さ、環境や人体に対する安全性などを理由に脂肪酸、脂肪酸アルカリ金属塩、脂肪酸エステル、油脂等様々な形態で腐食抑制剤として使用されている。
【0004】
しかし、これらの脂肪酸類は、ボイラプラント、その他の各種水系及び蒸気系プラントの流体内で、添加時の形態で、或いは、添加後系内で加水分解されることで、プラント内又はその後段で発泡を引き起こすという問題がある。腐食抑制成分が発泡した場合には、プラントの水位制御電極に誤作動を招いたり、ボイラ缶内に入った場合にはキャリーオーバーを招く等の障害を起こしたりする可能性があった。
キャリーオーバーとはボイラ水が蒸気とともに移行する障害のことあるが、キャリーオーバーが発生するとボイラ水中の塩類等の成分が蒸気使用先及び蒸気凝縮水系に移行して腐食を発生させたり、蒸気使用先の製品を汚染させたりする可能性がある。
【0005】
例えば、特許文献1には、蒸気及び/又は復水に、オレイン酸(炭素数18の不飽和脂肪酸)アンモニウム塩、ステアリン酸(炭素数18の飽和脂肪酸)アンモニウム塩などの脂肪酸塩を添加することで腐食を抑制する蒸気ボイラ装置の運転方法が提案されているが、オレイン酸塩もステアリン酸塩も発泡性が高く、これらを含む復水をボイラ給水として再利用するとその含有量が微量でも、ボイラ水が発泡して、著しいキャリーオーバーを起こすなど、実用に耐えなかった。ボイラ水が発泡すると、ボイラ缶内で水位が急激に低下して水位制御が不安定となり、著しい場合には、低水位となってボイラ装置が停止することもある。
【0006】
また、特許文献2には、ボイラ及び/又は他の蒸気発生プラントにおいて、油脂類を乳化したエマルションを、蒸気又は復水に添加する蒸気復水系の防食方法が提案されているが、この特許文献2で用いられる油脂類は、菜種油、ひまわり油、大豆油、とうもろこし油、ごま油、オリーブ油であり、いずれも、エルカ酸(炭素数22の不飽和脂肪酸)、オレイン酸(炭素数18の不飽和脂肪酸)、リノール酸(炭素数18の不飽和脂肪酸)といった炭素数13以上の脂肪酸のトリグリセリドを主成分とするものであり、やはり発泡の問題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記従来の実状に鑑みてなされたものであって、ボイラプラント、その他の各種水系及び蒸気系プラントにおいて、発泡を抑制した上で、プラント内の金属の腐食を効果的に抑制する腐食抑制方法及び腐食抑制剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、炭素数8〜12の飽和脂肪酸、炭素数8〜12の飽和脂肪酸塩、炭素数8〜12の飽和脂肪酸エステル(以下、これら炭素数8〜12の飽和脂肪酸、炭素数8〜12の飽和脂肪酸塩、炭素数8〜12の飽和脂肪酸エステルを「C
8〜12飽和脂肪酸類」と総称する場合がある。)であれば、これを添加することにより、水系及び蒸気系プラント内の鋼材、銅材といった金属に対して優れた腐食抑制効果を示すと共に、炭素数の大きい脂肪酸類に比べて発泡を起こし難く、このため、発泡に起因する障害を発生させることなく安定運転を行うことができることを見出した。
【0010】
本発明はこのような知見に基いて達成されたものであり、以下を要旨とする。
【0011】
[1] 水系及び蒸気系プラント内の金属の腐食を抑制する方法において、該プラント内の流体に、炭素数8〜12の飽和脂肪酸
のグリセリドを含む油相を乳化剤で乳化してなるエマルションを含む腐食抑制剤を添加する腐食抑制方法であって、該腐食抑制剤に含まれる全脂肪酸成分の物質量の合計量に対する炭素数13以上の脂肪酸成分の物質量の割合が50%以下であることを特徴とする水系及び蒸気系プラントの腐食抑制方法。
【0012】
[2] [1]において、前記水系及び蒸気系プラントがボイラプラントであり、前記腐食抑制
剤を該プラントの蒸気及び/又は復水に添加することを特徴とする水系及び蒸気系プラントの腐食抑制方法。
【0013】
[3]
[1]又は[2]において、前記エマルションは、炭素数8〜12の飽和脂肪酸トリグリセリドを主成分とする油脂を、植物由来のエステル系乳化剤で乳化してなるエマルションであることを特徴とする水系及び蒸気系プラントの腐食抑制方法。
【0014】
[4] [1]ないし[3]のいずれかにおいて、前記腐食抑制剤に含まれる全脂肪酸成分の物質量の合計量に対する炭素数8〜12の飽和脂肪酸成分の物質量の割合が40%以上であることを特徴とする水系及び蒸気系プラントの腐食抑制方法。
【0016】
[
5] [1]ないし[
4]のいずれかにおいて、前記腐食抑制剤に含まれる全脂肪酸成分の物質量の合計量に対する炭素数7以下の脂肪酸成分の物質量の割合が10%未満であることを特徴とする水系及び蒸気系プラントの腐食抑制方法。
【0017】
[6] 水系及び蒸気系プラント内の金属の腐食抑制剤において、炭素数8〜12の飽和脂肪酸
のグリセリドを含む油相を乳化剤で乳化してなるエマルションを含む腐食抑制剤であって、該腐食抑制剤に含まれる全脂肪酸成分の物質量の合計量に対する炭素数13以上の脂肪酸成分の物質量の割合が50%以下であることを特徴とする水系及び蒸気系プラントの腐食抑制剤。
【0018】
[
7] [
6]において、前記水系及び蒸気系プラントがボイラプラントであることを特徴とする水系及び蒸気系プラントの腐食抑制剤。
【0019】
[
8] [
6]又は[
7]において、前記エマルションは、炭素数8〜12の飽和脂肪酸トリグリセリドを主成分とする油脂を、植物由来のエステル系乳化剤で乳化してなるエマルションであることを特徴とする水系及び蒸気系プラントの腐食抑制剤。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、C
8〜12飽和脂肪酸類を用いることにより、ボイラプラント、その他の各種水系及び蒸気系プラントにおいて、発泡を抑制した上で、プラント内の金属の腐食を効果的に抑制することができる。
しかも、C
8〜12飽和脂肪酸類は、天然素材であり取り扱いが容易で、環境や人体に対する安全性が高い点においても、実用上非常に優れた腐食抑制剤である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
なお、本明細書において、「%」は「質量(重量)」基準の百分率を示す。
また、本発明において「主成分」とは、複数の成分よりなるものにおいて、全成分中に最も多く存在する成分をさす。
【0022】
本発明の水系及び蒸気系プラントの金属の腐食抑制剤は、C
8〜12飽和脂肪酸類、即ち、炭素数8〜12の飽和脂肪酸、炭素数8〜12の飽和脂肪酸塩、及び炭素数8〜12の飽和脂肪酸エステルよりなる群から選ばれる1種又は2種以上を含むことを特徴とするものであり、本発明の水系及び蒸気系プラントの腐食抑制方法は、C
8〜12飽和脂肪酸類を含む本発明の腐食抑制剤を水系及び蒸気系プラント内の流体に添加して、金属の腐食を抑制する方法である。
【0023】
[水系及び蒸気系プラント]
本発明において、腐食抑制を行う水系及び蒸気系プラントとしては、ボイラ水系などの系内で水が加熱により蒸発して蒸気となり、また蒸気が冷却されて凝縮水となるプラントが挙げられる。
本発明では、このような水系及び蒸気系プラントにおける、鋼材や銅材といった金属の腐食を抑制する。
【0024】
[C
8〜12飽和脂肪酸類]
本発明においては、このような水系及び蒸気系プラント内の流体にC
8〜12飽和脂肪酸類を含む腐食抑制剤を添加する。ここで、飽和脂肪酸の炭素数が7以下であると十分な腐食抑制効果を得ることができず、また、後述のように臭気が問題となり、一方、炭素数が12を超えると発泡性が問題となる。また、不飽和脂肪酸は天然には炭素数が14以上のものが多く、これらは炭素数に限らず発泡性が高い。
【0025】
本発明で用いるC
8〜12飽和脂肪酸類のうち、炭素数8〜12の飽和脂肪酸としては、カプリル酸(炭素数8)、カプリン酸(炭素数10)、ペラルゴン酸(炭素数9)、ウンデカン酸(炭素数11)、ラウリン酸(炭素数12)が挙げられる。
【0026】
炭素数8〜12の飽和脂肪酸塩としては、上記の飽和脂肪酸の金属塩、例えば、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、バリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩、その他、アルミニウム塩、亜鉛塩などが挙げられる。
【0027】
炭素数8〜12の飽和脂肪酸エステルとしては、上記飽和脂肪酸のグリセリンエステル(モノエステル、ジエステル、トリエステル)、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖エステル、ソルビタンエステル、グリセリン有機酸エステル、プロピレングリコールエステル、ポリオキシエチレンソルビタンエステル等が挙げられる。
【0028】
具体的には以下の通りである。
カプリル酸金属塩(カプリル酸ナトリウム、カプリル酸カリウム、カプリル酸亜鉛、カプリル酸バリウム、カプリル酸リチウム、カプリル酸マグネシウム、カプリル酸カルシウム、カプリル酸アルミニウム等)、カプリル酸エステル(グリセリンカプリル酸エステル、ショ糖カプリル酸エステル、ソルビタンカプリル酸エステル、グリセリン有機酸カプリル酸エステル、プロピレングリコールカプリル酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタンカプリル酸エステル等)
カプリン酸金属塩(カプリン酸ナトリウム、カプリン酸カリウム、カプリン酸亜鉛、カプリン酸バリウム、カプリン酸リチウム、カプリン酸マグネシウム、カプリン酸カルシウム、カプリン酸アルミニウム等)、カプリン酸エステル(グリセリンカプリン酸エステル、ショ糖カプリン酸エステル、ソルビタンカプリン酸エステル、グリセリン有機酸カプリン酸エステル、プロピレングリコールカプリン酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタンカプリン酸エステル等)
ラウリン酸金属塩(ラウリン酸ナトリウム、ラウリン酸カリウム、ラウリン酸亜鉛、ラウリン酸バリウム、ラウリン酸リチウム、ラウリン酸マグネシウム、ラウリン酸カルシウム、ラウリン酸アルミニウム等)、ラウリン酸エステル(グリセリンラウリン酸エステル、ショ糖ラウリン酸エステル、ソルビタンラウリン酸エステル、グリセリン有機酸ラウリン酸エステル、プロピレングリコールラウリン酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタンラウリン酸エステル等)
【0029】
また、炭素数8〜12の飽和脂肪酸のグリセリド(モノグリセリド、ジグリセリド、トリグリセリド)を主成分とする油脂類を用いることもでき、このようなものとしては、例えば、ヤシ油、パーム核油、ヤシ油及び/又はパーム核油の改質油、ヤシ油、パーム核油等の植物油から抽出した中鎖脂肪酸油などが挙げられる。
【0030】
ヤシ油は、ココヤシの果実の種子にあたる核果の中の胚乳を乾燥したもの(コプラ)から、圧搾又は溶剤抽出により原油が得られ、さらに精製工程を経て製品化される。パーム核油は、アブラヤシの胚乳を乾燥したもの(パームカーネル)を同様に精製したものである。
【0031】
脂肪酸グリセリドの構成脂肪酸は、ヤシ油は、ラウリン酸(炭素数12)が45〜52%、カプリル酸(炭素数8)が6〜10%、カプリン酸(炭素数10)が4〜12%、ミリスチン酸(炭素数14)が15〜22%、パルミチン酸(炭素数16)が4〜10%、ステアリン酸(炭素数18)が1〜5%、パーム核油は、ラウリン酸(炭素数12)が44〜55%、カプリル酸(炭素数8)が3〜5%、カプリン酸(炭素数10)が3〜7%、ミリスチン酸(炭素数14)が10〜17%、パルミチン酸(炭素数16)が6〜10%、ステアリン酸(炭素数18)が1〜7%と、いずれも炭素数8〜12の飽和脂肪酸を多く含むものである。
【0032】
これに対して、特許文献2に記載の油脂類のうち、例えば、菜種油は、オレイン酸(炭素数18の不飽和脂肪酸)12〜18%、エルカ酸(炭素数22の不飽和脂肪酸)45〜55%、リノール酸(炭素数18の不飽和脂肪酸)12〜16%を含み、また、ひまわり油は、オレイン酸14〜43%、リノール酸44〜75%を含み、炭素数8〜12の飽和脂肪酸を殆ど含まない。
【0033】
本発明において、これらのC
8〜12飽和脂肪酸類は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
[腐食抑制剤]
本発明において、上述のC
8〜12飽和脂肪酸類の1種又は2種以上を腐食抑制剤として、水系及び蒸気系プラントに添加して系内の金属の腐食を抑制する。
【0035】
本発明の腐食抑制剤がC
8〜12飽和脂肪酸類以外の炭素数13以上の脂肪酸類(この脂肪酸には、脂肪酸、脂肪酸塩、脂肪酸エステル等を含む)を含むと、発泡が問題となる。従って、腐食抑制剤中の炭素数13以上の脂肪酸類の含有量は少ないことが好ましく、腐食抑制剤に含まれる全脂肪酸成分の物質量の合計量に対する炭素数13以上の脂肪酸成分の物質量の割合が50%以下、特に20%以下であることが好ましい。
【0036】
また、C
8〜12飽和脂肪酸類による低発泡性と腐食抑制効果を十分に得る上で、腐食抑制剤中のC
8〜12飽和脂肪酸類の含有量は多い程好ましく、腐食抑制剤に含まれる全脂肪酸成分の物質量の合計量に対する炭素数8〜12の飽和脂肪酸成分の物質量の割合が40%以上、特に80%以上であることが好ましい。
【0037】
また、本発明の腐食抑制剤が炭素数7以下の脂肪酸類(この脂肪酸には、脂肪酸、脂肪酸塩、脂肪酸エステル等を含む)を含有すると、当該脂肪酸又は加水分解で生成する脂肪酸の臭気が問題となるため、腐食抑制剤に含まれる全脂肪酸成分の物質量の合計量に対する炭素数7以下の脂肪酸成分の物質量の割合は10%未満、特に5%以下とすることが好ましい。
【0038】
ここで「全脂肪酸成分」とは、脂肪酸、脂肪酸塩、脂肪酸エステル等の脂肪酸誘導体における脂肪酸残基の成分、即ち、一般式CH
3−R−CO
2−(Rは、飽和又は不飽和の炭化水素基)で表される部分に相当する。また、「炭素数14以上の脂肪酸成分」とは一般式CH
3−R−CO
2−(Rは、炭素数12以上の飽和又は不飽和の炭化水素基)で表される部分であり、「炭素数8〜12の飽和脂肪酸成分」とは一般式CH
3−R−CO
2−(Rは、炭素数6〜10のアルキレン基)で表される部分であり、「炭素数7以下の脂肪酸成分」とは、一般式CH
3−R−CO
2−(Rは、炭素数5以下の飽和又は不飽和炭化水素基)で表される部分に相当する。
【0039】
[腐食抑制剤の添加形態]
処理対象水系がボイラプラント以外の一般的な水系及び蒸気系プラントである場合、前述のC
8〜12飽和脂肪酸類は、これを含む溶液またはエマルションの形態で水系及び蒸気系プラントの流体(系内の水及び/又は蒸気)に添加することが好ましい。
【0040】
この場合、前述のC
8〜12飽和脂肪酸類のうち、水溶性である炭素数8〜12の飽和脂肪酸、炭素数8〜12の飽和脂肪酸塩の1種又は2種以上を、1〜50重量%程度の濃度となるように水または有機溶媒(エタノール、グリコール、グリセリン等のアルコール類)、または水と有機溶媒との混合溶媒に溶解させた溶液を、炭素数8〜12の飽和脂肪酸成分としての添加量が、水系及び蒸気系プラントの水に対する添加量として0.1〜100mg/L、特に0.5〜50mg/Lとなるように添加することが好ましい。炭素数8〜12の飽和脂肪酸はそのままの状態で、炭素数8〜12の飽和脂肪酸塩はそのままの状態でも、水中で加水分解されて炭素数8〜12の飽和脂肪酸を遊離することでも防食効果を発揮するが、その添加量が少な過ぎると十分な腐食抑制効果が得られず、多過ぎると不経済である。
【0041】
また、C
8〜12飽和脂肪酸類のうち、炭素数8〜12の飽和脂肪酸エステルについては、炭素数8〜12の飽和脂肪酸エステルを含む油相を乳化剤で乳化してなるエマルションとして添加することが好ましく、このようなエマルション型の腐食抑制剤は、金属塩を含まず、蒸気復水系統の減圧部等においてもアルカリ腐食等の障害を起こす可能性がないことから、特にボイラプラントに対して有効である。
【0042】
エマルション型腐食抑制剤として用いる炭素数8〜12の飽和脂肪酸エステルとしては、特に炭素数8〜12の飽和脂肪酸(モノ、ジ、トリ)グリセリド、とりわけ炭素数8〜12の飽和脂肪酸トリグリセリドを主成分とする前述の油脂類が好ましい。一方、このような炭素数8〜12の飽和脂肪酸エステルの乳化剤としては、植物由来のエステル系乳化剤、エーテル系乳化剤等が好ましく、植物由来のエステル系乳化剤がより好ましい。植物由来の乳化剤は、人体に触れた際の安全性の観点からも好ましい。
【0043】
植物由来のエステル系乳化剤としては、植物系油脂とグリセリンとの加熱反応で得られるグリセリン脂肪酸エステル(脂肪酸モノグリセライド、脂肪酸ジグリセライド)、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖と脂肪酸メチルエステルをエステル交換反応させて得られるショ糖脂肪酸エステル、各種の脂肪酸とソルビトールを、アルカリを触媒としてエステル化することにより得られるソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコールと脂肪酸をエステル化させて得られるプロピレングリコール脂肪酸エステル、大豆から得られる大豆リン脂質、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル等が挙げられる。
これらの植物由来のエステル系乳化剤は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0044】
エマルション型腐食抑制剤を調製する方法に特に制限はないが、炭素数8〜12の飽和脂肪酸エステルや油脂類に乳化剤を添加し、水を加えて混練してエマルション化する方法が挙げられる。エマルション中の炭素数8〜12の飽和脂肪酸エステルや油脂類の濃度、乳化剤の濃度は特には限定されず、エマルションが安定であればよい。
【0045】
具体的な乳化処理方法としては、炭素数8〜12の飽和脂肪酸エステルや油脂類を、水中において、乳化剤の存在下、ホモジナイザーを用いて均質化処理する方法が挙げられる。該ホモジナイザーとしては、例えばコロイドミル、振動撹拌機、二段式高圧ポンプ、ノズルやオリフィスからの高圧噴出、超音波撹拌等が挙げられる。
【0046】
エマルション中の油滴の粒径の調節は、均質化処理時の剪断力の制御、乳化剤の量等により影響されるが、これらは簡単な予備実験により、適当な条件を選択することができる。該油滴径の大きさは、好ましくは0.05〜20μm程度、より好ましくは0.1〜5mである。
【0047】
エマルション型腐食抑制剤は、ボイラプラント等の水系及び蒸気系プラントに、系内の水に対する炭素数8〜12の飽和脂肪酸成分としての添加量が0.1〜100mg/L、特に0.5〜50mg/Lとなるように添加することが好ましい。エマルション型腐食抑制剤中の炭素数8〜12の飽和脂肪酸エステルは、水中で加水分解して炭素数8〜12の飽和脂肪酸を遊離することで防食効果を発揮するが、その添加量が少な過ぎると十分な腐食抑制効果が得られず、多過ぎると不経済である。
【0048】
上記のエマルション型腐食抑制剤は、例えばボイラプラントの蒸気ラインや復水ラインに添加されるが、蒸気ラインに添加する方が、蒸気・凝縮水中に均一に分散されるため好ましい。より具体的には、蒸気ヘッダー後の蒸気配管内中央まで薬注ノズルを挿入し、蒸気の流れによって腐食抑制剤を拡散させるなどの方法を採用することができる。
【0049】
[その他の添加成分]
本発明においては、C
8〜12飽和脂肪酸類を含む本発明の腐食抑制剤と共に、防食効果の向上等の目的で、必要に応じて、各種の添加成分、例えばアルカリ剤、pH調整剤、防食剤の1種又は2種以上を併用してもよい。また、本発明の腐食抑制剤は、防食効果、安定性、取り扱い性の向上等の目的で、C
8〜12飽和脂肪酸類と共に、これらの他の成分の1種又は2種以上をを含有していてもよい。
【0051】
<アルカリ剤、pH調整剤>
アルカリ剤としては、例えば水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸カリウム及び炭酸ナトリウム等が挙げられる。
pH調整剤としては、リン酸三ナトリウム、リン酸二ナトリウム、リン酸三カリウム、リン酸二カリウム、リン酸三ナトリウムとリン酸二ナトリウムを所定の比率で混合したもの等が挙げられる。
【0052】
<防食剤>
防食剤としては、例えば中和性アミン、皮膜性アミン、各種の酸及び/又はその塩、カルボキシル基を有する水溶性ポリマー及び/又はコポリマー等を用いることができる。
【0053】
(i)中和性アミン
中和性アミンとしては、例えばモノエタノールアミン(MEA)、シクロへキシルアミン(CHA)、モルホリン(MOR)、ジエチルエタノールアミン(DEEA)、モノイソプロパノールアミン(MIPA)、3−メトキシプロピルアミン(MOPA)、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール(AMP)、ジエタノールアミン(DEA)等が挙げられる。
(ii)皮膜性アミン
皮膜性アミンとしては、例えばオクタデシルアミン等の長鎖アルキルアミン等が挙げられる。
(iii)各種の酸及び/又はその塩
各種の酸及び/又はその塩としては、例えばクエン酸及び/又はその塩、コハク酸カリウム塩、グルコン酸及び/又はその塩、α−グルコヘプトリン酸及び/又はその塩等が挙げられる。
クエン酸塩は、クエン酸のカルボキシル基の水素原子を、例えば、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属で置換して得られる塩である。クエン酸塩の具体例としては、クエン酸ナトリウム、クエン酸水素ナトリウム、クエン酸カリウム、クエン酸水素カリウム等の塩及びそれらの水和物等が挙げられる。
【0054】
(iv)水溶性ポリマー
水溶性ポリマーとしては、カルボキシル基を有する水溶性ホモポリマー及び/又はコポリマーが用いられる。その具体例としては、アクリル酸、マレイン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、3−アリロキシ−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸及びそれらの塩等から選ばれるモノマーを用いて得られたホモポリマー、コポリマー及びイソブチレンとのコポリマーの中から選ばれるポリマー等が挙げられる。
【実施例】
【0055】
以下に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0056】
[実施例1]
<腐食抑制剤の調製>
粒状のカプリン酸ナトリウムを濃度100mg/Lとなるように純水に溶解させて腐食抑制剤を調製した。
【0057】
<腐食抑制効果の評価>
テストピース(鋼材および銅材、50mm×15mm×1mm、#400番研磨処理後、脱脂・秤量したもの)を設置した内径φ32mmの円柱状ガラスカラムに、腐食抑制剤中の脂肪酸成分の濃度が2.5mg/Lとなるように添加した軟水(ヒーターで40℃に加温、溶存酸素濃度6.5mg/L)を連続的に通水量10L/hで通水させ、72時間後に取り外した各テストピースを脱錆・秤量し、腐食減量より腐食速度を求めた。
【0058】
<発泡性の評価>
腐食抑制効果の評価を行った後のガラスカラム流出水を200mLサンプリングし、垂直に立設した、内径20mm、長さ500mmのガラス製カラムに移し入れ、窒素ガスを0.5L/h通気させて10分間バブリングした。発泡が定常状態に達したことを確認後、通気を停止し、その停止直後の液面の泡の高さを調べた。
【0059】
上記の腐食抑制効果及び発泡性の評価結果を表1に示した。
【0060】
[実施例2]
カプリン酸ナトリウムの代りに粒状のラウリン酸ナトリウムを用いたこと以外は実施例1と同様に腐食抑制剤を調製して、同様に腐食抑制効果及び発泡性の評価を行い、結果を表1に示した。
【0061】
[比較例1]
腐食抑制剤を添加しなかったこと以外は実施例1と同様に腐食抑制効果の評価を行い、結果を表1に示した。
【0062】
[比較例2]
60℃の恒温水槽内にて、粒状のオレイン酸ナトリウムを濃度100mg/Lとなるように純水に溶解させて腐食抑制剤を調製し、この腐食抑制剤を用いて、実施例1と同様に腐食抑制効果及び発泡性の評価を行い、結果を表1に示した。
【0063】
[比較例3]
オレイン酸ナトリウムの代りに粒状のステアリン酸ナトリウムを用いたこと以外は比較例2と同様に腐食抑制剤を調製して、腐食抑制効果及び発泡性の評価を行い、結果を表1に示した。
【0064】
[実施例3]
<腐食抑制剤の調製>
純水100質量部中において、植物由来のエステル系乳化剤であるポリグリセリンラウリン酸モノエステル(阪本薬品工業株式会社製、商品名:SYグリスター ML−750)5質量部の存在下、ホモジナイザー(IKA社製、機種名:ULTRA−TURRAX T50 basic)を用いて、ヤシ油30質量部を乳化処理することにより、油滴の平均径2μm程度のヤシ油乳化エマルションよりなる腐食抑制剤を調製した。
【0065】
<腐食抑制効果の評価>
ボイラ蒸気復水系を想定して、腐食抑制剤を蒸気発生器の蒸気ライン(1.0MPa)に、蒸気発生器の蒸気凝縮水中の脂肪酸成分濃度が10mg/Lとなるように添加し、熱交換器で40℃まで冷却させた後、テストピース(鋼材および銅材、50×15×1mm、#400番研磨処理後、脱脂・秤量したもの)を設置した内径φ32mmの円柱状ガラスカラムに連続通水させた。蒸気発生器の給水には軟水(ヒーターで40℃に加温、溶存酸素濃度6.5mg/L)を使用した。72時間後に取り外した各テストピースを脱錆・秤量し、腐食減量により腐食速度を求めた。
【0066】
<発泡性の評価>
実施例1におけると同様にして評価した。
【0067】
上記の腐食抑制効果及び発泡性の評価結果を表1に示した。
【0068】
[実施例4]
ヤシ油の代わりにパーム核油を用いた以外は、実施例3と同様にして油滴の平均径2μm程度のパーム核油エマルションよりなる腐食抑制剤を調製し、同様に腐食抑制効果及び発泡性の評価を行い、結果を表1に示した。
【0069】
[比較例4]
腐食抑制剤を添加しなかったこと以外は、実施例3と同様に腐食抑制効果の評価を行い、結果を表1に示した。
【0070】
[比較例5]
ヤシ油の代わりに菜種油を用いた以外は、実施例3と同様にして油滴の平均径2μm程度の菜種油エマルションよりなる腐食抑制剤を調製し、同様に腐食抑制効果及び発泡性の評価を行い、結果を表1に示した。
【0071】
[比較例6]
ヤシ油の代わりにひまわり油を用いた以外は、実施例3と同様にして油滴の平均径200nm程度のひまわり油エマルションよりなる腐食抑制剤を調製し、同様に腐食抑制効果及び発泡性の評価を行い、結果を表1に示した。
【0072】
【表1】
【0073】
表1の通り、C
8〜12飽和脂肪酸類を用いた実施例1〜4では、鋼材、銅材ともに優れた腐食抑制効果が発揮されている上に、発泡性は、他の脂肪酸主体の腐食抑制剤よりも著しく低い。